(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号70で示されるアミノ酸配列からなるGPC3タンパク質の第128番目のアミノ酸から第357番目のアミノ酸配列中に含まれる異なるエピトープに結合する2つの異なる抗体を用いることを特徴とする、被検試料中の可溶性GPC3タンパク質の測定方法であって、
異なるエピトープが下記の(A)または(B)の組合せである、測定方法。
(A)異なるエピトープの一方が、GPC3タンパク質の第337番目、339番目、340番目、および344番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含み、かつ、第341番目、343番目、346番目、347番目、348番目、349番目および350番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープであり、もう一方が、GPC3タンパク質の第221番目、298番目、301番目、302番目、305番目、308番目および309番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含み、かつ、第297番目、300番目、304番目、306番目、311番目、312番目、313番目、314番目および315番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープである。
(B)異なるエピトープの一方が、GPC3タンパク質の第337番目、339番目、340番目および344番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含み、かつ、第128番目、129番目、131番目、132番目、133番目、134番目、135番目、171番目、208番目、209番目、210番目、211番目、212番目、214番目、215番目、218番目、322番目、325番目、326番目、328番目、329番目、330番目、332番目、333番目、335番目、336番目および338番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープであり、もう一方が、GPC3タンパク質の第221番目、298番目、301番目、302番目、305番目、308番目および309番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含み、かつ、220番目、228番目、231番目、232番目、235番目、291番目、294番目および295番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来は、健常者の体液中に含まれる低濃度の可溶性GPC3を検出または正確に定量できる技術がなかったため、癌の罹患初期段階における早期発見や、使用する抗がん剤の取捨選択、治療後の予後診断を精密に行うことはできなかった。
本発明が解決しようとする課題は、健常者の体液中に含まれる可溶性GPC3の濃度を定量的に測定可能な可溶性GPC3の高感度測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、GPC3タンパク質のN末端領域に存在する異なるエピトープに結合する2つの異なる抗体を用いることにより、被検試料中の可溶性GPC3タンパク質を高感度に測定できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の[1]〜[12]に関する。
[1] 配列番号70で示されるアミノ酸配列からなるGPC3タンパク質の第128番目のアミノ酸から第357番目のアミノ酸配列中に含まれる異なるエピトープに結合する2つの異なる抗体を用いることを特徴とする、被検試料中の可溶性GPC3タンパク質の測定方法;
[2] 異なるエピトープの一方が、GPC3タンパク質の第337番目、339番目、340番目、および344番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープである、上記[1]に記載の測定方法;
[3] 異なるエピトープの一方が、GPC3タンパク質の第221番目、298番目、301番目、302番目、305番目、308番目および309番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープである、上記[1]又は[2]に記載の測定方法。
[4] 異なるエピトープが下記の(A)または(B)の組合せである、上記[1]に記載の測定方法;
(A)異なるエピトープの一方が、GPC3タンパク質の第341番目、第343番目、346番目、347番目、348番目、349番目および350番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープであり、もう一方が、GPC3タンパク質の第297番目、300番目、304番目、306番目、311番目、312番目、313番目、314番目および315番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープである
(B)異なるエピトープの一方が、GPC3タンパク質の第128番目、129番目、131番目、132番目、133番目、134番目、135番目、171番目、208番目、209番目、210番目、211番目、212番目、214番目、215番目、218番目、322番目、325番目、326番目、328番目、329番目、330番目、332番目、333番目、335番目、336番目および338番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープであり、もう一方が、GPC3タンパク質の220番目、228番目、231番目、232番目、235番目、291番目、294番目および295番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープである
[5] 異なるエピトープが下記の(A)または(B)の組合せである、上記[1]に記載の測定方法;
(A)異なるエピトープの一方が、GPC3タンパク質の第337番目、339番目、340番目、および344番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含み、かつ、第341番目、343番目、346番目、347番目、348番目、349番目および350番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープであり、もう一方が、GPC3タンパク質の第221番目、298番目、301番目、302番目、305番目、308番目および309番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含み、かつ、第297番目、300番目、304番目、306番目、311番目、312番目、313番目、314番目および315番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープである
(B)異なるエピトープの一方が、GPC3タンパク質の第337番目、339番目、340番目および344番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含み、かつ、第128番目、129番目、131番目、132番目、133番目、134番目、135番目、171番目、208番目、209番目、210番目、211番目、212番目、214番目、215番目、218番目、322番目、325番目、326番目、328番目、329番目、330番目、332番目、333番目、335番目、336番目および338番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープであり、もう一方が、GPC3タンパク質の第221番目、298番目、301番目、302番目、305番目、308番目および309番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含み、かつ、220番目、228番目、231番目、232番目、235番目、291番目、294番目および295番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープである;
[6] 異なるエピトープが、
配列番号38と相同性が80%以上の配列で示される重鎖可変領域および配列番号39と相同性が80%以上の配列で示される軽鎖可変領域を有する抗体が結合するエピトープと、配列番号40と相同性が80%以上の配列で示される重鎖可変領域および配列番号41と相同性が80%以上の配列で示される軽鎖可変領域を有する抗体が結合するエピトープ、または配列番号44と相同性が80%以上の配列で示される重鎖可変領域および配列番号45と相同性が80%以上の配列で示される軽鎖可変領域を有する抗体が結合するエピトープと、配列番号42と相同性が80%以上の配列で示される重鎖可変領域および配列番号43と相同性が80%以上の配列で示される軽鎖可変領域を有する抗体が結合するエピトープである、上記[1]に記載の測定方法;
[7] 2つの異なる抗体が、
配列番号38で示される重鎖可変領域に含まれるCDR領域および配列番号39で示される軽鎖可変領域に含まれるCDR領域と同一のCDR領域を有する抗体と、配列番号40で示される重鎖可変領域に含まれるCDR領域および配列番号41で示される軽鎖可変領域に含まれるCDR領域と同一のCDR領域を有する抗体の組合せ、または、
配列番号44で示される重鎖可変領域に含まれるCDR領域および配列番号45で示される軽鎖可変領域に含まれるCDR領域と同一のCDR領域を有する抗体と、配列番号42で示される重鎖可変領域に含まれるCDR領域および配列番号43で示される軽鎖可変領域に含まれるCDR領域と同一のCDR領域を有する抗体の組合せである、上記[1]に記載の測定方法;
[8] CDR領域がKabatナンバリングに基づくCDR1、2、および3領域である、上記[7]に記載の測定方法;
[9] 2つの異なる抗体が、
重鎖可変領域のCDR1,2および3がそれぞれ配列番号46、47および48で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を有し、軽鎖可変領域のCDR1,2および3がそれぞれ配列番号49、50および51で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する抗体と、重鎖可変領域のCDR1,2および3がそれぞれ配列番号52、53および54で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を有し、軽鎖可変領域のCDR1,2および3がそれぞれ配列番号55、56および57で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する抗体の組合せ、または、
重鎖可変領域のCDR1,2および3がそれぞれ配列番号58、59および60で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を有し、軽鎖可変領域のCDR1,2および3がそれぞれ配列番号61、62および63で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する抗体と、重鎖可変領域のCDR1,2および3がそれぞれ配列番号64、65および66で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を有し、軽鎖可変領域のCDR1,2および3がそれぞれ配列番号67、68および69で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する抗体の組合せである、上記[1]に記載の測定方法;
[10] 2つの異なる抗体が、
配列番号38で示される重鎖可変領域および配列番号39で示される軽鎖可変領域を有する抗体と、配列番号40で示される重鎖可変領域および配列番号41で示される軽鎖可変領域を有する抗体の組合せ、または、
配列番号44で示される重鎖可変領域および配列番号45で示される軽鎖可変領域を有する抗体と、配列番号42で示される重鎖可変領域および配列番号43で示される軽鎖可変領域を有する抗体の組合せである、上記[1]に記載の測定方法;
[11] 2つの異なる抗体のいずれか一方が磁性粒子と結合している、上記[1]〜[10]のいずれかに記載の測定方法;
[12] 被験試料が、ヒトから単離された組織試料、全血試料、血漿試料、または血清試料である、上記[1]〜[11]のいずれかに記載の測定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、GPC3タンパク質のN末端領域に存在する異なるエピトープに結合する2つの異なる抗体を用いることで、被検試料中の可溶性GPC3タンパク質を簡便かつ高感度に測定できる。これにより、癌の罹患初期段階における早期発見や、使用する抗がん剤の取捨選択、治療後の予後診断を精密に行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本明細書において別段の定義がない限り、本発明に関連して用いられる化学的用語および技術的用語は、当業者によって一般的に理解されている意味を有するものとする。
【0012】
不定冠詞
「一つの(a)」および「一つの(an)」という不定冠詞は、本発明において、一つのまたは二つ以上の(すなわち少なくとも一つの)その不定冠詞の文法上の対象をいう。例えば「一つの(a)要素」は、一つの要素または二つ以上の要素を意味する。
【0013】
アミノ酸
本明細書において、たとえば、Ala/A、Leu/L、Arg/R、Lys/K、Asn/N、Met/M、Asp/D、Phe/F、Cys/C、Pro/P、Gln/Q、Ser/S、Glu/E、Thr/T、Gly/G、Trp/W、His/H、Tyr/Y、Ile/I、Val/Vと表されるように、アミノ酸は1文字コードまたは3文字コード、またはその両方で表記されている。
【0014】
アミノ酸の改変
抗原結合分子のアミノ酸配列中のアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の公知の方法もまた採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。
【0015】
本明細書において、アミノ酸の改変部位を表す際に用いられる「および/または」の用語の意義は、「および」と「または」が適宜組み合わされたあらゆる組合せを含む。具体的には、例えば「43位、52位、および/または105位のアミノ酸が置換されている」とは以下のアミノ酸の改変のバリエーションが含まれる;
(a) 43位、(b) 52位、(c) 105位、(d) 43位および52位、(e) 43位および105位、(f) 52位および105位、(g) 43位および52位および105位。
【0016】
CDRのナンバリング
本発明において、抗体のCDRに割り当てられるアミノ酸位置は、公知の方法に従って規定することができるが、例えばKabat(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health, Bethesda, Md., 1987年および1991年)にしたがって規定することができる。
【0017】
被験試料
本発明において「被験試料」という用語は、対象から単離される組織または流体の試料をいう。そのような試料の非限定な一態様として、例えば血漿、血清、髄液、リンパ液、皮膚、気道、腸管、および尿生殖路の外部切片、涙、唾液、痰、乳、尿、全血またはあらゆる血液画分、血液誘導体、血球、腫瘍、神経組織、器官またはあらゆるタイプの組織、洗浄により得られるあらゆる試料(例えば気管支系のもの)、ならびにインビトロでの細胞培養物の構成成分の試料が含まれる。
【0018】
可溶性GPC3の濃度は、患者から単離される生物学的試料(被験試料)において測定することができる。例えば、全血試料中の可溶性GPC3の濃度、または血清もしくは血漿などの血液画分の試料(本明細書において、各々全血試料、血清試料または血漿試料とも呼ばれる)中の可溶性GPC3の濃度が測定され得る。非限定な一態様として、患者の全血試料、血清試料または血漿試料中の可溶性GPC3の濃度が、例えば、市販されているHuman Glypican-3 ELISA kit(BioMosaic Inc.)、またはEnzyme-linked Immunosorbent Assay Kit For Glypican 3 (GPC3)(USCN Life Science Inc.)を用いて、EDTAで処理された全血試料、血清試料または血漿試料を用いて測定され得る。
【0019】
「単離された」とは、その天然の状態から「人為的」に変化されたこと、すなわち、天然で生じた場合、その本来の環境から変化および/または取り出されたことをいう。例えば、生物中に存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されていないが、天然の状態で一緒に存在する材料から分離された同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されていることを本発明では意味する。さらに、形質転換、遺伝学的操作またはいずれの他の組換え方法によって生物に導入されるポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、生物(生存していても非生存でもよい)内にまだ存在している場合でも、単離されている。
【0020】
可溶性GPC3
本発明において「可溶性GPC3」とは、GPC3を発現する細胞に係留されていない可溶性のGPC3をいい、生体内または試験管内の特定の条件下でGPC3を発現する細胞に係留されたGPC3から容易に解離し得る分泌型GPC3断片を含む。「可溶性GPC3」の非限定な一態様として、配列番号70で規定されるポリペプチドからなるGPC3の358位よりアミノ末端側のポリペプチド、配列番号:70で規定されるポリペプチドからなるGPC3の374位よりアミノ末端側のポリペプチド、カルボキシ末端に存在するGPIアンカーが分解され遊離したGPC3ポリペプチドおよびそれらの断片等が例示され得る(特許文献2)。可溶性GPC3の構造を特定するために当業者は公知の手法を適宜選択することが可能である。非限定の態様として上記特許文献2に記載された方法等によって患者またはモデル動物の血清または血漿中に存在する可溶性GPC3を直接検出してその構造を解析する方法のほか、たとえば試験管内で培養された細胞に発現するGPC3にコンバルターゼ、フォスフォリパーゼDまたはNotum等の可溶性GPC3を解離する酵素が作用することによって生じた可溶性GPC3を検出してその構造を解析する方法等も適宜使用され得る(J.Cell.Biol. (2003) 163 (3), 625-635等)。
【0021】
可溶性GPC3濃度の測定方法
本発明において、可溶性GPC3濃度は第128番目のアミノ酸から第357番目、好ましくは第219番目のアミノ酸から第357番目のアミノ酸配列中に含まれる異なるエピトープに結合する2つの異なる抗体を用いて、免疫学的方法により測定する。可溶性GPC3を適切な酵素でさらに消化した可溶性GPC3断片を検出する方法も適宜採用され得る。
【0022】
可溶性GPC3の好適な測定方法としては、例えば、酵素免疫測定法(ELISA、EIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、放射免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法(LIA)、酵素抗体法、蛍光抗体法、イムノクロマトグラフィー法、免疫比濁法、ラテックス比濁法、ラテックス凝集反応測定法等が挙げられる。また、本発明の免疫学的方法における測定は、手動操作の手技で行われ得るし、分析装置等の装置を用いても行われ得る。
【0023】
本発明における免疫学的方法は、例えばサンドイッチ法等の公知の方法に従い行うことができる。例えば、担体に固相化された第一の抗体と、生物学的試料および標識物質によって修飾されている第二の抗体を、同時または順に反応させる。上記の反応によって、担体に固相化された第一の抗体、可溶性GPC3および標識物質によって修飾されている第二の抗体の複合体が形成され、この複合体に含まれる第二の抗体に連結された標識物質を定量することによって、生物学的試料中に含まれる可溶性GPC3の量(濃度)を測定することができる。
【0024】
例えば、酵素免疫測定法の場合は、第一の抗体が固相化されたマイクロプレート、系列的に希釈された生物学的試料、HRP等の酵素によって修飾された第二の抗体、洗浄バッファー、およびHRP等の酵素による反応を受ける基質が含まれる溶液が好適に用いられる。非限定な測定の一態様では、第二の抗体を修飾する酵素に、その至適条件下で基質を反応させ、その酵素反応生成物の量が光学的方法等により測定され得る。また、蛍光免疫測定法の場合には、第一の抗体が固相化された光導波路、系列的に希釈された生物学的試料、蛍光物質によって修飾された第二の抗体、洗浄バッファーが好適に用いられ得る。非限定な測定の一態様では、第二の抗体を修飾する蛍光物質に照射された励起光によって、その蛍光物質が発する蛍光強度が測定され得る。
【0025】
さらに放射免疫測定法の場合には、放射性物質による放射線量が測定される。また、発光免疫測定法の場合には、発光反応系による発光量が測定される。また、免疫比濁法、ラテックス比濁法、ラテックス凝集反応測定法等の場合には、エンドポイント法またはレート法により透過光や散乱光が測定される。また、イムノクロマトグラフィー法などを目視により測定する場合には、テストライン上に現れる標識物質の色が目視的に測定される。なお、この目視的に測定する代わりに、分析装置等の機器が適宜使用され得る。
【0026】
本発明の免疫学的方法において、担体に固相化された第一の抗体と担体とを、物理吸着法、化学的結合法またはこれらの併用等の方法により、吸着、結合させることが可能である。物理吸着法により抗体を固相化する方法は、公知の方法が適宜使用され得る。例えば、抗体と担体を緩衝液などの溶液中で混合し接触させる方法、バッファー等に溶解した抗体と担体を接触させる方法等が挙げられる。また、化学的結合法によっても担体に抗体を固相化することが可能である。例えば、抗体と担体をグルタルアルデヒド、カルボジイミド、イミドエステルまたはマレイミド等の二価性の架橋試薬と混合、接触させて、抗体と担体双方のアミノ基、カルボキシル基、チオール基、アルデヒド基、または水酸基等と反応させる方法等が例示される。固定化に際して、非特異的反応や、抗体を固相化させた担体の自然凝集等を抑制するために処理を行う必要がある場合、公知の方法によって固定化後の処理が可能である。例えば、抗体を固相化させた担体の表面または内壁面に、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ゼラチン、卵白アルブミンまたはこれらの塩等のタンパク質、界面活性剤もしくは脱脂粉乳等を接触させ、被覆させる方法等が挙げられる。
【0027】
本発明の免疫学的方法において、標識物質によって修飾されている第二の抗体と標識物質とを、物理吸着法、化学的結合法またはこれらの併用等の方法により、吸着、結合させることが可能である。物理吸着法により抗体に標識物質を結合させる方法は、公知の方法が適宜使用され得る。例えば、抗体と標識物質を緩衝液などの溶液中で混合し接触させる方法、バッファー等に溶解した抗体と標識物質を接触させる方法等が挙げられる。例えば、標識物質が金コロイドやラテックスである場合は物理吸着法が有効であり、抗体と金コロイドとをバッファー中で混合し接触させることによって、金コロイド標識を有する抗体を得ることが可能である。また、化学的結合法によっても抗体を標識物質によって修飾させることが可能である。例えば、抗体と標識物質をグルタルアルデヒド、カルボジイミド、イミドエステルまたはマレイミド等の二価性の架橋試薬と混合、接触させて、抗体と標識物質双方のアミノ基、カルボキシル基、チオール基、アルデヒド基、または水酸基等と反応させる方法等が例示される。例えば、標識物質が蛍光物質や酵素、または化学発光物質の場合、化学結合法が有効である。修飾に際して、非特異的反応や、標識物質によって修飾された抗体の自然凝集等を抑制するために処理を行う必要がる場合、公知の方法によって標識後の処理が可能である。例えば、標識物質が結合した抗体に、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ゼラチン、卵白アルブミンまたはその塩等のタンパク質、界面活性剤もしくは脱脂粉乳等を接触させ、被覆させる方法等が挙げられる。
【0028】
標識物質としては、酵素免疫測定法の場合、ペルオキシダーゼ(POD)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、乳酸脱水素酵素、またはアミラーゼ等が使用され得る。また、蛍光免疫測定法の場合、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、置換ローダミンイソチオシアネート、ジクロロトリアジンイソチオシアネート、シアニン、またはメロシアニン等が使用され得る。また、放射免疫測定法の場合は、トリチウム、ヨウ素125またはヨウ素131等が使用され得る。発光免疫測定法の場合は、ルミノール系、ルシフェラーゼ系、アクリジニウムエステル系、またはジオキセタン化合物系等が使用され得る。また、イムノクロマトグラフィー法、免疫比濁法、ラテックス比濁法、ラテックス凝集反応測定法の場合は、ポリスチレン、スチレン−スチレンスルホン酸塩共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体、ポリアクロレイン、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−グリシジル(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、ラテックス、ゼラチン、リポソーム、マイクロカプセル、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、金属化合物、金属、金属コロイド、セラミックス、または磁性体等の材質よりなる微粒子が使用され得る。
【0029】
本発明の免疫学的方法において使用される担体としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ラテックス、リポソーム、ゼラチン、アガロース、セルロース、セファロース、ガラス、金属、セラミックス、または、磁性体等の材質よりなるビーズ、マイクロプレート、試験管、スティック、メンブレン、または試験片等の形状の固相担体が適宜使用され得るが、特に磁性粒子のような磁性体が好ましい。磁性粒子としては、磁性体や超常磁性体を含むポリマー粒子が好ましく、核となる粒子表面にFe
2O
3およびFe
3O
4の少なくとも一方を含む磁性体層が形成され、さらに磁性体層上にポリマー層を形成した磁性粒子がより好ましい。
【0030】
2つの異なる抗体
本発明で使用される「2つの異なる抗体」は、GPC3の第128番目のアミノ酸から第357番目のアミノ酸領域中に含まれる「異なるエピトープ」に結合する。「異なるエピトープ」は、「2つの異なる抗体」が可溶性GPC3との結合を相互に阻害し合わない関係にあれば特に限定されない。具体的には、例えば、実施例に記載のGT30抗体が結合するGPC3上のエピトープとGT607抗体が結合するGPC3上のエピトープの組合せ、或いは、GT114抗体が結合するGPC3上のエピトープとGT165抗体が結合するGPC3上のエピトープの組合せを挙げることができる。そのような異なるエピトープの組合せとしては、例えば、GPC3タンパク質の第337番目、339番目、340番目および344番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープ(GT30とGT165)と、GPC3タンパク質の第221番目、298番目、301番目、302番目、305番目、308番目および309番目(GT607とGT114)から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープの組合せが挙げられる。或いは、GPC3タンパク質の第343番目、346番目、347番目、348番目、349番目および350番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープ(GT30)と、GPC3タンパク質の第297番目、300番目、304番目、306番目、311番目、312番目、313番目、314番目および315番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープ(GT607)の組合せ、または、GPC3タンパク質の第128番目、129番目、131番目、132番目、133番目、134番目、135番目、171番目、208番目、209番目、210番目、211番目、212番目、214番目、215番目、218番目、322番目、325番目、326番目、328番目、329番目、330番目、332番目、333番目、335番目、336番目および338番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープ(GT165)と、GPC3タンパク質の220番目、228番目、231番目、232番目、235番目、291番目、294番目および295番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープ(GT114)の組合せが挙げられる。更に、GPC3タンパク質の第337番目、339番目、340番目および344番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含み、かつ、第341番目、343番目、346番目、347番目、348番目、349番目および350番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープ(GT30)と、GPC3タンパク質の第221番目、298番目、301番目、302番目、305番目、308番目および309番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含み、かつ、第297番目、300番目、304番目、306番目、311番目、312番目、313番目、314番目および315番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープ(GT607)の組合せ、または、GPC3タンパク質の第337番目、339番目、340番目および344番目のアミノ酸から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含み、かつ、第128番目、129番目、131番目、132番目、133番目、134番目、135番目、171番目、208番目、209番目、210番目、211番目、212番目、214番目、215番目、218番目、322番目、325番目、326番目、328番目、329番目、330番目、332番目、333番目、335番目、336番目および338番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープ(GT165)と、GPC3タンパク質の第221番目、298番目、301番目、302番目、305番目、308番目および309番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含み、かつ、220番目、228番目、231番目、232番目、235番目、291番目、294番目および295番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープ(GT114)の組合せを挙げることができる。
【0031】
「2つの異なる抗体」は、上記領域内の異なるエピトープを認識し、相互に可溶性GPC3との結合を阻害し合わない関係にあれば、特に限定されない。本発明で使用される「2つの異なる抗体」の具体例として、GT30抗体とGT607抗体の組合せ、および、GT165抗体とGT114抗体の組合せを挙げることができる。
【0032】
GT30抗体
GT30抗体は、GPC3タンパク質の第337番目、339番目、340番目、341番目、344番目、第343番目、346番目、347番目、348番目、349番目および350番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープを認識する。GT30抗体は、配列番号38で示される重鎖可変領域および配列番号39で示される軽鎖可変領域を有し、Kabatナンバリングに基づくCDR1,2および3のアミノ酸配列が、配列番号46、配列番号47、および配列番号48でそれぞれ表される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびに配列番号49、配列番号50、および配列番号51でそれぞれ表される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3を有する。
【0033】
GT607抗体
GT607抗体は、GPC3タンパク質の第221番目、298番目、301番目、302番目、305番目、308番目、309番目、第297番目、300番目、304番目、306番目、311番目、312番目、313番目、314番目および315番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープを認識する。GT607抗体は、配列番号40で示される重鎖可変領域および配列番号41で示される軽鎖可変領域を有し、Kabatナンバリングに基づくCDR1,2および3のアミノ酸配列が、配列番号52、配列番号53、および配列番号54でそれぞれ表される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびに配列番号55、配列番号56、および配列番号57でそれぞれ表される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3を有する。
【0034】
GT165抗体
GT165抗体は、GPC3タンパク質の第337番目、339番目、340番目、344番目、第128番目、129番目、131番目、132番目、133番目、134番目、135番目、171番目、208番目、209番目、210番目、211番目、212番目、214番目、215番目、218番目、322番目、325番目、326番目、328番目、329番目、330番目、332番目、333番目、335番目、336番目および338番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸をエピトープを認識する。GT165抗体は、配列番号44で示される重鎖可変領域および配列番号45で示される軽鎖可変領域を有し、Kabatナンバリングに基づくCDR1,2および3のアミノ酸配列が、配列番号58、配列番号59、および配列番号60でそれぞれ表される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびに配列番号61、配列番号62、および配列番号63でそれぞれ表される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3を有する。
【0035】
GT114抗体
GT114抗体は、GPC3タンパク質の第221番目、298番目、301番目、302番目、305番目、308番目および309番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含み、かつ、220番目、228番目、231番目、232番目、235番目、291番目、294番目および295番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープを認識する。GT114抗体は、配列番号42で示される重鎖可変領域および配列番号43で示される軽鎖可変領域を有し、Kabatナンバリングに基づくCDR1,2および3のアミノ酸配列が、配列番号64、配列番号65、および配列番号66でそれぞれ表される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびに配列番号67、配列番号68、および配列番号69でそれぞれ表される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3を有する。
【0036】
以下に、各抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の塩基配列及びアミノ酸配列を記載する。
GT30H鎖塩基配列 (配列番号30)
ATGGAATGGATCTGGATCTTTCTCTTCATCCTGTCAGGAACTGCAGGTGTCCAATCCCAGGTTCAGCTGCAGCAGTCTGGAGCTGAGCTGGCGAGGCCTGGGGCTTCAGTGAAACTGTCCTGCAGGGCTTCTGGCTACACCTTCACAAGCTATGGTATAAGCTGGATGATGCAGAGAACTGGACAGGGCCTTGAGTGGATTGGAGAGATTTATCCTAGAAGTGGTATTACTTACTACAATGAGAAGTTCAAGGGCAAGGCCACACTGACTGCAGACAAATCCTCCAGCACAGCCTACATGCAGCTCAGCAGCCTGACATCTGAGGACTCTGCAGTCTATTTCTGTGCAAGAGATGTCTCTGATGGTTACCTTTTTCCTTACTGGGGCCAAGGGACTCTGGTCACTGTCTCTGCAGCCAAA
GT30L鎖塩基配列 (配列番号31)
ATGAGTGTGCCCACTCAGGTCCTGGGGTTGCTGCTGCTGTGGCTTACAGGTGCCAGATGTGACATCCAGATGACTCAGTCTCCAGCCTCCCTATCTGCATCTGTGGGAGAAACTGTCACCATCACATGTCGAACAAGTGAGAATATTTACAGTTATTTAGCATGGTATCAGCAGAAACAGGGAAAATCTCCTCAGCTCCTGGTCTATAATGCAAAAACCTTACCAGAAGGTGTGCCATCAAGGTTCAGTGGCAGTGGATCAGGCACACAGTTTTCTCTGAAGATCAACAGCCTGCAGCCTGAAGATTTTGGGAGTTATTACTGTCAACATCATTATGGTACTCCTCCGACGTTCGGTGGAGGCACCAAGCTGGAAATCAAACGGGCT
GT607H鎖塩基配列 (配列番号32)
ATGAACTTCGGGCTCAGCTTGATTTTCCTTGCCCTCATTTTAAAAGGTGTCCAGTGTGAGGTGCAGCTGGTGGAGTCTGGGGGAGACGTAGTGAGACCTGGAGGGTCCCTGAAACTCTCCTGTGCAGCCTCTGGATTCACTTTCAGTAGTTATGGCATGTCCTGGGTTCGCCAGCTTCCAGACAAGAGGCTGGAGTGGGTCGCAAGTGTTGGTAATGGAGGTAGTTACAGGTACTATCCAGAGAATTTGAAGGGGCGGTTCACCATCTCCAGAGACAATACCAAGAACACCCTATACCTGCAAATTAGTGGTCTGAAGTCTGAGGACACAGCCATTTATTACTGTGCAAGACGGGGGGCTTTCCCGTACTTCGATGTCTGGGGCGCAGGGACCACGGTCACCGTCTCCTCAGCCAAA
GT607L鎖塩基配列 (配列番号33)
ATGGATTTTCAAGTGCAGATTTTCAGCTTCCTGCTAATCAGTGCCTCAGTCATAGTATCCAGAGGACAAATTGTTCTCACCCAGTCTCCAGCAATCATGTCTGCATCTCCAGGGGAGAAGGTCACCCTGGCCTGCAGTGCCAGCTCAAGTGTAACTTACATGCACTGGTACCAGCAGAAGTCAGGCACCTCCCCCAAAAGATGGATTTATGAAACATCCAAACTGGCTTCTGGAGTCCCTCCTCGCTTCAGTGGCAGTGGGTCTGGGACCTCTTACTCTCTCACAATCAGCACCATGGAGGCTGAAGATGCTGCCACTTATTACTGCCAACAGTGGAGTAGTAACCCGCTCACGTTCGGTGCTGGGACCAAGCTGGAGCTGAAACGGGCT
GT114H鎖塩基配列 (配列番号34)
ATGAGAGTGCTGATTCTTTTGTGGCTGTTCACAGCCTTTCCTGGTATCCTATCTGATGTGCAGCTTCAGGAGTCGGGACCTGGCCTGGTGAAACCTTCTCAGTCTCTGTCCCTCACCTGCACTGTCACTGGCTACTCAATCACCAGTGATTCTGCCTGGAACTGGATCCGGCAGTTTCCAGGAAACAAACTGGAGTGGATGGCCTACATAATGTACAGTGGTATCACTAGCTACAATCCATCTCTCAAAAGTCGAATCTCTATCACTCGAGACACAGCCAAGAACCAGTTCTTTCTGCAGTTGAATTCTGTGACTACTGAGGACTCAGCCACATATTACTGTTCACGAGGCTACTGGTACTTCGATGTCTGGGGCGCAGGGACTACGGTCACCGTCTCCTCAGCCAAA
GT114L鎖塩基配列 (配列番号35)
ATGGATTTTCAGGTGCAGATTTTCAGCTTCCTGCTAATCAGTGCCTCAGTCATAATGTCCAGAGGACAAATTGTTCTCACCCAGTCTCCAGCAATCATGTCTGCATCTCTAGGGGAGGAGATCACCCTAACCTGCAGTGCCAGCTCGAGTGTGAGTTACATGCACTGGTACCAGCAGAAGTCAGGCACTTCTCCCAAACTCTTGATTTATAGCACATCCATCCTGGCTTCTGGAGTCCCTTCTCGCTTCAGTGGCAGTGGGTCTGGGACCTTTTATTCTCTCACAATCAGCAGTGTGGAGGCTGAAGATGCTGCCGATTATTACTGCCTTCAGTGGATTACTTATCGGACGTTCGGTGGAGGCACCAAGCTGGAAATCAAACGGGCT
GT165H鎖塩基配列 (配列番号36)
ATGTGTTGGAGCTGTATCATCCTCTTCCTGTTAGCAACAGCTGCACGTGTGCACTCCCAGGTCCAGCTGCAGCAGTCTGGGGCTGAGCTGGTGGGGCCTGGGGCCTCAGTGAAGATTTCCTGCAAGGCTTTTGGCTACACCTTCACAAACCATCATATAAACTGGGTGAAGCAGAGGCCTGGACAGGGCCTGGACTGGATTGGATATATTAATCCTTATAATGATTATACTAACTACAACCAGAAGTTCAAGGGCAAGGCCACATTGACTGTAGACAAATCCTCCAGCACAGCCTATATGGAGCTTAGCAGCCTGACATCTGAGGACTCTGCAGTCTATTACTGTGCAAGATCAGACCCCGCCTGGTTTGCTTACTGGGGCCAAGGGACTCTGGTCACTGTCTCTGCAGCCAAA
GT165L鎖塩基配列 (配列番号37)
ATGAGACCCTCCATTCAGTTCCTGGGGCTCTTGTTGTTCTGGCTTCATGGTGCTCAGTGTGACATCCAGATGACACAGTCTCCATCCTCACTGTCTGCATCTCTGGGAGGCAAAGTCACCATCACTTGCAAGGCAAGCCAAGACATTAACAAGAATATAGCTTGGTACCAACACAAGCCTGGAAAAGGTCCTAGGCTGCTCATATGGTACACATATACATTACAACCAGGCATCCCATCAAGGTTCAGTGGAAGTGGATCTGGGAGAGATTATTCCTTCAGCATCAGCAACCTGGAGCCTGAAGATATTGCAACTTATTACTGTCTACAGTATGATAATCTTCCATTCACGTTCGGCACGGGGACAAAATTGGAAATAAAACGGGCT
GT30H鎖可変領域のアミノ酸配列 (配列番号38)
QVQLQQSGAELARPGASVKLSCRASGYTFTSYGISWMMQRTGQGLEWIGEIYPRSGITYYNEKFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYFCARDVSDGYLFPYWGQGTLVTVSAAK
GT30L鎖可変領域のアミノ酸配列 (配列番号39)
DIQMTQSPASLSASVGETVTITCRTSENIYSYLAWYQQKQGKSPQLLVYNAKTLPEGVPSRFSGSGSGTQFSLKINSLQPEDFGSYYCQHHYGTPPTFGGGTKLEIKRA
GT607H鎖可変領域のアミノ酸配列 (配列番号40)
EVQLVESGGDVVRPGGSLKLSCAASGFTFSSYGMSWVRQLPDKRLEWVASVGNGGSYRYYPENLKGRFTISRDNTKNTLYLQISGLKSEDTAIYYCARRGAFPYFDVWGAGTTVTVSSAK
GT607L鎖可変領域のアミノ酸配列 (配列番号41)
QIVLTQSPAIMSASPGEKVTLACSASSSVTYMHWYQQKSGTSPKRWIYETSKLASGVPPRFSGSGSGTSYSLTISTMEAEDAATYYCQQWSSNPLTFGAGTKLELKRA
GT114H鎖可変領域のアミノ酸配列 (配列番号42)
DVQLQESGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDSAWNWIRQFPGNKLEWMAYIMYSGITSYNPSLKSRISITRDTAKNQFFLQLNSVTTEDSATYYCSRGYWYFDVWGAGTTVTVSSAK
GT114L鎖可変領域のアミノ酸配列 (配列番号43)
QIVLTQSPAIMSASLGEEITLTCSASSSVSYMHWYQQKSGTSPKLLIYSTSILASGVPSRFSGSGSGTFYSLTISSVEAEDAADYYCLQWITYRTFGGGTKLEIKRA
GT165H鎖可変領域のアミノ酸配列 (配列番号44)
QVQLQQSGAELVGPGASVKISCKAFGYTFTNHHINWVKQRPGQGLDWIGYINPYNDYTNYNQKFKGKATLTVDKSSSTAYMELSSLTSEDSAVYYCARSDPAWFAYWGQGTLVTVSAAK
GT165L鎖可変領域のアミノ酸配列 (配列番号45)
DIQMTQSPSSLSASLGGKVTITCKASQDINKNIAWYQHKPGKGPRLLIWYTYTLQPGIPSRFSGSGSGRDYSFSISNLEPEDIATYYCLQYDNLPFTFGTGTKLEIKRA
【0037】
以下に各抗体のCDR配列を記載する。
【0038】
本発明の可溶性GPC3タンパク質の測定には、上記抗体の代わりに、上記抗体の重鎖可変領域およびの軽鎖可変領域のアミノ酸配列とそれぞれ相同性または同一性が高いアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する抗体を用いることができる。例えば、上記抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列との相同性が少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは例えば90%、さらに好ましくは95%、特に好ましくは98%以上である。相同性または同一性(類似性)は、任意のよく知られたアルゴリズム、例えばNeedleman−Wunsch、Smith−Waterman、BLASTまたはFASTAを使用することができ、例えば、BLASTプログラム(Atschul et al,J.Molec.Biol.,1990;215:403−410)をデフォルト条件で使用して算出する。
【0039】
同一エピトープを認識する抗体
上記抗体とそれぞれ同じエピトープに結合する抗体の組合せもまた、本発明の「2つの異なる抗体」として利用できる。各抗体と同じエピトープに結合する抗体は、競合ELISAなどの公知の方法を用いて、可溶性GPC3タンパク質あるいは各抗体が認識するエピトープ断片に対する上記各抗体との競合(交差反応性)を測定することにより得ることができる。
【0040】
組換え抗体
GT30抗体、GT607抗体、GT165抗体、およびGT114抗体とそれぞれ同じ重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する抗体の組合せ、あるいは、前記抗体とそれぞれ同じ重鎖CDRs(CDR1、CDR2、CDR3)領域および軽鎖CDRs(CDR1、CDR2、CDR3)を有する抗体の組合せもまた、本発明の「2つの異なる抗体」として利用できる。さらに、これらの抗体のキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体の組合せもまた本発明の「2つの異なる抗体」として利用できる。
【0041】
GT30抗体、GT607抗体、GT165抗体、およびGT114抗体とそれぞれ同じ重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する抗体、あるいは同じ重鎖CDRsおよび軽鎖CDRsを有する抗体は、組換え技術により作成できる。すなわち、目的とする抗GPC3N端ペプチド抗体または抗GPC3C端ペプチド抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするDNAを、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを含有する発現ベクターへ組み込み、この発現ベクターで宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。
【0042】
抗体遺伝子の発現は、抗体重鎖(H鎖)または軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換させてもよい(WO 94/11523 号公報参照)。
【0043】
また、組換え型抗体の産生には上記宿主細胞だけではなく、トランスジェニック動物を使用することができる。例えば、抗体遺伝子を、乳汁中に固有に産生されるタンパク質(ヤギβカゼインなど)をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギまたはその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology(1994)12, 699-702)。
【0044】
本発明では、上記抗体のほかに、人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体(ヒト化(Humanized)抗体、など)を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。本発明の抗体を治療用抗体として使用する場合には、遺伝子組換え型抗体を用いることが好ましい。
【0045】
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0046】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、これは、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。
【0047】
本発明の測定方法は、たとえば特許4283227号公報に記載された発明と同じく、被験者から単離された被検試料中の可溶化GPC3タンパク質を検出することにより前記被験者の肝臓癌の可能性を検査する方法に有用な発明である。また、特許4658926号公報に記載された発明と同じく、抗GPC3抗体を含有する肝癌治療後の再発予測判定薬にも有用な発明である。本発明の測定方法は、本発明の測定方法を含むことを特徴とする、診断方法、再発予測判定方法に利用できる。後の実施例に示すように、本発明の測定方法は、健常人の血中に含まれる可溶性GPC3タンパク質を数pg/mLオーダーで測定することができるものであり、上記2件の特許に係る発明と比べて、肝臓ガンの早期発見、予後診断に対して、より有用な技術といえる。
より具体的には、健常人の可溶性GPC3の濃度範囲は15〜174pg/mL程度であることから、この範囲を超える可溶性GPC3が検出された場合には、肝臓ガンに罹患、又は、再発している可能性が示され、早期発見によるリスク低減が可能であることが示唆される。
【0048】
本発明の可溶性GPC3タンパク質の測定方法に使用される、上記の異なるエピトープに結合する2つの異なる抗体を含む測定キットも本発明によって提供される。当該抗体は、前述される担体に固相化された状態で提供され得るし、担体とは個別的にも提供され得る。また、当該キットには、系列的に希釈された可溶性GPC3の標準液が追加的に含まれ得る。本発明の免疫学的測定キットに使用する測定原理等については、前述した免疫学的方法と同様である。本発明の測定キットにおいて、溶媒として、各種の水系溶媒が使用され得る。この水系溶媒として、例えば、精製水、生理食塩水、もしくはトリスバッファー、リン酸バッファーまたはリン酸バッファー生理食塩水等の各種バッファーが挙げられる。このバッファーのpHとして、適宜適切なpHが選択され得る。pHの値は特に限定されることはないが、pH3〜12の範囲内のpHを選択して用いることが一般的である。
【0049】
また、本発明の測定キットには、前述の成分の他に、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)、カゼインまたはその塩等のタンパク質、各種塩類、各種糖類、脱脂粉乳、正常ウサギ血清等の各種動物血清、アジ化ナトリウムまたは抗生物質等の各種防腐剤、活性化物質、反応促進物質、ポリエチレングリコール等の感度増加物質、非特異的反応抑制物質、もしくは非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤等の各種界面活性剤等の一種または二種以上が適宜含有され得る。そして、これらを測定試薬に含有させる際の濃度は特に限定されるものではないが、0.001〜10%(W/V)が好ましく、特に0.01〜5%(W/V)の範囲から適宜好適な濃度が選択される。
【0050】
さらに、本発明の測定キットには、前述の成分の他に他の試薬とも組み合わせられ得る。他の試薬としては、例えば、バッファー、生物学的試料向けの希釈液、試薬希釈液、標識物質を含有する試薬、発色等のシグナルを生成する物質を含有する試薬、発色等のシグナルの生成に関与する物質を含有する試薬、校正(キャリブレーション)を行うための物質を含有する試薬、または精度管理を行うための物質を含有する試薬等が挙げられる。
【0051】
本発明の測定キットの形態としては特に限定されるものではないが、短時間かつ簡便に測定を行うために、本発明の測定キットの構成成分が一体となった、一体型の測定キットとしても提供され得る。上記一体型の測定キットとして、例えば、ELISAキット、蛍光免疫測定キット、イムノクロマトキット等が挙げられる。例えばELISAキットの形態としては、第一の抗体が固相化されたマイクロプレート、系列的に希釈された可溶性GPC3標準液、HRP等の酵素によって修飾された第二の抗体、洗浄バッファー、および当該酵素反応の基質溶液等が含まれる。また、蛍光免疫測定キットの場合には、第一の抗体が固相化された光導波路、系列的に希釈された可溶性GPC3標準液、蛍光物質によって修飾された第二の抗体、及び洗浄バッファー等が含まれる。また、イムノクロマトキットの場合は、反応カセット内にメンブレンが収納されており、そのメンブレン上の一端(下流側)に前記第一の抗体が固相化されている。また、メンブレン上の逆の一端(上流側)には、展開液が装着されており、その近傍の下流側には、上記標識剤の基質が添加されたパッドが配置されており、メンブレンの中間部には前記のように標識された第二の抗体が添加されたパッドが配置されている態様等が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
ヒトグリピカン3(GPC3:配列番号70)の2つのヘパラン硫酸結合部位(495位ならびに509位)のセリンをアラニンに変換した変異体GPC3 coreの細胞外ドメイン(25位−563位)のC末端にHisタグを付与したGPC3 core(sGPC3-His)蛋白をBalb/cあるいはMRL/lprマウスに計6〜9回免疫し、最終免疫の3日後、マウスの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞SP2/0を、PEG1500を用いた常法あるいはHVJ-E(石原産業)を用いて細胞融合した。
【0054】
次に、ハイブリドーマ細胞のスクリーニングを、sGPC3-Hisを直接固相化したELISA、抗His抗体を固相化後にsGPC3-Hisを結合させたELISA、もしくはGPC3を定常発現したCHO細胞を用いたCell ELISAを用いて実施した(WO 2006/006693参照)。
【0055】
[実施例2]
sGPC3-His蛋白質は還元条件下のSDS-PAGEにおいて約86 kDa, 約43 kDa, 約33 kDaのバンドが認められ、それぞれ全長型、プロテアーゼで切断されたN末断片、C末断片であることが明らかにされている(WO 2006/006693)。上記のスクリーニングにより得られたマウス抗体を用いてsGPC3-Hisに対してウエスタンブロットを行い、C末断片を認識しない抗体を選抜した。その結果、N末断片認識抗体としてGT30、GT114、GT607、認識部位未同定のGT165を得た(
図1)。
【0056】
続いて、GPC3の1位から196位(AW2)、1位から218位(AW3)、1位から357位(AW5)のそれぞれC末端にHisタグを付加したリコンビナント品をCHO細胞で発現させ、それぞれのCHO細胞ペレットを用い、ウエスタンブロットを行った。その結果、
図2、表1に示すようにGT30、GT114、GT607はAW5もしくはsGPC3-Hisへの反応性が認められたものの、AW2ならびにAW3では反応性が認められなかったことから、GPC3の219位から357位に結合することが示された。一方で、GT165はいずれでも反応性が認められなかったことから、立体構造を強く認識する可能性が考えられた。
【0057】
【表1】
【0058】
[実施例3]
上記抗体のエピトープをより詳細に同定するため、GPC3のアミノ酸配列を10残基の重なりを含んだ30残基のペプチドに分割し、対応するペプチドを合成した(表2 配列番号 1−29)。合成ペプチドを1 mg/mLとなるようジメチルスルホキシドに溶解した後、PBSを用いて1 μg/mLに希釈した。96ウェルプレートに希釈したペプチド溶液を一ウェル当たり70 μLで添加し、室温で1時間固相化した。未固相のペプチドを除去し、ブロッキング緩衝液20% Blocking-one(ナカライテスク)を一ウェル当たり200 μL添加して一晩ブロッキングを行った。ブロッキング緩衝液を除去し、TBS-Tで3回洗浄したのち、2 μg/mLとるようブロッキングバッファーで希釈した抗体を70 μL/ウェルで添加した。一時間後に抗体を除去し、TBS-Tを一ウェル当たり200 μL添加して3回洗浄した。各ウェルにHRP結合抗マウス抗体を一ウェル当たり70 μLで添加して一時間反応させた。抗体を除去し一ウェル当たり200 μLのTBS-Tにて3回洗浄後、発色試薬ABTS Peroxidase Substrate System(1component, KPL社)を70 μL/ウェル添加し室温で15〜30分発色させ、一ウェル当たり70 μLの1% SDSを添加して反応を停止してプレートリーダーにて405 nmの吸光度を測定した。その結果
図3に示すようにGT30は配列番号17番のペプチドと結合することが明らかとなったが、GT114、GT165ならびにGT607は特異的に結合するペプチドは見出されなかった。
【0059】
これらの結果から、GT30はGPC3の321位から350位の部位に結合すること、ならびにGT165に加え、GT114ならびにGT607も立体構造を認識する可能性が示唆された。
【0060】
【表2】
【0061】
[実施例4]
次に、GPC3 N末端側フラグメントを認識する各抗体の結合競合性を解析するため、各抗体を用いた結合阻害試験を行った。
具体的には、96ウェル透明マイクロプレート(Thermo Scientific社製 MaxiSoap)に1 μg/mLのsGPC3溶液(PBS)を50 μL加え、室温で一晩静置した。次いで、マイクロプレートを洗浄液(0.01% Triton X-100を含むTBS)で1回洗浄後、ブロッキング溶液(ナカライテスク株式会社製 BlockingOne)を200 μL加え、室温で1時間静置した。また、マイクロプレートを洗浄液で3回洗浄後、50 μg/mLの未標識の抗GPC3抗体溶液(20% BlockingOneを含むPBS)を25 μL加え、室温で1分間撹拌した。さらに、0.5 μg/mLのビオチン標識した抗GPC3抗体溶液(20% BlockingOneを含むPBS)を25 μL加え、室温で1時間撹拌した。次いで、マイクロプレートを洗浄液で3回洗浄後、StreptAvidin-HRP(Prozyme社製)を希釈液(10% Block Ace, 0.1% Tween 20を含むTBS)で10,000倍希釈した溶液を50 μL加え、室温で30分間撹拌した。また、マイクロプレートを洗浄液で5回洗浄後、発色基質液(Thermo Scientific社製 1-Step Turbo TMB)を50 μL加え、マイクロプレートリーダーで450 nmの吸光度(O.D. 450)を測定した。
【0062】
【表3】
【0063】
表3に示すように、GT30とGT165はそれぞれのGPC3への結合を阻害することから、GT165とGT30のエピトープは近接していると考えられた。またGT114とGT607はGT30による阻害を受けないが、GT114とGT607の共存下ではGPC3への結合に阻害が認められることから、GT114とGT607のエピトープは近接していることが考えられ、一方でGT114はGT165の阻害も受けないのに対し、GT607はGT165による結合阻害を受けることから、GT607はGT30の結合部位とは重なっていないが、GT165の結合領域に近いことが明らかになった(
図4)。
【0064】
[実施例5]
以上の結果から、GT114、GT165ならびにGT607は立体構造を認識し、特にGT165はGT30のエピトープ領域である321位から350位の部位の近傍に結合することが示唆されたことから、ヒトGPC3の立体構造モデルにより結合が考えられる領域を同定した。
【0065】
初めに、ヒトGPC3と相同性が高く、かつX線結晶構造解析が報告されているミバエのDally-like proteinの構造(PDB ID: 3ODN, Kim M.S. et al., Proc Natl Acad Sci USA 2011; 108: 13112-13117)をヒトGPC3の立体構造(29位のプロリン残基から486位のリジン残基までを含み、ただし357位のチロシンから372位のバリンは除く)と仮定し、各抗体の相互作用をPyMOL Molecular Graphics System, Version 1.5.0.4(Schrodinger LLC社製)を用いて推定した。なお、グリピカン分子の立体構造は種を超えてよく保存されていることが報告されている(Svensson G. et al., J Biol Chem 2012; 287: 14040-14051)。
【0066】
その結果、GT30のエピトープ領域である321位から350位はα−へリックス構造を有していると推定された。当該領域に対する結合モードを解析するため、α−へリックス構造を認識することが分かっており、かつX線結晶構造解析が報告されている3つのマウスモノクローナル抗体Fab(PDB IDs: 2CMR, 2XRA, 3V6Z)をへリックス構造認識モデルとして用いた。さらにマウス IgG1 抗体の X 線結晶構造 (PDB ID: 1IGY) を、上記3 つの Fab それぞれに重ね合わせた。その結果、ヒトGPC3の321位から350位の二つのへリックス部分を認識するマウス IgG1 抗体として、321位から350位の2種類のへリックス結合部位、3 種類の Fab (2CMR, 2XRA, 3V6Z) の結合モード、ならびに2 つのマウス IgG1 の Fab全ての組み合わせで12種 の結合モードが可能と推定した。
【0067】
上記12種のIgG1 結合モデルそれぞれについて、Fabと4 オングストローム以内(で接触するヒトGPC3の領域が、GT30と抗原結合を競合する抗体であるGT165の結合領域として同定された。さらに、同様に、GT165の結合領域と競合しうる領域をGT607の結合領域として同定し、続いてGT607の結合領域をもとに、それと競合しうる領域をGT114の結合領域として同定した。それらの結果、実施例2および実施例3の結果、表3および
図4の競合関係の結果から、GT30、GT165、GT607およびGT114の結合領域として、それぞれ
図5〜9にしめす領域が同定された。今回同定された認識領域のうち、実施例2および実施例3の結果をふまえ、各抗体の抗原結合において重要であるヒトGPC3アミノ酸残基を表4に記載した。また、構造モデルより想定された各抗体の認識領域となりうる全てのヒトGPC3アミノ酸残基を表5に示した。
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
[実施例6]
(磁性粒子を用いたELISA測定系の構築)
実施例4の結果から、可溶性GPC3の測定系が構築可能な抗体の組み合わせとして表6に示す2種を選抜した。
【0071】
【表6】
【0072】
なお、表6に示した測定系については、高感度化を図るため、固相側については、磁性粒子(JSRライフサイエンス株式会社製 Magnosphere MS300/Carboxyl)に抗体を固相化し、標識側については、抗体にアルカリフォスファターゼを標識した。
【0073】
[実施例7]
(磁性粒子を用いた化学発光免疫酵素測定法による可溶性GPC3の測定)
磁性粒子を用いた化学発光免疫酵素測定法による可溶性GPC3の測定は、以下の方法で実施した。
【0074】
96ウェル白色マイクロプレート(コーニング社製)に、GT30またはGT114を結合した0.06%(w/v)の抗体結合磁性粒子を25μL添加した。次いで、可溶性GPC3を含む溶液サンプルを25μL添加した。さらに、アルカリフォスファターゼ標識したGT607またはGT165抗体の各溶液を25μL添加した。その後、96ウェル白色マイクロプレートを25℃で20分間撹拌し、マイクロプレートウォッシャー(テカン社製 ハイドロフレックス)を用いて集磁しながら洗浄液(0.01% TritonX−100を含むTBS)で抗体結合磁性粒子を5回洗浄した。さらに、発光基質液(富士レビオ株式会社製 ルミパルス基質液)を50μL添加した後、5分後に化学発光検出器(Promega社製 GloMax96)を用いて発光量を測定した。
【0075】
[実施例8]
(検出限界および定量限界)
検出限界については、0〜10pg/mLに調製した可溶性GPC3溶液サンプルを10回ずつ測定し、各濃度の測定発光量の平均値および標準偏差(SD)を算出後、測定発光量平均値±3SDの範囲が、濃度0pg/mLの発光量平均値±3SDの範囲と重ならない最低の濃度を検出限界とした。
【0076】
定量限界については、0〜10pg/mLに調製した可溶性GPC3溶液サンプルを10回ずつ測定し、検量線から算出した測定値のCVが10%以下になる濃度を定量限界とした。
【0077】
結果、
図10に示すように、構築したすべての測定系は、検出限界および定量限界が10pg/mL以下であり、可溶性GPC3を高感度に測定できることを確認した。
【0078】
[実施例9]
(肝癌検体の希釈直線性試験)
0,10,25,50,100,250,500,1000pg/mLに調製した各可溶性GPC3溶液を検量線とし、実施例7と同様の手順で段階希釈した肝癌検体中の可溶性GPC3を測定した。
【0079】
結果、表7に示すように、測定値に希釈倍率を掛けた値を算出して希釈直線性を評価したところ、希釈直線性が認められた。
【0080】
【表7】
【0081】
[実施例10]
(健常者検体の測定)
0,10,25,50,100,250,500,1000pg/mLに調製した各可溶性GPC3溶液を検量線とし、実施例7と同様の手順で健常者血清中の可溶性GPC3を測定した。なお、健常者血清については、21例を測定し、平均値を求めた。
【表8】
【0082】
結果、表8に示すように、健常者血清中の可溶性GPC3測定値は、すべて各測定系の検出限界および定量限界以上であり、可溶性GPC3の濃度範囲は15〜174pg/mLであった。以上のことから、構築したすべての測定系は、健常者血清中に数十から数百pg/mL含まれる微量な可溶性GPC3を検出できることが確認された。
【0083】
[実施例11]
取得抗体の配列解析
上記で得られた抗体GT30、GT114、GT165、GT607およびGT30を産生するハイブリドーマより全RNAを抽出し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成したのち、マウス抗体遺伝子をPCRにて増幅しアミノ末端から可変領域の塩基配列を決定した(配列番号30−37)。可変領域のアミノ酸配列を配列番号38-45に示す。さらに、その各CDR領域の配列を配列番号46〜69に示す。
【0084】
[実施例12]
GC33の進行および/または再発性肝細胞癌(HCC)患者における有効性、安全性を確認するため、前治療歴のある切除不能進行性または転移性肝細胞癌成人患者を対象としたGC33 1600 mgを隔週投与する多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照第II相臨床試験が実施された(NP27884試験)。なお、GC33は、ヒトGPC3に高い親和性をもって結合する遺伝子組換えヒト化IgG1モノクローナル抗体である(WO2006/006693)。
【0085】
GPC3標的治療においてGC33もしくはプラセボが投与された症例の初回投与前の血清中の可溶性GPC3の濃度が、2種類の異なる可溶性GPC3に結合する抗体の組み合わせ(GT30抗体とGT607抗体からなる組合せ、もしくはGT114とGT165からなる組合せ)により測定が可能であることを確認した。
【0086】
96穴マイクロプレートに磁性粒子(JSR社製MS300)にGT30もしくはGT114を結合させた抗体結合粒子液を25μLずつ添加、続いて検量線用標準試料液、もしくは適宜希釈した血清試料を25μLずつ、さらにアルカリフォスファターゼを標識したGT607もしくはGT165をさらに25μLずつ添加した。25℃にて20分間振とうした後、Dyna-Mag-96 Side Skirted(ベリタス社製)を用い、集磁した状態で、洗浄液にて5回洗浄し、予め37℃に加温していた発光基質液を50μLずつ添加した。室温で1分間振とうした後、4分間静置することで発光させた。化学発光強度はルミノメーター(ベリタス社製)を用い測定した。なお、検量線用標準試料液において、GPC3標準物質として、ヘパラン硫酸糖鎖が結合しないように495位ならびに509位のセリン残基がアラニン残基に置換されたリコンビナントGPC3(Hippoら(Cancer Res. (2004) 64, 2418-2423))が用いられた。
【0087】
リコンビナントGPC3を含む標準試料にもとづいて作成された検量線(標準曲線)を用いて、得られた各ウェルの化学発光強度から各患者の血清中GPC3抗原が算出された。