特許第6484564号(P6484564)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6484564-アノード触媒層の使用 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484564
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】アノード触媒層の使用
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20190304BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20190304BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20190304BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20190304BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   H01M4/90 M
   H01M8/10 101
   H01M4/86 M
   H01M4/92
   B01J23/46 311M
   B01J23/46 M
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-555793(P2015-555793)
(86)(22)【出願日】2014年1月29日
(65)【公表番号】特表2016-511920(P2016-511920A)
(43)【公表日】2016年4月21日
(86)【国際出願番号】GB2014050228
(87)【国際公開番号】WO2014122428
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2017年1月26日
(31)【優先権主張番号】1302014.4
(32)【優先日】2013年2月5日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512269535
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、フュエル、セルズ、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY FUEL CELLS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】オマリー, レイチェル ルイーズ
(72)【発明者】
【氏名】ペトルッコ, エンリコ
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/088194(WO,A1)
【文献】 特開2012−250143(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/080726(WO,A1)
【文献】 特開2002−056874(JP,A)
【文献】 特開2007−273340(JP,A)
【文献】 特表平09−504901(JP,A)
【文献】 津島将司 他,燃料電池の原理と特徴,高温学会誌,2009年 9月,vol.35,No,5,p.224-230
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/98
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
B01J 23/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン交換膜燃料電池における一酸化炭素耐性触媒材料を含むアノード触媒層の使用であって、前記触媒材料が、
(i)PtXの二元合金[式中、Xは、ロジウムであり、合金中の白金の原子百分率は、45から80原子%までであり、合金中のXの原子百分率は、20から55原子%までである]および
(ii)PtX合金が分散される担体材料
を含み、
アノード触媒層中の白金族金属(PGM)の全担持量が0.01から0.2mgPGM/cmまでであり、
燃料電池の作動中、最大で5ppmの低いレベルの一酸化炭素を含む純粋でない水素流がアノードに供給される、
アノード触媒層の使用。
【請求項2】
二元合金中のPtの原子比が、50から75原子%までであり、Xの原子比が、25から50原子%までである、請求項1に記載のアノード触媒層の使用。
【請求項3】
二元合金が、二元合金と担体材料の全重量に対する白金の重量に基づいて10〜50重量%である、請求項1または2に記載のアノード触媒層の使用。
【請求項4】
アノードがさらに第2の触媒を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のアノード触媒層の使用。
【請求項5】
第2の触媒が酸素発生触媒である、請求項に記載のアノード触媒層の使用。
【請求項6】
一酸化炭素耐性触媒材料を含むアノード触媒層を含むアノード電極の使用であって、前記触媒材料が、
(i)PtXの二元合金[式中、Xは、ロジウムであり、合金中の白金の原子百分率は、45から80原子%までであり、合金中のXの原子百分率は、20から55原子%までである]および
(ii)PtX合金が分散される担体材料
を含み、
アノード触媒層中の白金族金属(PGM)の全担持量が0.01から0.2mgPGM/cmまでであり、
燃料電池の作動中、最大で5ppmの低いレベルの一酸化炭素を含む水素流がアノード触媒層に供給される、アノード電極の使用。
【請求項7】
一酸化炭素耐性触媒材料を含むアノード触媒層を含む触媒被覆膜の使用であって、前記触媒材料が、
(i)PtXの二元合金[式中、Xは、ロジウムであり、合金中の白金の原子百分率は、45から80原子%までであり、合金中のXの原子百分率は、20から55原子%までである]および
(ii)PtX合金が分散される担体材料
を含み、
アノード触媒層中の白金族金属(PGM)の全担持量が0.01から0.2mgPGM/cmまでであり、
燃料電池の作動中、最大で5ppmの低いレベルの一酸化炭素を含む水素流がアノード触媒層に供給される、触媒被覆膜の使用。
【請求項8】
一酸化炭素耐性触媒材料を含むアノード触媒層を含む膜電極接合体の使用であって、前記触媒材料が、
(i)PtXの二元合金[式中、Xは、ロジウムであり、合金中の白金の原子百分率は、45から80原子%までであり、合金中のXの原子百分率は、20から55原子%までである]および
(ii)PtX合金が分散される担体材料
を含み、
アノード触媒層中の白金族金属(PGM)の全担持量が0.01から0.2mgPGM/cmまでであり、
燃料電池の作動中、最大で5ppmの低いレベルの一酸化炭素を含む水素流がアノード触媒層に供給される、膜電極接合体の使用。
【請求項9】
アノード、カソードおよびアノードとカソードとの間に配置されているポリマー電解質膜を備える燃料電池を作動させる方法であって、アノードが、一酸化炭素耐性触媒材料を含むアノード触媒層を含み、前記触媒材料が、
(i)PtXの二元合金[式中、Xは、ロジウムであり、合金中の白金の原子百分率は、45から80原子%までであり、合金中のXの原子百分率は、20から55原子%までである]および
(ii)PtX合金が分散される担体材料
を含み、
アノード触媒層中の白金族金属(PGM)の全担持量が0.01から0.2mgPGM/cmまでであり、
最大で5ppmの低いレベルの一酸化炭素を含む純粋でない水素流をアノードに供給することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレースレベルの一酸化炭素を含有する水素燃料流で動作するプロトン交換膜燃料電池における一酸化炭素耐性触媒を含むアノードの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池において、燃料は、典型的には水素またはメタノールもしくはエタノールなどのアルコールであり、燃料電極(アノード)で酸化され、典型的には空気に由来する酸素が酸素電極(カソード)で還元されて、電流を生じ、生成物である水を形成する。両電極と接触し、アルカリ性または酸性の液体または固体であり得る電解液が必要とされる。
【0003】
アノードおよびカソードで生じる酸化反応および還元反応を補助するために、触媒が使用される。300℃未満の温度で動作する燃料電池に対し、貴金属、特に白金が最も効率的で安定な電極触媒であることが見出されている。白金電極触媒は、典型的には、高表面積の非常に小さい粒子(約2〜5nm)として供給され、常にではないが多くの場合、より大きい巨視的な電気伝導性粒子上に分布し、これらに担持されて、所望の触媒担持量を実現している。典型的には、導電性炭素が触媒を担持するのに好ましい材料である。
【0004】
燃料電池の1つの型式はプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)として知られており、典型的にはDu Pont Nafion(登録商標)などのペルフルオロスルホン酸(PFSA)ポリマーをベースとするプロトンを伝導することが可能な固体ポリマー電解質膜を使用する。これらの膜は機能するために水和を必要とするので、PEMFCは一般に120℃未満の温度で動作する。膜はアノードとカソードとの間に挟まれて、膜電極接合体(MEA)を形成する。多くの用途では、PEMFCは燃料源として水素を利用し、空気に由来する酸素を酸化剤として利用する。水素および空気中の汚染物質中の不純物は、アノード触媒層およびカソード触媒層に悪影響を与えることがあり、深刻な場合、MEAを恒久的に損傷する。水素中の不純物(一酸化炭素(CO)、二酸化炭素、硫化水素、アンモニア、有機硫黄化合物および炭素−水素化合物)は、水素を製造する過程から主に発生する。窒素酸化物、硫黄酸化物ならびにさらなる一酸化炭素、二酸化炭素および炭化水素などの空気汚染物質は、自動車の排気および産業排出物から主に発生する。燃料または空気流のいずれかに存在するトレース量の不純物でさえ、特に低温の動作(すなわち、<100℃)において、アノード、カソードおよび膜を深刻に被毒し得ることが見出されている。これらの構成要素のいずれか1つを被毒することは、MEAの性能低下につながる可能性がある。燃料電池の混入源の特定およびこれらの混入物質の性能に対する影響についての理解は、著しく進歩している。3つの主要な効果が特定されている:(1)動力学的効果(電極触媒を被毒する)、(2)導電性効果(膜および触媒層のアイオノマーの増加を含む固体電解質抵抗の増加)、および(3)物質移動効果(物質移動の問題を引き起こす触媒層の構造および疎水性の変化)。
【0005】
PEMFC技術において直接燃料として使用される水素は、天然ガス由来のメタンおよびバイオマス由来のメタノールを含めた炭化水素および/または酸化炭化水素の改質によって製造され、電気分解がますます役割を担いつつあるものの、水素製造の最も有力な方法である。水素製造の改質過程は、硫化水素および硫黄有機物を含めた硫黄化合物と共に、一酸化炭素および二酸化炭素を含めた炭素酸化物などの不可避の不純物を発生させる。水蒸気改質および部分酸化または自己熱改質は、通常、望ましい70%の水素に加え、25%の二酸化炭素、1〜2%の一酸化炭素および硫黄不純物を含有し得る「リフォーメート」として知られる水素リッチガスを製造するために使用される。水素燃料混入物質はPEMFCの性能を深刻に妨げるため、アノード不純物の調査について精力的な研究活動が行われてきた。燃料電池において使用される高い割合の水素は改質過程を通して製造されることから、最も広く研究された混入物質は、炭素酸化物、特に一酸化炭素である。
【0006】
燃料電池において一酸化炭素によって発生する問題は、燃料電池業界において非常によく知られている。一酸化炭素が白金部位と強く結合して、水素吸着および酸化のために利用可能な表面活性部位が減少することが、十分に立証されている。この触媒の被毒により、電気酸化速度が低下し、電極過電位が上昇し、一酸化炭素不含水素下における動作と比較してMEAの性能が低下する。一酸化炭素による被毒に起因する性能低下の程度は、一酸化炭素の濃度、曝露時間、電池動作温度およびアノード触媒の型式と強く関係する。
【0007】
低レベルの一酸化炭素曝露の場合、被毒は、アノードでの抽気の使用によって可逆的であり、この場合、少量の空気(1〜6%)をアノード気体流に注入し、これにより、水素の存在下でアノード触媒は一酸化炭素を二酸化炭素に酸化する。電池性能は完全に回復可能であり得るが、これは必ずしもそうではない。結果的な燃料効率の低下(燃料はこの過程でも消費されるため)および、起こり得る、損傷を与える局在的なホットスポットの発生により、一酸化炭素による被毒効果を防止/低減するためのこのシステムの方法を使用する積層電池製造業者からの抵抗が増しつつある。
【0008】
電極触媒の一酸化炭素耐性を改善するための代替的なアプローチは、電池動作温度を上昇させることである。電池動作温度をTcell>100℃に上昇させることにより、アノードの一酸化炭素耐性が20倍増加することが報告されている。より高い動作温度においてより高い一酸化炭素レベルで実行することができると、複雑さ、大きさ、およびしたがって冷却コストの低減、プラント構成要素のバランスを可能にすると考えられる。しかし、高い動作温度は、持続的な水和を伴うことなく効果的に機能することができる高性能膜がまったく存在しないことに加え、とりわけ腐食、溶解および焼結の機序に対する白金および炭素の不安定性の増加という、材料に対する新しい一連の課題を課す。
【0009】
さらなるアプローチは、例えば、PtRu合金触媒の設計および開発による、一酸化炭素に対する固有の耐性が改善された電極触媒の開発となっている。残念ながら、Ru含有触媒の使用もまた、特に寿命試験に対して問題を孕み得る。ルテニウムの酸化はルテニウムの溶解を引き起こし、MEA中の水性フラックスにより、可溶化したルテニウムがカソードへと乗り越えてくる可能性がある。酸素還元反応の電極電位窓において、ルテニウムは白金上に堆積して白金表面上で安定なままでいるため、ルテニウムのアノードからの浸出およびカソードにおける堆積は、カソード触媒の酸化還元反応(ORR)活性に劇的な影響を有する。
【0010】
これらの動作上の問題に起因して、自動車用途において使用するためのプロトン交換膜燃料電池は、低レベルの一酸化炭素でさえ被毒および性能の低下を引き起こすことが見出されるため、名目上純粋な水素で動作させる必要がある。米国エネルギー省(DoE)は、最近、自動車部門において用いられる燃料電池に要求される最新の水素品質仕様を公表した。この改訂された仕様によれば、将来のいかなる燃料流中においても、非常に低レベルの一酸化炭素(0.2μm/mol、または0.2ppm)のみが存在することになる。このCO混入物質限界は、国際標準化機構(ISO)によって認可され、最近まとめられたISO/DIS 14687−2、Hydrogen Fuel−Product Specification−Part 2:proton exchange membrane (PEM) fuel cell applications for road vehiclesに一致する。MEAの全白金族金属(PGM)担持量の低減(これは電極触媒層の不純物に対する感受性を増加させると考えられる)が継続的に要求されてはいても、この非常に低いレベルの一酸化炭素が実際に動作中に問題を発生させる可能性は低いと、一般に考えられていた。しかし、2012年7月、米国再生可能エネルギー研究所(NREL)は、2005年から2011年9月までの米国燃料電池自動車技術を評価した、DoE支援研究の結果を公表した(National Fuel Cell Electric Vehicle Learning Demonstration, Final Report)。水素製造のコストおよび効率、製造速度ならびに水素品質についての考察が、この非常に包括的な研究の一部を構成していた。6年の期間にわたり、152000kgの水素が製造または販売され、これらはいずれも天然ガス改質および水電気分解の手法に由来していた。得られたデータは、水素燃料中の一酸化炭素レベルは明らかに低かったが、それにもかかわらず、最大で1ppmのレベルを測定することができたことを示している。
【発明の概要】
【0011】
よって、国際的な燃料業界において、自動車用途用の将来におけるいずれの水素燃料源においても、一酸化炭素レベルは最大値を0.2ppmとするべきであるという全体的な意見の一致が存在するものの、公式に報告されているデータは、これは必ずしも達成されないことを示唆している。このような厳しい仕様が、(i)オンサイトでの水素製造以外で可能であるかどうか、(ii)発展途上国において要求されるべきであるかどうかについても、疑問の余地が残されている。最後に、適合性の分析および検証についての実際的な問題は、今もなお検討中である。
【0012】
したがって、本発明の目的は、名目上純粋な、すなわち、低レベルのCOだが0.2ppmより高いCOという仕様を含む水素流で動作し、同時に動作中の性能低下を最小化する、自動車使用用のプロトン交換膜燃料電池において使用するためのアノード触媒層を提供することである。
【0013】
したがって、本発明は、プロトン交換膜燃料電池における一酸化炭素耐性触媒材料を含むアノード触媒層の使用であって、前記触媒材料が、
(i)PtXの二元合金[式中、Xは、ロジウムおよびオスミウムからなる群から選択される金属であり、合金中の白金の原子百分率は、45から80原子%までであり、合金中のXの原子百分率は、20から55原子%までである]および
(ii)PtX合金が分散される担体材料
を含み、
アノード触媒層中の白金族金属(PGM)の全担持量が0.01から0.2mgPGM/cmまでであり、
燃料電池の動作中、最大で5ppmの一酸化炭素を含む水素流がアノード触媒層に供給されるアノード触媒層の使用を提供する。
【0014】
本発明のさらなる態様は、アノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に配置されたポリマー電解質膜を備える燃料電池を動作させる方法であって、アノードが、一酸化炭素耐性触媒材料を含むアノード触媒層を含み、前記触媒材料が、
(i)PtXの二元合金[式中、Xは、ロジウムおよびオスミウムからなる群から選択される金属であり、合金中の白金の原子百分率は、45から80原子%までであり、合金中のXの原子百分率は、20から55原子%までである]および
(ii)PtX合金が分散される担体材料
を含み、
アノード触媒層中の白金族金属の全担持量が0.01から0.2mgPGM/cmまでであり、
アノードに最大で5ppmの一酸化炭素を含む水素流を供給することを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】2ppmの一酸化炭素を含む水素流におけるアノード半電池分極データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましいおよび/または任意選択の特徴をこれより述べる。文脈により別段の要請がない限り、本発明の任意の態様を本発明の他の任意の態様と組み合わせてもよい。文脈により別段の要請がない限り、任意の態様の好ましいまたは任意選択の特徴のいずれかを、単独または組合せで、本発明の任意の態様と組み合わせてもよい。
【0017】
本発明は、プロトン交換膜燃料電池におけるアノード触媒層の使用を提供する。燃料電池の動作中、最大で5ppmの一酸化炭素を含む水素流をアノードに供給する。アノード触媒層は、PtXの二元合金[式中、Xはロジウムまたはオスミウムである]を含む。
【0018】
「白金族金属」という用語は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金の群から選択される金属を意味し、本発明の文脈において、金属の白金、ロジウムおよびオスミウムがとりわけ意図される。
【0019】
二元合金中の白金の原子百分率(原子%)は、45から80原子%までであり、Xの原子百分率は、20から55原子%までであり(すなわち、0.8:1から4:1までの比)、好適には、白金の原子百分率は、50から75原子%までであり、Xの原子百分率は、25から50原子%までである(すなわち、1:1から3:1までの比)。
【0020】
一実施態様では、白金の原子百分率は、50原子%であり、Xの原子百分率は、50原子%である(すなわち、1:1の比)。
【0021】
第2の実施態様では、白金の原子百分率は、66.6原子%であり、Xの原子百分率は、33.3原子%である(すなわち、2:1の比)。
【0022】
第3の実施態様では、白金の原子百分率は、75原子%であり、Xの原子百分率は、25原子%である(すなわち、3:1の比)。
【0023】
本文脈において、「原子%」とは、原子百分率、すなわち、白金と金属Xの全体の原子またはモルに対する百分率を意味し、さらなる非金属成分(例えば、炭素)はいずれも考慮に入れない。所与の原子百分率は、目的とされる名目上の原子百分率であり、実際問題として、合金が作製される際、実際の分析評価において、典型的には名目上の原子百分率から±5%の偏差が生じ得る。
【0024】
「合金」という用語によって、本発明者らは、金属Xの白金格子中への少なくとも幾分の相互作用および取込みが存在するが、合金粒子全体にわたって取込みは必ずしも一様ではないことを意図する。合金中の金属Xの原子百分率は、当業者に公知の標準的な手順、例えば、試料の湿式化学分析分解の後、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法によって決定され得る。
【0025】
本発明の触媒材料は、担持触媒である(すなわち、二元合金は担体材料上に分散されている)。好適には、二元合金の量は、担持触媒(すなわち、二元合金と担体材料)の全重量に対する白金の重量に基づいて、5〜50wt%、好適には10〜40wt%である。本発明による担持触媒において、PtX合金は、好適には、導電性の高表面積担体材料、例えば、オイルファーネスブラック、エクストラコンダクティブブラック、アセチレンブラックまたはこれらの熱処理もしくはグラファイト化版、またはカーボンナノファイバーもしくはナノチューブなどの導電性炭素上に分散されている。触媒が表面全体にわたって良好に堆積して要求される電子伝導性をもたらす場合、または、さらなる添加剤が含まれて必要な導電性をもたらす場合、無機金属酸化物粒子などの非導電性担体材料を使用することも可能であり得る。本発明の触媒は、好ましくは、導電性炭素材料上に分散したPtX合金から本質的になる。例示的な炭素としては、Akzo Nobel Ketjen EC300J(またはこの熱処理もしくはグラファイト化版)、Caboto Vulcan XC72R(またはこの熱処理もしくはグラファイト化版)およびDenka Acetylene Blackが挙げられる。
【0026】
アノード触媒層を形成するために、広範におよぶ十分に確立した技法を使用して、基材の一方の側に触媒材料を直接塗布する。基材は、多孔質気体拡散層(アノード電極を形成するための)であってもプロトン交換膜(触媒被覆膜を形成するための)であってもよい。代替的には、アノード触媒層をデカール転写基材に塗布し、その後、当業者に公知の技法により、アノード触媒層をデカール転写基材から気体拡散層またはプロトン交換膜に転写してもよい。デカール転写基材は当業者に公知の任意の好適なデカール転写基材であってもよいが、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)、もしくはポリプロピレン(とりわけ、二軸延伸ポリプロピレン、BOPP)などのポリマー材料、またはポリウレタン被覆紙などのポリマー被覆紙である。転写基材は、シリコーン剥離紙またはアルミニウム箔などの金属箔とすることもできる。
【0027】
触媒材料は、調合して水性および/または有機溶媒、ならびにプロトン伝導性ポリマーの溶液形態(例えば、EP 0 731 520に開示されているもの)を含むインクとし、噴霧、印刷およびドクターブレード法などの周知の技法を使用して、基材またはデカール転写基材のいずれかの上に堆積させる。触媒材料を基材またはデカール転写基材に塗布して、0.01から0.2mgPGM/cm、好適には0.01から0.15mgPGM/cm、好ましくは0.01から0.1mgPGM/cmのPGM担持量を有するアノード触媒層を得る。
【0028】
アノード触媒層を塗布する基材として使用するのに適した典型的な気体拡散層は、カーボン紙(例えば、東レ株式会社、日本から入手可能なToray(登録商標)紙または三菱レイヨン、日本から入手可能なU105もしくはU107紙)、炭素織布(例えば、三菱化学、日本から入手可能なMKシリーズの炭素布)または不織炭素繊維ウェブ(例えば、Ballard Power Systems Inc.、Canadaから入手可能なAvCarbシリーズ;Freudenberg FCCT KG、Germanyから入手可能なH2315シリーズ;またはSGL Technologies GmbH、Germanyから入手可能なSigracet(登録商標)シリーズ)をベースとする、気体拡散基材から作製される。カーボン紙、炭素布または炭素ウェブは、典型的には、層中に埋め込まれているかもしくは平坦面を被覆しているかのいずれか、または両者の組合せによる粒子状材料によって改変されて、最終的な気体拡散層を生成する。粒子状材料は、典型的には、カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのポリマーとの混合物である。好適には、気体拡散層は、100から400μmの間の厚さである。好ましくは、気体拡散層の触媒材料と接触する面上に、カーボンブラックおよびPTFEなどの粒子状材料の層が存在する。形成されたアノード電極(気体拡散層とアノード触媒層)は、その後、当業者に公知の方法によってプロトン交換膜およびカソード電極と組み合わされて、膜電極接合体(MEA)を形成する。
【0029】
プロトン交換膜は、PEM燃料電池において使用するのに適するいかなる膜であってもよく、例えば、膜は、Nafion(登録商標)(DuPont)、Flemion(登録商標)(旭硝子)、Aciplex(登録商標)(旭化成)およびAquivion(商標)(Solvay Plastics)などのペルフルオロ化スルホン酸のアイオノマーをベースとしたものであってもよく、これらの膜を未改変で使用してもよく、例えば、添加剤を組み込むことによって改変して、高温性能を改善してもよい。代替的には、膜は、FuMA−Tech GmbHからfumapem(登録商標) P、EまたはKシリーズの製品として入手可能なもの、JSR株式会社、東洋紡株式会社、および他の企業から入手可能なものなどの、スルホン化炭化水素膜をベースとしたものであってもよい。膜は、プロトン伝導性材料および機械強度などの特性を与える他の材料を含有する複合膜であってもよい。例えば、膜は、1つまたは複数の膨張PTFE層を含んでもよい。
【0030】
アノード触媒層を塗布して触媒被覆膜を形成する典型的な膜には、上記で挙げたプロトン交換膜が含まれる。形成された触媒被覆膜は、その後、当業者に公知の方法によってアノード気体拡散層およびカソード気体拡散層と組み合わされて膜電極接合体を形成する。好適には、気体拡散層は先に挙げたものを含んでいた。
【0031】
アノード触媒層は、さらなる構成要素、例えば、酸素発生触媒などの第2の触媒をさらに含んでいてもよい。このような触媒の例は、当業者に知られる。
【0032】
本発明のさらなる態様は、プロトン交換膜燃料電池におけるアノード電極、触媒被覆膜または膜電極接合体の使用であって、アノード電極、触媒被覆膜または膜電極接合体が、一酸化炭素耐性触媒材料を含むアノード触媒層を含み、前記触媒材料が、
(i)PtXの二元合金[式中、Xは、ロジウムおよびオスミウムからなる群から選択される金属であり、合金中の白金の原子百分率は、45から80原子%までであり、合金中のXの原子百分率は、20から55原子%までである]および
(ii)PtX合金が分散される担体材料
を含み、
アノード触媒層中の白金族金属(PGM)の全担持量が0.01から0.2mgPGM/cmまでであり、
燃料電池の動作中、最大で5ppmの一酸化炭素を含む水素流がアノード触媒層に供給されるアノード電極、触媒被覆膜または膜電極接合体の使用を提供する。
【0033】
これより、以下の実施例を参照して本発明をより詳細に記述するが、これらの実施例は例示的なものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0034】
実施例1から3の触媒材料を調製する一般的な方法
剪断ミキサーを使用してカーボンブラックを水中に分散させ、反応容器に移した。固体のNaHCOまたは1MのNaOHを添加した。その後、ロジウム塩またはオスミウム塩とHPtClとの混合溶液を添加した。金属の堆積が完了したとき、濾過によって触媒を回収し、可溶性イオンがなくなるまで濾床上において脱塩水で洗浄した。材料を乾燥させ、次いで、不活性雰囲気下において高温でアニーリングした。
【0035】
実施例1:Pt75Rh25
Ketjen EC 300J 5g
Pt HPtCl(16.88g、25.18%Pt)として4.25、21.7mmol
Rh RhCl(1.8g、41.44%Rh)として0.75g、7.3mmol
NaHCO(14g、0.167mol)10%過剰
アニーリング温度:500℃で30分間
【0036】
実施例2:Pt50Rh50
PtCl溶液(24.88%Pt)=65.83g(16.38g、0.0840mmol Pt)
RhCl(42.40%Rh)=20.39g(8.64g、84mmol Rh)
Ketjen EC 300J(9.8%水分)=27.70g(24.99g乾燥)
NaHCO=69.82g(0.8312mol)
アニーリング温度:500℃で30分間
【0037】
実施例3:Pt75Os25
PtCl=6.0g(1.5g、0.0769mol Pt)
NaOsCl=1.18g(0.50g、0.0263mol Os)
1M NaOH=必要に応じて
Ketjen EC 300J(2.8%水分)=4.1g
アニーリング温度:500℃で2時間
【0038】
比較例1
使用したPt触媒は、Johnson Matthey Fuel Cells Limitedから入手可能なHiSPEC(登録商標) 2000であった。
【0039】
比較例2
使用したPtRu触媒は、Johnson Matthey Fuel Cells Limitedから入手可能なHiSPEC(登録商標) 10000であった。
【0040】
触媒被覆膜(CCM)の調製
0.5gの実施例1を含む分散液と、触媒担持材料の重量に対して120%の乾燥Nafion重量を目標とした十分な水性Nafion溶液(11%固形物)とを剪断混合して、インクを形成させた。実施例2ならびに比較例1および2を使用して、この過程を繰り返した。
【0041】
上記で得られたインクを使用して、表1に詳述されている白金担持量を有するアノード触媒層を、17μm強化PFSA膜の一方の側に形成させた。HiSPEC(登録商標) 9100(JMFCLより市販されている)および120%(炭素担持材料の重量に対して)のNafionを含み、0.4mgPt/cmの白金担持量を有するカソード触媒層を膜の他方の側に形成させて(CCM)を作製した。
【0042】
MEA試験
熱接着を用いずにCCMをアノード気体拡散層およびカソード気体拡散層と組み合わせて、MEAを形成させた。80℃、7.2psigにおいて、完全に加湿した気体反応物質によってMEA試験を行った。Hをカソード電極に供給することによって得られるアノード分極曲線を、アノード電極に与えられた(i)純粋なH、(ii)H中の5ppmの一酸化炭素、および(iii)H中の2ppmの一酸化炭素を使用して得た。
【0043】
アノード電極触媒のそれぞれの電気化学的面積を、従来の方法を使用したCOストリッピングボルタンメトリーを使用して測定した。
【0044】
表1は、純粋なH、H中の2ppmの一酸化炭素、およびH中の5ppmの一酸化炭素で動作する半電池についての触媒材料、アノード中の触媒の担持量、電気化学的面積および1A/cmでの電流における性能(mV)の詳細を示す。試験した全電流範囲にわたるH中の2ppmの一酸化炭素についての半電池分極曲線を、図1に示す。
【0045】
表1から、Hで動作しているときは本発明と比較例とで触媒の性能は相対的に違いが小さい一方、一酸化炭素がH流に導入されるとき、本発明の触媒は、比較例と比較したときに改善された半電池性能(すなわち、より低いアノード過電位または電圧)を示すことがわかる。また、実施例間で触媒表面積に変動があるものの(電気化学的面積を参照)、触媒表面積と一酸化炭素に対する耐性との間に直接的な相関がないこともわかる。よって、合金触媒に由来する明瞭な利益が観察される。
【0046】
図1は、H+2ppmの一酸化炭素下で動作させたときの実施例および比較例のアノード分極曲線を示す。電極触媒に対する一酸化炭素の悪影響による顕著な性能低下(より高いアノード電圧)が比較例の両方(PtおよびPtRu)について観察される。対照的に、本発明のすべての実施例は、比較例と比較したときにはるかに低い半電池電圧(過電位)を示し、このことは、水素燃料流中に存在する一酸化炭素のこれらの電極触媒に対する被毒効果がより少ないことを表している。
図1