(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0016】
本実施形態に係るブーツ部材は、
ピンスライド型車両用ディスクブレーキに用いられる筒状の
ブーツ部材であって、前記ブーツ部材は、車体に固定されるキャリパブラケットに取り付けられる第1取付部と、前
記キャリパブラケットに対し移動可能なキャリパボディまたは前記キャリパブラケットに取り付けられたピン部材に取り付けられる第2取付部と、該第1取付部と該第2取付部とを繋ぐ伸縮自在な蛇腹部
とを備え、前記ブーツ部材は、ゴム100質量部に対し、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を
5質量部〜
20質量部含むゴム組成物からなり、ゴムは
、スチレン・ブタジエンゴ
ムを含み、酸化セルロース繊維は、繊維径の平均値が10μm〜30μmであり、セルロースナノファイバーは、繊維径の平均値が1nm〜200nmであ
り、前記ゴム組成物は、JIS K6251に準拠した引張試験における引張強さが15MPa以上かつ破断伸びが420%以上であり、前記ゴム組成物は、JIS K6252に準拠した引裂き試験における最大引裂き強さが40N/mm以上であることを特徴とする。
【0017】
また、本実施形態に係るピンスライド型車両用ディスクブレーキは、前記ブーツ部材と、車体に固定されるキャリパブラケットと、前記キャリパブラケットに対し移動可能なキャリパボディと、前記キャリパブラケットと前記キャリパボディのいずれか一方に取り付けられたピン部材と、を含み、前記ピン部材は、前記キャリパブラケットと前記キャリパボディのいずれか他方を前記ピン部材の軸方向に沿って移動可能に支持し、前記ブーツ部材は、前記キャリパブラケットと前記キャリパボディとの間で、前記ピン部材の外周を覆うことを特徴とする。
【0018】
1.ピンスライド型車両用ディスクブレーキ
図1は、一実施形態に係るピンスライド型車両用ディスクブレーキ1の一部を断面で示す平面図である。
図2は、
図1に示すピンブーツ6とピン部材5とを示す一部を断面で示す平面図である。なお、以下の説明においては、ピンスライド型車両用ディスクブレーキ1を単にディスクブレーキ1という。
【0019】
図1に示すディスクブレーキ1は、ブーツ部材の一例としてのピンブーツ6,6と、図示しない車体に固定されるキャリパブラケット3と、キャリパブラケット3に対し移動可能なキャリパボディ4と、キャリパブラケット3とキャリパボディ4のいずれか一方に取り付けられたピン部材5,5と、を含む。本実施形態では、ピン部材5はキャリパボディ4に取り付けられている。
【0020】
キャリパブラケット3は、車両前進時に矢印A方向に回転するディスクロータ2の一側部で図示しない車体に例えば固定ボルトでねじ止めして固着される。キャリパブラケット3の両端には、ディスクロータ2の外側を跨いでキャリパボディ4のブリッジ部4cのディスクロータ回入側と回出側とを挟みながら、作用部4a方向へ突出する前記一対のキャリパ支持腕3d,3dが延設されている。各キャリパ支持腕3dに形成されるガイド孔3fは、作用部4a側に開口し、開口部には、ピンブーツ6を嵌着するブーツ溝3gが形成されている。ブーツ溝3gは、ガイド孔3fの開口部に設けられた環状の溝である。
【0021】
キャリパボディ4は、ディスクロータ2の両側に対向配置される作用部4a及び反作用部4dと、キャリパ支持腕3d,3dの間でディスクロータ2の外周を跨いでこれらを連結するブリッジ部4cとからなる。
【0022】
作用部4aには、両側へ突出する作用部側取付腕4f,4fと、図示しないピストンが収容されるシリンダ孔と、該シリンダ孔の底部に画成される液圧室とが設けられる。各作用部側取付腕4fの先端側には、取付ボルト5dを挿通する貫通孔がディスクロータ2の
回転軸と平行な方向にそれぞれ貫通形成されている。
【0023】
反作用部4bには、ピストンと対向する位置に図示しない反力爪を有し、一対の摩擦パッド10,10が、ディスクロータ2を挟んで対向配置されている。
【0024】
図2に示すように、各ピン部材5は、ガイド孔3f内を摺動する先端側の摺動軸部5aと、該摺動軸部5aよりも大径に形成した基端側の固定軸部5bとをそれぞれ備えている。ガイド孔3fは、ピン部材5をスライド可能に収容する袋状の孔である。固定軸部5bは、作用部側取付腕4fに当接し、前記摺動軸部5aに向けて漸次縮径すると共に、中心軸上には、作用部側取付腕4f側に開口する雌ねじ孔が形成されている。また、固定軸部5bには、環状の溝である嵌着溝5cが周設されている。さらに、摺動軸部5aの先端部外周には、ピン部材5の倒れを防止するブッシュ13(
図1)が嵌着されている。
【0025】
ピン部材5は、摺動軸部5aをガイド孔3f内に挿入し、固定軸部5bが作用部側取付腕4fに当接した状態で取付ボルト5dによって作用部側取付腕4fに固定される。そして、図示しない液圧室に液圧が発生させると、ピン部材5の摺動軸部5aがガイド孔3fの内面を摺動することで、ピン部材5の軸方向に沿ってキャリパブラケット3に対しキャリパボディ4が進退移動する。
【0026】
2.ブーツ部材
ブーツ部材は、第1対象物に取り付けられる第1取付部と、第2対象物に取り付けられる第2取付部と、該第1取付部と該第2取付部とを繋ぐ伸縮自在な蛇腹部を備えてなる、筒状のブーツ部材である。ここでは、ブーツ部材として、キャリパブラケット3に取り付けられるピンブーツ6について説明する。なお、以降の説明においてもピンブーツ6(7)をブーツ部材として説明する。
【0027】
各ピンブーツ6は、ゴム組成物によって筒状に成形される。ゴム組成物については後述する。
【0028】
図2に示すように、ピンブーツ6は、第1対象物であるキャリパブラケット3に取り付けられる第1取付部としての基端取付部6bと、第2対象物であるピン部材5に取り付けられる第2取付部としての先端取付部6cと、先端取付部6cと基端取付部6bとを繋ぐ伸縮自在な蛇腹部6aとを備える。より具体的には、基端取付部6bはキャリパ支持腕3dのブーツ溝3gに装着され、先端取付部6cはピン部材5の嵌着溝5cに嵌着される。
【0029】
基端取付部6bは、基端の外周面から突出するリング状の凸部であって、ガイド孔3fの嵌着溝5c内に入り込んでピン部材5の軸方向への抜け止めとなる。先端取付部6cは、内径が嵌着溝5cの外形よりもわずかに小さく形成されており、嵌着溝5c内に入り込んでピン部材5の軸方向への抜け止めとなる。
【0030】
ピンブーツ6は、ピン部材5の露出部分、すなわちガイド孔3fから突出した部分であって嵌着溝5cまでを覆う。そして、ピンブーツ6は、蛇腹部6aが伸縮自在であるため、キャリパブラケット3とキャリパボディ4とが相対的に進退移動する間もピン部材5の露出部分を確実に覆うことができる。
【0031】
ブーツ部材としては、ディスクブレーキ用のピンブーツ6に限らず、ディスクブレーキのブーツ状のダストシールや負圧ブースタに用いられるブーツ、ボールジョイントブーツ、車両緩衝器用ダストブーツ等であってもよい。
【0032】
3.他の実施形態
図3は、他の実施形態に係るピンスライド型車両用ディスクブレーキ1aの一部断面平面図であり、
図4は、
図3に示すピンスライド型車両用ディスクブレーキ1aの作用部4a側のピンブーツ6が縮み、反作用部側のピンブーツ7が伸びた状態を示す説明図である。以下の説明では、上記実施形態と実質的に同じ部品・部分については同じ符号を付して重複する説明を省略する。
【0033】
車両用のピンスライド型ディスクブレーキ1aは、作用部4aのディスク回入側と回出側とには一対の作用部側取付腕4f,4fが、反作用部4bのディスク回入側と回出側とには一対の反作用部側取付腕4g,4gがそれぞれ突設される。各作用部側取付腕4fにはピン部材5を挿通させるピン挿通孔4hが、また、各反作用部側取付腕4gにはピン部材5を螺着する雌ねじ孔4iが同軸上に形成されている。
【0034】
各キャリパ支持腕3dのディスク外側部分には、ガイド孔3fがキャリパボディ4のピン挿通孔4h及び雌ねじ孔4iと同軸上にそれぞれ貫通形成され、該ガイド孔3fに、ピン部材5がディスク軸方向へスライド可能に挿通されている。
【0035】
このように、車体に固定されるキャリパブラケット3に、キャリパボディ4が一対のピン部材5,5を介してディスクロータ2の回転軸と平行な方向へ移動可能に支持される。
【0036】
ピン部材5は、ガイドスリーブ11と連結ピン12とで構成され、ガイドスリーブ11がガイド孔3fへディスク軸方向でスライド可能に挿通され、さらにガイドスリーブ11に連結ピン12が挿通されている。
【0037】
各ガイドスリーブ11は、作用部側取付腕4fと反作用部側取付腕4gとの間隔と同一長さで形成されており、ガイドスリーブ11の両端を両取付腕4f,4gで挟持している。ガイド孔3fから突出するガイドスリーブ11の両端部は、それぞれ作用部4a側のピンブーツ6と反作用部4b側のピンブーツ7とで覆われ、ガイドスリーブ11がガイド孔3fを摺動した際にガイド孔3fの内部に汚水や粉塵等が進入しないようにしている。
【0038】
各作用部4a側のピンブーツ6は、ゴム組成物で筒状に形成されるもので、伸縮自在な蛇腹部6aと、該蛇腹部6a両端部の基端取付部6bと先端取付部6cとを備えている。基端取付部6bは、キャリパ支持腕3dの作用部側端部に形成されたブーツ溝3gに装着され、先端取付部6cは、ガイドスリーブ11の作用部4a側の端部に形成される環状の溝である嵌着溝11aに装着される。各反作用部4b側のピンブーツ7は、反作用部4b側でピンブーツ6と基本的に同じ構成を有する。このように、各ピン部材5に2つのピンブーツ6,7を用いてもよい。
【0039】
4.ゴム組成物
ピンブーツ6,7は、ゴム100質量部に対し、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を0.1質量部〜60質量部含むゴム組成物からなる。ここで、「質量部」は、特に指定しない限り「phr」を示し、「phr」は、parts
per hundred of resin or rubberの省略形であって、ゴム等に対する添加剤等の外掛百分率を表すものである。
【0040】
ゴム組成物は、解繊された酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が分散したゴム組成物である。ゴム組成物は、さらにカーボンブラックを含んでもよい。
【0041】
ゴム組成物は、例えばディスクブレーキのピンブーツに採用された場合には、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を含むことにより環境負荷を
低減することができると共に、疲労特性に優れることができる。
【0042】
ゴム組成物は、JIS K6251に準拠した引張試験における引張強さが15MPa以上であることができる。ピンブーツは、引張強さが高いゴム組成物を用いることにより、ディスクブレーキの制動の度に伸縮を繰り返しても亀裂が生じにくい。また、ゴム組成物は、同試験における引張強さが15MPa以上30MPa以下であることができ、さらに、引張強さが16MPa以上25MPa以下であることができる。
【0043】
ゴム組成物は、JIS K6252に準拠した引裂き試験における最大引裂き強さが40N/mm以上であることができる。試験方法については後述する。最大引裂き強さは、引裂き試験を行って得られた最大引裂き力(N)を測定し、その測定結果を試験片の厚さ1mmで除して計算して得る。ピンブーツは、最大引裂き強さが高いゴム組成物を用いることにより、ディスクブレーキの制動の度に伸縮を繰り返しても亀裂が生じにくい。また、ゴム組成物は、同試験における最大引裂き強さが40N/mm以上70N/mm以下であることができ、さらに、最大引裂き強さが40N/mm以上60N/mm以下であることができる。
【0044】
ゴム組成物は、疲労試験(実施例において後述する)において、試験片が破断するまでの回数が多い。すなわち、ゴム組成物は、高温における疲労寿命に優れており、耐熱性及び疲労耐久性に優れたピンブーツを得ることができる。
【0045】
また、ゴム組成物は、ゴムに解繊された酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が分散し、直径が0.1mm以上の酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を含む直径が0.1mm以上の凝集体を有しないことが好ましい。酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を含む凝集体は、これらの繊維が寄り集った状態の塊であり、酸化セルロース繊維の凝集体、セルロースナノファイバーの凝集体、及び酸化セルロース繊維とセルロースナノファイバーからなる凝集体を含むものである。
【0046】
本実施形態におけるゴム組成物によれば、凝集体を有しておらず、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が解繊した状態で分散することで補強され、剛性、強度、低線膨張係数及び耐疲労性に優れる。しかし、ゴム組成物中にセルロースナノファイバーの凝集体が存在していないことを証明することは困難である。ゴム組成物にセルロースナノファイバーだけが含まれている場合には、光学顕微鏡による観察で凝集体を確認することができる(特許文献4参照)。本実施形態でも同様の分散工程を用いるため、ゴム組成物にはセルロースナノファイバーの0.1mm以上の凝集体が存在していない。
【0047】
ゴム組成物を構成するゴム、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーについては、後述する。
【0048】
5.ゴム組成物の製造方法
ピンブーツに用いるゴム組成物の製造方法は、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を含む水溶液と、ゴムラテックスと、を混合して第1の混合物を得る混合工程と、前記第1の混合物を乾燥して第2の混合物を得る乾燥工程と、前記第2の混合物をオープンロールによって薄通ししてゴム組成物を得る分散工程と、を含むことを特徴とする。
【0049】
5−1.原料
まず、混合工程に用いる原料について説明する。
【0050】
5−1−1.水溶液
水溶液は、酸化セルロース繊維を含む水溶液と、セルロースナノファイバーを含む水溶液と、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーを含む水溶液がある。
【0051】
酸化セルロース繊維を含む水溶液は、例えば天然セルロース繊維を酸化して酸化セルロース繊維を得る酸化工程により製造することができる。
【0052】
セルロースナノファイバーを含む水溶液は、例えば天然セルロース繊維を酸化して酸化セルロース繊維を得る酸化工程と、酸化セルロース繊維を微細化処理する微細化工程と、を含む製造方法によって得ることができる。
【0053】
酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーを含む水溶液は、酸化セルロース繊維を含む水溶液と、セルロースナノファイバーを含む水溶液と、を混合することで得ることができる。
【0054】
ここで、天然セルロース繊維としては、例えば、木材パルプ、綿系パルプ、バクテリアセルロース等が含まれる。より詳細には、木材パルプとしては、例えば針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等を挙げることができ、綿系パルプとしては、コットンリンター、コットンリントなどを挙げることができ、非木材系パルプとしては、麦わらパルプ、バガスパルプ等を挙げることができる。天然セルロース繊維は、これらの少なくとも1種以上を用いることができる。
【0055】
天然セルロース繊維は、セルロースミクロフィブリル束とその間を埋めているリグニン及びヘミセルロースから構成された構造を有する。すなわち、セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲をヘミセルロースが覆い、さらにこれをリグニンが覆った構造を有していると推測される。リグニンによってセルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束間は、強固に接着しており、植物繊維を形成している。そのため、植物繊維中のリグニンはあらかじめ除去されていることが、植物繊維中のセルロース繊維の凝集を防ぐことができるという点で好ましい。具体的には、植物繊維含有材料中のリグニン含有量は、通常40質量%程度以下、好ましくは10質量%程度以下である。また、リグニンの除去率の下限は、特に限定されるものではなく、0質量%に近いほど好ましい。なお、リグニン含有量の測定は、Klason法により測定することができる。
【0056】
セルロースミクロフィブリルとしては、幅4nm程のセルロースミクロフィブリルが最小単位として存在し、これをシングルセルロースナノファイバーと呼ぶことができる。本発明において、「セルロースナノファイバー」とは、天然セルロース繊維及び/又は酸化セルロース繊維をナノサイズレベルまで解きほぐしたものであり、特に繊維径の平均値が1nm〜200nmであることができ、さらに1nm〜150nmであることができ、特に1nm〜100nmのセルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束であることができる。すなわち、セルロースナノファイバーは、シングルセルロースナノファイバー単体、又はシングルセルロースナノファイバーが複数本集まった束を含むことができる。
【0057】
セルロースナノファイバーのアスペクト比(繊維長/繊維径)は、平均値で、10〜1000であることができ、さらに10〜500であることができ、特に100〜350であることができる。
【0058】
なお、セルロースナノファイバーの繊維径及び繊維長の平均値は、電子顕微鏡の視野内
のセルロースナノファイバーの少なくとも50本以上について測定した算術平均値である。
【0059】
まず、酸化工程は、原料となる天然セルロース繊維に対して水を加え、ミキサー等で処理して、水中に天然セルロース繊維を分散させたスラリーを調製する。
【0060】
次に、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒として天然セルロース繊維を酸化処理して酸化セルロース繊維を得る。セルロースの酸化触媒として使用可能なN−オキシル化合物としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下、TEMPOとも表記する)、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。
【0061】
酸化工程後、例えば水洗とろ過を繰り返す精製工程を実施し、未反応の酸化剤や各種副生成物等の、スラリー中に含まれる酸化セルロース繊維以外の不純物を除去することができる。酸化セルロース繊維を含む溶媒は、例えば水に含浸させた状態であり、この段階では酸化セルロース繊維はセルロースナノファイバーの単位まで解繊されていない。溶媒は、水を用いることができるが、例えば、水以外にも目的に応じて水に可溶な有機溶媒(アルコール類、エーテル類、ケトン類等)を使用することができる。
【0062】
酸化セルロース繊維は、セルロースナノファイバーの水酸基の一部がカルボキシル基を有する置換基で変性され、カルボキシル基を有する。
【0063】
酸化セルロース繊維は、繊維径の平均値が10μm〜30μmであることができる。なお、酸化セルロース繊維の繊維径の平均値は、電子顕微鏡の視野内の酸化セルロース繊維の少なくとも50本以上について測定した算術平均値である。
【0064】
酸化セルロース繊維は、セルロースミクロフィブリルの束であることができる。酸化セルロース繊維は、後述する混合工程及び乾燥工程において、セルロースナノファイバーの単位まで解繊されることを要しない。酸化セルロース繊維は微細化工程においてセルロースナノファイバーに解繊することができる。
【0065】
微細化工程は、酸化セルロース繊維を水等の溶媒中で撹拌処理することができ、セルロースナノファイバーを得ることができる。
【0066】
微細化工程において、分散媒としての溶媒を水とすることができる。また、水以外の溶媒として、水に可溶な有機溶媒、例えば、アルコール類、エーテル類、ケトン類等を単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0067】
微細化工程における撹拌処理は、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。
【0068】
また、微細化処理における酸化セルロース繊維を含む溶媒の固形分濃度は、例えば50質量%以下とすることができる。この固形分濃度が50質量%を超えると、分散に高いエネルギーを必要とすることになる。
【0069】
微細化工程によってセルロースナノファイバーを含む水溶液を得ることができる。セルロースナノファイバーを含む水溶液は、無色透明又は半透明な懸濁液であることができる。懸濁液には、表面酸化されると共に解繊されて微細化した繊維であるセルロースナノファイバーが水中に分散されている。すなわち、この水溶液においては、ミクロフィブリル
間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、酸化工程によるカルボキシル基の導入によって弱め、さらに微細化工程を経ることで、セルロースナノファイバーが得られる。そして、酸化工程の条件を調整することにより、カルボキシル基含有量、極性、平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。
【0070】
このようにして得られた水溶液は、セルロースナノファイバーを0.1質量%〜10質量%含むことができる。また、例えば、セルロースナノファイバーの固形分1質量%に希釈した水溶液であることができる。さらに、水溶液は、光透過率が40%以上であることができ、さらに光透過率が60%以上であることができ、特に80%以上であることができる。水溶液の透過率は、紫外可視分光光度計を用いて、波長660nmでの透過率として測定することができる。
【0071】
5−1−2.ゴムラテックス
ゴムラテックスは、天然ゴムラテックス溶液及び合成ゴムラテックス溶液を使用することができる。
【0072】
天然ゴムラテックス溶液は、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水である、天然ゴム/水系のものを用いることができる。合成ゴムラテックス溶液としては、例えばスチレン・ブタジエン系ゴム、ブタジエンゴム、メチルメタクリレート−ブタジエン系ゴム、2−ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン系ゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどを乳化重合により製造したものを用いることができる。
【0073】
ゴムラテックスは、分散溶媒中に多数のゴムの微粒子が分散している。
【0074】
5−1−3.カーボンブラック
カーボンブラックは、種々の原材料を用いた種々のグレードのカーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックは、10nm〜500nmであることができ、さらに平均粒径が100nm以上300nm以下であることができる。カーボンブラックの平均粒径は、走査型電子顕微鏡の撮像によって観察して基本構成粒子の粒子直径を2000個以上測定して算術平均して求めることができる。
【0075】
このようなカーボンブラックとしては、例えば、SAF,ISAF,HAF,SRF,T,GPF,FT,MTなどの補強用カーボンブラックなどを用いることができる。比較的大きな粒径を有するカーボンブラックを用いることにより、ゴム組成物の柔軟性を維持しつつ、カーボンブラックの間にできた隙間にあるゴム成分を分散した酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーによって補強することができる。カーボンブラックは、MTグレードのカーボンブラックを用いることができる。
【0076】
5−1−4.ゴム
ゴムとしては、上述したゴムラテックス以外の固形のゴムであって、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン・プロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのゴム類及びこれらの混合物を用いることができる。特に、ディスクブレーキに用いられるピンブーツには、ゴムとしてエチレン・プロピレンゴムやスチレン・ブタジエンゴムが好ましい。例えばエチレン・プロピレンゴム(EPDM)のように極性の低いゴムは、混練の温度を比較的高温(例えばEPDMの場合、50
〜150℃)とすることで、フリーラジカルを生成するので酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーを分散させることができる。エチレン・ピロピレンゴムとしては、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン・共重合体)、EPM(エチレン・プロピレン共重合体)等を用いることができるが、EPDMが好ましい。なお、ゴムは、通常架橋して使用されるゴムであり、熱可塑性エラストマーを含まない。
【0077】
ゴムラテックス以外に固形のゴムを配合するのは、ピンブーツのゴム成分の全体をゴムラテックスから製造するのは水分が多すぎるため加工上現実的ではないからである。固形のゴム成分としては、ゴムラテックスに用いたゴムと同じ種類のものでもよいが、ゴムラテックスのゴム成分と相溶性のよいゴムであってもよい。
【0078】
5−2.各製造工程
図5〜
図7は、一実施形態に係るゴム組成物の製造方法を模式的に示す図である。
【0079】
5−2−1.混合工程
混合工程は、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を含む水溶液と、ゴムラテックスと、を混合して第1の混合物を得る。混合工程としては、例えばロール混練装置によるロール混練法や、プロペラ式撹拌装置、ホモジナイザー、ロータリー撹拌装置、及び電磁撹拌装置による撹拌操作又は手動での撹拌操作などを用いることができる。特に、混合工程は、ロール混練法を用いることができる。
【0080】
ロール混練法に用いるロール混練装置は、例えばオープンロールを用いることができる。また、ロール混練法に用いるロール混練装置は、例えば二本ロール又は三本ロールを用いることができる。
【0081】
水溶液とゴムラテックスの混合物は、ロール間距離を所定間隔に設定したロール混練装置に徐々に投入する。ロール間距離は、水溶液とゴムラテックスの混合物がロールに巻き付く程度であって、かつロール間から混合物が落下しない程度の距離に設定することができる。ロール混練装置に投入された混合物は、混練されることによって徐々に粘度が高くなる。混合物の粘度が高くなったら、混合物をロール混練装置から取り出し、ロール間距離をさらに狭く設定して、再びロール混練装置に投入することができる。この工程を複数回実施することができる。
【0082】
混合工程を実施することによって、ロール間を通る間に、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方がゴムの微粒子の中に入り込むことが予想できる。特に、ロール混練法を用いることによって、他の撹拌操作に比べて、繊維による補強効果をより向上することができる。
【0083】
混合工程で得られる第1の混合物は、乾燥工程後の質量比で、ゴム固形成分100質量部に対して、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を0.1質量部〜60質量部を含むことができる。酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が0.1質量部以上であると補強効果が得られ、60質量部以下であれば乾燥工程後の加工も可能である。
【0084】
5−2−2.乾燥工程
乾燥工程は、混合工程で得られた第1の混合物を乾燥して第2の混合物を得る工程である。例えば、第1の混合物は、水分を含むので、水を除去するための一般的な方法を採用することができる。例えば、乾燥工程は、自然乾燥、オーブン乾燥、凍結乾燥、噴露乾燥、パルス燃焼などの公知の乾燥方法を採用することができる。
【0085】
乾燥工程は、ゴム、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーが熱分解しない温度で実施することができ、例えば100℃で加熱して乾燥することができる。
【0086】
第2の混合物は、ゴム成分と、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方と、を含む。第2の混合物は、例えば、ゴム100質量部に対して酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を0.1質量部〜60質量部含むことができる。さらに、第2の混合物は、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を1質量部〜50質量部含むことができ、特に、5質量部〜40質量部含むことができる。第2の混合物中に酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を0.1質量部以上含むとゴム組成物の補強効果を得ることができ、溶媒中に酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を60質量部以下含むと容易に加工することができる。
【0087】
5−2−3.分散工程
分散工程は、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を含む第2の混合物をオープンロールで薄通ししてゴム組成物を得ることができる。
【0088】
まず、薄通しの前に、
図5に示すように、第1のロール110に巻き付けられた第2の混合物130の素練りを行なうことができ、第2の混合物中のゴムの分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成する。素練りによって生成されたゴムのフリーラジカルが酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方と結びつきやすい状態となる。
【0089】
次に、
図6に示すように、第1のロール110に巻き付けられた第2の混合物130のバンク134に、配合剤180を適宜投入し、混練して中間混合物を得る混練工程を行うことができる。ここで配合剤180は、カーボンブラックを含む補強剤、ゴムラテックス以外の固形のゴムを含み、さらに例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤、受酸剤などを含むことができる。これらの配合剤は、混合の過程の適切な時期にゴムに投入することができる。
【0090】
図5及び
図6の工程によって中間混合物136(
図7)を得る工程については、オープンロール法に限定されず、例えば密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。
【0091】
中間混合物136(
図7)は、混合工程におけるゴムラテックス中のゴム固形成分と分散工程で加えられた配合剤180中のゴム成分とを合わせたゴム100質量部に対して、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を0.1質量部〜60質量部を含むことができる。分散工程でゴムを追加することにより、混合工程では少量のゴムラテックスを用いるようにして乾燥工程の負担を軽減することができる。したがって、分散工程で追加されたゴム成分は、ゴムラテックス中のゴム固形成分よりも多いことが好ましく、例えば、中間混合物136におけるゴム成分中の50質量%〜99質量%とすることができる。
【0092】
さらに、
図7に示すように、薄通しを行うことができる。薄通しの工程は、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロール100を用いて、0℃〜50℃で薄通しを行って未架橋のゴム組成物150を得る工程を行うことができる。この工程では、第1のロール110と第2のロール120とのロール間隔dを、例えば0.5mm以下、より好ましくは0mm〜0.5mmの間隔に設定し、
図6で得られた中間混合物136をオープンロール100に投入して薄通しを1回〜複数回行なうことができる。薄通しの回数は、例えば1回〜10回程度行なうことができる。第1のロール110の表面速度をV1、第2のロール
120の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05〜3.00であることができ、さらに1.05〜1.2であることができる。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。
【0093】
このように狭いロール間から押し出されたゴム組成物150は、ゴムの弾性による復元力で
図7のように大きく変形し、その際にゴムと共に酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が大きく移動する。薄通しして得られたゴム組成物150は、ロールで圧延されて所定厚さ、例えば100μm〜500μmのシート状に分出しされる。
【0094】
この薄通しの工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、ロール温度を例えば0℃〜50℃に設定して行うことができ、さらに5℃〜30℃の比較的低い温度に設定して行うことができる。ゴム組成物の実測温度も0℃〜50℃に調整されることができ、さらに5℃〜30℃に調整されることができる。
【0095】
このような温度範囲に調整することによって、ゴムの弾性を利用して酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を解繊し、解繊されたセルロースナノファイバーをゴム組成物中に分散することができる。
【0096】
この薄通しの工程における高い剪断力により、ゴムに高い剪断力が作用し、凝集していた酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方がゴムの分子に1本ずつ引き抜かれるように相互に分離し、ゴム中に分散される。特に、ゴムは、弾性と、粘性と、を有するため、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を解繊し、分散することができる。そして、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方の分散性及び分散安定性(酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が再凝集しにくいこと)に優れたゴム組成物150を得ることができる。
【0097】
より具体的には、オープンロールでゴムと酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方とを混合すると、粘性を有するゴムが酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方の相互に侵入する。酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方の表面が例えば酸化処理によって適度に活性が高いと、特にゴムの分子と結合し易くできる。次に、ゴムに強い剪断力が作用すると、ゴムの分子の移動に伴って酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方も移動し、さらに剪断後の弾性によるゴムの復元力によって、凝集していた酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が分離されて、ゴム中に分散されることになる。特に、オープンロール法は、ロール温度の管理だけでなく、混合物の実際の温度を測定し管理することができるため、好ましい。
【0098】
5−2−4.凝固工程
混合工程と乾燥工程との間に、第1の混合物中のゴムラテックスを凝固する凝固工程をさらに含むことができる。
【0099】
上記5−2−1における混合工程で得られた第1の混合物は、そのままでは大量の水分を含むので、上記5−2−2における乾燥工程で水分を取り除くために長時間を要することになる。そこで、凝固工程は、水溶液である第1の混合物に、ゴムラテックスを凝固する公知の凝固剤を所定量投入して、撹拌混合する。第1の混合物中のゴム成分は凝固剤によって凝固する。凝固工程は、この凝固物に対して、脱水と洗浄とを含むことができる。脱水と洗浄は、複数回繰り返し行うことができる。
【0100】
この工程における脱水は、乾燥工程における乾燥時間を短縮できる程度の水分が取り除ければよく、凝固したゴム成分と水分とをある程度分離するものである。脱水は、例えば、一般的な回転式脱水機(遠心分離)、ゴム被膜ロール、プレス機等を用いて行うことができる。また、この工程における洗浄は、例えば水によって行うことができる。
【0101】
凝固剤は、第1の混合物中のゴムラテックスの種類に応じて適宜公知のラテックス凝固剤を採用することができる。凝固剤としては、例えば、公知の酸や塩を用いることができ、高分子凝集剤を塩に代えて、又は塩と共に用いてもよい。凝固剤に用いる酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、シュウ酸、硫酸、塩酸、炭酸などを用いることができる。凝固剤に用いる塩としては、例えば、塩化ナトリウム、硫酸アルミニウム、硝酸カルシウムなどを用いることができる。高分子凝集剤としては、アニオン型、カチオン型、ノニオン型の高分子凝集剤のいずれでも用いることができる。
【0102】
凝固工程において第1の混合物から大量の水分を取り除くことができるので、凝固工程の後に行われる乾燥工程の加熱時間を短縮することができ、作業効率が向上する。
【0103】
5−2−5.ピンブーツの成形工程
混練されたゴム組成物は、所望のピンブーツの形状を有した金型を用いて一般に採用されるゴムの成形工程によって成形される。成形工程としては、例えば、プレス成型、押出成形、射出成形などがある。成形工程では、架橋剤が配合されたゴム組成物のゴム成分を架橋する。架橋剤は、例えば、用途に応じて適宜選択されたゴムに適用される公知の架橋剤を用いることができる。
【0104】
こうして得られたピンブーツをディスクブレーキに用いると、ピンブーツが酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を含むことにより環境負荷を低減することができる。また、このようなディスクブレーキによれば、ピンブーツが疲労特性に優れることにより長期間確実にピン部材の摺動軸部を保護することができる。
【実施例】
【0105】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0106】
(1)サンプルの作製
(1−1)実施例1〜4
水溶液を得る工程:
特開2013−18918号の製造例1に開示された方法と同様にして、セルロースナノファイバーを得た。
【0107】
具体的には、針葉樹の漂白クラフトパルプをイオン交換水で十分に攪拌した後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%を20℃でこの順で添加した。水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。酸化反応を120分行った後に滴下を停止し、TEMPO酸化した酸化セルロース繊維を10質量%含む水溶液を得た。酸化セルロース繊維は、元のパルプと同程度の繊維径10μm〜30μm、繊維長さ1mm〜5mmであった。
【0108】
さらに、イオン交換水を用いて酸化セルロース繊維を十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。その後、酸化セルロース繊維をイオン交換水により固形分1質量%に調整し、高
圧ホモジナイザーを用いて微細化処理を行い、セルロースナノファイバーを1質量%含む水分散液を得た。セルロースナノファイバーの平均繊維径は3.3nm、平均アスペクト比は225であった。
【0109】
混合工程:
このセルロースナノファイバーを1質量%含む水溶液にスチレン・ブタジエンゴム(以下、「SBR」という)ラテックス(JSR製 0561:固形分濃度69質量%の水分散体、10.3pH、粘度440(mPa・s)、表面張力32(mN/m)、平均粒径700(nm)、Tg−63℃)を投入し、ジューサーミキサーを用いて回転数10000rpmで混合した。
【0110】
ミキサーの混合の後、ニップを10μmに設定したEXAKT社製の三本ロール(M−50)に回転数200rpmで通して、追加の混合を行い、第1の混合物を得た。
【0111】
乾燥工程:
第1の混合物を50℃に設定したオーブン内で4日間加熱乾燥して、第2の混合物を得た。乾燥後の第2の混合物における配合割合は、SBR固形分100phr、セルロースナノファイバー60phrであった。
【0112】
分散工程:
第2の混合物をロール間隔1.5mmで素練りし、固形ゴムであるSBRやEPDM及びカーボンブラックを追加して混練し、表1に示す配合の混合物を得た。さらにこの混合物をロール間隙0.3mmのオープンロールに投入し、10℃〜30℃で薄通しをしてゴム組成物サンプルを得た。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し5回行った。なお、表1及び表2における配合量は、質量部(phr)である。
【0113】
加硫工程:
薄通しして得られたゴム組成物サンプルに架橋剤としてパーオキサイド8質量部を加えて分出ししたシートを170℃、10分間圧縮成形して厚さ1mmのシート状の架橋体ゴム組成物サンプルを得た。
【0114】
(1−2)比較例1,2
比較例1,2は、表2に示す配合となるように、ロール間隙1.5mmのオープンロールへ各原料を投入して混練し、さらに架橋剤としてパーオキサイド8質量部を加えて分出ししたシートを170℃、10分間圧縮成形して厚さ1mmのシート状の架橋体ゴム組成物サンプルを得た。
【0115】
表1,2において、
「SBR」は、上記SBRラテックスの固形分の他、JSR社製1503、比重0.93、ムーニー粘度52(ML
1+4(100℃))を加えた配合量であり、
「EPDM」は、JSR社製EP24、比重0.87、ムーニー粘度42(ML
1+4(100℃))であり、
「MTカーボン」は、平均粒径200nm、DBP吸油量25ml/100gのMTグレード(平均粒径及びDBP吸油量はメーカー公表値)のカーボンブラックであり、
「セルロース」は、上記工程で得られた平均繊維径は3.3nm、平均アスペクト比は225の酸化したセルロースナノファイバーであった。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
(2)基本特性試験
ゴム組成物サンプルについて、ゴム硬度(Hs(JIS A))をJIS K6253試験に基づいて測定した。
【0119】
ゴム組成物サンプルについて、引張強さ(TS(MPa))及び破断伸び(Eb(%))を、JIS6号形のダンベル形状に打ち抜いた試験片で、島津製作所社製の引張試験機を用いて、23±2℃、引張速度500mm/minでJIS K6251に基づいて引張試験を行い測定した。
【0120】
(3)引裂き試験
ゴム組成物サンプルをJIS K6252切込み無しのアングル形試験片に打ち抜き、島津製作所社製オートグラフAG−Xを用いて、引張速度500mm/minでJIS K6252に準拠して引裂き試験を行い、最大引裂き力(N)を測定し、その測定結果を試験片の厚さ1mmで除して引裂き強さ(Tr(N/mm))を計算した。
【0121】
(4)疲労寿命試験
ゴム組成物サンプルについて、疲労寿命(表3,4において「疲労(2N/mm)」で
示した。)として、試験サンプルを10mm×幅4mm×厚さ1mm(長辺が列理方向)の短冊状の試験片に打ち抜き、その試験片の長辺の中心から幅方向へカミソリ刃によって深さ1mmの切込みを入れ、SII社製TMA/SS6100試験機を用いて、試験片の両端の短辺付近をチャックにて保持して、120℃の大気雰囲気中、周波数1Hzの条件で繰り返し引張荷重(1N/mm〜2N/mm)をかけて疲労試験を行い、試験片が破断するまでの回数を測定した。
【0122】
(5)耐久性試験
ゴム組成物サンプルでピンブーツを作製し、
図1に示すようなピンスライド型のディスクブレーキに取り付け、雰囲気温度を150℃として制動動作を100万回繰り返した。試験後のピンブーツの外観を検査し、亀裂が発生しているものを「×」、亀裂が発生していないものを「○」として耐久性を評価し、表3,4に記載した。なお、通常の耐久性試験は20万回〜50万回程度である。
【0123】
【表3】
【0124】
【表4】
【0125】
表3、4の結果から、実施例1〜4のゴム組成物は、セルロースナノファイバーによって補強され、引張強さが比較例1,2のサンプルに比べて同じか高い値を示した。また、実施例1〜4のゴム組成物は、最大引裂き強さ及び引裂き疲労寿命が比較例1,2のサンプルに比べて高い値を示した。
【0126】
また、表3,4の結果から、実施例1〜4のピンブーツは、比較例1,2のピンブーツに比べ耐熱性及び耐久性に優れていることがわかった。
【0127】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。