特許第6484637号(P6484637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484637
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】神経連絡をブロックする枯渇ブロック
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20190304BHJP
【FI】
   A61N1/36
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-547078(P2016-547078)
(86)(22)【出願日】2015年1月14日
(65)【公表番号】特表2017-502786(P2017-502786A)
(43)【公表日】2017年1月26日
(86)【国際出願番号】US2015011467
(87)【国際公開番号】WO2015109023
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2016年7月28日
(31)【優先権主張番号】61/928,725
(32)【優先日】2014年1月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505003528
【氏名又は名称】カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】フランケ、マンフレート
(72)【発明者】
【氏名】ターネス、デイビッド ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】インカピエ オルドネス、フアン ガブリエル
(72)【発明者】
【氏名】ラブル、スティーブン ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ハーマン、ジェイソン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ、アルジュン ディ.
【審査官】 松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0216070(US,A1)
【文献】 米国特許第07826899(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0289678(US,A1)
【文献】 特表2011−502022(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/021583(WO,A1)
【文献】 特表2011−502586(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/103324(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0126140(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00 − 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枯渇ブロック刺激を神経に送達するように構成される枯渇ブロック神経刺激器であって、前記枯渇ブロック刺激は、100Hz〜1000Hzの範囲内のパルス周波数での一連のパルスを含み、前記一連のパルスを構成する各パルスはあるパルス幅を有する、枯渇ブロック神経刺激器と、
前記枯渇ブロック神経刺激器と通信し、前記枯渇ブロック刺激を制御するように構成される枯渇ブロックコントローラであって、前記枯渇ブロックコントローラは、枯渇ブロック開始信号を受信し、前記神経への前記枯渇ブロック刺激の送達を開始することで、前記枯渇ブロック開始信号の受信に応答するように構成され、前記枯渇ブロックコントローラは、枯渇ブロック停止信号を受信し、前記神経への前記枯渇ブロック刺激の送達を終了させることで、前記枯渇ブロック停止信号の受信に応答するように構成される、枯渇ブロックコントローラと
を備え
前記枯渇ブロックコントローラは、前記枯渇ブロック刺激の前記パルス周波数を変更するように構成されるとともに、第1のパルス周波数を用いて前記枯渇ブロック刺激を開始し、前記第1のパルス周波数よりも低い第2のパルス周波数を用いて前記枯渇ブロック刺激を維持するように構成され、
前記第1のパルス周波数及び前記第2のパルス周波数は、ともに100Hz〜1000Hzの範囲内であり、
あるパルス幅を有する前記第2のパルス周波数での一連のパルスによる前記枯渇ブロック刺激は、同じパルス幅を有する前記第1のパルス周波数での一連のパルスによる前記枯渇ブロック刺激よりも、エネルギー効率的である、システム。
【請求項2】
電気信号を生成し、患者に印加するように構成される治療電気刺激器と、
前記治療電気刺激器と通信し、前記電気信号を制御するように構成される治療コントローラであって、前記治療コントローラは、前記枯渇ブロック開始信号及び前記枯渇ブロック停止信号を送信するように構成されるとともに、前記枯渇ブロック開始信号の送信と前記枯渇ブロック停止信号の送信との間の時間期間中、前記治療電気刺激器を制御して、前記電気信号を生成し、印加するように更に構成される、治療コントローラと
を更に備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記治療電気刺激器は焼灼システムを含み、前記焼灼システムは、焼灼処置中、前記電気信号を使用して組織を焼灼するように構成され、前記枯渇ブロック神経刺激器は、前記焼灼処置中、痛みを低減するように構成される、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記治療電気刺激器は、前記神経にキロヘルツ高周波交流(KHFAC)神経ブロック刺激を送達するように構成されるKHFAC神経ブロック刺激器を含み、前記神経ブロック刺激は、1kHzを超えるパルス周波数での一連のパルスを含み、活動電位を軸索内に捕捉し、前記治療コントローラは、前記KHFAC神経ブロック刺激の開始に前記枯渇ブロック開始信号を送信して、前記KHFAC神経ブロック刺激への発現反応を軽減するように構成され、さらに、前記治療コントローラは、枯渇ブロックを達成した後に前記枯渇ブロック停止信号を送信するように構成される、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記枯渇ブロック神経刺激器は、前記枯渇ブロック刺激を選択された神経に送達して、痙攣性末梢神経痛を緩和するように構成され、前記システムは、患者開始信号を受信するように構成された患者入力を更に備え、前記枯渇ブロックコントローラは、前記患者開始信号の受信に応答して、前記枯渇ブロック開始信号を送信するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記枯渇ブロック神経刺激器は、前記枯渇ブロック刺激を選択された神経に送達して、痙攣性末梢神経痛を緩和するように構成され、前記システムは、痙攣発現を検出するように構成される筋痙攣検出器を更に備え、前記枯渇ブロックコントローラは、痙攣発現の検出に応答して、前記枯渇ブロック開始信号を送信するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記枯渇ブロック神経刺激器は、前記枯渇ブロック刺激を選択された神経に送達して、痙攣性末梢神経痛を緩和するように構成され、前記枯渇ブロックコントローラは、前記枯渇ブロック刺激の振幅又はパルス幅のうちの少なくとも一方を調整して、段階的枯渇ブロックを制御し、幾らかの神経伝達物質をシナプス前終末から細胞外空間中に放出させるように構成される、請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本文書は、概して医療装置に関し、より詳細には神経連絡をブロックするシステム、装置、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経刺激は、多くの症状の治療として提案されてきた。神経刺激は送達されて、自律神経系を調節し得、これは自律神経調節治療(AMT:autonomic modulation therapy)と呼ばれることがある。AMTの例としては、睡眠時呼吸障害等の呼吸問題、高血圧治療等のための血圧コントロール、心調律管理、心筋梗塞及び局所貧血、心疾患(HF)、並びにコリン作用性抗炎症経路の調節が挙げられる。例えば、てんかん、鬱病、痛み、偏頭痛、摂食障害及び肥満、並びに運動障害を治療する治療法は、迷走神経の刺激を含み得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
治療法によっては、活動電位が神経軸索中を伝搬することをブロック又は阻止することが望ましい。神経刺激が送達されて、神経連絡がブロックされ得る。例えば、キロヘルツ高周波交流(KHFAC:kilohertz high frequency alternating current)又は直流(DC)が、活動電位のブロックに使用され得る。しかし、KHFAC及びDCブロックは両方とも、幾つかの制限を有する。例えば、KHFACブロックは、最初に開始されるとき、神経内で強烈な発射バーストを生じさせ、これは、数ミリ秒から30秒を超えるまで続き得る不快な感覚を生み出す傾向がある。さらに、DC神経ブロックは、回復不可能な電荷を神経組織に伝達するため、慢性投与では神経にとって安全ではない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
記載される様々な実施形態は、KHFAC又はDCブロック技法に関連付けられた欠点なしで、神経連絡をブロック又は阻止するために使用される完全又は部分枯渇ブロックを提供する方法及びシステムに関し得る。電気信号が、神経内の神経線維の少なくとも幾つかで刺激閾値を超える刺激強度で少なくとも幾つかの神経線維に印加されて、各刺激閾値を超える強度で刺激された神経線維に対応する軸索のシナプス前終末から神経伝達物質を素早く枯渇させ得る。刺激は、神経線維上の活動電位を活性化するが、刺激の周波数は、シナプス前終末からシナプス後膜への連絡をブロック又は阻止する。さらに、枯渇ブロックは、電気信号の印加を終えることにより、素早く反転させることができ、その理由は、神経伝達物質の供給が素早く元通りになるためである。
【0005】
方法の例は、軸索のシナプス前終末に枯渇ブロックを作成することを含み得る。枯渇ブロックを作成することは、パルス周波数での一連の電気パルスを軸索に送達することを含み得、パルス周波数は、約100Hz〜約1000Hz(例えば、100Hz〜1000Hz又は実質上、枯渇ブロックを提供する範囲近くの周波数)の範囲内である。一連の電気パルスを軸索に送達することは、パルス周波数に対応する周波数で活動電位を軸索を通して伝搬させる。活動電位の周波数は、電気パルスの開始の1秒以内で枯渇ブロックを生じさせる。本方法は、シナプス前終末における枯渇ブロックを除去することを更に含み得る。枯渇ブロックを除去することは、一連の電気パルスの軸索への印加を停止して、一連の電気パルスの停止後、1秒以内に、枯渇ブロックを除去することを含み得る。
【0006】
システムの例は、枯渇ブロック神経刺激器と、枯渇ブロックコントローラとを含み得る。枯渇ブロック神経刺激器は、枯渇ブロック刺激を神経に送達するように構成し得る。枯渇ブロック刺激は、約100Hz〜約1000Hz(例えば、100Hz〜1000Hz又は実質上、枯渇ブロックを提供する範囲近くの周波数)の範囲内のパルス周波数での一連のパルスを含み得る。枯渇ブロックコントローラは、枯渇ブロック神経刺激器と通信して、枯渇ブロック刺激を制御するように構成し得る。枯渇ブロックコントローラは、枯渇ブロック開始信号を受信し、神経への枯渇ブロック刺激の送達を開始することにより、枯渇ブロック開始信号の受信に応答するように構成し得、枯渇ブロックコントローラは、枯渇ブロック停止信号を受信し、神経への枯渇ブロック刺激の送達を終了することにより、枯渇ブロック停止信号の受信に応答するように構成し得る。この概要は、本願の教示の幾つかの概説であり、本趣旨の排他的又は網羅的な論じ方であることを意図しない。本趣旨についての更なる詳細は、詳細な説明及び添付の特許請求の範囲に見られる。本開示の他の態様は、以下の詳細な説明を読んで理解し、その一部をなす図面を見た上で、当業者に明らかになり、詳細な説明及び図面はそれぞれ限定の意味で解釈されるべきではない。本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその法的均等物によって規定される。
【0007】
様々な実施形態は、添付図面の図中、例として示される。そのような実施形態は、例証的であり、本趣旨の網羅的又は排他的な実施形態であることは意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】神経と別の膜との間のシナプスにおける神経活動を示す。
図2】シナプス前終末枯渇ブロックの観測に使用される実験セットアップを示す。
図3】刺激が20Hzから200Hzに変更される場合の刺激信号と記録ENG及びEMG信号との観測関係を示し、シナプス前終末を枯渇させ、シナプス結合部をブロックする観測時間を含む。
図4】刺激が200Hzから20Hzに変更される場合の刺激信号と記録ENG及びEMG信号との観測関係を示す。
図5A】異なる刺激周波数への神経筋接合部の反応を示す。
図5B】異なる刺激周波数への神経筋接合部の反応を示す。
図6A】限定ではなく例として、同じ振幅での低周波治療神経刺激及びより高い周波数の枯渇ブロック刺激を送達するのに使用し得る幾つかの波形を示す。
図6B】限定ではなく例として、同じ振幅での低周波治療神経刺激及びより高い周波数の枯渇ブロック刺激を送達するのに使用し得る幾つかの波形を示す。
図7】限定ではなく例として、枯渇ブロック刺激を送達するシステムの実施形態を示す。
図8】限定ではなく例として、枯渇ブロック刺激を送達し、治療を送達するシステムの実施形態を示す。
図9】限定ではなく例として、キロ高周波AC神経ブロックと併せて枯渇ブロック刺激を送達するシステムの実施形態を示す。
図10】限定ではなく例として、シナプス前終末枯渇ブロックを送達するプロセスの実施形態を示す。
図11】限定ではなく例として、シナプス前終末枯渇ブロックを滴定するプロセスの実施形態を示す。
図12】限定ではなく例として、シナプス前終末枯渇ブロックを検証するプロセスの実施形態を示す。
図13】限定ではなく例として、高周波AC神経ブロックを用いてシナプス前終末枯渇ブロックを送達するプロセスの実施形態を示す。
図14】限定ではなく例として、高周波AC神経ブロックを用いる準備として、シナプス前終末枯渇ブロックを強化するプロセスの実施形態を示す。
図15】限定ではなく例として、シナプス前終末枯渇ブロックを送達し、次にブロックを低減して、ブロックされる軸索の数を低減し、より自然な神経反応を可能にするプロセスの実施形態を示す。
図16】限定ではなく例として、シナプス前終末枯渇ブロックを強化し、次に、ブロックを低減して、ブロックされる軸索の数を低減し、より自然な神経反応を可能にするプロセスの実施形態を示す。
図17】腎臓及び腎神経の生理学を一般的に示す。
図18】限定ではなく例として、枯渇ブロックを提供して、焼灼処置に関連する痛みを軽減するのに使用し得る等の近位枯渇ブロック電極を用いる焼灼カテーテルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本趣旨の以下の詳細な説明は、添付図面を参照し、添付図面は、例示として、本趣旨が実施可能な特定の態様及び実施形態を示す。これらの実施形態は、当業者が本趣旨を実施できるようにするのに十分に詳細に説明される。本趣旨の範囲から逸脱せずに、他の実施形態を利用することも可能であり、構造的、論理的、及び電気的変更を行うことが可能である。本開示での「実施形態」、「一実施形態」、又は「様々な実施形態」への参照は、必ずしも同じ実施形態を指すわけではなく、そのような参照は、2つ以上の実施形態を意図する。したがって、以下の詳細な説明は、限定の意味で解釈されるべきではなく、範囲は添付の特許請求の範囲及びそのような特許請求の範囲が権利を有する法的均等物の全範囲によってのみ規定される。
【0010】
神経線維は、軸索とも呼ばれ、神経細胞からの突起である。神経線維はシナプスにおいて神経細胞を別の神経細胞、筋肉、又は腺細胞に接続し、シナプスとは、神経細胞が電気信号又は化学信号を他の細胞に渡せるようにする構造である。神経線維はA線維、B線維、及びC線維を含む。A線維は、運動(遠心性)及び感覚(求心性)の両方であることができる。A線維は、最大の線維であり、刺激の振幅が増大するにつれて最初に捕捉される線維である。運動線維は筋組織を支配する。例えば、頸部の迷走神経の刺激は、喉頭筋線維を興奮させ、これは迷走神経捕捉のマーカとして使用し得る喉頭筋の活性化を生じさせる。B線維はより小さく、電流振幅を増大させる場合、次に捕捉される線維である。通常、遠心性副交感神経線維及び交感神経線維がある。これらのB線維は、自律神経刺激治療の標的であり得る。C線維は、最も小さく、痛み及び他の感覚情報に関連付けられた線維である。厚い線維ほど、枯渇が生じるランヴィエ絞輪間に短いセクションの髄鞘を有し、したがって、線維が受ける電場の変化が大きいことが観測されている。現在、迷走神経が、表1に示される線維タイプ及びサイズを含むと信じられており、線維の大半がC線維であると更に信じられている。
【0011】
【表1】
幾つかの提案されている自律神経刺激治療は、耐えられるまで高い振幅を滴定することにより、迷走神経内の可能な限り多くの神経線維を捕捉しようとする。一般的に言えば、迷走刺激は、まずA運動線維及び大きな感覚神経線維を捕捉し、次に小さな感覚線維及びB副交感神経線維を捕捉し得る。この順序は一般的な順序であり、その理由は、電極に近い線維ほど強い電場を受け、離れた線維よりも先に活性化され、さらにこれらの線維タイプのサイズが重複するためである。心拍数を下げる線維は、最も小さいB遠心性副交感線維である。C線維は無髄であるため、これらのB遠心性副交感線維は有髄線維のうち最小である。心拍反応を生じさせる神経刺激は、B遠心性副交感線維が捕捉されており、その他のより大きな線維タイプも捕捉されていることを示す。
【0012】
図1は、神経と別の膜との間のシナプスにおける神経活動を示す。活動電位は、神経末端に達するまで神経軸索100を下って電気的に伝搬し、神経末端はシナプス前終末101と呼ばれることもある。シナプス前終末は、標的細胞のシナプス後膜102と連絡する。標的細胞は、別の神経、筋肉、又は腺であり得る。シナプス前終末と標的細胞とのこの膜−膜接合部は、シナプス103と呼ばれる。シナプスの一種は、電気シナプス結合であり、シナプス前終末は、ある細胞から次の細胞にチャネルを通って渡るイオン又は小分子を使用して、シナプス後膜と電気的に連絡する。別のタイプのシナプスは、化学シナプス結合であり、神経伝達物質が細胞間での伝送に使用される。シナプス前終末エリア101は、神経伝達化学物質105を含む多数のシナプス小胞104を有する。シナプス前終末101に伝搬する活動電位は、シナプス前終末内で化学反応を起こさせ、シナプス前終末は神経伝達物質をシナプス間隙106と呼ばれることもある細胞外空間中に放出する。神経伝達物質は、シナプス前終末とシナプス後終末との間のシナプス間隙を渡る。神経伝達物質は、シナプス後膜102(別の神経細胞)又は筋細胞(神経筋接合部)のいずれかの受容体107内で連鎖反応を開始させ、この連鎖反応は、シナプス後神経での活動電位の発射又はシナプスが神経筋接合部内で終わる場合には筋収縮をトリガーする。例えば、標的細胞が筋肉であり、シナプスが神経筋接合部である場合、神経伝達物質アセチルコリン(Ach)は標的筋細胞の急速な収縮を生じさせる。神経筋接合部において、活性電位は神経筋シナプス接合部に移動し、カルシウムイオンを電圧依存性カルシウムチャネル108に通し、電圧依存性カルシウムチャネル108はAchをシナプス前終末から細胞外空間に放出して、標的筋細胞の膜内のシナプス後受容体によって受け取られる。シナプス前終末は、シナプス前終末を神経伝達物質のシナプス小胞で補充する神経伝達物質再取り込みポンプ109を有する。
【0013】
本発明者らは、シナプス前終末活動電位が互いの近くに来た場合、シナプス後受容体が活動電位をトリガーしないことを観測したため、このシナプス間隙106にわたる連続した連絡が、神経内の活動電位間で最小量の時間を必要とするように見えることを観測した。例えば、神経刺激信号は、約0.25Hz〜50Hzの範囲内であり得るか、約2Hz〜約20Hzの範囲内に有り得るか、又は約20Hzであり得る。より高い周波数(例えば、約100Hz〜1kHz)では、シナプス前終末が、活動電位が軸束の伝搬に寄与したにもかかわらず、シナプス間隙をわたって連絡することができないことが観測された。本発明者らは、様々な刺激周波数を使用してこの反応時間をテストした。一般に、100Hz〜1kHzの範囲内の周波数では、神経刺激信号内のあらゆる神経刺激パルスは活動電位を生成する。当業者に理解されるように、この概論への例外は、特定の電極構成又は刺激周波数を通して神経連絡をブロックするように構成された神経刺激である。したがって、100Hz〜1kHzの範囲内の周波数では、より高い刺激周波数は、所与の時間期間により多くの刺激パルスを生成し、その時間期間中、神経内でより多くの対応する活動電位を生成し得る。この枯渇ブロックの取得に使用される周波数は、活動電位が神経を下って伝搬しないようにする高周波AC神経ブロックよりも低い。例えば、1kHzよりも高い周波数では、刺激は神経が活動電位を伝導しないようにする。逆に、枯渇ブロックは、1kHz未満の周波数で送達され、したがって、活動電位が神経を下りシナプス前終末まで伝搬するのを止めず、むしろ、シナプス前終末を枯渇させて、もはや、シナプス間隙をわたって別の細胞の受容体まで連絡できないようにする。
【0014】
図2は、シナプス前終末枯渇ブロックの観測に使用される実験セットアップ210を示す。頸部迷走神経211は、胸部分岐212及び反回神経213に分岐する。示される実験セットアップは、双極構成での電流源214及び螺旋電極215を使用して頸部迷走神経211を刺激し、神経電気(ENG)モニタ216を使用して頸部迷走神経211が反回神経213及び胸部分岐212に分岐する前の神経活動をモニタし、筋電図(EMG)モニタ218を使用して喉頭筋217の振動をモニタするのに使用された。このセットアップは、刺激からの活動電位がなお、ENGによって検知されるが、喉頭振動がEMG218によって検知されないことを観測するために使用された。
【0015】
図3は、刺激が20Hzから200Hzに変更される場合の刺激信号と記録ENG及びEMG信号との観測関係を示し、シナプス前終末を枯渇させ、シナプス結合部をブロックする観測時間を含む。20Hz刺激中、ENG信号及びEMG信号は両方とも、刺激信号を辿る。ENG信号及びEMG信号の両方での高いピークは、刺激アーチファクトを反映している。しかし、200Hz刺激中、ENG応答は、刺激信号後になお存在するが、EMG信号は素早く低下する。EMG信号が、発現反応の約100ms後に低下することが観測されている。むしろ、刺激が200Hzに変更された後、短い遷移期間後、電荷平衡からのアーチファクトのみがEMG波形に見られる。したがって、神経中の軸索は、活動電位を伝搬することによって活性であり続けるが、シナプス間隙にわたる連絡は、シナプス前終末が連絡する能力を枯渇した後、低減又は停止する。示されるように、このシナプス接合部ブロックは、非常に素早く(例えば、200Hz信号が印加された後、50ms〜100ms)、シナプス前終末で受け取られる伝搬パルスがシナプス前終末を枯渇させるとすぐに生じる。ここでも、シナプス前終末が神経伝達物質及び/又はカルシウムを枯渇したため、連絡する能力が枯渇すると現在信じられている。神経伝達物質及び/又はカルシウムをシナプス前終末に戻す生理学的再取り込みプロセスが、200Hz刺激からの神経伝達物質の初期伝送についていくことができるようには見えない。周波数シフト後に、発現期間を観測することもでき、その間、筋肉は短時間にわたり強く収縮し、それから緩和するように見える。表2は、筋肉が収縮を止めるまでに必要な時間を示す。
【0016】
図4は、刺激が200Hzから20Hzに変更される場合の刺激信号と記録ENG及びEMG信号との観測関係を示す。シナプス接合部ブロックは、刺激が200Hzで送達されるときに生じる。この時間中、ENGはなお、刺激アーチファクト信号を辿って存在するが、EMG応答は存在しない。これは、刺激が神経を捕捉しており、活動電位に軸索を伝搬させていることを示す。刺激中のあらゆるパルスは、神経線維中に各活動電位を生じさせる。しかし、喉頭筋は刺激されず、その理由は、シナプス接合部ブロックを生じさせる200Hzでのシナプス前終末枯渇による。毎秒200の活動電位は、シナプス前終末がシナプス間隙にわたって連絡する能力を枯渇させる。しかし、刺激が200Hzから20Hzに変更される場合、ENG応答は、刺激中のあらゆるパルスが神経線維中の各活動電位を生じさせるため、より低い周波数での刺激パルスを辿り引き続き存在する。ここで、EMGは、刺激周波数が20Hzに変更された後、短い遷移期間直後、刺激の直後に再出現する。シナプス前終末がシナプス間隙にわたって連絡する能力は、毎秒20パルスでは枯渇しない。したがって、示されるように、シナプス接合部ブロックは、非常に素早く(例えば、20Hz信号が印加された後、50ms〜100ms)除去することができ、これは、シナプス前終末中の神経伝達物質及び/又はカルシウムを戻すための生理学的反応時間であると考えられる。
【0017】
表2は、特定の周波数が、他の周波数よりも素早くシナプス接合部の枯渇ブロックをオン/オフすることができることを示す。データは、約200Hzを超える周波数が高速枯渇ブロックを提供し、一方、約100Hz〜約150Hzの周波数がより遅い枯渇ブロックを提供することを示唆する。100Hz未満の周波数は、枯渇ブロックの提供に有効ではない傾向を有し、その理由は、その周波数が、シナプス前終末からシナプス間隙をわたり標的細胞に連絡するシナプス前終末の能力を超えないためである。例えば、神経筋接合部では、約100Hz未満の周波数は強直性攣縮を生じさせ、約100Hz〜約150Hzの周波数は、90%枯渇ブロックを約10秒〜4秒で生じさせ、約200Hz〜1000Hzの周波数は90%枯渇ブロックを生じさせる。刺激が、神経を下って伝搬している活動電位を捕捉する神経伝導ブロックは、1kHzという低い周波数で観測されたが、より典型的には5kHz〜10kHzで観測されている。
【0018】
【表2】
一般に100Hz未満の範囲内(例えば、約50Hz)の軸索の刺激は、筋肉の強直性攣縮を生じさせるおそれがある。最終的に、筋肉は疲労し、追加の刺激にはもはや反応しなくなり得る。これは、適用毎に変化し得、適用毎に変化すると予期されるが、これらの刺激パラメータは、妥当なエネルギー消費コストで現在の装置で利用可能であると予期される。A線維は、EMGを介して記録される喉頭運動線維を担当した。小さな副交感遠心性B線維は、より高い活性化閾値を有し、通常、洞房結節での心拍コントロールを担当する。この例は、NMJブロックが、電気刺激を介する活性化と全く同様に、段階的に、標的となっている線維軸索のサイズになることを示した。表2に示されるように、枯渇ブロックの速度は刺激の周波数に依存し、約100Hz〜約1kHzの範囲内のより高い周波数は、その範囲内のより低い周波数よりも素早く神経伝達物質ブロックを提供する。幾つかの実施形態によれば、枯渇ブロックは、比較的高い周波数(例えば、約200Hz〜300Hz)において枯渇ブロックを開始して、高速枯渇(例えば、約50ms以下)を達成し、次に続けて枯渇ブロックの周波数を約100Hzに下げて、ブロックを維持するプロセスによって実施し得る。低い周波数の刺激ほど、少数のパルスを送達するため、低周波枯渇ブロックは、高周波枯渇ブロックよりもエネルギー効率的である。仮に枯渇ブロックが200Hzではなく約100Hzで開始される場合、枯渇ブロックの達成までにより長い時間がかかるであろう。現在の観測に基づいて、100Hzでの枯渇ブロックが約5秒〜10秒かかると考えられる。2(又は3以上の)段階の周波数を使用することによって、ある周波数を使用して枯渇ブロックを比較的素早く誘導し、次に、別の周波数を使用して枯渇ブロックを比較的高率的に維持する等の各周波数の利点を得ることができる。治療は、枯渇ブロックが作成された後、且つ枯渇ブロックが除去される前の時間期間中に送達し得る。幾つかの実施形態は、第1の周波数を用いて枯渇ブロックを作成し、第2の周波数を用いての枯渇ブロックの維持に遷移し、治療を送達し、治療送達が完了した後又は任意の治療中止窓を超えた後、第2の周波数の枯渇ブロックを除去し得る。
【0019】
図5Aは、異なる刺激周波数への神経筋接合部の反応を示す。神経筋接合部は、神経が筋肉と連絡するシナプス接合部の一種である。一般に100Hz未満の範囲内(例えば、約50Hz)での軸索の刺激は、筋肉の強直性攣縮を生じさせるおそれがある。最終的に、筋肉は疲労し、追加の刺激にもはや反応しなくなり得る。シナプス前終末は、約100Hz〜約1000Hzの範囲内の刺激周波数では、シナプス間隙にわたり連絡する能力を枯渇させる。この周波数は、神経伝達物質及び/又はカルシウムが、刺激中の続く活動電位のために十分に高速に補充させないようにするのに十分に高い周波数であり得る。神経伝達物質が神経伝達物質においてブロックされる場合であっても、活動電位はなお、シナプス前終末軸索上の軸索を通って伝搬し得る。1kHzよりも高い周波数で軸索を捕捉する刺激は、活動電位を捕捉し、軸索中を伝搬しないようにする神経ブロックを提供する。
【0020】
図5Aが周波数範囲の単純な例示であり、これらの範囲が様々な用途で可変であることに留意する。図5Bは、異なる刺激周波数への神経筋結合部の反応の別の例示を提供する。図5Bは、活性化と枯渇ブロック範囲との間の遷移期間T1を示す。遷移期間T1は、伝達物質及びシナプス末端器官に依存し得、約70Hz〜130Hzの範囲であり得る。図5Bは、枯渇ブロックと伝導ブロックとの組合せを提供し得る枯渇ブロック範囲と伝導ブロック範囲との間の遷移期間T2も示す。
【0021】
枯渇ブロック、枯渇ブロックと伝導ブロックとの組合せ、及び高周波kHz伝導ブロックの幾つかの特徴を以下に提供する。例えば、枯渇ブロックはより低い周波数、ひいてはより低い電力要件を有し、比較的高速のブロック(<100ms)及び比較的高速の回復(100ms未満で50%超及び10秒で100%)を有する。例えば、枯渇ブロックと伝導ブロックとの組合せ(例えば、約1kHz)は、伝導ブロックに起因して低速線維を極めて高速にブロックし、高kHz周波数を用いて開始し、次に、下げられて、より低周波でブロックを維持し、7ms未満でより低速の線維をブロックし、より高周波のkHzブロックよりも高速の回復を有し得る。例えば、高周波kHz伝導ブロックは高速である(例えば、7ms未満でオン、10ms未満でオフ)が、周波数がより高く、電流要件がより高いことに起因して、よりエネルギー集約的である。
【0022】
例えば、kHz伝導ブロックは、単純に示される1kHzではなく約1kHz〜5kHzというより低い境界を用いて観測し得る。さらに、枯渇ブロックの上限は単純に示される1kHzではなく約2kHzであり得る。さらに、刺激が枯渇から伝導に遷移する周波数は、神経線維及び終板に依存する。高速α線維は、より高い伝導率及び発射率を有し、したがって、必ずしも1kHzでブロックするわけではなく、より低速の線維はより低い周波数(例えば、600Hz)でブロックする。したがって、大半の線維が活性化することができる神経刺激周波数帯、大半の線維が枯渇し得る枯渇ブロック周波数帯、及び大半の線維が活動電位をブロックさせるkHz伝導ブロック周波数帯があり得る。例として、神経刺激周波数帯は、約50Hzまで拡張し得、枯渇ブロック周波数帯は約100Hz〜約700Hzまで拡張し得、kHz伝導ブロック周波数帯は約5kHzから100kHzまで拡張し得る。例えば、約50Hzと約100Hzとの間の遷移又は約70Hzと130Hzとの間の遷移及び約700Hzと約5kHzとの間の別の遷移等の遷移周波数が帯間にあり得る。刺激周波数への神経の反応は、伝達物質及びシナプス末端器官に依存するように見える。したがって、異なるタイプの線維は、遷移周波数内の周波数に対して別様に反応し得る。例として、ある周波数は、幾つかの線維の活性化又は神経刺激を生じさせ得、他の線維では枯渇ブロックを生じさせ得る。刺激は、線維の直径若しくは起源又は電極のロケーションにより、特定の線維に制限し得る。例えば、枯渇ブロック刺激の周波数は、求心性神経と遠心性神経とを区別するか、又は異なるタイプの神経伝達物質を放出する異なる線維を区別することが見つかり得る。枯渇ブロック及び活性化/刺激の両方を提供可能なそのような周波数は、遷移領域で見出され得るが、枯渇ブロック周波数帯内等の周波数帯の1つ内で見出されることもできる。
【0023】
様々な実施形態は、シナプス接合部において枯渇ブロックを使用して、選択的な線維連絡を提供し得る。枯渇ブロックパルスの振幅は、神経線維のうちの幾つかのみの刺激閾値のみよりも大きくなるように制御することができる。したがって、全ての線維が、活性電位を伝搬させる別の刺激信号を用いて刺激され得るが、線維のうちの幾つかのシナプス前終末は、刺激の周波数が枯渇ブロックを生じさせるため、シナプス接合部にわたって連絡する能力を素早く枯渇する。これらの周波数(例えば、約100Hz〜約1000Hz)での刺激は、神経筋接合部がAchを補充するか、又は他の方法で筋細胞と連絡する能力を補充するには高速すぎるように見える。非正弦波波形又は正弦波波形を含め、様々な刺激波形が使用可能である。非正弦波波形は、二相矩形波パルス、単方向用途での準台形波、及びパルス三角波を含み得る直線波パルス電荷平衡波形を含み得る。
【0024】
神経筋接合部の枯渇ブロックは、神経筋接合部の最大痙攣性発射率の約3倍〜5倍である高い発射率から生じる。すなわち、刺激信号の周波数は、生理系が筋収縮をトリガーする能力外にある。観測されたブロックは、筋肉の疲労ではなく接合部の枯渇を原因とする。したがって、神経筋接合部に適用される枯渇ブロックの利点は、枯渇ブロックが筋疲労又は強直性攣縮を生じさせないことである。神経伝達物質枯渇ブロックは、刺激を止めることにより素早く反転可能である。
【0025】
神経連絡(例えば、神経線維の活性化)及び神経刺激治療の一環としての所望の生理学的反応を引き起こす神経刺激は、単に神経刺激又は低周波刺激(例えば、約20Hz)と呼ばれ得、一方、これと比較して、枯渇周波数は高周波数(例えば、約200Hz)と呼ばれ得る。「高振幅低周波」(HALF:high amplitude, low frequency)刺激信号は、刺激閾値を超え得、したがって、小さな線維及び大きな線維の両方の補充に使用し得る。したがって、HALF信号は、必要な全てのA感覚線維及びB遠心性線維を捕捉することにより、刺激の所望の効果を得るために使用し得る。「小振幅高周波」(SAHF:small smplitude, high frequency)刺激信号は、より小さな刺激閾値のみを超える振幅に設定し得、したがって、より低い刺激閾値を有する線維(例えば、より大きな線維又は刺激電極により近い線維)の幾つかのみを補充し、その間、より高い刺激閾値を有する他の線維(例えば、より小さな線維又は刺激電極から更に離れた線維)はなお、HALF刺激を用いて興奮させることができる。枯渇ブロック刺激は、同じ又はより低い振幅を有するより低周波数(例えば、20Hz)で呼び起こされる全ての信号の有効性を相殺する。SAHFは、比較的高い刺激閾値を有する線維であるより小さな線維ではなく、比較的低い刺激閾値を有する線維である大きな線維の神経伝達物質枯渇ブロックを達成するのに使用し得る。幾つかの実施形態では、低周波刺激と同じ又は概ね同じ高振幅を使用して、より高周波数の枯渇ブロック刺激を送達し、低周波刺激を使用した、施される治療の効果を低減又は調整し得る。
【0026】
幾つかの実施形態では、高周波枯渇刺激は、低周波刺激と同じ又は概ね同じ高振幅を使用して送達して、低周波刺激を使用して施される治療の効果を低減又は調整し得る。図6A及び図6Bは、限定ではなく例として、同じ振幅での低周波治療神経刺激及びより高い周波数の枯渇ブロック刺激を送達するのに使用し得る幾つかの波形を示す。図6Aは、高周波搬送波信号が、枯渇ブロックの提供に有効な周波数(約200Hz)にある振幅変調信号を示し、低周波変調信号は、神経刺激治療の神経連絡を引き起こすのに有効な周波数(例えば、約20Hz)にある。図6Bはパルストレインを示し、パルス周波数は、枯渇ブロックの提供に有効であり(例えば、約200Hz)、バースト周波数は、神経への刺激を提供して、治療のために神経反応を引き起こすのに有効である(例えば、約20Hz)。
【0027】
電流振幅及びパルス幅は、軸索が脱分極するか否かを制御し、刺激の周波数は、神経伝達物質が神経末端で枯渇するか否かを制御する。電流振幅及びパルス幅は、神経筋接合部ブロックにより大きな線維のみを選択するように制御し得る。例えば、電流振幅及びパルス幅は、A線維からの神経伝達物質を枯渇させ、より小さな線維からの神経伝達物質を枯渇させないように制御し得るか、又はA線維及びB線維の両方を枯渇させるようにより高い振幅及び/又はより幅の広いパルスを用いて制御し得る。限定ではなく例として、意図される線維の完全な神経伝達物質ブロックは、補充曲線を取得することによって保証し得る。補充曲線は、神経標的の活性化閾値及び飽和閾値を識別し得る。補充曲線は、電流振幅の増大に伴う活動の増大を示し得、次に、活動が、電流振幅の増大に伴ってあまり増大しないプラトーを示し得る。活性化閾値は、神経活動が、電流振幅の増大に伴って増大を開始する場所を反映し、飽和閾値は、神経活動が、電流振幅の更なる増大に応答してあまり増大しない場所を反映する。枯渇ブロック刺激の電流振幅は、活性化閾値よりも高いマージンに設定し得るため、活性化閾値に基づいて決定し得る。飽和閾値は、神経線維の全て又は略全てが活動電位を伝搬する閾値を示す。枯渇ブロック刺激の電流振幅は、ブロックが意図される線維の飽和閾値に基づいて決定し得る。例として、枯渇刺激信号の振幅は、概ね、ブロックが意図される線維の飽和閾値に設定し得るか、線維の飽和閾値よりも高いマージンに設定し得るか、又は飽和閾値よりも低いマージンに設定して、部分ブロックを提供し得る。
【0028】
神経線維から離間された電極から生じる患者の1つ又は複数のバリエーションがあり得るため、処置が実施されて、個々の各患者の選択的線維刺激治療プロファイルを決定することができる。異なる神経標的内の神経線維は、体の異なる部分を支配しているため、特定の処置は、刺激される特定の神経標的に依存する。例えば、頸部迷走神経が標的である場合、プロファイリングされる患者の選択的線維刺激治療は、喉頭振動並びに血圧及び心拍変動を観測することによって決定し得る。したがって、枯渇ブロックを提供する様々な実施形態はまず、神経標的の活性化閾値及び飽和閾値を見つけ得る。電流振幅は、神経標的の飽和閾値の上であるように選択し得、周波数は、所与の用途で、シナプス前終末がシナプス間隙にわたって連絡する能力を素早く枯渇させて、その用途で有効な枯渇ブロックを提供するのに十分に高い周波数(例えば、200Hz)であるように選択し得る。
【0029】
幾つかの実施形態は、刺激を段階的に強化し得る。刺激の段階的な強化は、刺激をより許容可能なものにし得る段階的ブロックを提供し得る。例えば、神経筋接合部枯渇ブロックでは、段階的に強化される刺激は、段階的ブロックの初期期間を作成することにより、刺激の開始時に1つの初期筋活動の力を低減し得る。幾つかの実施形態は、ブロック中、刺激信号の周波数を変更し得る。したがって、より高い周波数刺激が使用されて、ブロックを素早く取得し得、次に、より低い周波数刺激が使用されて、前に得られたブロックを維持し得る。例えば、初期周波数(例えば、260Hz)が使用されて、第2の周波数(例えば、130Hz)が続く枯渇ブロックを素早く達成して、枯渇ブロックを維持し得る。刺激の周波数は、完全な又は90%の枯渇ブロックを達成するのに必要な時間に関連する。例えば、約100Hz未満の周波数は、強直性攣縮を提供する。約100Hz〜約150Hzの範囲内の周波数は、90%枯渇ブロックを約10秒〜4秒で提供する。約200Hz〜1000Hzの範囲内の周波数は、90%枯渇ブロックを1秒未満に(例えば、約数ミリ秒で)提供する。1000Hzを超える周波数は、神経伝導ブロックに入り始める。
【0030】
図7は、限定ではなく例として、枯渇ブロック刺激を送達するシステムの実施形態を示す。示されるシステムは、枯渇ブロックコントローラ722に動作可能に接続された枯渇ブロック神経刺激器721を含む。枯渇ブロック神経刺激器は、操作上、標的神経の近傍に位置決めされる電極を使用して、神経標的に電流を送達するように構成し得る。電極は、単極刺激構成で構成してもよく、又は一般に刺激リード上の電極によって示されるように、双極刺激構成で構成してもよい。枯渇ブロック神経刺激器721は、100Hz〜1kHzの周波数を有する刺激を送達するように構成される。上述したように、この周波数範囲は、シナプス間隙にわたりシナプス後膜と連絡するシナプス前終末の能力を枯渇させる。枯渇ブロックコントローラ722は、枯渇ブロック神経刺激器からの枯渇刺激のタイミングを制御するように構成し得る。例えば、枯渇ブロックコントローラは、枯渇ブロックの開始、枯渇ブロックの終了、又は枯渇ブロックの開始及び終了の両方を制御するように構成し得る。コントローラは、患者開始入力及び/又は臨床医開始入力等の入力を受信し得、枯渇ブロックのタイミングはこの入力に基づき得る。システムが、枯渇ブロックを送達するように構成された移植可能な装置を含む場合、患者開始入力は、磁石であり得るか、又は移植可能な医療装置と通信するように構成された他の通信装置であり得る。したがって、患者は、枯渇ブロックに用いられる、知覚された生理学的状況に応答して、枯渇ブロックを開始し得る。限定ではなく例として、患者は、ブロックを開始して、偏頭痛又は他の痛みを治療し得る。別の例では、臨床医がブロックをトリガーして、外科処置を実行し得る。幾つかの実施形態は、患者又は患者に送達中の治療の状態を識別し得るセンサ入力又は割り込み等の、システムからの入力を自動的に受信し得る。例えば、システムは、別の装置からの信号を受信し得る。そのような一例は除細動器であり、除細動器は、信号を送信して、枯渇ブロックをトリガーし、除細動ショックへの準備として不快さをコントロールし得る。示されるコントローラは、枯渇ブロック信号の振幅及び/又は枯渇ブロック信号のパルス幅を制御して、枯渇ブロック信号に標的神経内の所望の神経線維を捕捉させることもできる。
【0031】
図8は、限定ではなく例として、枯渇ブロック刺激を送達し、治療を送達するシステムの実施形態を示す。そのような治療の例は、様々な神経刺激治療又は心筋治療を含み得る。示されるシステム820は、図7のシステム720と類似点を有し、枯渇ブロック神経刺激器821及び枯渇ブロックコントローラ822に加えて、治療の送達を制御するように構成される治療コントローラに動作可能に接続された治療刺激器を含む。治療コントローラ824及び枯渇ブロックコントローラ822は通信して、例えば、タイミング信号又は治療及び枯渇ブロックの調整に有用な他の情報を提供し得る。治療の神経標的が枯渇ブロックの神経標的と異なるように、治療刺激は1組の電極を使用して送達し得、枯渇ブロック刺激は別の組の電極を使用して送達し得る。治療刺激及び枯渇ブロック刺激は、少なくとも1つの電極を共有し得る。治療刺激及び枯渇ブロック刺激は、治療の神経標的が枯渇ブロックの神経標的であるように、全ての電極を共有し得る。
【0032】
図9は、限定ではなく例として、キロ高周波AC神経ブロックと併せて枯渇ブロック刺激を送達するシステムの実施形態を示す。示されるシステム920は、枯渇ブロック神経刺激器921及び枯渇ブロックコントローラ922を含み、図8のシステム820と類似点を有する。図9に示される実施形態では、治療刺激器は、活動電位が神経中の伝搬しないようにブロックする神経ブロックを提供するように構成されるKHFAC刺激器を含み、治療コントローラは、KHFAC刺激器を制御するように構成されるKHFACコントローラを含む。治療コントローラ924及び枯渇ブロックコントローラ922は通信して、例えば、タイミング信号又は治療及び枯渇ブロックの調整に有用な他の情報を提供し得る。そのようなタイミング信号が使用されて、枯渇ブロックを送達し、KHFAC刺激の開始時に不快な感覚を軽減し得る。枯渇ブロック信号は、発現反応も有するが、枯渇ブロック信号の発現反応は短く、KHFACブロックの発現よりも有害性が低く、枯渇ブロック発現反応は、例えば、振幅の段階的強化等の技法を使用して軽減し得る。
【0033】
図10は、限定ではなく例として、シナプス前終末枯渇ブロックを送達するプロセスの実施形態を示す。1025において、枯渇ブロック刺激が開始される。患者が枯渇ブロック刺激を開始し得る。臨床医が枯渇ブロック刺激を開始し得る。枯渇ブロック刺激は、イベントの検出若しくはセンサ入力に応答して、別のシステムから通信される信号に応答して、又はプログラムされた治療スケジュールに応答して自動的に開始し得る。開始されると、刺激は、刺激期間が完了するまで継続し得る。幾つかの実施形態では、期間が完了する前に、患者若しくは臨床医が刺激をオーバーライド可能であり得、又は期間が完了する前に、システムが刺激をオーバーライド可能であり得る。1026において、刺激期間が完了する場合、プロセスは1025に戻り、刺激を開始する次のコマンドを待つ。1026において、刺激が完了しない場合、プロセスは1027に進み、刺激を続ける。1028において、刺激が完了しない場合、プロセスは1027に戻る。
【0034】
図11は、限定ではなく例として、シナプス前終末枯渇ブロックを滴定するプロセスの実施形態を示す。1129において、枯渇ブロック刺激が送達される。1130において示されるように、刺激が患者にとって耐えられるものである場合、プロセスは1129に戻り、枯渇ブロック刺激を送達し続ける。1130において、刺激が耐えられるものではない場合、プロセスは1131に進み、枯渇ブロック刺激を一時的に中止し、1132に進み、治療を滴定して、治療をより許容できるものにする。1133において、刺激が耐えられるものであるか否かが判断される。耐えられるものではない場合、プロセスは1132に戻り、刺激を更に滴定する。刺激が耐えられるものである場合、プロセスは、1134において、刺激特徴をイネーブル又は再イネーブルし、1129において、枯渇ブロック刺激を送達できるようにする。滴定プロトコールは、刺激の強度を調整するために使用されて、刺激によって捕捉される軸索数を増減し得る。幾つかの実施形態では、滴定プロトコールは、静止又は「洗浄」期間を提供して、神経伝達物質の回復を可能にしてから、刺激の強度を調整する。
【0035】
図12は、限定ではなく例として、シナプス前終末枯渇ブロックを検証するプロセスの実施形態を示す。幾つかのシステム実施形態には、時間期間にわたり刺激をディセーブルすることにより、捕捉を確認することができるシステム検証特徴を設計し得る。刺激のディセーブルは、臨床医開始であってもよく、患者開始であってもよく、患者ディセーブル機能を用いて自動的であってもよく、又は臨床医開始、患者開始、患者ディセーブル機能を用いての自動のうちの2つ以上の組合せであってもよい。幾つかの実施形態は、最良の治療送達モードを保証するために、ある時間期間後、自動的に再イネーブルし得る。1235において、枯渇ブロック刺激は送達される。1236において、有効な治療送達へのシステムチェックのときではない場合、プロセスは1235に戻り、引き続き治療を送達する。1236において、システムチェックのときである場合、プロセスは1237に進み、刺激を一時的に中止し(1237)、1238において、システムチェックを実行できるようにする。患者は、枯渇ブロックの有利な効果が停止又は低減されたことを感じることが可能であり得、これは、刺激が有効な枯渇ブロックを提供していることを確認する。センサが使用されて、シナプス後活動(例えば、神経刺激治療が頸部迷走神経に適用されており、枯渇ブロックが、喉頭筋を支配する神経線維のシナプス前終末の枯渇ブロックを提供するために適用される場合、喉頭振動)をモニタし、枯渇ブロックが送達中であるときと、枯渇ブロックが送達されていないときとの間でのシナプス後活動の変化を感知し得る。1239において、システムチェックが完了すると、1235において、プロセスは、枯渇ブロック刺激の送達に戻り得る。
【0036】
枯渇ブロックは、単独で、又は別のブロッキング技法若しくは別の刺激治療と併せて使用し得る。用途は、限定ではなく例として、枯渇ブロックを適用して、患者に痛みの軽減を提供し得る。例えば、枯渇ブロックは、適切な神経に対して実施して、腰痛、幻肢痛、又は頭痛を低減又は回避し得る。枯渇ブロックは、キロヘルツ高周波AC(KHFAC)ブロックよりもはるかにエネルギー効率的である。枯渇ブロック刺激及びKHFACブロックの特定のパラメータに応じて、枯渇ブロック刺激は、約100倍、効率的であり得る。痛みをコントロールする幾つかの実施形態は、痛みを生じさせ得る適用治療と併せて適用し得る。限定ではなく例として、幾つかの実施形態は、心臓除細動器/除細動器を用いて枯渇ブロック機能を提供する。システムは、単一の装置又は複数の装置であり得る。システムは、心臓除細動器/除細動器により心臓にわたり適用される治療ショックの準備又は治療ショック中に枯渇ブロックを提供するように構成され、したがって、ショックに関連する痛みをなくすか、又は低減する。幾つかの実施形態は、偏頭痛又は他の痛みを治療するように構成し得る。
【0037】
例では、枯渇ブロックは、高周波神経ブロックと共に実施されて、高周波神経ブロックに関連する痛みを回避し得る。KHFACは、末梢神経中の神経伝導をブロックすることができる。しかし、KHFACは、最初に開始するとき、神経中に強い発射バーストを生み出し、不快な感覚を生じさせ得る。この発現反応は、数ミリ秒から30秒超、続くことがあり得る。枯渇ブロックは、KHFACブロックの送達と共に、又は直前に送達して、KHFACの発現反応により誘導される痛みがある副作用なしで、又はDCブロックと共に生じる安全の問題なしで完全な神経ブロックを生成し得る。幾つかの実施形態では、同じ電極対が使用されて、枯渇ブロック及びKHFACブロックを送達し得る。幾つかの実施形態では、神経伝達物質枯渇ブロックは、双極電極を使用して送達し得、KHFAC神経ブロックは、単極電極を使用して送達し得る。枯渇ブロック電極は、KHFAC神経ブロックの単極電極を囲み得る。
【0038】
図13は、限定ではなく例として、高周波AC神経ブロックを用いてシナプス前終末枯渇ブロックを送達するプロセスの実施形態を示す。プロセスは、1340において、開始信号を待つ。開始信号に応答して、プロセスは、1341において、枯渇ブロック刺激の送達に進む。枯渇ブロック刺激は、枯渇ブロックが達成されるまで続けられる。1342において、枯渇ブロックが達成される場合、プロセスは1343に進み、KHFAC神経ブロック刺激を送達して、神経中の活動電位をブロックする。枯渇ブロックは、KHFACの発現に関連する不快さをブロックし得る。KHFACが送達され、活動電位がブロックされるようになった後、枯渇ブロックは停止し得る。KHFACは、1343において、KHFACプロセスが1344において完了するまで、引き続き送達される。
【0039】
図14は、限定ではなく例として、高周波AC神経ブロックを用いる準備として、シナプス前終末枯渇ブロックを強化するプロセスの実施形態を示す。図14に示されるプロセスは、図13に示されるプロセスと同様であるが、枯渇ブロックの刺激の振幅は、段階的に強化されて、枯渇ブロックの耐性を回避する。プロセスは、1445において、開始信号を待つ。開始信号に応答して、プロセスは、1446において、枯渇ブロックの振幅を段階的に強化することにより、枯渇ブロックを開始し、次に、1447において、枯渇ブロックの送達に進む。枯渇ブロック刺激は、枯渇ブロックが達成されるまで続けられる。1448において、枯渇ブロックが達成される場合、プロセスは1449に進み、KHFAC神経ブロック刺激を送達して、神経中の活動電位をブロックする。枯渇ブロックは、KHFACの発現に関連する不快さをブロックし得る。KHFACが送達され、活動電位がブロックされるようになった後、枯渇ブロックは停止し得る。KHFACは、1449において、KHFACプロセスが1450において完了するまで、引き続き送達される。
【0040】
例では、枯渇ブロックは、様々な用途で使用されて、部分枯渇ブロックを提供し得、部分枯渇ブロックは段階的枯渇ブロックと呼ばれることもある。電流の振幅は、飽和閾値未満に低減し得、それにより、標的領域中の神経線維の幾つかのみが捕捉され、それにより、枯渇ブロック周波数が適用されるとき、シナプス間隙にわたって連絡する能力を枯渇するシナプス前終末の割合を決める。段階的枯渇ブロックは、痙攣等の系内神経活動を低減又は除去するのに使用し得る。臨床的には、痙攣は、抑制の欠如により、筋肉の過度の収縮を生じさせる伸張への速度依存抵抗として定義される。例えば、脳卒中後の患者は、腕又は脚に痙攣を生じさせ得る。部分枯渇ブロックは、患者が腕又は脚の幾らかのコントロールを得られるようにし得る。段階的ブロックは、過剰な活動又は別ソースからの不要な刺激をブロックしながら、「自然な」反射又は筋活動をなお進めさせ得る。段階的ブロックは、他の刺激(例えば、心筋、筋、又は他の神経刺激)の副作用であり得る誘導神経活動を低減又は除去するためにも使用することができる。したがって、段階的枯渇ブロックは、副作用の回避に十分な可逆的な要望に応じたブロックを提供する。
【0041】
例では、枯渇ブロックは、痙攣性末梢神経痛を軽減するために実施し得る。これらの症状発現は、何十分にもわたり1日に数回生じ得る。神経伝達物質ブロックは、患者により開始することもでき、又はセンサを使用して自動的に開始することもできる。様々な実施形態は、一方向でのブロック(痙攣を生じさせている過剰な興奮入力のブロック)を実施するように、神経線維刺激を指示されたように伝搬させる技法を実施し得る。神経は、逆方向に刺激されて、筋制御を提供し得る。
【0042】
図15は、限定ではなく例として、シナプス前終末枯渇ブロックを送達し、次にブロックを低減して、ブロックされる軸索の数を低減し、より自然な神経反応を可能にするプロセスの実施形態を示す。1515において、プロセスは開始信号を待つ。開始信号を受信すると、1552において、プロセスは、1553において枯渇ブロックが達成されるまで、枯渇ブロック刺激を送達する。枯渇が達成された後、1554において、枯渇ブロック信号の振幅又は周波数は低減され得、これは、より自然な反応を促進するのに望ましいことがある。プロセスは、1555においてプロセスが終了するまで、低減された枯渇ブロック刺激で継続し得る。
【0043】
図16は、限定ではなく例として、シナプス前終末枯渇ブロックを強化し、次に、ブロックを低減して、ブロックされる軸索の数を低減し、より自然な神経反応を可能にするプロセスの実施形態を示す。図16に示されるプロセスは、図15に示されるプロセスと同様であるが、プロセスは更に、枯渇ブロックへの耐性を改善させるのに有利であり得る枯渇ブロック刺激の振幅を段階的に強化する。1656において、プロセスは開始信号を待つ。開始信号を受信すると、プロセスは、枯渇ブロック信号の振幅を段階的に強化することによって枯渇ブロックを開始し、次に、1659において枯渇ブロックが達成されるまで、1658において、枯渇ブロック刺激を送達する。枯渇が達成された後、枯渇ブロック信号の振幅又は周波数は、1660において、低減し得、これは、より自然な反応を促進するのに望ましいことがある。プロセスは、1661においてプロセスが終了するまで、低減された枯渇ブロック刺激で継続し得る。
【0044】
例では、神経伝達物質ブロックが実施されて、外科処置又は焼灼処置等の医療処置中、痛み又は適用される麻酔を低減し得る。例として、高血圧治療での腎神経焼灼は現在、一般的な麻酔の使用を含む。しかし、ブロック刺激の開始の約0.1秒以内で神経伝達物質連絡を奪う、本明細書に記載される神経伝達物質ブロックは、腎神経焼灼処置中、痛みを低減し、ひいては一般的な麻酔の必要性をなくすことに有効であり得ると考えられている。神経伝達物質ブロックは使用されて、筋肉への神経線維上の連絡及び感覚器官(例えば、痛み)から脊椎及び脳への神経線維上の連絡を止めることができる。
【0045】
一般的な麻酔を枯渇神経ブロックで置換することにより、焼灼処置を非常に素早く実行することを可能にすることができる。焼灼処置は、焼灼カテーテルを腎動脈に挿入して位置決めすること及びバルーンの膨張、インピーダンス測定を介しての接触確認、近位神経ブロックの開始、焼灼、並びにカテーテルの抜き取りを含み得る。幾つかの実施形態では、システムが使用されて、焼灼前と焼灼後との近位電極刺激の比較を使用して、成功のフィードバックを医師に提供し得る。焼灼前後のこの近位刺激が使用されて、十分な神経が焼灼されたことを確認することができる。処置全体は、約20分で達成し得る。この時間の大部分は、処置の開始時にカテーテルを挿入するため(例えば、約15分)及び処置の終了時にカテーテルを抜き出すため(例えば、約5分)に使用される。近位神経ブロックは、処置に約1秒程度の短い時間しか追加しない。さらに、神経伝達物質ブロックは、焼灼後、約1秒で素早く反転される。
【0046】
焼灼される特定の生理学的部位は、治療への観測可能な反応を素早く示すことができる。焼灼前に、枯渇ブロックが適用されて、標的領域をテストし、標的領域への焼灼治療が成功するか否かを判断し得る。したがって、焼灼ロケーションは、焼灼前に確認し得る。この焼灼前テストは、焼灼成功の機会を増大させる可能性が高い。さらに、システムは、焼灼後であるが、カテーテル抜き出し前に使用されて、十分な腎組織が焼灼されたか否かを判断し得る。腎臓の脱神経に加えて、焼灼処置の他の例としては、頸動脈小体の脱神経及び心房細動焼灼が挙げられる。
【0047】
図17は、腎臓及び腎神経の生理学を一般的に示す。血液は、大動脈1762から腎動脈1763を通り腎臓1764に流れる。腎神経は降下し、腎動脈に沿って腎臓に進む複雑なパターンの神経線維1765に分岐する。腎神経の脱神経は、高血圧を治療する方法として示唆されている。患者の全身の血圧は、これらの神経の幾つかを焼灼することによって低減することができる。腎神経焼灼は、カテーテルを大動脈を通って腎動脈まで挿入することと、無線周波エネルギーを送り、腎組織の幾つかを焼灼することとを含み得る。枯渇ブロック電極は、焼灼カテーテル内に組み込まれて、枯渇ブロック刺激を神経標的に送達し得る。枯渇ブロック電極は、焼灼カテーテル上に位置決めされて、処置中、痛みをブロックすることが望まれる神経を標的とし得る。図18は、限定ではなく例として、枯渇ブロックを提供して、焼灼処置に関連する痛みを軽減するのに使用し得る等の近位枯渇ブロック電極1867を用いる焼灼カテーテル1866を示す。枯渇ブロック電極は、高速枯渇ブロックを提供して、焼灼の標的を確認するに当たり使用するために、焼灼カテーテル上の、焼灼を実行すべき標的の近傍に位置決めし得る。例えば、腎臓近傍を刺激し、心拍、血圧等の生体電位の急激な変化についてモニタすることにより、電極が所望のスポットにあるか否かを理解することができる。次に、近位をブロックして遠位を刺激して、急激な変化が持続するか否かを調べることができ、次に、近位をブロックし、遠位で神経組織を加熱又は他の方法で破壊することができる。
【0048】
神経組織によって複雑に脱神経される他の解剖学的領域としては、心臓神経叢(GP)が挙げられる。GPは、心臓の心外膜面上の心脂肪体及び左心耳と左肺静脈との間に配置され、AFの発生源であると考えられているマーシャル靱帯に存在する組織立った神経である。GPは、求心性感覚線維並びに遠心性交感神経及び副交感線維を含め、相互接続ニューロン及び軸索を有する複数の神経節を構成する心外膜神経網の一部である。
【0049】
例えば、GPの焼灼は、AF治療の潜在的な標的である。しかし、心外膜RF GP焼灼は、介在する心房心筋への損傷に繋がり、したがって、罪のない組織の不必要な焼灼は回避されるべきである。心房細動でのGP焼灼の考察は、http://www.intechopen.com/books/atrial−fibrillation−basic−research−andclinical−applications/ganglionated−plexi−ablation−for−atrial−fibrillationから入手可能なヨンジャン(Yong Zhang)、メイガオ(Mei Gao)、ジェンロンワン(Jiangroung Wang)、及びインロンホウ(Yinglong Hou)(2012)、心房細動での神経叢焼灼、心房細動−基礎研究及び臨床的応用(Ganglionated Plexi Ablation for Atrial Fibrillation, Atrial Fibrillation−Basic Research and Clinical Applications)、ジョンイルチョイ教授(Prof. Jong−Il Choi)(編纂)、ISBN:978−953−307−399−6、InTechに見出し得、これは参照により本明細書に援用される。この引用文献は、GPが、右前GP(ARGP)を右上PV(RSPV)−心房接合部に、右下GP(IRGP)を下大静脈と両心房との接合部に、左上GP(SLGP)を左上PV(LSPV)の近傍−心房接合部及び左肺動脈に、並びに左下GP(ILGP)を左下PV(LIPV)−心房接合部に含むことを示す。
【0050】
幾つかの実施形態は、カテーテル手法を使用して実行し得る等の脚の動脈及び静脈の筋肉への神経を枯渇されるのに使用し得る。これは、脚の筋肉を緩め、素早く血圧降下を提供することにより、高血圧の治療に使用し得る。ブロックではなく、幾つかの実施形態は、これらの筋肉を刺激して、低血圧を治療するか、又は脚から血液を「ポンピング」し得る。これは、より大きな心臓前負荷を提供し、心臓補助装置のように機能し得る。刺激とブロックとの組合せが使用されて、血液をよりよく汲み上げるか、又は動脈/静脈の周囲/近傍の筋肉をより緩ませ、ひいてはよりよい流れを得ることができる。
【0051】
幾つかの電極は、比較的平滑な表面を有し得る。幾つかの電極は、血管壁中に幾らかの距離、侵入する突起部を有し、神経への近接度を改善し、且つ/又は血管内への「固定」を改善し得る。幾つかの電極は、固定を改善し得る非侵入面を有し得る。突起部は、「スパイク」又は「バンプ」であり得る。突起部は、より確定的な表面接続を提供するように構成し得、より高い神経選択性を提供し得る。例えば、スパイクは血管壁内に入り込み、電極先端部を神経標的により近づける。したがって、突起部は、電極を神経により近づけるとともに、血管壁の幾らか又は全てを貫通することにより、電極のアンカリングを改善し得る。これらの突起部(例えば、スパイク)は、装置が拡張した後、表面に係合し得る。拡張可能な装置は、ステントと同様であり得る。突起部は、リング上にあり、移植処置中、膨張可能な装置(例えば、バルーン)により、外側に押し出されて、血管壁に係合し得る。
【0052】
上記詳細な説明は、限定ではなく例示を意図する。したがって、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲及びそのような特許請求の範囲が権利を有する均等物の全範囲を参照して決定されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18