(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484714
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】燃料電池用オーステナイト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20190304BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20190304BHJP
H01M 8/021 20160101ALI20190304BHJP
H01M 8/14 20060101ALN20190304BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
H01M8/021
!H01M8/14
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-528205(P2017-528205)
(86)(22)【出願日】2015年12月22日
(65)【公表番号】特表2018-501402(P2018-501402A)
(43)【公表日】2018年1月18日
(86)【国際出願番号】KR2015014087
(87)【国際公開番号】WO2016105079
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年5月25日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0191167
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,グァン ミン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ゾン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】ゾ,ギ フン
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ボ ソン
【審査官】
守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/132992(WO,A1)
【文献】
国際公開第2015/159554(WO,A1)
【文献】
国際公開第2016/068009(WO,A1)
【文献】
特開2013−117039(JP,A)
【文献】
特開2005−340163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.05〜0.09%、Si:0.5%以下(0を除く)、Mn:2.5〜5.0%、Cr:21〜23%、Ni:10〜12%、Nb:0.2〜0.7%、N:0.25%以下(0を除く)、残部はFe及び不可避な不純物からなり、前記不純物はAl:0.2%以下(0を除く)、S:0.003%以下(0を除く)、B:0.01%以下(0を除く)を含み、
650℃の溶融炭酸塩の環境に2000時間露出されれば、表面に接触抵抗が80mΩ*cm2以下のCr酸化物とMn酸化物とを含むスケールが形成されることを特徴とする燃料電池用オーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項2】
前記Cr酸化物はCr−Mn−Oスピネル相を含み、
前記Mn酸化物はCr−Mn−Oスピネル相及びFe−Mn−Oスピネル相を含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用オーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項3】
前記Mn酸化物には、Nbがドーピングされたことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用オーステナイト系ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用オーステナイト系ステンレス鋼に係り、より詳しくは、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)の構造材として使用可能な燃料電池用オーステナイト系ステンレス鋼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC、Molten Carbonate FuelCell)は、効率が高く、環境に優しい発電装置である。溶融炭酸塩型燃料電池の主要構成要素は、電気化学反応が起こるアノード及びカソード、炭酸塩電解質を含むマトリックス、電気集電及びガス分配のための集電体、電気伝導及びガスの流出入のための分離板などからなる。アノード集電体としては、アノード環境で安定なニッケル、ニッケル合金、STS 310Sなどを用い、カソード集電体としては316L、分離板としては、316L又は310Sを使用している。
【0003】
電解質は、一般的に、溶融炭酸塩型燃料電池の作動温度である650℃において溶融状態で存在する。集電体及び分離板は、650℃の溶融炭酸塩並びにアノード及びカソードで発生するガスに露出されて腐食される危険が高いという問題がある。このように、集電体及び分離板に腐食が発生した場合は、ステンレス鋼の表面に高抵抗を有する非導電性の腐食生成物が形成され、これによる抵抗の増加及び電解質の損失が発生して燃料電池全体の性能の減少を引き起こす。
【0004】
特に、現在、溶融炭酸塩型燃料電池のカソード集電体の素材として使われるSTS 316L素材は、導電性が優れているという長所はあるが、耐食性が比較的低いため、長期間使用する際には腐食生成物が急激に増加して、セルの性能低が低下するという致命的な短所がある。
【0005】
溶融炭酸塩型燃料電池のステンレス鋼の腐食問題を解決するための方法として、従来開示された溶融炭酸塩型燃料電池の分離板製造方法(特許文献1)、溶融炭酸塩型燃料電池用分離板の耐腐食コーティング方法(特許文献2)、及び溶融炭酸塩型燃料電池の分離板(特許文献3)などの文献には、ステンレス鋼の表面に耐蝕コーティングを適用する方法が提示されている。
【0006】
しかし、ステンレス鋼の表面にニッケルやアルミニウムをコーティングして耐食性を向上させる方法は、耐食性自体の向上を図ることはできるが、別な問題点も存在する。例えば、ニッケルコーティング部を形成した場合には、ニッケルコーティング部に炭化物が形成されるという浸炭現象により耐食性が低下することがあり、アルミニウムコーティング部を形成した場合には、アルミニウム酸化物が形成されて接触抵抗を低下させるなどの問題が発生する。
【0007】
また、分離板と電極とが接触する部分にTiNをコーティングし、その上にまたNiをコーティングして耐食性を向上させる方法は、ステンレス鋼の表面に形成される腐食生成物自体の導電性を制御することができないし、更に、コーティングのための追加費用によって分離板の製造費用を増加させることになる。
従って、別途のコーティング工程を省略しながらも高い導電性と耐食性とを維持することができる新規なステンレス鋼の提供が求められているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国登録特許10−0259213号公報
【特許文献2】韓国登録特許10−1311784号公報
【特許文献3】韓国登録特許10−0435420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題を解決するために案出されたものであって、本発明の目的は、高温の環境で接触抵抗が一定以下に維持されるた燃料電池用オーステナイト系ステンレス鋼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
質量%で、C:0.05〜0.09%、Si:0.5%以下(0を除く)、Mn:2.5〜5.0%、Cr:21〜23%、Ni:10〜12%、Nb:0.2〜0.7%、N:0.25%以下(0を除く)、残部はFe及び不可避な不純物
からなり、前記不純物はAl:0.2%以下(0を除く)、S:0.003%以下(0を除く)、B:0.01%以下(0を除く)を含み、
650℃の溶融炭酸塩の環境に2000時間露出されれば、表面に接触抵抗が80mΩ*cm2以下のCr酸化物とMn酸化物とを含むスケールが形成されることを特徴とする。
【0012】
前記Cr酸化物はCr−Mn−Oスピネル相を含み、前記Mn酸化物はCr−Mn−Oスピネル相及びFe−Mn−Oスピネル相を含むことを特徴とする。
前記Mn酸化物には、Nbがドーピングされたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
前記目的を果たすために、本発明の一実施例による燃料電池用オーステナイト系ステン
レス鋼は、
質量%で、C:0.05〜0.09%、Si:0.5%以下(0を除く)、M
n:2.5〜5.0%、Cr:21〜23%、Ni:10〜12%、Nb:0.2〜0.
7%、N:0.25%以下(0を除く)、Al:0.2%以下(0を除く)、S:0.0
03%以下(0を除く)、B:0.01%以下(0を除く)、並びに残部Fe及び不可避
な不純物を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1a】本発明の一実施例による母材にスケールが形成された様子を示した写真。
【
図1b】本発明の一実施例による母材及びスケールに含まれたOの濃度を示すEPMA分析写真。
【
図1c】本発明の一実施例による母材及びスケールに含まれたCrの濃度を示すEPMA分析写真。
【
図1d】本発明の一実施例による母材及びスケールに含まれたFeの濃度を示すEPMA分析写真。
【
図1e】本発明の一実施例による母材及びスケールに含まれたMnの濃度を示すEPMA分析写真。
【
図2a】比較例による母材にスケールが形成された様子を示す写真。
【
図2b】比較例による母材及びスケールに含まれたOの濃度を示すEPMA分析写真。
【
図2c】比較例による母材及びスケールに含まれたCrの濃度を示すEPMA分析写真。
【
図2d】比較例による母材及びスケールに含まれたFeの濃度を示すEPMA分析写真。
【
図2e】比較例による母材及びスケールに含まれたMnの濃度を示すEPMA分析写真。
【
図3】本発明の実施例と従来の316L鋼を650℃の溶融炭酸塩に300時間浸漬した後の表面の腐食状態を比べた写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここで用いられる専門用語は、単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使われる単数形は、文言がこれと反対の意味を示さない限り複数形も含む。明細書で使われる「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素及び/又は成分を具体化し、他の特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素、成分及び/又は群の存在や付加を除くものではない。
【0016】
別に定義はしていないが、ここで使われる技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を持つ。普通に使われる辞書に定義されている用語は、関連技術文献と現在開示されている内容に符合する意味を持つものとして追加解釈されるし、定義されない限り理想的又は非常に公式的意味として解釈されない。
【0017】
以下、添付の図面を参照して、本発明の好ましい実施例による燃料電池用オーステナイ
ト系ステンレス鋼について説明する。
本発明は、C:0.05〜0.09%、Si:0.5%以下(0を除く)、Mn:2.
5〜5.0%、Cr:21〜23%、Ni:10〜12%、Nb:0.2〜0.7%、N
:0.25%以下(0を除く)、Al:0.2%以下(0を除く)、S:0.003%以
下(0を除く)、B:0.01%以下(0を除く)(以上、
質量%)、並びに残部Fe及
び不可避な不純物
からなるオーステナイト系ステンレス鋼である。
【0018】
以下、各成分の数値限定の理由について述べる。同時に、下記の%は全て
質量%を意味
する。
C:Cは、高溶鋼化による材料の強度を増加することに有効で、ステンレス鋼を製造す
るための必須元素である。このような特性を示すために最低0.05%の含量が必要であ
る。但し、過多に添加されれば、耐食性に有効なCrのような元素と反応して炭化物を形
成し、このような炭化物が形成される結晶粒界の回りのCr含量を下げて耐食性を減少さ
せる。従って、耐食性の極大化のためには、含量を0.09%以下に制限することが望ま
しい。
【0019】
Si:Siは、ステンレス鋼を製造する時脱酸剤として使われ、酸化物で形成される場合は耐食性を向上させることができるが、過度に添加された場合には、電気伝導度が低下することがあるので、0.5%以下に制限することが望ましい。
Mn:Mnは、オーステナイト安定化元素としてNiの代わりに利用できる元素であり、高温の酸化環境で発生されるスケールの内部に形成されるMn酸化物は、Fe、Cr酸化物とスピネル(Spinel)相を形成して電気伝導度を向上させる。しかし、過多に添加された場合には、逆に耐食性を低下させることがあるので、Mnの含量は、2.5〜5%に制限することが望ましい。
【0020】
Cr:Crは、ステンレス鋼における耐食性及び耐酸化性の向上のために必ず添加しなければならない合金元素であって、含量を増やすほど耐食性を増加させることができる。しかし、Crは、フェライト安定化元素であるため、オーステナイト相の安定化のためにはCrの増加に合わせて高価なNi含量を増加させなければならないし、これは鋼のコストを増加させる原因となる。従って、オーステナイト相の分率を維持しながらSTS 316L以上の耐食性を確保するためには、Cr含量を、21〜23%に制限することが望ましい。
【0021】
Ni:Niは、Mn及びNと共にオーステナイト相を安定化させる元素であって、コスト削減のために高価なNiを節減し、MnとNの含量を増加させることが望ましい。しかし、Niの含量をあまりにも減少させた場合は、これの代わりに大量に添加されるNによって耐食性及び熱間加工性が低下することがあり、Ni含量が減少することに伴うCr含量の減少によって耐食性の確保が困難となるので、Ni含量を、10〜12%に制限することが望ましい。
【0022】
Nb:Nbは、高温強度及びクリップ強度を向上させるのに有効な元素であり、Mn酸化物内にドーピングされて電気伝導度を向上させることができる。しかし、含量が多すぎる場合には、結晶を微細化させるので熱間加工性を低下させる。従って、Nbの含量は、0.2〜0.7%に制限することが望ましい。
【0023】
N:Nは、オーステナイト安定化元素であって、高温強度と耐食性を同時に向上させる元素である。しかし、過多に添加された場合は、熱間加工性を減少させて気孔などの不良を引き起こすので、0.25%以下に制限することが望ましい。
【0024】
B:Bは、高温で熱間加工性を向上させる合金元素であって、過多に添加された場合には、延性、靭性及び加工性を阻害するので、0.01%以下に制限することが望ましい。
Al:Alは、結晶の粒度を制御することができて脱酸剤として使われる元素である。しかし、過多に添加した場合は、高温の溶融炭酸塩の環境で鋼の表面に非導電性のAl酸化物を形成して電気抵抗値を増加させるので、0.2%以下に制限することが望ましい。
【0025】
S:Sは、微量の不純物元素であって、結晶粒界に偏析されて熱間圧延の際に加工クラックを起こす主な原因であるため、できるだけ低い含量、好ましくは0.003%以下に制限する。
本発明による燃料電池用オーステナイト系ステンレス鋼は、650℃の溶融炭酸塩の環境に2000時間露出されれば、表面に接触抵抗が80mΩ*cm
2以下のスケールが形成されることが望ましい。
【0026】
溶融炭酸塩型燃料電池の作動温度である650℃で長期間耐腐食性と低い接触抵抗値を維持することができなければ、このような燃料電池の構造材として使うことができない。詳しいことは後述するが、本発明では表面に形成されるスケールに接触抵抗が低いマンガン酸化物を含ませることで、このような問題を克服しようとした。
【0027】
スケールは、Cr酸化物とMn酸化物とを含むことが望ましい。
Cr酸化物は、耐食性を示すための必須要素であるが、それ自体だけでは電気伝導度が低いため、燃料電池の構造材として使用することが不可能である。よって、電気伝導度の高いMn酸化物を共に形成させ、これを通じて通電できるようにすることで燃料電池の構造材として使用できるようになる。
【0028】
Cr酸化物はCr−Mn−Oスピネル相を含み、Mn酸化物はCr−Mn−Oスピネル相及びFe−Mn−Oスピネル相を含むことが望ましい。
スピネル相はその構造的特性によって強磁性を帯びやすい。従って、Fe
3O
4のようなスピネル相にFe原子1個がMnに置換されたFe
2MnO
4や、[Mn
2+、Cr
2+](Cr
3+、Mn
3+)
2O
4のようなスピネル相を形成することで、高い耐食性と高い電気伝導度とを共に獲得できる。
【0029】
Mn酸化物には、Nbがドーピングされることが望ましい。NbがドーピングされたMn酸化物は、より高い電気伝導度を帯びるので、本発明で求める高い電気伝導度のスケールを形成するに役に立つためである。このために、本発明の造成範囲の0.2〜0.7%のNbを添加する。
【0031】
本発明では、耐食性及び電気伝導度が優れた溶融炭酸塩型燃料電池用オーステナイト系ステンレス鋼を得るために、各種合金元素の添加量を変えながら、各々の実施例と比較例との接触抵抗を測定した。接触抵抗とは、実験に使われた鋼で生成されたスケールとNiOカソードとの間の抵抗値を意味し、この値は、スケールの電気抵抗値と比例するようになる。
【0032】
表1は、実験に用いた鋼種に対する合金組成及び接触抵抗を測定した結果を示したものである。実験方法は、650℃の溶融炭酸塩の環境下で、各々の鋼種を2000時間露出させた後、表面に生成されたスケールの電気伝導度を測定した値である。比較例及び実施例の電気伝導度が、STS 316Lに比べて高い値を示した鋼は不良と判定し、低い値を示した鋼は良好と判定することができる。実施例は本発明の鋼の組成範囲を含むオーステナイト系ステンレス鋼を対象とし、比較例は本発明の鋼の組成範囲を逸脱したオーステナイト系ステンレス鋼を対象とした。
【0033】
表1に示すように、310Sの接触抵抗値は、現在、溶融炭酸塩型燃料電池のカソード集電体として使用中の316Lの接触抵抗値に比べて大きい。これは316Lに比べて高いCr量に基づいたもので、スケール内に非導電性のCr酸化物がより多く形成されるためである。
【0034】
比較例1、2の接触抵抗値は316Lに比べて高い値を示すが、これは、CrとAlの含有量が多くて、Mnの含量が少ないことに基づくものである。つまり、電気伝導度が高いマンガン酸化物が少ししか形成されず、非導電性のクロム及びアルミニウム酸化物が多く生成された結果、接触抵抗が高く表れたのである。
【0035】
一方、実施例1、2、3は、316Lに比べてCr含量が高いにもかかわらず、316Lに比べてむしろ接触抵抗値が低い値を示している。これは、鋼の中に多く含まれているMnが酸化されてスケール内に分布するためである。Mn酸化物が形成されつつFe又はCrと共に高導電性のスピネル相(Fe−Mn−O、又はCr−Mn−O)を形成するためである。特に、実施例2は、実施例1に比べて低い接触抵抗を示すが、これは高いNb含量によるMn酸化物内のNbドーピングによって、接触抵抗が減少したためである。
【0036】
図1a〜
図1e、及び
図2a〜
図2eは、実施例と比較例とのスケール内の主な合金元素の分布を示したEPMA分析結果である。
図1a〜
図1eは実施例1、
図2a〜
図2eは比較例1をそれぞれ650℃の溶融炭酸塩の環境下に2000時間露出させた後、表面に生成されたスケールを分析したものである。
それぞれのEPMA分析写真において、
図1a及び
図2aは、スケールが形成された母材の断面を電子顕微鏡で撮影した写真であり、
図1b及び
図2bは、
図1a及び
図2aの該当位置のO含量示す写真である。
【0037】
青色は該当元素が少ないいことを、赤色は該当元素が多いことを示す。青色から緑色、黄色、オレンジ、赤色の順にだんだん量が多くなることを理解することができる。
同様に、
図1c及び
図2cはCrの含量を、
図1d及び
図2dはFeの含量を、
図1e及び
図2eはMnの含量を示すものである。
【0038】
図1a〜
図1eに図示するように、実施例1のMnはスケール(写真で上側表面)内に酸化物の形態で充分存在し、その位置がFe及びCrの位置と同じである。従って、実施例1のMnは、スケール内にFe又はCrと結合して複合的なスピネル相を形成していることが分かる。これにより、高いCr含量にもかかわらず316Lより低い接触抵抗値を得られるのである。
しかし、
図2aないし
図2eに図示するように比較例1は、スケール内にCrとFeが存在するが、Mnの濃度が十分ではないことが分かる。このように、Mn酸化物がスケール内部に形成されていないため、接触抵抗が高くなる。
【0039】
図3に図示するように、316Lと実施例1とをそれぞれ650℃の溶融炭酸塩に300時間浸漬した後、表面に生成したスケールを全て除去した後の試片の写真を、本発明と従来の鋼の耐食性の差が明らかになる。316Lは溶融炭酸塩に浸漬されている間、溶解されて体積が減少されたことが分かるが、実施例1は体積の変化がほとんどないうえ、316Lに比べて耐食性が向上したことが分かる。これは316Lに比べて実施例1のCr含量がもより高いためである。高温の溶融炭酸塩の環境で鋼の表面に形成されるCr酸化物によって鋼の基地組織を保護することで耐食性を向上させるのである。但し、従来はCr酸化物だけが存在して電気伝導度が低下されたが、本発明ではMn酸化物も形成させて電気伝導度の低下を防止することができる。
【0040】
従って、実施例1、2、3は316Lに比べてより高い耐食性は勿論、より優れた導電性も確保することができる。
以上、添付の図面を参照して本発明の実施例を説明したが、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明がその技術的思想や必須的特徴を変更しなくても別の具体的な形態で実施できることを理解することができる。
【0041】
そのため、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的なものではないことを理解しなければならない。本発明の範囲は、前記詳細な説明よりは後述する特許請求範囲によって示されるし、特許請求範囲の意味及び範囲、そしてその均等概念から導出される全ての変更、又は変更された形態が本発明の範囲に含まれるものとして解釈されなければならない。