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特許6484716リーン二相系ステンレス鋼及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484716
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】リーン二相系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20190304BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20190304BHJP
   B22D 27/04 20060101ALI20190304BHJP
   B22D 11/06 20060101ALI20190304BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   C22C38/00 302H
   C22C38/58
   B22D27/04 E
   B22D11/06 330B
   B22D11/06 370B
   B22D11/00 B
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-530070(P2017-530070)
(86)(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公表番号】特表2018-503741(P2018-503741A)
(43)【公表日】2018年2月8日
(86)【国際出願番号】KR2015014235
(87)【国際公開番号】WO2016105145
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年6月5日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0191170
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ジョム ヨン
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−169622(JP,A)
【文献】 特表2013−530305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
B22D 11/00
B22D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.08%以下(但し、0%は除外する)、Si:0.2〜3.0%、Mn:2〜4%、Cr:18〜24%、Ni:0.2%〜2.5%、N:0.15〜0.32%、Cu:0.2〜2.5%、残部はFe及びその他の不可避な不純物からなるフェライト相とオーステナイト相で形成された2相組織を有するリーン二相系ステンレス鋼であって、
下記の〔式2〕で表されるオーステナイト相の積層欠陷エネルギー(SFE)値が19〜37で、加工誘起マルテンサイト相が形成され、加工硬化に寄与し始める地点の変形値である臨界変形値の範囲が0.1〜0.25であることを特徴とするリーン二相系ステンレス鋼。
SFE=25.7+1.59×Ni/[K(Ni)−K(Ni)×V(γ)+V(γ)])+0.795×Cu/[K(Cu)−K(Cu)×V(γ)+V(γ)])−0.85×Cr/[K(Cr)−K(Cr)×V(γ)+V(γ)]+0.001×(Cr/[K(Cr)−K(Cr)×V(γ)+V(γ)])2+38.2×(N/[K(N)−K(N)×V(γ)+V(γ)])0.5−2.8×Si/[K(Si)−K(Si)×V(γ)+V(γ)]−1.34×Mn/[K(Mn)−K(Mn)×V(γ)+V(γ)]+0.06×(Mn/[K(Mn)−K(Mn)×V(γ)+V(γ)])2 ………………〔式2〕
〔式2〕でNi、Cu、Cr、N、Si、Mnは各成分元素の全体含量(wt%)を意味し、K(x)は各成分元素(x)の分配係数として下記の〔式3〕で表され、V(γ)はオーステナイト相分率(0.45〜0.75範囲)である。
K(x)=〔フェライト相にあるx元素の含量〕/〔オーステナイト相にあるx元素の含量〕………………〔式3〕
【請求項2】
前記K(x)の中で、K(Cr)=1.16、K(Ni)=0.57、K(Mn)=0.73、K(Cu)=0.64で、K(N)とK(Si)はNとSiの含量(wt%)によって下記の値であることを特徴とする請求項1に記載のリーン二相系ステンレス鋼。
N:0.2〜0.32%の場合K(N)=0.15、
N <0.2%の場合K(N)=0.25、
Si≦1.5%の場合K(Si)=2.76−0.96×Si、
Si >1.5%の場合K(Si)=1.4
【請求項3】
前記ステンレス鋼の延伸率は45%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリーン二相系ステンレス鋼。
【請求項4】
前記ステンレス鋼は、質量%で、W:0.1〜1.0%及びMo:0.1〜1.0%のうち、少なくとも1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項に記載のリーン二相系ステンレス鋼。
【請求項5】
前記ステンレス鋼は、質量%で、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.05%及びV:0.001〜0.15%のうち、少なくとも1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項に記載のリーン二相系ステンレス鋼。
【請求項6】
フェライト−オーストナイト系リーン二相系ステンレス鋼を製造する方法であって、
質量%で、C:0.08%以下(但し、0%は除外する)、Si:0.2〜3.0%、Mn:2〜4%、Cr:18〜24%、Ni:0.2%〜2.5%、N:0.15〜0.32%、Cu:0.2〜2.5%、残部はFe及びその他の不可避な不純物からなる溶鋼を用意する過程と、
下記の〔式2〕で表されるオーステナイト相の積層欠陷エネルギー(SFE)値が19〜37で、加工誘起マルテンサイト相が形成され、加工硬化に寄与し始める地点の変形値である臨界変形値の範囲が0.1〜0.25になるよう、前記溶鋼を理論凝固温度より10〜50℃高く維持しながらターンディッシュに臨時保存する段階と、
前記ターンディッシュで溶鋼を鋳型で注入して500〜1500℃/minの冷却速度を維持しながら鋳型を通過させて1次冷却する段階と、
1次冷却されて凝固シェルが形成された溶鋼をセグメントに引抜して通過させながら2次冷却する段階を含む前記溶鋼をステンレス鋼で処理する過程を含むことを特徴とするリーン二相系ステンレス鋼の製造方法。
SFE=25.7+1.59×Ni/[K(Ni)−K(Ni)×V(γ)+V(γ)])+0.795×Cu/[K(Cu)−K(Cu)×V(γ)+V(γ)])−0.85×Cr/[K(Cr)−K(Cr)×V(γ)+V(γ)]+0.001×(Cr/[K(Cr)−K(Cr)×V(γ)+V(γ)])2+38.2×(N/[K(N)−K(N)×V(γ)+V(γ)])0.5−2.8×Si/[K(Si)−K(Si)×V(γ)+V(γ)]−1.34×Mn/[K(Mn)−K(Mn)×V(γ)+V(γ)]+0.06×(Mn/[K(Mn)−K(Mn)×V(γ)+V(γ)])2 ………………〔式2〕
〔式2〕でNi、Cu、Cr、N、Si、Mnは各成分元素の全体含量(wt%)を意味し、K(x)は各成分元素(x)の分配係数として下記〔式3〕で表され、V(γ)はオーステナイト相分率(0.45〜0.75の範囲)である。
K(x)=〔フェライト相にあるx元素の含量〕/〔オーステナイト相にあるx元素の含量〕 ………………〔式3〕
【請求項7】
前記2次冷却する段階で凝固シェルが形成された溶鋼として0.25〜0.35L/kgの冷却水を噴射することを特徴とする請求項に記載のリーン二相系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項8】
前記2次冷却する段階以後に引抜される鋳片の表面温度が1100〜1200℃の範囲で鋳片の表面に100〜125L/kg・分の冷却水を空気と冷却水の割合(空気/冷却水)が1.0〜1.2になるように混合及び噴射して3次冷却する段階をさらに含むことを特徴とする請求項に記載のリーン二相系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項9】
フェライト−オーストナイト系リーン二相系ステンレス鋼を製造する方法であって、
質量%で、C:0.08%以下(但し、0%は除外する)、Si:0.2〜3.0%、Mn:2〜4%、Cr:18〜24%、Ni:0.2%〜2.5%、N:0.15〜0.32%、Cu:0.2〜2.5%、残部はFe及びその他の不可避な不純物からなる溶鋼を用意する過程と、
下記の〔式2〕で表されるオーステナイト相の積層欠陷エネルギー(SFE)値が19〜37で、加工誘起マルテンサイト相が形成され、加工硬化に寄与し始める地点の変形値である臨界変形値の範囲が0.1〜0.25になるよう、前記溶鋼を一対の鋳造ロールの間を通過しながら凝固させてストリップを製造する段階を含む前記溶鋼をステンレス鋼で処理する過程を含み、
前記ストリップを製造する段階で溶鋼中に含まれた窒素固溶限度以上の窒素は、前記鋳造ロールを通じて凝固シェルの外部へ排出することを特徴とするリーン二相系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項10】
前記ストリップを製造する段階では、外周面に円周方向へとガス排出チャンネルが形成された鋳造ロールを前記一対の鋳造ロールのうち、少なくともいずれか一つで使用することを特徴とする請求項に記載のリーン二相系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項11】
前記ストリップを製造する段階で使われる鋳造ロールに形成されたガス排出チャンネルは、幅50〜500μm、深さ50〜300μmで複数個が形成され、隣合うガス排出チャンネルの間の間隔は100〜1000μmで、前記鋳造ロールの表面には15〜25μmの凹凸が形成されることを特徴とする請求項10に記載のリーン二相系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項12】
前記溶鋼を用意する過程において、前記溶鋼は質量%で、W:0.1〜1.0%及びMo:0.1〜1.0%のうち、少なくとも1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項6又は9に記載のリーン二相系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項13】
前記溶鋼を用意する過程において、前記溶鋼は質量%で、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.05%及びV:0.001〜0.15%のうち、少なくとも1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項6又は9に記載のリーン二相系ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライトとオーステナイト系組織を有するリーン二相系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、加工性と耐食性が良好なオーステナイト系ステンレス鋼は、鉄(Fe)を地金とし、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)を主な原料として含有し、モリブデン(Mo)及び銅(Cu)などの他の元素を添加して各種用途に合うように多様な鋼種に展開されている。
耐食性及び加工性に優れた304系ステンレス鋼は、高価原料であるNi、Moなどを含み、これに対する代替方策として200系及び400系ステンレス鋼が検討されたが、200系及び400系ステンレス鋼はそれぞれ成形性及び耐食性が300系ステンレス鋼に及ばないという短所があった。
一方、オーステナイト相とフェライト相が混合された二相系ステンレス鋼は、オーステナイト系及びフェライト系の全ての長所を有するので、現在まで多様な種類の二相系ステンレス鋼が開発されている。
【0003】
また、最近は価格競争力の短所を補うために、二相系ステンレス鋼に含まれているNi及びMoなどの高価合金元素を排除し、低原価の合金元素を添加して、費用上の長所をさらに増したリーン二相系(lean duplex)ステンレス鋼に対する関心が高まっている。
しかし、このようなリーン二相系ステンレス鋼は、フェライト系とオーステナイト系の相間の強度差によって熱間加工性が脆弱で、表面割れ目及びエッジ割れ目が多量発生する短所がある。
また、ステンレス鋼用に成分が調節された合金元素を従来の一般的な連続鋳造法によって加工すると、液相から固相に凝固するとき、窒素固溶度の差によってスラブの内部に気孔(porosity)が多く発生する。このような内部気孔は、後続工程である再加熱及び熱間圧延過程において、製品表面に多くの欠陥を発生させる原因となることは勿論、熱間圧延されたコイルのエッジに多量の割れ目を発生させるという短所をもたらす。
上記の背景技術として説明した事項は、本発明の背景に対する理解を深めるためのものであり、当該技術分野における通常の知識を有する者に既に知られている従来技術に該当するものとして受け入れられてはならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、合金成分の含量を調節して原価を節減する一方、リーン二相系ステンレス鋼に存在する積層欠陷エネルギー値を満たすように制御することで、優秀な延伸率と耐食性を確保できるリーン二相系ステンレス鋼及びその製造方法を提供する。
また、焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形(critical strain for strain induced martensite formation)の値を満たすように制御することで、優秀な延伸率と耐食性を確保できるリーン二相系ステンレス鋼及びその製造方法を提供する。
そして、鋳造する際に液体から固相に凝固される間、窒素固溶度の急激な減少に起因した窒素ガスの多量放出に対する問題点を解決することができるリーン二相系ステンレス鋼及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態によるリーン二相系ステンレス鋼は、フェライト−オーステナイト系のステンレス鋼であって、下記の〔式2〕で表されるオーステナイト相の積層欠陷エネルギー(SFE)値が19〜37で、焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形値の範囲が0.1〜0.25であることを特徴とする。
SFE=25.7+1.59×Ni/[K(Ni)-K(Ni)×V(γ)+V(γ)])+0.795×Cu/[K(Cu)-K(Cu)×V(γ)+V(γ)])-0.85×Cr/[K(Cr)-K(Cr)×V(γ)+V(γ)]+0.001×(Cr/[K(Cr)-K(Cr)×V(γ)+V(γ)])2+38.2×(N/[K(N)-K(N)×V(γ)+V(γ)])0.5-2.8×Si/[K(Si)-K(Si)×V(γ)+V(γ)]-1.34×Mn/[K(Mn)-K(Mn)×V(γ)+V(γ)]+0.06×(Mn/[K(Mn)-K(Mn)×V(γ)+V(γ)])2 ………………〔式2〕
〔式2〕でNi、Cu、Cr、N、Si、Mnは各成分元素の全重量に対する含量百分率(wt%)を意味し、K(x)は各成分元素(x)の分配係数として下記の〔式3〕で表され、V(γ)はオーステナイト相分率(0.45〜0.75範囲)である。
K(x)=〔フェライト相にあるx元素の含量〕/〔オーステナイト相にあるx元素の含量〕………………〔式3〕
【0006】
このとき、K(x)の中で、K(Cr)=1.16、K(Ni)=0.57、K(Mn)=0.73、K(Cu)=0.64であり、K(N)とK(Si)はNとSiの含量(wt%)によって下記の値になることができる。
N:0.2〜0.32%の場合はK(N)=0.15、
N <0.2%の場合はK(N)=0.25、
Si≦1.5%の場合はK(Si)=2.76−0.96×Si、
Si >1.5%の場合はK(Si)=1.4
ステンレス鋼の延伸率は45%以上であることが好ましい。
【0007】
ステンレス鋼は、重量%で、C:0.08%以下(但し、0%は除外する)、Si:0.2〜3.0%、Mn:2〜4%、Cr:18〜24%、Ni:0.2%〜2.5%、N:0.15〜0.32%、Cu:0.2〜2.5%、残部はFe及びその他の不可避な不純物を含むことが好ましい。
ステンレス鋼は、重量%で、W:0.1〜1.0%及びMo:0.1〜1.0%のうち、少なくとも1種以上をさらに含んでもよい。
ステンレス鋼は、重量%で、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.05%及びV:0.001〜0.15%のうち、少なくとも1種以上をさらに含むことができる。
【0008】
一方、本発明の一実施例によるリーン二相系ステンレス鋼の製造方法は、フェライト−オーストナイト系リーン二相系ステンレス鋼を製造する方法であって、溶鋼を用意する過程と、下記の〔式2〕で表されるオーステナイト相の積層欠陷エネルギー(SFE)値が19〜37で、焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形値の範囲が0.1〜0.25になるよう、溶鋼をステンレス鋼で処理する過程を含んでもよい。
SFE=25.7+1.59×Ni/[K(Ni)-K(Ni)×V(γ)+V(γ)])+0.795×Cu/[K(Cu)-K(Cu)×V(γ)+V(γ)])-0.85×Cr/[K(Cr)-K(Cr)×V(γ)+V(γ)]+0.001×(Cr/[K(Cr)-K(Cr)×V(γ)+V(γ)])2+38.2×(N/[K(N)-K(N)×V(γ)+V(γ)])0.5-2.8×Si/[K(Si)-K(Si)×V(γ)+V(γ)]-1.34×Mn/[K(Mn)-K(Mn)×V(γ)+V(γ)]+0.06×(Mn/[K(Mn)-K(Mn)×V(γ)+V(γ)])2 ………………〔式2〕
〔式2〕でNi、Cu、Cr、N、Si、Mnは各成分元素の全重量に対する含量百分率(wt%)を意味し、K(x)は各成分元素(x)の分配係数として下記〔式3〕で表され、V(γ)はオーステナイト相分率(0.45〜0.75の範囲)である。
K(x)=〔フェライト相にあるx元素の含量〕/〔オーステナイト相にあるx元素の含量〕 ………………〔式3〕
【0009】
特に、溶鋼をステンレス鋼で処理する過程は、溶鋼を理論凝固温度より10〜50℃高く維持しながらターンディッシュに臨時保存する段階と、ターンディッシュで溶鋼を鋳型で注入して500〜1500℃/minの冷却速度を維持しながら鋳型を通過させて1次冷却する段階と、1次冷却されて凝固シェルが形成された溶鋼をセグメントに引抜して通過させながら2次冷却する段階を含むことを特徴とする。
このとき、2次冷却する段階で凝固シェルが形成された溶鋼として0.25〜0.35L/kgの冷却水を噴射することが好ましい。
【0010】
また、2次冷却する段階以後に引抜される鋳片の表面温度が1100〜1200℃の範囲で鋳片の表面に100〜125L/kg・分の冷却水を空気と冷却水の割合(空気/冷却水)が1.0〜1.2になるように混合及び噴射して3次冷却する段階をさらに含む。
一方、溶鋼をステンレス鋼で処理する過程は、溶鋼を一対の鋳造ロールの間を通過しながら凝固させてストリップを製造する段階を含むが、ストリップを製造する段階で溶鋼中に含まれた窒素固溶限度以上の窒素は、鋳造ロールを通じて凝固シェルの外部へ排出することができる。
【0011】
このとき、ストリップを製造する段階では、外周面に円周方向へとガス排出チャンネルが形成された鋳造ロールを一対の鋳造ロールのうち、少なくともいずれか一つで使用することが好ましい。
また、ストリップを製造する段階で使われる鋳造ロールに形成されたガス排出チャンネルは、幅50〜500μm、深さ50〜300μmで複数個が形成され、隣合うガス排出チャンネルの間の間隔は100〜1000μmで、鋳造ロールの表面には15〜25μmの凹凸が形成されることが好ましい。
【0012】
一方、溶鋼を用意する過程において、溶鋼は重量%で、C:0.08%以下(但し、0%は除外する)、Si:0.2〜3.0%、Mn:2〜4%、Cr:18〜24%、Ni:0.2%〜2.5%、N:0.15〜0.32%、Cu:0.2〜2.5%、残部はFe及びその他の不可避な不純物を含むことが好ましい。
そして、溶鋼を用意する過程において、溶鋼は重量%で、W:0.1〜1.0%及びMo:0.1〜1.0%のうち、少なくとも1種以上をさらに含んでもよい。
また、溶鋼を用意する過程において、溶鋼は重量%で、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.05%及びV:0.001〜0.15%のうち、少なくとも1種以上をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施例によれば、高価元素であるNi、Si及びCu合金成分の含量を調節することで、資源節約及び原料費用を顕著に節減することができる。取分け、STS304と比べて同等水準以上の耐食性及び優れた延伸率の確保によって成形用に使われる200系、300系(STS304、316)の代替用途として十分使用することができる。
そして、本発明の実施例による合金元素を連続鋳造する場合、溶鋼温度及び冷却速度を制御して鋳片内部で発生するピンホールを抑制することができる。
さらに、本発明の実施例による合金元素をストリップキャスティングする場合、鋳造ロールを改善することにより、液相から固相に凝固する際に発生する窒素ガスの排出を円滑に誘導して内部気孔の発生及び表面欠陷の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例による発明鋼と比較鋼の応力−変形曲線で焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形値を示す図面。
図2】本発明の実施例による比較鋼と発明鋼の代表的な透過電子顕微鏡の組織写真で焼成誘起マルテンサイト相の形成有無を示す写真であり、(a)は比較鋼、(b)は発明鋼である。
図3】延伸率と焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形値の関係を表すグラフ。
図4】本発明の一実施例によるリーン二相系ステンレス鋼の連続鋳造方式製造工程を概略的に示す図面。
図5】本発明の一実施例によるリーン二相系ステンレス鋼のストリップキャスティング方式製造工程を概略的に示す図面。
図6】本発明の鋳造ロールに形成された窒素排出チャンネルの模式図。
図7】比較材Iと発明材Aの組織写真であり、(a)は比較材Iを、(b)は発明材Aを示す。
図8】比較材Hの表面欠陥写真。
図9】比較材Fの表面欠陥写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付した図面に基づいて本発明の実施の形態をさらに詳しく説明する。しかし、本発明は以下に開示する実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で具現される。本実施例は、本発明の開示を完全なものにし、通常の知識を有する者が発明の範疇を完全に理解させるために提供されたものである。
本発明はフェライト−オーステナイト系組織を有するリーン二相系ステンレス鋼に関するものであり、本発明でいうフェライト−オーステナイト系組織とは、フェライト相とオーステナイト相が殆どの組織を占めることを意味し、ステンレス鋼がフェライト相とオーステナイト相だけで形成されることを意味しない。例えば、フェライト相とオーステナイト相が殆どの組織を占めるということは、ステンレス鋼を形成する組織の中でフェライト相とオーステナイト相の和が90%以上を占めるという意味であり、フェライト相とオーステナイト相を除いた残りはオーステナイト相が転移したマルテンサイト相が占めることができる。
【0016】
図1は、本発明の実施例による発明鋼と比較鋼の応力−変形曲線で焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形値を示す図面である。
本発明は重量%(以下、特に言及しない限り成分の含量は重量%である)で、C:0.08%以下(但し、0%は除外する)、Si:0.2〜3.0%、Mn:2〜4%、Cr:18〜24%、Ni:0.2%〜2.5%、N:0.15〜0.32%、Cu:0.2〜2.5%、残部はFe及びその他の不可避な不純物を含んでなり、フェライト相とオーステナイト相で形成された2相組織を有するリーン二相系ステンレス鋼が対象である。リーン二相系ステンレス鋼は、W:0.1〜1.0%、 Mo:0.1〜1.0%、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.05%、V:0.001〜0.15%のうち、少なくとも1種以上をさらに含むことができる。
【0017】
Cはオーステナイト相の形成元素で、固溶強化による材料強度の増加に有効な元素である。しかし、過多に添加されると、フェライト−オーステナイト相の境界で耐食性に有効なCrが炭化物形成元素と容易に結合するため、結晶粒界の周囲のCr含量が低下して耐腐蝕への抵抗性を減少させるため、耐食性を極大化するためにはCを0超過〜0.08%以下の範囲で添加することが望ましい。
Siは脱酸効果のために一部添加され、フェライト相の形成元素で焼鈍熱処理時にフェライト相に濃化される元素である。したがって、適正のフェライト相分率を確保するために0.2%以上添加しなければならない。しかし、3.0%を超える過多な添加は、フェライト相の硬度を急激に上昇させて2相鋼の延伸率の低下に影響を与え、さらに十分な延伸率を確保するためのオーステナイト相を確保し難くする。また、過多の添加は、製鋼時にスラグの流動性を低下させ、酸素と結合した介在物を形成させ、耐食性を低下させる。したがって、Si含量は0.2〜3.0%に制限することが望ましい。
【0018】
Mnは脱酸剤及び窒素固溶度を増加させる元素であり、オーステナイト相の形成元素として、高価のNiの代わりに使われてもよい。Mnが多く添加される場合、窒素の固溶度には効果があるが、鋼中のSと結合してMnSを形成することにより、耐食性を悪くする。そのため、その含量を4%超過して添加された場合には、304鋼水準の耐食性を確保し難くなる。一方、Mnの含量が2%未満である場合、オーステナイト相の形成元素であるNi、Cu、Nなどを調節しても適正なオーステナイト相分率を確保することが難しく、添加されるNの固溶度が低くなり、常圧で窒素の十分な固溶を得ることができない。したがって、Mnの含量は2〜4%に制限することが望ましい。
Crは、Siとともにフェライト相の安定化元素として2相ステンレス鋼のフェライト相を確保することに主な役割をするだけでなく、耐食性を確保するための必須元素である。含量を増加させれば耐食性が増加するが、相分率を維持するために高価のNiやその他のオーステナイト相形成元素の含量を増加しなければならない。これによって、2相ステンレス鋼の相分率を維持しながら、304鋼と同等以上の耐食性を確保するためにCrの含量は18〜24%に制限することが望ましい。
【0019】
Niは、Mn、Cu及びNとともにオーステナイト相の安定化元素で、二相系ステンレス鋼のオーステナイト相の確保に主な役割をする。原価節減のために高価のNi含量を最大限削減する代りに、他のオーステナイト相の形成元素であるMnとNを増加させてNiの低減による相分率均衡を十分に維持することができる。しかし、冷間加工時に発生する焼成誘起マルテンサイト相の形成を抑制するために十分なオーステナイト相の安定度確保のために0.2%以上添加しなければならない。一方、Niを多く添加すればオーステナイト相分率が増加して適切なオーステナイト相分率を確保し難いし、特に高価のNiによる製品製造費用の増加により304鋼に対する競争力を確保することが難しい。したがって、Niの含量は0.2〜2.5%に制限することが望ましい。
Nは、二相系ステンレス鋼でNiとともにオーステナイト相の安定化に大きく寄与する元素であって、焼鈍熱処理の際に固相での拡散速度が速くて殆どオーステナイト相に濃化が発生する元素の一つである。よって、N含量の増加は付随的に耐食性増加及び高強度化を誘導することができる。しかし、添加されたMnの含量によってNの固溶度が変化する。本発明のMn範囲でN含量が0.32%を超過すれば、窒素固溶度の上昇による鋳造時のブローホール(blow hole)、ピンホール(pin hole)などの発生による表面欠陥誘発で鋼の安定した製造が難しくなる。一方、304鋼水準の耐食性を確保するためにはNを0.15%以上添加する必要がある。N含量が低すぎると、適正な相分率の確保が困難である。したがって、N含量は0.15〜0.32%に制限することが望ましい。
【0020】
Cuは、Mn、Ni及びNとともにオーステナイト相の安定化元素であって、原価節減のために、Niと同じ役割をするCu含量は最小限に下げることが望ましい。ただし、冷間加工時に発生する過多な焼成誘起マルテンサイトの形成を抑制し、十分なオーステナイト相の安定度確保のために0.2%以上添加することが望ましい。一方、Cu含量が2.5%を超過すると熱間脆性によって製品加工が難しくなるため、Cu含量は0.2〜2.5%に調節することが望ましい。
W及びMoは、オーステナイト相の形成元素で、且つ耐食性を向上させる元素であり、また熱処理するとき700〜1000℃で金属間化合物の形成を助長することで耐食性及び機械的性質の劣化をもたらす元素でもある。W及びMoは、その含量が1%を超過する場合、金属間化合物の形成によって耐食性、そして特に延伸率の急激な低下をもたらす。また、耐食性の改善効果を表すためには、0.1%以上添加されることがよい。したがって、W及びMoの含量は0.1〜1.0%に制限することが望ましく、W及びMoのうち、少なくとも1種以上が含有されることが好ましい。
【0021】
Ti、Nb、Vは、窒素と反応して窒化物を形成する元素であって、溶鋼中にTiN、NbN、VNなどで晶出され、凝固時にフェライト相の核生成場として作用することにより、冷却速度が増加しても十分に凝固が進行されてスラブの破断を抑制する。また、これら元素は、製造過程、つまり、再加熱や熱間圧延時に十分に固溶され、また冷却時には炭素及び窒素と反応して炭窒化物を形成し、Cr炭化物の形成を抑制することで耐食性向上に役立つ。特に、溶接する時に熱影響部にCr炭化物の形成を抑制する元素である。これら元素がそれぞれ過多に添加される場合、つまりTiは0.1%超過、Nbは0.05%超過、Vは0.15%超過する場合、凝固時にこれら晶出物が大型のクラスタを形成して鋳造ノズルの目詰まり現象をもたらし、また、これらがスラブの表層部に存在する場合、圧延時の欠陷、加工時破断の原因として作用する。また、殆どが高価な合金元素で、多量添加する場合、製造原価の上昇をもたらす。したがって、好ましくは、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.05%、V:0.001〜0.15%の範囲に制限することが好ましく、Ti、Nb及びVのうち、少なくとも1種以上が含有されることがよい。
【0022】
一方、本発明は、合金元素の含量、分配係数及び相分率を調節して積層欠陷エネルギーを制御することにより、延伸率と耐食性が優れるように維持する。
例えば、下記〔式1〕は、合金の中で全体成分の含量を活用して積層欠陷エネルギー(SFE)を導出する式である。
SFE=25.7+1.59(Ni+0.5Cu)-0.85Cr+0.001×Cr2+38.2N0.5-2.8Si-1.34Mn+0.06Mn2−−−−〔式1〕
〔式1〕のCr、Ni、Cu、Si、Mn、Nは、各成分元素の全体含量(wt%)を意味する。
しかし、本出願人は、本発明鋼の積層欠陷エネルギーを多様な方法で測定、計算した結果、積層欠陷エネルギーを〔式1〕のように合金組成物の成分含量のみを活用して計算するよりは、オーステナイト組織の成分含量を活用して計算することが合金の物性を予測するために、より正確に接近することができることを見出した。このために、合金元素の組織間分配係数を考慮して積層欠陷エネルギーを計算することが全体合金組成物の成分含量のみを活用して積層欠陥エネルギーを計算することよりは実際に測定された積層欠陥エネルギー値により近似的に近付くことができることを見出した。
【0023】
そのため、本出願人は、オーステナイト相の分配係数を活用してオーステナイト相の積層欠陷エネルギーを推論できるよう、〔式1〕を下記〔式2〕で補完するようになった。
SFE=25.7+1.59×Ni/[K(Ni)-K(Ni)×V(γ)+V(γ)])+0.795×Cu/[K(Cu)-K(Cu)×V(γ)+V(γ)])-0.85×Cr/[K(Cr)-K(Cr)×V(γ)+V(γ)]+0.001×(Cr/[K(Cr)-K(Cr)×V(γ)+V(γ)])2+38.2×(N/[K(N)-K(N)×V(γ)+V(γ)])0.5-2.8×Si/[K(Si)-K(Si)×V(γ)+V(γ)]-1.34×Mn/[K(Mn)-K(Mn)×V(γ)+V(γ)]+0.06×(Mn/[K(Mn)-K(Mn)×V(γ)+V(γ)])2 ………………〔式2〕
〔式2〕でNi、Cu、Cr、N、Si、Mnは、各成分元素の全体含量(wt%)を意味する。
そして、〔式2〕でK(x)は、各成分元素(x)の分配係数として、下記〔式3〕で表される。
K(x)=〔フェライト相にあるx元素の含量〕/〔オーステナイト相にあるx元素の含量〕 ………………〔式3〕
【0024】
本出願人は、多様な焼鈍条件及び合金系において、各々の合金元素に対する分配係数を通常の走査電子顕微鏡によるEDAX分析より正確なFe−EPMA及びFE−TEMを活用して測定した。このとき、測定された大概合金元素に対する分配係数は、熱延焼鈍又は冷延焼鈍の温度範囲である900〜1200℃で温度変化によってその値の変化がないことが確認された。
即ち、K(x)中で、K(Cr)=1.16、K(Ni)=0.57、K(Mn)=0.73、K(Cu)=0.64で、K(N)とK(Si)はNとSiの含量(wt%)によって変化することが確認された。ただし、N:0.2〜0.32%の場合はK(N)=0.15で、N <0.2%の場合はK(N)=0.25で、Si≦1.5%の場合はK(Si)=2.76−0.96×Siで、Si>1.5の場合はK(Si)=1.4である。このとき、合金元素N、Siは、ステンレス鋼全体の成分を意味する。ただし、本実施例において、N:0.15〜0.32%であるので、N:0.15%以上0.2%未満の場合はK(N)=0.25が適用され、N:0.2〜0.32の場合はK(N)=0.15が適用され、Si:0.2〜3.0%であるので、Si:0.2〜1.5%の場合はK(Si)=2.76−0.96×Siが適用され、Si:1.5%超過3.0%以下の場合はK(Si)=1.4が適用される。
【0025】
そして、〔式2〕で V(γ)はオーステナイト相分率であって、オーステナイト相分率は以下の関系式で定義される。
1= V(α)+ V(γ)
ここで、V(α)はフェライト相分率で、V(γ)は0.45〜0.75の範囲の値を有する。
【0026】
一方、オーステナイト相の積層欠陷エネルギー値を19〜37に限定する理由を説明する。
オーステナイト相の積層欠陷エネルギーは、オーステナイト相の変形機構を制御することが知られている。通常、オーステナイト相の積層欠陷エネルギーは、単相のオーステナイト系ステンレス鋼である場合、外部から付け加えた焼成変形エネルギーがオーステナイト相の変形に寄与する度合を示す。一般的に、積層欠陷エネルギーが低いほどオーステナイト相でエプシロンマルテンサイト相を形成した後、鋼の加工硬化に寄与する焼成誘起マルテンサイト相が形成される度合が増加する。積層欠陷エネルギーが中間程度である場合、オーステナイト相で機械的双晶が形成される。中間程度の積層欠陷エネルギーの場合、これら双晶の交差点で焼成誘起マルテンサイト相が形成され、加えられた焼成変形エネルギーが機械的に相変化をもたらし、オーステナイト相からマルテンサイト相に転移する。したがって、ステンレス鋼の場合、かなり広範囲で中間相(エプシロンマルテンサイト相または機械的双晶)の相違点だけ除いて焼成誘起マルテンサイト相が形成されることが知られている。したがって、積層欠陷エネルギーが50mJ/m未満の場合は、オーステナイト相でエプシロンマルテンサイト相を形成した後で焼成誘起マルテンサイト相が形成されるか、オーステナイト相で機械的双晶が形成された後で焼成誘起マルテンサイト相が形成される。
しかし、積層欠陷エネルギーが50mJ/m以上の場合は、機械的双晶やエプシロンマルテンサイト相が形成されず転位移動によって変形が進められるため、オーステナイト相からマルテンサイト相への転移がよく行われないことが知られている。
【0027】
一方、〔式1〕を適用して積層欠陷エネルギーを合金成分だけで推論する場合、11以下では焼成誘起マルテンサイト相の形成が容易で、変形初期に急激な加工硬化、つまり焼成誘起マルテンサイト相が形成されて延伸率の急激な減少をもたらすということが確認された。熱処理や製造工程によるオーステナイト相に分配される合金元素が変化することで、一部の成分系では焼成誘起マルテンサイト相の形成挙動が変わることを確認した。
ここで、本出願人は、多様な製造工程及び熱処理の後、オーステナイト相に分配された合金元素の分配係数を考慮して、〔式2〕のように演算式を補正した。その結果、演算されたオーステナイト相の積層欠陷エネルギーが19未満では中間相としてエプシロンマルテンサイト相が先に形成され、形成されたエプシロンマルテンサイト相の交差点でマルテンサイト相が形成された。しかし、これらマルテンサイト相が変形初期に急激に形成され、急激な加工硬化によって延伸率が低下する現象が表れた。一方、補正された計算式を利用して演算されたオーステナイト相の積層欠陷エネルギーが37を超過する場合は、透過電子顕微鏡を利用して調査した結果、焼成変形後にマルテンサイト相の形成が観察されないことを確認した。したがって、望ましいオーステナイト相の積層欠陷エネルギーの範囲は19〜37であることが分かった。
【0028】
一方、本発明によるリーン二相系ステンレス鋼は、体積分率で45〜75%のオーステナイト相と、25〜55%のフェライト相で形成されることが望ましい。
これは、オーステナイト相分率が45%未満では、焼鈍中にオーステナイト相にオーステナイト相形成元素の過度な濃化現象が発生する。これにより、オーステナイト相が十分に安定して変形中に発生する焼成誘起マルテンサイト相の転移が抑制され、合金元素の十分な固溶によるオーステナイト相の量が増加して素材の引張強度も十分に確保することができる。しかし、延性が低下する現象が発生して望む延伸率及び強度を十分に得ることができない。よって、高延性の観点から見れば、オーステナイト相分率が45%以上であることが望ましい。
【0029】
しかし、オーステナイト相分率が75%超過の場合は、熱間圧延時に表面の割れ目などが発生して熱間加工性の低下をもたらし、2相組織鋼としての特性を失う。よって、オーステナイト相分率は75%以下が好ましい。
一方、本発明の場合、冷間加工または引張変形時に焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形値の範囲が0.1〜0.25を維持することが好ましい。
焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形量は応力−変形曲線の変曲点から測定し、これは通常的に焼成誘起マルテンサイト相が形成される鋼でマルテンサイト相の加工硬化に寄与する時点の変形値を示すものである。
【0030】
加えて、焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形値を得る方法について以下のように説明する。
先ず、冷延焼鈍された素材で圧延方向と平行にASTM sub−sizeの規格で試験片を採取して加工した後、引張試験機を活用して常温(例えば、20〜25℃)で1.0×10−3/sの変形率速度(strain rate)で素材が破断されるまでに引張試験を行った。このとき得られる真変形−真応力曲線の傾きの変化が加工硬化速度である。加工硬化速度の変化は、焼成誘起マルテンサイト相の形成と密接な関係を持つ。加工硬化速度の場合、降伏が発生した後、引張変形が進むことにつれて徐々に減少し、焼成誘起マルテンサイト相が発生して加工硬化が寄与し始める時点、つまり臨界変形で変曲点が形成される。そして、変曲点以上の変形によって引張変形が進められると同時に、焼成誘起マルテンサイト相の形成が増加する場合、加工硬化速度が再び増加する。
従って、臨界変形値は、焼成誘起マルテンサイトが形成されて加工硬化に寄与し始める地点の変形値であって、引張実験によって得られるStress−Strain curveで変曲点に当たる地点の変形値を意味し、数学的にはカーブを2次微分した値が「0」になる地点を意味する。
そのため、臨界変形の値が0.1未満の場合、変形時に焼成誘起マルテンサイト相があまりにも容易に形成され、変形初期に急激な加工硬化で素材の延性が急激に低下する。また、焼成誘起マルテンサイト相が極度に遅く形成される場合、つまり臨界変形の値が0.25超過の場合、素材の加工硬化不足による局所的な応力集中であるネッキングの発生により延伸率の低下が発生する。よって、加工硬化速度の適切な範囲が存在する。したがって、本発明では焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形値の範囲は0.1〜0.25であることが望ましい。
【0031】
また、本発明によるリーン二相系ステンレス鋼において、オーステナイト相の安定度制御が非常に重要である。一般的に、焼成誘起マルテンサイト相は不安定なオーステナイト相が変形する時形成される軽い相であって、加工硬化を誘発して鋼の延伸率増加に寄与する。オーステナイト相及びフェライト相からなる二相系ステンレス鋼の本発明鋼の場合、オーステナイト相の安定度を合金元素の適切な分配を利用して調節することができる。本発明では合金元素の適切な分配ができる方法として急速凝固の方法を活用した。急速凝固の場合、固相で拡散の起きる十分な時間がないため、形成されるオーステナイト相及びフェライト相は非平衡に凝固する。これら非平衡凝固相を短時間で熱延焼鈍熱処理する場合、発生する合金元素の分配を活用すれば、十分に望む範囲でオーステナイト相の安定度を制御することができる。このための方法として、固相で拡散速度が速い窒素の含量を通常の場合より高く維持し、殆どの窒素がオーステナイト相に偏析されるように合金を設計した。
〔実施例〕
【0032】
以下、本発明によるリーン二相系ステンレス鋼の多様な実施例を通じて延伸率及び耐食性について詳しく説明する。
下記表1のように、成分の含量が調整された溶鋼を利用して試験片を用意した後、熱間圧延、熱延焼鈍、冷間圧延後の冷延焼鈍を行うことによって、素材の相分率を調節し、延伸率及び耐食性を測定した。
引張試験片は、圧延方向に平行にASTM−sub sizeの試験片を加工した後、常温で引張変形率速度を1.0×10−3/sの速度で調整して測定した。下記の〔表1〕は実験鋼種に対する合金組成(重量%)を示した。
【0033】
そして、下記の〔表2〕には〔表1〕の一部の実験鋼種を1100℃で焼鈍熱処理した後測定したフェライト相とオーステナイト相の相分率を示した。
また、下記の〔表3〕には本発明の説明に使われた比較鋼及び発明鋼について分配係数を考慮せずに〔式1〕で計算した積層欠陷エネルギー値、分配係数及び相分率を考慮して〔式2〕で計算した積層欠陷エネルギー値、ギブズ自由エネルギー(Gibbs Free energy)差、焼成誘起マルテンサイト相の形成有無、延伸率に対する結果を示した。
このとき、ギブズ自由エネルギー(Gibbs Free energy)差を活用する理由は、同じ成分を持つ相の結晶構造がFCCのオーステナイト相であるときと、BCCのマルテンサイト相であるときの熱力学的ギブズ自由エネルギー差を計算して、△G=GM−Gγ≦0(マルテンサイト相のギブズエネルギー−オーステナイト相のギブズエネルギー)の条件を満たして、焼成誘起マルテンサイト相が形成されるためである。このように、ギブズ自由エネルギー差と焼成誘起マルテンサイト相の形成は密接に係っているが、例えば、ギブズ自由エネルギー差(△G)が正の数である場合は焼成誘起マルテンサイト相が形成されないし、ギブズ自由エネルギー差(△G)が負の数である場合は焼成誘起マルテンサイト相が形成されることを意味する。
【0034】
本実施例では、オーステナイト相とマルテンサイト相のギブズ自由エネルギーを計算するために、常用ソフトウェアのFACTsage6.4(Thermfact and GTT−Technologies)を活用して計算した。特に、ギブズ自由エネルギーを計算するためには、先ず、フェライト相−オーステナイト相の2相で存在する鋼のうち、オーステナイト相に存在する合金の成分を知らなければならないが、オーステナイト相に存在する合金成分の量は、本発明で提示する分配係数と相分率を利用して計算することができる。例えば、オーステナイト相にあるX成分=X/[K(X)-K(X)×V(γ)+V(γ)](X:全X成分、K(X):分配係数、 V(γ):オーステナイト相分率)を活用して計算することができる。
また、焼成誘起マルテンサイト相の形成有無は、引張変形時、ネッキングが発生する前の亀裂延伸区間でフェライトスコープ(常用製品)を活用して測定した。
【0035】
【表1】
【表2】
【表3】
【0036】
リーン二相系ステンレス鋼の場合、合金成分及び熱処理温度によって相分率が変化する。
このため、〔表2〕には比較鋼1〜比較鋼5、及び発明鋼1〜発明鋼10をそれぞれ1100℃で熱処理した場合のフェライトとオーステナイト相分率を示した。発明鋼1〜発明鋼10の場合のフェライトの相分率は約25〜55%、オーステナイト相分率は45〜75%の範囲内で含まれることが分かる。そして、比較鋼2は1100℃で熱処理するとき、フェライトの相分率とオーステナイト相分率がそれぞれ83%と17%と表れる。すなわち、比較鋼2は本発明のフェライト及びオーステナイト相分率の範囲内に含まれないことが分かる。
そして、比較鋼4は分配を考慮したオーステナイト相の積層欠陥エネルギーが17.88mJ/m2でオーステナイト相の積層欠陥エネルギー(SFE)値の適正範囲内に含まれないことが分かる。
【0037】
一方、図1は本発明で得られた代表的な公称変形−公称応力比較曲線であって、1100℃で各素材に熱処理を行った後、引張実験をした結果である。
比較鋼1の場合は、焼成誘起マルテンサイト相が均一変形中に形成されなかった。その結果、焼成変形時に加工硬化による局所的ネッキングを抑制できる焼成誘起マルテンサイト相がないため延伸率の低下が予測された。実際に比較鋼1の場合、延伸率が31%程度で非常に劣位であった。
そして、比較鋼3の場合、焼成変形時に焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形値が0.1以下(変曲点;矢印で表示)であることを確認することができ、これによって焼成誘起マルテンサイト相の急激な形成による急激な加工硬化によって延伸率低下が発生することが予測された。実際に比較鋼3の場合、フェライト相とオーステナイト相で構成された2相ステンレス鋼であるが、延伸率が35%程度で非常に劣位であった。
【0038】
一方、本発明鋼の場合、応力−変形の曲線において、焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形の範囲が0.1〜0.25である場合、加工時に形成される焼成誘起マルテンサイト相の形成速度を適切に制御することによって、多様な値の延伸率が得られることが見られた。すなわち、発明鋼8と発明鋼1を比べると、焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形が大きいほど延伸率が増加することが分かる。これは冷間加工時にオーステナイト相が焼成誘起マルテンサイト相に転移されることを制御したことで、延伸率の」殆どが45%以上である。これは本発明鋼で取り替えようとする通常のリーン二相系鋼である比較鋼1よりは遙かに優れた延伸率を示し、また本発明で取り替えようとする304鋼の延伸率に匹敵するほど優秀な延伸率を示した。
【0039】
さらに詳しく説明すると、臨界変形値が0.1未満の場合、焼成誘起マルテンサイト相が急激に形成され、急激な加工硬化による素材の硬化によって延伸率の急激な減少をもたらす。また、臨界変形値が0.25超過の場合、焼成誘起マルテンサイト相が極めて遅く形成され、変形による素材の局部ネッキングを抑制することができない。一方、本合金系のオーステナイト相−フェライト相からなるリーン二相系ステンレス鋼の場合、焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形値の範囲が0.1〜0.25であれば、従来の二相系鋼の延伸率である30%以下より遙かに優れている45%以上の延伸率を確保することができ、一部変形の条件で304鋼に匹敵するほどの延伸率である45%以上を確保することができる。このことから冷間加工時、焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形値は0.1〜0.25であることが望ましい。
そして、〔表3〕の比較鋼1及び比較鋼5に示したとおり、〔式2〕による積層欠陥エネルギーが19〜37の範囲に存在しても、オーステナイト相でマルテンサイト相が形成されるギブズ自由エネルギーの値が正の数を表して、透過電子顕微鏡で観察された微細組織で焼成誘起マルテンサイト相の形成が観察されない場合が生じることを確認することができ、このような場合、延伸率が低下することが観察された。
そして、〔表3〕の比較鋼2及び比較鋼3に示したように、ギブズ自由エネルギーの値が負の数を表して、焼成誘起マルテンサイト相が形成されても臨界変形値が0.1〜0.25の範囲に存在しない場合も延伸率が低下することが観察された。
【0040】
図2の(a)及び(b)は、それぞれ比較鋼1と発明鋼1の透過電子顕微鏡の微細組織を示したものである。比較鋼1の場合、図2の(a)に示したように、変形による変形帯や機械的双晶が観察されるが、焼成誘起マルテンサイト相は観察されないことが分かる。発明鋼1の場合、図2(b)に示したように、焼成誘起マルテンサイト相が変形帯や機械的双晶の交差点で形成されることを分かる(焼成誘起マルテンサイト相は矢印で表示した)。
一方、図3は延伸率と焼成誘起マルテンサイト相が形成される臨界変形値の関係を示すグラフで、図1の応力−変形曲線に基づきマルテンサイト相が形成される臨界変形を測定した結果である。
図3に示したとおり、臨界変形値が0.1未満の場合と0.25超過の場合は延伸率45%が確保されない一方、臨界変形値の範囲が0.1〜0.25の値を有する場合には延伸率45%以上を確保できることが確認できる。
【0041】
一方、本発明によるリーン二相系ステンレス鋼は、液相から固相に凝固するとき、窒素固溶度の差によって窒素ガス生成または排出の問題を解決することで、全ての連続鋳造方式及びストリップキャスティング方式での製造が可能になる。
先ず、連続鋳造方式でリーン二相系ステンレス鋼を製造する方法を説明する。
図4は本発明の一実施例によるリーン二相系ステンレス鋼の連続鋳造方式製造工程を概略的に示す図面である。
【0042】
本発明の一実施例によるリーン二相系ステンレス鋼は、レイドル110、ターンディッシュ120、鋳型130、複数のセグメント140が順次に配置された通常の連続鋳造設備100で製造される。ただし、セグメント140の後端部には空気と冷却水を混合して噴射させる噴射手段150がさらに備えられる。
リーン二相系ステンレス鋼を連続鋳造方式で製造するためには、先ず上記で提示した合金成分を有する溶鋼を準備してレイドル110に移動した後、シュラウドノズル111を利用してターンディッシュ120に臨時保存する。このとき、ターンディッシュ120に臨時保存される溶鋼は、理論凝固温度より10〜50℃高く維持することが望ましい。
【0043】
さらに説明すると、ターンディッシュ120での溶鋼温度と理論凝固温度差のΔT(℃)は下限が10℃で、上限は50℃であるが、ΔTが下限値の10℃より低くなるとターンディッシュ120で溶鋼Mの凝固が始まり連続鋳造に問題が生じ、一方、ΔTが上限値の50℃を超過すると、凝固中の凝固速度が遅くなって凝固設備が粗大になり、連鋳鋳片に凝固クラック及び熱間圧延時の線状欠陷が発生しやすくなる。
そして、ターンディッシュ120で浸漬ノズル121を利用して鋳型130に溶鋼Mを注入する。このとき、鋳型130では溶鋼Mの冷却速度を500〜1500℃/minを維持しながら鋳型130を通過させて1次冷却する。
このとき、冷却速度が500℃/min未満になれば、初期に形成されたデルタフェライト凝固による窒素溶解度差によって発生した窒素ガスが鋳型130の凝固シェルを通じて排出される問題により粗大化した窒素ピンホールが発生し、連続鋳造されたスラブに粗大で多量の窒素ピンホールが発生する。また、初期に形成されたデルタフェライトの粗大化が発生して外部応力に弱くなる。また、冷却速度を500℃/min未満にする場合は、連続鋳造時に鋳型130での冷却(1次冷却)及びセグメント140での冷却(2次冷却)量が減少し、これにより鋳造中の鋳片Sの熱伝逹が遅くなって鋳片凝固層の強度が低下し、鋳片が膨らむ(bulging)現象が発生して操業及び品質の悪化をもたらす。
【0044】
そして、冷却速度を1500℃/minを超すように制御すれば、窒素ピンホールの観点から非常に有利であるが、現在の連続鋳造設備に限界があり、連続的操業が不可能である。連続鋳造時、樹枝状晶(dendrite)の間に残存する溶質元素の偏析が拡散する時間が少なくなって鋳片表面のクラックを発生させる。このような現象によって鋳型130の内部で鋳片シェル(外形、shell)が一時的に破断されるオーバーラッピング現象が発生する問題がある。したがって、好ましくは、鋳型130での1次冷却時の冷却速度を500〜1500℃/minで設定することが望ましい。
鋳型130で凝固シェルが形成された溶鋼M、すなわち鋳片Sはセグメント140に引抜して2次冷却をすることになるが、このとき、鋳片Sで0.25〜0.35L/kgの冷却水を噴射することが望ましい。このようにセグメント140での比水量を限定した理由は次のとおりである。
【0045】
セグメント140、つまり2次冷却帯での比水量を相対的に大きく設定すれば、凝固組織は微細に形成することができるが、比水量が0.35L/kgを超過すれば、連続鋳造工程時に凝固組織の間に偏析された不純物が拡散する時間が少なくなるため、シグマ状に存在するようになって鋳片表面にクラックが発生する。また、熱応力によるクラックだけでなく、残留応力が表面に過度に発生するので、鋳片研磨(grinding)時に表面クラックが発生する。一方、比水量が0.25L/kg未満であると、凝固組織は過大になって粒界に生成されたシグマ状によって凝固クラックが発生する問題点と、連続鋳造中に鋳片凝固シェル(shell)の強度が低下され、鋳片膨らみ(bulging)によってクラックが発生する問題点を引き起こす。
したがって、セグメント140での比水量範囲は0.25〜0.35L/kgであることが望ましい。
【0046】
そして、セグメント140で引抜しながら2次冷却された鋳片Sに対して3次冷却を行う。3次冷却は、セグメント140で引き続き引抜しながら鋳片Sの表面温度が1100〜1200℃の範囲で、鋳片Sの表面全体に対して100〜125L/kg・分の冷却水を空気と冷却水の割合(空気/冷却水)が1.0〜1.2になるように混合及び噴射して冷却することである。
3次冷却は、鋳片Sの表面に均一なスケールを確保するように制御することである。その理由は、リーン二相系ステンレス鋼の場合、加熱炉で酸化量が非常に少なくて熱間圧延時にスケールによる潤滑効果が小さくて、表面クラックを低減することはとても難しい。よって、圧延中にロールと鋼板の接触による温度低減を防ぎ、ロールと鋼板の間の摩擦力を減少させて表面クラックを防止するためには、鋼板表面に緻密で且つ厚いスケールを形成し、また圧延中に容易に薄利が起こらないようにしなければならない。上記のように鋳片Sの表面温度、冷却水の比水量、及び冷却水と空気の割合(空気/冷却水)を限定する理由は、上記条件を満たさない場合、鋳片Sの表面に望む水準(おおよそ35μm±2μm)の厚さでスケールが形成されないし、生成されるスケールが均一に形成されないためである。
【0047】
以下、本発明による組成を有するリーン二相系ステンレス鋼をターンディッシュでの溶鋼温度、鋳型での冷却速度、2次冷却帯での比水量を〔表4〕のように変更しながら鋳片を生産し、その結果、ピンホール及び鋳片表面のクラック発生度合を〔表4〕中に示した。このとき、鋳片のピンホール発生可否は、スラブの表面を約0.5mm程度グラインディングした後、グラインディングされた表面を観察した。
【表4】
【0048】
〔表4〕から分かるように、本発明の制御条件を全て満たす発明例である発明材A〜発明材Eは、いずれも連続鋳造鋳片で窒素によるピンホールが発生しておらず、また膨らみ及び熱延コイル表面に欠陷が発生しなかった。
そして、比較材F及び比較材Gは、鋳型での冷却速度が本発明の範囲内であったため、鋳片の内部に窒素によるピンホールは発生しなかった。しかし、比較材Fの場合、比水量が本発明の範囲より多く、鋳造中に膨らみ(bulging)は発生しなかったが、鋳片表面に熱応力がひどく作用してクラックの発生を誘発した。また、比較材Gは2次冷却帯の比水量の範囲が本発明の範囲より少なく、膨らみが鋳片に発生することによって鋳片表面にクラックが発生した。それによって、熱間圧延時に局所的に過度なスケールの形成による熱延コイル表面に線状欠陷が発生した。
そして、比較材I及び比較材Jは、鋳型での冷却速度が本発明の範囲より遅くて、鋳片にひどいピンホールが発生した。しかし、2次冷却帯の比水量が本発明の範囲では連鋳鋳片の表面は良好であるが、鋳片に存在するピンホールによって熱間圧延時に多量の線状欠陷が発生した。
【0049】
一方、図7は本発明の連続鋳造方式によって製造された比較材Iと発明材Aの組織写真で、図8は本発明の連続鋳造方式によって製造された比較材Hの表面欠陥写真で、図9は本発明の連続鋳造方式によって製造された比較材Fの表面欠陥写真である。このとき、図8及び図9は、比較材H及び比較材Fの熱間圧延後に発見された熱延コイル表面の表面欠陥写真である。
図7から分かるように、発明材Aの鋳片は表面でピンホールが発見されなかったが、比較材Iは多量のピンホールが発生することが確認できる。また、図8から分かるように、比較的にピンホールの発生が良好な比較材Hを熱間圧延後に熱延コイルの表面を観察したところ、圧延方向に延伸されたピンホール性欠陷が多く観察された。そして、図9は比較材Fを熱間圧延後に熱延コイルの表面を観察したところ、鋳片クラック性表面欠陷が多量観察された。
したがって、多様な実施例を通じて本発明によって連続鋳造時の鋳型での冷却速度と2次冷却帯の比水量を適切に制御することで、ピンホール及び鋳造時の割れ目、膨らみの発生が抑制されたオーステナイト相とフェライト相から構成されたリーン二相系ステンレス鋼の優秀な鋳片品質を得られるだけでなく、安定的な連続鋳造操業が可能であることを確認した。
【0050】
そして、本発明による組成を有し、1次冷却と2次冷却が行われたリーン二相系ステンレス鋼を3次冷却時に冷却数量、噴射時間、空気/冷却水の割合、鋳片の表面温度を〔表5〕のように変更しながら鋳片を生産し、その結果、スケールの厚さ及び均一度合を〔表5〕中に示した。
【表5】
発明材1〜発明材4のように、鋳片表面温度が1000〜1200℃の地点で空気/冷却水の割合を1.0〜1.2と維持しながら、冷却数量100〜120 L/kg・分で20〜30分間冷却水を噴射する場合、スケールが非常に均一で厚くなることが分かる。
しかし、比較材1及び比較材2のように、冷却数量を50L/kg・分または80L/kg・分に噴射した場合は、冷却水の量が十分ではないため酸化スケールの生成を促進させることができず、均一な酸化スケールも得ることができなかった。
【0051】
そして、比較材3ないし比較材5のように、空気対冷却水の割合(空気/冷却水)を変化させて酸化スケールを調べたところ、空気の量が十分であるほどスケール層の厚さが増加することが確認できた。これによって、望む厚さのスケール層を形成するためには、空気対冷却水の割合(空気/冷却水)を1.0以上に維持することが好ましい。しかし、空気の割合が上限1.2を超過すると十分なスケール層を得ることができるが、全体冷却水システムに支障をもたらすおそれがある。
比較材6及び比較材7のように、冷却水の噴射時間を15分及び10分にして噴射した場合、たとえ冷却水噴射地点の温度と、冷却水/空気の割合などは発明材の条件近くであるが、噴射時間の不足によって、均一で十分な厚さのスケール層を得ることはできなかった。したがって、均一で厚い厚さのスケール層を得るためには、スラブが空気と反応するための十分な噴射時間が必要であることを確認することができた。しかし、冷却水の噴射時間が一定時間以上超過されると、鋳片が停滞して生産量が減少するおそれがある。
【0052】
また、比較材8及び比較材9のように、鋳片の表面温度が932℃および1063℃の地点で冷却水を噴射した場合、酸化スケールの厚さは15μmおよび26μmで、不均一な酸化スケールを示した。しかし、鋳片の温度が高いほど酸化スケールの形成を促進し、均一なスケールを得られることを予測することができた。また、連続鋳造された鋳片で、鋳片の表面温度が高いほど均一なスケール層を得られることを予測することができる。
このように、連鋳工程完了後、冷却噴射工程で最適の噴射位置で最適の冷却水及び空気比と最適の冷却水数量を噴射するようにすれば、スケールの形成を最適化することができ、表面品質を向上させることができる。また、傷の除去工程などにかかる費用を最小化することができて付加価置を向上することができる。
【0053】
次に、ストリップキャスティング方式でリーン二相系ステンレス鋼を製造する方法を説明する。
図5は本発明の一実施例によるリーン二相系ステンレス鋼のストリップキャスティング方式の製造工程を概略的に示す図面で、図6は本発明の鋳造ロールに形成された窒素排出チャンネルの模式図である。
本発明の一実施例によるリーン二相系ステンレス鋼は、レイドル210、ターンディッシュ220、一対の鋳造ロール230、インラインローラー260、捲取ロール270が順次に配置された通常のストリップキャスティング設備200で製造される。ただし、鋳造ロール230の表面には、ガス排出チャンネル231が形成される。
リーン二相系ステンレス鋼をストリップキャスティング方式で製造するためには、先ず上記で提示された合金成分を有する溶鋼Mを用意してレイドル210に移動させた後、シュラウドノズル211を利用してターンディッシュ220に臨時保存させる。そして、注入ノズル221を通じて一対の鋳造ロール230の間を通過させながら凝固させてストリップSを製造し、製造されたストリップSは鋳造ロール230と連続的に配置されたインラインローラー260で圧延されて捲取ロール270に捲取される。
【0054】
一方、鋳造ロール230の上部には溶湯表面が空気と接触して酸化されることを防ぐためにメニスカスシールド250が装着され、メニスカスシールド250の内部には適切なガスが注入され、適切に酸化防止の雰囲気が形成される。
このように、溶鋼Mは一対の鋳造ロール230が接するロールニップをすり抜け、インラインローラー260を経て圧延された後、熱処理過程及び冷間圧延などの工程を経て10mm以下のストリップSで製造される。
【0055】
上述した10mm以下のストリップSを直接製造する双ロール式ストリップキャスターで最も重要な技術的要素の一つは、注入ノズル221を通じて速い速度で互いに反対方向へ回転する内部水冷式鋳造ロール(twin−drum rolls、230)と側面ダム(240、side dam)の間に溶鋼Mを供給し、水冷される鋳造ロール230の表面を通じて多くの熱量を放出して溶鋼を急速冷却、望む厚さの薄板を割れ目なしに実収率が向上するように製造することである。
本発明の高延性リーン二相系ステンレス鋼製造方法では、エッジ割れ目及び表面割れ目の原因である溶鋼中に含まれた固溶限度以上の窒素問題、及び窒素含有による熱間加工性低下問題を解決した。
つまり、鋳造ロール230を通じて溶鋼Mが凝固するとき、固溶限度以上の窒素を排出しながら急速鋳造を完了し、鋳造後に連続的に進められるインラインローラー260を利用して急速鋳造を完了することで、約2〜5mmの薄いストリップSを製造することで上述の問題点を解決した。
【0056】
ストリップキャスティングの過程で溶鋼M中に含まれた固溶限度以上の窒素をとり除くために多様な手段が提示されてもよいが、本発明による高延性リーン二相系ステンレス鋼の製造方法では、その一例として鋳造ロール230の表面に窒素排出チャンネルを形成することで溶鋼凝固時に固溶限度以上の窒素を排出した。
窒素による内部気孔問題は、殆ど一対の鋳造ロール230の間に溶鋼Mが通過しながら急速に冷却する過程で発生する。
したがって、溶鋼M中の固溶限度以上の窒素は、溶鋼Mが鋳造ロール230を通過すると同時に進めなければならない。このために、鋳造中に窒素排出ができるように、鋳造ロール230の表面にはガス排出チャンネル231が形成されることが望ましい。
【0057】
ガス排出チャンネル231は、溶鋼Mが通過できず、窒素ガスのみが排出される程度の微細なチャンネルである。このようなガス排出チャンネル231は鋳造ロール230に多様な方式で形成されることができ、鋳造ロール230の表面に円周方向に形成され、鋳造ロール230の回転に応じて鋳造ロール230の外側方向に窒素ガスをガイド、排出することができる。
ガス排出チャンネル231は、その幅が50〜500μm、その深さが50〜300μmの微細なチャンネルにあたり、鋳造ロール230の円周方向に複数個が形成されるが、隣合うガス排出チャンネル231の間の間隔は100〜1000μm程度で形成することが望ましい。
ガス排出チャンネル231の形状、構造及び適用位置は、その機能を果たせるのであれば、多様に変形されることができる。
一方、このようなガス排出チャンネル231が複数個形成される場合、鋳造ロール230とこの鋳造ロール230を通過する溶鋼Mの間の接触面積が減少することがあるので、これを防止するために、鋳造ロールの表面には凹凸が突出して形成されることが好ましい。このような凹凸は、平均15〜25μmの大きさを有する。
【0058】
以下、溶鋼中に固溶限度以上の窒素が薄板に与える影響を確認するために、下記の〔表6〕のように溶鋼の組成及び鋳造法を変更しながらリーン二相系ステンレス鋼を製造した。このとき、比較例1は特定の組成を持つ溶鋼を一般的な連続鋳造法を利用して鋳造したもので、比較例2は特定の組成を持つ溶鋼を一般的なストリップキャスティング(急速鋳造)法を利用して鋳造したもので、実施例1ないし実施例5は、本発明による鋳造ロールを利用して溶鋼中の固溶限度以上の窒素を排出しながらストリップキャスティング工程で鋳造したものである。
【表6】
【0059】
〔表6〕に示したとおり、比較例1は連続鋳造工程中、窒素が排出されず、鋳片内部に気孔が発生したことを確認することができた。
また、比較例2は、一般的な方式のストリップキャスティング工程中、窒素が排出されず、ストリップ内部に気孔が発生したことを確認することができた。
これは溶鋼が鋳型または鋳造ロールを通過、凝固しながら発生させる窒素溶解度の差によるものである。
本発明の高延性リーン二相系ステンレス鋼の窒素組成は1500〜3200ppmの範囲である。
一方、溶鋼が液相から固相に凝固する過程は、液相−−>液相+デルタ−−>デルタ−−>デルタ+オーステナイトの順に進行するが、液相がデルタ相に変わるとき、窒素固溶度は約1164ppmで、約836〜1836ppm程度の固溶度差が発生する。そのため、液相に過飽和された窒素のうち一部が凝固するときにガス(gas)化され、凝固した素材の内部に多様な気孔を形成することは勿論、素材の表面に形成された凝固シェルにも多数の気孔を形成する。
このように、実際に凝固された素材の内部には多くの気孔が存在し、これら気孔の一部は熱間圧延時に圧搾されるが、未圧搾の気孔は内部欠陷となり、加熱炉を加熱するとき外部へ露出する場合は、多様な表面欠陥形態へと発展する。
一方、実施例1ないし実施例5は、本発明によるストリップキャスティング工程であって、工程中に窒素が排出され、ストリップの内部に気孔が発生されないことを確認することができた。
【0060】
以上、本発明を添付図面と好ましい実施例を基にして説明したが、本発明はそれに限定されず、後述する特許請求範囲によって限定される。したがって、本技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求範囲の技術的思想から脱しない範囲内で本発明を多様に変形及び修正することができる。
【符号の説明】
【0061】
100:連続鋳造設備
110:レイドル
111:シュラウドノズル
120:ターンディッシュ
121:浸漬ノズル
130:鋳型
140:セグメント
150:噴射手段
200:ストリップキャスティング設備
210:レイドル
211:シュラウドノズル
220:ターンディッシュ
221:注入ノズル
230:鋳造ロール
231:ガス排出チャンネル
240:側面ダム
250:メニスカスシールド
260:インラインローラー
270:捲取ロール
M:溶鋼
S:鋳片、ストリップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9