【文献】
HOFFMANN, M. R. et al.,Environmental Applications of Semiconductor Photocatalysis,Chemical Reviews,米国,ACS Publications,1995年 1月,Vol.95,pp.69-96
【文献】
小松通郎、西田広泰,シリカゾルの利用,石膏と石灰,日本,無機マテリアル学会,1991年 5月 1日,Vol.232,pp.191-202
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
活性炭は吸着が飽和し機能を失なうと廃却・交換されるため例えば冷蔵庫内の脱臭や、トイレの便器の脱臭など比較的限られた狭い空間でしか効果的に実施できない、という問題がある。特許文献1および特許文献2には廃却・交換する必要が無いTiO
2を光触媒として機能させる提案がなされている。しかし、夜間や室内で酸化チタンを光触媒として機能させるためには別途紫外線の光源を準備する必要があり、室内光源としては紫外線が含まれている蛍光灯が利用されて来たがより寿命が長く、しかもより消費電力の小さいLEDに取って代わられて来たので可視光で機能する空気浄化触媒が要望されている。
【0009】
特許文献3
に提案されている青果物
の鮮度保存方法は保存の基本として冷蔵すべき容器内に発熱する光源を設置するという相反する機能物の設置は好ましくない。特許文献4に提案された可視光光触媒から発生するスーパーオキサイドアニオンは活性酸素ではあるが最も活性が強いといわれているOHラジカルが含まれていない。この改良を含む高性能の可視光光触媒を開発するために多大な努力が注がれてきたが、可視光であっても照明は必要であり、消灯後の夜間、すなわち無光下でも機能する空気浄化触媒に対する要望は増大している。
【0010】
特許文献5に記載の手段は、その効果として、無光下で空気中の有害物質の分解・無害化・浄化についてその可能性を挙げているが、具体的な組成範囲や脱臭効果について言及していない。また、繊維の中でも生産量も圧倒的に多く、しわになり難さ、速乾性、強度、寸法安定性などの点でも優れているポリエステル繊維を基材とするシリカゾル乾燥物複合体としての利用が要望されている。
【0011】
特許文献6に記載の手段はNaOHの含有量がシリカ1モルに対して1.9ミリモル以下の場合にOHラジカルをもたらすシリカゾルを基材に塗布・乾燥した複合体をクマリン水溶液に浸漬するとOHラジカルの存在を証明する7OHクマリンの波長の蛍光が認められ無光下でウイルスを不活化するとされているが、脱臭機能に及ぼすNaOHの影響は明白ではない。本発明の目的は、空気を浄化する手段として光の照射が不要でOHラジカルを生成できる価電子帯正孔と等価のOHラジカル前駆体を保有する基材―シリカゾル乾燥物複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は基材−シリカゾル乾燥物複合体において、特に、基材上に塗布されるシリカゾルのアルカリ含有量を特定の範囲に調整するときは、該基材−シリカゾル乾燥物複合体が、無光下でも後述するクマリンテストによって同定されるOHラジカル前駆体の生成に
及ぼすNaOHの影響を解明し、大気中において悪臭、シックハウス症候群をもたらすVOCなどの有害有機物を分解,その作用により、顕著な脱臭作用等を呈する水溶性のアル
カリ金属塩の含有量との定量的な知見を得、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、シリカ1モルに対して2.5〜7.1ミリモルのNa,K,またはLiから選ばれた水溶性アルカリ金属を保有するシリカゾルを基材に塗布乾燥することにより光照射を必要とせず無光下でも効率的にOHラジカル前駆体を保有し、安価な基材―シリカゾル乾燥物複合体を提供するものである。
【0014】
この複合体が空気中の有害物質の分解・無害化・浄化をもたらすOHラジカル前駆体が正孔と等価であることはクマリン液中でOHラジカルがNaOHと共存する場合に発生する蛍光分光によりNaOHのみが存在するときに認められるケイヒ酸と同じ波長であるがそのピーク光度が略10分の1以下になるスペクトルを発生することを新規に見出し、NaOH共存下のOHラジカルの存在の証明になり得ることを明らかにした。
【発明の効果】
【0015】
即ち本発明は基材とシリカゾル乾燥物とから成る複合体であって、該基材上にシリカ1
モルに対しNa,KおよびLiから選ばれた1種又は2種以上の水溶性アルカリ金属塩をアルカリ金属の水酸化物に換算して2.5〜7.1ミリモルの割合で含有するシリカゾルを塗布後乾燥させたことを特徴とする空気浄化機能のすぐれた基材−シリカゾル乾燥物複合体を提供する。またこの複合体は固体の有機物の基材を分解しない。
【0016】
無光下でもOHラジカル前駆体を保有することを特徴とする基材−シリカゾル乾燥物複合体であって、基材に対するシリカゾルの塗布量が、乾燥状態で、前記基材の単位表面積当たりの質量(g/m
2)当たり1mg〜1.5gの範囲に調整する。本発明に係る基材−シリカゾル乾燥物複合体を、モル濃度0.1〜0.2mMのクマリン水溶液に浸漬すると330〜370nmの光線で励起した場合に500〜510nmのピークを有する蛍光を発するとこの複合体がOHラジカル前駆体を保有することを証明できる。
【0017】
本発明に係る基材−シリカゾル乾燥物複合体は無光下においても水と接触した際にはOHラジカルを発生するものであり、大気中においてはVOCや悪臭を分解する。青果物の保存中や輸送中の青果物の追熟,老化をもたらすエチレンを分解するのでTiO
2および照射用の紫外線光源を設置する必要がなく保存容器の内面に本発明のシリカゾルを塗布乾燥しておくだけでよい。また、建造物の内壁、天井、カーテン、造花、人造観葉植物にスプレー塗布すれば自然乾燥によりシリカゾル乾燥物複合体が生成し夜間でも空気の浄化を続ける。
【0018】
本発明の基材としては、天然繊維、再生繊維、化学繊維の織布または不織布、木材、紙、壁紙から選んだ単体若しくはこれらの複合体が使用でき、上記の不織布基材をエアフィルタとして用いた場合の通気性の点でメッシュ加工されたものとするのが圧力損失が小さくなることから一層好ましい。
【0019】
本発明に係る基材−シリカゾル乾燥物複合体は、障子紙、脱臭器・空気清浄器・エアコンのフィルタとして、間仕切り、衣服、医師・看護師の白衣・帽子のほかに、衛生マスクや防臭マスクの呼気通過部に組み込んで利用することができる。
【0020】
本発明の基材―シリカゾル乾燥物複合体が無光下でも正孔と等価のOHラジカル前駆体を保有し、VOC,悪臭等の有害気体を分解するが、加えて紙、天然繊維、再生繊維または化学繊維の織布・不織布から成る固体の有機物基材を分解しない、という画期的な特徴を持つ理由は次のように推定される。
まずシリカゾルの液中ではシリカ粒子が水中でお互いに衝突すると結合、粗大化して沈降するのを防止するためにシリカ粒子同志が反発しあうようにマイナスに帯電しており、どのようにしてマイナスに帯電しているかの機構としては非特許文献4によればシリカゾル液中のシリカ粒子は(OH)
2SiO
2−のような形を取っているという提案がなされて
いる。
【0021】
シリカゾルをそのまま乾燥するとシリカ粒子のOH基同士が結合して帯電が失われた乾燥シリカが得られるが基材の上で乾燥するとOH基同士の結合が妨げられこの化学式のままに乾燥後もマイナス帯電が維持されて、そのマイナス帯電量に等しいプラスの帯電物が発生するはずである。クマリン液に基材−シリカゾル乾燥物複合体を浸漬するとOHラジカルの存在が無ければ発生しないようなスペクトルの挙動が観察されたことから、この基材−シリカゾル乾燥物複合体はOHラジカルをもたらすことは立証されているのでこのプラスの帯電物は半導体の価電子正孔と等価のOHラジカル前駆体と呼ぶことにした。
【0022】
このような(OH)基を持つ《(OH)
2SiO
22−》がOHラジカル前駆体の源であれば脱
臭などの脱電子反応により一度OHラジカル前駆体が失われてもマイナス帯電のOH基が存在する限りそれに対応するプラス帯電のOHラジカル前駆体は何度でも再生する。しかし、水に接触して濡れている時間中はOHラジカル前駆体は失われているが、乾燥した時点で再生する。
光触媒のTiO
2は半導体であって紫外線の照射により荷電子帯の電子が励起され移動
した跡に発生する正孔は有機物基材から電子を奪って分解すると考えられる。一方、このプラス帯電のOHラジカル前駆体は絶縁体であるシリカに付着しているため自身は動けないので、相手が気体や液体のような流体なら衝突して来て電子を奪われ分解する、即ち悪臭などの気体は分解する、が固体の有機物基材に塗布したシリカゾル乾燥物中に生成している正孔と等価のプラス帯電OHラジカル前駆体とは微視的には接触していないので分解しない、と考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
基材とシリカゾル乾燥物とから成る複合体であって、該基材上にシリカ1モルにNa、KおよびLiから選ばれた1種又は2種以上の水溶性アルカリ金属塩をアルカリ金属の水酸化物に換算して2.5〜7.1ミリモルの割合で含有するシリカゾルを塗布後乾燥させると空気浄化機能のすぐれた基材−シリカゾル乾燥物複合体が生成する。
基材には天然繊維、再生繊維または合成繊維およびそれらの織布または不織布のほかに木材、紙も利用できる。基材の天然繊維がコットン、絹、麻であり、再生繊維がレーヨン、リヨセルであり、合成繊維がポリエステル、ナイロンが好ましい。これらの基材に空気浄化機能を発揮するOHラジカル前駆体を保有するシリカゾルを塗布した場合の乾燥温度は常温から230℃の雰囲気も可能なのでカーテン、壁材、床材、天井材、障子紙、造花、人工観葉植物にスプレー塗布しそのまま放置すれば乾燥できる。
【0025】
塗布するシリカゾルはNa,KおよびLiから選ばれた1種又は2種以上の水溶性アルカリ金属塩をシリカ1モルに対してアルカリ金属の水酸化物に換算して2.5〜7.1ミリ
モルが好ましく、4.3〜7.1ミリモルの割合で含有するのが特に好ましい。
【0026】
上記シリカゾルは、シリカゾル中のシリカ粒子の粒径が4nm〜0.7μmであるもの
とするのがよい。具体的には通常の粒子径が4〜25nmの球形シリカ粒子のゾルまたは、細孔が2〜50nmのメソ孔を有する多孔質球状の粒子径が0.3〜0.7μmのシリカ粒子のゾル、が使用できる。 基材に対する付着力は主としてその粒径に依存し小さい方が優れるが0.7μm以下であれば、実用的に十分な密着性が得られるからである。この範囲であれば基材―シリカゾル乾燥物複合体を取扱中にシリカ粒子が基材から剥離することが無く十分な密着性が得られる。なお、上記シリカ粒子の粒径とは、BET法(窒素吸着法)およびシアーズ法により測定される粒径をいう。
通常シリカゾルの粒子径を測定するのに、BET法が用いられる。これは乾燥粉を作成し、その乾燥粉の表面に窒素を吸着させることで、その吸着量から表面積を測定し、それを計算上球形前提で、粒子径を算出する。
【0027】
本発明において、基材に対するシリカゾルの付着量は用途によって異なり、通過させる空気を浄化する目的のエアフィルタの場合は乾燥状態で、基材の単位表面積当たり0.3
〜1.5g/m
2,壁、天井、造花、間仕切りなどごとく人に触れない用途の場合は0.1〜0.8g/m
2、衣料、カーテンなど人に触れる用途の場合は0.001〜0.3g/m
2が目安になる。
【0028】
シリカゾルの濃度は上記付着量を達成するために基材の厚さ、質量に応じて必要かつ処理し易い濃度を選ぶことになるので0.001〜20質量%とし、乾燥は求められる生産性に応じて室温〜230℃、好ましくは10〜200℃を選べばよい。すなわちエアフィルタ
のごとく通過する空気の浄化速度を大きく、かつその生産性を大きくする場合にはシリカゾルの濃度を3〜20%と大きく、100℃以上の高温の雰囲気を選べばよく、逆に内装建材やカーテンのごとく塗布面積が広く浄化時間が長い場合や手触りで感じないことが求められる用途には0.03〜1%と低濃度を選べばよい。
【0029】
大気中での有害物質を分解する触媒性能を評価するには検知管やガスクロマトグラフを用いて直接その濃度を測定すればよいが、簡便な方法としてメチレンブルー染料(化学式C
16H
18N
3S・Cl,略号:MB)の退色性を利用して光触媒製品の分解する能力を評価する方法がJISR1703−2として制定されている。しかし、水が染み込むような透水性のある基材には適用しないことが規定されているため本発明のごとく基材が繊維製品を含む多様な材料を評価するMB耐色性試験方法を開発した。
【0030】
メチレンブルーの退色性の根拠が記載されている参考文献5によれば、メチレンブルー液に浸漬されているTiO
2に波長369nmのブラックライトを1−4時間照射し、0h,2h、4h後に発生するメチレンブルー派生物アズールAおよびBを液体クロマトグラフで測定すると、メチレンブルー分子は2か所にN(CH
3)を持っているが、アズールAはその1か所がNHCH
3に、アズールBはNH
2にとCH
3基が失われている、つまりN−CH
3結合が切断されて行く、ことが明らかになった。これは光触媒から発生した正孔によりOHラジカルが発生しそれによりこの結合が切断されたと考えられ、無光下で退色することは本基材―シリカゾル乾燥物複合体が正孔と同等の機能を持つOHラジカル前駆体を保有していることを示している。
OHラジカルの検出に用いたスピントラップ法にはESR設備、クマリンの蛍光分光光度計はいずれも存在する台数が少ないために利用し辛いのに対しメチレンブルーの濃度測定に用いる吸光光度計は多くの研究所が保有しているので本発明においては主にメチレンブルー退色性により触媒活性度を評価した。
具体的な試験方法は
1.0.1mM〜3mMと高濃度のMB液を用意する。(以降「mM」はミリモル/リットルを表す。)
2.3x3cmのサンプルを、50mmΦのシャーレに入れ、サンプル全面に染みる水の量を決める。
3.次に測定するサンプルが適度に変色する濃度のMB液を選定し、本番のサンプルに滴下する。
4.ppフィルムを被せて2分後に剥がし、2mLの精製水を滴下してシャーレをゆすり、この洗浄液をmicrotubeに収納、肉眼で色を比較後、波長664nmの濃度を分光光度計(アズワン社製SP-300)で測定する。
【実施例1】
【0031】
シリカゾル中のアルカリ濃度の触媒活性への影響を調べる目的で濃アルカリ液を添加してアルカリ濃度を変えたシリカゾルを塗布乾燥したシートの脱臭性能を評価した。
基材:40mass%(以下の%はすべてmass%とする)ポリエステル混紡コットン不織布メッシュ加工 エスコット40(商標) ユニチカ(株)製 目付40g/m
2(目付とは1m
2あたりの質量g数) 10x15cm
シリカゾル:A 粒径:4−6nm (SiO
2:20.5% 3.42M NaOH :0.58
%=14.5mM、NaOH/SiO
2:4.2/M) を濃度10 %(NaOH:4.68mM)に希釈(NaOH/SiO
2のmM/M比:2.81)、その10mLに1.9Mのリチウムシリケート(日産化学工業(株)Li
2O:SiO
2のモル比3.50、Li
2O=2.89%)の0.01mLを,0.25MのNaOH,0.20MのKOH、の水溶液の各0.02mLを添加、それらの3mlを10x15cm基材に塗布、強制対流方式定温乾燥器OF-450B(アズワン(株)製で90℃10分間 乾燥した。
脱臭性:10x15cmの基材を10x7.5cmの2枚重ねになるように折り、市販のプリーツ型マスク(Amway社製・鼻パッド付)に挟んで1 %アンモニア水の臭いを嗅ぎ、2枚のサンプルの臭いを相対的に比較・評価した。試験はサンプルNo.1〜4、と5〜8,9〜11は別に作製したのち、脱臭試験をまとめて実施した結果を表1に示す。
なお、リチウムシリケートのシリカはすべて溶解しているため、アルカリ/シリカ比には算定しなかった。
【0032】
【表1】
*:リチウムシリケートのLi2O含有量2.89%から換算
【0033】
アルカリの種類によらず、また2種および3種混合添加した場合、アルカリ/シリカ比が5.06で脱臭性能は極大値に達しNa、Kをそれ以上添加しても脱臭性能は向上しない。サンプルNo.13以上にアルカリを添加した場合は短時間でゲル化(固化)することからシリカ10%のシリカゾル中のアルカリ濃度の限界となる。
【実施例2】
【0034】
高濃度のアルカリが存在する場合に生成するOHラジカル前駆体の触媒活性度を評価する方法として脱臭性能とメチレンブルー水溶液の退色性との関係を調べた。:NaOH濃度の異なる4種のシリカゾルE,B,M、A,M、をシリカ濃度8%に調整し、その2mLを100cm
2を塗布、90℃x10分間乾燥した。脱臭試験の方法は実施例1と同じとした。
【0035】
メチレンブルー退色試験:各条件ごとに3x3cmのサンプルを3枚用意した。サンプルを50mmΦのシャーレに入れ、濃度3mMのMB水容液0.25mLで測定し、3枚の平均値を採用した。これらの試験結果を表2に示した
【0036】
【表2】
【0037】
シリカゾルのNaOH濃度が高いほどMBの濃度の低下が大きく、高い分解能力があることが分かる。脱臭性能の順位もMB染料の退色性能の順位と一致していることから、MB退色性能が脱臭性能、すなわちOHラジカル前駆体の触媒活性度の指標にできることが認められた。
【実施例3】
【0038】
衣料など人間が触れても感じない程度のシリカゾル付着量でどの程度脱臭性が期待できるかを調べてみた。予備試験では目付140g/m
2 のポリエステル織物の場合、3x3cmのサンプルにはシリカゾル濃度は0.3%を0.12mL,0.4g/m
2が限界でこれ以上の場合には手触りで感じられることがわかった。
実施例1によればシリカ濃度が10%と高濃度のシリカゾルの場合SiO
2のモル濃度に対し4.2mMからアルカリ金属の水酸化物を添加して5.1mMに達すると脱臭性能が極大に達することが知られているが、上記のごとき手触りの限界である0.3%の低濃度の場合でもアルカリ添加による脱臭性能の向上が認められるか、逆に同じ脱臭性能をより低いシリカ付着量で達成できるか、についてメチレンブルー退色性で試験した。
シリカゾル種 M:粒度4〜6nm NaOH/SiO
2 mM/M比 5.2
A:粒度4〜6nm NaOH/SiO
2 mM/M比 4.2
液塗布量 0.12mL/3x3cm0.3%の場合0.003g/120g/m
2
NaOHの添加は、10%=2.5MのNaOH水溶液0.02mLを0.31%のシリカゾル液10mLに添加すると、NaOH/SiO
2のmM/M比は5.17から6.11に、0
.04mL添加は7.05に夫々増加する乾燥 70℃x20分
MB試験 濃度0.3mM 液量0.3mL
メチレンブルー試験結果を表3に示す。
【0039】
【表3】
10%のNaOHを0.02mLの添加効果はシリカゾルMの場合はMB退色性を2.5%とに僅かに改善、シリカゾルAの場合は37%と大きく改善するのに対し0.04mLの
添加はMB退色性を大きく劣化させるか、改善率が低下することがわかる。10%の高濃度の実施例1と同様に活性度に最適のアルカリ濃度が存在することが実証された。特にシリカゾルAの場合の最適値5.01がシリカ10%の高濃度のシリカゾル液での最適値5.06と一致している。
この実験結果によりシリカゾル中のNaOHを含むアルカリ金属水酸化物のmM/M濃度
の上限はシリカ濃度が10%の場合はシリカゾルがゲル化する限界が6.90であったが低濃度ではゲル化が起こらないことから7.05、すなわち7.1を上限とする。
【実施例4】
【0040】
基材にシリカゾルを塗布して乾燥する場合の雰囲気温度の触媒活性への影響をメチレンブルーの退色性を調べて評価した。
基材としてはポリエステル40%混紡コットン、目付40g/m
2の不織布と目付140g/m
2のポリエステル織布を用い、シリカゾルはNaOH/SiO
2mM/M比5.2のシリカゾルMを1.0%に調整し基材3x3cmに0.2mL/塗布してステンレス金網に載置、所定の温度に調整した乾燥器に挿入して乾燥した。
MB試験は1mMのMB液を0.25mLを3x3cmのサンプルに滴下して試験を行
った。結果を表4に示す。
【0041】
メチレンブルー試験結果
【表4】
滞留時間の影響もあるが70℃以上では乾燥温度のMB退色性に対する影響は認められない。特許文献3の実施例に用いられたシリカゾルはNa/SiO
2 mM/M比が1.4以下と本実施例発明の5.2よりかなり低く、その場合には乾燥温度が150℃下、好ましくは50℃以下、と比較すると微量のNaOHの含有により耐熱性が大きく改善され、ポリエステル繊維が分解する230℃まで触媒活性度が維持されることが明らかになった。
【実施例5】
【0042】
基材としてポリエステル不織布に塗布したシリカゾル中のアルカリ含有量の触媒活性度に及ぼす影響をメチレンブルー退色性により調べた。
基材:100%ポリエステル(スパンポンド不織布)70450WTO(商標)
目付:45g/m
2 ユニチカ(株)製
シリカゾル:H,D,B,A,Mの5種 シリカ10%
塗布量:0.1mL/基材3x3cm
乾燥条件:70℃x10分
MB試験:3mMのMB液0.2mlとしたほかは実施例2と同じ方法で測定した。結果を表5に示す
【0043】
【表5】
シリカゾルのNa/SiO
2mM/M比が2.5より低い比較例のシリカゾルH及びDの
MB濃度が高くのに対し、Na/SiO
2mM/M比が2.5より高い発明例のシリカゾル
B,A及びMは粒子径が小さい影響もあるがメチレンブルー退色性が優れている、すなわち触媒活性度が高いことが認められた。
【実施例6】
【0044】
絹、紙、レーヨン、リヨセル、木板を基材としてアルカリ濃度の異なるシリカゾルを処理した場合の脱臭性などの触媒活性を評価するためメチレンブルー退色性を調べた。いずれも3x3cmに切断したサンプルにシリカ濃度8%のシリカゾルを0.1mL、レーヨンは0.3mL、リヨセルは0.2mLを基材に塗布し70℃x10分間乾燥してサンプルとした。
紙は天然木材パルプの乾式エアレイド不織布KS40(商標)王子キノクロス(株)製
と 5%レーヨン95%パルプの障子紙をサンプルとした。レーヨン不織布は浪速絹綿(株)から入手したサンプルを用いた。木板は厚さ5.4mmの合板の表(おもて)面の約0.05mmの板に処理した。
基材の目付に応じて1mMのMB液を0.2〜0.5ml、木板は0.1mlとした以外は実施例2と同じ方法で試験した。結果を表6に示す。
【0045】
メチレンブルー退色性(相対濃度)
【表6】
【0046】
基材によりシリカゾル塗布液量及びメチレンブルー液量が異なるので基材の相互間の比較は妥当ではないが、使用したシリカゾルのNa/SiO
2 mM/M比が2.5以下の比較例1.4のシリカゾルを用いた場合は発明例の
mM/M比が4.2および5.2と2.5以上のシリカゾルを用いた場合は同じ基材間で比較すると必ず比較例より優れた活性度を示すことが確認された。
基材としては木板および2種の紙の退色性が優れており、紙は木材のパルプから製造されたセルロースが原料なのでコットンと同じと評価してよい。麻についても絹と同等の結果が得られている。
【実施例7】
【0047】
人造観葉植物によるVOCの除去
基材としてもみじ葉を18枚付けた鑑賞用人造枝にシリカ14 mass%、NaOH/SiO
2mM/M比5.2のシリカゾルをスプレー塗布、70℃10分乾燥した。容積10Lのコック付きテドラーバッグの一部を10cmカットして処理した枝を挿入し切り口をテープで封じた。
VOCとしてトルエン濃度15ppmの
空気10Lを注入し、検知管No.124SBで濃度を測定したところ20分後6ppm、2時間後1ppm以下であった。なお、未処理の枝を同様に測定したところ、2時間後14ppmであった。未処理のもみじ葉と比較してシリカゾル処理による変色は認められなかった。
このようにNaOH/SiO
2mM/M比が2.5より高い5.2のシリカゾルはスプレー塗装でもすぐれたVOC分解性能を発揮することが確認された。
【実施例8】
【0048】
青果物の鮮度維持に寄与するエチレン除去実験
基材として40mass%ポリエステル混紡コットンの不織布,目付:40g/m
2の35x40cmに、予備試験でエチレン除去性能はアルカリ/シリカ比に依存することから2種のシリカゾル
1.シリカ14.3%、Na
2O:0.38%、NaOH/SiO
2mM/M比 5.2のシリカゾル
2.シリカ30.3% Na
2O:0.30%、NaOH/SiO
2mM/M比 1.9のシリカゾル
を精製水でシリカを10%に希釈、その28mLを塗布、90℃の循環空気で10分間乾燥した。この基材―シリカゾル乾燥物複合体3枚を折り曲げて、コック付き5Lのテドラーバッグ(250x400mm)の端部を約20cm切り開いて収納し、後で透明粘着テープで切り口を封じてから50ppmのエチレンガスを500mL封入し、3℃の冷蔵庫で1,2,3時間測定用のサンプル/バッグを保存し、検知管でエチレン濃度を測定した。
検知管:No.127L 0.2〜50ppm 1回100mL 4回引き (株)ガステック
結果を表7に示す。
【0049】
【表7】
Na/SiO
2のmM/M比が2.5より低い比較例の1.9のシリカゾルを塗布したサンプルNo.2はエチレンガス封入後3時間後も45ppmと僅か5ppmしか減少しなかったのに対し, mM/M比が5.2の発明例のサンプルNo.1は10分の1の5ppmにまで減少し、エチレンの分解能力が大きいことが分かった。
【実施例9】
【0050】
光触媒の空気浄化機能は主として価電子帯正孔によるといわれているが、寿命が短くその検出には脱気した77Kの低温で高度の技術を要する。水中で正孔により発生する強い活性酸素であるOHラジカルを検出できれば水に浸漬する前には正孔すなわちOHラジカル前駆体が存在していたことが証明できるので特許文献6においては、アルカリ金属水酸化物の濃度がシリカ1モルに対して1.9ミリモル以下の場合についてクマリンとの反応生成物を蛍光分光する方法を応用して水に浸漬する前の正孔の存在を証明した。
既に多くの実施例によりアルカリ金属水酸化物の濃度がシリカ1モルに対して2.4ミリモル以上のアルカリ濃度が高い方が脱臭性やVOCなどの有機物を分解能力が大きいことを示してきたが基材―シリカゾル乾燥物複合体におけるOHラジカル前駆体の生成に及ぼすNaOH濃度の影響をクマリンの蛍光分光により検討した結果を以下に示す。
【0051】
非特許文献1には水溶液中のクマリン(下記化学式1)はOHラジカルに遭遇するとその3〜8の位置にOH基が付加するが、7の位置にOH基が付加した7OHクマリン(別名ウンベリフェロン(下記化学式2)だけは455nmにピークを持つ蛍光を発生し蛍光分光試験による特定波長の蛍光の検出によりOHラジカルの存在を実証できることが示されている。
非特許文献2にはクマリン水溶液中に懸濁したTiO
2粉末に紫外線を照射すると7OHクマリンが認められ、価電子帯正孔の存在を立証できることが記載されており、非特許文献3にはクマリン液にNaOHが共存する場合には波長が510nmのケイヒ酸(下記化学式3)の蛍光スペクトルが発生することが示されている。
【0052】
つまり、化学式1のクマリンはOHラジカルと反応して化学式2の7OHクマリンを生成すること、及び、クマリンはNaOHと反応して化学式3のケイヒ酸を生成することは知られていたが、クマリンがNaOHとOHラジカルとが共存する場合のスペクトルについては、知られていなかった。
【0053】
【化1】
【0054】
【化2】
【0055】
【化3】
【0056】
本発明者はTiO
2粉末を分散したクマリン水溶液に紫外線を照射した表1に示す実験サンプル1からは
図1に示すように非特許文献1と同じ波長の455nmのピークを持つ蛍光スペクトルが得られたので価電子帯正孔が発生していたことが証明できる。
【0057】
次に、作製した25mMのNaOH水溶液サンプル2(
図2)、と25mMのアルカリ性水溶液に
図1と同じ量の酸化チタンの粉末を分散させて作ったサンプル3の液を紫外線で励起すると、
図3に示すように
図2と同じ波長の510nmにピーク高さが42とサンプル2の約10分の1の高さのピークが現れ、
図1の波長455nmのピークは発生しない。
つまり、25mMのNaOHが存在し、酸化チタンもあって紫外線を照射したのでOHラジカルが共存する場合には7OHクマリンのピークは現れず、代わりにNaOHのみのピーク高さが約10分の1のケイヒ酸のピークが発生する、という新規な知見が得られた。
【0058】
NaOHを2.8mM、シリカを20質量%含有するシリカゾルをコットン基材に塗布乾燥した複合体のシートを同じ0.1mMのクマリン液に浸漬したサンプル液8の蛍光分光試験のスペクトルを
図4に示した。
このスペクトルは
図3と同じく波長510nmに強度がサンプル3の1/2の低いピークが認められることから、高濃度のNaOHとOHラジカルとが共存することを示しており、この基材―シリカゾル乾燥物複合体が正孔と等価のOHラジカル前駆体を保有していると言える。
【0059】
以上の実験結果を整理してまとめた表8によれば、
1.NaOH濃度が0mMおよび0.25mMと低濃度で、TiO
2を含みOHラジカルが共存するサンプル1およびサンプル5には7OHクマリンのスペクトルが現れ、正孔が発生したことが証明される。
2.NaOH濃度が2.5mMと高濃度で、TiO
2を含み正孔によりOHラジカルを発生したサンプル3には低ピークのケイヒ酸のスペクトルが現れ、同じ低ピークのケイヒ酸のスペクトルが現れた基材―シリカゾル乾燥物複合体8には正孔と等価のOHラジカル前駆体を保有することが証明された。
【0060】
【表8】
なお、これらの蛍光分光の測定には日立分光蛍光光度計F-7000を用いた。