【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような処理方法によって廃水中から分離・除去される固形分中には、多量のリン酸カルシウムが含まれている。したがって、そのような固形分をリン資源として再資源化することができれば、リン資源の有効利用を図ることができる上に、産業廃棄物として処分される固形分の減量を図ることができる。
【0005】
しかし、上述のようなリン酸含有廃水中には、リン酸以外にも重金属が含まれている場合があり、そのような場合には、重金属を適切に除去しないと、リンの再資源化を妨げる要因になる、という問題がある。
【0006】
より詳しくは、廃水中にリン酸と重金属イオンが共存している場合、リン酸カルシウムを沈殿させる工程では、重金属も共沈されることになる。そのため、廃水中に含まれる重金属イオンがごく低濃度であっても、沈殿物として回収されるリン酸カルシウム中には、濃縮されて高濃度になった重金属が含まれることになる。このような状態になってしまうと、固形分中から重金属だけを取り除くことができるような有効な方法はないため、リンの再資源化は非常に難しくなり、再資源化ができなければ産業廃棄物の増加を招くことになる。
【0007】
一方、廃水中から重金属を除去する方法としては、例えば鉛を含む廃水処理の場合であれば、一般に、廃水のpH調整により鉛を不溶性の水酸化鉛に変換して除去する中和沈殿法が利用されている。しかし、廃水中の鉛濃度がごく低濃度(例えば100ppb以下程度)である場合には、分離対象となる沈殿の生成量が過度に少なくなるため、そのような微量の沈殿物を有効に分離する方法がなく、微量の重金属を高度に除去することは困難である。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的の一つは、リン酸含有廃水中に含まれる微量の重金属を高度に除去することで、リンの再資源化を実現可能とするリン酸含有廃水の処理剤と、そのような処理剤を利用したリン酸含有廃水の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明において採用した構成について説明する。
本発明のリン酸含有廃水の処理剤は、シリカゲルの表面にアルカリ土類金属イオンをイオン交換で導入、又はシリカゲルの表面にアルカリ土類金属ケイ酸化合物を形成させることによって構成されたアルカリ土類金属−シリカゲル複合体を主成分とする。
【0010】
本発明のリン酸含有廃水の処理剤において、前記アルカリ土類金属−シリカゲル複合体は、平均粒子径1μm−10mmの粒子状とされていることが好ましい。
また、本発明のリン酸含有廃水の処理剤において、前記アルカリ土類金属−シリカゲル複合体は、0.5−20重量%のアルカリ土類金属を含有することが好ましい。
【0011】
また、本発明のリン酸含有廃水の処理剤において、前記アルカリ土類金属は、カルシウム又はマグネシウムであることが好ましい。
本発明のリン酸含有廃水の処理方法は、シリカゲルの表面にアルカリ土類金属イオンをイオン交換で導入、又はシリカゲルの表面にアルカリ土類金属ケイ酸化合物を形成させることによって構成されたアルカリ土類金属−シリカゲル複合体を主成分とするリン酸含有廃水の処理剤を、前記リン酸含有廃水と接触させる第一工程と、前記第一工程において前記リン酸含有廃水と接触させた前記処理剤を、前記リン酸含有廃水から分離する第二工程と、前記第二工程において前記処理剤を分離させた前記リン酸含有廃水から、リン酸化合物を回収する第三工程とを含む処理方法である。
【0012】
本発明のリン酸含有廃水の処理方法において、前記第一工程では、前記リン酸含有廃水のpHが7−9.5に調節されることが好ましい。
また、本発明のリン酸含有廃水の処理方法において、前記第一工程では、前記リン酸含有廃水1L当たり200−5000mgの前記処理剤が使用されることが好ましい。
【0013】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。
本発明のリン酸含有廃水の処理剤において、主成分とされるアルカリ土類金属−シリカゲル複合体は、シリカゲルを基材として、その基材表面にアルカリ土類金属イオン又はアルカリ土類金属ケイ酸化合物を導入したものである。
【0014】
基材となるシリカゲルとしては、比表面積100−800m
2/g、粒子径1μm−10mmの物性を有するものが利用できる。また、基材表面に導入されるアルカリ土類金属としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどを使用することができる。これらの中でも、最終的に回収したいリン酸塩中へ混入する可能性などを考慮すると、カルシウム又はマグネシウムが特に好ましい。
【0015】
これらのアルカリ土類金属を基材表面に導入する方法は特に限定されないが、一例を挙げれば、例えば、シリカゲルをアルカリ土類金属塩溶液に浸漬、加熱処理を施し、脱液・乾燥する、といった手順を採用すればよい。
【0016】
アルカリ土類金属分の担持量(アルカリ土類金属−シリカゲル複合体中における含有量)は、アルカリ土類金属塩溶液の濃度に依存して増減するが、実用上は、0.5−20重量%程度のアルカリ土類金属分が担持されていると好ましい。アルカリ土類金属分の担持量が0.5重量%より少ない場合、重金属を除去するために必要となるアルカリ土類金属−シリカゲル複合体の添加量が増大する。一方、アルカリ土類金属分の担持量が20重量%を超えると、シリカゲルと複合化されないアルカリ土類金属成分が発生する。そのため、そのようなアルカリ土類金属成分の微粉が重金属除去後の処理液中に含まれていると、固形分と液体とをろ過によって分離する際に分離性が低下する。
【0017】
また、アルカリ土類金属−シリカゲル複合体の形状については、平均粒子径1μm−10mmの粒子状とされていることが好ましい。アルカリ土類金属−シリカゲル複合体の粒
子径が1μmを下回ると、ろ過のとき分離性が悪くなる傾向がある。一方、アルカリ土類金属−シリカゲル複合体の粒子径が10mmを上回ると、重金属の除去速度が遅くなる。
【0018】
このような処理剤は、例えば、処理剤をリン酸含有廃水の中に投入して撹拌するか、このような処理剤を充填した充填層にリン酸含有廃水を通液することで、処理剤とリン酸含有廃水を十分に接触させる。処理剤とリン酸含有廃水を接触させる工程においては、好ましくはリン酸含有廃水のpHを7−9.5に調節しておくとよい。pHが7を下回ると、アルカリ土類金属−シリカゲル複合体からアルカリ土類金属成分が溶出しやすくなり、複合体粒子表面での重金属除去特性が低下しやすくなる。また、pHが9.5を上回ると、アルカリ土類金属−シリカゲル複合体に含まれるシリカゲルの溶解性が増大しやすくなる。
【0019】
また、処理剤をリン酸含有廃水の中に投入して撹拌する場合は、例えば、廃水1L当たり200−5000mg程度の処理剤を添加し、0.5時間以上撹拌するとよい。
処理剤とリン酸含有廃水を接触させる工程においては、下記(A)−(C)のような複数の重金属除去プロセスが同時に進行する。
(A)基材表面に担持されているアルカリ土類金属塩イオンと廃水中の重金属イオンがイオン交換する。
(B)基材表面にリン酸イオンが吸着されてリン酸塩化合物が基材表面に形成され、これに重金属イオンが吸着される。
(C)重金属イオンとイオン交換若しくは一部溶離することで生成したアルカリ土類金属イオンが廃水中のリン酸イオンと反応し、リン酸塩化合物が形成、これに重金属イオンが吸着される。
【0020】
そのため、廃水中へ添加される処理剤の添加量が少量であっても、上記のような複数の重金属除去プロセスが同時進行することで、微量の重金属に対しても高度な重金属除去が達成され、かつ短時間での重金属除去を実現することができる。
【0021】
以上のような接触工程の後は、静置による沈降分離・遠心分離・ろ過等による固液分離工程を経て、液中より処理剤を除去する。そして、処理剤を除去した後の処理済みリン酸含有廃水からリン酸化合物を回収する。なお、リン酸化合物の回収方法は、例えば、以下のような操作で行えばよい。(1)脱鉛処理後のリン酸廃液に塩化カルシウムを添加。(2)析出物をろ過し、リン酸カルシウムとして回収。以上のような回収工程で回収されるリン酸化合物は、重金属をほとんど含まないものとなる。したがって、飼料・肥料用途への利用、食品添加物原料用途、リン化合物原料など幅広くリン資源としてリサイクルすることが可能となり、リン資源の有効利用を図ることができる。