【実施例】
【0048】
1)細胞融合
ヒトCLDN4発現プラスミドの皮下免疫により血清中抗体の上昇が観察されたWistarラット個体(Rt12, 13, 14, 15)に対し、最終免疫(ブースティング)を行った。最終免疫後、常法に従い、動物からリンパ細胞を回収し、マウスミエローマ細胞(P3U1)と細胞融合を行った。融合後の細胞を96well plate 10枚に播種し、培養培地1*にて14日間、37℃、5% CO
2下で培養した。
*培養培地1:D-MEM(wako, 044-29765)+10%FCS(Hyclone, Lot.FQF24009), 10% BM condimed H1 Hybridoma cloning supplement(Roche, 1088947), 1×HAT supplement(Invitrogen, 21060017), 50μg/mL Penicillin/Streptomycin(Invitrogen, 15140122), 4mM L-Glutamine(Invitrogen, 25030081)
2)特異モノクローナル抗体産生ハイブリドーマの樹立
培養後、全てのプレートウェルから培養上清を回収した。ヒトCLDN4発現プラスミドをCHO細胞にLipofectamine2000 (Invitrogen)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクション後、24時間で一過性強制発現細胞を回収した。通常のCell-ELISAプロトコルに従い、回収した一過性強制発現細胞を用い、上記で回収した培養上清、及びHRP標識抗ラットIgG抗体で染色した後、蛍光基質Amplex Red reagent(Invitrogen)と反応させ、プレートリーダーで蛍光強度を測定した。この結果、合計84ウェルで陽性を示す蛍光強度が確認された。
【0049】
更に、陽性の84ウェル分の培養上清に関して、以下のようにFCM解析(Mock有)を行った。ヒトCLDN4発現プラスミド、又はcontrolベクターを293T細胞にLipofectamine2000 (Invitrogen)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクション後、24時間で一過性強制発現細胞を回収した。回収した一過性強制発現細胞を用い、培養上清、及びPE標識抗ラットIgG抗体で染色し、フローサイトメーター(FCM)解析を行った。この結果、36ウェルで陽性を示すシフトが確認された。
【0050】
FCM陽性の36ウェル(36クローン)からそれぞれハイブリドーマ細胞を回収し、各クローンに関し1.2 cells/wellで96-well plate1枚(合計36枚)に撒き、培養培地1*にて10〜12日間、37℃、5% CO
2下で培養した。培養後、全てのプレートウェルから培養上清を回収した。ヒトCLDN4発現プラスミドをCHO細胞にLipofectamine2000 (Invitrogen)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクション後、24時間で一過性強制発現細胞を回収した。通常のCell-ELISAプロトコルに従い、回収した一過性強制発現細胞を用い、上記で回収した培養上清、及びHRP標識抗ラットIgG抗体で染色した後、蛍光基質Amplex Red reagent(Invitrogen)と反応させ、プレートリーダーで蛍光強度を測定した(CELISA解析, Mock無)。この結果、合計25プレート(25クローン)において、陽性の蛍光強度を示すウェルが確認された。
【0051】
陽性の確認された25クローン分のプレートから、顕微鏡下でシングルコロニー形成の認められるウェルをプレートあたり3ウェル選択し、24well plateに37℃、5% CO
2下で拡大し培養培地1*にて培養を行った。3日間培養後、全てのウェルを6-well plateに拡大し培養培地2*にて培養を行った。3日間培養後、培養上清を回収した。ヒトCLDN4発現プラスミド、又はcontrolベクターを293T細胞にLipofectamine2000 (Invitrogen)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクション後、24時間で一過性強制発現細胞を回収した。回収した一過性強制発現細胞を用い、培養上清(Cell-ELISA陽性の25X3ウェル分)、及びPE標識抗ラットIgG抗体で染色し、フローサイトメーター(FCM)解析を行った。この結果、
図3に示すように、11クローン分で陽性を示すシフトが確認された。
【0052】
シフト強度が強く、且つ細胞数の多いウェルを各クローン1ウェルずつ選択し、75cm
2Flaskに37℃、5% CO
2下で拡大し培養培地2*にて培養を行った。3〜5日間培養後、150cm
2dish3枚に拡大し培養培地2*にて培養を行った。うち、2枚に関しては、3日間培養後、細胞を回収しセルバンカー(血清タイプ)にて細胞ストックを3本作製し、-80℃保管した。(バイアルあたり3×10e6 cells)残り1枚に関しては、5日間培養後、培養上清(25mL、オーバーグロース)を回収し、20mL分を-20℃で保管した。
【0053】
ヒトCLDN4発現プラスミド、又はcontrolベクターを293T細胞にLipofectamine2000 (Invitrogen)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクション後、24時間で一過性強制発現細胞を回収した。回収した一過性強制発現細胞を用い、回収した培養上清の一部、及びPE標識抗ラットIgG抗体で染色し、FCM解析を行った。また、培養上清の一部を用いて、Rat immunoglobulin isotyping ELISA kit(BD)を用いて培養上清中の抗体のクラス、サブクラス決定を行った。
*培養培地2:D-MEM(wako, 044-29765)+10%FCS (Hyclone, Lot.FQF24009), 5% BM condimed H1 Hybridoma cloning supplement (Roche, 1088947), 1×HAT supplement (Invitrogen, 21060017), 50μg/mL Penicillin/Streptomycin (Invitrogen, 15140122), 4mM L-Glutamine (Invitrogen, 25030081) 各抗体のクラス、サブクラス決定についての結果を下記表1に記載する。
【0054】
【表1】
【0055】
3)CLDN4抗体による抗癌活性
3−1)ヒト膵癌細胞株に対するCLDN44抗体クローン4D3(以下CLDN4/4D3抗体)の細胞増殖阻害活性
CLDN4を発現するヒト膵癌細胞株MIA-PaCa細胞を2000細胞/200μL/穴になるよう10%ウシ胎児血清(Sigma社製)添加DMEM培養液(Sigma社製)に希釈し96穴プレート(ベクトン・ディッキンス社製)に播種した。このとき1群12穴とした。培養液中には、CLDN4/4D3抗体、又は、CLDN1抗体クローン2C1(VHは、QVQLQQPGAELVKTGASVKLSCKASGYTFASYWMHWVKQRPGQGPEWIGMSHPNIGATKYNEKFKTKATLTVEKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCATSGFDYWGQGTTLTVSS(配列番号17)、VLは、DIVLTQSPDTLSVTPGDSVSLSCRATQSISNNLHWYRQKSHESPRLLIKYASQSVSGIPSRFSGSGSGTDFTLNINSVETEDFGMYFCQQSNSWPFTFGSGTKLEIKR(配列番号18))を最終タンパク濃度が0.25, 0.5, 1.0μg/mLになるように添加し、対照としてPBSを10μL/穴加えた。また、陰性対照として培養液のみをウェルに加えた。
【0056】
以上の条件で、37℃、48時間培養したのち、MTT試薬(Sigma社製)を25μg/mLになるように培養液に添加し、1時間後に培養液を吸引除去し、DMSO(和光純薬社製)を200μL添加震盪後、マイクロプレート分光光度計を用い、595nm吸光度を測定した。陰性対照の吸光度を除いた吸光値について、PBS対照群を100%として、各抗体濃度における吸光値を相対増殖率(%)として算出した。棒グラフは3回施行した実験の平均±SDを示している。
【0057】
結果を
図4に示す。
図4に示されるように、膵臓癌細胞の増殖抑制効果につき、CLDN1抗体では有意差はないと考えられるが、CLDN4抗体では有意差があると考えられる。
【0058】
3−2)ヒト膵癌細胞株に対する5-FU細胞増殖阻害活性のCLDN4/4D3抗体による増強
ヒト膵癌細胞株MIA-PaCa細胞を2000細胞/200μL/穴になるよう10%ウシ胎児血清(Sigma社製)添加DMEM培養液(Sigma社製)に希釈し96穴プレート(ベクトン・ディッキンス社製)に播種した。このとき1群8穴とした。培養液中には、CLDN4/4D3抗体を最終タンパク濃度が0.25, 0.5, 1.0μg/mLになるように添加した。対照としてPBSを10μL/穴加えた。また、同時に5-FU(和光純薬社製)を10, 50μg/mLになるように添加した。一方、陰性対照として培養液のみをウェルに加えた。以上の条件で、37℃、24時間培養したのち、MTT試薬(Sigma社製)を25μg/mLになるように培養液に添加し、1時間後に培養液を吸引除去し、DMSO(和光純薬社製)を200μL添加振盪後、マイクロプレート分光光度計を用い、595nm吸光度を測定した。陰性対照の吸光度を除いた吸光値について、PBS対照群を100%として、各抗体濃度における吸光値を相対増殖率(%)として算出した。棒グラフは3回施行した実験の平均±SDを示している。
【0059】
結果を
図5に示す。
図5に示されるように、CLDN4抗体により、ヒト膵癌細胞株に対する5-FUの細胞増殖阻害活性が増強されることが明らかとなった。
【0060】
3−3)5-FUのMIA-PaCaヒト膵癌細胞株細胞内移行のCLDN4/4D3抗体による増強
ヒト膵癌細胞株MIA-PaCa細胞を1×10
5細胞/10 mL/10 cm培養皿になるよう10%ウシ胎児血清(Sigma社製)添加DMEM培養液(Sigma社製)に希釈し播種した。細胞が90%コンフルエントに増加した状態で、培養液中にCLDN4/4D3抗体を最終濃度が0.25, 0.5, 1.0μg/mLになるように添加した。対照としてPBSを10μL/穴加えた。また、同時に5-FU(和光純薬社製)を1, 10, 50, 100μg/mLになるように添加した。以上の条件で、37℃、24時間培養したのち、細胞をトリプシン処理し回収しタンパク抽出キット(GEヘルスケア社製)にてタンパクを可溶化し、5-FU濃度をELISA(メイベル社製)にて測定し、5-FU処理濃度10μg/mLの際の5-FU細胞内濃度を1.0として相対的濃度を算出した。グラフは3回施行した実験の平均±SDを示している。
【0061】
結果を
図6に示す。
図6に示されるように、CLDN4抗体により、MIA-PaCaヒト膵癌細胞株細胞内に5-FUが移行することが明らかとなった。
【0062】
3−4)ヒト膵癌細胞株皮下腫瘍に対する5-FU腫瘍増殖阻害活性のCLDN4/4D3抗体による増強
ヒト膵癌細胞株MIA-PaCa細胞1x10
7細胞をHank’s Balanced Salt液(Sigma社製)200μLに懸濁し、BALB/cヌードマウス・オス・4週齢20匹の背部皮下に接種した。これを各群5匹の4群に分け、対照群(PBS投与)、5FU群(5-FU 10 mg/kg体重)、抗体群(CLDN4/4D3抗体 1mg/kg体重)、及び、併用群(5-FU 10 mg/kg体重+CLDN4/4D3抗体 1mg/kg体重)の各処理を行った。投与は腹腔内投与で行い、併用群では5-FUと抗体は混合せず別途投与した。投与は、腫瘍細胞接種時、接種後3日後及び7日後の3回施行した。皮下腫瘍は接種後4週まで毎週直径を測定し、平均±SDとして表示した。
【0063】
結果を
図7に示す。
図7に示されるように、CLDN4抗体と5-FUとの併用により、ヒト膵癌細胞株皮下腫瘍に対して腫瘍増殖阻害活性が向上していることが明らかとなった。
【0064】
3−5)ヒト膀胱癌細胞株に対するシスプラチン(CDDP)細胞増殖阻害活性のCLDN4/4D3抗体による増強
ヒト膀胱癌細胞株T24細胞を2000細胞/200μL/穴になるよう10%ウシ胎児血清(Sigma社製)添加DMEM培養液(Sigma社製)に希釈し96穴プレート(ベクトン・ディッキンス社製)に播種した。このとき1群12穴とした。培養液中には、CLDN4/4D3抗体を最終タンパク濃度が1.0μg/mLになるように添加した。対照としてPBSを10μL/穴加えた。また、同時にCDDP(Alexis社製)を5, 12.5μg/mLになるように添加した。一方、陰性対照として培養液のみをウェルに加えた。以上の条件で、37℃、24時間培養したのち、MTT試薬(Sigma社製)を25μg/mLになるように培養液に添加し、1時間後に培養液を吸引除去し、DMSO(和光純薬社製)を200μL添加震盪後、マイクロプレート分光光度計を用い、595nm吸光度を測定した。陰性対照の吸光度を除いた吸光値について、PBS対照群を100%として、各抗体濃度における吸光値を相対増殖率(%)として算出した。グラフは3回施行した実験の平均±SDを示している。
【0065】
結果を
図8に示す。
図8に示されるように、CLDN4抗体とCDDPとの併用により、ヒト膀胱癌細胞株に対して腫瘍増殖阻害活性が向上していることが明らかとなった。
【0066】
3−6)CDDPのT24ヒト膀胱癌細胞株細胞内移行のCLDN4/4D3抗体による増強作用
ヒト膀胱癌細胞株T24細胞を1×10
9細胞/10 mL/15 cm培養皿になるよう10%ウシ胎児血清(Sigma社製)添加DMEM培養液(Sigma社製)に希釈し96穴プレート(ベクトン・ディッキンス社製)に播種した。このとき1群12穴とした。細胞が90%コンフルエントになった状態で、培養液中にCLDN4/4D3抗体を最終タンパク濃度が1.0 μg/mLになるように添加した。対照としてPBSを10μL/穴加えた。また、同時にCDDP(Alexis社製)を5, 12.5μg/mLになるように添加した。以上の条件で、37℃、24時間培養したのち、細胞をトリプシン処理し回収しタンパク抽出キット(GEヘルスケア社製)にてタンパクを可溶化し、CDDP濃度を原子吸光分析(島津テクノリサーチ)にて測定し、CDDP無処理細胞のCDDP細胞内濃度を1.0として相対的濃度を算出した。グラフは3回施行した実験の平均±SDを示している。
【0067】
結果を
図9に示す。
図9に示されるように、CLDN4抗体により、T24ヒト膀胱癌細胞株細胞内にCDDPが移行することが明らかとなった。
【0068】
3−7)膵癌におけるCLDN4及びCLDN1の発現
奈良県立医科大学分子病理で診断した91例の膵癌(膵管癌)症例の病理組織標本の代表的パラフィン包埋組織ブロックから作成した薄切標本(4μm厚)を脱パラフィン後、内因性ペルオキシダーゼを0.01%H
2O
2-50%メタノール液 (和光純薬社製)によりブロックした。TBS(Sigma社製)により加水した後、CLDN4/4D3抗体、又は、CLDN1抗体クローン2C1の0.5μg/mL TBS希釈液にて、室温・2時間インキュベートした後、0.5%Tween-TBS(Sigma社製)にて洗浄した。更に、ペルオキシダーゼ標識抗ラットIgG抗体(DAKO社製)の1%希釈液にて、室温・1時間インキュベートした後、0.5%Tween-TBS(Sigma社製)にて洗浄した。DAB発色キット(DAKO社製)にて発色後、ヘマトキシリン液(Sigma社製)にて核染色を行った。流水にて洗浄後、エタノール脱水・キシレン透徹し封入し免疫染色標本を作製した。標本は、光学顕微鏡にて観察し、染色強度(0, 1, 2, 3の4段階に評価)と染色腫瘍細胞(%)の積(0〜300)で半定量化した。有意差はANOVA法にて検定した。棒グラフは平均±SDを示している。
【0069】
結果を
図10(a)〜(e)に示す。
図10(a)〜(e)に示されるように、CLDN4は膵癌の悪性度予測マーカーとして利用できることが明らかとなった。これにより、被験者試料におけるCLDN4の発現が、膵癌治療の選択枝判断の有力情報となることが判明した。
【0070】
3−8)膀胱癌におけるCLDN4及びCLDN1の発現
奈良県立医科大学分子病理で診断した86例の膀胱癌(尿路上皮癌)症例の病理組織標本の代表的パラフィン包埋組織ブロックから作成した薄切標本(4μm厚)を脱パラフィン後、内因性ペルオキシダーゼを0.01%H
2O
2-50%メタノール液 (和光純薬社製)によりブロックした。TBS(Sigma社製)により加水した後、CLDN4/4D3抗体、または、CLDN1抗体クローン2C1の0.5μg/mL TBS希釈液にて、室温・2時間インキュベートした後、0.5%Tween-TBS(Sigma社製)にて洗浄した。更に、ペルオキシダーゼ標識抗ラットIgG抗体(DAKO社製)の1%希釈液にて、室温・1時間インキュベートした後、0.5%Tween-TBS(Sigma社製)にて洗浄した。DAB発色キット(DAKO社製)にて発色後、ヘマトキシリン液(Sigma社製)にて核染色を行った。流水にて洗浄後、エタノール脱水・キシレン透徹し封入し免疫染色標本を作製した。標本は、光学顕微鏡にて観察し、染色強度(0, 1, 2, 3の4段階に評価)と染色腫瘍細胞(%)の積(0〜300)として半定量化した。有意差はANOVA法にて検定した。棒グラフは平均±SDを示している。
【0071】
結果を
図11(a)(b)に示す。
図11(a)(b)に示されるように、CLDN4は膀胱癌の悪性度予測マーカーとして利用できることが明らかとなった。これにより、被験者試料におけるCLDN4の発現が、膀胱癌治療の選択枝判断の有力情報となることが判明した。膀胱癌では、癌が膀胱の筋肉層に浸潤しているステージ2では、5年生存率は80〜85%とされているが、筋肉層を越えて膀胱付近にまで癌が浸潤しているステージ3では、5年生存率は40〜55%とされており、ステージ2とステージ3とでは膀胱癌の深刻度が相違すると考えられるが、CLDN4の発現を見ることにより、例えばステージ2とステージ3との相違を判別しやすくなり、膀膀胱癌の悪性度を容易に予測できることが明らかとなった。
【0072】
3−9)CLDN4抗体の抗体依存性細胞傷害活性
各CLDN4抗体の抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)をFcγ受容体の活性化を指標に評価した。96穴プレートに標的細胞(1×10
4細胞/穴)を播種し、炭酸ガスインキュベーター内で24時間培養した。培養液を除去し、OPTI-MEM培地(Invitrogen社製)に懸濁した各CLDN4抗体及びFcγ受容体とルシフェラーゼレポーター遺伝子を発現するエフェクター細胞(1×10
5細胞/100 μl/穴)を添加した。炭酸ガスインキュベーター内で6時間培養後、各ウェルに100 μlのONE-Glo Luciferase Assay試薬(Promega社製)を添加し5分間反応させた後、発光プレートリーダー(パーキンエルマー社製)を用いて各ウェルのルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図12(a)(b)に示す。各CLDN4抗体の添加濃度に依存して、エフェクター細胞の活性化が確認され、これらの抗体によりFcγ受容体を介したADCC活性が発揮されることが示された。上述の実施例ではCLDN4/4D3抗体の抗癌活性が実証されたが、本実験により各CLDN4抗体のADCC活性が確認されたことにより、CLDN4/4D3抗体と同様にこれ以外の抗体についても抗癌活性が存在することが示唆された。
【0073】
4)ラット抗CLDN4モノクローナル抗体の結合性評価
細胞は、マウスCLDN4(mCL4)発現L細胞、ヒトCLDN4(hCLDN4)発現HT1080細胞を使用し、コントロールとしてmockHT1080細胞を用いた。濃度はそれぞれ5×10
5cells/wellとした。抗体は、ラット抗CLDN4モノクローナル抗体(3B11、3G2、4D3、4F4、4F10、5A5、4B8、5D12)を使用した。
一次抗体として各クローンの抗体(ラット精製抗体:5μg/mL、キメラ抗体:培養上清原液)を使用した(100μL/well, 10μg/mL)。0.2%BSA-PBSで1回洗浄した後に、二次抗体としてanti-rat又はanti-human IgG-FITC(1/500)(15000倍希釈, 100μL/well)を用いた。そして0.2%BSA-PBSで2回洗浄した後に、FACS caliburにて測定して結合性評価を試みた。
【0074】
図13及び
図14に示されるように、ラット抗CLDN4モノクローナル抗体(3B11、3G2、4D3、4F4、4F10、5A5、4B8、5D12)はいずれもがヒトCLDN4に対する結合性を有していることが示され、ラット抗CLDN4モノクローナル抗体(4B8、5D12)はマウスCLDN4に対する結合性を有していること、ラット抗CLDN4モノクローナル抗体(5A5, 3B11, 4F10)はヒトCLDN3に対する結合性を有していることが示された。また、本発明にかかるラット抗CLDN4モノクローナル抗体は、ヒトCLDN1、2、5、6、7及び9に対する結合性を有していないことが示された。
【0075】
5)クローン5A5の抗腫瘍活性
Balb/c Slc-nu/nuマウス(雌性、7週齢)にヒト胃癌細胞株MKN74細胞もしくはヒト結腸癌細胞株LoVo細胞(1 × 10
7cells)を皮下移植した。移植後、PBS, rat IgG, rat anti-CLDN1 Ab (5A5)(0.1, 1 mg/kg body weight)を週2回腹腔内投与し、腫瘍増殖抑制効果を解析した。尚、腫瘍体積は、長径×(短径)2/2で計算した。
【0076】
MKN74細胞を皮下移植した担癌マウスにおいて、rat IgG投与では腫瘍増殖抑制効果は観察されなかったものの、5A5投与群では有意な腫瘍増殖抑制活性が認められた(
図15(a))。LoVo細胞の皮下移植マウスでも、5A5投与により腫瘍増殖が抑制傾向にあった(
図15(b))。またこの時、いずれの担癌マウスモデルにおいても、抗体投与に伴う体重減少は観察されなかった(
図15(c)(d))。5A5はMKN74細胞やLoVo細胞に対して補体依存性細胞傷害(CDC)活性を有していないこと(data not shown)、Fcγ IIIa受容体活性化能を有していることから(特願2013-40211)、5A5の抗腫瘍活性にはFcγ IIIa受容体活性化に伴う抗体依存性細胞障害性(ADCC)が関与していると推察される。
5A5以外の抗体クローンも、Fcγ IIIa受容体活性化能を有していたことから(特願2013-40211)、いずれのクローンもADCC活性を介してCLDN4発現癌細胞に対して抗腫瘍活性を引き起こすものと期待される。
【0077】
6)ヒトIgG1キメラ抗体の作製
6−1)発現ベクター作製
各抗体クローンの可変部領域のVL領域およびVH領域のアミノ酸をコードする遺伝子をPCR法により増幅した。なお、VL遺伝子の上流にAgeサイト、下流にBsiWサイト、VH遺伝子の上流にEcoRサイト、下流にNheサイトを付加した。PCR産物を電気泳動により分離・精製した。
【0078】
増幅したVL遺伝子及びヒトIgG kappa鎖定常領域をもつクローニングベクターであるpFUSE2-CLIg-hk (Invivogen)をAge及びBsiWで処理後、ライゲーションした。増幅したVH遺伝子及びヒトIgG1重鎖定常領域をもつクローニングベクターであるpFUSE-CHIg-hG1 (Invivogen)をEcoR及びNheで処理後、ライゲーションした。各ライゲーション産物をコンピテントセルDH-5αにトランスフォーメーションし、独立大腸菌クローンを培養、プラスミドDNAを回収後、シークエンスを確認し、pFUSE2-CLIg-hk-anti-CLDN4及びpFUSE-CHIg-hG1-anti-CLDN4を得た。
【0079】
6−2)ヒトIgG1キメラ抗体の作製および精製
フラスコに5×10
5cells/mLに調製したCHO-S細胞を150 mL入れ、37 ℃、8% CO
2環境下で一晩培養した。作製した発現ベクター187.5 μg(VL:VH=1:1)にOptiPRO SFMを加え3 mLに調製し、FreeStyleMAX Reagent (Invitrogen) 187.5 μLとOptiPRO SFM 2812.5 μLを混和した溶液に加え、10分間常温で静置した。その後、CHO-S細胞の入ったフラスコに、混合液を全量加え、37 ℃、8% CO
2環境下で培養し、培養6日目に培養上清を回収した。
【0080】
回収した上清を100g、5分間遠心にかけ、0.45 μmのフィルターを用いて夾雑物を除去した。次に、HiTrap Protein G HP(GE Healthcare)をMilli Q 5 mLで 洗浄後、0.02 M リン酸バッファー10 mLでカラムの平衡化を行った。サンプルをカラムに通した後、0.02 M リン酸バッファー20 mLで洗浄し、5 mLの0.1 M Glycine-HClにて抗体画分を溶出した。尚、抗体画分はあらかじめ37.5 μLの1 M Tris-HClを入れた容器に0.5 mLずつ回収した。溶出後のサンプルはPD-10カラム(GE Healthcare)を用いてPBSにバッファー置換し、SDS-PAGEによりキメラ抗体の精製を確認した(
図16)。
【0081】
6−3)各種CLDNに対する結合性解析
ヒトCLDN1、ヒトCLDN2、ヒトCLDN3、ヒトCLDN4、ヒトCLDN6、ヒトCLDN7、ヒトCLDN9発現HT1080細胞をトリプシン処理により回収した。5.0 x 10
5 cellsに対し、各抗体5 μg/mLを100 μL添加し、撹拌し氷上で1時間静置した。0.2% BSA-PBSにて1回洗浄後、1% BSA-PBSにて希釈したGoat anti-human IgG(H+L)-FITC抗体(Jackson Immuno Research)を添加、撹拌、氷上で遮光し30分静置した。0.2% BSA-PBSにて2回洗浄後、0.2% BSA-PBSにて終濃度5 μg/mLとなるように希釈したPI (Miltenyi Biotec)を加え、FCM解析を行った。
【0082】
ヒトIgG1キメラ抗体の結合特異性をFCMにより解析したところ、xi3G2, xi4b8, xi5A5, xi3B11, xi5D12はヒトCLDN1, ヒトCLDN2, ヒトCLDN6, ヒトCLDN7, ヒトCLDN9発現HT1080細胞には結合せず、xi3G2, xi5A5, xi3B11はヒトCLDN3, ヒトCLDN4発現HT1080細胞、xi4b8, xi5D12はヒトCLDN4発現HT1080細胞に対して結合性を有していた(
図17)。以上、いずれのクローンもラット抗体と同じ結合特異性を有していたことから、それぞれのCDR領域がCL結合に必須であると示唆される。
【0083】
7)ヒトIgG1キメラ抗体の補体依存性細胞傷害(CDC)活性評価
MKN74細胞、もしくはMia Paca-2細胞を96穴プレートに5 × 10
4cells/穴/45 μLで播種し、ヒトIgG1キメラ抗体を終濃度0.005、0.05、0.5 μg/mLとなるように添加、37 ℃で1時間培養した。その後、ヒト血清をヒト終濃度10%となるように添加、37 ℃で3時間培養後、WST-8法により生細胞を測定した。
【0084】
CLDN4結合性に優れた5A5, 5D12に着目し、MKN74細胞(
図18(a))およびMia Paca-2細胞(
図18(b))を用いてCDC活性を解析したところ、xi5A5およびxi5D12いずれでもCDC活性が認められた。しかしながら、いずれの活性も弱く、xi5D12では添加量依存性は認められていない。これは、MKN74細胞およびMia Paca-2細胞には補体抵抗性を有するCD59が発現していることに一部起因している可能性がある。
【0085】
8)ヒトIgG1キメラ抗体のADCC活性
96穴プレートにヒトCLDN4発現HT1080細胞(1 x 10
4細胞/穴)を播種し、炭酸ガスインキュベーター内で一晩培養した。培養液を除去し、OPTI-MEM培地(Invitrogen)に懸濁した各CLDN4抗体およびFcγ受容体とルシフェラーゼレポーター遺伝子を発現するエフェクター細胞(1x10
5細胞/100 μL/穴)を添加した。炭酸ガスインキュベーター内で6時間培養後、各ウェルに100 μLのONE-Glo Luciferase Assay試薬(Promega)を添加し5分間反応させた後、発光プレートリーダー(Perkin Elmer)を用いて各ウェルのルシフェラーゼ活性を測定した。
【0086】
ADCCには、免疫細胞上に発現しているFcγ受容体の活性化が関与している。そこで、NK細胞上に発現しているFcγIIIa受容体活性化能を解析したところ、いずれのクローンもCLDN4発現細胞の共存下で抗体添加量依存的にFcγ受容体発現エフェクター細胞の活性化が認められた(
図19)。この結果より、これらヒトIgG1キメラ抗体はADCC活性を発揮するものと推察される。
【0087】
9)ヒトIgG1キメラ抗体の抗腫瘍活性
Balb/c Slc-nu/nuマウス(雌性、7週齢)にMKN74細胞またはLoVo細胞(1×10
7 cells)を皮下移植した。移植後、PBS, ラットIgG (5A5)、ヒトIgG1キメラ(xi5A5) (1 mg/kg body weight)を週2回、4週間腹腔内投与し、腫瘍増殖抑制効果を解析した。
【0088】
5A5に比してxi5A5では腫瘍増殖抑制活性が増強していた(
図20(a))。また、MKN74細胞の皮下移植モデルに対しても、xi5A5投与2週間目には有意な腫瘍増殖抑制効果が観察されており、5A5に比してxi5A5は優れた抗腫瘍活性を有していた(
図20(b))。尚、この時、両モデルにおいてxi5A5投与に伴う体重減少は認められていない(
図20(c)(d))。xi5A5はFcγ受容体活性化能を有すること、Balb/c Slc-nu/nuマウスにNK細胞が存在することから、xi5A5の抗腫瘍活性にはADCC活性が関与していると推察される。xi5A5と同様、Xi3B11, xi3G2, xi4b8, xi5D12もFcγ受容体活性化能を示していることから、これらいずれのクローンも抗癌剤シーズとして有用であると期待される。
【0089】
10)5A5抗体のターゲティング能解析
サポリンを付加した抗ラットIgG抗体(rat-ZAP)を用いて、5A5のCLDN4ターゲティング能を解析した。尚、サポリンはリボソームに作用することでタンパク質合成を阻害、細胞毒性発揮する分子であり、単独では細胞内に取り込まれることはない。
【0090】
MKN74、LoVoまたはMia Paca-2細胞を96穴プレートに1×10
3 cells/穴で播種し、播種24時間後にラット抗体5A5(0.5, 2.5 μg/mL)を添加した。5A5添加48時間後に培地を交換し、rat-ZAP(1 μg/mL)を添加した。Rat-ZAP添加72時間後に、WST-8法により細胞生存率を測定した。
【0091】
5A5未添加群、rat-ZAP未添加群では細胞障害性が全く観察されていないのに対して、5A5およびrat-ZAPを添加することでいずれの細胞に対しても細胞毒性が認められた(
図21(a)(b)(c))。
【0092】
以上の結果より、CLDN4抗体を用いることで、CLDN4発現癌細胞に対するDDS技術の開発が期待される。
【0093】
11)ヒト肺癌細胞株に対するCLDN4抗体クローン4D3(以下CLDN4/4D3抗体)の細胞増殖阻害活性
CLDN4を発現するヒト肺腺癌細胞株PC-9細胞を2000細胞/200μL/穴になるよう10%ウシ胎児血清(Sigma社製)添加DMEM培養液(Sigma社製)に希釈し96穴プレート(ベクトン・ディッキンス社製)に播種した。このとき1群12穴とした。培養液中には、CLDN4/4D3抗体、または、CLDN1抗体クローン2C1を最終タンパク濃度が0.25, 0.5, 1.0 μg/mLになるように添加し、対照としてPBSを10 μL/穴加えた。また、陰性対照として培養液のみをウェルに加えた。以上の条件で、37℃、48時間培養したのち、MTT試薬(Sigma社製)を25 μg/mLになるように培養液に添加し、1時間後に培養液を吸引除去し、DMSO(和光純薬社製)を200 μL添加震盪後、マイクロプレート分光光度計を用い、595 nm吸光度を測定した。陰性対照の吸光度を除いた吸光値について、PBS対照群を100%として、各抗体濃度における吸光値を相対増殖率(%)として算出した。棒グラフは3回施行した実験の平均±SDを示している。
図22(a)(b)に示されるように、CLDN4/4D3抗体は、ヒト肺腺癌細胞株PC-9細胞に対して細胞増殖阻害活性を示した。
【0094】
12)ヒト肺癌細胞株に対する5-FU細胞増殖阻害活性のCLDN4/4D3抗体による増強
ヒト肺癌細胞株PC-9細胞を2000細胞/200μL/穴になるよう10%ウシ胎児血清(Sigma社製)添加DMEM培養液(Sigma社製)に希釈し96穴プレート(ベクトン・ディッキンス社製)に播種した。このとき1群8穴とした。培養液中には、CLDN4/4D3抗体を最終タンパク濃度が0.25, 0.5, 1.0 μg/mLになるように添加した。対照としてPBSを10 μL/穴加えた。また、同時に5-FU(和光純薬社製)を10, 50 μg/mLになるように添加した。一方、陰性対照として培養液のみをウェルに加えた。以上の条件で、37℃、24時間培養したのち、MTT試薬(Sigma社製)を25 μg/mLになるように培養液に添加し、1時間後に培養液を吸引除去し、DMSO(和光純薬社製)を200 μL添加震盪後、マイクロプレート分光光度計を用い、595 nm吸光度を測定した。陰性対照の吸光度を除いた吸光値について、PBS対照群を100%として、各抗体濃度における吸光値を相対増殖率(%)として算出した。棒グラフは3回施行した実験の平均±SDを示している。
図23に示されるように、5-FUの細胞増殖阻害活性は、CLDN4/4D3抗体の添加濃度依存的に増大していた。
【0095】
13)5-FUのPC-9ヒト肺癌細胞株細胞内移行のCLDN4/4D3抗体による増強
ヒト肺癌細胞株PC-9細胞を1x10
5細胞/10mL/10cm培養皿になるよう10%ウシ胎児血清(Sigma社製)添加DMEM培養液(Sigma社製)に希釈し播種した。細胞が90%コンフルエントに増加した状態で、培養液中にCLDN4/4D3抗体を最終濃度が0.25, 0.5, 1.0 μg/mLになるように添加した。対照としてPBSを10 μL/穴加えた。また、同時に5-FU(和光純薬社製)を10, 50 μg/mLになるように添加した。以上の条件で、37℃、24時間培養したのち、細胞をトリプシン処理し回収しタンパク抽出キット(GEヘルスケア社製)にてタンパクを可溶化し、5-FU濃度をELISA(メイベル社製)にて測定し、5-FU処理濃度10 μg/mLの際の5-FU細胞内濃度を1.0として相対的濃度を算出した。グラフは3回施行した実験の平均±SDを示している。
図24に示されるように、5-FUのPC-9ヒト肺癌細胞株細胞内移行は、CLDN4/4D3抗体の添加濃度依存的に増大していた。
【0096】
14)ヒト肺癌細胞株皮下腫瘍に対する5-FU腫瘍増殖阻害活性のCLDN4/4D3抗体による増強
ヒト肺癌細胞株PC-9細胞1x10
7細胞をHank’s Balanced Salt液(Sigma社製)200 μLに懸濁し、BALB/cヌードマウス・オス・4週齢20匹の背部皮下に接種した。これを各群5匹の4群に分け、対照群(PBS投与)、5FU群(5-FU 10 mg/kg体重)、抗体群(CLDN4/4D3抗体 1 mg/kg体重)、および、併用群(5-FU 10 mg/kg体重+CLDN4/4D3抗体1 mg/kg体重)の各処理を行った。投与は腹腔内投与で行い、併用群では5-FUと抗体は混合せず別途投与した。投与は、腫瘍細胞接種時、接種後3日後および7日後の3回施行した。皮下腫瘍は接種後4週まで毎週直径を測定し、平均±SDとして表示した。
図25に示されるように、in vivoにおいて、ヒト肺癌細胞株皮下腫瘍に対する5-FU腫瘍増殖阻害活性がCLDN4/4D3抗体により増強していた。
【0097】
15)ヒト大腸癌細胞株に対するCLDN4抗体クローン4D3(以下CLDN4/4D3抗体)の細胞増殖阻害活性および5-FU細胞増殖阻害活性のCLDN4/4D3抗体による増強
CLDN4を発現するヒト大腸癌細胞株HT29細胞を2000細胞/200 μL/穴になるよう10%ウシ胎児血清(Sigma社製)添加DMEM培養液(Sigma社製)に希釈し96穴プレート(ベクトン・ディッキンス社製)に播種した。このとき1群12穴とした。培養液中には、CLDN4/4D3抗体を最終タンパク濃度が0.25, 0.5, 1.0 μg/mLになるように添加し、対照としてPBSを10 μL/穴加えた。また、陰性対照として培養液のみをウェルに加えた。以上の条件で、37℃、48時間培養したのち、MTT試薬(Sigma社製)を25 μg/mLになるように培養液に添加し、1時間後に培養液を吸引除去し、DMSO(和光純薬社製)を200 μL添加震盪後、マイクロプレート分光光度計を用い、595 nm吸光度を測定した。陰性対照の吸光度を除いた吸光値について、PBS対照群を100%として、各抗体濃度における吸光値を相対増殖率(%)として算出した。棒グラフは3回施行した実験の平均±SDを示している。
【0098】
ヒト大腸癌細胞株HT29細胞を2000細胞/200μL/穴になるよう10%ウシ胎児血清(Sigma社製)添加DMEM培養液(Sigma社製)に希釈し96穴プレート(ベクトン・ディッキンス社製)に播種した。このとき1群8穴とした。培養液中には、CLDN4/4D3抗体を最終タンパク濃度が0.25, 0.5, 1.0 μg/mLになるように添加した。対照としてPBSを10 μL/穴加えた。また、同時に5-FU(和光純薬社製)を10 μg/mLになるように添加した。一方、陰性対照として培養液のみをウェルに加えた。以上の条件で、37℃、24時間培養したのち、MTT試薬(Sigma社製)を25 μg/mLになるように培養液に添加し、1時間後に培養液を吸引除去し、DMSO(和光純薬社製)を200 μL添加震盪後、マイクロプレート分光光度計を用い、595 nm吸光度を測定した。陰性対照の吸光度を除いた吸光値について、PBS対照群を100%として、各抗体濃度における吸光値を相対増殖率(%)として算出した。棒グラフは3回施行した実験の平均±SDを示している。
図26に、ヒト大腸癌細胞株に対するCLDN4/4D3抗体の細胞増殖阻害活性が示された。また、5-FU細胞増殖阻害活性のCLDN4/4D3抗体による増強が示された。なお、HT29細胞ではTNFα処理によりCLDN4発現が低下することを確認しており、上記の系にTNFαを加え4D3抗体の作用点を低下させると4D3抗体による5FUの増強効果が減弱した。
【0099】
16)5-FUのHT29ヒト大腸癌細胞株細胞内移行のCLDN4/4D3抗体による増強
ヒト大腸癌細胞株HT29細胞を1x10
5細胞/10 mL/10cm培養皿になるよう10%ウシ胎児血清(Sigma社製)添加DMEM培養液(Sigma社製)に希釈し播種した。細胞が90%コンフルエントに増加した状態で、培養液中にCLDN4/4D3抗体を最終濃度が0.25, 0.5, 1.0 μg/mLになるように添加した。対照としてPBSを10 μL/穴加えた。また、同時に5-FU(和光純薬社製)を10, 50 μg/mLになるように添加した。以上の条件で、37℃、24時間培養したのち、細胞をトリプシン処理し回収しタンパク抽出キット(GEヘルスケア社製)にてタンパクを可溶化し、5-FU濃度をELISA(メイベル社製)にて測定し、5-FU処理濃度10 μg/mLの際の5-FU細胞内濃度を1.0として相対的濃度を算出した。グラフは3回施行した実験の平均±SDを示している。
図27に示されるように、5-FUのヒト大腸癌細胞株HT29細胞内移行は、CLDN4/4D3抗体の添加濃度依存的に増大していた。
【0100】
17)ヒト大腸癌細胞株皮下腫瘍に対する5-FU腫瘍増殖阻害活性のCLDN4/4D3抗体による増強
ヒト大腸癌細胞株HT29細胞1x10
7細胞をHank’s Balanced Salt液(Sigma社製)200μLに懸濁し、BALB/cヌードマウス・オス・4週齢20匹の背部皮下に接種した。これを各群5匹の4群に分け、対照群(PBS投与)、5FU群(5-FU 10 mg/kg体重)、抗体群(CLDN4/4D3抗体 1 mg/kg体重)、および、併用群(5-FU 10 mg/kg体重+CLDN4/4D3抗体1 mg/kg体重)の各処理を行った。投与は腹腔内投与で行い、併用群では5-FUと抗体は混合せず別途投与した。投与は、腫瘍細胞接種時、接種後3日後および7日後の3回施行した。皮下腫瘍は接種後4週まで毎週直径を測定し、平均±SDとして表示した(
図28(a))。
【0101】
同様の実験をCLDN4発現レベルがHT29細胞の13%であるColo320細胞 を用いて上記と同様の実験を行った(
図28(b))。
図28(a)(b)に示されるように、in vivoにおいて、ヒト大腸癌細胞株皮下腫瘍に対する5-FU腫瘍増殖阻害活性が、特にHT29細胞において、CLDN4/4D3抗体により増強していた。
【0102】
18)肺癌におけるCLDN4およびCLDN1の発現
奈良県立医科大学分子病理で診断した186例の肺癌症例(腺癌86例、扁平上皮癌100例)の病理組織標本の代表的パラフィン包埋組織ブロックから作成した薄切標本(4μm厚)を脱パラフィン後、内因性ペルオキシダーゼを0.01%H
2O
2-50%メタノール液 (和光純薬社製)によりブロックした。TBS(Sigma社製)により加水した後、CLDN4/4D3抗体、または、CLDN1抗体クローン2C1の0.5 μg/mL TBS希釈液にて、室温・2時間インキュベートした後、0.5%Tween-TBS(Sigma社製)にて洗浄した。さらに、ペルオキシダーゼ標識抗ラットIgG抗体(DAKO社製)の1%希釈液にて、室温・1時間インキュベートした後、0.5%Tween-TBS(Sigma社製)にて洗浄した。DAB発色キット(DAKO社製)にて発色後、ヘマトキシリン液(Sigma社製)にて核染色を行った。流水にて洗浄後、エタノール脱水・キシレン透徹し封入し免疫染色標本を作製した。標本は、光学顕微鏡にて観察し、染色強度(0, 1, 2, 3の4段階に評価)と染色腫瘍細胞(%)の積(0〜300)で半定量化した。有意差はANOVA法にて検定した。
図29及び
図30に示されるように、CLDN1と比較してCLDN4は肺癌のバイオマーカーとなりうることが判明した。また、
図31及び
図32に示されるように、CLDN4は、肺腺癌及び肺扁平上皮癌の何れにおいてもバイオマーカーとなりうることが判明した。