(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484837
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】カム潤滑槽を備えた内燃機関
(51)【国際特許分類】
F01M 9/10 20060101AFI20190311BHJP
F01M 9/06 20060101ALI20190311BHJP
F02F 1/24 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
F01M9/10 B
F01M9/06 D
F02F1/24 R
F02F1/24 G
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-563267(P2016-563267)
(86)(22)【出願日】2015年1月8日
(65)【公表番号】特表2017-502212(P2017-502212A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】FR2015050030
(87)【国際公開番号】WO2015104499
(87)【国際公開日】20150716
【審査請求日】2017年10月17日
(31)【優先権主張番号】1450242
(32)【優先日】2014年1月13日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516207193
【氏名又は名称】アールディーエムオー
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(72)【発明者】
【氏名】ミディ, オリヴィエ
【審査官】
齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】
実開平04−116613(JP,U)
【文献】
実開平07−004806(JP,U)
【文献】
実開平04−107427(JP,U)
【文献】
特開2009−270495(JP,A)
【文献】
特開平02−157408(JP,A)
【文献】
特開2002−021989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 9/00−12
F01L 1/00−46
F02F 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面に対して傾斜した少なくとも1つのシリンダヘッドと、前記シリンダヘッド内に位置するとともに潤滑システムにより潤滑されるカム軸により動作するタイミングシステムとを有する内燃機関であって、
カム(5〜8)の各々は、該カムの下に配置されて該カムの一部が浸る局所液溜めを形成する槽(25〜28)により潤滑され、前記槽の容積部は、2つの側面及び底部により定められ、前記槽の前記側面の少なくとも一方の縁部は、前記カムの先端部が前記容積部に浸ることを保証する油面を決定し、
当該内燃機関は、2つの対向する同一のシリンダヘッドを有する2気筒エンジンであり、前記シリンダの軸線は、水平面に対してそれぞれ−X°及び+X°の角度を形成すること、並びに、前記槽(25〜28)は、それぞれ軸受半体を延長する部分及び前記シリンダヘッドを延長する部分の2つの部分で形成され、前記槽(25〜28)の各々の両側に、それぞれ−X°及び+X°の角度を形成する相補的な側縁部(34、35;38、39)が配置されており、
一方のシリンダヘッド(1)の油面(32,33)は、前記軸受半体(13)を延長する槽の部分に対応する縁部(34,45)により設定され、
他方のシリンダヘッド(2)の油面(36,37)は、前記他方のシリンダヘッド(2)を延長する槽の部分に対応する縁部(38,39)により設定されることを特徴とする、内燃機関。
【請求項2】
前記カムに対する前記槽の位置が、前記カムのベース直径部(31)が前記槽内に収容されたオイルの中に入らなくても、前記カムの先端部(30)が潤滑されることを保証するように決定されることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
水平面に対して25°の傾斜を有する対向するシリンダを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記槽(25〜28)の各々が、2つの相補的部分で形成されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記槽の容積部が、互いの間の間隔が前記カムの厚さの1.1倍から前記カムの厚さの3倍までの範囲にある2つの側面により定められることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(「エンジン」ともいう)の分野に関し、より具体的には、水平又は水平面に対して下方に傾斜したシリンダを有するエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダヘッドは、通常、往復ピストン型エンジンの取外し可能な上部の部品である。これはシリンダの上部を閉じる。特定のエンジンでは、吸気弁及び排気弁がこの中に収容されている。その形状及び特徴は、常にエンジン設計の発展に密接に関連しており、より具体的には、タイミングのタイプ及び燃焼室の形状に関連して決定される。
【0003】
特開2002−021989号公報は、従来技術で公知である。この文献は、シリンダヘッドが、カムを潤滑するための槽(trough)又はパンを有する内燃機関を記載している。これらの槽は、シリンダヘッド及びシリンダヘッドカバーにより画定される。
【0004】
この手段は、油面を最適に設定することを可能にすることができない。オイルは、オーバーフローして、チェーンウェルの中へ落ちる。さらに、この手段は、シリンダが10°を超える相当な傾斜を有するエンジンには適していない。この文献により教示される手段は、一方は上向きに傾斜したシリンダ用、他方は下向きに傾斜したシリンダ用の、相異なる構成を有する2つの槽を設計することを伴う。
【0005】
特開2009−270495号公報は、シリンダヘッドとシリンダヘッド軸受との間に形成された単一の槽を有する、油面設定がシリンダヘッドの単一の傾斜に適したエンジンを記載している。
【0006】
独国特許文献DE102008014828号は、潤滑戻しシステムを含むフラットエンジンを記載する。
【0007】
その他の潤滑の解決策は、特開昭59−226217号、欧州特許文献EP0821144号、仏国特許文献FR2464364号又は欧州特許文献EP0377829号に記載されており、槽は単一のシリンダ傾斜角度に合わせて構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術において、カムは、噴霧又は飛散により潤滑される。従来技術の課題は、始動時及びカムの最初の回転の際に、カムが、適正に潤滑される前に、フロントタペットと接触してしまうことである。この課題は、シリンダヘッドが水平又は水平面に対して下方に傾斜した(ヘッドダウン)エンジンにとって特に重要である。
【0009】
特に、2気筒エンジンの場合、従来技術の手段では、下向きに傾斜したシリンダのカム及び上向きに傾斜したシリンダのカムの両方を同じ型式の槽で潤滑するという課題を解決することができない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの欠点を改善するために、本発明は、その最も一般的な意味において、水平面に対して傾斜した少なくとも1つのシリンダヘッドと、前記シリンダヘッド内に位置するとともに潤滑システムにより潤滑されるカム軸により動作するタイミングシステムとを有する内燃機関であって、各カムは、そのカムの下に配置されてそのカムの一部が浸る局所液溜めを形成する槽により潤滑され、槽の容積部は2つの側面及び底部により定められ、槽の側面の少なくとも一方の縁部は、カムの先端部が前述したようにして定められた容積部の中に浸ることを保証する油面を決定すること、並びに、各槽の両側に、内燃機関のシリンダの傾斜に対応する−X°及び+X°の角度をそれぞれ形成する相補的な側縁部が配置され、ここでXはシリンダヘッドの傾斜角度に対応することを特徴とする、内燃機関を提供する。
【0011】
好ましくは、内燃機関は、2つの対向する同一のシリンダヘッドを有する2気筒エンジンであり、シリンダの軸線は、水平面に対してそれぞれ−X°及び+X°の角度を形成し、槽は、それぞれ軸受半体を延長する部分及びシリンダヘッドを延長する部分の2つの部分で形成され、各槽の両側に、それぞれ−X°及び+X°の角度を形成する相補的な側縁部が配置される。
【0012】
好ましくは、機関は、2つの対向する同一のシリンダヘッドを有し、槽は、それぞれ軸受半体を延長する部分及びシリンダヘッドを延長する部分の2つの部分で形成される。
【0013】
本特許に関して、「槽」という用語は、シェルを意味するべく用いられ、その容積部は、互いの間の間隔がカムの厚さの1.1倍からカムの厚さの3倍までの範囲にある2つの側面、及び底部により定められ、少なくとも一方の側面の縁部は、カムの先端部が前述したようにして定められた容積部の中に浸ることを保証する油面を定める。
【0014】
好ましくは、カムに対する槽の位置は、たとえカムのベース直径部が槽内に収容されたオイルの中に入らなくても、カムの先端部が潤滑されることを保証するように決定される。
【0015】
有利には、シリンダは25°の傾斜を有する。
【0016】
好ましくは、各槽は2つの相補的部分で形成される。
【0017】
有利な変形によれば、各槽の両側に、シリンダの傾斜に対応する−X°及び+X°の角度をそれぞれ形成する2つのセグメントが配置され、ここでXは、シリンダの傾斜に対応し、0°〜45°の範囲にある。
【0018】
本発明は、以下の、添付の図面を参照して与えられる非限定的な実施形態の説明を読むとより良く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】シリンダヘッドカバーを外した状態のシリンダヘッドの前面斜視図を示す
【
図2】長手方向に傾斜した2気筒エンジンのフロントシリンダヘッドの槽の縦断面詳細図を示す。
【
図3】長手方向に傾斜した2気筒エンジンのリヤシリンダヘッドの槽の縦断面詳細図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を、車両、この例では自動二輪車の長手方向に25°の傾斜を有するフラット2気筒エンジンに関して説明する。フロントシリンダは、そのヘッドを下向きにして−25°傾斜し、リヤシリンダはそのヘッドを上向きにして+25°傾斜している。2つのシリンダヘッド(1、2)は、単に反転しただけであって厳密に同一であり、横方向中央平面に関して対称ではない。これは、部品の数を削減することを可能にする。
【0021】
タイミングは、既知の方式でタペット(9、10;11、12)を作動するカム(5、6;7、8)を制御する吸気カム軸(3)及び排気カム軸(4)によりもたらされる。
【0022】
カム軸は、シリンダヘッド内に形成された半円筒形凹部と、上部軸受半体(13)内に形成された相補的な半円筒形凹部とにより形成される軸受により回転自在に案内される。
【0023】
軸受半体(13)は、シリンダヘッド(1)と合わせた鋳造により構築され、同時に合わされる。これは円筒形の心出しブッシュにより位置決めされる。軸受半体(13)は、ねじ(14〜22)によりシリンダヘッドに固定される。軸受半体(13)の中央に、点火プラグへのアクセスを与える穴(23)も設けられる。これはチェーンシューを固定するための固定領域(24)を有する。
【0024】
カム(5〜8)は、槽(25〜28)内で飛散により潤滑される。
【0025】
各槽(25〜28)は、2つの相補的部分により形成される。各槽(25〜28)の両側に、シリンダの傾斜に対応する−25°及び+25°の角度をそれぞれ形成するセグメントが配置される。角度25°は例として示したものであり、限定を構成するものではない。傾斜は、上限45°、下限は水平シリンダの場合の0°とすることができる。
【0026】
この槽の部分の一方は、軸受半体(13)の延長部により構築され、この槽の部分の他方は、シリンダヘッド(1)の延長部により構築される。軸受半体を延長する部分の側縁部は、角度25°を形成する。シリンダヘッドを延長する部分の側縁部は、角度−25°を形成する。したがって、側部セグメントの一方は、シリンダヘッドが取り付けられたシリンダにかかわらず常に水平である。
【0027】
この構成は、シリンダヘッドを完全に同一に作成することを可能にすると同時に、高いシリンダヘッド内に位置するカム及び低いシリンダヘッド内に位置するカムの両方に対して、潤滑を適正に調節することもまた保証する。
図2及び
図3に示すように、一方の状況において、油面高さの設定をもたらすのは側縁部の一方であり、他の状況において、油面高さの設定をもたらすのは相補的な側縁部である。
【0028】
図2において、フロントシリンダヘッド(1)の油面(32、33)は、軸受半体(13)を延長する槽の部分に対応する縁部(34、35)により設定される。相補的部分において、オイルは、槽の側部により保持される。
【0029】
図3において、リヤシリンダの油面(36、37)は、シリンダヘッド(2)を延長する槽の部分に対応する縁部(38、29)により設定される。相補的部分において、オイルは、軸受半体を延長する部分上で、槽の側部により保持される。
【0030】
カムに対する槽の位置は、たとえカムのベース直径部(31)が槽内に収容されたオイルの中に入らなくても、カムの先端部(30)の潤滑を保証するように決定される。