(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属基材と前記ニッケルめっき層との界面、及び/又は前記ニッケルめっき層と前記銀めっき層との界面に、銀ストライクめっき、銅ストライクめっき、金ストライクめっき、ニッケルストライクめっきの群から選ばれる1または2以上のストライクめっきが形成されていること、
を特徴とする請求項6に記載の銀めっき材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2及び3で添加する金属は銀と比較して比抵抗が高く、銀めっき層において当該金属の含有率が高くなることは、銀めっき層の導電性が低下することを意味している。また、当該金属の酸化物は特に比抵抗が高いため、高温暴露された銀めっき層の導電性は著しく低下し、接触抵抗は著しく上昇する。
【0009】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、優れた導電性と耐摩耗性を兼ね備え、室温での長時間放置や高温暴露後も当該特性を維持することができる銀めっき材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成すべく、銀めっき材及びその製造方法について鋭意研究を重ねた結果、一定量の金属元素を添加しためっき浴を用い、パルス電源を用いてめっき処理を施すことが極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明は、
金属基材の表面に銀めっき層を形成させる銀めっき材の製造方法であって、
添加金属元素を2.5〜25ppm含有するシアン系銀めっき浴を用い、
パルス電源を用いてめっき処理を施すこと、
を特徴とする銀めっき材の製造法を提供する。
【0012】
めっき浴への添加金属元素を2.5ppm以上とすることで、銀めっき層に優れた耐摩耗性を付与することができると共に、高温暴露後も当該耐摩耗性を維持することができる。また、添加金属元素を25ppm以下とすることで、銀めっき層の優れた導電性及び接触抵抗を維持することができる。
【0013】
また、パルス電源を用いてめっき処理を施すことで、金属元素が添加されためっき浴を用いる場合であっても、緻密かつ均一な銀めっき層を形成させることができる。
【0014】
本発明の銀めっき材の製造方法においては、前記添加金属元素が銅、錫、ニッケル、コバルト、セレン、アンチモン、テルル及びビスマスから選択される1または2以上の金属元素であること、が好ましく、セレンとすることがより好ましい。これらの金属元素を添加することで、銀めっき層の導電性を損なうことなく耐摩耗性を向上させることができると共に、高温暴露による導電性及び耐摩耗性の低下を効率的に抑制することができる。
【0015】
また、本発明の銀めっき材の製造方法においては、前記めっき処理の予備めっき処理として、前記金属基材の表面の任意の領域にニッケルめっき処理を施して、ニッケルめっき層を形成させること、が好ましい。ニッケルめっき層を形成させることで、金属基材と銀めっき層との間における原子の拡散及び反応を防止することができ、銀めっき層の特性低下を抑制することができる。
【0016】
また、本発明の銀めっき材の製造方法においては、前記めっき処理及び/又は前記ニッケルめっき処理の前処理として、前記金属基材及び/又は前記ニッケルめっき層の表面の任意の領域に、銀ストライクめっき、銅ストライクめっき、金ストライクめっき、ニッケルストライクめっきの群から選ばれる1または2以上のストライクめっきを施すこと、が好ましい。ストライクめっき処理を施すことで、金属基材とニッケルめっき層との密着性及びニッケルめっき層と銀めっき層との密着性をより確実に向上させることができる。
【0017】
また、本発明は、
金属基材の少なくとも一部に銀めっき層が形成され、
前記銀めっき層は、銅、錫、ニッケル、コバルト、セレン、アンチモン、テルル及びビスマスから選択される1または2以上の金属元素を含有し、
前記金属元素の含有量が0.001〜0.025%であること、
を特徴とする銀めっき材、も提供する。
【0018】
本発明の銀めっき材は、銀めっき層に0.001〜0.025%の銅、錫、ニッケル、コバルト、セレン、アンチモン、テルル及びビスマスから選択される1または2以上の金属元素が含まれているため、高硬度を有すると共に、高温暴露後も当該高硬度を維持することができる。
【0019】
銀めっき層の厚さは、0.1μm〜50μmであること、が好ましい。銀めっき層の厚さを0.1μm以上とすることで、銀めっき材を各種接点、端子、コネクタ及びスイッチ等に使用する際に、銀めっき層の特性を活用することができ、50μm以下とすることで、銀めっき層における欠陥形成等を抑制することができると共に、効率的な製造が可能となる。
【0020】
銀めっき層は基本的に一定の厚さを有するが、本発明の効果を損なわない範囲で、部分的に薄くなっていたり厚くなっていたりしてもよい。また、銀めっき層のビッカース硬度は80HV〜250HVであることが好ましい。
【0021】
本発明の銀めっき材においては、前記基材と前記銀めっき層の間にニッケルめっき層が形成されていること、が好ましい。ニッケルめっき層により、金属基材と銀めっき層との間における原子の拡散及び反応を防止することができ、銀めっき層の特性低下を抑制することができる。
【0022】
ここで、ニッケルめっき層は、連続する膜形状であることが好ましく、当該ニッケルめっき層の厚さは0.05μm〜10μmであることが好ましい。また、より好ましいニッケルめっき層の厚さは0.5μm〜2μmである。0.05μm未満であるとバリア効果に乏しく、10μm以上であると曲げ加工時にクラックが発生しやすくなる。なお、ニッケルめっき層は、本発明の効果を損なわない範囲で、粒状や島状の不連続な膜形状であってもよい。後者の場合、粒状及び島状部分が部分的に連続していてもよい。
【0023】
また、本発明の銀めっき材においては、前記金属基材と前記ニッケルめっき層との界面、及び/又は前記ニッケルめっき層と前記銀めっき層との界面に、銀ストライクめっき、銅ストライクめっき、金ストライクめっき、ニッケルストライクめっきの群から選ばれる1または2以上のストライクめっきが形成されていること、が好ましい。ストライクめっき層により、金属基材とニッケルめっき層との優れた密着性及びニッケルめっき層と銀めっき層との優れた密着性が実現されている。
【0024】
ストライクめっき層の厚さは0.01μm〜0.5μmであることが好ましい。また、ストライクめっき層は、連続する膜形状であっても、本発明の効果を損なわない範囲で、粒状や島状の不連続な膜形状であってもよい。後者の場合、粒状及び島状部分が部分的に連続していてもよい。なお、銀ストライクめっき処理を施す場合、銀めっき処理によって、銀ストライクめっき層の上に銀めっき層が形成され、概略的には単一の銀めっき層となっている。
【0025】
なお、本発明の銀めっき材を構成する金属基材、銀めっき層、ニッケルめっき層及び各種ストライクめっき層の接触界面は、冶金的に接合されている。冶金的な接合とは、アンカー効果等の機械的接合や接着剤等の異種接合層を介して接合されているのではなく、お互いの金属同士が直接接合されていることを意味する。冶金的な接合とは結晶学的整合(エピタキシー)による接合を当然に含む概念であり、本発明において、各めっき層は互いに結晶学的整合(エピタキシー)による接合が達成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の銀めっき材及びその製造方法によれば、優れた導電性と耐摩耗性を兼ね備え、室温での長時間放置や高温暴露後も当該特性を維持することができる銀めっき材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の銀めっき材及びその製造方法の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0029】
≪銀めっき材の製造方法≫
図1は、本発明の銀めっき材の製造方法の工程図である。本発明の銀めっき材の製造方法は、金属基材の表面に銀めっき処理(S04)を施して、銀めっき層を形成させる方法であり、必要に応じて、金属基材へのストライクめっき処理(S01)、金属基材又はストライクめっき層へのニッケルめっき処理(S02)、ニッケルめっき層へのストライクめっき処理(S03)を施すものである。
【0030】
金属基材に用いる金属は、電導性を有している限り特に限定されず、例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金、鉄及び鉄合金、チタン及びチタン合金、ステンレス、銅及び銅合金等を挙げることができるが、なかでも、電導性・熱伝導性・展延性に優れているという理由から、銅及び銅合金を用いることが好ましい。
【0031】
金属基材に洗浄処理を行い、上記種々の処理工程(S01〜S04)を経て、銀めっき材を得ることができる。以下、各処理について詳細に説明する。
【0032】
(1)洗浄処理
洗浄工程は、任意の工程であり、
図1には示していないが、金属基材の表面を洗浄する工程である。ここでは、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の洗浄処理液及び処理条件を用いることができる。
【0033】
洗浄処理液には一般的な非鉄金属用の浸漬脱脂溶液や電解脱脂溶液を使用することができるが、両性金属である錫の腐食を防止するため、pHが2超11未満の洗浄処理溶液を使用することが好ましく、pHが2以下の強酸浴やpHが11以上の強アルカリ浴の使用は避けることが好ましい。
【0034】
具体的には、第三リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウムまたはオルトケイ酸ナトリウム等10〜50g/Lを水溶した弱アルカリ性の浴に界面活性剤0.1〜10g/Lを加えた浴で浴温20〜70℃、10〜60秒間浸漬する。または陽極にステンレス鋼、チタン白金板、及び酸化イリジウム等の不溶性陽極を用いて、陰極電流密度2〜5A/dm
2で陰極電解脱脂を行ってもよい。なお、酸洗浄液を用いる場合は、硫酸又は硝酸等の酸を3〜50%に希釈した一般的な酸洗浄液を使用することができる。
【0035】
(2)金属基材へのストライクめっき処理(S01)
金属基材には、ストライクめっき処理(S01)を施すことが好ましい。銀ストライクめっき、銅ストライクめっき、金ストライクめっき、ニッケルストライクめっきの群から選ばれる1または2以上のストライクめっきを施すことで、ニッケルめっき層又は銀めっき層の密着性をより確実に向上させることができる。
【0036】
(A)銀ストライクめっき
銀ストライクめっき浴としては、例えば、シアン化銀及びシアン化銀カリウム等の銀塩と、シアン化カリウム及びピロリン酸カリウム等の電導塩と、を含むものを用いることができる。
【0037】
銀ストライクめっき処理には、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の銀めっき手法を用いることができるが、通常の銀めっきと比較して、めっき浴中の銀塩の濃度を低く、電導塩の濃度を高くすることが好ましい。
【0038】
銀ストライクめっき処理に好適に用いることができる銀ストライクめっき浴は、銀塩と、シアン化アルカリ塩と、電導塩と、により構成され、必要に応じて光沢剤が添加されていてもよい。各構成要素の好適な使用量は、銀塩:1〜10g/L、シアン化アルカリ塩:80〜200g/L、電導塩:0〜100g/L、光沢剤:〜1000ppmである。
【0039】
銀塩としては、例えば、シアン化銀、ヨウ化銀、酸化銀、硫酸銀、硝酸銀、塩化銀等が挙げられ、電導塩としては、例えば、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ヨウ化カリウム、チオ硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0040】
光沢剤としては金属光沢剤及び/又は有機光沢剤を用いることができる。また、金属光沢剤としては、アンチモン(Sb)、セレン(Se)、テルル(Te)等を例示でき、有機光沢剤としては、ベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸化合物、メルカプタン類等を例示することができる。
【0041】
銀ストライクめっき浴の浴温度、陽極材料、電流密度等の銀ストライクめっき条件は、用いるめっき浴及び必要とするめっき厚さ等に応じて適宜設定することができる。例えば、陽極材料には、ステンレス鋼、チタン白金板、及び酸化イリジウム等の不溶性陽極を用いることが好ましい。また、好適なめっき条件としては、浴温:15〜50℃、電流密度:0.5〜5A/dm
2、処理時間:5〜60秒を例示することができる。
【0042】
なお、銀ストライクめっきは金属基材の全面に施してもよく、ニッケルめっき層又は銀めっき層を形成させたい領域のみに施してもよい。
【0043】
(B)銅ストライクめっき
銅ストライクめっき浴には、酸性浴とアルカリ性浴のどちらを用いてもよい。
【0044】
酸性浴は銅塩及び酸により構成され、添加剤が添加されてもよい。銅塩には、例えば、硫酸銅及びスルファミン酸銅等を用いることができる。酸には、例えば、硫酸及びスルファミン酸等を用いることができる。添加剤には、例えば、硫黄化合物(チオ尿素、ジスルホン塩、メルカプトベンゾチアゾール等)、有機化合物(ポリオキシエチレングリコールエーテル、ポリエチレングリコール等)、及びセレン化合物等を用いることができる。
【0045】
銅ストライクめっき処理に好適に用いることができる酸性浴の各構成要素の好適な使用量は、銅塩:60〜200g/L、酸:30〜200g/L、添加剤:0〜100ppmである。
【0046】
アルカリ性浴にはシアン系浴を用いることができ、シアン系浴は銅塩、シアン化アルカリ塩及び電導塩により構成され、添加剤が添加されてもよい。銅塩には、例えば、シアン化銅等を用いることができる。シアン化アルカリ塩には、例えば、シアン化カリウム及びシアン化ナトリウム等を用いることができる。 電導塩には、例えば、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウム等を用いることができる。添加剤には、例えば、ロッシェル塩、亜セレン酸カリウム、亜セレン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、酢酸鉛、酒石酸鉛等を用いることができる。
【0047】
銅ストライクめっき処理に好適に用いることができるシアン系浴の各構成要素の好適な使用量は、銅塩:10〜80g/L、シアン化アルカリ酸:20〜50g/L、電導塩:10〜50g/L、添加剤:0〜60g/Lである。
【0048】
銅ストライクめっき浴の浴温度、陽極材料、電流密度等の銅ストライクめっき条件は、用いるめっき浴及び必要とするめっき厚さ等に応じて適宜設定することができる。例えば、陽極材料には、電解銅等の可溶性陽極、及び/又は、ステンレス鋼、チタン白金板、酸化イリジウム等の不溶性陽極等を用いることが好ましい。また、好適なめっき条件としては、浴温:25〜70℃、電流密度:0.1〜6.0A/dm
2、処理時間:5〜60秒を例示することができる。
【0049】
なお、銅ストライクめっきは金属基材の全面に施してもよく、ニッケルめっき層又は銀めっき層を形成させたい領域のみに施してもよい。
【0050】
(C)金ストライクめっき
金ストライクめっき浴としては、例えば、金塩、電導塩、キレート剤及び結晶成長剤を含むものを用いることができる。また、金ストライクめっき浴には光沢剤が添加されていてもよい。
【0051】
金塩には、例えば、シアン化金、シアン化第一金カリウム、シアン化第二金カリウム、亜硫酸金ナトリウム及びチオ硫酸金ナトリウム等を用いることができる。電導塩には、例えば、クエン酸カリウム、リン酸カリウム、ピロリン酸カリウム及びチオ硫酸カリウム等を用いることができる。キレート剤には、例えば、エチレンジアミン四酢酸及びメチレンホスホン酸等を用いることができる。結晶成長剤には、例えば、コバルト、ニッケル、タリウム、銀、パラジウム、錫、亜鉛、銅、ビスマス、インジウム、ヒ素及びカドミウム等を用いることができる。なお、pH調整剤として、例えば、ポリリン酸、クエン酸、酒石酸、水酸化カリウム及び塩酸等を添加してもよい。
【0052】
金ストライクめっき処理に好適に用いることができる金ストライクめっき浴の各構成要素の好適な使用量は、金塩:1〜10g/L、電導塩:0〜200g/L、キレート剤:0〜30g/L、結晶成長剤:0〜30g/Lである。
【0053】
金ストライクめっき浴の浴温度、陽極材料、電流密度等の金ストライクめっき条件は、用いるめっき浴及び必要とするめっき厚さ等に応じて適宜設定することができる。例えば、陽極材料には、チタン白金板及び酸化イリジウム等の不溶性陽極等を用いることが好ましい。また、好適なめっき条件としては、浴温:20〜40℃、電流密度:0.5〜5.0A/dm
2、処理時間:5〜60秒、pH:0.5〜7.0を例示することができる。
【0054】
なお、金ストライクめっきは金属基材の全面に施してもよく、ニッケルめっき層又は銀めっき層を形成させたい領域のみに施してもよい。
【0055】
(D)ニッケルストライクめっき
ニッケルストライクめっき浴としては、例えば、ニッケル塩、陽極溶解促進剤及びpH緩衝剤を含むものを用いることができる。また、ニッケルストライクめっき浴には添加剤が添加されていてもよい。
【0056】
ニッケル塩には、例えば、硫酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル及び塩化ニッケル等を用いることができる。陽極溶解促進剤には、例えば、塩化ニッケル及び塩酸等を用いることができる。pH緩衝剤には、例えば、ホウ酸、酢酸ニッケル及びクエン酸等を用いることができる。添加剤には、例えば、1次光沢剤(サッカリン、ベンゼン、ナフタレン(ジ、トリ)、スルホン酸ナトリウム、スルホンアミド、スルフィン酸等)、2次光沢剤(有機化合物:ブチンジオール、クマリン、アリルアルデヒドスルホン酸等、金属塩:コバルト、鉛、亜鉛等)及びピット防止剤(ラウリル硫酸ナトリウム等)等を用いることができる。
【0057】
ニッケルストライクめっき処理に好適に用いることができるニッケルストライクめっき浴の各構成要素の好適な使用量は、ニッケル塩:200〜600g/L、陽極溶解促進剤:0〜300g/L、pH緩衝剤:0〜50g/L、添加剤:0〜20g/Lである。
【0058】
ニッケルストライクめっき浴の浴温度、陽極材料、電流密度等のニッケルストライクめっき条件は、用いるめっき浴及び必要とするめっき厚さ等に応じて適宜設定することができる。例えば、陽極材料には、電解ニッケル、カーボナイズドニッケル、デポライズドニッケル、サルファニッケル等の可溶性陽極等を用いることが好ましい。また、好適なめっき条件としては、浴温:20〜70℃、電流密度:0.1〜15.0A/dm
2、処理時間:5〜60秒、pH:0.5〜4.5を例示することができる。
【0059】
なお、ニッケルストライクめっきは金属基材の全面に施してもよく、ニッケルめっき層又は銀めっき層を形成させたい領域のみに施してもよい。
【0060】
上記各種ストライクめっきは1種類のみを施しても、複数のストライクめっきを積層させてもよい。また、金属基材の表面状態により、ストライクめっき処理なしでも粗状ニッケルめっきの密着状況が良好となる場合は、当該ストライクめっき処理を省略することができる。
【0061】
(3)ニッケルめっき処理(S02)
金属基材(ストライクめっき処理を施した場合はストライクめっき層)には、ニッケルめっき処理(S02)を施すことが好ましい。ニッケルめっき処理を施すことで、金属基材と銀めっき層との間における原子の拡散及び反応を防止することができ、銀めっき層の特性低下を抑制することができる。
【0062】
ニッケルめっき浴としては、例えば、ニッケル塩、陽極溶解促進剤及びpH緩衝剤を含むものを用いることができる。また、ニッケルめっき浴には添加剤が添加されていてもよい。
【0063】
ニッケル塩には、例えば、硫酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル及び塩化ニッケル等を用いることができる。陽極溶解促進剤には、例えば、塩化ニッケル及び塩酸等を用いることができる。pH緩衝剤には、例えば、ホウ酸、酢酸ニッケル及びクエン酸等を用いることができる。添加剤には、例えば、1次光沢剤(サッカリン、ベンゼン、ナフタレン(ジ、トリ)スルホン酸ナトリウム、スルホンアミド、スルフィン酸等)、2次光沢剤(有機化合物:ブチンジオール、クマリン、アリルアルデヒドスルホン酸等、金属塩:コバルト、鉛、亜鉛等)、及びピット防止剤(ラウリル硫酸ナトリウム等)等を用いることができる。
【0064】
ニッケルめっき処理に好適に用いることができるニッケルめっき浴の各構成要素の好適な使用量は、ニッケル塩:200〜600g/L、陽極溶解促進剤:0〜300g/L、pH緩衝剤:20〜50g/L、添加剤:0〜20g/Lである。
【0065】
ニッケルめっき浴の浴温度、陽極材料、電流密度等のニッケルめっき条件は、用いるめっき浴及び必要とするめっき厚さ等に応じて適宜設定することができる。例えば、陽極材料には、電解ニッケル、カーボナイズドニッケル、デポライズドニッケル、サルファニッケル等の可溶性陽極等を用いることが好ましい。また、好適なめっき条件としては、浴温:20〜70℃、電流密度:0.1〜15.0A/dm
2、処理時間:10〜50000秒、pH:0.5〜4.5を例示することができる。
【0066】
なお、ニッケルめっき層は、連続する膜形状であることが好ましく、当該ニッケルめっき層の厚さは0.05μm〜10μmであることが好ましい。0.05μm未満であるとバリア効果に乏しく、10μm以上であると曲げ加工時にクラックが発生しやすくなる。なお、ニッケルめっき層は、本発明の効果を損なわない範囲で、粒状や島状の不連続な膜形状であってもよい。後者の場合、粒状及び島状部分が部分的に連続していてもよい。
【0067】
(4)ニッケルめっき層への銀ストライクめっき処理(S03)
ニッケルめっき層には、ストライクめっき処理(S03)を施すことが好ましい。銀ストライクめっき、銅ストライクめっき、金ストライクめっき、ニッケルストライクめっきの群から選ばれる1または2以上のストライクめっきを施すことで、ニッケルめっき層と銀めっき層の密着性をより確実に向上させることができる。なお、各ストライクめっき方法は、金属基材へのストライクめっき処理(S01)と同様である。
【0068】
(5)銀めっき処理(S04)
銀めっき処理(S04)は、銀めっき材の最表面である銀めっき層を形成させるための処理である。
【0069】
銀めっき処理には、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の銀めっき手法を用いることができるが、通常の銀ストライクめっきと比較して、めっき浴中の銀塩の濃度を高く、電導塩の濃度を低くすることが好ましい。
【0070】
銀めっき処理に好適に用いることができる銀めっき浴は、銀塩と、シアン化アルカリ塩と、電導塩と、金属添加剤により構成され、必要に応じて有機添加剤が添加されていてもよい。各構成要素の好適な使用量は、銀塩:40〜150g/L、シアン化アルカリ塩:1〜200g/L、電導塩:10〜250g/L、金属添加材:2.5〜25ppm、有機添加剤:0〜10g/Lである。
【0071】
銀塩としては、例えば、シアン化銀及びシアン化銀カリウム等が挙げられ、シアン化アルカリ塩としては、例えば、シアン化カリウム及びシアン化ナトリウム等が挙げられる。また、導電塩としては、例えば、炭酸カリウム、塩化カリウム、ピロリン酸カリウム及びチオ硫酸カリウム等が挙げられる。
【0072】
金属添加剤としては、例えば、銅、錫、ニッケル、コバルト、アンチモン、セレン、テルル、ビスマス等を挙げることができるが、セレンを用いることが好ましい。また、有機添加剤としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、メルカプタン類及びエチレンジアミン四酢酸等を挙げることができる。
【0073】
陽極材料には、可溶性陽極、ステンレス鋼、チタン白金板、及び酸化イリジウム等の不溶性陽極を用いることが好ましい。また、浴温は15〜70℃とし、pHを7.0〜10.0とすることが好ましい。
【0074】
本発明の銀めっき材の製造方法の特徴の一つは、パルス電源装置を使用することである。パルス電源を用いてめっき処理を施すことで、金属元素が添加されためっき浴を用いる場合であっても、緻密かつ均一な銀めっき層を形成させることができる。電流密度は0.5〜20.0A/dm
2、処理時間は0.5〜10000秒を例示することができる。
【0075】
≪銀めっき材≫
図2は、本発明の銀めっき材の一実施形態における概略断面図である。銀めっき材1は、金属基材2の表面にニッケルめっき層4を介して銀めっき層6が形成されている。また、金属基材2とニッケルめっき層4の間、及びニッケルめっき層4と銀めっき層6の間には、ストライクめっき層8が形成されていることが好ましい。
【0076】
銀めっき層6は、銅、錫、ニッケル、コバルト、セレン、アンチモン、テルル及びビスマスから選択される1または2以上の金属元素を含有し、当該金属元素の含有量は0.001〜0.025%となっている。銀めっき層6に0.001%以上の銅、錫、ニッケル、コバルト、セレン、アンチモン、テルル及びビスマスから選択される1または2以上の金属元素が含有していることで、銀めっき層6に優れた耐摩耗性を付与することができると共に、高温暴露後も当該耐摩耗性を維持することができる。また、添加金属元素を0.025%以下とすることで、銀めっき層6の優れた導電性及び接触抵抗を維持することができる。
【0077】
また、本発明の銀めっき材1においては、銀めっき層6に金属元素が添加されていることに加え、緻密かつ均一な銀めっき層6が形成されている。銀めっき層6の厚さは、0.1μm〜50μmであること、が好ましい。銀めっき層6の厚さを0.1μm以上とすることで、銀めっき材1を各種接点、端子、コネクタ及びスイッチ等に使用する際に、銀めっき層6の特性を活用することができ、50μm以下とすることで、銀めっき層6における欠陥形成等を抑制することができると共に、効率的な製造が可能となる。
【0078】
金属基材2の金属は、電導性を有している限り特に限定されず、例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金、鉄及び鉄合金、チタン及びチタン合金、ステンレス、銅及び銅合金等を挙げることができるが、なかでも、電導性・熱伝導性・展延性に優れているという理由から、銅及び銅合金を用いることが好ましい。
【0079】
ニッケルめっき層4は、連続する膜形状であることが好ましく、ニッケルめっき層4の厚さは0.05μm〜10μmであることが好ましい。また、より好ましいニッケルめっき層4の厚さは0.5μm〜2μmである。なお、ニッケルめっき層4は、本発明の効果を損なわない範囲で、粒状や島状の不連続な膜形状であってもよい。後者の場合、粒状及び島状部分が部分的に連続していてもよい。
【0080】
また、ストライクめっき層8は連続する膜形状であっても、本発明の効果を損なわない範囲で、粒状や島状の不連続な膜形状であってもよい。後者の場合、粒状及び島状部分が部分的に連続していてもよい。なお、ストライクめっき条件によっては、ストライクめっき層8の識別が困難な場合も存在する。ストライクめっき層8の厚さは0.01μm〜0.5μmであることが好ましい。ここで、ストライクめっき層8は、銀ストライクめっき、銅ストライクめっき、金ストライクめっき、ニッケルストライクめっきの群から選ばれる1または2以上のストライクめっき層とすることができる。
【0081】
ストライクめっき層8の表面には、銀めっき層6が形成されている。銀めっき層6の厚さは0.1μm〜50μmであることが好ましく、ビッカース硬度は80HV〜250HVであることが好ましい。0.1μm未満では銀めっき層6の耐摩耗性を利用することができず、50μmより厚い場合は銀の使用量が増加するため経済的でない。
【0082】
なお、ニッケルめっき層4及びストライクめっき層8は、本発明の銀めっき材1の必須の構成要件ではないが、ニッケルめっき層4によって、金属基材2と銀めっき層6との間における原子の拡散及び反応を防止することができ、銀めっき層6の特性低下を抑制することができる。また、ストライクめっき層8によって、金属基材2とニッケルめっき層4との密着性及びニッケルめっき層4と銀めっき層6との密着性をより確実に向上させることができる。
【0083】
銀めっき材1を構成する金属基材2、銀めっき層6、ニッケルめっき層4及びストライクめっき層8の接触界面は、冶金的に接合されている。冶金的な接合とは、アンカー効果等の機械的接合や接着剤等の異種接合層を介して接合されているのではなく、お互いの金属同士が直接接合されていることを意味する。冶金的な接合とは結晶学的整合(エピタキシー)による接合を当然に含む概念であり、本発明において、各めっき層は互いに結晶学的整合(エピタキシー)による接合が達成されていることが好ましい。
【0084】
なお、本発明の銀めっき材1は、本発明の銀めっき材の製造方法によって好適に製造することができる。
【0085】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0086】
≪実施例1≫
銅合金からなる基材(被めっき材)に、以下の工程で30μmの銀めっき層を形成させた。まず、基材表面の前処理として、被めっき材とSUS板をアルカリ脱脂液に入れ、被めっき材を陰極とし、SUS板を陽極として、電圧3Vで30秒間電解脱脂を行った。水洗後、5%硫酸中で15秒間酸洗浄を行った。
【0087】
次に、90g/Lのシアン化銀カリウムと3g/Lのシアン化カリウムと、セレンとして2.5ppm相当のセレノシアン酸カリウムからなる銀めっき浴を用い、陽極材料をチタン白金等の不溶性陽極、陰極材料を前処理後の被めっき材として、浴温35℃のめっき液を用い、電流条件については、パルス電源を用い、電流密度Ia=30A/dm
2,Ib=10A/dm
2,通電時間Ta=10ms,Tb=90msにて、30μmの銀めっき層を形成させた。
【0088】
ただし、Ia,Ibは電流密度(A/dm
2)、Ta,Tbは通電時間(ms)を示し、以下の式(1),(2)を満たす。
|Ia|>|Ib| (1)
Ta<Tb (2)
ここで、(1)式中の||は絶対値を示す。
【0089】
[評価]
(1)銀めっき層の硬度測定
上記のようにして製造した銀めっき材の銀めっき層について、マイクロビッカース微小硬度計を用いて硬度を測定し、得られた値を表1に示した。
【0090】
(2)100℃で1時間煮沸後の硬度測定
100℃に沸騰した純水中に、上記のようにして製造した銀めっき材を1時間保持し、煮沸試験を行った後、マイクロビッカース微小硬度計を用いて、銀めっき層の硬度を測定した。得られた値を表1に示した。なお、100℃で1時間の煮沸試験後の結晶状態は、室温放置におけるめっき層の再結晶化の飽和状態に相当するとされている。
【0091】
(3)銀めっき層のセレン含有率測定
上記のようにして製造した銀めっき材について、銀めっき層のみを引き剥がして、硝酸に溶かし、原子吸光光度計にてセレン含有率を測定した。得られた値を表1に示した。
【0092】
(4)電気接触抵抗測定
上記のようにして製造した銀めっき材について、接触抵抗を測定した。測定条件は、使用プローブ:SK材+ニッケル下地金めっき、測定荷重:0.5N、測定回数:10回である。得られた値を表1に示した。
【0093】
≪実施例2≫
セレンとして5ppm相当のセレノシアン酸カリウムからなる銀めっき浴を用いたこと以外は、実施例1と同様にして銀めっき材を製造し、各種評価を行った。得られた結果を表1に示した。
【0094】
≪実施例3≫
セレンとして10ppm相当のセレノシアン酸カリウムからなる銀めっき浴を用いたこと以外は、実施例1と同様にして銀めっき材を製造し、各種評価を行った。得られた結果を表1に示した。
【0095】
≪実施例4≫
セレンとして15ppm相当のセレノシアン酸カリウムからなる銀めっき浴を用いたこと以外は、実施例1と同様にして銀めっき材を製造し、各種評価を行った。得られた結果を表1に示した。
【0096】
≪実施例5≫
セレンとして25ppm相当のセレノシアン酸カリウムからなる銀めっき浴を用いたこと以外は、実施例1と同様にして銀めっき材を製造し、各種評価を行った。得られた結果を表1に示した。
【0097】
≪比較例1≫
電流条件について、直流電源I=12A/dm
2を用いた(パルス不使用)以外は、実施例1と同様にして銀めっき材を製造し、各種評価を行った。得られた結果を表1に示した。
【0098】
≪比較例2≫
セレンを含まないめっき液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして銀めっき材を製造し、各種評価を行った。得られた結果を表1に示した。
【0099】
≪比較例3≫
セレンとして1ppm相当のセレノシアン酸カリウムからなる銀めっき浴を用いたこと以外は、実施例1と同様にして銀めっき材を製造し、各種評価を行った。得られた結果を表1に示した。
【0100】
≪比較例4≫
セレンとして30ppm相当のセレノシアン酸カリウムからなる銀めっき浴を用いたこと以外は、実施例1と同様にして銀めっき材を製造し、各種評価を行った。得られた結果を表1に示した。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示す結果から、本発明の銀めっき材における銀めっき層は、0.001〜0.025%のセレンを含有していることが確認される。また、当該銀めっき層は100HV以上の高硬度を有しており、100℃で1時間の煮沸後も当該硬度が維持されていることが分かる(実施例1〜実施例5)。
【0103】
パルス電源を用いない場合、セレンを含有する銀めっき浴を用いても銀めっき層にセレンが取り込まれず、100℃で1時間の煮沸によって大幅に硬度が低下している(比較例1)。また、パルス電源を用いた場合であっても、銀めっき層にセレンが含まれていない場合は、100℃で1時間の煮沸によって大幅に硬度が低下している(比較例2〜3)。
【0104】
めっき液中のセレンが過剰に添加されている場合、100℃で1時間の煮沸による大幅な硬度低下は抑制されているが、電気接触抵抗が大幅に増加し、導電性が低下している(比較例4)。
【0105】
この結果より、銀めっき浴にセレン等の特定の金属元素を含有させると共に、パルス電源を用いてめっき処理を施すことで、優れた導電性と耐摩耗性を兼ね備え、室温での長時間放置や高温暴露後も当該特性を維持することができる銀めっき材を製造できることが分かる。