特許第6484876号(P6484876)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484876
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】亜鉛錯体
(51)【国際特許分類】
   C07D 233/61 20060101AFI20190311BHJP
   C07F 3/06 20060101ALI20190311BHJP
   C07C 53/18 20060101ALI20190311BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20190311BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20190311BHJP
   C07C 67/03 20060101ALI20190311BHJP
   C07C 68/06 20060101ALI20190311BHJP
   C07C 213/00 20060101ALI20190311BHJP
   C07C 269/00 20060101ALI20190311BHJP
   C07D 317/38 20060101ALI20190311BHJP
   C07J 9/00 20060101ALI20190311BHJP
   C07F 7/08 20060101ALI20190311BHJP
   C07D 213/30 20060101ALI20190311BHJP
   C07C 29/128 20060101ALI20190311BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20190311BHJP
【FI】
   C07D233/61 101
   C07F3/06CSP
   C07C53/18
   B01J31/22 Z
   B01J37/08
   C07C67/03
   C07C68/06 Z
   C07C213/00
   C07C269/00
   C07D317/38
   C07J9/00
   C07F7/08 J
   C07D213/30
   C07C29/128
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2015-508698(P2015-508698)
(86)(22)【出願日】2014年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2014058876
(87)【国際公開番号】WO2014157524
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2017年2月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-66741(P2013-66741)
(32)【優先日】2013年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000169466
【氏名又は名称】高砂香料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 孝志
(72)【発明者】
【氏名】矢崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】横手 友紀
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 義正
【審査官】 谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−079810(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/047905(WO,A1)
【文献】 特開2007−099730(JP,A)
【文献】 特開2014−019664(JP,A)
【文献】 FAN,J. et al,Novel Metal-Organic Frameworks with Specific Topology Formed through Noncovalent Br…Br Interactions in the Solid State,Crystal Growth & Design,2004年 3月31日,Vol.4, No.3,p.579-584
【文献】 Yan DING et al,Controllable assembly of four new POM-based supramolecular compounds by altering the POM secondary building units from pseudo-Keggin to classical Keggin,CrystEngComm,2011年,vol.13,p.2687-2692
【文献】 Ying-Ying LIU et al,Versatile frameworks constructed from divalent metals and 1,2,3,4-butanetetracarboxylate anion: syntheses, crystal structures, luminescence and magnetic properties,CrystEngComm,2008年,vol.10,p.894-904
【文献】 Julie BROWN et al,Preparation, Characterization, and Thermal Properties of Controllable Metal-Imidazole Complex Curing Agents for Epoxy Resins,Journal of Applied Polymer Science,2000年,vol.75,p.201-217
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 233/61
B01J 31/22
B01J 37/08
C07C 29/128
C07C 53/18
C07C 67/03
C07C 68/06
C07C 213/00
C07C 269/00
C07D 213/30
C07D 317/38
C07F 3/06
C07F 7/08
C07J 9/00
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オクタヘドラル構造を呈し一般式(I)で示される繰返し単位から構成される亜鉛錯体であって、
(I)
(式中、Lは一般式(II)で示されるリンカー部位を表す。R1はハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。)

(II)
(式中、Xは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアリル基又は置換アミノ基を表す。)
リンカー部位Lは、一般式(V)で表される構造を形成するように結合し、

(V)
単斜晶系又は三斜晶系の結晶構造を有する亜鉛錯体。
【請求項2】
請求項1に記載の亜鉛錯体から成る触媒。
【請求項3】
水酸基をアシル化する方法であって、
請求項2に記載の触媒の存在下で、カルボン酸又はそのエステルを反応させることを特徴とする方法。
【請求項4】
水酸基をカーボネート化する方法であって、
請求項2に記載の触媒の存在下で、炭酸エステルを反応させることを特徴とする方法。
【請求項5】
カルボン酸エステルを脱アシル化する方法であって、
請求項2に記載の触媒の存在下で、カルボン酸エステルを脱アシル化することを特徴とする方法。
【請求項6】
カルボン酸又はそのエステルにより水酸基をアシル化する方法であって、
一般式(III)で表される亜鉛カルボキシレート化合物又は一般式(IV)で表される亜鉛カルボキシレート化合物と、亜鉛カルボキシレート化合物の亜鉛原子に対して2モル当量の一般式(V)で表される化合物とを触媒としてアシル化反応系中に加えることを特徴とする方法。

Zn(OCOR1a2・xH2O (III)
(式中、R1aはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、xは0以上の任意の数を表す。)

Zn4O(OCOR1b6(R1bCOOH)n (IV)
(式中、R1bはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜1を表す。)
(V)
(式中、Lは一般式(II)で示されるリンカー部位を表す。)

(II)
(式中、Xは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアリル基又は置換アミノ基を表す。)
【請求項7】
炭酸エステルにより水酸基をカーボネート化する方法であって、
一般式(III)で表される亜鉛カルボキシレート化合物又は一般式(IV)で表される亜鉛カルボキシレート化合物と、亜鉛カルボキシレート化合物の亜鉛原子に対して2モル当量の一般式(V)で表される化合物とを触媒としてカーボネート化反応系中に加えることを特徴とする方法。

Zn(OCOR1a2・xH2O (III)
(式中、R1aはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、xは0以上の任意の数を表す。)

Zn4O(OCOR1b6(R1bCOOH)n (IV)
(式中、R1bはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜1を表す。)
(V)
(式中、Lは一般式(II)で示されるリンカー部位を表す。)

(II)
(式中、Xは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアリル基又は置換アミノ基を表す。)
【請求項8】
カルボン酸エステルを脱アシル化する方法であって、
一般式(III)で表される亜鉛カルボキシレート化合物又は一般式(IV)で表される亜鉛カルボキシレート化合物と、亜鉛カルボキシレート化合物の亜鉛原子に対して2モル当量の一般式(V)で表される化合物とを触媒として脱アシル化反応系中に加えることを特徴とする方法。

Zn(OCOR1a2・xH2O (III)
(式中、R1aはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、xは0以上の任意の数を表す。)

Zn4O(OCOR1b6(R1bCOOH)n (IV)
(式中、R1bはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜1を表す。)
(V)
(式中、Lは一般式(II)で示されるリンカー部位を表す。)

(II)
(式中、Xは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアリル基又は置換アミノ基を表す。)
【請求項9】
一般式(III)で表される亜鉛カルボキシレート化合物又は一般式(IV)で表される亜鉛カルボキシレート化合物と、
亜鉛カルボキシレート化合物の亜鉛原子に対して2モル当量の一般式(V)で示される化合物と、
を反応させることを特徴とする、請求項1に記載の亜鉛錯体の製造方法。

Zn(OCOR1a2・xH2O (III)
(式中、R1aはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、xは0以上の任意の数を表す。)

Zn4O(OCOR1b6(R1bCOOH)n (IV)
(式中、R1bはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜1を表す。)
(V)
(式中、Lは一般式(II)で示されるリンカー部位を表す。)

(II)
(式中、Xは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアリル基又は置換アミノ基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエステル交換反応を初めとする各種反応の触媒等として有用な新規な亜鉛錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
分子内に複数の金属核を有する複核金属錯体は、高活性な触媒として多くのものが開発されている。その中でも、分子内に四つの亜鉛イオンを含むトリフルオロ酢酸架橋亜鉛四核クラスター錯体から成る触媒は、エステル交換反応、アミノ基存在下における水酸基選択的アシル化反応、アセチル化反応、脱アセチル化反応及びアミド化反応などの様々な反応において、副生成物の少ない環境調和型の反応を促進する優れた触媒である(たとえば、特開2009‐185033号公報、再公表2009‐047905号公報、特開2011‐079810号公報、J.Org.Chem.2008,73,5147、J.Am.Chem.Soc.2008,130,2944、Synlett 2009,10,1659、及びChem,Eur,J.2010,16,11567)。
この亜鉛四核クラスター触媒Zn4(OCOCF3)6Oは、優れた触媒であるが、活性が十分とは言えない。ACS Catal,2011,1,1178に記載のように、活性向上のためDMAP(4−ジメチルアミノピリジン)やNMI(N‐メチルイミダゾール)などの含窒素芳香族化合物を添加することにより、ある程度の改善が行なわれた報告はあるが、触媒に対して過剰量の添加剤が必要であるという問題が残っている。さらに、亜鉛四核クラスター触媒は、反応の進行とともに徐々に分解し失活してしまうため、触媒の回収、再利用は困難であった。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的は、触媒として高活性であり、安定性を有し、さらに、回収・再利用も容易な新規な亜鉛錯体を提供することにある。
本発明者らは、研究を重ねた結果、二つのイミダゾール基を適切なリンカーを介して結合させた二座配位子と亜鉛カルボキシレート化合物を混合させることにより、前記の目的に適う亜鉛錯体が得られることを見出した。
本発明は以下の[1]から[10]に関するものである。
[1]オクタヘドラル構造を呈し下記一般式(I)で示される繰返し単位から構成されることを特徴とする亜鉛錯体。
(I)
(式中、Lはリンカー部位を表す。R1はハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
[2]一般式(III)で表される亜鉛カルボキシレート化合物、又は一般式(IV)で表される亜鉛カルボキシレート化合物と、
亜鉛カルボキシレート化合物の亜鉛原子に対して2モル当量の一般式(V)で表される化合物と、
を反応させて得られる亜鉛錯体。

Zn(OCOR1a2・xH2O (III)
(式中、R1aはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、xは0以上の任意の数を表す。)

Zn4O(OCOR1b6(R1bCOOH)n (IV)
(式中、R1bはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜1を表す。)
(V)
(式中、Lはリンカー部位を表す。)
[3]リンカーLが、下記一般式(II)で示されることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の亜鉛錯体。
(II)
(式中、Xは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアリル基又は置換アミノ基を表す。)
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の亜鉛錯体からなる触媒。
[5]水酸基をアシル化する方法であって、
前記[4]に記載の触媒の存在下で、カルボン酸又はそのエステルを反応させることを特徴とする方法。
[6]水酸基をカーボネート化する方法であって、
前記[4]に記載の触媒の存在下で、炭酸エステルを反応させることを特徴とする方法。
[7]カルボン酸エステルを脱アシル化する方法であって、
前記[4]に記載の触媒の存在下で、カルボン酸エステルを脱アシル化することを特徴とする方法。
[8]カルボン酸又はそのエステルにより水酸基をアシル化する方法であって、
一般式(III)で表される亜鉛カルボキシレート化合物又は一般式(IV)で表される亜鉛カルボキシレート化合物と、一般式(V)で表される化合物とをアシル化反応系中に加えることで触媒を形成することを特徴とする方法。

Zn(OCOR1a2・xH2O (III)
(式中、R1aはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、xは0以上の任意の数を表す。)

Zn4O(OCOR1b6(R1bCOOH)n (IV)
(式中、R1bはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜1を表す。)
(V)
(式中、Lはリンカー部位を表す。)
[9]炭酸エステルにより水酸基をカーボネート化する方法であって、
一般式(III)で表される亜鉛カルボキシレート化合物又は一般式(IV)で表される亜鉛カルボキシレート化合物と、一般式(V)で表される化合物とをカーボネート化反応系中に加えることで触媒を形成することを特徴とする方法。

Zn(OCOR1a2・xH2O (III)
(式中、R1aはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、xは0以上の任意の数を表す。)

Zn4O(OCOR1b6(R1bCOOH)n (IV)
(式中、R1bはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜1を表す。)
(V)
(式中、Lはリンカー部位を表す。)
[10]カルボン酸エステルを脱アシル化する方法であって、
一般式(III)で表される亜鉛カルボキシレート化合物又は一般式(IV)で表される亜鉛カルボキシレート化合物と、一般式(V)で表される化合物とを脱アシル化反応系中に加えることで触媒を形成することを特徴とする方法。

Zn(OCOR1a2・xH2O (III)
(式中、R1aはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、xは0以上の任意の数を表す。)

Zn4O(OCOR1b6(R1bCOOH)n (IV)
(式中、R1bはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜1を表す。)
(V)
(式中、Lはリンカー部位を表す。)
[11]一般式(III)で表される亜鉛カルボキシレート化合物又は一般式(IV)で表される亜鉛カルボキシレート化合物と、
亜鉛カルボキシレート化合物の亜鉛原子に対して2モル当量の一般式(V)で示される化合物と、
を反応させることを特徴とする、一般式(I)で表される亜鉛錯体の製造方法。
(I)
(式中、Lはリンカー部位を表す。R1はハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。)

Zn(OCOR1a2・xH2O (III)
(式中、R1aはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、xは0以上の任意の数を表す。)

Zn4O(OCOR1b6(R1bCOOH)n (IV)
(式中、R1bはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜1を表す。)
(V)
(式中、Lはリンカー部位を表す。)
本発明の一般式(I)で示される亜鉛錯体は、触媒として高活性であり、安定性を有し、さらに、回収・再利用も容易である。これより環境調和性、操作性、さらに経済性良く反応を行える。さらに本発明の亜鉛錯体は、医農薬中間体、機能性材料及び構造材料などの合成用触媒としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】本発明のオクタヘドラル構造を呈する亜鉛錯体AのX線結晶構造解析の結果を表す。
図2】テトラヘドラル構造を呈する亜鉛錯体BのX線結晶構造解析の結果を表す。
図3】本発明のオクタヘドラル構造を呈する亜鉛錯体CのX線結晶構造解析の結果を表す。
図4】亜鉛錯体AのMS測定結果を表す。
図5】亜鉛錯体CのMS測定結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の亜鉛錯体は、オクタヘドラル構造を呈し下記一般式(I)で示される繰返し単位から構成される亜鉛錯体である。
(I)
一般式(I)中、Lはリンカー部位を示す。Lは2つのイミダゾール基の一方の窒素原子と架橋する2価の原子団を示す。
【0006】
2価の原子団としては、直鎖状、分岐鎖状いずれでもよく、炭素数1ないし20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、炭素数2ないし20の直鎖状又は分岐鎖状アルケニレン基、炭素数3ないし20のシクロアルケニレン基、炭素数2ないし20の直鎖状又は分岐鎖状アルキニレン基、炭素数6ないし20のアリーレン基、炭素数8ないし20のアリールアルキレン基、炭素数1ないし20のヘテロアルキレン基、炭素数2ないし20のヘテロアリーレン基、炭素数3ないし20のヘテロアリールアルキレン基、フェニレンビニレン基、ポリフルオレンジイル基、ポリチオフェンジイル基、ジアルキルシランジイル基及びジアリールシランジイル基が挙げられる。これらの2価の原子団は、置換基を有してもよい。また、これらの原子団を二つ以上、それぞれ組合せてもよい。
この中でも好ましくは、直鎖状、分岐鎖状いずれでもよい、置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有してもよいアリーレン基、置換基を有してもよいヘテロアルキレン基、置換基を有してもよいアリールアルキレン基または置換基を有してもよいヘテロアリールアルキレン基が挙げられる。より好ましくは直鎖状、分岐鎖状いずれでもよい、置換基を有してもよいアリールアルキレン基または置換基を有してもよいヘテロアリールアルキレン基が挙げられ、さらに好ましくは直鎖状、分岐鎖状いずれでもよい、置換基を有してもよいアリールアルキレン基が挙げられる。
【0007】
炭素数1ないし20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デカメチレン、ウンデカメチレン、ドデカメチレン、トリデカメチレン、テトラデカメチレン、ペンタデカメチレン、ヘキサデカメチレン基等の直鎖状アルキレン基;メチルエチレン、メチルプロピレン、エチルエチレン、1,2−ジメチルエチレン、1,1−ジメチルエチレン、1−エチルプロピレン、2−エチルプロピレン、1,2−ジメチルプロピレン、2,2−ジメチルプロピレン、1−プロピルプロピレン、2−プロピルプロピレン、1−メチル−1−エチルプロピレン、1−メチル−2−エチル−プロピレン、1−エチル−2−メチル−プロピレン、2−メチル−2−エチル−プロピレン、1−メチルブチレン、2−メチルブチレン、3−メチルブチレン、2−エチルブチレン、メチルペンチレン、エチルペンチレン、メチルヘキシレン、メチルヘプチレン、メチルオクチレン、メチルノニレン、メチルデシレン、メチルウンデシレン、メチルドデシレン、メチルテトラデシレン、メチルオクタデシレン基等の分岐鎖状アルキレン基等を挙げることができる。好ましいアルキレン基としては、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレンが挙げられる。
これらの2価の原子団は、後述する置換基を有してもよい。
【0008】
炭素数3〜8のシクロアルキレン基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロヘキセニレン、1,2−シクロヘキシレンビス(メチレン)、1,3−シクロヘキシレンビス(メチレン)、1,4−シクロヘキシレンビス等が挙げられる。好ましいシクロアルキレン基としては、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロヘキセニレン、1,2−シクロヘキシレンビス(メチレン)、1,3−シクロヘキシレンビス(メチレン)、1,4−シクロヘキシレンビス
これらの2価の原子団は、後述する置換基を有してもよい。
炭素数2ないし20の直鎖状又は分岐鎖状アルケニレン基としては、例えば、ビニレン、1−メチルビニレン、プロペニレン、1−ブテニレン、2−ブテニレン、1−ペンテニレン、2−ペンテニレン基等を挙げることができる。これらの2価の原子団は、後述する置換基を有してもよい。
炭素数3ないし20のシクロアルケニレン基としては、例えば、シクロプロペニレン、シクロブテニレン、シクロペンテニレン、シクロヘキセニレン、シクロオクテニレン基等を挙げることができる。これらの2価の原子団は、後述する置換基を有してもよい。
炭素数2ないし20の直鎖状又は分岐鎖状アルキニレン基としては、例えば、エチニレン、プロピニレン、3−メチル−1−プロピニレン、ブチニレン、1、3−ブタジイニレン、2−ペンチニレン、2−ペンチニレン、2,4−ペンタジイニレン、2−ヘキシニレン、1,3,5−ヘキサトリイニレン、3−ヘプチニレン、4−オクチニレン、4−ノニニレン、5−デシニレン、6−ウンデシニレン、6−ドデシニレン基等を挙げることができる。これらの2価の原子団は、後述する置換基を有してもよい。
【0009】
炭素数6ないし20のアリーレン基としては、例えば、フェニレン(o−フェニレン、m−フェニレン、p−フェニレン)、ビフェニレン、ナフチレン、ビナフチレン、アントラセニレン、フェナントリレン基等を挙げることができる。これらの2価の原子団は、後述する置換基を有してもよい。
炭素数8ないし20のアリールアルキレン基としては、−アルキレン−アリーレン−アルキレン−の構造を有するものが挙げられ、好ましい具体例としては、−CH2 −Z−CH2 −(基中、Zはベンゼン、ナフタレン、ビスフェニル、ジフェニルメタンから誘導された二価の基である。)例えば、フェニレンビス(メチレン)(1,2−フェニレンビス(メチレン)、1,3−フェニレンビス(メチレン)、1,4−フェニレンビス(メチレン))、ナフタレンビス(メチレン)、ビスフェニレンビス(メチレン)などが挙げられる。さらに好ましくは1,3−フェニレンビス(メチレン)が挙げられる。これらの2価の原子団は、後述する置換基を有してもよい。
炭素数1ないし20のヘテロアルキレン基としては、前記したアルキレン基の主鎖のうちの炭素原子のうち一つ以上、好ましくは、1ないし5個の炭素原子が酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子のようなヘテロ原子に置換されたものを意味する。例えば、オキサ(チア)アルキレン、ジオキサ(ジチア)アルキレン、アルキレンオキシ、アルキレンチオ、アルキレンジオキシ、アルキレンジチオ、アザアルキレン、ジアザアルキレン、ホスファアルキレン、ジホスファアルキレン等があげられる。これらの2価の原子団は、後述する置換基を有してもよい。
【0010】
炭素数2ないし20のヘテロアリーレン基としては、前記したアリーレン基の炭素原子のうち一つ以上、好ましくは、1ないし5個の炭素原子が酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子のようなヘテロ原子に置換されたものを意味する。具体的にはフェナントレン、ピロール、ピラジン、ピリジン、ピリミジン、インドリン、イソインドリン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、カルバゾール、フェニルカルバゾール、フェナントリジン、アクリジン、フラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ジベンゾフラン、フェニルジベンゾフラン、ジフェニルジベンゾフラン、チオフェン、フェニルチオフェン、ジフェニルチオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、フェニルベンゾチオフェン、ジフェニルベンゾチオフェン、フェニルジベンゾチオフェン、ベンゾチアゾール等を2価の基としたものが挙げられ、好ましくは、フラン、キノリン、イソキノリン、フェニルカルバゾールを2価の基としたものが挙げられる。これらの2価の原子団は、後述する置換基を有してもよい。
炭素数3ないし20のヘテロアリールアルキレン基としては、前記アリールアルキレン基の炭素原子のうち一つ以上、望ましくは、1ないし5個の炭素原子が酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子のようなヘテロ原子に置換されたものを意味する。好ましい例としては、−CH2 −Z−CH2 −(基中Zは、フラン、ピロール、チオフェン、ピリジン、ピラゾールまたはイミダゾールから誘導された二価の基である。)の構造を有するものが挙げられる。これらの2価の原子団は、後述する置換基を有してもよい。
フェニレンビニレン基、ポリフルオレンジイル基、ポリチオフェンジイル基、ジアルキルシランジイル基及びジアリールシランジイル基等の2価の原子団は、後述する置換基を有してもよい。
【0011】
Lで表される2価の原子団が有してもよい置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、脂肪族複素環基、芳香族複素環基、アルコキシ基、アルキレンジオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アシル基、置換アミノ基(例えば、アルキルで置換されたアミノ基、アリールで置換されたアミノ基、アラルキルで置換されたアミノ基、アシルで置換されたアミノ基、アルコキシカルボニルで置換されたアミノ基など。)、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、スルホ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子等を挙げることができる。
アルキル基としては、直鎖状でも、分岐状でも或いは環状でもよい、例えば炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、tert−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、2−メチルペンタン−3−イル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0012】
アルケニル基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば炭素数2〜15、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜6のアルケニル基が挙げられ、具体的にはビニル基、1−プロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。
アルキニル基としては、直鎖状でも分岐状でもよい、例えば炭素数2〜15、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜6のアルキニル基が挙げられ、具体的にはエチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、3−ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等が挙げられる。
アリール基としては、例えば炭素数6〜14のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナンスレニル基、ビフェニル基等が挙げられる。
脂肪族複素環基としては、例えば炭素数2〜14で、ヘテロ原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環の脂肪族複素環基、5〜8員、好ましくは5〜6員の単環の脂肪族複素環が縮合した脂肪族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基の具体例としては、例えば、2−オキソピロリジノ基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチエニル基、パーヒドロナフチル基等が挙げられる。
芳香族複素環基としては、例えば炭素数2〜15で、ヘテロ原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環式芳香族複素環基、5〜8員、好ましくは5〜6員の単環が縮合した芳香族複素環基が挙げられ、具体的にはピロリル基、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピリダジル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、インドリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フタラジル基、キナゾリル基、ナフチリジル基、シンノリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、テトラヒドロナフチル基等が挙げられる。
【0013】
アルコキシ基としては、直鎖状でも分岐状でも或いは環状でもよい、例えば炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられ、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、2−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、2−メチルブトキシ基、3−メチルブトキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、3−メチルペンチルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、5−メチルペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
アルキレンジオキシ基としては、例えば炭素数1〜3のアルキレンジオキシ基が挙げられ、具体的にはメチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基、プロピレンジオキシ基等が挙げられる。
アリールオキシ基としては、例えば炭素数6〜14のアリールオキシ基が挙げられ、具体的にはフェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
アラルキルオキシ基としては、例えば炭素数7〜12のアラルキルオキシ基が挙げられ、具体的にはベンジルオキシ基、2−フェニルエトキシ基、1−フェニルプロポキシ基、2−フェニルプロポキシ基、3−フェニルプロポキシ基、1−フェニルブトキシ基、2−フェニルブトキシ基、3−フェニルブトキシ基、4−フェニルブトキシ基、1−フェニルペンチルオキシ基、2−フェニルペンチルオキシ基、3−フェニルペンチルオキシ基、4−フェニルペンチルオキシ基、5−フェニルペンチルオキシ基、1−フェニルヘキシルオキシ基、2−フェニルヘキシルオキシ基、3−フェニルヘキシルオキシ基、4−フェニルヘキシルオキシ基、5−フェニルヘキシルオキシ基、6−フェニルヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0014】
ヘテロアリールオキシ基としては、例えばヘテロ原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、炭素数2〜14のヘテロアリールオキシ基が挙げられ、具体的には、2−ピリジルオキシ基、2−ピラジルオキシ基、2−ピリミジルオキシ基、2−キノリルオキシ基等が挙げられる。
アシル基としては、直鎖状でも分岐状でも或いは環状でもよい、例えば炭素数2〜10のアシル基が挙げられ、具体的にはアセチル基、プロパノイル基、ブチリル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
アルコキシカルボニル基としては、直鎖状でも分岐状でも或いは環状でもよい、例えば炭素数2〜19のアルコキシカルボニル基が挙げられ、具体的にはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、ラウリルオキシカルボニル基、ステアリルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
アリールオキシカルボニル基としては、例えば炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基が挙げられ、具体的にはフェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等が挙げられる。アラルキルオキシカルボニル基としては、例えば炭素数8〜15のアラルキルオキシカルボニル基が挙げられ、具体的にはベンジルオキシカルボニル基、フェニルエトキシカルボニル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル等が挙げられる。
アラルキルオキシカルボニル基としては、例えば炭素数8〜15のアラルキルオキシカルボニル基が挙げられ、具体的にはベンジルオキシカルボニル基、フェニルエトキシカルボニル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0015】
置換アミノ基としては、アミノ基の1個又は2個の水素原子が上記アルキル基、上記アリール基又はアミノ基の保護基等の置換基で置換されたアミノ基が挙げられる。保護基としては、アミノ保護基として用いられるもの(例えば「PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS THIRD EDITION(JOHN WILEY & SONS、INC.(1999))参照)であれば何れも使用可能である。アミノ保護基の具体例としては、アラルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基及びアラルキルオキシカルボニル基等が挙げられる。
アルキル基で置換されたアミノ基の具体例としては、N−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基、N−シクロヘキシルアミノ基等のモノ又はジアルキルアミノ基が挙げられる。
アリール基で置換されたアミノ基の具体例としては、N−フェニルアミノ基、N−(3−トリル)アミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ジ(3−トリル)アミノ基、N−ナフチルアミノ基、N−ナフチル−N−フェニルアミノ基等のモノ又はジアリールアミノ基が挙げられる。
アラルキル基で置換されたアミノ基、即ちアラルキル基置換アミノ基の具体例としては、N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基等のモノ又はジアラルキルアミノ基が挙げられる。
【0016】
アシル基で置換されたアミノ基の具体例としては、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ペンタノイルアミノ基、ヘキサノイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等が挙げられる。
アルコキシカルボニル基で置換されたアミノ基の具体例としては、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、n−プロポキシカルボニルアミノ基、n−ブトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、ペンチルオキシカルボニルアミノ基、ヘキシルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
アリールオキシカルボニル基で置換されたアミノ基の具体例としては、フェノキシカルボニルアミノ基、ナフチルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
アラルキルオキシカルボニル基で置換されたアミノ基の具体例としては、ベンジルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
ハロゲン化アルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基の水素原子が後述するハロゲン原子で置換された基が挙げられ、例えばフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基等が挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0017】
Lは、好ましくは一般式(II)で表される置換基を有してもよい1,3−フェニレンビス(メチレン)基である。式中、Xは、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアリル基又は置換アミノ基を表す。これらの基は、上述した基と同様である。置換アミノ基としては、アミノ基の2個の水素原子が上記アルキル基、上記アリール基又はアミノ基の保護基等の置換基で置換されたアミノ基が挙げられる。保護基としては上述した置換アミノ基として同様である。
(II)
【0018】
一般式(I)で表される化合物の代表的な例を化合物(2−1)〜(2−12)で示す。
【0019】
【0020】
一般式(I)で示される亜鉛錯体は、一般式(V)で表される化合物(リガンド)
(V)
(式中、Lはリンカー部位を表す。)
と一般式(III)
Zn(OCOR1a2・xH2O (III)
(式中、R1aはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基で表される亜鉛カルボキシレート化合物を表し、xは0以上の任意の数を表す。)
又は、一般式(IV)
Zn4O(OCOR1b6(R1bCOOH)n (IV)
(式中、R1bはハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基で表される亜鉛カルボキシレート化合物を表し、nは0〜1を表す。)
とを反応させることで得ることができる。
ハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、トリクロロメチル基、トリブロモメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオルエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ヘプタフルオロイソプロピル基等のパーフルオロアルキル基などが挙げられる。この中でも好ましい基としては、トリフルオロメチル(CF3)基が挙げられる。
xは0以上の任意の数を表し、好ましくは0から8の範囲を表し、さらに好ましくは0から3の範囲を表す。
【0021】
得られる亜鉛錯体は、一つの亜鉛原子に対してリガンドのイミダゾール基の一方の窒素原子が4つ配位し、且つ、カルボキシレート基OCOR1a、又はOCOR1bが、トランス型または、シス型に二つ配子したオクタヘドラル構造を呈し、一次元または二次元方向に連続的に結合が伸びた無限鎖上の結晶であることがX線単結晶構造解析により確認されている。
注目すべきことは、原料である亜鉛カルボキシレート化合物の亜鉛原子に対してリガンドを2モル当量反応させるとオクタヘドラル構造の錯体が得られる。しかし、亜鉛カルボキシレート化合物の亜鉛原子に対して1当量にするとテトラヘドラル構造を呈する亜鉛錯体が得られ、テトラヘドラル構造を呈する亜鉛錯体は触媒活性が無いことである。
【0022】
本発明の亜鉛錯体製造に用いられる溶媒としては、本発明の亜鉛錯体形成に影響しない溶媒であれば、使用可能である。亜鉛カルボキシレート化合物とリガンドが溶解できる溶媒であれば使用可能である。例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどが使用することが出来る。好ましくは、トルエン、キシレン、THFなどの溶媒が挙げられるが、THFがより好ましい。また、無溶媒での反応でも反応を行うことができる。
反応温度は、亜鉛カルボキシレート化合物とリガンドが溶解できる温度以上であることが好ましく、30℃から250℃、より好ましくは30℃から150℃である。
反応時間は、特に限定されないが、通常約1〜45時間、好ましくは2〜24時間程度で行うことができる。
多くの場合、反応中に得られた亜鉛錯体は、溶媒に不溶となり沈殿するために反応終了後は、ろ過等で得ることができる。反応溶液中に溶解している場合などは、溶媒留去を行い乾燥して取り出しても良い。
上記条件で得られた本発明の一般式(I)で示される亜鉛錯体は、空気中で安定であり、特開2009‐185033号公報、再公表2009‐047905号公報、及び特開2011‐079810号公報に記載の、吸湿性が高く空気中で不安定なトリフルオロ酢酸亜鉛四核クラスター錯体より安定である。しかしながら、水分の存在が少ない不活性ガス存在下で取り扱うことが好ましい。不活性ガスとしては、好ましくは窒素又はアルゴン等が挙げられる。
本発明の亜鉛錯体を触媒として使用する場合、適当な溶媒(例えば、THF)の存在下に上記のように予め調製した亜鉛錯体を触媒として反応系に添加しても良く、また反応系に原料である一般式(III)または一般式(IV)で示される亜鉛カルボキシレート化合物と一般式(V)で示される化合物(リガンド)を触媒として添加(in situ法)することで反応を行っても良い。
【0023】
本発明の亜鉛錯体により、アミノ基のような求核性官能基とアルコール性水酸基とが同時に反応系に存在している場合において、選択的なアルコール性水酸基のアシル化または、カーボネート化反応が可能である。
アミノ基のような求核性官能基とアルコール性水酸基とが反応系に同時に存在している場合とは、当該アミノ基とアルコール性水酸基を同一分子内に有する化合物であってもよく、また異なる化合物であってもよい。アミノ基とアルコール性水酸基と同一分子内に有する化合物としては、アミノアルコール類が挙げられる。また、アミノ基を有する化合物とアルコール性水酸基を有する化合物が異なる場合としては、アミン類とアルコール類が同時に反応系に存在している場合が挙げられる。
アミノ基としては、第一級アミノ基又は第二級アミノ基であり、また、アルコール性水酸基としては、第一級水酸基、第二級水酸基、第三級水酸基のいずれであってもよい。アミノアルコール類としては、アミノ基と、アルコール性水酸基を有する化合物であれば特に制限は無く、例えば鎖状、分岐状、環状又は縮合環状の、脂肪族又は芳香族の、アミノアルコール類などが挙げられる。
【0024】
本発明の亜鉛錯体により、炭酸エステルとアルコール性水酸基を有する化合物のカーボネート化反応が可能である。本反応に用いる炭酸エステルとは、炭酸H2CO3 の2つの水素原子のうち、1つ又は2つの水素原子をアルキル基またはアリール基で置換した化合物の総称であるが、取り扱いの点から2つの水素原子が置換されたものが好ましい。炭酸エステルとしては、ジアルキルカーボネート又はジアリールカーボネートが用いられる。好ましい具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネートが用いられる。この中でも、炭酸ジメチルが好ましい。
アルコール性水酸基を有する化合物としては、直鎖または環状の脂肪族炭化水素の一価、二価又は多価水酸基を有する化合物が挙げられる。また、二価以上の水酸基を有する化合物として、例えばジオール化合物と炭酸エステルとを本触媒を用いて反応させることで環状カーボネート化合物を得ることができる。
【0025】
本発明の亜鉛錯体により、エステル基を有する化合物の脱アシル化反応が可能である。本反応に用いるエステル基を有する化合物とは、脂肪族カルボン酸エステル又は芳香族カルボン酸エステル等が挙げられる。該エステルはモノカルボン酸由来でもポリカルボン酸由来のエステル類でも良い。
本反応に用いるエステル基を有する化合物とは、下記のカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、オクチルエステル等のアルキルエステル;フェニルエステル、ビフェニルエステル、ナフチルエステル等のアリールエステル;ベンジルエステル、1−フェネチルエステル等のアラルキルエステル等が挙げられる。好ましくは、下記のカルボン酸のメチルエステルが挙げられる。
脂肪族カルボン酸としては、炭素数2〜30のモノ又はポリカルボン酸が挙げられ、具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、シュウ酸、プロパンジカルボン酸、ブタンジカルボン酸、ヘキサンジカルボン酸、セバシン酸、アクリル酸等が挙げられる。
また、これら脂肪族カルボン酸は置換基で置換されていてもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、シリルオキシ基、水酸基等が挙げられる。
芳香族カルボン酸としては、安息香酸、ナフタレンカルボン酸、ピリジンカルボン酸、キノリンカルボン酸、フランカルボン酸、チオフェンカルボン酸等が挙げられる。
また、これら芳香族カルボン酸は前記したようなアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、水酸基等で置換されていてもよい。
【0026】
本発明の各反応における亜鉛錯体の触媒としての使用量は、特に限定されないが、通常、原料1モルに対して、亜鉛原子が0.001〜0.9モル、より好ましくは0.001〜0.3モル、さらに好ましくは0.001〜0.1モルの割合である。
反応は溶媒中で通常行われ、溶媒の具体例としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン又は塩化ベンゼン等の芳香族系溶媒;ヘキサン、ヘプタン又はオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン又は1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)又はN−メチルピロリドン(NMP)等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。また、液体の基質を用いる場合、亜鉛錯体の基質への溶解性が高い時は、溶媒を使用しなくても良い。
本発明の亜鉛錯体を触媒として用いた種々の反応は、大気下、又は窒素ガス若しくはアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
反応時間は、特に限定されないが、通常約1〜45時間、好ましくは6〜18時間程度で行うことができる。
反応温度は、特に限定されないが、室温〜約180℃、好ましくは50〜150℃、より好ましくは約80〜150℃程度で行われる。これらの条件は使用される原料等の種類及び量により適宜変更されうる。
本発明の亜鉛錯体は、高温の反応中では溶解しているが、反応終了後に室温に冷却すると再び固体として析出する。その為、ろ過によって簡単に回収することができる。回収した亜鉛錯体は、反応前と同じ構造を有し、再利用を繰り返して行っても触媒活性は低下しないことが確認されている。
回収再利用の手段としては、濾過のほかに、低沸点の基質及び目的物の場合には、反応終了後に反応液を直接濃縮することによっても、触媒(亜鉛錯体)を容易に回収し再利用することができる。
このように、本発明の亜鉛錯体からなる触媒は、既報の触媒のように反応進行とともに分解して失活してしまうようなことはなく、きわめて安定であり、さらに高い活性を示す。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、分析機器は以下の通りである。また、全ての実施例の操作はアルゴン雰囲気下で行なった。
NMR:Varian Unity (400 MHz), Bruker Advanced III (500 MHz)
【0028】
(参考例1)ligand(A)の合成
イミダゾール(408.7mg,6.0mmol)のジメトキシエタン(DME)10mL溶液に、水素化ナトリウム(鉱油中60%,309.3mg,7.73mmol)を0℃で徐々に加えた。続いて、ジクロロ−m−キシレン(4.87mmol)を加えた後、室温で15時間撹拌を行なった。20%水酸化ナトリウム水溶液を加えた後、酢酸エチルで抽出を行い、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去後、得られた粗生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH=20/1)で精製することにより目的物を無色固体として98%の収率で得た。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.53 (s, 2H, NCHN), 7.35 (t, J = 2.5 Hz, 1H, Ar), 7.10 (s,2H, Ar), 7.09 (s, 2H, CH2NCHCH), 6.92 (s, 1H, Ar), 6.88 (s, 2H, CH2NCHCH), 5.10 (s,4H, NCH2)
【0029】
(参考例2)ligand(B)の合成
(a)(5−(tert−ブチル)−1,3−フェニレン)ジメタノールの合成
テトラヒドロフラン(THF)(50mL)中に、5−tert−ブチルイソフタル酸(2.22g,10.0mmol)及び水素化ホウ素ナトリウム(1.17g,30.9mmol)を加え、この懸濁液に0℃でBF3・OEt2(3.70mL,30.0mmol)を徐々に加えた後、室温で23時間撹拌した。水を加えて反応をクエンチした後、酢酸エチルで抽出を行い、得られた有機層を1M塩酸水、飽和重曹水の順で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去後、得られた粗生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH=30/1〜20/1)で精製することにより目的物を無色固体として95%の収率で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.33 (s, 2H, Ar), 7.20 (s, 1H, Ar), 4.70 (s, 4H, CH2), 1.33 (s, 9H, CH3)
(b)1−(tert−ブチル)−3,5−ビス(クロロメチル)ベンゼンの合成
ジクロロメタン(15mL)中に、上記(a)で得られた(5−(tert−ブチル)−1,3−フェニレン)ジメタノール(5.0mmol)及びトリエチルアミン(15.0mmol)を加え、この溶液に−15℃で塩化メタンスルホニル(14.9mmol)を徐々に加え40分間撹拌した後、50℃で14時間撹拌した。反応液を1M塩酸水、飽和重曹水、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去後、得られた粗生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/AcOEt=30/1)で精製することにより目的物を無色固体として84%の収率で得た。
1H NMR (400 MHz,CDCl3) 7.35 (s, 2H, Ar), 7.25 (s, 1H, Ar), 4.58 (s, 4H, CH2), 1.33 (s, 9H, CH3)
(c)ligand(B)の合成
上記(b)で得られた1−(tert−ブチル)−3,5−ビス(クロロメチル)ベンゼン及びイミダゾールを用いて、参考例1と同様の方法により目的物を無色固体として91%の収率で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.52 (s, 2H, NCHN), 7.10 (d, J = 6.4 Hz, 2H, Ar),
7.10 (d, J = 6.4 Hz, 2H, CH2NCHCH), 6.88 (s, 2H, CH2NCHCH), 6.70 (s, 1H, Ar), 5.08 (s, 4H, CH2)
【0030】
(実施例1)亜鉛錯体の製造
下記の反応式に示すように亜鉛四核クラスター錯体Zn4(OCOCF36Oに所定量のリガンドA及びBを反応させて、本発明の亜鉛錯体を調製した。
得られた各亜鉛錯体についてX線単結晶構造解析を行った。解析データを表1に示す。
【0031】
表1
【0032】
また、得られたX線単結晶構造の結果を図1図3に示す。
X線単結晶構造解析から、本発明の亜鉛錯体A及び亜鉛錯体Cは、一つの亜鉛原子に対して、イミダゾール基の一方の窒素原子が四つ配位し、且つ、原子団CF3COOがトランス型に二つ配位したオクタヘドラル構造を呈している。そして、亜鉛錯体Aは1次元方向に連続的に結合が伸びた無限鎖錯体であり、亜鉛錯体Cは2次元方向に連続的に結合が伸びた無限鎖錯体であることが認められた。これに対して、亜鉛錯体B(対照)は、一つの亜鉛原子に対して、イミダゾール基の一方の窒素原子が二つ配位し、かつ、原子団CF3COO基がトランス型に2つ配位したテトラヘドラル構造を呈する一次元の無限錯体であった。
亜鉛錯体AのMS測定結果を図4に示す。また、亜鉛錯体CのMS測定結果を図5に示す。比率は、亜鉛、トリフルオロ酢酸、イミダゾリル基を有するリガンドの比を示す。
なお、MS測定は以下の機器で行なった。
MS(直接導入 (direct inlet, direct infusion))
亜鉛錯体A:JMS−T100GCV(日本電子)イオン化モード:FD
亜鉛錯体C:LC−MS−IT−TOF(島津製作所) イオン化モード:ESI
【0033】
(実施例2)エステル交換反応
実施例1で調整した亜鉛錯体Aを触媒比5モル%(亜鉛原子モル比率(Zn/基質=Zn/S))として用い、安息香酸メチル(1.0モル当量)とベンジルアルコール(1.2モル当量)によるエステル交換反応を行なった。その結果、92%の収率で安息香酸ベンジルが得られた。
【0034】
(比較例1)亜鉛錯体Bによるエステル交換反応
触媒を実施例1で調整した亜鉛錯体Bに変えて、実施例2と同様に反応を行なった結果、エステル交換反応は進行しなかった。
【0035】
(実施例3)in situ法によるエステル交換反応
実施例2における亜鉛錯体Aの代わりに、触媒として同量のZn4(OCOCF36O及びligand(A)(Zn4(OCOCF36Oに対して8当量)を加えて、同様に反応を行なった結果、収率91%で安息香酸ベンジルが得られた。
【0036】
(実施例4〜10)エステル交換反応
下記の式に示されるように、Zn4(OCOCF36O(1モル当量)と各種リガンド(8モル当量、亜鉛原子1モル当量に対してリガンド2モル当量)とを触媒として用い、溶媒クロロベンゼン(PhCl)中で安息香酸メチルとシクロヘキサノールとのエステル交換反応系に添加して触媒反応を行った(触媒比 1.25モル%)。
反応結果を下記の表2にまとめて示す。
【0037】
表2
また、リガンドを添加しない場合は収率10%、リガンドとして他の含窒素複素環(N−メチルベンゾイミダゾール)化合物を加えた場合には収率15%となり、本発明に用いられるリガンドと比較して活性が低いことが明らかとなった。
なお、ligand(C)〜(G)は以下のスキームの方法により得た。
【0038】
(ligand(C)の合成)
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.51 (s, 2H, NCHN), 7.35 (m, 5H, Ar), 7.10 (s, 2H,
CH2NCHCH), 6.86 (s, 2H, CH2NCHCH), 6.65 (s, 2H, Ar), 6.52 (s, 1H, CH2CCHCCH2),
5.04 (s, 4H, NCH2), 4.96 (s, 2H, OCH2)
【0039】
(ligand(D)の合成)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.52 (s, 2H, NCHN), 7.10(s, 2H, CH2NCHCH), 6.88 (s, 2H, CH2NCHCH), 6.58 (s, 2H, Ar), 6.50 (s, 1H, Ar), 5.04 (s, 4H, NCH2), 3.84 (t, J = 6.5 Hz, 2H, OCH2), 1.73 (tt, J = 7.5, 6.5 Hz, 2H, OCH2CH2),1.41-1.35 (m, 4H, CH2CH2CH3), 0.92 (t, J = 7.0 Hz, 3H, CH3)
【0040】
(ligand(E)の合成)
1H NMR (400MHz, CDCl3) δ 7.53 (s, 2H, NCHN), 7.23 (s, 2H, CH2NCHCH), 7.12 (s, 2H, CH2NCHCH), 6.87 (s, 2H, Ar), 6.80 (s, 1H, Ar), 5.07 (s, 4H, CH2)
【0041】
(ligand(F)の合成)
1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 7.44 (s, 2H, NCHN), 7.38 (dd, J = 9.0, 2.5 Hz, 2H, Ar), 7.12 (s,2H, CH2NCHCH), 7.09 (dd, J = 9.0, 2.0 Hz, 2H, Ar), 6.79 (s, 2H, CH2NCHCH), 5.03 (s,4H, NCH2)
【0042】
(ligand(G)の合成)
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.45 (s, 2H, NCHN), 7.09 (s, 2H,CH2NCHCH), 6.86 (s, 2H, CH2NCHCH), 3.95 (d, J = 7.6 Hz, 4H, NCH2), 2.11 (m, 2H,CH2CH2CH), 1.65 (m, 2H, CH2CH2CH), 1.47-1.33 (m, 6H, CH2CH2CH);
【0043】
(実施例11〜14)エステル交換反応
下記の式に示されるように、溶媒をトルエンに変えて、Zn4(OCOCF36O(1モル当量)と各種リガンド(8モル当量、亜鉛原子1モル当量に対してリガンド2モル当量)とを触媒として用い、安息香酸メチルとベンジルアルコールとのエステル交換反応系に添加して反応を行った(触媒比 1.25モル%)。
反応結果を下記の表3にまとめて示す。
【0044】
表3
【0045】
実施例14のligand(D)を触媒として用いた場合、反応開始1時間後は均一系であったが、反応終了時に固体が析出した。析出した固体を回収したところ、63%の収率で触媒である本発明の亜鉛錯体Cを回収できた。回収された亜鉛錯体Cを用いて同様にエステル交換反応を行ったところ、同程度の収率(92%)で反応が進行したことから、本発明の触媒はリサイクルを行っても良好な結果が得られると考えられる。
【0046】
(実施例15)エステル交換反応(触媒の回収及びリサイクル使用)
下記のエステル交換反応において、ligand(B)を用いた場合のリサイクル使用を検討した。
反応後(安息香酸ベンジルの収率は全て90%以上)に反応液を室温まで放冷後、溶媒を加えて攪拌し、溶液部分を除去した後、残部を真空乾燥させて亜鉛錯体を回収した。結果を表4に表す。
【0047】
表4
さらに条件検討を行った結果、反応溶媒であるトルエンを先に蒸留によって除去後、ヘキサンを加えることで、ほぼ定量的に錯体を回収できることが明らかとなった。この方法を用いて触媒を回収して、再度反応を行ったところ、反応収率が前回より低下することなく触媒反応が行うことができた。また、5回目の反応終了後には91%の回収率に到った。
【0048】
(実施例16)エステル交換反応
下記の式に示されるように、トリフルオロ酢酸亜鉛水和物1モル当量に対してligand(A)2モル当量をエステル交換反応系に添加して反応を行った。安息香酸メチルに対して亜鉛原子比3mol%でクロロベンゼン中5時間還流した。その結果、94%の転化率であった。
【0049】
(実施例17)エステル交換反応
前記の実施例16と同様に反応を行った。4‐シアノ安息香酸メチルに対して触媒比2mol%でクロロベンゼン中5時間還流した。その結果、原料である4‐シアノ安息香酸メチルが消失し、ほぼ100%の転化率であった。
【0050】
(実施例18)エステル交換反応
下記の式に示されるように、トリフルオロ酢酸亜鉛水和物1モル当量に対してligand(A)2モル当量をエステル交換反応系に添加して触媒反応を行った。4‐ニトロ安息香酸メチルに対して触媒比3.3mol%で塩化ベンゼン中5時間還流した。原料である4‐ニトロ安息香酸メチルが消失し、99.9%の転化率を示した。
【0051】
(実施例19)エステル交換反応
下記の式に示されるように、4‐ニトロ安息香酸メチルまたは4‐シアノ安息香酸メチルとシクロヘキシルメタノールのエステル交換反応(溶媒:クロロベンゼン、還流下5時間)を行った。基質に対して触媒比が2.7mol%において、定量的にエステル化反応が進行した。
【0052】
(実施例20)カーボネート化反応
亜鉛錯体A 触媒比2.5モル%で炭酸ジメチルを溶媒としてシクロヘキシルメタノールとのカーボネート化反応(還流下5時間)を行った。原料であるシクロヘキシルメタノールは、ほぼ消失してカーボネート化反応が定量的に進行した。
リサイクル実験として、触媒をろ過後、再度上記反応を行なった。初回と同様に原料であるシクロヘキシルメタノールは、ほぼ消失してエステル交換反応が定量的に進行した。このことから、本発明の触媒は、繰返し使用することが可能であることを確認した。
【0053】
(実施例21)カーボネート化反応
前記実施例20と同様に亜鉛錯体A及び亜鉛錯体Cに対してそれぞれ触媒比2.5モル%を用いて、炭酸ジメチルを溶媒としてシクロヘキサノールとのカーボネート化反応(還流下、5時間)を行った。転化率はそれぞれ、97%及び91%であった。
【0054】
(実施例22)アセチル化反応
ligand(B)及びZn4(OCOCF36Oを触媒として用い、酢酸エチルによるn−ブタノールのアセチル化を行なった。n-ブタノールを酢酸エチル溶媒中で18時間還流したところ、99%の収率で目的物が得られた。
【0055】
(実施例23)水酸基選択的アシル化反応(アルコールとアミン存在下でのエステル交換反応
亜鉛錯体C 5モル%を用い、シクロヘキシルアミンとシクロヘキサノールとの混合物の安息香酸メチルによるエステル交換反応を、ジイソプロピルエーテル(i−Pr2O)を溶媒として、還流下、46時間行なった。その結果、安息香酸シクロヘキシルが67%の収率で得られ、シクロヘキシルベンズアミドは全く生成しなかった。アミノ化合物存在下におけるアルコール化合物選択的アシル化反応にも適用できることが示された。
【0056】
(実施例24)水酸基選択的アシル化反応(アミノアルコールのエステル交換反応)
安息香酸メチルとトランス−4−アミノシクロヘキサノールについて亜鉛錯体A 2.5モル%でエステル交換反応(溶媒:クロロベンゼン(PhCl)、還流下5時間)を行った。転化率75.9%であり、水酸基と安息香酸メチルが反応した化合物とアミノ基と安息香酸メチルが反応した化合物との比(選択率)は、84:16であった。アミノ基存在下における水酸基選択的アシル化反応について適用できることが示された。
【0057】
(実施例25)水酸基選択的カーボネート化反応(アルコールとアミン存在下でのカーボネート化)
炭酸ジメチルを溶媒としてシクロヘキサノールとシクロへキシルアミンのカーボネート化を、亜鉛錯体A 5.0モル%を触媒として用い、3.5時間還流を行なった。カーボネート化合物の収率は95%でカルバメート化合物の収率は5%であった。アミノ化合物存在下におけるアルコール化合物選択的カーボネート化反応にも適用できることが示された。
生成物の確認は、別途、シクロヘキサノール及びシクロヘキシルアミンをクロロギ酸メチルでエステル化及びウレタン化した化合物を調製し、本実施例の生成物とガスクロマトグラフィー(GC)による分析により比率確認を行なった。
【0058】
(実施例26)水酸基選択的カーボネート化反応(アミノアルコールのカーボネート化)
炭酸ジメチルとトランス−4−アミノシクロヘキサノールとを、亜鉛錯体A 2.5モル%を触媒として用いカーボネート化反応(還流下、5時間)を行った。トランス−4−アミノシクロヘキサノールの転化率は86%であり、O−選択率が91%、N−選択率が4%及びO,N−選択率が5%であった。これよりアミノ基存在下における水酸基選択的カーボネート化反応について適用できることが示された。生成物の確認は、別途、トランス−4−アミノシクロヘキサノールをクロロギ酸メチルでエステル化及びウレタン化した化合物を調製し、本実施例の生成物とガスクロマトグラフィー(GC)による分析により比率確認を行なった。
【0059】
(実施例27)カルバメートのエステル交換反応
N−フェニルカルバメートとシクロヘキシルメタノールとを用いて、トリフルオロ酢酸亜鉛水和物1モル当量に対してligand(A)2モル当量を加え、触媒比1.5モル%、クロロベンゼン溶媒中でエステル交換反応を5時間行った。その結果、転化率92%であった。
【0060】
(実施例28)エステル交換反応
安息香酸メチルとL−メントールとを用い、亜鉛錯体A及び亜鉛錯体Cを触媒としてエステル交換反応(溶媒:クロロベンゼン(PhCl)、5時間還流)を行った結果、それぞれ34%及び46%の転化率で得られた。
【0061】
(実施例29)エステル交換反応
安息香酸メチル1当量と(+)−メントール1.2当量を用い、Zn4(OCOCF36Oとリガンドを加えて触媒としてエステル交換反応(溶媒:トルエン、5時間還流)を行った結果を表5に示す。リガンドを加えない場合、反応しなかった(比較例6)。
【0062】
【0063】
表5
【0064】
ligand(H)、(I)及び(J)はligand(E)を原料として合成した。
ligand(H):1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.53 (s, 2H, NCHN), 7.10 (s, 2H, CH2NCHCH), 6.92 (s, 2H, Ar), 6.88 (s, 2H, CH2NCHCH), 6.72 (s, 1H, Ar), 5.07 (s, 4H, CH2), 2.47-2.42 (m, 1H, CH), 1.83-1.71 (m, 6H, cyclohexyl), 1.40-1.20 (m, 4H, cyclohexyl); 13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ150.1, 137.5, 137.1, 130.0, 125.6, 123.4, 119.2, 50.6, 44.3, 34.3, 26.7, 25.9.
【0065】
ligand(I):1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.53 (s, 2H, NCHN), 7.10 (s, 2H, CH2NCHCH), 6.95 (s, 2H, Ar), 6.88 (s, 2H, CH2NCHCH), 6.72 (s, 1H, Ar), 5.07 (s, 4H, CH2), 2.85 (qq, J = 7 Hz, 1H, CH), 1.19 (d, J = 7 Hz, 6H, CH3); 13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 150.9, 137.4, 137.2, 130.0, 125.3, 123.5, 119.3, 50.6, 34.0, 23.8.
【0066】
ligand(J):1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.53 (s, 2H, NCHN), 7.10 (s, 2H, CH2NCHCH), 6.90 (s, 2H, Ar), 6.88 (s, 2H, CH2NCHCH), 6.74 (s, 1H, Ar), 5.06 (s, 4H, CH2), 2.52 (t, J = 7.5 Hz, 2H, CH2), 1.56 (tq, J = 7.5, 7.0 Hz, 2H, CH2CH3), 0.90 (t, J = 7.0 Hz, 3H); 13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 144.7, 137.4, 137.1, 130.0, 127.2, 123.4, 119.3, 50.5, 37.7, 24.4, 13.7.
【0067】
(実施例30)カーボネート化反応
L−メントール及びD−メントールを炭酸ジメチル溶媒で亜鉛錯体A 触媒比5.0モル%でカーボネート化反応(9時間還流)を行ったところ、原料であるメントールが消失した。ヘキサンを加えて亜鉛触媒を沈殿させ、濾過した。溶媒留去したところ、定量的に目的物が得られた。
光学純度もGC測定によって確認した結果、反応前の光学純度を保持していることを確認した。
【0068】
(実施例31)環状カーボネート化反応
1,2−ブタンジオールを炭酸ジメチル溶媒中、亜鉛触媒A(触媒比2モル%)を用い、5時間還流を行なった。1,2−ブタンジオールの4−エチル−1,3−ジオキソラン−2−オンへの転化率は94%であった。また、トリフルオロ酢酸亜鉛水和物(触媒比2モル%)及びリガンド(A)(触媒比4モル%)を加えて同様に反応させたところ、9時間後に原料の1,2-ブタンジオールが消失して、亜鉛触媒Aを用いたときと同様に環状カーボネートを得ることができた。

【0069】
(比較例7)環状カーボネート化反応
実施例30において、亜鉛触媒Aの代わりにZn4(OCOCF36Oを触媒として触媒比2モル%用いて、5時間還流し同様に反応を行なったところ、1,2−ブタンジオールの転化率は53%であり、9時間還流しても原料の1,2−ブタンジオールが消失することなく、反応が完結しなかった。
【0070】
(実施例32)エステル交換反応
アセト酢酸メチルと1−アダマンタノールとを、亜鉛錯体C(触媒比2.8モル%)を触媒として用いエステル交換反応(溶媒:クロロベンゼン(PhCl)、還流下5時間)を行った結果、46%の転化率でエステル交換物が得られた。
【0071】
(実施例33〜44)エステル交換反応
種々のエステル化合物及びアルコール化合物を用いて、本発明の方法によるエステル交換反応を行なった結果を以下に示す。
【0072】
【0073】
(実施例45)脱アシル化反応
酢酸ベンジルをメタノール溶媒中で亜鉛錯体Cを用いて脱アセチル化反応を行った。触媒量は、亜鉛原子の酢酸ベンジルに対するモル比で5モル%用いて。反応収率は93%であった。
図1
図2
図3
図4
図5