特許第6484877号(P6484877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484877
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】香料組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 49/11 20060101AFI20190311BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20190311BHJP
   C11D 3/50 20060101ALI20190311BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20190311BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   C07C49/11CSP
   C11B9/00 M
   C11D3/50
   A61K8/35
   A61Q13/00 101
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-535543(P2015-535543)
(86)(22)【出願日】2014年9月8日
(86)【国際出願番号】JP2014073670
(87)【国際公開番号】WO2015034084
(87)【国際公開日】20150312
【審査請求日】2017年8月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-185114(P2013-185114)
(32)【優先日】2013年9月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000169466
【氏名又は名称】高砂香料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】北條 一馬
【審査官】 岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−147448(JP,A)
【文献】 特開2013−256470(JP,A)
【文献】 特表2010−511677(JP,A)
【文献】 特表2010−508310(JP,A)
【文献】 国際公開第2001/085883(WO,A1)
【文献】 Zhang, Linhua,Factors influencing the quality of synthetic sandalwood 3-methyl-5-(2,2,3-trimethylcyclopent-3-e,化学通報(Huaxue Tongbao),1988年,10,P39-40,ISSN: 0441-3776
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表される化合物を含む組成物であって、組成物中に存在する前記化合物について1’位の光学活性がR体のものが過剰である、組成物
(式(A)中、R1及びR2は、一方がメチル基を表し、他方はエチル基を表すか、又はR1とR2が共にメチル基を表す。)
【請求項2】
1’位の立体の光学純度が20%e.e.〜99%e.e.の範囲であり、R1及びR2がメチル基である、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
R1及びR2の一方がメチル基であり、他方がエチル基である請求項1に記載の組成物
【請求項4】
(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノン。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物又は(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンを含有することを特徴とする香料組成物。
【請求項6】
式(A)の化合物又は(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンを0.01〜60重量%含有することを特徴とする請求項に記載の香料組成物。
【請求項7】
化合物の化学純度が80%以上であることを特徴とする請求項5又は6に記載の香料組成物。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の香料組成物によって香気付けした製品。
【請求項9】
製品がフレグランス製品、香粧品、基礎化粧品、仕上げ化粧品、頭髪化粧品、日焼け化粧品、薬用化粧品、ヘアケア製品、石鹸、身体洗浄剤、浴用剤、衣料用洗剤、衣料用柔軟仕上げ剤、洗浄剤、台所用洗剤、漂白剤、エアゾール剤、消臭・芳香剤、忌避剤又は雑貨から選ばれる1種である請求項8に記載の香気付けした製品。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物又は(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンを添加することを特徴とする香料組成物の香気を増強又は変調する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性なケトン化合物及びその化合物を有効成分として含有する香料組成物、香粧品類等の製品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の人々の生活の中で好ましい香りを有する様々な製品が販売されているが、さらに多様化した付香製品の要望があり、嗜好性が高い香りの提供が求められている。例えばシクロペンタン環を有する化合物は、サンダルウッド系香気やウッディーアンバー系香気を有することが一般的に知られており、多数の化合物が開発されている。
【0003】
例えば、化学通報1988年第10期39ページには、3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)ペンタノールが強いビャクダン様香気を有することが記載されている。
【発明の概要】
【0004】
化学通報1988年第10期39ページには、上記化合物のケトン体等、3つの周辺化合物の香気について記載されているが、いずれも香気的に不快、非常に弱いなどの評価がされており、香気的な評価は高くない。またこれら各化合物はラセミ体であり、各化合物の立体異性体及びその香気については全く記載されていない。
【0005】
本発明者らは、香気的に非常に弱いと記載されている3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノン及びその類似体の立体異性体の香気について検討を行った結果、1’R体としての光学活性体が拡散性のある心地よい強いムスク香気を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、以下の(1)〜(12)の各発明を包含する。
(1)下記一般式(A)で表される化合物。
(式(A)中、1’位は光学活性であり、R1及びR2は、一方がメチル基を表し、他方はエチル基を表すか、又はR1とR2が共にメチル基を表す。)
(2)1’位の立体の光学純度が20%e.e.〜99%e.e.の範囲であり、R1及びR2がメチル基である、前記1に記載の化合物。
(3)R1及びR2の一方がメチル基であり、他方がエチル基である前記1に記載の化合物。
(4)式(A)の1’位の光学活性に関してR体が過剰である、前記1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
(5)1’位の立体の光学純度が20%e.e.〜99%e.e.の範囲である光学活性な(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノン。
(6)(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノン。
(7)前記1〜6のいずれか1項に記載の化合物を含有することを特徴
(8)前記1〜6のいずれか1項に記載の化合物を0.01〜60重量%含有することを特徴とする前記6に記載の香料組成物。
(9)化合物の化学純度が80%以上であることを特徴とする前記7又は8に記載の香料組成物。
(10)前記7〜9のいずれか1項に記載の香料組成物によって香気付けした製品。
(11)製品がフレグランス製品、香粧品、基礎化粧品、仕上げ化粧品、頭髪化粧品、日焼け化粧品、薬用化粧品、ヘアケア製品、石鹸、身体洗浄剤、浴用剤、衣料用洗剤、衣料用柔軟仕上げ剤、洗浄剤、台所用洗剤、漂白剤、エアゾール剤、消臭・芳香剤、忌避剤又は雑貨から選ばれる1種である前記10に記載の香気付けした製品。
(12)前記1〜6に記載の化合物を添加することを特徴とする香料組成物の香気を増強又は変調する方法。
【0007】
式(A)の1’位の光学活性に関してR体が過剰である本発明の化合物、特に、1’位の立体の光学純度が20%e.e.〜99%e.e.の範囲である光学活性な(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンを添加することにより、拡散性のある特有な香気・香料組成物が得られる。この組成物は、香料あるいは香粧品類、保険衛生材料等の香気付組成物として広い範囲に用いられる。
また、S体が過剰である本発明の化合物は、対応するR体の化合物と混合して所望の光学純度とし、それにより優れた香気・香料組成物を得るために使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、下記一般式(A)で表される化合物である。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(A)中、1’位は光学活性であり、R1及びR2は、一方がメチル基を表し、他方はエチル基を表すか、又はR1とR2が共にメチル基を表す。)
上記式(A)において、1’位の立体の光学純度が20%e.e.〜99%e.e.の範囲であることが好ましく、また、1’位の光学活性に関してR体が過剰であることが好ましい。
【0011】
本発明の好ましい式(A)の化合物としては、例えば下記の化合物が挙げられる:
(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノン、
(1’S)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノン、
(1’R)−3−エチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノン、
(1’S)−3−エチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノン、
(1’R)−4−メチル−6−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−3−ヘキサノン。
(1’S)−4−メチル−6−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−3−ヘキサノン。
【0012】
本発明の化合物は、好ましくは、1’位の立体の光学純度が20%e.e.〜99%e.e.の範囲である光学活性な(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノン(下記化合物(1))である。この化合物を例として、本発明をさらに詳細に説明する。
【0013】
【化2】
【0014】
上記の化合物(1)において1’位の立体の光学純度が20%e.e.〜99%e.e.の化合物は拡散性のあるムスク様の香気を示す。さらに好ましくは1’位の立体の光学純度が60%e.e.〜99%e.e.の範囲である。1’位の立体の光学純度が、この範囲から外れた化合物は、匂い的に劣り香気的にも充分とは言えない。光学純度は、例えばNMR及び/又はキラルカラムを用いた各種クロマトグラフィーにより測定することができる。
また、上記の化合物(1)の化学純度は80%以上であればよく、好ましくは90%以上である。
【0015】
本発明で用いられる上記化合物(1)は、化学的合成方法により得たものを利用することができる。例えば以下に示す方法(スキーム1)により合成されるが、その合成法は以下の方法に限定されるものではない。
(スキーム1)
【0016】
【化3】
【0017】
すなわち、(R)又は(S)−2−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテニル)アセトアルデヒドに塩基存在下で2−ブタノンを反応させて不飽和ケトンを得、続いてPd/Cのような触媒を用いて炭素−炭素二重結合の水素化を行うことにより光学活性な(1’R)又は(1’S)の3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンを得ることができる。このようにして得られた両異性体を混合することにより本発明の(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンの1’位の立体の光学純度が特定範囲のものを得ることができる。
【0018】
または、出発物質の2−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)アセトアルデヒドにおいて、対応する箇所の光学純度が既に本発明の(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンの1’位の立体の光学純度の特定範囲内になっている場合は、混合作業を行なうことなく、本発明の(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンの1’位の立体の光学純度が特定範囲のものを得ることができる。
【0019】
本発明の他の化合物についても、上記の同様に(R)又は(S)−2−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテニル)アセトアルデヒドに対して所定のケトンを反応させることにより得ることができる。
【0020】
本発明の化合物を有効成分として使用し、香料組成物を得ることができる。本発明の化合物、例えば、光学活性な(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンの1’位の立体の光学純度が特定範囲のものの香料組成物への配合量は、特に限定されないが、香料組成物に対して0.01〜60重量%、特に0.1〜40重量%であることが好ましい。
【0021】
また、通常使用される他の香料保留剤の1種又は2種以上を配合しても良く、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシレングリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド等と併用することも可能である。
【0022】
本発明の香料組成物には、通常使用される調合香料を配合することができる。この様にして得られる香料組成物は、新鮮で嗜好性の高い香気付与を提供できる。また、本発明の香料組成物を香気成分として、例えば、フレグランス製品、香粧品、基礎化粧品、仕上げ化粧品、頭髪化粧品、日焼け化粧品、薬用化粧品、ヘアケア製品、石鹸、身体洗浄剤、浴用剤、衣料用洗剤、衣料用柔軟仕上げ剤、洗浄剤、台所用洗剤、漂白剤、エアゾール剤、消臭・芳香剤、忌避剤、雑貨に、この業界で通常配合されている量を配合して、そのユニークな香気を付与でき、商品価値を高めることができる。
【0023】
例えば、フレグランス製品としては、香水、オードパルファム、オードトワレ、オーデコロン、など;基礎化粧品としては、洗顔クリーム、バニシングクリーム、クレンジングクリーム、コールドクリーム、マッサージクリーム、乳液、化粧水、美容液、パック、メイク落とし、など;仕上げ化粧品としては、ファンデーション、口紅、リップクリーム、など;頭髪化粧品としては、ヘアートニック、ヘアーリキッド、ヘアースプレー、など;日焼け化粧品としては、サンタン製品、サンスクリーン製品、など;薬用化粧品としては、制汗剤、アフターシェービングローション及びジェル、パーマネントウェーブ剤、薬用石鹸、薬用シャンプー、薬用皮膚化粧料、などを挙げることができる。
【0024】
ヘアケア製品としては、シャンプー、リンス、リンスインシャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアパック、など;石鹸としては、化粧石鹸、浴用石鹸、など;身体洗浄剤としては、ボディソープ、ボディシャンプー、ハンドソープ、など;浴用剤としては、入浴剤(バスソルト、バスタブレット、バスリキッド、等)、フォームバス(バブルバス、等)、バスオイル(バスパフューム、バスカプセル、等)、ミルクバス、バスジェリー、バスキューブ、などを挙げることができる。
【0025】
洗剤としては、衣料用重質洗剤、衣料用軽質洗剤、液体洗剤、洗濯石鹸、コンパクト洗剤、粉石鹸、など;柔軟仕上げ剤としては、ソフナー、ファーニチアケアー、など;洗浄剤としては、クレンザー、ハウスクリーナー、トイレ洗浄剤、浴室用洗浄剤、ガラスクリーナー、カビ取り剤、排水管用洗浄剤、など;台所用洗剤としては、台所用石鹸、台所用合成石鹸、食器用洗剤、など;漂白剤としては、酸化型漂白剤(塩素系漂白剤、酸素系漂白剤、等)、還元型漂白剤(硫黄系漂白剤、等)、光学的漂白剤、など;エアゾール剤としては、スプレータイプ、パウダースプレー、など;消臭・芳香剤としては、固形状タイプ、ゲル状タイプ、リキッドタイプ、など;雑貨としては、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、などの種々の形態を挙げることができる。
【0026】
本発明の香料組成物を、前記製品に使用する場合、このままの状態、或いはこれらを、例えば、アルコール類、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類に溶解した液体状態;界面活性剤、例えば、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤などを用いて可溶化或いは分散化した可溶化状態或いは分散化状態;又はカプセル化剤で処理して得られるマイクロカプセル状態など;その目的に応じて任意の形状を選択して用いられている。
【0027】
さらに、サイクロデキストリンなどの包接剤に包接して、上記香料組成物を安定化且つ徐放性にして用いることもある。これらは、最終製品の形態、例えば、液体状、固体状、粉末状、ゲル状、ミスト状、エアゾール状などに適したもので適宜に選択して用いられる。
【0028】
なお、最終製品であるフレグランス製品、香粧品、基礎化粧品、仕上げ化粧品、頭髪化粧品、日焼け化粧品、薬用化粧品、ヘアケア製品、石鹸、身体洗浄剤、浴用剤、洗剤、柔軟仕上げ剤、洗浄剤、台所用洗剤、漂白剤、エアゾール剤、消臭・芳香剤、忌避剤、雑貨、等への本発明の光学活性な(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)ペンタン−2−オンの1’位の立体の光学純度が特定範囲のものの添加量は、それぞれの場合において期待される効果・作用に応じて任意に加減される。
【実施例】
【0029】
以下に実施例等を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、本実施例中での各種測定は、次の機器装置類を用いて行った。
NMR測定装置(1H−NMR、13C−NMR):AVANCEIII 500型(500MHz;ブルカーバイオスピン社製)
内部標準物質:CDCl3
ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS):GCMS−QP2010Ultra(島津製作所社製)
使用カラム:BC−WAX(長さ50m×内径0.25mm、液相膜厚0.15μm、ジーエルサイエンス社製)
ガスクロマトグラフィー(GC、化学純度):GC−4000(ジーエルサイエンス社製)
使用カラム:InertCap 1(長さ30m×内径0.25mm、液相膜厚0.25μm、ジーエルサイエンス社製)
ガスクロマトグラフィー(GC、光学純度及び異性体比率):GC−2010(島津製作所社製)
使用カラム:β−DEX325(長さ30m×内径0.25mm、液相膜厚0.25μm、SUPELCO社製)
旋光度計:P−1020(日本分光社製)
赤外吸収スペクトル測定装置:NICOLET iS10(Thermo Scientific社製)
【0030】
(実施例1)
(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンの合成
【0031】
【化4】
【0032】
窒素気流下、メタノール(37ml)、水酸化ナトリウム(1.9g、0.048mol)及び水(4.0ml)の混合溶液を氷冷下で撹拌した。そこへ、2−ブタノン(17.3g、0.24mol)をゆっくりと滴下し、15分間撹拌した。その後、(R)−2−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)アセトアルデヒド(82%e.e.、18.3g、0.12mol)を0〜10℃を保つように1時間かけてゆっくりと滴下した。0〜10℃を保ちながら20時間撹拌を続けた後、40℃に加熱し、さらに3時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、減圧下、メタノールおよび残存した2−ブタノンを回収した。水を加えた後、トルエンで抽出し、得られた有機層を10%食塩水及び水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=19/1)で精製することにより、(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−3−ペンテン−2−オン(15.2g、0.074mol、純度85.4%)を淡黄色油状物質として得た。収率52%。
【0033】
次に、100mlオートクレーブに(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−3−ペンテン−2−オン(12.5g、0.061mol、純度85.4%)、5%Pd/C(0.13g)を入れ、水素圧2.5MPa、80℃で2時間反応させた。室温まで冷却した後、触媒をろ過し、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=19/1)で精製することにより、(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノン(9.7g、0.046mol)を無色油状物質として得た。収率89%。光学純度は82%e.e.であった。
【0034】
GC/MS(m/e):210(M+,5%),192(3),167(2),153(3),138(5),123(7),109(7),85(10),72(100),69(25),43(20),41(10);
1H NMR(CDCl3,500MHz)δ 0.48(d,3H,J=5.4Hz),0.82(dd,3H,J=6.8,1.2Hz),0.84(s,3H),0.92−1.02(m,1H),1.08(t,3H,J=7.0Hz),1.12−1.17(m,1H),1.18−1.27(m,1H),1.29−1.33(m,1H),1.34−1.43(m,1H),1.49−1.51(m,1H),1.52−1.58(m,1H),1.66−1.76(m,2H),1.77−1.85(m,1H),2.13(d,3H,J=3.8Hz),2.50(m,1H);
13C NMR(CDCl3,500MHz)δ 212.86,212.82,50.98,50.73,47.63,47.42,45.17,42.26,32.36,32.02,30.06,28.17,28.13,27.91,27.88,27.86,25.61,25.60,16.44,15.88,14.32,13.79;
比旋光度 [α]20 +24.7(neat);
IR(ATR,ダイヤモンドセル使用,cm-1):2953,2868,1715,1458,1386,1365,1162.
香気:強いムスク,透明感があり温かみのある香気.
【0035】
(実施例2)
(1’S)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンの合成
【0036】
【化5】
【0037】
実施例1で用いた(R)−2−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)アセトアルデヒドを(S)−2−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)アセトアルデヒド(55%e.e.)に代えて、実施例1と同様の方法により、(1’S)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンを合成した。光学純度は55%e.e.であった。
【0038】
GC/MS(m/e):210(M+,5%),192(2),167(2),153(3),138(5),123(7),109(7),85(10),72(100),69(25),43(20),41(10);
1H NMR(CDCl3,500MHz)δ 0.48(d,3H,J=5.4Hz),0.82(dd,3H,J=6.8,1.2Hz),0.84(s,3H),0.92−1.02(m,1H),1.08(t,3H,J=7.0Hz),1.12−1.17(m,1H),1.18−1.27(m,1H),1.29−1.33(m,1H),1.34−1.43(m,1H),1.49−1.51(m,1H),1.52−1.58(m,1H),1.66−1.76(m,2H),1.77−1.85(m,1H),2.13(d,3H,J=3.9Hz),2.50(m,1H);
13C NMR(CDCl3,500MHz)δ 212.93,212.89,50.98,50.73,47.65,47.43,45.17,42.27,32.37,32.02,30.06,28.17,28.14,27.91,27.90,27.87,25.62,25.61,16.45,15.88,14.33,13.81;
比旋光度 [α]20 −17.0(neat);
IR(ATR,ダイヤモンドセル使用,cm-1):2950,2867,1713,1458,1364,1162.
香気:ウッディ,フルーティ,微かにメタリック.
【0039】
(実施例3)
(1’R)−3−エチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンの合成
【0040】
【化6】
窒素気流下、メタノール(47.7ml)、96%水酸化カリウム(9.2g、0.16mol)及び水(47.7ml)の混合溶液を氷冷下で撹拌した。そこへ、2−ペンタノン(84.8g、0.98mol)をゆっくりと滴下し、15分間撹拌した。その後、(R)−2−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)アセトアルデヒド(82%e.e.、47.7g、0.31mol)を0〜10℃を保つように30分間かけてゆっくりと滴下した。0〜10℃を保ちながら7.5時間撹拌を続けた後、減圧下、メタノールを回収した。水を加えた後、トルエンで抽出し、得られた有機層を10%食塩水及び水で洗浄後、溶媒を減圧留去することにより、(1’R)−3−エチル−4−ヒドロキシ−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−2−ペンタノンの粗生成物を得た。温度計とDean−Stark管及びジムロートコンデンサーを付した200ml三口フラスコに(1’R)−3−エチル−4−ヒドロキシ−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−2−ペンタノンの粗生成物の全量、硫酸水素ナトリウム一水和物(0.67g、4.9mmol)及びへプタン(34ml)を加え、加熱還流した。脱水により生成してくる水を随時Dean−Stark管より系外へと除去しながら1時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、10%炭酸ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で順次洗浄し、ヘプタンを減圧留去した。得られた粗生成物を減圧蒸留(83.2〜84.2℃/69Pa)することにより、(1’R)−3−エチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−3−ペンテン−2−オン(35.5g、0.16mol、純度65.3%)を淡黄色油状物質として得た。収率34%。
【0041】
次に、100mlオートクレーブに(1’R)−3−エチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−3−ペンテン−2−オン(10.0g、0.045mol、純度65.3%)、5%Pd/C(0.10g)、トルエン(2.0ml)を入れ、水素圧2.5MPa、100℃で1.5時間反応させた。室温まで冷却した後、触媒をろ過し、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=19/1)で精製することにより、(1’R)−3−エチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノン(4.4g、0.020mol)を無色油状物質として得た。収率66%。光学純度は82%e.e.であった。
【0042】
GC/MS(m/e):224(M+,7%),206(3),191(6),177(3),153(4),138(4),123(7),99(12),86(100),71(30),69(40),43(60),41(35);
1H NMR(CDCl3,500MHz)δ 0.47(d,3H,J=5.7Hz),0.82(d,3H,J=6.8Hz),0.84(s,3H),0.84−0.88(m,3H),0.90−1.01(m,1H),1.06−1.21(m,2H),1.27−1.37(m,3H),1.43−1.54(m,3H),1.56−1.65(m,1H),1.69−1.83(m,2H),2.11(d,3H,J=4.9Hz),2.33−2.40(m,1H);
13C NMR(CDCl3,500MHz)δ 213.10,213.02,55.21,50.99,50.90,45.18,42.29,42.26,30.61,30.47,30.07,28.67,28.57,28.23,28.22,28.19,28.11,25.62,24.83,24.30,14.34,13.82,11.83,11.73;
比旋光度 [α]20 +22.7(neat);
IR(ATR,ダイヤモンドセル使用,cm-1):2951,2867,1712,1457,1365,1351,1160.
香気:ムスク,パウダリー,ミルキーで甘さのある香気.
【0043】
(実施例4)
(1’R)−4−メチル−6−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−3−ヘキサノンの合成
【0044】
【化7】
【0045】
窒素気流下、メタノール(128ml)、96%水酸化カリウム(8.9g、0.15mol)及び水(85.0ml)の混合溶液を氷冷下で撹拌した。そこへ、3−ペンタノン(71.2g、0.83mol)をゆっくりと滴下し、15分間撹拌した。その後、(R)−2−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)アセトアルデヒド(82%e.e.、42.5g、0.28mol)を0〜10℃を保つように30分間かけてゆっくりと滴下した。0〜10℃を保ちながら16時間撹拌した後、減圧下、メタノールを回収した。水を加えた後、酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を10%食塩水及び水で洗浄後、溶媒を減圧留去することにより、(1’R)−5−ヒドロキシ−4−メチル−6−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−3−ヘキサノンの粗生成物を得た。温度計とDean−Stark管及びジムロートコンデンサーを付した300ml三口フラスコに(1’R)−5−ヒドロキシ−4−メチル−6−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−3−ヘキサノンの粗生成物の全量、硫酸水素カリウム(1.9g、0.014mol)及びトルエン(195ml)を加え、加熱還流した。脱水により生成してくる水を随時Dean−Stark管より系外へと除去しながら6時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、10%炭酸ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で順次洗浄し、トルエンを減圧留去した。得られた粗生成物を減圧蒸留(73.5〜76.5℃/17Pa)することにより、(1’R)−4−メチル−6−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−4−ヘキセン−3−オン(36.0g、0.16mol、純度92.2%)を淡黄色油状物質として得た。収率54%。
【0046】
次に、100mlオートクレーブに(1’R)−4−メチル−6−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−4−ヘキセン−3−オン(18.0g、0.082mol、純度92.2%)、5%Pd/C(0.18g)を入れ、水素圧2.5MPa、100℃で4時間反応させた。室温まで冷却した後、触媒をろ過し、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=19/1)で精製することにより、(1’R)−4−メチル−6−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−3−ヘキサノン(14.8g、0.066mol)を無色油状物質として得た。収率88%。光学純度は82%e.e.であった。
【0047】
GC/MS(m/e):224(M+,2%),223(7%),206(2),191(3),177(7),167(1),137(4),123(4),99(12),86(100),83(12),57(45),55(20),41(25);
1H NMR(CDCl3,500MHz)δ 0.48(d,3H,J=6.5Hz),0.82(dd,3H,J=6.9,1.4Hz),0.84(s,3H),0.88−1.02(m,1H),1.05(dd,3H,J=7.3,1.2Hz),1.07(t,3H,J=6.5Hz),1.10−1.25(m,3H),1.27−1.41(m,2H),1.43−1.57(m,2H),1.66−1.85(m,2H),2.41−2.48(m,2H),2.49−2.55(m,1H);
13C NMR(CDCl3,500MHz)δ 215.55,215.53,51.01,50.75,46.55,46.40,45.20,42.28,34.19,34.09,32.55,32.25,30.08,28.24,28.18,28.16,28.04,25.65,25.63,16.77,16.18,14.35,13.83,7.85,7.80;
IR(ATR,ダイヤモンドセル使用,cm-1):2937,2868,1713,1459,1376,1365,1104,973.
香気:パウダリー,ムスク,ウッディ、シトラス.
【0048】
(実施例5:香気質の評価)
実施例1で合成した化合物に関して、それぞれ官能評価を行った。5年以上経験した10人の専門パネリストにより、香気の質の検討を行った。結果を下記表1に示す。この化合物は拡散性に優れ、透明感のある強いムスク香気を有しており、有用な化合物であることが示された。
【0049】
【表1】
【0050】
(実施例6:香料組成物)
下記表2の処方に従い、上記実施例1で合成した化合物を用いて香水用香料組成物を調製した。
【0051】
【表2】
【0052】
官能評価は5年以上経験した4人の専門パネリストが行い、実施例1の化合物を含有するフルーティ−フローラル調香料組成物は、明るくやわらかい香気がよく拡がり、嗜好性が高く、香質に優れていると4人全員が判断した。
【0053】
(実施例7:液体洗剤)
下記表3の処方に従い、上記実施例6の香料組成物を0.5%賦香した液体洗剤(100g)を作製した。このものの官能評価は、5年以上経験した4人の専門パネリストが行い、明るく温かみのあるフルーティ−フローラル調がはっきりと認識でき、嗜好性が高く、香質に優れていると4人全員が判断した。
【0054】
【表3】
【0055】
(実施例8:シャンプー)
下記表4の処方に従い、上記実施例6の香料組成物を1.0%賦香したシャンプー(100g)を作製した。このものの官能評価は、5年以上経験した4人の専門パネリストが行い、嗜好性が高く、香質に優れていると4人全員が判断した。
【0056】
【表4】
【0057】
(実施例9:ボディシャンプー)
下記表5の処方に従い、上記実施例6の香料組成物を0.95%賦香したボディーシャンプー(100g)を作製した。このものの官能評価は、5年以上経験した4人の専門パネリストが行い、明るいフルーティ−フローラル調がはっきり認められ、嗜好性が高く、香質に優れていると4人全員が判断した。
【0058】
【表5】
【0059】
(比較例1:1’位の立体の光学純度の違いによる香気質の比較)
光学活性な(1’R)又は(1’S)の3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンを様々な比率で混合することにより得られた光学活性体に関して、それぞれ官能評価を行い、香気質の差異について比較を行った。評価は5年以上経験した10人の専門パネリストが行った。結果を下記表6に示す。1’位の立体において(1’R)体の光学純度が高いものほど、より透明感のある良好な強いムスク香気を示すと評価された。
【0060】
【表6】
【0061】
ムスク強度:
◎:強くハッキリとしたムスク香を有する
○:ハッキリとしたムスク香を有する
△:微かなムスク香を有する
×:ムスク香を有さない