【実施例】
【0029】
以下に実施例等を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、本実施例中での各種測定は、次の機器装置類を用いて行った。
NMR測定装置(
1H−NMR、
13C−NMR):AVANCEIII 500型(500MHz;ブルカーバイオスピン社製)
内部標準物質:CDCl
3
ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS):GCMS−QP2010Ultra(島津製作所社製)
使用カラム:BC−WAX(長さ50m×内径0.25mm、液相膜厚0.15μm、ジーエルサイエンス社製)
ガスクロマトグラフィー(GC、化学純度):GC−4000(ジーエルサイエンス社製)
使用カラム:InertCap 1(長さ30m×内径0.25mm、液相膜厚0.25μm、ジーエルサイエンス社製)
ガスクロマトグラフィー(GC、光学純度及び異性体比率):GC−2010(島津製作所社製)
使用カラム:β−DEX325(長さ30m×内径0.25mm、液相膜厚0.25μm、SUPELCO社製)
旋光度計:P−1020(日本分光社製)
赤外吸収スペクトル測定装置:NICOLET iS10(Thermo Scientific社製)
【0030】
(実施例1)
(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンの合成
【0031】
【化4】
【0032】
窒素気流下、メタノール(37ml)、水酸化ナトリウム(1.9g、0.048mol)及び水(4.0ml)の混合溶液を氷冷下で撹拌した。そこへ、2−ブタノン(17.3g、0.24mol)をゆっくりと滴下し、15分間撹拌した。その後、(R)−2−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)アセトアルデヒド(82%e.e.、18.3g、0.12mol)を0〜10℃を保つように1時間かけてゆっくりと滴下した。0〜10℃を保ちながら20時間撹拌を続けた後、40℃に加熱し、さらに3時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、減圧下、メタノールおよび残存した2−ブタノンを回収した。水を加えた後、トルエンで抽出し、得られた有機層を10%食塩水及び水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=19/1)で精製することにより、(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−3−ペンテン−2−オン(15.2g、0.074mol、純度85.4%)を淡黄色油状物質として得た。収率52%。
【0033】
次に、100mlオートクレーブに(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−3−ペンテン−2−オン(12.5g、0.061mol、純度85.4%)、5%Pd/C(0.13g)を入れ、水素圧2.5MPa、80℃で2時間反応させた。室温まで冷却した後、触媒をろ過し、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=19/1)で精製することにより、(1’R)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノン(9.7g、0.046mol)を無色油状物質として得た。収率89%。光学純度は82%e.e.であった。
【0034】
GC/MS(m/e):210(M
+,5%),192(3),167(2),153(3),138(5),123(7),109(7),85(10),72(100),69(25),43(20),41(10);
1H NMR(CDCl
3,500MHz)δ 0.48(d,3H,J=5.4Hz),0.82(dd,3H,J=6.8,1.2Hz),0.84(s,3H),0.92−1.02(m,1H),1.08(t,3H,J=7.0Hz),1.12−1.17(m,1H),1.18−1.27(m,1H),1.29−1.33(m,1H),1.34−1.43(m,1H),1.49−1.51(m,1H),1.52−1.58(m,1H),1.66−1.76(m,2H),1.77−1.85(m,1H),2.13(d,3H,J=3.8Hz),2.50(m,1H);
13C NMR(CDCl
3,500MHz)δ 212.86,212.82,50.98,50.73,47.63,47.42,45.17,42.26,32.36,32.02,30.06,28.17,28.13,27.91,27.88,27.86,25.61,25.60,16.44,15.88,14.32,13.79;
比旋光度 [α]
20 +24.7(neat);
IR(ATR,ダイヤモンドセル使用,cm
-1):2953,2868,1715,1458,1386,1365,1162.
香気:強いムスク,透明感があり温かみのある香気.
【0035】
(実施例2)
(1’S)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンの合成
【0036】
【化5】
【0037】
実施例1で用いた(R)−2−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)アセトアルデヒドを(S)−2−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)アセトアルデヒド(55%e.e.)に代えて、実施例1と同様の方法により、(1’S)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンを合成した。光学純度は55%e.e.であった。
【0038】
GC/MS(m/e):210(M
+,5%),192(2),167(2),153(3),138(5),123(7),109(7),85(10),72(100),69(25),43(20),41(10);
1H NMR(CDCl
3,500MHz)δ 0.48(d,3H,J=5.4Hz),0.82(dd,3H,J=6.8,1.2Hz),0.84(s,3H),0.92−1.02(m,1H),1.08(t,3H,J=7.0Hz),1.12−1.17(m,1H),1.18−1.27(m,1H),1.29−1.33(m,1H),1.34−1.43(m,1H),1.49−1.51(m,1H),1.52−1.58(m,1H),1.66−1.76(m,2H),1.77−1.85(m,1H),2.13(d,3H,J=3.9Hz),2.50(m,1H);
13C NMR(CDCl
3,500MHz)δ 212.93,212.89,50.98,50.73,47.65,47.43,45.17,42.27,32.37,32.02,30.06,28.17,28.14,27.91,27.90,27.87,25.62,25.61,16.45,15.88,14.33,13.81;
比旋光度 [α]
20 −17.0(neat);
IR(ATR,ダイヤモンドセル使用,cm
-1):2950,2867,1713,1458,1364,1162.
香気:ウッディ,フルーティ,微かにメタリック.
【0039】
(実施例3)
(1’R)−3−エチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンの合成
【0040】
【化6】
窒素気流下、メタノール(47.7ml)、96%水酸化カリウム(9.2g、0.16mol)及び水(47.7ml)の混合溶液を氷冷下で撹拌した。そこへ、2−ペンタノン(84.8g、0.98mol)をゆっくりと滴下し、15分間撹拌した。その後、(R)−2−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)アセトアルデヒド(82%e.e.、47.7g、0.31mol)を0〜10℃を保つように30分間かけてゆっくりと滴下した。0〜10℃を保ちながら7.5時間撹拌を続けた後、減圧下、メタノールを回収した。水を加えた後、トルエンで抽出し、得られた有機層を10%食塩水及び水で洗浄後、溶媒を減圧留去することにより、(1’R)−3−エチル−4−ヒドロキシ−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−2−ペンタノンの粗生成物を得た。温度計とDean−Stark管及びジムロートコンデンサーを付した200ml三口フラスコに(1’R)−3−エチル−4−ヒドロキシ−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−2−ペンタノンの粗生成物の全量、硫酸水素ナトリウム一水和物(0.67g、4.9mmol)及びへプタン(34ml)を加え、加熱還流した。脱水により生成してくる水を随時Dean−Stark管より系外へと除去しながら1時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、10%炭酸ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で順次洗浄し、ヘプタンを減圧留去した。得られた粗生成物を減圧蒸留(83.2〜84.2℃/69Pa)することにより、(1’R)−3−エチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−3−ペンテン−2−オン(35.5g、0.16mol、純度65.3%)を淡黄色油状物質として得た。収率34%。
【0041】
次に、100mlオートクレーブに(1’R)−3−エチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−3−ペンテン−2−オン(10.0g、0.045mol、純度65.3%)、5%Pd/C(0.10g)、トルエン(2.0ml)を入れ、水素圧2.5MPa、100℃で1.5時間反応させた。室温まで冷却した後、触媒をろ過し、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=19/1)で精製することにより、(1’R)−3−エチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノン(4.4g、0.020mol)を無色油状物質として得た。収率66%。光学純度は82%e.e.であった。
【0042】
GC/MS(m/e):224(M
+,7%),206(3),191(6),177(3),153(4),138(4),123(7),99(12),86(100),71(30),69(40),43(60),41(35);
1H NMR(CDCl
3,500MHz)δ 0.47(d,3H,J=5.7Hz),0.82(d,3H,J=6.8Hz),0.84(s,3H),0.84−0.88(m,3H),0.90−1.01(m,1H),1.06−1.21(m,2H),1.27−1.37(m,3H),1.43−1.54(m,3H),1.56−1.65(m,1H),1.69−1.83(m,2H),2.11(d,3H,J=4.9Hz),2.33−2.40(m,1H);
13C NMR(CDCl
3,500MHz)δ 213.10,213.02,55.21,50.99,50.90,45.18,42.29,42.26,30.61,30.47,30.07,28.67,28.57,28.23,28.22,28.19,28.11,25.62,24.83,24.30,14.34,13.82,11.83,11.73;
比旋光度 [α]
20 +22.7(neat);
IR(ATR,ダイヤモンドセル使用,cm
-1):2951,2867,1712,1457,1365,1351,1160.
香気:ムスク,パウダリー,ミルキーで甘さのある香気.
【0043】
(実施例4)
(1’R)−4−メチル−6−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−3−ヘキサノンの合成
【0044】
【化7】
【0045】
窒素気流下、メタノール(128ml)、96%水酸化カリウム(8.9g、0.15mol)及び水(85.0ml)の混合溶液を氷冷下で撹拌した。そこへ、3−ペンタノン(71.2g、0.83mol)をゆっくりと滴下し、15分間撹拌した。その後、(R)−2−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)アセトアルデヒド(82%e.e.、42.5g、0.28mol)を0〜10℃を保つように30分間かけてゆっくりと滴下した。0〜10℃を保ちながら16時間撹拌した後、減圧下、メタノールを回収した。水を加えた後、酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を10%食塩水及び水で洗浄後、溶媒を減圧留去することにより、(1’R)−5−ヒドロキシ−4−メチル−6−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−3−ヘキサノンの粗生成物を得た。温度計とDean−Stark管及びジムロートコンデンサーを付した300ml三口フラスコに(1’R)−5−ヒドロキシ−4−メチル−6−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−3−ヘキサノンの粗生成物の全量、硫酸水素カリウム(1.9g、0.014mol)及びトルエン(195ml)を加え、加熱還流した。脱水により生成してくる水を随時Dean−Stark管より系外へと除去しながら6時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、10%炭酸ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で順次洗浄し、トルエンを減圧留去した。得られた粗生成物を減圧蒸留(73.5〜76.5℃/17Pa)することにより、(1’R)−4−メチル−6−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−4−ヘキセン−3−オン(36.0g、0.16mol、純度92.2%)を淡黄色油状物質として得た。収率54%。
【0046】
次に、100mlオートクレーブに(1’R)−4−メチル−6−(2,2,3−トリメチルシクロペンテン−1−イル)−4−ヘキセン−3−オン(18.0g、0.082mol、純度92.2%)、5%Pd/C(0.18g)を入れ、水素圧2.5MPa、100℃で4時間反応させた。室温まで冷却した後、触媒をろ過し、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=19/1)で精製することにより、(1’R)−4−メチル−6−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−3−ヘキサノン(14.8g、0.066mol)を無色油状物質として得た。収率88%。光学純度は82%e.e.であった。
【0047】
GC/MS(m/e):224(M
+,2%),223(7%),206(2),191(3),177(7),167(1),137(4),123(4),99(12),86(100),83(12),57(45),55(20),41(25);
1H NMR(CDCl
3,500MHz)δ 0.48(d,3H,J=6.5Hz),0.82(dd,3H,J=6.9,1.4Hz),0.84(s,3H),0.88−1.02(m,1H),1.05(dd,3H,J=7.3,1.2Hz),1.07(t,3H,J=6.5Hz),1.10−1.25(m,3H),1.27−1.41(m,2H),1.43−1.57(m,2H),1.66−1.85(m,2H),2.41−2.48(m,2H),2.49−2.55(m,1H);
13C NMR(CDCl
3,500MHz)δ 215.55,215.53,51.01,50.75,46.55,46.40,45.20,42.28,34.19,34.09,32.55,32.25,30.08,28.24,28.18,28.16,28.04,25.65,25.63,16.77,16.18,14.35,13.83,7.85,7.80;
IR(ATR,ダイヤモンドセル使用,cm
-1):2937,2868,1713,1459,1376,1365,1104,973.
香気:パウダリー,ムスク,ウッディ、シトラス.
【0048】
(実施例5:香気質の評価)
実施例1で合成した化合物に関して、それぞれ官能評価を行った。5年以上経験した10人の専門パネリストにより、香気の質の検討を行った。結果を下記表1に示す。この化合物は拡散性に優れ、透明感のある強いムスク香気を有しており、有用な化合物であることが示された。
【0049】
【表1】
【0050】
(実施例6:香料組成物)
下記表2の処方に従い、上記実施例1で合成した化合物を用いて香水用香料組成物を調製した。
【0051】
【表2】
【0052】
官能評価は5年以上経験した4人の専門パネリストが行い、実施例1の化合物を含有するフルーティ−フローラル調香料組成物は、明るくやわらかい香気がよく拡がり、嗜好性が高く、香質に優れていると4人全員が判断した。
【0053】
(実施例7:液体洗剤)
下記表3の処方に従い、上記実施例6の香料組成物を0.5%賦香した液体洗剤(100g)を作製した。このものの官能評価は、5年以上経験した4人の専門パネリストが行い、明るく温かみのあるフルーティ−フローラル調がはっきりと認識でき、嗜好性が高く、香質に優れていると4人全員が判断した。
【0054】
【表3】
【0055】
(実施例8:シャンプー)
下記表4の処方に従い、上記実施例6の香料組成物を1.0%賦香したシャンプー(100g)を作製した。このものの官能評価は、5年以上経験した4人の専門パネリストが行い、嗜好性が高く、香質に優れていると4人全員が判断した。
【0056】
【表4】
【0057】
(実施例9:ボディシャンプー)
下記表5の処方に従い、上記実施例6の香料組成物を0.95%賦香したボディーシャンプー(100g)を作製した。このものの官能評価は、5年以上経験した4人の専門パネリストが行い、明るいフルーティ−フローラル調がはっきり認められ、嗜好性が高く、香質に優れていると4人全員が判断した。
【0058】
【表5】
【0059】
(比較例1:1’位の立体の光学純度の違いによる香気質の比較)
光学活性な(1’R)又は(1’S)の3−メチル−5−(2,2,3−トリメチルシクロペンタン−1−イル)−2−ペンタノンを様々な比率で混合することにより得られた光学活性体に関して、それぞれ官能評価を行い、香気質の差異について比較を行った。評価は5年以上経験した10人の専門パネリストが行った。結果を下記表6に示す。1’位の立体において(1’R)体の光学純度が高いものほど、より透明感のある良好な強いムスク香気を示すと評価された。
【0060】
【表6】
【0061】
ムスク強度:
◎:強くハッキリとしたムスク香を有する
○:ハッキリとしたムスク香を有する
△:微かなムスク香を有する
×:ムスク香を有さない