特許第6484894号(P6484894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6484894研磨剤組成物、および磁気ディスク基板の研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484894
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】研磨剤組成物、および磁気ディスク基板の研磨方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20190311BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20190311BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20190311BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20190311BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   C09K3/14 550D
   C09K3/14 550Z
   C09G1/02
   B24B37/00 H
   H01L21/304 622D
   G11B5/84 A
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-510360(P2016-510360)
(86)(22)【出願日】2015年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2015058819
(87)【国際公開番号】WO2015146942
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2018年1月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-69366(P2014-69366)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】岩田 徹
(72)【発明者】
【氏名】巣河 慧
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−331852(JP,A)
【文献】 特開2001−207161(JP,A)
【文献】 特表2004−534396(JP,A)
【文献】 特開2010−167553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
C09G 1/02
G11B 5/84
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカと、粉砕された湿式法シリカ粒子と、水溶性高分子化合物と、を含有し、前記コロイダルシリカの平均粒径が5〜200nmであり、前記湿式法シリカ粒子の平均粒径が0.2〜1.0μmであり、前記コロイダルシリカの平均粒径に対する前記湿式法シリカ粒子の平均粒径の比の値が2.0〜16.0であり、前記水溶性高分子化合物が、不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位を有する重合体または共重合体である無電解ニッケル−リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨剤組成物。
【請求項2】
前記コロイダルシリカおよび前記湿式法シリカ粒子の合計濃度が1〜50質量%であり、前記コロイダルシリカおよび前記および前記湿式法シリカ粒子の全体に占める、前記コロイダルシリカの割合が5〜95質量%であり、且つ、前記湿式法シリカ粒子の割合が5〜95質量%である請求項1に記載の研磨剤組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子化合物が、疎水性単量体に由来する構成単位を更に有する共重合体である請求項1〜のいずれか一項に記載の研磨剤組成物。
【請求項4】
前記水溶性高分子化合物の平均分子量が500〜20000である請求項1〜のいずれか一項に記載の研磨剤組成物。
【請求項5】
前記水溶性高分子化合物の含有量が、0.0001〜1.0質量%である請求項1〜のいずれか一項に記載の研磨剤組成物。
【請求項6】
酸および酸化剤を更に含有する水系組成物であり、pH値が0.1〜4.0である請求項1〜のいずれか一項に記載の研磨剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の研磨剤組成物を用いて磁気ディスク基板を研磨する、磁気ディスク基板の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体などの電子部品の研磨に使用される研磨剤組成物に関する。特に、ガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板などの磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用される研磨剤組成物に関する。さらには、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル−リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の表面研磨に使用される研磨剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム磁気ディスク基板の無電解ニッケル−リンめっき皮膜表面を研磨するための研磨剤組成物として、生産性の観点から、高い研磨速度を実現し得る比較的粒径の大きなアルミナ粒子を水に分散させた研磨剤組成物が使用されてきた。しかし、アルミナ粒子を使用した場合、アルミナ粒子はアルミニウム磁気ディスク基板の無電解ニッケル−リンめっき皮膜に比べてかなり硬度が高いため、アルミナ粒子が基板に突き刺さり、この突き刺さった粒子が後段の研磨工程に悪影響を与えることが問題となっていた。
【0003】
このような問題の解決策として、アルミナ粒子とシリカ粒子とを組み合わせた研磨剤組成物が提案されている(特許文献1〜4等)。また、アルミナ粒子を使用せず、シリカ粒子のみで研磨する方法が提案されている(特許文献5〜10)。さらに、シリカ粒子のみで研磨した場合の基板の端面だれ(ロールオフ)を低減させるための添加剤が検討されている(特許文献11〜15)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−260005号公報
【特許文献2】特開2009−176397号公報
【特許文献3】特開2011−204327号公報
【特許文献4】特開2012−43493号公報
【特許文献5】特開2010−167553号公報
【特許文献6】特表2011−527643号公報
【特許文献7】特開2014−29754号公報
【特許文献8】特開2014−29755号公報
【特許文献9】特表2003−514950号公報
【特許文献10】特開2012−155785号公報
【特許文献11】特開2002−167575号公報
【特許文献12】特開2003−160781号公報
【特許文献13】特表2003−510446号公報
【特許文献14】特開2007−63372号公報
【特許文献15】特開2007−130728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜4のように、アルミナ粒子とシリカ粒子とを組み合わせることにより、基板に突き刺さったアルミナ粒子をある程度除去することは可能となる。しかしながら、このアルミナ粒子を含む研磨剤組成物を使用する限り、研磨剤組成物中に含まれるアルミナ粒子が基板に突き刺さる可能性は、依然として残っている。また、このような研磨剤組成物は、アルミナ粒子とシリカ粒子の両方を含むため、それぞれの粒子が有する特性を相互に打ち消しあい、研磨速度および表面平滑性が悪化するという問題が生じる。
【0006】
そこで、アルミナ粒子を使用せずに、シリカ粒子のみで研磨する方法が提案されている。特許文献5および6では、コロイダルシリカと研磨促進剤との組み合わせが提案されている。特許文献7および8では、コロイダルシリカや、フュームドシリカ、表面修飾されたシリカ、水ガラス法で製造されたシリカなどによる研磨、特に特殊な形状のコロイダルシリカを使用する方法が提案されている。しかしながら、これらの方法では研磨速度が不十分であり、改良が求められている。また、特許文献9では、コロイダルシリカとフュームドシリカを組み合わせて使用する方法が提案されている。しかしながら、この方法では研磨速度の向上は見られるものの、フュームドシリカは嵩比重がとても小さいため、スラリー化などの作業性が非常に悪くなり、粉じんによる健康への影響の懸念もある。また、特許文献10では、破砕シリカ粒子を使用することにより、アルミナ粒子に近い研磨速度を出す方法が提案されている。しかしながら、この方法では、表面平滑性が悪化するという問題があり、改良が求められている。
【0007】
これらのシリカ粒子のみで研磨する方法では、アルミナ粒子を使用した場合に比べロールオフが悪いという問題点もある。ロールオフの低減のために種々の添加剤も検討されている。例えば、ノニオン界面活性剤の添加(特許文献11、12)、セルロース誘導体の添加(特許文献13)、アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤やポリオキシエチレン硫酸エステル系界面活性剤の添加(特許文献14、15)などの提案がなされている。しかしながら、これらの添加剤によりロールオフの低減は見られるものの、シリカ粒子との相性によってはその効果は不十分であり、また、研磨速度が著しく低下するという欠点もある。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、アルミナ粒子を使用することなく、高い研磨速度を実現すると同時に、良好な表面平滑性、およびロールオフの低減を達成することを可能にする研磨剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、コロイダルシリカと、粉砕工程を経て形成される湿式法シリカ粒子を組み合わせるとともに、特定の水溶性高分子化合物を添加することによって、それぞれのシリカ粒子を単独使用した場合よりも、予想以上に高い研磨速度と、良好な表面平滑性、さらにロールオフの低減を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、以下に示す研磨剤組成物が提供される。
【0011】
[1] コロイダルシリカと、粉砕された湿式法シリカ粒子と、水溶性高分子化合物と、を含有し、前記コロイダルシリカの平均粒径が5〜200nmであり、前記湿式法シリカ粒子の平均粒径が0.2〜1.0μmであり、前記コロイダルシリカの平均粒径に対する前記湿式法シリカ粒子の平均粒径の比の値が2.0〜16.0であり、前記水溶性高分子化合物が、不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位を有する重合体または共重合体である無電解ニッケル−リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨剤組成物。
【0014】
] 前記コロイダルシリカおよび前記湿式法シリカ粒子の合計濃度が1〜50質量%であり、前記コロイダルシリカおよび前記および前記湿式法シリカ粒子の全体に占める、前記コロイダルシリカの割合が5〜95質量%であり、且つ、前記湿式法シリカ粒子の割合が5〜95質量%である前記[1]に記載の研磨剤組成物。
【0015】
] 前記水溶性高分子化合物が、疎水性単量体に由来する構成単位を更に有する共重合体である前記[1]または[2]に記載の研磨剤組成物。
【0016】
] 前記水溶性高分子化合物の平均分子量が500〜20000である前記[1]〜[]のいずれかに記載の研磨剤組成物。
【0017】
] 前記水溶性高分子化合物の含有量が、0.0001〜1.0質量%である前記[1]〜[]のいずれかに記載の研磨剤組成物。
【0018】
] 酸および酸化剤を更に含有する水系組成物であり、pH値が0.1〜4.0である前記[1]〜[]のいずれかに記載の研磨剤組成物。
【0020】
[7] 前記[1]〜[]のいずれかに記載の研磨剤組成物を用いて磁気ディスク基板を研磨する、磁気ディスク基板の研磨方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の研磨剤組成物は、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル−リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の表面を研磨する際に、2種類のシリカ粒子を組み合わせて使用することにより、それぞれのシリカ粒子を単独使用した場合よりも高い研磨速度を実現すると同時に、良好な表面平滑性を得ることができるものである。さらに、本発明の研磨剤組成物は、2種類のシリカ粒子とともに、特定の水溶性高分子化合物を添加することにより、ロールオフの低減を達成することを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】基板の表面を研磨した場合のロールオフの測定について説明するための基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0024】
1.研磨剤組成物
本発明の研磨剤組成物は、コロイダルシリカと、湿式法シリカ粒子と、水溶性高分子化合物とを少なくとも含有する水系組成物である。水溶性高分子化合物は、不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位を有する重合体または共重合体である。コロイダルシリカの平均粒径は5〜200nmであることが好ましく、湿式法シリカ粒子の平均粒径は0.1〜1.0μmであることが好ましい。コロイダルシリカの平均粒径(A)に対する湿式法シリカ粒子の平均粒径(B)の比の値(B/A)は2.0〜30.0であることが好ましい。ここで、湿式法シリカ粒子は、その製造工程において、粉砕により解砕されたものである。即ち、湿式法シリカ粒子の製造工程は、粉砕工程を含むものである。
【0025】
本発明の研磨剤組成物は、コロイダルシリカと、特定の湿式法シリカ粒子とを、含有することにより、それぞれのシリカ粒子を単独使用した場合と比較して、予想外に高い研磨速度を達成すると同時に、良好な表面平滑性を達成するものである。一般的に、大粒径の粒子(本発明の場合の主に湿式法シリカ粒子)と小粒径の粒子(本発明の場合の主にコロイダルシリカ)とを組み合わせて用いた場合、その研磨速度および表面平滑性は大粒径の粒子がもたらす研磨速度および表面平滑性に支配される傾向にある。すなわち、一般的に、研磨速度は大粒径の粒子による研磨速度を大きく超えることはなく、また、表面平滑性は大粒径の粒子の研磨による表面平滑性となり、小粒径の粒子による表面平滑性に劣る。ところが、本発明の研磨剤組成物は、コロイダルシリカまたは湿式法シリカ粒子をそれぞれ単独使用した場合よりも、研磨速度が有意に高く、且つ、良好な表面平滑性を維持するものである。このような効果は、従来の技術常識からは予期し得ない、顕著なものであると言える。
【0026】
本発明の研磨剤組成物は、上述のコロイダルシリカおよび特定の湿式法シリカ粒子に加えて、不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位を有する重合体または共重合体である水溶性高分子化合物を含有することにより、ロールオフの低減を達成するものである。水溶性高分子化合物によるロールオフ低減の効果は、コロイダルシリカと特定の湿式法シリカ粒子とを組み合わせて用いた場合に発現するものである。すなわち、水溶性高分子化合物と、コロイダルシリカ単独との組み合わせや、湿式法シリカ粒子単独との組み合わせでは発現しない。
【0027】
以下、本発明の研磨剤組成物について、さらに詳細に説明する。以下の説明中、単に「研磨剤組成物」と言う場合、特に断らない限り、本発明の研磨剤組成物を意味する。また、以下の説明中、単に「コロイダルシリカ」または「湿式法シリカ粒子」と言う場合、特に断らない限り、本発明において用いられるコロイダルシリカまたは湿式法シリカ粒子を意味するものとする。
【0028】
1−1.コロイダルシリカ
本発明の研磨剤組成物に含有されるコロイダルシリカは、平均粒径が5〜200nmであることが好ましい。平均粒径が5nm以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。平均粒径が200nm以下であることにより、表面平滑性の悪化を抑制することができる。コロイダルシリカの平均粒径は、より好ましくは5〜150nmであり、さらに好ましくは30〜100nmである。また、本願における平均粒径とは、メディアン径(D50)である。
【0029】
コロイダルシリカは、球状、鎖状、金平糖型(表面に凸部を有する粒子状)、異形型などの形状が知られており、水中に一次粒子が単分散してコロイド状をなしている。本発明で使用されるコロイダルシリカとしては、球状、または球状に近いコロイダルシリカが特に好ましい。球状、または球状に近いコロイダルシリカを用いることで、表面平滑性をより向上させることができる。コロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウムまたはケイ酸カリウムを原料とする水ガラス法、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランを酸またはアルカリで加水分解する方法等によって得られる。
【0030】
1−2.湿式法シリカ粒子
本発明で使用される湿式法シリカ粒子は、ケイ酸アルカリ水溶液と無機酸または無機酸水溶液とを反応容器に添加することにより、沈殿ケイ酸として得られる湿式法シリカから調製される粒子のことを指しており、湿式法シリカ粒子には上述のコロイダルシリカは含まれない。
【0031】
湿式法シリカの原料であるケイ酸アルカリ水溶液としては、ケイ酸ナトリウム水溶液、ケイ酸カリウム水溶液、ケイ酸リチウム水溶液などが挙げられるが、一般的にはケイ酸ナトリウム水溶液が好ましく使用される。無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等を挙げることができるが、一般的には硫酸が好ましく使用される。反応終了後、反応液を濾過、水洗し、その後乾燥機で水分が6%以下になるように乾燥を行う。乾燥機は静置乾燥機、噴霧乾燥機、流動乾燥機のいずれでも良い。その後ジェットミル等の粉砕機で粉砕し、さらに分級を行い、湿式法シリカ粒子を得る。
【0032】
このように粉砕により解砕された湿式法シリカ粒子の粒子形状は、角部を有しており、球状に近い粒子よりも研磨能力が高い。
【0033】
湿式法シリカ粒子の平均粒径は、0.1〜1.0μmであることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.0μmであり、さらに好ましくは0.2〜0.6μmである。平均粒径が0.1μm以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。平均粒径が1.0μm以下であることにより、表面平滑性の悪化を抑制することができる。
【0034】
湿式法シリカ粒子の平均粒径(B)とコロイダルシリカの平均粒径(A)の比の値(B/A)は2.0〜30.0であることが好ましく、より好ましくは2.0〜16.0であり、さらに好ましくは3.0〜16.0であり、特に好ましくは3.0〜10.0であり、最も好ましくは4.0〜10.0である。平均粒径の比が2.0以上であることにより、研磨速度を向上させることができる。平均粒径の比が30.0以下であることにより、表面平滑性の悪化を抑制することができる。
【0035】
コロイダルシリカと湿式法シリカ粒子の合計濃度は、研磨剤組成物全体の1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜40質量%である。シリカ粒子の合計濃度が1質量%以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。シリカ粒子の合計濃度が50質量%以下であることにより、必要以上のシリカ粒子を使用することなく十分な研磨速度を維持することができる。
【0036】
シリカ粒子全体に占めるコロイダルシリカの割合は、5〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜80質量%である。コロイダルシリカの割合が5質量%以上であることにより、表面平滑性の悪化を抑制することができる。コロイダルシリカの割合が95質量%以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0037】
シリカ粒子全体に占める湿式法シリカ粒子の割合は、5〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜80質量%である。湿式法シリカ粒子の割合が95質量%以下であることにより、表面平滑性の悪化を抑制することができる。湿式法シリカ粒子の割合が5質量%以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0038】
1−3.水溶性高分子化合物
本発明で使用される水溶性高分子化合物は、不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位を有する重合体または共重合体である。即ち、水溶性高分子化合物は、不飽和脂肪族カルボン酸および/またはその塩を単量体として重合された高分子化合物であり、不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位を必須の構成単位とする高分子化合物である。不飽和脂肪族カルボン酸およびその塩としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびそれらの塩などが挙げられる。
【0039】
不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位は、水溶性高分子化合物中、その少なくとも一部がカルボン酸の塩として含有されていても良い。カルボン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0040】
水溶性高分子化合物中、不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位を、カルボン酸として含有させるには、不飽和脂肪族カルボン酸を単量体として重合しても良いし、不飽和脂肪族カルボン酸の塩を単量体として重合した後、陽イオン交換することによりカルボン酸へと変換しても良い。また、水溶性高分子化合物中、不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位をカルボン酸の塩として含有させるには、不飽和脂肪族カルボン酸の塩を単量体として重合しても良いし、不飽和脂肪族カルボン酸を単量体として重合した後、塩基で中和することによりカルボン酸の塩を形成しても良い。
【0041】
水溶性高分子化合物中、カルボン酸として含有される構成単位と、カルボン酸の塩として含有される構成単位との割合を評価するには、水溶性高分子化合物水溶液のpH値を用いることができる。水溶性高分子化合物水溶液のpH値が低い場合には、カルボン酸として含有される構成単位の含有割合が高いと評価できる。一方、水溶性高分子化合物水溶液のpH値が高い場合には、カルボン酸の塩として含有される構成単位の含有割合が高いと評価できる。本発明においては、例えば、濃度10質量%の水溶性高分子化合物水溶液におけるpH値が1〜13の範囲の水溶性高分子化合物を用いることができる。
【0042】
水溶性高分子化合物が不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位を有する共重合体である場合、不飽和脂肪族カルボン酸および/またはその塩と組み合わせて共重合に用いられる単量体として、例えば疎水性単量体が挙げられる。疎水性単量体としてはアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸エステル、イタコン酸エステル等の不飽和脂肪族カルボン酸エステル、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、N−フェニルマレイミド等の芳香族単量体などが挙げられる。疎水性単量体の好ましい具体例としては、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸ペンチル、メタクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、メタクリル酸ヘプチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。
【0043】
これらの単量体成分を単独または組み合わせて重合することにより、重合体または共重合体とすることが好ましい。共重合の組み合わせとしては、アクリル酸および/またはその塩とアクリル酸エステルの組み合わせ、アクリル酸および/またはその塩とメタクリル酸エステルの組み合わせ、メタクリル酸および/またはその塩とアクリル酸エステルの組み合わせ、メタクリル酸および/またはその塩とメタクリル酸エステルの組み合わせが好ましく用いられる。
【0044】
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、500以上、20000以下であることが好ましく、より好ましくは1000以上、10000以下である。なお、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリアクリル酸換算で測定したものである。
【0045】
水溶性高分子化合物の研磨剤組成物中の濃度は、固形分換算で、0.0001質量%以上、1.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.001質量%以上、0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.005質量%以上、0.2質量%以下であり、特に好ましくは0.01質量%以上、0.1質量%以下である。
【0046】
1−4.その他の成分
研磨剤組成物に含有される粒子としては、コロイダルシリカおよび湿式法シリカ粒子以外にも、その他の粒子を含有することができる。但し、アルミナ粒子の研磨対象基板への突き刺さりを低減させるという観点から、アルミナ粒子を含まないことが特に好ましい。
【0047】
研磨剤組成物は、シリカ粒子および水溶性高分子化合物に加えて、酸を含有していることが好ましい。酸としては、酸および/またはその塩であって良い。酸の具体例としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の無機酸、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミン(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸等の有機ホスホン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸等のカルボン酸等が挙げられる。これらの酸を用いる場合の対イオンとしては、特に限定はなく、具体的には、金属、アンモニウム、アルキルアンモニウム等のイオンが挙げられる。
【0048】
研磨剤組成物は、シリカ粒子および水溶性高分子化合物に加えて、酸化剤を含有していることが好ましい。酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩等が挙げられる。具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過マンガン酸カリウム等が挙げられる。中でも過酸化水素が好ましい。
【0049】
研磨剤組成物は、上述の成分以外に、防カビ剤、防菌剤等を含有していても良い。
【0050】
1−5.物性
研磨剤組成物のpH値は0.1〜4.0であることが好ましく、より好ましくは0.5〜3.0である。研磨剤組成物のpH値が0.1以上であることにより、表面平滑性の悪化を抑制することができる。研磨剤組成物のpH値が4.0以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0051】
本発明の研磨剤組成物は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体など種々の電子部品の研磨に使用することができる。特に、アルミニウム合金製のアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に好適に用いることができる。さらに好適には、無電解ニッケル−リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨に用いることができる。無電解ニッケル−リンめっきは、通常pH4〜6の条件下でめっきされる。pH4以下の条件ではニッケルが溶解傾向に向かうため、めっきが進行しにくくなる。一方、研磨においては、例えば、pH4.0以下の条件下でニッケルが溶解傾向となるため、本発明の研磨剤組成物を用いることにより、研磨速度を高めることが可能となる。
【0052】
2.磁気ディスク基板の研磨方法
研磨剤組成物は、無電解ニッケル−リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板(以下、「アルミディスク」)やガラス磁気ディスク基板等の磁気ディスク基板の研磨での使用に適している。特に、アルミディスクの研磨での使用に適している。したがって、本発明は、上述の研磨剤組成物を用いて磁気ディスク基板を研磨する磁気ディスク基板の研磨方法である。また、研磨剤組成物は、炭化ケイ素、ケイ素、ゲルマニウム、ガリウムヒ素、ガリウム燐、インジウム燐、チッ化ガリウム等の半導体基板、サファイア、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等の単結晶基板、磁気ヘッド等の研磨にも利用することができる。
【0053】
本発明の研磨剤組成物を適用することが可能な研磨方法としては、例えば、研磨機の定盤に研磨パッドを貼り付け、研磨対象物(例えばアルミディスク)の研磨する表面または研磨パッドに研磨剤組成物を供給し、研磨する表面を研磨パッドで擦り付ける方法(ポリッシングと呼ばれている)がある。例えば、アルミディスクのおもて面と裏面を同時に研磨する場合には、上定盤および下定盤それぞれに研磨パッドを貼り付けた両面研磨機を用いる方法がある。この方法では、上定盤および下定盤に貼り付けた研磨パッドでアルミディスクを挟み込み、研磨面と研磨パッドの間に研磨剤組成物を供給し、2つの研磨パッドを同時に回転させることによって、アルミディスクのおもて面と裏面を研磨する。
【0054】
研磨パッドは、ウレタンタイプ、スウェードタイプ、不織布タイプ、その他いずれのタイプも使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0056】
(1)研磨剤組成物の調製方法
(実施例1〜21、比較例1〜20)
実施例1〜21および比較例1〜20で使用した研磨剤組成物は下記の材料を、下記の含有量または添加量で含んだ研磨剤組成物である。
【0057】
[コロイダルシリカ1](平均粒径(D50):累積体積基準で51nm、市販のコロイダルシリカ) 含有量は表1〜表4に示す。比較例2、9、10、および16には含まれない。
[コロイダルシリカ2](平均粒径(D50):累積体積基準で112nm、市販のコロイダルシリカ) 含有量は表3に示す。実施例1〜16、18〜21、および比較例1〜20には含まれない。
[湿式法シリカ1](平均粒径(D50):0.3μm、市販の湿式法シリカ) 含有量は表1、表3および表4に示す。実施例6〜10、比較例1、3および10〜16には含まれない。
[湿式法シリカ2](平均粒径(D50):0.4μm、市販の湿式法シリカ) 含有量は表2に示す。実施例1〜5および11〜21、比較例1〜9および17〜20には含まれない。
[硫酸]1.34質量%(実施例1〜21および比較例1〜20のすべてで、この濃度に調整した。)
[過酸化水素]0.9質量%(実施例1〜21および比較例1〜20のすべてで、この濃度に調整した。)
[アンモニア]0.22質量%(実施例1〜21および比較例1〜20のすべてで、この濃度に調整した。)
[アクリルポリマー1](東亜合成(株)製、CM−8、重量平均分子量6000) 添加量は表1〜表4に示す。実施例15、16、比較例3〜9および11〜20には含まれない。
アクリルポリマー1の10質量%水溶液のpH値は、通常3.4である。実施例1〜14、17、比較例1、2、10では、この通常のアクリルポリマー1を用いた。
また、アクリルポリマー1に水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH値を5.3、7.6、8.9、および10.8にそれぞれ調整したアクリルポリマー1の10質量%水溶液を準備した。アクリルポリマー1として、実施例18では上記pH値が5.3のものを、実施例19では上記pH値が7.6のものを、実施例20では上記pH値が8.9のものを、実施例21では上記pH値が10.8のものを、それぞれ用いた。
[アクリルポリマー2](東亜合成(株)製、CM−15、重量平均分子量4500) 含有量は表3に示す。実施例1〜14および17〜21、比較例1〜20には含まれない。
アクリルポリマー2の10質量%水溶液のpH値は、通常3.3である。実施例15、16では、この通常のアクリルポリマー2を用いた。
[ラウリル硫酸ナトリウム](東邦化学(株)製、アルスコープLS−30、表4中「LS−30」と示す) 0.02質量%。比較例17および19で使用した。
[ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸ナトリウム](第一工業製薬(株)製、ハイテノール330T、表4中「330T」と示す) 0.02質量%。比較例18および20で使用した。
【0058】
なお、実施例17では、コロイダルシリカ1、コロイダルシリカ2、および、湿式法シリカ1の3種類のシリカ粒子を使用した。含有量を表3に示すが、コロイダルシリカ1とコロイダルシリカ2の含有比は64対22であり、コロイダルシリカ1とコロイダルシリカ2の全体としての平均粒径(D50)は、累積体積基準で63nmであった。
【0059】
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX(200kV))を用いて倍率10万倍の視野の写真を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac−View Ver.4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。コロイダルシリカの平均粒径は前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカの粒子径を解析し、小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒径を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac−View Ver.4.0)を用いて算出した平均粒径(D50)である。
【0060】
湿式法シリカ粒子の平均粒径は、0.4μm以下の粒子では動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装(株)製、マイクロトラックUPA)を用いて、また0.4μmより大きい粒子ではレーザー回折式粒度分布測定機((株)島津製作所製、SALD2200)を用いて測定した。湿式法シリカ粒子の平均粒径は、体積を基準とした小粒径側からの積算粒径分布が50%となる平均粒径(D50)である。
【0061】
(比較例21〜24)
比較例21〜24で使用した研磨剤組成物は下記の材料を、下記の含有量または添加量で含んだ研磨剤組成物である。
[アルミナ](平均粒径(D50):0.4μm、市販のアルミナ) 含有量は表5に示す。
[硫酸]0.91質量%(比較例21〜24のすべてで、この濃度に調整した。)
[HEDP(1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸)]0.61質量%(比較例21〜24のすべてで、この濃度に調整した。)
[過酸化水素]0.46質量%(比較例21〜24のすべてで、この濃度に調整した。)
[アンモニア]0.10質量%(比較例21〜24のすべてで、この濃度に調整した。)
[アクリルポリマー1](東亜合成(株)製、CM−8、重量平均分子量6000) 添加量は表5に示す。比較例21および24には含まれない。
アクリルポリマー1の10質量%水溶液のpH値は、通常3.4である。比較例22、23では、この通常のアクリルポリマー1を用いた。
[ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸ナトリウム](第一工業製薬(株)製、ハイテノール330T、表5中「330T」と示す) 0.06質量%。比較例24で使用した。
【0062】
アルミナ粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定機((株)島津製作所製、SALD2200)を用いて測定した。アルミナ粒子の平均粒径は、体積を基準とした小粒径側からの積算粒径分布が50%となる平均粒径(D50)である。
【0063】
(2)研磨条件
無電解ニッケル−リンめっきした外径95mmのアルミディスクを研磨対象の基板として、下記研磨条件で研磨を行った。
研磨機:システム精工(株)製、9B両面研磨機
研磨パッド:(株)FILWEL社製、P1パッド
定盤回転数:上定盤 −13.0min−1
下定盤 16.0min−1
研磨剤組成物供給量:70ml/min
研磨時間:研磨量が1.2〜1.5μm/片面となる時間まで研磨する。(240〜720秒)
加工圧力:120kPa(実施例1〜21、比較例1〜20)、80kPa(比較例21〜24)
【0064】
(3)研磨したディスク表面の評価
(3−1)研磨速度比
研磨速度は、研磨後に減少したアルミディスクの質量を測定し、下記式に基づいて算出した。
研磨速度(μm/min)=アルミディスクの質量減少量(g)/研磨時間(min)/アルミディスク片面の面積(cm)/無電解ニッケル−リンめっき皮膜の密度(g/cm)/2×10
(ただし、上記式中、アルミディスク片面の面積は65.9cm、無電解ニッケル−リンめっき皮膜の密度は8.0g/cm
研磨速度比は、上記式を用いて求めた比較例の研磨速度を1(基準)とした場合の相対値である。実施例1〜21および比較例1〜20については、比較例3を1(基準)とし、比較例21〜24については、比較例21を1(基準)とした。なお、比較例3の研磨速度は、0.111μm/minであり、比較例21の研磨速度は、0.325μm/minであった。
【0065】
(3−2)ピット
ピットはZygo社製の走査型白色干渉法を利用した三次元表面構造解析顕微鏡を用いて測定した。Zygo社製の測定装置(New View 5032(レンズ:2.5倍、ズーム:0.5倍))とZygo社製の解析ソフト(Metro Pro)を用いて測定した。得られた形状プロファイルにおいて、ピットがほとんど認められない場合に「○(良)」と評価した。ピットが若干認められた場合に「△(可)」と評価した。ピットが多数認められた場合に「×(不可)」と評価した。評価が「×(不可)」の場合には、目視でもピットを観察することができた。
【0066】
(3−3)表面粗さ(Zygo−Ra)
アルミディスクの表面粗さ(Ra)は、Zygo社製の走査型白色干渉法を利用した三次元表面構造解析顕微鏡を用いて測定した(以下、この方法によって測定した表面粗さを、「Zygo−Ra」という)。測定条件は、Zygo社製の測定装置(New View 5032(レンズ:2.5倍、ズーム:0.5倍))とZygo社製の解析ソフト(Metro Pro)を用い、フィルターはFFT Fixed Pass 波長0.00〜0.08mmとし、測定エリアは5.68mm×4.26mmとした。表面粗さが「測定不可」とは、ピットが認められ、上記測定方法で表面粗さが測定できない状態であることを示している。
【0067】
(3−4)ロールオフ比
端面形状の評価として、端面だれの度合いを数値化したロールオフを測定した。ロールオフはZygo社製の測定装置(New View 5032(レンズ:2.5倍、ズーム:0.5倍)とZygo社製の解析ソフト(Metro Pro)を用いて測定した。
【0068】
ロールオフの測定方法について、図1を用いて説明する。図1は、研磨の対象物である無電解ニッケル−リンめっきをした外径95mmのアルミディスクの、ディスクの中心を通過し研磨した表面に対して垂直な断面図を表す。ロールオフの測定にあたり、まずディスクの外周端に沿って垂線hを設け、垂線hから研磨した表面上のディスクの中心に向かって垂線hに対して平行で垂線hからの距離が4.50mmである線jを設け、ディスクの断面の線が線jと交わる位置を点Aとした。また、垂線hに対して平行で垂線hからの距離が0.50mmである線kを設け、ディスクの断面の線が線kと交わる位置を点Bとした。点Aと点Bを結んだ線mを設け、さらに線mに垂直な線tを設け、ディスクの断面の線が線tと交わる位置を点C、線mが線tと交わる位置を点Dとした。そして、点C−D間の距離が最大となるところでの距離をロールオフとして測定した。
【0069】
ロールオフ比は、上記方法を用いて測定した比較例のロールオフを1(基準)とした場合の相対値である。実施例1〜21および比較例1〜20については、比較例3を1(基準)とし、比較例21〜24については、比較例21を1(基準)とした。なお、比較例3のロールオフは、83.5nmであり、比較例21のロールオフは、11.1nmであった。表1〜表4には、シリカ粒子を同組成で含有するが、「水溶性高分子化合物を含有しない」比較例と、「水溶性高分子化合物を含有する」実施例との間のロールオフの相対値(対応する比較例のロールオフに対する実施例のロールオフの比の値)を示した。なお、表1および表2中、ロールオフ比が「測定不可」とは、ピットが多数観察され、上記測定方法でロールオフが測定できない状態であることを示している。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
(4)考察
表1〜表5の結果から、実施例1〜21のようにコロイダルシリカと湿式法シリカ粒子を組み合わせて使用すると、それぞれのシリカ粒子を単独使用した場合から予想される研磨速度よりも有意に高くなっていることがわかる。なお、コロイダルシリカまたは湿式法シリカ粒子をそれぞれ単独使用した場合から予想される研磨速度は、主に湿式法シリカ粒子の含有量と相関関係を有しながら変動すると、一般的に予想される。ところが、例えば実施例1〜5の結果は、この予想を有意に上回る顕著なものである。これは、コロイダルシリカと湿式法シリカ粒子の間で、研磨性能面で相互補完的な関係が生じ、相乗効果として研磨速度を向上させていると考えられる。具体的には、湿式法シリカ粒子とコロイダルシリカを本発明のように組み合わせて使用することにより、湿式法シリカ粒子の表面にコロイダルシリカが付着すると考えられる。このような表面に付着したコロイダルシリカを有する湿式法シリカ粒子が、湿式法シリカ粒子単独使用の場合よりも研磨能力が向上しているものと考えられる。
【0076】
また、実施例1〜21の研磨剤組成物は、ピットや表面粗さ等の表面形状特性においても、研磨性能が向上している。ここでも、表面に付着したコロイダルシリカを有する湿式法シリカ粒子が生成されていると考えられ、その表面に付着したコロイダルシリカの作用により、湿式法シリカ粒子の研磨能力が向上すると同時に、表面平滑性も向上すると考えられる。このように、表面平滑性においてもコロイダルシリカおよび湿式法シリカ粒子の両方の相互補完的関係が生じ、相乗効果が現れていると考えられる。
【0077】
さらに、実施例1〜21の研磨剤組成物では、水溶性高分子化合物を、コロイダルシリカと湿式法シリカ粒子に組み合わせて使用することにより、ロールオフも特異的に低減されている。また、実施例3および18〜21の結果から、水溶性高分子化合物の10質量%水溶液のpHを酸性領域からアルカリ性領域まで変化させた場合、つまり水溶性高分子化合物に含まれる不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位のカルボキシル基の少なくとも一部が塩を形成していたとしても、ロールオフを低減する効果があることが示されている。
【0078】
一方、比較例1と比較例3を比べた場合、コロイダルシリカに水溶性高分子化合物を添加した場合には、ロールオフ低減の効果は見られない。比較例2を見た場合、湿式法シリカ粒子に水溶性高分子化合物を添加してもピットが発生しており、水溶性高分子化合物の効果は見られない。比較例22および23と比較例21を比べた場合、アルミナ粒子に水溶性高分子化合物を添加した場合にはロールオフは低減するどころか、悪化してしまうことがわかる。以上のことから、コロイダルシリカ、湿式法シリカ粒子、および水溶性高分子化合物の3つの要素の組み合わせにより、研磨速度、表面平滑性、ロールオフの3つの研磨特性を良好なものとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の研磨剤組成物は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体などの電子部品の研磨に使用することができる。特に、ガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板などの磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用することができる。さらには、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル−リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の表面研磨に使用することができる。
図1