【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0056】
(1)研磨剤組成物の調製方法
(実施例1〜21、比較例1〜20)
実施例1〜21および比較例1〜20で使用した研磨剤組成物は下記の材料を、下記の含有量または添加量で含んだ研磨剤組成物である。
【0057】
[コロイダルシリカ1](平均粒径(D50):累積体積基準で51nm、市販のコロイダルシリカ) 含有量は表1〜表4に示す。比較例2、9、10、および16には含まれない。
[コロイダルシリカ2](平均粒径(D50):累積体積基準で112nm、市販のコロイダルシリカ) 含有量は表3に示す。実施例1〜16、18〜21、および比較例1〜20には含まれない。
[湿式法シリカ1](平均粒径(D50):0.3μm、市販の湿式法シリカ) 含有量は表1、表3および表4に示す。実施例6〜10、比較例1、3および10〜16には含まれない。
[湿式法シリカ2](平均粒径(D50):0.4μm、市販の湿式法シリカ) 含有量は表2に示す。実施例1〜5および11〜21、比較例1〜9および17〜20には含まれない。
[硫酸]1.34質量%(実施例1〜21および比較例1〜20のすべてで、この濃度に調整した。)
[過酸化水素]0.9質量%(実施例1〜21および比較例1〜20のすべてで、この濃度に調整した。)
[アンモニア]0.22質量%(実施例1〜21および比較例1〜20のすべてで、この濃度に調整した。)
[アクリルポリマー1](東亜合成(株)製、CM−8、重量平均分子量6000) 添加量は表1〜表4に示す。実施例15、16、比較例3〜9および11〜20には含まれない。
アクリルポリマー1の10質量%水溶液のpH値は、通常3.4である。実施例1〜14、17、比較例1、2、10では、この通常のアクリルポリマー1を用いた。
また、アクリルポリマー1に水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH値を5.3、7.6、8.9、および10.8にそれぞれ調整したアクリルポリマー1の10質量%水溶液を準備した。アクリルポリマー1として、実施例18では上記pH値が5.3のものを、実施例19では上記pH値が7.6のものを、実施例20では上記pH値が8.9のものを、実施例21では上記pH値が10.8のものを、それぞれ用いた。
[アクリルポリマー2](東亜合成(株)製、CM−15、重量平均分子量4500) 含有量は表3に示す。実施例1〜14および17〜21、比較例1〜20には含まれない。
アクリルポリマー2の10質量%水溶液のpH値は、通常3.3である。実施例15、16では、この通常のアクリルポリマー2を用いた。
[ラウリル硫酸ナトリウム](東邦化学(株)製、アルスコープLS−30、表4中「LS−30」と示す) 0.02質量%。比較例17および19で使用した。
[ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸ナトリウム](第一工業製薬(株)製、ハイテノール330T、表4中「330T」と示す) 0.02質量%。比較例18および20で使用した。
【0058】
なお、実施例17では、コロイダルシリカ1、コロイダルシリカ2、および、湿式法シリカ1の3種類のシリカ粒子を使用した。含有量を表3に示すが、コロイダルシリカ1とコロイダルシリカ2の含有比は64対22であり、コロイダルシリカ1とコロイダルシリカ2の全体としての平均粒径(D50)は、累積体積基準で63nmであった。
【0059】
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX(200kV))を用いて倍率10万倍の視野の写真を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac−View Ver.4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。コロイダルシリカの平均粒径は前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカの粒子径を解析し、小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒径を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac−View Ver.4.0)を用いて算出した平均粒径(D50)である。
【0060】
湿式法シリカ粒子の平均粒径は、0.4μm以下の粒子では動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装(株)製、マイクロトラックUPA)を用いて、また0.4μmより大きい粒子ではレーザー回折式粒度分布測定機((株)島津製作所製、SALD2200)を用いて測定した。湿式法シリカ粒子の平均粒径は、体積を基準とした小粒径側からの積算粒径分布が50%となる平均粒径(D50)である。
【0061】
(比較例21〜24)
比較例21〜24で使用した研磨剤組成物は下記の材料を、下記の含有量または添加量で含んだ研磨剤組成物である。
[アルミナ](平均粒径(D50):0.4μm、市販のアルミナ) 含有量は表5に示す。
[硫酸]0.91質量%(比較例21〜24のすべてで、この濃度に調整した。)
[HEDP(1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸)]0.61質量%(比較例21〜24のすべてで、この濃度に調整した。)
[過酸化水素]0.46質量%(比較例21〜24のすべてで、この濃度に調整した。)
[アンモニア]0.10質量%(比較例21〜24のすべてで、この濃度に調整した。)
[アクリルポリマー1](東亜合成(株)製、CM−8、重量平均分子量6000) 添加量は表5に示す。比較例21および24には含まれない。
アクリルポリマー1の10質量%水溶液のpH値は、通常3.4である。比較例22、23では、この通常のアクリルポリマー1を用いた。
[ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸ナトリウム](第一工業製薬(株)製、ハイテノール330T、表5中「330T」と示す) 0.06質量%。比較例24で使用した。
【0062】
アルミナ粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定機((株)島津製作所製、SALD2200)を用いて測定した。アルミナ粒子の平均粒径は、体積を基準とした小粒径側からの積算粒径分布が50%となる平均粒径(D50)である。
【0063】
(2)研磨条件
無電解ニッケル−リンめっきした外径95mmのアルミディスクを研磨対象の基板として、下記研磨条件で研磨を行った。
研磨機:システム精工(株)製、9B両面研磨機
研磨パッド:(株)FILWEL社製、P1パッド
定盤回転数:上定盤 −13.0min
−1
下定盤 16.0min
−1
研磨剤組成物供給量:70ml/min
研磨時間:研磨量が1.2〜1.5μm/片面となる時間まで研磨する。(240〜720秒)
加工圧力:120kPa(実施例1〜21、比較例1〜20)、80kPa(比較例21〜24)
【0064】
(3)研磨したディスク表面の評価
(3−1)研磨速度比
研磨速度は、研磨後に減少したアルミディスクの質量を測定し、下記式に基づいて算出した。
研磨速度(μm/min)=アルミディスクの質量減少量(g)/研磨時間(min)/アルミディスク片面の面積(cm
2)/無電解ニッケル−リンめっき皮膜の密度(g/cm
3)/2×10
4
(ただし、上記式中、アルミディスク片面の面積は65.9cm
2、無電解ニッケル−リンめっき皮膜の密度は8.0g/cm
3)
研磨速度比は、上記式を用いて求めた比較例の研磨速度を1(基準)とした場合の相対値である。実施例1〜21および比較例1〜20については、比較例3を1(基準)とし、比較例21〜24については、比較例21を1(基準)とした。なお、比較例3の研磨速度は、0.111μm/minであり、比較例21の研磨速度は、0.325μm/minであった。
【0065】
(3−2)ピット
ピットはZygo社製の走査型白色干渉法を利用した三次元表面構造解析顕微鏡を用いて測定した。Zygo社製の測定装置(New View 5032(レンズ:2.5倍、ズーム:0.5倍))とZygo社製の解析ソフト(Metro Pro)を用いて測定した。得られた形状プロファイルにおいて、ピットがほとんど認められない場合に「○(良)」と評価した。ピットが若干認められた場合に「△(可)」と評価した。ピットが多数認められた場合に「×(不可)」と評価した。評価が「×(不可)」の場合には、目視でもピットを観察することができた。
【0066】
(3−3)表面粗さ(Zygo−Ra)
アルミディスクの表面粗さ(Ra)は、Zygo社製の走査型白色干渉法を利用した三次元表面構造解析顕微鏡を用いて測定した(以下、この方法によって測定した表面粗さを、「Zygo−Ra」という)。測定条件は、Zygo社製の測定装置(New View 5032(レンズ:2.5倍、ズーム:0.5倍))とZygo社製の解析ソフト(Metro Pro)を用い、フィルターはFFT Fixed Pass 波長0.00〜0.08mmとし、測定エリアは5.68mm×4.26mmとした。表面粗さが「測定不可」とは、ピットが認められ、上記測定方法で表面粗さが測定できない状態であることを示している。
【0067】
(3−4)ロールオフ比
端面形状の評価として、端面だれの度合いを数値化したロールオフを測定した。ロールオフはZygo社製の測定装置(New View 5032(レンズ:2.5倍、ズーム:0.5倍)とZygo社製の解析ソフト(Metro Pro)を用いて測定した。
【0068】
ロールオフの測定方法について、
図1を用いて説明する。
図1は、研磨の対象物である無電解ニッケル−リンめっきをした外径95mmのアルミディスクの、ディスクの中心を通過し研磨した表面に対して垂直な断面図を表す。ロールオフの測定にあたり、まずディスクの外周端に沿って垂線hを設け、垂線hから研磨した表面上のディスクの中心に向かって垂線hに対して平行で垂線hからの距離が4.50mmである線jを設け、ディスクの断面の線が線jと交わる位置を点Aとした。また、垂線hに対して平行で垂線hからの距離が0.50mmである線kを設け、ディスクの断面の線が線kと交わる位置を点Bとした。点Aと点Bを結んだ線mを設け、さらに線mに垂直な線tを設け、ディスクの断面の線が線tと交わる位置を点C、線mが線tと交わる位置を点Dとした。そして、点C−D間の距離が最大となるところでの距離をロールオフとして測定した。
【0069】
ロールオフ比は、上記方法を用いて測定した比較例のロールオフを1(基準)とした場合の相対値である。実施例1〜21および比較例1〜20については、比較例3を1(基準)とし、比較例21〜24については、比較例21を1(基準)とした。なお、比較例3のロールオフは、83.5nmであり、比較例21のロールオフは、11.1nmであった。表1〜表4には、シリカ粒子を同組成で含有するが、「水溶性高分子化合物を含有しない」比較例と、「水溶性高分子化合物を含有する」実施例との間のロールオフの相対値(対応する比較例のロールオフに対する実施例のロールオフの比の値)を示した。なお、表1および表2中、ロールオフ比が「測定不可」とは、ピットが多数観察され、上記測定方法でロールオフが測定できない状態であることを示している。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
(4)考察
表1〜表5の結果から、実施例1〜21のようにコロイダルシリカと湿式法シリカ粒子を組み合わせて使用すると、それぞれのシリカ粒子を単独使用した場合から予想される研磨速度よりも有意に高くなっていることがわかる。なお、コロイダルシリカまたは湿式法シリカ粒子をそれぞれ単独使用した場合から予想される研磨速度は、主に湿式法シリカ粒子の含有量と相関関係を有しながら変動すると、一般的に予想される。ところが、例えば実施例1〜5の結果は、この予想を有意に上回る顕著なものである。これは、コロイダルシリカと湿式法シリカ粒子の間で、研磨性能面で相互補完的な関係が生じ、相乗効果として研磨速度を向上させていると考えられる。具体的には、湿式法シリカ粒子とコロイダルシリカを本発明のように組み合わせて使用することにより、湿式法シリカ粒子の表面にコロイダルシリカが付着すると考えられる。このような表面に付着したコロイダルシリカを有する湿式法シリカ粒子が、湿式法シリカ粒子単独使用の場合よりも研磨能力が向上しているものと考えられる。
【0076】
また、実施例1〜21の研磨剤組成物は、ピットや表面粗さ等の表面形状特性においても、研磨性能が向上している。ここでも、表面に付着したコロイダルシリカを有する湿式法シリカ粒子が生成されていると考えられ、その表面に付着したコロイダルシリカの作用により、湿式法シリカ粒子の研磨能力が向上すると同時に、表面平滑性も向上すると考えられる。このように、表面平滑性においてもコロイダルシリカおよび湿式法シリカ粒子の両方の相互補完的関係が生じ、相乗効果が現れていると考えられる。
【0077】
さらに、実施例1〜21の研磨剤組成物では、水溶性高分子化合物を、コロイダルシリカと湿式法シリカ粒子に組み合わせて使用することにより、ロールオフも特異的に低減されている。また、実施例3および18〜21の結果から、水溶性高分子化合物の10質量%水溶液のpHを酸性領域からアルカリ性領域まで変化させた場合、つまり水溶性高分子化合物に含まれる不飽和脂肪族カルボン酸に由来する構成単位のカルボキシル基の少なくとも一部が塩を形成していたとしても、ロールオフを低減する効果があることが示されている。
【0078】
一方、比較例1と比較例3を比べた場合、コロイダルシリカに水溶性高分子化合物を添加した場合には、ロールオフ低減の効果は見られない。比較例2を見た場合、湿式法シリカ粒子に水溶性高分子化合物を添加してもピットが発生しており、水溶性高分子化合物の効果は見られない。比較例22および23と比較例21を比べた場合、アルミナ粒子に水溶性高分子化合物を添加した場合にはロールオフは低減するどころか、悪化してしまうことがわかる。以上のことから、コロイダルシリカ、湿式法シリカ粒子、および水溶性高分子化合物の3つの要素の組み合わせにより、研磨速度、表面平滑性、ロールオフの3つの研磨特性を良好なものとすることができる。