(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
床材とこの床材の表面に存在する床材被膜とからなり、前記床材被膜が床材の表面に存在する下地層とその下地層の表面に存在する表面層とからなる床材被膜構造体であって、
以下の試験方法により算出される質量比(Y/X)が少なくとも1.2となる関係を有する下地層と表面層とを有することを特徴とする床材被膜構造体。
試験方法
床材とその床材の表面に形成された下地層とからなる第1床材被膜構造体における下地層を、剥離剤を使用することなく、水で濡らしつつ研磨したときに、前記下地層から剥離する下地層の固形分の質量(X)に対し、前記床材とその床材の表面に形成された表面層とからなる第2床材被膜構造体における前記表面層を、剥離剤を使用することなく、水で濡らしつつ研磨したときに、前記表面層から剥離する表面層の固形分の質量(Y)の割合(Y/X)を算出する試験方法。
床材とこの床材の表面に存在する床材被膜とからなり、前記床材被膜が床材の表面に存在する下地層とその下地層の表面に存在する表面層とからなる床材被膜構造体における床材被膜の形成方法であって、
前記床材の表面に、請求項1に記載の試験方法により算出される質量比(Y/X)が少なくとも1.2となる関係を有する下地層を形成し、その下地層の表面に請求項1に記載の試験方法により算出される質量比(Y/X)が少なくとも1.2となる関係を有する表面層を形成することを特徴とする床材被膜構造体の製造方法。
床材とこの床材の表面に存在する床材被膜とからなり、前記床材被膜が床材の表面に存在する下地層とその下地層の表面に存在する表面層とからなる床材被膜構造体における床材被膜の再生方法であって、
前記床材被膜構造体の表面を、剥離剤を使用することなく、水で濡らしつつ研磨することによって前記表面層の一部又は全部を剥離する水剥離工程と、
水剥離工程の後に、床材の表面に残存する表面層又は下地層の表面に、前記請求項1に記載の試験方法により算出される質量比(Y/X)が少なくとも1.2となる関係を有する表面層を形成する表面層再生工程とを有することを特徴とする床材被膜の再生方法。
前記水剥離工程では、水剥離工程前における表面層全体に対して、25質量%以上100質量%以下の表面層が剥離されることを特徴とする請求項3に記載の床材被膜の再生方法。
【背景技術】
【0002】
従来、床材の表面には、その表面にワックス(「床用樹脂ワックス」、「床用樹脂仕上げ剤」、「フロアポリッシュ」、及び「樹脂ワックス」等と称されることがある。)を塗布することにより、被膜を形成することが行われている。このように、床材の表面に被膜を形成させることにより、床材の表面における光沢度を上昇させて床材の美観を向上させることができるとともに、床材の表面に汚れ及び傷等が発生することを防止することができる。
【0003】
床材を長期間使用している間に、床材の表面に形成された被膜上を人が歩行したり、汚れの付着した物が前記被膜の表面に置かれたり、被膜上で物品又は物体が擦れながら運搬されたりすることによって、被膜表面には徐々に汚れが蓄積し、及び/又は傷等が多く形成されていく。汚れ及び/又は傷が顕著になった被膜を有する床材は、美観が不良となるため、洗浄が行われ、及び/又は被膜を上塗りされることがある。具体的には、汚れが蓄積し、及び/又は傷の蓄積した被膜を表面洗浄剤により洗浄し、その後、新たにワックスを塗布し、これを乾燥させることにより、被膜の再生が行われる。
しかしながら、表面洗浄剤を用いた被膜の洗浄作業だけでは、除去しきれなかった汚れが再生された被膜中に取り込まれることにより、結局のところ、元通りの被膜を再生することができないという問題が生じる。
したがって、床材の表面に形成された前記被膜を元通りに再生するには、定期的に被膜を完全に剥離し、剥離により露出した床材の表面にワックスを塗布するという作業を強いられることになる。
【0004】
被膜を床材から完全に剥離するために用いられる代表的な方法の一つとして、化学的剥離法が挙げられる。化学的剥離法は、床材に形成された被膜の表面に、アミン類及びアルコール類等を含有する剥離剤を塗布し、床材表面に形成されている被膜を剥離剤中に溶解させながら、被膜の表面を機械的に研磨することによって、被膜を床材から剥離させる方法である。化学的剥離法によって得られる剥離廃液には、人体の健康に悪影響を及ぼすアミン類が含まれている。また、得られる剥離廃液は強いアルカリ性を示し、剥離廃液を処分する際には酸溶液を添加して中和作業を行う必要がある。このように、化学的剥離法において産生される剥離廃液は、人体及び環境に悪影響を及ぼすアミン類を含むとともに、強アルカリ性を呈するので廃棄及び処分に多大なコストを要するという問題がある。
【0005】
また、化学的剥離法で用いられる一般的な剥離剤に含有されているアミン類及びアルコール類は、それぞれアミン臭及びアルコール臭といった独特の異臭を放つ。よって、化学的剥離法により被膜の剥離作業を行う際、及び被膜の剥離作業を行った後の床材近傍には異臭が発生し、作業者及び床材の使用者に不快な印象を与えることがある。したがって、化学的剥離法により再生された被膜を有する床材を有する空間は、前記下異臭によって、直ちに利用することができないという問題もある。
【0006】
被膜を床材から剥離させるために用いられる代表的な他の方法の一つとして、水剥離法が挙げられる。水剥離法は、床材に形成された被膜の表面を水道水等の水で濡らしつつ、水に濡れた被膜表面を機械的に研磨することにより、被膜を床材から剥離させる方法である。水剥離法は、化学的剥離法とは異なり、アミン類及びアルコール類等を含む剥離剤を使用することがなく、産生される剥離廃液が人体及び環境に悪影響を及ぼすことが少ないという長所を有する。また、水剥離法は、剥離作業時及び剥離作業後の床材近傍において、アミン臭及びアルコール臭が発生することがないという長所も有する。
【0007】
しかしながら、水剥離法では、化学的剥離法に比べて、より強力な研磨力を加え、しかも研磨時間を長くすることが必要であり、かつ一般的である。水剥離法において、研磨力を強くしすぎたり、研磨時間を長くしすぎたりすると、被膜が完全に床材から剥離した後もなお研磨が継続されることになり、露出した床材の表面が研磨されてしまうことがある。露出した床材の表面が研磨されると、床材の表面に、研磨材が床材の表面を削った後に発生する削り跡様の傷跡が残る。このような傷跡の残った床材の表面に、ワックスを塗布し、これを乾燥させることによって被膜を形成させると、被膜を介して傷跡のついた床面が観察されることになり、床の美観が損なわれてしまう。
【0008】
一方で、床材の表面に傷跡が残ることを防止するために、研磨力を弱くしすぎたり、研磨時間を短くしすぎたりすると、床材の表面に形成されている汚れ、及び/又は多数の傷のある被膜が完全には剥離されず、蓄積された汚れ、及び/又は多数の傷がついた被膜が床材の表面に残存してしまうことがある。汚れ及び傷のある被膜の上に、ワックスを塗布及び乾燥させることによって新しい被膜を形成させると、新しく形成された被膜を介して汚れ及び傷のついた被膜が観察されることになり、床の美観が損なわれてしまう。
【0009】
以上のように、従来の床材被膜構造体を用いた被膜の再生作業においては、床材の表面を傷つけることなく床材の表面に形成された被膜を完全に除去することが困難であり、また、床材の表面に傷跡を付けないように被膜を除去しようとすると、汚れが蓄積し、及び/又は多数の傷のついた被膜を完全に除去することが困難であるという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、水剥離法を用いる際に、床材に形成されている被膜のうち汚れが蓄積され、及び/又は多数の傷等が形成された領域を完全に除去する一方で、被膜の剥離によって露出した床材の表面が研磨処理によって傷つけられることを防止することのできる床材被膜構造体、床材被膜構造体の製造方法、及び床材被膜の再生方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段は、
床材とこの床材の表面に存在する床材被膜とからなり、前記床材被膜が床材の表面に存在する下地層とその下地層の表面に存在する表面層とからなる床材被膜構造体であって、
以下の試験方法により算出される質量比(Y/X)が少なくとも1.2となる関係を有する下地層と表面層とを有することを特徴とする床材被膜構造体である。
<試験方法>
床材とその床材の表面に形成された下地層とからなる第1床材被膜構造体における下地層を、剥離剤を使用することなく、水で濡らしつつ研磨したときに、前記下地層から剥離する下地層の固形分の質量(X)に対し、前記床材とその床材の表面に形成された表面層とからなる第2床材被膜構造体における前記表面層を、剥離剤を使用することなく、水で濡らしつつ研磨したときに、前記表面層から剥離する表面層の固形分の質量(Y)の割合(Y/X)を算出する試験方法。
前記課題を解決するための他の手段は、
床材とこの床材の表面に存在する床材被膜とからなり、前記床材被膜が床材の表面に存在する下地層とその下地層の表面に存在する表面層とからなる床材被膜構造体における床材被膜の形成方法であって、
前記床材の表面に、前記(1)に記載の試験方法により算出される質量比(Y/X)が少なくとも1.2となる関係を有する下地層を形成し、その下地層の表面に前記(1)に記載の試験方法により算出される質量比(Y/X)が少なくとも1.2となる関係を有する表面層を形成することを特徴とする床材被膜構造体の製造方法である。
前記課題を解決するためのさらに他の手段は、
床材とこの床材の表面に存在する床材被膜とからなり、前記床材被膜が床材の表面に存在する下地層とその下地層の表面に存在する表面層とからなる床材被膜構造体における床材被膜の再生方法であって、
前記床材被膜構造体の表面を、剥離剤を使用することなく、水で濡らしつつ研磨することによって前記表面層の一部又は全部を剥離する水剥離工程と、
水剥離工程の後に、床材の表面に残存する表面層又は下地層の表面に、前記(1)に記載の試験方法により算出される質量比(Y/X)が少なくとも1.2となる関係を有する表面層を形成する表面層再生工程とを有することを特徴とする床材被膜の再生方法であり、
前記床材被膜の再生方法における好適な態様において、前記水剥離工程では、水剥離工程前における表面層全体に対して、25質量%以上100質量%以下の表面層が剥離されることを特徴とする前記(3)に記載の床材被膜の再生方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明における床材被膜構造体にあっては、下地層の表面は表面層によって保護されるので、下地層における汚れ及び傷等(以下、単に「汚れ等」と称することがある。)の蓄積が防止される。表面層は、床材被膜構造体の最も表面側に位置し、床材被膜構造体が長期間床材料として使用される間に、汚れ等を自然に蓄積していく。本発明における床材被膜構造体について、剥離剤を使用することなく、水で濡らしつつ研磨するという水剥離法による被膜の剥離作業を行うと、汚れ等の蓄積した表面層の一部又は全部が下地層から剥離される一方で、汚れ等の少ないか、汚れ等のない下地層は、床材から完全に剥離せず、床材の表面に残存する。これは、本発明の方法における試験方法によって、下地層の固形分の質量(X)に対する、表面層から剥離する表面層の固形分の質量(Y)の割合(Y/X)が1.2以上であることから、表面層よりも下地層のほうが水剥離法による研磨に対する耐久性が大きいので、下地層が、床材から完全に剥離せずに床材の表面に残存することになる。
本発明における床材被膜構造体に水剥離法を用いることによって、汚れ等の目立つ表面層の一部又は全部を剥離させる一方で、汚れ等がない清浄な状態を保つ下地層が床材の表面から完全に剥離してしまうことがなくなり、下地材の完全剥離により床材が研磨されてしまうことによって、床材の表面が傷つけられることを防止することができる。
【0013】
本発明に係る床材被膜構造体の製造方法によると、本発明の試験方法により特定される下地層を床材表面に形成し、次いでその下地層の表面に、本発明の試験方法により特定される表面層を形成した床材被膜構造体が製造される。製造された床材被膜構造体は、水剥離研磨法によって被膜表面を研磨すると、下地層迄は研磨されることがなくて表面層の全部又は一部が研磨され、除去されることになる。そうして露出した下地層の全面又は露出した下地層に一部残存する表面層の表面に、本発明の試験方法により特定される表面層形成用ワックスを塗布することにより、元通りの床材被膜構造体を製造することができる。
本発明における床材被膜の再生方法では、前記水剥離工程において、表面層の一部又は全部が剥離される一方で、床材の表面には下地層が残存する。よって、水剥離工程において床材の表面が露出してしまうことが防止され、床材の表面が研磨されることにより、床材の表面に傷がつくことを防止することができる。また、水剥離工程の後には、蓄積した汚れがあり、あるいは多数の傷等のついた表面層の一部又は全部が除去される一方で、清浄な状態を保つ表面層又は下地層の表面が露出する。
【0014】
そして、本発明における床材被膜の再生方法では、前記水剥離工程に次ぐ表面層再生工程において、清浄な表面層又は下地層の表面に、表面層形成用ワックスが塗布及び乾燥等されることにより、新たに再生表面層が形成される。再生表面層は、汚れ及び傷等を有さず、清浄な外観を有する。表面層再生工程後の床面は、汚れ及び傷等がなく、新品様の優れた美観を呈する。
【0015】
以上のように、本発明における床材被膜構造体、床材被膜構造体の製造方法、及び床材被膜の再生方法を用いることにより、水剥離法による床材の表面における傷の発生を防止しつつ、汚れの蓄積した古い表面層の一部又は全部を、新しい清浄な再生表面層に交換することができる。よって、床材被膜構造体の美観を損なうことなく、被膜の再生が行われる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示されるように、本発明で用いられる床材被膜構造体1は、床材2と、下地層3と、表面層4と、を有する。
【0018】
床材は、その表面に被膜を形成することのできる材質である限りにおいて、その種類は特に限定されない。床材の具体例としては、塩化ビニル等のプラスチック樹脂によって形成されるプラスチック床材、Pタイル、リノリウム、石床、及び木床等が挙げられる。本発明における床材は、また、市販の床材、たとえば田島ルーフィング株式会社の販売するPタイルと称される床材、東リ株式会社の販売する床材、積水化学工業株式会社の販売する床化粧材と称される床材、並びに、その他の企業により販売されているビニル床シート、フロアタイル、及びクッションフロア等と称する床材を含む。
【0019】
下地層は、床材の表面に形成される。下地層は、水剥離法によって床面から剥離されにくいという性質を有することが好ましい。より具体的には、下地層は、床材との密着性が高く、かつ水の浸透性が低いという特性を有することが好ましい。下地層における水の浸透性が低いと、水剥離法による被膜の剥離作業時において、下地層の膜中に存在する僅かな隙間に水が侵入して膜が膨潤することにより、下地層が床面から剥離されやすくなることを防止することができる。
【0020】
下地層は、たとえば、床材の表面に下地層形成用ワックスを塗布した後に、前記下地層形成用ワックスを乾燥させることにより形成することができる。下地層を形成するには、床材の表面に、下地層形成用ワックスを塗布し、それを乾燥した後に、高速バフ機等のバフィングマシンを用いて、下地層の表面をバフ掛けすることが好ましい。バフ掛け時に発生する摩擦熱によって、下地層は、緻密な被膜を形成し、下地層における水の浸透性が抑えられ、水剥離法によっても床材の表面から剥離されにくくなる。尚、下地層形成用ワックスとして耐水性に優れたワックスを使用する場合には、バフィングマシンを用いたバフ掛けを行わなくてもよい。
【0021】
下地層形成用ワックスとして、例えば、アクリルポリマー、ポリエチレン、ウレタンポリマー、可塑剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤、金属塩、及びグリコールエーテル系溶剤等を含む、市販の床用樹脂仕上げ剤を使用することができる。下地層形成用ワックスの具体例として、バフィングマシンを用いたバフ掛けによって被膜表面の光沢が復元されやすいドライメンテナンス用製品が挙げられ、一例として「エクスプローラー」(株式会社つやげん)、「シグニチャー」(シーバイエス株式会社)、「ユシロンコートプライムナビ」(ユシロ化学工業株式会社)等が挙げられる。これらドライメンテナンス用製品は、塗布及び乾燥した後に、バフ掛けを行うことで被膜の耐水性が向上し、水剥離法によって被膜が剥離されにくくなるという特性を有する。また、下地層形成用ワックスとして、耐水性に優れた成分が含有される製品を用いることができる。耐水性に優れた成分が含有される製品によって形成される下地層は、水剥離によって剥離されにくく、床材への密着性にも優れる。耐水性に優れた成分が含有される製品の一例として「超密着樹脂」(株式会社つやげん)、「ワクスルアンダーコート」(一般社団法人 床ワックスをリサイクルする会)等が挙げられる。これらの耐水性に優れた成分が含有される製品は、前記ドライメンテナンス用製品とは異なり、バフ掛けを行う必要がないので、より好ましい。また、表面層が水剥離工程において剥離され、表面層形成用ワックスの塗布及び乾燥によって再生されるのとは異なり、下地層は長期にわたって床材の表面上において更新されることなく使用され続けるので、黄変やクラックの発生等の不具合の少ない下地層を形成する下地層形成用ワックスを使用することが好ましい。また、金属架橋を含まないワックスも剥離が必要となった際に表面洗浄剤やアルカリイオン水等により容易に剥離できるので、好ましい。
【0022】
表面層は、下地層の表面側に形成される。具体的には、表面層は下地層の表面に形成されていてもよいし、表面層は下地層の表面に形成された下地層以外の層の表面に形成されていてもよい。表面層の表面は外部に露出する。床材被膜構造体を床の材料として長期間に亘って使用すると、表面層が異物と接触したり、擦れたりすることによって、表面層の表面近傍から徐々に汚れ等が蓄積していく。一方で、表面層の裏面近傍には汚れ及び傷等が達しにくく、表面層の裏面近傍は比較的清浄な状態が保たれる。また、下地層では、その表面が被覆、保護されることにより、汚れ等が蓄積することが防止される。尚、下地層と表面層との間には、下地層を構成する成分と表面層を構成する成分とが含まれる混成層が含まれていてもよい。
【0023】
表面層は、水剥離法によって、剥離されやすいという性質を有することが好ましい。水剥離法は、被膜が形成された床面を、剥離剤を使用することなく、水で濡らしつつ研磨することにより行われる。水剥離法における床面の研磨時には、研磨機はまず表面層の表面を研磨し、表面層は研磨機によって粉粒状に破砕されながら床面から剥離される。表面層の剥離によって得られる粉状体は、床面に加えられた水中に溶解又は分散しながら、剥離廃液として回収される。水剥離による表面層の剥離過程では、後述するように、水剥離機を表面層上で往復することによって行われる。水剥離機の往復回数は、床面を目視によって観察した際の清浄度、及び被膜における傷の深さ等の各種条件によって決定され、例えば1往復で表面層の剥離が不十分であると判断されれば、さらに1往復追加で行い、表面層における汚れ及び傷等を有しない表面が露出するまで、繰り返し水剥離機の往復を行うことができる。この水剥離によって剥離される表面層から剥離する固形分の質量は、表面層全体の質量に対して、25質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0024】
表面層は、下地層の表面に表面層形成用ワックスを塗布し、この表面層形成用ワックスを乾燥させることにより形成される。表面層形成用ワックスとしては、例えば、アクリルポリマー、ポリエチレン、ウレタンポリマー、可塑剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤、金属塩、及びグリコールエーテル系溶剤等を含む、市販の床用樹脂仕上げ剤を使用することができる。特に、水剥離法で下地層よりも剥離されやすく、下地層との密着性に優れ、ブラックヒールマーク及びスカッフマーク等の汚れ並びに傷等がつきにくい層を形成することのできる表面層形成用ワックスを使用することが好ましい。また、水剥離法での研磨後に表面層形成用ワックスを新たに塗布する際に、研磨によって生じた表面凹凸の修復性に優れ、表面層形成用ワックスの塗布量が少なくても光沢が復元しやすい表面層形成用ワックスを使用することが好ましい。このような表面層形成用ワックスの具体例として、商品名「ノンブラック」(株式会社つやげん)、「ワクスルトップコート」(一般社団法人 床ワックスをリサイクルする会)等が挙げられる。
【0025】
下地層は、その厚さが2μm以上15μm以下であることが好ましい。また、表面層は、その厚さが2μm以上15μm以下であることが好ましい。下地層及び表面層の厚さが前記数値範囲内にあると、水剥離法によって被膜の剥離を行った際に、表面層における汚れ及び傷等の蓄積した領域が剥離される一方で、下地層がより確実に床材の表面に残存する。下地層及び表面層の厚さは、使用したワックスの不揮発成分の量、ワックス中において被膜を形成する成分の密度、実際に塗布したワックスの重量、及び実際に塗布したワックスの面積を用いて計算される。例えば、被膜を形成する主成分がアクリルポリマーであり、不揮発成分の量が20質量%であるワックスをm
2当り20g塗布する場合には、アクリルポリマーの密度を1.2g/cm
3として計算することにより、被膜の膜厚は3.3μmと求められる。尚、下地層又は表面層が、複数層によって構成される場合には、これら複数層の層厚の合計を、下地層又は表面層の層厚とすることができる。
本発明において重要なことは、下地層の材質と表面層の材質との組み合わせである。単に最適な組み合わせという意味ではなく、水剥離法で表面層の全部又はほぼ全部を剥離する際に下地層をも水剥離することなく表面層の全部又はほぼ全部を好適に剥離することのできる下地層の材質と表面層の材質との組み合わせが重要である。
本発明においては、以下に説明する試験方法(水剥離試験方法)によって算出される質量比(Y/X)が少なくとも1.2、好ましくは少なくとも1.5となる関係を有する材質の下地層と表面層との組み合わせが重要である。なお、Y/Xの上限値は特に制限されないが、2.5以下であることが好ましい。この組み合わせによる下地層と表面層とからなる床材被膜を有する床材被膜構造体にあっては、剥離剤を使用することなく、水で表面層を濡らしつつ表面層を研磨すると、下地層まで剥離するほどのことがなくて、表面層のみを研磨し、これを除去することができる。
【0026】
水剥離試験は、床材とその表面に形成された下地層とからなる第1床材被膜構造体、及び床材とその表面に形成された表面層とからなる第2床材被膜構造体それぞれが、試験体として用いられる。
【0027】
水剥離試験においては、前記第1床材被膜構造体及び第2床材被膜構造体を準備する。
具体的には、床材の表面に、下地層形成用ワックスを一回又は複数回塗布及び乾燥することにより第1床材被膜構造体を得ることができる。また、床材の表面に、表面層形成用ワックスを、一回又は複数回塗布及び乾燥することにより第2床材被膜構造体を得ることができる。床材の平面積は一枚の第1床材被膜構造体単独で、又は複数の第床材被膜構造体全体で10m
2以上20m
2以下程度であればよい。第2床材被膜構造体についても、第1床材被膜構造体と同様に、全体で10m
2以上20m
2以下程度であればよい。
【0028】
次に、第1床材被膜構造体及び第2床材被膜構造体それぞれの表面が水に濡らされる。水の種類は特に制限されるものではなく、例えば水道水を用いることができる。下地層及び表面層それぞれを濡らす水のpHは、概ね中性であればよく、例えば水道法の水質基準において定められている値である5.8以上8.6以下であればよい。前記水には、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等のアルカリ性の物質を加える必要がなく、従来用いられてきた剥離剤の成分であるアミン類、アルコール類、及びエーテル類を加える必要がない。第1床材被膜構造体及び第2床材被膜構造体それぞれの表面、つまり下地層及び表面層それぞれの表面を水で濡らす態様は特に制限されず、例えば水を散布してもよく、又は水を含ませた部材で前記下地層及び表面層それぞれの表面を濡らしてもよい。床面に水を散布する方法は特に制限されないが、後述する水剥離機を使用することにより、第1床材被膜構造体及び第2床材被膜構造体それぞれの表面つまり下地層及び表面層の表面に水を散布することが好ましい。水剥離機には、水を収容するタンクと、水を噴射する噴射ノズルと、タンクと噴射ノズルとの間を接続するチューブと、噴射ノズルからの水の噴射のオンオフを行う手元レバーとが備え付けられる。手元レバーのオンオフにより水の散布量を制御して、床面に水を散布することができる。水剥離機を用いて水を散布することにより、水研磨機による被膜の研磨作業の直前に水を散布することができる。
【0029】
次に、水剥離機で、第1床材被膜構造体における下地層の表面、及び第2床材被膜構造体における表面層を、研磨する。水剥離機は、床面に研磨力を加えられる従来公知の装置を用いることができる。水剥離機としては、「オーボット」(フラビーオービタルシステムズ インコーポレイテッド)、「トレールスターAAP−140II」(アマノ株式会社)、「エッジ20」(蔵王産業株式会社)、「マイクロマグ600」(蔵王産業株式会社)、「ブースト20」(株式会社リンレイ)、「TSオービタル」(株式会社テナントカンパニージャパン)等を使用することができる。
研磨材としては、硬いナイロン繊維を編みこんだパッドに、酸化アルミニウム等の研磨粒子を含ませたフロアパッドという樹脂ワックスを研磨する性質を有する部材を用いることができる。研磨材の典型例としては、「SPP サーフェスプリパレーションパッド」(スリーエムジャパン株式会社)及び「ミディアムスクレイピングパッド」(インテックスソリューション株式会社)等が挙げられる。
研磨材の通過速度は、特に制限されない。例えば1分当たり2.6m
2の面積の下地層の表面、又は表面層の表面を通過するように、研磨材を通過させることが好ましい。第1床材被膜構造体及び第2床材被膜構造体の表面への水の散布量、水剥離機の種類、研磨材の種類、及び研磨材の通過速度等は、被膜の種類、膜厚等に応じて適宜変更することができる。但し、水剥離試験の際には、研磨の際中に、下地層又は表面層が全て剥離されてしまい、床材の表面が露出することがないように、各種の条件を調整する必要がある。
【0030】
第1床材被膜構造体の表面及び第2床材被膜構造体の表面の研磨を行うことにより、下地層又は表面層の成分が水中に溶解又は分散した剥離廃液が回収される。具体的には、水剥離を行った後の第1床材被膜構造体及び第2床材被膜構造体それぞれの表面上に剥離廃液が存在するので、剥離廃液回収手段たとえば、フロアスクイージー等を用いてそれぞれの表面に残存する剥離廃液を回収して、回収容器たとえばバケツ等に移せばよい。回収された第1床材被膜構造体からの剥離廃液、回収された第2床材被膜構造体からの剥離廃液それぞれを固液分離することにより、第1床材被膜構造体由来の剥離廃液中に溶存又は分散する被膜の固形分、及び第2床材被膜構造体由来の剥離廃液中に溶存又は分散する被膜の固形分それぞれが、固形分として回収される。前記固液分離は、剥離廃液に凝集剤を添加し、撹拌することにより行われる。凝集剤の種類の具体例としては、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、及びポリ硫酸第二酸鉄等の無機凝集剤、並びに、アニオン性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤、及び両性高分子凝集剤等の高分子凝集剤が挙げられる。剥離廃液に添加される凝集剤の一例として、特許第5468171号公報に開示されているように、無機凝集剤である硫酸アルミニウムを7質量%、高分子凝集剤であるポリグルタミン酸の架橋体を3質量%、並びに、増量剤である硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、及び炭酸ナトリウムを合計で90質量%含有する凝集剤が挙げられる。凝集剤の添加量は、撹拌後の濾液を完全に透明にするのに必要な最小限の量とすることが好ましい。固液分離した後は、ろ過によって固形分のみを回収することができる。具体的には、固液分離したあとの固形分と液状分とを、ろ布で濾すことにより、ろ布で包まれた固形分のみが回収される。
【0031】
ろ過によって回収された第1床材被膜構造体由来の固形分、及び第2床材被膜構造体由来の固形分それぞれが、乾燥される。固形分を乾燥するには、常温条件下で固形分を静置してもよいし、高温条件下の乾燥器内に固形分を静置してもよい。乾燥した後の固形分の重量を秤量することにより、水剥離試験によって下地層から剥離した固形分、及び表面層から剥離した固形分それぞれの重量が求められる。より具体的には、乾燥した後の固形分の重量から、添加した凝集剤の重量を差し引くことにより、水剥離試験によって下地層から剥離した固形分、及び水剥離試験によって表面層から剥離した固形分の重量が求められる。
【0032】
各種の下地層形成用ワックスで下地層を形成した多数の第1床材被膜構造体、各種の表面層形成用ワックスで表面層を形成した多数の第2床材被膜構造体について前記水剥離試験を行うことにより、下地層から剥離した固形分及び表面層から剥離した固形分を算出する。そして、本発明に係る床材被膜構造体にあっては、前記水剥離試験を行って得られた下地層の固形分(X)、及び前記水剥離試験を行って得られた表面層の固形分(Y)それぞれの重量から、質量比(Y/X)が少なくとも1.2となる関係を有する下地層形成用ワックスで形成される下地層と表面層形成用ワックスで形成される表面層とを、床材の表面にこの順に形成してなる。
本発明に係る床材被膜構造体にあっては、剥離剤を使用することなく、水で濡らしつつ研磨するという水剥離法による被膜の剥離作業を行うと、汚れ等の蓄積した表面層の一部又は全部が下地層から剥離される一方で、汚れ等の少ないか、汚れ等のない下地層は、床材から完全に剥離せず、床材の表面に残存するので、汚れの蓄積した表面層を水剥離法による剥離作業の後に表面層形成用ワックスを塗布することにより、再び汚れや傷のない新品同様の床材被膜構造体に再生することができる。
【0033】
次に、本発明で用いられる床材被膜構造体の製造方法について説明する。
【0034】
まず、被膜形成の対象となる床材の表面を、掃除機等を用いて除塵する。床材は、既に建物の床に敷設された後の状態であってもよいし、建物の床に敷設される前の状態であってもよい。床材が建物の床に敷設される前の状態において、床材の平面形状の典型例としては、菱形、長方形、正六角形等の多角形状等が挙げられる。次に、下地層形成用ワックスをなじませたモップを用いて、床材の表面に下地層形成用ワックスを塗布する。下地層形成用ワックスを塗布する際には、塗布の回数を変えることによって、床材の表面に形成される下地層の層数を調節することができる。床材の表面に形成される下地層は、1層であってもよいし、複数層であってもよい。本発明においては、床材の表面に1回〜3回程度重ねて下地層形成用ワックスを塗布することにより、1〜3層の下地層を設けることが好ましい。下地層形成用ワックスの塗布後は、常温条件下で所定の時間放置し、下地層形成用ワックスを乾燥させることにより、床材の表面に下地層を形成させることができる。例えば、20分以上40分以下程度の乾燥によって、下地層を形成させることができる。尚、通常、既に建物の床に床材が敷設された状態において、床材の表面における除塵作業及びワックス塗布作業が行われる。
【0035】
次いで、下地層の表面に表面層形成用ワックスを塗布する。このとき、質量比(Y/X)が少なくとも1.2となる関係を有する表面層形成用ワックスが選択される。
表面層形成用ワックスは、表面層形成用ワックスを塗布する際には、塗布の回数を変えることによって、下地層の表面に形成される表面層の層数を調節することができる。下地層の表面に形成される表面層は、1層であってもよいし、複数層であってもよい。本発明においては、下地層の表面に1回〜3回程度重ねて表面層形成用ワックスを塗布することにより、1〜3層の表面層を設けることが好ましい。表面層形成用ワックスの塗布後は、常温条件下で所定の時間放置し、表面層形成用ワックスを乾燥させることにより、下地層の表面に表面層を形成させることができる。例えば、20分以上40分以下程度の乾燥によって、表面層を形成させることができる。
【0036】
次に、本発明における床材被膜の再生方法について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0037】
図2の(A)〜(C)の左列における床材被膜構造体11Aで示されるように、長期間に亘って床材被膜構造体が床に敷設されて使用されることにより、表面層14Aには汚れ18が蓄積し、また多くの傷19等が形成される。具体的には、表面層14Aの表面において繰り返し土足で歩行されたり、塗料及び清涼飲料水等の各種の液体が表面層の表面に溢されたり、表面層の表面に塵及び埃等が堆積したりすることによって、表面層14Aは変色し、汚れが目立つようになる。また、表面層14Aの表面で机、椅子等の脚部が擦られることにより、表面層14Aの表面に傷が目立つようになることもある。汚れ18及び傷19等は、表面層14Aの表面近傍の領域に偏在して形成される。一方で、表面層14Aの裏面近傍の領域、及び下地層13には、長期間の使用後であっても、汚れ及び傷は蓄積されにくい。表面層14Aにおける汚れ18及び傷19が目立つ床材被膜構造体11Aでは、汚れ18及び傷19の蓄積した表面層14Aの一部又は全部を剥離し、新たに再生表面層14Bを形成することが好ましい。
【0038】
水剥離工程では、
図2の(1)で示されるように、汚れ18及び傷19等の蓄積した表面層14Aの一部又は全部が剥離される。より具体的に、水剥離工程では、適量の水で表面層14Aの表面を濡らし、水剥離機を用いて表面層に研磨力を加えることにより、表面層14Aの一部又は全部が剥離される。表面層14Aを濡らす水は、特に制限されるものではなく、例えば水道水を用いることができる。表面層を濡らす水のpHは、概ね中性であればよく、例えば水道法の水質基準において定められている値である5.8以上8.6以下であればよい。表面層14Aを濡らす水には、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ性の物質を加える必要がなく、従来用いられてきた剥離剤の成分であるアミン類、アルコール類、及びエーテル類を加える必要もない。よって、水剥離工程では、作業者が安全に剥離作業を行うことができる。
【0039】
前記水剥離工程における水剥離機は、床面に研磨力を加えられる従来公知の装置を用いることができる。水剥離機としては、「オーボット」(フラビーオービタルシステムズ インコーポレイテッド)、「トレールスターAAP−140II」(アマノ株式会社)、「エッジ20」(蔵王産業株式会社)、「マイクロマグ600」(蔵王産業株式会社)、「ブースト20」(株式会社リンレイ)、「TSオービタル」(株式会社テナントカンパニージャパン)等を使用することができる。研磨材としては、硬いナイロン繊維を編みこんだパッドに、酸化アルミニウム等の研磨粒子を含ませたフロアパッドという樹脂ワックスを研磨する性質を有する部材を用いることができる。研磨材の典型例としては、「SPP サーフェスプリパレーションパッド」(スリーエムジャパン株式会社)及び「ミディアムスクレイピングパッド」(インテックスソリューション株式会社)等が挙げられる。床面への水の散布量、水剥離機の種類、研磨材の種類、及び研磨材の通過速度等は、被膜の種類、膜厚等に応じて適宜変更することができる。
【0040】
水剥離工程において、水剥離機によって加えられた研磨力により、表面層は粉粒状に破砕されながら床材被膜構造体から徐々に剥離していく。
図2の(A)〜(C)で示されるように、水剥離工程(1)において、表面層14Aの一部のみが剥離されてもよいし、表面層14Aの全部が剥離されてもよい。
【0041】
図2の(A)では、水剥離工程(1)において、汚れ及び傷等が形成されていない表面が露出するまで、表面層14Aの一部が剥離される。水剥離工程(1)後において、表面層14Aは汚れ18及び傷19等を有しない表面を露出する。水剥離工程(1)後に形成される床面20Aでは、研磨によって微細な凹凸が観察されることがあるが、水剥離工程(1)前に表面に存在した汚れ18及び傷19等が除去されている。
【0042】
図2の(B)では、水剥離工程(1)において、表面層14Aの全部が剥離される一方で、下地層13は剥離されない。
図2の(B)の例では、水剥離工程(1)後に、表面層14Aの裏面と接合していた下地層13の表面が露出する。露出した下地層13の表面は、表面層14Aによって保護されていたことにより、床材料として長期間使用した後であっても、汚れ及び傷等が蓄積していない。よって、水剥離工程(1)後に形成される床面20Bでは、研磨によって微細な凹凸が観察されることがあるが、水剥離工程(1)前に存在した汚れ18及び傷19等が除去されている。
【0043】
図2の(C)では、水剥離工程(1)において、表面層14Aの全部が剥離されるとともに、下地層13の一部も剥離される。
図2の(C)の例では、水剥離工程(1)において、表面層14Aが全て剥離された後、水剥離機は下地層13の表面を研磨し、下地層3の一部が剥離される。下地層13は、水剥離工程(1)において床材12から剥離されにくく、床材12の表面が保護される。下地層13の一部は水剥離工程(1)において剥離されてしまうことがあるが、床材12の表面の一部を露出させない程度に、下地層13は床材12の表面において残存する。よって、水剥離工程において、水剥離機における研磨材と床材12の表面とが接触し、床材12の表面が研磨材によって研磨されることが防止される。水剥離工程後(1)には、床材12の表面に下地層13が残存し、清浄な状態を保った下地層13の表面が露出する。よって、水剥離工程(1)後に形成される床面20Cでは、研磨によって微細な凹凸が観察されることがあるが、水剥離工程(1)前に表面に存在した汚れ18及び傷19等が除去されている。
【0044】
次に、表面層再生工程(2)において、下地層3の表面側に新たに再生表面層14Bを設ける。具体的には、
図2の(A)の例では、水剥離工程(1)後に露出した表面層14Aの表面に、再生表面層形成用ワックスを塗布する。
図2の(B)及び(C)の例では、水剥離工程(1)の後に露出した下地層13の表面に、再生表面層形成用ワックスを塗布する。
再生表面層形成用ワックスは、質量比(Y/X)が少なくとも1.2となる関係を有する表面層形成用ワックスが選定される。この場合、床材被膜構造体11Aにおける下地層は、第1床材被膜構造体について下地層から水剥離試験法によって剥離した固形分が既知であり、下地層を形成する下地層形成用ワックスの種類も既知であるとする。
尚、
図2の水剥離工程(1)の後における床面20A、20B、及び20Cには、いずれも微細な凹凸が表面に形成されることがある。このような場合には、再生表面層形成用ワックスとして、凹部への埋入性に優れたワックスを使用することにより、少ない塗布量で再生表面層の表面において光沢を復元することができる。
【0045】
再生表面層形成用ワックスの塗布作業は、例えば、再生表面層形成用ワックスをなじませたモップを用いて、表面層又は下地層の表面に1〜3回程度、再生表面層形成用ワックスを塗り重ねることによって行われる。再生表面層形成用ワックスの塗布後は、常温条件下で所定の時間放置し、再生表面層形成用ワックスを固化させることにより、下地層13の表面側に再生表面層14Bが新たに形成される。新たに形成された再生表面層14Bには汚れ及び傷等が蓄積していないので、新品様で清浄な印象を与えることのできる床材被膜構造体11Bが得られる。
【0046】
水剥離工程(1)前における表面層14Aと、表面層再生工程(2)後における再生表面層14Bとは、同じ組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。前記表面層14Aと前記再生表面層14Bとを同じ組成にするには、表面層14Aの形成に用いる表面層14A形成用ワックスと、再生表面層14Bの形成に用いる再生表面層14B形成用ワックスとに、同じ種類のワックスを使用すればよい。前記表面層14Aと前記再生表面層14Bとを異なる組成にするには、表面層14Aの形成に用いる表面層14A形成用ワックスと、再生表面層14Bの形成に用いる再生表面層14B形成用ワックスとに、異なる種類のワックスを使用すればよい。
【0047】
図2に示されるように、床材被膜の再生方法を用いることによって、汚れ18及び傷19等が表面に目立つ表面層14Aの一部又は全部を除去し、汚れ及び傷等の目立たない清浄な表面を有する再生表面層14Bが形成される。表面層14Aの表面と再生表面層14Bの表面との光沢度を測定することによって、それぞれの表面における汚れ及び傷等の蓄積の度合いを評価することができる。一般的に、被膜の表面に汚れ及び傷等が蓄積すると、表面の光沢度が低下してしまう。よって、汚れ18及び傷19等の目立つ表面層14Aは、再生表面層14Bに比べて、表面の光沢度が小さい。表面の光沢度の測定は、市販の光沢度測定計を使用することによって行うことができる。
【0048】
本発明における床材被膜の再生方法では、水剥離工程によって、表面層における汚れ及び傷等の蓄積した領域を完全に剥離することができる一方で、汚れ及び傷等の蓄積していない下地層は剥離されにくく、床材の表面に残留する。床材の表面は、残留する下地層によって保護され、水研磨機によって研磨されることが防止されるので、水剥離工程において床材の表面に傷が生じることを防止することができる。また、水剥離工程後に行われる表面層再生工程において、表面層又は下地層の表面に新たに表面層形成用ワックスを塗り直し、再生表面層を形成させることにより、汚れ及び傷の目立たない、新品様の床材被膜構造体が得られる。以上より、本発明に係る床材被膜構造体及び床材被膜の再生方法を用いることにより、水剥離法の研磨によって床材の表面に傷を生じさせることを防止することができるとともに、表面層における汚れ及び傷等の蓄積した領域のみを剥離し、清浄な表面を有する再生表面層を得ることができる。
【0049】
(実験例1)
[下地層の水剥離試験]
以下の(1)〜(4)の手順により、下地層形成用ワックスの塗布及び乾燥により形成される下地層から、水剥離試験によって剥離される下地層の固形分の乾燥重量を求めた。尚、下地層形成用ワックスとしては、「ワクスルアンダーコート」(一般社団法人 床ワックスをリサイクルする会)を用いた。
【0050】
(1)ワックスの塗布
一辺が30cmの正方形からなる塩化ビニル製タイルが敷設され、平面積が17.5m
2である床面に、フラットモップで下地層形成用ワックスを塗布し、完全乾燥させた。1層目の被膜が形成された後に、2層目の下地層形成用ワックスの塗布、乾燥を行い、次いで、3層目の下地層形成用ワックスの塗布、乾燥を行うことにより、合計3回下地層形成用ワックスを塗り重ねた。下地層形成用ワックスの塗布量は、1層目、2層目、及び3層目ともに20g/m
2であった。下地層形成用ワックスの塗布、乾燥後には、床材の表面において3層からなる下地層が形成された床面が得られた。
【0051】
(2)水剥離
前記「(1)ワックスの塗布」を行ってから1週間後に、水剥離機であるオーボット(フラビーオービタルシステムズ インコーポレイテッド)を用いて水剥離を行った。具体的に、オーボットの回転盤の上に22kgの重しを載せ、クッションパッド(インテックスソリューション株式会社)をオーボットの回転盤に装填した後に、ミディアムスクレイピングパッド(インテックスソリューション株式会社)を装填し、剥離剤を含まない水道水を少量床面に噴霧しながら、被膜が形成された床面を研磨し、剥離廃液を回収した。研磨作業は、60cc/m
2の水を床面に噴霧し、2.6m
2/分の速度で同じ場所を1往復することにより行った。オーボットの回転盤の回転速度は、80rpmであり、回転盤は楕円軌道を描くように振動しながら回転していた。尚、この研磨作業を、合計3回、繰り返し行った。
【0052】
(3)剥離廃液の凝集
前記「(2)水剥離」において回収された剥離廃液に、撹拌後の上澄み液が透明になるまで凝集剤を添加し、剥離廃液を撹拌した。濾液が完全に透明になった時点で、ろ布を用いて液状分及び固形分をろ過し、固形分のみを回収した。
【0053】
(4)層残渣重量の計測
まず、ろ過によって得られた固形分を、ろ布に包んだまま手で絞ることにより、固形分に含まれている大方の水分を取った。次に、固形分をろ布に入れたまま、日中でも日陰となる野外の場所に静置し、固形分を乾燥させた。経時的に、乾燥後のろ布入り固形分の重量を秤量し、重量の減少が見られなくなった時点において、固形分が完全乾燥したと判断した。なお、固形分の重量の秤量には、KD320(株式会社タニタ)を用いた。秤量結果から、ろ布の重量、及び上記(3)の段階で添加した凝集剤の重量を差し引き、層残渣の重量を求めた。結果を、以下の表1における「乾燥後層残渣重量」の欄に示す。また、層残渣の重量を、床面の平面積である17.5で割り、「面積当たりの乾燥後層残渣重量」を求めた。尚、上記(3)の段階で添加した凝集剤は、全量が層残渣中に取り込まれたと仮定して計算を行った。以下の表1において、下地層の水剥離試験結果を示す。
【0055】
(実験例2)
[表面層の水剥離試験]
下地層形成用ワックスの代わりに、表面層形成用ワックスとして「ワクスルトップコート」(一般社団法人 床ワックスをリサイクルする会)を用いたこと以外は、実験例1と同様にして実験を行った。以下の表2において、表面層の水剥離試験結果を示す。
【0057】
上記実験例1及び実験例2において、乾燥後の層残渣重量は、水剥離試験によって剥離された下地層又は表面層の固形分の重量に相当する。表1及び表2における「乾燥後層残渣重量」を以下の表3にまとめて、比較した。また、水剥離試験によって剥離された下地層の固形分の重量をX(g)、表面層の固形分の重量をY(g)とし、研磨回数1回目、2回目、及び3回目のそれぞれについて、Y/Xの値を計算した。以下の表3において、実験例1及び2における乾燥後残渣重量の測定結果を示す。
【0059】
実験例1及び2によって、表面層は、下地層に比べて、水剥離によってより剥離しやすいことが示された。具体的には、1回目、2回目、及び3回目の研磨のいずれにおいても、水剥離によって表面層から剥離した固形分の重量は、水剥離によって下地層から剥離した固形分の重量の1.2倍以上であった。また、1回目の研磨によって残存する被膜が水により十分に膨潤した後に行われる、2回目及び3回目の研磨では、水剥離によって表面層から剥離した固形分の重量は、水剥離によって下地層から剥離した固形分の重量に対して、1.5倍以上であった。
【0060】
(実施例1)
[床材被膜構造体の水剥離試験]
下地層と表面層とを備えた床材被膜構造体について、以下の方法により、水剥離工程と再生表面層形成工程とを行い、床面の光沢度の測定、及び床材の表面における研磨痕の有無の観察等を行った。
【0061】
(1)下地層及び表面層の作製
一辺が30cmの正方形からなる塩化ビニル製タイルが敷設され、平面積が17.5m
2である床面に、ワクスルアンダーコート(一般社団法人 床ワックスをリサイクルする会)を、1回当たり20g/m
2の塗布量となるように、2回塗布及び乾燥させ、2層からなる下地層が形成された。次に、下地層の表面に、ワクスルトップコート(一般社団法人 床ワックスをリサイクルする会)を、1回当たり20g/m
2の塗布量となるように、2回塗布及び乾燥させ、2層からなる表面層が形成された。
【0062】
(2)水剥離工程
下地層及び表面層を作製してから一週間後に、床面を水で濡らしながら研磨を行った。研磨は、上記段落番号0052欄に記載した条件に従って行った。尚、床面をA面とB面とに2分割し、A面では研磨を2回行い、B面では研磨を3回行った。水剥離工程の後に、床材の表面には下地層の薄膜が残存していること、及び床材の表面には研摩痕が生じていないことを目視にて確認した。
【0063】
(3)表面層再生工程
前記(2)の水剥離工程後に、床面に前記ワクスルトップコートを2回塗布、乾燥させることにより、2層からなる再生表面層を形成させた。再生表面層の表面における光沢度は、A面で87であり、B面で86であった。
【0064】
(4)水剥離工程(2度目)
前期(3)の表面層再生工程の一週間後に、床面を水で濡らしながら研磨を行った。研磨は、段落番号0052欄に記載した条件に従って行った。前記段落番号0052欄とは異なり、前記段落番号0063欄で行ったのと同様の区割りにて、床面をA面とB面に2分割し、A面については研磨を合計2回、B面については研磨を合計3回行った。2度目の水剥離工程後に、床材表面には下地層の薄膜が残存していること、及び床材の表面には研摩痕が生じていないことを目視にて確認した。
【0065】
(5)表面層再生工程(2度目)
水剥離工程後に、A面、B面ともに、床面に前記ワクスルトップコートを2回塗布、乾燥させることにより、2層からなる再生表面層を形成させた。再生表面層の表面における光沢度は、A面で87、B面で86であった。このことから、水剥離工程と表面層再生工程とを複数回繰り返しても、表面層の光沢度は、表面層形成初期の値と殆ど変化がなく、床面の美観が維持されることが確認された。
【0066】
(実施例2)
前記「(2)水剥離工程」において、研磨を合計7回行ったこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。具体的に、7回の研磨のうち、最初の6回の研磨は、実施例1と同様に行った。7回の研磨のうち、最後の1回の研磨は、最初の6回の研磨とは異なる条件で、完全に下地層が剥離され、床材に僅かに傷が付く程度にまで水剥離機を操作した。最初の6回の研磨後には、床材の表面には研摩痕が生じていないことが目視にて確認されたが、最後の1回の研磨後には、床材の表面に僅かに傷として研磨痕が生じていることを目視にて確認した。また、1回の研磨が終わる毎に、床面に残存する剥離廃液を回収した。次いで、剥離廃液の凝集、及び層残渣重量の計測を実験例1の方法に従って行った。
【0067】
次に、水剥離工程において、表面層及び下地層が剥離された量を、以下の計算によって求めた。
まず、床面に塗布された表面層又は下地層の固形分の乾燥重量を、ワックス中の不揮発成分量から計算した。前記ワクスルアンダーコートの不揮発成分量は24質量%であり、前記ワクスルトップコートの不揮発成分量は22質量%である。1回当たりのワックス塗布量は20g/m
2であり、前記ワクスルアンダーコート及びワクスルトップコートともに2回ずつ塗布されたので、前記ワクスルアンダーコートは40g/m
2が塗布され、前記ワクスルトップコートも40g/m
2が塗布されたことになる。よって、床面へ塗布された前記ワクスルアンダーコートの乾燥重量は、40×24÷100により、9.6g/m
2と求められる。また、床面へ塗布された前記ワクスルトップコートの乾燥重量は、40×22÷100により、8.8g/m
2と求められる。床材の表面に塗布された表面層及び下地層の乾燥重量の合計値は、9.6+8.8を計算することにより、18.4g/m
2と求められる。
次に、7回の研磨によって回収された面積当たりの乾燥後層残渣重量の合計値は、14.06g/m
2であった。この値を、前記18.4g/m
2という値で割ることにより、水剥離により回収された層残渣の回収率は76.4質量%であり、回収されなかったロス分は23.6質量%であると求められた。ロス分が生じた原因として、床面に敷設された床材間の目地部分等に入り込んだ剥離廃液を、回収しきれなかったことが考えられる。
【0068】
次に、前記ロス分を考慮し、剥離廃液が全量回収されたと仮定し、ロス分を考慮に入れた層残渣重量を計算した。具体的には、1回目〜7回目の研磨後における面積当たりの乾燥後層残渣重量に、100/76.4を乗算し、回収ロス分考慮層残渣重量を求めた。回収ロス分考慮層残渣重量の累計値と、表面層又は下地層の被膜重量とを比較し、表面層又は下地層の剥離率を計算によって求めた。具体的には、研磨によってまず表面層が全量剥離し、その後に下地層の剥離が開始されると考え、1回目〜7回目の研磨後に、表面層及び下地層が剥離された割合を求めた。
【0069】
以上の計算結果より、2回目の研磨によって表面層の83%が剥離され、3回目の研磨により表面層が全て剥離されたことが示された。一方、下地層は表面層に比較して剥離されにくく、6回目の研磨でも下地層の剥離率は89%であり、床材の表面には研摩痕は生じなかった。
【0071】
(比較例1)
表面層形成用ワックスである前記前記ワクスルトップコートのみを、床材の表面に4層分塗布、乾燥させ、実施例2と同様の条件で水剥離試験を行った。4回目の研磨後には床材の表面に部分的に研磨痕が視認されるようになり、5回目の研磨後には顕著に研磨痕が視認されるようになった。5回目の研磨後における床材の表面の写真を、
図3(A)に示す。
図3(A)において、表面の色調が斑状に分布していることか分かるように、研磨後には、床材の表面の一部が剥ぎ取られた研磨痕が観察された。尚、
図3(B)に示されるように、研磨痕のある床材の表面に新たにワックスを塗布及び乾燥させても、研磨痕はなお視認された。