特許第6484919号(P6484919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484919
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】ターボ分子ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20190311BHJP
【FI】
   F04D19/04 E
   F04D19/04 H
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-41527(P2014-41527)
(22)【出願日】2014年3月4日
(65)【公開番号】特開2015-86856(P2015-86856A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年12月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-196996(P2013-196996)
(32)【優先日】2013年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100084412
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 冬紀
(74)【代理人】
【識別番号】100202854
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 卓行
(72)【発明者】
【氏名】筒井 慎吾
【審査官】 谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−254284(JP,A)
【文献】 特開2008−088956(JP,A)
【文献】 特開2002−303293(JP,A)
【文献】 特開平09−072293(JP,A)
【文献】 特開2014−037808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数段の回転翼と円筒部とが形成されたロータと、
前記複数段の回転翼に対して交互に配置された複数段の固定翼と、
前記円筒部に対して隙間を介して配置され、前記円筒部との間でネジ溝ポンプ部を構成するステータと、
前記ステータが固定されるベース上に積層され、冷却部を有する冷却スペーサを少なくとも1つ含む複数のスペーサと、
前記ステータを昇温するヒータと、
前記ヒータを制御し、前記ステータの温度が反応生成物の堆積防止温度となるように調整する温度調整部と、
前記複数のスペーサのうち、前記複数段の回転翼の内の最下段の前記回転翼が対峙するスペーサと、前記最下段の回転翼との間の空隙に少なくとも一部が設けられた反応生成物堆積防止用の補助リングとを備える、ターボ分子ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記補助リングは、前記ベースと別体に形成され、前記ベースの熱が伝達されるように前記ベースに接触している、あるいは、前記補助リングは、前記ベースまたは前記ステータと一体に形成されている、ターボ分子ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記補助リングは、前記スペーサとは離間して設けられている、ターボ分子ポンプ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記補助リングは、前記回転翼に対向する面に熱吸収率を高くする層を有する、ターボ分子ポンプ。
【請求項5】
請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記補助リングを加熱する加熱源と、
前記補助リングを前記ベースから断熱する断熱部材と、
前記加熱源を前記ヒータとは独立して制御する制御部とをさらに備える、ターボ分子ポンプ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記冷却スペーサの前記冷却部に設けられたスペーサ冷却流路と、ベースを冷却するベース冷却流路とをさらに備え、冷却媒体を前記スペーサ冷却流路に供給し、前記スペーサ冷却流路を経由した冷却媒体が前記ベース冷却流路に流れる、ターボ分子ポンプ。
【請求項7】
複数段の回転翼と円筒部とが形成されたロータと、
前記複数段の回転翼に対して交互に配置された複数段の固定翼と、
前記円筒部に対して隙間を介して配置され、前記円筒部との間でネジ溝ポンプ部を構成するステータと、
前記ステータが固定されるベース上に積層され、冷却部を有する最下段の冷却スペーサを含む、複数のスペーサと、を備え、
前記冷却スペーサにより挟持される最下段固定翼の前記冷却スペーサとの接触面、および前記冷却スペーサの前記最下段固定翼との接触面の少なくとも一方に、前記最下段固定翼から前記冷却スペーサへの熱移動を抑制する熱抵抗部を設けた、ターボ分子ポンプ。
【請求項8】
請求項7に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記最下段固定翼はアルミニウム合金で形成され、
前記最下段固定翼の少なくとも前記接触面を含む表面にアルマイト処理を施して、前記熱抵抗部を形成する、及び/又は、
前記冷却スペーサはアルミニウム合金で形成され、
前記冷却スペーサの少なくとも前記接触面を含む表面にアルマイト処理を施して、前記熱抵抗部を形成したターボ分子ポンプ。
【請求項9】
請求項7に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記最下段固定翼または前記冷却スペーサの前記接触面に、樹脂材により形成された前記熱抵抗部を設けたターボ分子ポンプ。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか一項に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記ステータを昇温するヒータと、
前記ヒータを制御し、前記ステータの温度が反応生成物の堆積防止温度となるように調整する温度調整部と、
前記冷却スペーサの前記冷却部に設けられたスペーサ冷却流路と、
前記ベースを冷却するベース冷却流路とをさらに備え、
冷却媒体を前記ベース冷却流路に供給し、前記ベース冷却流路を経由した冷却媒体が前記スペーサ冷却流路に流れる、ターボ分子ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転翼を有するロータを冷却する冷却流路および温調装置を備えるターボ分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工程におけるドライエッチングやCVD等のプロセスでは、プロセスを高速で行うために大量のガスを供給しながら処理が行われる。一般に、ドライエッチングやCVD等のプロセスにおけるプロセスチャンバの真空排気には、タービン翼部とネジ溝ポンプ部とをポンプケーシング内に備えたターボ分子ポンプが用いられる。ターボ分子ポンプで大量のガスを排気した際、動翼(回転翼)で発生する摩擦熱は、動翼、静翼(固定翼)、スペーサ、ベースの順に伝達され、ベースに設けられた冷却パイプの冷却水へと放熱される。
【0003】
しかしながら、大量のガスを排気する場合には、動翼を含むロータの温度が許容温度を超えてしまうおそれがある。ロータ温度が許容温度を超えると、クリープによる膨張の速度が大きくなり、タービン翼部とネジ溝ポンプ部のいずれの箇所においても、設計寿命よりも短い期間で動翼が静翼と接触したり、ロータとネジステータが接触したりするおそれがある。
【0004】
また、この種の半導体製造装置ではエッチングやCVDにおいて反応生成物が発生し、ネジ溝ポンプ部のネジステータに反応生成物が堆積しやすい。ネジステータとロータとの隙間は非常に小さいので、ネジステータに反応生成物が堆積するとネジステータとロータとが固着して、ロータを回転始動できない場合が生じる。
【0005】
そのため、特許文献1に記載の発明では、ポンプケーシングを冷却することにより回転翼を冷却する第1の冷却水路と、ネジステータの温度を調整するための装置(ヒータ及び第2の冷却水路)とを備えている。第1の冷却水路はポンプケーシングの外周面に設けられ、ポンプケーシングを冷却することで、ポンプケーシング内に収納された固定翼を冷却するようにしている。このように、第1の冷却水路と温調装置とを備えることで、ロータ温度の低減、および、ネジステータへの反応生成物堆積の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3930297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、処理するウェハの大型化に伴って、ターボ分子ポンプで排気すべきガスの流量も増大し、ガス排気に伴う発熱も増大する。そのため、特許文献1に記載のように、ポンプケーシングを冷却する方法では、固定翼に対する冷却能力が十分ではない。また、ポンプケーシングが固定されているベースは温調により高温となるので、ベースからポンプケーシングに流入する熱が固定翼冷却の阻害要因となっている。このため、固定翼に対して十分な冷却能力を有し、かつ、反応生成物堆積防止温度となるように温度調整が可能なターボ分子ポンプが求められている。一方、固定翼に対して十分な冷却能力を有するようにした場合、反応生成物の昇華温度が冷却温度より高温である場合には、最下段の動翼に対応するスペーサの内側に反応生成物が堆積し、最下段の動翼が反応生成物に接触する恐れが生じるという課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の好ましい実施形態によるターボ分子ポンプは、複数段の回転翼と円筒部とが形成されたロータと、複数段の回転翼に対して交互に配置された複数段の固定翼と、円筒部との間でネジ溝ポンプ部を構成するステータと、ステータが固定されるベース上に積層され、冷却部を有する冷却スペーサを少なくとも1つ含む複数のスペーサと、ステータを昇温するヒータと、ヒータを制御し、ステータの温度が反応生成物の堆積防止温度となるように調整する温度調整部とを備える。そして、複数段の回転翼の内の最下段の回転翼と、この最下段の回転翼とスペーサとの間の空隙に少なくともその一部が設けられた補助リングとを備える。
補助リングは、ベースの熱が伝達されるようにベースに接触している、あるいは、補助リングは、ベースまたはステータと一体に形成されているのが好ましい。
補助リングは、回転翼に対向する面に熱吸収率を高くする層を有するのが好ましい。
補助リングを加熱する加熱源と、補助リングをベースから断熱する断熱部材と、加熱源をヒータとは独立して制御する制御部とをさらに備えるのが好ましい。
冷却スペーサの冷却部に設けられたスペーサ冷却流路と、ベースを冷却するベース冷却流路とをさらに備え、冷却媒体をスペーサ冷却流路に供給し、スペーサ冷却流路を経由した冷却媒体がベース冷却流路に流れるのが好ましい。
本発明の好ましい他の実施形態によるターボ分子ポンプは、複数段の回転翼と円筒部とが形成されたロータと、複数段の回転翼に対して交互に配置された複数段の固定翼と、円筒部に対して隙間を介して配置され、円筒部との間でネジ溝ポンプ部を構成するステータと、ステータが固定されるベース上に積層され、冷却部を有する最下段の冷却スペーサを含む、複数のスペーサと、を備え、冷却スペーサにより挟持される最下段固定翼の冷却スペーサとの接触面、および冷却スペーサの最下段固定翼との接触面の少なくとも一方に、最下段固定翼から冷却スペーサへの熱移動を抑制する熱抵抗部を設けたものである。
最下段固定翼をアルミニウム合金で形成し、最下段固定翼の少なくとも接触面を含む表面にアルマイト処理を施して熱抵抗部を形成しても良いし、及び/又は、冷却スペーサをアルミニウム合金で形成し、冷却スペーサの少なくとも接触面を含む表面にアルマイト処理を施して熱抵抗部を形成するようにしても良い。
また、最下段固定翼または冷却スペーサの接触面に、樹脂材により形成された熱抵抗部を設けるようにしても良い。
また、ステータを昇温するヒータと、ヒータを制御し、ステータの温度が反応生成物の堆積防止温度となるように調整する温度調整部と、冷却スペーサの冷却部に設けられたスペーサ冷却流路と、ベースを冷却するベース冷却流路とをさらに備え、冷却媒体をベース冷却流路に供給し、ベース冷却流路を経由した冷却媒体がスペーサ冷却流路に流れるようにしても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スペーサの冷却とネジ溝ポンプ部のステータの温調を効率よく行って排気流量の向上を図りつつ、回転翼が堆積反応生成物と衝突しないようにしたターボ分子ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係るターボ分子ポンプの実施形態1を示す断面図である。
図2図1の冷却スペーサと補助リングの配置領域の拡大図である。
図3】冷却スペーサ近傍を図2におけるIII方向から見た図である。
図4】温調動作を説明する図である。
図5】本発明の実施形態2における冷却スペーサと補助リングの配置領域の拡大図である。
図6】本発明の実施形態3における冷却スペーサと補助リングの配置領域の拡大図である。
図7】本発明の実施形態4における冷却スペーサと補助リングの配置領域の拡大図である。
図8】本発明の実施形態5における冷却スペーサと補助リングの配置領域の拡大図である。
図9】塩化アルミニウムの蒸気圧曲線L1を示す図である。
図10】冷却スペーサ23bを設けない場合の固定翼22の温度と、冷却スペーサ23bを設けた場合の固定翼22の温度とを示す図である。
図11】第6実施形態における最下段の固定翼22と冷却スペーサ23bの構成を示す図である。
図12】熱抵抗部220,230の効果を説明する図である。
図13】冷却系の他の構成を示す図である。
図14図13の冷却系とした場合の各固定翼22の温度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
−実施形態1−
以下、図面を参照して本発明のターボ分子ポンプの一実施の形態を説明する。ターボ分子ポンプは、タービン翼部とネジ溝ポンプ部とをポンプケーシング内に備えたものである。図1は、本発明によるターボ分子ポンプの概略構成を示す図である。ターボ分子ポンプは、ポンプ本体1と、ポンプ本体1を駆動制御する不図示のコントロールユニット(後述する)とで構成される。コントロールユニットには、ポンプ本体1全体の制御を行う主制御部と、モータ36を駆動するモータ制御部と、ポンプ本体1に設けられた磁気軸受を制御する軸受制御部と、後述する温調制御部511(図4参照)等が設けられている。
【0012】
なお、以下では能動型磁気軸受式ターボ分子ポンプを例に説明するが、本発明は、永久磁石を使った受動型磁気軸受によるターボ分子ポンプや、メカニカルベアリングを用いたターボ分子ポンプ等にも適用することができる。
【0013】
ロータ30には、複数段の回転翼30aと、回転翼30aよりも排気下流側に設けられた円筒部30bとが形成されている。ロータ30は、回転軸であるシャフト31に締結されている。ロータ30とシャフト31とによってポンプ回転体が構成される。シャフト31は、ベース20に設けられた磁気軸受37、38、39によって非接触支持される。軸方向の磁気軸受39を構成する電磁石は、シャフト31の下端に設けられたロータディスク35を軸方向に挟むように配置されている。
【0014】
磁気軸受37〜39によって回転自在に磁気浮上されたポンプ回転体(ロータ30およびシャフト31)は、モータ36により高速回転駆動される。モータ36には、例えば3相ブラシレスモータが用いられる。モータ36のモータステータ36aはベース20に設けられ、永久磁石を備えるモータロータ36bはシャフト31に連結されている。非常用のメカニカルベアリング26a、26bは、磁気軸受が作動していない時に、シャフト31を支持する。
【0015】
上下に隣接する複数段の回転翼30aそれぞれの段の間には、固定翼22が配置されている。複数段の固定翼22は、複数のスペーサ23aに挟持され、冷却スペーサ23bによってベース20上に位置決めされている。この実施形態1のターボ分子ポンプでは、固定翼22をベース20上で位置決めする複数のスペーサは、円筒形状の複数のスペーサ23aと、これらスペーサ23aを支承するフランジ付き円筒形状の冷却スペーサ23bとにより構成される。なお、後述する図5に示すように、冷却スペーサ23bとその上段に配置される最下段のスペーサ23aとを一体化して、冷却スペーサ23cとしてもよい。
【0016】
ボルト40によりケーシング21をベース20に固定すると、固定翼22、スペーサ23aおよび冷却スペーサ23bの積層体は、ケーシング21の上端係止部21bとベース20との間に挟持されるように、ベース20に固定される。その結果、複数段の固定翼22の軸方向(図示上下方向)の位置決めが行われる。
【0017】
図1に示すターボ分子ポンプは、回転翼30aと固定翼22とで構成されるタービン翼部TPと、円筒部30bとネジステータ24とで構成されるネジ溝ポンプ部SPとを備えている。ここでは、ネジ溝をネジステータ24側に設けた構造として例示されているが、ネジ溝は円筒部30b側に設けてもよい。ベース20の排気口20aには排気ポート25が設けられ、この排気ポート25にバックポンプ(図示せず)が接続される。ロータ30を磁気浮上させつつモータ36により高速回転させることで、吸気口21a側の気体分子は排気ポート25側へと排気される。
【0018】
ベース20には、ネジステータ24の温度を制御するためのベース冷却パイプ46、ヒータ42および温度センサ43が設けられている。ベース冷却パイプ46内には冷却水などの冷却媒体が流れ、これによりベース冷却流路が形成される。ネジステータ24は、反応生成物の堆積を防止するよう温度調整(温調)されるが、この温調については後述する。ベース20の側面には、バンドヒータで構成されるヒータ42が巻きつけられている。この構造に替えて、シーズヒータをベース20内に埋め込む構造としても良いし、ネジステータ24に設けても良い。温度センサ43には、例えば、サーミスタや熱電対が用いられる。
【0019】
冷却スペーサ23bのフランジ部232にはスペーサ冷却パイプ45が設けられている。この実施形態のターボ分子ポンプでは、冷却スペーサ23bの内側のベース20の上面に伝熱リング60が設置されている。伝熱リング60の先端は最下段のスペーサ23aと最下段の回転翼30a1との間まで延在している。伝熱リング60は図2および図3により後で詳細に説明する。
【0020】
図2は、図1の冷却スペーサ23bと伝熱リング60の配置領域の拡大図であり、図3は、冷却スペーサ23bの近傍を図2のIII方向から見た図である。上述したように、複数段の固定翼22と複数のスペーサ23aとを交互に積層した積層体は、冷却スペーサ23b上に載置されている。冷却スペーサ23bは、スペーサ冷却パイプ45が設けられているフランジ部232と、最下段のスペーサ23aを支承するリング状のスペーサ部231とを備えている。
【0021】
スペーサ部231は、スペーサ23aと同様のリング状の部材である。スペーサ部231から大気側に延出されているフランジ部232には、図3に図示されるように平面視で環状の溝234が形成されている。溝234は、円弧状底面を有しており、この底面に接触して上述のスペーサ冷却パイプ45が取り付けられている。スペーサ冷却パイプ45内には冷却水などの冷却媒体が流れ、これによりスペーサ冷却流路が形成される。溝234の外周側には、ボルト締結用の貫通孔230が円周方向に沿って複数形成されている。スペーサ冷却パイプ45と溝234との隙間には、熱伝導性グリース、良熱伝導性の樹脂、半田等が充填される。グリース、樹脂等は熱伝導率が1W/mK程度、一方、半田は50W/mKであり熱を良く伝えることができる。
【0022】
スペーサ冷却パイプ45は両端で曲げ加工され、冷媒供給部45aおよび冷媒排出部45bが、冷却スペーサ23bの側方に引き出されている。冷媒供給部45aおよび冷媒排出部45bには、配管用継手50が装着されている。冷媒供給部45aからスペーサ冷却パイプ45内に流入した冷却媒体は、スペーサ冷却パイプ45に沿って円形状に流れ、冷媒排出部45bから排出される。
【0023】
ケーシング21は、フランジ21cが冷却スペーサ23bのフランジ部232に対向するように装着され、ボルト40によってベース20に固定される。各ボルト40には断熱部材として機能する断熱用座金44が各々設けられている。断熱用座金44は、ベース20と冷却スペーサ23bとの間に配置され、ベース20と冷却スペーサ23bとを断熱している。断熱用座金44に用いられる材料としては、スペーサ23aや冷却スペーサ23bに用いられる材料(例えば、アルミニウム合金)よりも熱伝導率の低い材料が用いられる。例えば、金属の場合はステンレス合金などが望ましく、非金属の場合は耐熱温度120℃以上の樹脂(例えば、エポキシ樹脂)が望ましい。
【0024】
冷却スペーサ23bのフランジ部232とベース20との間には真空用シール48が設けられ、フランジ部232とフランジ21cとの間にも真空用シール47が設けられている。ネジステータ24は、ボルト49によってベース20に固定されている。ベース20はヒータ42によって加熱されるとともに、冷却媒体が流れるベース冷却パイプ46によって冷却される。温度センサ43は、ベース20の、ネジステータ24が固定されている部分の近辺に配置されている。
【0025】
冷却スペーサ23bの真空側内面側におけるベース20の上面には、ロータ軸心と同軸状態で上述した伝熱リング60が設けられている。この伝熱リング60は、リング状のリング本体61と、リング本体61の下部に屈曲して設けられたフランジ状の取付部62とを有し、断面がほぼL字形状に形成されている。伝熱リング60は、ボルト66により周方向の複数個所でベース上面に固定されている。伝熱リング60の取付部62はベース20の上面に当接しており、伝熱リング60にベース20の熱が伝達される。伝熱リング60のリング本体61は、最下段のスペーサ23aの内面および冷却スペーサ23bの内面を覆うようにそれらに対向している。リング本体61は、最下段のスペーサ23aの内面および冷却スペーサ23bの内面と離間している。
【0026】
伝熱リング60のリング本体61の先端は、冷却スペーサ23bの真空側の先端部よりも上方まで延出されている。より詳細には、最下段の回転翼30a1の翼長は、他の回転
翼30aよりも短く形成されており、伝熱リング60のリング本体61の先端は、最下段の回転翼30a1の先端と最下段のスペーサ23aと対峙する空間を超えて延出している。
【0027】
冷却スペーサ23bを冷却する冷却媒体が水の場合、冷却スペーサ23bの真空側表面温度は20℃〜30℃となる。反応生成物の昇華温度が冷却スペーサ23bの真空側表面温度よりも高温である場合、冷却スペーサ23bの内側に反応生成物が堆積するおそれがある。同様に、最下段のスペーサ23aの真空側表面温度が反応生成物の昇華温度以下まで冷却される場合には、スペーサ23aの内側に反応生成物が堆積するおそれがある。したがって、最下段の回転翼30a1は、対峙するスペーサ23aや冷却スペーサ23bの真空側表面に堆積した反応生成物と接触する恐れがある。
【0028】
そこで本発明では、最下段の回転翼30a1とスペーサ23aや冷却スペーサ23bとの間に伝熱リング60を介在させる。伝熱リング60は、ベース20から伝熱される熱により、反応生成物の昇華温度以上まで加熱される。その結果、伝熱リング60の内周面に反応生成物が堆積することが防止される。最下段のスペーサ23aおよび冷却スペーサ23bの内周面は伝熱リング60で加熱されるので、その内周面に反応生成物が堆積するおそれが少ない。最下段のスペーサ23aが昇華温度まで十分に加熱されずに内周面に反応生成物が堆積する場合でも、最下段のスペーサ23aの内周面は伝熱リング60により最下段の回転翼30a1と直接対峙しないので、回転翼30a1が堆積した反応生成物と衝突することもない。このように伝熱リング60は反応生成物の堆積防止を目的として補助的に設置されるものであり、反応生成物堆積防止用の補助リングと呼ぶこともできる。
【0029】
伝熱リング60は、アルミニウム合金またはSUS(ステンレス合金)により形成することができる。伝熱リング60は、また、ベース20から伝達される熱に加えて、回転翼30aの輻射熱を利用して加熱することができる。これには、伝熱リング60のリング本体61の回転翼30a1側の面にアルマイト、黒ニッケルメッキ層等の熱吸収率の高い層を形成するとよい。
【0030】
冷却スペーサ23bは、固定翼22を冷却するためのものである。冷却スペーサ23bは、スペーサ冷却パイプ45内を流れる冷却媒体によって冷却される。そのため、固定翼22の熱は、破線矢印で示すようにスペーサ23a、冷却スペーサ23bの順に伝達され、スペーサ冷却パイプ45内の冷却媒体に放熱される。一方、反応生成物が堆積しやすいガスを排気する場合には、ヒータ42による加熱およびベース冷却パイプ46による冷却を制御して、ネジステータ24の温度を反応生成物が堆積しない温度以上とする。ここで、反応生成物が堆積しない温度としては、反応生成物の昇華温度以上の温度が採用される
【0031】
そのため、高温状態のベース20から固定翼22側に熱が流入しないように、冷却スペーサ23bとベース20との間には、上述した断熱用座金44が配置されている。また、図2からも分かるように、冷却スペーサ23bとフランジ21cとの間には隙間が形成されているので、ケーシング21側から冷却スペーサ23bに熱が流入することはない。
【0032】
図4は、冷却配管系と温調動作を説明する図である。三方弁52には、スペーサ冷却パイプ45の冷媒排出部45b、ベース冷却パイプ46の冷媒供給部46aおよびバイパス配管53が接続されている。バイパス配管53の他端は、ベース冷却パイプ46の冷媒排出部46bに接続されている。三方弁52の切り替えは、ポンプ本体1を駆動制御するコントロールユニット51の温調制御部511によって制御される。温調制御部511は、温度センサ43の検出温度に基づいて、三方弁52の切り替えおよびヒータ42のオンオフを制御する。
【0033】
温度センサ43の検出温度が所定温度未満の場合には、温調制御部511は、三方弁52の流出側をバイパス配管53に切り替えて、冷却媒体を三方弁52から冷媒排出部46bにバイパスさせる。また、ヒータ42はオンとされる。その結果、ベース20がヒータ42により加熱されて、ベース20およびネジステータ24の温度が上昇する。ベース20の温度の上昇と共に、ベース20の熱が伝達される伝熱リング60の温度も上昇し、ベース20と同じ温度に維持される。
【0034】
なお、所定温度とは、上述した反応生成物の昇華温度以上の温度であって、温調制御部511の記憶部(不図示)に予め記憶されている。図2に示す例では、温度センサ43はベース20に設けられているので、温度センサ43が設けられている部分とネジステータ24との温度差を考慮して、所定温度が設定される。
【0035】
温度センサ43の検出温度が所定温度以上の場合には、温調制御部511は、ヒータ42をオフするとともに、三方弁52の流出側をベース冷却パイプ46の冷媒供給部46aに切り替えて、冷却媒体をベース冷却パイプ46に供給する。温調制御部511によるこのような温調制御を行うことにより、ネジステータ24の温度が反応生成物の昇華温度以上に維持され、反応生成物の堆積を防止することができる。
【0036】
一方、スペーサ冷却パイプ45には冷却媒体が常時供給されているので、冷却スペーサ23bにより固定翼22が低温に保たれる。その結果、輻射による回転翼30aから固定翼22への放熱が促進されて、ロータ30の温度を従来よりも低温に維持することが可能となり、排気流量の増大を図ることが可能となる。
【0037】
本実施の形態では、ロータ温度低減を優先して、冷媒供給源をスペーサ冷却パイプ45の冷媒供給部45aに接続し、スペーサ冷却パイプ45の冷媒排出部45bにベース冷却パイプ46を接続する構成としている。例えば、スペーサ冷却パイプ45をベース冷却パイプ46の下流側に配置した場合、ベース冷却により暖められた冷却媒体がスペーサ冷却パイプ45に供給されることになる。スペーサ冷却パイプ45により固定翼を冷却してロータ冷却を行う場合、スペーサ冷却パイプ45を流れる冷却媒体の温度は低いほど良い。そのため、ロータ温度低減の効果を高めるためには、スペーサ冷却パイプ45の下流側にベース冷却パイプ46を設けるのが良い。ロータ温度低減効果を高めることで、より大きなガス流量に対応することができる。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態のターボ分子ポンプによれば下記の作用効果を奏する。
(1)固定翼22を位置決めする複数のスペーサの内の一つ、すなわち冷却スペーサ23bには、スペーサ冷却パイプ45が設けられ、冷却スペーサ23bは、スペーサ冷却パイプ45内を流れる冷却媒体によって冷却される。そして、ベース20上に配置される冷却スペーサ23bとベース20との間に断熱用座金44を配置することで、温調により高温状態となっているベース20から冷却スペーサ23bに熱が流入するのを防止している。このため、固定翼22の冷却と、温調によるネジステータ24の加熱とを効果的に行うことができ、排気流量アップが図れるとともに、ネジステータ24への反応生成物の堆積を防止することができる。
【0039】
(2)温調されるベース20に伝熱リング60を設置した。伝熱リング60は、そのリング外周面が最下段のスペーサ23aと冷却スペーサ23bの真空側内面との間に所定の間隙をあけて対峙するように設けられる。伝熱リング60はベース20から伝熱され、その内周面は反応生成物の昇華温度以上に加熱され、反応生成物が堆積するおそれがない。また、最下段のスペーサ23aと冷却スペーサ23bの真空側内面に反応生成物が堆積するのを防ぐことが可能である。
【0040】
(3)伝熱リング60を、ベース20の上部にボルト66により固定し、ベース20の熱が伝達される構造とした。このため、伝熱リング60を昇温する熱源を必要とせず、安価にすることができる。
【0041】
(4)伝熱リング60の先端側が、冷却スペーサ23bの先端よりも高い位置にある最下段の回転翼30a1の先端と最下段のスペーサ23aとの間隙に延出されている。つまり、伝熱リング60は、最下段のスペーサ23aと冷却スペーサ23bの真空側内面全領域を覆っている。伝熱リング60はベース20から伝達される熱で加熱され、表面に反応生成物が堆積されることがない。このため、最下段のスペーサ23aと冷却スペーサ23bが反応生成物の昇華温度以下まで冷却された場合でも、従来のように、最下段の回転翼30a1の先端がスペーサ23aや冷却スペーサ23bに堆積した反応生成部と衝突することが防止される。
【0042】
(5)伝熱リング60のリング本体61の回転翼30a1側の面にアルマイト、黒ニッケルメッキ層等の熱吸収率の高い層を設けた場合は、ベース20から伝熱される熱エネルギに加えて、回転翼30a1の輻射熱を利用して伝熱リング60を加熱することができ、より効果的に伝熱リング60を昇温することができる。
【0043】
図5図8を参照して実施形態2〜5を説明するが、実施形態2〜5では、冷却スペーサの冷却パイプ45を埋込型として示している。
−実施形態2−
図5は、本発明の実施形態2としての冷却スペーサと補助リングの配置領域の拡大図である。
図5に示す実施形態2では、下記の構造において、実施形態1と相違する。
(a1)冷却スペーサ23cが、図2に示した冷却スペーサ23bと、その上段に配置される最下段のスペーサ23aとを一体化された構造を有する。換言すれば、最下段のスペーサ23aを、冷却スペーサ23cとしたものである。
この実施形態2のターボ分子ポンプでは、固定翼22をベース20上で位置決めする複数のスペーサは、複数のスペーサ23aと、最下段の固定翼22を挟持しつつ複数のスペーサ23aを支承する冷却スペーサ23cとにより構成される。
(a2)伝熱リング60Aは、ベース20に一体化して形成されている。従って、この構造では、伝熱リングを別部材として作製する必要はない。伝熱リング60Aとベース20とを、SUS等の同一材料により形成してもよいし、伝熱リング60Aをアルミニウム合金、ベース20をSUS等の異種金属とするクラッド材により形成してもよい。また、図示はしないが、SUS等の金属製のベース20の上端における伝熱リング60Aの内側にリング状に突起を一体に形成し、この突起に、アルミニウム合金等により別部材として作製した伝熱リング60Aを焼嵌めにより一体化してもよい。
【0044】
実施形態1と同様に、伝熱リング60Aにおける回転翼30a1側の面にアルマイト、黒ニッケルメッキ層等の熱吸収率の高い層を形成してもよい。実施形態2における他の構成は実施形態1と同様であるので、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。
【0045】
実施形態2においても、実施形態1と同様な効果を奏する。なお、実施形態2においては、伝熱リング60Aの先端は、冷却スペーサ23cの真空側の先端より低いが、回転翼30a1の先端が伝熱リング60Aの内周面と対向し、伝熱リング60Aは生成ガスの昇華温度以上に加熱されるので、その表面に反応生成物が堆積せず、回転翼30a1が堆積生成物と衝突するおそれはない。冷却スペーサ23cが最下段のスペーサ23aと一体化されるので、部材の削減に伴うコスト低減が期待できる。
【0046】
−実施形態3−
図6は、本発明の実施形態3としての冷却スペーサと補助リングの配置領域の拡大図である。図6に示す実施形態3では、下記の構造において、実施形態2と相違する。
(b1)伝熱リング60Bは、ネジステータ24と一体化して形成されている。
ネジステータ24は、ベース20への取付部が外周側に延出され、先端部で上方に屈曲されて伝熱リング60Bが形成されている。ネジステータ24は、実施形態1と同様に、ボルト49によりベース20に固定されており、これにより、伝熱リング60Bにはベース20の熱が伝達される。
なお、この実施形態3のターボ分子ポンプでは、固定翼22をベース20上で位置決めする複数のスペーサは、複数のスペーサ23aと、最下段の固定翼22を挟持しつつ複数のスペーサ23aを支承する冷却スペーサ23cとにより構成される。
【0047】
実施形態1と同様に、伝熱リング60における回転翼30a1側の面にアルマイト、黒ニッケルメッキ層等の熱吸収率の高い層を形成してもよい。実施形態3における他の構成は実施形態2と同様であるので、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
−実施形態4−
図7は、本発明の実施形態4としての冷却スペーサと補助リングの配置領域の拡大図である。図7に示す実施形態4では、下記の構造において、実施形態1と相違する。
(c1)ベース20から数えて2番目のスペーサを冷却スペーサ23dとした構造としている。冷却スペーサ23dは、スペーサとして機能するスペーサ部231と、スペーサ冷却パイプ45が設けられるフランジ部232と、スペーサ部231とフランジ部232とを連結する円筒状の連結部233とで構成されている。
この実施形態4のターボ分子ポンプでは、固定翼22をベース20上で位置決めする複数のスペーサは、複数のスペーサ23aと、最下段の固定翼22およびその上の固定翼22を挟持しつつ、最下段のスペーサ23aを除いた複数のスペーサ23aを支承する冷却スペーサ23dとにより構成される。
【0049】
複数段の固定翼22は、複数のスペーサ23aおよびスペーサ部231によって位置決めされている。そのため、ベース20側の1番目のスペーサ23aとベース20との間に、リング形状の断熱部材44cが配置されている。そして、フランジ部232とベース20との間には断熱部材は設けられず、隙間が形成されている。すなわち、フランジ部232とベース20との間には空気の断熱層が設けられている。固定翼22およびスペーサ23aの熱は、破線矢印で示すように冷却スペーサ23dのスペーサ部231に伝達され、連結部233およびフランジ部232を介してスペーサ冷却パイプ45の冷却媒体へと放熱される。なお、実施形態4では、冷却スペーサ23dの内周面は回転翼30a1と直接対向しない構造である。
【0050】
(c2)伝熱リング60Bは、ネジステータ24と一体化して形成されている。
ネジステータ24は、ベース20への取付部が外周側に延出され、先端部で上方に屈曲されて伝熱リング60Bが形成されている。ネジステータ24は、実施形態1と同様に、ボルト49によりベース20に固定されており、これにより、伝熱リング60Bにはベース20の熱が伝達される。
【0051】
実施形態1と同様に、伝熱リング60Bにおける回転翼30a1側の面にアルマイト、黒ニッケルメッキ層等の熱吸収率の高い層を形成してもよい。実施形態4における他の構成は実施形態1と同様であるので、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
実施形態4においても、実施形態1と同様な効果を奏する。なお、実施形態4においては、ネジステータ24と伝熱リング60Bとをベース20に固定するボルト49を1本で兼用するので、組付け工数を低減することができる。
【0053】
−実施形態5−
図8は、本発明の実施形態5としての冷却スペーサと伝熱リングの配置領域の拡大図である。実施形態1〜4における伝熱リング60、60A、60Bは、ベース20の熱が伝達される構造であった。実施形態5では、シーズヒータ等の加熱源により加熱される加熱リング(補助リング)60Cを用いたものである。この実施形態5のターボ分子ポンプでは、固定翼22をベース20上で位置決めする複数のスペーサは、実施形態2と同様に、複数のスペーサ23aと、最下段の固定翼22を挟持しつつ複数のスペーサ23aを支承する冷却スペーサ23cとにより構成される。ベース20の上面には、断熱部材72を介して加熱リング60Cが設けられ、加熱リング60Cの内側に環状のヒータ、例えばシーズヒータ73が設けられている。断熱部材72は、樹脂などの熱伝導率が小さい材料で形成されている。
【0054】
シーズヒータ73は、コントロールユニット51により、ネジステータ24の温度を制御するヒータ42とは別に温度制御される。図示はしないが、補助リング60Cの温度を検出する温度センサを設けてシーズヒータ73の温度制御を行うようにすることが好ましい。あるいは、温度センサを設けずに、ベース加熱時に、常時、シーズヒータ73に一定電流を流し、所定の温度に維持するようにしてもよい。また、この場合、ネジステータ24の温度を検出する温度センサ43の温度に対応して、シーズヒータ73に供給する一定電流の値を変えるようにしてもよい。
【0055】
実施形態5における他の構成は実施形態2と同様であるので、対応する部材に同一の符号を付して説明を省略する。実施形態5のターボ分子ポンプは、加熱リング60Cを加熱する加熱源であるシーズヒータ73と、加熱リング60Cをベース20から断熱する断熱部材72と、シーズヒータ73をベース20に設けられたヒータ42とは独立して制御する制御部とをさらに備える。したがって、実施形態1と同様な効果を奏するとともに、加熱リング60Cの温度とネジステータ24の温度とを独立して制御することが可能であるので、反応生成物の堆積防止のための温度制御の自由度を大きくすることができる。
【0056】
なお、上記実施形態1〜5では、スペーサ冷却パイプ45とベース冷却パイプ46との接続に三方弁52を用いた冷却配管系として例示した。しかし、スペーサ冷却パイプ45とベース冷却パイプ46とを開閉弁により接続するようにしてもよい。開閉弁は、スペーサ冷却パイプ45の冷媒供給部45aとベース冷却パイプ46の流入口との間に介挿して、温調制御部511により開閉を制御する。また、スペーサ冷却パイプ45の冷媒排出部45bを、ベース冷却パイプ46の排出口にバイパス接続する。
【0057】
温度センサ43の検出温度が所定温度未満の場合には、温調制御部511により、開閉弁を閉じ、ヒータ42をオンにする。冷却媒体はスペーサ冷却パイプ45を流れ、回転翼30aを冷却するが、ベース冷却パイプ46には流れずベース冷却パイプ46の排出口にバイパスされる。このため、ベース冷却パイプ46がヒータ42により加熱されてネジステータ24は昇温する。
【0058】
温度センサ43の検出温度が所定温度以上の場合には、温調制御部511は、ヒータ42をオフするとともに、開閉弁を開く。冷却媒体は、スペーサ冷却パイプ45に供給されるとともにベース冷却パイプ46に供給される。従って、回転翼30aが冷却されるとともにネジステータ24が冷却される。
【0059】
上記実施形態では、ベース20に最も近いスペーサ、すなわち最下段のスペーサ23a、またはベース20から数えて2番目のスペーサ23aを、冷却スペーサ23b〜23dとした構造として例示した。しかし、複数段のいずれのスペーサを冷却スペーサ23b〜23dとしてもよい。但し、反応生成物が堆積し易い、最下部の回転翼30a1を冷却スペーサ23b〜23dにより冷却する必要がある。冷却スペーサ23b〜23dのスペーサ部がベース20から離れるに比例してこの付近を冷却する能力は低下するので、冷却スペーサ23b〜23dの位置はベース20に近い方が好ましく、スペーサ23aの段数の半分より下方側にすることが推奨される。例えば、スペーサ23aが10段のターボ分子ポンプでは、ベース20から5番目より下方、スペーサ23aが9段のターボ分子ポンプでは、ベース20から4番目より下方のスペーサを冷却スペーサとすることが好ましい。
【0060】
−第6実施形態−
ところで、図2に示した構成の場合、最下段の固定翼22は、他の固定翼22に比べて熱経路上において冷却スペーサ23bに最も近いため、最も温度が低下しやすく、反応生成物が最も堆積しやすい。塩素系や硫化フッ素系の反応生成物は、真空度が低くなるほど(すなわち、圧力が高くなる程)昇華温度が高くなり、堆積しやすくなる。例えば、反応生成物の蒸気圧曲線の一例を示すと、塩化アルミニウムの場合には図9に示すような蒸気圧曲線L1となっている。
【0061】
図9において縦軸は昇華温度(℃)で、横軸は圧力(Pa)である。曲線L1の上側では塩化アルミニウムは気体であるが、曲線L1の下側では固体となる。図9から分かるように、圧力が高くなるほど昇華温度が高くなるので、ポンプの下流側ほど反応生成物が堆積しやすい。上述した実施形態では、ヒータ42による加熱およびベース冷却パイプ46の冷却水による冷却を用いた温調制御を行うことにより、ネジステータ24への反応生成物堆積を抑制するようにしている。
【0062】
一般的に、ロータ30はアルミニウム合金により形成されるが、アルミニウムはクリープ現象が発生する温度が他の金属に比べて低い。そのため、ロータ30が高速回転するターボ分子ポンプでは、ロータ温度をクリープ温度領域よりも低く抑える必要がある。このようなことから、ターボ分子ポンプで排気できるガス流量がロータ温度によって制限を受けることになり、図9に示す温度状況では、ガス流量をさらに増加させることができない。
【0063】
そこで、冷却スペーサ23bを設けてスペーサ23aおよび固定翼22を冷却することにより、回転翼30aから固定翼22への放熱性能を向上させ、回転翼30aの温度を低下させるようにした。その結果、ガス排気時の発熱に対する回転翼温度の余裕が大きくなり、排気可能なガス流量の増加を図ることができる。
【0064】
図10は、冷却スペーサ23bを設けない場合の固定翼22の温度(ラインL2)と、冷却スペーサ23bを設けた場合の固定翼22の温度(ラインL3)とを示したものである。なお、図9に示した曲線L(塩化アルミニウムの蒸気圧曲線)を合わせて示した。なお、ネジステータ24、固定翼22における圧力はガス排気中の圧力である。ラインL2は、符号A,B,C2,D2,E2で示す各点を結ぶラインである。一方、ラインL3は、符号A,B,C3,D3,E3で示す各点を結ぶラインである。
【0065】
点Aはネジステータ出口のデータ(圧力、温度)を示し、点Bはネジステータ入口のデータを示す。ネジステータ24は温調制御により所定温度に維持されているので、ネジステータ出口およびネジステータ入口の温度は、冷却スペーサ23bがある場合も無い場合も同一温度となる。なお、ガス排気の熱により、ネジステータ入口(B)温度よりもネジステータ出口(A)温度の方が若干高くなっている。
【0066】
一方、点C2,C3は最下段の固定翼22のデータ、点D2,D3は中間段の固定翼22のデータ、点E2,E3は最上段の固定翼22のデータである。ラインL2,L3のいずれの場合も、回転翼側から熱が流入しネジステータ方向に熱が流れるので、固定翼温度はネジステータ24から遠くなるほど高く、最上段(E2,E3)、中段(D2,D3)、最下段(C2,C3)の順に温度が低くなる。
【0067】
冷却スペーサ23bを設けた場合(ラインL3)、冷却スペーサ23bを設けない場合に比べて固定翼22の温度が全体的に低下する。図10に示す例では、最上段の固定翼の温度を比較すると、ラインL2の場合には110℃であるが、冷却スペーサ23bを設けたラインL3では60℃に低下している。その結果、最下段の固定翼温度(C3)は、同一圧力における蒸気圧温度(L1)を下回ってしまうことになる。その結果、上述したように最下段のスペーサ23aだけでなく、最下段の固定翼22にも反応生成物が堆積することになる。
【0068】
そこで、第6実施形態では、図11(a)の最下段の固定翼22と冷却スペーサ23eとの接触領域Rに、最下段の固定翼22から冷却スペーサ23eへの熱流入を抑制する熱抵抗部を設けるようにした。図11(a)は、冷却スペーサ23eが設けられている部分の拡大図である。本実施形態においても、冷却スペーサ23eの内周側に伝熱リング60Aが設けられている。伝熱リング60Aはベース20の一部を成している。しかし、これに限定されず、伝熱リング60Aを設けなくてもよい。図11に示す構成では、最下段のスペーサ23aと冷却スペーサ23eとの間に、最下段の固定翼22が挟持されている。なお、図2に示す構成では最下段のスペーサ23aと冷却スペーサ23bとの間に固定翼22が挟持されていないが、冷却スペーサ23eは、図2の冷却スペーサ23bと最下段のスペーサ23aとを一体にしたものに相当する。
【0069】
図11(b)は固定翼側に熱抵抗部を設けた場合を示す図であり、最下段の固定翼22の接触領域、具体的には、冷却スペーサ23eとスペーサ23aとにより挟持される外リブ部22aの下面(冷却スペーサ23eと接触する面)に熱抵抗部220を設けた。または、固定翼22側の熱抵抗部220に代えて、図11(c)に示すように、冷却スペーサ23e側に熱抵抗部230を設けるようにしても良い。熱抵抗部230は、冷却スペーサ23eにおいて、固定翼22の外リブ部22aと接触する面に設けられる。なお、熱抵抗部220,230の両方を設けるようにしても構わない。
【0070】
熱抵抗部220,230としては、以下のようなものが考えられる。例えば、固定翼22や冷却スペーサ23eの素材がアルミニウム合金の場合には、素材表面にアルマイト処理を施し、そのアルマイト層を熱抵抗部220,230として用いる。アルマイト層はアルミニウム合金に比べて熱伝導率が低いので熱抵抗部として機能する。また、アルマイト処理の代わりに、エポキシ樹脂等の樹脂を接触面に塗布し、その樹脂層を熱抵抗部220,230として用いるようにしても良い。
【0071】
また、最下段の固定翼22または冷却スペーサ23eの素材としてステンレス合金を用いることで、固定翼22から冷却スペーサ23eへの熱流入を抑制するようにしても良い。最下段を除く他の固定翼22についてはアルミニウム合金の金属材で形成されるが、最下段のみを熱伝導率のより低いステンレス合金で形成することで、最下段の固定翼22から冷却スペーサ23eへの熱流入を低く抑えることができる。冷却スペーサ23eをステンレス合金で形成する場合も同様である。なお、最下段の固定翼22または冷却スペーサ23eをステンレス合金で形成し、さらに、接触面にエポキシ樹脂等の樹脂を塗布するようにしても良い。
【0072】
図11に示すように、接触領域Rに熱抵抗部220または熱抵抗部230を設けることにより、最下段の固定翼22から冷却スペーサ23eへの熱流入が抑制され、固定翼温度は図12のラインL4で示すように上昇する。温調制御によりネジステータ24の温度はラインL1,L2の場合と同様であるが、熱抵抗部220または230を設けたことにより、固定翼22から冷却スペーサ23eへ流入する熱量が減少する。そのため、各固定翼22の温度は、熱抵抗部を設けない場合(ラインL3)に比べて上昇し、最下段の固定翼22の温度(C4)は蒸気圧曲線L1の同一圧力における温度よりも高くなる。その結果、最下段の固定翼22への反応生成物の堆積を抑制することができる。
【0073】
なお、上述した例では固定翼22の外リブ部22aの下面のみにアルマイト処理を施したが、固定翼22の全表面にアルマイト処理を施すようにしても良く、下面のみにアルマイト処理を施した場合と同様の効果を奏する。さらに、固定翼22の全表面にアルマイト処理を施すと固定翼表面の輻射率が大きくなるので、回転翼30aから固定翼22への輻射による熱移動が向上し、回転翼温度(すなわち、ロータ温度)の低減を図ることができる。逆に、最下段の固定翼22の温度は、図12に示す場合よりも上昇することになる。
【0074】
さらに、冷却系の構成を図13に示すような構成とすることで、各固定翼22の温度を図12の場合(図4の冷却系を採用した場合)と比べてさらに高めることができる。図13は、図4に示した温調系および冷却系の他の例を示すブロック図である。図4の構成と比較した場合、三方弁52の配置および冷却系の接続が異なっている。図4に示した例では、冷却媒体の流れの上流側にスペーサ冷却パイプ45を配置すると共に、三方弁52をスペーサ冷却パイプ45とベース冷却パイプ46との間に配置し、ベース冷却パイプ46に対するバイパス配管53を設けた。
【0075】
一方、図13に示す例では、冷却媒体の流れの上流側にベース冷却パイプ46を配置すると共に、三方弁52をベース冷却パイプ46の上流側に配置し、ベース冷却パイプ46およびスペーサ冷却パイプ45をバイパスするようにバイパス配管53を設けた。すなわち、バイパス配管53は、直列接続されたスペーサ冷却パイプ45およびベース冷却パイプ46に対して並列接続されている。
【0076】
三方弁52を切り替えることによって、直列接続されたスペーサ冷却パイプ45およびベース冷却パイプ46の経路、またはバイパス配管53のいずれか一方に冷却媒体が供給される。温調時における三方弁52の制御は、上述した図4の場合と同様である。図13に示す構成の場合、ベース冷却パイプ46によって暖められた冷却媒体がスペーサ冷却パイプ45に供給される。そのため、冷却スペーサ23eに供給される冷却媒体の温度は、図4に示す構成の場合と比べて高くなる。その結果、図14に示すラインL5のように各固定翼22の温度がさらに上昇する。このように、固定翼22の温度をラインL1に対してより高めに維持すると、流せるガスの流量は低くなるが反応生成物の固定翼22(特に最下段)への堆積をより抑制することができ、メンテナンスのインターバルをより長くすることができる。
【0077】
なお、上述した実施形態では、温調制御中にベース冷却パイプ46およびスペーサ冷却パイプ45の冷却媒体の流通を停止した場合に、三方弁52を用いて冷却媒体をバイパス配管53に迂回させるようにしたので、装置全体の冷却系における冷却媒体流通停止を避けることができる。一般に、冷却媒体による冷却系を備える真空装置の場合、冷却媒体の流通が停止した場合にアラームを発生するような構成としている。しかしながら、本実施の形態のターボ分子ポンプを使用した場合には、温調時にアラームが発生することがない。もちろん、三方弁の代わりに二方弁を用いて、冷却媒体の流通および停止を行うようにしても構わない。また、上述した実施形態では、ヒータ42による加熱およびベース冷却パイプ46の冷却水による冷却を用いた温調制御を行う構成のターボ分子ポンプに冷却スペーサ23eと熱抵抗部とを設ける構成としたが、温調系を備えないターボ分子ポンプに冷却スペーサ23eと熱抵抗部とを設けるようにしても良い。
【0078】
上記各実施形態を、適宜、組み合わせたターボ分子ポンプとしてもよい。
【0079】
なお、以上の実施形態では、最下段の回転翼と冷却スペーサやスペーサとの間に伝熱リングを介在させた。しかし、伝熱リングを省略し、以下のように、冷却スペーサやスペーサの真空側表面に反応生成物堆積防止層を設けてもよい。実施形態2の図5を参照して説明すると、伝熱リング60Aの真空側表面に、樹脂などによる断熱層と、この断熱層を覆う金属層を設ける。金属層に使用される金属は、スペーサの素材であるアルミニウム合金に比べて熱伝導率の小さいSUSなどが好ましい。伝熱リング60Aの本体部は冷却パイプ45を流通する冷却媒体で冷却される。真空側表面は断熱層によりスペーサ本体部よりも高い温度、すなわち、反応性ガスの昇華温度以上に保たれる。したがって、反応性ガスの昇華温度以上に真空側表面温度が保たれるように断熱層や金属層の素材や厚さを設定する。
【符号の説明】
【0080】
1…ポンプ本体、20…ベース、22…固定翼、23a…スペーサ、23b、23c、23d,23e…冷却スペーサ、24…ネジステータ、30…ロータ、30a…回転翼、30a1…最下段の回転翼、42…ヒータ、43…温度センサ、44…断熱用座金(断熱部材)、44c…断熱部材、45…スペーサ冷却パイプ、45a…冷媒供給部、45b…冷媒排出部、46…ベース冷却パイプ、51…コントロールユニット、511…温調制御部、60、60A、60B…伝熱リング(補助リング)、60C…加熱リング(補助リング)、61…リング本体、62…取付部、72…断熱部材、73…シーズヒータ、220,230…熱抵抗部
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