【文献】
大石駿介、外1名,分子動力学シミュレーションMXDORTO用可視化ソフトウェアの開発,沼津工業高等専門学校研究報告,沼津工業高等専門学校,2013年 1月31日,第47号,pp.7〜10
【文献】
BERNSTEIN Herbert J.,Manual RasMol 2.7.5,[online],2009年 7月17日,[検索日:平成29年8月7日],URL,http://www.rasmol.org/software/RasMol_2.7.5_Manual.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第4ステップにおいて、前記コンピュータは、検出した前記可視化領域に重心が含まれる略球状の粒子、原子及び結合鎖の少なくとも1種の全体を可視化する、請求項1又は請求項2に記載の特定物質の解析方法。
前記第4ステップにおいて、前記コンピュータは、検出した前記可視化領域に重心が含まれない略球状の粒子、原子及び結合鎖の少なくも1種の一部を可視化する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の特定物質の解析方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高分子材料及びフィラーを含有する複合材料においては、複合材料内部のフィラー配置及びボイドなどの内部構造が複合材料の破壊及び座屈などの材料特性に強く影響を与える。そのため、近年、脚光を浴びている分子動力学法を用いた分子シミュレーションにより内部構造を解析して強靭な複合材料を開発することが望まれている。
【0005】
しかしながら、従来の分子動力学法を用いた複合材料の解析用モデルの解析方法においては、質点を中心とした数万〜数百万の粒子を含む解析用モデルの全粒子を可視化するので、複合材料の内部構造を解析することは困難であった。また、従来の分子動力学法を用いた複合材料の解析用モデルは、質点を中心とした略球状体の粒子及び原子と、粒子及び原子間を結合する結合鎖によって構成されているので、複合材料の解析用モデルの内部構造の解析には可視化領域に含まれる質点の抽出などの複雑なプロセスが必要となる問題もあった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、解析対象となる特定物質の内部構造を可視化でき、内部構造の評価が可能な特定物質の解析方法及び解析用コンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特定物質の解析方法は、コンピュータを用いて分子動力学法により解析対象となる特定物質をモデル化して解析する特定物質の解析方法であって、解析結果を可視化する可視化時間を指定する第1ステップと、指定した前記可視化時間で可視化する可視化領域を指定する第2ステップと、指定した前記可視化時間で前記可視化領域に含まれる粒子、原子及び結合鎖の少なくとも1種を抽出する第3ステップと、抽出された前記粒子、前記原子及び前記結合鎖の少なくとも1種を可視化する第4ステップとを含むことを特徴とする。
【0008】
この特定物質の解析方法によれば、モデル化した特定物質の全粒子を解析するのではなく、指定した可視化時間で解析する解析領域内に含まれる粒子、原子及び結合鎖の少なくとも1種を抽出し、抽出した粒子、原子及び結合鎖の少なくとも1種を可視化するので、モデル化した特定物質の質点の抽出などを伴わずに特定物質の内部構造を可視化することが可能となる。これにより、例えば、複合材料内部のフィラーの配置及びボイドなどの内部構造を可視化して解析することができるので、特定物質の内部構造の評価が可能な特定物質の解析方法を実現できる。
【0009】
本発明の特定物質の解析方法においては、前記第1ステップにおいて、複数の前記可視化時間を指定することが好ましい。この方法により、指定した複数の可視化時間毎に異なる時間の特定物質の内部構造の評価が可能となるので、特定物質の内部構造の変化を評価することが可能となる。
【0010】
本発明の特定物質の解析方法においては、前記第2ステップにおいて、複数の可視化領域を指定し、前記第4ステップにおいて、指定した前記複数の可視化領域を共に可視化することが好ましい。この方法により、複数の可視化領域の内部構造を可視化できるので、特定物質内の異なる領域の内部構造を同時に評価することが可能となる。
【0011】
本発明の特定物質の解析方法においては、前記第4ステップにおいて、指定した前記可視化領域に重心が含まれる略球状の粒子、原子及び結合鎖の少なくとも1種の全体を可視化することが好ましい。この方法により、可視化領域に重心が含まれる粒子、原子及び結合鎖の少なくとも1種の全体を可視化することが可能となる。
【0012】
本発明の特定物質の解析方法においては、前記第4ステップにおいて、指定した前記可視化領域に重心が含まれない略球状の粒子、原子及び結合鎖の少なくも1種の一部を可視化することが好ましい。この方法により、可視化領域に重心が含まれない粒子、原子及び結合鎖の少なくとも1種の一部を可視化することが可能となる。
【0013】
本発明の特定物質の解析方法においては、前記第4ステップにおいて、指定した前記可視化領域と当該可視化領域以外の他の領域との境界面を可視化することが好ましい。この方法により、可視化領域の境界面の可視化が可能となるので、可視化領域の境界面の内部構造の評価が可能となる。
【0014】
本発明の特定物質の解析方法においては、指定した前記可視化時間における解析時間毎の前記原子及び前記粒子の物理量に基づいて、前記原子及び前記粒子を配色することが好ましい。この方法により、前記原子及び前記粒子の運動に伴う前記原子及び前記粒子の物理量の変化及び分布を観察することが可能となる。
【0015】
本発明の特定物質の解析方法においては、指定した前記可視化時間における解析時間毎の前記結合鎖の物理量に基づいて、前記結合鎖を配色することが好ましい。この方法により、結合鎖の運動に伴う結合鎖の物理量の変化及び分布を観察することが可能となる。
【0016】
本発明の特定物質の解析用コンピュータプログラムは、上記特定物質の解析方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0017】
この特定物質の解析用コンピュータプログラムによれば、モデル化した特定物質の全粒子を解析するのではなく、指定した可視化時間で解析する解析領域内に含まれる粒子、原子及び結合鎖の少なくとも1種を抽出し、抽出した粒子、原子及び結合鎖の少なくとも1種を可視化するので、モデル化した特定物質の質点の抽出などを伴わずに特定物質の内部構造を可視化することが可能となる。これにより、例えば、複合材料内部のフィラーの配置及びボイドなどの内部構造を可視化して解析することができるので、特定物質の内部構造の評価が可能な特定物質の解析方法を実現できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、解析対象となる特定物質の内部構造を可視化でき、内部構造の評価が可能な特定物質の解析方法及び解析用コンピュータプログラムを実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、適宜変更して実施可能である。
【0021】
本実施の形態に係る特定物質の解析方法は、コンピュータを用いて分子動力学法により解析対象となる特定物質をモデル化して解析する特定物質の解析方法である。この特定物質の解析方法は、解析結果を可視化する可視化時間を指定する第1ステップと、指定した可視化時間で可視化する可視化領域を指定する第2ステップと、指定した可視化時間で可視化領域に含まれる粒子、原子及び結合鎖の少なくとも1種を抽出する第3ステップと、抽出された粒子、原子及び結合鎖の少なくとも1種を可視化する第4ステップとを含む。以下、本実施の形態に係る特定物質の解析方法について詳細に説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態に係る特定物質の解析方法の解析対象の一例である複合材料1の模式図である。
図1に示すように、この複合材料1は、例えば、ゴム及び各種樹脂材料などのポリマー11(高分子材料)と、例えば、カーボンブラック又はシリカなどの無機材料のフィラー12とを含有する。このように2種類の異なる物質であるポリマー11及びフィラー12を含有する複合材料を解析することにより、複合材料1の内部のフィラー12の配置及びボイドなどの内部構造が複合材料の破壊及び座屈などの材料特性に与える影響を解析することが可能となる。なお、本実施の形態においては、解析対象となる特定物質として2種類以上の物質を含有する複合材料を分子動力学法によりモデル化して数値解析する例について説明するが、本発明は、高分子材料などの1種類の物質の解析にも適用可能である。
【0023】
本実施の形態に係る複合材料の解析用モデルにおいては、ポリマー11は、ポリマー原子及び複数のポリマー原子が集合したポリマー粒子を含む。ポリマー11は、所定の質点を中心とした略球状体としてポリマーモデル化される。
【0024】
本実施の形態に係る複合材料の解析用モデルにおいては、フィラー12は、フィラー原子及び複数のフィラー原子が集合したフィラー粒子を含む。フィラー12は、所定の質点を中心とした略球状体としてフィラーモデル化される。
【0025】
フィラー12は、フィラー原子及びフィラー粒子間の結合鎖13によって各フィラー原子及び各フィラー粒子の相対位置が特定される。この結合鎖13は、フィラー12の各フィラー原子間及び各フィラー粒子間を拘束している。ポリマー11は、フィラー12と同様に、ポリマー原子及びポリマー粒子間の結合鎖14によって各ポリマー原子及び各ポリマー粒子の相対位置が特定される。この結合鎖14は、ポリマー11の各ポリマー原子間及び各ポリマー粒子間を拘束している。また、フィラー12及びポリマー11は、フィラー原子及びフィラー粒子とポリマー原子及びポリマー粒子との間の結合鎖15によって各フィラー原子、各フィラー粒子、各ポリマー原子及び各ポリマー粒子の相対位置が特定される。この結合鎖15は、各フィラー原子、各フィラー粒子、各ポリマー原子及び各ポリマー粒子を拘束している。
【0026】
これらの結合鎖13、14、15は、平衡長とばね定数とが定義されたバネとしての機能を有する。このように、結合鎖13、14、15を含めてモデル化することにより、結合鎖13、14、15の影響も考慮してフィラー12及びポリマー11を解析できるので、複合材料を形成するフィラー12及びポリマー11のフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子及びポリマー粒子の解析の精度が向上する。なお、本実施の形態では、結合鎖13、14、15をモデル化した例について説明するが、結合鎖13、14、15は必ずしもモデル化する必要はない。
【0027】
図2は、本実施の形態に係る特定物質の解析方法における解析用モデル10の概念図である。本実施の形態に係る解析用モデル10は、
図1に示した複合材料1を用いた略直方体形状の解析用モデルである。この解析用モデル10においては、複合材料1の母相を構成するポリマー11の内部に、平面視にて円形形状に複数のフィラー12が集合して分散層を構成している。なお、
図2においては、説明の便宜上、ポリマー11及びフィラー12の表面を平面状に示しているが、解析用モデル10は、質点を重心とする略球状体のポリマー、フィラー12及び結合鎖13、14、15が集合して構成されている。
【0028】
図3は、本実施の形態に係る特定物質の解析方法の概念図である。
図3に示すように、本実施の形態においては、
図2に示した例とは異なり解析用モデル10の全体を可視化せず、解析用モデル10の一部を可視化領域として指定して他の領域を透明化する。例えば、
図3に示す例では、略直方体の解析用モデル10内に所定の厚みを有する略直方体の複数の可視化領域A1〜A6を指定し、それぞれの可視化領域A1〜A6を可視化する。これにより、解析用モデル10内部の各可視化領域A1〜A6表面のポリマー11及びフィラー12を可視化することが可能となるので、解析用モデル10の内部構造を解析することが可能となる。
【0029】
図4は、本実施の形態に係る特定物質の解析方法の可視化領域の指定方法の一例の説明図である。なお、
図4においては、略直方体形状の特定物質の解析用モデル10を正面から示している。
図4に示すように、本実施の形態においては、所定の幅Wを有する正面視にて略矩形形状(すなわち、略直方体形状)の5つの可視化領域A1〜A5を指定する。このように可視化領域A1〜A5を指定することにより、指定した可視化領域A1〜A5の表面の構造を解析することが可能となる。したがって、可視化領域A1〜A5毎に順次解析を行うことにより解析用モデル10の内部構造を解析することが可能となる。なお、
図4においては、同一の幅Wを有する5つの可視化領域A1〜A5を指定した例を示したが、可視化領域の幅W及び形状は適宜変更可能である。また、
図4に示す例では、相互に異なる複数の解析時間毎に同一の可視化領域A1〜A5を指定してもよい。これにより、相互に異なる複数の解析時間毎の可視化領域A1〜A5における内部構造の変化を解析することも可能となる。
【0030】
図5A及び
図5Bは、本実施の形態に係る特定物質の解析方法の可視化領域の指定方法の他の例の説明図である。なお、
図5A及び
図5Bにおいては、
図4に示した例と同様に、略直方体形状の特定物質の解析用モデル10を正面から示している。また、
図5A及び
図5Bにおいては、特定の解析時間における略直方体状の解析用モデル10Aの形状が、当該特定の解析時間後に所定時間経過後に解析用モデル10Bに変化した例を示している。
【0031】
図5A及び
図5Bに示すように、相互に異なる複数の解析時間毎に可視化領域A11,A12を指定する場合、各解析時間の解析用モデル10A,10Bの形状に応じて相対的な領域を指定してもよく、絶対的な可視化領域を指定してもよい。ここで、相対的な可視化領域とは、
図5Aに示すように、各解析時間の解析用モデル10A,10Bの形状の変化に応じて中央部の領域を指定するように位置を変化させて指定する可視化領域A11,A12である。このように可視化領域A11,A12を指定することにより、解析用モデル10A,10Bの形状が変化した場合であっても、解析用モデル10A,10Bの中央部の内部構造を解析することが可能となる。また、絶対的な可視化領域とは、
図5Bに示すように、解析用モデル10A,10Bの形状の変化によらずに解析用モデル10A,10Bの端部から所定距離d離れた位置を指定する可視化領域A11,A12である。このように可視化領域A11,A12を指定することにより、解析用モデル10A,10Bの形状の変化によらずに、解析用モデル10A,10Bの特定領域の内部構造を解析することが可能となる。
【0032】
図6は、本実施の形態に係る特定物質の解析方法の可視化領域の指定方法のその他の例の説明図である。なお、
図6においては、
図4に示した例と同様に、略直方体形状の特定物質の解析用モデル10を正面から示している。
【0033】
図6に示すように、本実施の形態に係る特定物質の解析方法においては、可視化領域としては、必要に応じて任意の領域を指定することが可能である。例えば、可視化領域としては、解析用モデル10の中央部から一端部を含む領域を一つの可視化領域A13として指定してもよい。このように可視化領域A13を指定することにより、内部に体積の大きいボイドが存在する複合材料などのボイドの大きさを容易に解析することが可能となる。また、可視化領域としては、解析用モデル10の内部の一定の領域に略直方体形状の可視化領域A14として指定してもよい。このように可視化領域A14を指定することにより、同一の解析時間における可視化領域A14の内部の複数の面の内部構造を共に解析することが可能となる。さらに、可視化領域としては、可視化領域の端面が解析用モデル10の端面に対して斜めとなる略直方体形状の領域を可視化領域A15として指定してもよい。このように可視化領域A15を指定することにより、解析用モデル10の端面に対して斜めに生じる内部応力の影響などを解析することが可能となる。
【0034】
図7は、本実施の形態に係る特定物質の解析方法の可視化領域の指定方法のその他の例の説明図である。なお、
図7においては、
図4に示した例と同様に、略直方体形状の特定物質の解析用モデル10を正面から示している。
【0035】
図7に示すように、可視化領域は、解析用モデル10の複数の領域を指定してもよい。例えば、可視化領域としては、相互に略平行な略直方体形状の2つの領域を可視化領域A16,A17として指定してもよい。このように可視化領域A16,A17を指定することにより、同一の解析時間での可視化領域A16,A17における同一方向から作用する応力の影響の差異を解析することが可能となる。また、可視化領域としては、相互に直交する2つの略直方体形状の2つの領域を可視化領域A18,A19として指定してもよい。この場合、可視化領域A18,A19が重複した可視化領域A20があってもよい。このように可視化領域A18,A19を指定することにより、同一の解析時間における解析用モデル10に対して略直交する方向から作用する応力の影響の差異などを解析することが可能となる。
【0036】
図8A及び
図8Bは、本実施の形態に係る特定物質の解析方法の可視化領域の指定方法のその他の例の説明図である。なお、
図8A及び
図8Bにおいては、
図4に示した例と同様に、略直方体形状の特定物質の解析用モデル10を正面から示している。
【0037】
図8A及び
図8Bに示すように、本実施の形態では、ポリマー及びフィラーなどの原子、粒子及び結合鎖は、質点(不図示)を重心とした略球状体31として解析用モデル化される。このため、可視化領域A1を指定して可視化する場合には、
図8Aに示すように、指定した可視化領域A1内に重心が含まれる粒子、原子及び結合鎖(略球状体31)の全体を可視化してもよい。このように可視化することにより、可視化領域A1内に重心が含まれる粒子、原子及び結合鎖の全体形状を解析することが可能となる。また、可視化領域A1を指定して可視化する場合には、
図8Bに示すように、指定した可視化領域A1に重心が含まれない粒子、原子及び結合鎖(略球状体31)の少なくも1種の一部を可視化してもよい。このように可視化することにより、可視化領域A1内に含まれる全ての粒子、原子及び結合鎖を解析することが可能となる。さらに、
図8Bに示す例では、指定した可視化領域A1と当該可視化領域A1以外の他の領域との境界面F1を可視化してもよい。このように可視化することにより、可視化領域の境界面F1の内部構造の評価が可能となる。
【0038】
次に、本実施の形態に係る特定物質の解析方法について詳細に説明する。
図9は、本実施の形態に係る特定物質の解析方法を実行する解析装置の機能ブロック図である。
図9に示すように、本実施の形態に係る特定物質の解析方法は、処理部52と記憶部54とを含むコンピュータである解析装置50が実現する。この解析装置50は、入力手段53を備えた入出力装置51と電気的に接続されている。入力手段53は、モデル化の対象であるポリマー11、及びフィラー12(
図1参照、以下同様)の各種物性値並びに解析における境界条件などを解析装置50に入力する。入力手段53としては、例えば、キーボード、マウスなどの入力デバイスが用いられる。
【0039】
処理部52は、例えば、中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)及びメモリを含む。処理部52は、各種処理を実行する際にコンピュータプログラムを記憶部54から読み込んでメモリに展開する。メモリに展開されたコンピュータプログラムは、各種処理を実行する。処理部52は、記憶部54から予め記憶された各種処理に係るデータを必要に応じて適宜メモリ上の自身に割り当てられた領域に展開し、展開したデータに基づいて、複合材料の解析用モデルの作成及び当該解析用モデルを用いたシミュレーションに関する各種処理を実行する。
【0040】
処理部52は、モデル作成部52aと、条件設定部52bと、解析部52cとを含む。モデル作成部52aは、予め記憶部54に記憶されたデータに基づき、分子動力学法によりモデルを作成する際のフィラー、ポリマーの粒子数、分子数、分子量、分岐、形状及び大きさの設定を行う。また、モデル作成部52aは、フィラー粒子とポリマー粒子と間の結合鎖13、14、15などの構成要素の配置、設定及び計算ステップ数などの粗視化モデルの設定を行う。さらに、モデル作成部52aは、ポリマー−ポリマー間及びポリマー−フィラー間などの相互作用などの各種計算パラメーターの初期条件の設定を行う。
【0041】
ポリマーとフィラーとの相互作用を調整する計算パラメーターとしては、下記式(1)で表されるレナード・ジョーンズポテンシャルのσ、εを用い、これらが調整される。ポテンシャルを計算する上限距離(カットオフ距離)を大きくすることで、遠距離まで働いた引力、斥力を調整できる。なお、ポリマー−フィラー間相互作用が一定値になるまで順次、ポリマー−フィラー間相互作用パラメーターを小さくすることが好ましい。レナード・ジョーンズポテンシャルのσ、εを大きな値から徐々に本来の値に近づけることにより、分子を不自然な状態に導かない穏やかな速度で粒子の接近を行うことができる。また、カットオフ距離も徐々に小さくすることにより、適正な範囲で引力、斥力を調整できる。
【数1】
【0042】
モデル作成部52aは、初期条件の設定の後、平衡化計算を行う。平衡化計算では、所定の温度、密度及び圧力で、初期条件設定後の各種構成要素が平衡状態に到達する所定の時間、分子動力学計算を行う。さらに、モデル作成部52aは、初期条件の設定及び平衡化を計算した後に、ポリマー11及びフィラー12をモデル化したポリマーモデル及びフィラーモデルを作成する。また、モデル作成部52aは、作成したポリマーモデル及びフィラーモデルの初期状態を作成する。
【0043】
条件設定部52bは、モデル作成部52aで作成したポリマーモデル及びフィラーモデルを用いた分子動力学法による運動シミュレーション(解析)を実行するための各種条件を設定する。条件設定部52bは、入力手段53からの入力及び記憶部54に記憶されている情報に基づいて各種条件を設定する。各種条件としては、解析部52cが解析を実行する際のフィラー原子、フィラー原子団、フィラー粒子及びフィラー粒子群の位置並びに数、ポリマー原子、ポリマー原子団、ポリマー粒子及びポリマー粒子群の位置並びに数、結合鎖13、14、15の位置及び数、条件を変更しない固定値などが含まれる。
【0044】
解析部52cは、モデル作成部52aにより作成されたポリマーモデル及びフィラーモデルを用いた分子動力学法による伸張解析などの運動シミュレーションにより数値解析を実行する。また、解析部52cは、数値解析したポリマー11及びフィラー12を形成するポリマー原子、ポリマー粒子、フィラー原子、フィラー粒子及び結合鎖13、14、15の解析時間の中からフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15を可視化する少なくとも一つの可視化時間を指定する。さらに、解析部52cは、解析用モデルの中で指定した可視化時間で可視化する少なくとも一つの可視化領域を指定する。可視化領域の指定方法としては、フィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15を可視化できる範囲であれば特に制限はない。可視化領域の指定方法としては、例えば、特定点を中心として所定半径の球状の領域を指定する指定方法又は複数の特定点を頂点として形成される多面体状の領域を指定する指定方法が挙げられる。また、可視化領域の数としても特に制限はなく、複数の可視化領域を指定することもできる。また、解析部52cは、指定した可視化時間で指定した可視化領域に含まれるフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15の少なくとも1種を抽出する。
【0045】
また、解析部52cは、可視化時間内で抽出されたフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15を可視化する。可視化方法としては、抽出したフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15を識別できる可視化方法であれば特に制限はない。フィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15の可視化方法としては、例えば、抽出されたフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15にそれぞれ異なる色を着色して可視化する可視化方法が挙げられる。また、可視化方法としては、全てのフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15を着色して可視化し、抽出したフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15の色を他のフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15とは異ならせる可視化方法が挙げられる。さらに、可視化方法としては、抽出されたフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15以外のフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15を透明にする可視化方法などが挙げられる。
【0046】
また、解析部52cは、解析時間の時間毎のフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子及びポリマー粒子の物理量に基づいて、フィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子及びポリマー粒子を配色することが好ましい。このようにすることで、原子及び粒子の運動に伴う原子及び粒子の物理量の変化並びに分布を容易に観察することができる。フィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子及びポリマー粒子の物理量としては、数値解析の結果によって得られる物理量又は当該物理量を演算して得られる物理量であれば特に制限はない。フィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子及びポリマー粒子の物理量としては、例えば、速度、加速度、力及び変位などが挙げられる。
【0047】
さらに、解析部52cは、指定した可視化時間における解析時間毎の結合鎖13、14、15の物理量に基づいて、結合鎖13、14、15を配色することが好ましい。このようにすることで、結合鎖13、14、15の運動に伴う結合鎖の物理量の変化及び分布を容易に観察することができる。結合鎖13、14、15の物理量としては、数値解析の結果によって得られる物理量又は当該物理量を演算して得られる物理量であれば特に制限はない。結合鎖13、14、15の物理量としては、例えば、伸張力、ねじり力及び曲げ力などが挙げられる。
【0048】
記憶部54は、ハードディスク装置、光磁気ディスク装置、フラッシュメモリ及びCD−ROMなどの読み出しのみが可能な記録媒体である不揮発性のメモリ並びにRAM(Random Access Memory)のような読み出し及び書き込みが可能な記録媒体である揮発性のメモリが適宜組み合わせられる。
【0049】
記憶部54には、入力手段53を介して解析対象となるポリマーモデル及びフィラーモデルを作成するためのデータであるゴム及び各種樹脂材料などのポリマー11(
図3参照)、カーボンブラック又はシリカなどのフィラー12(
図3参照)のデータ及び本実施の形態に係る特定物質の解析方法を実現するためのコンピュータプログラムなどが格納されている。このコンピュータプログラムは、コンピュータ又はコンピュータシステムに既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、本実施の形態に係る特定物質の解析方法を実現できるものであってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)及び周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
【0050】
表示手段55は、例えば、液晶表示装置等の表示用デバイスである。なお、記憶部54は、データベースサーバなどの他の装置内にあってもよい。例えば、解析装置50は、入出力装置51を備えた端末装置から通信により処理部52及び記憶部54にアクセスするものであってもよい。
【0051】
次に、
図10を参照して本実施の形態に係る特定物質の解析方法の具体例について説明する。
図10は、本実施の形態に係る特定物質の解析方法の概略を示すフロー図である。
【0052】
図10に示すように、開始時には、まずモデル作成部52aが、入力手段53を介して予め記憶部54に記憶されたモデル化するためのデータであるフィラー12及びポリマー11の粒子数、分子数、分子量、分岐、形状、大きさ、フィラー12及びポリマー11の粒子間を接続する結合鎖13、14、15などの構成要素の配置などのフィラー12及びポリマー11をモデル化するための各種データを読込む。続いて、モデル作成部52aは、各種データに基づいてフィラーモデル及びポリマーモデルを作成する。モデル作成部52aは、ポリマーモデルに対して初期条件の設定及び分子動力学計算により平衡化計算を行う。
【0053】
次に、条件設定部52bは、入力手段53からの入力又は記憶部54に記憶されている情報に基づいて、ポリマーモデルを用いた分子動力学法による運動シミュレーション(解析)の条件を設定する。
【0054】
次に、解析部52cは、条件設定部52bが設定した条件に基づいて、分子動力学法により作成したポリマーモデル及びフィラーモデルを用いて分子動力学法による伸張解析などの運動シミュレーションにより数値解析を実行する(ステップST10)。続いて、解析部52cは、解析開始時間又は解析終了時間などを数値解析したフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15の解析時間の中から可視化するフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15を可視化する可視化時間を指定する(ステップST11)。ここでは、解析部52cは、複数の可視化時間を指定してもよい。これにより、指定した複数の可視化時間毎に異なる時間の特定物質の内部構造の評価が可能となるので、特定物質の内部構造の変化を評価することが可能となる。
【0055】
次に、解析部52cは、例えば、解析開始時間又は解析終了時間で特定点を中心として所定半径の球状の領域を指定する指定方法及び複数の特定点を頂点として形成される多面体状の領域を可視化領域として指定する(ステップST12)。ここでは、解析部52cは、必要に応じて複数の可視化領域を指定してもよい。続いて、解析部52cは、選定時間で可視化領域に含まれるフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15を抽出する(ステップST13)。
【0056】
そして、解析部52cは、例えば、可視化時間内で抽出されたフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15を着色する着色方法などにより可視化する(ステップST14)。ここでは、解析部52cは、指定した可視化時間における時間毎のポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15の物理量に基づいて、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15を配色してもよい。このように配色することにより、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15の運動に伴うポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15の物理量の変化及び分布を観察することが可能となる。
【0057】
また、解析部52cは、複数の可視化領域を指定した場合には、指定した複数の可視化領域を共に可視化することが好ましい。このようにすることにより、複数の可視化領域の内部構造を可視化できるので、特定物質内の異なる領域の内部構造を同時に評価することが可能となる。また、解析部52cは、指定した可視化領域に重心が含まれる略球状のフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15の少なくとも1種の全体を可視化してもよい。さらに、解析部52cは、指定した可視化領域に重心が含まれない略球状のフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15の少なくも1種の一部を可視化してもよい。また、解析部52cは、指定した可視化領域と当該可視化領域以外の他の領域との境界面を可視化してもよい。最後に、解析部52cは、伸張解析などによって得られた解析結果を記憶部54に格納してモデルの解析を終了する。
【0058】
以上説明したように、上記実施の形態に係る特定物質の解析方法によれば、モデル化した特定物質の全粒子を解析するのではなく、指定した可視化時間で解析する解析領域内に含まれるフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15の少なくとも1種を抽出し、抽出したフィラー原子、フィラー粒子、ポリマー原子、ポリマー粒子及び結合鎖13、14、15の少なくとも1種を可視化するので、モデル化した特定物質の質点の抽出などを伴わずに特定物質の内部構造を可視化することが可能となる。これにより、例えば、複合材料内部のフィラーの配置及びボイドなどの内部構造を可視化して解析することができるので、特定物質の内部構造の評価が可能な特定物質の解析方法を実現できる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例に基づいて本発明についてより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
本発明者らは、上述した本実施の形態に係る特定物質の解析方法を用いてフィラー及びポリマーを含有する複合材料の解析用モデルを作成し、作成した解析用モデルを使用して複合材料の解析用モデルの伸長解析結果を可視化した。その結果、複合材料の解析用モデルの変形前後における内部構造を
図3に示した例のように可視化でき、変形前後の内部構造を対比させることで変形に伴うボイド及びフィラー配置を評価することができた。また、応力ひずみ関係などの力学応答と比較することにより、解析用モデルの変形と応力ひずみ関係を予測することができた。
【0061】
(比較例1)
また、本発明者らは、一般的な解析方法を用いてフィラー及びポリマーを含有する複合材料の解析用モデルを作成し、作成した解析用モデルを使用して複合材料の解析用モデルの伸長解析結果を可視化した。しかしながら、一般的な解析方法では、数万〜数百万の粒子でモデル化された解析用モデルの内部構造を解析することはできなかった。