(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484945
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】溶着構造体
(51)【国際特許分類】
B29C 65/06 20060101AFI20190311BHJP
F04D 29/42 20060101ALI20190311BHJP
F04D 13/06 20060101ALI20190311BHJP
F04D 29/60 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
B29C65/06
F04D29/42 G
F04D13/06 E
F04D29/60 E
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-150969(P2014-150969)
(22)【出願日】2014年7月24日
(65)【公開番号】特開2016-22728(P2016-22728A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】神谷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】服部 修二
(72)【発明者】
【氏名】小川 博臣
【審査官】
今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−221942(JP,A)
【文献】
特開2007−230110(JP,A)
【文献】
特開昭63−251225(JP,A)
【文献】
特表2002−536210(JP,A)
【文献】
実開昭63−075321(JP,U)
【文献】
特開2005−231078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/06
F04D 13/06
F04D 29/42
F04D 29/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の第1部材および第2部材と、
前記第1部材に形成された円環状で平らな第1圧接面と前記第2部材に形成された円環状で平らな第2圧接面とが互いに圧接状態で溶着されたスピン軸芯を中心とする円環状の溶着部と、
前記第1圧接面と前記第2圧接面とを互いに圧接させる押圧力が付与される前記第1部材側の第1押圧部位および前記第2部材側の第2押圧部位と、を有し、
前記第1部材が、内部のポンプ室にポンプ部を収容したポンプハウジングであり、前記第2部材が、前記スピン軸芯と同軸芯のモータ回転軸芯を中心に前記ポンプ部を駆動する電動モータ部を収容したモータハウジングであり、
前記ポンプハウジングは、前記モータ回転軸芯と同軸芯で吸入筒部を有し、前記吸入筒部に対し接線方向に沿って吐出筒部を有し、前記モータハウジング側端部にポンプ側フランジを有しており、
前記第1押圧部位として、前記第1圧接面からの高さが管理された押圧面を有する凸部を前記ポンプ側フランジと前記吐出筒部とに備えると共に、前記ポンプ側フランジに備えられる前記凸部の前記第1圧接面からの高さと、前記吐出筒部に備えられる前記凸部の前記第1圧接面からの高さとが異なる溶着構造体。
【請求項2】
前記複数の凸部は前記スピン軸芯周りで等間隔に配置されている請求項1記載の溶着構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の第1部材と第2部材とが互いに溶着された溶着部を有する溶着構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポンプ室を内部に形成してある溶着構造体を備えた電動ポンプが記載されている。
この溶着構造体は、樹脂製の例えば第1部材に相当するケーシングおよび第2部材に相当する分離板と、ケーシングに形成された第1圧接面と分離板に形成された第2圧接面とが互いに圧接状態で溶着された溶着部とを有する。
第1圧接面はケーシングに円環状に突設されたケーシング側溶着突起の先端面で形成してあり、第2圧接面は分離板に円環状に突設された分離板側溶着突起の先端面で形成してある。
【0003】
溶着部は、例えば、分離板を固定基盤に支持し、ケーシングをチャック部材に把持して、ケーシング側溶着突起の第1圧接面と分離板側溶着突起の第2圧接面とを互いに圧接状態でケーシングを分離板に対して回転させるスピン溶着により、ケーシングと分離板とを液密に溶着してある。
この場合、第1圧接面と第2圧接面とを互いに圧接させる押圧力は、固定基盤とチャック部材とで互いに対向する方向に付与される。
【0004】
第1圧接面と第2圧接面とを互いに圧接させる押圧力は、接合面どうしの溶着強度を全域に亘って均等に確保するために、圧接面どうしが全域に亘って均一に圧接されるように付与するのが望ましい。
このため、第1圧接面と第2圧接面とを互いに圧接させる押圧力が付与される第1部材側の第1押圧部位および第2部材側の第2押圧部位とを有している。
従来の溶着構造体では、第1押圧部位と第2押圧部位とを、一連の円環状に形成された扁平な押圧面を樹脂成形後の第1部材および第2部材に切削などの加工を施して形成してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−221942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の溶着構造体では、押圧力が付与される第1押圧部位および第2押圧部位を一連の円環状に形成された扁平な押圧面で構成してある。
このため、扁平な押圧面を形成するための、樹脂成形後の第1部材または第2部材に対して切削などの加工を施す領域が広く、製作に手間が掛かるおそれがある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、製作の手間を軽減できる溶着構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による溶着構造体の特徴構成は、樹脂製の第1部材および第2部材と、 前記第1部材に形成された
円環状で平らな第1圧接面と前記第2部材に形成された
円環状で平らな第2圧接面とが互いに圧接状態で溶着され
たスピン軸芯を中心とする円環状の溶着部と、前記第1圧接面と前記第2圧接面とを互いに圧接させる押圧力が付与される前記第1部材側の第1押圧部位および前記第2部材側の第2押圧部位と、を有し、
前記第1部材が、内部のポンプ室にポンプ部を収容したポンプハウジングであり、前記第2部材が、前記スピン軸芯と同軸芯のモータ回転軸芯を中心に前記ポンプ部を駆動する電動モータ部を収容したモータハウジングであり、前記ポンプハウジングは、前記モータ回転軸芯と同軸芯で吸入筒部を有し、前記吸入筒部に対し接線方向に沿って吐出筒部を有し、前記モータハウジング側端部にポンプ側フランジを有しており、前記第1押圧部位
として、前記第1圧接面からの高さが管理された押圧面を有する凸部を
前記ポンプ側フランジと前記吐出筒部とに備えると共に、前記ポンプ側フランジに備えられる前記凸部の前記第1圧接面からの高さと、前記吐出筒部に備えられる前記凸部の前記第1圧接面からの高さとが異なる点にある。
【0008】
本構成の溶着構造体は、少なくとも第1押圧部位を、第1圧接面からの高さが管理された押圧面を有する凸部を複数備えて構成してある。
すなわち、第1押圧部位および第2押圧部位の夫々が一連に形成された単一の押圧面を備えているのではなく、少なくとも第1押圧部位が第1圧接面からの高さが管理された複数の押圧面を備えている。
【0009】
このため、少なくとも第1押圧部位に押圧面を形成するために、樹脂成形後の第1部材に対して切削などの加工を施す領域を狭くすることができる。
したがって、本構成の溶着構造体であれば、製作の手間を軽減できる。
【0012】
本発明の他の特徴構成は、
前記複数の凸部は前記スピン軸芯周りで等間隔に配置されている点にある。
【0013】
本構成であれば、第1圧接面と第2圧接面とを互いに圧接させる押圧力を、円形の溶着部の全域に亘って等間隔で均等に付与することができ、全周に亘って溶着強度の信頼性が高い溶着部を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】電動ブラシレスウォータポンプの断面図である。
【
図2】電動ブラシレスウォータポンプの側面図である。
【
図3】電動ブラシレスウォータポンプの平面図である。
【
図5】ポンプハウジングとモータハウジングとの溶着方法を示す側面図である。
【
図6】ポンプハウジングとモータハウジングとの溶着方法を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1〜
図4は、本実施形態による溶着構造体Aを設けてある電動ブラシレスウォータポンプBを示す。
電動ブラシレスウォータポンプBは、エンジン冷却用の冷却水を循環させるために車両用エンジン(図示せず)に装備され、ポンプ部1とポンプ部1を駆動する電動モータ部2と電動モータ部2を制御するドライバ部3とをハウジング4の内部に備える。
【0018】
ハウジング4は、ポンプ部1が収容される熱可塑性樹脂製のポンプハウジング4aと、電動モータ部2が収容される熱可塑性樹脂製のモータハウジング4bと、ドライバ部3を収容するドライバ室3aを形成するアルミ合金製の蓋ケース4cとを備えている。
ドライバ室3aには、ドライバ部3を構成する電子部品が接続された回路基板3bを収容してある。
【0019】
本実施形態では、ポンプハウジング4aが第1部材に相当し、モータハウジング4bが第2部材に相当する。ポンプハウジング4aとモータハウジング4bとが溶着されたケースが本実施形態の溶着構造体Aに相当する。
【0020】
ポンプハウジング4aの内部に、インペラ1aを収容するポンプ室1bが形成されている。ポンプハウジング4aには、エンジンからの冷却水をポンプ室1bに吸入する吸入筒部1cと、ポンプ室1bcの冷却水をエンジンに送り出す吐出筒部1dとが一体成形されている。
吸入筒部1cはモータ回転軸芯Xと同軸芯で設けてあり、吐出筒部1dは吸入筒部1cに対する接線方向に沿って設けてある。
【0021】
モータハウジング4bには、ハウジング内部をモータ回転軸芯Xの方向で電動モータ部2のロータ5を回転自在に収容するロータ室5aとドライバ室3aとに仕切る隔壁5bを一体成形してある。
電動モータ部2のステータ2aはモータハウジング4bの肉厚内にインサート成形されている。電動モータ部2のロータ5は、インペラ1aと共に一体に回転自在に設けてある。ロータ5をインペラ1aと共に回転自在に支持する回転支軸5cは、隔壁5bとポンプハウジング4aとに亘って支承してある。
【0022】
ポンプハウジング4aのモータハウジング側端部には、外形がモータ回転軸芯Xと同芯で円形のポンプ側フランジ6と、ポンプ側フランジ6の内周側に沿ってモータ回転軸芯Xと同芯で円環状に凹入する凹面部7とを形成してある。
【0023】
図4に示すように、ポンプ側フランジ6のモータハウジング4b側に対向する部分には、モータ回転軸芯Xと同芯で円環状に形成されたポンプ側突条6aおよびポンプ側突条6aの外周側を同芯で囲む円環状に形成された周壁6bを一体成形してある。
ポンプ側突条6aのモータハウジング4b側に対向する端面が円環状の第1圧接面8を形成している。
【0024】
モータハウジング4bのポンプハウジング側端部には、外形がモータ回転軸芯Xと同芯で円形のモータ側フランジ9と、モータ側フランジ9の内周側でモータ回転軸芯Xと同芯で円筒状に突出する凸面部10とを形成してある。
【0025】
モータ側フランジ9はポンプ側フランジ6と同じ外径で形成してある。凸面部10を凹面部7に相対摺動可能に内嵌することにより、ポンプハウジング4aとモータハウジング4bとが位置決め状態に組み付けられる。
【0026】
図4に示すように、モータ側フランジ9のポンプハウジング4a側に対向する部分には、モータ回転軸芯Xと同芯で円環状に形成されたモータ側突条9aを一体成形してある。
モータ側突条9aはポンプ側突条6aと同じ外径および内径で形成してあり、モータ側突条9aのポンプハウジング4a側に対向する端面が第2圧接面11を形成している。
【0027】
溶着構造体Aは、第1圧接面8と第2圧接面11とが互いに圧接状態でスピン溶着された溶着部12と、第1圧接面8と第2圧接面11とを互いに圧接させる押圧力が付与されるポンプハウジング4a側の第1押圧部位13およびモータハウジング4b側の第2押圧部位14とを有する。
【0028】
図5,
図6は、第1圧接面8と第2圧接面11とをスピン溶着する方法を示し、ポンプハウジング4aをモータ回転軸芯Xと同芯のスピン軸芯周りで回転操作自在に把持するチャック部材Cと、モータハウジング4bを回り止め状態で固定する固定基盤Dとを使用する。
【0029】
固定基盤Dは、モータ側フランジ9のポンプ側フランジ6側とは逆向きのフランジ面に設定された第2押圧部位14を載置支持してモータハウジング4bを回転不能に固定する。第2押圧部位14に設定されるフランジ面は、樹脂成形後の切削加工により、モータ回転軸芯Xに直交する面に沿った一連の環状に連続する扁平面に形成されている。
【0030】
チャック部材Cは、ポンプ側フランジ6のモータ側フランジ9側とは逆向きのフランジ面に設定された第1押圧部位13をモータ回転軸芯Xの方向に沿ってモータハウジング4bに向けて押圧する三つの押圧部15を有している。
【0031】
第1押圧部位13および第2押圧部位14は、スピン溶着時に第1圧接面8と第2圧接面11とを互いに圧接させる押圧力を、例えばポンプハウジング4aをチャック部材Cでモータハウジング4bに向けて押し付けることにより付与するために設けてある。
【0032】
そして、第1圧接面8と第2圧接面11とが互いに圧接された状態でのポンプハウジング4aの回転に伴って生じる摩擦熱で第1圧接面8と第2圧接面11とを溶融して、スピン軸芯周りで円形の溶着部12を設けてある。
【0033】
第1押圧部位13は、溶着部12の存在側とは逆向きに突出する複数の凸部16a,16bを、ポンプ側フランジ6のモータハウジング側とは逆向きの面および吐出筒部1dの一部に一体成形して設けてある。複数の凸部16a,16bは、スピン軸芯周りで等間隔で配置してある。
【0034】
各凸部16a,16bの先端の夫々は、樹脂成形後の切削加工により、モータ回転軸芯Xに直交する面に沿った扁平な押圧面13aに形成されている。
チャック部材Cが有する押圧部15は、少なくとも周方向で隣り合う二つの凸部16a,16bの押圧面13aを同時に押圧する。
【0035】
ポンプ側フランジ6に設けてある複数の凸部16aは、溶着前又は溶着後の第1圧接面8からの高さH1が一定高さに管理された押圧面13aを備えている。
吐出筒部1dに設けてある凸部16bの押圧面13aは、第1圧接面8からの高さH2がポンプ側フランジ6に設けてある凸部16aの押圧面13aの高さH1よりも高い異なる高さに管理されている。
【0036】
このように、押圧部15が高さ管理された凸部16a,16bを押圧するが、適切な姿勢でポンプ部側フランジ6を押すために、例えばポンプ部側フランジ6の全周に亘って押圧面を平面加工する必要はなく、凸部16a,16bのみ高さ管理しつつ平面加工すればよいので、ポンプ部側フランジ6の製作効率を高めることができる。
【0037】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による溶着構造体は、第1圧接面からの高さが管理された押圧面を有する凸部を複数備えて構成してある第1押圧部位に加えて、第2圧接面からの高さが管理された押圧面を有する凸部を複数備えて構成してある第2押圧部位を有していてもよい。
2.本発明による溶着構造体は、振動溶着や超音波溶着、加熱源を使用する加熱溶着などの各種溶着手段で溶着された溶着部を有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、電動ウォータポンプや電動ウォータポンプ以外の各種用途の溶着構造体に利用できる。
【符号の説明】
【0039】
4a 第1部材
4b 第2部材
8 第1圧接面
11 第2圧接面
12 溶着部
13 第1押圧部位
13a 押圧面
14 第2押圧部位
16a,16b 凸部
H1 第1圧接面からの高さ
X スピン軸芯