特許第6484975号(P6484975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6484975グリセロリン脂質含有粉末および健康食品
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  • 特許6484975-グリセロリン脂質含有粉末および健康食品 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484975
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】グリセロリン脂質含有粉末および健康食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/115 20160101AFI20190311BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20190311BHJP
   A23L 29/30 20160101ALI20190311BHJP
【FI】
   A23L33/115
   A23L29/262
   A23L29/30
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-194233(P2014-194233)
(22)【出願日】2014年9月24日
(65)【公開番号】特開2016-63771(P2016-63771A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197022
【弁理士】
【氏名又は名称】谷水 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(72)【発明者】
【氏名】大邑 悠太
(72)【発明者】
【氏名】虎田 英之
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 厚徳
【審査官】 布川 莉奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/001786(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/111651(WO,A1)
【文献】 特開2012−036112(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/161359(WO,A1)
【文献】 特開2002−136270(JP,A)
【文献】 特開2004−075600(JP,A)
【文献】 特開2004−298848(JP,A)
【文献】 特開2014−141476(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/080911(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/40− 5/49
A23L 31/00−33/21
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/WPIDS/CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分
(A)グリセロリン脂質1〜70質量%
(B1)不溶性食物繊維5〜45質量%
(B2)糖質5〜45質量%
を含有し、(B1)不溶性食物繊維がセルロースであり、(B2)糖質が還元イソマルツロースであり、平均粒子径が10〜1000μmであるグリセロリン脂質含有粉末。
【請求項2】
さらに、
(C)固結防止剤0.01〜2.0質量%
を含有する、請求項1に記載のグリセロリン脂質含有粉末。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のグリセロリン脂質含有粉末を用いるグリセロリン脂質含有健康食品の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセロリン脂質を含有する粉末、およびこれを用いて得られる健康食品に関する。
【背景技術】
【0002】
グリセロリン脂質は、グリセロール骨格を有するリン脂質であり、生体内での多彩な役割を担う生理活性物質として注目されている。その生理活性としては、例えば、脂質代謝の改善作用(特許文献1)や、肝臓障害予防・改善(特許文献2)などが報告されている。特に近年、ホスファチジルセリンには脳機能改善効果が見出され、食品素材として有望視されている。
【0003】
様々な生理活性物質が、健康食品としてドリンクやソフトカプセルなど様々な形態で上市されている。このうち、ハードカプセル、錠剤、顆粒品といった粉末原料を使用する製品形態が市場の大半を占めている。生理活性物質の中でも、グリセロリン脂質は非常に特異的な性状を有している。生体膜を構成する成分であることからも明らかな通り、両親媒性物質であるため、乾燥、粉体化したとき、高い粘着性を有している。このため、グリセロリン脂質を含有する市販の粉末品は、べたつきにより流動性や粉体分散性が悪く、製品化の障害になる場合が多々ある。例えば、ハードカプセルや顆粒品の製品の場合、流動性が悪いために充填性を考慮すると多量に配合できないことや、錠剤の製品の場合には、配合量が多くなるとべたつきが増し、打錠できない問題がある。いずれの場合も、製品中のグリセロリン脂質含有粉末の配合量を少量化せざるを得ず、推奨量を摂取するためには、これらの製品を多く摂る設計にしなければならない。また、錠剤の場合にはグリセロリン脂質含有粉末の配合量が少なくても、配合原料中での粉体分散性が悪いために偏在が生じ錠剤表面が斑模様になって外観が悪くなるという問題もある。また、市販の粉末品は保存中に吸湿すると粉末が固結してしまうという別の問題もある。
【0004】
このようなグリセロリン脂質の特有の性状に対して解決が図られてきたが、未だ有効な解決策は見出されていない。例えば特許文献3には、ゼラチンをショ糖脂肪酸エステルに組み合わせて使用することにより、ホスファチジルセリンの分散性を向上させる技術が開示されているが、この技術によって水中での分散性は向上するものの、グリセロリン脂質自体の性状は変わらず、粉末原料中の均一分散性の改善には何ら繋がらない。特許文献4には、アスコルビン酸ナトリウムと糖類のみからなり、流動性及び錠剤成形性を改善する技術が開示されているが、この技術ではグリセロリン脂質のべたつきを改善することはできない。
このように、グリセロリン脂質含有粉末のべたつきを低減させ、流動性や粉体分散性を向上させ、さらに保存中に固結を防止することで健康食品原料としての汎用性を高めることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−337177号公報
【特許文献2】特開平10−84879号公報
【特許文献3】特開2013−143913号公報
【特許文献4】特開2010−248108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、べたつきを抑え、健康食品の粉末原料として流動性や粉体分散性を向上させたグリセロリン脂質含有粉末を提供することにある。また、グリセロリン脂質が均一に分散した健康食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、グリセロリン脂質、不溶性食物繊維及び糖質を特定の配合量で含有させ、特定の粒径範囲の粉末とすることによって、上記の課題を解決することの知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の(1)〜(3)である。
(1)下記の成分
(A)グリセロリン脂質10〜70質量%
(B1)不溶性食物繊維5〜45質量%
(B2)糖質5〜45質量%
を含有し、平均粒子径が10〜1000μmであるグリセロリン脂質含有粉末。
(2)さらに、
(C)固結防止剤0.01〜2.0質量%
を含有する前記の(1)に記載のグリセロリン脂質含有粉末。
(3)前記の(1)または(2)に記載のグリセロリン脂質含有粉末を用いるグリセロリン脂質含有健康食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、グリセロリン脂質の性質であるべたつきを低減し、粉末原料としての流動性や粉体分散性を向上し、保存中の固結を抑制したグリセロリン脂質含有粉末を提供することができる。更にこれをハードカプセルや錠剤、顆粒品などの健康食品の粉末原料として使用することで、製品中のグリセロリン脂質の配合量を増加でき、錠剤表面の斑模様を解消するなど、消費者にとって、魅力のある製品を提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例2−3で製造した錠剤(左図)と比較例2−2で製造した錠剤(右図)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
(グリセロリン脂質含有粉末)
本発明のグリセロリン脂質含有粉末は、グリセロリン脂質(A)、不溶性食物繊維(B1)、および糖質(B2)を含有する粉末である。
【0011】
(グリセロリン脂質(A))
本発明に用いるグリセロリン脂質とは、グリセリンの1−および2−位の位置に脂肪酸由来のアシル基を有し、3−位にリン酸を含む極性基が結合した構造を有する化合物をいう。例としては、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)等が挙げられ、2種以上の混合物でもよい。好ましくはPC、PS、PE、PAまたはそれらの2種以上の混合物である。本発明のグリセロリン脂質(A)は、動植物から抽出精製されたものを用いることができる。例えば大豆、米、トウモロコシ、菜種、綿実、小麦、ヒマワリ、紅花等の植物や卵黄、魚介類等の動物が挙げられる。あるいは化学反応や酵素反応等により得ることもできるし、試薬または原料として市販されているものも用いることができる。
【0012】
グリセロリン脂質含有粉末に対するグリセロリン脂質(A)の配合量は、好ましくは10〜70質量%であり、より好ましくは15〜60質量%である。グリセロリン脂質が10質量%未満の場合は、錠剤やハードカプセルなどに配合した際の1粒あたりの有効成分が少なくなり、摂取粒数を多くしなければならず、消費者にとっては大きな負担となる。また、グリセロリン脂質が70質量%を越える場合は、グリセロリン脂質のべたつきの抑制や固結の抑制ができずに、流動性や粉体分散性を改善できない。
【0013】
(不溶性食物繊維(B1))
食物繊維は、人間の消化管内で消化されず吸収もされない炭水化物の総称である。食物繊維は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に大別される。本発明に用いる食物繊維は、不溶性食物繊維(B1)である。例としてセルロース、ヘミセルロース、リグナン、キチンなどが挙げられ、このうちセルロースがより好ましい。本発明の不溶性食物繊維(B1)は、動植物から抽出精製され、例えば、リンゴ、トウモロコシ、ビート、大豆、小麦、木材(パルプ)、甲殻類の甲羅などから精製される。あるいは、化学反応により得ることもできるし、試薬または原料として市販されているものも利用できる。
なお、不溶性食物繊維の配合量は、五訂増補食品標準成分表(文部科学省)の不溶性食物繊維の測定法で使用される酵素−重量法(プロスキー変法)に準じて測定することができる。
【0014】
不溶性食物繊維(B1)は、吸油性を有するため、グリセロリン脂質を含む粉末に配合することで、べたつきを抑制することができる。しかし、不溶性食物繊維(B1)自体は流動性が悪いため、配合量が多すぎると流動性が悪くなる等の弊害を生じる。グリセロリン脂質含有粉末に対する不溶性食物繊維(B1)の配合量は、好ましくは5〜45質量%である。不溶性食物繊維(B1)が5質量%未満の場合、グリセロリン脂質のべたつきを抑制することができない。また、不溶性食物繊維(B1)が45質量%を超える場合は、流動性が悪くなるため、粉体分散性を改善できない。
【0015】
(糖質(B2))
糖質は、単糖を構成成分とする化合物の総称である。本発明に用いる糖質(B2)の例として、グルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類や、ラクトース、スクロース、マルトース等の二糖類、デンプン、グリコーゲン等の多糖類、あるいはキシリトール、マンニトール、還元イソマルツロース等の糖アルコールが挙げられる。このうち糖アルコールがより好ましい。本発明の糖質(B2)は、動植物から抽出精製、例えばサトウキビ、テンサイ、馬鈴薯・タピオカ・米・小麦・とうもろこし等が挙げられる。あるいは、化学反応等により得ることもできるし、試薬または原料として市販されているものも利用できる。
【0016】
糖質(B2)は、高い流動性を有するため、グリセロリン脂質を含む粉末の流動性および粉体分散性を改善することができる。本発明のグリセロリン脂質含有粉末に対する糖質(B2)の配合量は、好ましくは5〜45質量%である。糖質(B2)が5質量%未満の場合、流動性を改善することができない。一方、糖質(B2)を45質量%以下とすることにより、グリセロリン脂質の配合量を増やすことができるため好ましい。
【0017】
(固結防止剤(C))
固結防止剤(C)を用いることで、グリセロリン脂質を含む粉末の保存中における固結を防止することができる。例として、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、微粒二酸化ケイ素、微結晶セルロース、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。このうち微粒二酸化ケイ素が好ましい。
【0018】
本発明のグリセロリン脂質含有粉末に対する、固結防止剤(C)の配合量は、好ましくは0.01〜2.0質量%である。固結防止剤(C)が0.01質量%未満の場合、保存中にグリセロリン脂質同士が固結し、粗大な粒子となってしまう。一方、2.0質量%を超えて配合すると、グリセロリン脂質等の配合量が低下するという弊害が生じるため、配合量の上限としては2.0質量%以下が好ましい。
【0019】
(その他の成分)
本発明のグリセロリン脂質含有粉末は、グリセロリン脂質(A)、不溶性食物繊維(B1)、糖質(B2)以外にも、油脂、たんぱく質、水溶性食物繊維、ミネラル等の無機成分、ビタミン類等の機能性素材等を配合してもよい。
【0020】
(グリセロリン脂質含有粉末)
本発明のグリセロリン脂質含有粉末は、(A)10〜70質量%のグリセロリン脂質、(B1)5〜45質量%の不溶性食物繊維、(B2)5〜45質量%の糖質を含有する粉末である。製造方法としては通常の粉末化手法を適用することができる。例えば、グリセロリン脂質(A)、不溶性食物繊維(B1)、糖質(B2)を特定の配合量で混合後に粉砕する方法や、抽出液や酵素反応により得られたグリセロリン脂質の反応液に、不溶性食物繊維賦形剤(B1)と、糖質(B2)を添加・混合したものを乾燥後、粉砕する方法などが挙げられる。乾燥方法としては、例えば噴霧乾燥法、熱風乾燥法、ドラム乾燥法、凍結乾燥法、流動層乾燥法、連続真空乾燥法などが挙げられる。乾燥後の粉砕方法として、例えばカッティング式ミル、ハンマー式ミル、衝撃式ミル、気流式ミルなどによる粉砕方法が挙げられる。また、粉砕後に(C)0.01〜2.0質量%の固結防止剤を添加することができる。
本発明のグリセロリン脂質含有粉末の平均粒子径は、10〜1000μmである。その平均粒子径は、乾式のレーザー回折式粒度分布測定器で測定される。平均粒子径が1000μmを超える場合は、例えば錠剤が帽子状に剥離するキャッピング等の打錠障害が起きやすくなり錠剤成形性が悪くなる。平均粒子径が10μm未満の場合、例えば粉体原料同士を混合する際に、自然に分級現象が起こってしまい、含量の均一性が損なわれる。なお、本発明において、平均粒子径とは、乾式のレーザー回折式粒度分布測定器を用いて測定された体積基準平均粒子径をいう。
【0021】
(健康食品)
本発明のグリセロリン脂質含有粉末は、その優れた特性を活かして、継続的な摂取が行いやすいように、種々の形態の健康食品とすることができる。具体的には例えば錠剤、顆粒品、ハードカプセルとして調製することができる。
【0022】
(健康食品の製造方法)
グリセロリン脂質含有健康食品の製造方法は、本発明のグリセロリン脂質含有粉末を使用することを特徴とし、公知既存の製造装置を用いて製造することができる。
グリセロリン脂質含有錠剤の製造方法では、本発明のグリセロリン脂質含有粉末と賦形剤、滑沢剤を混合して混合物を得る工程、前記混合物を打錠機にて打錠する工程を備えている。また、混合物を得る工程において、その他の有効成分等を混合してもよい。本発明のグリセロリン脂質含有粉末を用いることで、1粒当たりのグリセロリン脂質含量を多くすることができ、さらに錠剤表面の斑模様を解消することができる。
【0023】
顆粒品やハードカプセルの製造方法では、本発明のグリセロリン脂質含有粉末を三方シールやスティック等の分包袋またはハードカプセルに充填する工程を備えている。また、充填する工程の前に、賦形剤やその他の有効成分等の粉末を混合して混合物を得る工程を設けてもよい。本発明のグリセロリン脂質含有粉末を用いることで、従来のグリセロリン脂質粉末よりも流動性が良くなるために充填性が改善され、1袋あるいは1粒当たりのグリセロリン脂質配合量を多くすることができる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
まず、各例における評価法を示す。
1.グリセロリン脂質含有粉末の評価法
1−1.平均粒子径の測定法
レーザー回折式粒度分布測定器(SALD−2100:(株)島津製作所製)を用いて乾式法により体積基準平均粒子径を測定した。
1−2.流動性の測定法
粉末の流動性を評価する方法として、粉末の安息角を測定した。安息角が小さいほど流動性は良好である。安息角の測定方法は、「第十五改正、日本薬局方解説書」で規定される方法に従った。
1−3.べたつき性の評価法
グリセロリン脂質含有粉末10gを乳鉢に量り取り、乳棒を10回転させすり潰した。その粉末をモニター10名に手で触ってもらい、以下の基準でべたつき性の強さを評価した。
○:べたつきを感じない。
△:ややべたつきを感じる。
×:べたべたしている。
1−4.固結性の評価法
吸湿後の固結した粉末の割合を固結性とし、次に測定方法を記載する。グリセロリン脂質含有粉末10gをシャーレに量り取り、湿度75%、40℃の恒温恒湿槽に1時間開放系で吸湿させた。吸湿させた粉末の質量を測定した後、粉末を20メッシュの篩を用いて100回振動させて、固結し篩上に残った部分の質量を測定した。下記に固結性(%)の計算式を記載した。固結していなければ、容易に篩を通過するため、固結性(%)は低くなる。
「固結性(%)=篩上のグリセロリン脂質含有粉末質量(g)/篩前のグリセロリン脂質粉末質量(g)×100」
1−5.グリセロリン脂質含量の測定法
グリセロリン脂質含有粉末のグリセロリン脂質含量は、高速液体クロマトグラフィーで測定した。高速液体クロマトグラフィー条件は以下に記載する。
機種;高速液体クロマトグラフィー((株)日立製作所 モデルD7000)
カラム;シリカゲルカラム(直経4.6mm×長さ250mm)
移動相;アセトニトリル:メタノール:リン酸=775:35:9(容量比)の混合溶媒
検出;紫外線波長202nm
【0025】
2.錠剤の評価法
グリセロリン脂質含有粉末を、打錠障害を起こさない限界まで配合した時のグリセロリン脂質含量と錠剤の外観を評価した。錠剤は、回転式ロータリー打錠機((株)エステックの「PICCOLA」)を使用して、8.0mm、R6.0の臼・杵で、質量270mg、打錠圧5〜8kNで打錠した。
2−1.グリセロリン脂質含量の測定法
錠剤を粉砕し、得られた粉末について上記1−5に記載の測定法で、グリセロリン脂質含量を測定した。
2−2.外観
錠剤の外観について、下記基準で評価した。
○:斑模様が認められない。
△:一部に斑模様が認められる。
×:全体的に斑模様が認められる。
【0026】
本発明の実施例および比較例で用いた3種のグリセロリン脂質の詳細は次の通りである。
・ウルトラレックP …エー・ディー・エム・ジャパン(株)製の市販品「ウルトラレックP」(商品名)
・酵素転移PS792 …特開昭63−36792号公報に記載の方法を用いて、PCのホスファチジル基転移反応を行い得られた、PS含量60%のグリセロリン脂質
・PS70PN …ビーエイチエヌ(株)(販社)の市販品「LIPAMINE−PS70PN」(商品名)
表1に、各々のグリセロリン脂質の成分含量を示す。
また、その他の材料の詳細は次の通りである。
・セルロース …不溶性食物繊維、旭化成ケミカルズ(株)製「セオラスST−100」(商品名)
・還元イソマルツロース …糖質、三井製糖(株)製「粉末パラチニットPNP」(商品名)
・微粒二酸化ケイ素 …固結防止剤、富士シリシア(株)製「サイロページ#720」(商品名)
【0027】
【表1】
【0028】
(粉末の製造)
実施例1−1〜1−6および比較例1−1〜1−5においては、次の方法にて粉末の製造を行った。所定量のグリセロリン脂質に不溶性食物繊維、糖質および水を添加して混合した後、連続真空乾燥法にて乾燥した。得られた乾燥物を、パワーミル((株)ダルトン製:型式P−55)を用いて粉砕し、グリセロリン脂質含有粉末を得た。また、固結防止剤は、粉砕により得られたグリセロリン脂質含有粉末に添加して混合した。
表2および表3に、各実施例および比較例における配合成分の種類と量とともに、得られたグリセロリン脂質含有粉末の平均粒子径、流動性、べたつき性、固結性およびグリセロリン脂質含量の評価結果を示す。
なお、各実施例、比較例について、得られたグリセロリン脂質含有粉末にP1〜P6、Q1〜Q5の名称を付した。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
(錠剤の調整)
実施例2−1〜2−6および比較例2−1〜2−5においては、実施例1−1〜1−6、比較例1−1〜1−5で製造したグリセロリン脂質含有粉末P1〜P6、Q1〜Q5を用いて、次の方法にて、錠剤の製造を行った。所定量のグリセロリン脂質含有粉末と、賦形剤、滑沢剤を混合した後、回転式ロータリー打錠機((株)エステック製「PICCOLA」)を用いて打錠した。打錠条件は8.0mm、R6.0の臼・杵で、質量270mg/粒、タレット回転数15rpm、打錠圧5〜8kNで行った。
表4および表5に、各実施例および比較例における配合成分の種類と量とともに、錠剤中のグリセロリン脂質含量および錠剤の外観についての評価結果を示す。表4および表5中では、用いたグリセロリン脂質含有粉末の種類は、表2および表3に記載した名称を用いて示した。なお、その他の材料の詳細は次の通りである。
・マルトデキストリン …賦形剤、松谷化学(株)製「パインデックス#2」(商品名)
・ステアリン酸カルシウム …滑沢剤、太平化学産業(株)製「ステアリン酸カルシウム(植物性)」(商品名)
【0032】
【表4】
【0033】
【表5】
【0034】
表2および表3のグリセロリン脂質含有粉末の評価結果について、実施例1−1〜1−6においては、べたつきが抑制されており、安息角が35〜40°と小さく流動性の良好なグリセロリン脂質含有粉末が得られた。また、実施例1−1〜1−4において、固結性は21〜29%、さらに微粒二酸化ケイ素を添加した実施例1−5〜1−6は5%以下であり、固結性の改善ができていることが明らかである。
これに対し、比較例1−1〜1−5においては、本発明に用いる不溶性食物繊維(B1)もしくは糖質(B2)を含有していないため、べたつきを改善できず、安息角も50°以上であり、実用に叶うグリセロリン脂質含有粉末が得られないことが明らかになった。さらに、比較例1−1〜1−2の固結性は63〜68%、微粒二酸化ケイ素を添加した比較例1−3〜1−5でも49〜53%であり、かなり固結していた。
【0035】
表4及び表5の錠剤の評価結果について、本発明のグリセロリン脂質含有粉末を用いて打錠した実施例2−1〜2−6においては、錠剤中にグリセロリン脂質として最大21.0〜22.5質量%を配合することができた。また、実施例の錠剤表面は、グリセロリン脂質が均一に分散し綺麗な状態であった。良好な外観を有する錠剤の一例として、実施例2−3の錠剤を図1に示す。
これに対し、不溶性食物繊維または糖質を含まないグリセロリン脂質含有粉末を用いた比較例2−1〜2−5においては、べたつき、流動性が悪いためにグリセロリン脂質を高濃度で配合すると打錠障害が生じた。そのため、錠剤中へグリセロリン脂質を最大10.5%までしか配合することができなかった。また、比較例1−1〜1−5の粉末は粉体分散性が悪いため、錠剤表面にグリセロリン脂質が偏在し、外観が著しく損なわれている。グリセロリン脂質が偏在した錠剤の一例として、比較例2−2の錠剤を図1に示す。

図1