特許第6484989号(P6484989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社大林組の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484989
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】仕上げ方法
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/08 20060101AFI20190311BHJP
   E04F 13/14 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   E04F13/08 101K
   E04F13/14 103F
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-212670(P2014-212670)
(22)【出願日】2014年10月17日
(65)【公開番号】特開2016-79697(P2016-79697A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小川 晴果
(72)【発明者】
【氏名】三谷 一房
(72)【発明者】
【氏名】水上 卓也
(72)【発明者】
【氏名】福田 一夫
【審査官】 前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特公平02−061584(JP,B2)
【文献】 特開2012−117266(JP,A)
【文献】 実開平03−031944(JP,U)
【文献】 特開平08−158216(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0097950(US,A1)
【文献】 特開2002−106150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/00−13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に繊維材料張付用接着剤を櫛目状に塗布し、前記繊維材料張付用接着剤が存在する山部分と前記繊維材料張付用接着剤が存在しない谷部分とを発生させる繊維材料張付用接着剤塗布工程と、
前記繊維材料張付用接着剤へ繊維材料を張り付ける繊維材料張付工程と、
前記繊維材料の上に仕上げ材張付用セメント系接着剤を塗布し、前記仕上げ材張付用セメント系接着剤が前記繊維材料を通過して前記繊維材料の下側へ移動して前記谷部分へ充填される仕上げ材張付用接着剤塗布工程と、
前記仕上げ材張付用セメント系接着剤へ仕上げ材を張り付ける仕上げ材張付工程と、
を備えることを特徴とする仕上げ方法。
【請求項2】
請求項1に記載の仕上げ方法において、
前記繊維材料は、綿状基布と前記綿状基布に対して編み込まれる糸とを備え、前記綿状基布の繊維を立毛させた複合繊維材料であることを特徴とする仕上げ方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の仕上げ方法において、
前記繊維材料張付用接着剤は、セメント系接着剤であり、
前記仕上げ材張付用接着剤塗布工程の前に、前記繊維材料の表面に吸水調整材を塗布する繊維材料表面吸水調整材塗布工程を有することを特徴とする仕上げ方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の仕上げ方法において、
前記基材は、セメント組成物であり、
前記繊維材料張付用接着剤塗布工程の前に、前記基材の表面に吸水調整材を塗布する基材表面吸水調整材塗布工程を有することを特徴とする仕上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仕上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材に対して仕上げ材を取り付ける仕上げ方法は既によく知られている。このような仕上げ方法においては、先ず、基材の表面に繊維材料張付用接着剤を塗布して繊維材料を張り付ける。その後に、仕上げ材張付用セメント系接着剤を塗布して仕上げ材を張り付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−239502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、このような仕上げ方法によって形成された表面仕上げには、以下の問題が生じていた。すなわち、長期的な熱収縮の繰り返しにより、仕上げ材張付用セメント系接着剤において、仕上げ材の剥離が生じ仕上げ材が剥落する現象が発生していた。
【0005】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、仕上げ材の剥落を適切に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
主たる本発明は、基材の表面に繊維材料張付用接着剤を櫛目状に塗布し、前記繊維材料張付用接着剤が存在する山部分と前記繊維材料張付用接着剤が存在しない谷部分とを発生させる繊維材料張付用接着剤塗布工程と、
前記繊維材料張付用接着剤へ繊維材料を張り付ける繊維材料張付工程と、
前記繊維材料の上に仕上げ材張付用セメント系接着剤を塗布し、前記仕上げ材張付用セメント系接着剤が前記繊維材料を通過して前記繊維材料の下側へ移動して前記谷部分へ充填される仕上げ材張付用接着剤塗布工程と、
前記仕上げ材張付用セメント系接着剤へ仕上げ材を張り付ける仕上げ材張付工程と、
を備えることを特徴とする仕上げ方法である。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、仕上げ材の剥落を適切に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】本実施の形態に係る仕上げ方法を説明するための説明模式図(その1)である。
図1B】本実施の形態に係る仕上げ方法を説明するための説明模式図(その2)である。
図1C】本実施の形態に係る仕上げ方法を説明するための説明模式図(その3)である。
図1D】本実施の形態に係る仕上げ方法を説明するための説明模式図(その4)である。
図1E】本実施の形態に係る仕上げ方法を説明するための説明模式図(その5)である。
図1F】本実施の形態に係る仕上げ方法を説明するための説明模式図(その6)である。
図1G】本実施の形態に係る仕上げ方法を説明するための説明模式図(その7)である。
図2】本実施の形態に係る複合繊維材料40を示した斜視図である。
図3A】本実施の形態に係る複合繊維材料40の製造手順を示した概念図(その1)である。
図3B】本実施の形態に係る複合繊維材料40の製造手順を示した概念図(その2)である。
図3C】本実施の形態に係る複合繊維材料40の製造手順を示した概念図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。
【0010】
基材の表面に繊維材料張付用接着剤を櫛目状に塗布する繊維材料張付用接着剤塗布工程と、
前記繊維材料張付用接着剤へ繊維材料を張り付ける繊維材料張付工程と、
前記繊維材料の上に仕上げ材張付用セメント系接着剤を塗布する仕上げ材張付用接着剤塗布工程と、
前記仕上げ材張付用セメント系接着剤へ仕上げ材を張り付ける仕上げ材張付工程と、
を備えることを特徴とする仕上げ方法。
【0011】
かかる場合には、繊維材料張付用接着剤が存在しない谷部分(つまり、空隙)が発生し、繊維材料を通過して繊維材料の下側へ移動した仕上げ材張付用接着剤が、この谷部分へ充填されることとなる。したがって、繊維材料のおもて面側と裏面側の双方に、十分な量の仕上げ材張付用接着剤が位置する状態となり、繊維材料と仕上げ材張付用接着剤の連結性が高くなる(双方の一体化度合いが高くなる)。そのため、繊維材料によるアンカー効果も高まり、したがって、仕上げ材張付用接着剤において、仕上げ材の剥離が生じ難くなる。また、仕上げ材が例え剥離したとしても、仕上げ材の剥落が適切に抑制されることとなる。
【0012】
また、前記繊維材料は、綿状基布と前記綿状基布に対して編み込まれる糸とを備え、前記綿状基布の繊維を立毛させた複合繊維材料であることとしてもよい。
【0013】
かかる場合には、綿状基布のうち目付が大きい箇所においても小さい箇所においても糸を一様に編み込むことにより面精度を向上させるべく調整をすることができる。そして、このように調整されて面精度が向上した複合繊維材料に仕上げ材張付用接着剤で仕上げ材を接着する際には、適切な接着性を得ることが可能となる。
【0014】
また、前記繊維材料張付用接着剤は、セメント系接着剤であり、
前記仕上げ材張付用接着剤塗布工程の前に、前記繊維材料の表面に吸水調整材を塗布する繊維材料表面吸水調整材塗布工程を有することとしてもよい。
【0015】
かかる場合には、繊維材料のおもて面側と裏面側の双方に、繊維材料張付用接着剤が位置する状態となるため、繊維材料と繊維材料張付用接着剤の連結性が高くなり(双方の一体化度合いが高くなり)、繊維材料がしっかりと固定されるので、仕上げ材の剥落がより一層適切に抑制されることとなる。また、仕上げ材張付用接着剤塗布工程で塗布される仕上げ材張付用接着剤の水分が繊維材料張付用接着剤に過度に吸収されることが抑えられ、仕上げ材張付用接着剤の接着性能の劣化を抑制することが可能となる。
【0016】
また、前記基材は、セメント組成物であり、
前記繊維材料張付用接着剤塗布工程の前に、前記基材の表面に吸水調整材を塗布する基材表面吸水調整材塗布工程を有することとしてもよい。
【0017】
かかる場合には、繊維材料張付用接着剤塗布工程で塗布される繊維材料張付用接着剤の水分が基材に過度に吸収されることが抑えられ、繊維材料張付用接着剤の接着性能の劣化を抑制することが可能となる。
【0018】
===本実施の形態に係る仕上げ方法について===
先ず、本実施の形態に係る仕上げ方法について、図1A乃至図3Cを用いて説明する。図1A乃至図1Gは、本実施の形態に係る仕上げ方法を説明するための説明模式図である。図2及び図3A乃至図3Cについては、後述する。
【0019】
本実施の形態に係る仕上げ方法は、建物の外壁の表面仕上げ等に適用され、基材(下地材)の一例としてのセメント組成物(本実施の形態においては、コンクリート、ALCパネル、押出成形セメント板等の下地コンクリート10)に対し仕上げ材の一例としてのタイル60を取り付ける方法である。以下、具体的に説明する。
【0020】
先ず、作業者は、下地コンクリート10の表面に吸水調整材20(吸水調整材の希釈液)を塗布する(基材表面吸水調整材塗布工程。図1A参照)。
【0021】
ここで、吸水調整材20は、次の工程(繊維材料張付用接着剤塗布工程)で塗布されるポリマーセメントモルタル30の水分が下地コンクリート10に過度に吸収されることを抑止する役割を果たす。
【0022】
仮に、吸水調整材20を塗布しないで、下地コンクリート10の表面にポリマーセメントモルタル30を塗った場合には、ポリマーセメントモルタル30の水分が下地コンクリート10へ顕著に移行してしまう。そのため、ポリマーセメントモルタル30は、水分を失うことにより、その接着性能が劣化してしまう。
【0023】
そこで、次の工程(繊維材料張付用接着剤塗布工程)の前に吸水調整材20を塗布することにより、ポリマーセメントモルタル30の水分が下地コンクリート10に過度に吸収されないようにし、ポリマーセメントモルタル30の接着性能の劣化が生じないようにしている。
【0024】
次に、作業者は、吸水調整材20が塗られた下地コンクリート10の表面に繊維材料張付用接着剤を塗布する(繊維材料張付用接着剤塗布工程。図1B参照)。
【0025】
本実施の形態においては、上述したとおり、当該繊維材料張付用接着剤としてセメント系接着剤(より具体的には、ポリマーセメントモルタル30)を塗り付ける。
【0026】
さらに、本実施の形態において、作業者は、図1Bに示すように、櫛目鏝を用いて櫛目状にポリマーセメントモルタル30を塗布する。このことにより、吸水調整材20が塗られた下地コンクリート10の上には、山部分M(ポリマーセメントモルタル30が存在する部分)と谷部分V(ポリマーセメントモルタル30が存在しない部分)とが、生ずることとなる。なお、本実施の形態における櫛目のピッチ(山部分Mや谷部分Vの幅で、図1Bにおいて記号Wで示す)は、5mmである。また、塗布方法を櫛目状とした理由については、後述する。
【0027】
次に、作業者は、ポリマーセメントモルタル30へ繊維材料を張り付ける(繊維材料張付工程。図1C参照)。
【0028】
本実施の形態においては、当該繊維材料(すなわち、下地コンクリート10にタイル60を張り付ける際に下地コンクリート10とタイル60との間に挿入される繊維材料)として、綿状基布の一例としての不織布42と当該不織布42に対して編み込まれる糸44とを備え、当該不織布42の繊維を立毛させた複合繊維材料40が用いられる。ここで、当該複合繊維材料40について、詳しく説明する。
【0029】
図2は、本実施の形態に係る複合繊維材料40を示した斜視図である。本実施の形態に係る複合繊維材料40は、不織布42と糸44(より具体的には、ポリエステルフィラメント)を、不織布42に糸44を編み込むことにより、合体させたものである。
【0030】
なお、不織布42及び糸44のいずれについても、使用する繊維の材質として、ビニロン、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエステル、アクリル、アラミドなどの各種繊維を用いることが可能である。
【0031】
また、本実施の形態において、不織布42の径は24dtex、目付は40g/m2である。また、糸44の径は84dtex/36f(単繊維:2.33dtexsi)、目付は20g/m2である。
【0032】
図3A乃至図3Cは、本実施の形態に係る複合繊維材料40の製造手順を示した概念図である。
【0033】
先ず、作業者は、綿状基布として不織布42を準備する(図3A参照)。
【0034】
次に、作業者は、糸44が不織布42に対する編布となるように、不織布42に対して長繊維で構成された糸44をステッチボンド方式で編み込む(図3B参照)。すなわち、不織布42のおもて面側に位置する糸44と、裏面側に位置する糸44と、おもて面側(裏面側)から裏面側(おもて面側)へ貫通する糸44とが存在するように、糸44を不織布42に、三次元的に(換言すれば、糸44が不織布42を挟み込むように)縫い付ける。なお、図2に示すように、本実施の形態においては、糸44が、不織布42の面内方向において等ピッチで、規則正しく編み込まれる。
【0035】
次に、作業者は、不織布42の繊維をニードルパンチ法又はステッチボンド法で立毛させる(図3C参照)。このことにより、図3Cに示されるように、おもて面側の繊維のみが毛羽立つ(立毛する)こととなる。
【0036】
仕上げ方法の説明に戻って、当該説明を続ける。図1Cに示すように、作業者は、ポリマーセメントモルタル30が未硬化の状態において、ポリマーセメントモルタル30へ上述した複合繊維材料40を、ポリマーセメントモルタル30に含浸させながら張り付ける。この際に、立毛した繊維が存在しない裏面側が下側(つまり、下地コンクリート10側)となるように張り付ける。
【0037】
次に、作業者は、所定期間養生し複合繊維材料40とポリマーセメントモルタル30とが硬化した後に、複合繊維材料40の表面に吸水調整材20(吸水調整材の希釈液)を塗布する(繊維材料表面吸水調整材塗布工程。図1D参照)。このことにより、次の工程(仕上げ材張付用接着剤塗布工程)で塗布されるタイル張り付けモルタル50の水分がポリマーセメントモルタル30に過度に吸収されることが抑えられ、タイル張り付けモルタル50の接着性能の劣化を抑制することが可能となる。
【0038】
次に、作業者は、吸水調整材20が塗布された複合繊維材料40の上に仕上げ材張付用セメント系接着剤を塗布する(仕上げ材張付用接着剤塗布工程。図1E参照)。
【0039】
本実施の形態においては、上述したとおり、当該仕上げ材張付用セメント系接着剤としてタイル張り付けモルタル50を塗り付ける。
【0040】
そして、タイル張り付けモルタル50が複合繊維材料40の上に塗られると、タイル張り付けモルタル50は複合繊維材料40の上側に位置することとなるが、タイル張り付けモルタル50の一部は、複合繊維材料40を通過して(吸水調整材20も通過する)、複合繊維材料40の下側へ移動する。すなわち、複合繊維材料40のおもて面側と裏面側の双方に、タイル張り付けモルタル50が位置する状態となる。
【0041】
また、前述したとおり、複合繊維材料40の下側には、硬化したポリマーセメントモルタル30が設けられているが、当該ポリマーセメントモルタル30は櫛目状に塗られたため、前記谷部分V(つまり、空隙)が存在する。そして、複合繊維材料40の下側へ移動したタイル張り付けモルタル50は、この谷部分Vへ入り込み、谷部分Vにタイル張り付けモルタル50が充填されることとなる。
【0042】
次に、作業者は、タイル張り付けモルタル50へタイル60を張り付ける(仕上げ材張付工程。図1F参照)。
【0043】
そして、雨水侵入や紫外線による劣化を防止する目的で、タイル60間の隙間に、目地モルタル70を充填することにより、仕上げ方法が完了する(目地モルタル充填工程。図1G参照)。
【0044】
===本実施の形態に係る仕上げ方法の有効性について===
上述したとおり、本実施の形態に係る仕上げ方法は、下地コンクリート10の表面にポリマーセメントモルタル30を櫛目状に塗布する繊維材料張付用接着剤塗布工程と、ポリマーセメントモルタル30へ繊維材料を張り付ける繊維材料張付工程と、繊維材料の上にタイル張り付けモルタル50を塗布する仕上げ材張付用接着剤塗布工程と、タイル張り付けモルタル50へタイル60を張り付ける仕上げ材張付工程と、を備えることとした。そのため、タイル60の剥落を適切に抑制することが可能となる。
【0045】
下地コンクリート10に対してタイル60を取り付ける仕上げ方法として、下地コンクリート10の表面にポリマーセメントモルタル30を塗布して繊維材料を張り付け、その後に、タイル張り付けモルタル50を塗布してタイル60を張り付ける方法は既に知られていた。しかしながら、従来、このような仕上げ方法によって形成された表面仕上げには、以下の問題が生じていた。すなわち、長期的な熱収縮の繰り返しにより、タイル張り付けモルタル50において、タイル60の剥離が生じタイル60が剥落する現象が発生していた。
【0046】
これに対し、本実施の形態においては、下地コンクリート10の表面にポリマーセメントモルタル30を櫛目状に塗布することとした。すなわち、従来は、下地コンクリート10の表面にポリマーセメントモルタル30を万遍なく平坦に塗布することとしていたが、本実施の形態においては、ポリマーセメントモルタル30を櫛目状に塗布することとした。そのため、前述したとおり、ポリマーセメントモルタル30が存在しない谷部分V(つまり、空隙)が発生し、繊維材料を通過して繊維材料の下側へ移動したタイル張り付けモルタル50が、この谷部分Vへ充填されることとなる。
【0047】
したがって、繊維材料のおもて面側と裏面側の双方に、十分な量のタイル張り付けモルタル50が位置する状態となり、繊維材料とタイル張り付けモルタル50の連結性が高くなる(双方の一体化度合いが高くなる)。そのため、繊維材料によるアンカー効果も高まり、したがって、タイル張り付けモルタル50において、タイル60の剥離が生じ難くなる。また、タイル60が例え剥離したとしても、タイル60の剥落が適切に抑制されることとなる。
【0048】
また、本実施の形態においては、繊維材料張付用接着剤は、セメント系接着剤(具体的には、ポリマーセメントモルタル30)であることとした。そして、仕上げ材張付用接着剤塗布工程の前に、繊維材料の表面に吸水調整材20を塗布することとした。
【0049】
そのため、前述したとおり、仕上げ材張付用接着剤塗布工程で塗布されるタイル張り付けモルタル50の水分がポリマーセメントモルタル30に過度に吸収されることが抑えられ、タイル張り付けモルタル50の接着性能の劣化を抑制することが可能となる。
【0050】
また、本実施の形態においては、基材(下地材)は、セメント組成物(具体的には、下地コンクリート10)であることとした。そして、繊維材料張付用接着剤塗布工程の前に、基材(下地材)の表面に吸水調整材20を塗布することとした。
【0051】
そのため、前述したとおり、繊維材料張付用接着剤塗布工程で塗布されるポリマーセメントモルタル30の水分が下地コンクリート10に過度に吸収されることが抑えられ、ポリマーセメントモルタル30の接着性能の劣化を抑制することが可能となる。
【0052】
===その他の実施の形態===
上記の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0053】
上記実施の形態においては、繊維材料として、不織布42と不織布42に対して編み込まれる糸44とを備え、不織布42の繊維を立毛させた複合繊維材料40を用いることとしたが、これに限定されるものではない。例えば、糸44が編み込まれていない単なる不織布を用いることとしてもよい。
【0054】
繊維材料として不織布単独を用いた場合には、不織布を構成する繊維の目付にバラツキが存在するため、不織布には凹凸が顕著に生じており、面精度が良好でない。そのため、不織布にタイル張り付けモルタル50でタイル60を接着する際に適切な接着性を得られなくなる可能性がある。
【0055】
これに対し、上記実施の形態においては、糸44が不織布42に編み込まれた複合繊維材料40が用いられるため、繊維材料の面精度を向上させることが可能となる。すなわち、不織布42のうち目付が大きい箇所においても小さい箇所においても糸44を一様に編み込むことにより面精度を向上させるべく調整をすることができる。そして、このように調整されて面精度が向上した複合繊維材料40にタイル張り付けモルタル50でタイル60を接着する際には、適切な接着性を得ることが可能となる。この点で、上記実施の形態の方が望ましい。
【0056】
また、上記実施の形態においては、繊維材料張付用接着剤は、セメント系接着剤(具体的には、ポリマーセメントモルタル30)であることとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、有機系の接着剤であってもよい。
【0057】
繊維材料張付用接着剤がセメント系接着剤である場合には、当該セメント系接着剤の一部が複合繊維材料40を通過して(吸水調整材20も通過する)、複合繊維材料40の上側へ移動することを期待できる(一方で、有機系の接着剤の場合には、かかる作用を期待できない。なお、かかる現象については、図1A乃至図1Gにおいて図示を省略している)。そして、このような場合には、複合繊維材料40のおもて面側と裏面側の双方に、繊維材料張付用接着剤が位置する状態となるため、複合繊維材料40と繊維材料張付用接着剤の連結性が高くなり(双方の一体化度合いが高くなり)、複合繊維材料40がしっかりと固定されるので、タイル60の剥落がより一層適切に抑制されることとなる。この点で、上記実施の形態の方が望ましい。
【0058】
また、上記実施の形態においては、基材(下地材)は、セメント組成物(具体的には、下地コンクリート10)であることとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、木製のボードであってもよい。
【0059】
また、不織布42の径については、1dtexよりも大きく500dtexより小さい値が好ましい。1dtexよりも大きくないと、タイル張り付けモルタル50に絡む繊維の引抜き抵抗性を担保できず、500dtexを超えると、繊維径が太すぎて、繊維同士が絡まず、目付にムラが出やすいからである。
【0060】
また、不織布42の目付については、10g/m2よりも大きく600g/m2より小さい値が好ましい。10g/m2よりも大きくないと、不織布として面形状が形成されず、600g/m2を超えると、目付が細かすぎてタイル張り付けモルタル50が含浸しないからである。
【0061】
また、糸44の径については、10dtexよりも大きく500dtexより小さい値が好ましい。10dtexよりも大きくないと、編み込みができず、500dtexを超えると、繊維径が太すぎて、繊維同士が絡まず、目付にムラが出やすいからである。
【0062】
また、糸44の目付については、1g/m2よりも大きく50g/m2より小さい値が好ましい。1g/m2よりも大きくないと、糸44を三次元状に編み込みできず、50g/m2を超えると、ニットの編み目が細かすぎて、タイル張り付けモルタル50が含浸しないからである。
【符号の説明】
【0063】
10 下地コンクリート
20 吸水調整材
30 ポリマーセメントモルタル
40 複合繊維材料
42 不織布
44 糸
50 タイル張り付けモルタル
60 タイル
70 目地モルタル
M 山部分
V 谷部分
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2
図3A
図3B
図3C