特許第6485175号(P6485175)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6485175ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6485175
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20190311BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20190311BHJP
   C08L 93/04 20060101ALI20190311BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20190311BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20190311BHJP
   C08K 5/36 20060101ALI20190311BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   C08L7/00
   C08L9/06
   C08L93/04
   C08K3/36
   C08K3/04
   C08K5/36
   B60C1/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-76791(P2015-76791)
(22)【出願日】2015年4月3日
(65)【公開番号】特開2016-196565(P2016-196565A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2018年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】岡 美幸
【審査官】 楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−116200(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/161288(WO,A1)
【文献】 特開2015−040245(JP,A)
【文献】 化学大辞典編集委員会,化学大辞典9 縮刷版,1964年,p965
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00
C08K 5/36
C08L 9/06
C08L 93/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムおよび/または合成イソプレンゴムを60〜90質量部およびスチレン−ブタジエン共重合体ゴムを10〜40質量部含むジエン系ゴム100質量部に対し、
窒素吸着比表面積(NSA)が70〜120m/gであるカーボンブラックを15〜45質量部、
シリカを10〜35質量部、
ロジン系樹脂または石油樹脂を1〜10質量部、および
下記式(I)で表されるスルフィド化合物を前記カーボンブラックに対して0.1〜5質量%配合してなるゴム組成物。
【化1】
(式中、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数〜8の直鎖または分岐状のアルキル基もしくはアルケニル基、または炭素数3〜6の環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表わす。Aは、O、S、NH、またはNRを表わす。Rは、メチル基、エチル基、炭素数〜8の直鎖または分岐状のアルキル基もしくはアルケニル基、または炭素数3〜6の環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表わす。nは1〜6の整数を表し、xは1〜4の整数を表す。)
【請求項2】
前記式(I)で表されるスルフィド化合物において、xが2であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ゴム100質量部に対し、少なくとも前記窒素吸着比表面積(NSA)が70〜120m/gであるカーボンブラックを15〜45質量部、前記シリカを10〜35質量部および前記ロジン系樹脂または石油樹脂を1〜10質量部を混合し、続いて、加硫系成分とともに前記式(I)で表されるスルフィド化合物を前記カーボンブラックに対して0.1〜5質量%の範囲で添加して混合する工程を有する、請求項1または2に記載のゴム組成物を製造する方法
【請求項4】
請求項1または2に記載のゴム組成物をキャップトレッドに用いたことを特徴とする建設車両用空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、加工性を実用上十分に維持しながら、良好な耐カット性および耐リバージョン性を得ることのできるゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
採石場等の悪路、重荷重条件での走行を伴う建設車両用タイヤのキャップトレッドにおいては、耐カット性が要求される。また近年、タイヤの大型化に伴い、構成部材のサイズおよび厚みが増加し、加硫時間が長くなり、ゴムのリバージョン(ポリマーの分解)が発生するという問題がある。耐カット性を向上させるには、樹脂やシリカを配合することが有効であるが、これらの手法では未加硫ゴムの粘度を上昇させ、加工性を悪化させる場合がある。
【0003】
なお、下記特許文献1には、特定の構造を有するスルフィド化合物を含有するゴム・カーボンブラック用カップリング剤が提案されている。しかし特許文献1には、特定の組成を有するジエン系ゴムに対し、特定の窒素吸着比表面積(NSA)を有するカーボンブラック、シリカおよび熱可塑性樹脂を特定量で配合し、さらに該スルフィド化合物を配合して、加工性を実用上十分に維持しながら、良好な耐カット性および耐リバージョン性を得ようとする技術思想は何ら開示または示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−23610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、加工性を実用上十分に維持しながら、良好な耐カット性および耐リバージョン性を得ることのできるゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、特定の組成を有するジエン系ゴムに対し、特定の窒素吸着比表面積(NSA)を有するカーボンブラック、シリカ、熱可塑性樹脂および特定のスルフィド化合物を特定量で配合することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
【0007】
1.天然ゴムおよび/または合成イソプレンゴムを60〜90質量部およびスチレン−ブタジエン共重合体ゴムを10〜40質量部含むジエン系ゴム100質量部に対し、
窒素吸着比表面積(NSA)が70〜120m/gであるカーボンブラックを15〜45質量部、
シリカを10〜35質量部、
熱可塑性樹脂を1〜10質量部、および
下記式(I)で表されるスルフィド化合物を前記カーボンブラックに対して0.1〜5質量%配合してなるゴム組成物。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数〜8の直鎖または分岐状のアルキル基もしくはアルケニル基、または炭素数3〜6の環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表わす。Aは、O、S、NH、またはNRを表わす。Rは、メチル基、エチル基、炭素数〜8の直鎖または分岐状のアルキル基もしくはアルケニル基、または炭素数3〜6の環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表わす。nは1〜6の整数を表し、xは1〜4の整数を表す。)
2.前記式(I)で表されるスルフィド化合物において、xが2であることを特徴とする前記1に記載のゴム組成物。
3.前記ジエン系ゴム100質量部に対し、少なくとも前記窒素吸着比表面積(NSA)が70〜120m/gであるカーボンブラックを15〜45質量部、前記シリカを10〜35質量部および前記熱可塑性樹脂を1〜10質量部を混合し、続いて、加硫系成分とともに前記式(I)で表されるスルフィド化合物を前記カーボンブラックに対して0.1〜5質量%の範囲で添加して混合することにより得られる、前記1または2に記載のゴム組成物。
4.前記1〜3のいずれかに記載のゴム組成物をキャップトレッドに用いたことを特徴とする建設車両用空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定の組成を有するジエン系ゴムに対し、特定の窒素吸着比表面積(NSA)を有するカーボンブラック、シリカ、熱可塑性樹脂および特定のスルフィド化合物を特定量で配合したので、加工性を実用上十分に維持しながら、良好な耐カット性および耐リバージョン性を得ることのできるゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0012】
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴムは、天然ゴム(NR)および/または合成イソプレンゴム(IR)と、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)とを必須成分とする。これらの配合量は、ジエン系ゴム全体を100質量部としたときにNRおよび/またはIRが60〜90質量部であり、SBRが10〜40質量部である。NRおよび/またはIRの配合量が60質量部未満であると、ゴムの機械的強度が悪化し、好ましくない。また90質量部を超えると、耐リバージョン性が悪化し、好ましくない。なお、NRおよびIR以外にも他のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
【0013】
(カーボンブラック)
本発明で使用されるカーボンブラックは、窒素吸着比表面積(NSA)が70〜120m/gである必要がある。窒素吸着比表面積(NSA)が70m/g未満では、耐カット性が悪化し、逆に120m/gを超えると、加工性が悪化し、好ましくない。さらに好ましい窒素吸着比表面積(NSA)は、80〜120m/gである。なお、窒素吸着比表面積(NSA)はJIS K6217−2に準拠して求めた値である。
【0014】
(シリカ)
本発明で使用されるシリカは、乾式シリカ、湿式シリカ、コロイダルシリカおよび沈降シリカなど、従来からゴム組成物において使用することが知られている任意のシリカを単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。なお本発明の効果、とくに耐カット性が向上するという観点から、シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、100〜200m/gであるのが好ましく、110〜180m/gであるのがさらに好ましい。
【0015】
(熱可塑性樹脂)
本発明で使用される熱可塑性樹脂は、本発明で使用される熱可塑性樹脂としては、とくに制限されないが、ロジン系樹脂や石油樹脂を用いることができる。ロジン系樹脂としては、アビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、デヒドロアビエチン酸等の樹脂酸を主成分とするガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどが挙げられる。また、これらのロジンを不均化することによって得られる不均化ロジン、二量化又はそれ以上に重合させることで得られる重合ロジン及び水素添加することによって得られる水添ロジンも使用することができる。また、本発明においては、ロジンを部分的にマレイン化および/またはフマル化することなどによって変性した変性ロジンも使用することができる。更に石油樹脂で変性した石油樹脂変性ロジンも用いることができる。石油樹脂としては、ナフサのクラッキング等の石油精製により得たC9留分をカチオン重合することにより得られるC9系石油樹脂、シクロペンタジエンやジシクロペンタジエン等のC5留分を熱重合して得られたC5系石油樹脂、更にはC5留分〜C9留分を重合して得られるC5〜C9系石油樹脂等が挙げられる。また、石油樹脂の誘導体としては、上記各種石油樹脂を完全あるいは部分的に水素化して得られる脂環族系の水素化石油樹脂等、更にはこれら石油樹脂及び石油樹脂誘導体の混合物等が挙げられる。
【0016】
(スルフィド化合物)
本発明で使用されるスルフィド化合物は、前記特許文献1に開示されている。具体的には、下記式(I)で表される。
【0017】
【化2】
【0018】
(式中、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数〜8の直鎖または分岐状のアルキル基もしくはアルケニル基、または炭素数3〜6の環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表わす。Aは、O、S、NH、またはNRを表わす。Rは、メチル基、エチル基、炭素数〜8の直鎖または分岐状のアルキル基もしくはアルケニル基、または炭素数3〜6の環状のアルキル基もしくはアルケニル基を表わす。nは1〜6の整数を表し、xは1〜4の整数を表す。)
【0019】
本発明で使用されるスルフィド化合物は、スルフィド部の両末端に、芳香族縮合複素環がアルキレン基を介して結合した左右対称の構造(ビス体構造)を有している。
当該化合物としては、例えば、
ビス(ベンズイミダゾリル−2)メチルスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルトリスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルテトラスルフィド、
3,3’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)プロピルトリスルフィド、
3,3’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)プロピルテトラスルフィド、
4,4’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ブチルジスルフィド、
4,4’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ブチルトリスルフィド、
4,4’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ブチルテトラスルフィド、
5,5’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ペンチルジスルフィド、
5,5’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ペンチルトリスルフィド、
5,5’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ペンチルテトラスルフィド、
6,6’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ヘキシルジスルフィド、
6,6’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ヘキシルトリスルフィド、
6,6’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)ヘキシルテトラスルフィド、
2,2’−ビス(1−メチルベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(4−メチルベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(5−メチルベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド、
3,3’−ビス(1−メチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(4−メチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(5−メチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
2,2’−ビス(1−エチルベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(4−エチルベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(5−エチルベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド、
3,3’−ビス(1−エチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(4−エチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(5−エチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(1−n−プロピルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(4−n−プロピルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(5−n−プロピルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(1−イソプロピルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(4−イソプロピルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(5−イソプロピルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(1−tert−ブチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(4−tert−ブチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(5−tert−ブチルベンズイミダゾリル−2)プロピルジスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズオキサゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズオキサゾリル−2)エチルトリスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズオキサゾリル−2)エチルテトラスルフィド、
3,3’−ビス(ベンズオキサゾリル−2)プロピルジスルフィド、
4,4’−ビス(ベンズオキサゾリル−2)ブチルジスルフィド、
5,5’−ビス(ベンズオキサゾリル−2)ペンチルジスルフィド、
6,6’−ビス(ベンズオキサゾリル−2)ヘキシルジスルフィド、
2,2’−ビス(4-メチルベンズオキサゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(4-メチルベンズオキサゾリル−2)エチルトリスルフィド、
2,2’−ビス(4-メチルベンズオキサゾリル−2)エチルテトラスルフィド、
2,2’−ビス(5-メチルベンズオキサゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(5-メチルベンズオキサゾリル−2)エチルトリスルフィド、
2,2’−ビス(5-メチルベンズオキサゾリル−2)エチルテトラスルフィド、
3,3’−ビス(6-メチルベンズオキサゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(6-メチルベンズオキサゾリル−2)プロピルトリスルフィド、
3,3’−ビス(6-メチルベンズオキサゾリル−2)プロピルテトラスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズチアゾリル−2)エチルジスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズチアゾリル−2)エチルトリスルフィド、
2,2’−ビス(ベンズチアゾリル−2)エチルテトラスルフィド、
3,3’−ビス(ベンズチアゾリル−2)プロピルジスルフィド、
4,4’−ビス(ベンズチアゾリル−2)ブチルジスルフィド、
5,5’−ビス(ベンズチアゾリル−2)ペンチルジスルフィド、
6,6’−ビス(ベンズチアゾリル−2)ヘキシルジスルフィド、
3,3’−ビス(4−メチルベンズチアゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(4−メチルベンズチアゾリル−2)プロピルトリスルフィド、
3,3’−ビス(4−メチルベンズチアゾリル−2)プロピルテトラスルフィド、
3,3’−ビス(5−エチルベンズチアゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(5−エチルベンズチアゾリル−2)プロピルトリスルフィド、
3,3’−ビス(5−エチルベンズチアゾリル−2)プロピルテトラスルフィド、
3,3’−ビス(6−n−プロピルベンズチアゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(6−n−プロピルベンズチアゾリル−2)プロピルトリスルフィド、
3,3’−ビス(6−n−プロピルベンズチアゾリル−2)プロピルテトラスルフィド、3,3’−ビス(7−イソプロピルベンズチアゾリル−2)プロピルジスルフィド、
3,3’−ビス(7−イソプロピルベンズチアゾリル−2)プロピルトリスルフィド、
3,3’−ビス(7−イソプロピルベンズチアゾリル−2)プロピルテトラスルフィド
等が挙げられる。なお、これらのスルフィド化合物は、1種または2種以上を組み合わせてもよい。
前記スルフィド化合物は、1,2−ジアミノベンゼン系化合物、2−アミノチオフェノール系化合物または2−アミノフェノール系化合物のいずれかと、チオジカルボン酸系化合物を、4N希塩酸中で反応させることによって、容易に合成することができ、特許文献1にその製造方法が詳細に開示されている。
【0020】
前記スルフィド化合物において、分子内の芳香族縮合複素環がカーボンブラック表面と相互作用するとともに、分子内のスルフィド結合がゴム混練り時に切断され、生じたラジカルによってゴムとの相互作用がさらに高まる。とくに、前記式(I)で表されるスルフィド化合物において、xが2である場合に該効果が高まり、好ましい。
【0021】
(ゴム組成物の配合割合)
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、窒素吸着比表面積(NSA)が70〜120m/gであるカーボンブラックを15〜45質量部、シリカを10〜35質量部、熱可塑性樹脂を1〜10質量部、および前記(I)で表されるスルフィド化合物を前記カーボンブラックに対して0.1〜5質量%配合してなることを特徴とする。
前記カーボンブラックの配合量が15質量部未満であるとゴムの機械的強度が悪化し、逆に45質量部を超えると加工性が悪化する。
前記シリカの配合量が10質量部未満であると発熱性および耐カット性が悪化し、逆に35質量部を超えると加工性が悪化する。
前記熱可塑性樹脂の配合量が1質量部未満であると添加量が少なすぎて本発明の効果を奏することができない。逆に10質量部を超えると発熱性が悪化する。
スルフィド化合物の配合量が0.1質量%未満であると、添加量が少なすぎて本発明の効果を奏することができない。逆に5質量%を超えると加工性が悪化する。
【0022】
さらに好ましい前記カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、15〜45質量部である。
さらに好ましい前記シリカの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、15〜25質量部である。
さらに好ましい前記熱可塑性樹脂の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、3〜7質量部である。
さらに好ましい前記スルフィド化合物の配合量は、カーボンブラックに対し、0.5〜3.0質量%である。
【0023】
本発明のゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種充填剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0024】
また本発明のゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに使用することができる。
なお、スルフィド化合物を混合する時期を特定することにより、加工性をさらに向上させることができる。
一般的に、タイヤ用ゴム組成物の調製は、例えば次のような混合工程が組み合わされて行われる。
(1)ゴム成分のみを素練りする素練り工程;
(2)素練りされた、あるいは素練りされていないゴム成分に、加硫系配合物を除く各種配合物を加え、混合するNP(non-processing)工程(このNP工程は分割されて複数回行われることもある);および
(3)NP工程後のゴムに加硫系配合物を加え、混合する最終混合工程(Fn工程)。
本発明では、スルフィド化合物を上記の(3)最終混合工程で添加するのが好ましい。なお、本発明でいう加硫系配合物とは、硫黄のような加硫剤や加硫促進剤を意味する。加硫促進剤としては、従来から公知のものがいずれも使用可能であり、例えば、チウラム系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、等が挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0026】
実施例1〜4および比較例1〜9
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤および硫黄を除く成分を密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で160℃、20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得、以下に示す試験法で未加硫のゴム組成物加硫ゴム試験片の物性を測定した。なおスルフィド化合物は、NPまたはFnのいずれかの混合工程で投入した。
【0027】
ムーニー粘度:上記未加硫のゴム組成物を用い、JIS K6300−1に準拠し、100℃における未加硫ゴムの粘度を測定した。結果は比較例1の値を100として指数表示した。指数が小さいほど粘度が低く、加工性が良好であることを示す。
耐リバージョン性:JIS K6300−2に準拠し、ロータレスレオメーター試験機にて170℃で測定を行い、T−5を求めた。T−5の時間が伸びるほどリバージョンの進行が遅いと判断できる。結果は比較例1の値を100として指数表示した。指数が大きいほど耐リバージョン性に優れることを示す。
【0028】
建設車両用空気入りタイヤの製造
上記で得られた未加硫のゴム組成物を使用して、幅30mm、厚さ3mmのゴムシートを押出成形した。得られたゴムシートをトレッド部に複数回巻き付けることによりグリーンタイヤを成形し、これを加硫して建設車両用空気入りタイヤを製造した。
製造された建設車両用空気入りタイヤを使用し、以下の方法で耐カット性の試験を行った。
耐カット性:得られた建設車両用空気入りタイヤを大型ダンプに装着して、オフロードを2000時間走行した後、タイヤ軸心を中心として周方向60°毎にセンター付近のブロックを6個抽出し、カットキズの数を数えた。結果は比較例1の値を100として指数表示した。指数が大きいほどカットキズの数が少なく、耐カット性が良好であることを示す。結果を併せて表1に示す。
【0029】
また建設車両用空気入りタイヤは、重荷重積載で劣悪な路面を長時間稼動するため、発熱を抑制してタイヤの故障を防ぐことが求められる。そこで、各ゴム組成物について、下記のように発熱性についても測定した。
発熱性:上記で製造した建設車両用空気入りタイヤを使用して、一定時間走行後のトレッド内部温度(オーバーヘッドカバー上5mm)を測定し、指数化した。 結果は比較例1の値を100として指数表示した。指数が小さいほど低発熱性であることを示す。結果を併せて表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
*1:NR(RSS#3)
*2:SBR(日本ゼオン(株)製Nipol 1502、非油展品)
*3:カーボンブラック−1(キャボットジャパン(株)製ショウブラックN220、NSA=111m/g)
*4:カーボンブラック−2(東海カーボン(株)製シーストF、窒素吸着比表面積(NSA)=40m/g)
*5:シリカ(EVONIK社製ULTRASIL VN3GR、NSA=160m/g)
*6:オイル(昭和シェル石油(株)製エキストラクト4号S)
*7:ステアリン酸(日油(株)製ビーズステアリン酸)
*8:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*9:老化防止剤(FLEXSYS社製SANTOFLEX 6PPD)
*10:熱可塑性樹脂(荒川化学工業(株)製中国ロジンWW)
*11:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製ノクセラーNS−P)
*12:硫黄(鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄(硫黄の含有量95.24質量%))
*13:スルフィド化合物2EBZ(四国化成工業(株)製2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルジスルフィド)
*14:スルフィド化合物4EBZ(四国化成工業(株)製2,2’−ビス(ベンズイミダゾリル−2)エチルテトラスルフィド)
【0032】
上記の表1から明らかなように、実施例1〜4で調製されたゴム組成物は、特定の窒素吸着比表面積(NSA)を有するカーボンブラック、シリカ、熱可塑性樹脂および特定のスルフィド化合物を特定量で配合したので、加工性を実用上十分に維持しながら、良好な耐カット性および耐リバージョン性を得ることができた。また発熱性も良好である。
これに対し、比較例2は、比較例1の処方においてカーボンブラックを大粒径のものに変更した例であり、耐カット性が悪化した。
比較例3は、比較例1の処方においてカーボンブラックを増量した例であり、加工性が悪化した。また発熱性も悪化した。
比較例4は、比較例1の処方において熱可塑性樹脂を配合した例であり、発熱性が悪化した。
比較例5は、スルフィド化合物の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、加工性が悪化した。
比較例6は、カーボンブラックのNSAが本発明で規定する下限未満であるので、耐カット性が悪化した。
比較例7は、カーボンブラックの配合量が本発明で規定する下限未満であるので、耐カット性が悪化した。
比較例8は、カーボンブラックの配合量が本発明で規定する上限を超えているので、ムーニー粘度が悪化した。
比較例9は、熱可塑性樹脂の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、発熱性が悪化した。