(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6485247
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】車両用ドア
(51)【国際特許分類】
B60R 21/0136 20060101AFI20190311BHJP
【FI】
B60R21/0136
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-126391(P2015-126391)
(22)【出願日】2015年6月24日
(65)【公開番号】特開2017-7561(P2017-7561A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕之
(72)【発明者】
【氏名】二井 孝彰
【審査官】
野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−306155(JP,A)
【文献】
特開2007−186095(JP,A)
【文献】
特表2006−515818(JP,A)
【文献】
実開平06−074435(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0094305(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00
B60R 21/0136
B60R 21/16−21/33
B60J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウタパネルとインナパネルとの間に引き込み可能な可動式のドアガラスが組み込まれた車両用ドアであって、
前記アウタパネルと前記ドアガラスとの間に配置されて前記アウタパネルと前記インナパネルの間に引き込まれた前記ドアガラスを側面衝突時に車内側へ押圧する押圧部と、
前記ドアガラスの縁に設けられ前記押圧部によって前記ドアガラスが押圧された際に前記ドアガラスの破砕の起点となるノッチと、
前記インナパネルの内側に取り付けられて前記側面衝突時に前記アウタパネルから発生する圧力波を検出する圧力センサと、
を備える
ことを特徴とする車両用ドア。
【請求項2】
前記押圧部は、前記ドアガラスが前記アウタパネルと前記インナパネルとの間に引き込まれる方向へ前記ドアガラスの縁が前記圧力センサを越える前までの範囲に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載された車両用ドア。
【請求項3】
前記押圧部は、前記ドアガラスが前記アウタパネルと前記インナパネルとの間に引き込まれる際に前記ノッチが移動する軌跡上に配置される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載された車両用ドア。
【請求項4】
前記押圧部は、前記アウタパネルの内面に沿って配置される補強部材に固定される
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載された車両用ドア。
【請求項5】
前記ノッチは、車両の進行方向に前記ドアガラスの中央近傍の前記縁に配置される
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載された車両用ドア。
【請求項6】
前記ノッチは、前記アウタパネルに面した側の切込量よりも前記インナパネルに面した側の切込量の方が大きく切り込まれている
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載された車両用ドア。
【請求項7】
前記ノッチは、前記ドアガラスの前記縁から前記ドアガラスの厚みよりも大きく凹みかつ凹んだ奥が前記ドアガラスの厚みよりも小さい直径の円弧に形成された凹部である
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載された車両用ドア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側面衝突の際にエアバッグを展開させるためのセンサを内蔵する車両用ドアに関する。
【背景技術】
【0002】
車両は、衝突した際または衝突された際に乗員を保護するためにエアバッグを展開させる場合がある。特許文献1に記載された衝突検知装置及び乗員保護システムによれば、側面衝突の場合、エアバッグは、車両に搭載された加速度センサと圧力センサによって検出された情報を基に展開される。加速度センサを用いたシステムでは、車体の加速度に基づいて車体の速度変化量を演算して求める。圧力センサは、車両の側部に設置されるドアのアウタパネルとインナパネルとで形成された空間の圧力を検出する。
【0003】
特許文献1では、衝突の判定精度を向上させるために、エアバッグを展開させる必要があるか無いか、アウタパネルとインナパネルとの間の空間に設置された圧力センサによって検出される圧力及び圧力勾配と、加速度センサによって検出される加速度と、に基づいて、衝突が起きたか否かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−046862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の側部に設置されるドアは、アウタパネルとインナパネルの間に引き込み可能に組み込まれたドアガラスを有しており、乗員がドアガラスを自由に開け閉めできる。そのため、ドアガラスが開けられた状態で側面衝突が起こることも想定される。
【0006】
特許文献1に記載された圧力センサは、アウタパネル側に面したインナパネルに取り付けられている。アウタパネルとインナパネルの間の空間に滞留する空気は、いわゆる圧縮性流体であるので、側面衝突によって空間内の圧力は、衝突が起こった部位を中心に高くなり徐々に周囲へ伝播する。したがって、ドアガラスが開放された状態、すなわちドアに引き込まれたドアガラスがアウタパネルとインナパネルの間に配置されていると、衝突によって発生した圧力波は、ドアガラスを迂回して伝播し、圧力センサに到達する。その結果、衝突による圧力変化を圧力センサで検出するまでに時間が掛るとともに、検出できる圧力変化も小さくなるため、エアバッグを展開させるための反応が遅れてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、圧力センサで側面衝突の圧力変化を検出する場合にドアガラスの位置によって検出性能に差を生じない車両用ドアを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一実施形態の車両用ドアは、アウタパネルとインナパネルとの間に引き込み可能に可動式のドアガラスが組み込まれた車両用ドアであって、押圧部とノッチと圧力センサとを備える。押圧部は、アウタパネルとドアガラスとの間に配置されてアウタパネルとインナパネルの間に引き込まれたドアガラスを側面衝突時に車内側へ押圧する。ノッチは、アウタパネルとインナパネルとの間に引き込まれる側のドアガラスの縁に設けられ側面衝突時に押圧部にドアガラスが押圧されることでドアガラスが破砕される起点となる。圧力センサは、インナパネルに取り付けられて側面衝突時にアウタパネルから発生する圧力波を検出する。
【0009】
このとき、押圧部は、ドアガラスがアウタパネルとインナパネルとの間に引き込まれる方向へドアガラスの縁が圧力センサを越える前までの範囲に配置される。また、押圧部は、ドアガラスがアウタパネルとインナパネルとの間に引き込まれる際にノッチが移動する軌跡上に配置される。また、押圧部は、アウタパネルの内面に沿って配置される補強部材に固定される。また、ノッチは、車両の進行方向にドアガラスの中央近傍のドアガラスの縁に配置されることが好ましい。また、ノッチは、アウタパネルに面した側の切込量よりもインナパネルに面した側の切込量の方が大きく切り込まれていてもよい。さらに、ノッチは、ドアガラスの縁からドアガラスの厚みよりも大きく凹み、かつ、凹んだ奥がドアガラスの厚みよりも小さい直径の円弧に形成された凹部であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両用ドアによれば、アウタパネルとインナパネルの間に引き込まれる側のドアガラスの縁にノッチが形成されており、側面衝突時に押圧部によってドアガラスが車体内側に押し込まれるとノッチを起点にドアガラスが破砕される。側面衝突によって内側に変形するアウタパネルから発生した圧力波はドアガラスに遮られることなく直接的に圧力センサに到達する。したがって、側面衝突をいち早く検出してエアバッグを展開することができる。
【0011】
また、ドアガラスがアウタパネルとインナパネルとの間に引き込まれる方向へドアガラスの縁が圧力センサを越える前までの範囲に押圧部が配置される発明の車両用ドアによれば、引き込まれたドアガラスが圧力センサに重なっている場合は側面衝突時に必ず破砕することができる。
【0012】
また、ドアガラスがアウタパネルとインナパネルとの間に引き込まれる際にノッチが移動する軌跡上に押圧部が配置される発明の車両用ドアによれば、押圧部がドアガラスを押圧することでノッチに応力が集中しやすく、ドアガラスを破砕しやすい。
【0013】
また、アウタパネルの内面に沿って配置される補強部材に押圧部を固定する発明の車両用ドアによれば、側面衝突の際にエアバッグを展開する必要のない程度の衝撃であったり、アウタパネルに不用意に加わった外力でアウタパネルが変形させられたりした場合に、引き込まれているドアガラスを不必要に破砕しない。
【0014】
また、車両の進行方向にドアガラスの中央近傍のドアガラスの縁にノッチが配置される発明の車両用ドア、または、アウタパネルに面した側の切込量よりもインナパネルに面した側の切込量の方が大きくノッチが切り込まれている発明の車両用ドアによれば、ドアガラスが押圧部によって押された場合にノッチに応力が集中しやすい。さらに、ノッチが、ドアガラスの縁からドアガラスの厚みよりも大きく凹み、かつ、凹んだ奥がドアガラスの厚みよりも小さい直径の円弧に形成された凹部である発明の車両用ドアによれば、ドアガラスを押圧部によって押すことでドアガラスを破砕するための起点として安定した性能を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る第1の実施形態の車両用ドアを車体内側から見た側面図。
【
図2】
図1の車両用ドアのドアガラスを引き込んだ状態の側面図。
【
図3】
図1の車両用ドアと乗員との相対位置関係を示す側面図。
【
図4】
図3中のF4−F4線に沿う車両用ドアの断面図。
【
図5】
図4中のF5−F5線に沿う車両用ドアの断面図であって、(A)はドアガラスが閉じられた状態、(B)はドアガラス破砕前、(C)はドアガラス破砕後をそれぞれ示す。
【
図6】本発明に係る第2の実施形態の車両用ドアのノッチを拡大した斜視図。
【
図7】本発明に係る第3の実施形態の車両用ドアのノッチを拡大した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る第1の実施形態の車両用ドア1について、
図1から
図5を参照して説明する。
図1、
図2、及び
図3は、車両の前部座席2(
図3)に対応した車両用ドア1を車体100の内側から見た図である。車両用ドア1は、アウタパネル11とインナパネル12とドアガラス13と駆動機構14と押圧部15とノッチ30と圧力センサ16とを備える。圧力センサ16は、車両が側面衝突を起こした際に乗員Pを保護するエアバッグ(サイドエアバッグ)を展開させるために用いられるセンサのひとつである。この圧力センサ16は、側面衝突したことによってアウタパネル11から内側に向かって発生する圧力波Wによる圧力変化を検出する。
【0017】
本実施形態において、説明の便宜上、車両の進行方向を基準に「前」及び「後ろ」を定義し、乗員Pから見て右手側を「右」、左手側を「左」とそれぞれ定義する。また、重力の作用する方向を基準に「上」および「下」を定義する。さらに、車体の中心に近い方を「内側」、車体の中心から離れる方を「外側」とそれぞれ呼ぶことも有る。
【0018】
車両用ドア1は、アウタパネル11とインナパネル12との間にドアガラス13を駆動機構14によって引き込み可能に設けられている。
図1ではドアガラス13が繰り出された状態、すなわち窓が閉じられた状態であり、
図2ではドアガラス13がアウタパネル11とインナパネル12の間に引き込まれた状態、すなわち窓が開かれた状態である。
図1は、インナパネル12を仮想線で示し、
図2は、インナパネル12を省略している。
図3は、前部座席2及び着座した乗員Pをインナパネル12とともに示す。
【0019】
アウタパネル11は、
図4に示すように車体100の外形を形成する。インナパネル12は、ドアガラス13を案内するレール121、駆動機構14、及び圧力センサ16の他に、補強部材であるインパクトバー17が取り付けられている。ドアガラス13は、アウタパネル11とインナパネル12の間から繰り出された状態からアウタパネル11とインナパネル12の間に引き込まれた状態まで、レール121に沿って移動可能である。アウタパネル11とインナパネル12は、ドアガラス13の移動範囲を除く部位で互いに接合されている。インナパネル12は、
図3に示すように、駆動機構14や圧力センサ16などの電装品につながる電気配線を含むハーネスを通すための穴122が設けられている。
【0020】
駆動機構14は、インナパネル12とドアガラス13との間に配置され、ヒンジ142によって中央で連結され交差するリンク141を介してドアガラス13の下縁131に連結されている。ドアガラス13を繰り出した状態と引き込んだ状態との間で移動させる機能を有していれば、駆動機構14は、上記構成に限定されない。例えば、ワイヤで動かされるように設けられていてもよい。
【0021】
ドアガラス13は、
図1及び
図5(A)に示すように、アウタパネル11とインナパネル12の間から繰り出された状態、すなわち窓(ドアガラス13)を閉じた状態では、アウタパネル11と圧力センサ16との間から外れた位置に配置される。そして、ドアガラス13がアウタパネル11とインナパネル12との間に引き込まれてドアガラス13の位置が下がってドアガラス13の下縁131が圧力センサ16よりも低い位置にくると、
図2及び
図5(B)のようにアウタパネル11と圧力センサ16の間に介在された状態とされる。
【0022】
ドアガラス13がアウタパネル11と圧力センサ16との間に介在された状態では、側面衝突の際にアウタパネル11の内面から発生する圧力波Wがドアガラス13に遮られ、圧力センサ16へ直接的に伝播されなくなるため、ドアガラス13が閉じられた状態と、ドアガラス13が開かれた状態とで衝突を検知するまでの時間に差、すなわちバラツキが生じる。
【0023】
そこで、本発明では、ドアガラス13がアウタパネル11と圧力センサ16の間に介在している状態でも、衝突を検知するまでの時間に差が生じないための工夫をしている。具体的には、ドアガラス13の下縁131が圧力センサ16よりも低い位置にある状態で側面衝突が起こった場合には、必ずドアガラス13を破砕できるように押圧部15とノッチ30とを設けている。
【0024】
押圧部15は、引き込まれたドアガラス13とアウタパネル11との間、すなわちアウタパネル11と圧力センサ16との間に介在されたドアガラス13の車外側でドアガラス13と対向するように配置されている。そして、車両が側面衝突した際にアウタパネル11の変形に伴って車内側へ変位することで、アウタパネル11とインナパネル12との間に引き込まれたドアガラス13を車内側へ押圧するよう構成されている。本実施形態では、押圧部15は、ドアガラス13より車外側でアウタパネル11の内面に沿って設けられるインパクトバー17にブラケット171を介して支持されている。なお、押圧部15は、ブラケット171に固定される代わりに、アウタパネル11の内側に直接接着剤で固定されていてもよいし、インパクトバー17に直接固定されてもよい。
【0025】
押圧部15は、ドアガラス13がアウタパネル11とインナパネル12との間に引き込まれる方向へドアガラスの下縁131が圧力センサ16を越える前までの範囲、すなわち、圧力センサ16にドアガラス13が被さらない時のドアガラス13の下縁131の下限となる境界線Bよりも上部に、配置される。
【0026】
ノッチ30は、アウタパネル11とインナパネル12の間に引き込まれる側のドアガラス13の下縁131に設けられている。ノッチ30は、側面衝突時にアウタパネル11の変形に伴いドアガラス13が押圧部15によって押圧された際に、ドアガラス13の破砕の起点となる。すなわち、側面衝突時に押圧部15によってドアガラス13が車内側へ押圧されると、ノッチ30を起点にドアガラス13が破砕される仕組みとされている。
【0027】
本実施形態において、ノッチ30は、
図1及び
図2に示すように、車両の進行方向にドアガラス13の中央付近の下縁131から上方へ切れ上がる楔形に形成されている。各図では、ノッチ30を模式的に図示しており、実際にはもっと小さくてもよいし、複数個所に設けられていてもよい。また、走行中の振動や軽い衝撃などによって、ドアガラス13が割れてしまわないように、ドアガラス13の下縁131から入り込んだノッチ30の奥側は、滑らかな曲面に形成されることが好ましい。ただし、曲率半径が大きすぎるとドアガラス13を破砕するための起点にならないので、適度に曲率半径は小さい方が良い。具体的には、ドアガラス13の厚みに対してドアガラス13の下縁131から大きく凹み、かつ、凹んだ奥がドアガラスの厚みよりも小さい直径の円弧に、ノッチ30が形成されることが好ましい。
【0028】
ドアガラス13は、押圧部15によって押圧されたときノッチ30が起点となって破砕される。したがって、押圧部15は必ずノッチ30に対峙する位置に配置される必要はない。ノッチ30に対して少ない力で応力を集中させるために、ドアガラスが13がアウタパネル11とインナパネル12との間に引き込まれる際にノッチ30が移動する軌跡A上に押圧部15が配置されているとよい。
【0029】
また、側面衝突がエアバッグ(サイドエアバッグ)を展開させる必要のない程度の衝撃である場合や、不用意にアウタパネル11が外力によって押されて凹むことがあった場合、ドアガラス13を破壊しないように押圧部15は、アウタパネル11の内面に沿って配置される補強部材、例えばアウタパネル11の内面に接合されるスティフナや、レイアウトによってはインパクトバー17に直接取り付けられていてもよい。
【0030】
一般に、車両用ドア1のアウタパネル11は、
図5(A)に示すように、高さ方向に中間部分が外側に膨らんでいる。つまり、押圧部15の取付位置は、境界線Bよりも上へ離れるにしたがって、側面衝突時にアウタパネル11が変形し始める範囲から遠くなるため、ドアガラス13を押圧するタイミングが遅くなる。したがって、押圧部15は、境界線Bに近い方が良い。また、ドアガラス13の下縁131は、駆動機構14のリンク141の先端がスライド嵌合するフレーム143と少なくとも2か所で連結されている。ノッチ30は、ドアガラス13の下縁131がフレーム143に連結された2か所の間に形成されている。したがって、フレーム143によってノッチ30の周辺が補強されるので、走行中の振動などによってドアガラス13が破砕する心配がない。
【0031】
以上のように構成された車両用ドア1は、
図1及び
図2に示すように、駆動機構14によって、アウタパネル11とインナパネル12の間にドアガラス13を引き込んで窓を開けたり、ドアガラス13を繰り出して窓を閉じたり、これまでの車両用ドアと外観上の変わりはない。
【0032】
図4は、車体100の右側で側面衝突を起こした瞬間を上から見た場合の車両用ドア1の水平断面図である。
図5は、前方から見た車両用ドア1の縦断面図であって、(A)はドアガラス13がアウタパネル11とインナパネル12の間から繰り出されて窓が閉じられた状態である。
図5の(B)はアウタパネル11とインナパネル12の間へドアガラス13が引き込まれ窓が開かれた状態、すなわちドアガラス13がアウタパネル11と圧力センサ16の間に介在する状態であり、側面衝突によってアウタパネル11が内側に押し込まれ始めた状態を示す。
図5の(C)は押圧部15によってドアガラス13が押圧され、ノッチ30を起点にドアガラス13が破砕された状態を示す。
【0033】
図4に示すように、例えば電柱Mに対して車両が側面衝突を起こした場合、衝突部位のアウタパネル11から内側に発生する圧力波Wがアウタパネル11とインナパネル12の間に伝播する。このとき、
図5(A)のようにドアガラス13が閉じられており、境界線Bよりも上にドアガラス13の下縁131が位置している場合は、圧力波Wは最短距離で圧力センサ16に到達する。圧力センサ16でこの圧力波Wの圧力変化を検出することで、エアバッグ(サイドエアバッグ)を即座に展開させることができる。
【0034】
また、
図5(B)のようにドアガラス13が開かれており、境界線Bよりも下にドアガラス13の下縁131が位置している場合、アウタパネル11と圧力センサ16の間にドアガラス13が介在し、このままでは側面衝突によって発生する圧力波Wの伝播を遮ってしまう。つまり、側面衝突による圧力波Wはドアガラス13を迂回して伝播することになるので圧力センサ16で圧力波Wを検出するまでに時間がかかってしまう。
【0035】
本実施形態の車両用ドア1によれば、ドアガラス13の下縁131にノッチ30を有しており、さらにドアガラス13を押圧する押圧部15をアウタパネル11とドアガラス13の間に有している。側面衝突によってアウタパネル11が変形すると、押圧部15がドアガラス13を押圧し、押されたドアガラス13は、ノッチ30を起点に細かいガラス片13Xに破砕される。したがって、側面衝突によって、アウタパネル11の内面から発生した圧力波Wは、
図5(C)のようにドアガラス13に遮られることなく圧力センサ16に到達させることができる。つまり、ドアガラス13が閉じられているすなわちアウタパネル11と圧力センサ16との間にドアガラス13が介在していない時と同様に、側面衝突が発生したことを圧力センサ16で検出できる、すなわち、ドアガラス13の位置によって圧力センサ16の検出性能に差が生じない。ドアガラス13がアウタパネル11と圧力センサ16との間に介在する程度に窓が開かれていても、閉じられているときと同様に、圧力波Wが最短距離で伝播する短時間に側面衝突による衝撃を安定して検出するとともに、エアバッグの展開を迅速に行える。
【0036】
本発明に係る第2及び第3の実施形態の車両用ドア1について、それぞれ図を参照して説明する。各実施形態において、第1の実施形態の車両用ドア1と同じ機能を有する構成には同じ符号を付し、詳細な説明は、第1の実施形態の記載及び図面を参酌することとする。第2及び第3の実施形態の車両用ドア1は、それぞれドアガラス13の下縁131に設けられるノッチ30の形状が異なっており、そのほかの構成は、第1の実施形態と同じである。
【0037】
第2の実施形態の車両用ドア1のドアガラス13の下縁131に形成されるノッチ30は、
図6に示すように、ドアガラス13の板厚方向に形状が変化している。具体的には、アウタパネル11に面した外側の切込量N1よりも、インナパネル12に面した内側の切込量N2の方が楔形に切り込まれた形状が大きい。したがって、アウタパネル11側から押圧部15によってドアガラス13が押圧されると、インナパネル12に面した内側に応力が集中しノッチ30から亀裂がドアガラス13に広がりやすく、確実に破砕される。
【0038】
第3の実施形態の車両用ドア1のドアガラス13の下縁131に形成されるノッチ30は、
図7に示すように、ドアガラス13の板厚tに対して、ノッチ30の切込の幅寸法S1は、板厚tよりも小さく、ノッチ30の切込の深さ(奥行)寸法S2は、板厚tよりも大きい。そしてこのノッチ30の奥の部分Kは、板厚tよりも小さい直径の円弧に形成されている。したがって、ドアガラス13は、側面衝突において押圧部15でアウタパネル11側から押圧されると、ノッチ30の奥の部分Kのインナパネル12に面した側に引張応力が集中し、確実に破砕される。
【0039】
なお、第2及び第3の実施形態の車両用ドア1のノッチ30は、第1の実施形態のノッチ30に代えて採用することで、第1の実施形態と同じ効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0040】
1…車両用ドア、11…アウタパネル、12…インナパネル、13…ドアガラス、131…下縁(縁)、15…押圧部、16…圧力センサ、17…インパクトバー(補強部材)、111…スティフナ(補強部材)、30…ノッチ、W…圧力波、A…(ノッチが移動する)軌跡、t…板厚。