(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6485430
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】非可逆回路素子及びこれを用いた通信装置
(51)【国際特許分類】
H01P 1/387 20060101AFI20190311BHJP
【FI】
H01P1/387
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-221267(P2016-221267)
(22)【出願日】2016年11月14日
(65)【公開番号】特開2018-82229(P2018-82229A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2017年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】大波多 秀典
(72)【発明者】
【氏名】中村 淳一
【審査官】
岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−201684(JP,A)
【文献】
特開2016−163109(JP,A)
【文献】
特開2004−266806(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/096494(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方向と平行な実装面と、前記実装面に対して垂直であり、且つ、前記積層方向と平行な第1及び第2の側面を有する非可逆回路素子であって、
第1の永久磁石と、
前記第1の永久磁石に対して前記積層方向に積層され、中心導体と前記中心導体から導出された少なくとも第1及び第2のポートを有する磁気回転子と、
前記第1の側面に設けられ、前記第1のポートに接続された第1の外部端子と、
前記第2の側面に設けられ、前記第2のポートに接続された第2の外部端子と、を備え、
前記磁気回転子は、前記中心導体を前記積層方向に挟む第1及び第2のフェライトコアを含むことを特徴とする非可逆回路素子。
【請求項2】
磁性体基板をさらに備え、
前記磁気回転子は、前記第1の永久磁石と前記磁性体基板によって前記積層方向に挟まれていることを特徴とする請求項1に記載の非可逆回路素子。
【請求項3】
前記磁性体基板が第2の永久磁石であることを特徴とする請求項2に記載の非可逆回路素子。
【請求項4】
前記実装面に設けられた第3の外部端子をさらに備え、
前記中心導体は、前記第3の外部端子に接続された第3のポートをさらに有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の非可逆回路素子。
【請求項5】
前記第1及び第2の外部端子の一部は、前記実装面に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の非可逆回路素子。
【請求項6】
前記中心導体の中心点を基準とした前記第1のポートの延在方向と、前記中心導体の中心点を基準とした前記第3のポートの延在方向が成す角度は鋭角であり、
前記中心導体の中心点を基準とした前記第2のポートの延在方向と、前記中心導体の中心点を基準とした前記第3のポートの延在方向が成す角度は鋭角であることを特徴とする請求項4又は5に記載の非可逆回路素子。
【請求項7】
前記第1の永久磁石と前記磁気回転子によって前記積層方向に挟まれた導体プレートと、
前記導体プレートに接続された第4の外部端子と、をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の非可逆回路素子。
【請求項8】
前記実装面の反対側に位置する上面を覆い、前記導体プレートと前記第4の外部端子を接続する接続導体をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載の非可逆回路素子。
【請求項9】
前記導体プレートは、前記実装面、前記第1の側面及び前記第2の側面のいずれからも露出することなく、前記上面に露出することによって前記接続導体に接続されることを特徴とする請求項8に記載の非可逆回路素子。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の非可逆回路素子を備えた通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非可逆回路素子及びこれを用いた通信装置に関し、特に、分布定数型の非可逆回路素子及びこれを用いた通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アイソレータやサーキュレータ等の非可逆回路素子は、例えば、携帯電話のような移動体通信機器や、基地局で使用される通信装置などに組み込まれて使用される。非可逆回路素子には分布定数型や集中定数型などのタイプがあり、中でも分布定数型の非可逆回路素子は、基地局など高出力が求められる用途に適している。
【0003】
分布定数型の非可逆回路素子の構造は、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された非可逆回路素子は、互いに120°の角度で放射状に伸びる3つのポートを有する中心導体と、中心導体に磁界を与える永久磁石をケースに収容した構成を有している。
【0004】
しかしながら、中心導体や永久磁石をケースに収容するタイプの非可逆回路素子は、小型化や製造コストの低減が困難であるという問題があった。特に、20GHzを超えるような高周波帯域における使用を想定した場合、数百MHz帯の非可逆回路素子に比べてサイズを非常に小型化する必要があるため、中心導体や永久磁石をケースに収容するタイプの非可逆回路素子では作製が困難である。
【0005】
このため、より小型な非可逆回路素子を低コストで作製するためには、中心導体や永久磁石をケースに収容するのではなく、集合基板を用いて作製する積層型の非可逆回路素子が有利である。
【0006】
図14は、積層型の非可逆回路素子の一例を示す略斜視図である。
【0007】
図14に示す非可逆回路素子100は、2つの永久磁石111,112に挟まれた磁気回転子120を備えており、その外形は略直方体形状である。磁気回転子120は、2つのフェライトコア121,122とこれらに挟まれた中心導体123を備え、中心導体123から導出された3つのポート131〜133は、それぞれ外部端子141〜143に接続されている。
図14に示す非可逆回路素子100はXY面が実装面であり、XY面と直交するZ方向に永久磁石111、磁気回転子120及び永久磁石112が順次積層された構成を有している。
【0008】
このような構成を有する非可逆回路素子100は、集合基板の状態で積層を行った後、ダイシングによって個片化することによって多数個取りすることができるため、製造コストを低減することが可能となるとともに、全体のサイズを小型化することも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−29123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、
図14に示す非可逆回路素子100においては、外部端子141〜143が永久磁石111をZ方向に横切ることから、外部端子141〜143が永久磁石111からの磁気特性の影響を強く受ける。これにより、外部端子141〜143が持つインダクタンス成分に悪影響が生じるため、電気的特性、特に挿入損失が悪化するという問題があった。このような問題は、対象とする周波数帯が低ければ深刻とはならないが、対象とする周波数帯が例えば20GHz以上になると、電気的特性が大幅に悪化してしまう。
【0011】
したがって、本発明は、小型且つ低コストで作製可能な非可逆回路素子の電気的特性を改善することを目的とする。また、本発明は、このような非可逆回路素子を備える通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による非可逆回路素子は、積層方向と平行な実装面と、前記実装面に対して垂直であり、且つ、前記積層方向と平行な第1及び第2の側面を有する非可逆回路素子であって、第1の永久磁石と、前記第1の永久磁石に対して前記積層方向に積層され、中心導体と前記中心導体から導出された少なくとも第1及び第2のポートを有する磁気回転子と、前記第1の側面に設けられ、前記第1のポートに接続された第1の外部端子と、前記第2の側面に設けられ、前記第2のポートに接続された第2の外部端子とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明による通信装置は、上記の非可逆回路素子を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、実装面が積層方向と平行であることから、永久磁石を横切ることなく外部端子を配置することができる。これにより、外部端子と永久磁石との重なりに起因する電気的特性の悪化を防止することが可能となる。
【0015】
本発明による非可逆回路素子は磁性体基板をさらに備え、前記磁気回転子は、前記第1の永久磁石と前記磁性体基板によって前記積層方向に挟まれていることが好ましい。この場合、前記磁性体基板が第2の永久磁石であることがより好ましい。これによれば、中心導体に強い磁界を垂直に印加することが可能となる。
【0016】
本発明において、前記磁気回転子は、前記中心導体を前記積層方向に挟む第1及び第2のフェライトコアを含むことが好ましい。これによれば、より良好な電気的特性を得ることが可能となる。
【0017】
本発明による非可逆回路素子は前記実装面に設けられた第3の外部端子をさらに備え、前記中心導体は、前記第3の外部端子に接続された第3のポートをさらに有することが好ましい。これによれば、3ポート構成のアイソレータ又はサーキュレータとして使用することが可能となる。この場合、前記第1及び第2の外部端子の一部は、前記実装面に設けられていることが好ましい。これによれば、実装強度及び接続信頼性を高めることが可能となる。
【0018】
本発明において、前記中心導体の中心点を基準とした前記第1のポートの延在方向と、前記中心導体の中心点を基準とした前記第3のポートの延在方向が成す角度は鋭角であり、前記中心導体の中心点を基準とした前記第2のポートの延在方向と、前記中心導体の中心点を基準とした前記第3のポートの延在方向が成す角度は鋭角であることが好ましい。これによれば、外部端子の長さを短縮できることから、良好な高周波特性を得ることが可能となる。
【0019】
本発明による非可逆回路素子は、前記第1の永久磁石と前記磁気回転子によって前記積層方向に挟まれた導体プレートと、前記導体プレートに接続された第4の外部端子とをさらに備えることが好ましい。これによれば、導体プレートにグランドなどの基準電位を与えることが可能となる。
【0020】
本発明による非可逆回路素子は、前記実装面の反対側に位置する上面を覆い、前記導体プレートと前記第4の外部端子を接続する接続導体をさらに備えることが好ましい。この場合、前記導体プレートは、前記実装面、前記第1の側面及び前記第2の側面のいずれからも露出することなく、前記上面に露出することによって前記接続導体に接続されることが好ましい。これによれば、導体プレートと外部端子との間のショート不良を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、小型且つ低コストで作製可能であるとともに、高周波特性に優れた非可逆回路素子を提供することが可能となる。また、本発明によれば、このような非可逆回路素子を備える通信装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施形態による非可逆回路素子10を上面側から見た略斜視図である。
【
図2】
図2は、非可逆回路素子10を実装面側から見た略斜視図である。
【
図3】
図3は、非可逆回路素子10に含まれる外部端子及び接続導体を削除した状態を上面側から見た略斜視図である。
【
図4】
図4は、非可逆回路素子10に含まれる外部端子及び接続導体を削除した状態を実装面側から見た略斜視図である。
【
図5】
図5は、非可逆回路素子10の主要部を説明するための略分解斜視図である。
【
図6】
図6は、中心導体50の形状を説明するためのYZ断面図である。
【
図7】
図7は、中心導体50に設けられたポート51〜53の位置を説明するための模式図である。
【
図8】
図8は、第1の変形例による中心導体50の形状を説明するための図である。
【
図9】
図9は、第2の変形例による中心導体50の形状を説明するための図である。
【
図10】
図10は、非可逆回路素子10の製造方法を説明するための工程図である。
【
図11】
図11は、非可逆回路素子10の製造方法を説明するための工程図である。
【
図12】
図12は、導体パターン40Bと導体プレート50Aの位置関係を説明するための平面図である。
【
図13】
図13は、本実施形態による非可逆回路素子を用いた通信装置80の構成を示すブロック図である。
【
図14】
図14は、積層型の非可逆回路素子の一例を示す略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0024】
図1及び
図2は、本発明の好ましい実施形態による非可逆回路素子10の構成を示す略斜視図であり、
図1は上面側から見た略斜視図、
図2は実装面側から見た略斜視図である。また、
図3及び
図4は、非可逆回路素子10に含まれる外部端子及び接続導体を削除した状態を示す略斜視図であり、
図3は上面側から見た略斜視図、
図4は実装面側から見た略斜視図である。さらに、
図5は、非可逆回路素子10の主要部を説明するための略分解斜視図である。
【0025】
図1〜
図5に示す非可逆回路素子10は分布定数型の非可逆回路素子であり、携帯電話のような移動体通信機器や、基地局で使用される通信装置などに組み込まれて、アイソレータ又はサーキュレータとして使用される。特に限定されるものではないが、本実施形態による非可逆回路素子10は、基地局で使用される通信装置に使用することが好適である。
【0026】
図1〜5に示すように、本実施形態による非可逆回路素子10は略直方体形状を有する表面実装型の電子部品であり、XY面を構成する実装面11及び上面12と、XZ面を構成する第1及び第2の側面13、14と、YZ面を構成する第3及び第4の側面15、16とを有している。特に限定されるものではないが、対象とする周波数帯域が約25GHzである場合、X方向における長さは2mm程度、Y方向における幅は1.25mm程度、Z方向における高さは1.25mm程度である。
【0027】
非可逆回路素子10は4つの外部端子21〜24と接続導体25を備えている。
図2に示すように、第1の外部端子21は側面13及び実装面11に形成され、第2の外部端子22は側面14及び実装面11に形成され、第3の外部端子23は実装面11に形成されている。尚、
図3及び
図4においては、外部端子21〜23の形成位置を破線で示している。これら3つの外部端子21〜23は、本実施形態による非可逆回路素子10をサーキュレータとして使用する場合にはそれぞれ対応する信号配線に接続される。一方、本実施形態による非可逆回路素子10をアイソレータとして使用する場合には、例えば、外部端子21及び22がそれぞれ対応する信号配線に接続され、外部端子23が終端抵抗を介して接地される。同様にして外部端子21もしくは、22の一端を介して終点抵抗に接地しても、アイソレータとして使用することができる。第4の外部端子24は、側面15及び16の全体に形成されるとともに、実装面11の一部に形成される。第4の外部端子24には、グランドなどの基準電位が与えられる。接続導体25は、上面12の全面に形成されており、第4の外部端子24に与えられる基準電位を後述する導体プレートに供給する役割を果たす。
【0028】
さらに、非可逆回路素子10は永久磁石31及び32を備え、これらの間に磁気回転子40が積層方向であるX方向に挟み込まれた構成を有している。本発明において、永久磁石31及び32の一方については省略、或いは、保磁力の小さい磁性体基板としての鉄板等に置き換えても構わないが、磁気回転子40に対して強い磁界を垂直に印加するためには、磁気回転子40を2つの永久磁石31及び32によって挟み込むことが好ましい。本実施形態においては、外部端子21〜23がいずれも磁気回転子40の表面に形成されており、外部端子21〜23が永久磁石31又は32を覆う部分を有していない。このようなレイアウトが可能であるのは、実装面11が積層方向であるX方向に対して平行だからである。
【0029】
磁気回転子40は、2つのフェライトコア41及び42と、これらによってX方向に挟まれた中心導体50を含む。フェライトコア41及び42の材料としては、イットリウム/鉄/ガーネット(YIG)等の軟磁性材料を用いることが好ましい。中心導体50は略円盤形状であり、中心点から放射状に導出された3つのポート51〜53を有している。中心導体50とフェライトコア41,42は、接着層71を介して互いに接着されている。
【0030】
ここで、中心導体50から導出された第1のポート51の先端は第1の側面13に露出し、これにより第1の外部端子21に接続されている。また、中心導体50から導出された第2のポート52の先端は第2の側面14に露出し、これにより第2の外部端子22に接続されている。さらに、中心導体50から導出された第3のポート53の先端は実装面11に露出し、これにより第3の外部端子23に接続されている。
【0031】
本実施形態による非可逆回路素子10は、永久磁石31と磁気回転子40によってX方向に挟まれた導体プレート61と、永久磁石32と磁気回転子40によってX方向に挟まれた導体プレート62をさらに備えている。このため、中心導体50は2つの導体プレート61及び62によって挟まれ、永久磁石31及び32から隔離される。導体プレート61及び62は、Y方向における幅が非可逆回路素子10のY方向における幅よりも狭く、且つ、Z方向における高さが非可逆回路素子10のZ方向における高さよりも低い。そして、導体プレート61及び62は、側面13、14及び実装面11のいずれからも露出することなく、上面12に露出している。上述の通り、上面12の全面は接続導体25によって覆われているため、導体プレート61及び62は、接続導体25を介して第4の外部端子24に接続されることになる。尚、永久磁石31及び32と磁気回転子40は、接着層72を介して互いに接着されている。
【0032】
図6は、中心導体50の形状を説明するためのYZ断面図である。
【0033】
図6に示すように、中心導体50のYZ断面はほぼ円形である。そして、中心導体50から導出される第1のポート51は、
図6の左下方向に延在し、第1の外部端子21に接続される。また、中心導体50から導出される第2のポート52は、
図6の右下方向に延在し、第2の外部端子22に接続される。さらに、中心導体50から導出される第3のポート53は、
図6の真下方向(マイナスZ方向)に延在し、第3の外部端子23に接続される。但し、中心導体50のYZ断面が円形であることは必須でなく、特性調整のための凹部、凸部、孔部、分岐枝、スリットなどを有していても構わない。
【0034】
図6には導体プレート61及び62の位置も図示されており、実装面11及び側面13,14には導体プレート61及び62の端部が露出していないことが分かる。一方、導体プレート61及び62の端部は上面12に露出しており、これにより接続導体25に接続される。
【0035】
図7は、中心導体50に設けられたポート51〜53の位置を説明するための模式図である。
【0036】
図7に示すように、本実施形態においては、中心導体50の中心点Cを基準としたポート51〜53の延在方向をそれぞれ直線L1〜L3で示した場合、直線L1とL2が成す角度θ1は約120°であり、直線L1及びL2と直線L3が成す角度θ2はいずれも約60°である。つまり、角度θ2がいずれも鋭角であり、一般的な非可逆回路素子におけるポートの導出角度(互いに120°)と大きく異なっている。
【0037】
このような構成であっても非可逆回路素子として機能するのは、第3のポート53が仮想ポート54と実質的に同じ特性を有するからである。仮想ポート54は、中心点Cから真上方向(プラスZ方向)に延在し、仮想ポート54に対応する直線L4と直線L1及びL2が成す角度θ3はいずれも約120°である。つまり、第1及び第2のポート51,52と仮想ポート54を有する中心導体50は、一般的な3端子型の非可逆回路素子に用いられる中心導体と同じ構成を有しており、広く知られているようにアイソレータ又はサーキュレータとして機能する。
【0038】
この仮想ポート54に現れる定在波は、仮想ポート54の180°反対側に位置する第3のポート53にも同様に現れるため、仮想ポート54の代わりに第3のポート53を用いることによって、一般的な3端子型の非可逆回路素子に用いられる中心導体と同じ機能を実現することができる。尚、直線L1と直線L2が成す角度θ1が完全に120°である必要はなく、第1のポート51と第2のポート52との間の挿入損失を低減すべく、120°超に設計しても構わない。
【0039】
但し、本発明において中心導体50から導出されるポート51〜53のレイアウトが上記のレイアウトに限定されるものではない。したがって、
図8に示す第1の変形例のように、第3のポート53を仮想ポート54と同じ位置に配置しても構わない。或いは、
図9に示す第2の変形例のように、第1の変形例のレイアウトを180°回転させても構わない。しかしながら、この場合は、第1及び第2の外部端子21,22のZ方向における長さが長くなるため、使用する周波数帯域が高い場合、特に20GHz以上の周波数帯域で使用する場合には、第1及び第2の外部端子21,22のインダクタンス成分によって電気的特性が悪化してしまう。
【0040】
これに対し、
図6に示した本実施形態によるレイアウトによれば、第3のポート53とプリント基板上のランドパターンとの接続が困難となることがなく、且つ、第1及び第2の外部端子21,22のZ方向における長さを短くすることができる。このため、本実施形態による中心導体50のレイアウトは、表面実装型の端子配置を採ることが容易であるとともに、使用する周波数帯域が高い場合、特に20GHz以上の周波数帯域で使用する場合において特に有利である。
【0041】
そして、本実施形態による非可逆回路素子10は、外部端子21〜23が永久磁石31又は32と重なりを有していないことから、従来の非可逆回路素子100のように外部端子21〜23のインダクタンスが増大することがない。このため、使用する周波数帯域が非常に高い場合であっても、良好な電気的特性を得ることが可能となる。
【0042】
表1は、本実施形態による非可逆回路素子10と
図14に示した従来の非可逆回路素子100の電気的特性を示す表であり、いずれもX方向における長さが2mm、Y方向における幅が1.25mm、Z方向における高さが1.25mmである場合の値である。
【0044】
表1に示すように、本実施形態による非可逆回路素子10は、従来の非可逆回路素子100に比べ、26.5GHz及び29.5GHzの周波数帯域において、挿入損失が低く、且つ、アイソレーション特性が高いことが分かる。
【0045】
次に、本実施形態による非可逆回路素子10の製造方法について説明する。
【0046】
まず、
図10に示すように、集合基板である永久磁石30Aとフェライトコア40Aを用意し、永久磁石30A及びフェライトコア40Aの表面に導体パターンを形成する。具体的には、永久磁石30Aの表面にはほぼ全面に導体パターン30Bを形成し、フェライトコア40Aの表面には矩形状の導体パターン40Bを規則的に形成する。導体パターン30B,40Bの形成方法としては、例えばスクリーン印刷法を用いることができる。導体パターン40Bは、最終的に導体プレート61又は62となる部分である。
【0047】
次に、接着層72を介して、永久磁石30Aとフェライトコア40Aを積層し、真空熱プレスを行うことによってこれらを一体化し、
図11に示す積層体73を作製する。このような積層体73を2つ作製した後、
図11に示すように、接着層71を介して2つの積層体73によって導体プレート50Aを挟み込み、真空熱プレスを行うことによってこれらを一体化する。導体プレート50Aは、複数の中心導体50によって構成されている。
【0048】
図12は、導体パターン40Bと導体プレート50Aの位置関係を説明するための平面図である。
図12に示すように、1つの導体パターン40Bと2つの中心導体50が重なるよう、両者の位置関係を調整する。尚、Y方向に隣接する中心導体50はポート51又は52によって連結され、Z方向に隣接する中心導体50はポート53によって連結されているため、個々の中心導体50が分離することはない。
【0049】
そして、
図12に示すダイシングラインDに沿って集合基板をダイシングした後、各個片に外部端子21〜24及び接続導体25を形成すれば、本実施形態による非可逆回路素子10が完成する。
【0050】
このような製造方法を用いれば、多数の非可逆回路素子10を同時に作製することができるため、製造コストを低減することが可能となる。また、
図12に示すように、2つの中心導体50と重なる導体パターン40Bを用いるとともに、導体パターン40BをY方向に切断していることから、上面12に導体プレート61及び62を露出させることが可能となる。
【0051】
そして、完成した非可逆回路素子10をプリント基板に実装する際には、積層方向であるX方向が水平となるよう、90°回転させた状態で実装する。これにより、既に説明したように外部端子21〜23が永久磁石31又は32を横切る必要がないことから、従来の非可逆回路素子100のように高周波特性が悪化することがない。
【0052】
図13は、本実施形態による非可逆回路素子を用いた通信装置80の構成を示すブロック図である。
【0053】
図13に示す通信装置80は、例えば移動体通信システムにおける基地局に備えられるものであって、受信回路部80Rと送信回路部80Tとを含み、これらは送受信用のアンテナANTに接続されている。受信回路部80Rは、受信用増幅回路81と、受信された信号を処理する受信回路82とを含んでいる。送信回路部80Tは、音声信号、映像信号などを生成する送信回路83と、電力増幅回路84とを含んでいる。
【0054】
このような構成を有する通信装置80において、アンテナANTから受信回路部80Rに到る経路や、送信回路部80TからアンテナANTに至る経路に、本実施形態による非可逆回路素子91、92が用いられる。非可逆回路素子91は、サーキュレータとして機能し、非可逆回路素子92は終端抵抗器R0を有するアイソレータとして機能する。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0056】
10,91,92 非可逆回路素子
11 実装面
12 上面
13〜16 側面
21〜24 外部端子
25 接続導体
30A,31,32 永久磁石
30B,40B 導体パターン
40 磁気回転子
40A,41,42 フェライトコア
50 中心導体
50A 導体プレート
51〜53 ポート
54 仮想ポート
60,61 導体プレート
71,72 接着層
73 積層体
80 通信装置
80R 受信回路部
80T 送信回路部
81 受信用増幅回路
82 受信回路
83 送信回路
84 電力増幅回路
ANT アンテナ
C 中心点
D ダイシングライン
L1〜L4 直線
R0 終端抵抗器