(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の方向に延在するスピン軌道トルク配線と、前記スピン軌道トルク配線の一面に積層され、前記スピン軌道トルク配線側から第1強磁性層と非磁性層と第2強磁性層とを備える機能部と、を備えるスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子において、
前記スピン軌道トルク配線の前記第1の方向に印加する電圧を、環境温度における臨界書き込み電圧以上所定値以下とし、
前記所定値は、
環境温度が−40℃、20℃及び100℃においては、前記第1強磁性層の磁化を反転させる際の書き込みエラーレートが、前記臨界書き込み電圧をかけた際の書き込みエラーレートと等しくなる限界書き込み電圧である、データの書き込み方法。
第1の方向に延在するスピン軌道トルク配線と、前記スピン軌道トルク配線の一面に積層され、前記スピン軌道トルク配線側から第1強磁性層と非磁性層と第2強磁性層とを備える機能部と、を備えるスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子において、
前記スピン軌道トルク配線の前記第1の方向に印加する電圧を、環境温度における臨界書き込み電圧以上所定値以下とし、
前記所定値は、
環境温度が−40℃、20℃及び100℃においては、前記第1強磁性層の磁化を反転させる際の書き込みエラーレートが、前記臨界書き込み電圧をかけた際の書き込みエラーレートと等しくなる限界書き込み電圧であり、
環境温度が20℃未満の温度領域においては、−40℃における限界書き込み電圧と20℃における限界書き込み電圧とを結ぶ直線上に位置する電圧である、データの書き込み方法。
第1の方向に延在するスピン軌道トルク配線と、前記スピン軌道トルク配線の一面に積層され、前記スピン軌道トルク配線側から第1強磁性層と非磁性層と第2強磁性層とを備える機能部と、を備えるスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子において、
前記スピン軌道トルク配線の前記第1の方向に印加する電圧を、環境温度における臨界書き込み電圧以上所定値以下とし、
前記所定値は、
環境温度が−40℃、20℃及び100℃においては、前記第1強磁性層の磁化を反転させる際の書き込みエラーレートが、前記臨界書き込み電圧をかけた際の書き込みエラーレートと等しくなる限界書き込み電圧であり、
環境温度が20℃以上の温度領域においては、20℃における限界書き込み電圧と100℃における限界書き込み電圧とを結ぶ直線上に位置する電圧である、データの書き込み方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0025】
(磁気メモリ)
図1は、本実施形態にかかる磁気メモリ100の模式図である。磁気メモリ100は、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子10と電圧源20とを備える。
【0026】
<スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子>
スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子10は、機能部1とスピン軌道トルク配線2とを備える。スピン軌道トルク配線2の機能部1を挟む位置には、導電性を有する第1電極3及び第2電極4を備える。第1電極3及び第2電極4は、スピン軌道トルク配線2に直接接続されていてもよいし、絶縁層を介して接続されてもよい。これらがスピン軌道トルク配線2と直接接続された場合は電流駆動となり、これらがスピン軌道トルク配線2と絶縁体を介して接続された場合は電圧駆動となる。
以下、スピン軌道トルク配線2が延在する第1の方向をx方向、機能部1の積層方向(第2の方向)をz方向、x方向及びz方向のいずれにも直交する方向をy方向と規定して説明する。
【0027】
[スピン軌道トルク配線]
スピン軌道トルク配線2は、x方向に延在する。スピン軌道トルク配線2は、機能部1のz方向の一面に接続されている。スピン軌道トルク配線2は、機能部1に直接接続されていてもよいし、他の層を介し接続されていてもよい。
【0028】
スピン軌道トルク配線2は、電流Iが流れるとスピンホール効果によってスピン流が生成される材料からなる。かかる材料としては、スピン軌道トルク配線2中にスピン流が生成される構成のものであれば足りる。従って、単体の元素からなる材料に限らないし、スピン流を生成しやすい材料で構成される部分とスピン流を生成しにくい材料で構成される部分とからなるもの等であってもよい。
【0029】
スピンホール効果とは、材料に電流Iを流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流Iの向きと直交する方向にスピン流が誘起される現象である。スピンホール効果によりスピン流が生み出されるメカニズムについて説明する。
【0030】
スピン軌道トルク配線2の両端に電位差を与えると、スピン軌道トルク配線2に沿って電流Iが流れる。電流Iが流れると、一方向に配向した第1スピンS1と、第1スピンS1と反対方向に配向した第2スピンS2とが、それぞれ電流と直交する方向に曲げられる。例えば、第1スピンS1は進行方向に対しz方向に曲げられ、第2スピンS2は進行方向に対して−z方向に曲げられる。
【0031】
通常のホール効果とスピンホール効果とは運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で共通する。一方で、通常のホール効果は磁場中で運動する荷電粒子がローレンツ力を受けて運動方向を曲げられるのに対して、スピンホール効果では磁場が存在しなくても、電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)でスピンの移動方向が曲げられる点が大きく異なる。
【0032】
非磁性体(強磁性体ではない材料)では第1スピンS1の電子数と第2スピンS2の電子数とが等しいので、図中で+z方向に向かう第1スピンS1の電子数と−z方向に向かう第2スピンS2の電子数が等しい。この場合、電荷の流れは互いに相殺され、電流量はゼロとなる。電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
【0033】
第1スピンS1の電子の流れをJ↑、第2スピンS2の電子の流れをJ↓、スピン流をJSと表すと、JS=J↑−J↓で定義される。スピン流JSは、図中のz方向に流れる。
図1において、スピン軌道トルク配線2の上面には後述する第1強磁性層1Aが存在する。そのため、第1強磁性層1Aにスピンが注入される。
【0034】
スピン軌道トルク配線2は、電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させる機能を有する金属、合金、金属間化合物、金属硼化物、金属炭化物、金属珪化物、金属燐化物のいずれかによって構成される。
【0035】
スピン軌道トルク配線2の主構成は、非磁性の重金属であることが好ましい。ここで、重金属とは、イットリウム以上の比重を有する金属を意味する。非磁性の重金属は最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属であることが好ましい。これらの非磁性金属は、スピンホール効果を生じさせるスピン軌道相互作用が大きい。
【0036】
電子は、一般にそのスピンの向きに関わりなく、電流とは逆向きに動く。これに対し、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号が大きい非磁性金属はスピン軌道相互作用が大きく、スピンホール効果が強く作用する。そのため、電子の動く方向は、電子のスピンの向きに依存する。従って、これらの非磁性の重金属中ではスピン流JSが発生しやすい。
【0037】
またスピン軌道トルク配線2は、磁性金属を含んでもよい。磁性金属とは、強磁性金属、あるいは、反強磁性金属を指す。非磁性金属に微量な磁性金属が含まれるとスピンの散乱因子となる。スピンが散乱するとスピン軌道相互作用が増強され、電流に対するスピン流の生成効率が高くなる。スピン軌道トルク配線2の主構成は、反強磁性金属だけからなってもよい。
【0038】
一方で、磁性金属の添加量が増大し過ぎると、発生したスピン流が添加された磁性金属によって散乱され、結果としてスピン流が減少する作用が強くなる場合がある。そのため、添加される磁性金属のモル比はスピン軌道トルク配線を構成する元素の総モル比よりも十分小さい方が好ましい。添加される磁性金属のモル比は、全体の3%以下であることが好ましい。
【0039】
スピン軌道トルク配線2は、トポロジカル絶縁体を含んでもよい。トポロジカル絶縁体とは、物質内部が絶縁体、あるいは、高抵抗体であるが、その表面にスピン偏極した金属状態が生じている物質である。この物質にはスピン軌道相互作用により内部磁場が生じる。そこで外部磁場が無くてもスピン軌道相互作用の効果で新たなトポロジカル相が発現する。これがトポロジカル絶縁体であり、強いスピン軌道相互作用とエッジにおける反転対称性の破れにより純スピン流を高効率に生成できる。
【0040】
トポロジカル絶縁体としては例えば、SnTe、Bi
1.5Sb
0.5Te
1.7Se
1.3、TlBiSe
2、Bi
2Te
3、Bi
1−xSb
x、(Bi
1−xSb
x)
2Te
3などが好ましい。これらのトポロジカル絶縁体は、高効率にスピン流を生成することが可能である。
【0041】
[機能部]
機能部1は、第1強磁性層1Aと第2強磁性層1Bとこれらに挟まれた非磁性層1Cとを備える。機能部1は、スピン軌道トルク配線2と交差する第2の方向(z方向)に積層されている。
【0042】
機能部1は、第1強磁性層1Aの磁化M1Aと第2強磁性層1Bの磁化M1Bの相対角が変化することにより抵抗値が変化する。第2強磁性層1Bの磁化M1Bは一方向(z方向)に固定され、第1強磁性層1Aの磁化M1Aの向きが、磁化M1Bに対して相対的に変化する。第2強磁性層1Bは固定層、参照層などと表記され、第1強磁性層1Aは自由層、記録層などと表記されることがある。保磁力差型(擬似スピンバルブ型;Pseudo spin valve 型)のMRAMに適用する場合には、第2強磁性層1Bの保磁力を第1強磁性層1Aの保磁力よりも大きくする。交換バイアス型(スピンバルブ;spin valve型)のMRAMに適用する場合には、第2強磁性層1Bの磁化M1Bを反強磁性層との交換結合によって固定する。
【0043】
機能部1は、非磁性層1Cが絶縁体からなる場合は、トンネル磁気抵抗効果(TMR:Tunneling Magnetoresistance)素子と同様の構成であり、金属からなる場合は巨大磁気抵抗効果(GMR:Giant Magnetoresistance)素子と同様の構成である。
【0044】
機能部1の積層構成は、公知の磁気抵抗効果素子の積層構成を採用できる。例えば、各層は複数の層からなるものでもよいし、第2強磁性層1Bの磁化方向を固定するための反強磁性層等の他の層を備えてもよい。第2強磁性層1Bは固定層や参照層、第1強磁性層1Aは自由層や記憶層などと呼ばれる。
【0045】
第1強磁性層1A及び第2強磁性層1Bは、磁化M1A,M1Bの磁化容易軸がz方向に配向した垂直磁化膜でも、磁化容易軸がxy面内方向に配向した面内磁化膜でもよい。
【0046】
第1強磁性層1A及び第2強磁性層1Bは、強磁性材料を適用できる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を用いることができる。具体的には、Co−Fe、Co−Fe−B、Ni−Feを例示できる。また第1強磁性層1Aが面内磁化膜の場合は、例えば、Co−Ho合金(CoHo
2)、Sm−Fe合金(SmFe
12)等を用いることが好ましい。
【0047】
第1強磁性層1Aと第2強磁性層1Bとのうち少なくとも一方にCo2FeSi等のホイスラー合金を用いると、磁気抵抗効果がより強く発現する。ホイスラー合金は、X2YZの化学組成をもつ金属間化合物を含み、Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、Yは、Mn、V、CrあるいはTi族の遷移金属又はXの元素種であり、Zは、III族からV族の典型元素である。例えば、Co
2FeSi、Co
2FeGe、Co
2FeGa、Co
2MnSi、Co
2Mn
1−aFe
aAl
bSi
1−b、Co
2FeGe
1−cGa
c等が挙げられる。
【0048】
第2強磁性層1Bには、IrMn,PtMnなどの反強磁性材料からなる層を積層してもよい。シンセティック強磁性結合の構造とすることで、第2強磁性層1Bの漏れ磁場が、第1強磁性層1Aに与える影響を軽減できる。
【0049】
非磁性層1Cには、公知の材料を用いることができる。
例えば、非磁性層1Cが絶縁体からなる場合(トンネルバリア層である場合)、その材料としては、Al
2O
3、SiO
2、MgO、及び、MgAl
2O
4等を用いることができる。これらの他にも、Al、Si、Mgの一部が、Zn、Be等に置換された材料等も用いることができる。これらの中でも、MgOやMgAl
2O
4はコヒーレントトンネルが実現できる材料であるため、スピンを効率よく注入できる。非磁性層1Cが金属からなる場合、その材料としては、Cu、Au、Ag等を用いることができる。さらに、非磁性層1Cが半導体からなる場合、その材料としては、Si、Ge、CuInSe
2、CuGaSe
2、Cu(In,Ga)Se
2等を用いることができる。
【0050】
機能部1は、その他の層を有していてもよい。第1強磁性層1Aの非磁性層1Cと反対側の面に下地層を有していてもよい。スピン軌道トルク配線2と第1強磁性層1Aとの間に配設される層は、スピン軌道トルク配線2から伝播するスピンを散逸しないことが好ましい。例えば、銀、銅、マグネシウム、及び、アルミニウム等は、スピン拡散長が100nm以上と長く、スピンが散逸しにくいことが知られている。この層の厚みは、層を構成する物質のスピン拡散長以下であることが好ましい。層の厚みがスピン拡散長以下であれば、スピン軌道トルク配線2から伝播するスピンを第1強磁性層1Aに十分伝えることができる。
【0051】
<電圧源>
電圧源20は、スピン軌道トルク配線2に接続され、スピン軌道トルク配線2のx方向に電圧を印加する。電圧源20は、スピン軌道トルク配線2のx方向に電圧を印加できれば、スピン軌道トルク配線2と直接接続されてもよいし、間接的に接続されていてもよい。
【0052】
電圧源20は、スピン軌道トルク配線2のx方向に、環境温度における臨界書き込み電圧以上所定値倍以下の電圧をデータ書き込み時に印加する。ここで環境温度とは、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子10の温度であり、より具体的にはスピン軌道トルク配線2の温度である。
【0053】
臨界書き込み電圧V
0は、以下の関係式により求められる。
【0055】
スピントルク軌道配線2に臨界書き込み電圧V
0を印加した際に、機能部1に生じる書き込みエラーレート(機能部1の第1強磁性層1Aの磁化M1Aを反転させる際に、所望の方向に磁化M1Aが配向せず書き込みエラーが生じる確率)は10
−3から10
−4の範囲内となる。本明細書では、臨界書き込み電圧を印加した際の書き込みエラーレートは10
−3とする。第1強磁性層1Aの磁気異方性は温度によって異なり、またスピン軌道トルク配線2の抵抗値も温度によって異なるため、臨界書き込み電圧は環境温度によって異なる。
【0056】
電圧源20が印加できる下限値である環境温度における臨界書き込み電圧は各温度で実測してもよいが、−40℃、20℃及び100℃における臨界書き込み電圧から他の温度領域における臨界書き込み電圧の概略値を算出してもよい。
【0057】
まず−40℃、20℃及び100℃における臨界書き込み電圧を求める。そして、それぞれの臨界書き込み電圧を横軸が温度、縦軸が電圧のグラフ上にプロットする。プロットされた−40℃における臨界書き込む電圧値と、20℃における臨界書き込む電圧値とを直線で結ぶ。同様に、プロットされた20℃における臨界書き込む電圧値と、100℃における臨界書き込む電圧値とを直線で結ぶ。これらの直線上に位置する電圧を各温度における概算された臨界書き込み電圧として用いることができる。すなわち、概算された臨界書き込み電圧は、−40℃より高く20℃より低い温度領域においては、−40℃における臨界書き込み電圧と20℃における臨界書き込み電圧とを結ぶ直線上に位置する電圧であり、20℃より高く100℃より低い温度領域においては、20℃における臨界書き込み電圧と100℃における臨界書き込み電圧とを結ぶ直線上である。
【0058】
電圧源20が印加できる上限値である所定値は、以下の関係を満たす。
【0059】
環境温度が−40℃、20℃及び100℃の場合は、所定値は第1強磁性層1Aの磁化M1Aを反転させる際の書き込みエラーレートが、臨界書き込み電圧V
0をかけた際の書き込みエラーレート(10
−3)と等しくなる限界書き込み電圧である。
【0060】
環境温度が20℃未満の温度領域の場合は、所定値は−40℃における限界書き込み電圧と20℃における限界書き込み電圧とを結ぶ直線上に位置する電圧である。
【0061】
環境温度が20℃以上の温度領域の場合は、所定値は20℃における限界書き込み電圧と100℃における限界書き込み電圧とを結ぶ直線上に位置する電圧である。
【0062】
SOTを利用してデータの書き込みを行う磁気メモリ100において、スピン軌道トルク配線2のx方向に印加する電圧値に原理的には上限はない。大きな電圧を印加すれば、スピン軌道トルク配線2に大きな書き込み電流を流すことができ、原理的には磁気抵抗効果素子の書き込みエラーレートをより小さくすることができる。
【0063】
しかしながら、実際にスピン軌道トルク配線2のx方向に印加する電圧値を変動させると、所定の電圧値以上の電圧を印加すると、データを安定的に記録できなくなった。すなわち印加可能な電圧の上限値(限界書き込み電圧)があることが分かった。
【0064】
図2は、スピン軌道トルク配線2のx方向に印加する書き込み電圧値を変更した際における機能部(磁気抵抗効果素子)1のMR比の変化を示した図である。ここで示すMR比は、(R−Rp)/Rpであり、Rは測定された抵抗値であり、Rpは第1強磁性層1Aの磁化M1Aと第2強磁性層1Bの磁化M1Bとが完全平衡状態とした場合の理論抵抗値である。
【0065】
図2に示すように、スピン軌道トルク配線2のx方向に印加する電圧値を0.05V近傍まで上昇させると、MR比が急激に大きくなる。この変化は、第1強磁性層1Aの磁化M1Aと第2強磁性層1Bの磁化M1Bとが平衡状態から反平衡状態に移行したことを意味する。すなわち、所定値以上の電圧を印加することで、データが書き込まれたことを意味する。
【0066】
これに対し、スピン軌道トルク配線2のx方向に印加する電圧値を0.08V近傍まで上昇させると、MR比が高い状態と低い状態との間で振動し始める。第1強磁性層1Aの磁化M1Aと第2強磁性層1Bの磁化M1Bとが反平衡状態となるように、書き込み電圧を印加しているにもかかわらず、平衡状態と反平衡状態との間で状態が安定化しなくなっている。つまり、所定値以上の電圧を印加するとデータを安定的に記録できなくなる。
【0067】
言い換えると
図2に示すように、所定値以下の電圧をスピン軌道トルク配線2のx方向に印加すると、磁気メモリ100に安定的にデータを書き込むことができる。
【0068】
電圧源20が印加できる上限値である所定値は、環境温度が20℃以上の場合は、環境温度における臨界書き込み電圧以上20℃における臨界書き込み電圧の1.65倍以下の電圧であることが好ましく、環境温度が20℃未満の場合は、環境温度における臨界書き込み電圧以上20℃における臨界書き込み電圧の1.54倍以下の電圧であることが好ましい。
【0069】
またスピン軌道トルク配線2がタングステンの場合は、所定値Vは、環境温度が20℃未満の温度領域においては、V=(2.0×10
−3×t+1.62)×Voを満たし、環境温度が20℃以上の温度領域においては、V=(1.3×10
−3×t+1.635)×Voを満たすことが好ましい。
【0070】
またスピン軌道トルク配線2がタンタルの場合は、所定値Vは、環境温度が20℃未満の温度領域においては、V=(0.8×10
−3×t+1.63)×Voを満たし、環境温度が20℃以上の温度領域においては、V=1.65×Voを満たすことが好ましい。
【0071】
またスピン軌道トルク配線2がイリジウムの場合は、所定値Vは、環境温度が20℃未満の温度領域においては、V=(0.2×10
−3×t+1.7167)×Voを満たし、環境温度が20℃以上の温度領域においては、V=(1.9×10
−3×t+1.6825)×Voを満たすことが好ましい。
【0072】
またスピン軌道トルク配線2がプラチナの場合は、所定値Vは、環境温度が20℃未満の温度領域においては、V=(0.8×10
−3×t+1.6333)×Voを満たし、環境温度が20℃以上の温度領域においては、V=(0.3×10
−3×t+1.645)×Voを満たすことが好ましい。
【0073】
なお、上記関係式においてV
0は20℃における臨界書き込み電圧であり、tは環境温度(℃)である。
【0074】
また20℃以上の温度領域においてデータを書き込む際には、スピン軌道トルク配線2のx方向に、臨界書き込み電圧の1.01倍以上の電圧を印加することが好ましく、臨界書き込み電圧の1.08倍以上の電圧を印加することがより好ましく、臨界書き込み電圧の1.15倍以上の電圧を印加することがさらに好ましい。20℃未満の温度領域においてデータを書き込む際に、スピン軌道トルク配線2のx方向に、臨界書き込み電圧の1.05倍以上の電圧を印加することが好ましい。また電圧源20はこれらの電圧を印加できることが好ましい。
【0075】
臨界書き込み電圧を超える電圧をスピン軌道トルク配線2のx方向に印加できれば、第1強磁性層1Aの磁化反転は生じるが、書き込みエラーレートは十分小さいとは言えない。各温度域において上記の値以上の電圧を印加すると、第1強磁性層1Aの磁化をより安定的に反転させることができる。すなわち、より安定的なデータの書き込みを実現できる。上記の値以上の電圧を印加すれば、磁気メモリ100の書き込みエラーレートを10−7以下に抑えることができる。
【0076】
またスピン軌道トルク配線2がタングステンの場合は、以下の下限電圧Vmin以上の電圧を印加することが好ましい。下限電圧Vminは、環境温度が20℃未満の温度領域においては、V
min=(1.2×10
−3×t+0.9967)×Voを満たし、環境温度が20℃以上の温度領域においては、V
min=(9.3×10
−3×t+0.835)×Voを満たすことが好ましい。
【0077】
またスピン軌道トルク配線2がタンタルの場合は、以下の下限電圧Vmin以上の電圧を印加することが好ましい。下限電圧Vminは、環境温度が20℃未満の温度領域においては、V
min=(0.5×10
−3×t+1.01)×Voを満たし、環境温度が20℃以上の温度領域においては、V
min=(0.8×10
−3×t+1.005)×Voを満たすことが好ましい。
【0078】
またスピン軌道トルク配線2がイリジウムの場合は、以下の下限電圧Vmin以上の電圧を印加することが好ましい。下限電圧Vminは、環境温度が20℃未満の温度領域においては、V
min=(0.2×10
−3×t+1.0567)×Voを満たし、環境温度が20℃以上の温度領域においては、V
min=(1.1×10
−3×t+1.0375)×Voを満たすことが好ましい。
【0079】
またスピン軌道トルク配線2がプラチナの場合は、以下の下限電圧Vmin以上の電圧を印加することが好ましい。下限電圧Vminは、環境温度が20℃未満の温度領域においては、V
min=(0.3×10
−3×t+1.0033)×Voを満たし、環境温度が20℃以上の温度領域においては、V
min=(0.2×10
−3×t+1.005)×Voを満たすことが好ましい。
【0080】
なお、上記関係式においてV
0は20℃における臨界書き込み電圧であり、tは環境温度(℃)である。
【0081】
またスピン軌道トルク配線2のx方向に印加する電圧は、臨界書き込み電圧の1.2倍以上1.54倍以下であることが好ましい。磁気メモリ100が曝される環境温度は、ユーザーの使用状態によって変わる。そのため、−40℃以上100℃以下という広い温度域でのデータの保証が求められる場合がある。スピン軌道トルク配線2のx方向に臨界書き込み電圧の1.2倍以上1.54倍以下の電圧を印加すれば、−40℃以上100℃以下の広い温度域でデータを安定的に書き込むことができる。
【0082】
<温度計>
図3は、本実施形態にかかる磁気メモリの別の例の断面模式図である。
図3に示すように、磁気メモリ101は温度計30を備えてもよい。温度計30は、スピン軌道トルク配線2の抵抗値からスピン軌道トルク配線2の温度を換算する。換算された温度は、電圧制御部40に送られる。電圧制御部40は、温度をもとに電圧源20がスピン軌道トルク配線2に印加する電圧を決定する。
【0083】
温度計30により使用時の温度を測定すれば、磁気メモリが使用される環境温度域全体に渡って制御可能な範囲まで書き込み電圧の範囲を限定する必要がなくなる。実際に使用される環境温度に合わせて、書き込み電圧を決定することができ、より最適なデータ書き込みを行うことができる。
【0084】
温度計30は、一つに限られず複数あってもよい。例えば、スピン軌道トルク配線2をz方向から見た際の4つの角となる位置にそれぞれ温度計30を設置してもよい。
【0085】
図1及び
図3では、機能部1とスピン軌道トルク配線2とからなるスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子10が磁気メモリ100、101中に一つの場合を例示したが、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子10は複数あってもよい。磁気メモリ100、101の集積性を高めるためには、隣接するスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子10間の距離は極力近づけることが好ましい。そのため、隣接するスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子10の発熱等が書き込み電圧値に影響を及ぼす場合がある。この場合、複数の温度計30で各スピン軌道トルク配線2の温度を精密に測定することで、より最適なデータ書き込みを行うことができる。
【0086】
上述のように、本実施形態にかかる磁気メモリによれば、データを安定的に書き込むことができる。
【0087】
(データの書き込み方法)
本実施形態にかかるデータの書き込み方法は、上述のスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子10のスピン軌道トルク配線2のx方向に印加する書き込み電圧を制御する。
【0088】
書き込み電圧は、環境温度における臨界書き込み電圧以上所定値以下とする。所定値は、上記と同様にして求められる。
【0089】
書き込み電圧は、環境温度が20℃以上の温度領域の場合は、環境温度における臨界書き込み電圧以上20℃における臨界書き込み電圧の1.65倍以下であることが好ましく、環境温度が20℃未満の温度領域の場合は、環境温度における臨界書き込み電圧以上20℃における臨界書き込み電圧の1.54倍以下であることが好ましい。
【0090】
また書き込み電圧は、20℃以上の温度領域において臨界書き込み電圧の1.01倍以上であること好ましく、臨界書き込み電圧の1.08倍以上であることより好ましく、臨界書き込み電圧の1.15倍以上であることがさらに好ましい。20℃未満の温度領域においては、書き込み電圧は臨界書き込み電圧の1.05倍以上であることが好ましい。さらに、書き込み電圧は−40℃以上100℃以下の温度領域において、臨界書き込み電圧の1.2倍以上1.54倍以下であることがより好ましい。
【0091】
またスピン軌道トルク配線2の材料が特定されている場合は、上記の関係式に基づいて、データ書き込み時に印加する上限値及び下限値を決定することが好ましい。
【0092】
環境温度における臨界書き込み電圧は各温度で実測してもよいし、−40℃、20℃及び100℃における臨界書き込み電圧から他の温度領域における臨界書き込み電圧の概略値を算出してもよい。
【0093】
上述のように、本実施形態にかかるデータ書き込み方法によれば、磁気メモリにデータを安定的に書き込むことができる。
【0094】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0095】
(実施例1)
図1に示すスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子10を作製した。熱酸化Si基板上にタングステン(W)を3nm積層した。そしてこのタングステンからなる層を幅50nm、長さ300nmに加工し、スピン軌道トルク配線2とした。そしてその周囲を、酸化シリコンからなる絶縁膜で被覆した。
【0096】
次いで、スピン軌道トルク配線2及び絶縁膜上に、CoFeB(厚み1nm)、MgAl
2O
4(厚み3nm)、CoFeB(厚み1nm)、Ta(厚み0.4nm)、[Co(厚み0.4nm)/Pt(厚み0.8nm)]
4、Co(厚み0.4nm)、Ru(厚み0.4nm)、[Co(厚み0.4nm)/Pt(厚み0.8nm)]
5、Co(厚み0.4nm)、Pt(厚み10nm)の順で層を形成した。そして、作製した層を350℃でアニールしたのち、50nm×50nmの角形に加工し、機能部1を作製した。最初に積層したCoFeBが第1強磁性層1Aに対応し、MgAl
2O
4が非磁性層1Cに対応し、SAF(synthetic antiferromagnetic)構造が第2強磁性層1Bに対応する。第1強磁性層1Aは垂直磁化膜である。
【0097】
スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子10を10×10でアレイ配置し、それぞれのスピン軌道トルク配線2を電圧源20と接続し、磁気メモリを完成させた。そしてスピン軌道トルク配線2に書き込みパルスを印加し、書き込みエラーレートの変化を評価した。書き込み時にはx方向に100Oeの磁場を印加した。書き込みパルスは、パルス幅を10nsecとした。書き込み10nsec、待機10nsec、読み出し20nsec、待機10nsecの60nsecを一つのサイクルタイムとした。書き込みエラーレートは、各素子の低抵抗状態と高抵抗状態の抵抗値を測定し、それぞれの平均抵抗を「0」、「1」のデータ書き込みの基準とし、目的の書き込み状態を実現できないものをエラーしてカウントした。データの読み出し時には、機能部1の積層方向に1mVの電圧を印加した。
【0098】
図4Aは、書き込みパルスの印加電圧値を変えた際における実施例1の磁気メモリの書き込みエラーレートの変化を示す。印加電圧が小さい状態では、書き込みが始まっていないので、目的の書き込み状態が実現されておらず、エラーとして出力されている。一方で、印加電圧値を大きくしていくと書き込みが始まり、書き込みエラーレートが小さくなっている。臨界書き込み電圧V
0は0.04842Vであり、0.04890Vを印加した時点で書き込みエラーレートは10
−7となった。書き込みエラーレートは10
−7以下となった電圧を下限電圧V
1とする。下限電圧V
1は、臨界書き込み電圧V
0の1.01倍であった。
【0099】
図4Bは、書き込みパルスの印加電圧値を変えた際における実施例1の磁気メモリの書き込みエラーレートの変化を示す。印加電圧が所定値を超えると、書き込みエラーレートが増加している。書き込みエラーレートは10
−7以上となった電圧を上限電圧V
2とすると、上限電圧V
2は、0.08038Vであった。この上限電圧V
2は、臨界書き込み電圧V
0の1.66倍であった。
【0100】
図4Aに示すグラフは、以下の関係式(1)でフィッティングできる。以下の関係式において、P
1は反平衡状態(データとして「1」)から平衡状態(データとして「0」)または平衡状態(データとして「0」)から反平衡状態(データとして「1」)に移行する確率であり、t
pは印加パルス時間であり、t
0は理論的に磁化反転に必要な時間であり、Δ
P(AP)は熱安定性を示す値であり、V
0は臨界書き込み電圧である。なお、Δ
P(AP)はKV/kBT(Kは一軸磁気異方性、Vは体積、kBはボルツマン定数、Tは絶対温度)で求められる。
【0101】
【数2】
【0102】
また
図4Bに示すグラフは、以下の関係式(2)でフィッティングできる。以下の関係式において、P2は反平衡状態(データとして「1」)または平衡状態(データとして「0」)から平衡状態と反平衡状態のいずれになるか不安定な状態(データとして「0.5」)に移行する確率であり、t
pは印加パルス時間であり、t
0は理論的に磁化反転に必要な時間であり、一般的に1nsecである。Δ
P(AP)は熱安定性を示す値であり、V
0’は限界書き込み電圧である。なお、Δ
P(AP)はKV/k
BT(Kは一軸磁気異方性、Vは体積、k
Bはボルツマン定数、Tは絶対温度)で求められる。限界書き込み電圧V
0’は、安定的にデータを書き込めていた状態から書き込みエラーレートが10
−3に至った際の電圧である。
【0103】
【数3】
【0104】
(実施例2)
実施例2では、磁気メモリが曝される環境温度を−40℃にした点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様とした。スピン軌道トルク配線2の抵抗率は、20℃で53.8μΩcmであったものが、40μΩcmとなった。
【0105】
実施例2における磁気メモリの−40℃における臨界書き込み電圧V
0は0.04554Vであり、下限電圧V
1は0.04600Vであり、上限電圧V
2は0.07457Vであった。すなわち、下限電圧V
1は20℃における臨界書き込み電圧V
0の0.95倍であり、上限電圧V
2は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.54倍であった。
【0106】
(実施例3)
実施例3では、磁気メモリが曝される環境温度を100℃にした点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様とした。スピン軌道トルク配線2の抵抗率は、20℃で53.8μΩcmであったものが、73μΩcmとなった。
【0107】
実施例3における磁気メモリの100℃における臨界書き込み電圧V
0は0.05178Vであり、下限電圧V
1は0.05229Vであり、上限電圧V
2は0.08522Vであった。すなわち、下限電圧V
1は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.08倍であり、上限電圧V
2は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.76倍であった。
【0108】
(実施例4)
実施例4では、磁気メモリが曝される環境温度を0℃にした点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様とした。0℃における臨界書き込み電圧V
0は、−40℃の結果と20℃の結果から概算し、0.04746Vであった。
【0109】
実施例4における磁気メモリの下限電圧V
1は0.04794Vであり、上限電圧V
2は0.07844Vであった。すなわち、下限電圧V
1は20℃における臨界書き込み電圧V
0の0.99倍であり、上限電圧V
2は20℃における臨界書き込み電圧V0の1.62倍であった。この値は、スピン軌道トルク配線2がタングステンの場合の関係式を満たす。また概算された臨界書き込み電圧でも、上限電圧V
2が所定の範囲内に存在することで、データを安定的に書き込むことができることを確認した。
【0110】
(実施例5)
実施例5では、磁気メモリが曝される環境温度を50℃にした点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様とした。50℃における臨界書き込み電圧V
0は、20℃の結果と100℃の結果から概算し、0.04968Vであった。
【0111】
実施例5における磁気メモリの下限電圧V
1は0.05018Vであり、上限電圧V
2は0.08219Vであった。すなわち、下限電圧V1は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.04倍であり、上限電圧V
2は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.70倍であった。この値は、スピン軌道トルク配線2がタングステンの場合の関係式を満たす。また概算された臨界書き込み電圧でも、上限電圧V
2が所定の範囲内に存在することで、データを安定的に書き込むことができることを確認した。
【0112】
(実施例6)
実施例6は、スピン軌道トルク配線2を構成する材料をタングステン(W)からタンタル(Ta)に変えた点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0113】
図5A及び
図5Bは、書き込みパルスの印加電圧値を変えた際における実施例6の磁気メモリの書き込みエラーレートの変化を示す。
図5Aに示すグラフは、上記の関係式(1)でフィッティングすることができ、
図5Bに示すグラフは、上記の関係式(2)でフィッティングすることができた。臨界書き込み電圧V
0は0.1423Vであり、下限電圧V
1は0.1438Vであった。下限電圧V
1は、臨界書き込み電圧V
0の1.01倍であった。上限電圧V
2は、0.2349Vであった。上限電圧V
2は、臨界書き込み電圧V
0の1.65倍であった。
【0114】
(実施例7)
実施例7では、磁気メモリが曝される環境温度を−40℃にした点が実施例6と異なる。その他の条件は、実施例6と同様とした。スピン軌道トルク配線2の抵抗率は、20℃で131.8μΩcmであったものが、102μΩcmとなった。
【0115】
実施例7における磁気メモリの−40℃における臨界書き込み電圧V
0は0.1395Vであり、下限電圧V
1は0.1409Vであり、上限電圧V
2は0.2278Vであった。すなわち、下限電圧V
1は20℃における臨界書き込み電圧V0の0.99倍であり、上限電圧V
2は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.60倍であった。
【0116】
(実施例8)
実施例8では、磁気メモリが曝される環境温度を100℃にした点が実施例6と異なる。その他の条件は、実施例6と同様とした。スピン軌道トルク配線2の抵抗率は、20℃で131.8μΩcmであったものが、167μΩcmとなった。
【0117】
実施例8における磁気メモリの100℃における臨界書き込み電圧V
0は0.1423Vであり、下限電圧V
1は0.1438Vであり、上限電圧V
2は0.2349Vであった。すなわち、下限電圧V
1は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.01倍であり、上限電圧V
2は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.65倍であった。
【0118】
(実施例9)
実施例9は、スピン軌道トルク配線2を構成する材料をタングステン(W)からイリジウム(Ir)に変えた点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0119】
図6A及び
図6Bは、書き込みパルスの印加電圧値を変えた際における実施例9の磁気メモリの書き込みエラーレートの変化を示す。
図6Aに示すグラフは、上記の関係式(1)でフィッティングすることができ、
図6Bに示すグラフは、上記の関係式(2)でフィッティングすることができた。臨界書き込み電圧V
0は0.04036Vであり、下限電圧V
1は0.04076Vであった。下限電圧V
1は、臨界書き込み電圧V
0の1.06倍であった。上限電圧V
2は、0.06982Vであった。上限電圧V
2は、臨界書き込み電圧V
0の1.72倍であった。
【0120】
(実施例10)
実施例10では、磁気メモリが曝される環境温度を−40℃にした点が実施例9と異なる。その他の条件は、実施例9と同様とした。スピン軌道トルク配線2の抵抗率は、20℃で47.2μΩcmであったものが、39μΩcmとなった。
【0121】
実施例10における磁気メモリの−40℃における臨界書き込み電圧V
0は0.04036Vであり、下限電圧V
1は0.04237Vであり、上限電圧V
2は0.06901Vであった。すなわち、下限電圧V
1は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.05倍であり、上限電圧V
2は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.71倍であった。
【0122】
(実施例11)
実施例11では、磁気メモリが曝される環境温度を100℃にした点が実施例9と異なる。その他の条件は、実施例9と同様とした。スピン軌道トルク配線2の抵抗率は、20℃で47.2μΩcmであったものが、68μΩcmとなった。
【0123】
実施例11における磁気メモリの100℃における臨界書き込み電圧V
0は0.04595Vであり、下限電圧V
1は0.04641Vであり、上限電圧V
2は0.07547Vであった。すなわち、下限電圧V
1は20℃における臨界書き込み電圧V0の1.15倍であり、上限電圧V
2は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.87倍であった。
【0124】
(実施例12)
実施例12は、スピン軌道トルク配線2を構成する材料をタングステン(W)からプラチナ(Pt)に変えた点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0125】
図7A及び
図7Bは、書き込みパルスの印加電圧値を変えた際における実施例12の磁気メモリの書き込みエラーレートの変化を示す。
図7Aに示すグラフは、上記の関係式(1)でフィッティングすることができ、
図7Bに示すグラフは、上記の関係式(2)でフィッティングすることができた。臨界書き込み電圧V
0は0.1046Vであり、下限電圧V
1は0.1057Vであった。下限電圧V
1は、臨界書き込み電圧V
0の1.01倍であった。上限電圧V
2は、0.1726Vであった。上限電圧V
2は、臨界書き込み電圧V0の1.65倍であった。
【0126】
(実施例13)
実施例13では、磁気メモリが曝される環境温度を−40℃にした点が実施例12と異なる。その他の条件は、実施例13と同様とした。スピン軌道トルク配線2の抵抗率は、20℃で105.7μΩcmであったものが、82μΩcmとなった。
【0127】
実施例13における磁気メモリの−40℃における臨界書き込み電圧V
0は0.1025Vであり、下限電圧V
1は0.1036Vであり、上限電圧V
2は0.1674Vであった。すなわち、下限電圧V
1は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.0倍であり、上限電圧V
2は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.60倍であった。
【0128】
(実施例14)
実施例14では、磁気メモリが曝される環境温度を100℃にした点が実施例12と異なる。その他の条件は、実施例12と同様とした。スピン軌道トルク配線2の抵抗率は、20℃で105.7μΩcmであったものが、136.0μΩcmとなった。
【0129】
実施例14における磁気メモリの100℃における臨界書き込み電圧V0は0.1067Vであり、下限電圧V
1は0.1078Vであり、上限電圧V
2は0.1747Vであった。すなわち、下限電圧V
1は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.03倍であり、上限電圧V
2は20℃における臨界書き込み電圧V
0の1.67倍であった。
【0130】
なお、各材料において温度変化させた結果においても、それぞれ関係式(1)及び関係式(2)を用いてフィッティングすることができた。
【解決手段】本発明のデータの書き込み方法は、第1の方向に延在するスピン軌道トルク配線と、前記スピン軌道トルク配線の一面に積層され、前記スピン軌道トルク配線側から第1強磁性層と非磁性層と第2強磁性層とを備える機能部と、を備えるスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子において、前記スピン軌道トルク配線の前記第1の方向に印加する電圧を、環境温度における臨界書き込み電圧以上所定値以下とし、前記所定値は、環境温度が−40℃、20℃及び100℃においては、前記第1強磁性層の磁化を反転させる際の書き込みエラーレートが、前記臨界書き込み電圧をかけた際の書き込みエラーレートと等しくなる限界書き込み電圧である。