(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1凹部は、前記両端部から、前記摺動面における前記往復摺動する方向の長さ寸法の0.4倍以下の領域で、前記往復摺動する方向に広がるように形成されている請求項4に記載のスクロール圧縮機。
前記第1凹部は、前記キーが前記溝部内で、前記往復摺動する方向の最も端部側に移動した状態で、前記溝部の内面に、少なくとも一部で対向する領域に形成されている請求項4に記載のスクロール圧縮機。
前記第2凹部が形成された領域は、前記溝部の内面に、前記往復摺動する方向の中央部の領域であって、かつ、前記第1凹部が形成された領域の少なくとも一部と常に対向する領域に形成されている請求項1から6のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スクロール圧縮機ではさらなる効率向上の要求がある。このため、オルダムリングの摺動抵抗低減や、摺動時の摩耗抑制といった摺動性能の向上を図る必要があるが、特許文献1に開示された油保持部のみでは、依然として十分に摺動性能の向上を図ることは難しい。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、摺動性能を向上が可能なオルダムリング、及び、これを備えるスクロール圧縮機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明の第一の態様に係る
スクロール圧縮機は、
軸線を中心として回転する主軸と、前記主軸を相対回転可能に支持するハウジングと、前記主軸に設けられた旋回スクロールと、前記旋回スクロールに対向して該旋回スクロールとの間で冷媒を圧縮する圧縮室を形成する固定スクロールと、前記旋回スクロールを自転することなく前記主軸の軸線に対して公転するように支持するオルダムリングと、を備え、前記オルダムリングは、前記軸線を囲むように配される環状をなす本体部と、前記本体部の表面及び裏面から突出して、前記旋回スクロールと前記ハウジングとに形成された溝部にそれぞれ挿入され、該溝部の内面に対して直線的に往復摺動するとともに表面から凹む複数の第1凹部が形成された摺動面を有する複数のキーと、を備え
、前記溝部における前記摺動面が摺動する内面には、該内面から凹む複数の第2凹部が形成されており、前記第2凹部の各々は、前記キーが、前記溝部内で、前記往復摺動する方向の最も端部側に移動した状態で、前記第1凹部の各々と少なくとも一部で、一対一で対向して重なり合う位置に形成されている。
【0009】
このような
スクロール圧縮機では、
オルダムリングにおけるキーの摺動面に第1凹部が形成されている。このため、摺動面に油を保持し易くなり、溝部における内面との間に油膜が形成され易くなり、摩耗の抑制効果が得られる。さらに摺動による摩耗で粉状となったキー、旋回スクロール、ハウジングの材料を第1凹部内に閉じ込めることができるので、摺動抵抗を低減できることや、摺動面、及び溝部の内面の傷つきを抑制することができる。
また、このようなスクロール圧縮機によれば、キーの摺動面に第1凹部が形成されているため、摺動面に油を保持し易くなり、溝部の内面との間に油膜が形成され易くなり、摩耗の抑制効果が得られる。さらに摺動による摩耗で粉状となったキー、旋回スクロール、ハウジングの材料を第1凹部内に閉じ込めることができるので、摺動抵抗を低減できることや、摺動面及び溝部の内面の傷つきを抑制することができる。
また、このように第1凹部に加えて第2凹部が形成されていることで、これらの相乗効果によって、摩耗の抑制効果や、摺動抵抗の低減効果や、摺動面及び溝部の内面の傷つきを抑制する効果を得ることができる。
また、往復摺動する方向の最も端部側にキーが移動した際、即ち、往復摺動する速度が0になる位置へ移動した際に、各々の第1凹部と第2凹部とが対向して重なり合うことで、対向して重なり合う第1凹部と第2凹部との間に、大きな油だまりを形成することができる。従って、油膜の形成をさらに促進でき、摩耗の抑制効果や摺動抵抗の低減効果が得られる。
さらに、本発明の第二の態様に係るスクロール圧縮機は、軸線を中心として回転する主軸と、前記主軸を相対回転可能に支持するハウジングと、前記主軸に設けられた旋回スクロールと、前記旋回スクロールに対向して該旋回スクロールとの間で冷媒を圧縮する圧縮室を形成する固定スクロールと、前記旋回スクロールを自転することなく前記主軸の軸線に対して公転するように支持するオルダムリングと、を備え、前記オルダムリングは、前記軸線を囲むように配される環状をなす本体部と、前記本体部の表面及び裏面から突出して、前記旋回スクロールと前記ハウジングとに形成された溝部にそれぞれ挿入され、該溝部の内面に対して直線的に往復摺動するとともに表面から凹む複数の第1凹部が形成された摺動面を有する複数のキーと、を備え、前記溝部における前記摺動面が摺動する内面には、該内面から凹む複数の第2凹部が形成されており、前記第2凹部の各々は、前記キーが、前記溝部内で、前記往復摺動する方向の最も端部側に移動した状態で、前記第1凹部の各々と一対一で対向せず、重なり合わない位置に形成されている。
このように往復摺動する方向の最も端部側にキーが移動した際、即ち、往復摺動する速度が0になる位置へ移動した際に、第1凹部と第2凹部とが対向せず、重なり合わないことで、溝部の内面と摺動面との間の隙間を小さくできる。よって、油膜圧力の増大効果を得ることができ、摩耗の抑制効果や摺動抵抗の低減効果が得られる。
さらに、本発明の第三の態様に係るスクロール圧縮機は、軸線を中心として回転する主軸と、前記主軸を相対回転可能に支持するハウジングと、前記主軸に設けられた旋回スクロールと、前記旋回スクロールに対向して該旋回スクロールとの間で冷媒を圧縮する圧縮室を形成する固定スクロールと、前記旋回スクロールを自転することなく前記主軸の軸線に対して公転するように支持するオルダムリングと、を備え、前記オルダムリングは、前記軸線を囲むように配される環状をなす本体部と、前記本体部の表面及び裏面から突出して、前記旋回スクロールと前記ハウジングとに形成された溝部にそれぞれ挿入され、該溝部の内面に対して直線的に往復摺動するとともに表面から凹む複数の第1凹部が形成された摺動面を有する複数のキーと、を備え、前記溝部における前記摺動面が摺動する内面には、該内面から凹む複数の第2凹部が形成されており、前記第2凹部の各々は、前記溝部の内面に沿う方向であって、前記往復摺動する方向に交差する方向に、前記第1凹部の各々に対してずれた位置に形成されている。
このような位置に各々の第2凹部が形成されていることで、キーが往復摺動する際には、第2凹部の各々は第1凹部の各々と常に対向せず、重なり合わないことになる。従って、溝部の内面と摺動面との間の隙間を常に小さく保つことができ、大きな油膜圧力の増大効果を得ることができる。従って、摩耗の抑制効果や摺動抵抗の低減効果が得られる。
【0010】
また、本発明の第
四の態様に係る
スクロール圧縮機では、上記第一
から第三の態様における前記第1凹部は、前記摺動面における前記往復摺動する方向の両端部の領域のみに形成されていてもよい。
【0011】
キーの摺動面が往復摺動すると、摺動方向の両端部の領域で摩耗が特に進行し、この両端部の領域でキーの肉厚寸法が減少することで、両端部側に向かうに従って溝部の内面から離間するように傾斜する傾斜面が形成されることがある。この場合、摺動方向の両端部の領域に第1凹部を形成することで、摩耗が進行し易い両端部の領域で摩耗の抑制効果や摺動抵抗の低減効果を得ることができる。
さらに、第1凹部が形成された摺動方向の両端部の領域では、摺動面の平均深さが大きくなり、摺動面における第1凹部が形成されていない中央部の領域では、摺動面の平均深さが小さくなる。従って、この中央部の領域に向かって、両端部の領域の第1凹部に保持された油が流入しようとすることで動圧が発生し、くさび効果を得ることができる。よって、摺動面の中央部の領域においても油膜を容易に形成でき、摩耗抑制効果や摺動抵抗の低減効果を得ることが可能となる。
【0012】
また、本発明の第
五の態様に係る
スクロール圧縮機では、上記第
四の態様における前記第1凹部は、前記両端部から、前記摺動面における前記往復摺動する方向の長さ寸法の0.4倍以下の領域で、前記往復摺動する方向に広がるように形成されていてもよい。
【0013】
このような第1摺動面、第2摺動面が往復摺動する方向の長さ寸法の0.4倍以下の範囲に第1凹部が形成されていることで、摩耗が進行し易い両端部の領域での摩耗抑制効果を得ることができ、くさび効果によって摺動面の中央部の領域においても摩耗抑制効果及び摺動抵抗の低減効果を得ることが可能となる。
【0014】
また、本発明の第
六の態様に係る
スクロール圧縮機では、上記第
四の態様における前記第1凹部は、前記キーが前記溝部内で、前記往復摺動する方向の最も端部側に移動した状態で、前記溝部の内面に、少なくとも一部で対向する領域に形成されていてもよい。
【0015】
このような領域に第1凹部が形成されていることで、往復摺動する方向の最も端部側にキーが移動した際、即ち、往復摺動する速度が0になる位置へ移動した際にも、第1凹部が溝部に対向するため、摩耗抑制効果及び摺動抵抗の低減効果を得ることが可能となる。
【0020】
また、本発明の第七の態様に係るスクロール圧縮機では、上記
第一から第六の態様における前記第2凹部が形成された領域は、前記溝部の内面に、前記往復摺動する方向の中央部の領域であって、かつ、前記第1凹部が形成された領域の少なくとも一部と常に対向する領域に形成されていてもよい。
【0021】
このように溝部の内面に対して摺動面が摺動している間、常に第1凹部が形成された領域と第2凹部が形成された領域とが対向していることで、油膜の形成をさらに促進でき、摩耗の抑制効果を得られることや、摺動抵抗の低減効果を得ることができる。
【0028】
また、本発明の第
八の態様に係るスクロール圧縮機は、軸線を中心として回転する主軸と、前記主軸を相対回転可能に支持するハウジングと、前記主軸に設けられた旋回スクロールと、前記旋回スクロールに対向して該旋回スクロールとの間で冷媒を圧縮する圧縮室を形成する固定スクロールと、前記旋回スクロールを自転することなく前記主軸の軸線に対して公転するように該旋回スクロールを支持するオルダムリングと、を備え、前記オルダムリングは、前記軸線を囲むように配される環状をなす本体部と、前記本体部の表面及び裏面から突出して、前記旋回スクロールと前記ハウジングとに形成された溝部にそれぞれ挿入され、該溝部の内面に対して直線的に往復摺動する摺動面を有する複数のキーと、を備え、前記溝部における前記摺動面が摺動する内面には、前記往復摺動する方向の中央部の領域
のみに、該内面から凹む複数の第2凹部が形成されている。
【0029】
このように、第2凹部を溝部の内面に形成することで、溝部の内面に油を保持し易くなり、キーの摺動面との間に油膜が形成され易くなり、摩耗の抑制効果が得られる。さらに摺動による摩耗で粉状となったキー、旋回スクロール、ハウジングの材料を第2凹部内に閉じ込め、摺動抵抗を低減できることや、摺動面、及び溝部の内面の傷つきを抑制することができる。
さらに、第2凹部が形成された摺動方向の中央部の領域では、溝部の内面の平均深さが大きくなり、第2凹部が形成されていない摺動方向の両端部の領域では内面の平均深さが小さくなる。従って、溝部の内面の両端部の領域に向かって中央部の領域から第2凹部に保持された油が流入しようとすることで動圧が発生し、くさび効果を得ることができる。このため、摩耗が特に進行し易いキーの摺動面における摺動方向の両端部の領域で摩耗の抑制効果や摺動抵抗の低減効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0030】
上記のオルダムリング、及びスクロール圧縮機によれば、キーの摺動面に第1凹部を形成したことで、摺動性能を向上が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
〔
参考例〕
以下、本発明の
参考例に係るスクロール圧縮機1について説明する。
図1に示すように、スクロール圧縮機1は、軸線Oを中心として回転する主軸2と、主軸2を相対回転可能に支持するハウジング3と、ハウジング3内に設けられる旋回スクロール10及び固定スクロール11と、旋回スクロール10を支持するオルダムリング12とを備えている。
【0033】
主軸2は軸線Oを中心とした柱状をなし、軸線Oを中心として回転する。また主軸2の上端部には、軸線Oと偏心した中心軸線O1を中心とした筒状をなす偏心ブッシュ14が固定されている。
【0034】
ハウジング3は、内部に空間Sを形成する筒状をなすハウジング本体16と、この空間S内でハウジング本体16の内面に固定された軸受17を有している。ハウジング3は、軸受17を介して主軸2を支持しており、主軸2は空間S内に収容されている。
【0035】
軸受17は、主軸2を径方向外側から囲んで、主軸2をハウジング3に対して相対回転可能に支持する軸受本体部18と、軸受本体部18における径方向外側の位置からハウジング本体16の内面に沿って軸線Oの方向の一方側となる上方に向かって延び、ハウジング本体16の内面に固定された環状をなす環状突出部19とを有している。この環状突出部19の内側に偏心ブッシュ14が配置されている。
【0036】
さらに、このハウジング3には、空間Sとハウジング3の外部とを連通するとともに、冷媒Rが流通可能な導入ポート4と吐出ポート5とが形成されている。
【0037】
旋回スクロール10は、偏心ブッシュ14を介して主軸2に上方から取り付けられている。そして、旋回スクロール10は偏心ブッシュ14に対して、偏心ブッシュ14の中心軸線O1を中心として相対回転可能となっている。
【0038】
また旋回スクロール10は、詳細な図示は省略するが、円板状をなす端板21と、中心軸線O1の延びる方向から見て渦巻き状をなすとともに、端板21と一体に設けられて端板21から中心軸線O1の一方側となる上方に延びるラップ壁22と、端板21から下方に延びて偏心ブッシュ14を外側から覆うように偏心ブッシュ14に中心軸線O1と同軸上に取り付けられた筒状部23とを有している。そして旋回スクロール10は、主軸2が回転することで主軸2の軸線Oを中心として公転する。
【0039】
固定スクロール11は、詳細な図示は省略するが、軸受17の環状突出部19に一体に形成されているとともに、旋回スクロール10と同様に円板状をなす端板27と、中心軸線O1の延びる方向から見て渦巻き状をなすとともに、端板27と一体に設けられて端板27から中心軸線O1の一方側となる下方に旋回スクロール10の端板21に向かって延びるラップ壁28とを有している。
【0040】
固定スクロール11の端板27と旋回スクロール10の端板21とは中心軸線O1の延びる方向の上下に離間して配置され、かつ、固定スクロール11のラップ壁28と旋回スクロール10のラップ壁22とは噛み合うようにして、互いに中心軸線O1の径方向に対向している。これらラップ壁22、28同士の間に圧縮室Cを形成している。
【0041】
この圧縮室Cにはハウジング3の導入ポート4を通じて冷媒Rが導入されるようになっている。圧縮室Cの形状は、軸線Oを中心として旋回スクロール10が公転することによって変化し、これによって導入された冷媒Rが圧縮された後に吐出ポート5からハウジング3の外部に吐出されるようになっている。
【0042】
次に、オルダムリング12について説明する。
図2に示すように、オルダムリング12は、旋回スクロール10を下方から支持するとともに、下方からは環状突出部19によって支持され、旋回スクロール10の自転を抑制している。
より詳しくは、オルダムリング12は、軸線O及び中心軸線O1を囲むように配された円環状をなす本体部31と、本体部31の表面及び裏面から突出する複数のキー32とを備えている。
ここで、本体部31の表面とは上方を向く面である上面を示し、裏面とは下方を向く面である下面を示す。
【0043】
本体部31は、旋回スクロール10の端板21と、ハウジング3の環状突出部19との間に挟まれるようにして設けられている。
【0044】
キー32としては、本体部31の表面から上方に突出する第1キー33と、裏面から下方に突出する第2キー35との2種のキー32が設けられている。
【0045】
第1キー33は、互いに本体部31の周方向に180度離間した位置に本体部31と一体に、一対が設けられている。
ここで
図3(a)に示すように、旋回スクロール10の端板21にはオルダムリング12に対向する下面に、上方に向かって凹む第1溝部38が形成されている。この第1溝部38に、各々の第1キー33が挿入されるようになっている。即ち、第1溝部38は、第1キー33が設けられた位置に対応する位置に一対が形成されている。
【0046】
そして、第1キー33は、第1溝部38に対して、一対の第1キー33同士を結ぶ線分L1(
図2参照)の延びる方向に、直線的に往復運動を行う。即ち、各々の第1キー33は、本体部31の周方向の一方側を向く面として、第1溝部38の内面38aに対して接触して直線的に往復摺動する第1摺動面33aを有している。
【0047】
図4に示すように、第1摺動面33aには、その表面から凹むようにして複数の第1凹部41が形成されている。
これら第1凹部41は、例えばディンプル加工等を施すことで形成されている。
ここで、本
参考例では第1凹部41は第1摺動面33aにおける往復摺動する方向(以下、摺動方向D1とする)の両端部の領域のみに形成されている。両端部の領域とは、摺動方向D1の両端部からそれぞれ距離aの範囲を示す。距離aと、第1摺動面33aの長さ寸法Xとの間には、X>2aの関係が成立する。
【0048】
第2キー35は、第1キー33と同様に互いに本体部31の周方向に180度離間した位置に本体部31と一体に、一対が設けられている。そして第2キー35は、第1キー33とは周方向に90度離間した位置に設けられている。
【0049】
ここで、
図3(b)に示すように、環状突出部19にはオルダムリング12に対向する上面に、下方に向かって凹む第2溝部39が形成されている。この第2溝部39に、各々の第2キー35が挿入されるようになっている。即ち、第2溝部39は、第2キー35が設けられた位置に対応する位置に一対が形成されている。
【0050】
そして、第2キー35は、第2溝部39に対して、一対の第2キー35同士を結ぶ線分L2(
図2参照)の延びる方向に、直線的に往復運動を行う。即ち、各々の第2キー35は、本体部31の周方向の一方側を向く面として、第2溝部39の内面39aに対して接触して直線的に往復摺動する第2摺動面35aを有している。ここで第2キー35の摺動方向D2は、第1キー33の摺動方向D1に直交する方向となる。
【0051】
そして、第2摺動面35aにも、第1摺動面33aと同様に、その表面から凹むようにして複数の第1凹部41が形成されており、第1凹部41は第2摺動面35aにおける摺動方向D2の両端部の領域(第1摺動面33aと同じ領域)のみに形成されている。
【0052】
このようなスクロール圧縮機1では、オルダムリング12における第1キー33の第1摺動面33a、及び、第2キー35の第2摺動面35aには第1凹部41が形成されている。このため、第1摺動面33a、及び、第2摺動面35aに油を保持し易くなり、第1溝部38及び第2溝部39における内面38a、39aとの間に油膜が形成され易くなり、摩耗の抑制効果が得られる。
【0053】
さらに摺動による摩耗で粉状となったキー32、旋回スクロール10、ハウジング3の材料を第1凹部41内に閉じ込めることができる。このため、このような粉状の材料が、第1凹部41の形成されていない領域で、第1摺動面33a及び第2摺動面35a上に留まることでこれら第1摺動面33a及び第2摺動面35aや、第1溝部38及び第2溝部39の内面38a、39aに傷をつけてしまうことを抑制できる。また、このような粉状の材料を第1凹部41内に閉じ込めることで摺動抵抗を低減できる。
【0054】
ここで、第1キー33の第1摺動面33a、及び第2キー35の第2摺動面35aが往復摺動すると、摺動方向D1、D2の両端部で摩耗が特に進行し、この両端部でキー32の肉厚寸法が減少することがある(
図4の破線参照)。この場合、両端部側に向かうに従って、第1溝部38の内面38a(及び第2溝部39の内面39a)から離間するように傾斜する傾斜面IS(
図4の破線参照)が形成されることになる。
【0055】
本
参考例では、第1凹部41は、第1摺動面33a及び第2摺動面35aにおける摺動方向D1、D2の両端部の領域のみに形成されているため、このように摩耗が進行し易い両端部で、効果的に摩耗の抑制効果や摺動抵抗の低減効果を得ることができる。
【0056】
さらに、第1凹部41が形成された摺動方向D1、D2の両端部の領域では、第1摺動面33a及び第2摺動面35aの平均深さが大きくなり、一方で第1凹部41が形成されていない領域である中央部の領域で平均深さが小さくなる。このため、第1摺動面33a及び第2摺動面35aにおける中央部の領域に向かって、両端部の領域から第1凹部41に保持された油が流入しようとすることで動圧が発生し、くさび効果を得ることができる。従って、第1摺動面33a及び第2摺動面35aの中央部においても油膜を容易に形成でき、摩耗抑制効果や摺動抵抗の低減効果を得ることが可能となる。
【0057】
本
参考例のスクロール圧縮機1によると、キー32の第1摺動面33a及び第2摺動面35aに第1凹部41を形成したことで、摺動性能を向上することが可能となる。
【0058】
ここで、本
参考例では、第1摺動面33a(及び第2摺動面35a)における摺動方向D1(D2)の長さ寸法をXとした場合、第1凹部41が形成される領域を規定する摺動方向D1(D2)の両端部からの距離aは、Xの0.4倍以下であるとよい。
【0059】
即ち、
図5に示すように、第1凹部41を形成しない場合の負荷容量係数が約0.16である一方で、第1凹部41の形成位置がa=0.4Xとなる領域を超えてくると、第1凹部41を形成しない場合よりも負荷容量係数が低くなる。ここで、負荷容量係数は、油膜の形成されやすさと相関がある数値であるため、第1凹部41の形成位置を両端部から0.4Xまでの範囲に抑えることで、摺動性能をより向上できると言える。
なお、下記の解析条件で、
図5に結果を示す解析を行った。
・第1凹部41のディンプル径/計算領域長さ=0.08
・油膜厚さ=5μm
・第1凹部41のディンプル深さ=3μm
・キー32の摺動速度=2m/s
また、上記の負荷容量係数とは、ある運転条件(油膜厚さ)における単位面積×単位長さ当りで支持できる荷重の大きさを示す。
【0060】
また、
図6に示すように、第1凹部41が形成される範囲は、キー32が第1溝部38及び第2溝部39内で、摺動方向D1、D2の最も端部側に移動した状態で、第1溝部38及び第2溝部39の内面38a、39aに、少なくとも一部で、オルダムリング12の周方向に対向する領域に形成されていてもよい。
【0061】
このような領域に第1凹部41が形成されていることで、摺動方向D1(D2)の最も端部側にキー32が移動した際、即ち、往復摺動する速度が0になる位置へ移動した際にも、第1凹部41が第1溝部38(及び第2溝部39)に対向するため、摩耗抑制効果及び摺動抵抗の低減効果を得ることが可能となる。
【0062】
また本
参考例では、オルダムリング12におけるすべてのキー32に第1凹部41を形成する例について説明したが、これに限定されることはなく、少なくとも一つのキー32に第1凹部41が形成されていればよい。
【0063】
また、スクロール圧縮機1の定常運転時には、第1キー33と第1溝部38と、及び、第2キー35と第2溝部39とは、オルダムリング12の本体部31の周方向における同じ側の面が常に摺動する。このため、この面を第1摺動面33a及び第2摺動面35aとして第1凹部41を形成すればよい。しかしながら、本体部31の周方向の両側の面を第1摺動面33a及び第2摺動面35aとして、これら両面に第1凹部41を形成してもよい。
【0064】
さらに、本
参考例では、第1凹部41は、第1摺動面33aの摺動方向D1の両端部の領域、及び、第2摺動面35aの摺動方向D2の両端部の領域のみに形成されている例を説明したが、第1摺動面33a及び第2摺動面35aの全面に第1凹部41を形成してもよい。
【0065】
〔実施形態〕
次に、
図7を参照して、本発明
の実施形態について説明する。
参考例と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
本実施形態のスクロール圧縮機1Aは、第1溝部38及び第2溝部39の内面38a、39aにも、第1凹部41同様の凹部が形成されている点で、
参考例とは異なっている。
【0066】
即ち、
図7(a)に示すように、旋回スクロール10の第1溝部38における第1摺動面33aが摺動する内面38aには、この内面38aから凹むようにして複数の第2凹部51が形成されている。これら第2凹部51は第1凹部41と同様に、例えばディンプル加工等を施すことによって形成されている。
【0067】
ここで、本実施形態では第2凹部51は、第1溝部38の内面38aにおける摺動方向D1の中央部の領域のみに形成されている。即ち、両端部の領域には形成されていない。
また、本実施形態では、第2凹部51が形成される領域は、第1キー33が第1溝部38に対して摺動方向D1の最も端部側に移動した状態で、第1摺動面33aに、少なくとも一部で対向する領域に形成されている。即ち、第2凹部51は、往復摺動中、第1凹部41が形成された領域と常に対向する領域に形成されている。
【0068】
同様に、
図7(b)に示すように、環状突出部19の第2溝部39の内面39aにも、摺動方向D2の中央部の領域のみに複数の第2凹部51が形成され、第2凹部51は、第2キー35が第2溝部39に対して摺動方向D2の最も端部側に移動した状態で、第2摺動面35aに、少なくとも一部で対向する領域に形成されている。
【0069】
本実施形態のスクロール圧縮機1Aによると、キー32の第1凹部41に加えて、第1溝部38及び第2溝部39の内面38a、39aに第2凹部51が形成されている。従って、これら第1凹部41と第2凹部51との相乗効果によって、摩耗の抑制効果や、摺動抵抗の低減効果や、第1摺動面33a、第2摺動面35a、第1溝部38及び第2溝部の内面38、39の傷つきを抑制する効果を得ることができる。
【0070】
また、第2凹部51が形成された領域が、摺動方向D1、D2の中央部の領域であり、かつ、第1溝部38及び第2溝部39の内面38a、39aに対して第1摺動面33a及び第2摺動面35aが摺動している間、常に第1凹部41が形成された領域と第2凹部51が形成された領域とが対向している。このため、油膜の形成をさらに促進でき、さらなる摩耗の抑制効果を得られることや、摺動抵抗の低減効果を得ることができる。
【0071】
ここで、本実施形態では、
図8に示すように、第2凹部51の各々は、キー32が第1溝部38(及び第2溝部39)に対して摺動方向D1(D2)の最も端部側に移動した状態、即ち、キー32が往復摺動する速度が0になる位置へ移動した際に、第1凹部41の各々と一対一で対向して重なり合う位置に形成されていてもよい。換言すると、一つ一つの第1凹部41と第2凹部51とが、第1摺動面33a(及び第2摺動面35a)に向かう方向から見て、同じ位置に形成されている。
【0072】
このように摺動方向D1、D2の最も端部側にキー32が移動した際、各々の第1凹部41と第2凹部51とが対向して重なり合うことで、対向する各々の第1凹部41と第2凹部51との間に大きな空間が形成され、第1凹部41と第2凹部51との間に大きな油だまりを形成することができる。従って、油膜の形成をさらに促進でき、摩耗の抑制効果や摺動抵抗の低減効果が得られる。
【0073】
なお、
図8に示す例では、第2凹部51の各々が、第1凹部41各々と少なくとも一部で、一対一で対向して重なり合えばよい。
【0074】
また、
図9に示すように、キー32が、第1溝部38及び第2溝部39内で、摺動方向D1、D2の最も端部側に移動した状態で、即ち、キー32が往復摺動する速度が0になる位置へ移動した際に、第2凹部51が第1凹部41の各々と一対一で対向せず、重なり合わない位置に形成されていてもよい。
【0075】
より具体的には、第2凹部51は、第1溝部38(及び第2溝部39)の内面38a(内面39a)に沿う方向であって、摺動方向D1(D2)に交差する方向(軸線Oの延びる上下方向)に所定の間隔をあけて形成されるとともに、摺動方向D1(D2)にも所定の間隔をあけて形成されている。
【0076】
同様に、第1凹部41も、第1摺動面33a(及び第2摺動面35a)で、軸線Oの延びる上下方向に第2凹部51と同じ間隔をあけて、かつ、上下方向の同じ位置に形成されるとともに、摺動方向D1(D2)にも第2凹部51と同じ間隔をあけて形成されている。そして、キー32が、第1溝部38及び第2溝部39内で摺動方向D1、D2の最も端部側に移動した状態では、第1凹部41は、摺動方向D1、D2に、第2凹部51によって挟まれる位置、即ち第2凹部51が形成されていない位置に配置される。
【0077】
このように摺動方向D1、D2の最も端部側にキー32が移動した際に、各々の第1凹部41と第2凹部51とが対向せず、重なり合わないことで、第1溝部38の内面38aと第1摺動面33aとの間、及び第2溝部39の内面39aと第2摺動面35aとの間の隙間を小さくできる。よって、油膜圧力の増大効果を得ることができ、摩耗の抑制効果や摺動抵抗の低減効果が得られる。
【0078】
また、
図10に示すように、第2凹部51の各々は、上下方向に第1凹部41の各々に対してずれた位置に形成されていてもよい。
より具体的には、第2凹部51は、第1溝部38(及び第2溝部39)の内面38a(内面39a)に、上下方向に所定の間隔をあけて形成されるとともに、摺動方向D1(D2)にも所定の間隔をあけて形成されている。第1凹部41は、第1摺動面33a(第2摺動面35a)で、軸線Oの延びる方向(上下方向)に第2凹部51と同じ間隔をあけて形成されるとともに、摺動方向D1(D2)にも第2凹部51と同じ間隔をあけて形成され、かつ、上下方向に第2凹部51によって挟まれる位置、即ち第2凹部51が形成されていない位置に配置される。
【0079】
このような位置に各々の第2凹部51が形成されていることで、キー32が往復摺動する際には、第2凹部51の各々は、第1凹部41の各々と常に対向せず、重なり合わないことになる。従って、第1溝部38の内面38aと第1摺動面33aとの間、及び第2溝部39の内面39aと第2摺動面35aとの間の隙間を小さくできる。よって、油膜圧力の増大効果を得ることができ、摩耗の抑制効果や摺動抵抗の低減効果が得られる。
【0080】
また、
図11に示すように、キー32が、第1溝部38及び第2溝部39に対して摺動方向D1、D2の最も端部側に移動した状態で、即ち、キー32が往復摺動する速度が0になる位置へ移動した際に、第2凹部51が第1凹部41の各々と一対一で対向せず、重なり合わない位置に形成されていてもよい。
【0081】
より具体的には、第2凹部51は、キー32が、第1溝部38及び第2溝部39に対して摺動方向D1、D2の最も端部側に移動した状態で、第1凹部41が形成された領域と摺動方向D1、D2にずれて重ならない領域に形成されている。即ち、キー32が、第1溝部38及び第2溝部39に対して摺動方向D1、D2の最も端部側に移動した状態で、本体部31におけるより径方向外側の位置に、第1凹部41が形成された領域が位置している。
【0082】
このように摺動方向D1、D2の最も端部側にキー32が移動した際に、第1凹部41と第2凹部51とが対向せず、重なり合わないことで、第1溝部38の内面38aと第1摺動面33aとの間、及び第2溝部39の内面39aと第2摺動面35aとの間の隙間を小さくできる。よって、油膜圧力の増大効果を得ることができ、摩耗の抑制効果や摺動抵抗の低減効果が得られる。
【0083】
特に、
図9に示す場合に比較して、各々の第1凹部41、第2凹部51の加工精度を高くしてより正確な位置に各々の第1凹部41及び各々の第2凹部51の形成する必要がなくなるため、ディンプル加工等が容易である。
【0084】
ここで、本実施形態では、キー32に第1凹部41を形成し、かつ、旋回スクロール10及びハウジング3の環状突出部19に第2凹部51を形成した例を説明したが、キー32に第1凹部41を形成せず、旋回スクロール10及び環状突出部19に第2凹部51のみを形成してもよい。
【0085】
このような場合であっても、第1摺動面33aと内面38aとの間、及び第2摺動面35aと内面39aとの間に油膜が形成され易くなり、摩耗の抑制効果が得られる。さらに摺動による摩耗で粉状となったキー、旋回スクロール、ハウジングの材料を第2凹部内51に閉じ込め、摺動抵抗を低減できることや、摺動面、及び溝部の内面の傷つきを抑制することができる。
さらに、第2凹部51が形成された摺動方向D1、D2の中央部の領域では、内面38a、39aの平均深さが大きくなり、第2凹部51が形成されていない摺動方向D1、D2の両端部の領域では内面38a、39aの平均深さが小さくなる。従って、内面38a、39aの両端部の領域に向かって中央部の領域から第2凹部51に保持された油が流入しようとすることで動圧が発生し、くさび効果を得ることができる。このため、摩耗が特に進行し易いキー32の第1摺動面33a及び第2摺動面35aにおける摺動方向D1、D2の両端部の領域で、摩耗の抑制効果や摺動抵抗の低減効果を得ることができる。
また、第2凹部51の形成位置を摺動方向D1(D2)の中央部に限定することで、コストダウンにつながる。
【0086】
また、本実施形態では、すべての第1溝部38及び第2溝部39に第2凹部51を形成する例について説明したが、これに限定されることはなく、少なくとも一つの第1溝部38及び第2溝部39に第2凹部51が形成されていればよい。
【0087】
以上、本発明の実施形態について詳細を説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内において、多少の設計変更も可能である。