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特許6485775基体の表面保護用膜及び基体の表面保護方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6485775
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】基体の表面保護用膜及び基体の表面保護方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/02 20060101AFI20190311BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20190311BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20190311BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20190311BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   C09D183/02
   C09D5/16
   C09D7/61
   C01G23/00 C
   C23C26/00 C
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-91851(P2016-91851)
(22)【出願日】2016年4月28日
(65)【公開番号】特開2017-197695(P2017-197695A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2017年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】501016054
【氏名又は名称】サスティナブル・テクノロジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101845
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100147784
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 享子
(72)【発明者】
【氏名】緒方 四郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 義光
(72)【発明者】
【氏名】須田 修平
(72)【発明者】
【氏名】高宮 祥太
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−209319(JP,A)
【文献】 特開2009−212435(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/093632(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/002153(WO,A1)
【文献】 特開2017−196595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00〜 10/00
101/00〜201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくともいずれかをドープしたポリシリケートの粒子若しくは結晶体金属ドープ酸化チタンを用いた正電荷物質及び負電荷物質の少なくともいずれかとを含有することにより、基体の表面電気抵抗を、導電性を有する状態と絶縁性を有する状態とに周期的に変動させることを特徴とする、基体の表面保護膜。
【請求項2】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくともいずれかをドープしたポリシリケートの粒子若しくは結晶体金属ドープ酸化チタンを用いた正電荷物質及び負電荷物質の少なくともいずれかとを含有することにより、基体の表面電気抵抗を、導電性を有する状態と絶縁性を有する状態とに周期的に変動させることを特徴とする、基体の表面保護膜であって、上記ポリシリケートの粒子若しくは結晶体又は金属ドープ酸化チタンを用いた正電荷物質若しくは負電荷物質のいずれか1つが少なくとも酸素欠損物質である、請求項1に記載の基体の表面保護膜。
【請求項3】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくともいずれかをドープしたポリシリケートの粒子若しくは結晶体金属ドープ酸化チタンを用いた正電荷物質及び負電荷物質の少なくともいずれかとを含有した、基体の表面電気抵抗を導電性を有する状態と絶縁性を有する状態とに周期的に変動させる基体の表面保護膜の造膜液。
【請求項4】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくともいずれかをドープしたポリシリケートの粒子若しくは結晶体金属ドープ酸化チタンを用いた正電荷物質及び負電荷物質の少なくともいずれかとを含有した分散液を基体に塗布し、加熱処理又は非加熱処理を行うことを特徴とする、基体の表面電気抵抗を導電性を有する状態と絶縁性を有する状態とに周期的に変動させる基体の表面保護膜の造膜方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の基体の表面保護膜を備えた基体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体表面の保護技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本願の発明者は、これまで基体表面を保護(防汚)する様々な方法を提案してきた。例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3は、光触媒技術に関連するものである。
【0003】
一方、出願人は、特許文献4において、基体表面又は基体表面層に、導電体と誘電体又は半導体との複合体を配置することによって基体表面に正電荷を発生させ、外部からの汚染物質を静電的に吸着又は反発させることにより、基体表面を保護する技術を開示している。また、出願人は、特許文献5において、基体表面又は基体表面層に、正電荷物質及び負電荷物質を配置して、基体表面を正及び負に帯電させることにより、外部からの汚染物質を基体表面において静電的に吸着又は反発させることにより、基体表面を保護する技術を開示している。
【0004】
さらに、出願人は、特許文献6において、表面上に、光半導体含有層及び、正電荷物質若しくは負電荷物質含有層、又は、光半導体・正電荷物質及び負電荷物質含有単層、を備える基体に光を照射し、基体表面の導電特性を変化させることにより、基体表面を保護する技術を開示している。
【0005】
特に特許文献6において開示した技術は、基体表面の導電特性を変化させて基体表面を保護する点で従来にない新しい技術であったが、導電特性の変化は光半導体への励起波長(光)の照射を条件としており、光が照射されていない場合は、他の機能による保護に依らざるを得なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−262481号公報
【特許文献2】特開平10−235201号公報
【特許文献3】特開平11−333303号公報
【特許文献4】国際公開WO2005/108056号公報
【特許文献5】国際公開WO2008/013148号公報
【特許文献6】国際公開WO2012/093632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、光の非照射時であっても、基体の表面に、絶縁状態と導電状態とのスイッチングを発現させ、基体表面近傍に浮遊する物質が有する帯電等の電気的特性を中性化することにより、基体表面への汚染物質の付着や吸着を防ぎ、合わせて基体表面を親水化することにより、基体の表面を保護する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による基体の表面保護膜は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを少なくともドープしたケイ素化合物の粒子若しくは結晶体を含有する膜、又は、導電性の高い金属のイオン若しくは粒子若しくは結晶体とケイ素化合物とを含有する膜であって、該膜にさらに正電荷物質及び負電荷物質のいずれかを少なくとも含有させ、基体の表面電気抵抗を導電性を有する状態と絶縁性を有する状態とに周期的に変動させることを特徴とする。
【0009】
また、上記の基体の表面保護膜の態様中、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを少なくともドープしたケイ素化合物の粒子若しくは結晶体を含有する膜であって、該膜にさらに正電荷物質及び負電荷物質のいずれかを少なくとも含有させた態様において、該ケイ素化合物の粒子若しくは結晶体又は正電荷物質又は負電荷物質のいずれか1つが少なくとも酸素欠損物質とすることができる。
【0010】
本発明による基体の表面保護膜の造膜液は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを少なくともドープしたケイ素化合物の粒子若しくは結晶体、又は、導電性の高い金属のイオン若しくは粒子若しくは結晶体とケイ素化合物と、を含有し、さらに正電荷物質及び負電荷物質のいずれかを少なくとも含有したことを特徴とする。
【0011】
本発明による基体の表面保護膜の造膜方法は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを少なくともドープしたケイ素化合物の粒子若しくは結晶体、又は、導電性の高い金属のイオン若しくは粒子若しくは結晶体とケイ素化合物と、を含有した分散液を基体に塗布し、加熱処理又は非加熱処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明による基体の表面保護膜は、基体の表面層又は表面膜中の電気抵抗を導電性状態と絶縁性状態とに短い時間で周期的に変動させることにより、基体の表面近傍に浮遊する物質の表面が正に帯電している場合には電子を付与し、基体の表面近傍に存在する物質の表面が負に帯電している場合には電子を引き抜き、浮遊物質の表面の帯電状態を電気的に中性化することにより、浮遊している汚染物質の基体への電気的吸着を防ぐことが出来る。さらに、基体の表面保護膜に含有される物質に酸素欠損を生成することにより、基体表面の親水性を維持又は発現させることができ、基体表面の汚染劣化をより低減又は回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】アルカリ金属又はアルカリ土類金属ドープ酸化ケイ素の分散液の作製方法の一例を示す図である。
図2】金属(無機物)ドープ酸化チタンの分散液の作製方法の一例を示す図である。
図3】本発明による表面保護膜の機能を模式的に示す図である。
図4】実施例中、評価2の実施方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態について説明する。
概要
本発明による基体の表面保護膜は、以下の(1)又は(2)の態様である。
(1)アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを少なくともドープしたケイ素化合物の粒子若しくは結晶体を含有する膜であって、この膜にさらに正電荷物質及び負電荷物質のいずれかを少なくとも含有させた膜。
(2)導電性の高い金属のイオン若しくは粒子若しくは結晶体とケイ素化合物とを含有する膜であって、該膜にさらに正電荷物質及び負電荷物質のいずれかを少なくとも含有させた膜。
【0015】
上記した(1)又は(2)に記載した物質を含有させることにより、上記の基体の表面保護膜は、基体の表面電気抵抗を、導電性を有する状態と絶縁性を有する状態とに周期的に変動させることができる。この基体表面の電気抵抗のスイッチングは、光の照射など他の条件を必要としない。
【0016】
また、(1)に記載した膜において、ケイ素化合物の粒子若しくは結晶体、正電荷物質、又は負電荷物質のいずれか1つを酸素欠損物質とすることもできる。
上記の基体の表面保護膜を基体に造膜する方法には、ウェット工法、ドライ工法など、多くの造膜方法があり、どれを用いても良い。
【0017】
以下、本発明による基体の表面保護膜に含有される物質、基体の表面保護膜の造膜方法、基体の表面保護膜の機能、基体に造膜する表面保護膜以外の中間層、本発明の対象となる基体、の詳細について順番に説明する。
【0018】
<基体の表面保護膜に含有される物質>
本発明による基体の表面保護膜が含有する物質について、以下に記載する<1>〜<3>において説明する。
【0019】
<1>アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを少なくともドープしたケイ素化合物の粒子若しくは結晶体
<1a>アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを少なくともドープしたケイ素化合物
本発明で使用されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属は、特に限定されるものではないが、アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としてはカルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等が挙げられる。なお、本明細書中の「アルカリ土類金属」には、第11族元素であるベリリウム、マグネシウムも含まれる。
【0020】
本発明で使用されるケイ素化合物は、特に限定されるものではないが、酸化ケイ素(酸化ケイ素の化合物を含む)が好ましく、SiO、SiO、SiO、SiO/nHO等の各種の酸化物や過酸化物が使用可能である。
【0021】
なお、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを少なくともドープしたケイ素化合物は、微細粒子又は結晶体であることが好ましい。
【0022】
<1b>アルカリ金属又はアルカリ土類金属ドープ酸化ケイ素の製造方法
ここでは、本発明において使用し得るアルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを少なくともドープしたケイ素化合物のうち、好ましい例として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属をドープした酸化ケイ素の製造方法について説明する。
【0023】
酸化ケイ素を含有する材として、多数の種類の製品が市販されている。例えば、有機材料と無機材料の結合材料(複合材料)として、以下のものを挙げることが出来る。
【0024】
・複合材料の機械的強度の向上や結合性の改良や表面親水性を付与するシランカップリング剤中、加水分解性からメトキシ基やエトキシ基を有する水溶性コーティング剤
・有機官能基とアルコキシ基を分子内に有するオリゴマ型のカップリング剤として、各種の物質を複合化して樹脂改質や機能性コーティング剤として使用されるシリコーンオリゴマー
・後述する基材への撥水性付与機能材として使用される、メチル基や長鎖アルキル基、フェニル基を有するアルコキシランやアルコキシラザン
・有機材料や無機材料の活性水素の保護機能を有するオリガノシリル基を有していたり、アルキル基の反応位置を制御することによって有機合成部材を作ることの出来るシリル化剤等
上記した酸化ケイ素を含有する材を使用して、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ドープ酸化ケイ素を含む造膜液を作ることができる。以下、図1を用いて、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ドープ酸化ケイ素の分散液の作製方法の一例について説明する。
【0025】
まず、メチルシリケートに、アルコールと純水と所定量の触媒を混合して加水分解させる。透明になるまで攪拌すると、シリカゾルが作製される。このシリカゾルを純水で希釈する。シリカゾル希釈液における固形分濃度は、好ましくは10%〜0.2%、より好ましくは4%〜0.85%である。このシリカゾル希釈液と、1%濃度に調整したアルカリ金属又はアルカリ土類金属の化合物とを、シリカに対するモル濃度比で、好ましくは1:0.03〜1:2.7、より好ましくは、1:0.03〜1:0.27で混合する。そして、このようにして得られたアルカリ金属又はアルカリ土類金属の化合物が混合されたシリカゾル希釈液を所定の温度で所定時間(例えば、50℃で20時間)加熱することにより、アルカリ金属又はアルカリ土類金属がドープされた酸化ケイ素の微細粒子又は結晶体が分散された溶液が得られる。
【0026】
なお、図1に示すとおり、上記した分散液の作製において、酸化ケイ素に複合化できるアルカリ金属やアルカリ土類金属を得るために混合される、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、ストロンチウム、バリウム、カルシウム、ラジウム、ベリリウム、マグネシウム、セシウムの化合物の例としては、それぞれ以下のものが例示できる。
【0027】
Li化合物:LiOH、LiCO、LiCl等
Na化合物:NaOH、NaCl、NaCO
K化合物:KOH、KO、KCl等
Rb化合物:RbO、RbOH等
Sr化合物:SrO、SrCl
Ba化合物:BaCl
Ca化合物:Ca(OH)、CaCl
Ra化合物:Ra(OH)、[Ra(HOx)]2+
Be化合物:Be(OH)、BeCl
Mg化合物:Mg(OH)、MgCl
Cs化合物:CsOH、CsCl等
なお、図1を参照して説明したアルカリ金属又はアルカリ土類金属ドープ酸化ケイ素分散液の製造方法以外にも、アルカリ金属又はアルカリ土類金属と酸化ケイ素を複合化する方法は多数存在し、そのいずれを用いても良い。例えば、あらかじめコロイダルシリカ等の酸化ケイ素の粒子と、複合化するアルカリ金属又はアルカリ土類金属の粒子とを別々に作製し、粉体若しくは溶媒分散体それぞれを混合してもよい。
【0028】
<2>導電性の高い金属のイオン若しくは粒子若しくは結晶体とケイ素化合物
<2a>導電性の高い金属のイオン若しくは粒子若しくは結晶体とケイ素化合物との混合物
本発明で使用される導電性の高い金属とは、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛等であるが、特に銅が好ましい。ケイ素化合物と混合される金属は粒子や結晶体であることが好ましい。
【0029】
また、導電性の高い金属と混合されるケイ素化合物は、特に限定されるものではないが、酸化ケイ素(酸化ケイ素の化合物を含む)が好ましく、SiO、SiO、SiO、SiO/nHO等の各種の酸化物や過酸化物が使用可能である。
【0030】
<2b>導電性の高い金属のイオン若しくは粒子若しくは結晶体とケイ素化合物とを含有する造膜液の作製方法
導電性の高い金属のイオン若しくは粒子若しくは結晶体とケイ素化合物とを含有する造膜液は、例えば、複合化する物質のそれぞれの溶媒質の相溶性から複合化する物質の種類を選定し、目的とする造膜液に含有される物質を複合化するためのケイ素化合物溶液と導電性の高い金属溶液とを混合した上で、触媒添加や複合一液化を加速させるために、常温以上90℃以下で加温しながら攪拌することにより作製できる。
【0031】
<3>正電荷物質及び負電荷物質
以下に、本発明による基体の表面保護膜において、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを少なくともドープしたケイ素化合物の粒子若しくは結晶体、又は、導電性の高い金属のイオン若しくは粒子若しくは結晶体とケイ素化合物との混合、にさらに含有させる正電荷物質や負電荷物質について説明する。なお、本願明細書において、正電荷物質とは、基体の表面を正に帯電させる物質をいい、負電荷物質とは、基体の表面を負に帯電させる物質をいう。
【0032】
<3a>正電荷物質又は負電荷物質として使用できる物質
上記した正電荷物質は、下記の(i)及び(ii)からなる群から選択される1種又は2種以上の、正電荷を有する物質である。
【0033】
(i)陽イオン
(ii)正電荷を有する導電体、正電荷を有する導電体と誘電体又は半導体との複合体、正電荷を有する2種以上の誘電体又は半導体からなる複合体
また、上記した負電荷物質は、下記の(iii)〜(v)からなる群から選択される1種又は2種以上の、負電荷を有する物質である。
(iii)陰イオン
(iv)負電荷を有する導電体、負電荷を有する導電体と誘電体又は半導体との複合体、負電荷を有する2種以上の誘電体又は半導体からなる複合体
(v)光触媒機能を有する物質
正電荷物質として用いる陽イオンとしては、特に限定されるものではないが、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のイオン;カルシウム等のアルカリ土類金属のイオン;アルミニウム、錫、セシウム、インジウム、セリウム、セレン、クロム、コバルト、ニッケル、アンチモン、鉄、銅、マンガン、タングステン、ジルコニウム、亜鉛等の他の金属元素のイオンが好ましく、特に銅イオンが好ましい。更に、メチルバイオレット、ビスマルクブラウン、メチレンブルー、マラカイトグリーン等のカチオン性染料、第4級窒素原子含有基により変性されたシリコーン等のカチオン基を備えた有機分子も使用可能である。イオンの価数も特に限定されるものではなく、例えば、1〜4価の陽イオンが使用可能である。
【0034】
上記した陽イオンとしての金属イオンの供給源として、金属塩を使用することも可能である。具体的には、塩化アルミニウム、塩化第1及び第2錫、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第1及び第2アンチモン、塩化第1及び第2鉄、塩化セシウム、三塩化インジウム、塩化第1セリウム、四塩化セレン、塩化第2銅、塩化マンガン、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、オキシ塩化ジルコニウム、塩化亜鉛、炭酸バリウム等の各種の金属塩が挙げられる。更に、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、水酸化クロム、水酸化インジウム等の金属水酸化物、ケイタングステン酸等の水酸化物、または、油脂酸化物等の酸化物等も使用可能である。
【0035】
正電荷を有する導電体としては、上記の陽イオン以外の、正電荷が発生した導電体を挙げることができ、例えば、後述する各種の導電体からなる電池の正電極、並びに、摩擦により正に帯電した羊毛、ナイロン等の誘電体が挙げられる。
【0036】
負電荷物質として用いる陰イオンとしては、特に限定されるものではないが、フッ化物イオン、塩化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン;水酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン等の無機系イオン;酢酸イオン等の有機系イオンが挙げられる。イオンの価数も特に限定されるものではなく、例えば、1〜4価の陰イオンが使用可能である。
【0037】
負電荷を有する導電体としては、上記の陰イオン以外の、負電荷が発生した導電体を挙げることができ、例えば、金、銀、白金等の金属;金属酸化物;石墨、硫黄、セレン、テルル等の元素;硫化ヒ素、硫化アンチモン、硫化水銀等の硫化物;粘土、ガラス粉、石英粉、石綿、澱粉、木綿、絹、羊毛等;コンジョウ、インジゴ、アニリンブルー、エオシン、ナフトールイエロー等の染料のコロイドが挙げられる。これらの中でも金、銀、白金等の金属及び金属酸化物のコロイドが好ましく、特に銀コロイドがより好ましい。この他に、後述する各種の導電体からなる電池の負電極、並びに、負に帯電したハロゲン、フッ素樹脂、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエステル等の誘電体、並びに、これらの化合物及び複合体が挙げられる。
【0038】
負電荷物質として用いる光触媒機能を有する物質としては、特定の金属化合物を含んでおり、光励起により当該層表面の有機及び/又は無機化合物を酸化分解する機能を有するものを使用することができる。光触媒の原理は、特定の金属化合物が光励起により、空気中の水又は酸素からOHやOのラジカル種を発生させ、このラジカル種が有機及び/又は無機化合物を酸化還元分解することであると一般的に理解されている。
【0039】
前記の光触媒機能を有する物質としての金属化合物としては、代表的な酸化チタン(TiO)の他、ZnO、SrTiOP、CdS、CdO、CaP、InP、In、CaAs、BaTiO、KNbO、Fe、Ta、WO、NiO、CuO、SiC、SiO、MoS、InSb、RuO、CeO等が知られている。
【0040】
光触媒機能を有する物質は光触媒性能が向上する金属(Ag、Pt)を含んでいてもよい。また、金属塩等の各種物質を、光触媒機能を失活させない程度の範囲で含むことできる。前記金属塩としては、例えば、アルミニウム、錫、クロム、ニッケル、アンチモン、鉄、銀、セシウム、インジウム、セリウム、セレン、銅、マンガン、カルシウム、白金、タングステン、ジルコニウム、亜鉛等の金属塩があり、それ以外にも一部の金属或いは非金属等については水酸化物又は酸化物も使用可能である。具体的には、塩化アルミニウム、塩化第一及び第二錫、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第一及び第二アンチモン、塩化第一及び第二鉄、硝酸銀、塩化セシウム、三塩化インジウム、四塩化セレン、塩化第二銅、塩化マンガン、塩化カルシウム、塩化第二白金、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、塩化第二金、オキシ塩化ジルコニウム、塩化亜鉛等の各種金属塩が例示できる。また、金属塩以外の化合物としては、水酸化インジウム、ケイタングステン酸、シリカゾル、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が例示できる。
【0041】
本発明において使用される導電体は耐久性の点から金属が好ましく、アルミニウム、錫、インジウム、セリウム、セレン、クロム、ニッケル、アンチモン、鉄、銀、銅、マンガン、白金、タングステン、亜鉛等の金属が挙げられる。また、これらの金属の酸化物や複合体又は合金も使用することができる。導電体の形状は特に限定されるものではなく、粒子状、薄片状、繊維状等の任意の形状をとることができる。
【0042】
上記した導電体としては、一部の金属の金属塩も使用可能である。具体的には、塩化アルミニウム、塩化第1及び第2錫、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第1及び第2アンチモン、塩化第1及び第2鉄、硝酸銀、塩化セシウム、三塩化インジウム、四塩化セレン、塩化第2銅、塩化マンガン、塩化第2白金、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、塩化第2金、塩化亜鉛等の各種の金属塩が例示できる。また、水酸化インジウム、ケイタングステン酸等の水酸化物又は酸化物等も使用可能である。
【0043】
さらに、上記した導電体としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリチオフェンビニロン、ポリイソチアナフテン、ポリアセチレン、ポリアルキルピロール、ポリアルキルチオフェン、ポリ−p−フェニレン、ポリフェニレンビニロン、ポリメトキシフェニレン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリアントラセン、ポリナフタレン、ポリピレン、ポリアズレン等の導電性高分子も使用可能である。
【0044】
本発明で使用される導電体との複合体を構成する半導体としては、例えば、C、Si、Ge、Sn、GaAs、Inp、GeN、ZnSe、PbSnTe等があり、半導体酸化金属や光半導体金属、光半導体酸化金属も使用可能である。好ましくは、酸化チタン(TiO)の他に、ZnO、SrTiOP、CdS、CdO、CaP、InP、In、CaAs、BaTiO、KNbO、Fe、Ta、WO、NiO、CuO、SiC、SiO、MoS、InSb、RuO、CeO等が使用されるが、半導体として使用する場合は、Na等で光触媒能を不活性化したものが好ましい。
【0045】
本発明で使用される導電体との複合体を構成する誘電体としては、強誘電体であるチタン酸バリウム(PZT)いわゆるSBT、BLTや次に挙げる PZT、PLZT―(Pb、La)(Zr、Ti)O、SBT、SBTN―SrBi(Ta、Nb)、BST―(Ba、Sr)TiO、LSCO―(La、Sr)CoO、BLT、BIT―(Bi、La)Ti12、BSO―BiSiO等の複合金属が使用可能である。また、有機ケイ素化合物であるシラン化合物、シリコーン化合物、いわゆる有機変性シリカ化合物、また、有機ポリマー絶縁膜アリレンエーテル系ポリマー、ベンゾシクロブテン、フッ素系ポリマーパリレンN、またはF、フッ素化アモルファス炭素等の各種低誘電材料も使用可能である。
【0046】
本発明で正電荷物質及び/又は負電荷物質として使用される、酸化チタン及び/又は酸化ケイ素(酸化チタン及び/又は酸化ケイ素の化合物を含む)を除いた誘電体や半導体としては、前記に説明した、導電体との複合体を構成する半導体や誘電体(酸化チタン、酸化ケイ素及びこれらの化合物を除く)が使用可能である。
【0047】
<3b>金属又はその他の無機物ドープ二酸化チタン分散液の製造方法
ここでは、本発明において使用し得る正電荷物質又は負電荷物質の好ましい例として、金属又はその他の無機物ドープ二酸化チタンを含有する膜を形成するための、金属又はその他の無機物ドープ酸化チタンの分散液の製造方法について説明する。
【0048】
上記した金属や金属以外の無機物と複合させる酸化チタン(酸化チタンの化合物を含む)としては、TiO、TiO、TiO、TiO/nHO等の各種の酸化物や過酸化物が使用可能である。
【0049】
上記した金属又はその他の無機物ドープ酸化チタンは、一般的な二酸化チタン粉末の製造方法である塩酸法又は硫酸法をベースとする製造方法を採用してもよいし、各種の液体分散チタニア溶液の製造方法を採用してもよい。そして、酸化チタンに複合させる金属や金属以外の一部の無機物質は、製造段階の如何を問わず、酸化チタンと複合化させることが出来る。
【0050】
以下、図2を参照しながら、金属又はその他の無機物ドープ酸化チタンの分散液の作製方法の一例について説明する。まず、50%四塩化チタン(市販品)を純水で80〜100倍希釈した溶液に、図1の左側に例示する無機物化合物や金属化合物(結晶水を有する化合物)を、モル比で1:0.05の割合で混合する。
【0051】
無機物化合物や金属化合物は、複数の種類を混合することができる。四塩化チタンと無機物化合物や金属化合物との混合割合は、モル比で好ましくは1:0.01〜1:0.3、より好ましくは、1:0.02〜1:0.1がよい。これに、25%アンモニア水(市販品)を純水で10倍希釈調整した2.5%アンモニア水を滴下して、pH7前後に調整して、チタン及び無機物や金属の水酸化物を析出させる。この析出した水酸化物を純水で上澄み液の導電率が0.9mS/m以下になるまで洗浄する。洗浄された水酸化物に、濃度が35%の過酸化水素水を混合し、数時間反応させて限外濾過することにより、複合された無機物質や金属が修飾されたアモルファス型過酸化チタンの微細不定形物質が分散された溶液が得られる。また、上記した水酸化物に、過酸化水素水を混合して反応させた後、加熱して限外濾過することにより、複合された無機物質や金属が修飾されたアナターゼ型過酸化チタンの微細粒子又は結晶体が分散された溶液が得られる。
【0052】
なお、上記した製造方法で得られる水性分散液中の過酸化チタン濃度(共存する金、銀、白金、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛等の金属を含む合計量)は、0.05〜15wt%が好ましく、0.1〜5wt%がより好ましい。
【0053】
上記の金属又はその他の無機物ドープ酸化チタンの製造工程において、酸化チタン(その化合物を含む)と複合される無機物質や金属(アルカリ金属、アルカリ土類金属を含む)を得るために混合される金、銀、白金、ニッケル、コバルト、銅、マンガン、鉄、亜鉛、リチウム、ナトリウム、ケイ素、カリウム、ジルコニウム、セリウム、ハフニウム、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、バリウムの化合物の例としては、それぞれ以下のものが例示できる。
【0054】
Au化合物:AuCl、AuCl、AuOH、Au(OH)、AuO、Au
Ag化合物:AgNO、AgF、AgClO、AgOH、Ag(NH)OH、AgSO
Pt化合物:PtCl、PtO、Pt(NH)Cl、PtO、PtCl、[Pt(OH)2−
Ni化合物:Ni(OH)、NiCl
Co化合物:Co(OH)NO、Co(OH)、CoSO、CoCl
Cu化合物:Cu(OH)、Cu(NO、CuSO、CuCl
Mn化合物:MnNO、MnSO、MnCl
Fe化合物:Fe(OH)、Fe(OH)、FeCl
Zn化合物:Zn(NO、ZnSO、ZnCl
Li化合物:LiOH、LiCO、LiCl等
Na化合物:NaOH、NaCl、NaCO
Si化合物:SiO、SiH、SiCl
K化合物:KOH、KO、KCl等
Zr化合物:ZrO、Zr(OH)、ZrCl等
Ce化合物:CeO、CeCl
Hf化合物:HfCl、Hf(OH)
Rb化合物:RbO、RbOH等
Sr化合物:SrO、SrCl
Y化合物:Y、Y(OH)
Nb化合物:NbCl、NbO等
Mo化合物:MoO、MoCl
Pd化合物:PdCl、Pd
Ba化合物:BaCl
なお、図2を参照して説明した金属ドープ酸化チタン分散液の製造方法以外にも、無機物質や金属と酸化チタンを複合化する方法は多数存在し、例えば、あらかじめ酸化チタンの粒子と、複合化する無機物質や金属の粒子とを別々に作製し、それぞれを混合してもよい。本願発明において、金属等をドープした酸化チタンを作製するためには、上記の製法以外にも、多種の酸化チタンの微細不定形物質及びその分散溶液を製造する方法があり、そのいずれを用いてもよい。
【0055】
<基体の表面保護膜の造膜方法>
本発明による基体の表面保護膜の基体の表面又は表面層への造膜方法として、例えば、以下に記載する<ア>〜<ウ>の方法がある。しかしながら、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを少なくともドープしたケイ素化合物の粒子若しくは結晶体を含有する膜、又は、導電性の高い金属のイオン若しくは粒子若しくは結晶体とケイ素化合物とを含有する膜であって、該膜にさらに正電荷物質及び負電荷物質のいずれかを少なくとも含有させた表面保護膜を基体に造膜する方法であれば、<ア>〜<ウ>には限定されず、どのような方法を用いても良い。
【0056】
<ア>ウェット工法
基体の表面保護膜に含有される物質を含む造膜液に基体を浸漬してディップコーティングを行い、あるいは、前記造膜液を、基体の表面又は表面層上にスプレー、ロール、刷毛、スポンジ等で塗布した後、乾燥又は加熱により溶媒を揮散させる工程を少なくとも1回行うことにより、基体の表面又は表面層に表面保護膜を造膜することができる。
【0057】
<イ>ドライ工法
基体の表面保護膜に含有される物質を含む成分を、スパッタリング・イオンプレーティングを含むドライ工法によりイオン化して基体の表面又は表面層上に噴射して、基体の表面又は表面層に表面保護膜を造膜することができる。
【0058】
<ウ>酸素欠損物質を含む表面保護膜の造膜方法
本発明による基体の表面保護膜では、表面保護膜に含有する物質中、ケイ素化合物の粒子若しくは結晶体、正電荷物質、又は負電荷物質のいずれか1つを酸素欠損物質とすることができる。これらの酸素欠損物質を含有する表面保護膜を造膜するためには、あらかじめ、酸素欠損物質としたい表面保護膜の含有物質と炭素及び/又は熱分解性有機化合物とを含む分散液を、その他の表面保護膜に含有させる物質を含む分散液と混合して造膜液とした上で、その造膜液を基体の表面又は表面層上に塗布した後、高温で加熱することにより炭素及び/又は熱分解性有機化合物を二酸化炭素ガスとして噴出させ、酸素欠損物質が生成された膜を造膜することができる。
【0059】
<基体表面における導電特性のスイッチングと表面保護機能>
本願発明による基体の表面保護膜は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを少なくともドープしたケイ素化合物の粒子若しくは結晶体を含有する膜、又は、導電性の高い金属のイオン若しくは粒子若しくは結晶体とケイ素化合物とを含有する膜であって、該膜にさらに正電荷物質及び負電荷物質のいずれかを少なくとも含有させることによって、基体の表面電気抵抗を、導電性を有する表面状態と絶縁性を有する表面状態とに周期的に変動させることができる。以下では、この表面保護膜が、どのように機能して基体表面を保護するかについて、図3を用いて説明する。
【0060】
図3は、本発明による基体の表面保護膜を形成した基体において、表面が絶縁性の状態と導電性の状態とを模式的に示した図であり、表面保護膜が正電荷物質及び負電荷物質を含有する態様を示したものである。
【0061】
図3に示すように、表面保護膜が正電荷物質及び負電荷物質を含有する場合、表面保護膜が絶縁性の状態では、基体表面が正及び負に帯電しているので、基体表面近傍の物質(基体・個体・液体)は、正に帯電している物質も、負に帯電している物質も、それぞれ基体表面に対して静電的に吸引される。一方、基体表面が導電性の状態では、表面保護膜が、基体表面に付着あるいは近傍に存在する負電荷を有する物質から電子(e)を奪い、また、基体表面に付着あるいは近傍に存在する正電荷を有する物質に電子(e)を付与することにより、基体表面に接触あるいは基体表面の近傍に存在する物質の電気的状態を中性化する。そして、この表面保護膜での導電性を有する表面状態と絶縁性を有する表面状態とが短い周期で切り替わるので、基体表面への吸着を防ぎあるいは基体表面に付着した物質を離脱させることにより、基体表面を保護すると考えられる。
【0062】
なお、上記で説明した表面保護のメカニズムは現時点では完全に解明できているわけではないが、実施例に示す通り、基体の表面電気抵抗を導電性を有する表面状態と絶縁性を有する表面状態とに周期的に変動させることにより、基体表面への汚染物質の付着や吸着を確実に防止又は抑制することができる。
【0063】
<中間層について>
上記した表面保護膜と基体との間に中間層を設けることが出来る。この中間層は、例えば、基体に親水性若しくは疎水性又は撥水性若しくは撥油性を付与することのできる各種の有機又は無機物質を使用することができる。
【0064】
中間層に使用できる有機又は無機物質のうち、親水性の有機物質としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体等のポリエーテル;ポリビニルアルコール;ポリアクリル酸(アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の塩を含む)、ポリメタクリル酸(アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の塩を含む)、ポリアクリル酸−ポリメタクリル酸(アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の塩を含む)共重合体;ポリアクリルアミド;ポリビニルピロリドン;カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等の親水性セルロース類;多糖類等の天然親水性高分子化合物等が挙げられる。これらの高分子材料にガラス繊維、炭素繊維、シリカ等の無機系誘電体を配合して複合化したものも使用可能である。また、上記の高分子材料として塗料を使用することも可能である。
【0065】
中間層に使用できる有機又は無機物質のうち、親水性の無機材料としては、例えば、シランカップリング剤、SiO又はその他のケイ素化合物が挙げられる。
【0066】
中間層に使用できる有機又は無機物質のうち、撥水性の有機物質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン;ポリアクリレート、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)等のアクリル樹脂;ポリアクリロニトリル;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリハロゲン化ビニル;ポリテトラフルオロエチレン、フルオロエチレン・プロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、フッ化ビニリデン・トリフルオロエチレン共重合体等のフッ素樹脂;ポリエチレンテレフタラート、ポリカーボネート等のポリエステル;フェノール樹脂;ユリア樹脂;メラミン樹脂;ポリイミド樹脂;ナイロン等のポリアミド樹脂;エポキシ樹脂;ポリウレタン等が挙げられる。
【0067】
上記した撥水性の有機物質の中では、フッ素樹脂が好ましく、特に、強誘電性と撥水性を有するフッ化ビニリデン・トリフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライドのβ型結晶体及びそれを含有するものが好ましい。フッ素樹脂としては市販のものを使用することが可能であり、市販品としては、例えば、NTT−AT株式会社製のHIREC1550等が挙げられる。
【0068】
さらに、フッ素原子を含有するオレフィンの2種以上からなる共重合体、フッ素原子を含有するオレフィンと炭化水素モノマーとの共重合体、及びフッ素原子を含有するオレフィンの2種以上からなる共重合体と熱可塑性アクリル樹脂との混合物からなる群より選ばれた少なくとも1種のフッ素樹脂と界面活性剤からなるフッ素樹脂エマルジョン、並びに硬化剤(特開平5−124880号公報、特開平5−117578号公報、特開平5−179191号公報参照)及び/又は上記シリコーン樹脂系撥水剤からなる組成物(特開2000−121543号公報、特開2003−26461号公報参照)も使用することができる。このフッ素樹脂エマルジョンとしては、市販されているものを使用することができ、ダイキン工業株式会社よりゼッフルシリーズとして、旭硝子株式会社よりルミフロンシリーズとして購入可能である。上記硬化剤としては、メラミン系硬化剤、アミン系硬化剤、多価イソシアネート系硬化剤、及びブロック多価イソシアネート系硬化剤が好ましく使用される。
【0069】
中間層に使用できる有機又は無機物質のうち、撥水性の無機系材料としては、例えば、シラン系、シリコネート系、シリコーン系及びシラン複合系、又は、フッ素系の撥水剤或いは吸水防止剤等が挙げられる。特に、フッ素系撥水剤が好ましく、例としては、パーフルロロアルキル基含有化合物などの含フッ素化合物又は含フッ素化合物含有組成物が挙げられる。なお、基材表面への吸着性が高い含フッ素化合物を中間層に含む場合に、中間層の撥水剤又は吸水防止剤の化学成分が基材と反応して化学結合を生じていたり、又は中間層と基材との化学成分同士が架橋していたりする必要はかならずしもない。
【0070】
このようなフッ素系撥水剤として用いることができる含フッ素化合物は、分子中にパーフルオロアルキル基を含有する分子量1,000〜20,000のものが好ましく、具体的には、パーフルオロスルホン酸塩、パーフルオロスルホン酸アンモニウム塩、パーフルオロカルボン酸塩、パーフルオロアルキルべタイン、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキルリン酸エステル、及びパーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩などが挙げられる。中でも、基材表面への吸着性に優れることから、パーフルオロアルキルリン酸エステル、及びパーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましい。このような材料としては、サーフロンS−112,及びサーフロンS−121(共に商品名、セイミケミカル株式会社製)などが市販されている。
【0071】
なお、吸水性の基体の場合では、上記した表面保護膜の下に、シラン化合物を含む中間層を予め基体上に形成することが好ましい。この中間層は、Si−O結合を大量に含有する為、表面保護膜の強度や基体との密着性を向上することが可能になる。また、前記中間層は、基体への水分の浸入を防止する機能をも有していることになる。
【0072】
上記したシラン化合物としては、加水分解性シラン、その加水分解物及びこれらの混合物が挙げられる。加水分解性シランとしては、各種のアルコキシシランが使用でき、具体的には、テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルアルコキシシランが挙げられる。これらのうち、1種類の加水分解性シランを単独で使用してもよく、必要に応じて2種類以上の加水分解性シランを混同して使用してもよい。また、これらのシラン化合物に、各種のオルガノポリシロキサンを配合してもよい。このようなシラン化合物を含有する中間層の構成材料としては、例えば、ドライシールS(東レ・ダウコーニング株式会社製)がある。
【0073】
また、中間層の構成材料としては、メチルシリコーン樹脂及びメチルフェニルシリコーン樹脂等の室温硬化型シリコーン樹脂を使用してもよい。このような室温硬化型シリコーン樹脂としては、例えば、AY42−170、SR2510、SR2406、SR2410、SR2405、SR2411(東レ・ダウコーニング株式会社製)がある。
【0074】
<基体について>
本発明の対象となる基体の材質は、特に限定されるものではなく、各種の親水性又は疎水性の無機系基体及び有機系基体、あるいは、それらを組み合わせたものを使用することができる。
【0075】
無機系基体としては、例えば、ソーダライムガラス等の透明または不透明ガラス、ジルコニア等の金属酸化物、セラミックス、コンクリート、モルタル、石材、金属等の物質からなる基体が挙げられる。また、有機系基体としては、例えば、有機樹脂、木材、紙、布等の物質からなる基体が挙げられる。有機樹脂をより具体的に例示すると、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、PET等のポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、シリコーン、メラミン樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、セルロース、エポキシ変性樹脂等が挙げられる。
【0076】
本発明の対象となる基体の形状は、特に限定されるものではなく、立方体、直方体、球形、シート形、繊維状等の任意の形状をとることができる。なお、基体は多孔質であってもよい。基体表面は、コロナ放電処理又は紫外線照射処理等によって親水性化されていてもよい。基体としては、建築・土木用基板又はシーリング材や、機器、装置搬送用ボディ、表示画面等の用途が好適である。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。以下の実施例1〜実施例6に記載した造膜液を使用して評価基板1〜6を作成し、比較基板との評価を実施した。なお、各実施例が本願発明による基体の表面保護膜のどの物質を含有する膜の造膜液の例であるかを以下に記載する。
【0078】
実施例1:アルカリ金属をドープしたケイ素化合物+負電荷物質+正電荷物質
実施例2:アルカリ金属をドープしたケイ素化合物+負電荷物質(酸素欠損生成)+正電荷物質
実施例3:アルカリ金属をドープしたケイ素化合物+正電荷物質+負電荷物質
実施例4:アルカリ金属をドープしたケイ素化合物+負電荷物質
実施例5:アルカリ金属をドープしたケイ素化合物+正電荷物質
実施例6:アルカリ金属をドープしたケイ素化合物+正電荷物質
【0079】
実施例1:インジウムドープアナターゼ型過酸化チタンと銅とケイ素ドープアナターゼ型過酸化チタン及びカリウムドープポリシリケート複合膜用液
[A:インジウムドープアナターゼ型過酸化チタン水溶液の調整]
純水1000gにInCl・xHO(塩化インジウム)0.772gを完全に溶かした溶液に50%四塩化チタン溶液(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製)10gを添加した溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬株式会社製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0の水酸化インジウムと水酸化チタンmの混合物を沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液の導電率が0.9mS/m以下になるまで洗浄する。導電率が0.865mS/mになったので洗浄を終了すると0.73wt%濃度の水酸化物が350g作製された。次に、これを室温下で35%過酸化水素水(タイキ薬品工業株式会社製)を56g添加し16時間撹拌すると黄色の透明なインジウムが修飾されたアモルファス型過酸化チタン溶液403gが得られた。更に、このインンジウムが修飾されたアモルファス型過酸化チタン溶液100gを90℃で5時間加熱するとインジウムが修飾されたアナターゼ型酸化チタン水分散液が得られた。
[B:銅とケイ素ドープアナターゼ型過酸化チタン水分散液の調整]
純水1000gに50%四塩化チタン溶液(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製)10gと30wt%シリカゾル2.5gを添加した溶液を準備する。
これに25%アンモニア水(高杉製薬株式会社製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0の水酸化チタンを沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液の導電率が0.9mS/m以下になるまで洗浄する。導電率が0.809mS/mになったので洗浄を終了すると0.77wt%濃度の水酸化物が350g作製された。次に、これを室温下で35%過酸化水素水(タイキ薬品工業株式会社製)を20g添加し16時間撹拌すると黄色の透明なシリカが修飾されたアモルファス型過酸化チタン溶液370gが得られた。さらに、このシリカが修飾されたアモルファス型過酸化チタン溶液100gを90℃で5時間加熱すると、シリカが修飾されたアナターゼ型過酸化チタン水分散液が得られた。さらに、このシリカが修飾されたアナターゼ型過酸化チタン水分散液に35%過酸化水素水1gと2.5%アンモニア水1gと銅粉(三井金属鉱業製)を0.16g添加し、常温で20時間撹拌すると、銅イオンが1600ppmとシリカが修飾されたアナターゼ型過酸化チタン水分散液が得られた。
[C:カリウムドープポリシリケート液]
メチルシリケート51(三菱化学株式会社製)30gにメタ変性アルコール60gと純水5.7gとアセチルアセトンアルミニウム0.3gを撹拌するとポリシリケート96gが作製される。さらに、この作製された液を純水で固形分濃度4wt%に調整しポリシリケート液を作製する。次にこの希釈したポリシリケート液100gと1%濃度に調整した水酸化カリウム20gを混合して50℃で20時間加熱することで得られた。
[インジウムドープアナターゼ型過酸化チタンと銅とケイ素ドープアナターゼ型過酸化チタン及びカリウムドープポリシリケート複合膜用液]
前記AとBで得られた液を1:1で混合した液と、Cで得られた液とを2:8で混合して調整した複合膜溶液を、実施例1とした。
【0080】
実施例2:ストロンチウムドープアナターゼ型過酸化チタンと銅とケイ素ドープアナターゼ型過酸化チタン及びカリウムドープポリシリケート複合膜用液
[ストロンチウムドープアナターゼ型過酸化チタン酸素欠損膜用造膜液の調整]
純水1000gにSrCl・6HO(塩化ストロンチウム)0.167gを完全に溶かした溶液に50%四塩化チタン溶液(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製)10gを添加した溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬株式会社製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0の水酸化ストロンチウムと水酸化チタンの混合物を沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液の導電率が0.9mS/m以下になるまで洗浄する。導電率が0.825mS/mになったので洗浄を終了すると0.75wt%濃度の水酸化物が350g作製された。次に、これを室温下で35%過酸化水素水(タイキ薬品工業株式会社製)を56g添加し16時間撹拌すると黄色の透明なストロンチウムが修飾されたアモルファス型過酸化チタン溶液405gが得られた。このストロンチウムが修飾されたアモルファス型過酸化チタン溶液100gを90℃で5時間加熱するとストロンチウムが修飾されたアナターゼ型過酸化チタン分散液が得られた。このストロンチウムが修飾されたアナターゼ型過酸化チタン分散液に二糖類2%を混合して、ストロンチウムドープアナターゼ型過酸化チタン酸素欠損膜用造膜液が得られた
このストロンチウムドープアナターゼ型過酸化チタン欠損膜用造膜液と、実施例1で調整した銅とケイ素ドープアナターゼ型過酸化チタン分散液を1:1で混合した液と、実施例1で調整したカリウムドープポリシリケート液を2:8で混合し調整した複合膜用液を実施例2とした。
【0081】
実施例3:銅ドープアモルファス型過酸化チタンと錫ドープアモルファス型過酸化チタン及びカリウムドープポリシリケート複合膜用液
[A:銅ドープアモルファス型過酸化チタン溶液の調整]
純水1000gに97%CuCl・2HO(塩化第二銅)0.926gを完全に溶かした溶液に、さらに50%四塩化チタン溶液(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製)10gを添加した溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬株式会社製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0の水酸化銅と水酸化チタンの混合物を沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液の導電率が0.9mS/m以下になるまで洗浄する。導電率が0.855mS/mになったので洗浄を終了すると0.82wt%濃度の水酸化物が345g作製された。次に、これを室温下で35%過酸化水素水(タイキ薬品工業株式会社製)を50g添加し16時間撹拌すると緑色の透明な銅が修飾された0.91wt%のアモルファス型過酸化チタン溶液390gが得られた。さらに、前記で得られた銅が修飾されたアモルファス型過酸化チタン溶液100gに35%過酸化水素水1gと2.5%アンモニア水1gと銅粉(三井金属鉱業製)を0.12g添加し、常温で20時間撹拌すると、銅イオンが1600ppm修飾されたアモルファス型過酸化チタン溶液が得られた。
[B:錫ドープアモルファス型過酸化チタン溶液の調整]
純水1000gにSnCl・2HO(塩化第一錫)0.594gを完全に溶かした溶液に、更に50%四塩化チタン溶液(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製)10gを添加した溶液を準備する。この液に25%アンモニア水(高杉製薬株式会社製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0の水酸化錫と水酸化チタンの混合物を沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液の導電率が0.9mS/m以下になるまで洗浄する。導電率が0.713mS/mになったので洗浄を終了すると0.80wt%濃度の水酸化物が333g作製された。次に、これを室温下で35%過酸化水素水(タイキ薬品工業株式会社製)を56g添加し16時間撹拌すると黄褐色の透明な錫が修飾されたアモルファス型過酸化チタン溶液389gが得られた。
[銅ドープアモルファス型過酸化チタンと錫ドープアモルファス型過酸化チタン及びカリウムドープポリシリケート複合膜用液]
前記AとBで得られた液を1:1で混合した液と、実施例1で調整したカリウムドープポリシリケート液とを2:8で混合し調整して、実施例3とした。
【0082】
実施例4:セリウムドープアモルファス型過酸化チタンとカリウムドープポリシリケート複合膜用液
[A:セリウムドープアモルファス型過酸化チタン溶液の調整]
純水1000gにCeCl・7HO(塩化第一セリウム)0.649gを完全に溶かした溶液に50%四塩化チタン溶液(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製)10gを添加した溶液を準備する。この液に25%アンモニア水(高杉製薬株式会社製)を10倍希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0の水酸化セリウムと水酸化チタンの混合物を沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液の導電率が0.9mS/m以下になるまで洗浄する。導電率が0.679mS/mになったところで洗浄を終了すると0.79wt%濃度の水酸化物分散液が340g作製された。次に、この液を室温下で35%過酸化水素水(タイキ薬品工業株式会社製)を56g添加し16時間撹拌すると黄褐色の透明なセリウムが修飾された0.82wt%のアモルファス型過酸化チタン溶液396gが得られた。
[セリウムドープアモルファス型過酸化チタンとカリウムドープポリシリケート複合膜用液]
前記Aで得られた液に、実施例1で調整したカリウムドープポリシリケート液を2:8で混合し調整して実施例4とした。
【0083】
実施例5:錫ドープアモルファス型過酸化チタンとカリウムドープポリシリケート複合膜用液
実施例3で調整した錫ドープアモルファス型過酸化チタン溶液と、実施例1で調整したカリウムドープポリシリケート液とを2:8で混合し調整して実施例5とした。
【0084】
実施例6:銅ドープアモルファス型過酸化チタンとカリウムドープポリシリケート複合膜用液
実施例3で調整した銅ドープアモルファス型過酸化チタン溶液と、実施例1で調整したカリウムドープポリシリケート液とを2:8で混合し調整して実施例6とした。
【0085】
評価基板及び比較基板の作製
実施例1〜実施例6に記載した造膜液を、それぞれ、厚さ3mmのソーダライムガラスにSS工法(スポンジスキージー工法)を用いて乾燥膜100nm前後となるように塗布し乾燥した上で、500℃で15分間(ピーク保持温度)加熱焼成し、評価基板1〜6とした。
【0086】
これらの評価基板1〜6と対照するために、酸素欠損膜とはならないアナターゼ型酸化チタン膜を評価基板と同様の方法で形成した基板を比較基板1、酸素欠損膜とはならないアモルファス型酸化チタン膜を評価基板と同様の方法で形成した基板を比較基板2とした。
【0087】
上記の評価基板1〜6及び比較基板1〜2を用いて、下記の評価1を実施した。
<評価1>
評価基板1〜6及び比較基板1〜2の「暗所(UV−A光量0μw/cm)」、「蛍光灯下(UV−A光量10μw/cm)」、「屋外・太陽光下(UV−A光量1800μw/cm)」における体積抵抗値(導電性)評価を、以下の評価装置、評価条件及び評価時間の下に実施した。
【0088】
・評価装置:三菱化学株式会社製ロレスターGP
・評価条件:膜厚(100nm)、電圧:(90V)
・評価時間:30秒/枚(通電時間)
評価1の結果を以下の表1に示す。
【0089】
【表1】
表示導電性:絶縁性(×1015以上:OV.LD)
半導電性(×10〜×10:OV.RG)
導電性(0.0×10
絶縁性⇔(スイッチング)導電性(OV.LD⇔0.0×10
絶縁性⇔導電性スイッチング状態:OV.LD⇔0.0×10
のスイッチングが約1秒〜数秒
毎に切り替わる
≪表示数値は体積抵抗値:Ω・cm≫

<評価1による結果>
表1に示すように、光照射の有無に関わらず、評価基板1〜6は、「絶縁性⇔導電性」のスイッチング現象を確認することが出来た。また、比較基板1〜2は、造膜組成分の各々の電気的特性を表示しているが、スイッチング現象が生じることはない。
【0090】
<評価2>
基体を保護する機能として、表面に付着する汚染物の電荷を可変させて付着を防止・低減する機能を確認するために、ガラス固定用シリコーンシール材に対する付着低減性能評価と表面の親水性維持について、評価基板1〜6と比較基板1〜2の長期屋外暴露評価を実施した。
評価基板及び比較基板は、評価1と同様の試作条件(但し、膜固定温度は500℃で15分)である。
【0091】
図4に示すように、評価基板1〜6及び比較基板1〜2の各表面にシリコーンシール材(SE960:東レダウコーニング株式会社製)を取付け、各基板を垂直に固定し、雨掛り条件で評価した。
実施期間:2014/08〜2015/08
実施場所:佐賀県
評価2の結果を、以下の表2に示す。
【0092】
【表2】
<評価2による結果>
土木・建築・工作分野での外部器材の汚染の原因で最も高度な対応が必要なシリコーンシール材の可塑部材の油分流出拡大による撥水性分の拡大を低減するのは大変難しいとされてきた。その中で、表2に示すように、長期間にわたる評価(2014/08〜2015/08)において、評価基板1〜6は、シール撥水成分の拡大を抑える効果があることが分かる。
これに対し、比較基板1(光触媒機能)及び比較基板2は、シール撥水成分の拡大を抑える効果が小さいことがわかる。
図1
図2
図3
図4