(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の移乗装置が開示されている。この移乗装置は、基台と、支柱と、保持部材と、操作機構とを備えている。基台には4つのキャスタが設けられている。支柱は、基台から上方に向かって延びている。保持部材は、支柱に対して水平な揺動軸心周りで初期位置から移送位置まで揺動可能に設けられ、被介護者を保持する。操作機構は、ハンドルやペダル等によって構成されており、保持部材を初期位置と移送位置との間で揺動させる。
【0003】
保持部材は、中央部材と右側部材と左側部材とを有している。中央部材は、被介護者の胸部を受けることが可能となっている。右側部材は、中央部材に対し
て水平な第1方向
における被介護者の右側に位置しており、第1方向と略直交しながら中央部材から離間する第2方向に延びている。右側部材は、被介護者の右脇を載せることが可能となっている。左側部材は、中央部材に対して第1方向
における被介護者の左側に位置しており、第2方向に延びている。左側部材は、被介護者の左脇を載せることが可能となっている。これら右側部材及び左側部材は、第1方向と略平行な方向に移動することにより、中央部材から遠隔する第1位置と、中央部材に近接する第2位置とに変位する。つまり、第2位置での右側部材と左側部材との間隔は、第1位置での双方の間隔よりも狭くなる。
【0004】
この移乗装置で例えばベッドに腰掛けた被介護者を車椅子に移乗する場合、まず、介護者が操作機構を操作し、保持部材を初期位置まで揺動させる。この状態において、被介護者が中央部材に胸部を当接させつつ、右脇と胴体とで右側部材を挟み込むとともに、左脇と胴体とで左側部材を挟み込むようにする。これにより、右側部材及び左側部材が第1位置から第2位置に変位し、被介護者は、中央部材、右側部材及び左側部材によって胸部、右脇及び左脇がそれぞれ保持される。そして、介護者は、操作機構を操作し、保持部材を移送位置まで揺動させる。これにより、被介護者は、ベッドからお尻が持ち上げられ、移乗装置に全身が移されることとなる。
【0005】
次いで、介護者は、被介護者が車椅子に降りられるように、基台を車椅子に向かって移動させた後、操作機構を操作し、保持部材を初期位置までゆっくり揺動させる。これにより、被介護者は、お尻が車椅子に降ろされ、移乗装置から全身が車椅子に移されることとなる。こうして、介護者は、被介護者を別の場所に移送したり、被介護者を保持部材に保持させた状態で着替え等を行ったりする介護を行うことが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の移乗装置では、被介護者は、移乗装置による介護を受けている間、両脇と胴体とで右側部材及び左側部材を挟み続ける必要がある。このような動作は、体力が低下した高齢者である被介護者の他、怪我や病気によって満足に身体を動かすことができない傷病人等の被介護者にとっては負担が大きい。これにより、この移乗装置では、被介護者を安定的に介護できないおそれがある。
【0008】
このため、保持部材にベルトを付加し、そのベルトによって被介護者の胴体を保持することも考えられるが、このような作業は介護者の負担となる他、被介護者がベルトからすり抜けて転落するおそれもある。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、介護者の負担を軽減しつつ、被介護者を安定的に介護可能な移乗装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の移乗装置は、キャスタを有する基台と、
前記基台から上方に延びる支柱と、
前記支柱に対して水平な揺動軸心周りで初期位置から移送位置まで揺動可能に設けられ、被介護者を保持する保持部材と、
操作によって前記保持部材を揺動させる操作機構とを備え、
前記保持部材は、前記被介護者の胸部を受け得る中央部材と、前記中央部材に対し
て水平な第1方向
における前記被介護者の右側に位置するとともに、前記第1方向と略直交しながら前記中央部材から離間する第2方向に延びて前記被介護者の右脇を載せ得る右側部材と、前記中央部材に対して前記第1方向
における前記被介護者の左側に位置するとともに、前記第2方向に延びて前記被介護者の左脇を載せ得る左側部材とを有し、
前記初期位置では、前記中央部材がほぼ垂直な状態になり、
前記移送位置では、前記中央部材がほぼ水平な状態になり、
前記右側部材及び前記左側部材は、前記第1方向及び前記第2方向と略直交
しつつ、前記中央部材に近接又は遠隔する第3方向に移動することにより、第1位置と第2位置とに変位可能であり、
前記中央部材と前記右側部材との間及び前記中央部材と前記左側部材との間には、前記右側部材に前記被介護者の前記右脇が載置され、前記左側部材に前記被介護者の前記左脇が載置され、かつ前記右側部材及び前記左側部材に前記被介護者の体重が負荷されることにより、前記右側部材が前記第1位置から前記第2位置へ変位するとともに前記左側部材が前記第1位置から前記第2位置へ変位し、前記第2位置での前記右側部材と前記左側部材との間隔
を前記第1位置での前記右側部材と前記左側部材との間隔より狭
くするリンク機構が設けられ、
前記リンク機構は、一端が前記中央部材に揺動可能に連結され、他端が前記右側部材に揺動可能に連結された第1リンクアームと、一端が前記中央部材に揺動可能に連結され、他端が前記右側部材に揺動可能に連結された第2リンクアームと、
一端が前記中央部材に揺動可能に連結され、他端が前記左側部材に揺動可能に連結された第3リンクアームと、一端が前記中央部材に揺動可能に連結され、他端が前記左側部材に揺動可能に連結された第4リンクアームとを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の移乗装置では、右側部材の第1位置から第2位置への変位は、右側部材に被介護者の右脇が載置されることにより行われる。また、左側部材の第1位置から第2位置への変位は、左側部材に被介護者の左脇が載置されることにより行われる。そして、右側部材及び左側部材が第1位置から第2位置へ変位することにより、双方の間隔が狭くなる。このため、この移乗装置では、被介護者の体重により、被介護者の胴体が右側部材及び左側部材により両脇から挟持される。
【0012】
このため、この移乗装置では、被介護者が自らの力で右側部材及び左側部材を挟む必要がない
。こうして、被介護者を安定的に介護できる。
【0013】
したがって、本発明の移乗装置によれば、介護者の負担を軽減しつつ、被介護者を安定的に介護可能である。
【0014】
操作機構は、揺動時に保持部材を支持する支持機構を有し得る。この支持機構は、保持部材が移送位置から初期位置に揺動する際に抵抗力を生じるダンパを含んでいることが好ましい。
【0015】
保持部材に被介護者を保持した状態で移送位置から初期位置に保持部材を揺動させる際には、操作機構に被介護者の体重が作用する。このため、支持機構に何らの対策もなされていなければ、被介護者の体重により、保持部材が急激に移送位置から初期位置に揺動し、被介護者を安全に降ろし難い。これに対し、支持機構がこのようなダンパを含んでいれば、被介護者の体重が作用していても、保持部材をゆっくりと移送位置から初期位置に揺動することができ、被介護者を安全に降ろし易い。
【0016】
ダンパは、初期位置と移送位置との間の任意の揺動角度で保持部材を固定するロック機構を含んでいることが好ましい。この場合、保持部材に被介護者を保持した状態のまま、任意の揺動角度で保持部材を固定することができるので、その状態で着替え等を容易に行うことができる。
【0017】
基台は、保持部材が初期位置に向かって揺動する方向側が平坦に形成されていることが好ましい。この場合には、保持部材を初期位置に揺動させて移乗装置に被介護者を乗せる際に、被介護者が基台に蹴つまずく等の事態を好適に防止することができる。また、この移乗装置では、被介護者と移乗装置とを十分に近接させた状態で移乗装置に被介護者を乗せることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の移乗装置によれば、介護者の負担を軽減しつつ、被介護者を安定的に介護可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。
【0021】
図1乃至
図3に示すように、実施例の移乗装置は、基台1と、支柱3と、保持部材5と、操作機構7とを備えている。操作機構7は、ハンドル70と支持機構71とを有している。なお、
図1では、支柱3の長手方向を移乗装置の上下方向として規定している。また、ハンドル70が配置される側を移乗装置の後方として、移乗装置の前後方向を規定している。さらに、
図3に示すように、前方側から移乗装置を見た場合を基準として、移乗装置の左右方向を規定している。この左右方向は、後述する中央部材51に対して水平であり、本発明における第1方向に相当する。
【0022】
図1に示すように、基台1は、前端10a側が後端10b側に比べて左右方向が狭くなる略矩形の板状に形成されている。基台1の後端10b側には、右後端部1aと、左後端部1bと、傾斜部1cとが形成されている。右後端部1a及び左後端部1bは、それぞれ基台1の上方に向かって段状に屈曲されることによって形成されている。右後端部1aの下方にはキャスタ13aが取り付けられており、左後端部1bの下方にはキャスタ13bが取り付けられている。傾斜部1cは、右後端部1aと左後端部1bとの間に位置しており、下方に向かって傾斜する形状をなしている。また、基台1の後端10b側には、上方に向かって延びる一対の支持板1d、1eが固定されている。
【0023】
一方、基台1の前端10a側は、後端10b側のような屈曲部分の他、支持板1d、1eのような部材は存在せず、平坦に形成されている。また、基台1の前端縁は一直線状に形成されている。
図3に示すように、基台1の前端10a側には、基台1に対して被介護者が両足を乗せる際の位置を示すガイド1fが付されているとともに、滑り止め加工(図示略)が施されている。また、基台1の前端10a側において、右下方にはキャスタ13cが取り付けられており、左下方にはキャスタ13dが取り付けられている。
【0024】
支柱3は、長尺の板材によって形成された一対の右側支柱31及び左側支柱32によって構成されている。
図1に示すように、右側支柱31及び左側支柱32は、それぞれ下端側が基台1の略中央に固定されており、各上端側が基台1の上方に向かって延びている。
【0025】
図4に示すように、右側支柱31には右膝保持部材15aが取り付けられており、左側支柱32には左膝保持部材15bが取り付けられている。右膝保持部材15aは、前方が湾曲しつつ凹む形状をなすクッション材を有する本体部151と、本体部151の背面と右側支柱31とに固定されたフランジ152とによって構成されている。左膝保持部材15bは、右膝保持部材15aの本体部151と対称形状をなすクッション材を有する本体部153と、本体部153の背面と左側支柱32とに固定されたフランジ154とによって構成されている。
【0026】
また右側支柱31及び左側支柱32の上端には、後述する揺動板56を覆うカバー33が取り付けられている。カバー33は、右側支柱31及び左側支柱32の前方に突出しつつ、右後端側で右側支柱31の上端と固定されているとともに、左後端側で左側支柱32の上端と固定されている。つまり、右側支柱31と左側支柱32とは、カバー33によって互いに連結されている。また、
図1に示すように、右側支柱31及び左側支柱32は、連結板1gによって、上記の支持板1d、1eと連結されている。これにより、連結板1gを介して右側支柱31及び左側支柱32は支持板1d、1eに支持されている。
【0027】
保持部材5は、中央部材51と、右側部材52と、左側部材53と、台座54と、連結ロッド55と、揺動板56と、
図5及び
図6に示す第1〜4リンクアーム57a〜57dとを有している。
【0028】
図1に示すように、連結ロッド55は、一端側が台座54に取り付けられている。また、連結ロッド55の他端側には、揺動板56が固定されている。
図4に示すように、揺動板56は、右側支柱31と左側支柱32との間に挿入されている。そして、揺動板56は、基端側が揺動ピン61によって右側支柱31及び左側支柱32に揺動可能に連結されている。揺動ピン61は、右側支柱31及び左側支柱32に対して水平な方向、つまり、移乗装置の左右方向に延びている。これにより、揺動板56は、揺動ピン61周り、すなわち、右側支柱31及び左側支柱32に対して水平な揺動軸心O1周りで揺動可能となっている。こうして、保持部材5は、同図に示す初期位置から
図2に示す移送位置まで揺動可能となっている。
【0029】
図1に示す初期位置に揺動することにより、保持部材5は、右側支柱31及び左側支柱32に対して前方に向かって倒れ込むように傾斜する状態となる。これにより、中央部材51及び台座54は、ほぼ垂直な状態に変位する。一方、
図2に示す移送位置に揺動することにより、保持部材5は、右側支柱31及び左側支柱32の後方側で起立する状態となる。これにより、中央部材51及び台座54は、ほぼ水平な状態に変位する。
【0030】
図3に示すように、中央部材51は、内部には図示しないクッション材が設けられており、略三角形状に形成されている。中央部材51は、上面51aに図示しない被介護者の胸部が当接することにより、被介護者の胸部を受けることが可能となっている。また、台座54は、中央部材51の背面側に配置されている。台座54は、中央部材51の形状に沿うように形成されている。
【0031】
図3に示すように、右側部材52は、中央部材51に対して左右方向の右側に位置している。左側部材53は、中央部材51に対して左右方向の左側に位置している。右側部材52及び左側部材53は、左右方向と略直交しながら中央部材51から離間する第2方向に延びる略矩形状に形成されている。ここで、第2方向とは、保持部材5が
図1に示す初期位置に揺動した状態を基準にした場合には、移乗装置の前方であり、保持部材5が
図2に示す移送位置
に揺動した状態を基準にした場合には、移乗装置の上方である。つまり、右側部材52及び左側部材53は、中央部材51によって胸部が受けられている状態にある被介護者に向かって延びる形状である。
【0032】
右側部材52及び左側部材53は、それぞれ内部に図示しないクッション材が設けられている。右側部材52は、
図1に示す載置面520に被介護者の右脇が載置されることにより、載置面520によって、被介護者の右脇を保持することが可能となっている。同様に、左側部材53は、載置面530に被介護者の左脇が載置されることにより、載置面530によって、被介護者の左脇を保持することが可能となっている。
【0033】
また、
図5及び
図6に示すように、右側部材52及び左側部材53の各背面には、バックプレート521、531がそれぞれ設けられている。右側部材52と台座54とは、第1、2リンクアーム57a、57bによって揺動可能に連結されている。同様に、左側部材53と台座54とは、第3、4リンクアーム57c、57dによって揺動可能に連結されている。なお、
図5及び
図6は
図1におけるX領域を簡略化して図示している。これにより、同図では、保持部材5が初期位置にある状態を基準として台座54、右側部材52及び左側部材53の各方向を規定している。
【0034】
第1リンクアーム57aは、左端側がボルト63aによって台座54と揺動可能に連結されており、右端側がボルト64aにより、バックプレート521を介して右側部材52と連結されている。同様に、第2リンクアーム57bは、左端側がボルト63bによって台座54と揺動可能に連結されており、右端側がボルト64bによって右側部材52と連結されている。第2リンクアーム57bは、第1リンクアーム57aよりも短く形成されている。
【0035】
また、第3リンクアーム57cは、右端側がボルト63cによって台座54と揺動可能に連結されており、左端側がボルト64cにより、バックプレート531を介して左側部材53と連結されている。同様に、第2リンクアーム57bは、右端側がボルト63dによって台座54と揺動可能に連結されており、左端側がボルト64dによって左側部材53と連結されている。第4リンクアーム57dは、第3リンクアーム57cよりも短く形成されている。これらの台座54、第1〜4リンクアーム57a〜57d及びボルト63a〜63d、64a〜64dによって、リンク機構100が形成されている。
【0036】
ここで、中央部材51の背面側と台座54とは、上記の各ボルト63a〜63dによって固定されている。こうして、
図3に示すように、中央部材51は、右側部材52と左側部材53との間に配置されるとともに、上記のように、右側部材52は中央部材51の右側に位置し、左側部材53は中央部材51の左側に位置する。
【0037】
そして、
図5及び
図6に示すように、第1、2リンクアーム57a、57bの各左端側がボルト63a、63b周りでそれぞれ揺動することにより、右側部材52は、第3方向に移動し、
図3の実線で示す第1位置と、仮想線で示す第2位置とに変位する。同様に、
図5及び
図6に示すように、第3、4リンクアーム57c、57dの各右端側がボルト63c、63d周りでそれぞれ揺動することにより、左側部材53についても第3方向に移動し、
図3の実線で示す第1位置と、仮想線で示す第2位置とに変位する。
【0038】
ここで、第3方向とは、移乗装置の左右方向及び第2方向と略直交しつつ、中央部材51に近接又は遠隔する方向である。すなわち、保持部材5が
図1に示す初期位置に揺動した状態を基準にした場合には、移乗装置の上下方向に移動しつつ、中央部材51に近接又は遠隔する方向が第3方向である。一方、保持部材5が
図2に示す移送位置に揺動した状態を基準にした場合には、移乗装置の前後方向に移動しつつ、中央部材51に近接又は遠隔する方向が第3方向である。
【0039】
そして、右側部材52及び左側部材53が第1位置と第2位置とに変位することにより、右側部材52と左側部材53との間隔も変化する。具体的には、
図5に示すように、右側部材52及び左側部材53が第1位置に変位している状態では、右側部材52と左側部材53とは間隔W1となる。これに対し、
図6に示すように、右側部材52及び左側部材53が第2位置に変位している状態では、第1位置に変位しているときに比べて、右側部材52及び左側部材53が中央部材51により近接した状態となる。これにより、右側部材52と左側部材53とは、上記の間隔W1よりも狭い間隔W2となる。なお、第2位置に変位することにより、右側部材52と中央部材51の右側面とは接触しつつ、互いに変形することにより、双方の間隙が埋められる。左側部材53と中央部材51の左側面についても同様である。
【0040】
図1に示すように、ハンドル70は、上下方向に延びる第1ハンドルバー70aと、前後方向に延びる第2ハンドルバー70bとを有している。第1ハンドルバー70aは、
図3に示すように、上端側が左右に分岐する略Y字形状をなしている。第1ハンドルバー70aの右上端には第1グリップ701が設けられており、第1ハンドルバー70aの左上端には第2グリップ702が設けられている。また、
図4に示すように、第1ハンドルバー70aの下端の左右にもそれぞれ第3、4グリップ703、704が設けられている。
図1に示すように、第2ハンドルバー70bは、後端側で第1ハンドルバー70aの下端と接続し、前端側で連結ロッド55と接続する。これにより、保持部材5とハンドル70とが接続されている。
図4に示すように、第2ハンドルバー70bの左右には、それぞれ第5、6グリップ705、706が設けられている。
【0041】
図7を基に支持機構71の構成を説明する。
図7は、
図1におけるY領域を拡大して示している。支持機構71は、上記の支持板1d、1eとダンパ11とを有している。ダンパ11は、軸方向に伸縮可能なダンパ本体11aと、ダンパ本体11aの下端に固定されたエンドハウジング11bと、操作ペダル9とを有している。
図4に示すように、ダンパ11は、ダンパ本体11aの上端が揺動板56の先端と連結されることにより、揺動板56に揺動可能に連結されている。また、ダンパ11は、エンドハウジング11bを介して上記の支持板1d、1eと連結されている。
【0042】
ダンパ本体11aは、
図1に示すように、保持部材5が移送位置から初期位置に揺動する際に軸方向に縮小する一方、
図2に示すように、保持部材5が初期位置から移送位置に揺動する際に軸方向に伸張する。ダンパ本体11aは、伸縮に際して一定の抵抗が生じるように、内部の油圧が調整されている。こうして、支持機構71は、初期位置と移送位置との間で揺動する際に保持部材5を支持する。
【0043】
また、
図8及び
図9に示すように、ダンパ本体11aは、エンドハウジング11b内に突出するロックピン110を有している。ロックピン110は、
図8に示すOFF状態となることにより、ダンパ本体11b、ひいてはダンパ11の伸縮を禁止し、
図9に示すON状態となることにより、ダンパ本体11bの伸縮を許容する。これにより、ダンパ11は、保持部材5が初期位置と移送位置との間で揺動している際に、ロックピン110をOFF状態とすることで、初期位置と移送位置との間の任意の揺動角度で保持部材5を固定することが可能となっている。なお、
図8及び
図9では、説明を容易にするため、ダンパ11及び操作ペダル9等の形状を簡略化して図示している。
【0044】
図7に示すように、エンドハウジング11bは、上記の支持板1dと支持板1eとに挟持された状態で、連結ピン67によって支持板1d、1eの各上端側と連結されている。この際、操作ペダル9も同時に連結ピン67よって支持板1d、1eの各上端側と連結される。これにより、エンドハウジング11b、ひいては、ダンパ11の後端側は、
図8及び
図9に示す連結ピン67の軸心O2周りで支持板1d、1eに対して揺動可能となっている。また、操作ペダル9も軸心O2周りで支持板1d、1eに対して揺動可能となっている。
【0045】
図8及び
図9に示すように、エンドハウジング11bには、解除レバー111が設けられている。解除レバー111は、上端側がエンドハウジング11b内で揺動軸112に対して揺動可能に設けられている。揺動軸112は、エンドハウジング11b内で左右方向に延びている。解除レバー111は、エンドハウジング11b内に設けられた図示しない付勢部材によって、揺動軸112の軸心O3周りで
図8の破線矢印で示すD1方向に向けて付勢されている。
【0046】
図7に示すように、操作ペダル9は、板材を屈曲加工することによって形成されている。操作ペダル9の下端には、平面状をなす踏込み面9aが設けられている。また、
図8及び
図9に示すように、操作ペダル9の上端側には、解除レバー111に向かって延びる押圧部9bが形成されている。押圧部9bと解除レバー111の下端側とは常時当接している。これらのロックピン110、解除レバー111及び操作ペダル9が本発明におけるロック機構に相当する。
【0047】
以上のように構成された移乗装置の作用について、図示しないベッドに腰掛けた被介護者を車椅子に移乗する場合を例に具体的に説明する。なお、被介護者には、高齢者や傷病人の他、身体障がい者等が含まれる。
【0048】
まず、介護者は移乗装置を移動させて、移乗装置の前方側が被介護者に向くように配置する。そして、介護者は、ハンドル70を保持しつつ、
図9の白色矢印で示すように、操作ペダル9の踏込み面9aを足で踏込む。これにより、操作ペダル9は、連結ピン67の軸心O2周りで同図の破線矢印で示すD2方向に揺動する。この際、基台1の後端10bには傾斜部1cが形成されているため、D2方向に揺動した操作ペダル9と基台1とが干渉することが防止されている。
【0049】
そして、操作ペダル9がD2方向に揺動することにより、押圧部9bによって解除レバー111の下端側が押圧される。このため、解除レバー111は付勢部材の付勢力に抗して、揺動軸112の軸心O3周りで同図の破線矢印で示すD3方向に揺動する。これにより、解除レバー111は、エンドハウジング11b内においてロックピン110を押圧し、ロックピン110をON状態とする。こうして、同図の実線矢印で示すように、ダンパ11では、ダンパ本体11bが軸方向に伸縮可能となり、保持部材5の揺動が可能となる。
【0050】
この状態において、
図1に示すように、介護者はハンドル70を上方側に押し上げることにより、保持部材5を初期位置に揺動させて、中央部材51の上面51a、右側部材52及び左側部材53を被介護者に対面させる。なお、保持部材5を初期位置に揺動させる際には、ダンパ本体11aが一定の抵抗を生じさせつつ、軸方向に伸長する。
【0051】
保持部材5を初期位置まで揺動させた後、介護者は、操作ペダル9から足を離す。これにより、
図8に示すように、解除レバー111は付勢部材の付勢力によって、揺動軸112の軸心O3周りでD1方向に揺動する。このため、解除レバー111によるロックピン110の押圧が解除され、ロックピン110がOFF状態となる。これにより、ダンパ本体11aの伸縮が禁止されて保持部材5の揺動が不可能となることで、保持部材5が初期位置で固定される。
【0052】
一方、被介護者は、ガイド1fを基に、基台1前端10a側に足を乗せると共に、右膝保持部材15aと左膝保持部材15aとに右膝と左膝とをそれぞれ保持させる。そして、被介護者は、中央部材51の上面51aに胸部を当接させつつ、右側部材52の載置面520に右脇を載置し、左側部材53の載置面530に左脇を載置する。これにより、載置面520、530により、被介護者の右脇及び左脇がそれぞれ保持される。
【0053】
ここで、載置面520、530に被介護者の右脇及び左脇がそれぞれ載置されることにより、
図6の白色矢印で示すように、右側部材52及び左側部材53には、上方から被介護者の体重が負荷される。これにより、右側部材52及び左側部材53は、それぞれ
図5に示す第1位置から第3方向に移動して
図6に示す第2位置に変位する。つまり、
図6の実線矢印で示すように、右側部材52及び左側部材53は、それぞれ移乗装置の下方に向かいながら中央部材51に近接するように移動することにより、第1位置から第2位置に変位する。ここで、第2位置では、右側部材52及び左側部材53が第1位置にあるときに比べて、双方がより中央部材51に近接する状態となる。これにより、上記のように、第2位置では、右側部材52と左側部材53との間隔がW2となり、第1位置における右側部材52と左側部材53との間隔がW1よりも狭くなる。このため、右側部材52及び左側部材53が第2位置に変位することにより、この移乗装置では、被介護者は、中央部材51に胸部を当接させた状態で、右側部材52及び左側部材53によって胴体が両脇から挟持される。こうして、被介護者は、胸部、胴体、右脇及び左脇がそれぞれ中央部材51、右側部材52及び左側部材53によって保持される。
【0054】
この状態において、介護者は再度操作ペダル9の踏込み面9aを踏込むことにより、保持部材5の揺動が可能な状態としつつ、ハンドル70を下方に押し下げることにより、保持部材5を初期位置から
図2に示す移送位置まで揺動させる。これにより、被介護者は、ベッドからお尻が持ち上げられ、移乗装置に全身が移されることとなる。ここで、この移乗装置では、カバー33が設けられていることにより、保持部材5の揺動時に揺動板56が被介護者に接触したり、揺動板56と右側支柱31及び左側支柱32との間に被介護者の衣服等が巻き込まれたりすることが防止される。なお、移送位置まで揺動させた後、介護者は操作ペダル9から足を離すことにより、保持部材5を移送位置で固定する。
【0055】
そして、被介護者を移乗装置に乗せた状態で、移乗装置を車椅子の近傍まで移動するとともに、介護者は、被介護者が車椅子に降りられるように、基台1の前端10a側を車椅子に向ける。その後、介護者は、ハンドル70及び操作ペダル9によって、保持部材5を移送位置から初期位置へ揺動させる。この際、介護者は、必要に応じて第1〜6グリップ701〜706を適宜持ち替えてハンドル70を上方に押し上げる。また、保持部材5を移送位置から初期位置へ揺動させるに当たっては、ダンパ本体11aが一定の抵抗を生じさせつつ、軸方向に伸縮する。これにより、被介護者は、お尻が車椅子に降ろされ、移乗装置から全身が車椅子に移されることとなる。こうして、移乗装置による被介護者のベッドから車椅子への移乗が完了する。
【0056】
このように、この移乗装置では、右側部材52の第1位置から第2位置への変位は、載置面520に被介護者の右脇が載置されることにより行われる。また、左側部材53の第1位置から第2位置への変位は、載置面530に被介護者の左脇が載置されることにより行われる。そして、右側部材52及び左側部材53が第1位置から第2位置へ変位することにより、双方の間隔が狭くなる。このため、この移乗装置では、被介護者の体重により、被介護者の胴体が右側部材52及び左側部材53により両脇から挟持される。
【0057】
このため、この移乗装置では、被介護者が自らの力で右側部材52及び左側部材53を挟む必要がない。また、この移乗装置では、保持部材5に他の部材を付加する必要もない。こうして、この移乗装置では、被介護者を安定的に介護できる。
【0058】
また、上記のように、被介護者の胸部、胴体、右脇及び左脇が中央部材51、右側部材52及び左側部材53によって保持された状態で、保持部材5を移送位置まで揺動させることにより、この移乗装置では、介護者は、おしめ交換等の被介護者の着替えを行うことが可能となる。この際、この移乗装置では、ロックピン110をOFF状態として、ダンパ本体11aの伸縮を禁止することにより、被介護者の着替えを行うに当たって介護者がハンドル70から手を放しても、保持部材5が不意に初期位置へ揺動することを防止できる。
【0059】
したがって、実施例の移乗装置によれば、介護者の負担を軽減しつつ、被介護者を安定的に介護可能である。
【0060】
特に、この移乗装置では支持機構71がダンパ11を有している。そして、保持部材5が移送位置と初期位置との間で揺動するに当たり、ダンパ本体11aが一定の抵抗を生じさせつつ、軸方向に伸縮する。上記のように、保持部材5に被介護者を保持した状態で移送位置から初期位置に保持部材を揺動させる際には、介護者によるハンドル70の操作に加えて被介護者の体重が作用する。このように被介護者の体重が作用する場合であっても、この移乗装置では、ダンパ本体11aの伸縮時における抵抗により、保持部材5が急激に移送位置から初期位置に揺動することを好適に防止できる。これにより、この移乗装置では、保持部材5をゆっくりと移送位置から初期位置に揺動することで、移乗装置から被介護者を安全に降ろすことが可能となっている。
【0061】
また、この移乗装置では、ロックピン110、解除レバー111及び操作ペダル9により、ダンパ本体11aの伸縮の許容と禁止とを切り替えることが可能となっている。このため、この移乗装置では、保持部材5の不意の揺動を防止することが可能となっている。また、この移乗装置では、保持部材5を初期位置と移送位置との間の任意の揺動角度で固定することが可能となっている。これにより、保持部材5に被介護者を保持した状態のまま、任意の揺動角度で保持部材5を固定することができるので、その状態で着替え等の介護を容易に行うことが可能となっている。
【0062】
さらに、この移乗装置では、基台1の前端10a側、つまり、保持部材5が初期位置に向かって揺動する方向側が平坦に形成されている。このため、この移乗装置では、保持部材5を初期位置に揺動させて移乗装置に被介護者を乗せる際に、被介護者が基台1に蹴つまずく等の事態を好適に防止することが可能となっている。また、この移乗装置では、被介護者と移乗装置とを十分に近接させた状態で移乗装置に被介護者を乗せることが可能となっている。
【0063】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0064】
例えば、中央部材51、右側部材52及び左側部材53は、上記の形状に限られず、適宜設計することが可能である。
【0065】
また、リンク機構100とは異なる機構によって、右側部材52及び左側部材53が第1位置と第2位置とに変位するように構成しても良い。