特許第6485836号(P6485836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6485836イグサ由来シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6485836
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】イグサ由来シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/88 20060101AFI20190311BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190311BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20190311BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20190311BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20190311BHJP
   C07C 59/76 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   A61K36/88
   A61P43/00 111
   A61P29/00
   A61P29/02
   A61K31/19
   C07C59/76
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-256020(P2015-256020)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-119635(P2017-119635A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2017年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】300067479
【氏名又は名称】株式会社佐藤園
(73)【特許権者】
【識別番号】397010789
【氏名又は名称】萩原株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】福田 寿之
【審査官】 横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−189693(JP,A)
【文献】 特開2014−185099(JP,A)
【文献】 特開2011−184411(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第2014−0047214(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第2009−0128119(KR,A)
【文献】 特表2004−532811(JP,A)
【文献】 特表2004−529079(JP,A)
【文献】 特表2005−519100(JP,A)
【文献】 Planta Med., 2015 Sep, Vol.81, p.1270-1276
【文献】 Bioorganic Medicinal Chemistry., 2010, Vol.18, p.2204-2218
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
A61K 31/19
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イグサをメタノール又はエタノールで抽出し、さらにn-ヘキサンで抽出する工程を含むことを特徴とする、オキソオクタデカジエン酸の精製方法。
【請求項2】
前記オキソオクタデカジエン酸が、(9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、(10E,12Z)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、(9E,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、及び(10E,12E)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸からなる群から選ばれる1以上である、請求項1に記載のオキソオクタデカジエン酸の精製方法。
【請求項3】
イグサをメタノール又はエタノールで抽出し、さらにn-ヘキサンで抽出する工程を含む、オキソオクタデカジエン酸を精製する工程、
を含むことを特徴とする、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤の製造方法。
【請求項4】
前記オキソオクタデカジエン酸が、(9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、(10E,12Z)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、(9E,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、及び(10E,12E)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸からなる群から選ばれる1以上である、請求項3に記載のシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イグサ由来シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロスタノイド(prostanoid)は、頭痛、歯痛、及び感染症等に伴う急性の痛みと炎症、及びリウマチや関節炎等に伴う慢性の痛みと炎症を惹起する炎症メディエーターである。細胞内では、遊離アラキドン酸がシクロオキシゲナーゼ(Cyclooxygenase;EC1.14.99.1)の作用を受けることで、種々のプロスタノイドが産生される(非特許文献1)。
【0003】
ヒトでは、シクロオキシゲナーゼとして3種類のアイソザイム(Cyclooxygenase-1〜3)が同定されており、このうち、Cyclooxygenase-2(以降、COX-2と略記)は誘導型である。前記急性及び慢性の痛みと炎症は主にCOX-2の作用によることから、COX-2活性を阻害し得る化合物は、解熱鎮痛消炎剤の主成分として用いられてきた(非特許文献1)。さらに、近年、癌、糖尿病、及び神経変性疾患の進行にCOX-2が促進的に働くことが示され、COX-2阻害剤の重要性は一段と高まっている。
【0004】
COX-2阻害剤としては、アスピリン(Aspirin、化合物名はアセチルサリチル酸)を筆頭に、セレコキシブ(Celecoxib、化合物名は4-[5-(4-methylphenyl)-3-(trifluoromethyl)
pyrazol-1-yl]benzenesulfonamide)、ロフェコキシブ(Lofecoxib、化合物名は4-[4-(Methylsulfonyl)phenyl]-3-phenyl-2(5H)-furanone)等、様々な化合物が開発されている。しかしながら、それらの多くは顕著な副作用を有しており、例えば、アスピリンには、胃腸障害、喘息、及び耳鳴りや難聴を引き起こすリスクが知られている。さらに、セレコキシブ及びロフェコキシブに至っては、大腸癌に対する治療効果が臨床試験で認められたにも関わらず、その副作用の深刻さゆえに認可が見送られている(非特許文献2)。
このような事情から、副作用が低いことを期待して、天然の植物から新たなCOX-2阻害成分を同定する試みが精力的に行われている。
【0005】
例えば、特許文献1では、アカショウガをn-ヘキサンで脱脂後に含水エタノールで抽出される抽出物にCOX-2阻害活性があることを報告している。また、特許文献2では、多孔菌科のツガサルノコシカケの子実体の低級アルコール抽出物に含まれるトリテルペン化合物がCOX-2活性を阻害することを示している。そして、特許文献3では、マンゴスチンの果皮に含まれるα−マンゴスチン及びγ−マンゴスチンに、シクロオキシゲナーゼ阻害活性があることを開示している。
【0006】
しかしながら、これらの植物は貴重な薬用植物又は日本では栽培されていない植物であり、材料の入手に多額の費用や時間がかかるという問題がある。
よって、日本国内で自生又は栽培が容易で安価な植物から製造できる新たなCOX-2阻害剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−210993号公報
【特許文献2】特開2005−213144号公報
【特許文献3】特開2002−47180号公報
【特許文献4】特開2003−116499号公報
【特許文献5】特開2000−53557号公報
【特許文献6】特開2014−210724号公報
【特許文献7】特開2002−249436号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Vane J.R., et al, Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 38:97-120, 1998
【非特許文献2】Bertagnolli M., et al, N. Engl. J. Med., 355:873-884, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記従来技術が抱える問題を鑑みてなされたものであり、日本で安価且つ容易に入手できる植物に由来する新たなCOX-2阻害剤とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために本発明者が鋭意検討を行った結果、畳表の材料であるイグサを有機溶媒で抽出して得られる抽出物に、高いCOX-2阻害活性があることを見出した。さらに、当該抽出物に含まれるオキソオクタデカジエン酸に、アセチルサリチル酸よりも高いCOX-2阻害活性があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
イグサは日本全土に自生し、古来より畳や御座の材料として用いられてきた植物である。また、民間薬としても知られており、イグサ全草又は花茎の髄(=灯芯)を乾燥させて煎じた煎汁は、利尿剤、消炎剤、及び鎮静剤として古くから用いられてきた。よって、イグサの全草は、厚生労働省からの通達により、専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)、すなわち医薬品として扱われている(https://hfnet.nih.go.jp/usr/annzenn/image/iyakuhin2参照、ただし、地上部の熱水抽出後の残渣は非医薬品扱い)。さらに、近年、イグサの水又は熱水抽出物に、活性酸素消去作用(特許文献4)、保湿作用(特許文献5)、口腔粘膜保護作用(特許文献6)、及び抗菌作用(特許文献7)があることが見出され、イグサの水又は熱水抽出物を配合した飲料(特許文献4)、化粧品(特許文献5)、口腔用組成物(特許文献6)、及び抗菌剤(特許文献7)等が製造されている。
しかしながら、これらはすべてイグサの水性成分の効用に基づくものであり、これまで、水性成分を抽出した後の残渣が注目されることはなかった。水性溶媒でなく有機溶媒によって抽出されるイグサ成分に優れた薬効があることは、本発明者によって初めて見出されたことである。
【0012】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] イグサの有機溶媒抽出物を有効成分として含むシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤。
[2] 前記有機溶媒が、炭素数が5−10の非置換型炭化水素、及び置換基を除く炭素数が1−6の置換型炭化水素からなる群より選ばれる1以上である、前記[1]に記載のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤。
[3] 前記有機溶媒が、炭素数6の非置換型炭化水素、及び炭素数1−4の低級アルコールからなる群より選ばれる1以上である、前記[1]又は[2]に記載のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤。
[4] 前記有効成分が、オキソオクタデカジエン酸である、前記[1]−[3]のいずれかに記載のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤
[5] 前記オキソオクタデカジエン酸が、(9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、(10E,12Z)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、(9E,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、及び(10E,12E)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸からなる群から選ばれる1以上である、前記[4]に記載のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤。
[6] 前記オキソオクタデカジエン酸が、(9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸である、前記[4]又は[5]に記載のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤。
[7]前記[1]−[6]のいずれかに記載のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤を含有する食品。
[8]前記[1]−[6]のいずれかに記載のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤を含有する医薬部外品。
[9]前記[1]−[6]のいずれかに記載のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤を含有する化粧料。
[10] イグサをメタノール又はエタノールで抽出し、さらにn-ヘキサンで抽出する工程を含むことを特徴とする、イグサ由来シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、安価且つ容易に入手できる植物に由来する新規COX-2阻害剤とその製造方法が提供される。さらに、当該COX-2阻害剤を配合した食品、医薬部外品、及び化粧料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】イグサを複数の有機溶媒を用いて段階的に抽出し、COX-2阻害成分を単離した工程を説明するフローチャートである(実施例2、3)。
図2図1の分画Cを逆相クロマトグラフィーで展開したHPLCチャートである(実施例3)。
図3図2の分画i-ivを逆相クロマトグラフィーで展開したHPLCチャートである(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好適な実施形態について説明する。
以下に、本発明に係るイグサ由来COX-2阻害剤及びその製造方法について詳述する。本発明に係るイグサ由来COX-2阻害剤は、イグサから有機溶媒を用いて抽出されるCOX-2阻害成分を含む剤であり、より詳細には、前記COX-2阻害成分としてオキソオクタデカジエン酸を含む剤である。
なお、本明細書では、ハイフンを用いて数値範囲を表す場合、該ハイフンの前後の数値を含むものとする。例えば、“20−100℃”という記載は、“20℃以上100℃以下”の意である。
【0016】
<シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害剤>
シクロオキシゲナーゼは、シクロオキシダーゼ活性とヒドロペルオキシダーセ活性を有する酵素であり、当該シクロオキシダーゼ活性によってアラキドン酸をプロスタグランジンG2(Prostaglandin G2;PGG2と略記)に変換し、さらに、当該ヒドロペルオキシダーセ活性によってPGG2をプロスタグランジンH2(Prostaglandin H2;PGH2と略記)に変換する。本発明におけるCOX-2阻害剤は、COX-2が有するシクロオキシダーゼ活性及びヒドロペルオキシダーセ活性の少なくとも1以上の活性を阻害し得る化合物を指す。なお、当該COX-2阻害活性は、市販のキット(例として、COX Inhibitor Screening Assay Kit(Cayman Chemical社製))を用いて簡便且つ高感度に評価することが可能である。
【0017】
<イグサ>
イグサ(別名:灯芯草)は学名をJuncus effusus L. var. decipens Buchen.といい、イグサ科イグサ属の単子葉植物である。湿地や浅い水中に自生し、茎(地下茎)を土中に伸ばし、地上には針状の花茎を多数伸ばす。葉は花茎の基部を包む短い鞘状のものに退化しており、外見上はないように見える。花茎は円筒状でまっすぐに伸び、花茎の途中に横に突き出す形で花が付く。基部から花が付くまでの部分が花茎で、花から先端は苞にあたる。畳表に使用されるのは、花茎及び苞の部分である。
本発明には、イグサの地上部、具体的には花茎及び苞の部分を好適に用いることができる。花は含まれていても含まれていなくてもよい。また、灯芯部の有機溶媒抽出物にはCOX-2阻害活性が検出されないことから、灯芯部を予め除去してもよい。
【0018】
イグサは栽培法が確立しており、本発明には自生イグサ、栽培イグサの両方を用いることができる。また、市販品を用いてもよく、例として、株式会社ウチダ和漢薬製の“灯芯草”、株式会社栃本天海堂製の“トウシンソウ”、イナダ有限会社製の“無添加!いぐさ野菜100%の『いぐさ野菜の粉』”等が挙げられる。
このうち、前記“無添加!いぐさ野菜100%の『いぐさ野菜の粉』”は、イグサを熱湯消毒後に乾燥して粉砕化したものであり、食物繊維の摂取を目的とした食品である。このように、イグサは常用しても副作用が少ないと考えられている。
【0019】
<抽出溶媒>
本発明に用いることができる有機溶媒は、常温常圧下(本明細書では、20℃1気圧下とする)で液体の有機化合物であり、植物からの脂溶性成分の抽出に通常用いられるものであってよい。そのような有機溶媒の例としては、非置換型又は置換型の炭化水素が挙げられる。本発明における非置換型炭化水素とは、アルカン、アルケン、アルキン、シクロアルカン、及び芳香族炭化水素等を指し、これらの化合物の水素原子の一部が置換基で置換されたものが置換型炭化水素である。
【0020】
前記置換型炭化水素における好適な置換基の例としては、ハロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アセチル基、シアノ基、アルキル基、及びアルコキシ基等が挙げられる。前記アルキル基及びアルコキシ基は炭素数が1−3であることが好ましい。また、置換型炭化水素1分子に占める置換基の数は、1−3であってよい。
【0021】
本発明には、炭素数が5−10の非置換型炭化水素、及び置換基を除く炭素数が1−6の置換型炭化水素からなる群より選ばれる1以上の炭化水素を、有機溶媒として好適に用いることができる。当該炭化水素の具体例としては、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、二塩化エチレン、酢酸エチル、クロロホルム、アセトニトリル、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、エタノール、メタノール等が挙げられる。なお、エタノールについては、体積比にして30%以下であれば水を含んでいてもよい。
上記のうち、炭素数6の非置換型炭化水素(n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン)及び炭素数1−4の低級アルコール(1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、エタノール、メタノール)が特に好ましく、最も好ましくはn-ヘキサン、メタノール、及びエタノール(100%又70%)である。
【0022】
本発明には、上記有機溶媒を単独又は混合して用いてもよい。
【0023】
<抽出方法>
イグサからのCOX-2阻害成分の抽出は、イグサを前記有機溶媒と混合し、一定時間保温することで行うことができる。その際、水又は水系溶媒との混液であってもよい(すなわち、液液分配法を用いてもよい)。
イグサは、生の状態(乾燥させていない状態)で有機溶媒と混合してもよいが、抽出効率を高めるために、乾燥させてから有機溶媒と混合することが好ましい。また、抽出効率をより高めるために、細断化又は粉末化されていることが好ましい。さらに、イグサの熱水抽出残渣(例えば、100℃で8分間以上抽出した後の残渣)を用いても良い。
【0024】
抽出温度は、常温から溶媒の沸点の範囲内の温度で、溶媒の種類に応じて適宜調整することができる。加圧、常圧、減圧下で行ってもよい。抽出時間も、溶媒の種類に応じて適宜調整してよい。例えば、20-100℃、好ましくは30-80℃の範囲内で、10分−3時間、好ましくは、30分−2時間の範囲内で行ってもよい。さらに、前記保温期間中に、溶媒の攪拌又は還流を行うと一層好ましい。
また、複数の有機溶媒を用いて段階的に抽出してもよい。ここで、段階的に抽出するとは、ある溶媒で抽出して得られた抽出物を、さらに別の溶媒で抽出することを指す。
複数の有機溶媒による段階的抽出の好適な例としては、イグサをメタノール又は70%エタノール(エタノール:水=7:3体積比の混合物)で抽出し、得られた抽出物をn-ヘキサンで抽出する方法が挙げられる。
【0025】
前記抽出工程後、濾過等によって不溶物を除去することで、イグサ由来有機溶媒抽出液を得ることができる。当該イグサ由来有機溶媒抽出液は、イグサ由来有機溶媒抽出物としてそのまま用いてもよく、また、濃縮、乾固、又は溶媒除去したものをイグサ由来有機溶媒抽出物としてもよい。溶媒除去は当業者に周知の方法で行ってよく、例えば、減圧溶媒留去、凍結乾燥等が挙げられる。さらに、前記イグサ由来有機溶媒抽出液を当業者に周知の方法を用いて分画し、COX-2阻害活性が検出された分画をイグサ由来有機溶媒抽出物としてもよい。
【0026】
<オキソオクタデカジエン酸>
オキソオクタデカジエン酸には複数の立体異性体が存在し得るが、本発明者によりイグサの成分として見出されたのは、下記式(1)で表される(9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、下記式(2)で表される(10E,12Z)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、下記式(3)で表される(9E,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、及び、下記式(4)で表される(10E,12E)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸の4種類である。
【0027】
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【0028】
本発明に係るイグサ由来COX-2阻害剤に含まれるオキソオクタデカジエン酸は、前記4種類の立体異性体から選ばれる1種以上であってよい。より好ましくは、(9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(式(1))、(9E,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(式(3))、及び(10E,12E)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(式(4))から選ばれる1種以上、さらに好ましくは、(9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(式(1))、及び(10E,12E)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(式(4))から選ばれる1種以上、最も好ましくは、(9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(式(1))である。
なお、前記4種類の立体異性体にはさらに(R)体と(S)体の光学異性体が存在し得るが、本発明のCOX-2阻害剤に含まれるオキソオクタデカジエン酸は(R)体と(S)体のいずれでもよく、また、両者の混合物であってもよい。
【0029】
前記オキソオクタデカジエン酸及び各異性体は、例えば、前記イグサ有機溶媒抽出液を高速液体クロマトグラフィー法(High performance liquid chromatography;HPLC法)を用いて分画し、得られた分画のCOX-2阻害活性を測定することで単離することが可能である。
【0030】
使用する有機溶媒の種類及び抽出条件によっても異なるが、例えば、メタノールを用いて70℃で抽出した場合には、目安として、乾燥イグサ1gから約0.3-0.45mgのオキソオクタデカジエン酸を得ることが可能である。このうち、前記各異性体ごとの収量は、目安として、(9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、(10E,12Z)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、(9E,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、及び、(10E,12E)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸は、各々、約0.06-0.1mg、約0.1-0.13mg、約0.06-0.08mg、及び約0.08-0.14mg程度である。
【0031】
<イグサ由来COX-2阻害剤の使用>
本発明に係るCOX-2阻害剤は、賦形剤(ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、デンプン等)、結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム等)、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸等)等と混合し、常法に従って製剤化して摂取してもよい。剤形は特に限定されないが、経口用製剤が好ましく、例えば、錠剤、散在、顆粒剤、カプセル剤等の固形剤、ゲル剤等の半固形剤、及び懸濁剤、乳剤等の液剤が挙げられる。
【0032】
本発明に係るCOX-2阻害剤は、アスピリンと同様に、解熱及び鎮痛を目的として摂取してもよい。その場合の摂取量は、目安として、オキソオクタデカジエン酸量に換算して1日体重1kgあたり約0.02-5.0mg、好ましくは、約0.01-2.0mgであってよい。
【0033】
また、本発明に係るCOX-2阻害剤は、トローチ(特に、口内炎用トローチ)、歯磨き剤等の医薬部外品に配合してもよい。好ましい配合量の目安は、医薬部外品の全重量の約0.5−10.0%、好ましくは、約1.0−5.0%であってよい。これらの医薬部外品を日常的に使用することにより、口腔内疾患の予防又は治療効果が期待される。
【0034】
さらに、本発明に係るCOX-2阻害剤は、化粧料に配合してもよい。当該化粧料の種類は特に限定されないが、例えば、乳液、クリーム、リップクリーム、口紅等が挙げられる。これらの化粧料は、本発明に係るCOX-2阻害剤を油相に添加し、その後定法に従って乳化を行うことで製造することができる。本発明に係るCOX-2阻害剤の好適な配合量は、目安として、化粧料の全重量の約0.05−10.0%、好ましくは、約0.1−5.0%であってよい。
【0035】
本発明に係るCOX-2阻害剤は、食品に添加してもよい。本発明に係るCOX-2阻害剤を添加する食品の種類は特に限定されないが、好適な例として、菓子類、パン類、レトルト食品等が挙げられる。本発明に係るCOX-2阻害剤が添加された食品は、リウマチや関節炎等の慢性炎症性疾患用機能性食品としてもよい。本発明に係るCOX-2阻害剤の好適な配合量は、目安として、食品の全重量の約0.5−20.0%、好ましくは、約1.0−10.0%であってよい。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
以下の実施例では、各種溶媒によって抽出された抽出液から該溶媒を除去したものを“抽出物”と呼ぶ。また、抽出溶媒における“%”は、水で希釈した場合の該溶媒の体積%を表し、%の記載のないものは溶媒100%であることを表す。その他、含有量、収率、及び配合量における“%”は“重量%”である。
最初に、実施例で行ったCOX-2阻害活性の測定方法について説明する。
【0037】
<COX-2阻害活性の測定>
前述したように、COX-2は、当該シクロオキシダーゼ活性によってアラキドン酸をPGG2に変換し、当該ヒドロペルオキシダーセ活性によって前記PGG2をPGH2に変換する酵素である。本願実施例では、COX Inhibitor Screening Assay Kit(Cayman Chemical社製)を用いて、COX-2、アラキドン酸、及び被験物質の存在下で生じるPGH2量(厳密には当該還元産物量)を測定した。陰性コントロール(ジメチルスルホキシドのみ)を添加した場合に生じる前記PGH2量を100%(=COX-2活性が100%の状態)として、各被験物質を添加した場合に生じる前記PGH2量との差分をCOX-2活性阻害率(%)として算出した。なお、陽性コントロールとしては、代表的なCOX-2であるアセチルサリチル酸を用いた。
【0038】
[実施例1:イグサ抽出物のCOX-2阻害活性]
乾燥イグサをミルで粉砕し、得られたイグサ粉砕物0.5gを10mlの抽出溶媒に懸濁して、室温で30分間超音波処理を行った(超音波処理終了後の液温は約35−40℃)。使用した抽出溶媒は、n-ヘキサン、メタノール、エタノール、含水エタノール(エタノール濃度:70%、50%、又は30%)、又は熱水である。その後遠心を行って上清を回収し、減圧溶媒留去して抽出物を得た。当該抽出物を終濃度50μg/mlとなるようにジメチルスルホキシドに溶解し、手法1に従ってCOX-2阻害活性を測定した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示されるように、イグサをn-ヘキサン、メタノール、100%エタノールで抽出した抽出物には高いCOX-2阻害活性が認められた。これに対し、70%エタノール抽出物のCOX-2阻害活性は100%エタノール抽出物の活性の約43%であり、エタノール濃度が50%以下の含水エタノール抽出物ではCOX-2阻害活性は検出されなかった。さらに、熱水で抽出した抽出物にはCOX-2阻害活性は検出されなかった。
よって、イグサにはCOX-2活性を阻害する成分が含まれており、当該成分は熱水では抽出されないが有機溶媒によって抽出されることが明らかとなった。
【0041】
前述したように、イグサの熱水抽出物は医薬品だが、当該熱水抽出残渣、具体的にはイグサ地上部を100℃で8分間以上抽出した後の残渣は非医薬品として扱われている(https://hfnet.nih.go.jp/usr/annzenn/image/iyakuhin2参照)。そこで、前記COX-2活性を阻害する成分が熱水では抽出されないことを確認するために、以下の実験を行った。
乾燥イグサ5gを2-3cm長に切断し、該切断物に熱水200mlを加えて、100℃で8分間抽出した。その後濾過を行い、濾液と残渣に分けた。前記濾液に対しては、減圧溶媒留去を行い、熱水抽出物0.41gを得た。前記残渣に対しては、100%エタノール200mlを加えて80℃で2時間還流抽出を行い、濾過して得られた濾液を減圧溶媒留去して、エタノール抽出物(熱水抽出残渣の100%エタノール抽出物)0.34gを得た。これら2種類の抽出物に対し、手法1に従ってCOX-2阻害活性を解析した(表2)。
【0042】
【表2】
【0043】
表2より、イグサ中のCOX-2阻害成分は熱水では抽出されず、熱水抽出後の残渣にすべて残留することが確認された。これにより、本発明において見出されたイグサCOX-2阻害成分は、これまで知られているイグサの効能を担う成分とは別物であることが示された。
【0044】
[比較例1:イグサ灯芯部のCOX-2阻害活性]
イグサの灯芯部は、煎じて飲むと消炎効果が得られることから、特に薬効が高い部位とされている。そこで、イグサの灯芯部から有機溶媒抽出物を作製して、COX-2阻害活性の有無を検討した。
イグサ灯芯部(=花茎の髄のみ)0.6gを1-2cmに切断し、メタノール100mlを加えて70℃で2時間還流抽出を行った。その後濾過を行い、得られた濾液を減圧溶媒留去して、イグサ灯芯部メタノールエキス28.1mgを得た。当該抽出物を終濃度50μg/mlとなるようにジメチルスルホキシドに溶解し、手法1に従ってCOX-2阻害活性を測定した。なお、比較のために、後述する実施例2で製造したメタノール抽出物(表4)をイグサ全草メタノール抽出物として解析した。結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
表3に示されるように、灯芯部のメタノール抽出物にはCOX-2阻害活性が検出されなかった。よって、民間薬として周知のイグサ由来消炎剤は、本発明のCOX-2阻害成分とは異なる成分を有効成分としていることが示された。また、本発明のイグサ由来COX-2阻害剤の製造には、灯芯部を除去したイグサを用いてもよいことも示された。
【0047】
[実施例2:イグサCOX-2阻害成分の抽出及び分画]
イグサを有機溶媒で段階的に抽出して、COX-2阻害成分の濃縮を試みた。具体的には、イグサをメタノールで抽出し、さらに(該メタノール抽出物から)n-ヘキサン可溶性成分と酢酸エチル可溶性成分を抽出し、これらの抽出物をカラムクロマトグラフィーで分画してCOX-2阻害活性を測定した。抽出及び分画工程のフローチャートを図1に示す。
【0048】
<抽出及び分画>
乾燥イグサ400gを2-3cm長に切断し、メタノール8リットルを加えて70℃で2時間還流抽出を行った後、濾過を行って濾液と残渣を得た。当該残渣に6リットルのメタノールを加え、70℃で2時間還流抽出を行った後、濾過して濾液と残渣を得た。前記2回目の還流抽出で得られた濾液を前記1回目の還流抽出で得られた濾液と合わせてイグサのメタノール抽出液とし、当該メタノール抽出液を減圧溶媒留去してメタノール抽出物(図1及び表4中の試料1)45gを得た。
前記メタノール抽出物に温水1リットルを加えて懸濁させた後、n-ヘキサン1リットルを加えて液液分配抽出を行い、ヘキサン層と水層を得た。当該水相に対してn-ヘキサンによる液液分配抽出をさらに3回行い、計4回の液液分配抽出で得られたヘキサン層を合わせてヘキサン抽出液とした。当該ヘキサン抽出液を減圧溶媒留去し、乾燥させて、ヘキサン抽出物(試料6)4.36gを得た。
前記液液分配抽出で得られた水層に対し、酢酸エチル1リットルを用いた液液分配抽出を計3回行い、得られた酢酸エチル層をすべて合わせて酢酸エチル抽出液とした。当該酢酸エチル抽出液を減圧溶媒留去し、乾燥させて、酢酸エチル抽出物(試料2)6.64gを得た。
【0049】
前記水−酢酸エチル液液分配後で得られた水層をすべて合わせた後、減圧溶媒留去し、水を加えて再溶解させた。当該溶解液を、合成吸着樹脂(ダイアイオンHP-20(三菱化成製)、750ml)を用いたカラムクロマトグラフィーに供した。水、50%メタノール、100%メタノールの3種類の溶出液でステップワイズ溶出を行い、各溶出液で得られた分画を減圧溶媒留去し乾燥させて、酢酸エチル−水抽出物(試料3)28.72g、酢酸エチル−50%メタノール抽出物(試料4)2.58g、酢酸エチル−100%メタノール抽出物(試料5)1.17gを得た。
【0050】
<COX-2阻害活性の測定>
上記抽出及び分画によって得られた各抽出物を、終濃度20μg/ml又は50μg/mlとなるようにジメチルスルホキシドに溶解し、手法1に従ってCOX-2阻害活性を測定した。結果を表4に示す。なお、表4中の“収率”は、得られた各抽出物の総重量の、初期材料(乾燥イグサ400g)に対する割合を表す。
【0051】
【表4】
【0052】
表4に示されるように、前記ヘキサン抽出物(試料6:イグサのメタノール抽出物をさらにn-ヘキサンで抽出した抽出物)は、メタノール抽出物(試料1)及び陽性コントロールのアセチルサリチル酸よりも強くCOX-2活性を阻害した。これに対し、前記酢酸エチル抽出物(試料2:イグサのメタノール抽出物のうち、n-ヘキサン不溶性且つ酢酸エチル可溶性成分)にはCOX-2阻害活性が検出されず、該酢酸エチル抽出物をさらに分画して得られた抽出物(試料3−5)にもCOX-2阻害活性は認められなかった。
よって、イグサのCOX-2阻害成分は、メタノールで抽出後さらにヘキサンで抽出することによって濃縮されることがわかった。また、試料2−5にはCOX-2阻害活性が検出されなかったことから、当該COX-2阻害成分は脂溶性の高い成分であることが示唆された。
【0053】
[実施例3:イグサCOX-2阻害成分の同定]
実施例2で得られたヘキサン抽出物から、イグサのCOX-2阻害成分の同定を試みた。
前記ヘキサン抽出物4.36gをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(200ml)に供し、クロロホルム:メタノール:水=95:5:0、90:10:0、78:20:2の3種類の溶出液でステップワイズ溶出を行い、10の分画(分画Aから分画J)に分画した。各分画を減圧溶媒留去して乾燥させた後、終濃度20μg/ml又は50μg/mlとなるようにジメチルスルホキシドに溶解し、手法1に従ってCOX-2阻害活性を測定した。結果を表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
表5に示されるように、分画A−GにCOX-2阻害活性が検出され、特に分画B−Eには高いCOX-2阻害活性が認められた。このうち、最も活性の高い分画C(1.61g)を下記条件の逆相クロマトグラフィー(分取HPLC)によって展開し、複数の化合物を分取した。当該分取HPLCのチャートを図2に示す。
<分取HPLC条件>
装置:Prominence UFLCシステム(株式会社島津製作所製)、ソフトウエア:LabSolutions v.5.57、カラム:COSMOSIL 2.5Cholester(2.5μm)径3.0×100mm(ナカライテスク株式会社製)、移動相:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液:アセトニトリル=50:50、流速:0.75ml/min、カラム温度40℃、検出:UV203−400nm
【0056】
前記分取HPLCで得られた化合物(分画)のCOX-2阻害活性を測定した。その結果、当該HPLCチャート(図2)において、溶出開始から9.387分、10.012分、10.641分、11.708分後の溶出ピークを含む4分画(図2中の分画i−iv)に、顕著なCOX-2阻害活性が検出された(表6)。当該4分画を前記分取HPLCと同じクロマトグラフィー条件で展開すると、いずれも単一の溶出ピークが得られたことから(図3)、各分画は単一の化合物を含むと考えられる。そこで、当該4分画に含まれる化合物を、溶出時間の早い順に化合物1−4と呼ぶことにした。なお、前記分画C(1.61g)から分取HPLCによって得られた各化合物量は、化合物1が2.2mg、化合物2が2.0mg、化合物3が2.3mg、化合物4が2.5mgであった。
【0057】
【表6】
【0058】
前記化合物1−4の化学構造を決定するために、NMRスペクトルを測定した。結果を以下に示す。
<化合物1>
1H−NMR(CDCL3)δ:0.87(3H,t,J=7Hz),1.23−1.31(12H,m),1.38−1.42(2H,m),1.59−1.63(2H,m),2.26−2.31(2H,m),2.33(2H,t,J=7.5Hz),2.52(2H,t,J=7.5Hz),5.88(1H,dt,J=11,7.5Hz),6.10(1H,t,J=11Hz),6.16(1H,d,J=15.5Hz),7.47(1H,dd,J=15.5,11.5Hz).
<化合物>
1H−NMR(CDCL3)δ:0.87(3H,t,J=7Hz),1.23−1.31(12H,m),1.38−1.42(2H,m),1.61(2H,m),2.26−2.29(2H,m),2.32(2H,t,J=7.5Hz),2.52(2H,t,J=7.5Hz),5.89(1H,dt,J=11,7.5Hz),6.09(1H,t,J=11Hz),6.14(1H,d,J=15.5Hz),7.47(1H,dd,J=15.5,11.5Hz).
<化合物>
1H−NMR(CDCL3)δ:0.87(3H,t,J=7Hz),1.23−1.35(12H,m),1.4(2H,m),1.57−1.63(2H,m),2.14−2.16(2H,m),2.33(2H,t,J=7.5Hz),2.51(2H,t,J=7.5Hz),6.06(1H,d,J=11.5Hz),6.13−6.15(2H,m),7.11(1H,dm,J=15.5Hz).
<化合物>
1H−NMR(CDCL3)δ:0.87(3H,t,J=7Hz),1.23−1.30(12H,m),1.38−1.44(2H,m),1.57−1.62(2H,m),2.13−2.17(2H,m),2.32(2H,t,J=7.5Hz),2.51(2H,t,J=7.5Hz),6.05(1H,d,J=11.5Hz),6.14−6.16(2H,m),7.11(1H,dm,J=15.5Hz).
<参考文献>
Claire Dufour and Mich`ele Loonis, Chemistry and Physics of Lipids, 138:60-68, 2005, “Regio- and stereoselective oxidation of linoleic acid bound to serum albumin: identification by ESI-mass spectrometry and NMR of the oxidation products.”
【0059】
上記参考文献と、市販の標準品のHPLC溶出時間との比較により、前記化合物1−4は、いずれもオキソオクタデカジエン酸の立体異性体であることがわかった。具体的には、化合物1は、下記式(1)で表される(9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、化合物2は、下記式(2)で表される(10E,12Z)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、化合物3は、下記式(3)で表される(9E,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、化合物4は、下記式(4)で表される(10E,12E)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸である。
【0060】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0061】
表6の結果と合わせると、化合物1−4のうち化合物1(=(9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸)のCOX-2阻害活性が最も高く、単位重量当たりの比活性はアセチルサリチル酸を遥かに超えていた。続いて、化合物4(=(10E,12E)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸)の活性が高く、その次に化合物3(=(9E,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸)の活性が高いことがわかった。これまで、オキソオクタデカジエン酸がCOX-2活性を阻害し得ることは知られてなく、また、オキソオクタデカジエン酸がイグサに含まれることも、本発明において初めて明らかとなったことである。
【0062】
以上より、イグサの有機溶媒抽出物にはオキソオクタデカジエン酸、さらに詳細には、(9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、(10E,12Z)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、(9E,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、及び(10E,12E)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸の4種類の立体異性体が含まれており、これらの異性体はすべてCOX-2阻害活性を有することが明らかとなった。
【0063】
[実施例4:イグサ有機溶媒抽出物のオキソオクタデカジエン酸含有量]
イグサから種々の有機溶媒を用いて抽出されるオキソオクタデカジエン酸の量を測定した。
乾燥イグサをミルで粉砕し、得られたイグサ粉砕物0.5gを10mlの抽出溶媒に懸濁して、室温で30分間超音波処理を行った(超音波処理終了後の液温は約35−40℃)。使用した抽出溶媒は、n-ヘキサン、メタノール、エタノール、70%エタノール、又は熱水である。その後遠心を行って上清を回収し、該上清を前記分取HPLC法を用いて展開、化合物1−4の含有量を算出した。乾燥イグサ1gあたりの含有量に換算した値を表7に示す。
【0064】
【表7】
【0065】
表7より、メタノール又は70%エタノールを用いて抽出した場合には、乾燥イグサ1gから約0.3-0.45mg程度のオキソオクタデカジエン酸が得られ、(9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(化合物1)、(10E,12Z)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(化合物2)、(9E,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(化合物3)、及び、(10E,12E)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(化合物4)としては各々、約0.06-0.1mg、約0.1-0.13mg、約0.06-0.08mg、及び約0.08-0.14mg程度得られることが明らかとなった。また、100%エタノールを用いて抽出した場合にも、化合物1−4として各々、約0.04-0.07mg、約0.07-0.09mg、約0.03-0.06mg、約0.06-0.08mg、オキソオクタデカジエン酸としては約0.2-0.3mg程度得られることがわかった。n-ヘキサンを用いた場合には、メタノール又はエタノール(100%又は70%)を用いた場合と比べてオキソオクタデカジエン酸の収量は減少したが、抽出物に占めるオキソオクタデカジエン酸の割合は高かった。
これに対し、乾燥イグサを熱水で抽出した抽出物中には、オキソオクタデカジエン酸は検出されなかった。
【0066】
以上より、イグサを有機溶媒で抽出することにより、オキソオクタデカジエン酸、さらに詳細には、(9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、(10E,12Z)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、(9E,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、及び、(10E,12E)-9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸が得られることが確認された。
【0067】
以下に、本発明に係るCOX-2阻害剤を配合した製品の実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の配合量はいずれも重量%を表し、各製品は特に断りがない場合には定法に従って製造した。
【0068】
[実施例5:錠剤]
<処方>
成分 配合量
乳糖 84.0
アスコルビン酸ナトリウム 10.0
乾燥コーンスターチ 3.0
タルク 1.8
イグサヘキサン抽出物(実施例3の分画iから溶媒除去したもの) 1.0
ステアリン酸ナトリウム 0.2
合計 100.0
<製法>
上記成分を均一に混合した混合物を単発式打錠機を用いて打錠し、直径5mm、質量15mgの錠剤を得た。
【0069】
[実施例6:トローチ]
<処方>
成分 配合量
ブドウ糖 74.3
乳糖 16.5
アラビアガム 5.0
イグサヘキサン抽出物(実施例2のヘキサン抽出物) 2.5
香料 1.0
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.7
合計 100.0
【0070】
[実施例7:練り歯磨き]
成分 配合量
炭酸カルシウム 50.0
グリセリン 25.0
イグサn-ヘキサン抽出物(実施例1のn-ヘキサン抽出物) 4.0
カルボキシメチルセルロース 2.0
ラウリル硫酸ナトリウム 2.0
香料 1.0
ラクトフェリン 0.6
サッカリン 0.1
クロルヘキシジン 0.01
精製水 残余
合計 100.
【0071】
[実施例8:乳液]
成分 配合量
(油相)
セチルアルコール 1.0
ミツロウ 0.5
ワセリン 2.0
スクワラン 5.0
ジメチルポリシロキサン(6cs) 2.0
イグサn-ヘキサン抽出物(実施例1のn-ヘキサン抽出物) 1.0
POE(10)モノオレイン酸エステル 1.0
グリセロールモノステアリン酸エステル 1.0
香料 適量
防腐剤 適量
(水相)
グリセリン 4.0
1,3−ブチレングリコール 4.0
精製水 残余
合計 100.0
(製法)
水相及び油相をそれぞれ70℃で加熱溶解し、該水相をホモミキサーで攪拌しながら、該水相に前記油相を添加して乳化させた。その後、当該混合液を脱気し、室温にまで冷却して水中油型乳液を得た。
【0072】
[実施例9:クリーム]
成分 配合量
(油相)
マイクロクリスタリンワックス 10.0
固形パラフィン 2.0
ミツロウ 3.0
ワセリン 7.0
スクワラン 34.0
イグサメタノール抽出物(実施例1の100%メタノール抽出物) 1.0
モノオレイン酸グリセリン 3.0
POE(20)ソルビタンモノオレイン酸エステル 1.0
(水相)
プロピレングリコール 4.0
精製水 残余
合計 100.0
(製法)
水相及び油相をそれぞれ70℃で加熱溶解し、該油相をホモミキサーで攪拌しながら、該油相に前記水相を徐々に添加して乳化させた。その後、当該混合液を脱気し、室温にまで冷却して油中水型クリームを得た。
【0073】
[実施例10:グミゼリー]
成分 配合量
ゼラチン 60.0
水飴 20.0
砂糖 8.0
イグサエタノール抽出物(実施例1の100%エタノール抽出物) 5.0
植物油脂 4.5
マンニトール 2.0
香料 0.5
合計 100.0
【産業上の利用可能性】
【0074】
近年、住宅の洋風化に伴い、畳表の原料としてのイグサの需要は急激に落ち込んでいる。一方で、イグサは医薬品として注目を集めており、イグサの用途は畳表から医薬品、医薬部外品、健康食品等へと変わりつつある。
本発明は、これらのイグサ由来製品を製造する際に生じる熱水抽出残渣(産業廃棄物)が貴重な医薬品原料となることを開示するものであり、当該産業廃棄物の新たな且つ非常に有益な用途を提供するものである。
図1
図2
図3