【実施例】
【0049】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。
【0050】
1.活性成分の分離・精製
まず、梅肉エキスの濃縮液の調製を行った。ウメのDNAのみからなる野生種のウメ(品種:白加賀)を粉砕・搾汁し、得られた搾汁を加熱濃縮して、梅果汁の濃縮液(梅肉エキス)を得た。
【0051】
梅肉エキスに含まれる水溶性成分を分析するため、上記の濃縮液1gを39gの3mM硫酸水溶液(HPLCの移動相)で希釈(40倍希釈)し、メンブレンフィルターで不溶物を除去して、希釈液を得た。この希釈液の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)クロマトグラムを
図1に示す。HPLC分析条件は以下の通りであった。クロマトグラム中の活性成分と思われる目的成分は、RT21.1分のピークである。
[HPLC分析系]
装置:日本分光製高速液体クロマトグラフ
カラム:Excelpak CHA-E11(300mm×4.6mm I.D. Yokogawa analytical system)を2本連結
移動相:3mM硫酸水溶液
流速:0.5mL/min
カラム温度:55℃
注入量:20μL
検出波長:210nm
【0052】
次に、活性成分を含む画分の調製を行った。上記の濃縮液400gに水800mLを加え、遠心分離することによって、沈降物を除去し、上清1を得た。続いて、上清1に水酸化ナトリウム水溶液(40g/100mL)を少量ずつ加え、液性がpH6.8となるように中和した後、上記上清に含まれるクエン酸、リンゴ酸、ペクチン等を除くために塩化カルシウム(225g/400mL)を添加し、混合物を得た。上記混合物には、クエン酸、リンゴ酸、ペクチン等のカルシウム塩が生じるが、これらの塩を遠心分離することによって沈降させ、上清2を得た。さらに、上清2に水酸化ナトリウム水溶液(40g/100mL)を少量添加することによってpHを5.8に調整した(液量として800mL)。この溶液40mLあたりに、60mLのエタノール(エタノール濃度が60%となるように)を添加し、エタノール沈降反応を行った。60%エタノール溶液を含む混合物を遠心分離し、上清(エタノール溶性画分)と沈降物(エタノール不溶性画分)に分け、沈降物に水を加えて400mLとし、再びエタノール(600mL)を加え、同様に遠心分離し、沈降物を得た。
【0053】
上記の沈降物に精製水を加えて400mLとし、この溶液を、1kD限外ろ過膜を通過させることによって高分子成分を除去し、低分子成分を含むろ液を得た。上記ろ液にエタノールを加え60%エタノール溶液とし、遠心分離することで沈降物を得、かかる沈降物に精製水250mLを加え、リンゴ酸カルシウム塩といった水に難溶な物質を除去した。難溶物を除去した溶液をエバポレーターによって濃縮し、水に易溶性な成分を含む濃縮物を得た。この濃縮物に含まれる成分をHPLCで分析した。HPLCクロマトグラムを
図2に示す。
図2のHPLC分析条件は、
図1のHPLC分析条件と同じである。この濃縮物では一部の梅エキス由来の夾雑物質が除去され、活性成分と思われる成分に由来するピーク(RT21.1分)の構成比が増し、部分的な精製がなされた。
【0054】
上記の活性成分を含む画分のHPLCクロマトグラムを拡大して観察した結果、活性成分のピーク(RT21.1分)の左ショルダーに膨らみ(ショルダーピーク)がみられ、僅かに保持時間が短い成分のピークが重なっていることが確認された。このショルダーピークの成分は、活性成分中の主要ピークと保持時間が非常に近接していることから、関連する成分と予測し、液性の変化に伴うピークの挙動を調査した。その結果、液性を中性〜アルカリ性に調節し、121℃で、30分の加熱処理を行った結果、HPLCクロマトグラム上において、ショルダーピークの位置に相当するRT20.7分の成分が増加することを確認した。上記の活性成分を含む画分の一部をアルカリ添加条件下で加熱処理したサンプルのクロマトグラムを
図3に示す。
【0055】
上記の濃縮物([0053])の分画から、梅肉エキスに由来する活性成分(
図3のRT21.1分の成分)と、その活性成分がアルカリ加熱によって変化した成分(
図3のRT20.7分の成分:以下、活性成分の派生物)について、分取用HPLCによってさらに精製を行うとともに、より分離能に優れたカラムを用いたHPLC評価系において成分の分析を行った。この分析結果を
図4に示す。高分離能カラムを用いた結果、当初1本のピークとして観察されていた活性成分(
図3のRT21.1分の成分)は2本(
図4のピークAおよびB)に分かれた。また、活性物質の派生物(
図3のRT20.7分の成分)は、この高分離能カラムを用いた結果、3成分(
図4のピークC、D、E)に分離された。後述する解析で、このピークA及びピークBは分子量が289の化合物I、ピークC、D、Eは分子量が307の化合物Vおよび化合物IXであることが判明した。
【0056】
高分離能カラムを用いたHPLC分析条件は以下のとおりである。
[HPLC分析系]
装置:Agilent Technologies製 1200型
カラム:Thermo Fisher SCIENTIFIC製 FLUOPHASE PFP (4.6×100mm, 5μm)
移動相:A:0.1%ギ酸水溶液 B:アセトニトリル A/B=98/2
流速:0.8mL/min
カラム温度:35℃
注入量:10μL
検出波長:200nm
2.化合物I及び化合物Vの合成および構造解析
【0057】
化合物I及び化合物Vの合成方法および構造解析のデータを示す。
【0058】
(化合物Iの合成)
【化23】
【0059】
450gのクエン酸(一水和物)(3.56mol)に水を加えて500mLの濃厚なクエン酸溶液を調製し、この溶液に60gのL−アスパラギン(最終濃度0.667mol/L)と、9gのL−アスパラギン酸(最終濃度0.113mol/L)を加え、メスアップして液量を600mLとした。この反応液を耐圧ガラス容器に入れて密栓し、90℃の水浴中で加温し、添加したL−アスパラギンやL−アスパラギン酸を完全溶解した。次に、加温して80℃程度にしたオートクレーブ内に、この耐圧容器内の反応液を入れ、121℃で180分間加熱処理した。
【0060】
反応後、上記反応液を25℃まで自然冷却した後、5Lのビーカーに反応液を取り出し、氷冷した。約120gの水酸化ナトリウムを500mLの精製水に溶解し、この水酸化ナトリウム水溶液を氷冷し、上記の反応液に徐々に加えて、反応液をpH5.8に中和した(中和熱で発熱するため25℃になるのを確認しながら中和した)。中和後に反応液の容量を精製水で1200mLとした。次に、200gの塩化カルシウム(二水和物)を2Lの精製水に溶解し、塩化カルシウム溶液を調製し、その約半量を上記の反応液に加えて、よく撹拌し、約16時間静置した。溶液には白色に沈降物(クエン酸カルシウム)が析出した。さらに塩化カルシウム溶液を加えると白色沈降物が新たに沈降したので、徐々に塩化カルシウム溶液を追加して、1200mLの中和した反応液に、上記の塩化カルシウム溶液を約2L(塩化カルシウム量で、1.36mol)加えた。この混合溶液に精製水を加えて全量を3600mLとし、その後にクエン酸カルシウムである白色沈降物を遠心分離により除去し、上清を回収した。次に、この上清をエバポレーターで800mLに濃縮した。濃縮した水溶液に1860mLのエタノールを加えて撹拌した。しばらく静置すると、エタノールを加えた混合液は2層に分離し、比較的透明な上層(エタノール層)と、着色が見られ粘性のある下層溶液とに分かれた。下層を分液回収し、精製水で800mL程に希釈した後、エバポレーターで溶液中に残存するエタノールを留去した。得られた下層の水溶液(粗精製溶液I)のHPLC分析を行ったところ、RT 21.1分にピークが見られたことから、先に梅肉エキスから抽出・分離した活性成分と同じ成分が合成されたことが確認された(
図5)。この活性成分は、後述する構造解析により化合物Iであることが判明した。
【0061】
合成した活性成分の確認(
図5)におけるHPLCによる分析条件は以下のとおりであった。
[HPLC分析系]
装置:日本分光製高速液体クロマトグラフ
カラム:Excelpak CHA-E11(300mm×4.6mm I.D. Yokogawa analytical system)を2本連結
移動相:3mM硫酸水溶液
流速:0.5mL/min
カラム温度:55℃
注入量:20μL
検出波長:210nm
(化合物Vの合成)
【0062】
上記の合成した活性成分を含む粗精製溶液Iに水酸化ナトリウムを加えて液性をpH7.6、pH8.6、pH9.6に調整した溶液をそれぞれ調製し、121℃で、30分の加熱処理を行った。アルカリ条件下で加熱処理した各溶液を、化合物Iの合成検討と同じHPLC評価系で分析し、化合物IのRT 21.1分のピークの変化を観察した。その結果、pH9.6に調整した溶液では、RT 21.1分のピークはほぼ消失し、RT 20.7分に新たなピークが確認された(
図6)。このRT 20.7分の成分は、先に梅肉エキスから抽出・精製した活性成分をアルカリ添加の条件で加水処理して得られる活性成分の派生物と一致した。後述の解析によりこの活性成分の派生物のピークは、主に化合物Vと、少量の化合物IXが含まれることが判明した。化合物IXは、化合物Vの構造異性体である。
(合成した化合物Iおよび化合物Vの単離と構造解析)
【0063】
上記の合成方法で作成した粗精製溶液Iにアルカリを加えpH6.5で加熱処理(121℃30分)して、活性成分(RT 21.1分の成分)および活性成分の派生物(RT 20.7分の成分)を含む試料を作成し、高分離能カラムを用いたHPLC分析系で構成成分を確認した。その結果を(
図7)に示す。RT 21.1分の成分は、
図7のピークAとピークBの2本のピーク分かれ、これらのピークの保持時間は梅肉エキスから抽出・分離された活性成分に由来する
図4のピークAとピークBの保持時間に一致した。RT 20.7分の成分は、RT2.9〜3.5分に3本のピーク(
図7のピークC、D、E)として観察される。これらのHPLCにおけるピークの保持時間は、梅肉エキスから抽出・分離された活性成分の派生物に由来ピーク(
図4のピークC、D、E)の保持時間に一致した。これらの結果から、上記の合成方法により得られた活性成分や、その派生物は、梅肉エキスに含まれる成分と同一であることが確認された。
【0064】
(単離および構造解析)
上記の高分解能カラムを用いた分析で分離・検出された活性成分(
図7のピークAおよびB)および活性成分の派生物(
図7のピークC、D、E)について、さらにカラムクロマトグラフィーによる精製を行った。その結果、活性成分の2本のピークのうち1成分(
図7のピークB、以下ピークB)を単離することができた。その成分のLC-MS分析系による質量分析、NMRによる構造解析、IRによる官能基の解析をおこなった結果、以下の化合物Iとして示される構造であることが分かった。構造解析は、質量分析とNMR解析により化学式と基本骨格を特定し、IRスペクトルによる酸無水物(1800 cm
-1付近)の否定とイミドに由来すると思われるスペクトル(1700cm
-1付近)の確認により行った。この化合物は、アスパラギン酸のアミノ基とクエン酸の2つのカルボキシル基が縮合して環状イミド化した構造を有する。
【0065】
化合物Iの構造解析に用いたNMR、LC-MS、IRの測定条件は以下のとおりである。
[NMR分析系]
装置:Bruker Biospin社製 AVANCE500型(cryo Probe)
測定核種:水素(
1H)、炭素(
13C)
測定溶媒:D
2O
測定方法:
1H NMR、
13C NMR、
13C NMR(DEPT)、
1H-
1H COSY、HMQC、HMBC
[LC-MS分析系]
液体クロマトグラフ部
装置:Agilent Technologies製 1200型
カラム:Thermo Fisher SCIENTIFIC製 FLUOPHASE PFP (4.6×100mm, 5μm)
移動相:A:0.1%ギ酸水溶液 B:アセトニトリル A/B=98/2
流速:0.8mL/min
カラム温度:35℃
注入量:10μL
検出波長:200nm
質量分析部
装置:Agilent Technologies製 6140型
測定モード:PositiveモードおよびNegativeモード
測定質量範囲:m/z 50〜1350
[FT-IR分析系]
装置:Agilent Technologies社製 Cary670
測定方法:顕微ATR法
測定範囲:700cm
-1〜4000cm
-1
分解能:4cm
-1
積算回数:64回
クリスタル:ゲルマニウム
【0066】
[ピークBのデータ]
NMR分析データ
1H NMR(500MHz,D
2O)δ=2.89, 2.90, 2.99, 3.19, 3.22, 5.02;
13C NMR(125MHz,D
2O)δ= 36.798, 43.990, 44.557, 53.739, 74.963, 176.172, 176.908, 178.084, 179.376, 182.172;
質量分析データ
LC-MS m/z:290(M+H)
+,288(M-H)
- (RT4.0分)
FT-IRデータ
1704.8cm
-1 very strong
【0067】
【化24】
(図中の*はクエン酸由来の構造中の不斉炭素の位置を示す。また破線は平面より奥に、太線は手前にあることを示す。)
【0068】
この化合物Iには、クエン酸由来のプロパン鎖の2位の炭素(*を付記した炭素)を不斉炭素としたジアステレオマーが存在する(アスパラギン酸由来の構造内にも不斉炭素が存在するが、天然植物素材の梅を原料とした場合、ほぼL体のアミノ酸が原料となるのでエナンチオマーはほとんど存在しない)。このジアステレオマーをI(a)およびI(b)とすると、上記で単離した活性成分(ピークB)はジアステレオマーI(a)又はI(b)のいずれか一方であり、上記に示した化合物IのNMR分析データはI(a)又はI(b)の一方のデータである。得られた結果から単離したピークBが、どちらのジアステレオマーに相当するかを見分けることはできない。
図4並びに
図7に示される活性成分に由来する2つのピークのうちピークA(以下 ピークA)が、単離されたピークBのジアステレオマーであることは、分子量が一致していること、ならびにNMRのデータが非常に近接した類似するスペクトルパターンであることにより確認できる。そこで、ピークAが豊富となった(ピークBの若干の混入)試料について、同様にLC-MSによる質量分析、およびNMRによるスペクトル解析を行った。質量分析の結果はピークAとピークBの分子量がともに289で一致していることが示され、NMRのスペクトルデータも近接した同様のスペクトルパターンを示すことが確認された。従って、活性物質として精製したピークAおよびピークBは、化合物Iの構造を有するジアステレオマーであることが確認された。
【0069】
[ピークAのデータ]
NMR分析データ
1H NMR(500MHz,D
2O)δ=2.90, 2.96, 3.05, 3.25, 3.28, 5.15;
13C NMR(125MHz,D
2O)δ= 36.129, 43.290, 44.400, 52.779, 75.201, 174.774, 175.865, 177.187, 179.214, 181.755;
質量分析データ
LC-MS m/z:290(M+H)
+,288(M-H)
- (RT4.0分)
FT-IRデータ
1706.9cm
-1 very strong
【0070】
【化25】
(図中の*はクエン酸由来の構造の不斉炭素の位置を示す)
【0071】
上記の活性成分の派生物は、高分離能カラムを用いた分析の結果、3成分から構成されたピークであることが確認できた([0064])。これら3成分についてLC-MSで分析した結果、これら3成分が同一の分子量(分子量307)を有し、化合物Iの構造(分子量289)に水分子が1分子付加された構造で、化合物Iの部分的な加水分解物であることが確認された。さらに解析を行いNMR解析等の結果、化合物Vおよび化合物IXの存在が確認された。
これらの化合物は、化合物Iのイミド環が開環することで生成され、開環の様式によって化合物Vと化合物IXの二通りに分かれるが、アルカリ添加の条件下では化合物Vが優位に生成される。化合物Vにはクエン酸由来のプロパン鎖の2位の炭素(*を付記した炭素)を不斉炭素としたジアステレマーが存在するが、NMRとLC-MSのデータからこれらを見分けることはできない。これら化合物Vのジアステレオマーは、化合物Iのジアステレオマーの加水分解物としてそれぞれ一方が得られる。そして、化合物IXは、化合物Iのジアステレオマーのいずれの加水分解からも少量生成される。従って、活性成分の派生物の高分離能カラムを用いた分析で検出された3成分は、化合物Vのジアステレオマー2成分と、化合物IXであることが分かった。
【0072】
以下に化合物VのNMR(ジアステレオマーの一方のデータ)、および化合物Vと化合物IXの混合物のLC-MS(3種を同時測定したが、単一の結果であった)。分析条件は化合物Iの分析と同様である。
【0073】
[化合物VのNMRデータ]
1H NMR(500MHz,D
2O)δ= 2.78, 2.88, 2.95, 3.05, 4.75
13C NMR(125MHz,D
2O)δ = 38.7, 46.1, 47.3, 52.1, 76.6, 166.5, 174.0, 176.9, 177.3, 179.8
[化合物Vおよび化合物IXの混合物のデータ]
LC-MS m/z:308(M+H)
+,330(M+Na)
+,306(M-H)
- (RT 2.8〜3.5分)
【0074】
(化合物IIの合成)
【化26】
【0075】
500mg/mLのクエン酸(一水和物)水溶液に、L−グルタミン酸を最終濃度が40mg/mL(90℃における溶解限界量)となるように添加し、90℃の水浴で完全溶解したのち、オートクレーブで121℃、240分の加熱処理を行った。加熱処理後には、HPLC評価系で分析した結果、加熱処理後に、HPLCで分析した結果、RT5.8分とRT11.5分に加熱により生成した成分に由来するピークが現れた(
図8)。LC-MS分析の結果、RT5.8分の成分(
図8のピーク1)の分子量は303となり、L-グルタミン酸のアミノ基に、クエン酸が化合物Iと同じ骨格となるようにイミド結合した化合物が合成されたことを示している。また、RT11.5分の成分(
図8のピーク2)の分子量は129となり、これはL-グルタミン酸の側鎖と主鎖が脱水縮合して環化したL-グルタミン酸無水物の分子量に一致した。
【0076】
上記の化合物IIの合成検討に用いたHPLC分析、およびLC-MS分析の分析条件は以下のとおりであった。
[LC-MS分析系]
液体クロマトグラフ部
装置:Waters製ACQUITY UPLC型
カラム:信和化工製ULTRON PS-80H(4.6×250mm)
移動相:0.1%ギ酸水溶液
流速:0.25mL/min
カラム温度:55℃
注入量:1μL
質量分析部
装置:Waters製Synapt G2-S型
測定モード:PositiveモードおよびNegativeモード
測定質量範囲:m/z 50〜1000
[化合物IIの合成反応液のLC-MSデータ]
LC-MS m/z:304(M+H)
+,321(M+NH
4)
+,326(M+Na)
+,629(2M+Na)
+,302(M-H)
-,605(2M-H)
-(RT5.8分)
LC-MS m/z:130(M+H)
+, 128(M-H)
- RT11.5分)
【0077】
次に同様に、クエン酸溶液にL−グルタミンを添加して加熱処理を行った。L−グルタミンのクエン酸(500mg/mL)水溶液への添加量は、70mg/mL(90℃における溶解限界量)で、90℃の水浴で完全溶解したのち、オートクレーブで121℃、240分の加熱処理を行った。加熱処理後の溶液には、同様のHPLC評価系で分析した結果L−グルタミン酸を原料に用いた場合と同じリテンションタイムの生成物のピークが得られた。従って、L−グルタミン酸に代えて、L−グルタミンを原料に用いた場合でも、同じ構造を有する化合物IIが得られる。
【0078】
(化合物IIIの合成)
【化27】
【0079】
(S)-α-アミノ-γ-ブチロラクトン(別名(L)-ホモセリンラクトン)をクエン酸溶液(500mg/mL)へ、最終濃度が100mg/mL(90℃における溶解限界量)となるように添加し、オートクレーブで121℃、240分の加熱処理を行った。加熱処理後に、HPLCで分析した結果、RT7.9分に加熱により生成した成分に由来するピークが現れた(
図9)。LC-MS分析の結果、RT7.9分の成分の分子量は257となり、これは(L)-ホモセリンラクトンのアミノ基に、クエン酸が化合物Iと同じ骨格にとなるようにイミド結合した化合物が合成されたことを示している。評価に用いたHPLC分析およびLC-MS分析の分析条件は化合物IIの評価と同一である。
【0080】
上記の化合物IIIの合成検討で得られたLC-MS分析のデータを以下に示す。
[化合物IIIのデータ]
LC-MS m/z:258(M+H)
+,275(M+NH
4)
+,280(M+Na)
+, 256(M-H)
-(RT7.9分)
【0081】
(化合物IVの合成)
【化28】
【0082】
L-アラニンを、クエン酸(500mg/mL)水溶液へ、最終濃度が100mg/mL(90℃における溶解限界量)となるように添加し、オートクレーブで121℃、240分の加熱処理を行った。加熱処理後に、HPLCで分析した結果、RT6.2分に加熱により生成した成分に由来するピークが現れた(
図10)。LC-MS分析の結果、RT6.2分の成分の分子量は245となり、これはL-アラニンのアミノ基に、クエン酸が化合物Iと同じ骨格にとなるようにイミド結合した化合物が合成されたことを示している。評価に用いたHPLC分析およびLC-MS分析の分析条件は化合物IIの評価と同一である。
【0083】
上記の化合物IIIの合成検討で得られたLC-MS分析のデータを以下に示す。
[化合物IVのデータ]
LC-MS m/z:246(M+H)
+,368(M+Na)
+,513(2M+Na)
+,244(M-H)
-,489(2M-H)
-(RT6.2分)
【0084】
(クエン酸とアミノ酸との加熱による合成法が選択的なイミド形成反応であることの確認)
(1)リンゴ酸を使用した反応での比較
クエン酸(250mg/mL)とアスパラギン酸(11.1mg/mL)、及び、リンゴ酸(250mg/mL)とアスパラギン酸(11.1mg/mL)の水溶液をそれぞれ121℃で30分加熱した。反応溶液をHPLC分析したところ、クエン酸では明確な化合物Iのピークが見られたが(
図11参照)、リンゴ酸では明確なピークが見られなかった(
図12参照)。アスパラギン酸をアスパラギンに変えて同様に行った実験においてもクエン酸ではシングルピークの明確な化合物Iのピークが見られるが、リンゴ酸では明確なピークが見られなかった。そしてまた、クエン酸とリンゴ酸を混合して、同様の実験を行った場合でも、クエン酸由来の合成物(RT:21.1)しか確認されなかった。以上のことから、有機酸と、アスパラギンやアスパラギン酸等のアミノ酸とのイミド形成反応は、クエン酸のみに選択的に起こるといえる。
【0085】
(2)ヒドロキシクエン酸を使用した反応での比較
ヒドロキシクエン酸水溶液(1.19mol/L;クエン酸250mg/mLと同じモル濃度)に、アスパラギン酸(15mg/mL)とアスパラギン(100mg/mL)を溶解させ、121℃で180分加熱した。反応溶液をHPLC分析したところ、少なくとも主要な新規反応物として3つの新たなピークが出現した(
図13参照)。ヒドロキシクエン酸とアスパラギンやアスパラギン酸などのアミノ酸が反応した場合、単純に同様のイミド形成反応が行われると2種類のイミド化合物が想定されるが、実際には3種類の主要な新規化合物が形成された。このことから、アスパラギンやアスパラギン酸などのアミノ酸とのイミド形成反応以外(例えばアミド形成反応)の副反応が強く起こったことを示し、ヒドロキシクエン酸では、イミド形成反応が選択的に行われない。
【0086】
以上のように隣接する炭素に結合した2つのカルボキシルがアミノ酸とイミドを形成する反応は、リンゴ酸やヒドロキシクエン酸のような部分的にクエン酸に類似する化合物を原料にした場合にはその選択性が失われる。一方、上記の化合物II、化合物III、化合物IVの合成検討に見られるように、イミドを形成するアミノ基がαアミノ基(カルボキシル基の結合した炭素に結合したαアミノ基)であれば良く、その側鎖の構造によってイミド形成反応はほとんど影響をうけることはなく、そのイミド形成の選択性は失われない。
【0087】
3.生物活性試験
[試験例1]
(動物試験投与物の調製)
【0088】
(1)化合物I投与物の調製
粗精製溶液I 100mLに、8N水酸化ナトリウム水溶液をpHメーターで確認しながら少量ずつ滴下し、溶液の液性をpH6.5に調整した。さらに、溶媒で希釈した。
【0089】
(2)化合物V投与物の調製
粗精製溶液I 100mLに、8N水酸化ナトリウム水溶液をpHメーターで確認しながら少量ずつ滴下し、溶液の液性をpH8.6に調整した後、121℃で30分加熱し、さらに、溶媒で希釈した(加熱処理後の溶液のpHは、加水分解反応により酸形成され、pHが6.2ほどに変化する)。
(肝機能障害抑制効果に関する試験)
【0090】
上記(1)〜(2)の投与物をオリゴ糖・環状オリゴ糖・D−ソルビトールで構成される溶媒に溶解し、投与した溶解液の化合物IおよびVの最終濃度は、6mg/mLとなるように調製した。市販固形飼料の自由摂餌および水道水の自由飲水下の8週齢Wistar系雄性ラット(日本チャールスリバー株式会社)に、上記比重換算し溶解液で6g/kgとなるように7日間経口投与した。対照動物には上記(1)および(2)を含まない溶媒のみを6g/kg、7日間経口投与した。投与開始7日目にガラクトサミン塩酸塩(和光純薬工業株式会社)を750mg/kgの用量を、対照物、化合物IおよびVのぞれぞれの投与動物に腹腔内投与し、投与開始9日目にペントバルビタール麻酔下(50mg/kg)に開腹し腹部大動脈よりヘパリン加血液を採取した。得られた血液は血漿に分離し、AST、ALT値をJSCC標準化対応法により測定した。
図14において、結果は平均値+標準偏差(1群動物数、各20例)で示した。*は対照物群との有意差(p<0.05)を示すが、1元配置分散分析後にDunnet testにより検定した。
ラットの血漿中のAST値(左)、ALT値(右)の変化を示す図を
図14に示す。化合物I投与物群、化合物V投与物群において、対照物投与物群と比較して、AST値、ALT値が有意に低値であったこと、すなわち、肝障害が治療、抑制されたことがわかった。
【0091】
[試験例2]
(粗精製化合物IのNASHに対する評価試験)
【0092】
(1)粗精製化合物I溶液の作製
上記粗精製溶液I([0060])から、含有する化合物I濃度が26mg/mLとなるよう、HPLCクロマトグラムのピーク強度から化合物Iの濃度を決定し、粗精製物作製を行った。粗精製化合物I溶液の溶媒には、オリゴ糖・環状オリゴ糖・D−ソルビトールで構成される溶媒を使用した。
最終的な溶液のpHは水酸化ナトリウムを用いてpHを6.0とした。
【0093】
(2)動物実験手順
妊娠17日目のC57BL/6Jマウス(日本チャールズリバー社製)30匹について、標準食として、ガンマ線照射固型飼料(CRF−1、オリエンタル酵母工業社製)の自由摂取、及び蒸留水の自由飲水下に個別飼育を行い、出産させた。産子マウスは、STZを投与するマウスと投与しないマウス(標準マウス)に分割した。
STZを投与する各マウスには、出生日を0日として出生後2日目に、インスリン用シリンジ(マイジェクター、テルモ社製)を用いて、STZ(シグマ社製)の10mg/mL(0.1Mクエン酸バッファーpH4.5)溶液20μLを背部皮下投与した。STZ投与後は4週齢に達するまで母乳栄養により飼育された。4週齢に達し、STZ投与後4週間経過した日に、雌雄の判別を行い、雄性の個体を選択した。この時点を離乳とし、これ以降、高脂肪食(HFD32、日本クレア社製)を給餌し、STZ誘発NASHモデルマウス群として飼育を行った。STZを投与しなかった標準マウスには、高脂肪食の代わりにCRF−1を給餌した。また、蒸留水の自由飲水下に飼育を行った。
5週齢に達した雄性のマウスは、6時間絶食した後、尾静脈を穿刺して静脈血を採取し、簡易血糖測定装置(グルテストNeoセンサー、三和化学研究所製)を使用して血糖値を測定した。また、同日に体重測定も実施した。
体重及び血糖値に基づいて、統計解析システムEXSAS7.7(CACエクシケア社製)を用いてNASHモデルマウスは層別無作為化割付にて群分けされた。上記粗精製化合物I溶液の投与を行う粗精製化合物I群と、対照物質のオリゴ糖・環状オリゴ糖・D−ソルビトールで構成される溶媒の投与を行う溶媒群の2群に分けた。群分け日を投与開始日として、当該日から14日間連続してそれぞれ午前9時から午前11時の間に1回と午後5時から午後7時の間に1回ずつ経口胃ゾンデを用いて、粗精製化合物I群には、10mL/kg(体重)の粗精製化合物I溶液を、溶媒群には、10mL/kg (体重)の溶媒を投与した。
試験物質の投与試験開始14日後の剖検日には、ソムノペンチル麻酔下に全ての動物から腹部大静脈より採血を行った。採血後は放血により安楽死させた。得られた血液は直ちにヘパリンが入った遠心チュープに回収し、3000rpmにて、10分間遠心分離して血漿を得た。
血漿中のアスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)濃度とアラニンアミノ基転移酵素(ALT)濃度は、日立7180型自動分析装置を用いたJSCC標準化対応法により測定された。測定値は平均値±標準偏差(Mean±SD)で表示した。
【0094】
(結果)
結果を
図15に示す。
図15から明らかなように、溶媒群に比し、粗精製化合物I群の血漿中AST及びALT濃度はそれぞれ低減した。(unpaired t-test(溶媒群vs粗精製化合物I群)、*p<0.05vs溶媒群、正常群(n=5)、溶媒群(n=19)、粗精製化合物I群(n=15)、AST:p=0.05, ALT:p < 0.05)