(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6485846
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】NAFLD/NASH予防及び/又は治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/736 20060101AFI20190311BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20190311BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20190311BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20190311BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20190311BHJP
【FI】
A61K36/736
A61P1/16
A23L33/105
A23L19/00 D
A61K131:00
【請求項の数】18
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-552276(P2017-552276)
(86)(22)【出願日】2016年11月25日
(86)【国際出願番号】JP2016004963
(87)【国際公開番号】WO2017090253
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2018年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-232053(P2015-232053)
(32)【優先日】2015年11月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504293355
【氏名又は名称】AdaBio株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】平石 勝也
(72)【発明者】
【氏名】神間 史恵
(72)【発明者】
【氏名】相馬 洋之
(72)【発明者】
【氏名】足立 太郎
(72)【発明者】
【氏名】足立 正一
(72)【発明者】
【氏名】山岡 一平
(72)【発明者】
【氏名】香川 知博
【審査官】
春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−265138(JP,A)
【文献】
特開2007−143452(JP,A)
【文献】
特開2011−201841(JP,A)
【文献】
HOKARI A, et al.,Efficacy of MK615 for the treatment of patients with liver disorders,World Journal of Gastroenterology,2012年 8月21日,Vol.18, No.31,p.4118-4126,ISSN 1007-9327
【文献】
中尾 春壽 ほか,NASH(non-alcoholic steatohepatitis),Mebio,2009年11月,第26巻, 第11号,p.82−89,ISSN 0910-0474
【文献】
池嶋 健一, 渡辺 純夫,NAFLDの診療・研究の進歩,日本消化器病学会雑誌,2014年 1月,第111巻, 第1号,p.4−13,ISSN 0446-6586
【文献】
松本 晶博,非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD),相澤病院医学雑誌,2014年,第12巻,p.1−4,ISSN 1882-0565
【文献】
高橋 正和 ほか,福井県産ウメ抽出物ならびにエゴマ油成分の肝細胞脂肪蓄積抑制作用の検討,福井県立大学論集,2015年 8月,第45号,p.47−55,[オンライン], [検索日 2016.12.14], インターネット:<URI:http://hdl.handle.net/10461/18452>,URL,http://hdl.handle.net/10461/18452
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A23L 33/00−33/29
A23L 19/00−19/20
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
梅果汁の濃縮物又はその処理物を含む、肝組織における線維化を軽減するための非アルコ
ール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の予防及び/又は治療剤。
【請求項2】
濃縮物の処理物が濃縮物の中和処理物であることを特徴とする請求項1記載の予防及び/
又は治療剤。
【請求項3】
濃縮物が加熱濃縮物であることを特徴とする請求項1又は2記載の予防及び/又は治療剤
。
【請求項4】
経口投与用であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の予防及び/又は治療剤
。
【請求項5】
サプリメントとして使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の予防及び/
又は治療剤。
【請求項6】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)で
あることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項7】
以下の(a)及び(b)の工程を含むことを特徴とする、肝組織における線維化を軽減す
るための非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の予防及び/又は治療剤の調製方法
。
(a)青梅から梅搾汁液を調製する工程;
(b)工程(a)で調製された梅搾汁液を濃縮して梅果汁濃縮物を調製する工程;
【請求項8】
工程(b)における濃縮が、加熱濃縮であることを特徴とする請求項7記載の調製方法。
【請求項9】
さらに、以下の工程(c)を含むことを特徴とする請求項7又は8記載の調製方法。
(c)工程(b)で調製された梅果汁濃縮物又は梅果汁加熱濃縮物を中和して、梅果汁濃
縮中和物又は梅果汁加熱濃縮中和物を調製する工程;
【請求項10】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)で
あることを特徴とする請求項7〜9のいずれか記載の調製方法。
【請求項11】
梅果汁の濃縮物又はその処理物を含む、肝組織における線維化を軽減するための食品。
【請求項12】
濃縮物の処理物が濃縮物の中和処理物であることを特徴とする請求項11記載の食品。
【請求項13】
濃縮物が加熱濃縮物であることを特徴とする請求項11又は12記載の食品。
【請求項14】
食品が病者用食品、特定保健用食品又は機能性表示食品である、請求項11〜13のいず
れか記載の食品。
【請求項15】
梅果汁の濃縮物又はその処理物を含む、肝組織における線維化を軽減するための食品の製
造に使用される食品添加剤。
【請求項16】
濃縮物の処理物が濃縮物の中和処理物であることを特徴とする請求項15記載の食品添加
剤。
【請求項17】
濃縮物が加熱濃縮物であることを特徴とする請求項15又は16記載の食品添加剤。
【請求項18】
病者用食品、特定保健用食品又は機能性表示食品の製造に使用される、請求項15〜17
のいずれか記載の食品添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梅果汁の濃縮物やその処理物を含む非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、とりわけ非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の予防及び/又は治療剤や、かかる予防及び/又は治療剤の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、500種類以上の多彩な機能を持つ最大の臓器であり、腸で吸収された様々な栄養素を再加工してほかの臓器に供給し、余剰分は貯蔵する他、胆汁の生成や分泌、及び解毒や排泄などの生命の維持に必要な多くの働きを行っている。しかし、この臓器は、不規則な生活、ストレス、ウイルス、薬物、アルコール、栄養不良、肝循環系障害などの様々な因子により障害を受け易く、急性肝炎、慢性肝炎、脂肪肝、肝硬変などの疾患を起こす場合がある。特に我が国では成人の15%以上(推定で150〜200万人)が脂肪肝といわれ、若年層への拡大が大きな社会問題となっている。
【0003】
脂肪肝は、主としてアルコール多量摂取を原因とするアルコール性肝障害に関連する病態として考えられてきた。アルコール性の脂肪肝とは、アルコール摂取者において、肝臓に脂肪が蓄積することにより、肝細胞内に脂肪滴がみられるようになり、さらには肝細胞に脂肪(特に中性脂肪)が沈着して肝障害を引き起こす病態をいう。しかし、近年、アルコール非摂取者においてもアルコール性肝障害に類似した所見が現れることが判明してきた。
【0004】
アルコール非摂取者における脂肪性肝障害の病態としては、非アルコール性脂肪性肝疾患(Non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)を挙げることができる。NAFLDは、肝細胞への中性脂肪の沈着が認められる脂肪肝が所見として現れるが、その患者の約90%においては、適切な食餌療法や運動療法により症状を改善しうる単純性脂肪肝である。
【0005】
しかしながら、上記NAFLDの約10%の症例においては、進行性の病態を示す非アルコール性脂肪性肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis:NASH)であることが知られている。NASHの病理組織的進行過程についての統一的見解は得られていないが、脂肪が蓄積した肝細胞が、変性や壊死することにより、肝組織に炎症所見や線維化を伴う脂肪性肝炎が認められることには一定のコンセンサスが得られているとされる。また、メタボリックシンドローム、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧、高尿酸血症等、マルチプルリスクファクターを伴う対象においては、脂肪肝からNASHへの進行、さらにはより重篤な肝線維症、肝硬変、肝がんへ進行する確率がより高くなるといわれている。
【0006】
一方、梅果肉は古くから疲労回復・食あたり等に対する家庭薬として知られ、梅肉エキスの中和処理物を含有するオートファジー誘導用食品(例えば、特許文献1参照)や、梅肉エキスの中和処理物を含有するウイルス性肝炎患者における肝機能改善剤(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。また、梅を圧搾することにより作製された梅搾汁液を加熱することにより20倍に濃縮したものをNaOHにより中和後加熱滅菌した梅肉エキスがガラクトサミン塩酸塩誘発急性肝障害ラットに効果があったことが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−143452号公報
【特許文献2】特開2011−201841号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】World Gastroenterol. 2012, Vol.18(31) 4118-4126
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、植物に含まれる成分やその処理物を利用することにより得られる、安全で摂取が容易な、NAFLD、とりわけNASHを予防及び/又は治療するための、NAFLD、とりわけNASHの予防及び/又は治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、安全で、摂取しやすい植物等の天然物に含まれる成分について、NAFLD、とりわけNASHを改善する成分を探索してきたが、ウイルスの感染を主因とするウイルス性肝炎や、毒物等の投与を原因とする急性肝炎に対して効果があることが知られていた梅果汁の濃縮物やその処理物を、ストレプトゾシン(STZ)誘発NASLDモデルマウスやSTZ誘発NASHモデルマウスに投与したところ、NAFLD、とりわけNASHにおける病態の一つである肝線維化を軽減できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
(1)梅果汁の濃縮物又はその処理物を含む非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の予防及び/又は治療剤。
(2)濃縮物の処理物が濃縮物の中和処理物であることを特徴とする上記(1)記載の予防及び/又は治療剤。
(3)濃縮物が加熱濃縮物であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の予防及び/又は治療剤。
(4)経口投与用であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の予防及び/又は治療剤。
(5)サプリメントとして使用することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の予防及び/又は治療剤。
(6)肝組織における線維化を軽減することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか記載の予防及び/又は治療剤。
(7)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか記載の予防及び/又は治療剤。
(8)以下の(a)及び(b)の工程を含むことを特徴とする非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の予防及び/又は治療剤の調製方法。
(a)青梅から梅搾汁液を調製する工程;
(b)工程(a)で調製された梅搾汁液を濃縮して梅果汁濃縮物を調製する工程;
(9)工程(b)における濃縮が、加熱濃縮であることを特徴とする上記(8)記載の調製方法。
(10)さらに、以下の工程(c)を含むことを特徴とする上記(8)又は(9)記載の調製方法。
(c)工程(b)で調製された梅果汁濃縮物又は梅果汁加熱濃縮物を中和して、梅果汁濃縮中和物又は梅果汁加熱濃縮中和物を調製する工程;
(11)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)であることを特徴とする上記(8)〜(10)のいずれか記載の調製方法。
(12)梅果汁の濃縮物又はその処理物を含む食品。
(13)濃縮物の処理物が濃縮物の中和処理物であることを特徴とする上記(12)記載の食品。
(14)濃縮物が加熱濃縮物であることを特徴とする上記(12)又は(13)記載の食品。
(15)食品が病者用食品、特定保健用食品又は機能性表示食品である、上記(12)〜(14)のいずれか記載の食品。
(16)梅果汁の濃縮物又はその処理物を有効成分とする食品添加剤。
(17)濃縮物の処理物が濃縮物の中和処理物であることを特徴とする上記(16)記載の食品添加剤。
(18)濃縮物が加熱濃縮物であることを特徴とする上記(16)又は(17)記載の食品添加剤。
(19)病者用食品、特定保健用食品又は機能性表示食品の製造に使用される、上記(16)〜(18)のいずれか記載の食品添加剤。
(20)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の予防及び/又は治療における使用のための梅果汁の濃縮物又はその処理物。
(21)濃縮物の処理物が濃縮物の中和処理物であることを特徴とする上記(20)記載の梅果汁の濃縮物又はその処理物。
(22)濃縮物が加熱濃縮物であることを特徴とする上記(20)又は(21)記載の梅果汁の濃縮物又はその処理物。
(23)経口投与用であることを特徴とする上記(20)〜(22)のいずれか記載の梅果汁の濃縮物又はその処理物。
(24)サプリメントとして使用することを特徴とする上記(20)〜(23)のいずれか記載の梅果汁の濃縮物又はその処理物。
(25)肝組織における線維化を軽減することを特徴とする上記(20)〜(24)のいずれか記載の梅果汁の濃縮物又はその処理物。
(26)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)であることを特徴とする上記(20)〜(25)のいずれか記載の梅果汁の濃縮物又はその処理物。
(27)有効量の梅果汁の濃縮物又はその処理物を対象に投与することを含む、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を予防及び/又は治療する方法。
(28)濃縮物の処理物が濃縮物の中和処理物であることを特徴とする上記(27)記載の方法。
(29)濃縮物が加熱濃縮物であることを特徴とする上記(27)又は(28)記載の方法。
(30)経口投与用であることを特徴とする上記(27)〜(29)のいずれか記載の方法。
(31)サプリメントとして使用することを特徴とする上記(27)〜(30)のいずれか記載の方法。
(32)肝組織における線維化を軽減することを特徴とする上記(27)〜(31)のいずれか記載の方法。
(33)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)であることを特徴とする上記(27)〜(32)のいずれか記載の方法。
(34)有効量の梅果汁の濃縮物又はその処理物の、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の予防及び/又は治療剤を製造するための方法。
(35)濃縮物の処理物が濃縮物の中和処理物であることを特徴とする上記(34)記載の方法。
(36)濃縮物が加熱濃縮物であることを特徴とする上記(34)又は(35)記載の方法。
(37)経口投与用であることを特徴とする上記(34)〜(36)のいずれか記載の方法。
(38)サプリメントとして使用することを特徴とする上記(34)〜(37)のいずれか記載の方法。
(39)肝組織における線維化を軽減することを特徴とする上記(34)〜(38)のいずれか記載の方法。
(40)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)であることを特徴とする上記(34)〜(39)のいずれか記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、NAFLD、とりわけNASH患者における肝臓組織の線維化を軽減することによりNAFLD、とりわけNASHを治療することができ、アルコール非摂取者におけるNAFLD、とりわけNASHの発症率を低下させることにより、NAFLD、とりわけNASHを予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ヘマトキシリン染色/シリウスレッド染色による肝臓組織を示す図である。(a)は標準マウスの肝臓、(b)はSTZ誘発NASHモデルマウス(コントロールマウス)の肝臓、(c)は梅果汁濃縮中和希釈液を投与したSTZ誘発NASHモデルマウスの肝臓である。
【
図2】12週齢の標準マウス、12週齢のSTZ誘発NASHモデルマウス、梅果汁濃縮中和希釈液投与試験開始28日後の12週齢のSTZ誘発NASHモデルマウスの、シリウスレッド染色陽性部位を定量化したグラフである。
【
図3】標準マウス、STZ誘発NASHモデルマウス、梅果汁濃縮中和希釈液を投与したSTZ誘発NASHモデルマウスの、血漿アルブミン値を示すグラフである。
【
図4】標準マウス、STZ誘発NASHモデルマウス、梅果汁濃縮中和希釈液を投与したSTZ誘発NASHモデルマウスの、血漿総タンパク質値を示すグラフである。
【
図5】標準マウス、STZ誘発NASHモデルマウス、梅果汁濃縮中和希釈液を投与したSTZ誘発NASHモデルマウスの、(a)体重、(b)ALT値、(c)AST値を示すグラフである。
【
図6】ヘマトキシリン染色/シリウスレッド染色による肝臓組織を示す図である。(a)はSTZ誘発NAFLDモデルマウスの肝臓(コントロールマウス)、(b)は梅果汁濃縮中和希釈液を投与したSTZ誘発NAFLDモデルマウスの肝臓である。
【
図7】8週齢のSTZ誘発NAFLDモデルマウス、梅果汁濃縮中和希釈液投与試験開始21日後の8週齢のSTZ誘発NAFLDモデルマウスの、シリウスレッド染色陽性部位を定量化したグラフである。
【
図8】STZ誘発NAFLDモデルマウス、梅果汁濃縮中和希釈液を投与したSTZ誘発NAFLDモデルマウスの(a)AST値、(b)ALT値を示すグラフである。
【
図9】ヘマトキシリン・エオジン染色による肝臓組織を示す図である。(a)は、コントロールSTZ誘発NAFLDモデルマウスの肝臓、(b)は、梅果汁濃縮中和希釈液を投与したSTZ誘発NAFLDモデルマウスの肝臓である。
【
図10】(a)は、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った蒸留水を投与したコントロールラットの肝臓組織の顕微鏡写真(撮影倍率:400倍)、(b)は、中和処理を行っていない梅果汁加熱濃縮物溶液の希釈液を投与したラットの肝臓組織の顕微鏡写真(撮影倍率:400倍)、及び(c)は、抗αsmooth muscle actin抗体により免疫染色を行ったコントロールラットの肝臓組織の顕微鏡写真(撮影倍率:1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のNAFLD、とりわけNASHの予防及び/又は治療剤としては、濃縮物やその処理物を含む予防剤及び/又は治療剤であれば特に限定されないが、経口投与用であることが好ましい。上記濃縮物としては加熱濃縮物を好適に例示することができ、これら濃縮物の処理物としては、これら濃縮物の希釈及び/又は中和物を挙げることができる(以下、濃縮物の中和処理物を「梅果汁濃縮中和物」ということがある)。本発明のNAFLD又はNASH予防及び/又は治療剤は、医薬やサプリメントの形態で使用することができる。本発明の別の態様として、NAFLD、とりわけNASHの予防及び/又は治療に使用するための梅果汁の濃縮物やその処理物や、NAFLD又はNASHの予防及び/又は治療剤の製造における梅果汁の濃縮物やその処理物の使用や、対象に梅果汁の濃縮物やその処理物を経口投与するNAFLD、とりわけNASHの予防及び/又は治療方法を挙げることができる。
【0015】
また、本発明のNAFLD、とりわけNASHの予防及び/又は治療剤の調製方法としては、青梅から梅搾汁液を調製する工程(a);工程(a)で調製された梅搾汁液を(加熱)濃縮して梅果汁の(加熱)濃縮物を調製する工程(b)を備えておれば特に制限されないが、工程(b)で調製された梅果汁(加熱)濃縮物を中和して梅果汁(加熱)濃縮中和物を調製する工程(c)を備えることが好ましい。
【0016】
本発明におけるNASHとしては、C型肝炎ウイルス(HCV)やB型肝炎ウイルス(HBV)等のウイルス感染が認められず、かつ、明らかな飲酒歴がない、アルコール非摂取者の肝臓組織において、脂肪変性と炎症性細胞浸潤を伴う肝組織の炎症病態及び線維化が進行する病態を挙げることができる。肝組織の線維化とは、脂肪性変性や炎症性変化の兆候を示し始めた肝細胞の壊死や損傷による実質細胞の脱落や組織の機能低下に応じて起こる、活性化星細胞又は筋線維芽細胞を含む線維芽細胞の集積や線維芽細胞が作り出すコラーゲン等の細胞間マトリックスの蓄積等による脱落組織の置換をいうが、肝組織の線維化は、物理的な形態の維持には寄与するものの肝組織の機能を回復するものではないとされている。過度のコラーゲン等の線維性タンパク質の沈着や、線維芽細胞の浸潤増殖を伴う組織の硬直化が局所にとどまらず、肝臓組織に広汎にみられるようになると、病態はさらに進展し、より重篤な肝線維症や肝硬変へと進行する。本発明におけるNAFLDとしては、アルコール非摂取者の肝臓組織において、肝細胞への中性脂肪の沈着が認められる病態を挙げることができ、上記NASHに加え、単純性脂肪肝、明確な炎症性細胞の集積や明確な線維化などのNASHの定義は満たさないが、限局的な肝実質の脂肪変性壊死、あるいは小葉中心や門脈領域の間質拡張などを認めるNASHへの移行過程とみられる病態を含む。また、血液検査では血中のALT値やAST値の軽度上昇(健常の2倍程度〜4倍程度)を伴うことが多く、特にALTが有意な上昇を示すことが多いと言われている。
【0017】
本発明のNAFLD、とりわけNASHの予防及び/又は治療剤の作用としては、NASH患者における肝線維化の軽減を挙げることができ、肝線維化や肝組織の炎症の軽減の有無を確認する方法としては、肝臓組織切片を染色することにより作製された肝臓組織像において確認する方法を挙げることができる。肝臓組織切片を染色する方法としては、アニリンブルー染色法、トリクローム染色法、鍍銀染色法、アザン・マロリー染色法、ヘマトキシリン・エオジン染色法、シリウスレッド染色法、ヘマトキシリン染色/シリウスレッド染色法等を挙げることができる。中でも、ヘマトキシリンのような金属錯塩染料により核と細胞質を染色した後、親水性で高分子のシリウスレッドが、陽イオン性の金属錯塩染料と結合することにより、線維やその関連組織を強調して染色することができる、ヘマトキシリン染色/シリウスレッド染色法を好適に挙げることができる。
【0018】
本発明のNAFLD、とりわけNASH予防及び/又は治療剤の投与により肝線維化が軽減する場合としては、上記肝臓組織像を、顕微鏡等を用いて目視により評価することにより、投与後に線維化領域が減少又は消滅している場合や、画像解析アプリケーションを使用して染色陽性部位を抽出して解析することにより、投与後に染色陽性部位が減少又は消滅している場合を挙げることができる。なお、本発明におけるNASHの病態の改善は、肝線維化の軽減をもって達成されるものであり、血漿アルブミン値の増加や、血漿総タンパク値を伴う場合もある。なお、上記肝線維化が軽減することには、形成し始めている肝線維の軽減による肝臓組織の回復や、肝線維化の開始を抑制することも便宜上含めることができる。
【0019】
本発明のNAFLD、とりわけNASH予防及び/又は治療剤が投与される対象(者)としては、NAFLDやNASHと診断され、NAFLDやNASHを治療する必要がある者;及び、メタボリックシンドローム、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧、高尿酸血症等のNAFLDやNASHを発症する可能性が高いとされている者など、NAFLDやNASHと診断されていないが、NAFLDやNASHを予防する必要のある/予防を希望する者;を例示することができる。
【0020】
本発明のNAFLD、とりわけNASH予防及び/又は治療剤の投与態様としては、投与される対象の健康状態、症状の軽重、年齢、体重、医師の判断等に応じて適宜設定することができるが、経口投与が好ましい。ヒトへの経口投与量としては、梅果汁濃縮中和物の希釈液(実施例3の1.7倍希釈物)換算で、30〜600mg/kg/day、好ましくは40〜370mg/kg/day、より好ましくは80〜300mg/kg/dayを例示することができる。
【0021】
本発明のNAFLD、とりわけNASH予防及び/又は治療剤の製剤化においては、必要に応じて他の任意成分を加えることができる。任意成分としては、例えば結晶性セルロース、ゼラチン、乳糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、タルク、植物性及び動物性脂肪、油脂、ガム、ポリアルキレングリコール等の、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、溶剤、分散媒、増量剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を挙げることができる。
【0022】
本発明のNAFLD、とりわけNASH予防及び/又は治療剤の調製方法における工程(a)としては、青梅から梅搾汁液を調製する工程を挙げることができ、例えば、青梅1に対して、好ましくは0.2〜0.6の割合の梅搾汁液を調製する工程を挙げることができる。具体的には、荒く破砕した青梅の果肉や凍結融解した青梅の果肉を、各種絞り器や遠心分離機で搾り、梅搾汁を回収することにより、梅搾汁液を調製する工程を例示することができる。上記荒く破砕された青梅の果肉を得る方法としては、青梅をミキサー等で破砕する方法を挙げることができる。青梅は、採取直後の青梅を使用することが好ましく、又は採取直後の青梅を、梅搾汁液を調製する直前まで凍結保存したものが好ましい。
【0023】
本発明のNAFLD、とりわけNASH予防及び/又は治療剤の調製方法における工程(b)としては、上記工程(a)で調製された梅搾汁液を濃縮して梅果汁濃縮物、好ましくは加熱濃縮して梅果汁加熱濃縮物を調製する工程を挙げることができ、例えば、梅搾汁液1に対して好ましくは0.07〜0.2、より好ましくは0.075〜0.15、さらに好ましくは0.08〜0.12の割合の梅果汁(加熱)濃縮物を調製する工程を挙げることができる。具体的には、上記梅搾汁液を減圧濃縮、あるいは、加熱沸騰させたまま100℃以上を維持しながら加熱処理することにより、Brix値70〜80%の梅果汁(加熱)濃縮物を調製する工程を挙げることができる。
【0024】
本発明のNAFLD、とりわけNASH予防及び/又は治療剤の調製方法における工程(c)としては、上記工程(b)で調製された梅果汁(加熱)濃縮物を中和して梅果汁(加熱)濃縮中和物を調製する工程を挙げることができるが、中和に先立って梅果汁(加熱)濃縮物を希釈しておくことが好ましい。例えば、上記梅果汁(加熱)濃縮物1に対して、好ましくは0.5〜6.0、より好ましくは0.75〜4.3、さらに好ましくは1.0〜2.0の割合の水又は適切な溶媒を添加することにより梅果汁(加熱)濃縮物の希釈溶液を調製することができる
【0025】
次いで、上記梅果汁(加熱)濃縮物の希釈溶液は中和される。具体的には、上記梅果汁(加熱)濃縮物の希釈溶液にアルカリ性溶液を添加することにより、上記梅果汁(加熱)濃縮物の希釈溶液のpHを、好ましくはpH5.0〜8.0、より好ましくはpH5.4〜7.2、さらに好ましくはpH6.5〜7.0に調整することにより、梅果汁(加熱)濃縮中和物の溶液を調製することができる。上記アルカリ性溶液としては、NaOH水溶液、KOH水溶液を例示することができる。
【0026】
上記梅果汁(加熱)濃縮中和物の溶液から、さらに非分散性の固形物や非流動性の固形物等の不溶物をフィルターや遠心分離により除去することもできる。また、上記梅果汁(加熱)濃縮中和物の溶液から、メッシュを用いて不溶物を除去した後に希釈して製品とすることもできる。
【0027】
本発明における梅果汁(加熱)濃縮中和物は、通常上記梅果汁(加熱)濃縮物が所定の倍率で希釈されている。かかる所定の倍率としては、1.5〜20倍、好ましくは2〜10倍、より好ましくは3〜5倍を例示することができる。
本発明の梅果汁の濃縮物又はその処理物は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の予防及び/又は治療剤として使用することに加え、食品分野においても利用することが可能である。例えば、本発明の梅果汁の濃縮物又はその処理物を含有する種々の食品(例えば、いわゆる健康食品を含む一般食品、特定特別用途食品、保健機能食品、食品素材、飲料)、食品添加剤、等が挙げられる。特別用途食品には、病者用食品、特定保健用食品、妊産婦・授乳婦用粉乳、乳児用調製粉乳、えん下困難者用食品が含まれる。保健機能食品には、特定保健用食品、栄養機能食品及び機能性表示食品が含まれる。本発明の梅果汁の濃縮物又はその処理物は、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示食品などの製造に特に好適に用いることができる。本発明の梅果汁の濃縮物又はその処理物は、他の物質を加えずにそのままの形態(ペースト状)で食品として摂取することができる。また、必要に応じて、慣用手段により、本発明の梅果汁の濃縮物又はその処理物を粉末化あるいは顆粒化しても良い。更に、本発明の梅果汁の濃縮物又はその処理物に、米粉、油脂、澱粉、乳糖、麦芽糖、植物油脂粉末、カカオ脂末、ステアリン酸などの適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、ペースト、ドリンク、ソフトカプセル、シームレスカプセル、ハードカプセル、顆粒、丸剤などに成形して食用に供してもよく、また、種々の食品、例えば、食パン、菓子パン等のパン;ジャム;ビスケット;クッキー;せんべい等の菓子;ケーキ;ガム;インスタントラーメン、インスタントみそ汁、インスタントスープ等のインスタント食品;アイスクリーム製品;ヨーグルト、牛乳、ドリンク剤、清涼飲料(お茶、コーヒー、紅茶、ジュース等)などの飲料に添加して使用してもよい。この場合、本発明の梅果汁の濃縮物又はその処理物の配合量は、当該食用組成物の種類や状態等により適宜設定される。
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
[梅果汁濃縮物中和物の溶液の調製]
採取直後の青梅20kgをミキサーで砕き、荒く砕いた果肉を、遠心力を利用した絞り器で搾り、搾り汁を回収して梅搾汁液8kgを得た。この梅搾汁液を加熱沸騰させたまま約90時間かけて濃縮し、さらに24時間100℃以上を維持することにより加熱処理し、梅果汁加熱濃縮物0.4kg(Brix75%)を得た。
【0030】
上記梅果汁加熱濃縮物を約等重量の水で希釈して梅果汁加熱濃縮物溶液とし、この梅果汁加熱濃縮物溶液に8N NaOH水溶液を加え、pH6.8に中和し、精製水でメスアップして梅果汁濃縮中和物(37w/v%溶液)を得た。かかる梅果汁濃縮中和物の溶液を3000rpmにて遠心分離し、不溶物を沈殿させた。さらに、滅菌フィルター(0.2μmポアサイズ、Sartorius社製)を用いて無菌化し、不溶物を除去した梅果汁濃縮中和物の溶液を得た。
【実施例2】
【0031】
[STZ誘発NASHモデルマウスの作製]
C57BL/6Jマウスにストレプトゾシン(STZ)を投与し、STZ誘発NASHモデルマウスを作製した。概要を以下に示す。
【0032】
妊娠17日目のC57BL/6Jマウス(日本チャールズリバー社製)30匹について、標準食として、ガンマ線照射固型飼料(CRF−1、オリエンタル酵母工業社製)の自由摂取、及び蒸留水の自由飲水下に個別飼育を行い、出産させた。産子マウスを4:1の割合で、STZを投与するマウスと投与しないマウス(標準マウス)に分割した。
【0033】
STZを投与する各マウスには、出生日を0日として出生後2日目に、インスリン用シリンジ(マイジェクター、テルモ社製)を用いて、STZ(シグマ社製)の10mg/mL(0.1Mクエン酸バッファーpH4.5)溶液20μLを背部皮下投与した。STZ投与後は4週齢に達するまで母乳栄養により飼育された。4週齢に達し、STZ投与後4週間経過した日に、雌雄の判別を行い、雄性の個体を選択した。同日に雄性の個体は6時間絶食した後、簡易血糖測定装置(グルテストNeo、三和化学研究所製)を使用して、尾静脈からの採血により血糖値を測定した。
【0034】
絶食開始後6時間経過時を離乳とし、これ以降、高脂肪食(HFD32、日本クレア社製)を給餌し、STZ誘発NASHモデルマウス群として飼育を続けた。STZを投与しなかった標準マウスには、高脂肪食の代わりにCRF−1を給餌した。
【実施例3】
【0035】
[梅果汁濃縮中和物の投与]
(マウスの群分け)
上記STZ誘発NASHモデルマウス群について、8週齢に達した日に、頚静脈採血法より0.05mLの採血を行った。採血された血液は、ただちにヘパリンが入った遠心チューブに回収し、3000rpmにて10分間遠心分離して、血漿を得た後、ドライケム(富士フィルム社)を用いてALT値を測定した。ALT値、体重、及び血糖値に基づいて、統計解析システムEXSUS7.7(CACエクシケア社製)を用いて、以下の検討において、梅果汁濃縮中和物の投与を行うマウス群と、コントロールマウス群とに、層別無作為化割付にて群分けを行った。群分け日から1週間毎に、及び剖検日に体重を測定した。
【0036】
(投与態様)
8週齢に達した次の日から、実施例1で調製した不溶物を除去した梅果汁加熱濃縮中和物(溶液)の蒸留水による1.7倍希釈液(「梅果汁濃縮中和希釈液」という)の投与試験を行った。梅果汁濃縮中和希釈液投与マウス群とコントロールマウス群にはHFD32を、標準マウス群にはCRF−1を、それぞれ自由給餌させ、蒸留水の自由飲水下に飼育を行った。さらに、投与開始日から28日間連続してそれぞれ午前9時から午前11時の間に1回と午後5時から午後7時の間に1回ずつ経口胃ゾンデを用いて、梅果汁濃縮中和希釈液投与マウス群には、10mL/kg(体重)の梅果汁濃縮中和希釈液を、コントロールマウス群には、10mL/kg(体重)の蒸留水を投与した。
【0037】
梅果汁濃縮中和希釈液投与試験開始28日後の剖検日に、12週齢のSTZ誘発NASHモデルマウスは2時間の絶食を行い、ソムノペンチル麻酔下に腹部大静脈より採血を行った。得られた血液は直ちにヘパリンが入った遠心チュープに回収し、3000rpmにて、10分間遠心分離して血漿を得た。放血による安楽死を確認した後、肝臓を採取し一部をホルマリン緩衝液に浸漬した。
【0038】
(シリウスレッド染色画像)
上記ホルマリン浸漬肝臓について、パラフィン切片を作製した。ヘマトキシリン染色及びPicrosirius Red Stain Kit(コスモバイオ株式会社)を用いてシリウスレッド染色を実施した。シリウスレッド染色を施した切片標本は、オールインワン蛍光顕微鏡(BZ−9000、キーエンス社製)にて10倍の対物レンズ下で画像を取り込み、連結画像を作製した。結果を
図1(a)〜(c)に示す。
【0039】
(結果)
図1(a)より明らかなとおり、STZ非投与の標準マウスの肝臓ではシリウスレッド陽性となるコラーゲン繊維は血管基底膜にのみ認められ、疾患反応性の肝線維化は認められないが、
図1(b)から明らかなとおり、梅果汁濃縮中和希釈液非投与・STZ投与のコントロールマウスの肝臓においては、炎症細胞の浸潤と、シリウスレッド陽性なコラーゲンが肝細胞周囲に拡張した像がみられ、肝線維化が認められた(特に矢印部位)。一方、
図1(c)から明らかなとおり、梅果汁濃縮中和希釈液投与マウスの肝臓においては、炎症細胞の浸潤と線維化はみられなかった。したがって、梅果汁濃縮中和希釈液の経口投与は、STZ誘発NASHモデルマウスの肝臓における炎症細胞の浸潤と線維化を消滅させる効果があることが確認された。
【0040】
(シリウスレッド染色陽性部位定量)
上記連結画像について、BZ−II画像解析アプリケーションを使用してシリウスレッド陽性部位面積を抽出し、標準マウス(n=7)を1とした場合の、コントロールマウス(n=18)と梅果汁濃縮中和希釈液投与マウス(n=18)とのそれぞれの比を算出して
図2のグラフに示した。有意差検定(スチューデントのt検定)は、p<0.05をもって有意差ありと判断した。
【0041】
(結果)
図2から明らかなとおり、標準マウス(n=7)を1とした場合、コントロールマウスのシリウスレッド陽性部位の値は、1.55であり、梅果汁濃縮中和希釈液投与マウスのシリウスレッド陽性部位の値は、1.26であり有意に減少した(図中の*は、STZ投与のコントロールマウス群と梅果汁濃縮中和希釈液投与マウス群の比較において、上記の有意差検定で、P値が0.05以下であることを示す)。梅果汁濃縮中和希釈液の経口投与は、NASHモデルマウスの肝臓における炎症細胞の浸潤と線維化を予防及び/又は治療する効果があることが確認された。
【0042】
(血漿アルブミン値)
非代償性肝硬変患者における血清アルブミン濃度と累積生存率とは相関関係にあり、血清アルブミン濃度が高値のほうが予後が良いことが知られていることから、3種のマウスについて血漿中のアルブミン濃度を測定した。結果を
図3に示す。
【0043】
(結果)
図3から明らかなとおり、標準マウスの血漿アルブミン濃度が1.91g/dLであり、コントロールマウスの血漿アルブミン濃度は1.77g/dLであった。一方、梅果汁濃縮中和希釈液投与マウスの血漿アルブミン濃度は1.96g/dLであったことから、梅果汁濃縮中和希釈液の経口投与は、血漿アルブミン値の増加をもたらし、生存率の上昇をもたらす可能性があることが確認された(図中の*は、STZ投与のコントロールマウス群と梅果汁濃縮中和希釈液投与マウス群の比較において、スチューデントのt検定による有意差検定で、P値が0.05以下であることを示す)。
【0044】
(血漿総タンパク値)
肝障害が進展することにより肝機能が低下すると肝臓でのタンパク質合成能が低下することが知られていることから(Hepatology 1984 May-Jun;4(3):430-5)、3種のマウスについて血漿総タンパク値を測定した。結果を
図4に示す。
【0045】
(結果)
図4から明らかなとおり、標準マウスの血漿総タンパク値が4.34g/dLであり、コントロールマウスの血漿総タンパク値は3.83g/dLであった。一方、梅果汁濃縮中和希釈液投与マウスのシリウスレッド血漿アルブミン値は4.10g/dLであったことから、梅果汁濃縮中和希釈液の経口投与は、血漿総タンパク値の増加をもたらし、肝臓でのタンパク質合成能の上昇をもたらす可能性があることが確認された(図中の*は、STZ投与のコントロールマウス群と梅果汁濃縮中和希釈液投与マウス群の比較において、スチューデントのt検定による有意差検定で、P値が0.05以下であることを示す)。
【0046】
(肝機能指標)
3種のマウスについて血漿中のアスパラギン酸アミノ基転移醇素(AST)濃度とアラニンアミノ基転移酵素(ALT)濃度とが、富士ドライケム生化学分析装置により測定された。実験に使用したマウスの体重と併せて、結果を
図5(a)〜(c)に示す。
【0047】
(結果)
図5(a)から明らかなとおり、体重については、コントロールマウス、梅果汁濃縮中和希釈液投与マウスとも、標準マウスと比較して減少していた。ALT値及びAST値については、コントロールマウス及び梅果汁濃縮中和希釈液投与マウスは、標準マウスと比較して高い値を示した(図中のn.s.は、STZ投与のコントロールマウス群と梅果汁濃縮中和希釈液投与マウス群の比較において、スチューデントのt検定による有意差検定で、P値が0.05より大きいことを示す)。
【0048】
[まとめ]
8〜12週齢のSTZ誘発NASHモデルマウスにおいて、梅果汁濃縮中和希釈液を経口投与した場合、AST・ALT値には差を認めないが線維化を有意に軽減されることが確認され、梅果汁濃縮中和希釈液のNASHにおける線維化の軽減効果が認められた。また、12週齢に至っても肝線維症への進行を抑制できることが確認された。また、血中アルブミン値・総タンパク値は梅果汁濃縮中和希釈液の投与により有意に上昇することが確認され、肝機能の改善が示された。
【実施例4】
【0049】
[STZ誘発NAFLDモデルマウスの作製]
5週齢に達したSTZ誘発NAFLDモデルマウスに、5週齢に達した次の日から梅果汁濃縮中和希釈液を投与した。
【0050】
梅果汁濃縮中和希釈液投与試験開始21日後の剖検日に、8週齢のSTZ誘発NAFLDモデルマウスは2時間の絶食を行い、ソムノペンチル麻酔下に腹部大静脈より採血を行った。得られた血液は直ちにヘパリンが入った遠心チュープに回収し、3000rpmにて、10分間遠心分離して血漿を得た。放血による安楽死を確認した後、肝臓を採取し一部をホルマリン緩衝液に浸漬した。
【0051】
(シリウスレッド染色画像)
上記ホルマリン浸漬肝臓について、パラフィン切片を作製した。ヘマトキシリン染色及びPicrosirius Red Stain Kitを用いてシリウスレッド染色を実施した。シリウスレッド染色を施した切片標本は、上記オールインワン蛍光顕微鏡にて10倍の対物レンズ下で画像を取り込み、連結画像を作製した。結果を
図6(a)及び(b)に示す。
【0052】
(結果)
図6(a)から明らかなとおり、梅果汁濃縮中和希釈液非投与・STZ投与のコントロールNAFLDモデルマウスの肝臓においては、血管周囲への炎症細胞の集積、肝細胞への脂肪沈着、ならびにシリウスレッド陽性なコラーゲン線維化部位の拡張が認められ、NASHへ進行していることが確認された。一方、
図6(b)から明らかなとおり、梅果汁濃縮中和希釈液を投与したマウスの肝臓においては、炎症細胞の浸潤や肝細胞の脂肪沈着、血管周囲の線維化拡張はほとんどみられなかった。したがって、梅果汁濃縮中和希釈液の経口投与は、STZ誘発NAFLDモデルマウスの肝臓における炎症細胞の浸潤と線維化を抑制させる効果があり、NAFLDの改善や治療、NASHの予防効果があることが確認された。
【0053】
(シリウスレッド染色陽性部位定量)
上記連結画像について、BZ−II画像解析アプリケーションを使用してシリウスレッド陽性部位面積を抽出し、コントロールマウス(n=19)を1とした場合の梅果汁濃縮中和希釈液投与マウス(n=19)の比を算出して
図7のグラフに示した。有意差検定(スチューデントのt検定)は、p<0.05をもって有意差ありと判断した。
【0054】
(結果)
図7から明らかなとおり、コントロールマウス(n=19)を1とした場合、梅果汁濃縮中和希釈液投与マウス(n=19)のシリウスレッド陽性部位の値は、0.63であり有意に減少した(図中の*は、コントロールマウス群と梅果汁濃縮中和希釈液投与マウスの上記の有意差検定で、有意差ありと判定されたことを示す)。
【0055】
(肝機能指標)
標準マウス(n=7)、コントロールマウス(n=19)、梅果汁濃縮中和希釈液投与マウス(n=19)の3種のマウスについて血漿中のAST濃度とALT濃度とが、日立7180型自動分析装置を用いたJSCC標準化対応法により測定された。結果を
図8(a)及び(b)に示す。
【0056】
(結果)
図8(a)及び(b)から明らかなとおり、AST値及びALT値について、梅果汁濃縮中和希釈液投与マウスは、コントロールマウスと比較して有意に低い値を示した(図中の*は、コントロールマウス群と梅果汁濃縮中和希釈液投与マウス群の比較において、スチューデントのt検定による有意差検定で、P値が0.05以下であることを示す)
【0057】
(ヘマトキシリン・エオジン染色)
コントロールマウスと梅果汁濃縮中和希釈液投与マウスとについて、上記パラフィン切片を用いてヘマトキシリン・エオジン染色を行った。両群のAST及びALTの平均値に近い個体の切片を選択し、病理像をオールインワン蛍光顕微鏡(BZ−9000、キーエンス社製)にて4倍の対物レンズ下で観察した結果を
図9(a)及び(b)に示す。
【0058】
図9(a)及び(b)から明らかなとおり、(a)のコントロールマウスにおいては、微小な脂肪滴沈着が多数認められた。(b)の梅果汁濃縮中和希釈液投与マウスにおいては、脂肪滴は認められなかった。
【0059】
(まとめ)
5〜8週齢のSTZ誘発NAFLDモデルマウスにおいて、梅果汁濃縮中和希釈液を経口投与した場合、AST・ALT値は有意に低下し、脂肪沈着も有意に軽減され、線維化の顕在化を抑制する効果があることが確認された。したがって、NAFLDモデルマウスの肝臓における炎症細胞の浸潤を予防して、8週齢に至ってもNASHへの進行を抑制できることが確認された。
【0060】
[総括]
本発明の梅果汁濃縮物やその処理物は、NAFLD又はNASHを予防及び/又は治療できるという点で、医療分野において有用である。
【実施例5】
【0061】
[中和処理していない梅果汁の加熱濃縮物溶液の投与]
(材料と方法)
動物は8週齢のウィスター系雄性ラットを用いた。実施例1の梅果汁の加熱濃縮物を約等重量の水で希釈して梅果汁加熱濃縮物溶液とし、さらに水でメスアップして中和していない梅果汁加熱濃縮物の溶液(37w/v%溶液)を得た。この中和していない梅果汁加熱濃縮物の溶液を実施例3における試験と同濃度に希釈した梅果汁加熱濃縮物の投与液(中和していない梅果汁加熱濃縮物溶液の希釈液)を6g/kgの用量、動物に8日間経口投与し同量の蒸留水を投与した場合(コントロール群)と比較した。投与7日目の試験物質投与終了後に750mg/2.5mL/kgの用量のD(+)−ガラクトサミン塩酸塩を腹腔内に投与し急性肝障害を誘発した。このガラクトサミン投与48時間後にペントバルビタール麻酔下に腹部大動脈より放血して、肝臓を採取しホルマリン固定し、ヘマトキシリン・エオジン染色に供した。また、ガラクトサミン投与ラットの肝小葉内に出現する細胞が、抗α smooth muscle actin抗体(Proteintech社)による免疫染色(ニチレイ社ヒストファイン染色キット)に陽性を示す活性化星細胞であることの確認を行った。
(結果)
肝臓組織は蒸留水を与えた群では、肝小葉内に小型の繊維産生細胞の集積像が見られるのに対し(
図10(a))。梅果汁濃縮物の投与液を与えた群では、これらの繊維産生細胞の集積が、著しく軽減されていた(
図10(b))。コントロール群の肝小葉内に集積した小型の繊維産生細胞は、α smooth muscle actin抗原が陽性な活性化星細胞であり、肝組織における繊維化の責任細胞である。この結果から梅果汁濃縮物の投与液を与えた群では、ガラクトサミンの投与により誘導される肝障害に伴う肝の繊維化責任細胞である活性化星細胞の出現を抑制したことが分かった。
図10(c)は、ガラクトサミン投与により肝小葉内に出現する細胞が、抗α smooth muscle actin抗体による免疫染色に陽性を示す活性化星細胞(→が示す細胞)であることを示している。
【0062】
本発明の梅果汁濃縮物やその処理物は、NAFLD又はNASHを予防及び/又は治療できるという点で、医療分野において極めて有用である。