特許第6485854号(P6485854)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6485854抗変異型プロテインS抗体、該抗体を含む診断用組成物、変異型ヒトプロテインSの検出方法および該抗体を含むキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6485854
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】抗変異型プロテインS抗体、該抗体を含む診断用組成物、変異型ヒトプロテインSの検出方法および該抗体を含むキット
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20190311BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20190311BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20190311BHJP
   C12N 5/18 20060101ALN20190311BHJP
【FI】
   C07K16/18ZNA
   G01N33/53 D
   !C12N15/13
   !C12N5/18
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-194080(P2014-194080)
(22)【出願日】2014年9月24日
(65)【公開番号】特開2016-65008(P2016-65008A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年9月21日
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-01906
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-01907
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-01908
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敏行
(72)【発明者】
【氏名】秋山 正志
(72)【発明者】
【氏名】丸山 慶子
(72)【発明者】
【氏名】森下 英理子
【審査官】 宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−191852(JP,A)
【文献】 特開2006−083166(JP,A)
【文献】 特表2013−543117(JP,A)
【文献】 特表平03−502759(JP,A)
【文献】 Maruyama K. et al.,Development of ELISA system for detection of protein S K196E (PS Tokushima) mutation.,臨床血液,2014年 9月22日,Vol.55 No.9,387(1381), 0S-3-70,国立国会図書館受入日
【文献】 KIMURA R. et al.,J Thromb Haemost.,4(9)(2006),2010-2013
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/18
G01N 33/53
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原として、CKNGFVMLSNK(配列番号3)に対するよりも、CKNGFVMLSNE(配列番号2)に対して有意に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗体が、受領番号NITE AP-01906、NITE AP-01907、およびNITE AP-01908として夫々寄託されたハイブリドーマ4B1、15C8、および16E3のいずれかから産生されるモノクローナル抗体である、前記抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
CKNGFVMLSNK(配列番号3)が、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列に含まれる、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
少なくともK196Eの変異を有する変異型ヒトプロテインSに特異的である、請求項2に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
受領番号NITE AP-01907として寄託されたハイブリドーマ15C8から産生されるモノクローナル抗体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む、免疫学的診断用組成物。
【請求項6】
血栓塞栓症を診断するための、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
血栓塞栓症が、静脈血栓塞栓症である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
配列番号1で示されるアミノ酸配列の196番目のリジン(K)がグルタミン酸(E)に変異した非同義変異を少なくとも有する変異型ヒトプロテインSを、被験者から採取された試料から検出する方法であって、前記試料を、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片と接触させる工程を含む、前記方法。
【請求項9】
変異型ヒトプロテインSを、免疫比濁法、ラテックス凝集法、イムノクロマト法および固相免疫法からなる群から選択される少なくとも1つの免疫学的測定法により検出する工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む、配列番号1で示されるアミノ酸配列の196番目のリジン(K)がグルタミン酸(E)に変異した非同義変異を少なくとも有する変異型ヒトプロテインSを検出するための検出用キット。
【請求項11】
請求項5〜7のいずれか一項に記載の組成物を含む、配列番号1で示されるアミノ酸配列の196番目のリジン(K)がグルタミン酸(E)に変異した非同義変異を少なくとも有する変異型ヒトプロテインSを検出するための診断用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアミノ酸変異を有する変異型ヒトプロテインSに特異的な抗体、該抗体を含む免疫学的診断用組成物、該抗体を用いて変異型ヒトプロテインSを検出する方法、ならびに、該抗体を含む検出用キットおよび診断用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
血栓症、例えば静脈血栓症等は、後天的な危険因子や環境因子の他に、単一遺伝子性かつ常染色体優性であって、様々な浸透率を有する多数の遺伝子変異または遺伝子多型によって、そのリスクが増大することがわかってきた。かかる遺伝子変異または遺伝子多型(まとめて「遺伝的欠陥」ともいう)の例としては、凝固促進タンパク質(フィブリノーゲン、プロトロンビン等)、抗凝固タンパク質(後述)、その他の血栓症関連タンパク質(アンジオテンシンI転換酵素等)をコードする遺伝子における遺伝的欠陥が挙げられる。
特に抗凝固タンパク質を代表するプロテインC、プロテインSおよびアンチトロンビンIIIの遺伝的欠陥は、静脈血栓症患者において高い割合で存在し、血栓症の素因の60%超は遺伝的要因である(非特許文献1、特許文献5)。
【0003】
プロテインSは、生体内の血液凝固系の制御機構において中心的に機能する血漿タンパク質である。血漿中に分泌された成熟型プロテインSのタンパク質部分は635アミノ酸残基で構成され、分子内に17個のジスルフィド結合を含むマルチドメイン型一本鎖ポリペプチドである。プロテインSは、血液凝固第VII因子、第IX因子、プロトロンビン、プロテインC等と同様、ビタミンK依存性タンパク質ファミリーに分類される。天然型プロテインSはその分子内に4種類のドメイン構造を有しており、アミノ末端側から、γ−カルボキシルグルタミン酸(Gla)ドメイン、トロンビン感受性領域、4つの連続した上皮細胞成長因子(EGF)様ドメインおよび性ホルモン結合グロブリン(SHBG)様ドメインが存在する(特許文献6)。主に血液中に存在するプロテインSは、活性化プロテインCの補欠因子(補助因子)であり、活性化プロテインCの活性を上昇させることができ、血液中での活性化プロテインCの働きに欠かせないものである。活性化プロテインCは、ヒトにおける血液凝固を促進する活性化血液凝固第V因子(第Va因子)および活性化血液凝固第VIII因子(第VIIIa因子)を分解することにより、血液凝固反応を抑制する役割を担った因子である。プロテインSは、C4b結合タンパク質(補体第4因子b結合タンパク質;C4bp)と1対1で特異的に結合し、複合体を形成する。すなわち、C4b結合タンパク質は、プロテインSのリガンドとなる。通常、健常者の血液中(血漿中)のプロテインSは、その約60%が「プロテインS−C4bp複合体」(すなわち結合型)であり、その約40%は「遊離状態のプロテインS」(すなわち遊離型)である。
【0004】
血栓症発症リスクを増大させるプロテインSの遺伝的欠陥は、その量的欠損および質的異常に大別される。
プロテインSの量的欠損を検出するには、ヒトプロテインSを特異的に認識するモノクローナル抗体およびC4bpとプロテインSとの複合体を特異的に認識するモノクローナル抗体(特許文献1および6)、C4b結合タンパク質とプロテインSとの結合を阻害する抗C4bp抗体(特許文献2)、遊離型とC4bp結合型とのヒトプロテインSを2価金属イオンの存在下においてのみ認識する、いわゆる立体構造特異的モノクローナル抗体(特許文献3)、遊離型プロテインSに特異的なモノクローナル抗体(特許文献4)、プロテインSのC4bpとの結合部位以外の部位に特異的に結合するモノクローナル抗体(特許文献7および8ならびに非特許文献2)等の抗体を使用して、血中の結合型/遊離型プロテインS濃度の測定を行う。
【0005】
他方、プロテインSの質的異常については、試料中の総プロテインSのタンパク質量および試料中の総プロテインSの活性値を別々に測定し、この測定により得た総プロテインSのタンパク質量と総プロテインSの活性値とを、比活性を求める等により比較することによって、プロテインS徳島(K155E変異)を検出することができた(特許文献7および非特許文献2)。
また、市販のキット(STA試薬シリーズ プロテインS(クロット)、ロシュ・ダイアグノスティックス(株))等を使用する活性化プロテインCの抗凝固活性を促進するコファクター活性測定または遺伝子検査によってもプロテインSの質的異常を検出することができる。
【0006】
例えば日本人(主にモンゴロイド人種)である静脈血栓塞栓症患者173名において、プロテインS遺伝子とともにアンチトロンビン遺伝子およびプロテインC遺伝子を検査したところ、55名(約32%)から39種のアミノ酸変異を伴う変異が同定された。かかるアミノ酸変異には、例えば、本発明者らが同定したプロテインS遺伝子のK196E変異(非特許文献3)の他に、プロテインCのK193del変異や同V339M変異等が含まれていた。プロテインSのK196E変異のヘテロ接合体について、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を指標にしてプロテインSのコファクター活性を測定した結果、変異型プロテインSのコファクター活性値は平均16%の低下を示したが、変異型プロテインSのコファクター活性値が大きくばらつき、健常者由来のプロテインSのコファクター活性値と大きく重複することから、プロテインSのコファクター活性を測定するだけでは当該変異の有無を判定することは困難であった(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平7−117534号公報
【特許文献2】特許第2537045号公報
【特許文献3】特開2003−96094号公報
【特許文献4】特許第4224138号公報
【特許文献5】特表2007−522804号公報
【特許文献6】再表2010/018847号公報
【特許文献7】特開2012−193959号公報
【特許文献8】国際公開第2012/124798号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Souto et al., Genetic Susceptibility to Thrombosis and Its Relationshipto Physiological Risk Factors: The GAIT Study, Am. J. Hum. Genet., 67(6), 1452-1459 (2000)
【非特許文献2】Tsuda et al., New quantitative total protein S-assay system for diagnosing protein S type II deficiency: clinical application of the screening system for protein S type II deficiency, Blood Coagul. Fibrinolysis, 23(1), 56-63 (2012).
【非特許文献3】Kimura et al., Plasma protein S activity correlates with protein S genotype but is not sensitive to identify K196E mutant carriers, J Thromb Haemost., 4, 2010-2013 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、前記の問題を解決する、K196E変異を有する変異型プロテインSを正確かつ簡便に検出する手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねる中で、いわゆる抗ペプチド抗体によるプロテインSのK196E変異の検出に着眼し、そのための抗原として、196番目のグルタミン酸を含む所定の11アミノ酸を選択し、かかる抗原をもとに、野生型ヒトプロテインSに対するよりも、K196E変異の変異型プロテインSに対して、特異的に結合する抗体の作製に成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、抗原として、CKNGFVMLSNK(配列番号3)に対するよりも、CKNGFVMLSNE(配列番号2)に対して有意に結合する抗体またはその抗原結合断片に関する。
CKNGFVMLSNK(配列番号3)は、好ましくは、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列に含まれる。
本発明の抗体またはその断片は、好ましくは、少なくともK196Eの変異を有する変異型ヒトプロテインSに特異的である。
本発明の抗体またはその断片は、好ましくは、モノクローナル抗体である。
【0012】
また、本発明は、本発明の抗体またはその断片を含む、免疫学的診断用組成物に関する。
本発明の免疫学的診断用組成物は、好ましくは血栓塞栓症、例えば静脈血栓塞栓症を診断するためのものである。
【0013】
さらに、本発明は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の196番目のリジン(K)がグルタミン酸(E)に変異した非同義変異を少なくとも有する変異型ヒトプロテインSを試料から検出する方法であって、前記試料を、本発明の抗体またはその断片と接触させる工程を含む、前記方法に関する。
本発明の検出方法は、変異型ヒトプロテインSを、免疫比濁法、ラテックス凝集法、イムノクロマト法および固相免疫法からなる群から選択される少なくとも1つの免疫学的測定法により検出する工程をさらに含むことが好ましい。
【0014】
さらにまた、本発明は、本発明の抗体またはその断片を含む、配列番号1で示されるアミノ酸配列の196番目のリジン(K)がグルタミン酸(E)に変異した非同義変異を少なくとも有する変異型ヒトプロテインSを検出するための検出用キット、および本発明の免疫学的診断用組成物を含む、該変異型ヒトプロテインSを検出するための診断用キットに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の抗体またはその抗原結合断片は、野生型ヒトプロテインSに比してK196E変異に対する特異性が高いため、被験者に由来する例えば血液試料等から、当該変異型ヒトプロテインSを、正確かつ簡便に検出することができる。
また、プロテインSのK196E変異の検出には、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を指標にするプロテインSのコファクター活性の測定が困難なため(非特許文献3)、例えば、GeneChips、Taqman対立遺伝子識別法、パイロシーケンス法等の遺伝子検査を行うことも考えられるが、本発明にかかる手法によれば、プロテインSのK196E変異をはるかに低コストで、正確かつ簡便に検出することができる。
本発明によって、プロテインSの活性が低下し、血栓症のリスクが高まる例えば妊婦等に対し、血栓症のリスク判断のための診断薬として用いることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、固相化抗原として配列番号2のペプチド、配列番号3のペプチド、配列番号2のペプチドにKLHを結合させたもの、および、KLH単独(図中、夫々、「K196E」、「K196」、「K196E−KLH」および「KLH」で表される)を用いて、実施例1で得られた血清に含まれる抗体との結合量をELISAにより測定した結果を示す。
【0017】
図2図2は、固相化抗原として、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列における42〜676番目の配列からなる組み換え体のヒトプロテインS(「野生型プロテインS(42-676)」)と、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列において196番目のリジン残基(K)がグルタミン酸残基(E)に変異した場合の42〜676番目の配列からなる組み換え体のヒトプロテインS(「変異型プロテインS(42-676)」)とを用いて、実施例1で得られた3種のモノクローナル抗体(4B1、15C8、16E3)との結合量をELISAにより夫々測定した結果を示す。
【0018】
図3図3は、固相化抗原として、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列における117〜283番目の配列からなる組み換え体のヒトプロテインS(「野生型プロテインS(117-283)」)と、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列において196番目のリジン残基(K)がグルタミン酸残基(E)に変異した場合の117〜283番目の配列からなる組み換え体のヒトプロテインS(「変異型プロテインS(117-283)」)とを用いて、実施例1で得られた3種のモノクローナル抗体(4B1、15C8、16E3)との結合量をELISAにより夫々測定した結果を示す。
【0019】
図4図4は、実施例2および実施例3の夫々において調製した遺伝子組み換え体のヒトプロテインSと実施例1で得られたモノクローナル抗体(15C8)との結合を検出する、ウェスタンブロットによる画像を示す。左端から分子量マーカー(レーンM)、野生型プロテインS(42-676)(レーン1)、変異型プロテインS(42-676)(レーン2)、野生型プロテインS(117-283)(レーン3)および変異型プロテインS(117-283)(レーン4)である。
【0020】
図5図5は、実施例5において、ヒト血漿中プロテインSと実施例1で得られた抗体とのELISA測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、本発明の好適な実施態様に基づき、詳細に説明する。
本発明における「プロテインS」(PS)またはPROS1タンパク質は、ヒト由来のあらゆるPS遺伝子、cDNAもしくはRNAの産物、またはPSタンパク質が含まれ、例えば配列番号1で表されるアミノ酸配列やGenBankアクセッション番号AAH15801に開示されたアミノ酸配列等からなり、本明細書中「ヒトプロテインS」、または単に「プロテインS」とも記す。野生型のヒトプロテインSの代表的なアミノ酸配列を配列番号1に示すが、本発明においては、配列番号1のアミノ酸配列の196番目に相当するアミノ酸がグルタミン酸(E)に置換されたもののみを「変異型ヒトプロテインS」と定義する。この変異を有さなければ、これ以外のアミノ酸1個または複数個の欠失、置換および/または付加の変異を有していても、「野生型ヒトプロテインS」と定義する。この野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列と、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上の配列同一性を有する。
【0022】
<抗体またはその断片>
本発明は、一態様において、抗原として、CKNGFVMLSNK(配列番号3)に対するよりも、CKNGFVMLSNE(配列番号2)に対して、例えばELISAにより測定した抗体の結合定数等を指標として、有意に結合する抗体またはその抗原結合断片を提供するものである。すなわち、本発明の抗体またはその抗原結合断片(単に「その断片」とも記す)は、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドには特異的であって、かつ配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチドには有意に結合しないともいえ、好ましくは配列番号2のペプチドと配列番号3のペプチドとに対し交差反応するものではない。
【0023】
本発明における「(抗体の)抗原結合断片」または単に「(抗体の)断片」とは、CKNGFVMLSNE(配列番号2)のペプチドに対して有意に結合する抗体と同程度に該ペプチドに結合することができる抗体の断片であれば特に限定されるものではないが、かかる断片としては、例えば、Fab断片、F(ab’)断片、F(ab’)断片、二重特異性scFv断片、Fd断片およびFab発現ライブラリーにより産生された断片、ペプチドアプタマーから選択されるその抗体の断片等が挙げられる。
本発明の抗体は、その由来として、特に限定されるものではなく、例えば、哺乳動物(マウス、ウサギ、ラット、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ヒト等)または鳥類(ニワトリ、ウズラ、キジ、ダチョウ、アヒル等)などが挙げられる。
【0024】
本発明において、CKNGFVMLSNK(配列番号3)は、好ましくは、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列に含まれる(186〜196番目の配列に対応)。それと同時に、CKNGFVMLSNE(配列番号2)は、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列において、196番目のリジン残基(K)がグルタミン酸残基(E)に変異した場合の186〜196番目の配列に対応する。
【0025】
本発明の抗体またはその断片は、好ましくは、少なくともK196Eの変異を有する変異型ヒトプロテインS(以下、単に「変異型プロテインS」とも記す)に特異的である、すなわち、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する野生型ヒトプロテインSに対するよりも、変異型プロテインSに対して、有意に結合する。
ヒトプロテインSは、野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列において435〜468番目の領域でC4bpと結合するので(特許文献4)、本発明の抗体またはその断片は、遊離型のプロテインSのみならず、プロテインS−C4bp複合体における結合型のプロテインSにも結合することができる。
【0026】
本発明において「少なくともK196Eの変異を有する変異型ヒトプロテインS」とは、配列番号1で表されるアミノ酸配列において、196番目のリジン残基(K)がグルタミン酸残基(E)に置換している変異の他に、ミスセンス変異、ノンセンス変異、フレームシフト変異、スプライス部位変異およびアミノ酸欠損変異からなる群から選択される非同義変異を含むものであってもよいが、CKNGFVMLSNE(配列番号2)のアミノ酸配列は保存されている。
【0027】
本発明の抗体またはその断片は、好ましくは、モノクローナル抗体である。CKNGFVMLSNK(配列番号3)に対するよりも、CKNGFVMLSNE(配列番号2)に対して有意に結合するモノクローナル抗体が複数種存在する場合、各モノクローナル抗体同士を混合した組成物(いわゆるポリクローナル抗体)であってもよい。
本発明の抗体の作製方法としては、例えば、CKNGFVMLSNE(配列番号2)からなるペプチドを免疫原(抗原)として用いてマウス、好ましくは胚中心B細胞に核内タンパク質GANPを高発現するトランスジェニックマウス(GANP(登録商標)マウス)等の前記哺乳動物または前記鳥類に免疫し、この動物の脾臓細胞をマウスミエローマ細胞と融合して得られたハイブリドーマが産生する抗体をスクリーニングするとともに、特定の抗体を産生するハイブリドーマのクローニングを行う従来の方法等が挙げられる。具体例としての詳細は本実施例を参照。
【0028】
本発明の抗体のような、いわゆる抗ペプチド抗体を作製するのに際し、従来の方法においては、特定のタンパク質の中から特定のアミノ酸配列を選択して免疫原(合成ペプチド)として用いるが、通常、免疫原である合成ペプチドの中にシステイン残基が含まれないように選択することが知られている。システイン残基同士は、タンパク質の三次構造(立体構造)を保持するためジスルフィド結合を形成することがあり、システイン残基を含む選択ペプチドは、タンパク質の立体構造内部に埋もれやすく、その立体障害のため、抗ペプチド抗体が選択ペプチドを介してタンパク質に結合しづらい。
ただし、合成ペプチドを免疫原とするこのような場合、そのままでは免疫原として認識されづらいため、その合成ペプチドのN末端またはC末端にシステインをあえて加え、そのシステインを介して、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)等の抗原性刺激のあるキャリアタンパク質と合成ペプチドとを結合させることがある。
【0029】
本発明において使用するCKNGFVMLSNE(配列番号2)の先頭のシステイン残基(C)は、キャリアタンパク質との結合を目的として加えたものではなく、野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列(配列番号1)に含まれるもの(186番目のアミノ酸)であり、このシステイン残基は、配列番号1に含まれる他のシステイン残基(199番目のアミノ酸)とジスルフィド結合を形成することが確認されている。
当業者は通常、免疫抗原としての合成ペプチド内に、ジスルフィド結合に寄与するシステイン残基を含まないように選択するが、本発明は、あえてシステイン残基を含む配列をエピトープとする抗体を作製することで、抗原として認識されやすい抗体を作製することに成功した。
【0030】
<免疫学的診断用組成物>
また、本発明は、別の一態様において、本発明の抗体またはその断片を含む、免疫学的診断用組成物を提供するものであり、該組成物は、好ましくは血栓塞栓症、より好ましくは静脈血栓塞栓症、例えば、エコノミークラス症候群やロングフライト血栓症とも呼ばれる肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症等の遺伝的素因があるか否かを判定するために使用するものである。
本発明の免疫学的診断用組成物には、本発明の抗体および/またはその断片の他に、例えば、緩衝液等を含んでもよい。
また、本発明の免疫学的診断用組成物の調製方法としては、例えば、本発明の抗体またはその断片の製造方法に準じ、本発明の抗体またはその断片が失活しなければ、従来公知の任意の方法を用いることができる。
【0031】
<検出方法>
さらに、本発明は、他の一態様において、配列番号1で示されるアミノ酸配列の196番目のリジン(K)がグルタミン酸(E)に変異した非同義変異を少なくとも有する変異型ヒトプロテインSを試料から検出する方法を提供するものであって、該方法は、
前記試料を、本発明の抗体またはその断片と接触させる工程
を含み、好ましくは、
変異型ヒトプロテインSを、従来公知の免疫比濁法(TIA)、ラテックス凝集(LPIA)法、イムノクロマト法(IC)および固相免疫法からなる群から選択される少なくとも1つの免疫学的測定法により検出する工程
をさらに含むものである。
【0032】
本発明の検出方法における「試料」とは、プロテインSが存在する可能性があり、かつプロテインSの存在の有無、または含有量(濃度)の測定を行おうとする対象を指し、かかる試料としては、例えば、ヒト由来の血液、血清、血漿、唾液、汗、尿、涙、髄液、羊水、腹水等の体液、または、肝臓、心臓、脳、骨、毛髪、皮膚、爪、筋肉、神経組織等の臓器、組織もしくは細胞等の抽出液など、プロテインSが含まれる可能性のあるものが挙げられる。
ELISAの原理を利用する固相免疫法としては、抗体への標識物質の種類により、例えば、放射性同位元素を標識するRIA、ユーロピウム等の蛍光発光物質を標識する蛍光免疫測定法(FIA)、ルミノール等の化学発光物質を標識する化学発光免疫測定法(CLIA)、ペルオキシダーゼ等の酵素を標識する酵素免疫測定法(EIA)等が挙げられる。
【0033】
<キット>
さらにまた、本発明は、さらに他の一態様において、本発明の抗体および/またはその断片ならびに免疫学的診断用組成物を夫々含む、配列番号1で示されるアミノ酸配列の196番目のリジン(K)がグルタミン酸(E)に変異した非同義変異を少なくとも有する変異型ヒトプロテインSを検出するための検出用キットおよび診断用キットを提供するものである。
これらのキットには、例えば、緩衝液、抗体への標識物質、二次抗体、シグナルを検出するための検出用試薬、またはキットの使用説明書等がさらに含まれていてもよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[実施例1]抗体の作製
配列番号2で示されるCKNGFVMLSNEのペプチドを免疫原として免疫したマウスから得られたマウス血清に含まれる抗体の希釈系列と、固相化抗原として夫々、配列番号2のペプチド、配列番号3のペプチド、KLHを結合した配列番号2のペプチドおよびKLHのみとの抗体抗原反応をELISAにより確認した。その結果を図1に示す。なお、二次抗体としてHRP標識抗マウスIgG(γ)抗体を、HRPの基質としてオルトフェニレンジアミンを用いた。
次に、以下の常法に従って、前記の免疫したマウスからハイブリドーマを作製し、配列番号3のCKNGFVMLSNKペプチドに対するより、配列番号2のペプチドに対して有意に結合するか否かを指標に、所望のモノクローナル抗ペプチド抗体のスクリーニングおよび抗体産生細胞のクローニングを行った。最終的に本発明では3種類のモノクローナル抗体(4B1、15C8、16E3)を得ることに成功した。
【0035】
<常法>
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、ケーラーとミルシュタインの方法(Koehler & Milstein, Nature, 256, 495-497 (1975))に準じて得ることができる。すなわち、配列番号2の合成ペプチドのシステイン残基にKLHを結合させたものを用いてマウスを免疫した後、このマウスの脾臓細胞をマウスミエローマ細胞と融合させる。得られたハイブリドーマをマイクロタイタープレートにまき込んで、抗体のスクリーニングと抗体産生細胞のクローニングを行い、このハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取した。
採取したハイブリドーマは、通常の培地で継代培養することができ、また液体窒素中で半永久的に保存することができる。所望のモノクローナル抗体は、インビトロにおける培養法により大量調製することができる。インビトロ培養法は、ハイブリドーマを適当な血清培地若しくは無血清培地中で培養することにより実施でき、所望のモノクローナル抗体は培地中に産生される。この培養法によれば、比較的高純度の所望抗体を培養上清として得ることができる。
本実験においては、前記「マウス」として、GANP(登録商標)マウスを使用した。
【0036】
なお、得られたハイブリドーマ4B1、15C8および16E3は、2014年7月31日付で、千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8(〒292−0818)、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)に、受領番号NITE AP-01906、NITE AP-01907、およびNITE AP-01908として夫々受領された。
【0037】
[実施例2]プロテインS(42-676)と抗体とのELISA測定
固相化抗原として、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列における42〜676番目の配列からなる遺伝子組み換え体のヒトプロテインS(0.8mg/ml)と、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列において196番目のリジン残基(K)がグルタミン酸残基(E)に変異した場合の42〜676番目の配列からなる遺伝子組み換え体のヒトプロテインS(1.0mg/ml)の夫々に対し、実施例1で得られた3種のモノクローナル抗体(4B1、15C8、16E3)との抗体抗原反応をELISAにより確認した。
【0038】
具体的な手順としては、PBS(ナカライテスク社、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)製品番号27575&#8722;31)で希釈した遺伝子組み換え体のヒトプロテインSを50μl/ウェル添加し、室温で1時間静置した。ELISAのサンプルプレートとして、NUNCイムノモジュール(フレーム付)マキシソープ(製品番号467466)を使用した。
洗浄バッファー(PBS−0.05%Tween20)にてウェルを3回洗浄後、ブロッキングバッファー(0.5%ゼラチンPBS−0.05%Tween20)を200μl/ウェル添加し、4℃で終夜(約16時間)静置した。
洗浄バッファーにてウェルを3回洗浄後、抗体希釈液(0.05%ゼラチンPBS−0.05%Tween20)で希釈した抗ヒトプロテインS−K196Eモノクローナル抗体(2μg/ml)を50μl/ウェル添加し、室温で1時間静置した。
【0039】
洗浄バッファーにてウェルを3回洗浄後、抗体希釈液で2500倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG(γ)抗体(KPL社(Kirkegaard & Perry Laboratories, Inc.))を50μl/ウェル添加し、室温で1時間静置した。
洗浄バッファーにてウェルを3回洗浄後、TMB(KPL社、SureBlue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate)を100μl/ウェル添加し、室温で10分間静置した。反応停止液(1NのHCl)を100μl/ウェル添加し、Thermo Labsystems Multiskan Ascent(サーモバイオアナリシスジャパン社)を使用して吸光度を450/650nmで夫々の試料について3回測定した。その結果を図2と表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
なお、「プロテインS(42-676)」は、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列における42〜676番目の配列からなる遺伝子組み換え体のヒトプロテインSを指し、さらにプロテインS(42-676)の196番目のアミノ酸がリジン残基のものを「野生型」とし、グルタミン酸残基のものを「変異型」とする。
また、プロテインS(42-676)は、当該分野において公知の方法に従い調製した。
【0042】
[実施例3]プロテインS(117-283)と抗体とのELISA測定
実施例2において、固相化抗原として、野生型プロテインS(42-676)の代わりに、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列における117〜283番目の配列からなる遺伝子組み換え体の野生型ヒトプロテインS(9mg/ml)を、変異型プロテインS(42-676)の代わりに、配列番号1で表されるヒトプロテインSのアミノ酸配列において196番目のリジン残基(K)がグルタミン酸残基(E)に変異した場合の117〜283番目の配列からなる遺伝子組み換え体のヒトプロテインS(5.3mg/ml)を用いた以外は、実施例2と同様にしてELISA測定を行った。その結果を図3と表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
なお、「プロテインS(117-283)」は、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列における117〜283番目の配列からなる遺伝子組み換え体のヒトプロテインSを指し、4つの連続した上皮細胞成長因子(EGF)様ドメインに対応する。また、プロテインS(117-283)の196番目のアミノ酸がリジン残基のものを「野生型」とし、グルタミン酸残基のものを「変異型」とする。
また、プロテインS(117-283)は、当該分野において公知の方法に従い調製した。
【0045】
[実施例4]ウェスタンブロット解析
通常の方法によりウェスタンブロットを行い、実施例2および実施例3の夫々において調製した遺伝子組み換え体のヒトプロテインSと実施例1で得られたモノクローナル抗体(15C8)との結合を検出した。
分子量マーカーとして、プレシジョンPlusプロテイン2色スタンダード(BIO-RAD社、製品番号161-0374)を使用した。ゲルとして、スーパーセップエース10&#8722;20%ゲル(Wako社、製品番号198-15041)を使用した。メンブレンとして、Immun-Blot PVDFメンブレン(BIO-RAD社)を使用した。ブロッキングには5%スキムミルクを使用した。二次抗体として、anti−mouse−IgG−HRP(KPL社、製品番号074-1806)を使用し、一次抗体および二次抗体夫々の反応の際は室温で1時間静置した。発色には、immobilon western Chemiluminescent HRP Substrate(ミリポア社)を使用した。画像解析には、LAS-3000を使用した。得られた結果を図4に示す。
【0046】
[実施例5]ヒト血漿中プロテインSと抗体とのELISA測定
野生型プロテインSおよび変異型プロテインSを夫々含むヒト血漿サンプルをウェルに添加し、室温で静置した。
コーティングバッファー(50mM 炭酸/炭酸水素バッファー、pH9.6)を、0.159gのNaCOおよび0.293gのNaHCOを100mlの水に溶解させて調製した。このコーティングバッファーを用いて希釈した10μg/mlのPolyclonal Rabbit Anti-Human Protein S(DAKO社、製品番号A0348)を100μl/ウェル添加し、4℃で終夜(約16時間)静置した。洗浄バッファー(TBS−0.1%Tween20)にて3回洗浄後、ブロッキングバッファー(1%BSA−TBS)を200μl/ウェル添加し、室温で2時間静置した。さらに洗浄バッファーにて3回洗浄後、試料希釈液(TBS)で希釈した試料(ヒト血漿1/20)を100μl/ウェル添加し、室温で2時間静置した。洗浄バッファーにて3回洗浄後、HRP標識抗ヒトプロテインS−K196Eモノクローナル抗体(15C8)を抗体希釈液(1%BSA−TBS−0.1%Tween20)で5μg/mlに希釈し、100μl/ウェル添加し、室温で1時間静置した。洗浄バッファーにて5回洗浄後、TMBを100μl/ウェル添加し、室温で10分間静置した。反応停止液(1N HCl)を100μl/ウェル添加し、吸光度450/650nmで測定した。その結果を図5と表3に示す。なお、HRPはPeroxidase Labeling Kit NH2(Dojindo社)を用いて標識した。また、10×TBS(pH7.4)は6.06gのTrisおよび5.8gのNaClを100mlの水に溶解させて調製した。
【0047】
【表3】
【0048】
<考察>
実施例2および3のELISAの結果から、実施例1で得られた3種類のモノクローナル抗体(4B1、15C8、16E3)のいずれも、K196Eの変異を有するヒトプロテインSの遺伝子組み換え体と有意に結合することがわかった。
実施例4のウェスタンブロットの結果(図4)から、実施例1で得られたモノクローナル抗体15C8は、ヒトプロテインSの全長(42-676)およびEGF様ドメイン(117-283)のいずれにも同じように結合することがわかった。また、同結果から、モノクローナル抗体15C8が、K196E変異を有するヒトプロテインSのEGF様ドメイン(117-283)を標的とすることも確認することができた。
図4において、ヒトプロテインSの全長(42-676)およびEGF様ドメイン(117-283)の各バンドのシグナル強弱が、SDS−PAGEに供した各タンパク質のモル数に差があること(ただし、SDS−PAGEにロードした各タンパク質の重量は等しい)、分子量の大きいタンパク質ほどブロッティング効率が低くなる傾向にあること等が原因であることを本発明者らは突きとめている。
【0049】
本発明に係るアミノ酸配列(配列番号2)のN末端のシステイン残基は、ヒトプロテインSのアミノ酸配列(配列番号1)中のEGF様ドメイン(117-283)に含まれる186番目のシステイン残基に相当するものであり、このシステイン残基は、配列番号1に含まれるEGF様ドメイン中の199番目のシステイン残基とジスルフィド結合を形成することが確認されている。当業者は通常、免疫抗原としての合成ペプチド内に、抗原性の低下をもたらすジスルフィド結合に寄与するシステイン残基を含まないように選択するものである。しかしながら、本発明では、敢えてシステイン残基を含む配列、すなわちEGF様ドメイン中の別のシステイン残基との間でジスルフィド結合を形成するシステイン残基を含む配列をエピトープとして選択したことで、驚くべきことに、ジスルフィド結合を含むネイティブコンフォメーション変異体を認識する抗体を分離することに成功した。
【0050】
また、実施例5のヒト血漿中のプロテインSのELISAの結果(表3、図5)から、実施例1で得られたモノクローナル抗体15C8が、ヒト血漿中においてK196Eの変異を有するヒトプロテインSと有意に結合することがわかった。したがって、本発明は、血液等の生体試料中であってもヒトプロテインSを検出することが可能であることから、血液検査等の実用に耐え得ることが示された。
さらに、プロテインSの変異を検出する従来法(特許文献7および非特許文献2)は、試料中の総プロテインSのタンパク質量および試料中の総プロテインSの活性値を別々に測定し、比活性を求めること等を特徴とするが、本発明においてはプロテインSの変異を検出するためにプロテインSの活性値の測定は不要であることから、簡便にプロテインSの変異を検出することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、血栓症患者、例えば静脈血栓塞栓症患者の治療方針に遺伝性の素因情報を提供することができる。それによって、血栓症等の疾患の予防、診断および治療等に役立てることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]