【実施例】
【0034】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[実施例1]抗体の作製
配列番号2で示されるCKNGFVMLSNEのペプチドを免疫原として免疫したマウスから得られたマウス血清に含まれる抗体の希釈系列と、固相化抗原として夫々、配列番号2のペプチド、配列番号3のペプチド、KLHを結合した配列番号2のペプチドおよびKLHのみとの抗体抗原反応をELISAにより確認した。その結果を
図1に示す。なお、二次抗体としてHRP標識抗マウスIgG(γ)抗体を、HRPの基質としてオルトフェニレンジアミンを用いた。
次に、以下の常法に従って、前記の免疫したマウスからハイブリドーマを作製し、配列番号3のCKNGFVMLSNKペプチドに対するより、配列番号2のペプチドに対して有意に結合するか否かを指標に、所望のモノクローナル抗ペプチド抗体のスクリーニングおよび抗体産生細胞のクローニングを行った。最終的に本発明では3種類のモノクローナル抗体(4B1、15C8、16E3)を得ることに成功した。
【0035】
<常法>
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、ケーラーとミルシュタインの方法(Koehler & Milstein, Nature, 256, 495-497 (1975))に準じて得ることができる。すなわち、配列番号2の合成ペプチドのシステイン残基にKLHを結合させたものを用いてマウスを免疫した後、このマウスの脾臓細胞をマウスミエローマ細胞と融合させる。得られたハイブリドーマをマイクロタイタープレートにまき込んで、抗体のスクリーニングと抗体産生細胞のクローニングを行い、このハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取した。
採取したハイブリドーマは、通常の培地で継代培養することができ、また液体窒素中で半永久的に保存することができる。所望のモノクローナル抗体は、インビトロにおける培養法により大量調製することができる。インビトロ培養法は、ハイブリドーマを適当な血清培地若しくは無血清培地中で培養することにより実施でき、所望のモノクローナル抗体は培地中に産生される。この培養法によれば、比較的高純度の所望抗体を培養上清として得ることができる。
本実験においては、前記「マウス」として、GANP(登録商標)マウスを使用した。
【0036】
なお、得られたハイブリドーマ4B1、15C8および16E3は、2014年7月31日付で、千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8(〒292−0818)、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)に、受領番号NITE AP-01906、NITE AP-01907、およびNITE AP-01908として夫々受領された。
【0037】
[実施例2]プロテインS(42-676)と抗体とのELISA測定
固相化抗原として、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列における42〜676番目の配列からなる遺伝子組み換え体のヒトプロテインS(0.8mg/ml)と、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列において196番目のリジン残基(K)がグルタミン酸残基(E)に変異した場合の42〜676番目の配列からなる遺伝子組み換え体のヒトプロテインS(1.0mg/ml)の夫々に対し、実施例1で得られた3種のモノクローナル抗体(4B1、15C8、16E3)との抗体抗原反応をELISAにより確認した。
【0038】
具体的な手順としては、PBS(ナカライテスク社、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)製品番号27575−31)で希釈した遺伝子組み換え体のヒトプロテインSを50μl/ウェル添加し、室温で1時間静置した。ELISAのサンプルプレートとして、NUNCイムノモジュール(フレーム付)マキシソープ(製品番号467466)を使用した。
洗浄バッファー(PBS−0.05%Tween20)にてウェルを3回洗浄後、ブロッキングバッファー(0.5%ゼラチンPBS−0.05%Tween20)を200μl/ウェル添加し、4℃で終夜(約16時間)静置した。
洗浄バッファーにてウェルを3回洗浄後、抗体希釈液(0.05%ゼラチンPBS−0.05%Tween20)で希釈した抗ヒトプロテインS−K196Eモノクローナル抗体(2μg/ml)を50μl/ウェル添加し、室温で1時間静置した。
【0039】
洗浄バッファーにてウェルを3回洗浄後、抗体希釈液で2500倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG(γ)抗体(KPL社(Kirkegaard & Perry Laboratories, Inc.))を50μl/ウェル添加し、室温で1時間静置した。
洗浄バッファーにてウェルを3回洗浄後、TMB(KPL社、SureBlue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate)を100μl/ウェル添加し、室温で10分間静置した。反応停止液(1NのHCl)を100μl/ウェル添加し、Thermo Labsystems Multiskan Ascent(サーモバイオアナリシスジャパン社)を使用して吸光度を450/650nmで夫々の試料について3回測定した。その結果を
図2と表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
なお、「プロテインS(42-676)」は、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列における42〜676番目の配列からなる遺伝子組み換え体のヒトプロテインSを指し、さらにプロテインS(42-676)の196番目のアミノ酸がリジン残基のものを「野生型」とし、グルタミン酸残基のものを「変異型」とする。
また、プロテインS(42-676)は、当該分野において公知の方法に従い調製した。
【0042】
[実施例3]プロテインS(117-283)と抗体とのELISA測定
実施例2において、固相化抗原として、野生型プロテインS(42-676)の代わりに、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列における117〜283番目の配列からなる遺伝子組み換え体の野生型ヒトプロテインS(9mg/ml)を、変異型プロテインS(42-676)の代わりに、配列番号1で表されるヒトプロテインSのアミノ酸配列において196番目のリジン残基(K)がグルタミン酸残基(E)に変異した場合の117〜283番目の配列からなる遺伝子組み換え体のヒトプロテインS(5.3mg/ml)を用いた以外は、実施例2と同様にしてELISA測定を行った。その結果を
図3と表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
なお、「プロテインS(117-283)」は、配列番号1で表される野生型ヒトプロテインSのアミノ酸配列における117〜283番目の配列からなる遺伝子組み換え体のヒトプロテインSを指し、4つの連続した上皮細胞成長因子(EGF)様ドメインに対応する。また、プロテインS(117-283)の196番目のアミノ酸がリジン残基のものを「野生型」とし、グルタミン酸残基のものを「変異型」とする。
また、プロテインS(117-283)は、当該分野において公知の方法に従い調製した。
【0045】
[実施例4]ウェスタンブロット解析
通常の方法によりウェスタンブロットを行い、実施例2および実施例3の夫々において調製した遺伝子組み換え体のヒトプロテインSと実施例1で得られたモノクローナル抗体(15C8)との結合を検出した。
分子量マーカーとして、プレシジョンPlusプロテイン2色スタンダード(BIO-RAD社、製品番号161-0374)を使用した。ゲルとして、スーパーセップエース10−20%ゲル(Wako社、製品番号198-15041)を使用した。メンブレンとして、Immun-Blot PVDFメンブレン(BIO-RAD社)を使用した。ブロッキングには5%スキムミルクを使用した。二次抗体として、anti−mouse−IgG−HRP(KPL社、製品番号074-1806)を使用し、一次抗体および二次抗体夫々の反応の際は室温で1時間静置した。発色には、immobilon western Chemiluminescent HRP Substrate(ミリポア社)を使用した。画像解析には、LAS-3000を使用した。得られた結果を
図4に示す。
【0046】
[実施例5]ヒト血漿中プロテインSと抗体とのELISA測定
野生型プロテインSおよび変異型プロテインSを夫々含むヒト血漿サンプルをウェルに添加し、室温で静置した。
コーティングバッファー(50mM 炭酸/炭酸水素バッファー、pH9.6)を、0.159gのNa
2CO
3および0.293gのNaHCO
3を100mlの水に溶解させて調製した。このコーティングバッファーを用いて希釈した10μg/mlのPolyclonal Rabbit Anti-Human Protein S(DAKO社、製品番号A0348)を100μl/ウェル添加し、4℃で終夜(約16時間)静置した。洗浄バッファー(TBS−0.1%Tween20)にて3回洗浄後、ブロッキングバッファー(1%BSA−TBS)を200μl/ウェル添加し、室温で2時間静置した。さらに洗浄バッファーにて3回洗浄後、試料希釈液(TBS)で希釈した試料(ヒト血漿1/20)を100μl/ウェル添加し、室温で2時間静置した。洗浄バッファーにて3回洗浄後、HRP標識抗ヒトプロテインS−K196Eモノクローナル抗体(15C8)を抗体希釈液(1%BSA−TBS−0.1%Tween20)で5μg/mlに希釈し、100μl/ウェル添加し、室温で1時間静置した。洗浄バッファーにて5回洗浄後、TMBを100μl/ウェル添加し、室温で10分間静置した。反応停止液(1N HCl)を100μl/ウェル添加し、吸光度450/650nmで測定した。その結果を
図5と表3に示す。なお、HRPはPeroxidase Labeling Kit NH2(Dojindo社)を用いて標識した。また、10×TBS(pH7.4)は6.06gのTrisおよび5.8gのNaClを100mlの水に溶解させて調製した。
【0047】
【表3】
【0048】
<考察>
実施例2および3のELISAの結果から、実施例1で得られた3種類のモノクローナル抗体(4B1、15C8、16E3)のいずれも、K196Eの変異を有するヒトプロテインSの遺伝子組み換え体と有意に結合することがわかった。
実施例4のウェスタンブロットの結果(
図4)から、実施例1で得られたモノクローナル抗体15C8は、ヒトプロテインSの全長(42-676)およびEGF様ドメイン(117-283)のいずれにも同じように結合することがわかった。また、同結果から、モノクローナル抗体15C8が、K196E変異を有するヒトプロテインSのEGF様ドメイン(117-283)を標的とすることも確認することができた。
図4において、ヒトプロテインSの全長(42-676)およびEGF様ドメイン(117-283)の各バンドのシグナル強弱が、SDS−PAGEに供した各タンパク質のモル数に差があること(ただし、SDS−PAGEにロードした各タンパク質の重量は等しい)、分子量の大きいタンパク質ほどブロッティング効率が低くなる傾向にあること等が原因であることを本発明者らは突きとめている。
【0049】
本発明に係るアミノ酸配列(配列番号2)のN末端のシステイン残基は、ヒトプロテインSのアミノ酸配列(配列番号1)中のEGF様ドメイン(117-283)に含まれる186番目のシステイン残基に相当するものであり、このシステイン残基は、配列番号1に含まれるEGF様ドメイン中の199番目のシステイン残基とジスルフィド結合を形成することが確認されている。当業者は通常、免疫抗原としての合成ペプチド内に、抗原性の低下をもたらすジスルフィド結合に寄与するシステイン残基を含まないように選択するものである。しかしながら、本発明では、敢えてシステイン残基を含む配列、すなわちEGF様ドメイン中の別のシステイン残基との間でジスルフィド結合を形成するシステイン残基を含む配列をエピトープとして選択したことで、驚くべきことに、ジスルフィド結合を含むネイティブコンフォメーション変異体を認識する抗体を分離することに成功した。
【0050】
また、実施例5のヒト血漿中のプロテインSのELISAの結果(表3、
図5)から、実施例1で得られたモノクローナル抗体15C8が、ヒト血漿中においてK196Eの変異を有するヒトプロテインSと有意に結合することがわかった。したがって、本発明は、血液等の生体試料中であってもヒトプロテインSを検出することが可能であることから、血液検査等の実用に耐え得ることが示された。
さらに、プロテインSの変異を検出する従来法(特許文献7および非特許文献2)は、試料中の総プロテインSのタンパク質量および試料中の総プロテインSの活性値を別々に測定し、比活性を求めること等を特徴とするが、本発明においてはプロテインSの変異を検出するためにプロテインSの活性値の測定は不要であることから、簡便にプロテインSの変異を検出することが可能である。