特許第6485890号(P6485890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6485890
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20190311BHJP
   G01N 27/16 20060101ALI20190311BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   G01N27/12 B
   G01N27/16 Z
   G01N27/04 H
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-566507(P2017-566507)
(86)(22)【出願日】2016年10月24日
(86)【国際出願番号】JP2016081416
(87)【国際公開番号】WO2017138190
(87)【国際公開日】20170817
【審査請求日】2018年6月29日
(31)【優先権主張番号】特願2016-24410(P2016-24410)
(32)【優先日】2016年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000112439
【氏名又は名称】フィガロ技研株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雅人
(72)【発明者】
【氏名】喜多 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】谷平 龍也
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−242269(JP,A)
【文献】 特開2015−044175(JP,A)
【文献】 特開2007−112948(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/096171(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/24
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス検知部と、ガス検知部よりも被検出雰囲気側に配置されているフィルタとを有するガスセンサにおいて、
前記フィルタが、スルホン基を含有し、かつプレート状のメソポーラスシリカ粒子を含有することを特徴とする、ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はガスセンサに関し、特にそのフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサにはシロキサンガスによる被毒との問題が有る。メタンあるいはCOの検出では活性炭フィルタによりシロキサンガスを吸着除去できるが、イソブタン、LPG等の検出では活性炭がこれらの検出対象ガスを吸着する。これに対して、出願人はゼオライトと活性アルミナとを混合したフィルタを提案した(特許文献1 特開2013-88267)。
【0003】
出願人はさらに、メソポーラスシリカがシロキサンガスへの高い吸着能を示すことと、メソポーラスシリカをフィルタに用いるとイソブタン等へのガスセンサの応答が遅くなることを見出した。そしてシリカ・アルミナ系の吸着剤を前段(被検出雰囲気側)に配置し、その後段(ガスセンサのガス検知部側)に、不織布等に少量のメソポーラスシリカを付着させた層状フィルタを配置することを提案した(特許文献2 特開2013-242269)。このようにすると、イソブタン等への検知遅れを許容範囲内に保ちながら、シロキサンガスを除去することができる。
【0004】
発明者は、イソブタン等のガスへの検知遅れをより短くし、かつシロキサンガスへの耐久性をさらに向上させるために、メソポーラスシリカの粒子構造と成分とを検討し、この発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-88267
【特許文献2】特開2013-242269
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の課題は、ガスセンサのイソブタン等のガスへの検知遅れをより短くし、かつシロキサンガスへの耐久性をさらに向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のガスセンサは、ガス検知部と、ガス検知部よりも被検出雰囲気側に配置されているフィルタとを有し、フィルタが、スルホン基を含有し、かつプレート状のメソポーラスシリカ粒子を含有することを特徴とする。ここにプレート状とは、粒子が多角形の板状で、板の対角線の長さと板厚との比の平均値が2:1以上であることを意味する。ロッド状ではこの値は1:1よりも充分に小さい。
【0008】
プレート状のメソポーラスシリカ粒子をフィルタに用いると、従来のロッド状のメソポーラスシリカ粒子を用いる場合に比べ、フィルタによる検知遅れ時間を短くでき、あるいはより多量のメソポーラスシリカをフィルタに含有させることにより、耐被毒性を向上させることができる。
【0009】
この発明では、メソポーラスシリカ粒子はスルホン基を含有する。スルホン基を含有するメソポーラスシリカ粒子をフィルタに用いると、シロキサンガスをメソポーラスシリカ粒子のメソ孔中で反応させて固定できる。このため、シロキサンガスに対するガスセンサの耐被毒性を向上できる。スルホン基中のS元素と、メソポーラスシリカのSi元素との比は、仕込み時に例えば1:21〜3:13で有る。S元素の一部が、調整時に、生成物のメソポーラスシリカから脱離する可能性を加味すると、メソポーラスシリカ粒子中でのS元素とSi元素との比は、例えば1:100〜1:4である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例での、メソポーラスシリカの調製条件を示す図
図2】実施例のメソポーラスシリカの電子顕微鏡写真
図3】実施例での、メソポーラスシリカへの環状シロキサンの吸着等温線を示す図
図4】実施例での、メソポーラスシリカのH酸量と比表面積とを示す図
図5】実施例で、メソポーラスシリカに吸着した環状シロキサンのH NMRスペクトルを示す図
図6】実施例のガスセンサの断面図
図7】実施例のガスセンサの駆動パターンを示す図
図8】実施例での、シロキサンガス中での耐久試験による、空気中、水素中、及びイソブタン中でのガスセンサの抵抗値の挙動を示す図
図9】従来例での、シロキサンガス中での耐久試験による、空気中、水素中、及びイソブタン中でのガスセンサの抵抗値の挙動を示す図
図10】プレート状の粒子から成りスルホン基を含有するメソポーラスシリカをフィルタとする実施例での、シロキサンガス中での耐久試験による、空気中、水素中、及びメタン中でのガスセンサの抵抗値の挙動を示す図
図11】プレート状の粒子から成るメソポーラスシリカをフィルタとする実施例での、シロキサンガス中での耐久試験による、空気中、水素中、及びメタン中でのガスセンサの抵抗値の挙動を示す図
図12】ロッド状の粒子から成るメソポーラスシリカをフィルタとする比較例での、シロキサンガス中での耐久試験による、空気中、水素中、及びメタン中でのガスセンサの抵抗値の挙動を示す図
図13】実施例のガスセンサのフィルタ材の充填量とイソブタンへの検知遅れ時間とを示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0013】
プレート状粒子から成るメソポーラスシリカの調製
図1は、実施例のメソポーラスシリカの調製条件を示す。図中、P123は界面活性剤のPluonic P123 Surfantantを、TEOSはTetra Ethoxy Ortho Silicateを、MpTMSは3-メルカプト-プロピル-トリメトキシ-シランを表す。SBA-15は調製したメソポーラスシリカの種類を、ZrはZr元素を含有することを、SAはスルホン基を含有することを表し、SBA-15-pのpは、SBA-15の粒子径状がプレート状であることを表す。
【0014】
メソポーラスシリカは通常はロッド状の粒子から成り、ロッドの長手方向に平行なメソ孔が存在する。実施例では調製条件を選び、プレート状のSBA-15を調製した。P123の1Mの塩化水素溶液に、30℃で撹拌下にTEOS溶液を混合し、撹拌と静置を行った後に、オートクレーブ中100℃で24時間処理し、吸引ろ過と純水による洗浄とを施し、500℃で12時間焼成して、プレート状のSBA-15-pを調製した。
【0015】
Zr元素を含有させる場合、例えばZrとSiとの仕込み段階での原子比を1:20とし、ZrOをP123の溶液に加えて、Zr-SBA-15-pを調製した。Zrはメソポーラスシリカの骨格中にSi原子を置換するように存在し、Zr元素を含有させる場合、Zr/Siの原子比は例えば1:100〜1:8とする。Zr元素に代えて、Ti元素、Ta元素、Nb元素をメソポーラスシリカ中に含有させても良く、その場合のSiとの原子比はZrの場合と同様である。
【0016】
SA-SBA-15-pではスルホン基をメソポーラスシリカ中に含有させ、S元素を含有する有機珪素化合物を加え、過酸化水素等により酸化することにより、スルホン基をメソポーラスシリカに導入した。スルホン基の導入方法は任意であるが、オートクレーブ中でのメソポーラスシリカの成長よりも前に、S元素を含有する珪素の有機化合物として導入することが好ましい。S元素のスルホン基への酸化はどの時点で行っても良い。またS元素とSi元素との仕込み段階での原子比は図1の例では1:11としたが、1:21〜3:13の範囲で実験した。Zr元素を含有する場合、ZrとSiとの原子比は図1では1:20であるが、1:100〜1:10の範囲が好ましい。
【0017】
調製した各試料に対し、X線回折スペクトルとNの吸脱着等温線とを測定し、規則的なメソ孔を有することを確認した。図3に、図1の各試料の走査型電子顕微鏡写真を示す。メソポーラスシリカの粒子はいずれも、略6角形の、プレート状で、メソ孔の奥行き方向はプレートの厚さ方向を向き、プレートの厚さは200〜300nm程度、プレートの直径(6角形の対角線の長さ)は1μm程度で、直径と厚さとの縦横比の平均は3:1〜10:1程度である。Zr元素を含有させると、粒子が小さくなる傾向があり、またロッド状ではなく、プレート状に形態を制御することが容易になった。さらにスルホン基を含有させると、六角形の形状がやや崩れる傾向があった。Zr元素に代えて、Ti元素、Nb元素あるいはTa元素を導入しても同様である。
【0018】
図3は、各試料への環状シロキサン(D4)の吸着等温線を示す。低濃度のシロキサンガスの吸着量を増すには、メソポーラスシリカに、Zrを含有させることと、スルホン基を含有させることが有効であることを確認できた。
【0019】
図4は、メソポーラスシリカと他の吸着剤との、H酸量とBET比表面積とを示す。なおH酸量は以下のように測定した。室温で、2MのNaCl水溶液20mL中に吸着剤0.1gを加えて、減圧下に撹拌して吸着剤中のHをNaとイオン交換した。次いでろ過し、濾液10mLを中和滴定し、H酸量を測定した。プレート状のメソポーラスシリカは比表面積が大きく、スルホン基の導入により酸量が増加し、Zr元素を含有させてもH酸量が増加した。
【0020】
図5は、メソポーラスシリカに吸着した環状シロキサンのH NMRスペクトルを示す。各試料を真空中で200〜400℃で前処理し、室温で飽和蒸気圧のD4ガスを含む雰囲気に1時間放置した。次いで試料100mgからCDCl3にシロキサンを抽出し、H NMRスペクトルを測定した。図中の1.00等の数字は各ピークの面積比を示し、TMSは標準物質のTetra Methyl Silaneのピークである。スルホン基を含みH酸量の多いメソポーラスシリカでは、他の環状シロキサンであるD5由来のピークが検出された。このことはスルホン基によりシロキサンが開環重合して、メソポーラスシリカ中に固定されることを示唆している。
【0021】
ガスセンサ
図6に、ガスセンサ2の構造を示す。ガスセンサ2のガス感知部4は、mems構造でSnOをガス検出材料とする。Si基板の空洞部上の52酸化タンタルの薄膜上に、Ptヒータを形成し、層間絶縁膜を積層し、その上部に1対の電極とSnO2の厚膜とを積層し、ガス感知部4とした。ガス感知部4をメタル缶6に収容し、メタル缶6の頂部の開口8から、メソポーラスシリカフィルタ10を介して、被検出雰囲気をガス感知部4側へ供給する。12はリード、14はピン、16はベースである。なおガスセンサの構造材料はメソポーラスシリカフィルタを用いることを除き任意で、ガス感知部はSnO2以外の金属酸化物半導体を用いるものでも、Pt触媒のビードを用いる接触燃焼式のものでも、あるいは固体高分子電解質膜等を用いる電気化学式のものでも良い。メソポーラスシリカフィルタの構造は任意で、ゼオライト、シリカ、アンバーリスト等の他のフィルタを前段に特開2013-88267等のフィルタを配置しても良い。またメソポーラスシリカを、ゼオライト、シリカ、アンバーリスト等の他のフィルタ材料と混合して用いても良い。なおアンバーリストは図4に示した吸着剤で、強酸型のイオン交換樹脂である。
【0022】
図7は、ガスセンサの駆動条件を示す。周期Pでガスセンサ2を駆動し、その内時間Tだけヒータをオンし、ヒータをオフするのと同期してガスセンサ2の信号をサンプリングする。ヒータ電力を小さくするため、標準の駆動条件では周期Pを30秒、時間Tを1秒とする。ガスへの検知遅れの試験では、周期Pを1秒、時間Tを0.1秒とした。信号のサンプリング時のSnO2の温度は、イソブタン(図8図9図13)の検出では350℃程度、メタンの検出(図10図12)では450℃程度であった。
【0023】
シロキサンガスM3,D4,D5を各10ppm含有する雰囲気でガスセンサ2を12日間駆動し、測定時に清浄空気中に所定濃度のガスを含む雰囲気に切り替えて、ガスセンサ2の抵抗値を測定した。実施例(フィルタは、10SA-Zr-SBA-15-pを45mg使用)での結果を図8に示す。ゼオライトと活性アルミナとを混合した従来例のフィルタ(組成はシリカ:アルミナが質量比で1:1、使用量は60mg)(特開2013-88267)での結果を、図9に示す。実施例では被毒は許容範囲内であるが、従来例では許容範囲を超えていた。
【0024】
図10図11図12は、メソポーラスシリカでのスルホン基の有無と形状とによる差を示す。ガスとして水素とメタンとを検出し、ヒータオン時のガス感知部の温度は450℃で、被毒の条件は図8図9と同様である。図10はプレート状の粒子から成りスルホン基を含有するメソポーラスシリカ(10SA-Zr-SBA-15-pを45mg使用)での結果を、図11はプレート状の粒子から成りスルホン基を含有しないメソポーラスシリカ(SBA-15-pを60mg使用)での結果を、図12はロッド状の粒子から成るメソポーラスシリカ(SBA-15を75mg使用)での結果を示す。
【0025】
プレート状でスルホン基を含有する10SA-Zr-SBA-15-pを用いると、20日間ガスセンサの特性は安定で、SBA-15-pでは5日間ガスセンサの特性は安定であった。これに対して、ロッド状のSBA-15では1日で被毒が生じた。実施例での耐被毒性の順は、
10SA-Zr-SBA-15-p> 10SA-SBA-15-p> Zr-SBA-15-p> SBA-15-p> SBA-15
となった。そして、S元素含有量と共にメソポーラスシリカのH+酸量が増し(図4)、メソポーラスシリカ粒子中でのS元素とSi元素との比は例えば1:100〜1:4とし、好ましくは1:20〜1:4とする。耐被毒性の順序は、スルホン基を含有するとシロキサンの開環重合等が生じること(図5)と対応し、Zr元素を導入するとメソポーラスシリカのH酸量が増加すること(図4)と対応する。さらにプレート状のメソポーラスシリカは、ロッド状のメソポーラスシリカよりもガスセンサの耐被毒性能を向上させる。
【0026】
図13は、フィルタへのメソポーラスシリカの充填量と、イソブタン4500ppmを注入した後、イソブタン1800ppm相当の出力が得られるまでの検知遅れ時間との関係を示す。◆はロッド状のSBA-15での結果を、■はSBA-15-pでの結果を示し、プレート状にすることにより、検知遅れを短縮できた。このことは、プレート状のメソポーラスシリカではメソ孔の奥行きが短いため、吸着したイソブタンがメソ孔に保持される時間が短いが、ロッド状のプレート状のメソポーラスシリカではメソ孔の奥行きが長いため、吸着したイソブタンが長時間メソ孔に保持されることを示唆している。プレート状にすることにより検知遅れが短くなり、ロッド状にすることにより検知遅れが長くなることは、スルホン基やZr元素を含有する他のメソポーラスシリカでも同様であった。
【0027】
なおメソポーラスシリカのメソ孔中でシロキサンを開環重合等により重合させるため、メソ孔中に貴金属元素等の、Zr,Nb,Ta,Ti以外の金属元素を含有させても良い。
【0028】
発明者は、シロキサンガスの除去能力が高く、かつガスセンサの検知遅れ時間が長くならないフィルタを開発した。このフィルタを用いることにより、被毒を防止し、かつ検知遅れ時間を許容範囲内に留めながら、イソブタン、LPG等のガスを検出できる。
【符号の説明】
【0029】
2 ガスセンサ
4 ガス感知部
10 メソポーラスシリカフィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13