特許第6485905号(P6485905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6485905
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】余寿命評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20190311BHJP
【FI】
   G01N17/00
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-44847(P2015-44847)
(22)【出願日】2015年3月6日
(65)【公開番号】特開2016-164514(P2016-164514A)
(43)【公開日】2016年9月8日
【審査請求日】2018年2月2日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・集 会 名:HTMTC/IOM3 CREEP−FATIGUE CRACK DEVELOPMENT SYMPOSIUM 開 催 日:平成26(2014)年9月11日 ・発行者名 :High Temperature Materials Testing Committee 刊行物名 :HTMTC/IOM3 CREEP−FATIGUE CRACK DEVELOPMENT SYMPOSIUM (講演論文集) 発行年月日:平成26(2014)年9月11日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「革新的新構造材料等研究開発、共通基盤技術の研究調査」に係る委託研究、産業技術力協力化法第19条の適用を受ける特許出願。
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】511011791
【氏名又は名称】株式会社パルメソ
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】横堀 壽光
(72)【発明者】
【氏名】安藤 明香里
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 隆次
(72)【発明者】
【氏名】大見 敏仁
(72)【発明者】
【氏名】松原 亨
(72)【発明者】
【氏名】勝俣 力
【審査官】 小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−028554(JP,A)
【文献】 特開2003−130789(JP,A)
【文献】 特開2009−180520(JP,A)
【文献】 特開2017−223464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
G01N 33/20
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の材料群について、破断寿命の関数である評価パラメータと、損傷部および非損傷部の研削抵抗との関係をあらかじめ求めておき、
被評価材の損傷部および非損傷部の研削抵抗を測定し、
前記被評価材の各研削抵抗の測定値と、あらかじめ求めた前記評価パラメータと損傷部および非損傷部の研削抵抗との関係とに基づいて、前記被評価材の余寿命を評価することを
特徴とする余寿命評価方法。
【請求項2】
前記損傷部は、クリープによる損傷部であることを特徴とする請求項1記載の余寿命評価方法。
【請求項3】
前記評価パラメータは、次式のQLパラメータであることを
【数1】
(式中、tは破断寿命、Mは定数、ΔHは活性化エネルギー、σは公称応力、mはべき乗指数、Tは絶対温度、Rは気体定数、ε(・)は定常ひずみ速度である)
特徴とする請求項2記載の余寿命評価方法。
【請求項4】
前記被評価材の損傷部の研削抵抗の測定値をdD/dV|、前記被評価材の非損傷部の研削抵抗の測定値をdD/dV|、前記評価パラメータと前記損傷部の研削抵抗との関係をQLdamage(dD/dV|)、前記評価パラメータと前記非損傷部の研削抵抗との関係をQL(dD/dV|)として、
前記被評価材の余寿命tfrを、次式に基づいて評価することを
【数2】
(式中、tf1は、定常ひずみ速度ε(・)を有する場合の前記被評価材の破断寿命である)
特徴とする請求項3記載の余寿命評価方法。
【請求項5】
前記被評価材は合金から成り、
前記材料群は、主成分が前記被評価材の主成分と共通している合金から成る群であることを
特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の余寿命評価方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、余寿命評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガスタービンやジェットエンジンの高効率化を達成するために、稼働温度の高温化が進められており、それに対応する先進耐熱材料が開発されている。発電用ガスタービンや航空機用ジェットエンジンでは、高温での強度や耐腐食の観点から、最も過酷な環境に曝されるタービン翼等の材料として、γ’相の析出強化組織を有するNi基超合金が用いられている。しかし、Ni基超合金であっても、実際の使用条件下では、ノッチ効果(notch effect)により、空冷孔やブレード取付部などでき裂が形成されている。また、このようなNi基超合金などのクリープ脆性材料のクリープき裂の長さは、クリープ延性材料に対してかなり短くなっている。これらのことから、き裂発生の前段階であるクリープ損傷の形成挙動や機構の解明が重要であり、従来、有限要素法などを利用して解析が行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
一方、ガスタービンやジェットエンジンの信頼性を確保するためには、最適な保守管理が重要であるが、メンテナンス費用の低減という観点から、定期点検の間隔を延ばすことが強く望まれている。そこで、定期点検の最適な間隔を設定するために、クリープ等の損傷による余寿命を評価する方法を確立することが不可欠である。クリープによる余寿命を評価する方法として、従来、被評価材からサンプリングした試料を用いて破壊試験を行う方法が一般的に行われている(例えば、特許文献1または2参照)。
【0004】
なお、本発明者等により、種々の材料についてのクリープ延性(creep ductility)を評価するものとして、(1)式に表すQLパラメータが提案されている(例えば、非特許文献2または3参照)。
【数1】
(式中、tは破断寿命、Mは定数、ΔHは活性化エネルギー、σは公称応力、mはべき乗指数、Tは絶対温度、Rは気体定数、ε(・)は定常ひずみ速度である。)
【0005】
ここで、(2)式から、QLの値は、ln tをy軸、ln ε(・)をx軸としたときの直線の切片の値として定義することができる。また、破断寿命と定常ひずみ速度との関係において、QLの値が小さくなるほど、同じひずみ速度においては低寿命、同じ寿命においては低ひずみ速度となり、脆性的な挙動を示す。このことから、QLの値の大小により、脆性度やクリープ延性を評価することができる。また、QLパラメータを用いることにより、試験片形状や材料が違っていても、統一的な評価を行うことができる。
【0006】
また、本発明者等により、一方向凝固Ni基超合金CM247LC、および単結晶Ni基超合金CMSX−4について、DEN(Double Edge Notch)試験片を用いたクリープき裂成長試験が行われており、クリープ変形特性を評価する指標として相対切欠き開口変位(RNOD)を使用した、クリープ損傷形成挙動の解析が行われている(例えば、非特許文献4または5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−196935号公報
【特許文献2】特開2000−292419号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】竹内博晃、横堀壽光、細野真司、小林大輔、佐藤康二、「ペナルティ関数を用いた有限要素法による高温先進耐熱材料のクリープき裂成長挙動に及ぼすき裂の分岐効果」、日本金属学会誌、2007年、Vol. 71、No. 5、p.452-457
【非特許文献2】A.T. Yokobori Jr., T. Yokobori, K. Yamazaki, “A characterization of high temperature creep fracture life for ceramics”, Journal of Mater. Science Letters, 1996, Vol. 15, p.2002-2007
【非特許文献3】A.T. Yokobori Jr. and Martin Prager, “Proposal of a new concept on creep fracture remnant life for a precracked specimen”, Materials at High Temperatures, 1999, Vol.16, No.3, p.137-141
【非特許文献4】R. Sugiura, A.T. Yokobori Jr., J. Park, T. Kawamura and H. Tukidate, “Constitutive law of creep deformation for notched specimens of heat-resistant materials related to the creep ductility and fracture life”, Strength, Fracture and Complexity, 2013, Vol. 8, p.45-57
【非特許文献5】田原佑樹、横堀壽光、杉浦隆次、松崎隆、「単結晶Ni基超合金の切欠き材におけるクリープ損傷形成挙動と寿命則」、第57回日本学術会議材料工学連合講演会講演論文集、2013年、p.269-270
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1または2に記載のような、破壊試験によりクリープ等による余寿命を評価する方法では、被評価材からサンプリングを行う必要があるが、サンプリングやサンプリングした箇所の補修などに手間がかかるという課題があった。また、被評価材の使用箇所によってはサンプリングが困難で、余寿命の評価が難しいこともあるという課題もあった。
【0010】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、サンプリングが不要で、クリープ等による余寿命を非破壊レベルで容易に評価することができる余寿命評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る余寿命評価方法は、所定の材料群について、破断寿命の関数である評価パラメータと、損傷部および非損傷部の研削抵抗との関係をあらかじめ求めておき、被評価材の損傷部および非損傷部の研削抵抗を測定し、前記被評価材の各研削抵抗の測定値と、あらかじめ求めた前記評価パラメータと損傷部および非損傷部の研削抵抗との関係とに基づいて、前記被評価材の余寿命を評価することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る余寿命評価方法は、破断寿命の関数である評価パラメータとして、研削抵抗と関連付けることができるものを採用することにより、被評価材の余寿命を評価することができる。このとき、被評価材の損傷部および非損傷部の研削抵抗を測定するだけで、容易に余寿命を評価することができる。また、研削抵抗の測定では、被評価材からのサンプリングが不要であり、軽微な損傷のみで、使用中の被評価材の性能にほとんど影響を及ぼすことなく、非破壊レベルで測定を行うことができる。このように、本発明に係る余寿命評価方法は、サンプリングが不要で、被評価材の余寿命を非破壊レベルで容易に評価することができる。
【0013】
本発明に係る余寿命評価方法で、損傷部は、クリープによる損傷部など、いかなる損傷による損傷部であってもよい。クリープによる損傷部である場合には、クリープによる余寿命を評価することができる。また、クリープによる損傷部である場合、前記評価パラメータは、クリープ延性を表すパラメータからなることが好ましく、特に、非特許文献2および3に記載された、(1)式のQLパラメータであることが好ましい。
【数2】
(式中、tは破断寿命、Mは定数、ΔHは活性化エネルギー、σは公称応力、mはべき乗指数、Tは絶対温度、Rは気体定数、ε(・)は定常ひずみ速度である。)
【0014】
評価パラメータが(1)式のQLパラメータから成る場合、以下のようにしてクリープによる余寿命を評価することができる。すなわち、まず、図1に、クリープ脆性材料から成る非劣化材および経年劣化材のクリープ変形特性を示す。図1に示すように、クリープ脆性材料は、ひずみ速度(図1中の傾き)が一定となる定常クリープ領域が長いため、非劣化材の定常ひずみ速度と、t’ =(tf1−tfr)までのクリープ損傷を受けた経年劣化材の定常ひずみ速度とは変わらないと考えられる。このときの定常ひずみ速度を、εs1(・) とする。また、非劣化材のQLの値をQL、経年劣化材のQLの値をQLdamageとする。また、tf1は、定常ひずみ速度ε(・)s1 を有する場合の非劣化材の破断寿命、tfrは経年劣化材の破断寿命である。
【0015】
一方、(2)式から、経年劣化材は、定常ひずみ速度域が短くなるため(寿命低下;tf1→tfr)、それに対応してQLの値が小さくなる(QL→QLdamage)。このため、(2)式のln tをy軸、ln ε(・)をx軸としたQLmapにおいて、非劣化材と経年劣化材との関係は、図2中の点Aおよび点Bで表される。
【0016】
(2)式から、図2中の点Aは、(3)式のように表される。
【数3】
【0017】
また、図1において、t’ =(tf1−tfr) まで荷重が負荷された経年劣化材の破断寿命tfr は、図2中の点Bで表され、(4)式のように表される。
【数4】
【0018】
(3)式を(4)式に代入すると、(5)式を得ることができる。
【数5】
(5)式から、QLの比を求めることにより、非劣化材のクリープ寿命に対する経年劣化材の余寿命比が得られる。
【0019】
ここで、QLの値は、クリープ延性を表す値として定義されており、クリープ損傷に関わるものと考えられる。また、クリープ損傷は、硬度低下に関わっており、微視研削抵抗と関連づけることができると考えられる。このため、QLの値は、研削抵抗の関数として表すことができると考えられる。そこで、経年劣化材の研削抵抗をdD/dV|、非劣化材の研削抵抗をdD/dV| とすると、経年劣化材および非劣化材のQLの値はそれぞれ、QLdamage(dD/dV|)、および、QL(dD/dV|)と表すことができる。
【0020】
これらを、(5)式に代入すると、(6)式を得ることができる。
【数6】
【0021】
ここで、経年劣化材は、経年的に損傷を受けている材料であるため、被評価材の損傷部を経年劣化材として表すことができると考えられる。同様に、非劣化材は、未だ損傷を受けていない材料であるため、被評価材の非損傷部を非劣化材として表すことができると考えられる。このため、(6)式から、被評価材の損傷部の研削抵抗dD/dV| および非損傷部の研削抵抗dD/dV| を測定することにより、損傷部のQLdamage および非損傷部のQL を求めることができ、非損傷部のクリープ寿命(破断寿命)tf1 に対する損傷部の余寿命tfr の比を得ることができる。こうして、クリープによる被評価材の余寿命(損傷部の余寿命tfr)を、非破壊レベルで評価することができる。
【0022】
本発明に係る余寿命評価方法で、材料群は、被評価材と同様なクリープ変形特性を有する複数種類の材料から成る群であることが好ましいが、被評価材だけから成っていてもよい。また、材料群は、被評価材と他の材料とを含んでいてもよく、被評価材を含んでいなくてもよい。例えば、被評価材が合金から成るとき、材料群は、主成分が被評価材の主成分と共通している合金から成る群であってもよい。
【0023】
また、本発明に係る余寿命評価方法で、被評価材の損傷部および非損傷部の研削抵抗は、マイクロスラリージェットエロージョン(MSE)試験法やショットブラスト、ショットピーニングといった粒子投射方法など、研削抵抗を求めることができる方法であれば、いかなる方法で求めてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、サンプリングが不要で、クリープ等による余寿命を非破壊レベルで容易に評価することができる余寿命評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る余寿命評価方法に関し、クリープ脆性材料から成る非劣化材および経年劣化材のクリープ変形特性を示すグラフである。
図2図1に示す非劣化材および経年劣化材のQLmapにおけるグラフである。
図3】本発明の実施の形態の余寿命評価方法の、クリープき裂成長試験に使用したDEN試験片を示す(a)平面図、(b)A部分の部分拡大図である。
図4】本発明の実施の形態の余寿命評価方法の、クリープき裂成長試験に用いた高温クリープ・疲労試験機を示す斜視図である。
図5】本発明の実施の形態の余寿命評価方法の、Ni基超合金のRNOD特性を示すグラフである。
図6】本発明の実施の形態の余寿命評価方法の、Ni基超合金のクリープ延性評価を示すグラフである。
図7】本発明の実施の形態の余寿命評価方法の、Ni基超合金の微視研削抵抗dD/dVとQLパラメータとの関係を示すグラフである。
図8】本発明の実施の形態の余寿命評価方法の、RNOD特性から、途中止め試験片の推定破断寿命[t(predicted)]を求める方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図3乃至図8は、本発明の実施の形態の余寿命評価方法を示している。
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明の実施の形態の余寿命評価方法について説明する。
【0027】
[クリープき裂成長試験]
クリープ脆性材料を用い、クリープ変形特性を調べるためにクリープき裂成長試験を行った。使用した材料は、多結晶Ni基超合金IN100である。図3に示すように、試験片として、DEN(Double Edge Notch)試験片を用いた。DEN試験片は、厚さ1.5mm、幅4mmの平板試験片の中央部に、深さ0.25mmのVノッチを両側に有した試験片である。
【0028】
図4に示すように、クリープき裂成長試験には、in-situ観察機構を有する高温クリープ・疲労試験機を用いた。本試験機は、5×10−4の真空雰囲気中で、デジタルマイクロスコープ(Digital Microscope)により、炉(Frunace)下部から試験片(Specimen)の切欠き近傍の変形および損傷形成挙動を、リアルタイムに観察することができるものである。クリープき裂成長試験では、試験片が破断するまで行う破断試験と、試験片が破断するまでき裂を成長させず、その途中までクリープ損傷を蓄積させてから中断する途中止め試験の2種類を行った。
【0029】
クリープき裂成長試験では、DEN試験片のクリープ変形特性を評価する指標として相対切欠き開口変位(RNOD)を用いた。RNODは、(7)式により定義される。
【数7】
ここで、φは切欠き開口変位量、φは初期切欠き開口量であり、それぞれ試験中および試験開始前にデジタルマイクロスコープで観察することにより求められる。
【0030】
IN100のクリープ条件下におけるRNOD特性を、非特許文献4および5に記載の一方向凝固Ni基超合金CM247LCおよび単結晶Ni基超合金CMSX−4のRNOD特性と合わせて、図5に示す。図5の縦軸はRNOD、横軸は実時間tを破断寿命tで除した無時限化時間(Normalized time)t/tを表している。ここで、試験は、温度850℃〜965℃、負荷応力300〜440MPaの条件で行われ、破断寿命tは4.5〜1361時間であった。
【0031】
図5に示すように、t/t<0.5まではIN100のRNODが最も大きく、CMSX−4のRNODが最も小さいことが確認された。また、IN100のRNOD特性は、t/t=0.7付近において、定常領域から加速領域に移行しているのに対し、CM247LCおよびCMSX−4は、t/t=0.6付近から加速挙動を示していることが確認された。したがって、破断時(t/t=1)に注目すると、CM247LC、CMSX−4、IN100の順にRNODが抑制され、IN100において最もRNODの抑制が認められる。このことから、多結晶材IN100は、一方向凝固材や単結晶材に比べ、最終破壊時のクリープ変形が抑制されているといえる。また、図5に示すように、Ni基超合金のRNODは、各試験片の破断寿命を無次元化した時間で表すと、応力や温度にはあまり依存せず、一つの特性を表しているといえる。
【0032】
[QLパラメータによるクリープ延性評価]
クリープき裂成長試験を行ったIN100、一方向凝固Ni基超合金CM247LC、および単結晶Ni基超合金CMSX−4について、(1)式および(2)式に基づいて、クリープ延性評価を行い、その結果を図6に示す。図6に示すように、クリープ延性は、IN100、CM247LC、CMSX−4の順に低下して、脆性的性質を示すことが確認された。
【0033】
[QLパラメータとMSE試験法による研削抵抗との関係]
クリープき裂成長試験を行ったIN100、一方向凝固Ni基超合金CM247LC、および単結晶Ni基超合金CMSX−4について、MSE試験を実施し、研削抵抗を求めた。なお、MSE試験とは、微視粒子と水とを混合したスラリーを、ノズルから圧縮空気とともに霧状に高速噴射し、対象表面に衝突させてエロージョン磨耗を発生させ、微視的に研削する試験である。MSE試験では、エロージョン深さの進行度合いを可視化することにより、材料の強さや膜厚などの評価が可能である。磨耗抵抗が材料の硬度に対応すると考えられるため、MSE試験では、投射粒子量(V)あたりの磨耗深さ(D)、dD/dVを計測し、これを微視研削抵抗としている。このとき、dD/dVが大きいほどよく研削され、研削による抵抗が小さいと考えられる。なお、ここでは、研削抵抗を求める方法として、MSE試験法を使用しているが、研削抵抗を求めることができる方法であれば、MSE試験法に限らず、いかなる方法であってもよい。
【0034】
投射粒子5μmの場合について、MSE試験により求められた破断試験片および途中止め試験片の非損傷部での微視研削抵抗dD/dVと、QLとの関係をまとめ、図7中に白抜き印で示す。また、途中止め試験片の損傷部での微視研削抵抗dD/dVと、QLとの関係を、図7中に黒丸印で示す。
【0035】
図7中の白丸印は、途中止め試験片の推定破断寿命[t(predicted)]における、dD/dVとQLとの関係を示している。ここで、t(predicted)は、以下のようにして求めた。図5に示すように、Ni基超合金のRNODは、各試験片の破断寿命を無次元化した時間で表すと、応力や温度にはあまり依存せず、一つの特性を表しているといえる。この特性を利用して、図8に示すように、RNOD曲線からその時点でのt/t値を求め、途中止めまでの負荷時間tからt(predicted)を求めた。
【0036】
また、図7中の黒丸印は、途中止め試験片の推定破断寿命[t(predicted)]から途中止めした時間を引いたもの、つまり推定余寿命[t(predicted)−t]における、dD/dVとQLとの関係を示している。なお、使用した途中止め試験片は、RNOD=0.17、t=11.2(hr)、t/t=0.7である。
【0037】
図7の非損傷部の結果(白抜き印)から、QLと微視研削抵抗dD/dVとが線形関係(図7中の実線)にあることがわかる。また、図6から、クリープ延性は、IN100、CM247LC、CMSX−4の順に脆性的性質を示し、これらが図7の各点の位置関係に対応している。このことから、QLの値がdD/dVの関数で表されると考えられ、試験片の損傷部を経年劣化材、試験片の非損傷部を非劣化材とすると、(6)式が得られることがわかる。また、図7の白丸印(途中止め試験片の非損傷部)と黒丸印(途中止め試験片の損傷部)との位置関係から、損傷を受けることにより、図7中の点線に沿って経年劣化が進んでいくと予測できる。
【0038】
[クリープ余寿命の評価]
図7中の非損傷部でのQLと微視研削抵抗dD/dVとの関係(図7中の実線)、および、図7中の損傷部でのQLと微視研削抵抗dD/dVとの関係(図7中の点線)を式で表すと、それぞれ(8)式および(9)式となる。
QL=5.21×(dD/dV)−1.487 (8)
QL=−2.77×(dD/dV)+1.067 (9)
【0039】
ここで、図7中の非損傷部でのQLと微視研削抵抗dD/dVとの関係(図7中の実線)が、(6)式中のQL(dD/dV|)に対応し、損傷部でのQLと微視研削抵抗dD/dVとの関係(図7中の点線)が、(6)式中のQLdamage(dD/dV|)に対応している。このため、(8)式および(9)式を、(6)式に代入すると、(10)式が得られる。
【数8】
【0040】
ここで、損傷部のMSE試験結果、dD/dV|=0.368[μm/g]と、非損傷部のMSE試験結果、dD/dV|=0.327[μm/g]とを、それぞれ(10)式に代入すると、tfr/tf1 =0.219となる。これは、RNOD曲線での予想値の0.3(=1−t/t=1−0.7)を安定側に予測した結果となっており、妥当な結果であるといえる。
【0041】
このように、本発明の実施の形態の余寿命評価方法は、図7や(8)式および(9)式のような、損傷部および非損傷部の研削抵抗とQLパラメータとの関係をあらかじめ求めておくことにより、被評価材のクリープによる損傷部および非損傷部の研削抵抗を測定するだけで、容易に余寿命を評価することができる。また、研削抵抗の測定では、被評価材の表面を数μm程度研削する軽微な損傷だけでよく、被評価材からのサンプリングが不要である。このため、使用中の被評価材の性能にほとんど影響を及ぼすことなく、非破壊レベルで測定を行うことができる。このように、本発明の実施の形態の余寿命評価方法は、サンプリングが不要で、クリープによる余寿命を非破壊レベルで容易に評価することができる。
【0042】
なお、本発明の実施の形態の余寿命評価方法では、評価パラメータとして、(1)式のQLパラメータを使用しているが、クリープ延性を表すパラメータであって、破断寿命の関数で、研削抵抗と関連付けることができるものであれば、評価パラメータとして使用することができる。また、高温材料のクリープ損傷以外の損傷による余寿命を評価する場合には、評価パラメータとして、その損傷を特徴付けることができるパラメータであって、破断寿命の関数で、研削抵抗と関連付けることができるものを使用することにより、その損傷による余寿命を評価することができる。
【0043】
また、本発明の実施の形態の余寿命評価方法では、多結晶Ni基超合金IN100の余寿命の評価を行ったが、他の合金や素材のものであっても、余寿命の評価は可能である。多結晶Ni基超合金IN100の余寿命を評価する際、図7や(8)式および(9)式を求めるための材料群としてNi基超合金を用いているが、他の合金や素材の余寿命を評価する際には、材料群として、被評価材と同様なクリープ変形特性を有する複数種類の材料から成る群を適宜用いればよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8