【実施例】
【0044】
以下、本発明
をさらに具体的に説明するが、本発明は下
記のものに限定されるものではない。
【0045】
[
サンプル1]
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)(シグマアルドリッチジャパン社製)をメシチレンに溶解し、塗布液を得た。青板ガラス基板(ソーダライムガラス基板)の上に塗布液をスピンコート法で塗布した。得られた塗膜を150℃で1時間アニールし、厚さ100nmの下地層を基板上に形成した。プラズマクリーナー(サムコ社製 PC−300)を用い、酸素流量10sccm(standard cubic centimeter per minute)、10Pa、200W、10秒間の条件で下地層の表面に酸素プラズマ処理を施した。その後、ホットプレート上に基板を配置し、大気中、40℃(ホットプレートの表面温度)、5分間の条件で基板をアニールした。次に、下地層の上に銀ナノ粒子インク(ハリマ化成株式会社製 NPS−JL)をスピンコート法で塗布した。銀ナノ粒子インクの塗膜を150℃(ホットプレートの表面温度)、大気中、1時間の条件で焼成し、厚さ100nmのAg薄膜を形成した。これにより、
サンプル1の導電構造を得た。
【0046】
[
サンプル2]
絶縁性樹脂として、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)に代えて、ポリビニルフェノール(PVP)(シグマアルドリッチジャパン社製)を用いたことを除き、
サンプル1と同じ方法でAg薄膜を形成した。
【0047】
[
サンプル3〜18]
酸素プラズマ処理後のアニール温度を下記表1に示す各温度としたことを除き、
サンプル1又は2と同じ方法でAg薄膜を形成した。
【0048】
[
サンプル19及び20]
酸素プラズマ処理及びアニール処理を省略したことを除き、
サンプル1又は2と同じ方法でAg薄膜を形成した。
【0049】
[
サンプル21及び22]
酸素プラズマ処理後のアニール処理を省略したことを除き、
サンプル1又は2と同じ方法でAg薄膜を形成した。
【0050】
[
サンプル23及び24]
酸素プラズマ処理及びアニール処理を省略し、さらに、銀ナノ粒子を焼結させる工程における基板の加熱温度を120℃(下地層のガラス転移点未満)としたことを除き、
サンプル1又は2と同じ方法でAg薄膜を形成した。
【0051】
[
サンプル25及び26]
酸素プラズマ処理後のアニール処理を省略し、さらに、銀ナノ粒子を焼結させる工程における基板の加熱温度を120℃(下地層のガラス転移点未満)としたことを除き、
サンプル1又は2と同じ方法でAg薄膜を形成した。
【0052】
[
サンプル27]
銀ナノ粒子を焼結させる工程における基板の加熱温度を120℃としたことを除き、
サンプル12と同じ方法でAg薄膜を形成した。
【0053】
(ひっかき強度の測定)
作製したAg薄膜について、超薄膜スクラッチ試験機(レスカ社製 CSR−2000)を用いて、ひっかき強度を測定し、導電構造におけるAg薄膜の密着性の評価を行った。ひっかき強度の測定は、以下の条件で行い、3回の測定値の平均値を算出した。結果を表1に示す。
スタイラス:曲率半径100μm
荷重印加:0〜120mN
測定距離:1mm
スクラッチ速度:10μm/s
【0054】
【表1】
【0055】
下地層がPMMA、PVPの場合のいずれも、下地層の表面に酸素プラズマ処理を施すことにより、表面エネルギーが30mN/m程度から50mN/m以上に増大した。すなわち、有機分子の分子結合が切断され、表面の濡れ性が変化したことが確認された。表面エネルギーは、下地層に対する水とヨウ化メチレンの接触角をそれぞれ計測し、Owens-Wendt法を用いて算出した。
【0056】
表1に示すように、酸素プラズマ処理後のアニール温度が高くなるにつれて、ひっかき強度が増加した。つまり、Ag薄膜と下地層との密着力が増加した。酸素プラズマ処理後のアニール処理により、分子レベルでの下地層の表面の親液性が向上し、銀ナノ粒子インクと下地層の表面との接着面積が増加したためと考えられる。ひっかき強度は、下地層のガラス転移点Tg(PMMA:約120℃、PVP:約140℃)よりもやや低いアニール温度のとき最大となった。
サンプル12は120N以上のひっかき強度を示した。アニール温度が下地層のガラス転移点Tgを超えると、ひっかき強度が低下する傾向が見られた。
【0057】
下地層の酸素プラズマ処理を行わず、かつ、銀ナノ粒子インクの塗膜の焼成温度を下地層のガラス転移点未満とした場合(
サンプル23,24)、ひっかき強度は30N未満であった。酸素プラズマ処理だけ追加的に行った場合(
サンプル25,26)、ひっかき強度は殆ど向上しなかった。ただし、
サンプル27の結果から理解できるように、酸素プラズマ処理後にアニール処理を行うことによって、ひっかき強度は向上した。
【0058】
サンプル19〜22は、焼成温度が150℃であることを除き、それぞれ、
サンプル23〜26に対応している。銀ナノ粒子インクの塗膜の焼成温度を下地層のガラス転移点以上に設定したことにより、ひっかき強度が明らかに向上した。また、
サンプル19と
サンプル21とを比較する又は
サンプル20と
サンプル22とを比較すると理解できるように、
サンプル19〜22では、酸素プラズマ処理によってひっかき強度が1.5倍程度向上した。
【0059】
さらに、
サンプル1〜18とサンプル19〜22とを比較すると理解できるように、酸素プラズマ処理後にアニール処理を行うことによって、ひっかき強度は大幅に向上した。アニール処理の温度を下地層のガラス転移点よりも少し低い温度に設定することにより、ひっかき強度が飛躍的に向上した。酸素プラズマ処理後のアニール処理に加え、銀ナノ粒子インクの塗膜の焼成温度を下地層のガラス転移点以上に設定したことによって、ひっかき強度が最大で4倍以上(
サンプル24と
サンプル12)にまで増加した。
【0060】
以上に説明した結果から理解できるように、個々の工程だけでひっかき強度を大幅に向上させることは容易ではない。プラズマ処理、プラズマ処理後のアニール処理、及び下地層のガラス転移点Tg以上での焼成を組み合わせることによって、個々の工程に基づく効果の和を超える相乗効果が得られたと考えられる。
【0061】
図2は、
サンプル12の導電構造の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図2に示すように、下地層(PVP)とAg薄膜(Ag)とが界面で一体化(融着)していた。銀ナノ粒子インクを塗布した後、下地層のガラス転移点Tg(PVP:約140℃)以上の温度で塗膜を焼成し、銀ナノ粒子を焼結させたため、この界面融着によって高い密着性が得られたものと考えられる。なお、
図2のSEM像には融着層は明記されていないが、下地層とAg薄膜との間に融着層が存在する。
【0062】
図3は、
サンプル27の導電構造の断面のSEM像である。
サンプル27では、銀ナノ粒子インクを塗布した後、下地層のガラス転移点Tg未満の温度で塗膜を焼成し、銀ナノ粒子を焼結させた。そのため、下地層(PVP)とAg薄膜(Ag)との界面で融着が起こらず、剥がれ(
図3に示す「gap」)が生じていた。このため、ひっかき強度が低くなったものと考えられる。
【0063】
[
サンプル28]
酸素プラズマ処理及びアニール処理を省略し、さらに、銀ナノ粒子を焼結させる工程における基板の加熱温度を180℃(下地層のガラス転移点以上の温度)としたことを除き、
サンプル2と同じ方法でAg薄膜を形成した。
【0064】
[
サンプル29]
絶縁性樹脂として、ポリビニルフェノール(PVP)に代えて、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)(シグマアルドリッチジャパン社製)を用いたことを除き、
サンプル28と同じ方法でAg薄膜を形成した。
【0065】
[
サンプル30]
絶縁性樹脂として、ポリビニルフェノール(PVP)に代えて、非晶質フッ素樹脂(三井デュポンフロロケミカル社製AF1600)を用いたことを除き、
サンプル28と同じ方法でAg薄膜を形成した。なお、非晶質フッ素樹脂(AF1600)のガラス転移点Tgは約160℃である。
【0066】
(断面のTEM観察)
サンプル28〜30の導電構造の断面を透過電子顕微鏡(日本電子社製 JEM−2100FE、加速電圧200kV)で観察した。TEM観察用の試料は、集束イオンビーム加工観察装置(日本電子社製 JEM−9320FIB、加速電圧5kV)を用いて作製した。結果を
図4〜
図7に示す。
図5は、
図4の部分拡大図である。
【0067】
図4に示すように、
サンプル28の導電構造は、下地層とAg薄膜との間に形成された融着層を有していた。TEM像の濃淡から見積もった融着層の厚さは約40〜50nmであった。
図5の拡大図に示すように、融着層の中の領域であって、樹脂で囲まれた領域にAg(111)面に由来する格子像が確認された。
【0068】
図6に示すように、下地層の樹脂がPMMAの場合にも融着層が形成されていた。融着層の厚さは約30〜40nmであった。
図7に示すように、下地層の樹脂が非晶質フッ素樹脂の場合にも融着層が形成されていた。融着層の厚さは約10nmであった。
図4〜7に示すように、融着層は、酸素プラズマ処理及びアニール処理を省略した場合にも形成された。
【0069】
(XPS測定)
サンプル28の導電構造の深さ方向の元素分布をX線光電子分光装置(アルバックファイ社製 5600ci)で調べた。XPSの測定条件は以下の通りであった。
Arスパッタレート:約170nm/min(換算値)
分析レート:0.1min/回
X線源:Mg
検出元素:C、O、Ag、F
【0070】
図8は、
サンプル28の導電構造のAg薄膜の表面から深さ方向に、シリコン酸化膜のエッチングレートに換算して170nm/minとなるスパッタレートでエッチングを行いながら、深さ方向に対してAg及びCの原子濃度を測定したグラフである。
図8において、縦軸は、最表面における強度を1として規格化したAg原子濃度と、測定点(横軸)250における強度を1として規格化したC原子濃度を表している。横軸は、深さ方向の測定点を表している。
図8に示すように、PVPを下地層に用いた場合、AgとCが同時に検出される融着層が形成されたことが分かる。Ag、絶縁樹脂及び融着層の正確なエッチングレートが不明であったため、XPS測定の結果から融着層の厚さは算出できなかった。
【0071】
(引き剥がし試験)
JIS K5600−5−7「塗膜の機械的性質−付着性(プルオフ法)」に基づいて、引き剥がし試験を行った。まず、
サンプル28の導電構造を先に説明した方法で準備した。次に、
図9に示すように、
サンプル28の導電構造の表面にロッド12をエポキシ樹脂で接着した。基板をステージ上に固定し、ロッド12の後端部をフォースゲージ(日本電産シンポ社製 FGP−5)に固定し、Ag薄膜の厚さ方向(引き剥がす方向)に力を加えた。Ag薄膜の密着強度以上の強さで引っ張ると、Ag薄膜と下地層との界面で剥離が起こる。剥離したAg薄膜の面積とフォースゲージの値とから密着強度を算出した。
サンプル29及び
サンプル30の導電構造にも同じ試験を実施した。なお、導電構造の作製過程(下地層を形成した後かつプラズマ処理を行う前)で下地層の表面エネルギーも測定した。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示すように、Ag薄膜と下地層との密着強度は、融着層の厚さに比例する傾向がみられた。また、表面エネルギーが大きいほど密着強度が高い傾向がみられた。この傾向は、一般的に、表面エネルギーが大きい表面ほど、その表面とその表面に接する媒体との間の相互作用が大きいことを意味する。表2から理解できるように、表面エネルギーが大きければ大きいほど、下地層と銀ナノ粒子との間の相互作用が大きく、濡れ性が高まったため、より深い領域まで融着層が形成され、結果として、密着強度が増加したと考えられる。
【0074】
(引き剥がし試験後の残留銀の分析)
サンプル28の導電構造について引き剥がし試験を実施した後、ロッド12に接していた面における特定領域14を走査型電子顕微鏡(SEM−EDS、日本電子社製 JSM−7800FE、加速電圧15kV)で観察した。特定領域14は、1mm
2の広さを有する正方形の領域であった。
【0075】
また、走査型電子顕微鏡による表面観察とともに、特定領域14に存在する元素と元素濃度とをエネルギー分散型X線分析(EDS)で調べた。具体的には、特定領域14に含まれた100箇所の測定点でAg、C及びOの各元素の特性X線を検出し、Agの濃度(重量%)を測定点ごとに算出した。算出結果に基づき、Agの濃度の分布をヒストグラムにまとめた。併せて、特定領域14の表面EDS像(Ag)も得た。
【0076】
走査型電子顕微鏡による表面観察の結果を
図10Aに示す。表面EDS像(Ag)を
図10Bに示す。Agの濃度の分布を示すヒストグラムを
図10Cに示す。
図10Cの縦軸は、測定点の数、横軸はAgの濃度を表している。
【0077】
さらに、
サンプル28と同じように、
サンプル29及び
サンプル30の表面SEM像及び表面EDS像も取得し、Agの濃度の分布を示すヒストグラムも作成した。
サンプル29についての結果を
図11A〜
図11Cに示す。
サンプル30についての結果を
図12A〜
図12Cに示す。
【0078】
図10A〜
図10Cから理解できるように、
サンプル28〜30の全ての導電構造において、Ag薄膜が引き剥がされた後の表面にAgが残留していた。このことは、融着層が形成されることによって、Ag薄膜と下地層とが強固に密着したことを表している。下地層がPVPで構成された
サンプル28では、十分な量のAgが下地層の上に残留していた。
図11A〜
図11Cから理解できるように、下地層がPMMAで構成された
サンプル29では、
サンプル28ほどではないが、十分な量のAgが下地層の上に残留していた。
図12A〜
図12Cから理解できるように、下地層が非晶質フッ素樹脂で構成された
サンプル30では、下地層の上に残留したAgの量は少なかった。
【0079】
図13は、Agの濃度の平均値と融着層の厚さとの関係を表すグラフである。
図13に示すように、融着層が厚くなればなるほどAgの濃度も増加した。
【0080】
[
サンプル31]
銀ナノ粒子インクの塗膜の焼成温度を180℃に設定したことを除き、
サンプル12と同じ方法でAg薄膜を形成した。
【0081】
[
サンプル32]
銀ナノ粒子インクの塗膜の焼成温度を180℃に設定したことを除き、
サンプル9と同じ方法でAg薄膜を形成した。
【0082】
[
サンプル33]
絶縁性樹脂として、ポリビニルフェノール(PVP)に代えて、非晶質フッ素樹脂(三井デュポンフロロケミカル社製AF1600)を用い、酸素プラズマ処理後のアニール処理の温度を160℃に設定したことを除き、
サンプル32と同じ方法でAg薄膜を形成した。
【0083】
サンプル31の導電構造の断面のTEM像を
図14に示す。TEM観察の条件は、
サンプル28〜30のTEM観察の条件と同一とした。
図14に示すように、Ag薄膜と下地層との境界は明確でなかったことから、
サンプル31の導電構造においても、十分な厚さの融着層が形成されたと推測される。
図4と
図14とを比較すると理解できるように、酸素プラズマ処理及びアニール処理の有無によらず、融着層は形成された。つまり、
サンプル28〜30に関する先の説明は、
サンプル31〜33にも適用されうる。
【0084】
断面のTEM観察とともに、Ag薄膜と下地層との界面近傍の領域のエネルギー分散型X線分析を行った。具体的には、Ag、C及びOについて元素分析を行った。その結果、C及びOは、分析した領域の全体に均一に分布していた。AgについてのEDS像を
図15に示す。
図15から理解できるように、Agが下地層に浸み込み、融着層が形成されていた。
【0085】
(引き剥がし試験後の残留銀の分析)
サンプル28〜30と同じ方法で
サンプル31〜33の導電構造について引き剥がし試験を実施した。その後、
サンプル28〜30と同じ方法で、表面SEM像、表面EDS像及びAgの濃度の分布を示すヒストグラムを得た。
サンプル31についての結果を
図16A〜
図16Cに示す。
サンプル32についての結果を
図17A〜
図17Cに示す。
サンプル33についての結果を
図18A〜
図18Cに示す。
【0086】
図16A〜
図18Cから理解できるように、
サンプル31〜33は、
サンプル28〜30と同じ傾向を示した。この事実も、
サンプル28〜30に関する先の説明が
サンプル31〜33に適用されうることを示唆している。