特許第6485958号(P6485958)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6485958
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】異音解析装置
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20190311BHJP
   G01M 15/12 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   G01H17/00 B
   G01M15/12
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-116480(P2015-116480)
(22)【出願日】2015年6月9日
(65)【公開番号】特開2016-27323(P2016-27323A)
(43)【公開日】2016年2月18日
【審査請求日】2018年1月18日
(31)【優先権主張番号】特願2014-133224(P2014-133224)
(32)【優先日】2014年6月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000127570
【氏名又は名称】株式会社エー・アンド・デイ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】高永 義男
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
(72)【発明者】
【氏名】才野 鏡太郎
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−336604(JP,A)
【文献】 特開2012−103157(JP,A)
【文献】 特開平03−100428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 17/00
G01M 15/12
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体で発生した音を検出する検出手段と、前記検出手段で得た信号を処理する信号処理手段と、を備えた異音解析装置において、
前記信号処理手段は、
前記検出手段で得た信号を複数の周波数帯域に分離する処理と、
該分離した周波数帯域ごとに異音の開始点とピーク点を求める処理と、
前記開始点の時刻を前記回転体の回転角度に変換する処理と、
前記開始点の回転角度と前記ピーク点の大きさとの関係を示す散布図を表示部に表示させる処理とを行うことを特徴とする異音解析装置。
【請求項2】
前記散布図は前記周波数帯域ごとに作成され、該周波数帯域ごとの散布図が並べて表示されることを特徴とする請求項1の異音解析装置。
【請求項3】
前記信号処理手段は、前記回転角度の所定の範囲内で開始する異音のデータを抽出し、該抽出したデータについて全ての前記周波数帯域の総和を求めることを特徴とする請求項1または2の異音解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異音解析装置に係り、特にエンジン試験においてエンジンのノッキングを判定する異音解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノッキング(またはノック)とは、エンジンのシリンダ内において未燃焼ガスが燃焼ガスにより圧縮されて自己着火し、急速に燃焼して共鳴する現象であり、ノッキングが発生すると、燃焼ガスが振動により熱伝播しやすくなり、エンジンが破損するおそれがある。ノッキングを抑制するには点火時期を遅くする必要があるが、点火時期を遅くすると燃費が低下するという問題があるため、ノッキングの発生を正確に計測して判定することが必要になる。
【0003】
ノッキングの判定方法としては、聴感評価が広く用いられている(たとえば特許文献1参照)。これは試験者が実際にエンジンの運転音を聞き、その中の異音(正常音とは異なる異常音)の大きさ及び発生頻度を聞き分け、ノッキング状態を評価する方法である。しかし、聴感評価は試験者や試験環境によるバラつきが大きく、再現性が低いという問題がある。特に、微弱な音、高周波の音、瞬間的な音を聞き取れるかどうかは、個人の聴力や経験によるところが大きく、熟練者でなければ正確に聞き分けることは難しい。そのため、聴感評価をできる人間は限られているのが現状である。また、聴感評価は、試験者によるので、自動解析システムや自動適合計測システムに適用することができないという問題がある。
【0004】
そこで近年では、ノッキング判定を定量的に行うため、筒内圧計測による手法(たとえば特許文献2参照)や、振動センサによる方法(たとえば特許文献3参照)が広く用いられている。これらの手法は、筒内の圧力やエンジンの振動によってノッキングを判定する方法であり、定量的なノッキング判定を行うことができる。しかし、これらの手法は、判定結果が聴感評価の結果と一致しないため、聴感評価による較正が必要になるという問題がある。
【0005】
このような背景から、人の聴覚機能と同じ方法で計測を行い、ノッキングを判定する方法が求められており、本願出願人は特許文献4を提案している。この特許文献4によれば、エンジン音の検出信号に対して、その直前や直後の信号に基づく時間マスク処理と、近接する周波数帯域の信号に基づく周波数マスク処理とを行うことによって背景音のパワーを求め、背景音のパワーに対するパワー比をノック強度として算出し、ノッキングの有無を判定している。この方法は、人間の聴覚で行われる処理と同様に、時間マスク処理と周波数マスク処理を行うので、聴感評価と同等の結果を得ることができるとともに、信号処理による定量的なノック判定を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−142367
【特許文献2】特開2000−110652
【特許文献3】特許3054919号
【特許文献4】特開2010−252806
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上述した方法は、人の聴覚機能と同様の方法で計測しているものの、熟練者のような判定精度は得られないという問題があった。具体的には、ノック音以外に異音が発生している場合やノック音が微弱な場合に熟練者であれば判定できるが、上述した方法では難しいという問題があった。
【0008】
この問題を解決する方法として、ノック音が発生する条件(たとえばノック音が発生するクランク角度の範囲)を見つけ出し、その発生条件でデータを絞り込む方法が考えられる。データを絞り込めば、ノック音が強調されるので、ノッキングの判定を精度良く行うことができる。しかし、ノック音が発生する条件は、エンジンごとに異なっており、さらにエンジンの回転数によっても異なるため、発生条件を正確に見つけることが難しい。また、正確な発生条件を見つけたとしても、データを絞り込んだ際にノック音の一部が削除されたり、ノック音以外の異音が除去されずに残ったりする場合があり、ノッキングの判定の精度を上げることが難しいという問題があった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたものであり、ノック音等の異音を精度良く特定することができる異音解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、回転体で発生した音を検出する検出手段と、前記検出手段で得た信号を処理する信号処理手段と、を備えた異音解析装置において、前記信号処理手段は、前記検出手段で得た信号を複数の周波数帯域に分離する処理と、該分離した周波数帯域ごとに異音の開始点とピーク点を求める処理と、前記開始点の時刻を前記回転体の回転角度に変換する処理と、前記開始点の回転角度と前記ピーク点の大きさとの関係を示す散布図を表示部に表示させる処理とを行うことを特徴とする。
【0011】
本発明の発明者は、音の信号を複数の周波数帯域に分離し、それぞれの周波数帯域で異音の開始点とピーク点を求めることによって、異音の発生要因を推測できるという知見を得た。本発明はこのような知見に基づいて成されたものであり、分離した周波数帯域ごとに異音の開始点とピーク点を求めるようにしたので、たとえばエンジンで発生する異音のなかからノッキングを要因とする異音(すなわちノック音)を特定することができる。これにより、ノック音を見極めてその発生条件を特定したり、多数の異音のなかからノック音のデータを抽出したりすることができる。
【0012】
また本発明によれば、異音が開始する回転体の回転角度を把握できるので、回転角度によって異なる異音の発生要因を特定することができる。たとえば回転体がエンジンの場合、異音が開始するクランク角度を把握できるので、そのクランク角度によって異音の発生要因を特定することができ、たとえばノック音を正確に特定することができる。
【0013】
さらに本発明によれば、散布図が表示されるので、異音の発生要因ごとの分布を把握することができる。
【0014】
請求項2の発明は請求項1の発明において、前記散布図は前記周波数帯域ごとに作成され、該周波数帯域ごとの散布図が並べて表示されることを特徴とする。本発明によれば、周波数帯域ごとの散布図が並べて表示されるので、異音の周波数パターンと角度パターン(時間パターン)を一目で把握することができる。したがって、異音の発生要因を把握することができ、たとえばエンジンのノック音を容易に特定することができる。なお、ノック音は、固有振動数(音の高さ)や音圧のピーク値(音の大きさ)だけでは特定することが難しく、従来はノック音の特定が困難であったが、本発明では異音の周波数パターンと角度パターンが一目で分かるので、ノック音を容易に特定することができる。
【0015】
請求項3の発明は請求項1または2の発明において、前記信号処理手段は、前記回転角度の所定の範囲内で開始する異音のデータを抽出し、該抽出したデータについて全ての前記周波数帯域の総和を求めることを特徴とする。本発明によれば、所定の範囲内で開始する異音のデータを抽出してから、その大きさを算出するので、所定の範囲内で開始する異音(すなわち、特定の要因で発生する異音)を正確に把握することができる。したがって、たとえばノッキングの発生条件の範囲内で開始した異音の発生を正確に判断することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、分離した周波数帯域ごとに異音の開始点とピーク点を求めるようにしたので、異音の発生要因を特定することができる。したがって、ノック音を見極めてその発生条件を特定したり、多数の異音のなかからノック音のデータを抽出したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施の形態の異音解析装置の構成を模式的に示す図
図2】異音の解析フローを示す図
図3】プロセッサで処理中のデータを示す図
図4】散布図の一例を示す図
図5】ノッキング判定フローを示す図
図6】データ絞込みの効果を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付図面に従って、本発明に係る異音解析装置の好ましい実施形態について説明する。図1に示す異音解析装置10はエンジン12のノッキングを判定する装置であり、主としてマイク14、角度センサ16、プロセッサ18、表示器20で構成される。
【0019】
マイク14は、エンジン音を検出するためのセンサであり、エンジン12の近傍に設置される。マイク14の位置は、音源からの距離を正確に把握できることが好ましく、たとえば音源から40cmの位置に設置される。なお、マイク14は、音圧を求めるものであればよく、たとえば振動センサを用いてもよい。振動センサの場合は、エンジン12に直接取り付けるとともに、単位換算を行う処理装置と組み合わせて使用するとよい。
【0020】
マイク14はアンプ22及びAD変換24を介してプロセッサ18に接続される。マイク14の検出信号は、アンプ22で増幅され、AD変換24でデジタル信号に変換され、プロセッサ1 8に入力される。
【0021】
一方、角度センサ16は、エンジン12のクランク角度を検出するセンサであり、AD変換28を介してプロセッサ18に接続される。なお、角度センサ16を設置する代わりに、エンジン12の解析手段(ECU等)から角度情報を直接貰うようにしてもよい。
【0022】
プロセッサ18は、各種信号処理を行う手段であり、表示器20に接続される。表示器20は、後述の散布図やノッキング判定結果などを表示する装置であり、必要に応じて計測条件等が表示される。なお、散布図やノッキング判定結果は、記録媒体28に出力したり、不図示のプリンタ等に出力したりしてもよい。
【0023】
次にプロセッサ18を用いて行われる各種処理について説明する。図2は、異音の発生要因を特定するための異音解析フローを示している。図2のフローでは、まず、マイク14で得られたデータを、複数の周波数帯域に分離する(ステップS11)。分離する方法は特に限定するものではないが、たとえば複数のバンドパスフィルタを用いて分離する。また、分離する周波数帯域のバンド幅やバンド数は、特に限定するものではないが、たとえば異音の検出精度とプロセッサ18の演算負荷の兼ね合いから次のように決定してもよい。まず中心周波数fcを次式で示されるERB(Equivalent Rectangular Bandwidth)の定義を用いて定める。
【0024】
【数1】
式中のnはERBバンドを可聴領域に並べたときの低域側からの並び順を示す番号である。計測対象の周波数を4k〜20kHz程度であると考えnを27〜41の整数とする。このような中心周波数を持つ15本のバンドに分離して処理を行うようにする。この時バンド幅は対数軸に対して等間隔となるようfc(n)に対してはfc(n-1/2)からfc(n+1/2)の範囲とする。なお、計測対象の音域によってnの範囲を変えてもよい。
【0025】
以下のステップS12からステップS17までの処理は、分離した周波数帯域ごとに行う。まず、分離した周波数帯域間での同期を取るため、遅延補正処理を行う(ステップS12)。これは、上述のバンドパスフィルタがそれぞれ固有の遅延を持っているためであり、バンド別の補正遅延をかけることによって同期させることができる。
【0026】
次に、信号を2乗平均し、音のパワーを算出する(ステップS13)。2乗平均を求めるにあたって、平均幅は平均化演算によってピークが消されないように、できるだけ小さく設定することが好ましく、たとえばバンド中心周波数の2波長分に設定される。これにより、図3(a)に示すように、縦軸のパワーが大きく変動するデータが得られる。
【0027】
次に、聴感A特性補正値をかける(ステップS14)。聴感A特性補正値は、人の近似的聴感特性を表す数値であり、人の聴感に似た出力に近似することができる。次いで、周波数マスク効果の補正を行う(ステップS15)。その方法は特に限定するものではないが、たとえば高周波バンドが低周波バンドの影響を受けることを考慮して、1つ低い周波数帯域の0.0631倍の値を加える。なお、別の方法として、ラウドネスの計算用チャートを利用してもよい。
【0028】
次に、時間マスク効果の補正を行う(ステップS16)。その方法は特に限定するものではないが、たとえば聴覚神経は反応が早く、沈静化が遅いことを考慮して、音量上昇時は0.005secの一次遅れフィルタ、音量下降時は0.043secの一次遅れフィルタを通すようにする。なお、別の方法として、音が小さくなるときは背景音のパワーが一定の減衰率で減衰するとして近似してもよい。これにより、図3(b)に示すように急激に上昇し、ゆっくりと下降するようなデータが得られる。これは人間の聴覚神経活動レベルを模したものである。
【0029】
次に、異音レベルを算出する(ステップS17)。ここで、異音レベルとは、異音に対する人の感覚(すなわち人が異音をどのように感じるか)を表現したものである。異音レベルの算出は、まず図3(b)に示すように聴覚神経活動レベルが局所的に極大となる部分(図中、白丸の部分であり、後に異音レベルのピーク点となる部分)と、その直前に極小となる部分(図中、黒丸の部分であり、後に異音レベルの開始点となる部分)を探索する。そして、極小部分から極大部分までは極小部分との差を求め、極大部分を超えたら0とする。これにより、図3(c)のような異音レベルが求まる。そして、異音レベルを求めた後、異音の開始点の時刻と、異音のピーク点の大きさ(以下、ピーク値という)を求める。たとえば、図3(c)において、異音Cの開始点の時刻C1と、ピーク値C2を求める。このように、異音について開始点の時刻とピーク値を求め、さらに開始点の時刻をクランク角度に変換する。クランク角度への変換は、角度センサ16からの信号に対して、マイク14と音源との距離に基づく遅延補正処理を行って同期させる。
【0030】
次に、求めたピーク値と開始点の時刻との関係を表示器20に出力して表示する(ステップS18)。このとき、縦軸を異音レベルのピーク値、横軸を開始点のクランク角度としてプロットした散布図を表示するとともに、その散布部を周波数帯域ごとに上下に並べて(且つ、クランク角度を揃えて)表示するとよい。これにより、周波数帯域、クランク角度、ピーク値の散布を一目で把握することができ、異音の発生状況を把握することができる。換言すると、ピーク値が大きくなる部分を注目することによって、異音が発生する周波数パターンと角度パターン(時間パターン)を一目で把握することができる。エンジン音の場合、異音の周波数パターンと角度パターンによって異音の発生要因を特定できるので、上記の散布図を見ることによって、異音の発生状況だけでなく、異音の発生要因を判断することができる。したがって、特殊な異音、たとえばノック音を容易に特定することができる。そして、ノック音の発生条件(特にクランク角度)を特定することができる。
【0031】
次にノック音を解析する際の好ましい一例を説明する。ノック音を解析する場合、図2のフローをそのまま実行してもよいが、予め複数の試験を行ってデータをサンプリングしておくとよい。具体的には、ノック音が無い場合と、ノック音が発生した場合の2パターン以上でサンプリングすることが好ましい。また、後で同種類のエンジンでノック判定試験を行う場合には、その試験で使用するエンジン12の回転数ごとにサンプリングすることが好ましい。
【0032】
サンプリングしたデータに対して、図2のステップS11〜S17の処理を行った後、図4に示すような散布図を表示する(ステップS18)。図4の左側の数値は周波数の代表値であり、周波数帯域の異なる15の散布図が上下に並んで表示されている。各散布図は、縦軸が異音レベルのピーク値であり、横軸が開始点のクランク角度である。また、ノック音無しのデータが「+」で表示され、ノック音有りのデータが「○」で表示される。そして、最も上側に、すべてのデータを重ね合わせた散布図が表示される。なお、プロットを他の形状で表示したり、色を変えて表示したりしてもよい。
【0033】
このように表示された画面によれば、ノッキングの発生条件を容易に特定することができる。すなわち、ノッキングの発生時には「○」だけが示されるので、「○」だけの部分に注目すればノッキングが発生する周波数帯域とクランク角度範囲を特定することができる。たとえば周波数が8648と7743の帯域において、クランク角度200度〜230度の範囲に「○」が集中していることが分かる。したがって、その範囲をノッキングの発生条件として特定することができる。
【0034】
このように本実施の形態によれば、周波数帯域ごとにピーク値とクランク角度の散布図を表示したので、ノック音の発生条件を容易に特定することができる。ノック音の発生条件は、クランク角度のみとしてもよいし、角度範囲のみならず周波数・異音レベルを組み合わせた条件とすることもできる。このように特定したノッキングの発生条件は、プロセッサ18に入力することによって、ノッキング判定試験の際にノック音のデータを抽出するのに利用できる。
【0035】
なお、本実施の形態では、表示器20に散布図を表示することによって試験者が異音の発生や発生条件を特定したが、表示器20に表示することなく自動的に特定するようにしてもよい。たとえば、異音の無い(或いは少ない状況の)データを取り、その際のピーク値によって閾値を設定し、閾値を超えた際に異音が発生したと判断する。さらに判断した異音の発生条件を自動的に取得する。これにより、異音の発生や発生条件を自動的に特定することができる。
【0036】
また、本実施の形態では、ノッキングの発生条件を特定するようにしたが、これに限定するものではなく、回転体を有する装置の異常音を解析する装置としても広く利用することができる。さらに、異音をリアルタイムで判断する装置としても利用することができ、上述の散布図をリアルタイムで表示することによって、試験者は異音を聴覚で判断しながら、散布図によって視覚で確認することができる。その際、異音なしのデータを予め取得して散布図に表示しておき、その上に試験データをプロットすると、異音を容易に把握することができる。
【0037】
次に、本実施の形態の異音解析装置10を、ノッキング判定試験に利用した場合のフローについて説明する。図5は、ノッキング判定フローを示しており、図2のフローと同じ処理については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0038】
図5に示すように、ノッキング判定フローでは、まず入力信号を複数の周波数帯域に分離する(ステップS11)。次に、分離した周波数帯域間での同期を取るため、遅延補正処理を行う(ステップS12)。そして、信号を2乗平均し、音のパワーを算出した後(ステップS13)、聴感A特性補正値をかける(ステップS14)。次いで、時間マスク効果による補正を行い(ステップS15)、周波数マスク効果による補正を行う(ステップS16)。その後、それぞれの周波数帯域において、異音レベルを算出する(ステップS17)。
【0039】
次に、予め設定したノッキングの発生条件で、データの切り出しを行う(ステップS28)。具体的には、ノッキングが発生するとされるクランク角度の範囲に対して、異音の開始点がそのクランク角度の範囲内にある異音のデータを抽出し、範囲外にある異音のデータは削除する。その際、開始点からピーク点までのデータを抽出する。これにより、ノッキングが発生要因だと思われる異音のデータが残り、ノッキング以外が発生要因だと思われる異音のデータが削除される。
なお、ノッキングの発生条件は前述した「ノック音の解析」の手順に従って設定することができる。ただし予め条件が分かっている場合は必ずしも前記手順を経る必要はない。
【0040】
次に全周波数帯域の総和を求める(ステップS29)。すなわち、周波数帯域ごとに求めた異音レベルを加算することによって、全周波数帯域での異音レベルを求める。そして、求めた異音レベルの値が閾値を超えた場合にノッキングが発生したと判断する(ステップS30)。ノッキングが発生した場合は、それを表示器20に表示したり、擬似音を発生させたりすることによって作業者に報知する。
【0041】
次に本実施の形態の作用について説明する。図6(a)、図6(b)はそれぞれ、異音が発生している状況の一例を模式的に示している。これらの図において、縦軸は異音レベル、横軸はクランク角度を示しており、クランク角度のαからβ(以下、角度αβ)がノッキングの発生条件である。そして、図6(a)の異音A1と異音A3は角度αβの範囲外で発生し、範囲外でピークを迎えており、異音A2は範囲内で発生し、範囲内でピークを迎えている。このとき、異音A2のみがノック音であり、異音A1と異音A3はノッキング以外を要因とする異音である。一方、図6(b)の異音B1は角度αβの範囲外で発生し、範囲内でピークを迎えており、異音B2は範囲内で発生して範囲外でピークを迎えている。このとき、異音B2がノック音であり、異音B1はノッキング以外を要因とする異音である。
【0042】
角度αβの範囲で単純にデータを絞り込むと、図6(a)の場合はノッキングを正確に判定できるのに対して、図6(b)の場合はノッキングを正確に判定できないという問題を生じる。すなわち、図6(a)の場合は異音A2のみが抽出されるので、ノッキングを正確に判定することができるのに対して、図6(b)の場合は、ノック音である異音B2よりも、ノック音ではない異音B1の影響が大きく、ノッキングの判定が難しくなる。
これに対して、本実施の形態は、異音の開始点でデータの抽出を判断している。たとえば図6(b)の場合は、開始点が角度αβの範囲内である異音B2のみを抽出し、異音B1は開始点が範囲外なので除去される。したがって、図6(b)の状況であっても、ノッキングが疑われる異音B1のみが抽出されるので、ノッキングの判定を正確に行うことができる。
【0043】
上述したように本実施の形態によれば、異音のピーク値と開始点を求め、それに基づいてノッキングの発生条件を特定でき、それを元にデータの絞込みを行っているので、ノッキングの判定をより正確に行うことができる。
【符号の説明】
【0044】
10…ノック判定装置、12…エンジン、14…マイク、16…角度センサ、18…プロセッサ、20…表示器、22…アンプ、24…AD変換器、26…AD変換器、28…記録媒体
図1
図2
図3
図4
図5
図6