【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
【0053】
実施例1〜3
ニッケル(Ni)塩及び白金(Pt)塩を1mLのイオン液体に溶解させた試料をスクリュー管に封入し、アズワン社製のホットスターラーを300℃に温度設定して、加熱攪拌を行った。
【0054】
実施例1では、イオン液体として、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド([C
4mim][Tf
2N])(関東化学社製)を使用し、Ni塩として、C
4F
12NiN
2O
8S
4(Ni[Tf
2N]
2)を使用し、Pt塩として、白金(II)アセチルアセトナート(Pt(acac)
2)(和光純薬工業社製)を使用した。Ni塩、及びPt塩の濃度は、いずれも5[mmol/L]とした。回転速度は300[rpm]とし、加熱攪拌時間は1時間とした。
【0055】
実施例2では、イオン液体として、[C
4mim][Tf
2N](関東化学社製)を使用し、Ni塩として、Ni[Tf
2N]
2を使用し、Pt塩として、テトラクロロ白金酸(II)カリウム(K
2PtCl
4)(和光純薬工業社製)を使用した。Ni塩、及びPt塩の濃度は、いずれも5[mmol/L]とした。回転速度は300[rpm]とし、加熱攪拌時間は24時間とした。
【0056】
実施例3では、イオン液体として、[C
4mim][Tf
2N](関東化学社製)を使用し、Ni塩として、Ni[Tf
2N]
2を使用し、Pt塩として、99.9%のヘキサクロロ白金(IV)酸水素六水和物(H
2PtCl
6・6H
2O)(和光純薬工業社製)を使用した。Ni塩の濃度は5[mmol/L]とし、Pt塩の濃度は1.67[mmol/L]とした。換言すると、Pt塩とNi塩との濃度比を、おおよそ3対1(Pt塩:Ni塩=3:1)とした。回転速度は300[rpm]とし、加熱攪拌時間は1時間とした。
【0057】
Ni塩として使用したNi[Tf
2N]
2は、以下の方法によって合成した。まず、超純水中に、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(森田化学工業社製)を1.65g溶解させ、30分間、窒素バブリングを行った後、水酸化ニッケル(和光純薬工業社製)を0.27g加え、窒素雰囲気下で、70℃の下、2時間加熱攪拌した。溶液が緑色になった後、窒素雰囲気下に保ったままで室温になるまで放冷した。全ての操作は全て窒素雰囲気下で行った。得られた溶液から未反応の前駆体を吸引濾過によって除去した後、エバポレーター(ビュッヒ社製)により、吸引濾過後の溶液から液体を蒸発させた。更にその後、180℃の下、真空乾燥した。最終的に黄色の粉末が得られた。
【0058】
実施例1〜3のイオン液体中の金属ナノ粒子を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)(日立ハイテクノロジーズ社製のH−7650)により観察した。グリッドには、ハイレゾリューションカーボン支持膜を有するグリッド(応研商事社製のSTEM Cu100μグリッド)、EMファイングリッド(日新EM社製のF−400)、及びマイクログリッド(応研商事社製のSTEM Cu150μグリッド)を用いた。
【0059】
具体的には、実施例1〜3のイオン液体中の金属ナノ粒子を観察するために、実施例1〜3のイオン液体(3μL)をグリッド上に滴下し、約10分間静置した。次いで、アセトニトリル中にグリッドを1分30秒浸漬して過剰量のイオン液体を洗い流した後、TEMにより、金属ナノ粒子を観察した。TEMで観察された粒子の組成は、TEMに装着されているEDX(Energy Dispersive X−ray spectroscopy)(アメテック社製のGenesisXM2)により同定した。
【0060】
図5(a)は実施例1のTEM像を示す図面に代わる写真であり、
図5(b)は
図5(a)の一部を拡大して示す図面に代わる写真である。また、
図5(c)は、EDXを用いて実施例1の組成を分析した結果を示し、
図5(d)は、実施例1の粒子径分布を示す。
図6(a)は実施例2のTEM像を示す図面に代わる写真であり、
図6(b)は
図6(a)の一部を拡大して示す図面に代わる写真である。また、
図6(c)は、EDXを用いて実施例2の組成を分析した結果を示し、
図6(d)は、実施例2の粒子径分布を示す。
図7(a)は実施例3のTEM像を示す図面に代わる写真であり、
図7(b)は
図7(a)の一部を拡大して示す図面に代わる写真である。また、
図7(c)は、EDXを用いて実施例3の組成を分析した結果を示し、
図7(d)は、実施例3の粒子径分布を示す。
図5(c)、
図6(c)、及び
図7(c)において、縦軸はスペクトル強度を示し、横軸はエネルギーを示す。また、
図5(d)、
図6(d)、及び
図7(d)において、縦軸は粒子の存在比を示し、横軸は粒子径を示す。
【0061】
図5(a)〜
図5(d)、
図6(a)〜
図6(d)、及び
図7(a)〜
図7(d)に示すように、イオン液体中に、金属塩としてPt塩とNi塩とを溶解させた後、イオン液体を加熱攪拌する処理のみにより、Pt及び/又はNiを成分とする金属ナノ粒子を合成できた。
【0062】
また、2価のPt塩であるPt(acac)
2を溶解して粒子合成を行うと、平均粒子径は1.47nmとなり、粒子径は分散した。また、2価のPt塩であるK
2PtCl
4を溶解して粒子合成を行うと、平均粒子径は1.91nmとなり、粒子径は分散した。一方、4価のPt塩であるH
2PtCl
6・6H
2Oを溶解して粒子合成を行うと、平均粒子径は2.29nmとなった。したがって、4価のPt塩を用いると、凝集しやすいことが分かった。
【0063】
実施例4〜7、及び比較例
室温において、1mLのイオン液体にPt塩及びNi塩を溶解させた後、イオン液体に更に1mgの炭素材料を加えて12時間攪拌した試料を、二口フラスコに入れた。続いて、窒素雰囲気下にするために真空引きと窒素置換を3回行った後、マントルヒーターを用いて300℃、6時間の条件で加熱攪拌した。回転速度は300[rpm]とした。
【0064】
実施例4〜7では、イオン液体として、トリメチルプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド([N
3,1,1,1][Tf
2N])(関東化学社製)を用い、Ni塩としてNi[Tf
2N]
2を用い、Pt塩としてPt(acac)
2(和光純薬工業社製)を用いた。Pt塩の濃度は5[mmol/L]とし、Ni塩の濃度は1.67[mmol/L]とした。換言すると、Pt塩とNi塩との濃度比を、おおよそ3対1(Pt塩:Ni塩=3:1)とした。一方、炭素素材(担体素材)として、実施例4では単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(名城ナノカーボン社製のFH−P)を用い、実施例5では多層カーボンナノチューブ(MWCNT)(シグマアルドリッチ社製)を用い、実施例6ではグラフェンシート(strem chemicals社製の06−0220(厚さ:6−8nm、幅:25μm))を用い、実施例7では、導電性カーボンブラック(Cabot社製のVulcan(登録商標)−XC72)を用いた。
【0065】
なお、実施例4、5では、SWCNT、MWCNTの分散性を上昇させるために、12時間攪拌した試料を二口フラスコに入れる前に、分散液をメノウ乳鉢に入れて10分間磨り潰す操作を適宜行った。
【0066】
実施例4〜7のイオン液体中の炭素材料を、実施例1〜3と同様の条件により、TEM(日立ハイテクノロジーズ社製のH−7650)を用いて観察した。また、実施例1〜3と同様の条件により、TEMで観察された粒子の組成を、TEMに装着されているEDX(アメテック社製のGenesisXM2)により同定した。
【0067】
図8(a)は実施例4のTEM像を示す図面に代わる写真であり、
図8(b)は
図8(a)の一部を拡大して示す図面に代わる写真である。また、
図8(c)は、EDXを用いて実施例4の組成を分析した結果を示し、
図8(d)は、実施例4の粒子径分布を示す。
図9(a)は実施例5のTEM像を示す図面に代わる写真であり、
図9(b)は
図9(a)の一部を拡大して示す図面に代わる写真である。また、
図9(c)は、EDXを用いて実施例5の組成を分析した結果を示し、
図9(d)は、実施例5の粒子径分布を示す。
図10(a)は実施例6のTEM像を示す図面に代わる写真であり、
図10(b)は
図10(a)の一部を拡大して示す図面に代わる写真である。また、
図10(c)は、EDXを用いて実施例6の組成を分析した結果を示し、
図10(d)は、実施例6の粒子径分布を示す。
図11(a)は実施例7のTEM像を示す図面に代わる写真であり、
図11(b)は
図11(a)の一部を拡大して示す図面に代わる写真である。また、
図11(c)は、EDXを用いて実施例7の組成を分析した結果を示し、
図11(d)は、実施例7の粒子径分布を示す。
図8(c)、
図9(c)、
図10(c)、及び
図11(c)において、縦軸はスペクトル強度を示し、横軸はエネルギーを示す。また、
図8(d)、
図9(d)、
図10(d)、及び
図11(d)において、縦軸は粒子の存在比を示し、横軸は粒子径を示す。
【0068】
図8(a)〜
図8(d)、
図9(a)〜
図9(d)、
図10(a)〜
図10(d)、及び
図11(a)〜
図11(d)に示すように、イオン液体中に、金属塩としてPt塩とNi塩とを溶解させ、更に炭素材料をイオン液体に加えた後、イオン液体を加熱攪拌する処理のみによって、Pt及び/又はNiを成分とする金属ナノ粒子を担持した炭素担体(金属ナノ粒子担持担体)を得ることができた。更に、炭素材料(担体素材)によって、粒子径や分散性が異なることが分かった。
【0069】
実施例4〜7では、更に、マントルヒーターを用いて300℃、6時間の条件で加熱攪拌した混合溶液に対し、アセトニトリルを加えて5分間の超音波洗浄を行った後、粒子を担持する試料を遠心分離機(久保田商事社製のユニバーサル冷却遠心機5900)を用いて沈殿させた。この操作を3回行った後、2時間の真空乾燥を行い、ナノ粒子を担持した炭素担体(金属ナノ粒子担持担体)を得た。
【0070】
得られた金属ナノ粒子担持担体の電気化学的挙動を、
図4に示す電気化学セルを用いて評価した。また、得られた金属ナノ粒子担持担体の触媒活性についても、
図4に示す電気化学セルを用いて評価した。更に、比較例(田中貴金属社製のTEC10V30E)の電気化学的挙動及び触媒活性について、
図4に示す電気化学セルを用いて評価した。
【0071】
図4は、本実施例においてボルタンメトリー分析に使用した電気化学セルを示す。
図4に示すように、電気化学セルは、作用電極1、参照電極2、及びカウンター電極3を含む。本実施例では、参照電極2としてAg/AgCl電極を用い、カウンター電極3として大表面積のPtメッシュ電極を用いた。また、電解液4には0.1[mol/L(298K)]の過塩素酸(HClO
4)を用いた。窒素及び酸素飽和状態で測定を行う際には、N
2ガス(99.9999%)又はO
2ガス(99.999%)を予め30分以上バブリングしておいた。測定前には、−0.205[V vs.Ag/AgCl]〜0.945[V vs.Ag/AgCl]の電位範囲を50m[Vs
-1]の速度で80サイクル掃引することで、電気化学的クリーニングを行った。
【0072】
また、作用電極1として、次の手順により作製した回転円板電極を用いた。まず、1mgのサンプル(金属ナノ粒子担持担体)に対して、400μLの2−プロパノール又は1−ヘキサノールを混合して懸濁液を調製した。続いて、回転円板電極用グラッシーカーボン電極上にその懸濁液を10μL塗布した。乾燥後、0.20wt%に調製した5μLのNafion(登録商標)溶液を塗布することにより、サンプルを固定した。
【0073】
図12(a)は、実施例4〜7の金属ナノ粒子担持担体に対して、電解液4に窒素を供給した状態でサイクリックボルタンメトリー分析を行った結果を示す。更に、
図12(a)は、比較例(田中貴金属社製のTEC10V30E)に対して、電解液4に窒素を供給した状態でサイクリックボルタンメトリー分析を行った結果を示す。サイクリックボルタンメトリー分析では、回転円板電極(作用電極1)を静止させた。また、参照電極2(RHE)に対する作用電極1の電位[V vs.RHE]を、0.05[V vs.RHE]から1.2[V vs.RHE]までの間で、10[mVs
-1]の速度で変化させた。
【0074】
図12(b)は、実施例4〜7の金属ナノ粒子担持担体に対して、電解液4に酸素を供給した状態でリニアスイープボルタンメトリー分析を行った結果を示す。更に、
図12(b)は、比較例(田中貴金属社製のTEC10V30E)に対して、電解液4に酸素を供給した状態でリニアスイープボルタンメトリー分析を行った結果を示す。リニアスイープボルタンメトリー分析では、回転円板電極(作用電極1)を1600[rpm]の回転速度で回転させた。また、参照電極2(RHE)に対する作用電極1の電位[V vs.RHE]を、0[V vs.RHE]から1.2[V vs.RHE]まで、10[mVs
-1]の速度で変化させた。
【0075】
図12(a)及び
図12(b)において、縦軸は電流値を示し、横軸は電位[V vs.RHE]を示す。
図12(a)は、比較例(田中貴金属社製のTEC10V30E)、実施例4(PtNi−SWCNT)、実施例5(PtNi−MWCNT)、実施例6(PtNi−Graphene)、及び実施例7(PtNi−Vulcan)のそれぞれのサイクリックボルタンメトリー曲線(CV曲線)を示す。
図12(b)は、比較例(田中貴金属社製のTEC10V30E)、実施例4(PtNi−SWCNT)、実施例5(PtNi−MWCNT)、実施例6(PtNi−Graphene)、及び実施例7(PtNi−Vulcan)のそれぞれのリニアスイープボルタンメトリー曲線(LSV曲線)を示す。
【0076】
図12(a)及び
図12(b)に示す結果から、実施例4〜7の金属ナノ粒子担持担体は、固体高分子形燃料電池用電極触媒として十分に使用できる酸素還元能を有することがわかった。また、実施例4〜7の金属ナノ粒子担持担体のうち、最も酸素還元能を有するものは、実施例5の金属ナノ粒子担持担体(PtNi−MWCNT)であった。
【0077】
図13は、実施例5の金属ナノ粒子担持担体(PtNi−MWCNT)に対して耐久性試験を行った結果を示す。具体的には、
図13は、酸化還元反応を行う前(耐久試験前)のリニアスイープボルタンメトリー分析結果(0サイクル)を示している。また、
図13は、酸化還元反応を5000回行った後(耐久試験後)のリニアスイープボルタンメトリー分析結果(5000サイクル)を示している。酸化還元反応は、
図4に示す電気化学セルを用いて行った。具体的には、電解液4に窒素を供給した状態で、参照電極2(RHE)に対する作用電極1の電位[V vs.RHE]を、0.1[V vs.RHE]から1.2[V vs.RHE]までの間で、10[mVs
-1]の速度で変化させた。
図13に示すように、0.8[V vs.RHE]から1.0[V vs.RHE]までの電位域では、耐久試験後のリニアスイープボルタンメトリー分析において、耐久試験前のリニアスイープボルタンメトリー分析時よりも高い酸素還元電流が検出された。
【0078】
実施例8、実施例9、及び比較例
室温において、イオン液体にPt塩及びNi塩を溶解させた後、イオン液体に更に1mgの炭素材料を加えて12時間攪拌した試料を、二口フラスコに入れた。続いて、窒素雰囲気下にするために真空引きと窒素置換を3回行った後、マントルヒーターを用いて300℃に温度設定して、加熱攪拌を行った。加熱攪拌時間は4時間とした。回転速度は300[rpm]とした。
【0079】
実施例8及び9では、イオン液体として[N
3,1,1,1][Tf
2N](関東化学社製)を用い、Ni塩としてNi[Tf
2N]
2を用い、Pt塩としてPt(acac)
2(和光純薬工業社製)を用い、炭素素材(担体素材)としてMWCNT(シグマアルドリッチ社製)を用いた。実施例8では、Pt塩、及びNi塩の濃度は、いずれも5[mmol/L]とした。実施例9では、Pt塩の濃度は5[mmol/L]とし、Ni塩の濃度は1.67[mmol/L]とした。換言すると、Pt塩とNi塩との濃度比を、おおよそ3対1(Pt塩:Ni塩=3:1)とした。また、実施例8及び9では、MWCNTの分散性を上昇させるために、12時間攪拌した試料を二口フラスコに入れる前に、分散液をメノウ乳鉢に入れて10分間磨り潰す操作を適宜行った。
【0080】
実施例8及び9のイオン液体中の炭素材料を、実施例1〜3と同様の条件により、TEM(日立ハイテクノロジーズ社製のH−7650)を用いて観察した。
図14(a)は実施例8のTEM像を示す図面に代わる写真であり、
図14(b)は
図14(a)の一部を拡大して示す図面に代わる写真である。
図15(a)は実施例9のTEM像を示す図面に代わる写真であり、
図15(b)は
図15(a)の一部を拡大して示す図面に代わる写真である。
図14(a)、
図14(b)、
図15(a)及び
図15(b)に示すように、Pt及び/又はNiを成分とする金属ナノ粒子を担持した炭素担体(金属ナノ粒子担持担体)を得ることができた。
【0081】
実施例8及び9では、更に、マントルヒーターを用いて300℃、4時間の条件で加熱攪拌した混合溶液に対し、アセトニトリルを加えて5分間の超音波洗浄を行った後、粒子を担持する試料を遠心分離機(久保田商事社製のユニバーサル冷却遠心機5900)を用いて沈殿させた。この操作を3回行った後、2時間の真空乾燥を行い、ナノ粒子を担持した炭素担体(金属ナノ粒子担持担体)を得た。得られた金属ナノ粒子担持担体(PtNi−MWCNT)は、粉末状であった。
【0082】
実施例8及び9の金属ナノ粒子担持担体に対してX線回折(X−ray diffraction;XRD)と定量分析とを行った。更に、実施例8及び9の金属ナノ粒子担持担体に対して、サイクリックボルタンメトリー分析を行った。また、実施例8及び9の金属ナノ粒子の有効比表面積(Electrochemical Surface Area;ECSA)[m
2/g]及び質量活性MA[A/g]を測定(算出)した。同様に、比較例(田中貴金属社製のTEC10V30E)に対してX線回折及びサイクリックボルタンメトリー分析を行った。また、比較例の有効比表面積[m
2/g]及び質量活性MA[A/g]を測定(算出)した。有効比表面積及び質量活性MAは、サイクリックボルタンメトリーのデータを解析することで算出される。
【0083】
X線回折によって得た測定データを
図16に示す。
図16は、実施例8の金属ナノ粒子担持担体(Pt塩:Ni塩=1:1)に対してX線回折を行った結果を示す。また、
図16は、実施例9の金属ナノ粒子担持担体(Pt塩:Ni塩=3:1)に対してX線回折を行った結果を示す。更に、
図16は、比較例(田中貴金属社製のTEC10V30E)に対してX線回折を行った結果を示す。
【0084】
図16において、縦軸は回折強度(Count per second;CPS)を示し、横軸は回折角度(2 theta(2θ))を示す。また、
図16において、グラフ1601は、実施例8のX線回折データを示し、グラフ1602は、実施例9のX線回折データを示し、グラフ1603は、比較例のX線回折データを示す。
【0085】
以下の表1は、実施例8、実施例9及び比較例の(111)面(格子面)の回折角度(2θ)を示す。表1に示すように、実施例8及び実施例9の(111)面の回折角度はいずれも、比較例より大きくなった。実施例8及び9の金属ナノ粒子が、PtとNiとの合金を含むためであると考えられる。
【表1】
【0086】
定量分析は、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma;ICP)質量分析法に基づいて行った。以下の表2は、定量分析の結果を示す。具体的には、表2は、実施例8の金属ナノ粒子担持担体(Pt塩:Ni塩=1:1)に含まれるPtとNiとの質量比(Pt:Ni)を示す。また、表2は、実施例9の金属ナノ粒子担持担体(Pt塩:Ni塩=3:1)に含まれるPtとNiとの質量比(Pt:Ni)を示す。
【表2】
【0087】
図17は、実施例8及び9の金属ナノ粒子担持担体に対して、サイクリックボルタンメトリー分析を行った結果を示す。更に、
図17は、比較例(田中貴金属社製のTEC10V30E)に対して、サイクリックボルタンメトリー分析を行った結果を示す。サイクリックボルタンメトリー分析は、
図4に示す電気化学セルを用いて、電解液4に窒素を供給した状態で行った。サイクリックボルタンメトリー分析では、回転円板電極(作用電極1)を静止させた。また、参照電極2(RHE)に対する作用電極1の電位[V vs.RHE]を、0.05[V vs.RHE]から1.2[V vs.RHE]までの間で、10[mVs
-1]の速度で変化させた。
【0088】
図17において、縦軸は電流値を示し、横軸は電位[V vs.RHE]を示す。
図17は、実施例8(Pt塩:Ni塩=1:1)、実施例9(Pt塩:Ni塩=3:1)、及び比較例(田中貴金属社製のTEC10V30E)のそれぞれのサイクリックボルタンメトリー曲線(CV曲線)を示す。
【0089】
図17に示す結果から、実施例8及び9の金属ナノ粒子担持担体は、固体高分子形燃料電池用電極触媒として十分に使用できる酸素還元能を有することがわかった。また、実施例8(Pt塩:Ni塩=1:1)は、実施例9(Pt塩:Ni塩=3:1)よりも酸素還元能が高いという結果を得た。
【0090】
有効比表面積を測定(算出)するために、酸化還元反応を1000回行う度に、サイクリックボルタンメトリー分析を行った。酸化還元反応は、15000回行った。
図18は、実施例8の金属ナノ粒子(Pt塩:Ni塩=1:1)の有効比表面積の測定結果を示す。また、
図18は、実施例9の金属ナノ粒子(Pt塩:Ni塩=3:1)の有効比表面積の測定結果を示す。更に、
図18は、比較例(田中貴金属社製のTEC10V30E)の有効比表面積の測定結果を示す。
図18において、縦軸は有効比表面積(ECSA)の変化の割合[%]を示し、横軸は酸化還元反応の実行回数(cycle)を示す。
【0091】
図18に示すように、酸化還元反応を繰り返すことにより、有効比表面積は減少したが、実施例8及び9の有効比表面積の減少の割合はいずれも比較例と比べて小さくなった。
【0092】
酸化還元反応を行う前に行ったサイクリックボルタンメトリー分析の結果を用いて、実施例8の金属ナノ粒子(Pt塩:Ni塩=1:1)、実施例9の金属ナノ粒子(Pt塩:Ni塩=3:1)、及び比較例(田中貴金属社製のTEC10V30E)のそれぞれの質量活性MAを測定(算出)した。測定の結果を
図19に示す。
【0093】
図19において、縦軸は質量活性MA[A/g]を示す。
図19に示すように、実施例8及び実施例9の質量活性MAは、酸化還元反応の実行前と実行後とのいずれにおいても、比較例の質量活性MAより大きくなった。更に、実施例8に関しては、酸化還元反応の実行前よりも実行後の方が質量活性MAは大きくなった。
【0094】
酸化還元反応を行う前の実施例8の金属ナノ粒子担持担体を、走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope;STEM)(日本電子社製のJEM−ARM300F)を用いて観察した。
図20は、酸化還元反応を行う前の実施例8の金属ナノ粒子担持担体のSTEM像を示す図面に代わる写真である。
図20に示すように、Ptの(111)面(格子面)に一致する格子縞が観察された。
【0095】
酸化還元反応を行う前の実施例8の金属ナノ粒子担持担体を、STEM(日本電子社製のJEM−ARM300F)を用いて観察した。具体的には、暗視野像及びTEM像を取得した。また、使用したSTEMに装着されていたEDXを用いて、分布像(元素分布を示す2次元画像)を取得した。
図21は、暗視野像を示す図面に代わる写真である。
図22は、Ptの分布像を示す図面に代わる写真である。
図23は、Niの分布像を示す図面に代わる写真である。
図24は、
図22に示すPtの分布像と
図23に示すNiの分布像とを重ねて示す図面に代わる写真である。
図25は、TEM像と
図24に示す分布像と重ねて示す図面に代わる写真である。
【0096】
酸化還元反応を15000回行った後の実施例8の金属ナノ粒子担持担体を、STEM(日本電子社製のJEM−ARM300F)を用いて観察した。
図26は、酸化還元反応を行った後の実施例8の金属ナノ粒子担持担体のSTEM像を示す図面に代わる写真である。
図26に示すように、Ptの(111)面(格子面)に一致する格子縞が観察された。また、Niの(111)面に一致する格子縞が観察された。
【0097】
酸化還元反応を15000回行った後の実施例8の金属ナノ粒子担持担体を、STEM(日本電子社製のJEM−ARM300F)を用いて観察した。具体的には、暗視野像及びTEM像を取得した。また、使用したSTEMに装着されていたEDXを用いて、分布像を取得した。
図27は、暗視野像を示す図面に代わる写真である。
図28は、Ptの分布像を示す図面に代わる写真である。
図29は、Niの分布像を示す図面に代わる写真である。
図30は、
図28に示すPtの分布像と
図29に示すNiの分布像とを重ねて示す図面に代わる写真である。
図31は、TEM像と
図30に示す分布像と重ねて示す図面に代わる写真である。
【0098】
図21〜
図25に示すように、酸化還元反応を行う前の金属ナノ粒子担持担体において、Ni粒子はPt粒子の上に重なっている。また、
図27〜
図31に示すように、酸化還元反応を行った後の金属ナノ粒子担持担体においても、酸化還元反応を行う前と同様に、Ni粒子はPt粒子の上に重なっている。ただし、酸化還元反応を行った後のNi粒子の個数は、酸化還元反応を行う前と比べて、若干少なくなっている。Niが電解液4に溶解したためであると考えられる。
【0099】
実施例10及び11
室温において、2mLのイオン液体にPt塩及び臭化物を溶解させた後、イオン液体に更に5mgの炭素材料を加えて1時間攪拌した。このようにして得た分散液をメノウ乳鉢に入れて10分間磨り潰す操作を行った。その後、分散液を二口フラスコに入れた。続いて、窒素雰囲気下にするために真空引きと窒素置換を3回行った後、マントルヒーターを用いて300℃、加熱攪拌した。回転速度は300[rpm]とした。
【0100】
実施例10及び11では、イオン液体として[N
3,1,1,1][Tf
2N](関東化学社製)を用い、Pt塩としてPt(acac)
2(和光純薬工業社製)を用い、炭素素材(担体素材)としてMWCNT(シグマアルドリッチ社製)を用い、臭化物として1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド([C
2mim]Br)を用いた。実施例10及び11では、Pt塩の濃度は、5[mmol/L]とした。また、臭化物の濃度は100[mmol/L]とした。
【0101】
実施例10では、加熱攪拌時間は15分とした。実施例11では、加熱攪拌時間を1時間とした。[C
2mim]Brは、加熱攪拌により、以下の構造式に示すように、陽イオン([C
2mim]
+)と陰イオン(Br
-)とに電離する。
【化1】
【0102】
実施例10及び11のイオン液体中の炭素材料を、実施例1〜3と同様の条件により、TEM(日立ハイテクノロジーズ社製のH−7650)を用いて観察した。
図32(a)は実施例10のTEM像を示す図面に代わる写真であり、
図32(b)は
図32(a)の一部を拡大して示す図面に代わる写真である。
図33(a)は実施例11のTEM像を示す図面に代わる写真であり、
図33(b)は
図33(a)の一部を拡大して示す図面に代わる写真である。
【0103】
図32(a)、
図32(b)、
図33(a)及び
図33(b)に示すように、多角形状の金属ナノ粒子(Pt粒子)が生成された。換言すると、表面に結晶面を含むPt粒子が生成された。
図32(b)に示すように、実施例10の金属ナノ粒子(Pt)の側面(結晶面)の平均長は、14.01±3.72nmとなった。
図33(b)に示すように、実施例11の金属ナノ粒子(Pt)の側面(結晶面)の平均長は、15.92±2.17nmとなった。
【0104】
実施例10及び11では、更に、アセトニトリルを加えて超音波洗浄を10分間行う操作を2回行った。更に、水を加えて超音波洗浄を10分間行う操作を1回行った。その後、真空乾燥を12時間かけて行い、粉末状の金属ナノ粒子担持担体を得た。
図4に示す電気化学セルを用いて、得られた金属ナノ粒子の有効比表面積(ECSA)及び質量活性MAを測定した。また、質量活性MAの値を有効比表面積で割ることにより、電流密度を測定(算出)した。測定の結果を以下の表3に示す。
【表3】
【0105】
表3に示すように、実施例11の電流密度が、実施例10の電流密度よりも大きくなった。