(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般的なかつらは、長期装着型と短期装着型とに大きく分類される。このうち長期装着型のかつらは、装着者の自毛を利用して頭部に止着する自毛固定方式と、かつらベースの裏面に接着剤を塗布して装着者の頭皮に接着するベース接着方式とに分類される。一方、短期装着型のかつらは、かつらベースに設けた反転式のストッパー(ヘアピン)で装着者の自毛に固定するストッパー方式と、かつらベースに設けた両面テープで装着者の頭皮に接着する両面テープ方式とに分類される。
【0003】
長期装着型のかつらは、非常に強固な固定が可能であり、日常生活でかつらが脱落してしまう心配が少なく、例えば、装着したままで激しい運動をしたり、水泳をしたりすることができる。一方、短期装着型のかつらは、長期装着型と比較して固定の強度が低く、長時間装着した場合にかつらがずれたり、脱落したりする可能性がある。その反面、短期装着型のかつらは、装着者自身で簡単に着脱することができるというメリットがある。
【0004】
上述した自毛固定方式のかつらとしては、例えば、特許文献1〜8に記載されたようなものがある。しかし、特許文献1〜8のかつらは、いずれも止着部材をかつらベースの周縁部などに直接、接着固定した構成となっており、かつらを装着する場合は、装着者の自毛を止着部材に接着剤で固定していた。そして、かつらを取り外す場合は、有機溶剤系又は水系の除去剤を用いて接着剤を溶かし、あるいは固化した接着剤をペンチで粉砕して、自毛の固定を解除していた。
【0005】
このため、上述した特許文献1〜8のかつらでは、かつらを何度も繰り返し着脱すると、止着部材が汚損ないし破損してしまい、止着部材を交換する度に、かつらベースの周縁部に物理的又は化学的なダメージを与えてしまうという問題があった。そして、かつらベースの周縁部が破損してしまった場合は、かつら本体が未だ美品であっても、もはやそのかつらを使用することはできない。
【0006】
そこで、特許文献1〜8のかつらの問題点を解決すべく、本出願人は、特許文献9に記載されているようなかつらを提案した。特許文献9のかつらの構成は、その
図1、
図2、
図14及び
図15に示したとおりである。
【0007】
特許文献9の
図1、
図2、
図14及び
図15において、特許文献9のかつら1、2は、かつらベース10の裏面外周に沿って固定されたフィルム、シート、紐又は糸状の部材からなる取付基部13、14、15と、フィルム又はシート状の部材であって、装着者の自毛を通すためのスリット24を有する止着部材20と、を備えた構成となっている。取付基部13、14、15は、間隔をおいた二つ以上の固定箇所13a、14a、15aを有する。取付基部13、14、15は、二つの固定箇所13aと13a、14aと14a、15aと15aの間隔が、かつらベース10の裏面に対して非固定部になっている。非固定部の幅(前記間隔)は、止着部材20を挿通することが可能な寸法となっている。
【0008】
かつら1、2を装着者の頭部に装着する場合は、止着部材20を取付基部13、14、15の非固定部に挿通し、スリット24に装着者の自毛を通した後、止着部材20の一端側と他端側との間に自毛を挟んだ状態で、止着部材20の一端側と他端側と接着する。一方、かつら1、2を装着者の頭部から取り外す場合は、止着部材20を鋏で切断するか、又は止着部材20の接着剤を除去剤で溶かせばよい。このような特許文献9のかつら1、2によれば、止着部材20とかつらベース10とを非接着としているので、止着部材20を頻繁に交換してもかつらベース10は傷まない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、本出願人が提案した特許文献9のかつらの止着構造は、従来の特許文献1〜8の止着構造と比較して、止着部材を頻繁に交換してもかつらベースが傷まないという顕著な作用効果を奏する。当然であるが、新規な止着構造の作用効果の恩恵は、この止着構造を備えた新規なかつらを購入したユーザのみが受けられる。
【0011】
しかし、本発明者は、特許文献1〜8のような従来の止着構造を備えたかつらのユーザには、特許文献9のような新規な止着構造に付け替えたいというニーズが潜在すると考えた。特に、特許文献1〜8のかつらの止着構造は、かつらを着脱する度に、かつらベースの周縁部がダメージを受けるので、かつらベースの周縁部が損傷してしまう前に、別の止着構造に付け替えることを望むであろう。
【0012】
そこで、本発明者は、従来のかつらの各種止着構造を、特許文献9の止着構造に付け替えることを試みた。その結果、特許文献9の止着構造は、止着部材20を挿通することが可能な間隔寸法で、取付基部を正確に固定しなければならず、取付基部の固定にある程度の精度が要求されることが判明した。取付基部の固定箇所が一つずれると、その後に形成される固定箇所もずれてしまい、止着部材20を挿通することが可能な間隔寸法が確保できなくなってしまうので、作業者は、取付基部の固定に慎重を要する。
【0013】
また、止着構造の付け替えには、かつらベースの周縁部を損傷させないように、従来の止着構造を取り外す作業に手間と時間が掛かるので、新規な止着構造の取り付けに手間と時間を掛けるわけにはいかない。特に、来店された顧客のかつらをその場で修繕して返却するサービスでは、可能な限り短時間で止着構造の付け替えをすることが望ましい。
【0014】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、従来の自毛固定方式の止着構造と同等以上の装着感が得られ、顧客のかつらの構成及び自毛の状態に適合した止着部材の製造、止着部材のかつらへの取り付け、及びかつらの装着を容易かつ迅速に行うことができるかつら止着部材、かつら、かつらの修繕方法及びかつらの装着方法の提供を目的とする。
【0015】
(1)上記目的を達成するために、本発明のかつら止着部材は、装着者の自毛を利用して、かつらを頭部に装着するためのかつら止着部材であって、フィルム又はシート状の部材で構成された基部と接着部とが一体を成し、前記接着部には、装着者の自毛の束を通過させることが可能な自毛引出部が形成され、前記基部は、かつらベースの裏面外周のうち、少なくとも両側部から後部に亘る範囲の全部又は一部に対応する形状を有し、前記範囲内に取り付け可能となっており、前記接着部は、前記基部が前記かつらベースに取り付けられたときに、前記基部よりも前記かつらベースの内側に向かって突出する面積を有し、前記装着者の自毛の束を前記自毛引出部から引き出した状態で、前記接着部を前記基部の方向に折り曲げて接着する構成となっている。
【0016】
上記構成からなる本発明のかつら止着部材は、種々のかつらベースの裏面外周の形状に応じて基部を作成し、個々の顧客の自毛の状態に応じた所定の位置に接着部及び自毛引出部を形成することで、極めて容易かつ短時間で製造することができる。つまり、個々の顧客のかつらの構成、自毛の状態に適合したかつら止着部材を容易かつ迅速に製造することが可能である。
【0017】
また、複数の接着部は、個々に基部の所定位置に形成されるので、一の接着部の位置に誤差が生じても、他の接着部の位置に悪影響を与えることがない。さらに、本発明のかつら止着部材においては、基部における接着部の形成位置が、基部の固定位置に影響を受けないので、かつらベースの裏面外周に対する基部の固定に精度が要求されない。この結果、基部又は接着部を含むかつら止着部材全体を、かつらベースの裏面外周に極めて容易かつ短時間で取り付けることが可能である。
【0018】
これに加え、本発明のかつら止着部材は、装着者の自毛の束を前記自毛引出部から引き出した状態で、接着部を基部の方向に折り曲げて接着する構成となっているので、上述した本出願人の特許文献9のかつらと同等以上の装着感が得られる。
【0019】
(2)好ましくは、上記(1)のかつら止着部材において、前記基部と前記接着部とが、独立したフィルム又はシート状の部材で構成され、前記接着部の一側には、前記自毛引出部が形成され、前記接着部の他側は、前記基部に取り付けられ、前記接着部の一側が、前記基部から前記かつらベースの内側に向かって突出する構成にするとよい。
【0020】
上記構成によれば、接着部及び自毛引出部を、個々の顧客の自毛の状態に適合した位置に容易に形成することが可能となる。すなわち、自毛引出部を形成した所定形状の接着部を予め量産しておく。種々のかつらベースの裏面外周の形状に応じて基部を作成する。この基部上に、個々の顧客の自毛の状態に適合した複数の位置を特定し、これら位置に、予め量産しておいた接着部を取り付ければよい。
【0021】
(3)好ましくは、上記(1)のかつら止着部材において、前記基部と前記接着部とが、連続するフィルム又はシート状の部材で構成された構成にしてもよい。
【0022】
上記構成によれば、基部及び接着部を含むかつら止着部材全体を、かつらベースの裏面外周に極めて容易かつ短時間で取り付けることが可能である。
【0023】
(4)好ましくは、上記(1)〜(3)のいずれかのかつら止着部材において、前記基部と前記接着部とを構成する面のうち、少なくとも前記接着に供される面を粗面にした構成にするとよい。
【0024】
上記構成によれば、折り曲げた接着部どうしの間(例えば、上記(2)の構成)、又は折り曲げた接着部と基部との間(例えば、上記(3)の構成)に、より多くの接着剤を滞留させることができるとともに、間に挟まれた自毛の束を保持する摩擦力を増大させることが可能となる。この結果、かつら止着部材の自毛固定力を向上させることができる。
【0025】
(5)好ましくは、上記(1)〜(4)のいずれかのかつら止着部材において、前記自毛引出部が、一又は複数のスリットからなる構成にするとよい。
【0026】
上記構成によれば、一又は複数のスリットから装着者の自毛の束を引き出すことで、スリット自体が自毛の束を捕捉してかつらの固定に寄与する効果がある。特に、自毛の束を複数のスリットに順番に通過させることで、自毛の束と接着部とを結合させることが可能となる。
【0027】
(6)好ましくは、上記(5)のかつら止着部材において、前記スリットの形状が、直線状又は非直線状である構成にするとよい。
【0028】
自毛引出部としてのスリットの形状は、特に限定されるものではない。例えば、直線状のスリットは、自動又は手動により精度よく簡単に形成することができる。また、非直線状のスリットは、同じ幅の直線状のスリットと比較して、線長を長くすることができ、直線よりも自毛の束を保持しやすい形状とすることも可能である。
【0029】
(7)好ましくは、上記(5)又は(6)のかつら止着部材において、前記自毛引出部が、前記スリットの両端に円孔を連成した構成にするとよい。
【0030】
上記構成によれば、自毛引出部としてのスリットの強度を向上させることができる。すなわち、フィルム又はシート状の部材に形成したスリットは、装着者の自毛の束を通過させたときに両端に負担が掛かり、両端が裂けやすい。そこで、スリットの両端に円孔を連成することで、自毛の束を通過させたときにスリットの両端に掛かる負担を各円孔により分散させることが可能となる。
【0031】
(8)上記目的を達成するために、本発明のかつらは、上記(1)〜(7)のいずれかのかつら止着部材を備えたかつらであって、かつらベースの裏面外周のうち、少なくとも両側部から後部に亘る範囲の全部又は一部に、前記基部を取り付けた構成としてある。
【0032】
上記構成からなる本発明のかつらによれば、上記(1)〜(7)のいずれかのかつら止着部材をかつらベースの裏面外周に取り付けることにより、個々の顧客の自毛の状態に適合したかつらを容易かつ迅速に製造することが可能である。また、上記(1)〜(7)のいずれかのかつら止着部材は、装着者の自毛の束を前記自毛引出部から引き出した状態で、接着部を基部の方向に折り曲げて接着する構成となっている。この結果、本発明のかつらは、上述した本出願人の特許文献9のかつらと同等以上の装着感が得られる。
【0033】
(9)上記目的を達成するために、本発明のかつらの修繕方法は、上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載のかつら止着部材を用いたかつらの修繕方法であって、かつらベースの裏面外周に設けられた既存のかつら止着部材を除去する工程と、かつらベースの裏面外周のうち、少なくとも両側部から後部に亘る範囲の全部又は一部に、前記基部を取り付ける工程と、を含んでいる。
【0034】
上記構成からなる本発明のかつらの修繕方法によれば、上記(1)〜(7)のいずれかのかつら止着部材を容易かつ迅速に製造し、かつらベースの裏面外周に極めて容易かつ短時間で取り付けることができる。この結果、例えば、来店された顧客のかつらをその場で修繕して返却するサービスにおいて、既存のかつら止着部材を、上記(1)〜(7)のいずれかのかつら止着部材に付け替えることが現実的になる。既存のかつら止着部材を除去する手間と時間は、既存のかつら止着部材の構成に依存するが、本発明のかつらの修繕方法によれば、付け替えに要する総合的な手間と時間を確実に削減することが可能である。これにより、従来のかつら止着部材を新規なかつら止着部材に付け替えたいというユーザのニーズに応えることができる。
【0035】
(10)上記目的を達成するために、本発明のかつらの装着方法は、上記(8)のかつら、又は上記(9)のかつらの修繕方法によって修繕したかつらの装着方法であって、前記かつらを装着者の頭部に載置する工程と、前記かつらベースの外周部分を捲り、前記装着者の自毛の束を前記自毛引出部から引き出す工程と、前記接着部を前記基部の方向に折り曲げて接着する工程と、を含んでいる。
【0036】
上記構成からなる本発明のかつらの装着方法によれば、かつらを装着者の頭部に載置した後、接着部の数に応じて、装着者の自毛の束を自毛引出部から引き出す工程、接着部を基部の方向に折り曲げて接着する工程を数回繰り返すだけで、かつらの止着が完了する。この結果、例えば、来店された顧客のかつらをその場で修繕して返却するサービスにおいて、かつら止着部材の付け替え後に行われる、かつらの装着に要する手間と時間をも削減することが可能となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明のかつら止着部材、かつら、かつらの修繕方法及びかつらの装着方法によれば、従来の自毛固定方式の止着構造と同等以上の装着感が得られ、個々の顧客のかつらの構成及び自毛の状態に適合した止着部材の製造、止着部材のかつらへの取り付け、及びかつらの装着を容易かつ迅速に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
1.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態に係るかつら止着部材、かつら、かつらの修繕方法及びかつらの装着方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0040】
<全体構成>
図1及び
図2において、本実施形態のかつら1は、主として、ネット状部材からなるかつらベース10に、人工毛又は人毛である毛髪11を結着し、表面側に引き出した構成となっている。かつらベース10の前部には、装着者の額の生え際に対応する人工皮膚12が配設してある。
【0041】
また、かつらベース10の裏面外周のうち、前部を除く両側部から後部に亘る範囲には、かつら止着部材20が取り付けてある。かつら止着部材20は、かつらベース10の外周縁の形状に対応する帯状の基部21と、この基部21上に間隔をおいて取り付けた複数の接着部22、22、22・・・とで構成されている。
【0042】
<かつらベース>
本実施形態のかつらベース10は、装着者の頭部に合わせた椀状のネット状部材で構成してある。ネット状部材の材料としては、成型性及び耐熱性等に優れたナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成樹脂が好ましい。但し、綿、麻、絹等の天然繊維からなるネット状部材を用いてもよい。
【0043】
かつらベース10を構成するネット状部材の色は、これに植設する毛髪11の色と近似した黒色、茶色又は白色などにするとよい。これにより、かつらベース10に結着した毛髪11の結び目が目立たなくなる効果がある。また、かつらベース10を構成するネット状部材のうち、少なくとも人工皮膚12に対応する箇所の色を肌色にしてもよい。
【0044】
<毛髪>
毛髪11は、人工毛又は人毛のいずれを用いてもよい。人工毛の素材としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル又は塩化ビニル系の合成繊維が用いられる。毛髪11の太さは、例えば、細い毛髪として約0.03又は0.04mm程度、太い毛髪として約0.05〜0.10mm程度のものが用いられる。また、毛髪11の強度の指標としては、例えば、かつらベース10に結着する前の直線状態のときの引っ張り強度で約0.80N以上、かつらベース10に結着した状態の引っ張り強度で約0.60N以上のものが好ましい。
【0045】
<人工皮膚>
人工皮膚12は、例えば、ポリウレタンやシリコーン等の合成樹脂からなる肌色のフィルム又はシート、若しくはナイロン、ポリエステル、アクリル等の合成繊維、綿、麻、絹等の天然繊維からなる目の細かい肌色の織布(メッシュ又はネットを含む)により構成してある。
【0046】
人工皮膚12は、その周縁部をかつらベース10に縫着してあり、毛髪11の生え際の部分で地肌のように見える役割を果たす。人工皮膚12に、合成樹脂製のフィルム又はシートを用いた場合は、人間の頭皮の質感をリアルに再現することができ、見た目がより自然となる。一方、合成繊維又は天然繊維の織布を用いた場合は、かつら1の通気性が良好となり、耐久性が向上する利点がある。
【0047】
<かつら止着部材>
本実施形態のかつら止着部材20は、独立したフィルム又はシート状の部材で構成された単一の基部21と、複数の接着部22、22、22・・・とからなっている。
【0048】
<<基部>>
上述のとおり、基部21は、かつらベース10の裏面外周のうち、前部を除く両側部から後部に亘る範囲の全部に対応する形状となっている。本実施形態の基部21は、その外周縁がかつらベース10の外周縁にほぼ一致しており、その内周縁がかつらベース10の外周縁を縮小した相似形となっている。
【0049】
基部21の形状は、かつらベース10の裏面外周のうち、少なくとも両側部から後部に亘る範囲の全部又は一部に対応する形状であれば、特に限定されないが、基部21の外周縁が、かつらベース10の外周縁から外側にはみ出さない形状が好ましい。基部21の内周縁の形状は、特に限定されるものではなく、かつらベース10の補強や接着部22の取付面積などを考慮して、種々の形状にデザインすることができる。
【0050】
基部21を構成するフィルム又はシート状の部材には、かつら1の固定手段としての耐久性と接着性、及び巻き返しや折り曲げを容易に行える程度の柔軟性を有するものであれば、合成又は天然のあらゆるフィルム又はシート状の材料を用いることが可能である。
【0051】
基部21を構成するフィルム又はシート状の部材として、例えば、かつらベース10に植設する毛髪11の色と近似した黒色、茶色又は白色などに着色されたフィルム又はシート状の材料を用いるとよい。この場合のフィルム又はシート状の材料には、例えば、合成繊維又は天然繊維からなる織布、合成樹脂フィルム、合成樹脂シートなどを適用できる。また、基部21を構成するフィルム又はシート状の部材は、外部からの光の反射が少ないものが好ましい。例えば、基部21は、透明樹脂フィルム層と、黒色、茶色又は白色などに着色されたネット状フィルム層との積層体で構成することができる。この場合、透明樹脂フィルム層の両面のうち、かつらベース10と対向する面に、ネット状フィルム層を積層する。この構成により、ネット状フィルム層の粗面によって、透明樹脂フィルム層の外部からの光の反射を抑えることができる。また、ネット状フィルム層が、透明樹脂フィルム層を補強する役割を果たし、基部21の耐久性を向上させることができる。
【0052】
<<接着部>>
上述のとおり、複数の接着部22、22、22・・・は、それぞれ基部21と独立したフィルム又はシート状の部材で構成してある。本実施形態では、複数の接着部22、22、22・・・を、基部21上にほぼ等間隔をおいて取り付けてあるが、これに限定されるものではない。例えば、本実施形態のかつら1が、不特定多数の顧客を対象とした既製品である場合は、
図1及び
図2に示すように、基部21の全周に亘って、なるべく数多くの接着部22をほぼ等間隔に取り付けた構成にするとよい。このような構成とした場合は、いずれかの接着部22を選択的に使用することで、不特定多数の顧客の自毛の状態に適合することが可能となる。一方、本実施形態のかつら1が、特定の顧客を対象としたオーダーメイド製品である場合は、特定の顧客の自毛の状態に適合する位置に接着部22を取り付ければよい。このような構成とした場合は、固定に用いる自毛の変更を予想して、予備の接着部22を基部21に取り付けておくことが好ましい。
【0053】
次に、本実施形態の接着部22の構成について、
図3(a)、(b)を参照しつつ詳述する。これら図面において、本実施形態の接着部22は、透明樹脂フィルム層22aにネット状フィルム層22bを積層した二層構造としてある。ネット状フィルム層22bは、透明樹脂フィルム層22aのうち、基部21と対向する面の反対側の面に積層してある。接着部22のネット状フィルム層22bを積層した面は、装着者の自毛の束の接着に供される。
【0054】
図3(a)に示すように、接着部22の中央には、折り目22cが形成してある。接着部22は、折り目22cを境にして、図中の下半分が基部21に取り付けられ、図中の上半分が基部21からかつらベース10の内側に向かって突出する状態となる(
図1及び
図2を参照)。接着部22の図中における折り目22cの上方には、自毛引出部23が形成してある。本実施形態の自毛引出部23は、直線状のスリット23aの両端に円孔23b、23bを連成した構成となっている。このような構成の接着部22は、装着者の自毛の束を自毛引出部23から引き出し、この状態で、折り目22cを境にして、図中の上半分を下半分の方向(基部21の方向)に折り曲げ、ネット状フィルム層22bを積層した面どうしを接着する。
【0055】
ここで、本実施形態の接着部22の形状及び寸法について、
図3(a)を参照しつつ説明する。但し、以下に説明する形状及び寸法は一例にすぎず、本願発明における接着部は、以下に説明する形状及び寸法に限定されるものではない。
【0056】
本実施形態の接着部22の全体は、図中の縦H1が20mm、横H2が25mmの略長方形状となっている。接着部22の図中の上下二辺は、弧状の曲線となって上下方向に膨らんでいる。
【0057】
折り目22cは、接着部22の縦H1の中心である10mmのところに位置している。接着部22は、折り目22cを境にして上下対称の輪郭を有する。折り目22cを境にして接着部22を二つ折りにすると、接着部22の上半分と下半分とは、互いの輪郭が一致した状態で重なり合う。縦H1の半分は、直線部分H3と曲線部分H4とが連続する。直線部分H3は8mm、曲線部分H4は2mmとなっている。接着部22を基部21に取り付けたとき、接着部22の下半分の曲線部分H4は、基部21及びかつらベース10の外周縁を越えて、外側に2mmだけ突出する(
図1及び
図2を参照)。このような構成により、小さな接着部22の接着面積が少しでも広くなるようにしている。また、接着部22の曲線部分H4を、かつらベース10の外周縁の外側に少しだけ突出させることにより、かつら1を装着者の頭部から取り外すときに、二つ折りに接着した接着部22を指で開かせやすくなる。
【0058】
自毛引出部23は、接着部22の上半分における折り目22cから2〜3mm離れた位置H5に形成してある。自毛引出部23の形成位置H5が折り目22cに近いほど、二つ折りに接着した接着部22に挟み込まれる自毛の束が長くなり、自毛固定力が向上する。自毛引出部23は、折り目22c上(H5=0mm)に形成してもよい。自毛引出部23を構成する直線状のスリット23aの長さH6は7mmとしてあり、その両端には、それぞれ円孔23b、23bが連成されている。
【0059】
<かつらの製造方法>
本実施形態のかつら1が、不特定多数の顧客を対象とした既製品である場合は、予め定められた形状及び寸法の基部21、接着部22を量産する。次いで、かつらベース10の裏面外周のうち、前部を除く両側部から後部に亘る範囲に取り付ける。その後、基部21上に複数の接着部22、22、22・・・をほぼ等間隔に取り付ける。
【0060】
上述した手順の他に、まず、基部21上に複数の接着部22、22、22・・・を取り付けて、
図1に示すかつら止着部材20を完成させる。その後、かつら止着部材20の基部21を、かつらベース10の裏面外周のうち、前部を除く両側部から後部に亘る範囲に取り付けてもよい。
【0061】
本実施形態のかつら1が、特定の顧客を対象としたオーダーメイド製品である場合は、基部21に接着部22を取り付ける前に、特定の顧客の自毛の状態を診断し、かつら1の固定に利用可能な自毛が生えている位置、すなわち、自毛の状態に適合する位置を特定する。その後、基部21上の自毛の状態に適合する位置に接着部22を取り付ける。このとき、固定に用いる自毛の変更を予想して、予備の接着部22を基部21に取り付けてもよい。
【0062】
基部21及び接着部22を取り付ける手段としては、例えば、縫い糸による縫着、又は接着剤による接着を適用することができるが、比較的に細く丈夫な糸による縫着が好ましい。基部21及び接着部22を縫着する糸を解くことで、基部21やかつらベース10の外周を傷めずに、既存の接着部22を新しい接着部22に交換できるからである。
【0063】
<かつらの修繕方法>
かつら1が、特定の顧客の所有物であり、図示しない従来のかつら止着部材を備えたものである場合は、既存のかつら止着部材を取り外す作業を行う。そして、かつらベース10の外周縁の輪郭をフィルム又はシート状の部材にトレースし、このかつらベース10の裏面外周に適合する形状の基部21を製造する。接着部22は、
図3に示す構成のものを予め量産して使用するが、接着部22の形状や大きさが、かつらベース10の裏面外周に適合しない場合は、フィルム又はシート状の部材を裁断して、かつらベース10の裏面外周に適合する形状、大きさの他の接着部を製造する。
【0064】
次いで、特定の顧客の自毛の状態を診断し、かつら1の固定に利用可能な自毛が生えている位置、すなわち、自毛の状態に適合する位置を特定する。その後、基部21上の自毛の状態に適合する位置に接着部22を取り付ける。このとき、固定に用いる自毛の変更を予想して、予備の接着部22を基部21に取り付けてもよい。
【0065】
上述したかつらの製造方法と同様に、基部21をかつらベース10の裏面外周に取り付けた後に、基部21上の自毛の状態に適合する位置に接着部22を取り付けてもよい。その他の手順として、基部21上の自毛の状態に適合する位置に接着部22を取り付けて、かつら止着部材20を完成させた後に、このかつら止着部材20の基部21をかつらベース10の裏面外周に取り付けてもよい。基部21及び接着部22を取り付ける手段としては、例えば、縫い糸による縫着、又は接着剤による接着を適用することができるが、比較的に細く丈夫な糸による縫着が好ましい。
【0066】
<かつらの装着方法>
次に、本実施形態のかつらの装着方法について、
図4〜
図7を参照しつつ説明する。なお、図面を分かりやすくするために、
図1及び
図2に示したかつら1の毛髪11の図示は省略する。
【0067】
まず、
図4(a)に示すように、本実施形態のかつら1を装着者の頭部に載置する。次いで、
図4(b)に示すように、かつらベース10の接着部22、22、22・・・に対応する箇所を順番に捲って、当該箇所の接着部22を外部に露出させる。
【0068】
次いで、
図5に示すように、先端が鉤状に曲がったスティックSを、接着部22に形成した自毛引出部23に挿通し、
図6に示すように、装着者の自毛100の束を自毛引出部23から引き出す。
【0069】
ここで、
図5に示す状態において、自毛引出部23から引き出す自毛100は、かつらベース10を捲っていない状態(
図4を参照)にしたときに、自毛引出部23の近傍に生えている自毛100を選択する。すなわち、自毛引出部23から自毛100を引き出したときに、当該自毛100の根本101(
図5の点線で囲った部分を参照)が、自毛引出部23の近傍に位置するように止着すると、かつら1を安定して固定することができる。固定に最適な位置の自毛100の選択は、接着部22の折り目22cの位置を基準にして行えばよい。つまり、接着部22の折り目22cと対応する位置に生えている自毛100を選択して、自毛引出部23から引き出せばよい。このように、本実施形態のかつら止着部材20によれば、折り目22cの位置を基準にして、固定に最適な位置の自毛100を容易に選択することができる。
【0070】
なお、
図6に示す状態において、自毛引出部23から引き出す自毛100の量が多すぎると、頭皮に過負荷が掛かる。逆に、自毛引出部23から引き出す自毛100の量が少なすぎると、かつら1を安定して固定できなくなる。このような観点から、自毛100の適度な引き出し量を決定する。
【0071】
次いで、
図7に示すように、自毛引出部23から適量の自毛100の束を引き出した後は、この状態を維持しつつ、接着部22の自由端側である半分(自毛引出部23を形成した半分)を、折り目22cに従って、基部21の方向に二つ折りにして接着する。この接着は、例えば、接着剤又は両面テープのいずれによるものでもよい。接着剤と両面テープを併用してもかまわない。
【0072】
ここで、自毛100の束の固定に用いる接着剤としては、従来から用いられているラテックス系、シリコーン系、エポキシ系又はポリウレタン系等の毛髪用接着剤を適用することが可能であるが、自毛100を痛めない無溶剤系、水系の接着剤を用いることが好ましい。
【0073】
以上のような手順を繰り返し、本実施形態のかつら1に設けた所定の接着部22、22、22・・・を自毛100に固定することで、本かつら1の頭部への装着は完了する。なお、装着者の自毛の状態(例えば、健康状態の良好な自毛が豊富に生えている場合など)によっては、
図1及び
図2に示す全ての接着部22、22、22・・・を自毛100に固定してもよい。
【0074】
<自毛引出部の変更例>
本発明のかつら止着部材20を構成する自毛引出部は、
図3(a)に示す構成に限定されるものではない。自毛引出部の変更例を、
図8(a)〜(h)に例示する。
【0075】
図8(a)に示すように、自毛引出部23Aは、
図3(a)に示す円孔23bを省略して一本の直線状のスリットにしてもよい。また、直線状に限らず、例えば、
図8(b)に示すような鋸刃状の自毛引出部23B、又は
図8(c)に示すような山形状の自毛引出部23Cやこれを上下逆にした谷形状としてもよい。
【0076】
自毛引出部の本数は、一本に限定されるものではない。例えば、
図8(d)に示すような二本の直線状の自毛引出部23Dを平行に配置した構成、
図8(e)に示すような二本の鋸刃状の自毛引出部23Eを平行に配置した構成、又は
図8(f)に示すような二本の山形状の自毛引出部23Fを平行に配置した構成とすることができる。
【0077】
さらに、自毛引出部は、線状のものに限定されない。例えば、
図8(g)に示すような複数の円孔を横一列に配置した構成の自毛引出部23G、又は
図8(h)に示すような複数の円孔を横二列以上に配置した構成の自毛引出部23Hとすることも可能である。
【0078】
2.第2実施形態
本発明の第2実施形態に係るかつら止着部材を、
図9(a)、(b)に示す。
図9(a)において、本実施形態のかつら止着部材30は、基部31と、複数の接着部32、32、32・・・とを、連続するフィルム又はシート状の部材で一体的に構成してある。
【0079】
図9(b)に示すように、かつら止着部材30の全体は、透明樹脂フィルム層30aの上にネット状フィルム層30bを積層した二層構造となっている。基部31と、複数の接着部32、32、32・・・との間には、
図9(a)中の点線で示す折り目32cが形成してある。
【0080】
図9(a)に示すように、接着部32を除く、折り目32cを含む基部31の形状は、
図1及び
図2に示すかつらベース10の外周縁の輪郭に対応している。このような基部31は、
図9(b)に示す透明樹脂フィルム層30aを、かつらベース10の裏面外周に対向させた状態で取り付ける。基部31をかつらベース10の裏面外周に取り付けると、複数の接着部32、32、32・・・が、基部31よりもかつらベース10の内側に向かって突出する。
【0081】
上述した第1実施形態と同様に、複数の接着部32、32、32・・・には、それぞれ自毛引出部33、33、33・・・が形成してある。装着者の頭部にかつらを装着する場合は、自毛の束を自毛引出部33から引き出し、この状態を維持しつつ、接着部32を、折り目32cに従って、基部31の方向に折り曲げて接着する。固定される自毛の束は、基部31と接着部32とを構成するネット状フィルム層30b、30bの間に挟まれる。
【0082】
3.第3実施形態
上述した第1及び第2実施形態に係るかつら止着部材20、30の基部21、31は、
図1及び
図2に示すかつらベース10の裏面外周のうち、両側部から後部に亘る範囲の全部に対応する形状を有しているが、この構成に限定されるものではない。
【0083】
本発明の第3実施形態に係るかつら止着部材を、
図10に示す。本実施形態に係るかつら止着部材40、50は、
図1及び
図2に示すかつらベース10の裏面外周のうち、両側部から後部に亘る範囲の一部に対応する形状を有する基部41、51を備えている。
【0084】
図10において、かつら止着部材40は、かつらベース10の裏面外周のうち、側部の一部に対応する形状の基部41を備える。この基部41には、単一の接着部42が一体的に連成してある。この接着部42には、
図3(a)に示すものと同じ構成の自毛引出部43が形成してある。
【0085】
一方、かつら止着部材50は、かつらベース10の裏面外周のうち、側部の全部に対応する形状の基部51を備える。この基部51には、三つの接着部52、52、52が一体的に形成してある。これら接着部52、52、52には、
図3(a)に示すものと同じ構成の自毛引出部53、53、53がそれぞれ形成してある。
【0086】
ここで、かつらベース10の裏面外周のうちの一部、例えば、後部には、従来の短期装着型のかつらに用いられている反転式のストッパー(ヘアピン)60、60を取り付けてもよい。かつらベース10の裏面外周のうちの一部に、装着者自身によって着脱可能な止着部材(ストッパー60に限らない)を取り付けることにより、装着者自身が、かつらベース10の一部を捲って、頭部を換気したり、頭部を掻いたりするといったセルフメンテナンスを行うことができる。
【0087】
4.その他の変更
本発明のかつら止着部材、かつら、かつらの修繕方法及びかつらの装着方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した第1〜第3実施形態では、装着者の頭部の前部、両側部及び後部を覆う全体かつら(
図1及び
図2のかつら1を参照)を例示して説明したが、本発明のかつら止着部材は、全体かつらに限らず、例えば、頭部のつむじ付近を覆う部分かつらに適用することも可能である。装着者の頭部のうちの前部を覆わないかつら、すなわち、かつらベースの生え際に対応する位置に人工皮膚(
図1及び
図2の人工皮膚21を参照)を有しないかつらの場合は、かつらベースの裏面外周のうちの前部に、本発明のかつら止着部材を設けてもよい。かつらベースの前部に人工皮膚を有しない場合は、かつら止着部材を設けても、前部の外観を損なうことがないからである。
【0088】
5.作用効果
上述した第1〜第3実施形態に係るかつら止着部材20、30、40、50は、種々のかつらベースの裏面外周の形状に応じて基部21、31、41、51を作成し、個々の顧客の自毛の状態に応じた所定の位置に接着部22、32、42、52及び自毛引出部23、33、43、53を形成することで、極めて容易かつ短時間で製造することができる。つまり、個々の顧客のかつらの構成、自毛の状態に適合したかつら止着部材20、30、40、50を容易かつ迅速に製造することが可能である。
【0089】
また、本実施形態のかつら止着部材20、30、40、50における複数の接着部22、32、52は、個々に基部21、31、51の所定位置に形成されるので、一の接着部22、32、52の位置に誤差が生じても、他の接着部22、32、52の位置に悪影響を与えることがない。さらに、本実施形態のかつら止着部材20、30、50においては、基部21、31、51における接着部22、32、52の形成位置が、基部21、31、51の固定位置に影響を受けないので、かつらベースの裏面外周に対する基部21、31、51の固定に精度が要求されない。この結果、基部21、31、51又は接着部22、32、52を含むかつら止着部材20、30、50全体を、かつらベースの裏面外周に極めて容易かつ短時間で取り付けることが可能である。
【0090】
これに加え、本実施形態のかつら止着部材20、30、40、50は、装着者の自毛の束を自毛引出部23、33、43、53から引き出した状態で、接着部22、32、42、52を基部21、31、41、51の方向に折り曲げて接着する構成となっているので、上述した本出願人の特許文献9のかつらと同等以上の装着感が得られる。
【0091】
上述した第1実施形態に係るかつら止着部材20によれば、基部21と接着部22とを、独立したフィルム又はシート状の部材で構成してあるので、接着部22及び自毛引出部23を、個々の顧客の自毛の状態に適合した位置に容易に形成することが可能となる。すなわち、自毛引出部23を形成した所定形状の接着部22を予め量産しておく。種々のかつらベースの裏面外周の形状に応じて基部21を作成する。この基部21上に、個々の顧客の自毛の状態に適合した複数の位置を特定し、これら位置に、予め量産しておいた接着部22を取り付ければよい。
【0092】
上述した第2実施形態に係るかつら止着部材30によれば、基部31と接着部32とを、連続するフィルム又はシート状の部材で構成してあるので、基部31及び接着部32を含むかつら止着部材30全体を、かつらベースの裏面外周に極めて容易かつ短時間で取り付けることが可能である。
【0093】
上述した第1〜第3実施形態に係るかつら止着部材20、30、40、50は、基部21、31、41、51と接着部22、32、42、52とを構成する面のうち、少なくとも接着に供される面を、ネット状フィルム層20b、30bによって粗面にした構成としてある。このような構成によれば、折り曲げた接着部22どうしの間(第1実施形態)、又は折り曲げた接着部32、42、52と基部31、41、51との間(第2〜第3実施形態)に、より多くの接着剤を滞留させることができるとともに、間に挟まれた自毛の束を保持する摩擦力を増大させることが可能となる。この結果、かつら止着部材20、30、40、50の自毛固定力を向上させることができる。
【0094】
上述した第1〜第3実施形態に係るかつら止着部材20、30、40、50は、自毛引出部23、33、43、53が、一又は複数のスリットからなる構成としてある。このような構成によれば、一又は複数のスリットから装着者の自毛の束を引き出すことで、スリット自体が自毛の束を捕捉してかつらの固定に寄与する効果がある。特に、
図8(d)〜(f)に示すように、自毛の束を複数のスリットに順番に通過させることで、自毛の束と接着部22とを結合させることが可能となる。
【0095】
ここで、自毛引出部23、33、43、53としてのスリットの形状は、特に限定されるものではない。例えば、
図8(a)、(d)に示すような直線状のスリットは、自動又は手動により精度よく簡単に形成することができる。また、
図8(b)、(c)、(e)、(f)に示すような非直線状のスリットは、同じ幅の直線状のスリットと比較して、線長を長くすることができ、直線よりも自毛の束を保持しやすい形状とすることも可能である。
【0096】
また、
図3(a)に示すように、自毛引出部23が、スリット23aの両端に円孔23b、23bを連成した構成にした場合は、自毛引出部23としてのスリット23aの強度を向上させることができる。すなわち、フィルム又はシート状の部材に形成したスリット23aは、装着者の自毛の束を通過させたときに両端に負担が掛かり、両端が裂けやすい。そこで、スリット23aの両端に円孔を連成することで、自毛の束を通過させたときにスリット23aの両端に掛かる負担を各円孔により分散させることが可能となる。
【0097】
上述した本実施形態のかつらによれば、上述した第1〜第3実施形態に係るかつら止着部材20、30、40、50のいずれかを、かつらベースの裏面外周に取り付けることにより、個々の顧客の自毛の状態に適合したかつらを容易かつ迅速に製造することが可能である。また、上述した第1〜第3実施形態に係るかつら止着部材20、30、40、50は、いずれも装着者の自毛の束を自毛引出部23、33、43、53から引き出した状態で、接着部22、32、42、52を基部21、31、41、51の方向に折り曲げて接着する構成となっている。この結果、本実施形態のかつらは、上述した本出願人の特許文献9のかつらと同等以上の装着感が得られる。
【0098】
上述した本実施形態のかつらの修繕方法によれば、上述した第1〜第3実施形態に係るかつら止着部材20、30、40、50のいずれかを、容易かつ迅速に製造し、かつらベースの裏面外周に極めて容易かつ短時間で取り付けることができる。この結果、例えば、来店された顧客のかつらをその場で修繕して返却するサービスにおいて、既存のかつら止着部材を、上述した第1〜第3実施形態に係るかつら止着部材20、30、40、50に付け替えることが現実的になる。既存のかつら止着部材を除去する手間と時間は、既存のかつら止着部材の構成に依存するが、本発明のかつらの修繕方法によれば、付け替えに要する総合的な手間と時間を確実に削減することが可能である。これにより、従来のかつら止着部材を新規なかつら止着部材20、30、40、50に付け替えたいというユーザのニーズに応えることができる。
【0099】
上述した本実施形態のかつらの装着方法によれば、かつらを装着者の頭部に載置した後、接着部22、32、42、52の数に応じて、装着者の自毛の束を自毛引出部23、33、43、53から引き出す工程、接着部22、32、42、52を基部21、31、41、51の方向に折り曲げて接着する工程を数回繰り返すだけで、かつらの止着が完了する。この結果、例えば、来店された顧客のかつらをその場で修繕して返却するサービスにおいて、かつら止着部材20、30、40、50の付け替え後に行われる、かつらの装着に要する手間と時間をも削減することが可能となる。