特許第6486053号(P6486053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6486053
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】電子回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/12 20060101AFI20190311BHJP
   B41M 1/04 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   H05K3/12 630Z
   B41M1/04ZNM
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-204612(P2014-204612)
(22)【出願日】2014年10月3日
(65)【公開番号】特開2016-76538(P2016-76538A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年9月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2014年(平成26年)4月16日〜18日に、東京ビッグサイトにて開催された、リードエグジビションジャパン株式会社主催の「第24回ファインテックジャパン」展示会の展示ブース(No.8−46)において、試作品の展示を行った。
(73)【特許権者】
【識別番号】594101226
【氏名又は名称】株式会社コムラテック
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】金原 正幸
(72)【発明者】
【氏名】浦野 雅明
【審査官】 鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/051066(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/048876(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/172939(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/165081(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/12
H05K 1/09
H01B 5/00
H01B 13/00
B41M 1/04
C09D 1/00
C09D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上に、金属粒子を含有するナノインク組成物からなる所定パターンの電子回路を固定化する電子回路基板の製造方法であって、上記基材として、表面の吸水性を高める処理がなされているものを準備する工程と、表面に所定のパターンのインク保持部が形成されたフレキソ印刷版に、金属粒子を含有するナノインク組成物を保持させる工程と、このフレキソ印刷版に、上記基材の表面を密着させ、上記インク保持部に保持されたナノインク組成物を基材上に転写する工程と、この転写後に、上記転写されたナノインク組成物を大気中40℃以下の環境で乾燥させて固定化させ、所定のパターンの電子回路を形成する工程と、を備え、上記基材の表面が水の滴下直後の接触角が30°以下となるよう設定され、上記ナノインク組成物を基材上に転写する工程が複数設けられており、上記固定化されたナノインク組成物を焼成する工程は経由しないことを特徴とする電子回路基板の製造方法。
【請求項2】
上記基材が紙または樹脂製フィルムであることを特徴とする請求項1記載の電子回路基板の製造方法。
【請求項3】
上記基材の表面の吸水性を高める処理が、プラズマ処理、コロナ放電処理、軟X線照射、または紫外線照射であることを特徴とする請求項2記載の電子回路基板の製造方法。
【請求項4】
上記ナノインク組成物中における金属粒子の含有量が0.1〜20wt%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子回路基板の製造方法。
【請求項5】
上記ナノインク組成物中の金属粒子がナノメーターサイズの銀粒子であることを特徴とする請求項4記載の電子回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性インクを用いて常温下で基板上に電子回路を形成する電子回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
印刷技術を用いて電子素子や電子回路等を形成するプリンテッド・エレクトロニクスは、インク状にした機能性材料(金属や半導体材料等)を、基材(基板)の表面にパターン状に塗布(印刷または転写)することによって行われる。この方法は、真空装置等の大規模で高価な製造装置を必要としないため、低コストで大面積の素子や素子基板を形成可能な技術として、近年、注目を集めている。しかしながら、従来のプリンテッド・エレクトロニクスは、その機能性材料(導電性材料)の焼成に、100〜200℃以上に達する加熱プロセスを経由するため、低融点の基板、なかでも樹脂フィルムのような、加熱により伸縮する基材を、基板として使用することができないという欠点があった。
【0003】
これに対して、本発明者らは、塗布後に焼成する必要のない導電性インク(ナノインク組成物)を開発し、既に出願している(特許文献1を参照)。このナノインク組成物は、金属ナノ粒子の配位子として、特定の「導電性を有する芳香族性の分子」を使用したものであり、上記ナノインク組成物を用いることにより、すべての塗布(印刷,転写)プロセスを大気下・室温で行い、昇温させることなく、電子素子や電子回路等を形成することができる。また、樹脂フィルム等のフレキシブルな基板上に、電子回路等を印刷する場合でも、加熱(焼成)プロセスを経由する必要のない上記ナノインク組成物を使用すれば、製造工程のすべてを室温下で行うことによって、熱による基材等の変形を抑制し、微細な回路を高精度に印刷(転写)することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2011/114713号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現状、上記ナノインク組成物を用いて、フレキシブルな基板上に、微細な電子回路を高精度に再現性良く量産する塗布方法としては、インクジェット方式による印刷法しか確立されておらず、この印刷方法も、必ずしも効率の良いものではないため、上記ナノインク組成物を用いた生産効率の高いインク塗布方法の開発が求められている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、常温常圧下で、均一なナノインク組成物層を素早く効率的に塗布することのできる電子回路基板の製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、基材の上に、金属粒子を含有するナノインク組成物からなる所定パターンの電子回路を固定化する電子回路基板の製造方法であって、上記基材として、表面の吸水性を高める処理がなされているものを準備する工程と、表面に所定のパターンのインク保持部が形成された印刷版に、金属粒子を含有するナノインク組成物を保持させる工程と、この印刷版に、上記基材の表面を密着させ、上記インク保持部に保持されたナノインク組成物を基材上に転写する工程と、この転写後に、上記転写されたナノインク組成物を大気中40℃以下の環境で乾燥させて固定化させ、所定のパターンの電子回路を形成する工程と、を備える電子回路基板の製造方法を要とする。
【0008】
すなわち、本発明者らは、前記真空装置等の大がかりな装置を必要とする方法に代えて、インクジェット法以外の手軽な方法で上記課題を解決することができないかと思考を重ね、版を用いた転写印刷によりそれを実現できないかと着想した。そして、印刷版や、被印刷体である基材の特性について試行錯誤を繰り返し、その結果、版の表面にパターニングされたインク保持部を有する印刷版に、水系のナノインク組成物を保持させ、これらの版をフレキシブルな基材の表面に当接させて、このナノインク組成物を転写することにより、上記基材上に、比較的厚みのあるナノインク組成物層を、所定パターンどおりムラなく効率的に塗布できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
なお、上記「版の表面にパターニングされたインク保持部を有する印刷版」とは、凸版,凹版もしくは平版のどれでもよく、「ナノインク組成物を転写」できる印刷方法としては、スクリーン印刷に代表される孔版印刷を除く、活版印刷,フレキソ印刷等の凸版印刷、グラビア印刷等の凹版印刷、オフセット印刷,グラビアオフセット印刷等の平版印刷のいずれも使用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電子回路基板の製造方法は、ナノインク組成物を印刷版に保持させる工程と、印刷版に保持されたナノインク組成物を基材に転写する工程と、上記転写されたナノインク組成物を大気中40℃以下の環境で乾燥させて固定化する工程と、を備えている。これにより、「熱に弱い」フレキシブルな基材を用いた場合でも、この基材に伸縮をもたらすような過大な熱(熱履歴)を与えることなく、その表面に、上記ナノインク組成物からなる均一な層を、所要のパターンどおり正確にかつ効率的に安定して形成することができる。
【0011】
なお、本発明の電子回路基板の製造方法は、上記所要のパターンのナノインク組成物を一度転写する場合のみならず、基材上の同じ領域に、複数回に分けて(何度か繰り返して)積層する場合を包含する。また、その場合、転写一度ごとに乾燥(固定化)を行うか、それとも複数回の転写分のナノインク組成物をまとめて乾燥(固定化)させるかは、転写後の基材の表面状態に応じて適宜決定される。
【0012】
また、本発明の電子回路基板の製造方法のなかでも、上記基材として紙または樹脂製フィルムを用いる場合は、これら「熱による伸縮が大きく」他の製造方法では取り扱いが難しい基材に対しても、ナノインク組成物からなる均一な電子回路(層)を、所要のパターンどおり正確に形成することができる。
【0013】
さらに、本発明の電子回路基板の製造方法のなかでも、上記基材の表面における水の接触角が30°以下である場合には、上記転写されたナノインク組成物の吸収および乾燥(固定化)が早くなるため、上記所要のパターンを、より正確かつ精密に形成することができる。
【0014】
さらにまた、本発明の電子回路基板の製造方法のなかでも、上記ナノインク組成物中における金属粒子の含有量が0.1〜20wt%である場合には、均一かつ表面が平滑で、充分な厚みを有する電子回路(層)を形成することができる。なお、上記ナノインク組成物中における金属粒子の含有量が0.1wt%未満の場合、あるいは逆に、ナノインク組成物中における金属粒子の含有量が20wt%を超える場合は、電子回路(層)の表面が荒れて、均一で平滑なナノインク組成物層を形成できないおそれがある。
【0015】
また、本発明の電子回路基板の製造方法のなかでも、特に、上記ナノインク組成物中の金属粒子がナノメーターサイズの銀粒子(いわゆる「ナノ銀」)である場合には、インク状態での長期の貯蔵安定性に優れるため、品質の整った電子回路を、低コストで再現性良く(歩留り良く)製造することができる。
【0016】
さらに、本発明の電子回路基板の製造方法のなかでも、上記印刷版がフレキソ印刷版である場合は、印刷版上に保持できるインク量(1回あたりのインク転写量)が多いため、少ない転写(印刷)回数で、充分な厚みの電子回路を効率良く製造することができる。
【0017】
そして、上記電子回路基板の製造方法により得られた電子回路基板は、フレキシブルな基材に伸縮をもたらす加熱焼成工程を経ることなく、その表面上に、実用的に充分な厚みと導通性を有する電子回路が、所要のパターンどおり正確に形成されている。また、上記電子回路基板は、その製造に、前記真空装置や加熱焼成のためのオーブン等の大掛かりな装置を必要としないため、少ない初期投資と低ランニングコストで作製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態の電子回路基板の製造方法に用いられるフレキソ印刷機の概略構成図であり、インクの転写開始前の状態を示す図である。
図2】本発明の実施形態において、フレキソ印刷機のフレキソ印刷版にインクを保持させた状態を示す図である。
図3】本発明の実施形態において、フレキソ印刷版から被印刷物(ワークW)にインクを転写した状態を示す図である。
図4】本発明の実施形態において、被印刷物(ワークW)へのインクの転写を複数回繰り返した状態示す図である。
図5】(a)は、本発明の実施形態の電子回路基板の製造方法に用いられるフレキソ印刷版のインク保持部の拡大平面図であり、(b)は(a)のX−X'断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面にもとづいて詳しく説明する。なお、各図における印刷版やインク(層)は、その厚みを強調して描いている。
【0020】
まず、本実施形態の電子回路基板の製造方法で用いられるフレキソ印刷機について簡単に説明する。図1は、この実施形態で用いられるフレキソ印刷機の概略構成図であり、図中の符号1は版胴、2はアニロックスロール、3はスキージ、4はインクタンク、Sは被印刷物(ワークW)を載せるための移動ステージであり、上記版胴1の外周(周面)には、インク保持部(11a)を有するフレキソ印刷版(以下「印刷」と略す)11が取り付けられている(図2図4も同じ)。
【0021】
なお、後記でも説明するが、上記アニロックスロール2と版胴1とは、インクの保持時に同期回転するようになっている。また、移動ステージSは、インクの転写時に、上記版胴1の回転に同期して移動(スライド)するようになっている。
【0022】
そして、上記フレキソ印刷機を用いた本実施形態の電子回路基板の製造方法は、図1図4に示すように、ナノインク組成物(図中の黒塗り「ink」)からなる電子回路を、フレキシブルなフィルム状基板(被印刷物であるワークW)の一面に形成するものであり、(A)金属粒子を含有するナノインク組成物inkを、その表面に所定のパターンのインク保持部(頂面に微少な凹部11bを有する凸部11a)が形成された印刷版11に保持させる工程〔図1図2〕と、(B)この印刷版11に、上記ワークWの表面を密着させ、上記インク保持部(11a)に保持されたナノインク組成物inkをワークW上に転写する工程〔図2図3〕と、(C)この転写後に、上記転写されたナノインク組成物inkを大気中40℃以下の環境で乾燥させて固定化させ、所定のパターンの電子回路を得る工程〔図示せず〕と、を備える。
【0023】
より詳しく説明すると、まず、印刷(転写)前の準備工程として、表面(上面)に所定パターン(図5参照)のインク保持部(凸部11a)が形成された印刷版11を、図1に示すように、版胴1の外周面の所定位置に巻き付けて固定するとともに、スキージ3を備えたアニロックスロール2に対応して設けられたインクタンク4に、所定のナノインク組成物(ナノ銀コロイダルインク,商品名:ドライキュア,コロイダル・インク社製)を充填する。そして、上記移動ステージS上の所定位置に、表面(被印刷面)に予め吸湿(吸水)性を高める表面処理が施された、紙製もしくは樹脂製等のフィルム状基材(ワークW)を載置して準備する。
【0024】
なお、上記ナノ銀コロイダルインクは貯蔵安定性に優れるため、インクタンク4中に常時貯蔵しておいてもよい。また、上記ナノ銀コロイダルインクの印刷版11上での不用意な乾燥を未然に防ぐために、版胴1の周囲を含むフレキソ印刷機の周囲を、加湿器やエアコン等を用いて、製造開始前に60%RH以上の加湿雰囲気に調整しておくことが望ましい。
【0025】
つぎに、(A)ナノインク組成物inkを印刷版11に保持させる工程について説明する。上記(A)工程は、まず、図1に示すように、アニロックスロール2を回転させた状態で、インクタンク4から上記ナノ銀コロイダルインクを所定量(所定時間間隔で)供給し、スキージ3を用いて、このアニロックスロール2の外周面に、所定膜厚のナノ銀コロイダルインクの膜(液状)を形成する。そして、その状態で、版胴1を同期回転させて印刷版11をインクに接触させ、図2に示すように、印刷版11のインク保持部(頂面に微少な凹部11bを有する凸部11a)に、ナノ銀コロイダルインクを保持させる。
【0026】
続いて、(B)ナノインク組成物inkをワークW上に転写する工程について説明する。上記(B)工程は、上記の印刷版11を版胴1とともに回転させつつ、被印刷物であるワークWを移動ステージSとともに同期してスライド移動させ、上記インクを保持した印刷版11をワークWの表面(被印刷面)にキスタッチさせて、図3に示すように、凸部11a頂面の凹部11b内に保持されたナノ銀コロイダルインクを、このワークWの表面に所定パターン状に転写する。
【0027】
つぎに、(C)転写されたナノインク組成物inkを大気中40℃以下の環境で乾燥させて固定化する工程について説明する。上記(C)工程は、上記のように表面にナノ銀コロイダルインクが転写されたワークWを、上記移動ステージSに載置したままで、もしくは、他の平坦な場所に移動させた状態で、上記ナノインク組成物inkの乾燥(固定化または被膜化)を待機し、その乾燥が確認できれば、前記電子回路基板(電子回路付きのワークW)を得ることができる。
【0028】
なお、上記乾燥は、その送風等の温度が40℃を超えない範囲であれば、送風機や温風乾燥機等を用いて、乾燥時間の短縮を図ることもできる。また、同様に、ワークWの温度が40℃を超えない範囲であれば、赤外ランプ,温熱灯や太陽光等の熱線、超音波,高周波電流等の高周波加熱など、間接的な照射加熱法を利用してもよい。
【0029】
さらに、乾燥後も上記ナノ銀コロイダルインクからなる被膜の膜厚が当初の設定膜厚に届かない場合は、同じ加工条件、同じ設定(機械設定)で転写を繰り返すことにより、図4に示すように、上記ナノ銀コロイダルインクからなる被膜を、同じ位置に同じパターンで積層してもよい(図では膜厚をさらに強調している)。なお、前記乾燥工程(固定化)を一度の転写ごとに行うか、それとも、複数回転写した分のナノインク組成物の乾燥(固定化)をまとめて一度で行うかは、転写後の基材の表面状態(乾燥や荒れ等)に応じて適宜変更することができる。
【0030】
上記電子回路基板の製造方法によれば、前記被印刷物(ワークW)として紙製もしくは樹脂製等の「熱に弱い」フレキシブルな基材を用いた場合でも、この基材に伸縮をもたらすような過大な熱(熱履歴)を与えることなく、その表面に、上記ナノインク組成物(ナノ銀コロイダルインク)からなる均一な層を、所要のパターンどおり正確にかつ効率的に安定して形成することができる。
【0031】
なお、本発明の電子回路基板の製造方法で用いるナノインク組成物とは、金属ナノ粒子(ナノメーターサイズの金属粒子)と、有機π共役系配位子と、溶媒とを含むものであって、上記金属ナノ粒子に上記有機π共役系配位子がπ接合し、強いπ接合と粒子間の接近により導電性を有することを特徴とするインク組成物である。
【0032】
上記金属ナノ粒子に用いられる金属としては、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、ルテニウム、インジウム、ロジウムのいずれか一つ、またはいずれか二つ以上金属が混合して用いられる。上記金属ナノ粒子のナノインク組成物中における含有量としては、好ましくは0.1〜20wt%、より好ましくは0.5〜10wt%である。上記ナノインク組成物中における金属ナノ粒子の含有量が0.1wt%未満の場合、あるいは逆に、ナノインク組成物中における金属ナノ粒子の含有量が20wt%を超える場合は、電子回路(層)の表面が荒れて、均一で平滑なナノインク組成物層を形成できないおそれがある。
【0033】
また、上記ナノインク組成物を構成する有機π共役系配位子としては、例えば、アミノ基、メルカプト基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ホスフィン基、ホスホン酸基、ハロゲン基、セレノール基、スルフィド基、セレノエーテル基(金属ナノ粒子表面に配位する置換基)のいずれか一つもしくは複数の置換基を有するもの、もしくは、アミノ基、アルキルアミノ基、アミド基、イミド基、ホスホン酸基、スルホン酸基、シアノ基、ニトロ基(金属ナノ粒子を含水溶媒およびアルコール溶媒に可溶にする置換基)およびそれらの塩いずれか一つもしくは複数の置換基を有するもの等をあげることができる。なかでも、2,3,9,10,16,17,23,24−オクタキス[(2−N,N−ジメチルアミノエチル)チオ]フタロシアニン(OTAP)や、2,3,11,12,20,21,29,30−オクタキス[(2−N,N−ジメチルアミノエチル)チオ]ナフタロシアニン(OTAN)が好適に使用される。
【0034】
さらに、上記ナノインク組成物を構成する好ましい溶媒としては、水もしくは水混合溶媒、または、アルコールもしくはアルコール混合溶媒等があげられる。なお、水以外の成分としてはアルコール、エーテル、エステル、ケトン、アミド等があげられるが、好ましくはアルコール類、より好ましくは炭素数1〜10のアルコール類である。これらの溶媒のなかでも、特に好ましい溶媒として、メタノール、エタノール、2−エトキシエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールを使用することができる。
【0035】
また、上記ナノインク組成物の好適な粘度は0.001〜5Pa・s(1〜5000cP)程度であり、より好ましくは0.01〜4Pa・sである。この粘度範囲を超えるかまたは下回ると、インク(回路パターン)の精細な塗布が難しくなる傾向がみられる。なお、上記粘度の測定は、東機産業社製粘度計 TVE−22HTを用いて、20℃、標準ローター(1°34'×R24)、0.5〜100rpmで行った。
【0036】
上記ナノインク組成物の具体的な例として、コストやハンドリング(取り扱い)の容易さ、および、貯蔵安定性等を考慮して、先にも述べたような、ナノ銀コロイダルインク(商品名:ドライキュア,コロイダル・インク社製)が好適に採用される。
【0037】
また、本発明の電子回路基板の製造方法で使用する基材(被印刷体)としては、先に述べたような、表面(被印刷面)が吸湿(吸水)性の紙製または樹脂製のフィルム状基材が使用される。これら基材の表面の吸湿(吸水)性を高める処理としては、プラズマ処理、コロナ放電処理、軟X線照射、紫外線照射等、基材表面の親水性を向上させる表面処理加工法のいずれを用いてもよい。
【0038】
また、上記基材には、表面(被印刷面)にコーティングを施すことによって、吸湿(吸水)性のインク受容層を設けてもよい。このインク受容層としては、シリカ,カオリン(クレー),アルミナから選ばれる1種以上の微粒子を含有する樹脂層(膜)を、適宜な塗布法によりコーティングして形成することができる。なお、インク受容層に用いる樹脂としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等を好適に使用することができる。また、インク受容層の膜厚は、10nm〜100μm程度にすることが望ましい。
【0039】
そして、前記表面処理を施した基材または上記表面にインク受容層を設けた基材における、処理後の基材表面の親水性(撥水性)の性能目安としては、基材の表面における水の接触角が30°以下となるように設定される。上記水の接触角が30°を超えるようであれば、ナノインク組成物が基材表面もしくはインク受容層に浸み込まず、横に広がって、微細な回路パターンを描くことが難しくなる。
【0040】
なお、上記水の接触角は、協和界面科学社製の自動接触角計DropMaster(DM)300を使用して、画像解析を用いた液滴法(θ/2法、滴下液量2μl)により、静的接触角を測定したものである。
【0041】
また、上記基材本体の素材(材料)としては、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等の軟質樹脂の他、基材のフレキシブル性は損なわれるが、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の硬質樹脂を用いてもよい。また、表面を吸湿(吸水)性に改質すれば、ガラスや金属等を用いることもできる。さらに、皮革、皮膚や人工皮膚、食物繊維やセルロースナノファイバーからなるフィルム、微生物,細菌等から生産される動物由来のフィルム、樹木や野菜等の植物に由来するフィルム等、熱による影響を特に受けやすい素材や、特殊雰囲気で特性劣化してしまうような材料であっても、表面に吸湿(吸水)性を有して一定のフィルム形状を維持することのできる素材(材料)であれば、本発明の電子回路基板の製造方法の基材として使用することが可能である。
【0042】
つぎに、本実施形態のフレキソ印刷法で使用するフレキソ印刷版(印刷版11)としては、例えば、ウレタン系アクリレートのプレポリマーと、アクリレートオリゴマーと、アクリレートモノマー,光重合禁止剤,光重合開始剤等の混合物を、ネガフィルムを通した紫外線照射により硬化させ、成形した凸印刷版を用いることができる。
【0043】
上記印刷版11の表面(インク保持面)の凸状インク保持部(図1図4の凸部11a)には、上記ネガフィルムを通した紫外線照射(フォトリソグラフィ)により、所定形状の回路パターンに沿った微細な凹凸〔図5(a)の拡大平面図およびその断面図(b)を参照〕が形成されており、これらの間に形成された微細な凹部11b(インク保持部位)に、上記ナノインク組成物が保持される。なお、印刷版11上のインク保持部に保持される、単位面積あたりのインク保持量は約1〜50ml/m2に設定されている。
【0044】
また、フレキソ印刷版(印刷版11)として、樹脂組成物と光重合開始剤等の助剤の混合物を、ネガフィルムを通した紫外線照射により硬化させ、成形した「ポリエステル系ゴム」製凸印刷版を用いることもできる。なお、得られる印刷版11の表面形状としては、上記図5(a),(b)に示すものと同様であり、インク保持部に保持される単位面積あたりのインク保持量も、約1〜50ml/m2である。
【0045】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
この実施例においては、ナノインク組成物(ナノ銀コロイダルインク)を用いて、フレキソ印刷により電子回路基板を作製し、その導通性能(電気抵抗値:Ω)を比較した。また、導通(導電)の得られた電子回路基板については、電子部品を実装し、回路が正常に作動するかどうかを確認した。
【0047】
まず、ナノインク組成物の印刷に先立ち、印刷(転写)に適した表面特性を持つ基材を選択した。
〔基材の選択〕
基材の適否は、表面の「水の接触角」により判定した。なお、接触角の測定は、前記と同様、協和界面科学社製の自動接触角計DropMaster(DM)300を使用して、画像解析を用いた液滴法(θ/2法、滴下液量2μl)により、静的接触角を測定した。
【0048】
<基材の種類>
適否の判定に用いた基材は、インクジェットプリンタ用写真用紙(コート紙あるいは光沢紙として市販されている厚手の印画紙タイプのもの)2種と、ポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム〔表面コーティング(インク受容層)の有・無〕を2種類用意した。
【0049】
[水の接触角の測定]
上記各写真用紙a,bとPETフィルムc(コーティング有り),PETフィルムd(コーティングなし)とを、それぞれ、室温(23℃)下無風状態で、前記自動接触角計の測定台(水平)の上に載置して、水の液滴の滴下直後(0秒)、10秒後、60秒(1分)後、300秒(5分)後の水の接触角を計測した。なお、試験は各試料について2回ずつ行い、その平均を結果とした。結果を後記の表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
上記表1の結果から、本発明の実施例に適した基材として、写真用紙a(エプソン社製)と、PETフィルムc(インク受容層のコーティング有り)とを選択した。なお、上記インク受容層とは、カチオンを含むアクリル樹脂からなる層(膜)であり、バーコーター等により、フィルムの一面に、膜厚17μm程度に均一にコーティングされているものである。
【0052】
つぎに、フレキソ印刷により、実施例1,2および比較例1〜3の電子回路基板を作製した。なお、各試作品の作製に用いたナノインク組成物,フレキソ印刷機,印刷条件等は、以下の通りである。
【0053】
<ナノインク組成物>(ナノ銀コロイダルインク)
コロイダル・インク社製 銀ナノインク DryCure(ドライキュア) Ag−J
成分:銀粒子−粒径1〜100nm(平均粒径:15nm)
有機π共役系配位子
水を主成分とする溶媒
固形分:10〜20wt%
粘度:5〜1155mPa・s
【0054】
<基材>
・紙製として、上記写真用紙a(エプソン社製、厚さ0.3mm)と、写真用紙b(コクヨ社製、厚さ0.3mm)。
・樹脂製として、上記PETフィルムc〔フィルム部分:東レ社製、厚さ0.1mm、表面にインク受容層(17μm厚)をコーティング〕と、PETフィルムd(東洋紡社製、厚さ0.25mm、コーティングなし)。
【0055】
また、実施例・比較例の作製に用いたフレキソ印刷機は、以下の加工条件で使用した(フレキソ印刷の概略構成は図1等を参照)。
〔フレキソ印刷機〕
コムラテック社製 SmartLabo−III (登録商標)
〔フレキソ印刷版〕
コムラテック社製 ポリエステル系ゴム製樹脂凸版 タイプ:T−YP400V
版厚さ2.84mm 600線/inch
硬度:40〜70度(ショアA硬度)
印刷用インク保持部のインク保持量:4ml/m2 (調整幅:1〜5ml/m2
なお、印刷版表面には、幅1mmの電子回路パターンのインク保持部が形成されている。
〔アニロックスロール〕
200線/inch(100〜600線/inch)
セル容量(セル容積):8ml/m2 (調整幅:1.5〜50ml/m2
【0056】
<フレキソ印刷条件>
・印刷速度(印刷ステージ移動量):18m/分
・アニロックスロール速度:25m/分(周速)
・アニロックスロール−印刷版間 ニップ幅:8mm(調整幅:4〜8mm)
・印刷版−基材間 ニップ幅:10mm(調整幅:8〜12mm)
・印刷チャンバーの環境(雰囲気)
温度:15〜30℃ 湿度:40〜70%RH
・印刷後の乾燥条件
風乾:温度23℃(大気圧下自然乾燥):30秒〜60分
なお、温風を吹き付けて乾燥を促進させる場合は、温風の温度および基材の温度が40℃以下で維持されるように調整した。
【0057】
[実施例1]
上記の加工条件にて、フレキソ印刷機により、基材(写真用紙a)の被印刷面(コート面)の同じ位置に、ナノインク組成物を、1回または3回,6回それぞれ連続して塗布(積層)し、室温(23℃)大気下で60分間放置(風乾)して、基材上に電子回路が印刷(転写)形成された「実施例1」の電子回路基板を得た。
【0058】
[実施例2]
基材として、PETフィルムc(インク受容層をコーティング)を用いたこと以外、上記実施例1と同様にして、フレキソ印刷機により、基材表面の同じ位置に、ナノインク組成物を、1回または3回,6回それぞれ連続して塗布(積層)し、室温(23℃)大気下で60分間放置(風乾)して、「実施例2」の電子回路基板を得た。
【0059】
[比較例1]
基材として、写真用紙b(水の接触角の大きいもの)を用いたこと以外、上記実施例1と同様にして、フレキソ印刷機により、基材表面の同じ位置に、ナノインク組成物を、1回または3回,6回それぞれ連続して塗布(積層)し、室温(23℃)大気下で60分間放置(風乾)して、「比較例1」の電子回路基板を得た。
【0060】
[比較例2]
基材として、PETフィルムd(インク受容層がないもの)を用いたこと以外、上記実施例1と同様にして、フレキソ印刷機により、基材表面の同じ位置に、ナノインク組成物を、1回または3回,6回それぞれ連続して塗布(積層)し、室温(23℃)大気下で60分間放置(風乾)して、「比較例2」の電子回路基板を得た。
【0061】
[比較例3]
基材として、PETフィルムc(インク受容層をコーティング、常用耐熱温度40〜60℃)を用いて、上記実施例2と同様、フレキソ印刷機により、基材表面の同じ位置に、ナノインク組成物を6回連続して塗布(積層)し、基材表面に回路配線を形成するとともに、この電子回路基板を、保持温度を50℃または60℃に設定したオーブン中に60分間入れて、上記回路配線(積層インクパターン:1mm幅)を乾燥させ、「比較例3」の電子回路基板を得た。
【0062】
なお、この比較例3の電子回路基板は、50℃または60℃で乾燥したものがいずれも、基材(基板)全体に熱伸縮による波打ちが発生し、回路配線が剥離して途切れ途切れとなったため、後記の「外観」以外の試験を行っていない。
【0063】
以上の実施例1,2および比較例1,2の電子回路基板(供試品)を用いて、その表面上に形成された回路配線(乾燥インクパターン:1mm幅)の「外観」,「厚さ」と、「導通性能」(導電性)を比較した。
【0064】
[回路配線の外観]
目視により、回路配線表面のひび割れや欠け等の欠陥を観察した。評価は、大きな欠陥のあるものを×、表面にひび割れがある程度の欠陥を△、欠陥の見られないものを○、とした。
【0065】
[回路配線部分の厚さ]
回路配線パターンの中央付近にあたる同じ位置で、回路配線を基材ごと切断し、断面をマイクロスコープ<日本電子社製 JSM−5500>で観察することにより、回路配線の厚さ(転写されたインクの乾燥後の厚さ:単位μm)を測定した。
【0066】
[回路配線の電気抵抗値]
回路配線パターンの中央付近にあたる同じ位置で、デジタルテスタ<カスタム社製>を用いて、形成された幅1mmの回路配線の2点間(距離:10mm)の電気抵抗値(単位:Ω)を測定した。
【0067】
[電子回路の動作試験]
上記「電気抵抗値」試験で導通が確認された電子回路基板を使用して、その回路配線の所定位置(バンプ等)に、導電ペースト(銀銅導電塗料、プラスコート社製、PTP-1202G、銀コート銅+1液型ポリエステル樹脂バインダ、常温乾燥常温硬化 有機溶剤型)を用いて、IC,LED等の電子部品を実装し、電源を接続して、電子回路として動作するかどうかを試作・確認した。結果は、動作するものを○、動作しなかったものを×、で表示する。
【0068】
上記各試験の結果を、以下の「表2」にまとめて示す。なお、表中の「−−」は試験を実施していない(供試品が作製できない)ことを表す。
【0069】
【表2】
【0070】
上記表2より、表面の水の接触角が30°以下である、親水(吸水)性の基材を用いて、ナノインク組成物を複数回塗り重ねれば、電気抵抗値の低い、電子回路を構成するのに適した回路基板が、焼成等の加熱工程を経ることなく、効率的に得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の電子回路基板の製造方法およびそれにより得られた電子回路基板は、常温常圧下で、均一なナノインク組成物層からなる電子回路基板を、素早く効率的に作製することができる。したがって、本発明の製造方法は、紙製もしくは樹脂製等の「熱に弱い」フレキシブルな基材は勿論、皮革、皮膚や人工皮膚、食物繊維やセルロースナノファイバーからなるフィルム、微生物,細菌等から生産される動物由来のフィルム、樹木や野菜等の植物に由来するフィルム等、特殊な雰囲気下で特性劣化してしまう基材であっても、その表面に、ナノインク組成物からなる電子回路を形成することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 版胴
2 アニロックスロール
3 スキージ
4 インクタンク
11 印刷
S 移動ステージ
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5