【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発・革新炭素繊維基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
<概要>
本発明の一態様に係る加熱方法は、一対の短側壁と一対の長側壁とを有する断面形状が方形状をする加熱管を有し、加熱管内を伝播するTEモードのマイクロ波を利用して、加熱管内を走行する被加熱物を加熱する。なお、ここでは、TEモードの例としてTE10について説明するが、他のTEモード、例えばTE20であってもよい。
【0009】
図1は、マイクロ波が伝播する加熱管の断面における電界強度分布の概念図を示す。
図2は、加熱管を伝播するマイクロ波の様子を示す。
マイクロ波Aは、
図1において紙面と直交する方向に伝播し、
図2に示すように加熱管15の管軸が延伸する方向にマイクロ波Aが伝播する。加熱管15は、
図1において上下方向に延伸する側壁15a,15bが「短側壁」であり、左右方向に延伸する側壁15c,15dが「長側壁」である。短側壁15a,15bが存在する位置では、電界強度が最も低くなっている。なお、本稿では紙面下側の「長側壁」を導入孔が設けられた側の長側壁15cとする。
【0010】
加熱管15に供給される被加熱物1bは、
図1に示すように、一対の短側壁15a,15bを横切るように、供給される。つまり、短側壁15aには被加熱物1b用の導入口15gが設けられ、短側壁15bには加熱された被加熱物1b用の導出口15hが設けられている。これにより、加熱管15内における電界強度の最も低い一方の短側壁15aから前駆体繊維1bが加熱管15の内部に導入され、加熱管15内における電界強度の最も低い他方の短側壁15bから加熱された被加熱物1bが加熱管15の外部へと導出される。
【0011】
本加熱装置及び本加熱方法は、電界強度の最も低い短側壁15a,15bにおいて被加熱物1bの導入・導出ができればよく、この観点からは、被加熱物1bが、マイクロ波Aの伝播方向と直交する面内を走行する必要はない。例えば、加熱管15の内部を走行する被加熱物1bは、マイクロ波Aの伝播方向と直交する面に対して交差してもよい。また、加熱管15の内部を走行する被加熱物1bは、一対の長側壁15c,15dと平行に進行してもよいし、一対の長側壁15c,15dに対して傾斜して走行してもよい。
【0012】
生産性を考慮して被加熱物1bが加熱管15に複数供給される場合がある。この場合、複数の被加熱物1bはマイクロ波Aの伝播方向に間隔を置いて供給される。複数の被加熱物1bの加熱斑、加熱効率や電界強度ムラを考慮すると、短側壁15a,15bの2分の1程度の同じ高さで一対の長側壁15c,15d側の間を通過するのが好ましい。また、被加熱物1bの熱効率や電界強度ムラを考慮すると、被加熱物は長側壁15cの導入孔106を基準としたときにマイクロ波Aの伝播方向に対して同じ距離間隔で配置するのが好ましい(
図4参照)。ここで供給される被加熱物1bは、誘電体であることが好ましい。
【0013】
被加熱物1bを加熱管15に供給する場合、誘電体(被加熱物1b)の導入本数や太さなどによって、加熱管15内でマイクロ波Aの波長が短縮してしまったり、加熱管15内の特性インピーダンスが変わるため、都度、可変短絡板及びスリースタブチューナ等で微調整を行うことが望ましい。
【0014】
また、被加熱物1bを加熱管15に複数供給する場合、供給位置によってマイクロ波の電界強度の差が大きくなることがある(電界強度ムラが大きくなる)。なお、電界強度ムラが大きくなると、供給された被加熱物1bの加熱温度ムラが大きくなる。このような場合、マイクロ波Aの電界強度はマイクロ波Aの伝播方向に調整されていることが好ましい。電界強度の調整は、加熱管15の対向する内壁の間隔を変えることで行うことができる。例えば、マイクロ波Aが進行波の場合、進行方向に進行するに従って加熱管15にテーパ等を付けて、内壁の高さや幅を短くすればよい。より具体的には、一対の長側壁15c,15d間の距離や一対の短側壁15a,15bの距離を小さくすればよい。また、マイクロ波Aが定在波の場合は、電界を強めたい部分の加熱管15や導波管の対向する内壁の距離を短くすればよい。
【0015】
加熱管15内のマイクロ波Aは、加熱管15の一端に設けられているマイクロ波発振器から導入されてもよいし、マイクロ波発振器が一端に設けられている導波管から導入されてもよい。導波管を用いる場合、導波管は、当該導波管の管軸が加熱管15の管軸と平行であって、加熱管15の内部と導波管の内部とが一方の長側壁を介して隣接する状態で設けられ、一方の長側壁は、導波管内のマイクロ波を加熱管内へと伝播するための導入孔を有するようにすればよい。
導波管を利用する場合、マイクロ波の電界強度の調整は、導波管の太さ(導波管の内部空間の太さ)を変えることで行うことができる。例えば、マイクロ波Aが進行波の場合、進行方向に進行するに従って加熱管15や導波管の対向する内壁の間隔を小さくすればよい。より具体的には、加熱管15や導波管の一対の長側壁15c,15d間の距離や一対の短側壁15a,15bの距離を小さくすればよい。また、マイクロ波Aが定在波の場合は、電界を強めたい部分の加熱管15や導波管の対向する内壁の距離を短くすればよい。
【0016】
また、導波管を利用する場合、マイクロ波の電界強度の調整は、導入孔の大きさを変えることで行うことができる。例えば、マイクロ波Aが進行波の場合、進行方向に進行するに従って導入孔を大きくすればよい。また、マイクロ波Aが定在波の場合は、電界を強めたい部分(近傍を含む)の導入孔を大きくすればよい。
また、導波管を利用し、被加熱物1bを加熱管15に供給する場合、誘電体(被加熱物1b)の導入本数や太さなどによって、加熱管15内でマイクロ波Aの波長が短縮してしまったり、導波管内の特性インピーダンスが変わるため、都度、可変短絡板及びスリースタブチューナ等で微調整を行うことが望ましい。
【0017】
<実施形態>
1.全体
以下、マイクロ波加熱を利用した炭素繊維の製造方法について説明する。
図3は、炭素繊維の製造工程を示す概略図である。
炭素繊維は、前駆体繊維であるプリカーサを用いて製造される。1本のプリカーサは、複数本、例えば、12,000本のフィラメントが束になったものである。場合によっては、前駆体繊維束や炭素繊維束ということもある。
【0018】
プリカーサ1aは、アクリロニトリルを90質量%以上含有する単量体を重合した紡糸溶液を湿式紡糸法又は乾湿式紡糸法において紡糸した後、水洗・乾燥・延伸して得られる。なお、共重合する単量体としては、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、アクリル酸、アクリルアミド、イタコン酸、マレイン酸等が利用される。
通常、プリカーサ1aを製造する速さと、プリカーサ1aを炭素化して炭素繊維を製造する速さが異なる。このため、製造されたプリカーサ1aは、一旦、カートンに収容されたり、ボビンに巻き取られたりする。
【0019】
炭素繊維は、
図3に示すように、例えばボビン30から引き出され、下流側に向かって走行し、その途中で、各種の処理がなされて、ボビン39に巻き取られる。
炭素繊維は、
図3に示すように、プリカーサ1aを耐炎化する耐炎化工程と、耐炎化された繊維(以下、「耐炎繊維」といいい、本発明の「前駆体繊維」の一例に相当する。)1bを延伸させながら炭素化する炭素化工程と、炭素化された繊維(以下、「炭素化後の繊維」ともいう。)1dの表面を改善する表面処理工程と、表面が改善された繊維1eに樹脂を付着させるサイジング工程と、樹脂が付着した繊維1fを乾燥させる乾燥工程とを経て製造される。
【0020】
乾燥された繊維1gは、炭素繊維1gとしてボビン39に巻き取られる。なお、各工程を終えた繊維を、例えば耐炎繊維1bのように、区別しているが、単に「繊維」として説明する際の符号は、「1」を用いる。
ここで、プリカーサ1aを耐炎化する処理を耐炎化処理、耐炎繊維1bを炭素化する処理を炭素化処理、炭素化後の繊維1dの表面を改善する処理を表面処理、表面が改善された繊維1eに樹脂を付着させる処理をサイジング処理、樹脂が付着した繊維1fを乾燥させる処理を乾燥処理とそれぞれいう。以下、処理、工程について説明する。
【0021】
(1)耐炎化工程(耐炎化処理)
耐炎化工程は、炉内が200[℃]〜350[℃]の酸化性雰囲気に設定された耐炎化炉3を利用して行う。具体的には、耐炎化は、空気雰囲気中の耐炎化炉3内をプリカーサ1aが複数回通過することで行われる。なお、酸化性雰囲気は、酸素、二酸化窒素等を含んでいてもよい。
耐炎化工程中のプリカーサ1aは、製造する炭素繊維に合わせて所定の張力で延伸される。耐炎化工程での延伸倍率は、例えば、0.7〜1.3の範囲内である。プリカーサ1aの延伸は、耐炎化炉3の入口の2個のローラ5,7や出口の3個のローラ9,11,13により行われる。
【0022】
(2)炭素化工程(炭素化処理)
炭素化工程は、耐炎繊維1bを加熱することで熱分解反応を生じさせて炭素化を行う工程である。炭素化は、耐炎繊維1bが第1の炭素化炉15を通過し、さらに、第1の炭素化炉15を通過した繊維1cが第2の炭素化炉17を通過することで行われる。ここでの炭素化は、少なくとも2個の炭素化炉15,17を通過することで行われる。
ここで、第1の炭素化炉15で行われる炭素化を「第1の炭素化」や「第1の炭素化処理」とし、この工程を第1の炭素化工程とし、さらに、第1の炭素化処理を終えた(第1の炭素化炉15を出た)繊維を「第1の炭素化処理後の繊維」とする。
【0023】
同様に、第2の炭素化炉17で行われる炭素化を「第2の炭素化」や「第2の炭素化処理」とし、この工程を第2の炭素化工程とし、さらに、第2の炭素化処理を終えた(第2の炭素化炉17を出た)繊維を「第2の炭素化処理後の繊維」又は「炭素化後の繊維」という。
複数個の炭素化炉は、互いに独立した形態で設けられている。ここでは、第1の炭素化炉15と第2の炭素化炉17とは互いに独立して設けられ、各炭素化炉15,17の間には繊維の張力を調整する調整手段を設けることができる。
【0024】
第1の炭素化炉15の外であって入口側にはローラ19が、第1の炭素化炉15と第2の炭素化炉17との間にはローラ21が、第2の炭素化炉17の外側であって出口側にはローラ23がそれぞれ設けられている。
炭素工程における炭素化は、耐炎繊維1bを第1の炭素化炉15内でマイクロ波を利用して加熱して熱分解反応させる第1の炭素化工程と、マイクロ波で加熱した繊維1cを第2の炭素化炉17内で延伸しながらプラズマを利用して急速均一加熱して炭素化を進行させる第2の炭素化工程とを含んでいる。
【0025】
第1の炭素化工程は、断面形状が方形状をする加熱管の内部を伝播するマイクロ波を利用した加熱装置で行われる。なお、耐炎繊維1bは加熱管15の短側壁15aから対壁の短側壁15bに向けて加熱管15内に搬送され加熱される。この際、加熱源となる電界エネルギーは、マイクロ波が伝播する導波路から導入孔を介して加熱管15側に漏れ出し、対となる導入孔間で電界が整合される。なお、複数の耐炎繊維1bを加熱管15内に搬送し加熱した場合には、耐炎繊維1bに電界エネルギーが吸収され、マイクロ波の伝播方向に向けて、電界エネルギーが減衰してしまい、加熱斑が顕在化する。そのため、
図5の(B)、(C)のように、マイクロ波伝播方向で導入孔の幅を広くすることで、均質な電界エネルギーで耐炎繊維1bを加熱することが可能とする。なお、加熱装置については、後で詳細に説明する。なお、第2の炭素化工程は、プラズマ以外の加熱手段で加熱してもよい。
【0026】
(3)表面処理工程(表面処理)
表面処理工程は、炭素化後の繊維1dが表面処理装置25内を通過することで行われる。表面処理装置25の出口にはローラ26が設けられている。なお、表面処理することで、炭素繊維1gを利用して複合材料とした場合、炭素繊維1gとマトリックス樹脂との親和性や接着性が向上する。
表面処理は、一般に炭素繊維の表面を酸化することにより行われる。表面処理として、例えば、液相中又は気相中の処理がある。液相中での処理は、酸化剤に炭素化後の繊維1dを浸漬することによる化学酸化や、炭素化後の繊維1dが浸漬する電解液中で通電することによる陽極電解酸化等が工業的に用いられる。
気相中での処理は、炭素化後の繊維1dを酸化性気体の中を通過させたり、放電等によって発生した活性種を吹き付けたりすることにより行うことができる。
【0027】
(4)サイジング工程(サイジング処理)
サイジング工程は、繊維1eが樹脂液29内を通過することで行われる。樹脂液29は、樹脂浴27に貯留されている。なお、サイジング工程により、表面処理された繊維1eの収束性が高まる。
サイジング工程中の繊維1eは、樹脂浴27の内部や樹脂浴27の周辺に配された複数のローラ31,33等により走行方向を変更しながら樹脂液29内を通過する。樹脂液29は、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を溶剤に溶解させた液やエマルション液が利用される。
【0028】
(5)乾燥工程(乾燥処理)
乾燥工程は、繊維1fが乾燥炉35内を通過することで行われる。なお、乾燥した繊維1gは、乾燥炉35の下流側のローラ37を介してボビン39に巻き取られる(巻取工程である。)。
【0029】
2.加熱装置(第1炭素化炉)
(1)概略
図4は、加熱装置の概略図である。
加熱装置100は、断面が方形状の加熱管を有している。この加熱管は、
図3における第1の炭素化炉15である。なお、加熱管の符号を「15」として以下説明する。
【0030】
加熱管15は、一対の短側壁15a,15bと一対の長側壁15c,15dとを有する。マイクロ波AはTEモードである。ここでは、TE10モードである。耐炎繊維1bは、加熱管15の一対の短側壁15a,15bを横切るように、加熱管15の内部を走行する。一対の短側壁15a,15bには耐炎繊維1b用の導入口15gと導出口15hとが設けられている(
図1参照)。
加熱管15内へのマイクロ波Aの導入は、導波管102により行われる。導波管102は、後述のマイクロ波発振器から発信されたマイクロ波BをTEモードで伝播させるため、断面形状が加熱管15と同様に、方形状としている。
【0031】
導波管102は、当該導波管102の管軸が加熱管15の管軸と平行であって加熱管15の内部と導波管102の内部とが連通する状態で、設けられる。ここでは、加熱管15と導波管102とは一体化されており、加熱空間(加熱管15の内部空間である。)と導波空間(導波管102の内部空間である。)とが仕切り壁104により区画されている。ここでは、仕切り壁104は、加熱管15における導波管102側の長側壁(15c)であり、導波管102における加熱管15側の長側壁である。
【0032】
仕切り壁104は、
図4に示すように導入孔106を有している。ここでは、導入孔106は、加熱管15及び導波管102の各管軸と直交する方向に延伸するスリット状に設けられている。導波管102内のマイクロ波Bは導入孔(スリット)106から加熱管15側へと漏れる。
マイクロ波発振器108は、例えば、クライストロン及びマグネトロン等のマイクロ波電子管や、ダイオード等を利用したマイクロ波半導体素子等を利用することができる。マイクロ波発振器108の出力は、加熱管15の内部を走行する耐炎繊維1bの本数、速度、炭素度等により適宜選択できる。なお、マイクロ波発振器108から発信されるマイクロ波の周波数は、0.3[GHz]〜140[GHz]である。
【0033】
マイクロ波発振器108は、接続導波管を110介して導波管102の一端102aに接続される。導波管102の他端102bには固定短絡板112が設けられている。固定短絡板112は、導波管102の一端102aから他端102bへと伝播してきたマイクロ波Bを一端102a側へと反射させるためのものであり、これにより、導波管102の内部に定在波を起こさせることができる。
導波管102内の定在波(B)は、仕切り壁104の導入孔106を介して加熱管15へと漏れ出し、加熱管15内を伝播する。
【0034】
図5が、加熱管の内部から仕切り壁を見た概略図の一例である。
導入孔106は、仕切り壁104におけるマイクロ波Aの伝播方向に沿って間隔をおいて複数個(偶数個)設けられている。
導入孔106のピッチCは、マイクロ波の管内波長をλgとすると、
C = λg/2× n (ここで、n:整数である。)
の関係を満たす。なお、導入孔106は1対ごとに設ける。
【0035】
導入孔106の一例としてスリットを利用できる。
図5の(A)に示すように、
図1の加熱炉15の長側壁15c,及び15dに平行するスリット106a(固定スリット辺)寸法はマイクロ波の空間波長λとすると、その1/2の寸法で固定とするが、
図1の加熱炉15の短側壁15a,及び15bに平行するスリット106b(可変スリット辺)寸法は管内波長λgより小さい寸法であれば、可変スリット辺106bの幅寸法は特に制限はなく、対ごとに一律同一寸法であっても構わないし、同一寸法でなくても構わない。
また、スリットエッジ形状が角型であっても円弧であっても構わない。更に、
図5の(C)に示すように、スリット109の角度はマイクロ波の伝播方向に対して例えば45[°]や60[°]の一定角度で傾斜してもよい。なお、この場合でも、スリット109a,109b、109c,109dを一対で設ける必要がある。
【0036】
複数の耐炎繊維1bを加熱管15内に搬送し加熱した場合には、耐炎繊維1bに電界エネルギーが吸収され、マイクロ波の伝播方向に向けて、電界エネルギーが減衰してしまい、加熱斑が顕在化する。そのような場合、
図5の(B)、(C)に示すように、マイクロ波伝播方向でスリット107,109の幅を広くすることで、均質な電界エネルギーで耐炎繊維1bを加熱することが可能とする。
【0037】
図4に戻って、加熱管15の一端15eにも固定短絡板114が設けられ、他端15f側には接続導波管115を介して可変短絡板116が設けられている。
一端15eの固定短絡板114は、導入孔106から漏れて一端15eに向かって伝播するマイクロ波Aを他端15f側へと反射させる。これにより、マイクロ波Aを有効に利用できる。他端15fの可変短絡板116は、加熱管15の内部を伝播して他端15fに達したマイクロ波Aを一端15e側へと反射させ、
図4の装置構成の場合にはスリースタブチューナ122との間で共振状態にさせるためのものである。これにより、加熱管15内に定在波を起こさせることができる。
【0038】
なお、加熱管15に供給する耐炎繊維1bにより波長が若干変化するため、短絡板116を加熱管15の管軸に沿って移動可能な可変短絡板としている。
マイクロ波発振器108と導波管102を結ぶ接続導波管110には、マイクロ波発振器108側から、アイソレータ118、方向性結合器120、スリースタブチューナ122が設けられている。アイソレータ118は、導波管102の他端102bで反射してきたマイクロ波Bによって、マイクロ波発振器108が破損するのを防止するものである。
【0039】
方向性結合器120は、入射(導波管102の他端102bに向かうマイクロ波である。)電力や、反射(他端で反射してマイクロ発信器に向かうマイクロ波である。)電力を測定するものである。スリースタブチューナ122は、導波管102内のインピーダンス整合を調整するためのものである。この整合によりマイクロ波加熱を効率的に行うことが可能となる。
加熱管15は、管内を走行する耐炎繊維1bの温度を測定するための温度測定窓124を走行方向に沿って複数有している。なお、温度測定窓124には酸素の流入を防止するための蓋が設けられている。
【0040】
加熱管15又は導波管102には、管内を不活性ガス雰囲気にするためのガス導入口128や、耐炎繊維1bの加熱の際に発生するガスを排気するための排気口126等が設けられている。不活性ガスは、例えば、窒素を利用できる他、アルゴン等を利用できる。
加熱管15は、他端15fにおいて接続導波管115を介して可変短絡板116に接続されている。接続導波管115には方向性結合器130が設けられている。この方向性結合器130は、加熱管15内を他端15fに向かって伝播し、耐炎繊維1bに吸収されなかったマイクロ波Aの電力と、可変短絡板116で反射され一端15eに向かって伝播するマイクロ波Aの電力とを測定する。
【0041】
(2)マイクロ波の調整
本実施形態では、定在波のマイクロ波Aを利用して耐炎繊維1bを加熱する。TEモードの定在波と耐炎繊維との位置関係及びその調整について説明する。
加熱装置100は、定在波を生じさせるために進行波の伝播方向に短絡板112,114及び116を設けている。ここでは、短絡板116は加熱管15の管軸に沿って移動可能な可変短絡板であり、短絡板112、114は移動不可能な固定短絡板である。
なお、マイクロ波Bは、加熱管15に供給する耐炎繊維1bにより波長が若干変化する。つまり、導波管102内及び加熱管15内のインピーダンスは、誘電体である耐炎繊維1bの有無、耐炎繊維1bの太さ、投入する耐炎繊維1bの本数等によっても変化する。このため、変化が大きい場合には、短絡板112及び短絡版114を、導波管102の管軸に沿って移動可能な可変短絡板としてもよい。
【0042】
また、複数の耐炎繊維1bを加熱斑なく加熱するためには、加熱効率等を考慮し、短側壁15a,15bにおいて、底側の長側壁15cを基準としたときに短側壁15a,15bの2分の1程度の同じ高さで底側と反対側の長側壁15d側の間を通過するように加熱管15の一対の短側壁15a,15bに導入口や導出口が設けられ、仕切り壁104に導入孔106が設けられている。なお、導入孔106は、導波管102の内部を伝播するマイクロ波Bの管内波長λgの整数倍のピッチCで設けられている。
【0043】
図6は、可変短絡板により定在波の電界位置を調整する動作を説明する図である。
この
図6は、
図4における導波管102と加熱管15との間の仕切り壁104に設けられているスリット106の周辺拡大図である。各図において、下側に位置する管が導波管102であり、上側に位置する管が加熱管15である。
図6の(a)は加熱管15に耐炎繊維1bを供給していない状態を示し、(b)は加熱管15に耐炎繊維1bを供給し可変短絡板116により調整する前の状態を示し、(c)は加熱管15に耐炎繊維1bを供給し可変短絡板116により調整した後の状態を示す。
【0044】
耐炎繊維1bを供給していない状態において、(a)に示すように、導入孔106の位置で導波管102内を伝播する定常波Bの振幅が最大となるように、マイクロ波の周波数、短絡板112、可変短絡板116の位置が調整されている。
この状態で、加熱管15に耐炎繊維1bが供給されると、(b)に示すように、誘電体(耐炎繊維1b)の影響で導波管102内の管内波長及び加熱管15内の管内波長が変化し、導波管102内の定常波B1及び加熱管15内の定常波A1の最大振幅位置が導入孔106の位置から外れた状態となる。
【0045】
このため、耐炎繊維1bを供給した状態で加熱管15の他端15fに設けられた可変短絡板116の位置を調整して、(c)に示すように、導波管102内の定在波B2及び加熱管15内の定在波A2の最大振幅の位置が導入孔106の位置に対応するようにする。これにより、加熱管15の内部の耐炎繊維1bは電界強度の高い定在波Aの中を走行することとなる。
可変短絡板116の調整は、例えば、方向性結合器120,130で計測された反射電力値や繊維温度データ等から調整できる。また、本例の場合、導波管102において誘電体の影響が少ないため、加熱管15内の管内波長の調整により、定在波Bの最大振幅位置が導入孔106の位置に近づけることができる。
【0046】
3.実施例
以下、実施形態の一実施例について説明する。
耐炎繊維1bを加熱装置100に供給してマイクロ波Aによる加熱試験を行った。
使用する耐炎繊維1bは、密度が1.36[g/cm
3]である。加熱装置100の加熱管15への耐炎繊維1bの供給は4本であり、加熱管15の一対の短側壁15a,15bを横切るように耐炎繊維1bが供給される。耐炎繊維1bのフィラメント数は、12,000[本]である。
加熱装置100で利用するマイクロ波Aは、波長が0.705[m]〜0.00737[m]の範囲内に、周波数が425[MHz]〜40680[MHz]の範囲内にそれぞれある。
【0047】
導波管102及び加熱管15の幅(一対の短側壁15a,15b間の寸法である。)は0.5[m]〜16[m]の範囲内にある。導波管102及び加熱管15の高さ(一対の長側壁15c,15d間の寸法である。)は、0.2[m]〜10[m]の範囲内にある。
マイクロ波Aの出力は、0.1[kW]〜1000[kW]の範囲内である。耐炎繊維1bの走行速度は、0.01[m/min]〜50[m/min]の範囲内である。加熱管15内は、窒素雰囲気下で、91000[Pa]〜122000[Pa]に保たれている。第1の炭素化工程では、耐炎繊維1bを、密度が例えば1.50[g/cm
3]〜1.60[g/cm
3]になるまで炭素化する。
なお、従来の電気ヒータを用いた加熱装置では、炉内の温度が500[℃]〜800[℃]で約7[分]〜10[分]程度加熱される。
【0048】
4.加熱試験
加熱装置100を利用して加熱試験を行った。
(1)試験1
実施例1では、耐炎繊維1bの走行速度は0.11[m/min]である。この場合の加熱管15の内部の耐炎繊維1bの滞留時間は約55[秒]である。マイクロ波Aの出力は、4.0[kW]である。
図7は、耐炎繊維が加熱管内を走行する状態で、加熱を開始(マイクロ波発振器をスタートする)して60[秒]経過するまでの繊維の表面の変化を示す図である。なお、繊維1cの表面温度の測定は加熱管15の導出窓を出た個所で行っている。
図7に示すように、加熱を開始して時間が経過するに従って、繊維1cの表面温度が上昇し、ここでは、60秒後に900[℃]程度で略一定となっている。このように、マイクロ波Aを利用することで、加熱管15内の滞在時間が55[秒]であっても、800[℃]程度にまで加熱できる。また、4本の繊維1cの表面温度に差がなく、複数本の耐炎繊維1bを均一に加熱できることが分かる。
【0049】
(2)試験2
実施例2では、耐炎繊維1bの走行速度は0.3[m/min]である。この場合の加熱管15の内部の耐炎繊維1bの滞留時間は約20[秒]である。マイクロ波Aの出力は、5.0[kW]である。
図8は、耐炎繊維1bが加熱管15内を走行する状態で、加熱を開始(マイクロ波発振器をスタートする)して110[秒]経過するまでの繊維の表面温度の変化を示す図である。
図8に示すように、加熱を開始してから、時間が経過するに従って、繊維1cの表面温度が上昇し、ここでは、110秒後に900[℃]程度で略一定となっている。このように、マイクロ波Aの出力を高めることで、加熱管15内の滞在時間が20[秒]であっても、800[℃]程度にまで加熱できる。また、4本の繊維1cの表面温度に差がなく、複数本の耐炎繊維1bを均一に加熱できることが分かる。
【0050】
<変形例>
以上説明したが、本発明は実施形態に限られない。例えば、以下で説明する実施形態や変形等の何れかを適宜組み合わせてもよいし、複数の変形例を適宜組み合わせてもよい。
1.前駆体繊維
実施形態では、フィラメント数が12,000本の耐炎繊維について説明したが、フィラメント数が3,000本、6,000本、24,000本等の他の本数の耐炎繊維にも適用できる。
実施形態では、炭素化工程を含んだ炭素繊維の製造方法について説明したが、例えば、さらに、黒鉛化処理を表面処理工程前に行ってもよい。つまり、実施形態では、汎用品(弾性率240[GPa]の炭素繊維の製造において、第1の炭素化に本発明の加熱装置を用いたが、加熱装置は、高弾性品、中弾性高強度品等の高性能品の炭素繊維用の前駆体繊維に対して第1の炭素化にも利用できる。
【0051】
2.マイクロ波による加熱
(1)温度
試験では、繊維の表面温度が800[℃]や900[℃]に加熱されていたが、炭素化に合わせた温度に設定すればよい。温度調整は、例えば、マイクロ波の出力調整、前駆体繊維の走行速度の調整、加熱管の寸法、マイクロ波のTEモードの変更等で行うことができる。
(2)TEモード
実施形態では、マイクロ波のモードはTE10であったが、他のモードであってもよい。他のモードとしては、TE20モードやTE30モード等がある。つまり、マイクロ波のモードは、短側壁での電界強度が0になる(低くなる)TEm0モード(「m」は自然数であり、「0」は、数字のゼロである。)であればよい。
なお、「m」が2以上になると、加熱管において、一対の短側壁の中心同士を結ぶ仮想面を挟んだ2つの領域(電界強度が正と負の2つの領域である。)を、前駆体繊維の走行領域とすることができ、前駆体繊維の供給本数を、前駆体繊維の走行領域が1つのTE10モードに比べて、2倍にすることができる。ただし、マイクロ波の出力が同じ場合は、TE20モードの電界強度はTE10モードの電界強度の半分になる。
【0052】
3.加熱装置
(1)加熱管
実施形態では、加熱装置は、加熱管と導波管とを備えていたが、導波管を加熱管とすることもできる。また、実施形態では、加熱管は導波管の一方の長側壁側に配されていたが、例えば、導波管の各長側壁に隣接して2個配されてもよい。
(2)分波
実施形態では、1つのマイクロ波発振器から発信されたマイクロ波は、1本の導波管(加熱管)を伝播しているが、例えば、1つのマイクロ波発振器から発信されたマイクロ波が分波されて、複数本の導波管(加熱管)内を伝播してもよい。
【0053】
図9は、分波導波管を利用した加熱装置の概略図である。
図9に示す加熱装置200は、1つのマイクロ波を2つに分波し、分波されたマイクロ波のそれぞれは2本の導波管内を伝播する。
加熱装置200は、1つのマイクロ波発振器108と、2本の導波管102と、2本の加熱管15と、マイクロ波発振器108と2本の導波管102とを連結する分波導波管202とを有する。2本の加熱管15を区別するために、走行する前駆体繊維1bを基準として、前駆体繊維1bの進む方向と反対側を上流側、前駆体繊維1bの進む側を下流側とそれぞれする。
【0054】
分波導波管202は、マイクロ波発振器108に接続導波管204を介して接続されている。接続導波管204にはアイソレータ118が設けられている。分波導波管202は、ここでは、T分岐素子であってH面分岐を利用している。分波導波管202は、マイクロ波を分波するため、その高さは接続導波管204の高さの1/2とし、コーナ等を有している。
分波導波管202に接続される導波管102等は、実施形態で説明した導波管102等と略同じ構造であり、同じ構成についての説明は省略し、異なる構成について説明する。
本例では、加熱管15の他端に設けられている終端負荷206は、加熱管15内を伝播するマイクロ波を進行波とするために、例えば水負荷としている。本例では、前駆体繊維1bは、上流側及び下流側の2本の加熱管15内を通過する。この場合、例えば、上流側の加熱管15を第1の炭素化、下流側の加熱管15を第2炭素化に利用してもよい。
【0055】
(3)並列
実施形態では、1つのマイクロ波発振器108から発振されたマイクロ波Aは、1本の直管状の導波管102(加熱管15)を伝播しているが、例えば、屈曲状の導波管を伝播するように構成してもよい。屈曲状の導波管を1本利用してもよいし、複数本利用してもよい。ここでは3本利用している。
図10は、屈曲状の導波管を利用した加熱装置の概略図である。
図10に示す加熱装置300は、1つのマイクロ波発振器302に接続された屈曲状の導波管304を3組有している。屈曲状の導波管304は、3本の直線状の導波部306と、導波管304の内部が1本の伝播路となるように3本の導波部306を連結する連結導波部308とを有する。連結導波部308は、ここでは曲り導波管を利用し、例えば、Hコーナを利用している。