(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電磁流量計の校正検査装置(キャリブレータ)は校正用の信号電圧を発生させるだけでなく、励磁電流や4〜20mA電流出力も校正できるようにしている。このため、電磁流量計の励磁電流や4〜20mA電流出力を取り込むための高精度なAD(Analog-to-Digital)変換装置をキャリブレータに搭載する必要がある。
【0003】
従来、AD変換装置のAD変換精度を向上させる方法として、DA(Digital to Analog)変換器とAD変換器と差動アンプを用いる方法が開示されている(特許文献1参照)。
図8は特許文献1に開示されたAD変換装置の構成を示すブロック図である。AD変換装置は、アナログ入力信号Vinにオフセットを与えるための8ビットDA変換器(以下、DAC)100と、アナログ入力信号VinとDAC100の出力信号との差を増幅する差動アンプ101と、差動アンプ101の出力信号をデジタル信号に変換する12ビットAD変換器(以下、ADC)102とから構成される。
【0004】
このようなAD変換装置で高精度なAD変換を行なうためには、以下のようなゲイン・オフセット調整が必要になる。まず、DAC100のカウント値を0にしたときのDAC100の出力電圧V0と、DAC100のカウント値を255にしたときのDAC100の出力電圧V255と、ADC102の入力電圧を0VにしたときのADC102のカウント値C0と、ADC102の入力電圧を5VにしたときのADC102のカウント値C05とを測定すると、アナログ入力信号Vinが入力されたときのADC102のカウント値CadとC0,C05とから差動アンプ101の出力電圧(Vin−Vdac)×α(αは差動アンプ101の電圧増幅度)は次式のようになる。
(Vin−Vdac)×α=5×(Cad−C0)/(C05−C0) ・・(1)
【0005】
DAC100にセットしたカウント値CdaとV0,V255とから、DAC100の出力電圧は次式のように求まる。
Vdac=Cda×(V255−V0)/256 ・・・(2)
【0006】
式(1)、式(2)を加算することにより、Vinの電圧が求まる。
Vin=5×(Cad−C0)/(C05−C0)
+Cda×(V255−V0)/256 ・・・(3)
【0007】
式(3)で計算できる値が実際に入力したアナログ入力信号Vinの電圧と一致するように、上記のV0,V255,C0,C05を設定すればよい。このようなゲイン・オフセット調整により、1〜5Vのアナログ入力信号Vinの電圧を15ビット相当でAD変換したのと同程度の精度で測定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、DAC、ADC、差動アンプといった回路をCPUチップの中に複数実装してコンフィグレーションで結線する方式が増えている。
図8に示した従来のAD変換装置では、V0,V255,C0,C05の4点の調整が必要であるが、この調整のためには、DAC100の出力を外部に引き出し、また外部からADC102の入力に電圧を入力できるようにしておく必要がある。しかし、DAC100と差動アンプ101とADC102とが1チップになっていると、このような入出力が困難なので、
図8に示したAD変換装置の調整ができないという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、回路が1チップに集積化されている場合でも調整が可能で、高精度なAD変換を実現することができるAD変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のAD変換装置は、mビットDA変換手段と、アナログ入力信号と前記DA変換手段の出力信号との差を増幅する差動アンプと、前記アナログ入力信号と前記差動アンプの出力信号のうちいずれか1つを選択的に出力可能なマルチプレクサと、このマルチプレクサの出力信号をデジタル信号に変換するnビットAD変換手段と、前記マルチプレクサに前記アナログ入力信号を選択させたときの前記AD変換手段の出力に応じたカウント値を前記DA変換手段に設定して出力電圧を発生させ、AD変換装置のゲインGAINとオフセットOFFSETとを求める調整手段と、前記マルチプレクサが前記差動アンプの出力を選択したときの前記AD変換手段のカウント値と前記DA変換手段に設定されたカウント値と前記ゲインGAINと前記オフセットOFFSETとに基づいて計算したカウント値を出力する出力手段とを備え、前記調整手段は、調整時に、前記マルチプレクサに第1の電圧の前記アナログ入力信号を選択させたときの前記AD変換手段のカウント値C1と、このカウント値C1に応じたカウント値を前記DA変換手段に設定すると共に、前記第1の電圧のアナログ入力信号が入力されている状態で前記マルチプレクサに前記差動アンプの出力を選択させたときの前記AD変換手段のカウント値C1’と、前記マルチプレクサに第2の電圧の前記アナログ入力信号を選択させたときの前記AD変換手段のカウント値C5と、このカウント値C5に応じたカウント値を前記DA変換手段に設定すると共に、前記第2の電圧のアナログ入力信号が入力されている状態で前記マルチプレクサに前記差動アンプの出力を選択させたときの前記AD変換手段のカウント値C5’とを取得し、これらカウント値C1,C1’,C5,C5’
と、前記差動アンプの電圧増幅度αと、前記差動アンプの入力オフセット電圧Voffと等価またはそれ以上の電圧を発生する前記DA変換手段のカウント値kとに基づいて、GAIN=((C5×α−C5’)−(C1×α−C1’))/((C5−C1)×2^(m−n))、OFFSET=(C1×α−C1’)−(C1×2^(m−n)−k)×GAINにより、前記ゲインGAINと前記オフセットOFFSETとを計算し、前記調整手段は、測定時に、前記マルチプレクサに前記アナログ入力信号を一時的に選択させたときの前記AD変換手段のカウント値Cinを取得し、このカウント値Cinに応じたカウント値を前記DA変換手段に設定した後に、前記マルチプレクサに前記差動アンプの出力を選択させ、前記出力手段は、測定時に、前記調整手段によって前記DA変換手段に設定されたカウント値が0以下の場合、前記マルチプレクサが前記差動アンプの出力を選択したときの前記AD変換手段のカウント値を精度拡張後のカウント値Cad’として出力し、測定時に、前記調整手段によって前記DA変換手段に設定されたカウント値が0より大きい場合、前記マルチプレクサが前記差動アンプの出力を選択したときの前記AD変換手段のカウント値Cadと前記DA変換手段に設定されたカウント値Cdaと前記ゲインGAINと前記オフセットOFFSETとに基づいて、精度拡張後のカウント値Cad’をCad’=Cad+(Cda×GAIN)+OFFSETにより計算して出力することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のAD変換装置
は、mビットDA変換手段と、このDA変換手段の出力と接地電圧のうちいずれか1つを選択的に出力可能なスイッチと、アナログ入力信号と前記スイッチの出力との差を増幅する差動アンプと、前記アナログ入力信号と前記差動アンプの出力信号のうちいずれか1つを選択的に出力可能なマルチプレクサと、このマルチプレクサの出力信号をデジタル信号に変換するnビットAD変換手段と、前記マルチプレクサに前記アナログ入力信号を選択させたときの前記AD変換手段の出力に応じたカウント値を前記DA変換手段に設定して出力電圧を発生させ、AD変換装置のゲインGAINとオフセットOFFSETとを求める調整手段と、前記マルチプレクサが前記差動アンプの出力を選択したときの前記AD変換手段のカウント値と前記DA変換手段に設定されたカウント値と前記ゲインGAINと前記オフセットOFFSETとに基づいて計算したカウント値を出力する出力手段とを備え、前記調整手段は、調整時に、前記スイッチに接地電圧を選択させると共に前記マルチプレクサに第3の電圧の前記アナログ入力信号を選択させたときの前記AD変換手段のカウント値C005と、前記スイッチに接地電圧を選択させると共に、前記第3の電圧のアナログ入力信号が入力されている状態で前記マルチプレクサに前記差動アンプの出力を選択させたときの前記AD変換手段のカウント値C05とを取得し、これらカウント値C05とC005の倍率MAGを計算し、前記スイッチに前記DA変換手段の出力を選択させると共に前記マルチプレクサに第1の電圧の前記アナログ入力信号を選択させたときの前記AD変換手段のカウント値C1と、このカウント値C1に応じたカウント値を前記DA変換手段に設定し前記スイッチに前記DA変換手段の出力を選択させると共に、前記第1の電圧のアナログ入力信号が入力されている状態で前記マルチプレクサに前記差動アンプの出力を選択させたときの前記AD変換手段のカウント値C1’と、前記スイッチに前記DA変換手段の出力を選択させると共に前記マルチプレクサに第2の電圧の前記アナログ入力信号を選択させたときの前記AD変換手段のカウント値C5と、このカウント値C5に応じたカウント値を前記DA変換手段に設定し前記スイッチに前記DA変換手段の出力を選択させると共に、前記第2の電圧のアナログ入力信号が入力されている状態で前記マルチプレクサに前記差動アンプの出力を選択させたときの前記AD変換手段のカウント値C5’とを取得し、これらカウント値C1,C1’,C5,C5’と前記倍率MAGと
、前記差動アンプの入力オフセット電圧Voffと等価またはそれ以上の電圧を発生する前記DA変換手段のカウント値kとに基づいて、GAIN=((C5×MAG−C5’)−(C1×MAG−C1’))/((C5−C1)×2^(m−n))、OFFSET=(C1×MAG−C1’)−(C1×2^(m−n)−k)×GAINにより、前記ゲインGAINと前記オフセットOFFSETとを計算し、前記調整手段は、測定時に、前記マルチプレクサに前記アナログ入力信号を一時的に選択させたときの前記AD変換手段のカウント値Cinを取得し、このカウント値Cinに応じたカウント値を前記DA変換手段に設定した後に、前記マルチプレクサに前記差動アンプの出力を選択させ、前記出力手段は、測定時に、前記調整手段によって前記DA変換手段に設定されたカウント値が0以下の場合、前記マルチプレクサが前記差動アンプの出力を選択したときの前記AD変換手段のカウント値を精度拡張後のカウント値Cad’として出力し、測定時に、前記調整手段によって前記DA変換手段に設定されたカウント値が0より大きい場合、前記マルチプレクサが前記差動アンプの出力を選択したときの前記AD変換手段のカウント値Cadと前記DA変換手段に設定されたカウント値Cdaと前記ゲインGAINと前記オフセットOFFSETとに基づいて、精度拡張後のカウント値Cad’をCad’=Cad+(Cda×GAIN)+OFFSETにより計算して出力することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のAD変換装置の1構成例において、前記調整手段は、前記差動アンプの電圧増幅度をα、前記差動アンプの入力オフセット電圧Voffと等価またはそれ以上の電圧を発生する前記DA変換手段のカウント値をkとしたとき、前記第1の電圧のアナログ入力信号に対応する精度拡張後のカウント値C1Vと、前記第2の電圧のアナログ入力信号に対応する精度拡張後のカウント値C5Vとを、C1V=α×C1=C1’+GAIN×(C1×2^(m−n)−k)+OFFSET、C5V=α×C5=C5’+GAIN×(C5×2^(m−n)−k)+OFFSETにより計算することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のAD変換装置の1構成例において、前記調整手段は、前記差動アンプの入力オフセット電圧Voffと等価またはそれ以上の電圧を発生する前記DA変換手段のカウント値をkとしたとき、前記第1の電圧のアナログ入力信号に対応する精度拡張後のカウント値C1Vと、前記第2の電圧のアナログ入力信号に対応する精度拡張後のカウント値C5Vとを、C1V=MAG×C1=C1’+GAIN×(C1×2^(m−n)−k)+OFFSET、C5V=MAG×C5=C5’+GAIN×(C5×2^(m−n)−k)+OFFSETにより計算することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のAD変換装置の1構成例において、前記第1の電圧をV1、前記第2の電圧をV5としたとき、前記出力手段は、前記カウント値Cad’を、Value=(V5−V1)×(Cad’−C1V)/(C5V−C1V)+V1により電圧値Valueに変換して出力することを特徴とするものである。
また、本発明のAD変換装置の1構成例において、前記調整手段は、前記DA変換手段から前記アナログ入力信号と一致する電圧が出力されるときの前記DA変換手段のカウント値から所定値kを減算した値を、前記マルチプレクサに前記アナログ入力信号を選択させたときの前記AD変換手段のカウント値に基づいて計算し、計算したカウント値を前記DA変換手段に設定するものであり、前記所定値kは、前記差動アンプの入力オフセット電圧Voffと等価またはそれ以上の電圧を発生する前記DA変換手段のカウント値である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、mビットDA変換手段と、差動アンプと、マルチプレクサと、nビットAD変換手段と、調整手段と、出力手段とを設けることにより、ゲイン・オフセット調整の際にはアナログ入力信号を与えてAD変換手段のカウント値を取得するだけでよいので、AD変換装置の回路が1チップに集積化されている場合でも調整が可能であり、nビットのα倍(αは差動アンプの電圧増幅度)相当の高精度なAD変換を実現することができる。本発明では、ICチップに内蔵のAD変換装置だけでAD変換精度を向上させることができ、外付けの高精度AD変換器を不要にすることができる。また、調整作業も、従来のAD変換装置を使った場合と同等の手間で行なうことができる。
【0017】
また、本発明では、DA変換手段と差動アンプの反転入力端子との間にスイッチを設けることにより、差動アンプの電圧増幅度に誤差がある場合でも、高精度なAD変換を実現することができる。
【0018】
また、本発明では、DA変換手段からアナログ入力信号と一致する電圧が出力されるときのDA変換手段のカウント値から所定値k(差動アンプの入力オフセット電圧と等価またはそれ以上の電圧を発生するDAカウント値)を減算した値を、マルチプレクサにアナログ入力信号を選択させたときのAD変換手段のカウント値に基づいて計算し、計算したカウント値をDA変換手段に設定することにより、差動アンプの動作を安定させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態に係るAD変換装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態のAD変換装置は、8ビットDA変換器(以下、DAC)1と、アナログ入力信号VinとDAC1の出力信号との差を増幅する差動アンプ2と、アナログ入力信号Vinと差動アンプ2の出力信号のうちいずれか1つを選択的に出力可能なマルチプレクサ3と、マルチプレクサ3の出力信号をデジタル信号に変換する12ビットAD変換器(以下、ADC)4と、マルチプレクサ3が差動アンプ2の出力を選択したときの12ビットADC4のカウント値と8ビットDAC1に設定されたカウント値とゲインGAINとオフセットOFFSETとに基づいて計算したカウント値を出力する出力部5と、マルチプレクサ3にアナログ入力信号Vinを選択させたときの12ビットADC4の出力に応じたカウント値を8ビットDAC1に設定して出力電圧を発生させ、ゲインGAINとオフセットOFFSETとを求める調整部6とから構成される。
【0021】
本実施の形態では、2点の電圧の調整だけでAD変換装置のゲイン・オフセット調整が完了し、DAC1の出力や差動アンプ2の出力など回路の途中の値を計測しなくても済む方法を提供する。
そこで、本実施の形態では、マルチプレクサ3を設けて、1〜5Vのアナログ入力信号VinをADC4で直接測定できるようにする。
【0022】
DAC1と差動アンプ2とマルチプレクサ3とADC4としては、マイクロコンピュータに内蔵されているものを用いる。すなわち、DAC1と差動アンプ2とマルチプレクサ3とADC4とCPU(Central Processing Unit)とメモリとが、同一のICチップ上に搭載されている。このようなICチップとしては、例えばルネサスエレクトロニクス株式会社製のスマートアナログMCUがある(http://japan.renesas.com/products/smart_analog/smart_analog_mcu/index.jsp)。コンピュータのCPUは、コンピュータのメモリに格納されたプログラムに従って以下のような処理を実行し、出力部5と調整部6として機能する。
【0023】
なお、通常のマイクロコンピュータ内蔵のADCは多チャンネル用意されており、1つのADCをマルチプレクサで切り替えて多チャンネル化しているので、同じ入力電圧であればADCの出力はどのチャンネルも同じカウント値になる。
本実施の形態では、差動アンプ2の電圧増幅度αを10とする。
【0024】
以下、本実施の形態のAD変換装置のゲイン・オフセット調整方法について
図2を参照して説明する。
まず、調整部6は、図示しない外部の電圧発生手段を制御してアナログ入力信号Vin=1Vを発生させ(
図2ステップS100)、次にマルチプレクサ3を制御して、アナログ入力信号Vinを選択させ(
図2ステップS101)、このときの12ビットADC4のカウント値(デジタル値)C1を取得する(
図2ステップS102)。
【0025】
続いて、調整部6は、同様にアナログ入力信号Vin=1Vを発生させ(
図2ステップS103)、8ビットDAC1に(C1/16−20)のカウント値を設定して、このカウント値に対応する電圧を8ビットDAC1から出力させ(
図2ステップS104)、さらにマルチプレクサ3を制御して、差動アンプ2の出力信号を選択させて(
図2ステップS105)、このときの12ビットADC4のカウント値C1’を取得する(
図2ステップS106)。
【0026】
アナログ入力信号Vinを12ビットADC4に入力したときの12ビットADC4のカウント値を16で除算して、この除算の結果のカウント値を8ビットDAC1に設定すれば、8ビットDAC1はアナログ入力信号Vinに近い電圧を発生することができる。しかし、アナログ入力信号Vinと共に、このアナログ入力信号Vinと一致する電圧を8ビットDAC1から差動アンプ2に入力すると、差動アンプ2の動作が不安定となるため、(C1/16)から本差動アンプの入力オフセット電圧相当のカウント値(20カウント)小さめの値を8ビットDAC1に設定するようにしている。
【0027】
次に、調整部6は、図示しない外部の電圧発生手段を制御してアナログ入力信号Vin=5Vを発生させ(
図2ステップS107)、次にマルチプレクサ3を制御して、アナログ入力信号Vinを選択させ(
図2ステップS108)、このときの12ビットADC4のカウント値C5を取得する(
図2ステップS109)。
【0028】
続いて、調整部6は、同様にアナログ入力信号Vin=5Vを発生させ(
図2ステップS110)、8ビットDAC1に(C5/16−20)のカウント値を設定して、このカウント値に対応する電圧を8ビットDAC1から出力させ(
図2ステップS111)、さらにマルチプレクサ3を制御して、差動アンプ2の出力信号を選択させて(
図2ステップS112)、このときの12ビットADC4のカウント値C5’を取得する(
図2ステップS113)。8ビットDAC1の設定値を(C5/16−20)とする理由は上記と同じである。
【0029】
次に、調整部6は、取得した4点の12ビットADC4のカウント値C1,C1’,C5,C5’から本実施の形態のAD変換装置のゲインGAINとオフセットOFFSETの値を次式のように算出する(
図2ステップS114)。
GAIN=((C5×α−C5’)−(C1×α−C1’))
/((C5−C1)×2^(m−n)) ・・・(4)
OFFSET=(C1×α−C1’)−(C1×2^(m−n)−k)×GAIN
・・・(5)
【0030】
式(4)、式(5)におけるαは上記のとおり差動アンプ2の電圧増幅度、mはDAC1のビット数(本実施の形態ではm=8)、nはADC4のビット数(本実施の形態ではn=12)、kは差動アンプ2の入力オフセット電圧Voffと等価またはそれ以上の電圧を発生する8ビットDAC1のカウント値である。
【0031】
さらに、調整部6は、アナログ入力信号Vin=1Vに対応する15ビット精度拡張後のカウント値C1Vと、アナログ入力信号Vin=5Vに対応する15ビット精度拡張後のカウント値C5Vとを次式のように算出する(
図2ステップS115)。
C1V=α×C1=C1’+GAIN×(C1×2^(m−n)−k)+OFFSET
・・・(6)
C5V=α×C5=C5’+GAIN×(C5×2^(m−n)−k)+OFFSET
・・・(7)
【0032】
そして、調整部6は、算出したゲインGAINとオフセットOFFSETとカウント値C1V,C5Vとを出力部5に設定する(
図2ステップS116)。以上で、ゲイン・オフセット調整が終了する。
【0033】
次に、式(4)、式(5)の求め方について説明すると、差動アンプ2の電圧増幅度α=10が正確だとすると、アナログ入力信号Vin=1Vに対応する15ビット精度拡張後のカウント値(C1×10)と、アナログ入力信号Vin=5Vに対応する15ビット精度拡張後のカウント値(C5×10)は次のようになるはずである。
C5×10=C5’+GAIN×(C5/16−20)+OFFSET ・・(8)
C1×10=C1’+GAIN×(C1/16−20)+OFFSET ・・(9)
【0034】
式(4)、式(5)は、式(8)、式(9)をゲインGAINとオフセットOFFSETに関する連立方程式として解いたものである。
なお、15ビット相当(12ビットの8倍)のアナログ入力信号Vinの電圧は、次式により算出できる。
Vin=4.0×((Cad+GAIN×Cda+OFFSET−C1V)
/(C5V−C1V))+1.0 ・・・(10)
【0035】
式(10)におけるCadは12ビットADC4のカウント値、Cdaは8ビットDAC1のカウント値である。
次に、本実施の形態のゲイン・オフセット調整の計算例を示す。上記のステップS100〜S113の処理によりカウント値C1=852、C1‘=512、C5=4110、C5’=1024が得られたとすると、式(4)〜式(7)によりGAIN=160.34、OFFSET=−9、C1V=8520、C5V=41100という調整結果が得られる。アナログ入力信号Vinの電圧は次式のように計算できる。
Vin=4.0×((Cad+160.34×Cda−9−8520)
/(41190−8520))+1.0 ・・・(11)
【0036】
次に、本実施の形態のAD変換装置の測定時の動作について
図3を参照して説明する。まず、調整部6は、測定に際してマルチプレクサ3を制御して、アナログ入力信号Vinを一時的に選択させ(
図3ステップS200)、アナログ入力信号VinをAD変換した結果である12ビットADC4のカウント値Cinを取得する(
図3ステップS201)。
【0037】
続いて、調整部6は、8ビットDAC1に(Cin/16−20)のカウント値を設定して、このカウント値に対応する電圧を8ビットDAC1から出力させ(
図3ステップS202)、さらにマルチプレクサ3を制御して、差動アンプ2の出力信号を選択させる(
図3ステップS203)。8ビットDAC1の設定値を(Cin/16−20)とする理由は上記と同じである。
【0038】
出力部5は、8ビットDAC1に設定するカウント値(Cin/16−20)が0以下の場合、12ビットADC4のカウント値をそのまま15ビット相当のカウント値Cad’として出力する(
図3ステップS204)。
【0039】
また、出力部5は、8ビットDAC1に設定するカウント値(Cin/16−20)が0より大きい場合、差動アンプ2の出力信号をAD変換した結果である12ビットADC4のカウント値Cadと、8ビットDAC1に設定するカウント値Cda=(Cin/16−20)と、ゲインGAINと、オフセットOFFSETとから、15ビット相当のカウント値Cad’を次式のように計算する(ステップS204)
Cad’=Cad+(Cda×GAIN)+OFFSET ・・・(12)
【0040】
なお、出力部5は、カウント値(デジタル値)Cad’を電圧値Valueに変換したい場合には、次式により計算すればよい。
Value=(V5−V1)×(Cad’−C1V)/(C5V−C1V)+V1
・・・(13)
【0041】
式(13)におけるV1はアナログ入力信号Vinの第1の電圧(本実施の形態では1V)、V5はアナログ入力信号Vinの第2の電圧(本実施の形態では5V)である。
【0042】
以上のように、本実施の形態では、調整値としてはゲインGAINとオフセットOFFSETとカウント値C1V,C5Vの4点が必要であるが、ゲイン・オフセット調整の際にはアナログ入力信号Vinを与えて12ビットADC4のカウント値を取得するだけでよいので、AD変換装置の回路が1チップに集積化されている場合でも調整が可能であり、高精度なAD変換を実現することができる。本実施の形態では、ICチップに内蔵のAD変換装置だけでAD変換精度を向上させることができ、外付けの高精度AD変換器を不要にすることができる。また、調整作業も、
図8に示した従来のAD変換装置を使った場合と同等の手間で行なうことができる。
【0043】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図4は本発明の第2の実施の形態に係るAD変換装置の構成を示すブロック図であり、
図1と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態のAD変換装置は、8ビットDAC1と、差動アンプ2と、マルチプレクサ3と、12ビットADC4と、出力部5と、調整部6aと、8ビットDAC1の出力と差動アンプ2の反転入力端子との間に設けられたスイッチ7とから構成される。
【0044】
第1の実施の形態では、差動アンプ2の電圧増幅度αが正確に10であることを前提としているが、本実施の形態では、差動アンプ2の電圧増幅度αに誤差があることを想定している。そこで、本実施の形態では、スイッチ7を設け、8ビットDAC1の出力電圧と接地電圧GNDのうちいずれか1つを選択的に差動アンプ2の反転入力端子に入力できるようにしている。
【0045】
本実施の形態においても、8ビットDAC1と差動アンプ2とマルチプレクサ3と12ビットADC4とスイッチ7としては、コンピュータに内蔵されているものを用いる。このコンピュータのCPUは、コンピュータのメモリに格納されたプログラムに従って処理を実行し、出力部5と調整部6aとして機能する。
【0046】
以下、本実施の形態のAD変換装置のゲイン・オフセット調整方法について
図5を参照して説明する。
まず、調整部6aは、スイッチ7を制御して、
図6に示すようにスイッチ7に接地電圧GNDを選択させ(
図5ステップS117)、図示しない外部の電圧発生手段を制御してアナログ入力信号Vin=0.5Vを発生させ(
図5ステップS118)、次にマルチプレクサ3を制御して、アナログ入力信号Vinを選択させ(
図5ステップS119)、このときの12ビットADC4のカウント値(デジタル値)C005を取得する(
図5ステップS120)。
【0047】
続いて、調整部6aは、同様にアナログ入力信号Vin=0.5Vを発生させ(
図5ステップS121)、マルチプレクサ3を制御して、差動アンプ2の出力信号を選択させて(
図5ステップS122)、このときの12ビットADC4のカウント値C05を取得する(
図5ステップS123)。
【0048】
そして、調整部6aは、カウント値C05とC005の倍率MAGを次式のように算出する(
図5ステップS124)。
MAG=C05/C005 ・・・(14)
【0049】
この倍率MAGは、差動アンプ2の電圧増幅度αを表している。倍率MAGの算出後、調整部6aは、スイッチ7を制御して、
図4に示した状態に戻し、スイッチ7に8ビットDAC1の出力を選択させる(
図5ステップS125)。以降の全ての動作では、スイッチ7は8ビットDAC1の出力を選択し、第1の実施の形態と同様に8ビットDAC1の出力電圧が差動アンプ2の反転入力端子に入力される。
【0050】
ステップS100〜S113の処理は第1の実施の形態で説明したとおりである。次に、調整部6aは、倍率MAGと、取得した4点の12ビットADC4のカウント値C1,C1’,C5,C5’とからゲインGAINとオフセットOFFSETの値を次式のように算出する(
図5ステップS114a)。
GAIN=((C5×MAG−C5’)−(C1×MAG−C1’))
/((C5−C1)×2^(m−n)) ・・・(15)
OFFSET=(C1×MAG−C1’)−(C1×2^(m−n)−k)×GAIN
・・・(16)
【0051】
また、調整部6aは、アナログ入力信号Vin=1Vに対応する15ビット精度拡張後のカウント値C1Vと、アナログ入力信号Vin=5Vに対応する15ビット精度拡張後のカウント値C5Vとを次式のように算出する(
図5ステップS115a)。
C1V=MAG×C1=C1’+GAIN×(C1×2^(m−n)−k)
+OFFSET ・・・(17)
C5V=MAG×C5=C5’+GAIN×(C5×2^(m−n)−k)
+OFFSET ・・・(18)
【0052】
そして、調整部6aは、算出したゲインGAINとオフセットOFFSETとカウント値C1V,C5Vとを出力部5に設定する(
図5ステップS116)。以上で、本実施の形態のゲイン・オフセット調整が終了する。
【0053】
本実施の形態においても、AD変換装置の測定時の動作は
図3で説明したとおりであり、電圧値Valueの算出方法も式(13)に示したとおりである。
本実施の形態のゲインGAINとオフセットOFFSETとカウント値C1V,C5Vの計算例を
図7に示す。
【0054】
以上のように、本実施の形態によれば、差動アンプ2の電圧増幅度αに誤差がある場合でも、高精度なAD変換を実現することができる。
【0055】
なお、本実施の形態では、8ビットDAC1と12ビットADC4を用いているが、これに限るものではなく、DAC1としてはmビットDACを用いればよく、ADC4としてはnビットADCを用いればよい。これにより、nビットのα倍(αは差動アンプの電圧増幅度)相当の高精度なAD変換を実現することができる。