【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2015年8月1日 「第9回日本ポリフェノール学会学術大会(年次大会)講演要旨集、第40頁 11」にて発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酵素の阻害活性を指標とする上記の方法では、その酵素に対しては阻害活性を有しないが血中尿酸値低下作用を有する物質を候補物質として選択することができない。すなわち、例えば、他の酵素への作用で血中尿酸値低下作用を示す物質を見逃してしまう。一方、動物を用いた方法は、貴重な被験物質を相当量必要とすることに加え、時間や費用を要する。そのため、一次スクリーニング法としては、血中尿酸値低下作用を有しうる候補物質を広く同定することが可能であるとともに、動物を用いない方法が望まれる。
本発明の課題は、血中尿酸値低下作用を有しうる物質を候補物質として漏れなく同定することが可能であるとともに、動物を用いないスクリーニング法を提供することである。また、本発明は血中尿酸値を低下させるための医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、この知見に基づいて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記の[1]〜[9]を提供するものである。
【0006】
[1]血中尿酸値低下作用を有しうる候補物質を同定する方法であって、
被検物質の存在下、緩衝溶液中で肝臓細胞を維持すること、および
上記維持後の上記緩衝溶液中の尿酸量を測定することを含み、
上記被検物質の存在により上記尿酸量が減少する場合に、上記被検物質が上記候補物質として同定される、方法。
[2]上記緩衝溶液が上記被検物質を含む[1]に記載の方法。
[3]上記緩衝溶液が尿酸前駆体を含む[1]または[2]に記載の方法。
[4]上記尿酸前駆体がアデノシン、グアノシン、イノシン、ヒポキサンチン、グアニン、およびキサンチンからなる群より選択される1種以上である[3]に記載の方法。
[5]上記尿酸前駆体がグアノシン、イノシンからなる群より選択される1種以上である[3]に記載の方法。
[6]上記肝臓細胞がマウス培養細胞である[1]〜[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7]上記緩衝溶液が緩衝塩類液である[1]〜[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8]式(I)で表される化合物もしくはその薬学的に許容される塩、またはそれらの水和物もしくはそれらの溶媒和物を有効成分として含む、血中尿酸値を低下させるための医薬組成物:
【0007】
【化1】
【0008】
式中、XはCH
2またはC=Oを示し、R
1〜R
5はそれぞれHまたはOHを示す。
[9]XがC=Oであり、R
1〜R
4がそれぞれOHであり、R
5がHである[8]に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、血中尿酸値低下作用を有しうる物質を候補物質として漏れなく同定することが可能であるとともに、動物を用いないスクリーニング法が提供される。また、本発明においては、上記スクリーニング法により、血中尿酸値低下作用が知られていなかった物質にこの作用があることを見いだした。この物質により血中尿酸値を低下させるための医薬組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のスクリーニング法は、血中尿酸値低下作用を有しうる候補物質を同定する方法である。本明細書において、血中尿酸値低下作用というとき、血中尿酸値を低下させる作用であってもよく、血中尿酸値の上昇を抑制する作用であってもよい。血中尿酸値低下作用を有しうる候補物質とは、血中尿酸値低下作用を有する蓋然性の高い物質であり、さらなる評価やスクリーニング法に供して、血中尿酸値低下作用を有する物質として選択することができる物質である。
【0012】
本発明のスクリーニング法は、種々の機構で血中尿酸値低下作用を有する物質を見いだすことが可能である。特定の酵素の活性に着目する方法ではないためである。また本発明のスクリーニング法は、動物の利用が不要であって、安価で簡便である。本発明のスクリーニング法は、例えば、モデル動物を利用したスクリーニングの前の一次スクリーニングとして使用することができる。
【0013】
本発明のスクリーニング法は、被検物質の存在下、緩衝溶液中で肝臓細胞を維持すること、および上記培養後の上記肝臓細胞の上記緩衝溶液中の尿酸量を測定することを含む。本明細書において、「維持」は、「定温放置」または「培養」の意味で用いられる。被検物質の存否による肝臓細胞での尿酸の産生量の増減は被検物質の血中尿酸値低下作用活性の指標となると考えられる。本発明者らは、後述の実施例で示すように肝臓細胞中で産生される尿酸は大部分がその肝臓細胞を維持する緩衝溶液中に漏出することを確認し、上記の培養後の緩衝溶液中の尿酸量が肝臓細胞による尿酸の産生量を反映していることを見いだした。すなわち、被検物質の存在により上記の維持後の緩衝溶液中の尿酸量が減少する場合に、この被検物質を血中尿酸値低下作用を有しうる候補物質として同定することができることを見出した。
【0014】
被検物質の添加により肝臓細胞による尿酸の産生量が減少するか否かは、対照との比較において確認することができる。
例えば、被検物質を2つ以上の異なる濃度で添加した緩衝溶液中でそれぞれ肝臓細胞を維持し、より高い濃度で被検物質を添加した緩衝溶液での尿酸量がより低い濃度で被検物質を添加した緩衝溶液での尿酸量よりも少ない場合に、被検物質が血中尿酸値低下作用を有しうる候補物質であると判定することができる。ここで2つ以上の異なる濃度のうちの一つは実質的にゼロであってもよい。すなわち、被検物質を添加しなかった緩衝溶液と添加した緩衝溶液とを比較して、添加した緩衝溶液で尿酸量が少ない場合に、その被検物質を候補物質であると判定してもよい。この際、被検物質の添加量に応じた上記尿酸量の低下の程度に基準を設けて、基準量以上減少した場合に候補物質であると判定してもよい。
また、複数の被検物質について、それぞれ、同じ条件で培養と尿酸量の測定とを行い、より少ない尿酸量を示した被検物質を候補物質として選別してもよい。
【0015】
本明細書において、「被検物質の存在下」での維持は、通常、肝臓細胞を維持する緩衝溶液に被検物質を添加することにより達成できる。具体的には、被検物質が存在する緩衝溶液中で肝臓細胞を維持し、その後この緩衝溶液中の尿酸量が測定されることが好ましい。緩衝溶液中の被検物質の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1μM〜1mM、好ましくは1μM〜500μM、より好ましくは1μM〜300μMの範囲で適宜選択すればよい。
被検物質の少なくとも一部が肝臓細胞中に存在しうる状態とされるかぎり、そのほかの方法で肝臓細胞に被検物質を添加することもできる。
【0016】
肝臓細胞は哺乳動物の肝臓細胞であることが好ましく、マウスの肝臓細胞、またはヒトもしくは類人猿(テナガザル、オランウータン、チンパンジー、ゴリラ)の肝臓細胞であることがより好ましい。肝臓細胞としては、市販の細胞培養株を用いてもよい。例えば、ATCC(American Type Culture Collection, Manassas, VA, USA)またはコスモ・バイオ社から入手可能な肝臓細胞株、特にマウス培養細胞を用いてもよい。
【0017】
肝臓細胞は被検物質または尿酸前駆体を添加する前にマルチウェルプレート等の容器に播種して培養を行うことが好ましい。培養は、一般的に細胞の培養に用いられている条件にて行えばよい。例えば、10%(v/v)牛胎仔血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地とハムF−12培地の1:1混合培地(DMEM/F−12培地)を用いてpH6.0〜8.0、好ましくは7.0〜7.5の条件下で、培養を行えばよい。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。培養温度は一般的に肝臓細胞の培養に用いられる温度(例えば37℃)で、12〜96時間の培養を行えばよい。
【0018】
培養後の肝臓細胞は洗浄することが好ましい。洗浄は、例えばリン酸緩衝生理食塩水を用いて行うことができる。特に、カルシウムおよびマグネシウムを含まないリン酸緩衝生理食塩水で洗浄することが好ましい。洗浄後の肝臓細胞に、例えば被検物質または尿酸前駆体を含む緩衝溶液を加えればよい。
【0019】
培養後に尿酸量を測定する緩衝溶液は使用する肝臓細胞の維持が可能であるかぎり、どのようなものを用いてもよい。
緩衝溶液のpHは6.0〜8.0であればよく、7.0〜7.5であることが好ましく、7.2〜7.4であることがより好ましい。緩衝溶液の例としては、リン酸緩衝食塩液(PBS)、HEPES緩衝液(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタン−1−スルホン酸塩溶液)、トリス(Tris:トリスヒドロキシメチルアミノメタン)塩酸緩衝液などが挙げられる。また、緩衝塩類液(BSS)として知られる、緩衝溶液も好ましい。緩衝塩類液(BSS)は細胞に不可欠な無機塩を含み,血清や組織液と等張になるように調合されている緩衝機能を有する生理的塩類溶液である。BSSとしては、Earle’s balanced salt solutionが特に好ましい。
【0020】
培養後に尿酸量を測定する緩衝溶液における維持においての温度は特に限定されず、一般的に肝臓細胞の培養に用いられる温度(例えば37℃)で、行えばよい。維持時間は、30分〜96時間であればよく、1時間〜24時間であることが好ましい。実施例で示すように2時間程度の維持であってもよい。通常、維持時間は上記緩衝溶液を肝臓細胞に添加した時または被検物質添加時を始点とすればよい。
【0021】
本発明のスクリーニング法では尿酸前駆体を使用することも好ましい。例えば、肝臓細胞の維持を、尿酸前駆体を含む緩衝溶液中で行ってもよく、または肝臓細胞の培養の際の培地に尿酸前駆体を加えてもよく、尿酸前駆体の少なくとも一部が肝臓細胞中に存在しうる状態とされるかぎり、その他の方法で肝臓細胞に尿酸前駆体を添加することもできる。このうち、肝臓細胞の維持を尿酸前駆体を含む緩衝溶液中で行うことが好ましく、具体的には、尿酸前駆体が存在する緩衝溶液中で肝臓細胞を維持し、その後この緩衝溶液中の尿酸量が測定されることが好ましい。被検物質および尿酸前駆体を含む緩衝溶液中で肝臓細胞を維持することも好ましい。
【0022】
緩衝溶液への尿酸前駆体の添加量は緩衝溶液での最終濃度が10〜400μMとなる添加量であることが好ましく、50〜200μMとなる添加量であることがより好ましい。
また、本発明のスクリーニング法では既に肝臓細胞内に存在している尿酸や尿酸前駆体に基づき被検物質の添加による尿酸量の変化を測定してもよい。
【0023】
尿酸前駆体としては、アデノシン一リン酸、イノシン一リン酸、アデノシン三リン酸、イノシン三リン酸、グアノシン一リン酸、アデノシン、グアノシン、イノシン、ヒポキサンチン、グアニン、キサントシン一リン酸、キサントシン、キサンチンおよびフルクトースなどが挙げられる。これらのうち、アデノシン、グアノシン、イノシン、ヒポキサンチン、グアニン、キサントシン一リン酸、キサントシン、キサンチンが好ましく、アデノシン、グアノシン、イノシンがより好ましく、グアノシン、イノシンがさらに好ましい。尿酸前駆体は1種用いても、2種以上用いてもよい。グアノシンおよびイノシンの混合物、またはアデノシン、グアノシン、イノシンおよびキサントシンの混合物を用いることも好ましい。
【0024】
同一の被検物質を利用して異なる尿酸前駆体を添加した同一条件の培養を行って尿酸量の測定を行ってもよい。候補物質の同定をより確実にすることができる。また、添加する尿酸前駆体によって、尿酸量の増減に変化がある場合は、例えば被検物質が
図1に示すプリン体の代謝経路のどの段階、またはどの酵素に、作用しているかを類推することも可能である。
【0025】
緩衝溶液中の尿酸量の測定は、例えば、リンタングステン酸法、TPTZ(2, 4, 6-tripyridyl-s-triazine)法、HPLC法、またはウリカーゼ法などにより行えばよい。TPTZ法は、尿酸存在下でTPTZ(2, 4, 6-tripyridyl-s-triazine)と鉄イオンが結合し、青色の錯体を形成することを利用した方法である。形成された錯体を比色定量することで尿酸量を測定する。ウリカーゼ法は、尿酸がウリカーゼの作用によって酸化されてアラントインおよび二酸化炭素と過酸化水素を生ずることを利用するものである。尿酸に特異的であり薬剤などの妨害物質の影響が少ないため好ましい。ウリカーゼ法には、ウリカーゼ反応により産生した過酸化水素を利用して発色物質を生じさせ、これを比色定量する方法と、ウリカーゼを加える前後で波長292nmにおける紫外部吸光度を測定し、その差から尿酸値を求めるUV法がある。これらのうち、比色定量法が好ましい。
【0026】
本発明のスクリーニング法により見いだされた候補物質はさらに動物実験に付して、インビボで血中尿酸値低下作用を確認することが好ましい。動物実験については、Journal of Ethnopharmacology 103(3), 357-365 (2006)またはJournal of Food Science, 78(12), H1935-H1939 (2013)に記載の方法等を参照することができる。
【0027】
本発明者らは、本発明のスクリーニング法を一次スクリーニングとして用いて、式(I)で表される化合物が血中尿酸値低下作用を有することを見いだした。
【0029】
式(I)中、XはCH
2またはC=Oを示し、R
1〜R
5はそれぞれHまたはOHを示す。R
1〜R
5中、2つ以上がOHであることが好ましく、3つ以上がOHであることがより好ましく、4つ以上がOHであることがさらに好ましい。また、XがC=OのときはR
3がHであることが好ましく、XがCH
2のときはR
3がOHであることが好ましい。式(I)において、XがC=Oであり、R
1〜R
4がそれぞれOHであり、R
5がHである化合物が特に好ましい。この化合物はタキシフォリンまたはジヒドロケルセチンと呼ばれる公知の化合物である。タキシフォリンはカラマツなどの森林樹木から抽出される成分で、ロシアや米国では食品サプリメントとして知られている。タキシフォリンとしては、天然抽出成分を用いてもよく、合成品を用いてもよい。
【0030】
式(I)で表される化合物は2個または3個の不斉炭素を有するが、このような不斉炭素の立体化学についてはそれぞれ独立して(R)体または(S)体のいずれかをとることができる。式(I)で表される化合物は光学異性体またはジアステレオ異性体などの立体異性体として存在することがある。純粋な形態の任意の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などは、いずれも本発明の範囲に包含される。タキシフォリンの場合、クロマン環構造の2位と3位の立体配置につき、(2R,3R)、(2R,3S)、(2S,3R)、及び(2S,3S)の4つの立体異性体を取り得る。これらのいずれの立体異性体でもよいが、(+)−タキシフォリン((2R,3R)−ジヒドロケルセチン)が好ましい。
【0031】
式(I)で表される化合物は、その薬学的に許容される塩、またはそれらの水和物もしくはそれらの溶媒和物として用いてもよい。
塩としては、塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩や、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸及び安息香酸等の有機酸との塩が挙げられる。塩や遊離形態の化合物の他、これらの任意の水和物あるいは溶媒和物を有効成分として用いてもよい。上記の溶媒和物を形成し得る溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸エチル、塩化メチレン等が挙げられる。
【0032】
医薬組成物としては、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、丸剤、トローチ、舌下剤、または液剤などの経口投与の製剤、あるいは注射剤、座剤、軟膏、貼付剤などの非経口投与用の製剤を例示することができる。特に経口投与の製剤とすることが好ましい。
【0033】
式(I)で表される化合物またはその塩等は、血液中の尿酸値を低下させる作用を有し、高尿酸血症または高尿酸血症に起因する疾患の予防及び治療上有効である。高尿酸血症に起因する疾患としては、痛風、腎障害、尿路結石等が挙げられる。また、式(I)で表される化合物は、2型糖尿病の悪化防止にも有効である。
タキシフォリンなどの式(I)で表される化合物は、すでに食品サプリメントの成分として公知の成分であり、安全性は高い。
【0034】
そのため、式(I)で表される化合物もしくはその薬学的に許容される塩、またはそれらの水和物もしくはそれらの溶媒和物は、血中尿酸値を低下させるための医薬組成物の有効成分として有用である。医薬組成物は、血中尿酸値上昇抑制用の飲食品、高尿酸血症の予防および/または治療用の飲食品として提供されていてもよい。飲食品としては、飲料、ビスケット、クッキー、チョコレート、ドロップなどの形態とすることができる。
式(I)で表される化合物またはその塩等は、例えば、体重1kg当たり50mg〜1g程度、好ましくは100mg〜500mg程度で、1日1〜5回程度、ヒトまたはそのほかの哺乳動物等に投与することができる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
統計処理
実施例において、統計処理は以下のように行った。
データは平均値±標準誤差で示した。尿酸前駆体添加によるAML12細胞の尿酸産生量の経時的変化の検討では、同一の経過時間における尿酸前駆体間の尿酸産生量の比較は繰り返しのある二元配置分散分析(Two-way repeated measures ANOVA)を行った後にTukey法にて多重比較検定を行った。p<0.05を統計的に有意とし、アルファベットの異なる群間(図に示すグラフにおいて記載のa〜cの文字)において有意差があるとした。濃度の異なる尿酸前駆体を添加した際のAML12細胞の尿酸産生量の検討では、同一の尿酸前駆体における濃度間の比較は一元配置分散分析(One-way ANOVA)を行った後に前駆体無添加群 (0μM)をコントロールとしてDunnett法を用いて多重比較検定を行った。p<0.05を統計的に有意とした。アロプリノールおよびタキシフォリンを添加した際のAML12細胞の尿酸産生量の検討では、各群間の比較は一元配置分散分析(One-way ANOVA)を行った後にTukey法にて多重比較検定を行った。p<0.05を統計的に有意とし、アルファベットの異なる群間(図に示すグラフにおいて記載のa〜cの文字)において有意差があるとした。高尿酸血症モデルマウスを用いた検討では、各群間の比較は一元配置分散分析(One-way ANOVA)を行った後に高尿酸血症モデルマウス群をコントロールとしてDunnett法を用いて多重比較検定を行った。p<0.05を統計的に有意とした。全ての統計解析は、GraphPad Prism 6(GraphPad Software Inc., San Diego, CA, USA)を用いて行った。
【0037】
細胞培養
AML12細胞をATCCより購入し、実験に用いた。10%FBS(ウシ胎児血清、Hyclone,Logan,UT,USA)、5μg/mlインスリン(ヒト組換え体、和光純薬工業株式会社)、5μg/mlトランスフェリン(和光純薬工業株式会社)、3ng/ml セレン(シグマアルドリッチ社(Sigma−Aldrich Chemical Co.,St.Louis,MO,USA))、40ng/ml デキサメタゾン(和光純薬工業株式会社)および1%ペニシリン−ストレプトマイシン(ナカライテスク株式会社)を含むDMEM/F−12培地(Life technologies,Grand Island,NY,USA)にて37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
【0038】
AML12を24ウェルマルチプレートに1.0×10
5細胞/ウェル(400μL)になるように播種し、10%FBS/DMEM/F−12培地で培養した。播種して72時間後に無血清DMEM/F−12培地で24時間培養した。次いで、AML12細胞をリン酸緩衝食塩液PBS(−)、和光純薬工業株式会社)で洗浄した。なお、実施例において、「PBS(−)」はカルシウムおよびマグネシウムを含まないリン酸緩衝食塩液を示す。
【0039】
尿酸前駆体存在下または非存在下での細胞維持および尿酸量
尿酸前駆体として、キサンチン(シグマアルドリッチ社)、グアノシン(シグマアルドリッチ社)、イノシン(シグマアルドリッチ社)、もしくはアデノシン(シグマアルドリッチ社)を選び、ジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬工業株式会社)に溶解し、下記の緩衝塩類液(BSS)中でDMSOの最終濃度が0.05%(v/v)かつ各尿酸前駆体の最終濃度が100μMとなるように添加した。用いた緩衝塩類液(BSS)の組成は、188mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl
2、0.8mM CaCl
2、25mM NaHCO
3、1mM NaH
2PO
4、10mM HEPES、5mM グルコース(全て和光純薬工業株式会社))であり、上記のように洗浄後の肝臓細胞にこの緩衝塩類液を300μL添加した。また、上記尿酸前駆体のいずれも添加せずDMSOのみ添加した上記緩衝塩類液(300μL)を加える群も設けた。
細胞を37℃で維持し、上記添加の0、30、60、90および120分後に、緩衝塩類液を30μLずつ回収した。
【0040】
緩衝塩類液に交換して120分後にPBS(−)で細胞を洗浄後、300μLの1mMリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社)を含むトリス緩衝液(pH7.5、シグマアルドリッチ社)に交換した。緩衝塩類液中の尿酸濃度は、TPTZ法(QuantiChrom(登録商標)Uric Acid Assay Kit,BioAssay Systems,Hayward,CA,USA、測定波長590nm)を用いて測定した。肝臓細胞タンパク量1mg当たりの緩衝塩類液中の尿酸量(nmol)を尿酸産生量(nmol/mg タンパク質)として算出した。
【0041】
結果を
図2に示す。いずれの例においても、時間に応じて尿酸量の増加が見られた。尿酸前駆体を加えない例においても尿酸量の増加が見られたため、本発明のスクリーニング法では、尿酸前駆体を加えなくても、被検物質が尿酸量に与える影響を確認することができることがわかる。
なお、図には示さないが尿酸量は2時間を過ぎた時間で増加が見られなくなった。
【0042】
複数の尿酸前駆体添加量での細胞維持および尿酸量
尿酸前駆体として、キサンチン(シグマアルドリッチ社)、グアノシン(シグマアルドリッチ社)、イノシン(シグマアルドリッチ社)、もしくはアデノシン(シグマアルドリッチ社)を選び、ジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬工業株式会社)に溶解し、下記の緩衝塩類液(BSS)中でDMSOの最終濃度が0.1%(v/v)かつ各尿酸前駆体の最終濃度が0μM、50μM、100μM、もしくは200μMとなるように添加した。用いた緩衝塩類液(BSS)の組成は、188mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl
2、0.8mM CaCl
2、25mM NaHCO
3、1mM NaH
2PO
4、10mM HEPES、5mM グルコース(全て和光純薬工業株式会社))であり、上記のように洗浄後の肝臓細胞にこの緩衝塩類液を300μL添加し、37℃で1時間維持した。その後、緩衝塩類液を200μL回収した。PBS(−)で洗浄後、300μLの1mMリン酸ナトリウム (和光純薬工業株式会社)を含むトリス緩衝液(pH7.5、シグマアルドリッチ社)に交換し、セルスクレイパーで細胞を回収した。緩衝塩類液および細胞中の尿酸濃度は、TPTZ法 (QuantiChrom(登録商標)Uric Acid Assay Kit,BioAssay Systems,Hayward,CA,USA、測定波長590nm)を用いて測定した。また回収した細胞のタンパク量は、ビシンコニン酸法(Pierce BCA protein assay kit,Thermo Fisher Scientific Inc.,Waltham,MA,USA)を用いて測定した。肝臓細胞タンパク量1mg当たりの緩衝塩類液中の尿酸量(nmol)を尿酸産生量(nmol/h/mgタンパク質)として算出した。
【0043】
結果を
図3に示す。緩衝塩類液中で尿酸量の増加が見られた(
図3(a))一方で、細胞中では尿酸量の増加が見られず(
図3(b))、肝臓細胞中で産生した尿酸は全て肝臓細胞培養の緩衝塩類液に放出されていることが確認された。このことは緩衝塩類液中の尿酸量が肝臓細胞の尿酸産生量の指標となることを示した。
【0044】
アロプリノールおよび尿酸前駆体存在下での細胞維持
アロプリノールは血中尿酸値低下作用を有する物質として公知の化合物である。
上記のように洗浄後の細胞に、アロプリノール0nM、1nM、10nM、または100nM、ならびにグアノシンおよびイノシンをそれぞれ100μM含む緩衝塩類液を添加し、37℃で2時間維持後に緩衝塩類液を回収した。その中の尿酸濃度をウリカーゼ比色法にて確認した。
結果を
図4に示す。
図4から分かるように、アロプリノールを添加しない例(0nM)と比較して、添加した例において尿酸量が低下しており、本発明のスクリーニング法により、血中尿酸値低下物質が候補物質として判定できることが示された。
【0045】
被検物質および尿酸前駆体存在下での細胞維持
下記の緩衝塩類液(BSS)中での各尿酸前駆体最終濃度が100μMのキサンチン(シグマアルドリッチ社)、100μMのグアノシン(シグマアルドリッチ社A)、100μMのイノシン(シグマアルドリッチ社)または100μMのグアノシン+100μMのイノシンとなるように緩衝塩類液(188mM NaCl,5mM KCl,1mM MgCl
2,0.8mM CaCl
2,25mM NaHCO
3,1mM NaH
2PO
4、10mM HEPES,5mMグルコース(全て和光純薬工業株式会社))に添加した。タキシフォリン((+)−タキシフォリン、シグマアルドリッチ社)をDMSOに溶解し、これら各前駆体を含む緩衝塩類液中での最終濃度が0、50、100または200μMとなるように調製した緩衝塩類液200μL(DMSOとしての塩類液中での最終濃度は0.15%)を、上記のように洗浄後の肝臓細胞に加え37℃で2時間維持した。
【0046】
尿酸産生量測定
その後、緩衝塩類液を150μL回収した。PBS(−)で洗浄後、300μLの1mMリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社)を含むトリス緩衝液(pH7.5、シグマアルドリッチ社)に交換した。緩衝塩類液中の尿酸濃度は、ウリカーゼ比色法(尿酸C−テストワコー,和光純薬工業株式会社)を用いて測定した。測定波長は555nmで行った。肝臓細胞タンパク質の量1mg当たりの緩衝塩類液中の尿酸量(nmol)を尿酸産生量(nmol/2h/mg タンパク質)として算出した。結果を
図5に示す。なお、
図5に示すグラフで示される個々の値は平均±標準誤差(n=6)である。
【0047】
図5に示す結果から分かるように、キサンチン、グアノシン、イノシンおよびグアノシン+イノシンのいずれの尿酸前駆体の存在下においても、タキシフォリン添加によりAML12細胞の尿酸の産生量は統計的に有意に抑制された。キサンチンおよびグアノシン同時存在下、特にグアノシン存在下では、50、100および200μMタキシフォリン添加群の尿酸産生量は、タキシフォリン非添加群と比べて有意に低い値を示した。イノシン存在下、ならびにグアノシンおよびイノシンの存在下では、100μMタキシフォリン添加群および200μMタキシフォリン添加群の尿酸産生量は非添加群と比べて有意に低い値を示した。以上の結果より、タキシフォリンにはAML12細胞の尿酸産生抑制作用があることが示唆された。
【0048】
動物実験
雄性ICRマウス4週齢を日本チャールズ・リバー株式会社より購入し、通常食(CRF−1、オリエンタル酵母工業株式会社)で一週間予備飼育した。その後、マウスを体重が均等になるようにして以下のように群分けを行った。すなわち、正常マウス群、高尿酸血症モデルマウス群、アロプリノール群、タキシフォリン低用量群および高用量群の5群とし(10匹/群)、試験に供した。予備飼育終了後、マウスに4時間の絶食を課し、0.5%(w/v)カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na、和光純薬工業株式会社)溶液で懸濁したタキシフォリン(Adooq Bioscience,LLC.,Irvine,CA,USA)を体重1kg当たりタキシフォリン低用量群には100mg、高用量群には300mg経口投与した。アロプリノール群には0.5%CMC−Na溶液で懸濁したアロプリノールを体重1kg当たり10mg経口投与し、正常マウス群および高尿酸血症モデルマウス群には0.5%CMC−Na溶液のみを経口投与した。サンプルの経口投与を3日間連続で行い、3日目の投与後1時間後に正常マウス群以外のマウスにPBS(−)に溶解したグアノシン 5’−モノリン酸(GMP、東京化成工業株式会社)とイノシン 5’−モノリン酸(IMP、東京化成工業株式会社)の両方をそれぞれ300mg/kg腹腔内投与した。正常マウス群にはPBS(−)のみを投与した。腹腔内投与の1時間後に、イソフルラン(Pfizer Inc.,New York,NY,USA)麻酔下でマウスを開腹し、腹部下大静脈より採血を行った。回収した血液はヘパリン(和光純薬工業株式会社)処理を行い、4℃で8000rpm、10分間遠心分離し、血漿試料を得た。血漿中尿酸濃度は、ウリカーゼ比色法(尿酸C−テストワコー,和光純薬工業株式会社))を用いて測定した。
【0049】
結果を
図6に示す
図6から、タキシフォリンの投与(300mg/kg)により、高尿酸血症モデルマウスの血漿中尿酸濃度が用量依存的かつ有意(P<0.05)に低下していることが分かり、肝臓細胞を用いたスクリーニング法において尿酸量の低下を示した物質の血中尿酸値低下活性が示された。
タキシフォリンはJournal of Natural Products, 61(1), 71-76 (1998)において、キサンチンオキシダーゼ阻害活性が極めて低いことが示されていた化合物であるが、本発明のスクリーニング法においてタキシフォリンは血中尿酸値低下物質であることを示す結果が得られ、本スクリーニング系の優れた網羅性を示した。
【0050】
図5に示す結果から分かるように、タキシフォリン添加による尿酸産生量の抑制は、尿酸前駆体としてグアノシンまたはイノシンを添加した場合よりもグアノシンを添加したときに顕著である。グアノシンからの尿酸産生のみにかかわる主な酵素としてはグアニンデアミナーゼが知られている(
図1参照)。そのため、タキシフォリンの血中尿酸値低下活性は、主にタキシフォリンがグアニンデアミナーゼ阻害活性を有することによるものと考えられる。