(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6486360
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】一酸化炭素及び/又は揮発性有機化合物の酸化触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/644 20060101AFI20190311BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20190311BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20190311BHJP
B01J 37/18 20060101ALI20190311BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20190311BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20190311BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
B01J23/644 AZAB
B01J23/46 301A
B01J37/02 101E
B01J37/18
B01J37/16
B01D53/86 150
B01D53/86 245
B01D53/94 150
B01D53/94 245
【請求項の数】24
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-536442(P2016-536442)
(86)(22)【出願日】2014年8月21日
(65)【公表番号】特表2016-534869(P2016-534869A)
(43)【公表日】2016年11月10日
(86)【国際出願番号】US2014052036
(87)【国際公開番号】WO2015027031
(87)【国際公開日】20150226
【審査請求日】2017年7月28日
(31)【優先権主張番号】61/869,137
(32)【優先日】2013年8月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505470786
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シャオリン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】パスカリーン トラン
(72)【発明者】
【氏名】チンユアン フー
【審査官】
森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】
特表2003−527951(JP,A)
【文献】
特表2009−520599(JP,A)
【文献】
特開2012−183467(JP,A)
【文献】
特開2010−269290(JP,A)
【文献】
特開2006−346571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/86
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒中の貴金属の合計質量を基準として約30〜約95質量%の間の量の還元された貴金属を含む触媒であって、
触媒が約150℃以下の温度で揮発性有機化合物及び/又は一酸化炭素を酸化する、前記触媒。
【請求項2】
還元された貴金属が、約3nm以下の平均クリスタリットサイズを有する、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
還元された貴金属が、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
触媒が約15℃から約30℃までの範囲の温度で揮発性有機化合物及び/又は一酸化炭素を酸化する、請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
還元された貴金属が、CeO2、ZrO2、TiO2、SiO2、Al2O3、クレイ、ゼオライト、及びそれらの混合物からなる群から選択される担体上に分散されている、請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
還元された貴金属が、ポリマー、活性炭、セルロース、木粉、及びそれらの混合物からなる群から選択される担体上に分散されている、請求項1に記載の触媒。
【請求項7】
還元された貴金属が、複合材料担体、無機担体、有機担体、又はこれらの組み合わせ上に分散されている、請求項1に記載の触媒。
【請求項8】
請求項1に記載の触媒を含む触媒システム。
【請求項9】
約20℃から約45℃までの温度で及びおよそ大気圧で二酸化炭素を形成するための揮発性有機化合物及び/又は一酸化炭素の酸化触媒であって、
触媒中の貴金属の合計質量を基準として約30質量%〜約95質量%の間の量の還元された貴金属が、CeO2、TiO2、ZrO2、Al2O3、SiO2及びそれらの組み合わせからなる群から選択される担体上に分散された、前記触媒。
【請求項10】
約20℃から約45℃までの温度で及びおよそ大気圧で二酸化炭素を形成するための揮発性有機化合物及び/又は一酸化炭素の酸化が、約90%以上の転化率で完了する、請求項9に記載の触媒。
【請求項11】
還元された貴金属が、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項9に記載の触媒。
【請求項12】
触媒が酸化ビスマスによって促進される、請求項9に記載の触媒。
【請求項13】
還元された貴金属に対するビスマスの質量比が約0.1〜約100の間である、請求項12に記載の触媒。
【請求項14】
貴金属触媒の製造方法であって、
(i)貴金属を、溶解した塩溶液の形で担体上に含浸させる工程;及び
(ii)陽イオンの形の貴金属を、気相、液相、固相、又はそれらの組み合わせにおいて還元剤によって金属の形の還元された貴金属に還元する工程
を含み、前記貴金属触媒が、還元された貴金属を、前記貴金属触媒中の貴金属の合計質量を基準として約30質量%〜約95質量%の間の量で含む、前記製造方法。
【請求項15】
気相における還元剤が水素又はギ酸である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
液相又は固相における還元剤が、ギ酸、ギ酸アンモニウム、又は任意の他の公知の有機還元剤及び無機還元剤、例えば、アスコルビン酸及び/又はヒドラジンである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
工程(i)を、初期湿潤、回転蒸発、噴霧乾燥、又はそれらの組み合わせによって完了する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記触媒が、モノリスハニカム、形成された耐火性酸化物基板、形成されたポリマー基板、又はそれらの組み合わせに塗布された、請求項1に記載の触媒。
【請求項19】
前記触媒が、一酸化炭素及び/又は揮発性有機化合物、例えば、アルカン、アルケン、アルコール、アルデヒド、ケトン、アミン、有機酸、芳香族化合物、又はそれらの組み合わせを、媒体から除去する及び/又は酸化する、請求項1に記載の触媒。
【請求項20】
媒体が空気又は水である、請求項19に記載の触媒。
【請求項21】
少なくとも約500ppmの水が反応物ガス混合物に添加されて一酸化炭素の酸化を促進する及び/又は反応物ガス混合物から水分を除去して揮発性有機化合物の酸化を最大化する、請求項1に記載の触媒。
【請求項22】
約20℃から約45℃までの温度で及びおよそ大気圧で二酸化炭素を形成するための揮発性有機化合物及び/又は一酸化炭素の酸化が、約90%以上の転化率で完了する、請求項1に記載の触媒。
【請求項23】
転化率が約95%以上である、請求項1に記載の触媒。
【請求項24】
揮発性有機化合物が、ホルムアルデヒド、メタノール、及び/又はギ酸を含む、請求項9に記載の触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、触媒、触媒を含む組成物、触媒の製造方法、及び約150℃未満の温度で、及び特定の実施態様における周囲温度で、一酸化炭素(CO)及び/又は揮発性有機化合物(VOC)を二酸化炭素に酸化するための触媒の使用に関する。幾つかの実施態様では、触媒は、約15℃から約30℃までの範囲の周囲温度でVOC及び/又はCOを酸化する。
【0002】
発明の背景
産業活動は、通常、CO及びVOCなどの汚染物質を大量に放出している。また、自動車、航空機、廃水処理プラント、光製造施設、小規模な事業(例えば、ドライクリーニング、パン屋、レストラン等)、及び家庭も、通常、たとえ産業活動と比べて遙かに少量でも、CO及びVOCを放出している。
【0003】
COは、そのヒト及び動物への毒性について、100ppmの濃度水準でも血液中の酸素運搬の有効性を低下させる、その高いヘモグロビンへの親和性のために知られている。VOCは、複数の健康問題及び環境問題を引き起こし、さらにスモッグ形成をもたらす、地表レベルのオゾンの前駆体でもある。全体的な化学反応は、光化学スモッグの形成をもたらすVOC、NOx及びオゾンの間の複雑な相互作用である。熱触媒の酸化などの従来の技術は、通常、実施するのに費用がかかり且つ低温で二次汚染を生じやすいことが見出されている。
【0004】
約20℃から約50℃までの範囲の温度でのVOC及びCOの排出制御は、公衆衛生、政府の規制、及び事業開発のためにますます重要になってきている。例えば、主要な室内空気汚染物質であるホルムアルデヒドは、近年、発がん性物質として記載されている。低温での、特におよそ室温でのVOC及びCOの削減のための現在知られている技術としては、光触媒、高電圧放電、吸着剤、及び酸化触媒が挙げられる。
【0005】
しかしながら、現在知られている方法のいずれも、約20℃から50℃までの範囲の温度での完全な酸化によるVOC及び/又はCOの除去を達成していないと思われる。
【0006】
実用化の観点から、約20℃から約50℃までの範囲の温度での完全な酸化によるVOC及び/又はCOの除去は、そのエネルギー及び原料の低消費、低生産コスト、及び高選択性のために、他の公知の方法に対して顕著な利点を有する。
【0007】
十分な安定性及び耐久性を有する室温でのCO及びVOCの完全な酸化を可能にするより多くの活性酸化触媒の開発が必要である。
【0008】
発明の概要
一実施態様によれば、触媒中の貴金属の合計質量を基準として約30質量%を上回る量の還元された貴金属を含む触媒であって、触媒が約150℃以下の温度でVOC及び/又はCOを酸化する、前記触媒が開示されている。
【0009】
特定の実施態様では、触媒は、15℃から約30℃までの範囲の周囲温度でVOC及び/又はCOを酸化している。
【0010】
別の実施態様によれば、約20℃から約45℃までの温度で及びおよそ大気圧で、二酸化炭素を形成するためのVOC及び/又はCOの酸化のための触媒であって、CeO
2、TiO
2、ZrO
2、Al
2O
3、SiO
2及びそれらの組み合わせからなる群から選択される担体上に分散された還元された貴金属を含む触媒が開示されている。
【0011】
別の実施態様によれば、貴金属触媒の製造方法であって、(i)貴金属を、溶解した塩溶液の形で担体上に含浸させる工程;及び(ii)陽イオンの形の貴金属を、気相、液相、固相、又はそれらの組み合わせにおいて還元剤によって金属の形の還元された貴金属に還元する工程を含む前記製造方法が開示されている。
【0012】
約20℃から約45℃までの温度及びおよそ大気圧で二酸化炭素を形成するためのホルムアルデヒド、メタノール、及びホルムアルデヒドなどのCO及び/又はVOCの酸化は、約90%以上の転化率で完了することができる。特定の実施態様では、約25℃から約35℃までの温度及びおよそ大気圧で二酸化炭素を形成するためのホルムアルデヒド、メタノール、ギ酸、及び/又はCOの酸化は、約95%以上の転化率で完了することができる。特定の実施態様では、約25℃から約35℃までの温度及びおよそ大気圧で二酸化炭素を形成するためのホルムアルデヒド、メタノール、ギ酸、及び/又はCOの酸化は、約98%以上の転化率で完了することができる。特定の実施態様では、約25℃から約35℃までの温度及びおよそ大気圧で二酸化炭素を形成するためのホルムアルデヒド、メタノール、ギ酸、及び/又はCOの酸化は、約99%以上の転化率で完了することができる。特定の実施態様では、約25℃から約35℃までの温度及びおよそ大気圧で二酸化炭素を形成するためのホルムアルデヒド、メタノール、ギ酸、及び/又はCOの酸化は、約100%の転化率で完了することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、25℃で1%のPt/TiO
2上のCO酸化の間のCO及びCO
2濃度のプロファイルのチャートを示す。
【
図2】
図2は、25℃でのCO転化率の水濃度への依存度のチャートを示す。
【
図3】
図3は、25℃での1%のPt/TiO
2触媒上のホルムアルデヒド、メタノール、及びギ酸の転化率のチャートを示す。
【
図4】
図4は、25℃での1%のPd/TiO
2上のホルムアルデヒド及びメタノールの酸化のチャートを示す。
【
図5】
図5は、25℃でのCO並びにホルムアルデヒド及びメタノールの酸化のためのCO
2の存在下での触媒安定性のチャートを示す。
【
図6】
図6は、1%のPt/TiO
2の透過電子顕微鏡(TEM)を示す。
【0014】
詳細な説明
「約」又は「およそ」との用語は、本明細書で使用され且つある数値に関連付けられる際に、その数値に対してプラス又はマイナス10%の数値、特定の実施態様ではプラス又はマイナス5%の数値、特定の別の実施態様ではプラス又はマイナス2%の数値、更に特定の別の実施態様ではプラス又はマイナス1%の数値、更に別の実施態様ではプラス又はマイナス0.5%の数値、及び幾つかの別の実施態様ではプラス又はマイナス0.1%の数値を意味する。
【0015】
本明細書で使用される「完全な酸化」とは、約20℃から約45℃までの温度で、およそ大気圧で、約90%以上の転化率で、幾つかの実施態様では約95%以上の転化率で、幾つかの別の実施態様では約98%以上の転化率で、更に別の実施態様では約99%以上の転化率で、及び特定の実施態様では約100%の転化率で、二酸化炭素を形成するためのホルムアルデヒド、メタノール、及びギ酸などのCO及びVOCの酸化を意味する。
【0016】
本出願に記載されるCO及びVOCの酸化又は完全な酸化は、大気圧で及び約150℃未満の温度で、幾つかの実施態様では約0℃から約100℃までの範囲の温度で、幾つかの別の実施態様では約15℃から約50℃までの範囲の温度で、更に別の実施態様では約20℃から約30℃までの範囲の温度で、及び特定の実施態様では約21℃から約28℃までの範囲の温度で実施される。
【0017】
一実施態様によれば、触媒中の貴金属の合計質量を基準として約30質量%を上回る量で還元された貴金属を含む触媒であって、VOC及び/又はCOを約150℃以下の温度で酸化する、前記触媒が開示される。
【0018】
特定の実施態様では、触媒は、約15℃から約30℃までの範囲の周囲温度でVOC及び/又はCOを酸化する。
【0019】
還元された貴金属は、触媒中の貴金属の合計質量を基準として約30質量%〜約95質量%の間の量で触媒中に存在する。特定の実施態様では、還元された貴金属は、触媒中の貴金属の合計質量を基準として約50質量%〜約95質量%の間の量で触媒中に存在する。特定の他の実施態様では、還元された貴金属は、触媒中の貴金属の合計質量を基準として約60質量%〜約95質量%の間の量で触媒中に存在する。
【0020】
還元された貴金属は、約3nm以下の平均クリスタリットサイズ(即ち、平均直径)を有する。特定の実施態様では、還元された貴金属は、約2nm以下の範囲で、平均クリスタリットサイズを有する。特定の別の実施態様では、還元された貴金属は、約1nm〜約2nmの範囲の平均クリスタリットサイズを有する。
【0021】
還元された貴金属は、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金、及びそれらの混合物からなる群から選択される。特定の実施態様では、還元された貴金属は白金である。
【0022】
還元された貴金属は、CeO
2、ZrO
2、TiO
2、SiO
2、Al
2O
3、クレイ、ゼオライト、及びそれらの混合物からなる群から選択される担体上に分散されている。特定の実施態様では、担体はCeO
2又はTiO
2である。
【0023】
幾つかの実施態様では、還元された貴金属は、多孔質ポリマー、活性炭、セルロース、木粉、及びこれらの混合物からなる群から選択される担体上に分散させることができる。
【0024】
他の実施態様では、還元された貴金属は、複合材料担体、無機担体、有機担体、又はこれらの組み合わせ上に分散されている。
【0025】
別の実施態様によれば、約20℃から約45℃までの温度で及びおよそ大気圧で、二酸化炭素を形成するためのホルムアルデヒド、メタノール、ギ酸、及び/又はCOの酸化のための触媒であって、CeO
2、TiO
2、ZrO
2、Al
2O
3、SiO
2及びそれらの組み合わせからなる群から選択される担体上に分散された還元された貴金属が開示されている。
【0026】
約20℃から約45℃までの温度で及びおよそ大気圧で、二酸化炭素を形成するためのホルムアルデヒド、メタノール、ギ酸、及び/又はCOの酸化は、約90%以上の転化率で完了することができる。幾つかの実施態様では、約25℃から約35℃までの温度で及びおよそ大気圧で二酸化炭素を形成するためのホルムアルデヒド、メタノール、ギ酸、及び/又はCOの酸化は、約95%以上の転化率で完了することができる。幾つかの別の実施態様では、約25℃から約35℃までの温度で及びおよそ大気圧で二酸化炭素を形成するためのホルムアルデヒド、メタノール、ギ酸、及び/又はCOの酸化は、約98%以上の転化率で完了することができる。更に別の実施態様では、約25℃から約35℃までの温度で及びおよそ大気圧で二酸化炭素を形成するためのホルムアルデヒド、メタノール、ギ酸、及び/又はCOの酸化は、約99%以上の転化率で完了することができる。特定の別の実施態様では、約25℃から約35℃までの温度で及びおよそ大気圧で二酸化炭素を形成するためのホルムアルデヒド、メタノール、ギ酸、及び/又はCOの酸化は、約100%の転化率で完了することができる。
【0027】
特定の実施態様における還元された貴金属は白金である。
【0028】
幾つかの実施態様では、触媒は、酸化ビスマスによって促進することができる。還元された貴金属に対するビスマスの質量比は、約0.1〜約100の間である。幾つかの実施態様では、還元された貴金属に対するビスマスの質量比は、約1〜約75の間である。幾つかの他の実施態様では、還元された貴金属に対するビスマスの質量比は、約1〜約10の間である。
【0029】
別の実施態様によれば、貴金属触媒の製造方法であって、(i)貴金属を、溶解した塩溶液の形で担体上に含浸させる工程;及び(ii)陽イオンの形の貴金属を、気相、液相、固相、又はそれらの組み合わせにおいて還元剤によって金属の形の還元された貴金属に還元する工程を含む、前記製造方法が開示されている。
【0030】
気相における還元剤は水素又はギ酸である。液相又は固相における還元剤は、ギ酸、ギ酸アンモニウム又は任意の他の公知の有機還元剤又は無機還元剤、例えば、アスコルビン酸及びヒドラジンである。
【0031】
上記の方法における工程(i)は、初期湿潤、回転蒸発、噴霧乾燥、又はそれらの組み合わせによって完了することができる。
【0032】
上記の方法によって得られた触媒は、モノリスハニカム、形成された耐火性酸化物基板、形成されたポリマー基板、及びそれらの組み合わせ上に塗布することができる。
【0033】
複数の触媒の用途が本明細書に記載されている。例えば、本明細書に記載される触媒は、車両や航空機のキャビン空気清浄、家庭やビルにおける「シックハウス症候群」の対処、都市の地下パイプ、炭鉱等から生じるCO及びVOCの洗浄に使用することができる。
【0034】
本明細書に記載される触媒は、約100%までのCO及びVOCを、約20℃から約30℃までの範囲の温度でCO
2への完全な酸化によって除去することを実証した。本明細書に記載された触媒も、水及びCO
2の存在下での良好な安定性を実証した。
【0035】
製造、反応条件、及び活性に関して目下記載された触媒の複数の特別な特徴も以下に説明されている。
【0036】
白金系触媒は、特定の実施態様において、金属状態である白金が微細に分散された貴金属結晶の形成のための反応の前に、比較的低い温度で還元される。
【0037】
酸化ビスマスなどの金属酸化物促進剤の添加は、主に貴金属分散の安定化のために、酸化転化を顕著に高める。酸化ビスマスは、また、COによる白金部位の表面占有も低減し得る。この研究で研究されたPt触媒の中で、Bi促進Pt/CeO
2は最も高い活性を示した。
【0038】
CO酸化の場合、反応混合物において約500ppmほどの少量の水分の存在は、酸化を大幅に促進する。
【0039】
特定の実施態様では、少なくとも約500ppmの水が、COの完全な酸化を増強するために反応混合物に添加されている。
【0040】
他方では、水分の存在は、メタノールなどのVOCの酸化にとって幾つかの悪影響を有していた。
【0041】
特定の実施態様では、水分は、VOCの完全な酸化のために触媒との接触前に反応混合物から除去される。
【0042】
以下の反応は、CO及びVOCの二酸化炭素への完全な酸化を示す。
2CO+O
2→2CO
2
HCOH+O
2→CO
2+H
2O
2CH
3OH+3O
2→2CO
2+4H
2O
CH
3OOH+O
2→CO
2+2H
2O
実施例
1.触媒の合成
触媒を、硝酸白金又は硝酸白金と硝酸ビスマスとの混合物の水溶液への酸化物担体の単純な含浸、80℃で回転蒸発器内での脱水、その後の110℃で一晩の乾燥、そして400℃で2時間までの5%H
2/N
2での還元によって製造した。PM負荷レベルは要求される用途と反応条件に応じて調整することができるが、典型的なPt負荷は1質量%である。
【0043】
2.触媒の試験
触媒活性を、フロースルー反応器を用いて測定した。40〜60メッシュの粒径を有するペレット化された触媒試料10グラムを、1インチ径の石英管反応器に入れた。一般的な空間速度は、50,000時間
−1であった。空間速度を一定に保つために、使用される様々な担体の異なる嵩密度のために、幾つかの試料をペレット化アルミナで希釈して、触媒量を同じにした。CO、ホルムアルデヒド、メタノール、及びギ酸の出発濃度は、それぞれ、約500ppm、約100ppm、約140ppm、及び約150ppmであった。ガス状反応物(N
2と混合されたガスタンクから又は有機液体を通したN
2のバブリングによる)を、反応器に入れる前に空気と混合した。反応器内の典型的なO
2濃度は約20%であった。反応生成物を同定し、FTIR検出器(MKS MultiGas 2030)によって定量化した。CO
2及び水の効果を研究するために、制御された量のCO
2及び/又は2.0%の水を、要求される際に、反応混合物に添加した。
【0044】
3.触媒の特徴
貴金属の形とクリスタリットサイズを、高分解能TEM及びX線回折(XRD)によって特徴付けた。貴金属の酸化状態とスペシエーションを、X線光電子分光法(XPS)で測定した。各分光法についての幾つかの機器の情報を以下に示す。
【0045】
TEMデータを、スピリットのソフトウェアを使用してブルカー社のGe EDSシステムを用いてJEOL JEM2011 200KeV LaB6源顕微鏡で収集した。デジタル画像を、Gatan社製2K CCDカメラとデジタル顕微鏡写真収集ソフトウェアを取り付けた底部で取り込んだ。全ての粉末試料を調製し、200メッシュのレース状炭素被覆Cuグリッドで乾燥分散剤として分析した。
【0046】
XRD−PANalytical MPD X’Pert Pro回折システムを、45kV及び40mAのCu
Kα放射線発生条件で使用した。光路は、1/4°発散スリット、0.04ラジアンソーラースリット、15mmマスク、1/2°散乱防止スリット、試料、0.04ラジアンソーラースリット、Niフィルター、及びPIXCEL位置感応検出器から構成された。試料を、最初に乳鉢と乳棒で粉砕し、次に、試料(約2グラム)を丸いマウントに詰めて調製した。丸いマウントからのデータ収集は、ステップスキャンを用いて、0.026°2θのステップサイズ及びステップ当たり600sの計算時間で10°〜90°2θの範囲をカバーした。XRD粉末パターンの慎重なピークフィッティングを、Jade Plus9分析XRDソフトウェアを使用して行った。各試料に存在する相を、PDF−4/ICDD(International Center for Diffraction Data)からの完全ファイルデータベースのサーチ/マッチにより特定した。PdOのクリスタリットサイズを、観察されたデータの全パターンフィッティング(WPF)と結晶構造のリートベルト法を通して推定した。
【0047】
XPS−スペクトルを、40eVパスエネルギー(高分解能)を使用してアルミニウムKアルファ単色光源を有するサーモフィッシャーKアルファXPSシステムで取得した。試料を、5×10
−8トール未満の真空下で両面テープ上に取り付けた。スコフィールド感度因子及びAvantageソフトウェアを定量化のために使用した。
【0048】
結果
1.触媒の活性
1−1 CO酸化。
図1は、室温で1%のPt/TiO
2上でのCOの酸化反応の間のCO及びCO
2のFTIR強度を示す。背景として、出発反応混合物中に約600ppmのCO
2が存在していた。CO酸化の速度は速かった:COのCO
2への100%転化率は、COとCO
2が一緒に混合され、1100ppmのCO
2が検出されるとすぐに認められた。
図1は、100分までの反応時間の小さな部分のみカバーしている。CO転化率は、48時間の全反応時間の間、100%のままであった。
【0049】
1−2 CO酸化における予備還元の効果。Pt触媒の予備還元が、CO酸化反応にとって重要であることが判明した。例えば、1%のPt/TiO
2触媒を400℃又は550℃にて空気中で焼成した際に、CO転化率は、水分の不在下で約9%であり、水分の存在下で11%であった。試料を400℃で還元した後、CO転化率は、空気中で予備焼成せずに直接還元した試料と同じく、100%まで大幅に改善した(表1を参照のこと)。
【0050】
【表1】
【0051】
1−3 CO酸化における水の促進。水はCO酸化反応において重要な役割を果たした。
図2は、1%Pt/CeO
2触媒に対する水の濃度へのCO転化率の依存度を示す。データは、非常に少量の水が、0〜500ppmの間の水濃度でCO転化率を劇的に高め得ることを示す。転化率は、H
2O濃度が500ppmを上回った後、100%のままであった。同様の水濃度の効果が、1%Pt/TiO
2触媒についても見られた。
【0052】
1−4 ビスマス添加剤のCO酸化への効果。ビスマス添加剤の触媒活性への効果を評価するために、空間速度SV、O
2濃度[O
2]、及びCO濃度[CO]を含む反応条件の数字を、4つの触媒:1%Pt/TiO
2、1%Pt/CeO
2、(1%Pt+2.5%Bi)/TiO
2、及び(1%Pt+2.5%Bi)/CeO
2に応じて変えた。これらの結果を表2に記載する。
【0053】
【表2】
【0054】
表2のデータは、50,000〜500,000時間
−1の間のかなり広い範囲の空間速度において、CO転化率が、一定の[CO]=500ppm、[O
2]=20%、及び[H
2O]=2%にて100%であるか又はそれに近かったことを示す。他方では、100万時間
−1の空間速度で、CO転化率の顕著な低下は、O
2濃度が10%を下回るか又はCO濃度が2000ppmを上回った時に見られた。4つの触媒の相対活性は次の順序である:
(1%のPt+2.5%のBi)/CeO
2>(1%のPt+2.5%のBi)/TiO
2>1%のPt/CeO
2>1%のPt/TiO
2
1−5 VOCの酸化。
図3は、室温での1%のPtTiO
2触媒上でのホルムアルデヒド、メタノール、及びギ酸の変換を示す。
図3の反応プロファイルを、第I節、第II節、第III節、第IV節、及び第V節として以下に記載される5つの節に分けた。第I節では、ホルムアルデヒド及びメタノールは、水が反応混合中に存在しない場合、100%の転化率を示した。最初の5〜10分での転化率の小さな摂動は、触媒上でのホルムアルデヒド又はメタノールの吸収/脱着によるものであった。水を導入した後(第II節)、メタノールの転化率が約70%に低下したが、ホルムアルデヒドの転化率は100%のままであった。しかしながら、水とホルムアルデヒドが反応混合物から除去された時(第III節)、メタノールの転化率は100%に回復した。水はギ酸の転化率にほとんど影響を及ぼさず、これは水の存在(第IV節)又は不在(第V節)に関わらず100%に近かった。
【0055】
表3は、水の存在及び不在の両方で、様々な酸化物上に担持された1%のPt触媒上でのCO、ホルムアルデヒド、メタノール、及びギ酸の転化率をまとめる。[O
2]=20%、VOCの場合、SV=20,000時間
−1及びCOの場合、SV=50,000時間
−1、出発濃度[HCOH]約100ppm、[CH
3OH]約140ppm、[CH
3OOH]約150ppm、[CO]=500ppm、及び[H
2O]=2%。
【0056】
【表3】
【0057】
白金触媒上での上記の実験データからの主な結論は次のように要約できる。
【0058】
水分の不在下でのCO酸化の場合、単一成分の担体、例えば、TiO
2、ZrO
2、Al
2O
3、又はCeO
2が使用された場合、わずか1%のPt/CeO
2が100%の転化率をもたらした。しかしながら、少量の水が、転化率を、全てのPt触媒について100%まで著しく促進させた。
【0059】
Pt触媒の予備還元は、室温でのCO酸化にとって不可欠である。1%のPt/TiO
2触媒が空気中で焼成された時に初めて、ほんの少しのCO酸化が見られた。焼成した試料の還元は100%のCO転化率につながり、それは、空気中で焼成せずに直接還元したものと同じである。
【0060】
ビスマスなどの促進剤の添加も、CO酸化を大幅に強化した。例えば、2.5%のBiを1%のPt/TiO
2に添加すると、水の不在下でCO酸化の転化率は40%から100%まで増加した。
【0061】
ホルムアルデヒドの酸化の場合、全ての触媒が、反応混合中の水分の有無に関わらず、2時間の反応時間後に100%の転化率を示した。ギ酸の100%の酸化も、研究された全ての触媒、即ち、TiO
2、ZrO
2、及びCeO
2に担持された1%のPtについて見られた。メタノールは、特に水分が存在した時に、CO
2に完全に酸化することがより困難であった。水は、メタノールの転化に大きな悪影響を及ぼす。
【0062】
1−6 他の貴金属の活性。表4は、周囲条件(即ち、約25℃及び大気圧)下でのTiO
2に担持された他の貴金属触媒を通したCO及びホルムアルデヒドの転化率を示す。パラジウムは白金に比べて低コストの貴金属である。TiO
2に担持された時、Pd触媒は、触媒が還元されたか又は空気中で400℃で焼成されたかに関わらず、水の存在下で100%のCO転化率を示した。水が除去された時に、CO転化率は、1,000分の反応時間後に、約60%までゆっくりと低下した。Pd/TiO
2も、Pt/TiO
2と同様に、水の存在不在に関わらず、ホルムアルデヒドの場合、100%の転化率を示した。しかしながら、Pd/TiO
2の場合、水分の存在不在に関わらず、室温でのメタノールの転化は起こらなかった。
図4に示した、最初の30分の反応時間での幾つかの「転化率」の観測値は、触媒によるメタノールの吸着及び脱着によるものであった。Ir/TiO
2及びPtRu/TiO
2でのホルムアルデヒドの転化率も表4に記載する。
【0063】
【表4】
【0064】
2.触媒安定性
全ての反応が室温で研究されたので、貴金属及び酸化物担体は、高温で使用されるもののようなエージング作用を受けていない。水とCO
2は、触媒が空気に曝された時に毒性作用を有することが報告された。表3に示されるように、本発明者らは、水が実際にCO酸化を助けることを見出した。水は、おそらく水とメタノールの貴金属部位への競争吸着のために、メタノールの酸化に幾らかの負の影響を及ぼした。CO
2は、
図5(a)及び
図5(b)に示した、CO、ホルムアルデヒド、及びメタノールの酸化への大きな影響を示さなかった。
【0065】
分析
1.担体の多孔度の影響
触媒の構造とそれらの活性との間の関係を理解するために、触媒の幾つかの物理的性質及び化学的性質を研究した。担体材料のN
2多孔度を測定し、BET表面積(BET)及び細孔容積(PV)を表5に記載する。表面積及び細孔容積は、担体酸化物の中で大きく変動したが、白金が負荷された後、触媒の活性は全て高く、担体の多孔度に明らかに相関していなかった。
【0066】
【表5】
【0067】
2.貴金属のクリスタリットサイズの効果
分散した白金及びパラジウムのクリスタリットサイズを、XRD及びTEMで測定した。触媒を穏やかな条件(最高加熱温度は400℃であった)で調製したので、担体上のPMクリスタリットサイズは一般に小さかった。TEMは、TiO
2及びCeO
2上のPt又はPd粒子サイズが約1〜2nmであることを示す(
図6(a)及び6(b))。Bi添加剤を有するCeO
2上のPt粒子サイズは、TEMによってサブナノメートルの範囲内の可能性を検出するには小さすぎる。従って、Pt触媒の高い活性は、高い白金分散による可能性が最も高い。ビスマス促進触媒上でのより高いCO転化率は、より小さなPtサイズによるものであり得る。
【0068】
表面Pt濃度と酸化状態の効果
XPSデータは、Pt表面濃度と酸化状態の更なる詳細を提供する。表6のデータは、そのゼロ活性度と一致している、乾燥しただけの試料中のイオン化したPt種及び硝酸塩を示す。空気中で400℃で焼成した後、硝酸塩種は焼失し、Ptは主にPt(+2)又はPt(+4)の形であった。Pt(0)種は検出されなかった。他方では、触媒が、乾燥試料又は予備焼成試料のいずれかから還元された時、主なPt種はPt(0)である。硝酸塩種は検出されなかった。表6のXPSデータと表1のCO酸化データとを比較した場合、これはCO転化率に関与していたPt(0)であることが明らかである。換言すれば、COの完全な酸化のために、高度に分散した金属状態で白金を維持することが不可欠である。
【0069】
【表6】
【0070】
CO並びにホルムアルデヒド、メタノール、及びギ酸などの小さいVOC分子の低温除去は、公衆衛生の保護のために非常に望ましい。上記の例は、これらの汚染物質を、周囲温度(即ち、約15℃から約30℃までの範囲)で、貴金属系触媒を通したCO
2への完全な酸化によって100%除去することができることを示す。触媒はまた、水及びCO
2の存在下で良好な安定性を示した。触媒の調製及び反応条件の複数の特徴は、前述の通り、重要であることが判明した。
【0071】
触媒は、他のVOC種、例えば、アルカン、アルケン、アルコール、アルデヒド、ケトン、アミン、有機酸、芳香族化合物、及び/又は典型的には空気汚染物質として生じたそれらの組み合わせの除去のために有用であるべきである。
【0072】
本発明は、それに限定されない前述の例示的な実施態様によって記載されている。変形及び変更が、本明細書に添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱しないことは、当業者に想起される。