(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6486507
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】レーザー加工を用いて多相の透明ワークピース内にまたは多相の透明ワークピース上に変性を作製する方法;多相の複合素材
(51)【国際特許分類】
B23K 26/53 20140101AFI20190311BHJP
C03C 23/00 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
B23K26/53
C03C23/00 D
【請求項の数】26
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-568094(P2017-568094)
(86)(22)【出願日】2016年6月28日
(65)【公表番号】特表2018-520882(P2018-520882A)
(43)【公表日】2018年8月2日
(86)【国際出願番号】EP2016060742
(87)【国際公開番号】WO2017001102
(87)【国際公開日】20170105
【審査請求日】2018年2月21日
(31)【優先権主張番号】102015110422.9
(32)【優先日】2015年6月29日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス オアトナー
(72)【発明者】
【氏名】ニクラス ビッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ヴァーグナー
(72)【発明者】
【氏名】アルブレヒト ザイドル
(72)【発明者】
【氏名】フランク−トーマス レンテス
【審査官】
岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/075995(WO,A2)
【文献】
特表2013−536081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
C03C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー加工装置(1)を用いて透明なワークピース(2)内にまたは透明なワークピース(2)上に変性を作製する方法であって、
前記ワークピース(2)の透過範囲内の波長を有するレーザービーム(12)を放射する短パルスレーザーまたは超短パルスレーザー(10)と、ビーム形成するための、ことに前記レーザービームを集束するためのビーム形成光学系(11)とを有するレーザー加工装置(1)を使用し、
かつ、複数の相を有する材料からなる透明なワークピース(2)を使用し、前記複数の相の少なくとも2つの相は、異なる比誘電率を有し、また前記相の一方の相は、粒子の形で封入された相であり、前記粒子の形で封入された相は他方の相によりほぼ取り囲まれていて、かつ前記粒子の立方ナノメートルで表される体積と、2つの異なる比誘電率の差の絶対値の、前記取り囲む相の比誘電率に対する比率との積は、500より大で、好ましくは1000より大で、特に好ましくは2000より大である、レーザー加工装置(1)を用いて透明なワークピース(2)内にまたはワークピース(2)上に変性を作製する方法。
【請求項2】
前記透明なワークピース(2)内に、線(20)に沿って互いに並んだ線形の変性(14)を、前記レーザービーム(12)を前記ワークピース(2)に対して相対的に、前記線(20)に沿って動かし、かつ時間的に前後するレーザーパルスを、単一パルスとしてか、またはバーストの形で放射し、ここで、前記単一パルスまたはバーストのそれぞれを、前記線形の変性(14)のそれぞれ1つを作製するために用いることにより作製する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記線形の変性(14)の長さをパルスエネルギーの高さによって調節することを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記線形の変性を、線形焦点の形成を伴うビーム形成により、もしくは光軸に沿って変性のために十分に高い強度の形成を伴うビーム形成により作製することを特徴とする、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記レーザービームの集束のために、前記レーザービームの最大強度が、材料を変性する強度の閾値の150%未満、好ましくは130%未満となるように、伝播方向に向かって焦点を空間的に延ばす光学系を使用することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記強度が変性の閾値の少なくとも110%である長さ領域の、前記強度が閾値の少なくとも10%である長さ領域に対する比率が、少なくとも0.4、好ましくは少なくとも0.5、特に好ましくは少なくとも0.7となるように前記レーザービームを集束することを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記線形の変性を、直線的または曲線的に高い強度分布を有するビーム形成によって作製することを特徴とする、請求項2、3又は4に記載の方法。
【請求項8】
ワークピーステーブル(3)と、前記ワークピース(2)内に前記線形の変性(14)を製造するための、前記ワークピース(2)に対して、前記ビーム形成光学系(11)を位置合わせし、かつその後で、前記線(20)に従って、ビーム形成光学系(11)とワークピーステーブル(3)との間で段階的に相対的に送るための送り装置を準備することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記線形の変性を、所与の方向で前記ワークピース内に導入し、前記方向は、前記ワークピースの局所的な面法線と関連して、かつ前記ワークピースに対する距離で調節されることを特徴とする、請求項2、3又は4に記載の方法。
【請求項10】
前記線形の変性(14)は、通路に沿って配置された複数の欠陥からそれぞれ形成され、前記欠陥の長さは、前記ワークピース(2)の表面からの距離が増大するにつれて増大することを特徴とする、請求項2、3、4、7、8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記レーザービーム(12)を用いて前記透明なワークピース(2)の表面から材料を除去することにより、前記透明なワークピース(2)の表面に変性を作製する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記短パルスレーザーまたは超短パルスレーザーのパラメータを、前記透明なワークピース(2)の表面で損傷が避けられるように調節することにより、前記透明なワークピース(2)の内部に変性を作製する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記封入された相は、少なくとも1つの粒子から形成されていることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記材料は、ガラスセラミックまたは複合素材であることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
粒子が6nm以上の粒子サイズの中央値を有する材料を使用することを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
光学素子を用いて前記レーザー光を偏向し、かつ前記レーザービームの衝突点を漸次変更することを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
比誘電率εr1を有する第1の相の領域と、比誘電率εr2を有する少なくとも1つの第2の相の領域とを含み、前記比誘電率εr1とεr2とは互いに相違する複合素材、ことにガラスセラミックまたはポリマー素材において、
前記少なくとも1つの第2の相の領域の立方ナノメートルで表される体積と、前記第1の相の比誘電率と前記少なくとも1つの第2の相の比誘電率との、1を差し引いた比率との積は、500より大で、好ましくは1000より大で、特に好ましくは2000より大であり、前記第1の相の比誘電率εr1は、前記少なくとも1つの第2の相の比誘電率εr2以上であり、かつ少なくとも500マイクロメートルの長さの欠陥の通路である欠陥から形成された少なくとも1つの線形の変性が、前記複合素材の内部に延びる、複合素材。
【請求項18】
前記第1の相の領域は、前記少なくとも1つの第2の相の領域を少なくとも部分的に取り囲むことを特徴とする、請求項17記載の複合素材。
【請求項19】
前記少なくとも1つの第2の相の領域は、前記第1の相により封入されていることを特徴とする、請求項17または18記載の複合素材。
【請求項20】
前記少なくとも1つの第2の相の領域は、互いに離れて存在することを特徴とする、請求項17から19までのいずれか1項記載の複合素材。
【請求項21】
前記少なくとも1つの第2の相は、ほぼ球状に形成されていることを特徴とする、請求項17から20までのいずれか1項記載の複合素材。
【請求項22】
前記少なくとも1つの線形の変性の長さまたは全欠陥長さは、100〜10000マイクロメートル、好ましくは1000〜10000マイクロメートル、特に好ましくは3000〜10000マイクロメートルであることを特徴とする、請求項17から21までのいずれか1項記載の複合素材。
【請求項23】
前記第1の比誘電率と前記第2の比誘電率との比率(εr1/εr2)は、1.1以上であることを特徴とする、請求項17から22までのいずれか1項記載の複合素材。
【請求項24】
前記欠陥から形成された少なくとも1つの線形の変性は、通路に沿って配置された複数の欠陥から形成されていて、前記欠陥の長さは、前記複合素材の表面からの距離が増大するにつれて増大することを特徴とする、請求項17から23までのいずれか1項記載の複合素材。
【請求項25】
前記少なくとも1つの線形の変性は、1〜5μmの範囲の、ことに2〜3μmの範囲の平均幅を有することを特徴とする、請求項17から24までのいずれか1項記載の複合素材。
【請求項26】
前記少なくとも1つの線形の変性は、少なくとも部分的に開放した領域、ことに多孔性のまたは気泡状の領域を有することを特徴とする、請求項17から25までのいずれか1項記載の複合素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ことに短パルスレーザーまたは超短パルスレーザーを用いて、多相の透明材料内にまたは多相の透明材料上に変性を効果的に作製する方法に関する。
【0002】
このような方法は、ワークピースもしくはその材料特性の効果的な局所的変性のために使用することができ、複合素材を相応して局所的に効果的に変性することもできる。ことに、このような方法は、所与の輪郭に沿って並んだ線形の変性を効果的に作製するために使用することができ、複合素材内にこのような線形の変性を効果的に作製することもできる。この方法は、ワークピースを分離するために適していて、複合素材を相応して簡単に分離することもできる。
【0003】
一般に、レーザービームを用いて透明材料内にまたは透明材料上に変性を作製するために、多数の異なる可能性が用いられる。
【0004】
特開2011−147943号公報(JP002011147943A)は、例えば、基材のレーザー加工の際に熱的効果の抑制を記載している。このために、基材の側端部は、ベッセルビームを用いてレーザー加工される。
【0005】
線形の変性の特別な場合であっても、つまり線状またはフィラメント状の欠陥の望ましい作製において、既に一連の技術が使用される。
【0006】
「Femtosecond filamentation in transparent media」、A. Couairon, A. Mysyrowicz, Physics Reports Vol. 441, Issues 2-4, March 2007, Pages 47-189には、多様な透明な媒体内での超短レーザーパルスのフィラメント化の形成の際の本質的なメカニズムが記載されている。
【0007】
国際公開第2012/006736号(WO 2012/006736 A2)からも、透明な素材の非線形光学特性(つまり、電気光学的カー効果および多光子吸収)の利用下で、十分なビーム強度(>10
12W/m
2)のレーザービームの入射により、ガラス内に持続的な線状またはフィラメント状の欠陥または損傷の形で変性を作製することができることは公知である。時間的および空間的に変化するレーザービームによりガラス内でのこのような線形の損傷を(例えばワークピースの表面上の輪郭に沿って)並べることは、ワークピース内に空間的に拡がった変性を可能にする。これは、適切な位置および構成で、透明な基材の分離を可能にすることもできる。
【0008】
このために必要な高い線形のビーム強度を、多様な物理効果を用いて生成することができる:1つの可能性は、「真の」フィラメントの形成、つまりカー効果およびプラズマデフォーカシング(Plasma-Defokussierung)自体によるレーザービームにより作り出された、約1μmの直径および所定の長さを有する導波路(「ソリトン」)であり;他の可能性は、ビーム形成する光学系を用いた線状またはフィラメント状の強度分布の意図的な確定的な作成であり、この場合、強度分布の直径は、レーザービームとの非線形相互作用によってさらに本質的に低減される。
【0009】
フィラメントは、それ自体著しく狭まり、かつフィラメントの直径と比べて極めて長く伝播する高い強度のレーザービームであり、かつ十分な出力の1つまたは複数の短レーザーパルスまたは超短レーザーパルスにより、媒体とのビームの非線形相互作用によって生じる。しばしば、それにより引き起こされる線形の残留する変性も、例えば屈折率変化または材料内に線形に残留する損傷区域と同様に、「フィラメント」といわれる。
【0010】
所属するレーザー技術は、超短パルス(USP)技術とも、または超短パルスレーザー技術ともいわれる。この場合、レーザービームは、ガラスの内部で、カー効果により生じる局所的な屈折率の上昇により自己収束を被り、それにより強度がさらに上昇し、このことはまた、それにより引き起こされる材料の局所的な複素誘電率の変化が、屈折率の低下、ならびに吸収の向上を引き起こすほど、一点での電子密度が高くなるまで電子のアバランシェ的な放出を引き起こすことができる。極端な場合に、ガラスが吸収されたレーザーエネルギーによりプラズマ生成箇所の周囲で不可逆な損傷を被ることがあるプラズマ爆発が起こる。屈折率の低下は、残留ビームのデフォーカシングを引き起こす。残留ビームのデフォーカシングの後に、新たな集束が生じることがあり、これはまた、伝導電子の付随する放出を伴う崩壊で終わる。これはリフォーカシングサイクル(Refokussierungszyklus)ともいわれる。この効果は、パルス出力に応じて、十分なエネルギーが存在する限り、場合により複数回繰り返される。
【0011】
フィラメント状に伝播するレーザービームの出力は、フィラメントに沿って低下する。例えば、第1のプラズマスポットは、最大のエネルギーを吸収し、かつ最大の損傷も生じさせる。リフォーカシングサイクルは、エネルギー散逸が行われることに基づき限られた長さにわたってだけ可能である。
【0012】
このような、フィラメント化といわれる、ガラスおよびガラスセラミック内への欠陥の導入は、独国特許出願公開第102012110971号明細書(DE 10 2012 110 971 A1)にも記載されている。
【0013】
国際公開第2014/111385号(WO 2014/111385 A1)から、ガラスのような透明な素材内に、短パルスレーザービームおよび超短パルスレーザービームの適切な入射を用いて、レーザービームを適切なビーム形成により、(ほぼ)点状の焦点領域に集束させるのではなく、むしろ所定の長さの「焦点ライン」に集束させることにより、この種の線形の残留する変性を作製することができる。顕著に狭められたレーザービームがフィラメントラインに沿って伝播し、この場合、出力を失いかつ最終的に(顕著に低下された残留出力で)再び拡がるような真のフィラメントとは異なり、焦点ラインの形成の際に、このラインに沿って連続的に、光軸の方向で90°未満の入射角で半径方向に入射が行われる。このことは、国際公開第2014/111385号(WO 2014/111385 A1)の多様な実施例に記載されたように、例えば焦点距離がビーム半径と共に変化するレンズまたはレンズ系によるか、または点状のビーム源を線状に結像する円錐形に研磨されたレンズ(アキシコン)を使用することによっても行われる。この場合であっても、適切なビーム形成および十分なビーム出力の場合に、焦点ラインの範囲内で、媒体との非線形の相互作用によって、材料の持続的な変性もしくは損傷を引き起こすことができる。時間的に変化するレーザービームにより、ガラス内にこのような線形の損傷を(例えばワークピースの表面上で線に沿って)並べることは、この場合でも、ワークピース内に空間的に拡がった変性を可能にする。これは、適切な位置および構成で、この場合でも透明な基材の分離を可能にすることもできる。レーザービームのかなりの部分が、真のフィラメント化の場合のように形成されるフィラメント内をほぼ光軸の方向にだけ供給されるのではなく、側方/半径方向に供給されるため、ガラスのような誘電性の固体内に、レーザービームを過度に減衰することなく著しく長い損傷ラインを作製することができる。
【0014】
韓国公開特許第2014−0072448号公報(KR 2014-0072448 (A))からは、同様に、光学素子としてアキシコンを用いてガラスを切断する装置は公知であり、この場合、ガラスにレーザービームを照射する。レーザービームおよび上述のアキシコン内でのコリメートレンズにより、多焦点を有するビームが形成される。ガラスは、この焦点領域内に配置される。
【0015】
さらに、十分な出力の適切なレーザービームの「簡単な」集束を用いて、媒体上または媒体内に(つまり、ビームを焦点ラインに結像させずに、フィラメント状に伝播するビームを形成させずに)、媒体との非線形の相互作用によって、媒体内に空間的に局在化した変性または損傷を作製することができることは公知である。これは、表面の加工の際に、レーザーアブレーションの全ての形態において、または透明な材料内での適切な点状の変性の導入(「レーザースクライビング」)においても、または互いに重ねて配置された2つの透明なワークピース、例えば二枚のガラスプレートのスポット溶接においても利用される。同様に、このような多数の焦点を次々に変性させ、1つの線に沿って変性もしくは損傷を真珠状に並べることも可能である。このような方法は、例えば、米国特許出願公開第2005/173387号明細書(US 2005/173387 A1)に記載されている。
【0016】
さらに、「Femtosecond laser-induced color change and filamentation in Ag+-doped silicate glass」、H.Sun et al., Chinese Optics Letters, Vol. 7 Issue 4, pp. 329-331 (2009)からは、レーザービームを用いた変色およびガラス内での多重のフィラメント化を達成することが公知である。
【0017】
ガラスセラミック内の構造変化は可逆的であることもできる。この効果は、「On the Reversibility of Laser-induced Phase-structure Modification of Glass-ceramics」、Journal of Laser Micro/Nanoengineering, Vol. 1 No. 2, 2006に記載されている。
【0018】
ガラスセラミックは、非晶質ガラス相と少なくとも1つの結晶質相とを有する素材である。ガラスセラミックの製造プロセスは、いわゆるグリーンガラスから始まり、このグリーンガラスを特別な温度処理に曝し、この場合、セラミック化といわれる部分結晶化が行われる。この場合、ガラス質の材料内では、個々の微細に分配された結晶が形成される。この材料の変換プロセスは、核生成と、引き続く結晶核への結晶成長とに区別することができる。核生成のために、グリーンガラスに意図的に不純物が添加される。これらは、加熱時に析出し、かつ結晶核として作用する。結晶化の際に、できる限り均質に分配された密な核生成および結晶成長の両方の過程を互いに調整しなければならない。これは、温度によって制御することができる。
【0019】
レーザー照射によるガラスセラミックの構造変化は、「Structure and properties of glass ceramics after laser treatment」、Glass and Ceramics Vol. 56, Issue 5-6 (1999), 144 - 148の論文から公知である。
【0020】
ガラスセラミックの本質的な特性は、非晶質相と結晶質相との体積比により決定されるが、さらにガラスセラミック中には、成長する結晶質相とは組成が異なる当初の核も存在するという事実によっても決定される。したがって、厳密にいうと、ガラスセラミックは少なくとも三相である。ガラスセラミックの異なる相は、異なる比誘電率によって特徴付けられる。これは、ガラスセラミック内での光の速度に影響を及ぼす、というのも、媒体中での光の速度は、とりわけ、比誘電率の大きさに依存するためである。
【0021】
さらに、一般に、ガラス内に気泡が封入されている場合、レーザービームがガラス−空気の界面に当たる際に、プラズマ生成が起こることがあることは公知である。しかしながら、これは障害となる現象である。
【0022】
本発明の根底をなす課題は、十分な大きさ、強さもしくは損傷の材料変性が得られる、この種類の方法、またはこの種類の複合素材を開発することである。したがって、この課題の態様は、材料変性を効果的な方法で作製することである。
【0023】
例えば、互いに並んで挿入された変性ラインの線に沿って、(例えば曲げ応力を加えることによる)ワークピースの引き続く分離を容易にするために、十分な長さの線形の材料変性を望むことができる。この例示の場合では、この線形の材料変性は、フィラメント状に伝播するレーザービームによっても、焦点ラインに結像されるレーザービームによっても、または焦点を線形に並べることによっても作製することができる。
【0024】
この課題は、独立請求項の特徴により解決される。
【0025】
本発明による方法の場合に、透明なワークピース内にまたは透明なワークピース上に、レーザー加工装置を用いて変性が作製される。
【0026】
この場合、ワークピースの透過範囲内の波長を有するレーザービームを放射する短パルスレーザーまたは超短パルスレーザー、およびビーム形成するための、ことにレーザービームを集束するためのビーム形成光学系を有するレーザー加工装置が使用される。
【0027】
ことに、この場合、複数の相を有する材料からなる透明なワークピースが使用され、この複数の相の少なくとも2つの相は、異なる比誘電率を有し、これらの相の一方の相は、粒子の形で封入された相であり、この封入された相は他方の相により取り囲まれているかまたは少なくともほぼ取り囲まれていて、かつこの粒子の立方ナノメートルで表される体積と、2つの異なる比誘電率の差の絶対値の、取り囲む相の比誘電率に対する比率との積は、500より大で、好ましくは1000より大で、特に好ましくは2000より大である。
【0028】
本発明による方法は、意外にも、透明なワークピース内のまたは透明なワークピース上の変性が、粒子の形で封入された相を有しない同じ材料からなるワークピースの変性よりも大きな拡がりを達成することを可能にする。
【0029】
この方法の場合に、複数の相を有する材料からなるワークピースが使用される。これらの相の少なくとも2つは、互いに異なる比誘電率を有する。この両方の相の一方は、この場合、粒子の形で、他方の相により封入されるかまたはほぼ取り囲まれる。さらに、封入された相の範囲の立方ナノメートルで表される体積と、2つの異なる比誘電率の差の絶対値の、取り囲む相の比誘電率に対する比率との積は、500より大で、好ましくは1000より大で、特に好ましくは2000より大である。
【0030】
これは、2つの異なる比誘電率の1を差し引いた比率と、粒子の立方ナノメートルで表される体積との積が、500より大で、好ましくは1000より大で、特に好ましくは2000より大であり、この場合、2つの異なる比誘電率の比率は1より大であると表現することもできる。
【0031】
この記載された関係は、次の式:(粒子体積/nm
3)・(|Δε
r|/ε
r)>x
によって表すこともでき、式中、x∈{500,1000,2000}、ε
rは、1つの相、好ましくは1つのガラス質の媒体、または残留ガラス相の比誘電率であり、かつ|Δε
r|は、ガラス質の媒体の比誘電率と封入された相の比誘電率との差の絶対値を表す。
【0032】
粒子の記載された体積は、全ての粒子の全体積に関するのではなく、粒子の1つの体積に関し;この場合、この体積は、ことに、例えば粒子の少なくとも50パーセントを超える平均値、またはさらに下記に説明されている中央値が考慮される。
【0033】
ワークピースの材料は、ことにガラスセラミックであることができるが、複合素材であることもできる。封入された相は、特に結晶質相であることができる。他方の相によりほぼ取り囲まれている封入された相の領域を粒子といい、この封入された相は、ことにガラスセラミック中で成長し終えた結晶であることができる。
【0034】
この場合、意外にも、ガラスセラミックは、高エネルギーレーザーパルスの作用に対して、ガラスセラミックを生成するグリーンガラスとは、かなり異なるように反応することが判明した。
【0035】
ことに、この種の多相ワークピース内に所定のレーザー出力で、同じレーザー出力での同じ材料からなる単相のワークピースの場合よりもかなり大きな規模の損傷または欠陥を作製することができることが判明した。この点で、本発明による方法は、多相ワークピース内に、同じレーザー出力での単相のワークピースの加工と比較して、より大きな規模の変性を作製するか、または多相ワークピース内に、低減されたレーザー出力での単相のワークピースの加工と比べて、比較可能な大きさの変性を作製することを可能にする。
【0036】
本発明の1つの発展形態の場合に、透明なワークピース内に、線に沿って互いに並んだ線形の材料変性が製造される。このために、ビーム形成光学系を用いて形成された、好ましくは集束されたレーザービームは、ワークピース内に運動方向に沿って線形の変性を製造するために、ワークピースに対して相対的に動かされる。各線形の変性は、少なくとも1つのレーザーパルスにより作製される。1つの箇所に連続して複数のパルスを行うこともでき、または重なり合うレーザーパルスをバーストの形で放射することもできる。
【0037】
材料のフィラメント化の場合に、線形の材料変性は、それぞれ一般に少なくとも500マイクロメートルの長さの、典型的には約1マイクロメートルの直径の、欠陥の通路であることができる。
【0038】
線形の変性が互いに並ぶ経路もしくは線は、直線状で、曲線状でおよび/または角度が付けられて、例えば角を有していてよい。
【0039】
本発明による方法は、線形の変性を作製することは別にして、透明なワークピースの表面に変性を作製するために使用することもできる。このために、レーザービームを用いて表面から材料が除去される。これには、例えばレーザーアブレーション法が含まれる。この場合、本発明による方法によって、表面に比較的深いおよび/または比較的広範囲な材料除去を行うことを達成することができる。
【0040】
本発明による方法は、ことに、透明なワークピースの内部に変性を作製するためにも使用することができる。このために、短パルスレーザーまたは超短パルスレーザーのパラメータを、透明なワークピースの表面での損傷が避けられるように調節することができる。
【0041】
換言すると、本発明による方法は、透明なワークピース内に内部マーキングまたは内部損傷を作製するために使用することもできる。この場合、適合するパラメータで、レーザービームがワークピース内に入射する表面の損傷を排除することができる。ことに、材料の内部に空隙、いわゆるボイドを作製することもできる。本発明による方法を用いて、ことに比較的顕著な内部マーキングおよび比較的大きなボイドを達成することができる。
【0042】
本発明による方法により製造可能な、ことにガラスセラミックまたはポリマー素材の形の複合素材は、少なくとも1つの第2の相の領域の立方ナノメートルで表される体積と、第1の相の比誘電率と少なくとも1つの第2の相との比誘電率の、1を差し引いた比率との積が、500より大で、好ましくは1000より大で、特に好ましくは2000より大であり、この場合、第1の相の比誘電率ε
r1は、少なくとも1つの第2の相の比誘電率ε
r2以上であることにより特徴付けられる。
【0043】
GE>500、好ましくはGE>1000、特に好ましくはGE>2000の、積GE=(粒子体積/nm
3)・(|Δε
r|/ε
r)は、次に説明する界面効果について特徴付けるパラメータである。本発明による複合素材の場合に、この積GEとは、対応する積の体積割合に関して重みづけられた平均値と見なされる。物理的な原因として、材料の界面での電界強度Eの法線成分が急激な変化を被ると想定することができる。電界強度E
1、E
2は、この場合、誘電率の比率に反比例するように挙動する。したがって、E
2/E
1=ε
r1/ε
r2が当てはまる。それゆえ、ε
r1=4を有する誘電性材料が、ε
r2=2を有する誘電性材料に遷移する場合、電界強度は倍加する。
【0044】
本発明の場合に、複合素材の内部に、材料の少なくとも1つの線形の変性が延び、この線形の変性は、少なくとも500マイクロメートルの長さの、欠陥の通路である。
【0045】
この線形の変性は、ことに、レーザー加工装置が、作製されるべき変性の箇所で、ワークピースの表面に対して垂直に位置合わせされている場合に、ワークピースの全体の厚みにわたり延びていることができる。各線形の変性は、ほぼ光軸の方向の欠陥の通路である。このような線形の変性を、1つの線の形に、互いに隣り合って、もしくは互いに前後に並べて作製することが予定されている。次いで、任意に形成された曲線でもあることができる線に沿って、このワークピースを、後続するプロセスで分離することができる。したがって、この線は分離線として利用することもできる。
【0046】
所望の分離線または後の破断線に相当する、所与の輪郭に沿った線形の変性の列状の配置は、適切に形成された、好ましくは集束されたパルス化されたレーザービームのワークピースに対する相対運動により達成される。
【0047】
全体の分離線の一部としての変性、ことに線形の変性を作製するために、レーザーパルスを、バーストの形で放射することができる。「バースト」とは、本来のレーザーパルスを、パルスパケットとなる複数の部分パルスに分割することを意味する。短パルスレーザーまたは超短パルスレーザーは、この場合、つまりいわゆるバーストモードで使用される。バーストの部分パルスの時間的間隔を表すバースト周波数は、一般に、パルス化されたレーザーの繰り返し率よりも遙かに大きく、かつ例えば、1kHzにすぎない繰り返し率と比べて、50MHzであることができる。この理由から、バーストの全てのレーザーパルスは、ほぼ同じ箇所でワークピース内に入射し、かつ全てが唯一の変性、好ましくは1つの線形の変性の形成に寄与する。
【0048】
短パルスレーザーまたは超短パルスレーザーの他の重要なパラメータは、ワークピースの透過範囲内にあるその波長、その平均出力、その繰り返し率、そのパルス時間およびそのビームプロフィールである。
【0049】
ビーム形成光学系は、所定の厚みの誘電性ワークピース内に、軸方向および横断方向で定義された強度分布を生成するという課題を有する。
好ましくは、ワークピース内に、完璧な点状の集束の代わりに、軸方向に延びかつ横断方向にコンパクトな強度分布を生じさせるビーム形成系が使用される。
このために、レーザー加工装置のビーム形成光学系は、多様に成形された光学素子を含む。例えば、凹面レンズ、凸面レンズ、平凹レンズ、平凸レンズ、または凹面レンズ、凸面レンズ、平凹レンズ、平凸レンズ、またはアキシコンが可能である。アキシコンを用いて、ことに、強度分布がガウスビームに相当するレーザービームから、強度分布がベッセルビームに相当するレーザービームを生成するかまたはベッセルビームに相当するレーザービームに近づけることが可能である。本発明による方法を用いて、(近づけられた)ベッセルビームを用いる材料加工も可能である。あるいは、および一般に僅かな調整の必要性のために、好ましくは、適切な球面収差を有する光学系を使用することもできる。最も簡単な場合には、これは、球面レンズもしくはこの球面レンズからなる系、または非球面を有する光学素子である。さらに、一定のまたは可変の特性を有する回折性の、ホログラフィック素子も使用することができる。数100μm〜数ミリメートルの区間に沿って、光軸と同形の、できる限り高い強度を生成し、この場合、この強度の中央の半値幅は軸方向でできる限り僅かにしか変化せず、かつ僅かなレーザー波長の幅を有することが常に目標である。
さらに、x、y、z位置をワークピースに対する時間の関数として調節または制御することが大抵は有利である。さらに、ワークピースの表面が平坦な面とは相違する場合、または管のような湾曲した面の場合には、入射するレーザービームの方向を、局所的な面法線に関して調節または制御することが好ましいことがある。
反対に、個々の粒子の体積を、封入された相の比誘電率と取り囲む相の比誘電率との比率、ならびにフィラメントの所望の長さに依存して選択することができる。
【0050】
比誘電率の所与の比率において、封入された相の個々の粒子の体積の大きさのパラメータは、ワークピース内の線形の変性の所望の長さまたは所望の表れかたを得るために決定的な大きさである。
【0051】
変性の長さの特に簡単な調節は、パルスエネルギーの高さによって可能である。
【0052】
本発明による方法を用いて、例えば、多相材料からなるワークピースにおいて、2つ以上の相の異なる比誘電率の公知の値を考慮して、変性の所望の拡がりまたは表れかた、ことに線形の変性の長さを、封入された相の個々の粒子の体積の大きさを調節または制御することにより得ることが可能である。このような調節または変更は、この場合、多相材料の相応する選択によって行われる。
【0053】
本発明による方法の一実施態様の場合に、光学素子を、レーザー光の偏向のため、およびレーザービームがワークピースに当たる箇所の漸次変更のために使用する。この光学素子は、少なくとも1つの、例えばガルバノメータースキャナーとして構成された回転ミラーを含むことができる。
【0054】
好ましくは、線形の変性の望ましい作製の場合に、ワークピース内の線形の変性の製造のために、およびその後に、並んだ線に従った光学系とワークピースとの間の段階的な相対送りのために、集束されたレーザービームとワークピースとの相対運動は、ワークピースに対する集束光学系もしくはビーム形成光学系の位置合わせのためのワークピーステーブルと送り装置とを準備することによって達成される。ワークピーステーブルの準備は、一般に、他の性質の変性を作製するためにも行うことができる。
【0055】
本発明の範囲内の実験は、意外にも、ガラスセラミックが、記載されたプロセスに関して、それぞれのガラスセラミックに所属するグリーンガラスとはかなり異なるように反応することを示した。この相違は、とりわけ、相応する変性の表れかた、拡がりおよび大きさにおいて明らかとなり、この変性は、ガラスセラミック内では、グリーンガラス内よりも、明らかに顕著で、拡がっていて、または大きいことが判明した。線形の変性の場合には、ことに、生じる線形の変性の長さが増大した。これは、封入された相の形で、一般にガラス質マトリックス中のナノ粒子の形で、サブミクロンスケールで変化する組成を有するガラスセラミックの多相性に起因することが見出された。
【0056】
ことに、ガラスセラミックのこれらの相は、核、高温石英混晶、および本質的に取り囲む非晶質の残留ガラス相であることができる。これらの相は異なる比誘電率を有する。したがって、ガラスセラミック内に、比誘電率が急激に変化する界面が存在する。上述のように、高い強度のレーザービームの材料との相互作用の際に、局所的なプラズマ生成が起きることがあり、これにより、記載された欠陥の発生が起きることがある。相互作用の種類および強度について、もしくはそれと関連する材料の変性について重要なのは、この場合、強度の根に比例するレーザービームの電界強度の振幅である。レーザーパルスがガラスセラミックを通して伝播する場合、電磁場(波)はガラスセラミックに影響を及ぼす。
【0057】
相の境界面では、異なる比誘電率に基づいて、電気力学の場の理論の連続条件に従って、電界強度において片勾配が生じる。この片勾配の強度は、この場合、両方の比誘電率の比率に依存する。つまり、相の境界面での電界強度の片勾配の場合、「増幅率」について言及することができる。したがって、高い増幅率で容易なプラズマ生成を引き起こすために、これらの相ができる限り異なる比誘電率を有することを目指すべきである。
【0058】
実験において、意外にも、比誘電率の間の差が、効果的な材料変性にとって重要であるだけでなく、個々の層の大きさも重要であることが見出された。この場合、粒子サイズと増幅率との相互作用が重要であることが判明した。
【0059】
上述の三相ガラスセラミックの他に、二相、四相および他の多相ガラスセラミックおよび他の材料クラスの多相材料も、本発明による方法に関して可能である。ことに、この材料は、例えば微細に分散した粒子を有するポリマー素材のような複合素材であることができる。ガラスセラミックは、光学フィルター、いわゆる色かけガラス、および熱的にゼロ膨張性を有するガラスセラミックであることができる。
【0060】
プラズマの生成の際の2つの相の間の界面の影響の程度(ここでは「界面効果」ともいう)が粒子体積に比例するという仮定に基づき、粒子体積の大きさを予め決定することが予定されていてもよい。粒子体積の大きさを予め決定することは、さらに、粒子が球状であり、つまりほぼ球形であるという仮定に基づくことができる。この仮定の場合に、換言すると、界面効果は粒子直径の三乗に比例することを前提とすることができる。
【0061】
さらに、粒子サイズを予め決定するために、界面効果は両方の相の比誘電率(上述参照)の1を差し引いた比率に比例すると仮定することができる。比誘電率の比率において、より大きな比誘電率は、例えば取り囲む残留ガラス相の比誘電率は、分子にあり、より小さな比誘電率は、例えば高温石英混晶の比誘電率は、分母にある。プラズマ生成は、より低い比誘電率の媒体中に電磁波が入射する際に常に生じる。
【0062】
上述の3つの仮定に基づいて、好ましくは、界面効果についての特性パラメータGEとして、次の関係を用いることができる:
(粒子体積/nm
3)・(|Δε
r|/ε
r)>x
式中、x∈{500、1000、2000}、ε
rは、ガラス質の媒体の比誘電率。
【0063】
この関係において、第1の係数は、粒子体積についての程度であり、かつ第2の係数は、電界強度の急激な変化についての程度である。比誘電率が同じである場合、この係数およびそれによる界面効果もゼロに等しい。粒子直径の記述は、ナノメートル(nm)で表されていて、この場合、nm
3による除算は、単にパラメータGEの無次元化のために用いる。
【0064】
ガラスセラミックの場合には、界面効果GEに基づき、比較的低い強度で既に、損傷、つまり変性の形成が起きる。これは、それどころかグリーンガラスの場合よりも、より強く、より広範囲で、より顕著で、より大きくまたはより長くなることができる。しかしながら、面積当たりのエネルギーは余り多く蓄積されないために、ガラスセラミック中では、欠陥はそれほど顕著に生じない。それに対して、ガラスセラミックに対応するグリーンガラスの場合には、ガラスセラミックの場合よりも、より大きな強度が必要であるので、そこでは損傷がより強く生じる。
【0065】
さらに、フィラメント状のビーム伝播の場合、グリーンガラスにおいて、一般に比較的高いリフォーカシングサイクルが起きることが見出された。これは、上述の界面効果を用いて説明することができる。グリーンガラスの場合に、プラズマを点火するためにレーザーの比較的高い強度を必要とするため、フィラメントの長さについて決定する平衡状態は、より不安定であり、かつより急速に崩壊する。しかしながら、パルスがまだ十分にエネルギーを有する場合、パルスはリフォーカシングすることができる。
【0066】
さらに、バーストモードを使用する場合に、バースト当たりの部分パルス数を調節することにより、変性の所望な大きさまたは表れかた、ことに線形の変性の場合に長さを調節することを予定することができる。バーストの部分パルスは合計して、レーザーの形式に依存して、シングルショットモードの場合の対応する単一パルスよりもそれ自体でいくらか多くのエネルギーを運ぶことがあり得る。しかしながら、一般に、バーストの最初のパルスのエネルギーが大きくなればそれだけ、バースト当たりのパルス数はより小さくなる。バーストの最初のパルスのエネルギーが大きくなればそれだけ、変性の可能な表れかたはより大きくなる。さらなるパルスの数によって、いわゆる欠陥カテゴリーが高まるだけである。欠陥カテゴリーは、透明な材料の損傷の強さについての程度(変性の表れかた)である。例えば、次の欠陥カテゴリーを区別することができる:0=100倍の拡大の下で変性は認識されない;1=細い通路;2=ところどころに太い領域を有する細い通路;3=比較的大きな損傷;4=亀裂、微小爆発および/または溶融領域。
【0067】
例えば、グリーンガラスにおいて、ガラスセラミックと比較して、バーストモードを使用する場合に、変性の同じ大きさまたは表れかた、ことに線形の変性の同じ長さを得るために、最初の部分パルスにおいて比較的高いパルスエネルギーを必要とする。バースト当たりの部分パルス数を変更することにより、最初のパルスのエネルギーを調節することができ、それにより、変性の大きさまたは表れかたを調節することができる。
【0068】
さらに、粒子サイズの中央値が、6nm以上、好ましくは8nm以上、特に好ましくは10nm以上であることを予定することができる。というのも、界面効果が特に有効となる臨界的な粒子サイズが存在するように思えるためである。この臨界的な粒子サイズを考慮して、粒子サイズの上述の中央値が有利であることができる。
【0069】
好ましくは、ワークピース材料の製造の際に、微細に分配された付加的な粒子を予定することができ、それにより変性を作製する過程はより効果的にされる。
【0070】
ことに板ガラスから製造されるガラスセラミックの場合に適用することができる本発明による方法を用いて、均一のガラスの場合よりも、経済的な利点と関連する低いレーザー出力で、高い切断能力を達成することができる。多相材料の場合に、レーザー供給源のパルスエネルギーの形式による制限に基づいて与えられる加工可能な材料の厚みの上限は、均一なガラスの場合よりも大きく、このことは極めて厚いまたは多層の材料に適用する場合に有利である。
【0071】
好ましくは、本発明による複合素材の場合に、第1の相の領域は、少なくとも1つの第2の相の領域を少なくとも部分的に取り囲む、つまりほぼ取り囲む。特に好ましくは、本発明による複合素材の場合に、少なくとも1つの第2の相の領域は、第1の相により完全に封入されている。
【0072】
本発明による複合素材の場合に、少なくとも1つの第2の相の領域は、互いに離れて存在することができる。本発明による複合素材の一実施形態は、少なくとも1つの第2の相の領域がほぼ球状に形成されていることにより特徴付けられる。本発明による複合素材の他の実施形態の場合に、線形の変性の長さは、100〜10000μm、好ましくは1000〜10000μm、特に好ましくは3000〜10000μmである。
【0073】
同様に、第1の比誘電率と第2の比誘電率との比率(ε
r1/ε
r2)は、1.05以上、より良好には1.1以上、好ましくは少なくとも1.3であることができる。これは、換言すると、|ε
r1−ε
r2|/ε
r2(他の箇所では、|Δε
r|/ε
rとも表されている)は、0.05以上、より良好には0.1以上、好ましくは少なくとも0.3であることができることを意味する。
【0074】
本発明による複合素材は、2つ以上の相を含むことができると解釈される。第1の相中に、異なる比誘電率の複数の第2の相が含まれていてよい。
【0075】
好ましくは、本発明による複合素材は、分離線の形成のための線形の変性の列状の配置を含む。
【0076】
本発明のさらなる詳細は、図面と関連して図示された実施例の次の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】ワークピーステーブル上のワークピースの加工の間のレーザー加工装置。
【
図2】ガラスセラミック内の欠陥から形成された線形の変性。
【
図3】バースト当たりの部分パルス数の関数としての、集束光学系の異なる焦点距離のレンズを用いて、比較のためにガラスセラミックおよび所属するグリーンガラス内に作製された線形の変性の長さ。
【
図4】ガラスセラミック内で集束されたビームの中心軸に沿った強度の、2つの図式的に示す推移。
【
図5】ガラスセラミック(a)およびホウケイ酸塩ガラス(b)内での線形の変性の走査電子顕微鏡写真。
【0078】
図1には、ワークピーステーブル3上に載置されたワークピース2の上方のレーザー加工装置1が示されている。レーザー加工装置1は、焦点13がほぼワークピース2の表面上にある集束された光束12を放射するために、超短パルスレーザー10および集束光学系11を有する。ワークピース2上に、ワークピース2が分離または分割されるべき切断線または破断線20が示されている。焦点13はこの線20に沿って走行することができることが予定され、このことはテーブル3を両方の座標方向21、22に調節することにより達成することができる。極めて小さな調節ステップが使用される。
【0079】
超短パルスレーザー10のビームの波長は、この波長がワークピース2の透過範囲内にあるように選択される。超短パルスレーザー10は、いわゆるバーストモードで運転され、このバーストモードでは、本来、バーストといわれるパルス自体がパルスパケットを形成し、このパルスパケットは、約100kHzの繰り返し率Rで繰り返される。レーザーパルスまたはパルスパケット(バースト)のエネルギーは、各バーストの際にフィラメントといわれる損傷通路14が、ワークピース2の上面2aに対して垂直に、そのワークピースの内側内に形成されるように決められている。ビーム形成光学系11を予め設定可能な運動線20に沿って走行させることにより、ワークピース2内に一連の線形の変性14が作製される。1m/sの送り速度で、下面2b方向に向かう損傷通路14の開始点は、超短パルスレーザー10の上面2a上の運動線20に沿って、10μmの距離を有する。ワークピース2に対して相対的な超短パルスレーザー10の運動線20は、破断面を規定し、かつしたがって破断線20ともいわれる。
【0080】
この種の、本発明による方法を用いてもしくは本発明による複合素材内に形成された線形の変性14は、
図2に示されている。
図2から明らかなように、線形の変性14は、損傷通路に沿って作製されたかまたは配置されている108μm、221μm、357μmおよび1037μmの長さを有する欠陥50、51、52および53から形成されている。
図2に示された欠陥は、263μm、195μmおよび34μmの距離60、61および62を有する。
図2の同等の3つの測定からの平均値は、290μm、209μmおよび150μmの距離を有する104μm、237μm、350μmおよび1020μmの欠陥長さを生じる。
【0081】
したがって、線形の変性の作製に限定されるこの実施例は、欠陥長さが一定である必要がないことを示す。これは、ワークピースをフィラメントの整列線で後にきれいに分離するために、大きな利点であることができる。
【0082】
したがって、本発明による方法の別の発展形態では、一般に、かつ上述の特別な実施例に制限することなしに、透明なワークピース2内に存在する、線20に沿って並んだ線形の変性14は、それぞれ1つの通路に沿って配置された複数の欠陥から形成され、ここで欠陥の長さは、ワークピースの表面からの距離が増すにつれて増大することが予定される。したがって、ワークピースの所望の分割の際に線形の変性の整列線に適用される引張荷重または曲げ荷重の際に、短い欠陥が、表面付近に、つまりより大きな曲げ応力が生じる箇所に存在する。バルク内で、ワークピースの中心に向かって、曲げ荷重の場合に引張応力は小さくなる。このため、欠陥はより長く、かつワークピースはここでは大きな程度で弱められている。つまり、ワークピースが曲げ荷重に曝される場合に、臨界的な曲げ荷重はフィラメント構造に沿って均一に分配されるため、破壊挙動は改善される。
【0083】
次に、ガラスセラミックおよびグリーンガラスの対応するペアの調査を記載し、これらを、以後、ガラスセラミックAおよびグリーンガラスAと表す。グリーンガラスAは、Li
2O(酸化リチウム)、Al
2O
3(酸化アルミニウム)、SiO
2(二酸化ケイ素)および、一緒にほぼ4質量パーセントのTiO
2(二酸化チタン)ならびにZrO
2(二酸化ジルコニウム)を含むガラス組成を有する。この組成の変態温度は670℃である。
【0084】
このグリーンガラスAに基づいて、ガラスセラミックAは、セラミック化により製造することができ、この場合、ガラス状の材料内に個々に微細に分配された結晶が形成される。このために、グリーンガラスAは、電気的に加熱されたセラミック化炉内で加工された。この場合に材料の行われる変換プロセスは、核生成と結晶成長に分けることができる。それぞれの結晶化の開始時に、結晶核が生じ、この結晶核に結晶が成長し始めることができる。
【0085】
グリーンガラスAの場合に、添加されるべき二酸化チタンおよび二酸化ジルコニウムの形で不純物が存在し、これらは高い溶融温度(1855℃または2715℃)を有し、加熱の際に析出し、かつ結晶核として作用する。これらは、セラミック化プロセスの際に不均一な核であり、それにより高い核密度および小さな結晶サイズが達成される。結晶成長により、斜方晶系に配置されたZrTiO
4からなる結晶核に、高温石英混晶(HQMK)が成長する。これは、LAS系に基づき、この名称は、酸化リチウム、酸化アルミニウムおよび二酸化ケイ素の結晶構造単位に基づいている。石英(SiO
2)は、573℃でいわゆる高温石英に変換される。他の原子の進入により、HQMKは、この温度を下回る場合に安定である。
【0086】
この試験のために、超短パルスレーザーを使用し、ここで、1064nmの波長、12W(1064nm、100kHz、1パルス/バーストで)の平均出力、100kHzの繰り返し率、50MHzのバースト周波数、約10ps(1064nmおよび100kHzで)のパルス時間、および放射プロフィールとしてガウスビームを使用した。
【0087】
レーザーパルスにより導入されかつ吸収されたエネルギーは、ガラスセラミックA内で、グリーンガラスと比較して低い熱容量に基づきより強い加熱が生じ、この場合、生じる熱は、グリーンガラスA内よりもより効果的に導出される。しかしながら、ナノ秒範囲での極めて短い時間で、顕著な熱搬出は行うことができないことも予想される、そのために、グリーンガラスAと比べてガラスセラミックA内でより高い温度の仮定が理由付けられる。
【0088】
バーストモードの場合には、バーストの第2のパルスは、既に予熱された領域に当たる。50MHzのバースト周波数は、個々のパルス間では単に20nsの時間であることになり、これは、先の段落で述べた条件を満たす。USPレーザーブラスト技術の場合のバーストモードの影響は、いまだに完全には解明されていないが、まさしく他のパルスの挙動に影響を及ぼす熱蓄積にあると強く推測される。作製された欠陥は、パルス数aが増加するにつれてより効果的に形成される。
【0089】
したがって、本発明の好ましい実施形態に従って、線形の変性が挿入されかつ両方の材料は、バースト当たりのパルスのそれぞれ異なる数aで処理された試験系列を実施した。比較的広いデータ多様性を得るために、異なる焦点距離の4つのレンズを使用した。上述の理論によれば、ガラスセラミックAの欠陥もしくは線形の変性の全長の、グリーンガラスA内の相応する全長に対する比率は、バースト当たりの部分パルス数が増大するにつれて増加しなければならない、というのも、熱蓄積の効果は、部分パルス数が増加するにつれてより強くなるためである。
【0090】
しかしながら、バーストの個々の部分パルスに関するエネルギー分布に留意しなければならない。1つだけの部分パルスの場合には、パルスエネルギーは120μJであり、かつパルスピークパワーは12MWである。それに対して、2つのパルスのバーストモードの場合には、第1のパルスは、約77μJであり、第2のパルスは56μJである。したがって、高いパルス数の場合には、材料内に変性を生じさせるために、パルスエネルギー、それによりパルスピークパワーおよび強度も低すぎることが起きることがある。
【0091】
繰り返し率、y方向への送り速度(1m/s)および出力レベル(100%)は、この試験系列の間に、一定に保持した。
図3は、結果を示す。
【0092】
2つの状況の場合にだけ、材料の損傷は生じなかった:グリーンガラスA、焦点距離10mm、および4もしくは8パルス/バースト。ここでは、バーストの第1の部分パルスのパルスエネルギーは、材料の変性を作製するために十分ではなかった。他の光学系の場合には、この欠如は当てはまらなかった、というのもその生成されたビーム形状がおそらくより適切であったためである。
【0093】
この結果から、全長の部分パルス数aへの著しい依存が明らかとなる。1つの場合(グリーンガラスA、焦点距離は80mm、およびaは2)を除いて、全長は部分パルス数が増大するにつれて減少し、このことは、測定データの単調に低下する特性を明確にするために測定点を結んだ
図2が示す。おそらく、これは、利用するレーザーの第1のパルスの低いパルスエネルギーに起因し、このパルスエネルギーは増加する部分パルス数aに対して減少する。したがって、第1のパルスのエネルギーが長さに関連し、かつ他の部分パルスは損傷の性質だけを強化するという仮定は、少なくとも第1の点で確認された。
【0094】
次に、光学フィルターの製造のために使用される材料の調査をさらに記載する。これは材料RG610であり、この場合、この材料は、グリーンガラス(以後、グリーンガラスRG610という)としても、グリーンガラスの熱処理により製造された、少なくとも2つの異なるガラス質相もしくはガラス質−結晶質相を有するいわゆる色きせガラスとしても調査した。
【0095】
2つの相を有する色きせガラスの状態で、屈折率は1.52である。黄色のグリーンガラスRG610は、熱処理により着色し、それにより色きせガラスRG610は後に暗赤色に見える。この理由は、カドミウム、硫黄、セレンおよび亜鉛を含む、生じた混合相(非晶質または結晶質)である。この混合相について屈折率は存在しないため、この屈折率は、似た種類の結晶について588nmのDラインでの屈折率から生成した:セレン化亜鉛、硫化亜鉛、セレン化カドミウム、硫化カドミウム。それにより、この結晶の2.53の屈折率が生じる。結晶質相は僅かな体積割合(約12%)を有するだけであるので、残留ガラス相の屈折率は、グリーンガラスRG610の1.52の屈折率に近づけることができる。したがって、2.770の比誘電率の比率(屈折率の二乗の比率)が生じる。結晶のサイズ(直径)は、約12nmである。
【0096】
超短パルスレーザー技術をRG610に適用する場合に、グリーンガラスとガラスセラミックの間の不一致を明らかに示すことができた:ガラスセラミックRG610内の欠陥は、グリーンガラスRG610の場合の2倍よりも大きく、かつ6.6mmの厚みのガラスにおいて5mmの長さにまで達する。
【0097】
【表1】
【0098】
表1は、RG610(色きせガラスとして)およびガラスセラミックA(界面は残留ガラス相および高温石英混晶)ならびに予め核生成された材料A(界面は残留ガラス相および核)について、上述の式を用いて計算した界面効果GEの係数を示す。
【0099】
この計算値は、ガラスセラミックAについて、色きせガラスRG610Aについての値の2倍よりも大きいが、両方とも同じオーダーである。これは、予め核生成された材料Aについての値の場合とは異なる。
【0100】
グリーンガラスおよびガラスセラミックAは、次の組成を有するリチウム−アルミノケイ酸塩ガラスである:
SiO
2 60〜73.0質量%、
Al
2O
3 15〜25.0質量%、
Li
2O 2.2〜5.0質量%、
CaO+SrO+BaO 0〜5.0質量%、
TiO
2 0〜5.0質量%、
ZrO
2 0〜5.0質量%、
ZnO 0〜4.0質量%、
Sb
2O
3 0〜3.0質量%、
MgO 0〜3.0質量%、
SnO
2 0〜3.0質量%、
P
2O
5 0〜9.0質量%、
As
2O
3 0〜1.5質量%、
Na
2O+K
2O 0〜1.2質量%、ここでそれぞれの割合は、次に記載する範囲内にある、
Na
2O 0〜1.0質量%、
K
2O 0〜0.5質量%、および
着色性酸化物 0〜1.0質量%。
【0101】
上述のように、2つのレンズについて、ガラスセラミックA内では、グリーンガラスA内と同様に、パラメータの適合により同じフィラメント構造長さを達成することができることが説明された。この場合、グリーンガラスA内と同じ欠陥カテゴリーを達成することもできた。したがって、バーストの第1の部分パルスのエネルギーは、欠陥長さにとって重要であるが、それに対して、他のパルスは、欠陥カテゴリーを高めるだけであることが見出された。同じパラメータの場合に、ガラスセラミックA内の欠陥は、グリーンガラスA内のものよりも長いが、その欠陥カテゴリーは余り高くはない。バースト当たりの部分パルスの数が高まるにつれて、欠陥はより短くなり、かつ欠陥カテゴリーはより大きくなる。ガラスセラミックA内で8つの部分パルスを用いる場合が、グリーンガラスA内で2つの部分パルスを用いる場合と同じ結果を達成できることが確認された。
【0102】
ガラスセラミックA内の界面効果GEに基づき、比較的低い強度でも損傷が起こり、そのためこの損傷は、グリーンガラスA内よりも長くなる。しかしながら、面積当たりのエネルギーを余り多く蓄積することができないため、この欠陥は余り顕著にならない。それに対して、グリーンガラスA内では、より大きな強度を必要とする、そのためこの損傷は、ここではより顕著になる。バースト当たりの部分パルス数を上述のように高めることで、これを補償することができる。
【0103】
グリーンガラスの場合に一般にリフォーカシングサイクルの比較的高い数も、このモデルで説明することができる。グリーンガラスの場合に、プラズマを点火するためにレーザーの比較的高い強度を必要とするため、欠陥長さについて決定する平衡状態はより不安定になり、かつより速く崩壊する。しかしながら、パルスはその後にまだ十分なエネルギーを有する場合に、このパルスはリフォーカシングすることができる。
【0104】
材料変性を作製するために、出力の閾値に達するかまたは出力の閾値を超える。この閾値は、ガラスセラミックについて、電界強度の向上の記載された効果により、しばしば対応する原料ガラスについての値(表参照、全ての値はW/m
2で表す)よりも明らかに低い。
【表2】
【0105】
光学的に最適化されていない構造の場合、例えばレーザービームを球面収差を有するレンズで集束する場合、(ビーム方向で見て)材料中の集束領域の後方の端部で、結像光学系の付近の場合よりも明らかに高い強度および出力が存在するため、実質的に強度ピークの付近でだけこの閾値を超える。しかしながら、適合された光学系の場合、同じパルスエネルギー(曲線下で同じ面積)は、焦点領域でより均一に分配され、ひいては理想的にはできる限り均質にガラスセラミック閾値を越えるので、上述の電界強度の強化効果の結果として材料変性は、ガラスの場合よりも明らかに長い領域にわたって作製することができる。
【0106】
この効果を、
図4を用いて次に説明する。
【0107】
図4は、ガラスセラミック内で集束されたレーザービームの伝播方向の中心軸に沿って体積当たりの出力の2つの推移J
1、J
2を図式的に示す。横軸に沿った値xは、レンズに対する距離を表す。所望の線形の変性は、体積当たりの出力の所定の閾値を超えて作製される。
図4には、ガラス内に変性を作製するための閾値(P/V)
min,Glas、およびガラスセラミック内に対応する変性を作製するための、それに比べて低い閾値(P/V)
min,Glaskeramikが記入されている。
【0108】
強度推移J
1は、例えば球面収差を有するレンズを用いて集束することにより生じる。
【0109】
強度推移J
2は、例えばアキシコンを用いて達成することができるような最適化された推移である。集束によって、長く延びた強度極大を達成することができる。同じパルスエネルギーの場合に、ピーク強度は、強度推移J
1の場合よりも相応して低い。
【0110】
作製された線形の変性の長さは、体積当たりのパルス出力がそれぞれの閾値を越える領域の長さに依存する。強度推移J
1は、まだガラス内に長さL
Glasの線形の変性を可能にする。それに対して、強度推移J
2によって、もはや変性は達成されない、というのも、閾値(P/V)
min,Glasは、比較的低い最大強度によりもはや越えられないためである。それに対して、ガラスセラミックの場合には、これは、比較的低い閾値(P/V)
min,Glaskeramikで可能であるばかりか、達成可能な長さL
Glaskeramikもより大きくなる。閾値を越える、ビーム方向で長く延びる焦点の領域により、相応して長く延びる線形の変性が生じる。したがって、線形の変性の長さは、単位体積当たりの最小エネルギーおよび最小出力を超える単位体積当たりのレーザーパルスエネルギーおよび出力の、線形焦点に沿ってできる限り均一な分配により最大化することができる。変性のできる限り大きな長さを達成するために、ワークピース2の材料に依存して、所与のパルスエネルギーで、レーザービームを集束するために、低減された最大強度で球面レンズと比べて長く延びた焦点を生成する光学系を選択することができ、この場合、材料の変性を作製するための閾値は下回らない。換言すれば、つまり、レーザービームの最大強度が、材料を変性する強度の閾値の150%未満、好ましくは130%未満であるように焦点を伝播方向で空間的に延長するように、レーザービームを集束するための光学系が使用される。
【0111】
有利な強度分布は、ことに、光学系を用いて、強度が変性の閾値の少なくとも110%である長さ領域の、強度が閾値の少なくとも10%である長さ領域に対する比率が、少なくとも0.4、好ましくは少なくとも0.5、特に好ましくは少なくとも0.7であるようにビームを集束する場合に達成される。この様式で、材料中の極めて長く延びた領域が閾値を越える強度で照射されるように、強度の特に好ましい分配が達成される。
【0112】
図4に基づいて、変性の長さは、パルス出力によっても簡単に調節できることも明らかになる。出力が向上するにつれて、変性を作製するための閾値を越える長さ部分が長くなる。
【0113】
図5aは、本発明による方法によってもしくは本発明による複合素材内に形成されている、複数の(図中では左から右に向かって)互いに並んで配置された(かつ図中では上から下に向かって延びる)線形の変性14のSEM写真を示す。
【0114】
9つの可視の線形の変性14は、それぞれ相互に約7マイクロメートルの間隔を有し、かつバーストの形のレーザーパルスおよび両凸レンズ(16mm)を用いて作製され、この場合、次のプロセスパラメータを使用した:6つのバースト、バースト周波数:50MHz、バースト全エネルギー:約500μJ、減少するバースト形状、第1のパルスのパルスエネルギー約170μJ、12mmの環状ビーム1/e
2、波長:1064nm。
【0115】
図5aでは、線形の変性は、例えば、比較のために
図5bにおいて示されていて、かつサブミクロン範囲の直径を有するフィラメント状の通路を有するホウケイ酸塩ガラスの場合よりも遙かに広い。
【0116】
したがって、線形の変性または線形の変性の欠陥は、1μmよりも大きい、好ましくは2μmよりも大きい幅、ことに平均幅70を有することができる。幅とは、この場合、線形の変性が延びる方向に対して垂直方向の拡がりであると解釈される。
【0117】
このような比較的広い線形の変性または線形の変性の欠陥は、ことに溶融区域として形成されていてもよい。したがって、レーザーの作用領域の周囲で複合素材の材料は溶融することができ、かつ例えば相転移を被ることができる。
【0118】
比較的広い影響区域の他に、
図5aのSEM写真からは、線形の変性が、その延長方向に沿って(レーザービーム軸に沿って)領域的に気泡形成を伴っていることを推測することもできる。この気泡は、ことに、例えば既に上述の電界強度の向上による相境界部での中空(ボイド)であることができる。線形の変性に沿って付加的なフィラメント通路が形成されることも起こることがある。
【0119】
したがって、線形の変性は、少なくとも部分的に開放した領域80、ことに多孔性のまたは気泡状の領域を有することができる。