特許第6486518号(P6486518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6486518リチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6486518
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20190311BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190311BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20190311BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190311BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   H01M4/485
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/36 C
   H01M4/36 A
   C01G23/00 B
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-23215(P2018-23215)
(22)【出願日】2018年2月13日
(65)【公開番号】特開2018-166100(P2018-166100A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2018年12月18日
(31)【優先権主張番号】特願2017-51281(P2017-51281)
(32)【優先日】2017年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-81736(P2017-81736)
(32)【優先日】2017年4月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/047491(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/088193(WO,A1)
【文献】 特開2015−219943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
C01G 1/00−23/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均外径が50nm以下の炭素管状体の表面に、下記式(1):
LiaNabcTide ・・・(1)
(式(1)中、MはK、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Sc、Si、P、S、Fe、Mn、Co、Ni、Zn、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Pb、Ga、Ge、Bi、Ta、Sn、Eu、La、Ce、Nd、W、Ru又はGdから選ばれる1種又は2種以上を示し、a、b、c、d及びeは、0<a≦4、0<b≦4、0≦c≦6、0<d≦6、13≦e≦15、a+b+c×(Mの価数)+4d=2eを満たす数を示す。)
で表されるチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子が多数配置してなるリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法であって、次の工程(I)〜(III):
(I)平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバーを溶媒に分散させて、スラリー(X)を得る工程、
(II)得られたスラリー(X)及びチタン化合物から調製したスラリー(Y)を水熱反応に付して、酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)を得る工程、
(III)得られた酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)に、リチウム化合物及びナトリウム化合物、或いはリチウム化合物、ナトリウム化合物及び金属(M)化合物を混合した後、焼成する工程
を備えるリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項2】
工程(II)で調製したスラリー(Y)におけるチタン化合物の含有量が、溶媒100質量部に対して10質量部〜50質量部である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項3】
工程(II)で用いるチタン化合物が、チタンアルコキシド、塩化チタン、酢酸チタン、硫酸チタン、及び硫酸チタニルから選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項4】
炭素管状体の表面に配置してなるチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子の平均粒径が、5nm〜450nmである請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項5】
工程(III)における焼成を、不活性ガス雰囲気下又は還元条件下で行う請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項6】
リチウムイオン二次電池用負極活物質中における炭素管状体の含有量が、0.5質量%〜10質量%である請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における電子機器の小型化や軽量化に伴い、高いエネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池は、極めて有用な材料として益々注目を浴びている。さらにリチウムイオン二次電池の超薄型化や超軽量化を実現するため、外装材としてその多くがアルミラミネートフィルムを採用してはいるものの、充放電によって電極の体積の膨張及び収縮が繰り返されるにつれ、電池の縒れや電極間距離の拡大が生じて電池抵抗が増大しやすくなるため、電池特性の低下を招く結果に至ってしまう。
【0003】
こうしたなか、Li2Na2Ti614等の空間群Fmmmに属する結晶構造を有するチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物は、充放電に伴う体積変化がほとんどなく、その結果電極の体積変化が極めて小さい点で、有用性の高い負極材料として期待される。例えば特許文献1では、チタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物相(Li(2+y)NaTi614)と酸化チタン相(TiO2)との混相であるリチウムイオン二次電池用負極活物質が開示されており、上記のような問題に対応するための試みがなされている。
【0004】
ところで、一般にリチウムイオン二次電池を使用した場合、電解液/負極活物質界面において、負極活物質表面と電解液(LiPF6)の電気化学反応により、SEI(固体電解質相)と称されるリチウム、酸素、フッ素、又はリンを主成分とする被膜が形成される。こうしたSEIの存在により、電解液の分解が抑制されてリチウムイオンの挿入や脱離が円滑化され得るものの、SEIの厚みが増すにつれて負極活物質表面における抵抗が増大し、リチウムイオンの拡散が阻害されてしまうおそれもある。なかでもチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物は、その表面においてSEIが成長しやすいため、充放電を繰り返すにつれて導電パスが劣化し、それに伴ってサイクル特性が低下してしまう傾向にあることから、これを改善すべく種々の開発もなされている。
【0005】
例えば、特許文献2には、チタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物粒子の表面の少なくとも一部をスクロース等由来の炭素又はチタン酸リチウムで被覆する方法が開示されており、また非特許文献1には、チタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物の表面を銅/炭素複合相で被覆する方法が開示されており、いずれもサイクル特性の改善を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−171011号公報
【特許文献2】特開2016−171071号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Power Sources 2591、2014年、p.177−182
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載されるような、固相法による合成工程と粉砕工程とを組合せた製造方法では、結晶性が高い状態のままチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物の微細化を充分に図るのが困難であり、また上記特許文献2又は非特許文献1に記載の方法であっても、微細化が不充分なチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物を用いている上、かかるチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物への充分な導電パスの付与を考慮する上では、未だ不十分な検討に留まる。このように、いずれの文献に記載の技術においても、リチウムイオン二次電池において、導電パスを高めることを加味しつつ優れたレート特性を確保するには、さらなる改善を要する状況である。
【0009】
したがって、本発明の課題は、リチウムイオン二次電池において優れたレート特性を充分に発現し得る負極材料を得るべく、チタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者らは、種々検討したところ、特定のセルロースナノファイバーを用いつつ、水熱反応により酸化チタンのナノ粒子集合体を得る製造方法により、炭素管状体の表面にチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物粒子ナノ粒子が多数配置してなる特異な形状を呈する負極活物質を得ることができ、これを負極材料として用いることによって、高いレート特性を発現するリチウムイオン二次電池が実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、平均外径が50nm以下の炭素管状体の表面に、下記式(1):
LiaNabcTide ・・・(1)
(式(1)中、MはK、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Sc、Si、P、S、Fe、Mn、Co、Ni、Zn、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Pb、Ga、Ge、Bi、Ta、Sn、Eu、La、Ce、Nd、W、Ru又はGdから選ばれる1種又は2種以上を示し、a、b、c、d及びeは、0<a≦4、0<b≦4、0≦c≦6、0<d≦6、13≦e≦15、a+b+c×(Mの価数)+4d=2eを満たす数を示す。)
で表されるチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子が多数配置してなるリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法であって、次の工程(I)〜(III):
(I)平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバーを溶媒に分散させて、スラリー(X)を得る工程、
(II)得られたスラリー(X)及びチタン化合物から調製したスラリー(Y)を水熱反応に付して、酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)を得る工程、
(III)得られた酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)に、リチウム化合物及びナトリウム化合物、或いはリチウム化合物、ナトリウム化合物及び金属(M)化合物を混合した後、焼成する工程
を備えるリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、特定のセルロースナノファイバーを用いつつ、さらに水熱反応を介して得られた酸化チタンのナノ粒子集合体をも用いることにより、炭素の管状体表面にチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物のナノ粒子を多数配置させて、特異な形状を付与することができ、これをリチウムイオン二次電池用負極活物質として用いることによって、導電パスを有効に高めつつ優れたレート特性を有するリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られたリチウムイオン二次電池用負極活物質を示すSEM像である。
図2】比較例1で得られたリチウムイオン二次電池用負極活物質を示すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、平均外径が50nm以下の炭素管状体の表面に、下記式(1):
LiaNabcTide ・・・(1)
(式(1)中、MはK、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Sc、Si、P、S、Fe、Mn、Co、Ni、Zn、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Pb、Ga、Ge、Bi、Ta、Sn、Eu、La、Ce、Nd、W、Ru又はGdから選ばれる1種又は2種以上を示し、a、b、c、d及びeは、0<a≦4、0<b≦4、0≦c≦6、0<d≦6、13≦e≦15、a+b+c×(Mの価数)+4d=2eを満たす数を示す。)
で表されるチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子が多数配置してなるリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法であって、次の工程(I)〜(III):
(I)平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバーを溶媒に分散させて、スラリー(X)を得る工程、
(II)得られたスラリー(X)及びチタン化合物から調製したスラリー(Y)を水熱反応に付して、酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)を得る工程、
(III)得られた酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)に、リチウム化合物及びナトリウム化合物、或いはリチウム化合物、ナトリウム化合物及び金属(M)化合物を混合した後、焼成する工程
を備える。
【0015】
本発明の製造方法は、平均外径が50nm以下の炭素管状体の表面に、下記式(1):
LiaNabcTide ・・・(1)
(式(1)中、MはK、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Sc、Si、P、S、Fe、Mn、Co、Ni、Zn、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Pb、Ga、Ge、Bi、Ta、Sn、Eu、La、Ce、Nd、W、Ru又はGdから選ばれる1種又は2種以上を示し、a、b、c、d及びeは、0<a≦4、0<b≦4、0≦c≦6、0<d≦6、13≦e≦15、a+b+c×(Mの価数)+4d=2eを満たす数を示す。)
で表されるチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子が多数配置してなるリチウムイオン二次電池用負極活物質を得るための製造方法である。
【0016】
平均外径が50nm以下の炭素管状体(A)(以下、「C−CNF(A)」とも称する。)は、平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバー(以下、「CNF」とも称する。)由来の炭素により構成されてなる、管状を呈する構造体である。本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質(以下、「活物質ナノアレイ」とも称する。)は、CNF由来の炭素により構成されてなる炭素管状体(A)の表面に、多数のチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)が配置してなる構造を有し、すなわち炭素管状体(A)が軸となりつつ、これを取り巻くように多数のチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)が連続して配置してなる構造を有し、外観的には、多数のチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)が直線的に連続して配置してなる、串団子様又はトウモロコシ様の形状を呈している。
【0017】
ここで、一般にナノアレイとは、一方のナノスケールの構造体に、他方のナノスケールの構造体が配列化されてなる形状を意味するものであり、本発明により得られる活物質ナノアレイは、直径が50nm以下のC−CNF(A)、すなわち一方のナノスケールの構造体に、チタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)、すなわち他方のナノスケールの構造体が配列化されてなる形状を呈している。
【0018】
平均外径が50nm以下の炭素管状体であるC−CNF(A)は、本発明の製造方法によって、平均繊維径が50nm以下のCNFが炭化されることにより形成される構造体である。CNFは、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、かかる細胞壁を構成する植物繊維をナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維であることから、かかるCNF由来の炭素により形成されてなるC−CNF(A)は、CNFを構成していたセルロース分子鎖の周期的構造を保持した炭素管状体を呈する。そのため、C−CNF(A)の平均外径は、CNFの平均繊維径と一致することとなる。
【0019】
C−CNF(A)の平均外径は、50nm以下であって、好ましくは1nm〜50nmであり、より好ましくは1nm〜20nmであり、さらに好ましくは1nm〜10nmである。また、C−CNF(A)の平均長さもCNFの平均長さと一致することとなり、かかるC−CNF(A)の平均長さは、好ましくは100nm〜100μmであり、より好ましくは1μm〜100μmであり、さらに好ましくは5μm〜100μmである。
【0020】
C−CNF(A)の表面に多数配置してなるチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)は、上記式(1)で表される粒子であって、空間群Fmmmに属する結晶構造を有する斜方晶の酸化物であり、具体的な組成としては、例えば、Li2Na2Ti614、Li1.94Na2Al0.02Ti614、Li1.94Na2Mg0.03Ti614が挙げられる。
【0021】
チタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)もC−CNF(A)と同様、ナノスケールの構造体であり、具体的には、その平均粒径は、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池を得る観点から、好ましくは5nm〜450nmであり、より好ましくは5nm〜250nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
なお、チタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)の平均粒径とは、SEM又はTEMの電子顕微鏡による観察において測定された、数十個のチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)の粒子径(長軸の長さ)の値の平均値を意味する。
【0022】
さらに、チタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)に含まれるチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物相の結晶子径は、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池を得る観点から、好ましくは5nm〜300nmであり、より好ましくは5nm〜250nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmであって、その結晶性も高いものである。ここで、チタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物相の結晶子径は、Cu−kα線による回折角2θの範囲が10°〜80°のX線回折プロファイルについて、シェラーの式を適用して求めた値を意味する。
【0023】
また、チタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)のBET比表面積は、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池を得る観点から、好ましくは3m2/g〜40m2/gであり、より好ましくは5m2/g〜35m2/gであり、さらに好ましくは7m2/g〜30m2/gである。BET比表面積が40m2/gよりも大きくなると、負極の体積エネルギー密度が低下するおそれがある。
【0024】
本発明の製造方法により得られるリチウムイオン二次電池用負極活物質において、C−CNF(A)の含有量は、リチウムイオン二次電池用負極活物質全量100質量%中に、好ましくは0.5質量%〜10質量%であり、より好ましくは1質量%〜7質量%である。
【0025】
本発明の製造方法は、上記リチウムイオン二次電池用負極活物質を得るための製造方法であり、かかる本発明の製造方法が備える工程(I)は、平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバー(CNF)を溶媒に分散させて、スラリー(X)を得る工程である。
【0026】
工程(I)で用いるCNFの平均繊維径は、50nm以下であって、好ましくは20nm以下であり、より好ましくは10nm以下である。下限値については特に制限はないが、通常1nm以上である。また、CNFの平均長さは、活物質ナノアレイを使用した電極の加工を効率的に行う観点から、好ましくは100nm〜100μmであり、より好ましくは1μm〜100μmであり、さらに好ましくは5μm〜100μmである。
【0027】
工程(I)で用いる溶媒としては、CNFが良好な分散性を示す観点、及び取扱い性の観点から、水であるのが好ましい。また溶媒として水を用いることにより、例えば、後述する工程(II)における水熱反応を経る際にも、化学修飾や分散剤の添加を要することなく、得られたスラリー(X)をそのまま利用して、工程(II)を経ることができる。
【0028】
スラリー(X)中におけるCNFの含有量は、スラリー(X)中の溶媒100質量部に対し、炭素原子換算量で、好ましくは0.01質量部〜50質量部であり、より好ましくは0.05質量部〜40質量部である。
得られるスラリー(X)は、良好な分散状態を数日間保持するので、スラリー(X)を作り置きすることができる。適宜作り置きしたスラリー(X)を後述する工程(II)において用いる場合、CNFの含有量を高めた高濃度スラリー(X)(マスターバッチ)とするのがよく、かかる高濃度スラリー(X)中におけるセルロースナノファイバーの含有量は、スラリー(X)中の溶媒100質量部に対し、炭素原子換算量で、好ましくは5質量部〜50質量部であり、より好ましくは8質量部〜40質量部である。
なお、高濃度スラリー(X)を水で希釈してスラリー(X)とする場合、スラリー(X)を分散機(ホモジナイザー)で充分に撹拌してから用いればよい。かかる分散機としては、前記の離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が有効に使用できる。
【0029】
また、得られたスラリー(X)を、そのまま工程(II)において用いる場合、セルロースナノファイバーの含有量は、スラリー(X)中の溶媒100質量部に対し、炭素原子換算量で、好ましくは0.01質量部〜10質量部であり、より好ましくは0.05質量部〜8質量部である。
【0030】
スラリー(X)は、工程(II)に移行する前に、予め水熱反応に付すのがよい。この際、水熱反応に付す前にスラリー(X)を撹拌するのが好ましく、かかる攪拌には分散機(ホモジナイザー)を用いることが好ましい。かかる分散機としては、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。なかでも、CNFの分散効率の観点から、超音波攪拌機が好ましい。
【0031】
工程(I)においてスラリー(X)を水熱反応に付す場合、かかる水熱反応中の温度は、100℃以上であればよく、100℃〜160℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、100℃〜160℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.1MPa〜0.7MPaであるのが好ましく、120〜160℃で反応を行う場合の圧力は0.2MPa〜0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は、0.1時間〜12時間が好ましく、さらに0.2時間〜6時間が好ましい。
【0032】
得られたスラリー(X)は、単体のCNF(シングルセルロースナノファイバー)が良好に分散している。スラリー中におけるCNFの分散の程度は、例えば、UV・可視光分光装置を使用した光線透過率や、E型粘度計を使用した粘度で定量的に評価することができる。具体的には、例えば、CNFを溶媒に分散させて得られるスラリー(X)は、溶媒100質量部に対し、炭素原子換算量で2質量部のCNFを分散させた場合に、E型粘度計により測定した25℃における粘度が500mPa・s以上となる分散状態を保持している。
【0033】
本発明の製造方法が備える工程(II)は、工程(I)で得られたスラリー(X)及びチタン化合物から調製したスラリー(Y)を水熱反応に付して、酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)を得る工程である。
工程(II)で得られる酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)は、平均繊維径が50nm以下のCNFに、酸化チタンのナノ粒子が直線的に連続して担持してなるナノ粒子集合体であって、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質の前駆体として、次工程(III)でリチウム化合物及びナトリウム化合物と焼成されてリチウムイオン二次電池用負極活物質となる。
【0034】
工程(II)で用いるチタン化合物としては、酸化チタン(アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型)、チタン錯体(グリコール酸チタン錯体、クエン酸チタン錯体等)、チタンアルコキシド(チタンイソプロポキシド等)、チタン塩(酢酸チタン、硫酸チタン、硝酸チタン、硫酸チタニル等)、及びチタン塩化物(四塩化チタン等)等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)を得るための水熱反応を効率的に進行させる観点から、チタンアルコキシド、塩化チタン、酢酸チタン、硫酸チタン及び硫酸チタニルから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0035】
スラリー(Y)は、スラリー(X)及びチタン化合物から調製したスラリーであり、スラリー(X)及びチタン化合物、或いはスラリー(X)、チタン化合物及び溶媒を混合して撹拌することにより、調製すればよい。用いる溶媒としては、工程(I)で用いる溶媒と同様、水が好ましい。得られるスラリー(Y)におけるチタン化合物の含有量は、スラリー(Y)中の溶媒100質量部に対し、好ましくは10質量部〜50質量部であり、より好ましくは15質量部〜30質量部であり、さらに好ましくは20質量部〜30質量部である。
【0036】
また、スラリー(Y)におけるCNFの含有量は、スラリー(Y)中の溶媒100質量部に対し、炭素原子換算量で、好ましくは0.01質量部〜10質量部であり、より好ましくは0.05質量部〜8質量部である。
スラリー(Y)中のチタン化合物及びCNFの含有量が、上記のような含有量となるように、スラリー(X)、チタン化合物及び溶媒の混合割合を適宜調整すればよい。
【0037】
上記スラリー(Y)は、水熱反応に付す前に、予め撹拌するのが好ましく、かかる攪拌には分散機(ホモジナイザー)を用いることが好ましい。かかる分散機としては、前記の離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が有効に使用できる。
【0038】
かかる工程(II)の水熱反応中の温度は、100℃以上であればよく、130℃〜180℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130℃〜180℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3MPa〜0.9MPaであるのが好ましく、140℃〜160℃で反応を行う場合の圧力は0.3MPa〜0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は、0.5時間〜24時間が好ましく、さらに0.5時間〜15時間が好ましい。
【0039】
後述する工程(III)では、酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)を含むものとして、上記水熱反応後のスラリー(Y)をそのまま使用することもできるが、スラリー(Y)をろ過した後に洗浄して得た酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)を用いてもよい。かかる洗浄は、上記水熱反応後のスラリー(Y)をろ過した後に水で行う。洗浄の際に用いる水の量は、ろ過後の残渣1質量部に対し、5質量部〜100質量部であるのが好ましい。この場合、酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)は、ケーキ(Y')として得られ、かかるケーキ(Y')は、水熱反応後のスラリーをそのまま使用する場合におけるスラリー(Y)と同様に、酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)として用いることができる。
【0040】
本発明の製造方法が備える工程(III)は、工程(II)で得られた酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)に、リチウム化合物及びナトリウム化合物、或いはリチウム化合物、ナトリウム化合物及び金属(M)化合物を混合した後、焼成する工程である。これらリチウム化合物、ナトリウム化合物及び金属(M)化合物の種類や使用の有無は、最終目的物である、炭素管状体の表面に配置してなるチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)の組成に応じて適宜決定すればよい。
【0041】
工程(III)において用いるリチウム化合物としては、水酸化物、炭酸化物及び有機酸塩から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。より具体的には、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム等が挙げられる。なかでも、焼成反応を効率的に進行させる観点から、酢酸リチウムがより好ましい。
【0042】
工程(III)において用いるナトリウム化合物としては、水酸化物、炭酸化物及び有機酸塩から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム等が挙げられる。なかでも、焼成反応を効率的に進行させる観点から、酢酸ナトリウムがより好ましい。
【0043】
これらリチウム化合物及びナトリウム化合物の平均粒径は、焼成反応を効率的に進行させ、活物質ナノアレイを効率的に得る観点から、400nm以下であり、より好ましくは300nm以下であり、さらに好ましくは250nm以下である。
【0044】
工程(III)におけるリチウム化合物の混合割合は、酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)中のチタン量と、リチウム量とのモル比(Ti:Li)で、好ましくは3:0.95〜3:1.05であり、より好ましくは3:0.97〜3:1.03であり、さらに好ましくは3:0.99〜3:1.01である。
また、工程(III)におけるナトリウム化合物の混合割合は、酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)中のチタン量と、ナトリウム量とのモル比(Ti:Na)で、好ましくは3:0.95〜3:1.05であり、より好ましくは3:0.97〜3:1.03であり、さらに好ましくは3:0.99〜3:1.01である。
【0045】
さらに工程(III)において、適宜必要に応じて、リチウム化合物、ナトリウム化合物、チタン化合物以外の化合物である、金属(M)化合物を用いてもよい。この金属(M)は、好ましくはK、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Sc、Si、P、S、Fe、Mn、Co、Ni、Zn、V、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Pb、Ga、Ge、Bi、Ta、Sn、Eu、La、Ce、Nd、W、Ru又はGdから選ばれる1種又は2種以上の金属を示し、より好ましくはMg、Cu、Al、Nbを示し、さらに好ましくはMg、Al、Nbを示す。
かかる金属(M)化合物としては、ハロゲン化物、硫酸塩、有機酸塩、水酸化物、硫化物、酸化物及びこれらの水和物等が挙げられる。なかでも、焼成反応を効率的に進行させる観点から、硫酸塩及び有機酸塩から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0046】
これらリチウム化合物及びナトリウム化合物の混合、或いはリチウム化合物、ナトリウム化合物及び金属(M)化合物の混合は、繊維状の粒子集合体である酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)との均質な混合物を得る観点から、湿式混合とするのが好ましい。こうしたことから、工程(III)で用いる酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)として、上記工程(II)で得られたスラリー(Y)又はケーキ(Y')をそのまま使用することができる。
【0047】
工程(III)において、スラリー(Y)又はケーキ(Y')、リチウム化合物、ナトリウム化合物、及び金属(M)化合物、或いは必要に応じて用いてもよい溶媒の添加順序は特に制限されないが、工程(III)において得られる懸濁液中の各成分の分散性を高める観点から、予めスラリー(Y)又はケーキ(Y')、或いはスラリー(Y)又はケーキ(Y')及び溶媒を混合したスラリー(Ya)と、リチウム化合物、ナトリウム化合物及び溶媒、或いはリチウム化合物、ナトリウム化合物、金属(M)化合物及び溶媒を混合したスラリー(Yb)を準備した後、スラリー(Ya)とスラリー(Yb)を混合するのが好ましい。
工程(III)においても、溶媒として水を用いるのが好ましい。工程(III)では、スラリー(Ya)とスラリー(Yb)の混合と、得られる懸濁液の撹拌とが効果的に実行できるようにして、懸濁液の混合状態を良好にする観点から溶媒を用いることから、工程(III)での溶媒の使用量は、懸濁液の混合状態から適宜判断して決定すればよい。
【0048】
かかる懸濁液の混合時間は、充分に撹拌して混合を行う観点から、好ましくは0.2時間〜5時間であり、より好ましくは0.3時間〜3時間である。また、混合時の温度は、好ましくは50℃以下であり、より好ましくは30℃以下である。混合装置としては、かかる混合において、酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)の分解を防止することが必要であり、例えばマグネチックスターラーや回転翼を備えた装置等の、懸濁液の混合を行うことができる通常の装置を使用することができる。
【0049】
次に、得られた懸濁液を、脱水又は乾燥して活物質ナノアレイの焼成原料を得る。すなわち、工程(III)では、焼成の前に脱水又は乾燥を行うのがよい。脱水手段としては、例えば、吸引濾過器、フィルタープレス機、遠心濾過機等が挙げられる。なかでも、効率的に固形分を得る観点から、吸引濾過器、またはフィルタープレス機を用いるのが好ましい。また、乾燥手段としては、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。なかでも、粉砕することなく均一に微細化された焼成原料を得る観点から、噴霧乾燥が好ましい。なお、乾燥手段として、真空乾燥や凍結乾燥を選択する場合、予め乾燥に付する前に、フィルタープレス機、遠心濾過機等を用いて固液分離し、液相含有量を極力低減しておくのがよい。
【0050】
次いで、工程(III)では、上記得られた焼成原料を焼成すればよく、不活性ガス雰囲気下又は還元条件下で行うのがよい。これにより、酸化チタン、リチウム化合物及びナトリウム化合物を反応させてチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)を生成させるとともに、チタンのナノ粒子集合体(Z)に含まれるCNFを炭化させ、良好な導電性を有するC−CNF(A)を形成させることができる。
ここで、チタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)は、チタンのナノ粒子集合体(Z)に含まれる酸化チタンを生成反応の場所とするので、CNFの周囲にチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)が生成すると同時に、かかるCNFがC−CNF(A)を形成することによって、最終的にC−CNF(A)の周囲を取り囲むよう、C−CNF(A)の表面にチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)が多数配置してなる活物質ナノアレイを得ることができる。
【0051】
工程(III)における焼成は、得られるチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子(B)の肥大化、及びチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物粒子(B)同士の不要な焼結を防止する観点から、焼成温度は、好ましくは400℃〜800℃であり、より好ましくは500℃〜700℃である。また焼成時間は、好ましくは0.5時間〜24時間であり、より好ましくは6時間〜18時間である。焼成に用いる装置としては、焼成雰囲気及び温度の調整が可能な物であれば特に限定されず、バッチ式、連続式、加熱方式(間接又は直接)のいずれの方式のものも使用することができる。かかる装置としては、例えば、外熱キルンやローラーハース等の焼成炉が挙げられる。
【0052】
こうして得られた本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質を用いてリチウムイオン二次電池を製造する方法としては、特に限定されず、公知の方法を使用できる。例えば、かかるリチウムイオン二次電池用負極活物質を結着剤や溶剤等の添加剤とともに混合して塗工液を得る。この際、必要に応じて、さらに導電助剤を添加して混合してもよい。かかる結着剤としては、特に限定されず、公知の剤をいずれも使用できる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルクロライド、エチレンプロピレンジエンポリマー等が挙げられる。また、かかる導電助剤としては、特に限定されず、公知の剤を使用できる。具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人工黒鉛、繊維状炭素等が挙げられる。次いで、かかる塗工液をアルミ箔、銅箔等の負極集電体上に塗布し、乾燥させて負極とする。
【0053】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質は、リチウムイオン二次電池の負極として非常に優れたレート特性を発揮する点で有用である。かかる負極を適用できるリチウムイオン二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータ、又は正極と負極と固体電解質を必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0054】
ここで、正極については、リチウムイオンを充電時には放出し、かつ放電時には吸蔵することができれば、その材料構成は特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。例えば、原料を水熱反応させることにより得られる各種ポリアニオン型正極活物質からなる正極を好適に用いることができる。
【0055】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液に用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0056】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF32及びLiN(SO3CF32、LiN(SO2252及びLiN(SO2CF3)(SO249)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0057】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【0058】
固体電解質は、正極及び負極を電気的に絶縁し、高いリチウムイオン電導性を示すものである。たとえば、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43、Li7La3Zr212、50Li4SiO4・50Li3BO3、Li2.9PO3.30.46、Li3.6Si0.60.44、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO43、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO43、Li10GeP212、Li3.25Ge0.250.754、30Li2S・26B23・44LiI、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、70Li2S・30P25、50Li2S・50GeS2、Li7311、Li3.250.954を用いればよい。
【0059】
上記の構成を有するリチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限を受けるものではなく、コイン型、円筒型,角型等種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
水50mLにセルロースナノファイバー12.5g(スギノマシン社製TMa−10002、平均繊維径10nm、平均繊維長10μm、含水量98質量%)を混合してスラリーAとした後、スラリーAをオートクレーブに投入し、140℃、0.4MPaの水熱反応を1時間行ってスラリーBを得た。
スラリーB(CNF濃度(炭素原子量換算)0.4質量%)の25℃における粘度は、E型粘度計(DVM−E2、トキメック社製)を用いて測定したところ、200mPa・sであった。
得られたスラリーBに、[(CH32CHO]4Tiを17.05g(60mmol)混合してスラリーCとした後、スラリーCをオートクレーブに投入し、140℃、0.4MPaでの水熱反応を3時間行って、酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)を8質量%含むスラリーD得た。得られた酸化チタンのナノ粒子集合体(Z)中の酸化チタンの平均粒径は30nmであった。
【0062】
得られたスラリーDに、CH3COOLi・2H2O 2.04g(20mmol)及びCH3COONa 1.64g(20mmol)を混合してスラリーEとした後、ボールミルを使って1時間混合してスラリーEを得た。次いで、得られたスラリーEをエバポレータでろ過し、得られた焼成原料Fを窒素雰囲気下600℃で10時間焼成して活物質ナノアレイ(平均外径10nmの炭素管状体の表面にチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子が多数配置)であるリチウムイオン二次電池用負極活物質A(チタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物ナノ粒子の平均粒径40nm、BET比表面積38m2/g、炭素量2.5質量%)を得た。
リチウムイオン二次電池用負極活物質AのSEM写真を図1に示す。
【0063】
[比較例1]
エタノール30mLにCH3COOLi・2H2O 2.04g(20mmol)、CH3COONa 1.64g(20mmol)及びTiO2 4.79g(60mmol)を、遊星ボールミル(P−5、フリッチュ社製)を用いて25℃で15時間混合した後、乾燥して混合物Gを得た。得られた混合物Gを、空気雰囲気下900℃で10時間焼成してチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物粒子Hを得た。得られたチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物粒子Hの平均粒径は500nmであった。
得られたチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物粒子Hを2g採取し、これにグルコースを0.25g(炭素換算で5質量%)添加して混合し、焼成原料Iを得た。次いで、得られた焼成原料Iを窒素雰囲気下700℃で1時間焼成し、表面にグルコース由来の炭素が被覆したチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物粒子からなる、略球状を呈するリチウムイオン二次電池用負極活物質B(チタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物粒子の平均粒径500nm、BET比表面積11m2/g、炭素量2.5質量%)を得た。
リチウムイオン二次電池用負極活物質BのSEM写真を図2に示す。
【0064】
実施例1及び比較例1で得られたリチウムイオン二次電池用負極活物質を用い、リチウムイオン二次電池の負極を作製した。
具体的には、リチウムイオン二次電池用負極活物質(J)、アセチレンブラック(導電剤、K)及びポリフッ化ビニリデン(粘結剤、L)を、J:K:L(質量比)=80:10:10で混合し、これにN−メチル−2−ピロリドンを加えて充分混練し、負極スラリーを調製した。
得られた負極スラリーを、厚さ10μmの銅箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、80℃に加熱したロールプレスでプレスし、φ14mmの円盤状に打ち抜いて負極とした。
【0065】
次いで、上記の負極を用いてコイン型リチウムイオン二次電池を構築した。正極には、リチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート(体積比)=3:7の割合で混合した混合溶媒に、LIPF6を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、ポリプロピレンを用いた。
これらの電池部品を、露点が−50℃以下の雰囲気下で常法により組み込み収容し、コイン型リチウムイオン二次電池(CR−2032)を製造した。
【0066】
製造したリチウムイオン二次電池を用いて定電流密度での充放電試験を行い、充放電容量を測定した。このときの充電条件は電流密度90mA/g、電圧3.0Vの定電流充電とし、放電条件は電流密度90mA/g、終止電圧1.0Vの定電流放電とした。温度は全て30℃とした。さらに、同じ充放電条件で、放電時の電流密度を281mA/gとした場合の放電容量も求め、下記式(2)により90mA/gと281mA/gの放電容量の比を求めた。
放電容量の比(%)=(281mA/gの放電容量)/(90mA/gの放電容量)×100 ・・・(2)
結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
上記結果より、特異な形状を呈する本発明の活物質ナノアレイは、優れたレート特性を示すことがわかる。
図1
図2