(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記可動要素(22A、22B)と前記レバー(26A、26B)は、前記N個の離散的な安定位置のそれぞれが1つの安定した磁気的位置に実質的に対応するように構成している
ことを特徴とする請求項3に記載の計時器用ムーブメント。
前記可動要素の各安定した磁気的位置において、前記レバーにはたらく前記第1の磁気トルクは、絶対値で、前記第1の区画における前記第1の磁気トルクの最大値の3分の2よりも大きい値を有し、好ましくは、前記最大値とほぼ等しい値を有する
ことを特徴とする請求項4に記載の計時器用ムーブメント。
前記可動要素(22A、22B)には、少なくとも前記第1の磁気トルクが前記レバーに対して前記第1の方向にはたらいたときに前記レバーの前記接触部分(46、46B)を支持するようになる歯列(48、48B)があり、
前記歯列と前記レバーは、前記レバーの前記接触部分が前記可動要素の前記N個の離散的な安定位置のそれぞれにおいて前記歯列の歯底部に位置するように構成している
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
前記レバーは、少なくとも前記第2の区画にわたって前記レバーに弾性力を与えるばね(52)に関連づけられており、これによって、前記レバーの前記接触部分を前記可動要素の方へと押す戻しトルクを発生させる
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、
図1及び2を参照して、複数の離散的な安定位置に可動要素をポジショニングするデバイスを作るために本発明によって巧妙に用いられて効果を発揮する磁性システムについて説明する。
【0009】
磁性システム2は、第1の固定磁石4と、高透磁性要素6と、及び第2の磁石8とを有しており、この第2の磁石8は、変位軸に沿って、第1の磁石4と要素6によって形成されるアセンブリーに対して動くことができる。この変位軸は、ここでは前記の3つの磁性要素のアラインメント軸10と一致している。要素6は、第1の磁石と、この第1の磁石の近くにあり第1の磁石に対して所定の位置にある第2の磁石との間に配置されている。特定の変種において、要素6と磁石4の間の距離は、この磁石4の磁化軸に沿った長さの10分の1よりも小さいか又は実質的に等しい。要素6は、例えば、炭素鋼、炭化タングステン、ニッケル、FeSi又はFeNi、あるいはVacozet(登録商標)(CoFeNi)やVacoflux(登録商標)(CoFe)のような他のコバルト合金によって作られている。好ましい変種において、この高透磁性要素は、鉄又はコバルトベースの金属性ガラスによって作られている。高透磁性要素6は、飽和磁場B
Sと透磁率μによって特徴づけられる。磁石4及び8は、例えば、フェライト、FeCo又はPtCo、あるいはNdFeBやSmCoのような希土類含有物によって作られている。これらの磁石は、それらの残留磁場Br1及びBr2によって特徴づけられる。
【0010】
高透磁性要素6には中央軸があり、この中央軸は、好ましくは、第1の磁石4の磁化軸と、そして、第2の磁石8の磁化軸と、実質的に一致している。この中央軸は、ここでは、アラインメント軸10と一致している。磁石4の磁化方向と磁石8の磁化方向とは、反対方向である。このようにして、これらの第1及び第2の磁石は、反対の極性を有し、それらの間で特定の相対距離にわたって相対運動を行うことができる。要素6と可動磁石8の間の距離Dは、この可動磁石8と、当該磁性システムの他の2つの要素との間の離間距離を表している。なお、ここでは軸10が直線状であるように構成しているが、これは1つの変種にすぎず、これには制限されない。実際に、下で説明する実施形態におけるように変位軸は曲がっていてもよい。このように変位軸が曲がっている場合では、要素6の中央軸は、好ましくは、可動磁石8の曲がった変位軸に対して接線方向を向いており、したがって、このような変位軸が曲がっている磁性システムのふるまいは、一見したところでは、ここで説明している変位軸が直線状である磁性システムのふるまいと似ている。このことは、曲率半径が要素6と可動磁石8の間の可能性のある最大の距離と比べて大きいときに特にいえる。好ましい変種において、
図1に示すように、要素6は、中央軸10に直交する平面における寸法構成が、この直交する平面上への射影において、第1の磁石4の寸法構成よりも大きく、かつ、第2の磁石8の寸法構成よりも大きい。なお、第2の磁石がそのトラベルの端において高透磁性要素に対向するようになって止められる場合には、この第2の磁石に、硬化された表面又は硬い材料の精密表面層を設けることができる。
【0011】
2つの磁石4及び8どうしは、高透磁性要素6がない場合に磁気的反発力がこれらの2つの磁石を互いに離れるように動かそうとするように互いに反発し合う。しかし、驚くべきことに、これらの2つの磁石4、8の間に要素6がある構成によって、可動磁石8と要素6の間の距離が十分に小さいときには可動磁石8にはたらく磁力の方向が逆転して、可動磁石8に磁気的引力がはたらく。
図2の曲線12は、磁性システム2によって可動磁石8にはたらく磁力を、可動磁石8と高透磁性要素6の間の距離Dの関数として示している。なお、可動磁石8全体には、距離Dの第1の範囲D1にわたって磁気的引力がはたらく。この磁気的引力は、要素6の方に可動磁石8を保持したり、あるいは要素6から離れているときには要素6の方に可動磁石8を戻す傾向がある。2つの磁石の間に高透磁性要素(特に、強磁性体の要素)が存在することに起因するこの全体的な引力によって、磁気的に互いに反発するように構成している2つの磁石の間で磁力を反転させることが可能になる。これに対して、この可動磁石には全体として、距離Dの第2の範囲D2にわたって磁気的反発力がはたらく。この第2の範囲D2は、要素6と磁石8の間の距離が距離Dの第1の範囲D1よりも大きい場合の距離に対応している。第2の範囲D2は、一般的には可動磁石8のトラベルを制限する止めによって定められる最大距離D
maxに実際上制限される。
【0012】
可動磁石8にはたらく磁力は、距離Dの連続関数であり、したがって、磁力反転が発生する距離D
invにてゼロの値を有する(
図2)。これは、磁性システム2の注目すべき動作である。反転距離D
invは、磁性システムを形成する3つの磁性コンポーネントの幾何学的構成と、それらの磁気的特性によって決まる。このようにして、この反転距離は、ある程度まで、磁性システム2の3つの磁性要素4、6、8の物理的パラメーターと、強磁性要素6と固定磁石4の間の距離とによって選択することができる。同じことは、曲線12の傾きの進展にも当てはまる。なぜなら、このようにして、可動磁石が強磁性要素に近づくときの、この傾きの変化と、特に、引力の強さ、を調整することができるからである。
【0013】
以下、
図3A〜3Dを参照して、本発明の第1の実施形態、特に、計時器用ムーブメント内に配置される可動要素をポジショニングするデバイスの動作、について説明する。なお、図面をわかりやすくするために、図面には可動要素やポジショニングデバイスの一部のみを示している(可動要素が担持する複数の第2の磁石を部分的に示している)。
【0014】
計時器用ムーブメントには、可動要素22があり、この可動要素22は、変位軸24に沿って駆動されることができ、また、複数の離散的な安定位置の任意の1つの安定位置P
nにて一時的に不動になることができる。ここで、数Nは、1よりも大きく(N>1)、また、計時器用ムーブメントには、これらのN個の安定位置のそれぞれにこの可動要素をポジショニングするポジショニングデバイス20がある。ポジショニングデバイス20は、可動要素と接触することができるレバー26を有しており、さらに、以下のものによって形成された磁性システム28を有する。すなわち、
− レバー26と一体化されており可動要素22の縁部に配置された第1の磁石30と、
− 可動要素と一体化されており、N個の離散的な安定位置P
n(n=1〜N)の間の距離にそれぞれ対応する磁気的周期P
Mを定めるように変位軸24に沿って配置されているN個の第2の磁石32と(図面において、これらの離散的な安定位置をP
n-1,P
n,P
n+1と表現している。ここで、Nは、「2」と「N−1」の間の任意の自然数である)、
− 第1の磁石30の1つの極がある端36に対向するように配置されており第1の磁石30に対して可動要素22の側に位置している高透磁性要素34と
である。
【0015】
第1の実施形態において、高透磁性要素34は、レバー26によって担持されており、したがって、第1の磁石30と一体化されている。高透磁性要素34は、第1の磁石30と対向するように配置されている。要素34は、第1の磁石30の磁軸31の方向に整列している。要素34は、この第1の磁石30の端面36に接合されていることができる。この要素34は、例えば、強磁性体によって作られている。次に、第1の磁石30と第2の磁石32は、変位軸24に対して傾斜するように配置されている。第1の磁石30の軸31と第2の磁石32の軸33は、傾斜している軸38と平行である。したがって、これらの軸31、33はそれぞれ、変位軸24に対して実質的に同じ角度を形成している。第1の磁石30は、異なる離散的な安定位置にて前記第1の磁石30の反対側に現れる第2の磁石32のそれぞれの極性とは反対の極性を有する。変位軸24が直線状である場合には、この後者の特徴は、一般的には、傾斜している軸38上への射影において、第1の磁石30の極性が第2の磁石32の極性に対して逆にされることを意味している。
【0016】
磁性要素34は、ここで可動要素22の磁石32に対するレバー26の接触部分を形成しており、この磁性要素34の回転を制限するために、計時器用ムーブメントは、第1の固定された止めメンバー40を有する。また、計時器用ムーブメントは、第2の固定された止めメンバー42を有する。これは、レバー26の接触部分、一般的には、第1の磁石と高透磁性要素によって形成された磁性アセンブリー、の可動要素22から離れる方向の可動要素22に対する回転を制限する。
【0017】
磁性システム28は、
図1及び2を参照して上で説明した物理現象を利用する。
図3A〜3Dのシーケンスに、この磁性システムの動作を示した。
図3Aでは、可動要素22は安定位置P
n-1にある。安定位置はそれぞれ、特に、可動要素22が固定支持する磁石32によって、特に、磁気的周期P
Mを定める磁石32の周期的構成によって定められる。この磁気的周期P
Mは、任意の1つの安定位置から次の安定位置へと移るときに可動要素が動く距離に対応している。可動要素に接続された幾何学的空間において、変位軸に沿って形成された目盛によって一連の安定位置を定めることができる。この目盛は、可動要素がこの目的のために設けられた機構によって複数の離散的な安定位置へと順次的に駆動されるときに可動要素とともに動く。この目盛は、計時器用ムーブメントに対して固定されている基準軸A
REF上で順次的に整列する一連のマーキング...,P
n-1,P
n,P
n+1,...によって形成されている。この基準軸A
REFは、変位軸(ここでは直線状の軸24)に垂直であり、第1のピン40の中心を通り抜ける(これはレバーの閉位置を定める)。図示した変種では、この基準軸に第2のピン42も整列している。
【0018】
レバーの「閉位置」は、レバー26がピン40に支持される位置を意味している。この閉位置は、可動要素22の方向にレバーにはたらく磁気トルクによってもたらされ、これには、ピン40に対してレバーを押す効果がある。なお、各安定位置において、磁石30と磁性要素34によって形成された磁性アセンブリーにて磁性システム28によってはたらく磁力全体は、磁気的引力である。このとき、磁性要素34は、第1の磁石30の極性とは反対の極性を有する第2の磁石32から非常に短い距離にある。図示した変種では、磁性要素34は、さらに、傾斜方向にて反対側に位置している磁石32に接するように構成しており、この磁石32は磁性要素34を支持している。なぜなら、磁石32は、レバー26が担持する磁性アセンブリーにはたらく磁気的引力と同じ強さであるが反対方向の向きを有する磁気的反力によって磁性要素34の外面に押されるためである。短く書くと、可動要素22の安定位置はそれぞれ、レバー26が閉位置にあり異なる第2の磁石32が磁性要素34を支持するような構成によって与えられる。なお、レバー26の1つのアームが、回転軸27のまわりの回転運動が2つのピンによって両方の方向においてそれぞれ制限されるように、2つのピンの間を動く。レバー26の開位置は、レバー26が第2のピン42に支持される構成に対応している。以下、この開位置について詳細に説明する。
【0019】
図3B〜3Dは、
図3Aの安定位置P
n-1から始まっている、第1の実施形態に対応する、可動要素22が駆動機構(当業者に知られている)によって任意の1つの安定位置(位置P
n-1)から次の安定位置(位置P
n)へと駆動されるときの可動要素22をポジショニングする磁性デバイスの動作を示している。
図3Bは、レバー26にはたらく磁力が減少しておりこのレバー26の向きが
図3Aの磁気ポジショニング力における場合とは変わっているような磁性システム28の状態を示している。
図3Bにおいて、レバーにはたらく磁気トルクの方向が時計回りから反時計回りへと変わったばかりであることがわかる。したがって、レバー26はもはやピン40に支持されておらず、レバー26は開く方向の回転(軸27のまわりの反時計回りの回転)をし始める。この開きは、素早く、すなわち、可動要素22とレバー26によって移動される短い距離にわたって、行われ、そして、レバー26は
図3Cに示すような開位置へと動く。
図3Cの構成において、レバー26が担持する磁性アセンブリーにはたらく磁力が、磁気的反発力であることがわかる。このようにして、この磁性アセンブリーにはたらく磁力が、2つの安定位置の間の可動要素の位置に応じて回転するベクトルであることを観察できる。したがって、可動要素がこの磁気的引力によってポジショニングされるような離散的な安定位置における磁気的引力から、離散的な安定位置の間の中間的な区画における磁気的反発力への変化が発生する。この現象は、上において
図1及び2を参照して説明したように、第1の磁石30と、磁性要素34に対向するように位置する第2の磁石32との間に磁性要素34が存在することによって可能になる。
【0020】
可動要素22の運動方向に対する第2の磁石32と第1の磁石30の傾斜した構成は、この現象を促進する。なぜなら、安定位置から可動要素22を駆動することは、安定位置においてレバー26によって担持された磁性アセンブリーに対向している第2の磁石32と前記磁性アセンブリーとの間の距離を大きくする効果を有するからである。したがって、磁性システムの様々な要素及びレバーが行うことができる回転の寸法構成を適切にすることによって、レバーが担持する磁性アセンブリーと可動要素が担持する磁石との間ではたらく全体的な磁力を反転させることができる。このことには、1つの安定位置から次の安定位置へと可動要素を駆動するために必要な力学的エネルギーについての大きな利点がある。
【0021】
当該磁気的ポジショニングデバイスは、各安定位置における可動要素のポジショニングを確実にするだけではなく、駆動しているときにレバーを開き、したがって、可動要素に対するレバーのいずれの圧力も一時的になくし、そして、このとき可動要素は自由となって、レバーからいずれの機械的な応力をも受けずに特定の区画にわたって動くことができる。また、
図3Dに示すように、レバーが自動的に開くことによって、磁性アセンブリーが別の隣接した磁石に対向することになるように動き、次の安定位置へと変わることが可能になる。
図3Dは、可動要素が駆動されているときの状態を示している。この状態においては、レバーにはたらく全体的な磁力が再び小さくなり、レバーの向きによって、レバーを閉位置に戻す磁気トルクがレバーにて再び発生する。
図3Dに示した状態の後に、磁性システムは、
図3Aの状態に対応する状態に素早く戻る。この状態においては、可動要素22は、再び、第2の磁石32が磁性要素34と接触しておりレバー26がピン40に支持されている安定位置にある。
【0022】
短く書くと、本発明に係るポジショニングデバイスは、可動要素がその変位軸に沿って任意の1つの安定位置から次の安定位置へと駆動されるときに、第1の磁石を担持しているレバーにはたらく第1の磁気トルクが、第1の区画にわたって第1の方向、そして、対応する距離の第2の区画にわたって第1の方向とは反対方向の第2の方向を向くように構成している。この第1の方向は、レバーの接触部分における可動要素の方への戻しトルクを定める。次に、磁性システムは、N個の離散的な安定位置のそれぞれにおいて、前記第1の磁気トルクが前記第1の方向にはたらくように構成している。これらの特徴については、特に
図6及び7を参照しながら、下記の第3の実施形態の説明において再び議論する。
【0023】
図4A及び4Bを参照しながら、本発明の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態のものと実質的に同様である既に上で説明した当該磁性システムの要素及び動作については、再度詳細に説明しない。第2の実施形態の計時器用ムーブメントは、まず、可動要素22Aが、第1のピンの代わりに、少なくとも磁気トルクが時計回りの方向にレバー26Aにはたらくときにこのレバー26Aの接触部分46を支えるようになる歯列48を有する点で第1の実施形態とは異なる。また、第2に、レバー26Aが、少なくとも可動要素22Aの2つの安定位置の間の中間的区画にて可動要素の方にレバーの接触部分46を押す戻しトルクを発生させるようにレバーに弾性力を与えるばね52に関連づけられているという点でも第1の実施形態と異なる。
【0024】
ポジショニングデバイス44は、
図4Aに示すようにレバーの接触部分(端部分)が歯列の歯底部に位置するときに、すなわち、2つの隣接する歯の間のくぼみにあるときに、レバーが担持する磁性アセンブリーにはたらく全体的な磁力50が、可動要素の運動方向に対して実質的に垂直な向きを有するように構成している。この状態の磁気トルクは可動要素の方への戻しトルクを定めており、このときにレバーにはたらく全体的な磁力は磁気的引力である。したがって、歯列とレバーは、レバーの接触部分46が可動要素のN個の離散的な安定位置のそれぞれにおいて歯列の歯底部に位置するように構成している。
【0025】
図4Bは、1つの安定位置から次の安定位置へと移るときのポジショニングデバイス44の中間的な状態を示している。歯列48は、可動要素をポジショニングするためにレバーを
図4Aに示している閉位置に保持することに加えて、前記可動要素が安定位置から駆動されるときに端部分46を可動要素から遠ざける。実際に、レバーは歯列の歯の山を通過するために後ろに下がる。このために、接触部分46は、隣接歯の側面を登る。したがって、安定位置におけるポジショニングを確実にする、レバーが担持する磁性アセンブリーと磁石32の間の距離は、第1の実施形態の場合におけるよりも素早く大きくなる。このことは、磁力ベクトルが素早く回転し、磁気トルクが時計回りの方向(第1の方向)にレバーにてはたらく区画の距離が小さくなって比較的短くなることを意味している。しかし、接触部分が1つの歯の上を動くときに、ばね52が与える弾性力が大きくなる。好ましくは、ばねの弾性力は、安定位置において比較的低く又はほとんどゼロであるように構成している。しかし、ばねのスチフネスは、レバーにはたらく磁気トルクが方向を変えるときに(第2の方向に)レバーが歯列からわずかのみ離れるように、あるいは1つの安定位置から次の安定位置へと移るときにレバーが歯列と絶えず接触するように、選択される。磁性システム、歯列の輪郭及びばねのスチフネスを最適化して、反時計回りの方向(第2の方向)にはたらく磁気トルクが反対方向、すなわち、時計回りの方向、にはたらくばねの機械的なトルクによって実質的に補償されることを確実にすることによって、レバーの接触部分に対する機械的な応力を最小限にすることができる。また、この歯列には、妨害されるリスクなしで、1つの安定位置から別の安定位置へと満足的に変化させることを確実にすることができるという利点がある。実際に、接触部分は、磁石32によって妨害されることはない。なぜなら、磁石32は、歯列の輪郭の外側に突き出ないように構成しているからである。
【0026】
以下、
図5A〜5C、
図6及び7を参照しながら、本発明の第3の実施形態について説明する。
図5A〜5Cは、第2の実施形態と類似している第1の変種に関する。なお、ばねがなく歯列がなく、したがって、第1の実施形態と類似している第2の変種も与えている。この第3の実施形態は、主として、可動要素が環状であるという点で前の第1及び第2の実施形態とは異なっている。この可動要素は自転し、変位軸が環状の軸であるように構成している。ここで、可動要素は日付リングである。より一般的には、可動要素は、暦情報のためのディスプレー支持体を形成している。既に説明した参照符号については再びここで説明しない。また、既に説明した要素に用いられている参照符号についてはここで詳細に説明しない。前の図面を参照することができる。
【0027】
図5Aは、このリングの安定したディスプレー位置に対応する状態の日付リング22Bとポジショニングデバイスを示している。磁性システムと歯列48Bは、このディスプレー位置において、歯列48Bのノッチ56に接触部分46Bが入り、これによって、レバー26Bが担持する磁性アセンブリーにはたらく全体的な磁力の方向が半径方向、すなわち、リングの環状の変位軸24Bに垂直な方向、であるように構成している。この歯列は、ディスプレー位置を定める複数のノッチが形成された環状の全体的な輪郭を有する。第1の磁石は、第2の磁石のそれぞれの極性とは実質的に反対の極性を有しており、これらの第2の磁石は、異なる離散的な安定位置にて前記第1の磁石に対向するように現われる。なお、磁性システムは、レバーにはたらく磁力に反応して前記リングに固定された磁石32を介してリングに磁力をはたらかせる。磁石32に作用する磁力は、リングに直接はたらく第2の磁気トルクを発生させる。第1に、この第2の磁気トルクは、可動要素に対する磁気平衡の安定位置に対応する実質的にゼロ値を有するように構成しており、これに対して、レバーにはたらく第1の磁気トルクの方向は、第1の方向、すなわち、接触部分46Bをリング、特に、その歯列48Bの方に押す方向、である。次に、好ましくは、リングとレバーは、
図5Aの場合であるように、リングのN個の離散的な安定位置のそれぞれが、実質的に、安定した磁気的位置に対応しているように構成している。
【0028】
1つのディスプレー位置から次のディスプレー位置へとリングを駆動しているときに、ポジショニングデバイスは、
図5Bに示す構成を経る。
図5Bにおいては、レバー26Bが開位置にある状態を示している。レバーにはたらく第1の磁気トルクは、ここでは時計回りの方向(これは第3の実施形態における第2の方向に対応している)を有し、ばね52によって発生する機械的なトルクよりも大きいように構成している。この機械的なトルクは、歯列48Bの方向の戻しトルクを定める。なお、この戻しトルクは小さい値を有するように構成しており、その役割は、レバーが、担持する磁性アセンブリーに再び磁気的引力がはたらき、したがって、新しい安定したディスプレー位置へと動く際に端部分46Bが別のノッチ56の反対側に到着するときに閉位置へ戻ることができるような位置に戻ることができることを確実にすることである。第1の変種において、ばねの力は、レバーの接触部分が歯列の環状の輪郭に支持されるようになることを確実にするような大きさを有する。第2の変種においては、レバーに関連づけられているばねはない。
【0029】
レバーが時計回りの方向に回転しピン42Bに支持されるようになるときにレバーが跳ね戻ることを防ぐために、ピン42Bは、好ましいことに、強磁性体によって作ることができる。磁石30がピンに近づくと磁石30はピンに引き寄せられる。
【0030】
図5Cは、同様な、レバーが担持する磁性アセンブリーにはたらく磁力の反転の状態に対応している。そして、第1の磁気トルクが再び第1の方向にはたらき始め、レバーの端部分をリングの方に戻す。磁気ピンとばねを備えた変種において、ばねは、磁石30に対するピンの磁気的引力を補償することができる。リングが
図5Cに示す角度位置を通り抜けると、レバーは再び歯列48Bに支持されるようになり、最終的に、レバーの端部分が次のノッチに入って日付リングを次のディスプレー位置にポジショニングする(これは再び
図5Aの状況である)。
【0031】
図6及び7は、第3の実施形態におけるレバーに作用する磁気トルク曲線を動作させるための歯列もばねもないような1つの変種において、レバーと日付リングにそれぞれ与えられる磁気トルクに関する。なお、同様な曲線は、第1の実施形態のレバーと可動要素に対して同様な曲線が観察される。様々なシミュレーションされた磁気トルク曲線において、磁石(ネオジム鉄ホウ素)の残留磁場は、1.35Tの値であり、強磁性体(Vacoflux(登録商標))によって作られた要素の飽和磁場は、2.2Tの値である。
【0032】
図6のグラフは、以下のことを表している。
− 第1の曲線60は、レバーが開位置にありリングが1角周期よりもわずかに大きい距離にわたって駆動されるときにレバーにはたらく磁気トルクを示している。
− 第2の曲線62は、レバーが閉位置にあるときに曲線60の角トラベルと同じ角トラベルにわたってレバーにはたらく磁気トルクを示している。
− 第3の曲線64は、各角周期にわたってレバーにはたらく動作磁気トルクを近似的に表している。この動作磁気トルクは、第1の磁気トルクを定めている。なお、曲線62は理論的なものである。なぜなら、磁石32を備えたリングの存在下において1つの角周期にわたってリングが角運動している間に、レバーを閉位置に保持することができないからである。動作トルクの曲線64は、実際のふるまいを近似したものである。なぜなら、レバーの位置は、第1の磁気トルクだけに依存するのではなく、歯列48Bの輪郭、レバーの端部分46Bの輪郭、及びばね52によって発生する機械的なトルクにも依存するからである(なお、図示した動作トルクは、実際に、ばねも歯列もない実施形態に対応している)。なお、ノッチ56は、制限された遊びしか有さないようにリングを機械的にポジショニングし、リングをディスプレー位置に正確に保持するように意図されている輪郭を有する。したがって、この場合、曲線64は、安定したディスプレー位置P
nに近い角領域においてのみ曲線62と合う。いずれの場合も、当該動作磁気トルクは、実質的に、ディスプレー位置P
nのそれぞれにおいて曲線62の動作磁気トルクに対応する。
【0033】
リングの第2の磁石32によって磁性アセンブリーを支持しているレバー30にはたらく第1の磁気トルクは、リングの2つのディスプレー位置の間の1つの角周期(第1の実施形態の磁気的周期P
Mに対応する)にわたってのリング22Bの角度位置に応じて、第1の区画TR1(2つの安定した磁気的位置の間の反時計回りの方向のリングの角運動に対応する角周期に対応する2つの部分TR1a、TR1bによって形成されている)にわたって第1の方向(
図6における負の方向として定められる)を有し、また、この角周期の第2の区画TR2にわたって第1の方向とは反対の第2の方向を有する。第1の方向は、レバーの接触部分から可動リングの方への戻しトルクに対応しており、第2の方向は、この接触部分を、リングから、特に、その歯列48Bから、離す傾向がある。磁性システムは、N個の離散的な安定位置(ディスプレー位置)の各位置P
nにおいて、前記第1の方向に第1の磁気トルクがはたらくように構成している。
【0034】
好ましくは、第1の磁気トルク(動作トルク64)は、各離散的な安定位置P
nに近い角位置において(絶対値が)最大の負の値を有する。好ましい変種において、この最大の負の値には、実質的に各離散的な安定位置P
nにて到達する。
【0035】
図7のグラフは、以下のことを表している。
− 第1の曲線66は、レバーが開位置にありリングが
図6における角距離と同じ角距離にわたって駆動されるときに、可動リングに直接はたらく磁気トルクを示している。
− 第2の曲線68は、レバーが閉位置にあるときにリングに直接はたらく磁気トルクを示している。
− 第3の曲線70は、各角周期にわたってリングに直接はたらく動作磁気トルクを示している。この動作磁気トルクは、本発明に係るポジショニングデバイスにおいて発生する第2の磁気トルクを定めている。なお、再び、曲線68は理論的な曲線である。なぜなら、リングが1つの角周期全体にわたって駆動されるときにレバーを閉位置に保持することができないからである。動作トルク曲線70は、歯列及び/又はばねを備えた変種における実際のふるまいを近似するものである。
【0036】
第2の磁気トルクは、2つのディスプレー位置の間の1つの角周期の開始位置を定める位置P
nにおいて実質的にゼロの値を有する。各位置P
n(ここで、nは自然数である)において、リング22Bは安定した磁気的位置にある。なぜなら、この位置P
nにおいて曲線70が右上がりの傾斜を有することは、リングが離れるときに第2の磁気トルクがこの位置にリングを戻す傾向があることを意味しているからである。第3の実施形態においては、第2の実施形態におけるように、リングとレバーは、N個の離散的な安定位置のそれぞれが安定した磁気的位置に対応するように構成している。リングが任意の磁気平衡の安定位置にあるときに、レバーに第1の磁気トルクが第1の方向にはたらく。特に、可動要素の各安定した磁気的位置において、レバーにはたらく第1の磁気トルクは、絶対値で、第1の区画において第1の磁気トルクの最大値の3分の2よりも大きい値を有する。第2の磁気トルク70は、各角周期において、第1の区画にわたって正の値を有し、また、第2の区画にわたって負の値を有する。なお、磁力は保存力である。