(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6486525
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】整形外科用固定材
(51)【国際特許分類】
A61L 15/08 20060101AFI20190311BHJP
A61L 15/12 20060101ALI20190311BHJP
A61L 15/14 20060101ALI20190311BHJP
A61F 5/05 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
A61L15/08
A61L15/12
A61L15/14
A61F5/05
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-46482(P2018-46482)
(22)【出願日】2018年3月14日
(62)【分割の表示】特願2014-47503(P2014-47503)の分割
【原出願日】2014年3月11日
(65)【公開番号】特開2018-110906(P2018-110906A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2018年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222141
【氏名又は名称】東洋アルミエコープロダクツ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】松井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】池谷 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】浅野 祐一
【審査官】
菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−065912(JP,A)
【文献】
特表昭59−500751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/08
A61F 5/05
A61L 15/12
A61L 15/14
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分とアルミニウム粉末とを含有させてなる基材を用いた整形外科用固定材であって、
前記基材中の前記アルミニウム粉末の含有量は、10〜50重量%の範囲内であり、
前記樹脂成分は、熱可塑性を有して、その融点は40〜90℃の範囲内であり、
加熱により患部に沿わせて変形可能であり、固化後には形状が維持可能である、整形外科用固定材。
【請求項2】
前記アルミニウム粉末の平均粒径(メジアン径)は、5〜100μmの範囲内である請求項1に記載の整形外科用固定材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整形外科用固定材に関する。
【背景技術】
【0002】
整形外科用固定材、いわゆるギプス材として、従来の石膏をもちいたものに代えて、特許文献1のように熱可塑性を有する樹脂素材を用いたものが近年普及しつつある。
このような熱可塑性を有する樹脂素材からなる整形外科用固定材は、熱を加えることで骨折した箇所等の人体の患部に沿わせて変形させることが容易であり、固化した後には形状が維持されやすいため、利便性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9‐234241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、患部の腫れを抑えるために冷却するなど、整形外科用固定材で固定した上から患部を治療のために冷却したり加温したりする必要があるが、樹脂素材は熱伝導性が悪いため、冷却や加温の効果が得られにくい問題がある。
【0005】
そこで本発明の解決すべき課題は、樹脂素材からなる整形外科用固定材について、熱伝導性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の整形外科用固定材では、基材として、樹脂成分にアルミニウム粉末を含有させたものを用いることとしたのである。なお、ここでいうアルミニウム粉末にはアルミニウム合金粉末も含まれるものとする。
【0007】
前記基材中の前記アルミニウム粉末の含有量は、5〜50重量%の範囲内であるのが好ましい。前記アルミニウム粉末の平均粒径(メジアン径)は、5〜100μmの範囲内であるのが好ましい。
前記樹脂成分は、熱可塑性を有するのが好ましい。前記熱可塑性を有する樹脂成分の融点は40〜90℃の範囲内であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
整形外科用固定材の基材に樹脂成分とアルミニウム粉末とを含有させたため、熱伝導性が向上する。この整形外科用固定材で患部を固定した上から冷却剤や温熱剤を貼付するなどすると、患部を冷却または加温して治療することが可能である。
熱伝導性を向上させるために樹脂成分に含有させる金属粉末として、比較的軽量なアルミニウム粉末を選択したため、整形外科用固定材の重量が増加するのが防止される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。
実施形態の整形外科用固定材は、骨折した箇所等の人体の患部を覆って固定するために用いられるものであり、従来の樹脂素材からなる整形外科用固定材と比較して熱伝導性が良好である。
【0010】
実施形態の整形外科用固定材は、樹脂成分とアルミニウム粉末とを含有させてなる基材から構成される。
【0011】
樹脂成分の種類は特に限定されないが、熱可塑性樹脂の場合、熱を加えることで人体の患部に沿わせて変形させることが容易であり、かつ固化した後には形状が維持されやすいため、扱いやすく好ましい。
このような樹脂としては、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのポリエステル系生分解樹脂、生分解系を除くポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン系樹脂が例示でき、これらの樹脂が混合したものであってもよい。
基材中の樹脂成分の含有量は、特に限定されないが、50〜95重量%の範囲内が好ましい。
含有量が50重量%を下回ると、整形外科用固定材が脆くなって患部に沿わせた際に割れや折れが生じやすくなる。また含有量が95重量%を上回ると、後述するアルミニウム粉末を配合しても、整形外科用固定材の熱伝導性の向上率が望めなくなるからである。
【0012】
熱可塑性樹脂の融点は特に限定されないが、整形外科用固定材が一般的な温度の湯により軟化するように調整しておくと、取扱いが容易であることから、融点は40〜90℃の範囲内であることが好ましい。
なかでも、ポリカプロラクトンが50〜80℃程度の範囲内の湯で簡単に熱変形し、かつ固化後の形状記憶性が良好であるため、特に好ましい。
【0013】
アルミニウム粉末は、整形外科用固定材の熱伝導性を向上させるために、樹脂成分に含有される。
アルミニウム粉末は金属粉末の中では比較的軽量であり安価であるため、整形外科用固定材の重量やコストの増加を抑えることができる。
アルミニウム粉末は、樹脂で被覆されているなど表面処理がなされていてもよい。
またアルミニウム粉末の形状も特に限定されず、球状、粒状、板状、フレーク状のもの
が例示できる。
アルミニウム粉末はアルミニウム単体からなるものでも、アルミニウム合金からなるものでもいずれでもよい。
【0014】
アルミニウム粉末を樹脂成分に混合させる際には、アルミニウム粉末単体で混合させてもよいし、取り扱いを容易にするため、キャリア樹脂中に含有させてマスターバッチ化したものを混合させてもよい。
キャリア樹脂の種類は特に限定されないが、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリエチレンワックスなどのポリエチレンが例示できる。マスターバッチ中のアルミニウム粉末の含有量も特に限定されないが、60〜80重量%の範囲内が例示できる。
【0015】
基材中のアルミニウム粉末の含有量は特に限定されないが、5〜50重量%の範囲内が好ましい。さらには、10〜30重量%の範囲内であることがより好ましい。特に10〜30重量%の範囲内であれば、整形外科用固定材に含有させた場合に、使用上問題の無い範囲内で成型性、熱伝導性、柔軟性の全ての点を程よく満足することが可能となる。
含有量が5重量%を下回ると、整形外科用固定材の熱伝導性の向上率が低くなるからである。また含有量が50重量%を上回ると、整形外科用固定材の重量が増加し、また整形外科用固定材が脆くなって患部に沿わせた際に割れや折れが生じやすくなるからである。
【0016】
アルミニウム粉末の平均粒径は特に限定されないが、メジアン径(D50)で5〜100μmの範囲内が好ましい。
平均粒径が5μmを下回ると、粉体の取り扱いが容易ではなくなるからである。また平均粒径が100μmを上回ると、樹脂成分内に均等に分散されにくくなり、過熱の恐れもあるため、整形外科用固定材に所望の熱伝導性を与えにくくなるからである。
アルミニウム粉末の平均粒径は、レーザー回折法などの公知の粒度分布測定法により測定できる。
【実施例】
【0017】
次に本発明の実施例および比較例を挙げて本発明の内容を一層明確にする。
【0018】
実施例の整形外科用固定材に用いるアルミニウム粉末として、アルミニウム粉末を含有するマスターバッチである東洋アルミニウム株式会社製のMETAX NEO(商品名)「NME010T6」を準備した。
マスターバッチに含有するアルミニウム粉末の平均粒径は、10μmであり、キャリア樹脂は低密度ポリエチレンとポリエチレンワックスの混合物であり、マスターバッチ中のアルミニウム粉末の含有量は、70重量%である。
【0019】
また実施例および比較例の整形外科用固定材に用いる基材としての樹脂成分について、Perstorp社製の熱可塑性ポリカプロラクトン「Capa
TM6400」、「Capa
TM6500」および「Capa
TM6800」の三種類を準備した。
ここで「Capa
TM6400」は分子量が37000g/mol、メルトフローインデックス(MFI)が160℃で40dg/min、融点が58〜60℃である。また「Capa
TM6500」は分子量が50000g/mol、メルトフローインデックス(MFI)が160℃で7dg/min、融点が58〜60℃である。「Capa
TM6800」は分子量が80000g/mol、メルトフローインデックス(MFI)が160℃で3dg/min、融点が58〜60℃である。
【0020】
これらのアルミニウム粉末および樹脂成分を用いて、後述するように射出成型機により成型物のサンプルを作製し、次表1に示す実施例A1〜実施例A3、実施例B1〜実施例B3、および実施例C1〜実施例C3の各実施例、ならびに比較例A1、比較例B1および比較例C1の各比較例を作成した。
なお樹脂成分として、表1中、比較例A1および実施例A1〜A3は「Capa
TM6400」を、比較例B1および実施例B1〜B3は「Capa
TM6500」を、比較例C1および実施例C1〜C3は「Capa
TM6800」をそれぞれ使用した。
また表1中、PCLは基材としてのポリカプロラクトンを、ALはアルミニウム粉末としてのアルミニウムを、PEはキャリア樹脂としての低密度ポリエチレンとポリエチレンワックスの混合物をそれぞれ示す。
【0021】
【表1】
【0022】
成型性テスト:これらの実施例および比較例の材料を用いて、射出成型機により、成型温度180℃にて、49mm×79mm×2.5mmの寸法のサンプルの射出成型を試みた。 評価の基準は次のとおりである。○は問題無く成型ができた。△は成型はできるも
のの成型体表面に割れ等の欠陥が発生した。×は成型ができなかった。表1における実施例の配合においては、全て○であった。
熱伝導性テスト :これら成型性テストにより作成された実施例および比較例のサンプ
ルにつき、熱伝導性を評価した。熱伝導性の評価には、測定装置としてESPEC社製「Thermo Recorder RT12」に温度センサーを接続し、サンプル表面の温度変化を確認することで行った。具体的には、49mm×79mm×2.5mmに成型したサンプルの裏面に冷却シート(東洋アルミエコープロダクツ株式会社製「Coolingシート」)を貼り付けた場合のサンプルの表面中心部に温度センサーを設置することで30分経過後の温度変化を確認した。また、同様にして同じサンプルの裏面に発熱体(東洋アルミエコープロダクツ株式会社製「Warm Aid 伸びる温熱テープ」)を貼り付けた場合の温度変化を確認した。なお、測定は、室温25℃、湿度22%の条件の下で行った。表2中、比較例を基準とし、比較例よりも温度変化が大きかった場合は○(熱伝導性が高い)と判定、比較例と温度変化が同じ場合は熱伝導性は△、比較例よりも温度変化が小さかった場合は×(熱伝導性が低い)と判定した。
柔軟性テスト:実施例および比較例のサンプルにつき、80℃の温度条件で180度折り曲げ、折れや 割れの発生を観察し、柔軟度を評価した。折り曲げ後、サンプル表面(
折り曲げた時に外側になる面)に目視できる亀裂等の発生がないものを○と、目視できる亀裂等が発生したものを△と、亀裂が表面から裏面まで達して貫通した割れが発生したものを×と判定した。
結果を表2に示す。表2中、熱伝導性テストの○は基準となる比較例よりも熱伝導性が良好であったことを、柔軟性テストの○は折れや割れが発生しなかったことを、△は一部で折れや割れが発生したことを、それぞれ示す。
【0023】
【表2】
【0024】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、その範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。