特許第6486592号(P6486592)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6486592構造体の架設構造、及び架設構造の補強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6486592
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】構造体の架設構造、及び架設構造の補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20190311BHJP
   E01D 19/04 20060101ALI20190311BHJP
   E04B 1/36 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   E04H9/02 301
   E01D19/04 101
   E04B1/36
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-255343(P2013-255343)
(22)【出願日】2013年12月10日
(65)【公開番号】特開2015-113606(P2015-113606A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年9月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】藤田 進
(72)【発明者】
【氏名】松崎 裕之
(72)【発明者】
【氏名】平井 慶一
(72)【発明者】
【氏名】酒井 康成
【審査官】 小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−256982(JP,A)
【文献】 特開平05−306547(JP,A)
【文献】 特開2009−281074(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0029711(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E01D 19/04
E04B 1/36
E04D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1構造物と第2構造物との間に構造体が架設された構造体の架設構造において、
前記第1構造物に設けられ前記構造体の一端部を支持する固定支承と、
前記第2構造物に設けられ前記構造体の他端部を支持する可動支承と、
前記構造体と繋がる前記第2構造物の接続階に立設されてから前記構造体へ向かって横方向へ張り出す第1受け部材と、
前記第2構造物と繋がる前記構造体の接続階に立設されてから前記第1受け部材と対向するように前記第2構造物へ向かって横方向へ張り出す第2受け部材と、
前記第1受け部材と前記第2受け部材との間に設けられ前記他端部に前記構造体の架設方向と交差する方向へ減衰を付与する減衰手段と、
を有し、
前記構造体は、前記他端部の架設方向への変位が許容され、架設方向と交差する方向へ作用する水平力のみが低減される、
構造体の架設構造。
【請求項2】
第1構造物に設けられ構造体の一端部を支持する固定支承と、第2構造物に設けられ前記構造体の他端部を支持する可動支承とを有して、前記第1構造物と前記第2構造物との間に前記構造体が架設された構造体の架設構造を補強する架設構造の補強方法において、
前記構造体と繋がる前記第2構造物の接続階に立設されてから前記構造体へ向かって横方向へ張り出す第1受け部材を設け、前記第2構造物と繋がる前記構造体の接続階に立設されてから前記第1受け部材と対向するように前記第2構造物へ向かって横方向へ張り出す第2受け部材を設けるとともに、前記第1受け部材と前記第2受け部材との間に、前記他端部に前記構造体の架設方向と交差する方向へ減衰を付与する減衰手段を設け、前記構造体の前記他端部の架設方向への変位を許容しつつ、架設方向と交差する方向へ作用する水平力のみを低減する、架設構造の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の架設構造に関する。
【背景技術】
【0002】
隣り合って建てられた構造物間に掛け渡されて連絡通路等を構成する構造体が設けられている耐震建物では、一般に、構造体の一端を一方の構造物に設けられた固定支承により支持し、構造体の他端を他方の構造物に設けられた滑り支承や転がり支承により支持する架設構造が用いられている。例えば、特許文献1には、隣接する2つの水門柱間に架設される主桁の一方側の端部が固定支承構造となっており、他方側の端部が可動支承構造になっている主桁の支承構造が開示されている。
【0003】
このような架設構造においては、地震時に、滑り支承や転がり支承により支持されている構造体の他端が、構造体の架設方向と交差する方向へ揺れて、固定支承に大きな水平力が生じる。よって、この水平力に耐え得る大きな水平耐力を有する固定支承を設置しなければならない。
【0004】
また、このような架設構造が用いられている既設建物において、固定支承の水平耐力が現行規準に満たない場合、水平耐力の大きな固定支承に交換する必要があるが、固定支承の交換には構造体をジャッキアップする等の大掛かりな工事を必要とし、構造体の下方も工事範囲対象となるので使用上の制約が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−106095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は係る事実を考慮し、構造体の端部を支持する固定支承に生じる水平力を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様の発明は、架設された構造体の一端部を支持する固定支承と、前記構造体の他端部を支持する可動支承と、前記他端部に前記構造体の架設方向と交差する方向へ減衰を付与する減衰手段と、を有する構造体の架設構造である。
【0008】
第1態様の発明では、地震時に構造体の他端部に生じ構造体の架設方向と交差する方向へ作用する水平力を減衰手段により低減することによって、固定支承に生じる水平力(地震力)を低減することができる。これにより、水平耐力の小さい固定支承を用いることができるので、固定支承の設置手間を低減することができ、低コスト化を図ることができる。
【0009】
第2態様の発明は、第1態様の構造体の架設構造において、前記減衰手段は、前記構造体が架設された構造物から前記構造体へ向かって張り出す第1受け部材と、前記構造体から前記構造物へ向かって張り出す第2受け部材との間に設けられている。
【0010】
第2態様の発明では、構造物から構造体へ向かって張り出す第1受け部材と、構造体から構造物へ向かって張り出す第2受け部材との間に減衰手段を設けることにより、構造体の有する床スラブよりも高い位置に減衰手段を配置することができる。これにより、減衰手段を配置する際の床下作業を減らし又は無くし、安全性や施工性を向上させることができ、工期短縮や施工コスト低減に貢献することができる。
【0011】
第3態様の発明は、架設された構造体の一端部を支持する固定支承と、前記構造体の他端部を支持する可動支承とを有する架設構造を補強する架設構造の補強方法において、前記構造体の他端部に、該構造体の他端部に前記構造体の架設方向と交差する方向へ減衰を付与する減衰手段を設ける架設構造の補強方法である。
【0012】
第3態様の発明では、固定支承や可動支承を交換せずに、構造体の他端部に減衰手段を設けるだけでよいので、構造体をジャッキアップするといった大掛かりな工事を行わずに既設の架設構造を補強することができ、また、既設の架設構造の補強工事中における構造体下方領域の使用上の制約を軽減する又は無くすことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上記構成としたので、構造体の端部を支持する固定支承に生じる水平力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る構造体の架設構造を示す正面図である。
図2】本発明の実施形態に係る構造体を示す斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る固定支承を示す拡大図である。
図4】本発明の実施形態に係る可動支承を示す拡大図である。
図5】本発明の実施形態に係る減衰手段を示す平面図である。
図6】本発明の実施形態に係る減衰手段を示す正面図である。
図7】従来の耐震建物を示す正面図である。
図8】従来の耐震建物を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。まず、本発明の実施形態に係る構造体の架設構造について説明する。
【0016】
図1の正面図には、地盤12上に対向して建てられた鉄筋コンクリート造の構造物14、16と、鉄骨造の構造体18を有して構成された耐震建物20において、構造物14と構造物16の間に構造体18を架設する、構造体の架設構造(以下、「架設構造10」とする)が示されている。架設構造10は、固定支承22、可動支承24、及び減衰手段26を有して構成されている。
【0017】
構造物14、16は、構造物上部14A、16Aが構造物下部14B、16Bに対して構造物14、16の内側へセットバックした形状に形成されている。構造体18は、構造物14と構造物16の間を人や物などが行き来するための連絡ブリッジとして設けられており、下方には地盤12上に建てられた低層の建物28が配置されている。
【0018】
図1、及び図2の斜視図に示すように、固定支承22は、構造物上部16Aのセットバックにより形成された構造物下部16Bの上面30に設置され、構造体18の一端部32を支持している。固定支承22は、構造体18の架設方向(以下、「Y方向」とする)と直交する水平方向(以下、「X方向」とする)に対して複数(図2の例では4つ)配置されている。
【0019】
図3の拡大図に示すように、固定支承22は、下側支持部34に上側支持部36を回転可能に支持する機構によって、構造物16に対する構造体18の一端部32の鉛直変位及び水平変位を拘束する。
【0020】
図1、及び図2の斜視図に示すように、可動支承24は、構造物上部14Aのセットバックにより形成された構造物下部14Bの上面38に設置され、構造体18の他端部40を支持している。可動支承24は、X方向に対して複数(図2の例では4つ)配置されている。
【0021】
図4の拡大図に示すように、可動支承24は、構造物下部14Bの上面38に設置台48を介して取り付けられた滑り板42と、滑り板42の上面を摺動可能に、構造体18の他端部40の下面44にベース部材50を介して取り付けられた滑り材46とを備える剛滑り支承の機構によって、構造物14に対する構造体18の他端部40の鉛直変位を拘束し水平変位を許容する。
【0022】
すなわち、固定支承22は、架設された構造体18の一端部32を支持し、可動支承24は、架設された構造体18の他端部40を支持している。
【0023】
図1、及び図2の斜視図に示すように、減衰手段26は、構造体18の他端部40と構造物14を繋ぐようにして、X方向に対して複数(図2の例では2つ)配置されており、構造体18の他端部40のX方向へ減衰を付与する。
【0024】
図5の平面図、及び図6の正面図に示すように、減衰手段26は、制振ダンパーとして機能するオイルダンパーであり、第1受け部材としての鋼製の受け部材52と、第2受け部材としての鋼製の受け部材54に端部64、66が固定されて、受け部材52と受け部材54の間に設けられている。
【0025】
受け部材52は、構造物14の接続階の床スラブ56上に設けられた鉄筋コンクリート製の支持部材58に取り付けられ、構造物14から構造体18へ向かって張り出している。受け部材54は、構造体18の接続階の床スラブ60上に設けられた鉄筋コンクリート製の支持部材62に取り付けられ、構造体18から構造物14へ向かって張り出している。すなわち、減衰手段26は、可動支承24に支持された床スラブ60よりも高い位置に配置されている。
【0026】
減衰手段26の端部64、66は、球座を介して回転可能に受け部材52、54に固定されており、これによって、構造体18の他端部40のX方向及びY方向への移動に追随して減衰手段26のピストンロッドが伸縮し、構造体18の他端部40に減衰を付与することができる。
【0027】
架設構造10は、構造体18の一端部32が固定支承22に支持され、他端部40が可動支承24に支持された既設の架設構造に対し、耐震改修工事によって、X方向へ減衰を付与する減衰手段26を構造体18の他端部40に設けて固定支承22を補強する、架設構造の補強方法により構築されたものである。
【0028】
次に、本発明の実施形態に係る構造体の架設構造の作用と効果について説明する。
【0029】
図7の正面図、及び図8の平面図に示すように、隣り合って建てられた構造物68と構造物70の間に掛け渡されて連絡通路等を構成する構造体72が設けられている従来の耐震建物74では、一般に、構造体72の一端部76を一方の構造物70に設けられた固定支承22により支持し、構造体72の他端部78を他方の構造物68に設けられた可動支承24により支持する架設構造80が用いられているが、このような架設構造80においては、地震時に、可動支承24により支持されている構造体72の他端部78が、構造体72の架設方向(Y方向)と交差する方向(X方向)へ揺れて(矢印82)、固定支承22にY方向への大きな水平力が生じる。
【0030】
これに対して、本実施形態の架設構造10では、地震時に構造体18の他端部40に生じX方向へ作用する水平力を減衰手段26により低減することによって、固定支承22に生じるY方向への水平力(地震力)を低減することができる。
【0031】
これにより、固定支承22や可動支承24を交換せずに、構造体18の他端部40に減衰手段26を設けるだけで固定支承22に生じるY方向への水平力(地震力)を低減することができるので、構造体18をジャッキアップするといった大掛かりな工事を行わずに既設の架設構造を補強することができ、また、既設の架設構造の補強工事中における構造体18の下方領域にある建物28の使用上の制約を軽減する又は無くすことができる。
【0032】
また、本実施形態で示した架設構造の補強方法は、固定支承22や可動支承24を交換する方法よりも短工期及び低コストの施工で、固定支承22や可動支承24を交換する方法と同等の耐震補強効果を得ることができる。
【0033】
さらに、本実施形態の架設構造10では、構造物14から構造体18へ向かって張り出す受け部材52と、構造体18から構造物14へ向かって張り出す受け部材54との間に減衰手段26を設けることにより、構造体18の有する床スラブ60よりも高い位置に減衰手段26を配置することができる。これにより、減衰手段26を配置する際の床下作業を減らし又は無くし、安全性や施工性を向上させることができ、工期短縮や施工コスト低減に貢献することができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態に係る構造体の架設構造について説明した。
【0035】
なお、本実施形態では、構造体18の一端部32を固定支承22により支持した例を示したが、固定支承22は、構造物16に対する構造体18の一端部32の鉛直変位及び水平変位を拘束できる支承であればよい。
【0036】
また、本実施形態では、構造体18の他端部40を可動支承24により支持した例を示したが、構造物14に対する構造体18の他端部40の鉛直変位を拘束でき、水平変位を許容できる支承であればよい。例えば、可動支承は、本実施形態で示した剛滑り支承であってもよいし、弾性滑り支承等の他の滑り支承であってもよいし、転がり支承であってもよい。
【0037】
さらに、本実施形態では、減衰手段26を制振ダンパーとして機能するオイルダンパーとした例を示したが、地震に対して減衰を付与でき、復元力を有するものであればよい。例えば、減衰手段は、本実施形態で示したオイルダンパーであってもよいし、粘弾性ダンパーであってもよい。
【0038】
また、本実施形態では、図5、6に示すように、1つの箇所に1つの減衰手段26を設けた例を示したが、1つの箇所に複数の減衰手段26を設けてもよい。例えば、上下方向や横方向へ複数並べて、受け部材52と受け部材54の間に減衰手段26を設けるようにしてもよい。
【0039】
さらに、構造体18の他端部40に生じX方向へ作用する水平力を低減できれば、減衰手段26は、構造体18の他端部40と構造物14のどの箇所に設けてもよいし、何か所に設けてもよい。例えば、構造体18の他端部40や構造物14の柱に、受け部材52、54を取り付けて、この受け部材52と受け部材54の間に減衰手段26を設けるようにしてもよい。
【0040】
また、本実施形態では、改修工事によって架設構造10を構築した例を示したが、新築の耐震建物に架設構造10を設けてもよい。例えば、図1の耐震建物20が新築建物である場合には、地震時に構造体18の他端部40に生じX方向へ作用する水平力を減衰手段26により低減することによって、固定支承22に生じるY方向への水平力(地震力)を低減することができる。これにより、水平耐力の小さい固定支承22を用いることができるので、固定支承22の設置手間を低減することができ、低コスト化を図ることができる。
【0041】
さらに、本実施形態では、構造物14、16を鉄筋コンクリート造とし、構造体18を鉄骨造とした例を示したが、本実施形態の免震構造10は、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造、CFT造(Concrete-Filled Steel Tube:充填形鋼管コンクリート構造)、それらの混合構造など、さまざまな構造や規模の建物に対して適用することができる。
【0042】
また、本実施形態では、構造体18を、構造物14と構造物16の間を人や物などが行き来するための連絡ブリッジとした例を示したが、構造体は、橋や屋根等であってもよい。すなわち、本実施形態の架設構造10は、構造体の両端を支承によって支持する架設構造に対して適用することができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、構造体18をジャッキアップするといった大掛かりな工事を行わずに既設の架設構造を補強することができるので、既設の架設構造の補強工事中における構造体18の下方領域にある建物28の使用上の制約を軽減する又は無くすことができることを述べたが、構造物18の下方領域に、駅舎、バスターミナル、駐車場、運動場等の他の用途のものが配置されている場合においても、これらの使用上の制約を軽減する又は無くす効果を得ることができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0045】
10 架設構造(構造体の架設構造)
14 構造物
18 構造体
22 固定支承
24 可動支承
26 減衰手段
32 一端部
40 他端部
52 受け部材(第1受け部材)
54 受け部材(第2受け部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8