【文献】
J. Hepatol., 2010, 53(4), pp.738-751
【文献】
J. Hepatol., 2012, 57(3), pp.628-636
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、薬物評価のために重要な酵素について一定の性質を有する成熟肝細胞を提供すること課題とし、さらには当該成熟肝細胞から作製された薬物評価用肝細胞並びに当該肝細胞を用いた薬物評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、薬物評価のために重要な酵素であるシトクロムP450に含まれる分子種からなる酵素について少なくとも1種の酵素について酵素活性を有さない多能性幹細胞から均質的に一定の成熟肝細胞を作製することで、上記課題を達成しうることを見出し本発明を完成した。当該作製された成熟肝細胞からなる薬物評価用肝細胞を用いて薬物評価を行うことができる。
【0010】
即ち本発明は、以下よりなる。
1.多能性幹細胞から作製された成熟肝細胞であって、シトクロムP450酵素に含まれる分子種からなる酵素から選択される少なくとも1種の酵素について酵素活性を有さないことを特徴とする成熟肝細胞。
2.シトクロムP450酵素に含まれる分子種からなる酵素から選択される少なくとも1種の酵素が、CYP2D6, CYP2C9, CYP2C19, CYP1A2, CYP3A4, CYP1A1, CYP2E1, CYP3A5及びCYP3A7から選択される少なくとも1種の酵素である、前項1に記載の成熟肝細胞。
3.酵素活性を有さない酵素が、多能性幹細胞ドナーのSNPsの変異による、前項1又は2に記載の成熟肝細胞。
4.酵素活性を有さない酵素がCYP2D6であり、多能性幹細胞ドナーのSNPsがCYP2D6*3A, CYP2D6*4, CYP2D6*5, CYP2D6*6, CYP2D6*7, CYP2D6*8, CYP2D6*11, CYP2D6*12, CYP2D6*14, CYP2D6*15, CYP2D6*18, CYP2D6*19, CYP2D6*20, CYP2D6*21, CYP2D6*38, CYP2D6*40, CYP2D6*42, CYP2D6*44及びCYP2D6*56から選択される少なくとも1つのSNPにおいてCYP2D6活性を示さない変異を有することを特徴とする前項3に記載の成熟肝細胞。
5.前項1〜4のいずれか1に記載の多能性幹細胞から作製された成熟肝細胞であって、細胞が成熟肝細胞に分化される前の肝幹前駆様細胞において、ラミニン(laminin)で処理されていることを特徴とする、前項1〜4のいずれか1に記載の成熟肝細胞。
6.前項1〜5のいずれか1に記載の成熟肝細胞からなる薬物評価用肝細胞(A)。
7.前項6に記載の薬物評価用肝細胞(A)のほかに、シトクロムP450酵素に含まれる分子種からなる酵素のうち、前記薬物評価用肝細胞(A)において酵素活性を有さない酵素について、当該酵素活性を有する多能性幹細胞から肝幹前駆様細胞を経て作製される薬物評価用肝細胞(B)を少なくとも1種以上含む、薬物評価用パネル細胞。
8.前項6に記載の薬物評価用肝細胞(A)を用いることを特徴とする、薬物評価方法。
9.前項7に記載の薬物評価用パネル細胞を用いることを特徴とする、薬物評価方法。
10.前項6に記載の薬物評価用肝細胞(A)と前項7に記載の薬物評価用肝細胞(B)を少なくとも含む薬物評価用キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多能性幹細胞から作製された成熟肝細胞であって、シトクロムP450酵素に含まれる分子種からなる酵素のうち、少なくとも1種の酵素について酵素活性を有さないことを特徴とする成熟肝細胞は、細胞の性質が均質化された成熟肝細胞である。本発明の成熟肝細胞は、さらに安定的に供給可能であることから、薬物評価用肝細胞として使用可能である。従来のヒト初代培養肝細胞に比べて経済的にも負担が少なく、ロット差が安定しており、非常に優れている。特に、従来では少なくとも1種の酵素について酵素活性を有さない薬物評価用肝細胞の入手は極めて困難であったのに対し、安定的に供給できる点で優れている。また、本発明の成熟肝細胞の作製方法によれば、シトクロムP450酵素に含まれる分子種からなる酵素のうち、少なくとも1種の酵素について活性が高い均質化された成熟肝細胞や活性が低い均質化された成熟肝細胞を供給することができ、薬物評価用パネル細胞を安定的に提供することができる。かかる薬物評価用細胞を用いて、安定的に薬物評価を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、iPS細胞又はES細胞などの多能性幹細胞から作製した成熟肝細胞に関する。具体的には薬物評価のために重要な酵素であるシトクロムP450に含まれる分子種からなる酵素について一定の性質を有する多能性幹細胞から均質的に一定の成熟肝細胞を作製することを特徴とする成熟肝細胞に関する。iPS細胞を作製するための細胞は、例えば特定の個体、例えばヒトや哺乳動物から取得した細胞であってもよい。例えば、ヒトの肝細胞(primary human hepatocyte: PHH)を原料とし、自体公知の方法で多能性幹細胞であるiPS細胞を作製し、さらに本発明の成熟肝細胞を作製することができる。一定の性質については後述し、まず多能性幹細胞から成熟肝細胞への分化誘導の過程で発生する「肝幹前駆様細胞」について、以下詳述する。
【0014】
本明細書において「肝幹前駆様細胞」とは、多能性幹細胞由来の内胚葉から肝細胞への分化誘導の過程で発生するあらゆる中間細胞をいい特に限定されない。本明細書の肝幹前駆様細胞は、いわゆる肝幹前駆細胞の他、肝細胞への分化を可能とする細胞、例えば肝幹細胞及び幼若肝細胞なども含まれる。
【0015】
iPS細胞とは、体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、受精卵、余剰胚やES細胞を利用せずに分化細胞の初期化を誘導し、ES細胞と同様な多能性や増殖能を有する誘導多能性幹細胞をいい、2006年にマウスの線維芽細胞から世界で初めて作られた。さらに、マウスiPS細胞の樹立に用いた4遺伝子のヒト相同遺伝子であるOCT3/4、SOX2、KLF4、C-MYCを、ヒト由来線維芽細胞に導入してヒトiPS細胞の樹立に成功したことが報告されている(Cell 131: 861-872, 2007)。本発明で使用されるiPS細胞は、上記のような自体公知の方法により作製されたiPS細胞、又は今後開発される新たな方法により作製されるiPS細胞であってもよい。
【0016】
ES細胞とは、一般的には胚盤胞期胚の内部にある内部細胞塊(inner cell mass)と呼ばれる細胞集塊をin vitro培養に移し、未分化幹細胞集団として単離した多能性幹細胞である。ES細胞は、M.J.Evans & M.H.Kaufman (Nature, 292, 154, 1981)に続いて、G.R.Martin (Natl.Acad.Sci.USA, 78, 7634, 1981)によりマウスで多分化能を有する細胞株として樹立された。ヒト由来ES細胞についても、既に多くの株が樹立されており、ES Cell International社、Wisconsin Alumni Research Foundation、National Stem Cell Bank (NSCB)などから入手することが可能である。ES細胞は、一般に初期胚を培養することにより樹立されるが、体細胞の核を核移植した初期胚からもES細胞を作製することが可能である。また、異種動物の卵細胞、又は脱核した卵細胞を複数に分割した細胞小胞(cytoplasts, ooplastoids)に、所望の動物の細胞核を移植して胚盤胞期胚様の細胞構造体を作製し、それを基にES細胞を作製する方法もある。また、単為発生胚を胚盤胞期と同等の段階まで発生させ、そこからES細胞を作製する試みや、ES細胞と体細胞を融合させることにより、体細胞核の遺伝情報を有したES細胞を作る方法も報告されている。本発明で使用されるES細胞は、上記のような自体公知の方法により作製されたES細胞、又は今後開発される新たな方法により作製されるES細胞であってもよい。
【0017】
肝幹前駆様細胞を作製する際の、多能性幹細胞から成熟肝細胞への分化誘導の過程に関し、人工的処理により分化誘導する過程は、自体公知の方法、又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。幹細胞から成熟肝細胞へ分化させるには、通常、幹細胞から中内胚葉、内胚葉細胞、肝幹前駆細胞を経ることが必要であり、各分化の過程において、培養系にActivin A、FGF4、BMP4、レチノイン酸、又はDMSOなどの液性因子や化合物を用いることができる。また、肝臓発生にHEX、HNF4α、HNF6、FOXA2などの転写因子が必要であることが報告されている。さらに、遺伝子導入システムを用いて特定の遺伝子をiPS細胞又はES細胞などの幹細胞に導入し、肝細胞に分化誘導させることもできる。特定の遺伝子としては、例えばHEX遺伝子、HNF4α遺伝子、HNF6遺伝子、SOX17遺伝子、FOXA2遺伝子及びHNF1α遺伝子から選択されるいずれか1又は複数の遺伝子が挙げられる。
【0018】
多能性幹細胞から肝細胞への分化誘導の過程で発生する「肝幹前駆様細胞」に関し、安定的に維持培養する方法についても、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。例えば、多能性幹細胞から肝細胞への分化誘導の過程で発生する肝幹前駆様細胞をラミニンと接触させることで安定的に「肝幹前駆様細胞」を維持培養できる。
【0019】
上記において使用されるラミニンは、具体的にはラミニンアイソフォームのうちラミニン211、ラミニン411及びラミニン511のサブタイプを除くラミニンであり、好ましくはラミニン111である。ラミニンの由来は特に限定されないが特にヒト由来が好適である。本発明において使用されるラミニンは、市販されている全長ラミニンの試薬であってもよいし、自体公知の方法又は今後開発される方法で精製、調製され、又は遺伝子組換えなどの手法によって作製されたものであってもよく、特に限定されない。本発明で使用されるラミニンは、ラミニンの活性部位を含むものであれば、全長ラミニンでなくともよい。ラミニンの活性部位としては、インテグリンへの結合活性を有する部位をいい、ラミニンのC末端部分から選択される。具体的にはラミニンアイソフォームのうちラミニン211、ラミニン411及びラミニン511のサブタイプを除くラミニンであって、ラミニンのC末端部分から選択される部位をいう。より具体的にはラミニンアイソフォームのうちラミニン211、ラミニン411及びラミニン511のサブタイプを除くラミニンのE8フラグメントの部位が挙げられ、ラミニン111のE8フラグメントの部位が挙げられる。ラミニン111は、具体的には、GenBank Accession No.(NP_005550、NM_005559)(ラミニンα1)、NP_002282、NM_002291(ラミニンβ1)、NP_002284、NM_002293(ラミニンγ1)で特定されるアミノ酸配列からなるラミニン111が挙げられ、ラミニンの活性部位としては、前記特定されるアミノ酸配列のうちα1E8鎖、β1E8鎖、γ1E8鎖から構成で特定されるラミニン111のE8フラグメントが挙げられる。具体的には、GenBank Accession No.NM_005559(ラミニンα1)で特定される配列のうちPhe1878〜Gln2700(α1E8鎖)、NM_002291(ラミニンβ1)で特定される配列のうちLeu1561〜Leu1786(β1E8鎖)及びNM_002293(ラミニンγ1)で特定される配列のうちAsn1364〜Pro1609(γ1E8鎖)で特定することができる(Ido, H et al. J. Biol Chem. 282, 11144-111548[2007]、Ido, H et al. J. Biol.Chem. 283, 28149-28157[2008])。本発明で使用されうるラミニンは、前記α1E8鎖、β1E8鎖及びγ1E8鎖で特定される部位を含むのが好適である。前記α1E8鎖、β1E8鎖及びγ1E8鎖で特定される部位に加えて、さらにGenBank Accession No.NM_005559(ラミニンα1)、NM_002291(ラミニンβ1)及びNM_002293(ラミニンγ1)に示すアミノ酸配列から選択される部分又は全部を含むアミノ酸配列からなるペプチド又はタンパク質であってもよい。一方、ラミニンの活性部位としては、C末端部分から選択される部位であってインテグリンと結合する部位であれば、E8フラグメントよりも短くてもよい。従って、本発明に使用可能なラミニンとしては、例えば、ラミニンアイソフォームのうちラミニン211、ラミニン411及びラミニン511のサブタイプを除くラミニン、具体的にはラミニン111において、インテグリンと結合する活性があるのであればE8よりも短いものであってもよい。
【0020】
本明細書において、肝幹前駆様細胞の培養方法は、より具体的には以下の1)〜3)の工程を含む方法による。
1)iPS細胞及び/又はES細胞由来の肝幹前駆様細胞を、ラミニンがコーティングされた細胞培養用固相担体に播種する工程;
2)上記細胞が播種された細胞培養用固相担体において、前記固相担体から非接着細胞を除去する工程;
3)上記2)の工程で前記固相担体に接着した細胞を、ラミニン上で培養する工程。
【0021】
ここで、ラミニンの細胞培養用固相担体へのコーティング方法は、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。例えば、ラミニンを、リン酸緩衝液(PBS)などの緩衝液を用いて、10〜50μg/ml、好ましくは15〜30μg/ml、さらに好ましくは約20μg/mlの濃度に希釈し、ラミニンコーティング溶液(LCS: Laminin Coating Solution)を作製したものを細胞培養用固相担体上に添加して、室温〜37℃程度で約1〜12時間程度静置することにより、コーティングすることができる。細胞培養用固相担体へのラミニンコーティング濃度は、0.5〜500μg/cm
2が好ましく、1.5〜100μg/cm
2がより好ましい。
【0022】
上記ラミニンがコーティングされた細胞培養用固相担体上で肝幹前駆様細胞を培養する方法について説明する。肝幹前駆様細胞は、細胞数2.5×10
2〜1.25×10
5 個/cm
2となるように培地に懸濁して細胞浮遊液を調製し、該細胞浮遊液をラミニンがコーティングされた細胞培養用固相担体に播種し、培養することができる。培養は、フィーダーフリーの培養環境で実施することができる。播種する肝幹前駆様細胞は、予めインテグリンα3阻害物質で阻害していても良いし、培養と同時に培地にインテグリンα3阻害物質を含めていても良い。インテグリンα3阻害物質としては、肝幹前駆様細胞に発現するインテグリンα3をブロックするものであればよく、特に限定されないが、例えば抗インテグリンα3抗体が挙げられる。
【0023】
本明細書において、「培地」とは、細胞の培養に必要な栄養成分を含む液体などをいい、いわゆる基本培地の他、基本培地に添加物が含まれている培養液なども包含される。ここで使用可能な培地としては、例えば、以下に例示される培地を用いることができる。各培地に添加する物質は、目的に応じて、適宜増減することができる。使用する試薬は同等の機能を発揮しうるものであれば、製造・販売元は下記に限定されない。
(A)ヒトES/iPS細胞未分化維持培地としては、ReproStem(ReproCELL社)、iPSellon(Cardio社)、TeSR-E8(Veritas社)、mTeSR(Veritas社)などの各種幹細胞維持培地にbFGFなどを添加して使用することができる。
(B)分化誘導用培地として、ES細胞培養用基本培地であるhESF-GRO(Cell Science & Technology Institute社)に、インスリン(10μg/ml) 、トランスフェリン(5μg/ml)、2-メルカプトエタノール(10μM)、2-エタノールアミン(10μM) 、亜セレン酸ナトリウム(20 nM)及びウシ血清アルブミン(BSA)(1 mg/ml)を含む培地を使用することができる。
(C)分化誘導用培地の他の態様として、ES細胞分化誘導用基本培地であるhESF-DIF(Cell Science & Technology Institute社)に、インスリン(10μg/ml)、トランスフェリン(5μg/ml)、2-メルカプトエタノール(10μM)、2-エタノールアミン(10μM)、亜セレン酸ナトリウム(20 nM)を含む培地 (FASEB J. 23:114-22 (2009))を使用することができる。また、RPMI1640培地(Sigma社)に4 mM L-グルタミン (glutamine) 、B27 Supplement(Invitrogen社)、ペニシリン/ストレプトマイシンを含む培地も使用することができる。内胚葉及び肝幹前駆様細胞を分化誘導する際に使用する培地は同等の機能を発揮しうるものであれば、上記に限定されない。
(D)肝幹前駆様細胞用としてDMEM/F12培地を用いることができる。DMEM/F12培地には、10%FBS、インスリン(10μg/ml) 、トランスフェリン(5μg/ml)、亜セレン酸ナトリウム(20 nM)、ニコチンアミド(10 mM)、デキサメタゾン(DEX)(10
-7 M)、HEPES(20 mM)、NaHCO
3(25 mM)、L-グルタミン(2 mM)、ペニシリン/ストレプトマイシン、HGF (40 ng/ml)及びEGF (20 ng/ml)が含まれる。
【0024】
上記1)〜3)の工程で培養して得た肝幹前駆様細胞を、さらに以下の工程を含む方法により継代し、培養することができる。
4)上記1)〜3)の工程で培養して得た肝幹前駆様細胞を、細胞培養用固相担体から分離して、培地に浮遊させる工程;
5)前記浮遊させた細胞を培地で細胞数を調整し、細胞数2.5×10
2〜1.25×10
5 個/cm
2、好ましくは細胞数2.5×10
3〜2.5×10
4 個/cm
2、より好ましくは細胞数2×10
4〜2.5×10
4 個/cm
2となるようにラミニンがコーティングされた細胞培養用固相担体に播種する工程;
6)上記5)の工程で前記固相担体に接着した細胞を、ラミニン上で培養する工程。
【0025】
上記方法で培養することで、肝幹前駆様細胞を継代培養し、本発明の成熟肝細胞を得ることができる。本発明において継代培養の回数は特に限定されないが、上記4)〜6)の工程を1回以上、例えば3回、10回、15回以上繰り返すことができる。
【0026】
本明細書の「成熟肝細胞」は、ラミニン上で培養する工程を経て作製してもよいし、ラミニン上で培養する工程を経ていなくともよい。上記、ラミニンがコーティングされた細胞培養用固相担体に細胞を播種し、培養することで、ドナーが異なるiPS細胞及び/又はES細胞由来の肝幹前駆様細胞から作製された成熟肝細胞であっても、ほぼ均質のALB、ASGR1陽性細胞率又はALB、Urea分泌量を示す。このことから、ラミニンで処理することで、異なるロット間であっても均質化した成熟肝細胞を得ることができる。
【0027】
上述したごとく、本発明は一定の性質を有する多能性幹細胞から同様の性質を有する成熟肝細胞を作製することを特徴とする。ここで、一定の性質とは、「薬物評価のために重要な酵素であるシトクロムP450に含まれる分子種からなる酵素について少なくとも1種の酵素について酵素活性を有さない」ことをいう。シトクロムP450は分子量約45,000から60,000の水酸化酵素ファミリーの総称であり、以下略して「CYP」と称する場合がある。CYPにはアミノ酸配列の相同性に基づいてヒトでは約57種類の分子種が含まれる。本明細書におけるCYPに含まれる分子種は、特に限定されないが、薬物評価において代表的なCYPとしてCYP2D6, CYP2C9, CYP2C19, CYP1A2, CYP3A4, CYP1A1, CYP2E1, CYP3A5及びCYP3A7などが挙げられる。
【0028】
本明細書において、「一定の性質」とは、上記CYPに含まれる分子種のうちいずれか1種又は複数種の分子種からなる酵素活性を有さないものをいう。具体的には、CYPとしてCYP2D6, CYP2C9, CYP2C19, CYP1A2, CYP3A4, CYP1A1, CYP2E1, CYP3A5及びCYP3A7から選択されるいずれか1種又は複数種の分子種からなる酵素について酵素活性を有さないものをいう。ここで、酵素活性を有さないとは、例えば各酵素に係る遺伝子について、各ドナーの一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:以下「SNPs」ともいう。)の型により、酵素活性を有しないことが挙げられる。CYP代謝能の個体間差が遺伝子多型、特にSNPsに密接に関連することが報告されている(Ingelman-Sundberg, M., Mutat Res 482, 11-19 (2001))。酵素活性を有しないことについては、ドナー由来のSNPsに起因するものに限らず、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法によりゲノム編集(Genome Editing)技術を用いて、特定の酵素をコードする遺伝子を人為的にノックアウトさせることでも達成される。
【0029】
SNPsの型により、特定の酵素について酵素活性を有さない場合において、酵素活性を有さない酵素がCYP2D6の場合は、ドナーのSNPsがCYP2D6*3A, CYP2D6*4, CYP2D6*5, CYP2D6*6, CYP2D6*7, CYP2D6*8, CYP2D6*11, CYP2D6*12, CYP2D6*14, CYP2D6*15, CYP2D6*18, CYP2D6*19, CYP2D6*20, CYP2D6*21, CYP2D6*38, CYP2D6*40, CYP2D6*42, CYP2D6*44及びCYP2D6*56などから選択される少なくとも1つのSNPにおいてCYP2D6活性を示さない変異の型を有することをいう。具体的にはCYP2D6に係るSNPsとして表1に示すSNPsが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
表1におけるCYP2D6のゲノム配列はNCBI Reference Sequence: M33388.1に基づき、アミノ酸配列はNCBI Reference Sequence: NP_000097.3に基づく。3201C>Tであれば、ゲノム配列の3201番目のCがTに置き換わったということを意味し、R334Xであれば、アミノ酸配列334番目のR(アルギニン)がX(特定できないアミノ酸)に置き換わったということを意味する。また、delはdeletion(遺伝子配列が削られている)、insはinsert(遺伝子配列が挿入されている)を示す。
【0032】
本発明は、上記によって作製される成熟肝細胞からなる「薬物評価用肝細胞」に及ぶ。本発明の薬物評価用肝細胞は均質化された細胞であってCYPに含まれる分子種のうちいずれか1種又は複数種の分子種からなる酵素活性を有さないという性質を有し、安定的に供給できることが最大の特徴点である。かかる薬物評価用肝細胞を、便宜上「薬物評価用肝細胞(A)」という。
【0033】
本発明は、「薬物評価用肝細胞(A)」に対応して、当該特定の酵素活性を有する多能性幹細胞から作製された薬物評価用肝細胞にも及ぶ。本明細書において、当該特定の酵素活性を有する多能性幹細胞から作製された薬物評価用肝細胞を「薬物評価用肝細胞(B)」ともいう。本明細書において、「薬物評価用肝細胞(B)」については、特定の酵素活性が異なる複数種の多能性幹細胞から各々作製された細胞であってもよい。即ち、各「薬物評価用肝細胞(B)」に含まれる酵素活性は均質であるが、各々異なる酵素活性を均質に有する薬物評価用肝細胞(B1)、(B2)〜(BX)などを作製することができる。
【0034】
本発明は、「薬物評価用肝細胞(A)」を含み、さらに「薬物評価用肝細胞(B)」を少なくとも1種以上含む薬物評価用パネル細胞にも及ぶ。薬物評価用パネル細胞は、1種又は複数種の分子種からなる酵素活性を有さない成熟肝細胞から作製された「薬物評価用肝細胞(A)」を複数種含む場合であってもよい。
【0035】
このようにして得られた成熟肝細胞からなる薬物評価用肝細胞に対して、医薬品候補化合物などの薬物を添加し、薬物評価を行うことができる。薬物評価用肝細胞を薬物と共に培養し、細胞生存率を測定したり、肝毒性マーカーの発現変動を解析することで、生体での医薬品候補化合物の薬物肝毒性や薬物肝代謝を事前に予測することが可能になる。これにより、毒性などの問題により排除されるべき医薬品候補化合物を早期にスクリーニング可能となり、創薬の加速化が期待される。本発明は、薬物評価用肝細胞(A)を用いることを特徴とする薬物評価方法にも及ぶ。薬物評価方法としては、薬物肝毒性評価方法又は薬物肝代謝評価方法が挙げられる。 本発明は、上記薬物評価を行うための薬物評価用キットにも及ぶ。薬物評価用キットには薬物評価用肝細胞(A)及び薬物評価用肝細胞(B)を少なくとも含み、さらには培養液などの試薬や培養用容器など、必要な部品などを含めてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の理解を深めるために実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことはいうまでもない。以下の実施例において、以下の表2に示す各々異なるCYP代謝活性を有する12のドナー(PHH1〜PHH12)の肝細胞(primary human hepatocyte: PHH)からiPS細胞を経て作製した成熟肝細胞(Hepatocyte-like cell: HLC)について検討した。
【0037】
(実施例1)
本実施例では、以下の表2に示す12のドナー(PHH1〜PHH12)由来肝細胞からiPS細胞を経てHLCを作製し、CYP2D6のSNPの型決定を行った。
【0038】
1)肝細胞(PHH)の培養
播種可能な市販のヒト肝細胞(PHH)を購入した(VERITAS、CellzDirect、XenoTech及び Lonza)。PHHのバイアルを37℃で振とう水浴中で急速に解凍し、その後、バイアルの内容物を凍結保存肝細胞の融解培地(CHRM、Life Technologies社)中に加え、懸濁液を10分で750 rpmで遠心分離した。PHHは、I型コラーゲンセルマトリックスIa型酸可溶性型(新田ゼラチン)でコーティングされたプレート上に、10%FBS(Life Technologies)を含む Hepatocyte Culture Media BulletKit
TM基本培地に1.25×10
5 cells/cm
2で播種した。培地は播種後6時間で交換した。播種後48時間培養したPHHを実験に使用した。
【0039】
2)PHHからヒトiPSC(PHH-iPSC)の作製
OCT3/4、SOX2、KLF4、及びc-MYC(SeVdpのiPS-ベクター)を有するセンダイウイルスベクターを用いて、各PHHからヒトiPS細胞(PHH-iPSC)を作製した。
【0040】
3)PHH-iPSCからHLC(PHH-iPSC-HLC)の作製
上記作製したPHH-iPSCからHLC(PHH-iPSC-HLC)への分化誘導は以下の方法に準じて行った。MEF(マウス胎児線維芽細胞)上で培養したPHH-iPSCをディスパーゼ(dispase)を用いて剥離したのち、BD Matrigel Basement Membrane Matrix Growth Factor Reduced (BD Biosciences)コートディッシュに播種し、MEF-conditioned mediumを用いて3, 4日培養した。PHH-iPSCから内胚葉を分化誘導する際は、PHH-iPSCを100 ng/ml Activin A (R&D Systems), 4 mM L-Glutamine, 0.2% FBS (PAA Laboratories), 及び 1×B27 Supplement Minus Vitamin A (Life Technologies)を含むL-Wnt3A-expressing cell (ATCC, CRL2647)-conditioned RPMI1640培地 (Sigma) を用いて4日間培養した。肝幹前駆細胞へ分化誘導する際は、内胚葉細胞を30 ng/ml bone morphogenetic protein 4 (BMP4) (R&D Systems)、20 ng/ml FGF4 (R&D Systems), 4 mM L-Glutamine及び 1×B27 Supplement Minus Vitamin Aを含むRPMI1640培地(Sigma)を用いて5日間培養した。肝幹前駆細胞を複製する場合は、培養9日目の細胞をラミニン111コートディッシュ上に播種し、維持培養した。肝幹前駆細胞から成熟肝細胞(HLC)へ分化誘導する際は、肝幹前駆細胞を20 ng/ml hepatocyte growth factor (HGF) (R&D Systems), 4 mM L-Glutamine及び1×B27 Supplement Minus Vitamin Aを含むRPMI1640培地(Sigma)で5日間培養したのち、20 ng/ml oncostatin M (OsM)を含み、EGFを含まないHepatocyte Culture Medium (HCM, Lonza) を用いて11日間培養した。
【0041】
4)CYP2D6のSNPの型決定
DNeasyキット(Qiagen)を用いてtotal DNA を上記1)及び2)で得られたPHH及びPHHから作製したiPSC(PHH-iPSC) から単離し、CYP2D6*3, *4, *5, *6, *7, *8, *16, 及び *21のSNP解析を行った。12のドナーから得られた各PHHについて、CYP2D6のSNPのうち、CYP2D6*3, *4, *5, *6, *7, *8, *16, 及び *21についての結果を表2に示した。その結果、PHH8及びPHH11はnull対立遺伝子を有し、CYP2D6活性を有さないSNP型を有することが確認された。
【0042】
【表2】
【0043】
(実施例2)
各々異なるCYP代謝活性を有する12のドナー(PHH1〜PHH12)から作製したPHH-iPSCについて、ラミニン111を用いて肝幹前駆細胞の維持・増幅を行った場合と行っていない場合で作製したPHH-iPSC-HLCについて、各々成熟肝細胞のマーカーである、フローサイトメトリー解析によるALBやASGR1陽性細胞率や、ALBやUreaの分泌量を測定し、PHH-iPSC-HLCへの分化の程度を確認した。その結果、ラミニン111を用いて肝幹前駆細胞の維持を行わない場合は、12のドナー(PHH1〜PHH12)毎に各種マーカー量は異なっていたが(
図1)、ラミニン111を用いて肝幹前駆細胞の維持を行った場合にはほぼ均質のALB、ASGR1陽性細胞率及びALB、Urea分泌量を示し、各ドナーから得られたPHH-iPSC-HLCはほぼ均質であることが確認された(
図2)。なお、
図1及び
図2は、PHH-iPSC-HLCの結果を示すものであるが、ドナーを特定するためにPHH1〜PHH12で示した。
【0044】
ラミニン処理は以下のように行った。PHH-iPSCから分化誘導した培養9日目の細胞を、LN111コーティング培養用ディッシュの各ウェルに7.5×10
4個/cm
2播種し、15分後培地を交換した(継代回数0回、day9)。その後毎日培地を交換しながら6〜7日間培養し、細胞数が7.5×10
4個/cm
2になるように細胞懸濁液を調製し、LN111コーティング培養用ディッシュにて継代を行った。このような継代操作を3回行なった。
【0045】
ASGR1及びALB陽性細胞は、異なるドナー由来のPHH又はPHH-iPSC-HLC各々についてフローサイトメトリーにより測定した。フローサイトメトリーによる解析は、FACS LSR Fortessa flow cytometer(BD Biosciences)を用いて行なった。ALB分泌量は、異なるドナー由来のPHH又はPHH-iPSC-HLCに各々新鮮培地を加えて24時間培養した後に培養上清中のALB分泌量を測定した。ALBは、Human Albumin ELISA Quantitation Set(Bethyl Laboratories)を用いて測定した。ALB分泌量は、細胞のタンパク量で補正して算出した。Urea分泌量は、異なるドナー由来のPHH又はPHH-iPSC-HLCに各々新鮮培地を加えて24時間培養した後に培養上清中の尿素分泌量を測定した。Ureaは、QuantiChrom Urea Assay Kit(BioAssay Systems)を用いて測定した。Urea分泌量は、細胞のタンパク量で補正して算出した。
【0046】
その結果、ラミニン処理を行わない場合は、12のドナー(PHH1〜PHH12)毎に各種マーカーの陽性細胞率、分泌量は異なっていたが(
図1)、ラミニン処理を行なった場合にはほぼ均質の陽性細胞率、分泌量を示した。各ドナーから得られた成熟肝細胞はASGR1及びALB陽性細胞率、ALB及びUrea分泌量に着目した場合には、ほぼ均質の成熟肝細胞が得られることが確認された(
図2)。
【0047】
(実施例3)CYP2D6活性の確認
異なるドナー由来PHH(PHH1〜PHH12)及び実施例1で作製したラミニン処理を行った各PHH-iPSC-HLCについて、CYP2D6活性を確認した。CYP2D6活性は、PHH又はPHH-iPSC-HLCを1μM ブフラロール(bufuralol, Santa Cruz Biotechnology)を含む培地で2時間培養したのち、培養上清を回収し、bufuralolの代謝物である1'-hydroxybufuralol (OHBF)をLC-MS/MSにて定量した。LC解析はAcquity UPLC(Waters)を用いて行い、MS/MS解析は Q-Premier XE(Waters)を用いて行なった。CYP2D6活性は細胞のタンパク量で補正して算出した。
【0048】
その結果、各ドナーごとにCYP2D6活性は異なり、PHH8及びPHH11については活性を認めなかった(
図3)。また、各PHHと各PHH-iPSC-HLCとのCYP2D6活性相関も確認した。各PHHと各PHH-iPSC-HLCとのCYP2D6活性相関係数はR=0.8779であり、各PHHドナー間のCYP2D6活性の違いがPHH-iPSC-HLCにおいてもほぼ維持されていると考えられた(
図3)。
【0049】
(実施例4)タモキシフェンの細胞毒性試験
本実施例では、異なるドナー由来のPHH又はPHH-iPSC-HLCについて、タモキシフェン(tamoxifen)の細胞毒性試験を行った。タモキシフェンは女性ホルモン(エストロゲン)の作用を妨げる代表的な抗ホルモン剤であり、抗乳癌剤である。12のドナー(PHH1〜PHH12)について、CYP2D6活性の程度に応じて、表3のようにPHH-NUL, PHH-HT, PHH-WTに分類した。各PHHから作製したPHH-iPSC-HLCについては、表3の分類と同様にHLC-NUL, HLC-HT, HLC-WTに分類した。
【0050】
【表3】
【0051】
乳癌細胞であるMCF7細胞をMillicell Cell Culture Insert & Plates (Millipore)を用いてPHH又はPHH-iPS-HLCsと共培養した。 タモキシフェン(Sigma)を含む培地で72時間培養したのち、MCF7細胞を培養しているインサートを除き、Cell Counting Kit-8(同仁化学研究所)を用いて細胞生存率を測定した。タモキシフェンを含まない培地で培養した細胞の生存率を100%とした。CYP2D6を阻害する場合は、500 nM タモキシフェンと3 μM キニジン(quinidine, Sigma)を含む培地で72時間培養したのち、上述と同様に細胞生存率を測定した。
【0052】
その結果、PHH-NUL又はHLC-NULと共培養したMCF7の細胞生存率は、PHH-WT又はHLC-WTと共培養したMCF7よりも有意に高かった。PHH-NUL又はHLC-NULにおいてはタモキシフェンが代謝されず活性型であるエンドキシフェンが生じないために、MCF7の細胞生存率が低下しなかったと考えられる。また、PHH-WT又はHLC-WTと共培養することによって低下したMCF7の細胞生存率は、CYP2D6阻害剤であるキニジンを作用させることによって回復した(
図4)。キニジンを作用させることにより、PHH-WT又はHLC-WTにおけるCYP2D6活性が低下したために、エンドキシフェンが減少し、MCF7の細胞生存率が上昇したと考察できる。
【0053】
(実施例5)デシプラミンの細胞毒性試験
本実施例では、ドナー由来のPHH又はPHH-iPSC-HLCについて、デシプラミン(desipramine)の細胞毒性試験を行った。
実施例4と同様に分類したPHH-WT、PHH-NUL、HLC-WT又は HLC-NULを種々の濃度のデシプラミン(Sigma)を含む培地で24時間培養したのち、Cell Counting Kit-8(同仁化学研究所)を用いて細胞生存率を測定した。デシプラミンを含まない培地で培養した細胞の生存率を100%とした。CYP2D6を阻害する場合は、5 μM デシプラミンと3 μM キニジン (Sigma)を含む培地で24時間培養したのち、上述と同様に細胞生存率を測定した。
【0054】
その結果、PHH-NUL又はHLC-NULの細胞生存率は、PHH-WT又はHLC-WTの細胞生存率よりも高かった(
図5)。PHH-NUL又はHLC-NULにおいては、CYP2D6活性がないために肝毒性を生じるデシプラミンを代謝できないために、細胞生存率が低下したと考えられる。また、PHH-WT又はHLC-WTにおいてキニジンを用いてCYP2D6活性を阻害することで、細胞生存率が低下した。PHH-WT又はHLC-WTに対してキニジンを作用させることにより、デシプラミンを代謝できなくなったために、細胞生存率が低下したと考えられる。
【0055】
(実施例6)CYP1A2活性、CYP2C9活性及びCYP3A4活性の確認
本実施例では、異なるドナー由来のPHH又はPHH-iPSC-HLCについて、CYP1A2活性、CYP2C9活性及びCYP3A4活性を確認した。CYP1A2活性、CYP2C9活性及びCYP3A4活性は、PHH又はPHH-iPSC-HLCを10 μM フェナセチン(phenacetin, Cambridge Isotope Laboratories)、10 μM ジクロフェナク(diclofenac, Wako)又は100 μM テストステロン(testosterone, Wako)を含む培地で2時間培養したのち、培養上清を回収し、アセトアミノフェン(acetaminophen)、 4'-ヒドロキシジクロフェナク(4'-hydroxy diclofenac:OHDIC)又は6β-ヒドロキシテストステロン (OHTS)をLC-MS/MSにて定量した。LC解析はAcquity UPLC (Waters)を用いて行われ、MS/MS 解析は Q-Premier XE (Waters)を用いて行なった。CYP1A2活性、CYP2C9活性及びCYP3A4活性は細胞のタンパク量にて補正した。その結果、各ドナーごとに各酵素活性が異なることが確認された(
図6)。
【0056】
(実施例7)ベンズブロマロンの細胞毒性試験
本実施例では、異なるドナー由来のPHH又はPHH-iPSC-HLCについて、ベンズブロマロン(benzbromarone)の細胞毒性試験を行った。CYP2C9活性の程度に応じて、活性が比較的高いグループ(PHH5/6/9, PHH5/6/9-iPSC-HLC)及び低いグループ(PHH1/2/12, PHH1/2/12-iPSC-HLC)に分類した。PHH5/6/9、PHH5/6/9-iPSC-HLC、PHH1/2/12又はPHH1/2/12-iPSC-HLCを様々な密度のベンズブロマロン(Wako)存在下で24時間培養したのち、Cell Counting Kit-8(同仁化学研究所)を用いて細胞生存率を測定した。ベンズブロマロンを含まない培地で培養した細胞の生存率を100%とした。PHH5、PHH6及びPHH9はCYP2C9の活性が高かった3ロットであり、PHH1、PHH2及びPHH12は CYP2C9の活性が低かった3ロットである。
【0057】
その結果、PHH5/6/9, PHH5/6/9-iPSC-HLCにおける細胞生存率はPHH1/2/12, PHH1/2/12-iPSC-HLCと比較して有意に低かった。CYP2C9活性が高いPHH5/6/9, PHH5/6/9-iPSC-HLCにおいては、ベンズブロマロンがCYP2C9により代謝され、肝毒性を生じる代謝産物が生じたために、細胞毒性が生じたものと考えられる(
図7)。