(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
[積層微多孔性フィルム]
本実施形態の積層微多孔性フィルムは、第1の樹脂組成物からなる第1の微多孔性フィルムと、第2の樹脂組成物からなる第2の微多孔性フィルムとを備える。
【0018】
第1の樹脂組成物及び第2の樹脂組成物は、JIS K−7121に準拠した方法で測定した融点(以下、単に「融点」という。)T
mA及びT
mBが下記式(1):
T
mA>T
mB (1)
で表される条件を満足することが好ましい。ここで、T
mAは第1の樹脂組成物の融点、T
mBは第2の樹脂組成物の融点をそれぞれ示す。第1の樹脂組成物の融点T
mAと第2の樹脂組成物の融点T
mBとの差は5℃以上であることがより好ましく、更に好ましくは10℃以上である。それらの融点の関係が上記式(1)で表される条件を満たすと、積層微多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた場合、異常電流により電池の内部温度が上昇した際に、より低融点である第2の微多孔性フィルムが溶融してもより高融点である第1の微多孔性フィルムは溶融し難い。その結果、電池用セパレータのフィルム形状又はシート形状が保持され、安全性が向上する傾向にある。
【0019】
本実施形態の積層微多孔性フィルムは、第1の微多孔性フィルムと第2の微多孔性フィルムとを備える積層体であるが、それらの積層の態様は特に限定されず、各微多孔性フィルムを1つ又は2つ以上備えるものであってもよい。その態様の具体例としては、(a)1つの第1の微多孔性フィルムと1つの第2の微多孔性フィルムとからなる積層体、(b)1つの第1の微多孔性フィルムとその両側に積層された第2の微多孔性フィルムとからなる積層体、(c)1つの第2の微多孔性フィルムとその両側に積層された第1の微多孔性フィルムとからなる積層体、及び(d)第1の微多孔性フィルム/第2の微多孔性フィルム/第1の微多孔性フィルム/第2の微多孔性フィルムというように、それぞれの微多孔性フィルムが交互に積層された積層体が挙げられる。これらの中では、本発明の効果をより有効かつ確実に発揮する観点から、上記(c)の態様が好ましい。
【0020】
[第1の微多孔性フィルム]
本実施形態における第1の微多孔性フィルムは、第1の樹脂組成物からなるものであり、第1の樹脂組成物は1種又は2種以上の樹脂を含む。第1の樹脂組成物に含まれる樹脂は特に限定されないが、好ましくは熱可塑性樹脂であり、より好ましくはオレフィン系炭化水素を単量体成分として含む重合体である。第1の樹脂組成物が、好ましくは熱可塑性樹脂、より好ましくはオレフィン炭化水素を単量体成分として含む重合体を含有することにより、電池用セパレータに求められる複数の特性を兼ね備えるので好ましい。そのような重合体としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン(以下、「PP」と略す場合がある。)樹脂、ポリブテン−1樹脂、ポリ−4−メチルペンテン樹脂及びエチレン−プロピレン共重合体のようなポリオレフィン、並びにエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等のオレフィン炭化水素をそれ以外の単量体成分と共に含む共重合体が挙げられる。第1の樹脂組成物は、オレフィン炭化水素を単量体成分として含む重合体を主成分として含むことが好ましい。これにより、電池用セパレータに求められる複数の特性をより良好に兼ね備えることができる。同様の観点から、第1の樹脂組成物はポリプロピレン樹脂を主成分として含むことがより好ましい。
【0021】
第1の樹脂組成物は、第2の樹脂組成物よりも高い融点を有することが好ましいが、その融点T
mAは、例えば、150℃〜280℃であると、破膜温度と成膜性とのバランスが更に良好となる傾向にあるため、より好ましい。このような第1の樹脂組成物を得るためには、融点が150℃〜280℃の樹脂をその第1の樹脂組成物に含めればよい。
【0022】
第1の樹脂組成物に含まれる樹脂のメルトフローレート(以下、「MFR」とも表記する。ASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kgの荷重下で測定。以下同様。)は、1.0g/10分以下であり、好ましくは、0.8g/10分以下である。一方、MFRの下限は特に限定されないが、MFRは0.1g/10分以上であると好ましく、0.3g/10分以上であるとより好ましい。MFRを0.1g/10分以上とすることで成形加工時の樹脂の溶融粘度が生産性に適した値となりやすい傾向にあり、一方、1.0g/10分以下とすることで、積層微多孔性フィルムの機械的強度がより十分なものとなる。
【0023】
第1の樹脂組成物に含まれる樹脂の分子量分布は、数平均分子量(以下、「Mn」とも表記する。)に対する重量平均分子量(以下、「Mw」とも表記する。)の比(以下、「Mw/Mn」とも表記する。)で、10.0以上であり、11.0以上であると好ましい。一方、Mw/Mnの上限は特に限定されないが、Mw/Mnは15.0以下であると好ましく、14.0以下であるとより好ましい。Mw/Mnが10.0以上であれば、第1の樹脂組成物を成形する際の発熱がより抑えられ、樹脂劣化が更に起こり難くなり、15.0以下であれば、高分子量成分由来の未溶融物がより少なくなる。本明細書において、Mw及びMnは、ポリスチレンを標準試料として、微多孔性フィルムのゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下「GPC」と表記する)から求められ、詳細には下記実施例に記載した方法に準じて測定される。なお、微多孔性フィルムが樹脂からなる場合は、微多孔性フィルムを直接GPC測定の試料として用いればよく、微多孔性フォルムが樹脂以外の成分を含む場合は、微多孔性フィルムからその成分を除去したものをGPC測定の試料として用いればよい。
【0024】
第1の樹脂組成物に含まれ得るポリプロピレン樹脂とは、プロピレンを単量体成分として含む重合体であり、ホモポリマー(単重合体)であってもコポリマー(共重合体)であってもよい。PP樹脂がコポリマーである場合、ランダムコポリマーであってもよいし、ブロックコポリマーであってもよい。また、PP樹脂がコポリマーである場合、共重合成分としては特に限定されず、例えば、エチレン、ブテン及びヘキセン等の他のオレフィンが挙げられる。ポリプロピレン樹脂がコポリマーである場合、プロピレンの共重合割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。
【0025】
ポリプロピレン樹脂は、1種類を単独で又は2種類以上を混合して用いられる。また、ポリプロピレン樹脂を得る際に用いられる重合触媒としても特に制限はなく、例えば、チーグラー・ナッタ系の触媒及びメタロセン系の触媒が挙げられる。また、ポリプロピレン樹脂の立体規則性に関しても特に制限はなく、アイソタクチック又はシンジオタクチックのポリプロピレン樹脂が用いられる。
【0026】
ポリプロピレン樹脂は、いかなる結晶性や融点を有するものであってもよい。また、得られる微多孔性フィルムの物性や用途に応じて、異なる結晶性や融点を有する2種以上のポリプロピレン樹脂を特定の配合比率で配合したものであってもよい。
【0027】
ポリプロピレン樹脂は、例えば、特開昭44−15422号公報、特開昭52−30545号公報、特開平6−313078号公報及び特開2006−83294号公報に記載されているような公知の変性ポリプロピレン樹脂であってもよい。さらに、ポリプロピレン樹脂は、変性されていない上述のポリプロピレン樹脂と該変性ポリプロピレン樹脂との任意の割合の混合物であってもよい。
【0028】
第1の樹脂組成物における主成分である樹脂の含有割合は、第1の樹脂組成物の全量に対して、50質量%以上であると好ましく、80質量%であるとより好ましく、100質量%、すなわち第1の樹脂組成物が樹脂からなることが特に好ましい。樹脂の含有割合が上記下限値以上であることにより、未溶融物及び酸化劣化物といった異物発生リスクを抑制できる。
【0029】
また、本実施形態における第1の樹脂組成物は、上記樹脂のみを含むものであってもよいが、上記樹脂の他に、本発明により奏される効果を損なわない範囲で、必要に応じて付加的成分、例えば、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤等)、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、スリップ剤、無機又は有機充填材及び強化材(ポリアクリロニトリル繊維、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、導電性金属繊維、導電性カーボンブラック等)、各種着色剤、離型剤等が添加されてもよい。
【0030】
[第2の微多孔性フィルム]
本実施形態における第2の微多孔性フィルムは、第2の樹脂組成物からなるものであり、第2の樹脂組成物は1種又は2種以上の樹脂を含む。第2の樹脂組成物に含まれる樹脂は特に限定されないが、好ましくは熱可塑性樹脂である。そのような樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂等のオレフィン系炭化水素を単量体成分として含む重合体であるポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂等の飽和ポリエステル樹脂が好ましい。
【0031】
第2の樹脂組成物は、その融点が100℃〜150℃であると、積層微多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた際、電池の安全性が飛躍的に向上するため、好ましい。このような第2の樹脂組成物を得るためには、融点が100℃〜150℃の樹脂をその樹脂組成物に含めればよい。そのような樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂が挙げられ、より具体的には、いわゆる高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂及び低密度ポリエチレン樹脂が挙げられる。なかでも、電池の安全性を更に飛躍的に向上させる観点から、高密度ポリエチレン樹脂が好適に用いられる。
【0032】
第2の樹脂組成物に含まれる樹脂のMFRは、1.0g/10分以下であり、好ましくは、0.5g/10分以下である。一方、MFRの下限は特に限定されないが、MFRは0.05g/10分以上であると好ましく、0.1g/10分以上であるとより好ましい。MFRを0.05g/10分以上であれば、第2の微多孔性フィルムにフィッシュアイがより発生し難くなり、1.0g/10分以下であるとドローダウンが更に起こり難くなり、成膜性が一層良好となる。
【0033】
また、第2の樹脂組成物の密度は、好ましくは0.945〜0.970g/cm
3であり、より好ましくは0.955〜0.970g/cm
3であり、更に好ましくは0.960〜0.967g/cm
3であり、特に好ましくは0.963〜0.967g/cm
3である。その密度が0.945g/cm
3以上であれば、透気性のより良好な微多孔性フィルムが得られ、0.970g/cm
3以下であれば、延伸して第2の微多孔性フィルムを作製する際にフィルムの破断がより有効に抑制される。
【0034】
第2の樹脂組成物における主成分である樹脂の含有割合は、第2の樹脂組成物の全量に対して、50質量%以上であると好ましく、80質量%であるとより好ましく、100質量%、すなわち第2の樹脂組成物が樹脂からなることが特に好ましい。
【0035】
また、本実施形態における第2の樹脂組成物には、上記樹脂のみを含むものであってもよいが、上記樹脂の他に、本発明により奏される効果を損なわない範囲で、必要に応じて付加的成分が添加されてもよい。付加的成分としては、例えば、第1の樹脂組成物における付加的成分と同様のものが挙げられる。
【0036】
[積層微多孔性フィルムの物性]
本実施形態の積層微多孔性フィルムの気孔率は、好ましくは20%〜70%、より好ましくは35%〜65%、更に好ましくは45%〜60%である。気孔率が20%以上であると、積層微多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた場合により十分なイオン透過性を確保し得る。一方、気孔率が70%以下であると、積層微多孔性フィルムがより十分な機械強度を確保し得る。
【0037】
本実施形態の積層微多孔性フィルムの気孔率は、各層を構成する樹脂組成物の組成、延伸温度及び延伸倍率等を適宜設定することにより上述の範囲に調整することができる。積層微多孔性フィルムの気孔率は、そのフィルムから10cm×10cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルの体積と質量とから下記式を用いて算出される。
気孔率(%)=(体積(cm
3)−質量(g)/樹脂組成物の密度(g/cm
3))/体積(cm
3)×100
【0038】
本実施形態の積層微多孔性フィルムの透気度は、膜厚20μm当たり、好ましくは10秒/100cc〜5000秒/100cc、より好ましくは50秒/100cc〜1000秒/100cc、更に好ましくは100秒/100cc〜500秒/100ccである。透気度を5000秒/100cc以下とすることは、積層微多孔性フィルムのより十分なイオン透過性を確保する観点から好適である。一方、透気度を10秒/100cc以上とすることは、欠陥のないより均質な積層微多孔性フィルムを得る観点から好適である。なお、本実施形態の積層微多孔性フィルムの透気度は、各層を構成する樹脂組成物の組成、延伸温度及び延伸倍率等を適宜設定することにより上述の範囲に調整することができる。また、透気度は、JIS P−8117に準拠し、ガーレー式透気度計を用いて測定される。
【0039】
本実施形態の積層微多孔性フィルムの膜厚は、5〜20μmが好ましく、5〜16μmがより好ましい。膜厚が5μm以上であると、機械的強度に更に優れる傾向にあり、16μm以下であると、電池の小型化に更に有効となる傾向にある。
【0040】
なお、積層微多孔性フィルムの突刺強度としては、電極間の短絡による電池不良の観点から、好ましくは2〜10Nであり、より好ましくは3〜10Nである。突刺強度は、実施例に記載の方法に準拠して測定される。
【0041】
[積層微多孔性フィルムの製造方法]
本実施形態の積層微多孔性フィルムの製造方法は、上記の積層微多孔性フィルムの製造方法であって、例えば、好ましくはTダイやサーキュラーダイを用い、(a)複数の樹脂組成物(例えば、第1の樹脂組成物及び第2の樹脂組成物。以下同様。)を共押出法により押し出して、複数の樹脂フィルム(例えば、第1の樹脂組成物からなる樹脂フィルム及び第2の樹脂組成物からなる樹脂フィルム。以下同様。)を積層した積層フィルムを形成する工程と、その積層フィルムを乾式法により開孔して積層微多孔フィルムを形成する工程とを有する製造方法であってもよい。あるいは、Tダイやサーキュラーダイを用い、(b)複数の樹脂フィルムを別々に押出成形した後、ラミネート法により各樹脂フィルムを貼り合せて積層した積層フィルムを形成し、その後、その積層フィルム乾式法により開孔して積層微多孔フィルムを形成する方法、(c)複数の樹脂フィルムを別々に押出成形して、更に乾式法により開孔してそれぞれ微多孔性フィルムを得た後に、それらの微多孔性フィルムを貼合する方法が挙げられる。なお、上述の乾式法により開孔する方法としては、例えば、延伸して多孔化する方法が挙げられる。これらの中でも、得られる積層微多孔性フィルムに要求される物性やイニシャル/ランニングコストの観点から、共押出法により各樹脂フィルムを積層した積層フィルムを成形した後、その積層フィルムを延伸して多孔化する(a)の方法が好ましい。一方、透気性に関しては(a)の方法よりは若干劣るものの、積層微多孔性フィルムの熱収縮率を小さくできるという観点からは(c)の方法も好ましい。
【0042】
なお、本明細書において「樹脂フィルム」とは、樹脂組成物をフィルム状に成形したものを示し、これを延伸して多孔化することにより微多孔性フィルムを得ることができる。
【0043】
いずれの製造方法においても、押し出し後のドロー比、すなわち、フィルムの巻取速度(単位:m/分)を樹脂組成物の押出速度(ダイリップを通過する溶融樹脂の流れ方向の線速度。単位:m/分)で除した値は、好ましくは10〜500、より好ましくは100〜400、更に好ましくは150〜350の範囲である。この値が10〜500であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの透気性が更に向上する。また、フィルムの巻取速度が、好ましくは2〜400m/分、より好ましくは10〜200m/分になるようにフィルムを巻き取る。巻取速度が2〜400m/分であることにより、得られる積層積層微多孔性フィルムの透気性が更に向上する。
【0044】
さらに、成形により得られたフィルム(樹脂フィルム、樹脂フィルムの積層体、微多孔性フィルム、あるいは積層微多孔性フィルム)に対し、必要に応じて熱処理(アニール)を施すことが好ましい。アニールの方法としては、例えば、フィルムを加熱ロール上に接触させる方法、加熱気相中に曝す方法、芯体上に巻き取り加熱気相若しくは加熱液相中に曝す方法、及びこれらを組み合わせて行う方法が挙げられる。これらの加熱処理の条件は、フィルムを構成する材料の種類等により適宜決定される。
【0045】
第1の樹脂組成物からなる樹脂フィルムと第2の樹脂組成物からなる樹脂フィルムとを積層した積層フィルムをアニールする場合の加熱温度は、気孔率、透気度及び熱収縮率のバランスの観点から、好ましくは(T
mB−30)℃以上(T
mB−2)℃以下であり、より好ましくは(T
mB−15)℃以上(T
mB−2)℃以下である。その加熱時間は、10秒間〜100時間が好ましく、より好ましくは1分間〜10時間である。
【0046】
本実施形態の積層微多孔性フィルムの製造方法は、特に限定されないが、以下の(A)及び(B)の少なくともいずれか一方の工程を有することが好ましい。これらの工程を有することは、得られる積層微多孔性フィルムの透気性を向上させる観点から好適である。特に、その製造方法が、これらの工程(A)及び(B)の両方を有すると、積層微多孔性フィルムの透気性が一層向上する。
(A)少なくとも1つの樹脂フィルムを少なくとも一方向に1.05倍〜2.0倍に冷延伸する冷延伸工程。
(B)上記冷延伸された少なくとも1つの樹脂フィルムを少なくとも一方向に1.05倍〜5.0倍に熱延伸する熱延伸工程。なお、熱延伸工程における延伸温度は、冷延伸工程における延伸温度よりも高い。
【0047】
本実施形態の積層微多孔性フィルムの製造方法は、上記(a)及び(b)の方法のように、予めより高融点である第1の樹脂フィルムと、より低融点である第2の樹脂フィルムとを積層した積層フィルムを形成する場合、その積層フィルムに対して第1の延伸を施して延伸積層フィルムを得る冷延伸工程を有することが好ましい。積層微多孔性フィルムの製造方法がこの冷延伸工程を有することにより、得られる積層微多孔性フィルムの透気性が向上する。また、本実施形態の積層微多孔性フィルムの製造方法は、上記(c)の方法のように、より低融点である第2の樹脂フィルムと、より高融点である第1の樹脂フィルムとを別々に多孔化した後にそれらを積層する場合、各樹脂フィルムに対して第1の延伸を施して延伸積層フィルムを得る冷延伸工程を有することが好ましい。積層微多孔性フィルムの製造方法がこの冷延伸工程を有することにより、得られる微多孔性フィルムの透気性が更に向上する。
【0048】
より高融点である第1の樹脂組成物からなる樹脂フィルムと、より低融点である第2の樹脂組成物からなる樹脂フィルムとを積層した積層フィルムに対して冷延伸を施す場合、冷延伸の延伸温度は、フィルムの破断をより有効かつ確実に防ぐ観点から、−20℃以上であると好ましく、気孔率及び透気度を更に良好なものとする観点から、(T
mB−60)℃以下であると好ましい。同様の観点から、この延伸温度は、より好ましくは0℃以上50℃以下の温度である。ここで、冷延伸の延伸温度は冷延伸工程におけるフィルムの表面温度を意味する。フィルムの表面温度は、接触式温度計により測定することができる。
【0049】
冷延伸工程における延伸倍率は、1.05倍〜2.0倍であることが好ましく、より好ましくは1.1倍以上2.0倍未満である。この延伸倍率が1.05倍以上であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの透気性が向上し、2.0倍以下であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの熱収縮性が向上する。冷延伸は、少なくとも一方向に行うが、フィルムのMD及びTDの両方向に行ってもよい。冷延伸では、好ましくは、フィルムのMDのみに一軸延伸を行うことが好ましい。
【0050】
本実施形態の積層微多孔性フィルムの製造方法は、上記冷延伸工程の後に第2の延伸を施して延伸積層フィルムを得る熱延伸工程を有することが好ましい。より高融点である第1の樹脂組成物からなる樹脂フィルムと、より低融点である第2の樹脂組成物からなる樹脂フィルムとを積層した積層フィルムに対して熱延伸を施す場合、熱延伸の延伸温度は、フィルムの破断をより有効かつ確実に防ぐ観点から、(T
mB−60)℃以上であると好ましく、気孔率及び透気度を更に良好なものとする観点から、(T
mB−2)℃以下であると好ましい。同様の観点から、この延伸温度は、より好ましくは(T
mB−30)℃以上(T
mB−2)℃以下である。ここで、熱延伸の延伸温度は熱延伸工程におけるフィルムの表面温度を意味する。
【0051】
熱延伸工程における延伸倍率は、1.05倍〜5.0倍であることが好ましく、より好ましくは1.1倍〜5.0倍であり、更に好ましくは2.0倍〜5.0倍である。この延伸倍率が1.05倍以上であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの透気性が更に向上し、5.0倍以下であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの熱収縮性が更に向上する。熱延伸は、少なくとも一方向に行い、フィルムのMD及びTDの両方向に行ってもよいが、冷延伸の延伸方向と同じ方向に行うことが好ましく、より好ましくは冷延伸の延伸方向と同じ方向にのみ一軸延伸を行うことである。
【0052】
本実施形態の積層微多孔性フィルムの製造方法は、上記熱延伸工程の後に、延伸積層フィルムに熱固定を施す熱固定工程を有することが好ましい。熱固定工程を設けることは、延伸時に作用した応力が残留することによる延伸積層フィルムの延伸方向への収縮を抑制し得る観点、及び、得られる積層微多孔性フィルムの層間剥離強度を向上させる観点から好適である。この熱固定の方法としては、熱固定後の延伸積層フィルムの長さが3〜50%減少する程度熱収縮させる方法(以下、この方法を「緩和」という。)、及び延伸方向の寸法が変化しないように固定する方法が挙げられる。
【0053】
より高融点である第1の樹脂組成物からなる樹脂フィルムと、より低融点である第2の樹脂組成物からなる樹脂フィルムとを積層した積層フィルムに対して熱固定を施す場合、熱固定温度は、(T
mB−30)℃以上(T
mB−2)℃以下であることが好ましく、(T
mB−15)℃以上(T
mB−2)℃以下であることがより好ましい。熱固定温度が(T
mB−30)℃以上であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの透気性が更に向上し、(T
mB−2)℃以下であることにより、得られる積層微多孔性フィルムの熱収縮性が更に向上する。ここで、熱固定温度とは、熱固定時のフィルムの表面温度を意味する。
【0054】
上記冷延伸工程、熱延伸工程、及び熱固定工程、並びに上記冷延伸工程及び熱延伸工程以外の延伸工程においては、ロール、テンター及びオートグラフ等により、1段階又は2段階以上で、一軸方向及び/又は二軸方向に延伸又は熱固定する方法を採用し得る。これらの中でも、本実施形態で得られる積層微多孔性フィルムに要求される物性や用途の観点から、ロールによる2段階以上の一軸延伸と熱固定とを施すことが好ましい。
【0055】
本実施形態における積層微多孔性フィルムは、電池用セパレータ、より具体的にはリチウムイオン二次電池用セパレータとして好適に用いられる。その他、各種分離膜としても用いられる。
【0056】
なお、本明細書中の各物性は、特に明記しない限り、以下の実施例に記載された方法に準じて測定することができる。
【実施例】
【0057】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例における各種特性の評価方法は以下の通りである。
【0058】
(1)融点
融点は、JIS K−7121に準拠した方法により測定した。
【0059】
(2)メルトフローレート(MFR)
MFRは、JIS K−7210に準拠して、ポリプロピレン樹脂については、230℃、2.16kgの条件で、ポリエチレン樹脂については、190℃、2.16kgの条件で測定した。MFRの単位はg/10分である。
【0060】
(3)分子量及び分子量分布(Mw/Mn)
樹脂組成物における樹脂の分子量分布は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)から求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnの値である。GPC測定は、東ソー社製のGPC装置(商品名「HLC−8121GPC/HT」)を用いて行った。カラムとして東ソー社製の商品名「TSKgel GMHHR−H(20)」(2本)を用い、移動相o−ジクロロベンゼン(o−DCB)、カラム温度155℃、流量1.0mL/分、試料濃度0.5mg/mL(o−DCB)、注入量500μL、試料溶解温度160℃、試料溶解時間3時間の条件で行った。分子量の校正は、ポリスチレンで行い、ポリスチレン換算分子量でMw及びMnを求め、分子量分布を導出した。
【0061】
(4)密度
樹脂組成物の密度をJIS K−7112に準拠して測定した。密度の単位はg/cm
3である。
【0062】
(5)膜厚(μm)
膜厚は、ダイヤルゲージ(尾崎製作所社製、商品名「PEACOCK No.25」)を用いて測定した。
【0063】
(6)気孔率(%)
フィルムから10cm×10cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルの体積と質量とから下記式を用いて算出した。
気孔率(%)=(体積(cm
3)−質量(g)/樹脂組成物の密度(g/cm
3))/体積(cm
3)×100
【0064】
(7)透気度(秒/100cc)
サンプルの透気度をJIS P−8117に準拠したガーレー式透気度計にて測定した。サンプルの透気度の値を、膜厚20μm当たりに換算した値を透気度とした。
【0065】
(8)突刺強度(N)
(株)カトーテック社製のハンディー圧縮試験器KES−G5型(型番)に、直径1mm、先端の曲率半径0.5mmの針を装着し、温度23±2℃、針の移動速度0.2cm/secで突刺試験を行い、サンプルの突刺強度を測定した。サンプルの突刺強度の値を、膜厚20μm当たりに換算した値を突刺強度とした。
突刺強度(N)=サンプルの突刺強度×20/膜厚
【0066】
(9)引張強度(kg/cm
2)
JIS K−7127に準拠し、島津製作所製の引張試験機、オートグラフAG−A型(商標)を用いて、MD及びTDサンプル(形状;幅10mm×長さ100mm)について、破断時の引張強度(単位:kg)を測定した。なお、サンプルはチャック間を50mmとし、サンプルの両端部(各25mm)の片面にセロハンテープ(日東電工包装システム(株)製、商品名:N.29)を貼ったものを用いた。また、試験中のサンプル滑りを防止するために、引張試験機のチャック内側に、厚さ1mmのフッ素ゴムを貼り付けた。
破断時の引張強度の値を試験前のサンプル断面積で除することにより、MD及びTDの引張強度(単位:kg/cm
2)を求めた。
【0067】
[実施例1]
まず、第1の樹脂組成物(a−1)として、融点が165℃、MFRが0.5g/10分、Mw/Mnが11であるポリプロピレン樹脂を用意し、第2の樹脂組成物(b−1)として、融点が136℃、MFRが0.25g/10分、密度が0.96g/cm
3であるポリエチレン樹脂を用意した。次に、上記ポリプロピレン樹脂を、口径20mm、L/D=30の、220℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、さらに、上記ポリエチレン樹脂を、200℃に設定した上記単軸押出機にフィーダーを介して投入し、押出機先端に設置したリップ厚3.0mmの共押Tダイからそれらの樹脂を押し出した。その後直ちに、押し出した溶融状態にある樹脂に25℃の冷風を当て、95℃に冷却したキャストロールでドロー比200倍、巻き取り速度15m/分の条件で巻き取り、両外層がより高融点である第1の樹脂フィルム(A−1)であり、それら両外層に挟まれた内層がより低融点である第2の樹脂フィルム(B−1)である構造を有する3層積層フィルム(Af−1)を成形した。この積層フィルム(Af−1)に対して130℃に加熱された熱風循環オ−ブン中で6時間アニールを施した。
【0068】
次に、アニール後の積層フィルムを25℃の温度で縦方向に1.3倍で一軸延伸して、延伸積層フィルムを得た(冷延伸工程)。次いで、延伸積層フィルムを120℃の温度で縦方向に3.0倍で一軸延伸した(熱延伸工程)。その後、130℃の温度で0.8倍に緩和させて熱固定を施し、積層微多孔性フィルムを得た。得られた積層微多孔性フィルムについて、膜厚、気孔率、透気度、突刺強度及び引張強度を求めた。その結果を表1に示す。
【0069】
[実施例2]
第2の樹脂組成物(b−1)に代えて、第2の樹脂組成物(b−2)として融点が136℃、MFRが0.32g/10分、密度が0.96g/cm
3であるポリエチレン樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様にして、積層微多孔性フィルムを得た。得られた積層微多孔性フィルムについて、膜厚、気孔率、透気度及び突刺強度を求めた。その結果を表1に示す。
【0070】
[比較例1]
第1の樹脂組成物(a−1)に代えて、第1の樹脂組成物(a−2)として融点が165℃、MFRが1.7g/10分、Mw/Mnが10であるポリプロピレン樹脂を用いたこと以外は実施例2と同様にして、積層微多孔性フィルムを得た。得られた積層微多孔性フィルムについて、膜厚、気孔率、透気度、突刺強度及び引張強度を求めた。その結果を表1に示す。
【0071】
[比較例2]
第1の樹脂組成物(a−1)に代えて、第1の樹脂組成物(a−3)として融点が165℃、MFRが2.1g/10分、Mw/Mnが10であるポリプロピレン樹脂を用いたこと以外は実施例2と同様にして、積層微多孔性フィルムを得た。得られた積層微多孔性フィルムについて、膜厚、気孔率、透気度、突刺強度及び引張強度を求めた。その結果を表1に示す。
【0072】
[比較例3]
第2の樹脂組成物(b−2)に代えて、第2の樹脂組成物(b−3)として融点が136℃、MFRが1.3g/10分、密度が0.96g/cm
3であるポリエチレン樹脂を用いたこと以外は比較例3と同様にして、積層微多孔性フィルムを得た。得られた積層微多孔性フィルムについて、膜厚、気孔率、透気度、突刺強度及び引張強度を求めた。その結果を表1に示す。
【0073】
[比較例4]
第2の樹脂組成物(b−1)に代えて、第2の樹脂組成物(b−3)として融点が136℃、MFRが1.3g/10分、密度が0.96g/cm
3であるポリエチレン樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様にして、積層微多孔性フィルムを得た。得られた積層微多孔性フィルムについて、膜厚、気孔率、透気度、突刺強度及び引張強度を求めた。その結果を表1に示す。
【0074】
[比較例5]
第1の樹脂組成物(a−1)に代えて、第1の樹脂組成物(a−4)としてとして融点が165℃、MFRが0.5g/10分、Mw/Mnが8であるポリプロピレン樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様にして、積層微多孔性フィルムを得た。得られた積層微多孔性フィルムについて、膜厚、気孔率、透気度、突刺強度及び引張強度を求めた。その結果を表1に示す。
【0075】
本実施形態の積層微多孔性フィルム(実施例1〜2)は、いずれも、優れた物理的な強度と良好な気孔率を示した。これに対し、第1の樹脂組成物のMFRが1.0g/10分を超え、第1の樹脂組成物の分子量分布(Mw/Mn)が10以上ある積層微多孔性フィルムを製造した比較例1及び2では、良好な気孔率を得てはいるが、物理的な強度は低かった。また、第1及び第2の樹脂組成物のMFRが1.0g/10分を超え、第1の樹脂組成物の分子量分布(Mw/Mn)が10以上である比較例3は、優れた物理的な強度を有しているものの気孔率が低くなった。さらに、第1の樹脂組成物のMFRが1.0g/10分以下であり、第2の樹脂組成物のMFRが1.0g/10分を超える比較例4、第1の樹脂組成物の分子量分布(Mw/Mn)が10未満である比較例5も、気孔率が低くなった。
【0076】
【表1】
【0077】
以上の結果より、第1の樹脂組成物に含まれる樹脂の分子量分布が広いことにより、押し出し直後に配向しやすい高分子量成分と、結晶化速度の速い低分子量成分とを幅広く有するので、第1の樹脂フィルムにおいて低分子量成分の微結晶を多く含む結果、積層微多孔性フィルムの物理的な強度と気孔率が共に良好なものになったと考えられる。