特許第6486709号(P6486709)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6486709固体酸化物形燃料電池及び固体酸化物形燃料電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6486709
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池及び固体酸化物形燃料電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1213 20160101AFI20190311BHJP
   H01M 8/1246 20160101ALI20190311BHJP
   H01M 8/1226 20160101ALI20190311BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20190311BHJP
   H01M 8/0217 20160101ALI20190311BHJP
   H01M 8/2404 20160101ALI20190311BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20190311BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20190311BHJP
【FI】
   H01M8/1213
   H01M8/1246
   H01M8/1226
   H01M8/1253
   H01M8/0217
   H01M8/2404
   H01M4/86 T
   !H01M8/12 101
   !H01M8/12 102B
   !H01M8/12 102C
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-31632(P2015-31632)
(22)【出願日】2015年2月20日
(65)【公開番号】特開2016-154096(P2016-154096A)
(43)【公開日】2016年8月25日
【審査請求日】2018年1月12日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度〜平成26年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体酸化物形燃料電池を用いた事業用発電システム要素技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】荒木 研太
(72)【発明者】
【氏名】須藤 隆紀
(72)【発明者】
【氏名】吉田 慎
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 研一
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−301939(JP,A)
【文献】 特開2014−7061(JP,A)
【文献】 特開平10−241711(JP,A)
【文献】 特開平7−262998(JP,A)
【文献】 特開2011−3376(JP,A)
【文献】 特開2013−140737(JP,A)
【文献】 特開2013−143188(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0072702(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1213
H01M 4/86
H01M 8/0217
H01M 8/1226
H01M 8/1246
H01M 8/1253
H01M 8/2404
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、燃料極と固体電解質膜と空気極とを備える複数の燃料電池セルと、隣接する前記燃料電池セルを電気的に接続するインターコネクタとを備えるセルスタックを有する固体酸化物形燃料電池であって、
前記燃料極の一方の端部の前記基体表面に対する勾配が、前記燃料極の他方の端部の前記基体表面に対する勾配よりも緩やかであり、
隣接する前記燃料極の間に位置する前記基体のうち、前記他方の端部側に位置する前記基体の表面が前記固体電解質膜と接触し、残りの前記基体の表面が前記インターコネクタと接触し、
前記他方の端部の先端での前記固体電解質膜の最小膜厚が、前記燃料極の表面に位置する前記固体電解質膜の厚さよりも厚い固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記燃料極の表面に位置する前記固体電解質膜の膜厚が10μm以上100μm以下の範囲内であり、
前記最小膜厚が100μm以上である請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記基体が、安定化ジルコニア、安定化ジルコニアと酸化ニッケルとの混合物、MgAl、SrZrOのいずれかであり、
前記燃料極が、Niとジルコニア系電解質材料との複合材の酸化物であり、
前記固体電解質膜がジルコニア系電解質材料であり、
前記インターコネクタが、Alが3mol%以上5mol%以下の割合で添加された、チタネート系ペロブスカイト型化合物である請求項1または請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
基体上に、燃料極と固体電解質膜と空気極とを備える複数の燃料電池セル、及び、隣接する前記燃料電池セルを電気的に接続するインターコネクタを有するセルスタックを備える固体酸化物形燃料電池の製造方法であって、
前記燃料極の一方の端部の前記基体表面に対する勾配が他方の端部の前記基体表面に対する勾配よりも緩やかになるように、前記燃料極が形成される工程と、
前記燃料極上、及び、隣接する前記燃料電池セルの間における前記他方の端部側の前記基体上に、前記固体電解質膜が形成される工程と、
隣接する前記燃料電池セルの間において、前記燃料極上、前記固体電解質膜上、及び、前記一方の端部側の前記基体上に、前記インターコネクタが形成される工程とを含み、
隣接する前記燃料電池セルの間に位置する前記基体のうち、前記他方の端部側の前記基体が前記固体電解質膜と接触し、残りの前記基体が前記一方の端部側で前記インターコネクタと接触するように、前記固体電解質膜及び前記インターコネクタが形成され、
前記他方の端部の先端での前記固体電解質膜の最小膜厚が、前記燃料極の表面に位置する前記固体電解質膜の厚さよりも厚くなるように前記固体電解質膜が形成される固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項5】
前記燃料極の表面に位置する前記固体電解質膜が10μm以上100μm以下の範囲内であり、前記最小膜厚が100μm以上となるように、前記固体電解質膜が形成される請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項6】
前記基体が、安定化ジルコニア、安定化ジルコニアと酸化ニッケルとの混合物、MgAl、SrZrOのいずれかであり、
前記燃料極が、Niとジルコニア系電解質材料との複合材の酸化物であり、
前記固体電解質膜がジルコニア系電解質材料であり、
前記インターコネクタが、Alが3mol%以上5mol%以下の割合で添加された、チタネート系ペロブスカイト型化合物である請求項4または請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体酸化物形燃料電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池の例として、円筒型固体酸化物形燃料電池や平板型固体酸化物形燃料電池が知られている。
図3は特許文献1に開示される円筒型固体酸化物形燃料電池のセルスタックの縦断面図である。円筒型固体酸化物形燃料電池では、複数の円筒形状のセルスタック201が電気的に並列に接続されて燃料電池内部に収容される。各セルスタック201において、例えばカルシウム安定化ジルコニア(CSZ)製の多孔質の基体(基体管)203上に、燃料極209、固体電解質膜211、及び、空気極213が積層された燃料電池セル205が複数形成され、隣接する燃料電池セル205がインターコネクタ207で連結される。隣接する燃料電池セル205間には、一方の燃料電池セル205の固体電解質膜211が基体203と接触して設けられる。
【0003】
図3のセルスタックでは、燃料電池セル205間に設けられる固体電解質膜211によって隣接する燃料電池セル205の燃料極209間の絶縁が図られている。
例えば、1つのセルスタックでの発電量を増大させるために、セル間の距離を縮めてセル数を増加させ、更にインターコネクタの幅を小さくした場合、セル間が近接することにより基体(基体管)を介した漏洩電流が発生する可能性が生じ、セル間の短絡発生が懸念される。
【0004】
そこで、特許文献2に開示されるように、セル間に絶縁膜を設け、セル間が近接した時にリーク電流の発生を抑制することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−116100号公報
【特許文献2】特開2014−110164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3は、固体電解質膜211を介して隣接する燃料電池セル205の燃料極209が存在する構造である。セルスタック201を用いて燃料電池を運転した場合、燃料極の端部を囲うように、基体203との接触部分と固体電解質膜211との接触部分とに酸化膜が生成し、燃料極膜が破損する場合があることが判明した。この酸化膜は、運転温度において空気極213で発生した酸素イオンがセル205間の固体電解質膜211や基体203を介して隣のセル205の燃料極209に漏洩し、燃料極209中の金属(具体的にNi)と反応することにより発生すると考えられる。
【0007】
特許文献2のように絶縁膜を設ければ、セル間に位置する固体電解質膜を介した酸素イオンの漏洩を遮断して燃料極の酸化を抑制することは可能である。しかしながら、発電に寄与しない層を新たに設けることにより、非発電領域が増加するとともに製造工程が増加するという問題があった。
【0008】
本発明は、燃料極の酸化とセル間の漏洩電流を抑制することができる固体酸化物形燃料電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、基体上に、燃料極と固体電解質膜と空気極とを備える複数の燃料電池セルと、隣接する前記燃料電池セルを電気的に接続するインターコネクタとを備えるセルスタックを有する固体酸化物形燃料電池であって、前記燃料極の一方の端部の前記基体表面に対する勾配が、前記燃料極の他方の端部の前記基体表面に対する勾配よりも緩やかであり、隣接する前記燃料極の間に位置する前記基体のうち、前記他方の端部側に位置する前記基体の表面が前記固体電解質膜と接触し、残りの前記基体の表面が前記インターコネクタと接触し、前記他方の端部の先端での前記固体電解質膜の最小膜厚が、前記燃料極の表面に位置する前記固体電解質膜の厚さよりも厚い固体酸化物形燃料電池である。
【0010】
第1の態様において、前記燃料極の表面に位置する前記固体電解質膜の膜厚が10μm以上100μm以下の範囲内であり、前記最小膜厚が100μm以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の第2の態様は、基体上に、燃料極と固体電解質膜と空気極とを備える複数の燃料電池セル、及び、隣接する前記燃料電池セルを電気的に接続するインターコネクタを有するセルスタックを備える固体酸化物形燃料電池の製造方法であって、前記燃料極の一方の端部の前記基体表面に対する勾配が他方の端部の前記基体表面に対する勾配よりも緩やかになるように、前記燃料極が形成される工程と、前記燃料極上、及び、隣接する前記燃料電池セルの間における前記他方の端部側の前記基体上に、前記固体電解質膜が形成される工程と、隣接する前記燃料電池セルの間において、前記燃料極上、前記固体電解質膜上、及び、前記一方の端部側の前記基体上に、前記インターコネクタが形成される工程とを含み、隣接する前記燃料電池セルの間に位置する前記基体のうち、前記他方の端部側の前記基体が前記固体電解質膜と接触し、残りの前記基体が前記一方の端部側で前記インターコネクタと接触するように、前記固体電解質膜及び前記インターコネクタが形成され、前記他方の端部の先端での前記固体電解質膜の最小膜厚が、前記燃料極の表面に位置する前記固体電解質膜の厚さよりも厚くなるように前記固体電解質膜が形成される固体酸化物形燃料電池の製造方法である。
【0012】
第2の態様において、前記燃料極の表面に位置する前記固体電解質膜が10μm以上100μm以下の範囲内であり、前記最小膜厚が100μm以上となるように、前記固体電解質膜が形成されることが好ましい。
【0013】
本発明では、燃料極の両端の形状が異なる。燃料電池セル間では、勾配が急な燃料極端部側に位置する基体表面が固体電解質膜と接触するとともに、勾配が緩やかな燃料極端部側で残りの基体表面がインターコネクタと接触するように設けられる。固体電解質膜によりセル間での絶縁が得られ、インターコネクタによって基体上で固体電解質膜を介して酸素イオンが隣接する燃料極に拡散することを防止している。上記構成とすることにより、漏洩電流を低減させることができるとともに、酸素イオンによる燃料極先端の酸化を抑制することが可能である。
【0014】
また、固体電解質膜は、燃料極表面上では10μm以上100μm以下の膜厚範囲内である一方で、燃料極の先端での最小膜厚が100μm以上となるように形成される。こうすることにより、燃料電池セル間における基体直上の固体電解質膜には緩やかな勾配(燃料極端部の基体表面に対する傾斜角度が小さい)の端部が形成される。
インターコネクタの形成工程において、燃料極及び固体電解質膜が急峻な勾配の端部を有する場合には、特に燃料極及び固体電解質膜の先端にインターコネクタ材料が入り込めず空間(気泡等)が発生しやすい場合がある。燃料電池の運転中及び起動/停止の際にこの空間を起点としてインターコネクタが損傷しやすかった。本発明ではインターコネクタが形成される領域では固体電解質膜及び燃料極が緩やかな勾配を有することになるので、インターコネクタ用材料を燃料極と固体電解質膜の先端にも確実に充填できる。この結果、緻密なインターコネクタを形成できるとともに、運転中のインターコネクタの損傷を防止することが可能である。
【0015】
第1の態様及び第2の態様において、前記基体が、安定化ジルコニア、安定化ジルコニアと酸化ニッケルとの混合物、MgAl、SrZrOのいずれかであり、前記燃料極が、Niとジルコニア系電解質材料との複合材の酸化物であり、前記固体電解質膜がジルコニア系電解質材料であり、前記インターコネクタが、Alが3mol%以上5mol%以下の割合で添加された、チタネート系ペロブスカイト型化合物であることが好ましい。
【0016】
チタネート系ペロブスカイト型化合物は酸化雰囲気と還元雰囲気との両雰囲気下で安定した電気導電性を有し、基体、燃料極及び固体電解質膜と同程度の熱膨張係数を有するため、インターコネクタ材料として好適である。一方で、チタネート系ペロブスカイト型化合物単体では基体、燃料極及び固体電解質膜に比べて焼結性に劣る。チタネート系ペロブスカイト型化合物にAlを上記割合で添加することにより、基体等との収縮率及び熱膨張係数の整合が図れるとともに焼結による緻密性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、セル間において基体と接触して設けられる固体電解質膜によりセル間の絶縁を図るとともに、セル間において基体と接触して設けられる緻密なインターコネクタによって酸素イオンの漏洩を防止する。このため、燃料極の酸化と漏洩電流とを抑制することができる。
また本発明の固体酸化物形燃料電池及びその製造方法では、特にインターコネクタをセル間に形成する際に、隙間なくインターコネクタをセル間に配置させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の固体酸化物形燃料電池のセルスタックの一態様を示す概略図である。
図2】セルスタックの燃料電池セル間の拡大概略図である。
図3】従来の固体酸化物形燃料電池のセルスタックの一態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、円筒型の固体酸化物形燃料電池のセルスタックの一態様を示す概略図である。円筒型の燃料電池は、発電室内に本実施形態のセルスタック101を複数本収容したものである。但し、セルスタック101を1本収容した場合も採用し得る。
本実施形態では、セルスタックは円筒型(基体が円筒形状)として説明するが、これに限定されない。例えば、セルスタックは楕円型(基体が楕円筒形状)としても良い。
【0020】
セルスタック101は、円筒形状の基体(基体管)103と、基体103の外周面に複数形成された燃料電池セル105と、隣り合う燃料電池セル105の間に形成されたインターコネクタ107とを有する。燃料電池セル105は、燃料極109と固体電解質膜111と空気極113とが積層して形成されている。また、セルスタック101は、基体103の外周面に形成された複数の燃料電池セル105の内、基体103の軸方向において最も端に形成された燃料電池セル105の空気極113に、インターコネクタ107を介して電気的に接続されたリード膜115を有する。
【0021】
本実施例によれば、燃料ガスと酸化剤ガス(例えば空気)とがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れるものとなっている。燃料ガスは、基体103の一端から基体103の内部(内側)に導入されて基体103の他端から外部へ排出される。一方、酸素を含む酸化剤ガス(例えば空気)は、基体103の外側に供給される。基体103を介して供給された燃料ガスは、例えば、メタン(CH)と水蒸気との混合ガスを反応させ、水素(H)と一酸化炭素(CO)に改質するものである。また、燃料極109は、改質により得られる水素(H)及び一酸化炭素(CO)と、固体電解質111を介して供給される酸素イオン(O2−)とを固体電解質111との界面付近において電気化学的に反応させて水(HO)及び二酸化炭素(CO)を生成するものである。なお、燃料電池セル105は、この時、酸素イオンから放出される電子によって発電する。
【0022】
基体103は、多孔質材料からなり、例えば、CaO安定化ZrO(CSZ)、CSZと酸化ニッケル(NiO)との混合物(CSZ+NiO)、Y安定化ZrO2(YSZ)、MgAl、SrZrOを主成分とする。この基体103は、燃料電池セル105とインターコネクタ107とリード膜115とを支持すると共に、基体103の内周面に供給される燃料ガスを基体103の細孔を介して基体103の外周面に形成される燃料極109に拡散させるものである。
【0023】
燃料極109は、Niとジルコニア系電解質材料との複合材の酸化物で構成され、例えば、Ni-YSZが用いられる。燃料極109の厚さは50〜250μmである。
図2は本実施形態のセルスタックの燃料電池セル間の拡大概略図である。本実施形態において、燃料極109の両端部はそれぞれ異なる形状を有している。燃料極109の一方の端部109b(図1において燃料極109の左側の端部)の基体103表面に対する勾配は、燃料極109の他方の端部109a(図1において燃料極109の右側の端部)の基体103表面に対する勾配よりも緩やか(端部109bの基体103表面に対す傾斜角度の方が小さい)である。
【0024】
固体電解質膜111は、ガスを通しにくい気密性と、高温で高い酸素イオン導電性とを有するYSZが主として用いられる。この固体電解質膜111は、空気極で生成される酸素イオン(O2−)を燃料極に移動させるものである。
【0025】
インターコネクタ107は、SrTiO系などのM1−xTiO(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で表されるチタネート系ペロブスカイト型化合物を主成分とし、この化合物に対してAlが3mol%以上5mol%以下の割合で添加された材料から構成される。インターコネクタ107は燃料ガスと酸化剤ガスとが混合しないように緻密な膜となっている。また、インターコネクタ107は、酸化雰囲気と還元雰囲気との両雰囲気下で安定した電気導電性を有する。このインターコネクタ107は、隣り合う燃料電池セル105において、一方の燃料電池セル105の空気極113と他方の燃料電池セル105の燃料極109とを電気的に接続し、隣り合う燃料電池セル105同士を直列に接続するものである。
【0026】
後述するように、基体103上に形成される燃料極109、固体電解質膜111及びインターコネクタ107は共焼結される。このとき各層の破損を抑制するためには、燃料極109、固体電解質膜111及びインターコネクタ107のそれぞれの収縮率及び熱膨張係数が基体103と同程度にするように、各層の材料が選択される。特に燃料ガスと酸化剤ガスとの混合防止の観点から、固体電解質膜111及びインターコネクタ107でのクラックの発生を防止する必要がある。
【0027】
上述したように基体103、燃料極109及び固体電解質膜111は安定化ジルコニアを主成分とする。このため、固体電解質膜111は基体103や燃料極109と同程度の収縮率及び熱膨張係数となるように整合させることが容易である。SrZrOと安定化ジルコニアは熱膨張係数が近い。このため、基体103がSrZrOを主成分とする場合も同様に、基体103、燃料極109及び固体電解質膜111の熱膨張係数及び収縮率を整合させることが容易である。MgAlはMgOの添加量に応じて熱膨張係数が変動する。従って、基体103がMgAlを主成分とする場合、MgOの添加量を調整することにより、基体103、燃料極109及び固体電解質膜111の熱膨張係数を整合させることが可能である。
【0028】
一方、インターコネクタ107の材料であるチタネート系ペロブスカイト型化合物は、基体103、燃料極109及び固体電解質膜111と同程度の熱膨張係数を示すが、焼結性に劣るため、後述のAlの含有量で調整を行う。
【0029】
表1に各層の収縮率及び熱膨張係数をまとめる。
【表1】
【0030】
インターコネクタ107の材料として、Alを上記範囲で含むチタネート系ペロブスカイト型化合物は、Alを含まない場合よりも収縮率が大きい。すなわち、Alを含有させることにより焼結性を向上させて緻密なインターコネクタ107を形成することが可能である。また、Alを含むチタネート系ペロブスカイト型化合物はAlを含まない場合よりも基体(CZS)の熱膨張係数に近い。
このように材料を適切に選択することにより、各層の収縮率及び熱膨張係数を基体に整合させる。
【0031】
本実施形態において、固体電解質膜111は、燃料極109の端部109a側において燃料電池セル105間に露出する基体103と接触する。また、インターコネクタ107は、燃料極109の端部109b側において燃料電池セル105間に露出する基体103と接触する。換言すると、隣接する燃料極109の間に露出する基体103のうち、端部109a側の基体管103の表面が固体電解質膜111と接触する。残りの基体103の表面(端部109b側の基体103表面、つまり、基体103と接触する固体電解質膜111の端部111a(端部109a側の固体電解質膜の端部)と燃料極端部109bとの間の表面)が、インターコネクタ107と接触する。隣接する燃料極109間において、固体電解質膜111及びインターコネクタ107が基体管103と隙間なく接触する。
【0032】
燃料極109の表面上(燃料極109の平坦部分)に位置する固体電解質膜111の厚さ(図2で矢印Bで表される)は10〜100μmである。一方、燃料極109の端部近傍の固体電解質膜111の厚さは、燃料極109上に形成される固体電解質膜111よりも厚い。燃料極109の端部109aの先端での固体電解質膜111の最小膜厚(図2では矢印Aで表される)は100μm以上とする。こうすることにより、図2に示されるよう基体103の表面に対するに燃料極109の端部109a側での固体電解質膜111の端部の傾斜角度が、端部109aの傾斜角度よりも小さくなる。つまり、基体103の表面に対する燃料極109の端部109a側での固体電解質膜111の端部の勾配が、端部109aの勾配よりも緩やかになる。
【0033】
空気極113は、例えば、LaSrMnO系酸化物、又はLaCoO系酸化物で構成される。この空気極113は、固体電解質膜111との界面付近において、供給される空気等の酸化性ガス中の酸素を解離させて酸素イオン(O2−)を生成するものである。
空気極113は2層構成とすることもできる。この場合、固体電解質膜111側の空気極層(空気極中間層)はSmドープCeOなどの高いイオン導電性を示し、触媒活性に優れる材料で構成される。空気極中間層上の空気極層(空気極導電層)は、La(Sr,Ca)MnOで表されるペロブスカイト型酸化物(Sr及びCaドープLaMnO)で構成されると良い。こうすることにより、発電性能を向上させることができる。
【0034】
リード膜115は、セルスタック101で発生した電気を外部に取り出す役割を果たす。リード膜115は燃料極109と同じ材料で構成される。
【0035】
上記セルスタックを形成する工程を以下で説明する。
基体103は、例えば押出し成形法により形成される。基体103の直径は、軸方向で略均一となっている。
【0036】
基体103上に各燃料電池セル105の燃料極109がスクリーン印刷法により形成される。例えば上記燃料極材料(Ni+YSZ)の混合粉末と有機系ビヒクル(有機溶剤に分散剤、バインダを添加したもの)とが混合されて、燃料極用スラリーが作製される。燃料極用スラリーは、基体103の外周面上の周方向に、燃料電池セル105に相当する所定の位置に所定の間隔で塗布される。粉末の混合比は、燃料極109に要求される性能により適宜選択される。混合粉末と有機系ビヒクルとの混合比は、燃料極109の厚さや、スラリー塗布後の膜の状態などを考慮して、適宜選択される。
【0037】
スクリーン印刷による燃料極用スラリーの塗布は、所望の厚さに到達するまで複数回行われる。図1に例示される端部形状とするには、1回の塗布ごとにスクリーンの開口位置をずらすとともに、下層で用いたスクリーンの開口よりも開口面積が小さいスクリーンを用いて上層を形成する。
【0038】
セルスタック101の両端部において、基体103上にリード膜115がスクリーン印刷法により形成される。リード膜用スラリーとしては、上記燃料極用スラリーを用いることができる。または、燃料極材料と異なる材料を用いる場合は、リード膜材料の粉末と有機系ビヒクルとが混合されて、リード膜用スラリーが作製される。
【0039】
燃料極109が形成された後、各燃料電池セル105において燃料極109の外表面上及び隣り合う燃料極109間の燃料極109の端部109a側の基体103上までの間は、固体電解質膜111がスクリーン印刷法により形成される。例えば上記固体電解質膜111の粉末と上記有機系ビヒクルとが混合されて、固体電解質膜用スラリーが作製される。粉末と有機系ビヒクルとの混合比は、固体電解質膜111の厚さや、スラリー塗布後の膜の状態や膜厚などを考慮して適宜選択される。特に、燃料極端部109aの先端と固体電解質膜111との間に気泡が入り込み、端部109aの先端で基体103表面が固体電解質膜111と接触しない部分がないように、固体電解質膜用スラリーが基体103上に塗布される。
【0040】
スクリーン印刷による固体電解質膜用スラリーの塗布は、所望の厚さに到達するまで複数回行われる。燃料極109a端部は急峻な勾配であるために、燃料極の端部109a上に塗布された固体電解質膜用スラリーは基体103に向かって流動する。このため燃料極109の端部109a側の先端ではスラリー量が多くなり、燃料極109の先端で固体電解質膜111が厚く形成されることになる。具体的に、燃料極109表面上の固体電解質膜111が10μm〜100μmの範囲内になるように固体電解質膜用スラリーが塗布されるところ、燃料極109の端部109a側の先端ではスラリーの流動によって100μm以上となる。
【0041】
基体103上にインターコネクタ層107がスクリーン印刷法により形成される。例えば上記インターコネクタ用材料の粉末と有機系ビヒクルとが混合されて、インターコネクタ用スラリーが作製される。インターコネクタ用スラリーは、隣接する燃料電池セル105間に相当する位置で、一つの燃料電池セル105の燃料極109の端部109a及びその上層に形成される固体電解質膜111から、隣接する燃料電池セル105の燃料極109の端部109bまでの間で、基体103の外周面の周方向に塗布される。粉末の組成は、インターコネクタに要求される性能に応じて適宜選択される。粉末と有機系ビヒクルとの混合比は、スラリー塗布後の膜の状態などを考慮して適宜選択される。
【0042】
インターコネクタ用スラリーが塗布される領域では、燃料極109の端部109b及び固体電解質膜111の端部の勾配が緩やかになっている。このため、スクリーンが被印刷物(セルスタック)の形状に追従することができ、固体電解質膜111と隣の燃料極109との間の領域にインターコネクタ用スラリーを確実に流し込むことができる。特に燃料極109及び固体電解質膜111の先端に気泡等が入ることなく、燃料電池セル105間で露出している基体103の全面にスラリーを塗布することが可能となる。
【0043】
燃料極109、固体電解質膜111及びインターコネクタ107のスラリーの膜が形成された基体103を、大気中にて共焼結する。焼結温度は、具体的に1350℃〜1450℃とされる。
【0044】
共焼結された基体103上に、空気極が形成される。例えば上記空気極用材料の粉末と有機系ビヒクルとが混合されて、空気極用スラリーが作製される。空気極用スラリーは、各燃料電池セル105の固体電解質膜111の外表面上及びインターコネクタ107上の所定位置に塗布される。空気極用スラリーは、スクリーン印刷により塗布されても良いし、ディスペンサを用いて塗布されても良い。ディスペンサによる塗布は、回転する基体103上にディスペンサからスラリーの液滴を吐出することにより行われる。粉末と有機系ビヒクルとの混合比は、空気極の厚さや、スラリー塗布後の膜の状態や膜厚などを考慮して適宜選択される。
空気極113を2層構成とする場合には、空気極中間層用材料の粉末及び空気極導電層用材料の粉末を用いてそれぞれスラリーが作製される。各スラリーがスクリーン印刷またはディスペンサを用いて基体103の所定位置に塗布される。
【0045】
空気極のスラリーの膜が形成された基体103が、大気中にて焼結される。焼結温度は、具体的に1100℃〜1250℃とされる。ここでの焼結温度は、基体103〜インターコネクタ107を形成した後の共焼結温度よりも低温とされる。
以上によりセルスタック101の形成工程が終了する。
【符号の説明】
【0046】
101 セルスタック
103 基体
105 燃料電池セル
107 インターコネクタ
109 燃料極
109a,109b 燃料極の端部
111 固体電解質膜
111a 固体電解質膜の端部
113 空気極
115 リード膜
図1
図2
図3